この発明は、溶着用突起に特殊な形状を付与した電気抵抗溶接用軸状部品とその溶接方法に関している。
ボルトからなる軸部とこの軸部と一体的に設けた円形のフランジ部とこのフランジ部の中央部に設けた円形の扁平な溶着用突起を有するプロジェクションボルトを、平板状の鋼板部品に電気抵抗溶接をすることが行われている。
特開平7−223078号公報
上述のプロジェクションボルトにおける溶着用突起は、円形で扁平な形状でありその中心部に鋼板部品の表面に点接触をする箇所が設けてある。溶接時には、この点接触部分の電流密度が大きくなった箇所から溶融が開始される。このような溶融開始ないしは溶着完了の展開は、平板状の鋼板部品に対しては順調になされて健全なナゲットがえられる。しかし、鋼板部品の表面が湾曲した状態であるときには、このような円形で扁平な形状の溶着用突起では十分な溶融部形状が確保できないという問題がある。
本発明は、上記の問題点を解決するために提供されたもので、特殊な形状の溶着用突起によって確実な溶着をえることのできる電気抵抗溶接用軸状部品とその溶接方法を提供することを目的とする。
問題を解決するための手段
請求項1記載の発明は、軸部とこの軸部と一体的に設けたフランジ部とこのフランジ部に設けた溶着用突起を有する電気抵抗溶接用軸状部品において、この電気抵抗溶接用軸状部品は円筒面を有するパイプ部材に溶接されるものであり、前記溶着用突起が真っ直ぐに延びた細長い形状とされ、この溶着用突起には、パイプ部材に対して線接触をした箇所から一斉に溶融が開始され、この溶融が溶着用突起の幅方向に拡大して溶着用突起の長さ全域にわたってほぼ長方形の溶着領域が形成される真っ直ぐな稜線部分が設けられており、前記溶着用突起の断面形状は左右の傾斜面によって形成されたほぼ2等辺三角形であり、前記傾斜面が交差した箇所に前記稜線部分が形成されていることを特徴とする電気抵抗溶接用軸状部品である。
発明の効果
前記溶着用突起が真っ直ぐに延びた細長い形状とされているので、溶着用突起の長手方向に直交する向きの断面積が小さくなり、溶着用突起の熱容量が小量化される。したがって、相手方部材に溶着用突起が押し付けられて溶接電流が通電されたときには、溶融範囲の拡大が順調に進行して溶着用突起全長にわたる溶着が確実にえられる。このような溶融の進行によって溶融領域はほぼ長方形となり、溶融面積が大きく確保できて溶融範囲の不足などのない、信頼性の高い溶接強度がえられる。
前記溶着用突起に真っ直ぐな稜線部分が形成されている。
鋼板部品などの相手方部材に対して、前記稜線部分が線接触をするように軸状部品を保持することにより、線接触をした箇所から一斉に溶融が開始され、この溶融が溶着用突起の幅方向に拡大して溶着用突起の長さ全域にわたって大きな溶着範囲が形成される。
前記溶着用突起のほぼ中央部に、相手方部材に対して点接触をするかまたはほぼ点接触に近い小さな面接触をする頂点部分が形成されている。
このように点接触をするかまたはほぼ点接触に近い小さな面接触をする頂点部分が形成されているので、この微小な接触部分において高い電流密度を確保し、初期溶融を確実にえることができる。このような初期溶融が開始点になって溶着用突起の長手方向全域にわたる大きな溶着面積を確保することができる。
前記溶着用突起の長手方向がパイプ部材の長手方向に合致した状態でパイプ部材に溶接される。
このように長手方向を合致させて溶接することができるので、パイプ部材の長手方向に沿った細長い溶着形状がえられて、パイプ部材が小径であっても確実な溶着が確保できる。
請求項2記載の発明は、電気抵抗溶接用軸状部品は、軸部とこの軸部と一体的に設けたフランジ部とこのフランジ部に設けた溶着用突起を有するとともに、円筒面を有するパイプ部材に溶接されるものであり、前記溶着用突起は真っ直ぐに延びた細長い形状とされ、その断面形状は左右の傾斜面によって形成されたほぼ2等辺三角形であり、前記傾斜面が交差した箇所に稜線部分が形成され、パイプ部材の長手方向と溶着用突起の長手方向を合致させて前記稜線部分をパイプ部材の円筒面に線接触をさせた状態で加圧するとともに溶接電流を通電することにより、前記線接触をした箇所から一斉に溶融を開始し、この溶融部分が溶着用突起の幅方向に拡大して溶着用突起の長さ全域にわたってほぼ長方形の溶着領域を形成して電気抵抗溶接をすることを特徴とする電気抵抗溶接用軸状部品の溶接方法である。
