この発明は、中空パイプ材に対するプロジェクションボルトの溶接方法に関している。
雄ねじが設けられた軸部と、この軸部と一体的に設けられたフランジ部と、このフランジ部の中央に設けた円形の溶着用突起とから構成されたプロジェクションボルトを、平坦な鋼板部品に電気抵抗溶接で溶着することが知られている。
特開平7−223078号公報
上述のような溶接においては、溶着用突起の溶融金属が平坦な鋼板部品の表面に沿って拡大して行くので、所定の加圧と溶融を付与することによって、フランジ部と鋼板部品との間に空隙が発生することはない。
しかしながら、円形断面とされた鉄製のパイプ材や中実の丸棒材の外筒面に、上述の構成とされたプロジェクションボルトを溶接する場合には、つぎのような問題がある。この点を図6にしたがって説明する。プロジェクションボルト1は、前記のように雄ねじが設けられた軸部2と、この軸部2と一体的に設けられたフランジ部3と、このフランジ部3の中央に設けた円形の溶着用突起4から構成されている。同図(A)の溶着用突起4は、その直径が軸部2の直径とほぼ同じであり、また、その厚さtはフランジ部3の厚さとほぼ同じかあるいはそれよりも薄く設定されている。
このような溶着用突起4を有するプロジェクションボルト1を(C)図に示すように、パイプ材5の外筒面6に電気抵抗溶接をすると、中央部分が正常に溶着する。符号7は、黒く塗りつぶして図示した溶着部を示している。このような正常な溶着は、溶着用突起4の直径が軸部2の直径とほぼ同じであるために、円筒状の外筒面6に溶接しても溶着用突起4全体が溶着する。
ところが、同図(A)のようなプロジェクションボルトであると、溶着部7から円周方向に向かって空隙8が形成されという問題がある。この空隙8は、溶着部7から円周方向に離れるにしたがって空隙寸法が次第に大きくなっている。また、同図(B)に示すプロジェクションボルト1の溶着用突起4は、(A)に示す溶着用突起4をさらに扁平にしたものであるが、このような溶着用突起4をパイプ材5に溶接すると、円筒状の表面であるから溶融部分は中央部に限られて、やはり(C)図に示すように、中央部分だけが溶着して空隙8ができてしまう。
このような空隙8ができると、図6(C)の左右方向の力が軸部2に作用すると、軸部2は左右に傾くこととなる。したがって、このような外力に対して十分な溶接強度を確保することができない。さらに、空隙8が存在すると、溶融熱によって空隙部分の不純物が炭化したりして空隙8内に残留し、洗浄工程においても炭化物などが除去しきれず、そのためにこの部分から錆びが発生しやすくなるという問題がある。このような空隙部分を塩水に浸けて発錆テストを行うと、早期の内に発錆することが確認されている。また、電着塗装のような下塗り塗装においては、空隙8に封じ込まれた空気によって、空隙8の奥まで塗料が入りきらないので、上塗り塗装後に封入された空気が膨張して、いわゆる塗装膨れが発生しこの部分の塗装膜が剥離するという問題がある。
本発明は、上記の問題点を解決するために提供されたもので、十分な溶接強度が確保され、しかも発錆のない溶接ができる中空パイプ材に対するプロジェクションボルトの溶接方法の提供を目的とする。
問題を解決するための手段
請求項1記載の発明は、雄ねじが設けられた軸部と、この軸部と一体的に設けられたフランジ部と、このフランジ部の中央に設けた円形の溶着用突起を有しているプロジェクションボルトを鉄鋼製の中空パイプ材に溶接する方法であって、前記フランジ部に中空パイプ材の円周方向の幅寸法を中空パイプ材の軸線方向のフランジ部寸法よりも小さくした幅狭部を設け、前記溶着用突起を前記中空パイプ材の外筒面に加圧して溶接電流の初期通電を行うことにより溶着用突起が初期溶融を果たしながら中空パイプ材の鋼板を軟化させて鋼板を中空パイプ材の中空部に向かって押し込むようにして窪み込ませ、さらに溶接電流の通電と前記加圧を継続して前記鋼板の軟化および溶着用突起の溶融広さと溶融深さを拡大させて鋼板に窪み込みの塑性変形を付与することにより前記フランジ部の表面と中空パイプ材の外筒面との間の空隙を消滅させてフランジ部の表面を外筒面に密着させることを特徴とする中空パイプ材に対するプロジェクションボルトの溶接方法である。
