動物細胞培養、特に哺乳類細胞培養は、好ましくは治療的および/または予防的適用のための組換え生成グリコシル化タンパク質の発現に用いられる。組換え糖タンパク質のグリコシル化パターンは、糖タンパク質のオリゴ糖側鎖がタンパク質の機能およびタンパク質の異なる領域間の分子内相互作用に影響を及ぼすため重要である。そのような分子内相互作用は、糖タンパク質の三次構造およびタンパク質の立体構造に関与する。(例えば、A. Wittwer et al.、1990、Biochemistry、29: 4175-4180;Hart、1992、Curr. Op. Cell Biol.、4: 1017-1023;Goochee et al.、1991、Bio/Technol.、9: 1347-1355;およびR. B. Parekh、1991、Curr. Op. Struct. Biol、1: 750-754参照)。さらに、オリゴ糖は特定の細胞炭化水素レセプターに基づくある種の構造に対して特定のポリペプチドを標的化するよう機能するかもしれない。(M. P. Bevilacqua et al.、1993、J. Clin. Invest.、91: 379-387;R. M. Nelson et al.、1993、J. Clin. Invest.、91: 1157-1166;K. E. Norgard et al.、1993、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、90: 1068-1072;およびY. Imai et al.、1993、Nature、361-555-557)。
糖タンパク質オリゴ糖側鎖の末端シアル酸部分は、糖タンパク質の吸収、溶解性、熱安定性、血清中半減期、血清からのクリアランス、ならびにその物理的および化学的構造/挙動およびその免疫原性を含む多くの局面および特性に対する影響を有することが知られている(A. Varki、1993、Glycobiology、3: 97-100;R. B.Parekh、Id.、Goochee et al.、Id.、J.Paulson et al.、1989、TIBS、14: 272-276;およびA. Kobata、1992、Eur. J. Biochem.、209: 483-501;E. Q. Lawson et al.、1983、Arch. Biochem. Biophys.、220: 572-575;およびE. Tsuda et al.、1990、Eur. J. Biochem.、188: 405-411)。
一般に、哺乳類細胞培養に基づく系におけるタンパク質の発現レベルは微生物発現系、例えば細菌または酵母発現系よりかなり低い。しかしながら、細菌および酵母細胞は、高分子タンパク質生成物を最適に発現し、複雑な立体構造を有するタンパク質を正確に折りたたみ、そして/または発現した糖タンパク質を成熟させるのに必要な翻訳後修飾を施す能力が限られているため、該生成物の免疫原性およびクリアランス速度に影響がある。
動物または哺乳類細胞、特に組換え生成物を生成する動物または哺乳類細胞の培養が限られているため、大規模培養器の使用、基礎培養条件、例えばインキュベーション温度、溶存酸素濃度、pHなどの変化、異なる種類の培地および培地への添加物の使用、および培養細胞の密度の増加を含む種々のパラメーターの操作について検討されてきた。さらに、哺乳類細胞培養方法の開発は行程(run)期間を延長し、高い生成物品質を維持しながら最終生成物濃度を増大させる能力の恩恵を受けるだろう。重要な生成物品質のパラメーターは、糖タンパク質品質の尺度として通常用いられるシアル酸含有量を含むポリペプチド生成物のグリコシル化構造の程度および完全性である。
細胞培養法、特に非連続法の行程期間は、通常、典型的には行程の過程にわたり低下する細胞の残存生存性により制限される。したがって、高細胞生存性を可能なかぎり最大に延長することが望ましい。細胞死は培養上清にシアリダーゼを放出させる可能性があり、発現タンパク質のシアル酸含有量が低下するかもしれないので、生成物品質に対する関心は、生細胞密度の低下を最小化し、高細胞生存性を維持する動機を与える。タンパク質生成に対する関心は、さらに生細胞密度の低下を最小化し、高細胞生存性を維持する別の動機を与える。培養中の細胞デブリの存在および死細胞の含有量は、培養行程終了時のタンパク質生成物の単離および/または精製能力に負の影響を与え得る。培養中で長期間細胞の生存性を維持することにより、細胞が産生する所望の糖タンパク質の分解および品質の最終的な減少を生じ得る細胞タンパク質および酵素、例えば細胞プロテアーゼおよびシアリダーゼによる培養液の汚染も同時に減少する。
細胞培養における高細胞生存性を達成するため種々のパラメーターが検討されてきた。あるパラメーターは37℃で最初に培養後に培養温度を1回低下させることに関する(例えば、Roessler et al.、1996、Enzyme and Microbial Technology、18: 423-427;米国特許No.5,705,364および5,721,121、T. Etcheverry et al.,1998;米国特許No.5,976,833、K. Furukawa et al.,1999;米国特許No.5,851,800、L. Adamson et al.;WO 99/61650およびWO 00/65070、Genentech,Inc.;WO 00/36092、Biogen、Inc.;および米国特許No.4,357,422、Girard et al.)。
検討した他のパラメーターには培養への成分の添加が含まれた。成長因子阻害剤スラミンはCHO K1:CycE細胞の対数増殖期のアポトーシスを抑制することを示した(Zhangi et al.、Biotechnol. Prog. 2000、16,319-325)。しかしながら、スラミンは死滅期のアポトーシスを防御しなかった。結果として、スラミンは増殖期の高生存性を維持することができたが、培養寿命を延長することはできなかった。同じ著者らは、CHO111-1OPF細胞株について、硫酸デキストランおよびポリビニルサルフェートがスラミンと同様にコントロール培養に比べて第3日の生存細胞密度および生存性を増大することができたと報告している。しかしながら、死滅期における硫酸デキストランまたはポリビニルサルフェートの効果は報告しなかった。スラミン、硫酸デキストラン、およびポリビニルサルフェートは細胞凝集の抑制に有効であることも報告された。
固定依存性細胞株を浮遊条件に適合させるため動物細胞培養液にヘパリンを添加した(例えば、米国特許No.5,348,877、McKenna and Granados、1994)。ヘパリンは成長因子、例えばヘパリン結合EGF様成長因子(HB-EGF;Raab and Klagsbrun、Biochim. Biophys. Acta 1997,1333,F179-F199)と結合することも知られている。細胞表面ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)は野生型CHO細胞を含むある細胞種においてHB-EGF結合および生物活性を増強することが報告されている(Raab and Klagsbrun、1997)。[ヘパラン硫酸はヘパリンとN-および0-硫酸基が少なく、N-アセチル基が多いことのみが異なる(McKenna and Granados、1994)。この開示のために、ヘパリンおよびヘパラン硫酸は等価と考えられ、ヘパリンと総称する。]ヘパリン結合成長因子FGF-2について、HSPGに対する結合は細胞表面上の局所FGF-2濃度を増加し、FGF-2が細胞のチロシンキナーゼレセプターに結合する可能性も同様に増大することが提唱されてきた(Raab and Klagsbrun、1997)。多硫酸ペントサン(ペントサンポリサルフェート)は培養細胞に対するヘパリン結合成長因子の作用をブロックし得ることが示されている(Zugmaier et al.、J. Nat. Cancer Inst. 1992, 84、1716-1724)。
動物細胞培養における硫酸デキストランの使用に関する特許文献は以下のために培地に硫酸デキストランを添加することに関する:1)ヒト内皮細胞の老化前の増殖速度を改善し、ポピュレーションの倍増数を増加する(米国特許No.4,994,387および5,132,223、Levine et al.、1991、1992);2)哺乳類細胞株における組換えタンパク質収量を増加する(米国特許No.5,318,898、Israel、1994);3)昆虫細胞株の単細胞浮遊液をもたらす(米国特許No.5,728,580、Shuler and Dee、1996);4)ヒト肝細胞成長因子の成長促進活性を増加し、その分解を抑制する(米国特許No.5,545,722および5,736,506、Naka、1996および1998);5)生細胞密度および組換えタンパク質発現を増加する(WO 98/08934、Gorfien et al.、1997)。
培地中における硫酸デキストランの存在または添加に関するすべての報告例において、硫酸デキストランは該培地中に培養時間を通して存在した。いずれの場合も遅れて添加する利点は報告されなかった。さらに、硫酸デキストランが死滅期の開始を遅らせ、増殖期を延長し、または死滅期を停止させることができるとの報告はみられなかった。
培養中の生成物濃度の増加と共に、細胞培養法においてオリゴ糖の糖鎖構造の測定されるシアル酸含有量により決定される生成物品質の低下を観察することができる。通常、薬物クリアランス試験により決定される許容されるシアル酸含有量の下限が存在する。培養中の細胞により生成される豊富なタンパク質は目的とする用途のために最終的に回収されるタンパク質の高品質さを最適に伴う。
適切にグリコシル化される組換え生成タンパク質生成物は治療薬、処置薬、および予防薬として用いるために医療的および臨床的にますます重要になりつつある。したがって、シアル酸含有量により決定されるような高レベルの生成物品質とともに最終タンパク質生成物濃度の増加を経済的および効率的に達成する確実な細胞培養法の開発は当該分野における望まれ、求められる目標を満たす。
(発明の要約)
本発明は、動物または哺乳類細胞培養によるタンパク質、好ましくは組換えタンパク質、より好ましくは糖タンパク質生成物の新規製造方法を提供する。これら新規方法は細胞生存性の増大を達成する。
本発明のある局面は2またはそれ以上の温度変化の使用に関する。この局面において、本発明の細胞培養法は生成物、例えば糖タンパク質の最終力価(titer)または濃度の増大、ならびに培養細胞により生成される糖タンパク質のシアル酸含有量の増大を好都合に達成することができる。より具体的には、本発明によれば細胞培養期間中の2またはそれ以上の温度変化は培養中の細胞の高細胞生存性を維持し、全培養行程を通して生成される生成物の高収量と高品質を提供することができる。また、本発明のある局面によれば、培養法を含む2またはそれ以上の温度変化は培養の生成期の延長を好都合にもたらすことができる。延長した生成期中に、所望の生成物の力価は増加し、シアル酸含有量により特徴づけられる生成物品質が高レベルに維持され、細胞生存性も高レベルに維持される。さらに、本発明の培養法に関連する生成期の延長は標準的生成期中に生成されるより多量の生成物の生成を可能にする。