相手方部材の長手方向と前記電気抵抗溶接用軸状部品の溶着用突起の長手方向をほぼ合致させて電気抵抗溶接をするものであるから、ほぼ円筒形の外形を有する相手方部材であっても、溶融部分が溶着用突起の長手方向に形成される。そして、その溶融範囲が拡大することによって溶着用突起の全長にわたる大きな溶融範囲が相手方部材の長手方向に沿って確保される。これによって、十分な大きさの溶融面積がえられて、適正な溶接強度が確保できる。つまり、前述のようなほぼ長方形の溶融領域がえられる。
また、溶着用突起とほぼ円筒形の表面部分が互いに押し付けられて行くので、このときに相対的に円筒形の部分が溶着用突起に食い込んで行く現象が形成される。このため、加圧中に溶融部は円周方向に拡大して行くこととなり、溶融部の円周方向への拡大が積極的に促進されるとともに、溶融深さも同時に深くなる。したがって、溶融領域が面積的に一層拡大され、溶融深さも大きくなって溶接強度が向上する。
前記相手方部材がパイプ部材である。
上述のように、溶融領域が面積的に一層拡大され、溶融深さも大きくなって溶接強度が向上するものであるから、パイプ材に対する軸状部品の溶接が良好な状況の下で確保できる。
つぎに、本発明の電気抵抗溶接用軸状部品とその溶接方法を実施するための最良の形態を説明する。
図1〜図4は、実施例1を示す。
本願発明によって電気抵抗溶接がなされる軸状部品としては、ロッド材やボルトなど種々なものがあげられる。この実施例では、図1に示すように、鉄製のプロジェクションボルト1である。以下、このプロジェクションボルトを単にボルトと記載する場合もある。図1(A)は正面図、同図(B)は側面図、同図(C)は斜視図である。このプロジェクションボルト1は、軸部であるボルト部2と、このボルト部2と一体的に設けられているフランジ部3と、このフランジ部3に設けられた溶着用突起4によって構成されている。
図1(C)に示すように、フランジ部3は長方形であり、その長手方向すなわち長辺に沿って真っ直ぐに延びた細長い形状の溶着用突起4がフランジ部3と一体的に設けられている。すなわち、真っ直ぐな細長い突条状態の溶着用突起である。溶着用突起4の断面形状は、図4に示すように種々な形状が採用できるが、図1の場合は左右の傾斜面5,5によって形成されたほぼ2等辺三角形であり、両斜面5,5が交差した箇所に直線状の稜線6が形成されている。そして、この稜線6の延びる方向が溶着用突起4の長手方向である。
図2に示すように、プロジェクションボルト1は、鋼鉄製の真っ直ぐなパイプ部材7に溶接される。このパイプ部材7の軸線は符号8で示されている。図2(B)に示すように、パイプ部材7の軸線8と溶着用突起4の長手方向すなわち稜線6とが平行となるように相互の位置決めを行い、溶着用突起4をパイプ部材7の外周面に加圧し通電することによって、溶着用突起4とパイプ部材7の一部がジュール熱で溶融し溶着がなされる。
このような加圧と溶接電流の通電を行うために、進退動作をする棒状の可動電極9の中心部に受入孔10が設けられ、その奥部にボルト1を保持する永久磁石11が固定されている。この受入孔10内にボルト部2が挿入され、さらに永久磁石11で吸引されて、ボルト1は可動電極9に保持される。固定電極12は、パイプ部材7を安定した状態で支持できるVブロック型であり、左右対称の傾斜面13,13によって構成されたV溝部14上にパイプ部材7が載置されるようになっている。また、可動電極9の軸線Oすなわちボルト部2の軸線がパイプ部材7の軸線8と直交するように、可動電極9とパイプ部材7との相対位置が設定されている。
図2(A)に示すように、溶着用突起4の稜線6がパイプ部材7の円筒面に加圧されており、この状態で溶接電流が通電されると、稜線6の線接触をしている箇所から溶融が開始され、加圧と通電が継続していることによって、溶融領域は長方形に拡大してゆく。所定の溶融領域が形成された段階で加圧と通電が中止されて溶接が完了する。
溶融および溶着領域が拡大して行く現象を説明する。