発明の効果
前記溶着用突起を外筒面に加圧後、所定時間が経過すると溶接電流の初期通電がなされることにより、溶着用突起が初期溶融を果たしながら外筒面に窪み込むので、フランジ部の表面と前記外筒面との間の空隙を縮めることができる。すなわち、溶着用突起が外筒面に押し付けられることにより、外筒部に窪みが形成される。このような窪み込み現象と溶着用突起の溶融とが同時に進行することによりさらに空隙が縮まり、ついで溶着用突起が最終的に溶融し切ると、空隙が消滅してフランジ部の表面が外筒面に圧接されて密着状態となる。溶着用突起の高さすなわち厚さは、外筒面に窪み込みの塑性変形が付与されるとともに、所定の溶融量によって適正な溶着深さがえられるように設定されている。
また、前記幅狭部を形成することにより、中空パイプ材の円周方向のフランジ部長さが短くなるので、フランジ部の外端部分と外筒面との間の空隙寸法が小量化される。したがって、フランジ部の表面が外筒面に密着しやすくなり、空隙を消滅させるのに効果的である。
したがって、溶接されたプロジェクションボルトの軸部に中空パイプ材の円周方向の外力が作用しても前記空隙がないので、軸部が傾斜するようなことがなく十分な溶接強度が確保できる。また、空隙の消去によって、前述のような錆びの発生や塗装膜の剥離を防止することができる。
さらに、外筒面を窪ませることを利用して空隙除去を行うものであるから、肉厚の薄いパイプ材や硬度の低い中実丸棒材などを対象にして、良好な空隙除去を行うことができる。
前記溶着用突起の直径は軸部の直径とほぼ同じ値とされている。
前記溶着用突起の直径が前記のように設定されているので、外筒面に対する溶着用突起端面の面圧が大きくなり、それによって外筒面への窪み込みすなわち食い込みが確実に行われ、前記空隙の小量化が確実に進行する。
前記幅狭部は円形のフランジ部の両側を切除した形状とされている。
円形のフランジ部の両側を切り落としたような形状で、いわゆる小判型の形状であるから、前記円周方向にわたって幅を狭くすることが行いやすくなり、しかも小判型形状によって中空パイプ材の軸線方向と円周方向の各々に対してフランジ部の方向性を正確に一致させることができる。
電極端面に密着するフランジ部の通電面は、中空パイプ材の軸線方向の寸法に対する中空パイプ材の円周方向の寸法の比が0.7〜0.5に設定されている。
溶着用突起とは反対側のフランジ面に対して電極の端面が密着して溶接電流の通電を行うようになっている。この通電面が正常に確保されていることが、良好な溶着にとって重要である。前記比が0.7〜0.5に設定されているので、狭幅部の幅方向(中空パイプ材の円周方向)における導通面積が十分に確保できて、溶着用突起全周にわたる溶接電流の電流密度を均一に確保することができる。もし、狭幅部の幅方向(中空パイプ材の円周方向)における導通面積が十分に確保できない場合には、この部分の通電面積の不足によりこの部分における電流密度が適正に確保できなくなり、溶着用突起の全周にわたる発熱分布にばらつきが発生し、正常な初期溶融が形成されないことになる。また、電極からフランジ部への加圧力が確実に作用し、加圧や溶融過程において偏荷重が作用したりすることがない。