本発明のある局面において、多段階(工程)温度変化、好ましくは2またはそれ以上の下方温度変化を含む時限多工程温度変化を哺乳類細胞の培養に用いて所望のタンパク質生成物、特に糖タンパク質生成物を生成する。培養の増殖期後に実施することができる2またはそれ以上の(すなわち少なくとも2の)温度変化が本発明の方法に含まれる。好ましくは該変化の間に約4日間の増加を伴う少なくとも2の温度変化を用い所望のタンパク質生成物の高シアル酸含有量を伴う高タンパク質収量を達成することができる。培養方法を含む該多温度変化はタンパク質生成物の高品質と高収量を達成し、培養期間中の細胞生存性を持続させることができる。
本発明の別の局面によれば、2またはそれ以上の温度変化を含む培養法(手法)はタンパク質生成物の高品質および高収量を達成する培養行程を好都合に延長する一定期間、培養中に細胞を維持することができる。本発明が好都合に提供するタンパク質生成期のそのような延長とは、培養行程中に温度変化を行わないかまたは1回だけ行う場合に達成される以上のタンパク質生成を行うことができる生成期をいう。延長された生成期は記載した細胞培養方法を含む多温度変化に関連する。本発明の新規細胞培養方法によれば、第1温度変化と第2、第3、第4、またはさらなる下方変化との組み合わせは、細胞培養の高細胞生存性の維持を可能にし、本発明のある態様においてタンパク質生成物の力価が増大し、シアル酸含有量により特徴付けられる生成物品質を培養行程の終了時まで持続する。
本明細書で用いている培養行程(run)は培養期間、好ましくは全培養期間を表す。2またはそれ以上の温度変化を含む培養行程について、全培養行程の長さは第2温度変化直後できるだけ短時間(例えば約10〜14日間)から約28〜30日間またはそれ以上の間持続することができる。3(またはそれ以上の)温度変化を含む培養行程について、該全行程の長さは第3(または最後の)温度変化直後できるだけ短時間(例えば約14〜21日間)から約28〜30日間またはそれ以上の間持続することができる。すなわち、本発明の方法によれば、細胞を10日間以上、14日間以上、または21日間以上の全行程の期間培養することができる。好ましくは、培養行程を少なくとも約10〜14日間から約21〜30日間またはそれ以上持続する。
全培養行程は2、3、4、またはそれ以上の工程の温度変化を含むことができる。非限定的例として、2工程温度変化は以下のごとく行う:培養温度を最初第0日〜約第6日は37℃またはほぼ37℃に維持し、約第6日〜約第10日は培養温度を34℃またはほぼ34℃に維持し、次いで約第10日以降、例えば約14日〜28日、約第14〜18日、または培養行程の終了時まで培養温度を32℃またはほぼ32℃に維持する。本発明の3工程温度変化培養方法は以下の非限定的例示的構成を含む:細胞培養温度を第0日〜約第6日は37℃またはほぼ37℃に維持し、約第6日〜約第10日は培養温度を34℃またはほぼ34℃に維持し、次いで約第10日〜約第14日は培養温度を32℃またはほぼ32℃に維持し、約第14日以降、例えば約21日〜第30日までまたはそれ以上、すなわち培養行程の終了時まで培養温度を30℃またはほぼ30℃に維持する。
すなわち、タンパク質生成物の高品質および高収量が達成される2またはそれ以上の温度変化を含む本発明の細胞培養方法の使用は、「より短い」例えば標準の持続時間(例えば約10〜約14日間)を有する培養行程のみならず、標準生成行程より長く持続させることができる培養行程について有益である。本発明の方法は培養細胞によりタンパク質生成の初期または標準生成期(初期または標準生成期は一般に約第6〜14日に生じる)の延長をもたらすことができるのでそのようなより長く持続する培養行程が達成される。例えば、本発明の培養行程において2、3またはそれ以上の温度変化を用いることによりタンパク質生成の高品質および高収量ならびに細胞生存性を、温度変化を用いないか、多くとも1回の温度変化を用いる培養におけるタンパク質生成および生成物品質と比べて約10〜14日間の全行程時間から約21〜28日間の全行程時間またはそれ以上維持および持続させることができる。
その局面の別の態様において、本発明は上記2または3以上の温度変化を含む細胞培養方法を提供する。そのような多工程温度変化行程において、細胞は本質的に3工程培養期間において記載のごとく培養し、さらなる下方温度変化を培養期間の終了まで行う。例えば、第4下方温度変化、すなわち温度低下を第3温度変化培養期間後に行うことができ、細胞培養温度を、培養開始から第15〜19日または約第15〜19日、好ましくは第18日にさらに約30℃から約28℃または29℃、好ましくは約29℃に変化させる。さらにタンパク質生成を延長するため該行程の終了時まで、好ましくは28〜30日間以上、細胞をより低い温度、例えば<29℃に維持するさらなる温度変化を該細胞培養法に含むことができる。すべての場合において、培養期間の終了時に細胞が生成したタンパク質は典型的には所望により本明細書に記載の当該分野でルチーン的に用いられている技術を用いて回収、例えば単離および/または精製する。さらにシアル酸含有量を常套的方法により評価する。
ある特定の局面において、本発明は、2工程またはそれ以上の温度変化方法を用いることにより生成物の最終力価が増大し、生成した糖タンパク質のシアル酸含有量がより高い方法(または手法)を提供する。この特定の局面によれば、2またはそれ以上の時限温度変化の組み合わせは培養の高細胞生存性を維持し、生成物、好ましくは組換え生成物の力価が増大し、シアル酸含有量により特徴づけられる生成物品質が高レベルに維持される延長された生成期を可能とする。そのような2工程またはそれ以上の温度変化は細胞培養法中の生成物の生成においてタンパク質力価とシアル酸含有量の間の主な矛盾を最小化することができる。すなわち、該温度変化は培養法の重要な能力パラメーター、すなわち「終了時(すなわち最終)力価」X「終了時(すなわち最終)シアル酸」(「終了時力価x終了時シアル酸」)の数学的積の増大に対する正の効果をもたらす。
したがって、別の特定の目的において本明細書に新しく記載した2工程培養法について細胞を第0日〜第6日または約第6日は37℃またはほぼ37℃の温度で培養中に維持し、第6日または約第6日に細胞培養の温度を34℃またはほぼ34℃に低下させ、次いで第10〜14日または約第10〜14日に温度を再び32℃またはほぼ32℃に低下させる。そのような2工程温度変化法のある態様において、生成期は約第14日以上まで延長され、培養行程の終了時、例えば約第21日までかまたは約第28〜30日またはそれ以上継続され、その間細胞は32℃またはほぼ32℃のより低い温度で培養中に維持される。タンパク質生成物をさらに本明細書に記載のごとく延長された生成期の終了時に回収することができる。
本発明のさらに別の局面は、細胞を培養行程中に2またはそれ以上の温度変化に付すことにより培養中の細胞の生存性を増大させる方法を提供する。条件、例えば2またはそれ以上の温度変化は、培養中の細胞生存性が該条件がないときより該条件がある期間の方が高ければ細胞生存性の増大をもたらす。この局面によれば、記載した2またはそれ以上の温度変化細胞培養法は細胞の生存期間を例えば標準生成期間以上に増大させることができる。本明細書に記載のごとく、培養細胞の細胞生存性の増大の有益な結果は(高品質の)生成物が生細胞の維持を促す条件下で培養期間の終了時により大量に生成されることであり得る。
本発明の別の局面は、2またはそれ以上の温度変化細胞培養法の実施により得られる細胞生存性の増大は培養時間にわたり細胞デブリおよび死細胞または死につつある細胞の放出内容物の量の減少と関連がある。培養中の細胞デブリおよび死細胞の内容物の存在は、培養行程終了時におけるタンパク質生成物の単離および/または精製能力に負の影響を与え得る。培養中で細胞の生存性を長期間維持することにより細胞により生成される所望の糖タンパク質の分解および品質の最終的な減少をもたらし得る細胞タンパク質および酵素、例えば細胞プロテアーゼおよびシアリダーゼによる培養液の汚染が同時に減少する。
本発明の別の局面は細胞培養に対するポリアニオン化合物の遅延添加に関する。ポリアニオン化合物の遅延添加は細胞生存性の増大をもたらす。好ましくはポリアニオン化合物は硫酸デキストランである。接種後のある時に培養にポリアニオン化合物を加える。
本発明のある局面において、ポリアニオン化合物は初期死滅期の始まる前または初期増殖期中、または初期増殖期の後半中、または初期増殖期の終了時またはほぼ終了時である接種後のある時に培養に加える。本発明のこの態様によれば、一定期間、例えば数日間、増殖期が延長し、および/または死滅期の開始が遅延する。さらに、一旦死滅期が始まると、死滅速度は大きく減少する。
本発明の別の局面において、ポリアニオン化合物は初期死滅期中培養に添加される。本発明のこの局面によれば、細胞死は一定期間、例えば数日間停止する。
本発明の別の好ましい局面において、さらに本明細書に記載する様に、新規開発細胞培養法、2またはそれ以上の温度変化を含むものおよびポリアニオン化合物の遅延添加を含むものは、ともにこれらタンパク質を発現および生成するために遺伝子行程された宿主細胞による可溶性CTLA4分子および可溶性CTLA4突然変異体分子、例えばCTLA4IgおよびL104EA29YIgの生成に特に適している(実施例1〜11参照)。本発明の好ましい態様は、培養行程中に多温度変化を用いてCTLA4IgおよびL104EA29YIg生成細胞を培養し、最終生成物のシアル酸測定により決定される高品質の多量のCTLA4IgおよびL104EA29YIg生成物を達成することを含む。本発明の好ましい態様は、ポリアニオン化合物の遅延添加を用いるCTLA4IgおよびL104EA29YIg生成細胞の培養を含む。
本発明のさらなる局面、特徴、および利点は本発明の詳細な説明および図面の記載により認識されよう。
(図面の説明)
図1は、5リットル(5L)リアクター規模で培養した細胞の細胞生存性に関する異なる温度変化プロフィールの影響を示す。これらの結果は、本明細書の実施例3に記載の実験から得られた。無温度変化(「無T-変化」)、単回温度変化(「一T-(温度)変化」)、および2回の下方温度変化(「二T-変化」)を含む培養方法について比較を行う。
図2は、50リットル(5L)リアクター規模で培養した細胞の細胞生存性に関する異なる温度変化プロフィールの影響を示す。これらの結果は、本明細書の実施例3に記載の実験から得られた。3回の下方温度変化(「三T-変化」)および2回の下方温度変化(「二T-変化」)を含む培養方法について比較を行う。
図3は、シグナルペプチド、+1位のメチオニンで始まり+124位のアスパラギン酸まで、または-1のアラニンで始まり+124位のアスパラギン酸までのCTLA4の細胞外ドメインの野生型アミノ酸配列、およびIg領域を有するCTLA4Igのヌクレオチド配列(配列番号1)およびコードされたアミノ酸配列(配列番号2)を示す。