図3は、溶着が完了した状態を示す断面図と平面図である。図2(A)に示すように、溶着用突起4が高熱で軟化し始めると、パイプ部材7の円筒形の部分すなわち円筒面があたかも突起のような役割を果たして、円筒面が軟化ないしは溶融し始めた溶着用突起4に食い込んで行く現象が発生する。このため、溶着用突起4は円周方向に押し広げられることとなる。このような押し広げの現象は、図1(A)に示す溶着用突起4の基部の幅寸法W1が図3に示す溶融幅W2に拡大した状態から確認することができる。
図3(A)に示すように、黒く塗りつぶした部分が溶着部分15であり、(W2−W1)の部分すなわちW1からW2に拡大した部分が円筒面の食い込みによって拡大した領域である。したがって、図3(A)のB−B断面である(B)図から明らかなように、ほぼ長方形の溶着領域15が認められる。
図3に示す溶接例は、パイプ部材7の直径が50mm、その肉厚が2mm、溶着用突起4の高さが0.5mm、溶着用突起4の基部の幅W1が4mm、溶着用突起4の長さが13mmである。そして、フランジ部3の長辺が15.0mm,短辺が10.0mm、ボルト径が6mmである。このようなボルト1を可動電極9にセットして、加圧力200Kgf、通電時間20サイクル(1サイクルは1/60秒)、電流値は9000Aの条件下で溶接した。
このようにして溶接された部分を切断して観察すると、図3(A)に示した良好な溶着状態がえられた。このようにして溶接されたボルト1の溶接強度を確認するために、ボルト1の先端部をハンマーで種々な方向に何度も叩いた結果、ボルト部2はフランジ部3の付け根付近で折損し、溶着部分15は何の変化も認められず、十分な溶接強度になっていることが認められた。
比較例として、前述の円形のフランジ部に扁平な円形の溶着用突起が形成されたプロジェクションボルトを同様な条件で溶接し、ハンマーでの叩きテストを行った結果、3回目のハンマー衝撃で溶着部から剥離した。このような剥離は十分な溶融と溶着がなされていないことを示している。その理由は、円形の溶着用突起であると、溶融熱が360度の全方位に向かって放射状に伝熱されるので、円筒面に対しては十分に溶融領域が広がらないものと考えられる。
図3に示すような良好な溶着を確保するために、傾斜面5の傾斜角度θ(図1(A)参照)を10度〜40度に設定した。この角度θが10度未満であると、溶融金属量が不足して十分な溶接強度がえられない。また、角度θが40度を超えると、溶着用突起の体積が大きくなりすぎて十分な溶融金属量がえられず溶接強度が不足することになる。
さらに、溶着用突起4の稜線6の長さを長くすれば、加圧力、通電時間、電流値等を大きい側に設定して、適正値を見いだすこととなる。
なお、図2(A)に2点鎖線で示したものは、バックアップ電極16をパイプ部材7の内側に密着させ、パイプ部材7の外表面にコンタクト電極17を圧接するようにしたものである。こうすることによって、パイプ部材7の肉厚が薄いときに、パイプ部材7の変形を防止し、通電効率を向上させることができるという効果がある。
図4は、溶着用突起4の変形例を示す。
図4(A)は、図1(A)や(C)に示した稜線6を止めて、幅の狭い平面部分18を形成したものである。図4(B)は、前記稜線6の箇所が丸みのある曲面19とされている場合である。図4(C)は、溶着用突起4全体の断面形状が円弧型とされ、その表面が円弧面20とされている。図4(D)は、台形型の基部21の上側に前述の傾斜面5と稜線6が形成されたものである。図4(E)は、溶着用突起4の中間部が空間部22によって途切れている場合である。図4(F)および(G)は、フランジ部3に小さないぼ状の溶着用突起23が一直線上に配列されている場合である。
以上に説明した実施例1の作用効果は、つぎのとおりである。
前記溶着用突起4が真っ直ぐに延びた細長い形状とされているので、溶着用突起4の長手方向に直交する向きの断面積が小さくなり、溶着用突起4の熱容量が小量化される。したがって、パイプ部材7に溶着用突起4が押し付けられて溶接電流が通電されたときには、溶融範囲の拡大が順調に進行して溶着用突起4の全長にわたる溶着が確実にえられる。このような溶融の進行によって溶融領域はほぼ長方形となり、溶融面積が大きく確保できて溶融範囲の不足などのない、信頼性の高い溶接強度がえられる。