雄ねじが設けられた軸部と、この軸部と一体的に設けられたフランジ部と、このフランジ部の中央に設けた円形の溶着用突起とを有しているとともに、中空パイプ材の外筒面に溶接されるプロジェクションボルトを準備し、前記フランジ部に中空パイプの円周方向の幅寸法を中空パイプ材の軸線方向のフランジ部寸法よりも小さくした幅狭部を設け、前記溶着用突起を中空パイプ材に加圧して中空パイプ材の外筒面を窪ませることによりフランジ部の表面と前記外筒面との間の空隙を縮め、この加圧とともに進行する溶着用突起の溶融により前記空隙を消滅させてフランジ部の表面を外筒面に密着させるものである。
本溶接方法の発明の作用効果は、上述のとおりある。
上述の発明は、肉厚の薄いパイプ材や硬度の低い中実の丸棒材のように、溶着用突起を加圧することによって窪みやすいすなわち食い込みやすい場合であり、このような窪み変形を活用して空隙の消去を行っている。
雄ねじが設けられた軸部と、この軸部と一体的に設けられたフランジ部と、このフランジ部の中央に設けた円形の溶着用突起とを有しているとともに、中空パイプ材の外筒面に溶接されるプロジェクションボルトであって、前記フランジ部に中空パイプ材の円周方向の幅寸法を中空パイプ材の軸線方向のフランジ部寸法よりも小さくした幅狭部を設け、前記溶着用突起の体積は溶着用突起の溶融材料が中空パイプ材の円周方向に流動してフランジ部の表面と前記外筒面との間の空隙を埋め尽くすことができる値に設定されている。
前記溶着用突起が外筒面に加圧されるとともに溶接電流が通電されることにより、溶着用突起が溶融してフランジ部の表面と前記外筒面との間の空隙が縮まる。この空隙縮小と同時に溶融金属が中空パイプ材の円周方向に流動し、空隙が埋め尽くされる。溶着用突起の体積すなわち厚さは、溶融材料が円周方向に流動して空隙を埋め尽くすことができる値に設定されている。
また、前記幅狭部を形成することにより、中空パイプ材の円周方向のフランジ部長さが短くなるので、フランジ部の外端部分と外筒面との間の空隙寸法が小量化される。したがって、溶融金属が空隙内に充満しやすくなり、空隙を消滅させるのに効果的である。
したがって、プロジェクションボルトの軸部に中空パイプ材の円周方向の外力が作用しても空隙がないので、軸部が傾斜するようなことがなく十分な溶接強度が確保できる。また、空隙の消去によって、前述のような錆びの発生や塗装膜の剥離を防止することができる。
さらに、溶融金属の流動を利用して空隙除去を行うものであるから、良好な空隙除去を行うことができる。
前記溶着用突起の直径は軸部の直径とほぼ同じ値とされている。
前記溶着用突起の直径が前記のように設定されているので、外筒面に対する溶着用突起端面の面圧が大きくなり、それによって円周方向への溶融金属の流動開始が良好に行われ、前記空隙の消去が確実に進行する。
前記幅狭部は円形のフランジ部の両側を切除した形状とされている。
円形のフランジ部の両側を切り落としたような形状で、いわゆる小判型の形状であるから、前記円周方向にわたって幅を狭くすることが行いやすくなり、しかも小判型形状によって中空パイプ材の軸線方向と円周方向の各々に対してフランジ部の方向性を正確に一致させることができる。
電極端面に密着するフランジ部の通電面は、中空パイプの軸線方向の寸法に対する中空パイプの円周方向の寸法の比が0.7〜0.5に設定されている。
溶着用突起とは反対側のフランジ面に対して電極の端面が密着して溶接電流の通電を行うようになっている。この通電面が正常に確保されていることが、良好な溶着にとって重要である。前記比が0.7〜0.5に設定されているので、狭幅部の幅方向(中空パイプ材の円周方向)における導通面積が十分に確保できて、溶着用突起全周にわたる溶接電流の電流密度を均一に確保することができる。もし、狭幅部の幅方向(中空パイプ材の円周方向)における導通面積が十分に確保できない場合には、この部分の通電面積の不足によりこの部分における電流密度が適正に確保できなくなり、溶着用突起の全周にわたる発熱分布にばらつきが発生し、正常な初期溶融が形成されないことになる。また、電極からフランジ部への加圧力が確実に作用し、加圧や溶融過程において偏荷重が作用したりすることがない。