図4は、シグナルペプチド、+1位のメチオニンで始まり+124位のアスパラギン酸で終了するかまたは-1のアラニンで始まり+124位のアスパラギン酸で終了するCTLA4の突然変異細胞外ドメイン、およびIg領域を有するCTLA4突然変異体分子(L104EA29YIg)のヌクレオチド配列(配列番号3)およびコードされたアミノ酸配列(配列番号4)を示す。
図5は、オンコスタチンMシグナルペプチド(-26〜-2位)と融合したヒトCTLA4レセプター(本明細書では「野生型」CTLA4という)の核酸配列(配列番号5)およびコードされた完全アミノ酸配列(配列番号6)を表す。(米国特許No.5,434,131および5,844,095)。
図6は、硫酸デキストランを初期増殖期の終了時に加えた培養中の生細胞密度、全細胞密度、および生存性に対する硫酸デキストランの遅延添加の影響を示す。これらの結果は本明細書の実施例6に記載の実験から得られた。硫酸デキストランを初期増殖期の終了時に加えた培養と硫酸デキストランを加えなかった培養を比較する。平均値をプロットし、誤差バーは標準偏差を示す。
図7は、死滅速度に対する硫酸デキストランの遅延添加の影響を示す。生細胞密度を時間の関数として対数表示している。これらの結果は本明細書の実施例6に記載の実験から得られた。硫酸デキストランを初期増殖期の終了時に加えた培養と硫酸デキストランを加えなかった培養を比較する。平均値をプロットし、誤差バーは標準偏差を示す。
図8は、硫酸デキストランを初期死滅期中に加えた培養における生細胞密度、全細胞密度、および生存性に対する硫酸デキストランの遅延添加の影響を示す。これらの結果は本明細書の実施例7に記載の実験から得られた。硫酸デキストランを初期死滅期中に加えた培養と硫酸デキストランを加えなかった培養を比較する。
図9は、硫酸デキストランを初期死滅期中に加えた培養における生細胞密度、全細胞密度、および生存性に対する硫酸デキストランの遅延添加の影響を示す。これらの結果は本明細書の実施例8に記載の実験から得られた。硫酸デキストランを初期死滅期中に加えた培養と硫酸デキストランを加えなかった培養を比較する。
図10は、硫酸デキストランを培養の第0日に加えた培養における生細胞密度、全細胞密度、および培養中の生存性を示す。これらの結果は本明細書の実施例9に記載の実験から得られた。
図11は、硫酸デキストランを初期増殖期の3つの異なる時(第3日、第4日、および第5日)に加えた培養における生細胞密度および生存性を示す。これらの結果は本明細書の実施例10に記載の実験から得られた。
図12は、生細胞密度に関する異なる温度変化プロフィールの影響を示す。これらの結果は、本明細書の実施例11に記載の実験から得られた。無温度変化(「無温度(T-)変化」)、単回温度変化(「一温度変化」)、および2回の下方温度変化(「二温度変化」)を含む培養方法について比較を行う。
図13は、生存性に関する異なる温度変化プロフィールの影響を示す。これらの結果は、本明細書の実施例11に記載の実験から得られた。無温度変化(「無温度変化」)、単一温度変化(「一温度変化」)、および2回の下方温度変化(「二温度変化」)を含む培養方法について比較を行う。
図14は、力価に関する異なる温度変化プロフィールの影響を示す。これらの結果は、本明細書の実施例11に記載の実験から得られた。無温度変化(「無温度変化」)、単一温度変化(「一温度変化」)、および2回の下方温度変化(「二温度変化」)を含む培養方法について比較を行う。
(発明の詳細な説明)
本発明は、哺乳類または動物細胞培養におけるタンパク質、好ましくは組換えタンパク質生成物、より好ましくは糖タンパク質生成物の新規製造方法について説明する。これらの方法は細胞生存性の増大をもたらす。
2またはそれ以上の温度変化を含む細胞培養法
2またはそれ以上の温度変化を含む本発明の細胞培養方法は、細胞生存性の増大をもたらし、培養中の細胞により生成される生成物の最終力価または濃度の増大をもたらすことができる。さらに、培養細胞により生成される糖タンパク質のシアル酸含有量を高くすることができ、これは培養期間中に生成されるタンパク質生成物が高品質であることを示す。
より具体的には、細胞培養捜査中の2またはそれ以上の温度変化は培養中の細胞の高細胞生存性を維持および持続し、例えば細胞生存性の増大をもたらし、培養行程を通して生成された生成物の高収量と高品質をもたらすことができる。また、本発明によれば、2またはそれ以上の温度変化は培養の生成期の延長を好都合にもたらすことができる。延長された生成期中細胞生存性が維持され、所望の生成物の力価が増加し、シアル酸含有量で特徴付けられる生成物品質が高レベルに維持される。
本発明によれば、細胞培養期間中の2またはそれ以上の温度変化、好ましくは下方温度変化は無温度変化または1回のみの温度変化を含む培養方法に比べて培養期間の終了時に生成されるタンパク質生成物の高収量および高品質をもたらすことができる。実施例3に具体的に示すように、本発明の2または3温度変化を伴う培養法は培養行程の全体の長さに関わらず無温度変化または1回のみの温度変化に比べてタンパク質品質(例えば最終力価)の増大をもたらす。さらに、本発明の方法および手法は、さらに本明細書で説明するフェドバッチ培養で増殖および維持した細胞に特に適している。
該培養方法の2またはそれ以上の温度変化は培養中の細胞の高生存性をも維持および持続させるため、培養法はタンパク質の生成期を延長することができる。特に、延長された生成期を含む細胞培養方法中の生成物品質は高いままであり、所望の生成物の力価は増大し、測定可能なシアル酸含有量で特徴づけられる生成物の品質も高レベルで維持される。本発明が新たに提供する細胞培養方法は無温度変化または多くとも1回のみの温度変化を含む培養方法によりもたらされる生成以上に延長される生成期を含む。
多温度変化を含む細胞培養
本発明の態様において、時限多工程温度変化を哺乳動物細胞の培養に用いて所望のタンパク質生成物、特に糖タンパク質生成物を生成する。より好ましくは、培養中の細胞は組換えにより生成されるタンパク質、ポリペプチドまたはペプチド生成物を生成する。しかしながら、いくつかの例では該細胞は、本発明の方法の実施後に収穫または回収することができる内在性または天然生成物を活発に生成または過剰に生成することができよう。本明細書に記載の、培養期間中に適切な時限間隔で実施した2またはそれ以上の温度変化、好ましくは制御された下方温度変化を本発明の方法に用い、高シアル酸含有量を伴う高タンパク質収量を達成することができる。
本発明の細胞培養手法および方法(生成または発酵行程ともいう)によれば、培養行程中に2またはそれ以上の温度変化と併せて培養した細胞は、最終力価および行程終了時のシアル酸含有量で測定される行程中の生成物の高収量および高品質をもたらすことができる。本発明の方法に関連したタンパク質生成物の高収量および高品質は、培養行程が約10〜14日間または14日間以上の全行程時間行われるか否かに関わらず、無温度変化または多くとも1回の温度変化を用いる方法に比べて得られる。さらに、培養法中の2またはそれ以上の温度変化の結果、標準または初期生成期が実質的に延長される期間、培養中で細胞を維持することができる。標準または初期生成期は典型的には約6〜14日間である。高品質タンパク質の生成の増大および細胞生存性の持続は2またはそれ以上の温度変化を含む本発明培養方法の延長された生成期にわたり達成される。
また、本発明の培養方法によれば、細胞を約10日間以上、約14日間以上、約21日間以上、または約28日間以上、好ましくは約14〜30日間またはそれ以上の全行程期間培養することができる。例えば、2またはそれ以上の温度変化を含む本発明の培養行程において、全行程の長さは第2(または最後の)温度変化直後できるだけ短時間(例えば約14日間)から約21〜30日間またはそれ以上、好ましくは約28日間またはそれ以上の間持続することができる。
本発明の態様において、延長された生成期は、本発明の細胞培養方法を含む多温度変化と関連する。本発明の新規細胞培養方法によれば、第1温度変化と第2、第3、またはさらなる温度変化の組み合わせは、細胞培養に培養行程の継続期間を通して生成物の高収量および高品質をもたらすのみならず、該培養が該行程を通しておよび/または培養行程の終了時までの延長された生成期を通して高細胞生存性を持続することができる。延長された生成期を含む培養行程中タンパク質生成物の力価は増大し、シアル酸含有量で特徴づけられる生成物品質は高いままである。
より詳細には、特定の態様の一つにおいて本発明は培養細胞によるタンパク質生成の初期生成期を延長する細胞培養方法を含む(すなわち、約第6〜14日を含む標準生成期が延長される)。本発明の培養行程に2またはそれ以上の温度変化を用いることにより約第14〜21日の延長された生成期が達成された。培養行程中に3(またはそれ以上の)温度変化を有する培養行程がさらに約21〜28または30日間またはそれ以上延長されると共に高品質のタンパク質生成物(例えば高シアル酸含有量)がより高収量で得られた(例えば実施例3)。
本発明の別の特定の態様において、細胞培養(または発酵)法は、細胞が全培養行程中に3つの異なる温度で維持される2工程下方温度変化を含む。この態様において、全細胞培養期間は最終タンパク質生成物を得る(そしてシアル酸含有量を測定する)前に約10日間以上、より具体的には約14〜28日間またはそれ以上、すなわち約2〜3週間またはそれ以上持続する。例えば、そのような2工程法では、細胞を第0日〜約第6日の初期培養期間について約36℃〜38℃、好ましくは37℃またはほぼ37℃の第1温度に維持する。次いで約第5日〜第7日、好ましくは第6日〜約第10日に培養温度を約33℃〜35℃、好ましくは34℃またはほぼ34℃の第2温度に維持する。34℃またはほぼ34℃で細胞培養後、該温度を2回目(第2温度変化)から約31℃〜33℃、好ましくは32℃またはほぼ32℃の第3温度に変化させる。第2温度変化は第6日〜第14日または約第6日〜約第14日、好ましくは約第10日〜約第14日、より好ましくは第10日または約第10日に生じ、種々の態様において、標準的生成期中、増殖期中、または死滅期中であってよい。好ましくは第1と第2の温度変化間に約4日間増加、より好ましくは4日間増加がある。該細胞は全培養行程の終了時まで32℃またはほぼ32℃の温度で、例えば約第10日以上、より具体的には約第12-18日までまたは約第14-18日までもしくは約第14-28日または第30日またはそれ以上維持される。培養法の終了時にタンパク質生成物は例えば該生成物が培養液中に分泌される場合は培養上清から単離および/または精製される。
あるいはまた、本発明の多温度変化培養方法では温度を培養期に基づいて最初に低下させてよい。第1温度変化は好ましく死滅期の開始前に生じる。ある態様において、該温度は最初に細胞増殖の鈍化と同時に低下させる。例えば、細胞がもはや対数増殖期になく、培養が定常期にある場合、例えば培養の第6日または約第6日に、温度を37℃またはほぼ37℃から34℃またはほぼ34℃に変化させる。この時に、生細胞濃度はタンパク質生成、好ましくはタンパク質生成の増大に適した細胞密度、例えば、約2-12x106細胞/mL、例えば2-9x106細胞/mL、3-7x106細胞/mL、4-5x106細胞/mL、3-4x106細胞/mL、2-4x106細胞/mL、4-6x106細胞/mL、6-8x106細胞/mL、8-10x106細胞/mL、または10-12x106細胞/mLに達した。理論に拘束されることは望まないが、細胞増殖の鈍化は細胞培養液の栄養素および/または特定の成分の枯渇、例えば培地中の窒素制限と関連し得る。