前記溶着用突起4に真っ直ぐな稜線6の部分が形成されている。
鋼板部品などの相手方部材に対して、前記稜線6の部分が線接触をするようにプロジェクションボルト1を保持することにより、線接触をした箇所から一斉に溶融が開始され、この溶融が溶着用突起4の幅方向に拡大して溶着用突起4の長さ全域にわたって大きな溶着範囲が形成される。
前記溶着用突起4の長手方向がパイプ部材7の長手方向に合致した状態でパイプ部材7に溶接されるようになっている。
このように双方の長手方向を合致させて溶接することができるので、パイプ部材7の長手方向に沿った細長い溶着形状がえられて、パイプ部材7が小径であっても確実な溶着が確保できる。
請求項2記載の発明は、溶接方法である。すなわち、電気抵抗溶接用軸状部品は、軸部とこの軸部と一体的に設けたフランジ部とこのフランジ部に設けた溶着用突起を有するとともに、円筒面を有するパイプ部材に溶接されるものであり、前記溶着用突起は真っ直ぐに延びた細長い形状とされ、その断面形状は左右の傾斜面によって形成されたほぼ2等辺三角形であり、前記傾斜面が交差した箇所に稜線部分が形成され、パイプ部材の長手方向と溶着用突起の長手方向を合致させて前記稜線部分をパイプ部材の円筒面に線接触をさせた状態で加圧するとともに溶接電流を通電することにより、前記線接触をした箇所から一斉に溶融を開始し、この溶融部分が溶着用突起の幅方向に拡大して溶着用突起の長さ全域にわたってほぼ長方形 の溶着領域を形成して電気抵抗溶接をすることを特徴とする電気抵抗溶接用軸状部品の溶接方法である。
相手方部材であるパイプ部材7の長手方向と前記プロジェクションボルト1の溶着用突起4の長手方向をほぼ合致させて電気抵抗溶接をするものであるから、ほぼ円筒形の外形を有する相手方部材であっても、溶融部分が溶着用突起4の長手方向に形成される。そして、その溶融範囲が拡大することによって溶着用突起4の全長にわたる大きな溶融範囲がパイプ部材7の長手方向に沿って確保される。これによって、十分な大きさの溶融面積がえられて、適正な溶接強度が確保できる。つまり、前述のようなほぼ長方形の溶融領域15がえられる。
また、溶着用突起4とほぼ円筒形の表面部分が互いに押し付けられて行くので、このときに相対的に円筒形の部分が溶着用突起4に食い込んで行く現象が形成される。このため、加圧中に溶融部は円周方向に拡大して行くこととなり、溶融部の円周方向への拡大が積極的に促進されるとともに、溶融深さも同時に深くなる。したがって、溶融領域15が面積的に一層拡大され、溶融深さも大きくなって溶接強度が向上する。
前記相手方部材がパイプ部材7である。
上述のように、溶融領域15が面積的に一層拡大され、溶融深さも大きくなって溶接強度が向上するものであるから、パイプ部材7に対するボルト1の溶接が良好な状況の下で確保できる。
図5は、実施例2を示す。
この実施例は、前述の実施例における溶着用突起4を平行に2列設けたものである。それ以外の構成は先の実施例と同じなので、同様な機能の部材には同一の符号が記載してある。
したがって、溶着範囲が2列にわたって形成されて、溶接強度の向上を図ることができる。それ以外の作用効果は、先の実施例と同じである。
図6〜図8は、実施例3を示す。
この実施例は、真っ直ぐな細長い溶着用突起に、相手方部材に対して点接触をするかまたはほぼ点接触に近い小さな面接触をする頂点部分が、溶着用突起の中央部に形成されているものである。そして、ボルト1はM6サイズのものである。
図6(A)は正面図である。また、同図(B)は(A)図のB矢視図である。
この実施例における溶着用突起4は、図6(C)に鎖線で示すように、同図の左右に細長く延びている小判型の形状である。そして、図6(D)に示すように、溶着用突起4の中央部に尖った形状の頂点部分24が形成されている。この頂点部分24が頂点になってなだらかな円錐部分25が形成されている。この円錐部分25のフランジ部3側に基台部26が設けられている。換言すると、円形の基台部26上に円形の円錐部分25(テーパ面)が形成され、その両側を切除して(C)図や(D)図に示す細長い溶着用突起4が形成されている。この切除された部分は(B)や(D)図の符号27で示した平端面となっている。