雄ねじが設けられた軸部と、この軸部と一体的に設けられたフランジ部と、このフランジ部の中央に設けた円形の溶着用突起とを有しているとともに、中空パイプの外筒面に溶接されるプロジェクションボルトを準備し、前記フランジ部に中空パイプの円周方向の幅寸法を中空パイプの軸線方向のフランジ部寸法よりも小さくした幅狭部を設け、前記溶着用突起の溶融材料を中空パイプ材の円周方向に流動させてフランジ部の表面と前記外筒面との間の空隙を埋め尽くすものである。
本溶接方法の発明の作用効果は、上述のとおりである。
つぎに、本発明の中空パイプ材に対するプロジェクションボルトの溶接方法を実施するための最良の形態を説明する。
図3は、実施例1において溶接されるプロジェクションボルトを示す。なお、以下の記載においてプロジェクションボルトを単にボルトと表現する場合もある。
鉄製のプロジェクションボルト10は、雄ねじが設けられた軸部11と、この軸部11と一体的に設けられたフランジ部12と、このフランジ部12の中央に設けた円形の溶着用突起13とを有している。溶着用突起13の端面は球面14とされている。
このボルト10の各部の寸法はつぎのとおりである。
軸部2の直径は6mm(山径6mm,谷径5mm)、フランジ部12の厚さは1.2mm、溶着用突起13のフランジ側の付け根部分の直径が6.5mm、溶着用突起13の球面14の直径が5.7mm、溶着用突起13の高さ寸法が1.3mm、球面14の球の半径が130〜150mm、溶着用突起13の体積は38mm3である。
円形断面部材は後述するが、断面円形の中空パイプ材であり、その長手方向に軸線(O−O)を有している。
図3(B)において同図の上下方向が中空パイプ材の軸線方向であり、同図の左右方向が中空パイプ材の円周方向である。フランジ部12は円形であり、その両側を直線状に切除して小判型の形状とされている。切除部は符号15で示されている。このように切除することによって幅狭部16が形成され、直線状の切除部15は中空パイプ材の軸線方向と同方向とされている。フランジ部12の円形部分すなわちLの寸法は13mm、幅狭部16の幅(中空パイプ材の円周方向)の寸法Wは10.5mmである。
さらに、溶着用突起13が形成されている側とは反対側のフランジ面が電極端面に密着する通電面17とされている。この通電面17は、中空パイプ材の軸線方向の寸法L1に対する中空パイプ材の円周方向の寸法W1の比が0.64に設定されている。つまり、W1/L1=2.25mm/3.5mmによって、上記比0.64が設定されている。
前記の比は0.7〜0.5の間に設定されるのが好ましい。この比が0.7を超えると、円周方向のフランジ部長さが過大になって、外筒面21との間の空隙が広くなりすぎ、空隙を消去することが困難になる。また、この比が0.5未満になると、導通面17の円周方向における寸法が過小となるので、溶接電流の正常な通電面積を確保することが困難となる。
なお、ボルト10は上述のように幅狭部16が切除部15によって形成されているが、これは説明上の表現であって、実際には、金型に小判型の雌型形状を形成して塑性加工で製作される。
なお、図3(D)に2点鎖線で示すように、フランジ部12の表面がなだらかなテーパ面9になっている場合であってもよい。そして、前記球面14がなだらかな傾斜角度とされたテーパ面19であってもよい。球面14であってもテーパ面19であっても中空パイプ材の外筒面に接触する状態は、点接触またはそれに近い面接触であり、通電初期の電流密度を高めることが可能となっている。
図1に基づき、上記寸法のボルト10をパイプ材18に溶接する状態を説明する。ここで使用されているパイプ材18は、自動車車体の左右のフロントピラー間に架設されるボディ剛性強化用のメンバーである。