別の態様において、第1温度変化は増殖期中、例えば生細胞濃度が約2-12x106細胞/mL、例えば2-9x106細胞/mL、3-7x106細胞/mL、4-5x106細胞/mL、3-4x106細胞/mL、2-4x106細胞/mL、4-6x106細胞/mL、6-8x106細胞/mL、8-10x106細胞/mL、または10-12x106細胞/mLである時に生じる。
2工程温度変化培養法を含むさらに別の態様において、細胞を14日間培養し、第0日〜第6日は培養温度を37℃またはほぼ37℃に維持する。約第6日〜約第10日は培養温度を34℃またはほぼ34℃に維持し、約第10日〜約第14日は培養温度を32℃またはほぼ32℃に維持する。別の態様として細胞を約21日間培養し、培養温度を第0日〜約第6日は37℃またはほぼ37℃に維持し、約第6日〜約第10日は培養温度を34℃またはほぼ34℃に維持し、約第10日〜約第21日は培養温度を32℃またはほぼ32℃に維持する。さらに別の態様として、細胞を約第28日間培養し、第0日〜約第6日は培養温度を37℃またはほぼ37℃に維持し、約第6日〜約第10日は培養温度を34℃またはほぼ34℃に維持し、約第10日〜約第28日は培養温度を32℃またはほぼ32℃に維持する。
本発明は、細胞培養方法が3またはそれ以上の温度変化を含む態様も含む。3工程温度変化培養法を含むある態様において、細胞を最初に約6日間、約36℃〜38℃、好ましくは37℃またはほぼ37℃の第1温度で培養し、その後、培養温度を変化させ、一定期間約33℃〜35℃、好ましくは34℃またはほぼ34℃に維持し、その後、約31℃〜33℃、好ましくは32℃またはほぼ32℃の温度への第2変化が生じる。約29℃〜31℃、好ましくは30℃またはほぼ30℃の温度への第3温度変化、次いで32℃またはほぼ32℃の培養期間後、行程終了時まで温度を30℃またはほぼ30℃に維持する。
他の態様において、さらなる温度変化、好ましくは下方温度変化を該培養方法の第3温度変化後に行うことができる。例えば、第4温度変化が培養開始から第15〜20日または約第15〜20日、好ましくは約第18日の第3変化に続き得る。第4下方変化は培養温度を28℃〜29℃またはほぼ28℃〜29℃、好ましくは約29℃に維持し、培養行程を生成物が得られる約28日間以上、例えば約28-32日間またはそれ以上に増大させる。
本発明の2工程温度変化培養行程法と同様に、本発明の多温度変化法における第1温度変化は細胞が実質的に増殖を停止し、定常期またはほぼそのようになっている時に生じる。一例として該温度変化は、生細胞濃度が約2-12x106細胞/mL、例えば2-9x106細胞/mL、3-7x106細胞/mL、4-5x106細胞/mL、3-4x106細胞/mL、2-4x106細胞/mL、4-6x106細胞/mL、6-8x106細胞/mL、8-10x106細胞/mL、または10-12x106細胞/mLの時に生じる。あるいはまた、第1温度変化は、増殖期中、例えば生細胞濃度が約2-12x106細胞/mL、例えば2-9x106細胞/mL、3-7x106細胞/mL、4-5x106細胞/mL、3-4x106細胞/mL、2-4x106細胞/mL、4-6x106細胞/mL、6-8x106細胞/mL、8-10x106細胞/mL、または10-12x106細胞/mLの時に生じる。別の好ましい態様において、多工程細胞培養方法は、培養中の細胞による生成物の延長された生成をもたらす約3〜4週間、例えば21〜30日間またはそれ以上、好ましくは28日間またはそれ以上の培養期間中に3回の時限的に調節された温度変化を含む。例示のために、3工程温度変化法は細胞が37℃またはほぼ37℃の温度で培養される0〜約6日間、好ましくは6日間の初期培養期間を含む。約第6日〜約第10日は細胞を34℃またはほぼ34℃で培養する。約第10日〜約第14日は培養温度を32℃またはほぼ32℃に維持し、約第14日以降、すなわち約第21日〜第30日またはそれ以上、または行程終了時までは培養温度を30℃またはほぼ30℃に維持する。したがって、本発明の3工程温度変化培養法では、温度変化がないかまたは1回だけの標準生成期が約6〜14日であるの対し、生成期を約14日間より長い期間に延長し、より高いタンパク質の最終力価とより高い細胞生存性を得ることもできよう。好都合には、生成期および細胞生存性はさらに3工程温度変化法によりシアル酸含有量により測定される生成物の高品質を伴って延長(すなわち、約3週間またはそれ以上に)することができよう。
本発明の種々の態様において、32℃またはほぼ32℃への第2温度変化は培養行程終了時におけるタンパク質のより高収量とより高品質を可能とし、約2週間以上持続することができる行程中のタンパク質生成の延長にも関連する。2またはそれ以上の温度変化は培養の先の2週間の間に生じうる細胞生存性の緩やかな減少に対して培養を安定化することができる。約2週間またはほぼその期間の32℃またはほぼ32℃から30℃またはほぼ30℃へのさらに別の温度変化は、生成された生成物の品質(シアリル化の測定により決定した)を損なうことなく細胞生存性を維持しながらさらなる生成期の延長、すなわち培養行程終了時まで、例えば約第21日〜第30日またはそれ以上の細胞培養の生成期の延長をもたらす。(実施例3、表2および3参照)。さらなる温度変化は2または3温度変化行程におけるより細胞生成を延長することができる。
他の態様において、本発明は、目的タンパク質を発現する宿主細胞を細胞増殖を可能にする期間および条件下で温度37℃またはほぼ37℃で培養し、細胞培養の温度を低下させ、培養が定常期にあるときは細胞を34℃またはほぼ34℃の第2温度で培養し、約第6日〜第14日の標準生成期中のある時に再度培養温度を低下させて、培養期間終了時まで、例えば培養開始から例えば10日間または約10日間、32℃またはほぼ32℃の第3温度で細胞を培養することを含む、2またはそれ以上の温度変化を含む、(i)細胞培養法、(ii)好ましくは細胞生存性の増大を伴うタンパク質生成の増大方法、(iii)タンパク質生成物のシアリル化を増大する方法、(iv)細胞生存性の増大方法、または(v)タンパク質生成の延長方法を指向する。本明細書に記載のごとく、培養期間は10日間以上、14日間以上、21日間以上、または28〜30日間以上の総培養時間を含み得る。さらに32℃で細胞を培養後、すなわち培養行程終了時に、生成されたタンパク質生成物、好ましくは糖タンパク質を得る。
他の態様において、本発明は、目的タンパク質を発現する宿主細胞を細胞増殖を可能にする期間および条件下で温度37℃またはほぼ37℃で培養し、細胞培養の温度を低下させ、約第5日〜第7日に開始する34℃またはほぼ34℃の第2温度で細胞を培養し、再度培養温度を低下させて約第6日〜第14日に開始する32℃またはほぼ32℃の第3温度で、培養期間終了時まで例えば培養開始から10日間または約10日間細胞を培養することを含む、2またはそれ以上の温度変化を含む、(i)細胞培養法、(ii)好ましくは細胞生存性の増大を伴うタンパク質生成の増大方法、(iii)タンパク質生成物のシアリル化を増大する方法、(iv)細胞生存性の増大方法、または(v)タンパク質生成の延長方法を指向する。本明細書に記載のごとく、該培養期間は10日間以上、14日間以上、21日間以上、または28-30日間以上の全行程時間を含み得る。32℃で細胞を培養後、すなわち培養行程終了時に、生成されたタンパク質生成物、好ましくは糖タンパク質を得る。
その別の態様において、本発明は、32℃またはほぼ32℃から30℃またはほぼ30℃までの別の下方温度変化を含む、培養プロセス終了時まで培養開始から14日間または約14日間、培養期間を標準生成期よりはるかに延長する培養方法を提供する。培養プロセス中のタンパク質生成および細胞生存性をさらに伸ばすため、該方法は、培養プロセス終了時まで培養開始から15〜19日間または約15〜19日間、好ましくは18日間の30℃またはほぼ30℃から29℃またはほぼ29℃への第4下方温度変化を含むことができる。
本発明の温度変化は典型的には培養期間の第6日または約第6日であり(これは培養の増殖期中またはその後であってよい)、その後約4日間増加、好ましくは4日間増加させることができる。いくつかの態様において、温度変化のタイミングは、標準生成期の開始時(例えば第6日または約第6日)、中間(例えば第10日または約第10日)、および終了時(例えば第14日または約第14日)と概算してよい。生成された糖タンパク質の最終力価およびシアル酸含有量が多工程(例えば2工程、3工程、またはそれ以上の)温度変化プロフィールを用いることにより増大する本発明の培養法または手法において、少なくとも2の時限温度変化の組み合わせは、生成物の最終力価およびシアリル化を損なうことなく全培養行程を10日間以上、14日間以上、21日間以上、または28日間以上またはそれ以上行うことができる。本発明の培養法によれば、2またはそれ以上の温度変化は培養の高細胞生存性を持続し、2またはそれ以上の温度変化を含まない同じ期間に生じる行程に比べて培養行程においてより高力価および高品質のタンパク質を生成することができる。また、2またはそれ以上の温度変化は、培養の生成期を標準生成期および/または時間変化がないかまたは多くとも1回の培養の生成より延長することができる。そのような多工程温度変化、例えば2工程またはそれ以上の温度変化は細胞培養法におけるタンパク質生成物の生成における力価(「最終力価」)とシアル酸含有量の間の一般的な矛盾を最小化することができる。すなわち、該温度変化は、「最終力価x最終シアル酸」の数学的積の増大に正の効果をもたし、タンパク質生成プロセスを改善する。
2またはそれ以上の温度変化を含む細胞培養法の発明のさらなる態様
ある態様において、本発明は、細胞増殖を可能にする期間および条件下で37℃またはほぼ37℃の第1温度で目的タンパク質を発現する宿主細胞を培養することを含む細胞培養法を含む。細胞増殖期間後、細胞増殖が遅くなり、ほぼ定常期になるときは細胞を34℃またはほぼ34℃の第2温度で培養する。次いで、細胞を培養の標準生成期中、すなわち第6日または約第6日〜第14日または約第14日に32℃またはほぼ32℃の第3温度で培養する。培養プロセス終了時に生成されたタンパク質生成物を得ることができる。
本発明の好ましい態様によれば、細胞を、いくつかの期、すなわち、細胞を37℃またはほぼ37℃の第1温度で培養する増殖期、細胞を34℃またはほぼ34℃の第2温度で培養する初期または標準生成期、および延長されたタンパク質生成期を得るための32℃またはほぼ32℃の第3温度を含むバッチフェド法で培養し、これには30℃またはほぼ30℃の第4温度、次いで所望によりさらに低い温度、例えば29℃またはほぼ29℃を含むことができる。本発明の2工程またはそれ以上の温度変化行程の場合は、タンパク質生成の延長は2またはそれ以上の下方温度変化と関連する。本明細書に記載のごとく、延長された生成期は、37℃またはほぼ37℃から34℃またはほぼ34℃への第1温度変更後2回またはそれ以上の異なる間隔で培養温度を連続的に下げることを含む。温度変化がないかまたは温度変化が1回のみ場合に比べて、タンパク質生成は増大し、高生成物品質(最終生成物のシアル酸含有量で測定する)は、培養行程中の2またはそれ以上の下方温度変化を含むこれら方法の実施により達成される。