実際には、金型を用いて前記小判型の溶着用突起4を塑性加工によって成型するものであり、それによって(D)図のような形状が求められる。また、図6には、理解しやすくするために寸法(単位:mm)が記入されている。
溶着用突起4の頂面すなわち円錐部分25が、パイプ部材7の円筒面に均一に溶着されるようにするために、頂点部分24から溶融が開始されてボルト1全体が所定量パイプ部材7側に押し込まれると、円錐部分25の周縁全体が円筒面に到達できるように各部の寸法が設定されている。
図6(A)に示すように、パイプ部材7の直径は16mm、基台部26の先端の角部28の間隔寸法すなわち溶着用突起4の先端部の幅寸法W3は4mm、基台部26の厚さ寸法は1.5mm、平端面27の傾斜角度θ1は5度、円錐部分25の傾斜角度(テーパ角度)θ2は9度である。このような寸法において、角部28とそれに対向する円筒面の箇所までの間隙L1が0.7mmに設定される。さらに、図6(B)においては、基台部26の先端の角部29とそれに対向する円筒面の箇所までの間隙L2が0.7mmに設定される。このようにL1とL2とを同じあるいは近似した寸法に設定するために、図6(A)における溶着用突起4の先端部の幅W3が傾斜角度9度に対応させて選定されるのであり、ここでは前述のように、4mmである。つまり、図6(A)においては、角部28に対向する箇所が円筒面であるので、前記W3を狭くしないとL1が大きくなりすぎるのである。
したがって、ボルト1全体が溶融にともなって軸線O方向に押し付けられると、円錐部分25が領域全体にわたって均一に溶着する。すなわち、図示の例では0.7mmもしくはそれを上回る間隙寸法が押し付けられると、円錐部分25全体が円筒面に溶着する。
前記頂点部分24が溶融を開始し扁平な円錐部分25全域に溶融域が拡大してゆく。このとき円錐部分25は扁平なテーパ形状部分であるから、その体積は5.6mm3であり、このようなわずかな体積部分は溶接電流の通電初期の段階で溶融する。また、円錐部分25の溶融完了に引き続いて基台部26が溶融してゆくことになる。この場合、パイプ部材7の円筒面が溶着用突起4に押し付けられるので、溶融部分は円周方向に拡大してゆくことになる。基台部26の体積は48mm3であるから、円周方向への溶融拡大が十分に達成される。
なお、前記のように、円錐部分25の傾斜角度(テーパ角度)θ2は9度であるが、これは7〜13度の範囲内で選定することができる。傾斜角度が7度未満であると、角度が緩慢になりすぎて頂点部分24がパイプ部材7に食い込む量が不足し、電流密度が所定値に達しないことになる。また、13度を超えると、円錐部分25の体積が大きくなりすぎて、円錐部分25の溶融が促進されにくくなる。
図7は、加圧と溶融によって溶着してゆく過程を示す正面図である。同図(A)は、溶着用突起4がパイプ部材7の円筒面に押し付けられた状態を正面から示している。このときには頂点部分24が円筒面に点接触をしており、それにより点接触部分の電流密度が高く設定できて、初期溶融が確実に開始され、円錐部分25の溶融は通電初期の段階で完了する。
この段階では、前述のように間隙L1とL2とが同寸法(0.7mm)に設定されているので、0.7mmまたはそれをやや上回る量の押し付け完了時には、溶着用突起4の頂面(表面)全体が円筒面に溶着した状態となる。この初期溶融に引き続いて同図(B)に示すように、円錐部分25の溶融から基台部26への溶融へと移行し、さらに加圧と発熱が継続して基台部26が溶融変形をきたし、その後、同図(C)に示すように溶着する。
図7(C)に示すように、黒く塗りつぶした箇所が図3に示したものと同様な溶着部分15である。溶着用突起4とほぼ円筒形の表面部分が互いに押し付けられて行くので、このときに相対的に円筒形の部分が溶着用突起4に食い込んで行く現象が形成される。このため、加圧中に溶融部は円周方向に拡大して行くこととなり、溶融部の円周方向への拡大が積極的に促進されるとともに、溶融深さも同時に深くなる。したがって、溶融領域15が面積的に一層拡大され、溶融深さも大きくなって溶接強度が向上する。