ここでの中空パイプ材は鉄鋼製とされた中空のパイプ材18であり、その外径は60mm、板材の肉厚は2mmである。図1に示すように、プロジェクションボルト1は、鋼鉄製の真っ直ぐなパイプ部材18に溶接される。このパイプ部材18の軸線は符号O−Oで示されている。図1(D)に示すように、パイプ部材18の軸線O−Oと前記幅狭部16の幅方向(パイプ材18の円周方向)とが直交するように相互の位置決めを行い、溶着用突起13をパイプ部材18の外筒面21に加圧し通電することによって、溶着用突起13とパイプ部材18の一部がジュール熱で溶融し溶着がなされる。
溶着用突起13の球面14およびテーパ面19のいずれであっても、外筒面21に対しては点接触をすることになる。溶着用突起13が外筒面21に対して押し付けられると、前記点接触は点接触に近い面接触を呈することになる。また、図3(D)に示すテーパ面19の尖った頂部32にわずかな丸い平面部を形成することによって、金型成型を行いやすくでき、溶接電流の電流密度を低下させることがないようにすることができる。
このような加圧と溶接電流の通電を行うために、進退動作をする棒状の可動電極22の中心部に受入孔23が設けられ、その奥部にボルト1を保持する永久磁石24が固定されている。この受入孔23内に軸部11が挿入され、さらに永久磁石24で吸引されて、ボルト10は可動電極22に保持される。固定電極25は、パイプ材18を安定した状態で支持できるVブロック型であり、左右対称の傾斜面26,26によって構成されたV溝部27上にパイプ材18が載置されるようになっている。また、可動電極22の軸線X−Xすなわち軸部11の軸線がパイプ材18の軸線O−Oと直交するように、可動電極22とパイプ材18との相対位置が設定されている。
なお、図1に示したパイプ材18は真っ直ぐな形状であるが、パイプ材18の用途によっては湾曲していることもある。
図1(A)は、固定電極25上に載置されたパイプ材18に対して、ボルト10を保持した可動電極22が進出してきて、溶着用突起13の球面14が外筒面21に押し付けられている状態である。この状態では、球面14の中心部が外筒面21に対して点接触かまたはそれに近い面接触をしている。その後、加圧と溶接電流の通電が進行すると、(B)図や(C)図に示すように、溶着がなされる。
なお、図1(E)は円形断面部材が中実の丸棒で形成されている場合であり、外筒部に変形が形成されて溶接されてゆく過程は、図2にしたがって説明するものと同様である。
図2にしたがって溶着過程を説明する。
使用したボルト10の各部寸法は前述のものであり、パイプ材18は図1において説明した寸法のものである。そして、可動電極22から付与される加圧力は200Kgf、電流値は9200アンペア、通電時間は15サイクル(1サイクル=1/60秒)である。
図2(A)は、可動電極22が進出してその平坦な端面がフランジ部1の導通面17に密着して、溶着用突起13の球面14が外筒面21に加圧された状態で、溶接電流の通電初期の段階である。この段階では、溶着用突起13からの加圧力によって溶着用突起13の部分が外筒面21に食い込み始める。このような溶着用突起13の窪み込みが開始されるときには、溶着用突起13の球面14もわずかに溶融が開始されているので、パイプ材18の鋼板は軟化しやすくなっていて、前記食い込みが促進される。このようにして形成された溶着部は黒く塗りつぶして図示してあり、符号20が付されている。しかし、この段階においては、フランジ部12の表面29と外筒面21との間の空隙C1は大きな値として残存し、具体的には約1.0mmであると観察される。
なお、この説明における用語として、「食い込み」と「窪み込み」が用いられているが、両者は同義語であり、溶着用突起13の進出によってパイプ材18の板材がへこまされることを意味している。このような窪み込みによって、パイプ材18の内側にはわずかな膨出部28形成されている。