細胞培養の増殖期中、例えば第0日〜約第6日に、細胞は典型的には対数細胞増殖またはlog期のこの期間に急速に分割するので培養中の細胞密度が増大する。本発明のいくつかの局面に存在する非増殖関連細胞培養およびタンパク質生成法において、細胞増殖が適切な増殖条件下で実質的に最大化する増殖期中に有意な量のタンパク質生成物はみられない。すなわち、培養中の栄養制限の結果として、細胞は典型的には約第4〜6日に急速な細胞増殖がプラトーになりそして/または減退する定常期に入る。これら培養方法において、細胞増殖が本質的に終了した時(例えば、約第6日〜約第10日)にタンパク質生成期が始まる。(実施例3)。
ある態様の培養方法によれば、細胞が約第6日に定常期に達するときに温度を37℃またはほぼ37℃から34℃またはほぼ34℃に下方変化させる。次いで、第1温度変化(約第6日)と延長された生成期の開始(発現)(約第14日)のほぼ中間点の時に、培養温度を再度34℃またはほぼ34℃から32℃またはほぼ32℃に低下させる。第2温度変化は典型的には約第14日を通して徐々に低下する培養の細胞生存性を安定化させることができ、次いで生成期の延長が始まる(約第14日から約第21日〜第30日もしくはそれ以上に、好ましくは約第21日〜第28日もしくはそれ以上に)。上記のごとく、培養行程の延長された生成期中に、例えば第3、4またはそれ以上の他の温度変化を用いることができる。
ポリアニオン化合物の遅延添加を含む細胞培養方法
本発明によれば、ポリアニオン化合物の遅延添加を含む細胞培養法が提供される。該方法は接種後のある時に細胞培養にポリアニオン化合物を添加することを含む。ポリアニオン化合物の遅延添加は、ポリアニオン化合物の添加がないときに観察されるものまたはポリアニオン化合物が接種時に添加されたときに観察されるものに比べて細胞生存性の増大をもたらす。
すなわち、ある態様において、本発明は目的タンパク質を発現する宿主細胞を培養し、ポリアニオン化合物を接種後のある時に該細胞培養に添加することを含む細胞培養法を指向する。
本発明を実施すると細胞培養の細胞生存性パーセントが増加することがわかった(実施例6参照)。細胞生存性としても知られる細胞生存パーセントは細胞の総数中の生細胞のパーセントである。ある条件、例えばポリアニオン化合物の遅延添加は、培養中の細胞生存性が該条件の存在下で一定期間該条件の非存在下より高ければ細胞生存性の増大をもたらす。
すなわち、他の態様において、本発明は、細胞培養の細胞生存性が増大する(1)細胞培養プロセス、および(2)目的タンパク質を発現する宿主細胞を培養し、ポリアニオン化合物を接種後のある時に該細胞培養に添加することを含む培養中の細胞生存性を増大させる方法を指向する。
ポリアニオン化合物には、限定されるものではないが硫酸デキストラン(Sigma-Aldrich、St. Louis、MOから入手可能)、ヘパリン(Sigma-Aldrichから入手可能)、ヘパラン硫酸(Sigma-Aldrichから入手可能)、硫酸マンナン、コンドロイチン硫酸(Sigma-Aldrichから入手可能)、デルマタン硫酸(Sigma-Aldrichから入手可能)、ケラタン硫酸(Sigma-Aldrichから入手可能)、ヒアルロネート(Sigma-Aldrichから入手可能)、ポリ(ビニルサルフェート)(Sigma-Aldrichから入手可能)、κ-カラギーナン(Sigma-Aldrichから入手可能)、およびスラミン(Sigma-Aldrichから入手可能)が含まれる。該化合物は記載の供給源から容易に入手することができるか、当業者に知られた手段により容易に得ることができる。これら化合物は、限定されるものではないがナトリウム塩を含む塩の形で利用可能であることが多いが、非塩形で用いることもできよう。ポリアニオン化合物は、限定されるものではないが塩形、例えばナトリウム塩を含むそのすべての形を含む。
好ましいポリアニオン化合物は、限定されるものではないが硫酸デキストラン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、硫酸マンナン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ポリ(ビニルサルフェート)、κ-カラギーナン、およびスラミンを含む多硫酸化化合物である。最も好ましくは硫酸デキストランである。硫酸デキストランは平均分子量が5,000〜500,000Daであってよい。分子量5,000Daの硫酸デキストランが好ましい。
本発明によれば、ポリアニオン化合物は接種後のある時に添加され、すなわち、ポリアニオン化合物は基礎培地中に存在せず、接種時に存在しない。好ましくはポリアニオン化合物は培養の第1日またはそれ以降に添加される。接種は第0日に行う。
本発明によれば、ポリアニオン化合物は特定期間中(例えば接種後のある時に)細胞培養に1回、2回、3回、またはあらゆる回数添加することができよう。1またはそれ以上のポリアニオン化合物を組み合わせて用いてよい。すなわち、ポリアニオン化合物のあらゆる該単回添加には、1またはそれ以上の他のポリアニオン化合物の添加を含むことができよう。同様に、ポリアニオン化合物の2回以上の添加がある場合は異なるポリアニオン化合物を異なる添加時に加えることができよう。特定期間中かまたはその期間中でないときのいずれでもポリアニオン化合物の添加前、その添加とともに、または添加後に、ポリアニオン化合物を含むさらなる化合物および物質を培養に加えることができよう。好ましい態様においてポリアニオン化合物の単回(すなわち1回)添加がある。好ましい態様において、1のポリアニオン化合物を加える。
本発明によれば、ポリアニオン化合物はあらゆる手段により細胞培養に加えることができよう。ポリアニオン化合物の添加手段には、限定されるものではないが水に溶解し、培養液に溶解し、フィード培地に溶解し、適切な培地に溶解し、それが得られる形であることが含まれる。好ましくは、ポリアニオン化合物は水に溶解して添加する。
本発明によれば、ポリアニオン化合物は培養中の濃度が適切なレベルになるように添加される。非限定的例として、ポリアニオン化合物を1-1000mg/L、1-200mg/L、1-100mg/L、または25-75mg/Lの濃度で添加する。好ましくはポリアニオン化合物は25-200mg/Lまたは25-100mg/L、より好ましくは約50-100mg/Lまたは50-100mg/L、より好ましくは約50mg/Lまたは約100mg/L、最も好ましくは50mg/Lまたは100mg/Lの濃度で添加される。
本発明によれば、該培養は、ポリアニオン化合物添加後あらゆる長さの時間の行程であってよい。培養行程時間は、関連因子、例えば回収されるタンパク質の量および品質、および目的タンパク質の回収を困難にする細胞溶解から生じる上清中の汚染細胞種(例えばタンパク質およびDNA)のレベルに基づいて当業者が決定することができよう。
本発明の細胞培養法および細胞生存性増大法の特定の態様において、ポリアニオン化合物は初期死滅期の開始前である接種後のある時に添加される。好ましくはポリアニオン化合物は初期増殖期中である接種後のある時に添加される。より好ましくはポリアニオン化合物は初期増殖期の後半に添加される。より好ましくはポリアニオン化合物は初期増殖期の終了時またはほぼ終了時に添加される。
初期増殖期とは、ポリアニオン化合物の特定の添加がないときに観察される増殖期をいう。初期死滅期とは、ポリアニオン化合物の特定の添加がないときに観察される死滅期をいう。
初期増殖期は初期死滅期が始まる時に終わるか、または初期増殖期と初期死滅期の間にあらゆる長さの定常期があってよい。
特定の態様において、初期増殖期が第0日〜第6日であり、初期死滅期が第7日に始まる細胞培養において、特定の態様において、ポリアニオン化合物は接種後のある時および第7日前に添加される。特定の態様において、ポリアニオン化合物は接種後および第6日までに添加される。特定の態様において、ポリアニオン化合物は第1日〜第6日に添加される。別の特定の態様において、ポリアニオン化合物は第4、5、または6日に添加される。他の特定の態様において、ポリアニオン化合物は約第6日または第6日に添加される。
ポリアニオン化合物を接種後および初期死滅期の開始前のある時に添加すると増殖期が初期増殖期より延長されることがあることがわかった(実施例6および10参照)。初期増殖期より延長される増殖期は持続時間が初期増殖期より長い、すなわち、ポリアニオン化合物を添加しないときに観察される増殖期より長い。好ましくは延長された増殖期中、初期増殖期中に達成されるピーク生細胞密度より高いピーク生細胞密度が達成される。
すなわち、他の態様において、本発明は、(1)細胞培養プロセス、および(2)目的タンパク質を発現する宿主細胞を培養し、ポリアニオン化合物を初期死滅期の開始前である接種後のある時に該細胞培養に添加し、増殖期が延長されることを含む培養細胞の増殖期を延長する方法を指向する。具体的態様において、本発明は、(1)細胞培養プロセス、および(2)目的タンパク質を発現する宿主細胞を培養し、ポリアニオン化合物を初期増殖期中である接種後のある時に該細胞培養に添加し、増殖期が延長されることを含む培養細胞の増殖期を延長する方法を指向する。より具体的態様において、本発明は、(1)細胞培養プロセス、および(2)目的タンパク質を発現する宿主細胞を培養し、ポリアニオン化合物を初期増殖期後半に該細胞培養に添加し、増殖期が延長されることを含む培養細胞の増殖期を延長する方法を指向する。他の具体的態様において、本発明は、(1)細胞培養プロセス、および(2)目的タンパク質を発現する宿主細胞を培養し、ポリアニオン化合物を初期増殖期の終了時またはほぼ終了時に該細胞培養に添加し、増殖期が延長されることを含む培養細胞の増殖期を延長する方法を指向する。
該増殖期は初期増殖期の持続時間よりあらゆる期間延長することができよう。例示のためだけであるが、該増殖期は1-10日間、2-9日間、3-8日間、または約5日間延長することができよう。好ましくは該増殖期は1日間またはそれ以上、より好ましく2日間またはそれ以上、より好ましくは3日間またはそれ以上、最も好ましくは4日間またはそれ以上延長することができよう。例えば、実施例6において該増殖期は第11日に延長される(ここで、初期増殖期は第6日までである)。すなわち、実施例6において該増殖期は初期増殖期の持続時間より5日間延長された。延長された増殖期に死滅期または定常期が続くことができよう。同様に、初期増殖期が死滅期または定常期が続くことができよう。
ポリアニオン化合物を接種後および初期死滅期の開始前のある時に添加すると死滅期の開始が初期死滅期、すなわち、ポリアニオン化合物の添加がない時に観察される死滅期の開始より遅延することがあることがわかった(実施例6および10参照)。開始が遅延する死滅期は初期死滅期より遅い時に始まる。