図7(D)は、同図(C)のD矢視図であり、溶着用突起4の長手方向に十分な長さの溶着部分15が形成されていることが認められる。
このように真っ直ぐに延びた細長い形状の溶着用突起4でありながら、パイプ部材7の円筒面に対して全体的に溶着させることができるので、溶接強度が十分な値のものとして確保できる。溶接後、ボルト部2を種々な方向からハンマーで叩いても、溶着部に剥離などの異常は認められなかった。
上述の例は、頂点部分24が円筒面に対して、点接触をするものであるが、この頂点部分24に小径の平面部または丸みをつけて、ほぼ点接触に近い状態とすることもできる。このような状態であっても、初期の電流密度を大きく設定できるので、初期溶融が十分満足なものとして確保できることが確かめられた。なお、前記のような平面部あるいは丸みをつけることにより、金型による成型が行いやすくなるという効果がある。つまり、尖った頂点部分24の成型は塑性加工時の素材流動が不十分であると、シャープな頂部がえにくいのであるが、平面部や丸みを設けることによって均一な形状の頂点部分がえられるのである。
上述のように、溶着用突起4の頂面(表面)が円錐部分25つまりテーパ面とされ、溶着用突起4の幅W3を選定することによって、パイプ部材7の軸線方向の角部29と円筒面との間隙L2と、パイプ部材7の円周方向の角部28と円筒面との間隙L1とをほぼ同じ寸法に設定することができる。したがって、ボルト1が溶融とともに所定量押し付けられると、溶着用突起4の頂面全体が円筒面に溶着することとなって、溶接強度を高めることが可能となる。
実施例3には上述のようなL1,L2の設定が特徴的なものとして存在しているので、「細長い溶着用突起の長手方向とパイプ部材の長手方向とが合致させられるものであって、前記溶着用突起の中央部に頂点部分が設けられ、この頂点部分は円錐部分すなわちテーパ面の頂部によって形成され、細長い溶着用突起の長手方向の角部とパイプ部材との間隙と、前記長手方向に直交する側の角部とパイプ部材との間隙とがほぼ同一となるように、溶着用突起の幅寸法を選定して構成したもの」という意味の事項を、特許請求の範囲に記載することができる。
図6(E)は、溶着用突起4の頂面(表面)が平坦な2つの傾斜面31,32によって形成され、その交差している箇所に溶着用突起4の幅方向に延びる直線状の稜線6aが形成されている。傾斜面31,32の傾斜角度とパイプ部材7の直径とを選定することにより、前述のL1,L2に相当する間隙をほぼ同じ値に設定することができる。
また、図8は実施例3における変形例であり、図6(D)に示されている溶着用突起4の長手方向に円弧型の凹溝30を設けたものである。したがって、点接触をする箇所が(A)図に接点Bで示すように、左右に1つずつ形成される。
そして、前述のように点接触をするかまたはほぼ点接触に近い小さな面接触をする頂点部分が形成されているので、この微小な接触部分において高い電流密度を確保し、初期溶融を確実にえることができる。このような初期溶融が開始点になって溶着用突起の長手方向全域にわたる大きな溶着面積を確保することができる。
上述のように、本発明によれば、真っ直ぐに延びる細長い状態の溶着用突起が、その長手方向がパイプ部材等の長手方向と合致した状態で溶着するものであるから、円筒面などに確実な軸状部品の溶接が可能となり、自動車の車体溶接工程や、家庭電化製品の板金溶接工程などの広い産業分野で利用できる。
プロジェクションボルトの外観図である。
プロジェクションボルトが溶接される状態を示す図である。
プロジェクションボルトの溶着状態を示す図である。
溶着用突起の他の形状例を示す図である。
他の実施例を示す図である。
さらに他の実施例を示す図である。
図6のものの溶着状態過程を示す図である。
他の形状例を示す図である。
符号の説明
1 プロジェクションボルト
2 ボルト部
3 フランジ部
4 溶着用突起
6 稜線
7 パイプ部材
8 軸線
O 電極軸線
10 受入孔
15 溶着部分
24 頂点部分
25 円錐部分
26 基台部
28 角部
29 角部
L1 間隙
L2 間隙