ついで、加圧と通電がさらに進行すると、図2(B)に示すように、パイプ材18の軟化が進行し溶着用突起13による食い込み現象も進行する。このときにはパイプ材18側にも溶融が進行しているが、溶着用突起13はその高さの約1/2が溶融金属となり、溶融範囲が広さと深さの両方にわたって大きくなっていく。このように食い込み量が大きくなると、前記空隙C1は(B)図に示すように、縮小された空隙C2に変化している。溶着用突起13の窪み込みが大きくなるので、膨出部28の膨出量は(A)図よりも大きくなっている。(B)図における膨出量Iは、溶着用突起13の溶融金属やパイプ材18の溶融金属が面方向に拡大してゆく状態および残存している空隙C2の大きさ等が主たる要因になって決まるのであるが、(B)図の段階では膨出量Iは約0.7mm〜1.0mmの範囲であると観察される。
つぎに、(C)図の段階になると、加圧と溶融が最終段階に達するので、溶着部20の面方向への溶融広さと厚さ方向の溶融深さがさらに拡大され、それとともに膨出部28の膨出量Iも最大値になる。このような加圧と溶融によって、(B)図の空隙C2は(C)図に示すように、消滅している。すなわち、フランジ部12の表面29が外筒面21に密着している。ここでは前述のように、十分な加圧力を長時間にわたって付与しているので、符号31で示すように、切除部15の角部が外筒面21に食い込んだ状態になっている。したがって、溶着部20はフランジ部12の中央部において確実に形成され、空隙C2は圧接状態で消去されている。
(C)図のような最終段階においては、(B)図と(C)図との比較から明らかなように、溶融面積は溶着用突起13の面積よりも大きくなっており、安定した溶着が形成されていることが認められる。また、(C)図における膨出部28の膨出量Iは、約0.9mm〜1.2mmの範囲であった。そして、(D)図は、パイプ材18を半割にカットして内側から見た図であり、膨出の形状や変色の様子から熱影響を受けた膨出部28と溶着部20を識別することができる。
図2(E)図は、溶着部分をパイプ材18の軸線O−O方向に沿って切断した断面図である。この図から明らかなように、パイプ材18の円周方向と直交する方向における溶着は、フランジ部12の長手方向全域にわたって正常になされている。
実施例1の作用効果を列記すると、つぎのとおりである。
前記溶着用突起13をパイプ材18の外筒面21に加圧後、所定時間が経過すると溶接電流の初期通電がなされることにより、溶着用突起13が初期溶融を果たしながらパイプ材18を内側に押し込むようにして外筒面21に窪み込むので、フランジ部12の表面29と前記外筒面21との間の空隙C1を縮めることができる。すなわち、溶着用突起13が外筒面21に押し付けられることにより、パイプ材18の板材に窪みが形成される。このような窪み込み現象と溶着用突起13の溶融とが同時に進行することによりさらに空隙が縮まり空隙C2となり、ついで溶着用突起13が最終的に溶融し切ると、空隙が消滅してフランジ部12の表面29が外筒面21に圧接されて密着状態となる。溶着用突起13の高さすなわち厚さは、外筒面21に窪み込みの塑性変形が付与されるとともに、所定の溶融量によって適正な溶着深さがえられるように設定されている。
また、前記幅狭部16を形成することにより、パイプ材18の円周方向のフランジ部長さが短くなるので、フランジ部12の外端部分と外筒面21との間の空隙寸法(C1よりもわずかに大きなもの)が小量化される。したがって、フランジ部12の表面29が外筒面21に密着しやすくなり、空隙を消滅させるのに効果的である。
したがって、溶接されたプロジェクションボルト10の軸部11にパイプ材18の円周方向の外力が作用しても前記空隙がないので、軸部11が傾斜するようなことがなく十分な溶接強度が確保できる。また、空隙の消去によって、前述のような錆びの発生や塗装膜の剥離を防止することができる。