すなわち、他の態様において、本発明は、(1)細胞培養プロセス、および(2)目的タンパク質を発現する宿主細胞を培養し、ポリアニオン化合物を初期死滅期の開始前である接種後のある時に該細胞培養に添加し、死滅期の発現が遅延することを含む培養細胞の死滅期を遅延させる方法を指向する。より具体的な態様において、本発明は、(1)細胞培養プロセス、および(2)目的タンパク質を発現する宿主細胞を培養し、ポリアニオン化合物を初期増殖期中である接種後のある時に該細胞培養に添加し、死滅期の発現が遅延することを含む培養細胞の死滅期を遅延させる方法を指向する。より具体的な態様において、本発明は、(1)細胞培養プロセス、および(2)目的タンパク質を発現する宿主細胞を培養し、ポリアニオン化合物を初期増殖期の後半に該細胞培養に添加し、死滅期の発現が遅延することを含む培養細胞の死滅期を遅延させる方法を指向する。他の具体的な態様において、本発明は、目的タンパク質を発現する宿主細胞を培養し、初期増殖期の終了時またはほぼ終了時にポリアニオン化合物を該細胞培養に加え、死滅期の発現が遅延することを含む培養細胞の死滅期を遅延させる方法を指向する。
死滅期の発現はあらゆる期間遅延させることができよう。単に例示であるが、死滅期の発現は1-10日間、2-9日間、3-8日間、または約5日間遅延させることができよう。好ましくは該死滅期の発現は1日間またはそれ以上、より好ましく2日間またはそれ以上、より好ましくは3日間またはそれ以上、最も好ましくは4日間またはそれ以上遅延する。上記の本発明の細胞培養法および細胞生存性の増大方法の別の具体的態様において、ポリアニオン化合物は初期死滅期中である接種後のある時に添加する。
ポリアニオン化合物を初期死滅期中に添加すると死滅期を停止させるかもしれないことがわかった(実施例7および8参照)。死滅期を停止させるとは、ポリアニオン化合物の添加がない時に観察される生細胞密度の低下をある期間止めることを意味する。該停止はポリアニオン化合物の添加直後に生じるか、またはその後に生じてよい。死滅期が停止すると増殖期または定常期のどちらが続いてもよい。もちろん最終的に培養は再度死滅期に入るであろう。
すなわち、他の態様において、本発明は、(1)細胞培養プロセス、および(2)目的タンパク質を発現する宿主細胞を培養し、初期死滅期中のある時にポリアニオン化合物を該細胞培養に加え、死滅期を停止させることを含む細胞培養の死滅期を停止させる方法を指向する。
死滅期は、死滅期に再度入る前のあらゆる期間停止させることができよう。単に例として、死滅期は1-20日間、2-18日間、5-15日間、または8-13日間停止させることができよう。好ましくは死滅期は、1日間またはそれ以上、より好ましくは2日間またはそれ以上、より好ましくは3日間またはそれ以上、最も好ましくは4日間またはそれ以上停止する。死滅の停止の継続性は必ずしも意味しない。すなわち、一定のまたは増加する生細胞密度の2つの一続きの時間の間の生細胞密度プロフィールの「部分的」低下があるかもしれない。
細胞培養法、特に非連続法の行程時間は、通常、残存生細胞密度に制限され、死滅期中に減少する。行程時間がより長ければ達成される生成物力価もより高くすることができよう。したがって、できる限り増殖期を延長することを含む死滅期の遅延または死滅期の停止が望ましい。細胞死は培養上清にシアリダーゼを放出させ、発現タンパク質のシアル酸含有量を減少させる可能性があるので、生成物品質の重要性は死滅期を遅延または停止させる動機も与える。タンパク質精製の重要性は死滅期を遅延または停止させるさらに別の動機も与える。培養中の細胞デブリの存在および死細胞の含有量は、培養行程終了時のタンパク質生成物の単離および/または生成に負の影響を与えうる。
具体的態様において、2またはそれ以上の温度変化を含む本明細書に記載のあらゆる細胞培養法およびポリアニオン化合物の遅延添加を含む本明細書に記載のあらゆる細胞培養法を細胞培養に一緒に用いる。具体的態様において、本発明は、a)細胞増殖を可能にする期間および条件下で37℃またはほぼ37℃の温度で培養し、b)細胞培養の温度を下げて約第5日〜第7日に開始する34℃またはほぼ34℃の第2温度で細胞を培養し、(c)再度細胞培養の温度を下げて約第6日〜第14日に開始する32℃またはほぼ32℃の第3温度で細胞を培養し、(d)接種後のある時にポリアニオン化合物を該細胞培養に加えることを含む、(i)細胞培養法および(ii)細胞生存性を増大する方法を指向する。
糖タンパク質の精製および分析に関する技術と手順
本発明に含まれる培養方法(2またはそれ以上の温度変化を含む細胞培養方法およびポリアニオン化合物の遅延添加を含む細胞培養方法の両方)において、細胞により生成されるタンパク質は、全細胞培養期間の終了時に当該分野で知られ、実施されている単離および精製方法を用いて所望のごとく収集、回収、単離、および/または精製もしくは実質的に精製される。好ましくは培養細胞から分泌される糖タンパク質は培養液または上清から単離されるが、タンパク質は当該分野で知られ、用いられる方法を用い、さらに以下に記載のごとく、宿主細胞、例えば細胞溶解物からも回収することができる。
本発明の方法により生成される糖タンパク質を含む複雑な炭化水素は、所望により常套的炭化水素分析技術によりルチーン的に分析することができる。例えば、当該分野でよく知られているレクチンブロッティングのような技術は末端マンノースまたは他の糖、例えばガラクトースの比率を明らかにする。シアル酸によるモノ-、ビ-、トリ-、またはテトラ-アンテナリーオリゴ糖の末端は、タンパク質から糖を放出させ、無水ヒドラジンまたは酵素的方法およびイオン交換クロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィ、または当該分野でよく知られている他の方法によるオリゴ糖の分画を用いて確認することができる。
ノイラミニダーゼで処理してシアル酸を除去する前および後に糖タンパク質のplを測定することもできる。ノイラミニダーゼ処理後のplの増加は糖タンパク質上のシアル酸の存在を示す。炭化水素構造は典型的にはN結合またはO結合炭化水素として発現タンパク質上に生じる。N結合およびO結合炭化水素は主としてそのコア構造が異なる。N結合糖タンパク質は、GIcNAcを介した炭化水素部分のペプチド鎖中のアスパラギン残基への結合を表す。N結合炭化水素はすべて共通Man1-6(Man1-3)Manβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAcβ-Rコア構造を含む(ここで、このコア構造中のRはアスパラギン残基を表す。)。生成されたタンパク質のペプチド配列は、アスパラギン-X-セリン、アスパラギン-X-トレオニン、およびアスパラギン-X-システイン(ここで、Xはプロリンを除くあらゆるアミノ酸である)を含むであろう。
これに対し、O結合炭化水素はトレオニンまたはセリンのヒドロキシル基と結合したGaINAcである共通コア構造により特徴付けられる。N結合およびO結合炭化水素のうち最も重要なものは複合体Nおよび0結合炭化水素である。そのような複合体炭化水素はいくつかのアンテナリー構造を含む。モノ-、ビ-、トリ-、およびテトラ-外構造は、末端シアル酸の付加に重要である。そのような外鎖構造は、タンパク質生成物の炭化水素を含む特定糖および結合のためのさらなる部位を提供する。
得られる炭化水素は当該分野で知られたあらゆる方法により分析することができる。種々の方法が当該分野でグリコシル化分析のために知られており、本発明の文脈において有用である。これら方法は生成されたペプチドに結合したオリゴ糖の同一性および組成に関する情報を提供する。本発明において有用な炭化水素分析の方法には、限定されるものではないがレクチンクロマトグラフィ、荷電に基づいてオリゴ糖を分離する高pH陰イオン交換クロマトグラフィを用いるHPAEC-PAD、NMR、質量分析法、HPLC、GPC、単糖組成分析、および逐次酵素分析が含まれる。
さらに、オリゴ糖を放出するための方法が当該分野で知られ、実施されている。これらの方法には、1)ペプチド-N-グリコシダーゼF/エンド-β-ガラクトシダーゼを用いて一般的に行う酵素的方法、2)主としてO結合構造を放出するための厳しいアルカリ環境を用いるβ-排除法、および3)N-およびO結合オリゴ糖両方を放出するための無水ヒドラジンを用いる化学的方法が含まれる。分析は以下の工程を用いて行うことができる:1. 試料を脱イオン水で透析してすべての緩衝塩を除去し、次いで凍結乾燥する。2. 無水ヒドラジンを用いる完全オリゴ糖鎖の放出。3. 完全オリゴ糖鎖を無水メタノールHClで処理して個々の単糖をO-メチル誘導体として生じさせる。4. あらゆる第1級アミノ基のN-アセチル化。5. 誘導体化によりパー-O-トリメチルシリルメチルグリコシドを得る。6. CP-SIL8カラムを用いる毛細管ガス液体クロマトグラフィ(GLC)によるこれら誘導体の分離。7. 既知標準品と比較したGLCおよび質量分析法からの保持時間による個々のグリコシド誘導体の同定。8. 内標準(13-O-メチル-D-グルコース)を用いるFIDによる個々の誘導体の定量。
中性およびアミノ糖は高速陰イオン交換クロマトグラフィとパルス電流(amperometric)検出(HPAE-PAD Carbohydrate System;Dionex Corp.)を組み合わせて測定することができる。例えば、糖は100℃で6時間20%(v/v)トリフルオロ酢酸中で加水分解することにより放出することができる。次に、加水分解物を凍結乾燥またはSpeed-Vac(Savant Instruments)により乾燥する。次に、残渣を1%酢酸ナトリウム・3水和物溶液に溶解し、HPLC-AS6カラムにて分析する(Anumula et al.、1991、Anal. Biochem.、195: 269-280に記載のごとく)。
あるいはまた、イムノブロット炭化水素分析を行うことができる。この方法において、タンパク質結合炭化水素は、市販のグリカン検出システム(Boehringer)を用い、Haselbeck et al.(1993、Glycoconjugate J.、7: 63)に記載の酸化的イムノブロット法に基づいて検出される。タンパク質をニトロセルロース膜の代わりにポリビニリデンジフロリド膜に移し、ブロッキング緩衝液が0.9%塩化ナトリウム含有10mM Tris緩衝液中の5%ウシ血清アルブミンを含む以外は製造業者が推奨する染色プロトコールに従う。検出は、100mM塩化ナトリウムおよび50mM塩化マグネシウム含有100mM Tris緩衝液、pH9.5中のホスファターゼ基質、0.03%(w/v)4-ニトロブルーテトラゾリウムクロリドおよび0.03%(w/v)5-ブロモ-4-クロロ-3-インドイル-ホスフェートを用いるTris緩衝生理食塩水中のリン酸カリウムコンジュゲートと結合した抗ジゴキシゲニン抗体(Boehringer)の1:1000希釈液を用いて行う。炭化水素を含むタンパク質のバンドは通常、約10〜15分間で可視化される。
タンパク質関連炭化水素はペプチド-N-グリコシダーゼ Fで消化することにより分析することもできる。この方法によれば、残基を0.18% SDS、18mM β-メルカプトエタノール、90mMホスフェート、3.6mM EDTAを含む緩衝液(pH8.6)14μLに懸濁し、100℃で3分間加熱する。室温に冷却後、試料を2つの等しい部分に分ける。さらに処理を行わない1部分はコントロールとして用いる。他の部分は約1% NP-40界面活性剤に調整し、次いで0.2単位のペプチド-N-グリコシダーゼF(Boehringer)を添加する。両試料を37℃で2時間温め、次いでSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分析する。
さらに、糖タンパク質生成物のシアル酸含有量を常套的方法により評価する。例えば、シアル酸を、直接比色法(Yao et al.、1989、Anal. Biochem.、179: 332-335)、好ましくはトリプリケートの試料を用いて別個に測定することができる。別のシアル酸測定方法は、Warren et al.、1959、J. Biol.Chem.、234: 1971-1975)に記載のチオバルビツール酸(thiobarbaturic acid)(TBA)の使用を含む。さらに別の方法は、例えばH. K. Ogawa et al.、1993、J. Chromatography、612: 145-149に記載の高速クロマトグラフィを含む。
例示的に、糖タンパク質の回収、単離、および/または精製について、細胞培養液または細胞溶解物を遠心し、粒子状細胞および細胞デブリを除去する。所望のポリペプチド生成物を適切な精製技術により汚染可溶性タンパク質およびポリペプチドから単離または精製する。以下の手順は、例示的、非限定的なタンパク質の精製方法:イムノアフィニティまたはイオン交換カラムを用いる分離または分画;エタノール沈殿;逆相HPLC;樹脂、例えばシリカまたは陽イオン交換樹脂、例えばDEAEクロマトグラフィ;クロマトフォーカシング;SDS-PAGE;硫酸アンモニウム沈殿;例えばSephadex G-75、Sepharoseを用いるゲルろ過;免疫グロブリン夾雑物を除去するためのプロテインAセファロースクロマトグラフィなどを提供する。他の添加物、例えばプロテアーゼインヒビター(例えばPMSFまたはプロテアーゼK)を用いて精製中のタンパク質分解を阻害することができる。目的ポリペプチドの精製方法は細胞培養中に組換え的に発現したポリペプチドの変更を可能にする修飾が必要かもしれないことは当業者に理解されよう。炭化水素のために選択し、シアル酸を豊富化することができるそれら精製手順、例えばより酸性分画が回収されるイオン交換ソフトゲルクロマトグラフィ、または陽イオンまたは陰イオン交換樹脂を用いるHPLCが特に好ましい。
細胞、タンパク質、および細胞培養
本発明の細胞培養法または手法(2またはそれ以上の温度変化を含む細胞培養方法およびポリアニオン化合物の遅延添加を含む細胞培養方法の両方)において、種々の細胞培養液、すなわち当該分野で常套的に知られた基礎培養液中で細胞を維持することができる。例えば、該方法は、栄養物などを添加することができる細胞培養液中で大容量の細胞を維持する用途に適用可能である。典型的には、「細胞培養液」(「培養液」ともいう)には、細胞、好ましくは動物または哺乳類細胞が増殖し、一般に以下の少なくとも1またはそれ以上の成分を提供する栄養溶液を表すと当業者に理解され、知られている用語である:エネルギー源(通常グルコースのような炭化水素の形の);すべての必須アミノ酸および一般的には20塩基性アミノ酸およびシステイン;ビタミンおよび/または典型的には低濃度で必要な他の有機化合物;脂質または遊離脂肪酸、例えばリノール酸および微量元素、例えば典型的には非常に低濃度、通常マイクロモルの範囲で必要な無機化合物または天然元素。細胞培養液には、種々の所望の成分、例えばホルモンおよび他の成長因子、例えばインスリン、トランスフェリン、上皮成長因子、血清など;塩、例えばカルシウム、マグネシウム、およびホスフェート、および緩衝剤、例えばHEPES;ヌクレオシドおよび塩基、例えばアデノシン、チミジン、ヒポキサンチン;およびタンパク質および組織加水分解物、例えば加水分解動物タンパク質(動物副産物、精製ゼラチン、または植物材料から得ることができるペプトンまたはペプトン混合物);抗生物質、例えばゲンタマイシン;および細胞保護剤、例えばPluronicポリオール(Pluronic F68)を含むように添加することができる。無血清および動物起源の生成物または成分不含の細胞培養液が好ましい。
当業者が理解するであろうように動物または哺乳類細胞は培養される特定の細胞に適した当業者が過度な実験をすることなく決定することができる培地中で培養される。市販の培地を利用することができ、これには例えば、最小必須培地(MEM、Sigma、St. Louis、MO);Ham's F10培地(Sigma);Dulbecco's Modified Eagles培地(DMEM、Sigma);RPMI-1640培地(Sigma);HyClone細胞培養液(HyClone、Logan、UT);および特定細胞種について処方される化学合成(chemically-defined)(CD)培地、例えばCD-CHO培地(Invitrogen、Carlsbad、CA)が含まれる。前記の典型的培地には、必要または所望に応じて当業者に知られ、実施される適切な濃度または量の所望の成分を含む上記添加構成要素または成分を加えることができる。
さらに、本発明の方法に適した細胞培養条件は、細胞のバッチ、フェドバッチ、または連続培養について典型的に用いられ、知られているものであり、pH、例えば約6.5〜約7.5、例えば空気飽和約5-90%の溶存酸素(O2)および二酸化炭素(CO2)、撹拌および湿度ならびに温度に注意を払う。例示的非制限的例として、本発明のフェドバッチ法に適した細胞培養液には、変法(modified)CD-CHO培地(Invitrogen、Carlsbad、CA)、例えば実施例1が含まれる。栄養培地(feeding medium)には、例えば変法eRDF培地(Invitrogen、Carlsbad、CA)、例えば実施例1または実施例7を用いることもできる。D-ガラクトースをも含むフィーディング培地が好ましい。
動物細胞、哺乳類細胞、培養細胞、動物または哺乳類宿主細胞、宿主細胞、組換え細胞、組換え宿主細胞などは本発明の方法に従って培養することができる細胞に対するすべての用語である。そのような細胞は典型的には哺乳動物から得られるかまたはそれ由来の細胞株であり、適切な栄養および/または成長因子を含む培地中の単層培養または浮遊培養にすると増殖および生存することができる。特定の細胞培養の成長および維持に必要な成長因子および栄養は、例えば、Barnes and Sato、(1980、Cell、22: 649);Mammalian Cell Culture、Ed. J. P. Mather、Plenum Press、NY、1984;および米国特許No.5,721,121に記載のごとく適切な当業者により容易に実験的に決定することができる。
多くの細胞種を本発明の方法にしたがって培養することができる。細胞は、典型的には、培養液中に大量の特定タンパク質、より詳細には目的糖タンパク質を発現および分泌することができるか、または発現および分泌するために分子的に操作できる動物または哺乳類細胞である。宿主細胞により生成される糖タンパク質は宿主細胞に内因性またはホモローガスでありうる。あるいはまた、好ましくは該糖タンパク質は宿主細胞にヘテロローガス、すなわち外来性、例えば、チャイニーズハムスターオバリー(CHO)宿主細胞により生成および分泌されるヒト糖タンパク質である。また、好ましくは哺乳類糖タンパク質、すなわち、本来哺乳類生物から得られるかまたはそれ由来のものが本発明方法により得られ、好ましくは細胞により培養液中に分泌される。
本発明の方法により好都合に生成することができる哺乳類糖タンパク質の例には、限定されるものではないが、融合またはキメラタンパク質を含むサイトカイン、サイトカインレセプター、成長因子(例えば、EGF、HER-2、FGF-α、FGF-β、TGF-α、TGF-β、PDGF、IGF-1、IGF-2、NGF、NGF-β);成長因子レセプターが含まれる。他の非限定的例には成長ホルモン(例えば、ヒト成長ホルモン、ウシ成長ホルモン);インスリン(例えば、インスリンA鎖およびインスリンB鎖)、プロインスリン;エリスロポイエチン(EPO);コロニー刺激因子(例えば、G-CSF、GM-CSF、M-CSF);インターロイキン(例えばIL-1〜IL-12);血管内皮成長因子(VEGF)およびそのレセプター(VEGF-R);インターフェロン(例えばIFN-α、βまたはγ);腫瘍壊死因子(例えばTNF-αおよびTNF-β)およびそれらのレセプター、TNFR-1およびTNFR-2;トロンボポイエチン(TPO);トロンビン;脳ナトリウム利尿ペプチド(BNP);凝固因子(例えば、第VIII因子、第IX因子、フォンウィルブランド因子など);抗凝固因子;組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、例えばウロキナーゼまたはヒト尿または組織型TPA;卵胞刺激ホルモン(FSH);黄体形成ホルモン(LH);カルシトニン;CDタンパク質(例えばCD3、CD4、CD8、CD28、CD19など);CTLAタンパク質(例えばCTLA4);T細胞およびB細胞レセプタータンパク質;骨形成タンパク質(BNPs、例えば BMP-1、BMP-2、BMP-3など);神経栄養因子、例えば骨由来神経栄養因子(BDNF);ニューロトロピン、例えば3-6;レニン;リウマチ因子;RANTES;アルブミン;レラキシン;マクロファージ阻害タンパク質(例えばMIP-1、MIP-2);ウイルスタンパク質または抗原;表面膜タンパク質;イオンチャンネルタンパク質;酵素;調節タンパク質;抗体;免疫調節タンパク質、(例えば、HLA、MHC、B7ファミリー);ホーミングレセプター;輸送タンパク質;スーパーオキシド・ジスムターゼ(SOD);G-タンパク質結合レセプタータンパク質(GPCRs);神経調節タンパク質;アルツハイマー病関連タンパク質およびペプチド、(例えばA-ベータ)、および当該分野で知られた他のものが含まれる。融合タンパク質およびポリペプチド、キメラタンパク質およびポリペプチド、ならびに前記タンパク質およびポリペプチドの断片もしくは部分または突然変異体、変異体もしくは類似体も本発明の方法により生成することができる適切なタンパク質、ポリペプチド、およびペプチドに含まれる。