このように空隙のないテストピースを洗浄した結果、フランジ部12の周囲部分には不純物が残存していないことが確認された。ここで使用した洗浄液は、自動車のホワイトボディの洗浄工程で用いる洗浄液である。また、このようにして洗浄された未塗装のパイプ材18のボルト溶着部に、塩水をかけて発錆テストを24時間行った結果、発錆は認められなかった。さらに、ボルト溶接部における電着塗装の付き回り性は良好で、空気膨隆や剥離するようなことのない上塗り塗装ができた。
図4に示すような引っ張り試験機を準備して、引っ張り試験を行った。この試験機33は、左右の静止部材34に支持片35をそれぞれ強固に取付け、その受け面36にパイプ材18の外筒面21を密着させる。この状態で軸部11がねじ込まれた牽引片37を矢線38の方へ引き上げてテストを行う。その結果、1.4トンの引き上げ荷重で軸部2の谷径の箇所が破断した。このことは、M6ボルトが破断する以上の引っ張り方向の溶接強度を有していることが確認されたことになる。
また、溶接されたボルト10の軸部11の先端部を、ハンマーでパイプ材18の軸線方向と円周方向にわたって強打した結果、軸部11が耐えきれずに曲がったが、フランジ部12のパイプ材18に対する相対位置に変化は認められなかった。
さらに、パイプ材18の板材を窪ませることを利用して空隙除去を行うものであるから、肉厚の薄いパイプ材18や硬度の低い中実丸棒材などを対象にして、良好な空隙除去を行うことができる。
前記溶着用突起13の直径は、軸部11の直径とほぼ同じ値とされている。
前記溶着用突起13の直径が前記のように設定されているので、パイプ材18の板材に対する溶着用突起端面の面圧が大きくなり、それによって外筒面21への窪み込みが確実に行われ、前記空隙の小量化が確実に進行する。
前記幅狭部16は円形のフランジ部12の両側を切除した形状とされている。
円形のフランジ部12の両側を切り落としたような形状で、いわゆる小判型の形状であるから、パイプ材18の円周方向にわたって幅を狭くすることが行いやすくなり、しかも小判型形状によってパイプ材18の軸線O−O方向と円周方向の各々に対してフランジ部12の方向性を正確に一致させることができる。また、このような小判型の形状は、金型成型で容易に求めることができ、生産性向上にとって効果的である。
電極端面に密着するフランジ部12の通電面17は、パイプ材18の軸線方向O−Oの寸法に対するパイプ材18の円周方向の寸法の比が0.7〜0.5に設定されている。
溶着用突起13とは反対側のフランジ面に対して可動電極22の端面が密着して溶接電流の通電を行うようになっている。この通電面17が正常に確保されていることが、良好な溶着にとって重要である。前記比が0.7〜0.5に設定されているので、狭幅部16の幅方向(パイプ材18の円周方向)における導通面積が十分に確保できて、溶着用突起13の全周にわたる溶接電流の電流密度を均一に確保することができる。もし、狭幅部16の幅方向(パイプ材18の円周方向)における導通面積が十分に確保できない場合には、この部分の通電面積の不足によりこの部分における電流密度が適正に確保できなくなり、溶着用突起13の全周にわたる発熱分布にばらつきが発生し、正常な初期溶融が形成されないことになる。また、可動電極22からフランジ部12への加圧力が確実に作用し、加圧や溶融過程において偏荷重が作用したりすることがない。
雄ねじが設けられた軸部と、この軸部と一体的に設けられたフランジ部と、このフランジ部の中央に設けた円形の溶着用突起とを有しているとともに、中空パイプ材の外筒面に溶接されるプロジェクションボルトを準備し、前記フランジ部に中空パイプ材の円周方向の幅寸法を中空パイプの軸線方向のフランジ部寸法よりも小さくした幅狭部を設け、前記溶着用突起を中空パイプ材に加圧して中空パイプ材の外筒面を窪ませることによりフランジ部の表面と前記外筒面との間の空隙を縮め、この加圧とともに進行する溶着用突起の溶融により前記空隙を消滅させてフランジ部の表面を外筒面に密着させる。
本溶接方法の作用効果は、上述のとおりである。
図5は、実施例2を示す。
実施例1は、肉厚の薄いパイプ材のように、溶着用突起を加圧することによって容易に窪みが形成できる場合であり、このような窪み変形を活用して空隙の消去を行っている。
一方、以下に記載する実施例2には、上述のような窪みやすさはなく、肉厚の厚いパイプ材や硬度の高い中実の丸棒材のような場合に適している。したがって、実施例1と実施例2は、空隙を消滅させるという狙いは同じであるが、加圧・通電による溶着用突起13の溶融変形状態が相違している。
図5に示されたパイプ材18は、その肉厚寸法が4mmとされ、通常の溶着用突起13の加圧ではほとんど窪まないものである。それ以外のボルト10の各部寸法やパイプ材18の外径、可動電極22の構造や加圧通電条件は先の実施例と同じである。
図5(A)は、球面14が外筒面に押し付けられて、点接触またはそれに近い面接触をしている。ここで加圧と通電がなされると、球面14の中心部から溶融が開始され、(B)図に示すように、球面14は通電初期の段階で溶融する。この溶融にともなって液状となった金属や高熱で軟化した流動金属が符号39で示すように、円周方向に移動する。この段階では、空隙C1はC2のように縮小されている。
さらに、加圧と通電が継続されると、(C)図に示すように、溶着用突起13が完全に溶融し切ることによって前記流動金属が増量されるのと同時に、空隙C2がC3のように縮小するので、流動金属39は空隙C3を内側から埋め尽くすような挙動となる。
そして、さらに加圧と通電が最終段階に達すると、(D)図に示すように、流動金属39がフランジ部12と外筒面21との間で強く挟み付けられるので、流動金属39はフランジ部12の端部まで押し出された状態になり、空隙が埋め尽くされる。
図5(E)は、パイプ材18の軸線方向に切断した状態の断面図であり、この方向では溶着部20がフランジ部12の全長にわたって形成されている。
(C)図や(D)図に見られるように、肉厚の厚いパイプ材18であっても、わずかな膨出部28が発生している。このような現象は、パイプ材18の局部が高温で軟化するためであるが、この程度の膨らみは流動金属39の挙動に影響しないものと判断される。
なお、溶着用突起13の体積は、38mm3であるが、パイプ材18の直径が実施例の60mmから例えば、40mmに縮小された場合には、溶着用突起の高さを高くしてこの体積を例えば45mm3に増量して、広くなった空隙を埋めやすくするのが望ましい。
この実施例2では、溶融金属の流動を利用して空隙除去を行うものであるから、肉厚の厚いパイプ材や硬度の高い中実丸棒材などを対象にして、良好な空隙除去を行うことができる。
それ以外の作用効果は、先の実施例1と同じである。
上述のように、本発明によれば、十分な溶接強度が確保され、しかも発錆のない溶接ができる中空パイプ材に対するプロジェクションボルトの溶接方法であるから、自動車の車体溶接工程や、家庭電化製品の板金溶接工程などの広い産業分野で利用できる。
ボルト溶接される状態を示す断面図や平面図である。
溶着過程を示す断面図である。
実施例におけるボルトの各部外観図である。
引っ張りテストの試験機を示す側面図である。
他の実施例における溶着過程を示す断面図である。
従来技術を示す図である。
10 プロジェクションボルト
11 軸部
12 フランジ部
13 溶着用突起
15 切除部
16 幅狭部
17 通電面
18 パイプ材
20 溶着部
C1 空隙
C2 空隙
C3 空隙
O−O パイプ材の軸線
X−X 可動電極の軸線、軸部の軸線
21 外筒面
22 可動電極
28 膨出部
29 フランジ部の表面
30 空隙
39 流動金属