次の単離および/または精製のためにタンパク質を保持、発現、および生成するのに適した動物または哺乳類宿主細胞の非限定的例には、チャイニーズハムスターオバリー細胞(CHO)、例えばCHO-K1(ATCC CCL-61)、DG44(Chasin et al.、1986、Som. Cell Molec. Genet.、12: 555-556;およびKolkekar et al.、1997、Biochemistry、36: 10901-10909)、CHO-K1 Tet-On細胞株(Clontech)、CHO:ECACC 85050302と表示(CAMR、Salisbury、Wiltshire、UK)、CHOクローン13(GEIMG、Genova、IT)、CHOクローンB(GEIMG、Genova、IT)、CHO-K1/SF:ECACC 93061607と表示(CAMR、Salisbury、Wiltshire、UK)、RR-CHOK1:ECACC 92052129と表示(CAMR、Salisbury、Wiltshire、UK)、ジヒドロ葉酸還元酵素陰性CHO細胞(CHO/-DHFR、Urlaub and Chasin、1980、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、77: 4216)、およびdp 12. CHO細胞(米国特許No.5,721,121)、SV40形質転換サル腎CV1細胞(COS細胞、COS-7、ATCCCRL-1651);ヒト胚腎細胞(例えば、293細胞、または浮遊培養中での増殖についてサブクローンした293細胞、Graham et al.、1977、J. Gen.Virol、36: 59);新生仔ハムスター腎細胞(BHK、ATCC CCL-10);サル腎細胞(CV1、ATCC CCL-70);アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587;VERO、ATCC CCL-81);マウスセルトリー細胞(TM4、Mather、1980,Biol. Reprod.、23: 243-251);ヒト子宮頸癌細胞(HELA、ATCC CCL-2);イヌ腎細胞(MDCK、ATCC CCL-34);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL-75);ヒト肝癌細胞(HEP-G2、HB 8065);マウス乳癌細胞(MMT 060562、ATCC CCL-51);バッファローラット肝細胞(BRL 3A、ATCC CRL-1442);TRI細胞(Mather、1982、Annals NY Acad. Sci.、383:44-68);MCR5細胞;FS4細胞が含まれる。CHO細胞、特にCHO/-DHFR細胞が好ましい。
本発明の手法および方法の培養に適した細胞には、培養法において発現および生成するためのタンパク質をコードするコーティング配列またはその部分を保有する、導入(例えば形質転換、トランスフェクション、感染、または注入による)発現ベクター(構築物)、例えばプラスミドなどを含むことができる。そのような発現ベクターは、挿入コーディング配列の転写および翻訳のための必須要素を含む。当業者によく知られ、実施されている方法を用いて、生成タンパク質およびポリペプチドをコードする配列、ならびに適切な転写および翻訳制御エレメントを含む発現ベクターを構築することができる。これら方法には、in vitro組換えDNA技術、合成技術、およびin vivo遺伝子組み換えが含まれる。そのような技術はJ. Sambrook et al.、1989、Molecular Cloning、A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Press、Plainview、N. Y.、およびF. M. Ausubel et al.、1989、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons、New York、N. Y.に記載されている。
制御エレメントまたは調節配列は、宿主細胞タンパク質と相互作用し転写および翻訳を行うベクターの非翻訳領域、例えばエンハンサー、プロモーター、5’および3’非翻訳領域である。そのようなエレメントはその強さおよび特異性が異なりうる。用いるベクター系および宿主細胞に応じて、構成的および誘導可能なプロモーターを含むあらゆる数の適切な転写および翻訳エレメントを用いることができる。哺乳類細胞系において哺乳類遺伝子または哺乳類ウイルス由来のプロモーターが好ましい。タンパク質発現系に用いる構築物は、少なくとも1のプロモーター、エンハンサー配列(所望により、哺乳類発現系用の)、および正しい転写および遺伝子発現調節に必要または要求される他の配列(例えば、転写開始および末端配列、複製部位の起点、ポリアデニル化配列、例えばウシ成長ホルモン(BGH)ポリA配列)を含むように設計される。
当業者が理解するであろうように、真核性(例えば哺乳類)発現系中で生成されるタンパク質の適切な転写、発現、および単離のための適切なベクター、例えばプラスミド、成分の選択は当業者に知られ、ルチーン的に決定され、実施される。本発明の方法に従って培養した細胞によるタンパク質の発現は、プロモーター、例えばウイルスプロモーター、例えばサイトメガロウイルス(CMV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)、チミジンキナーゼ(TK)、またはα-アクチンプロモーターの制御下におくことができる。さらに、調節されたプロモーターは特定化合物または分子による誘導性をもたらし、例えばマウス乳癌ウイルス(MMTV)のグルココルチコイド応答エレメント(GRE)はグルココルチコイドにより誘導される(V. Chandler et al.、1983、Cell、33: 489-499)。また、必要または所望により組織特異的プロモーターまたは調節エレメントを用いることができる(G. Swift et al.、1984、Cell、38: 639-646)。
発現構築物を当業者に知られた種々の遺伝子伝達法、例えば常套的遺伝子トランスフェクション法、例えばリン酸カルシウム共沈殿、リポソームトランスフェクション、マイクロインジェクション、エレクトロポーレーション、および感染またはウイルス形質導入により細胞に導入することができる。該方法の選択は当業者の能力内である。細胞中で発現するためのDNA配列を保有する1またはそれ以上の構築物を細胞にトランスフェクションし、次いで発現生成物を細胞中で生成し、および/またはそれから得ることは、当業者に明らかであろう。
特定の局面において、適切な制御および調節配列を含む哺乳類発現系が本発明のタンパク質発現哺乳類細胞に用いるのに好ましい。哺乳類発現ベクターに用いる通常用いられる真核性制御配列には、哺乳類細胞と適合性のプロモーターおよび制御配列、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(CDM8ベクター)およびトリ肉腫ウイルス(ASV)、(πLN)が含まれる。他の普通に用いられるプロモーターには、シミアンウイルス40(SV40)由来の初期および後期プロモーター(Fiers et al.、1973、Nature、273: 113)、または他のウイルスプロモーター、例えばポリオーマ、アデノウイルス2、およびウシパピローマウイルス由来のものが含まれる。誘導性プロモーター、例えばhMTII(Karin et al.、1982、Nature、299: 797-802)を用いることができる。
真核性宿主細胞に適した発現ベクターの例には、限定されるものではないが、哺乳類宿主細胞のベクター(例えば、BPV-1、pHyg、pRSV、pSV2、pTK2(Maniatis);plRES(Clontech);pRc/CMV2、pRc/RSV、pSFV1(Life Technologies);pVPakcベクター、pCMVベクター、pSG5ベクター(Stratagene)、レトロウイルスベクター(例えば、pFBベクター(Stratagene))、pcDNA-3(Invitrogen)、アデノウイルスベクター;アデノ関連ウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、酵母ベクター(例えばpESCベクター(Stratagene))、または前記のあらゆる修飾形が含まれる。ベクターは、遺伝子発現を最適化するためのプロモーター領域配列の上流または下流のエンハンサー配列も含むことができる。
選択可能なマーカーを組換えベクター(例えばプラスミド)に用いてベクターを保有する(好ましくは安定に統合された)細胞に対する耐性を与え、適切な選択培地中での選択を可能にすることができる。限定されるものではないが、それぞれtk-、hgprt-、またはart-細胞(APRT)に用いることができるヘルペスシンプレックスウイルスチミジンキナーゼ(HSV TK)、(Wigler et al.、1977、Cell、11: 223)、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT)、(Szybalska and Szybalski、1992、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、48: 202)、およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Lowy et al.、1980、Cell、22: 817)遺伝子を含む多くの選択系を用いることができる。
抗代謝物耐性を以下のマーカー遺伝子の非限定的例に対する選択の基礎として用いることもできる:メトトレキセートに対する耐性を付与するdhfr(Wigler et al.、1980、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、77: 357;およびO'Hare et al.、1981、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、78: 1527);ミコフェノール酸に対する耐性を付与するgpt(Mulligan and Berg、1981,Proc. Natl. Acad. Sci. USA、78: 2072);アミノグリコシドG418に対する耐性を付与するneo(Clinical Pharmacy、12: 488-505;Wu and Wu、1991、Biotherapy、3: 87-95;Tolstoshev、1993、Ann. Rev. Pharmacol Toxicol.、32: 573-596;Mulligan、1993、Science、260: 926-932;Anderson、1993、Ann. Rev. Biochem.、62: 191-21;May、1993、TIB TECH、11(5): 155-215;およびヒグロマイシンに対する耐性を付与するhygro(Santerre et al.、1984、Gene、30:147)。組換えDNA技術の当該分野で普通に知られた方法をルチーン的に適用して所望の組換え細胞クローンを選択することができ、そのような方法は例えばAusubel et al.(eds.)、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons、NY(1993); Kriegler、1990、Gene Transfer and Expression、A Laboratory Manual、Stockton Press、NY;第12および13章中、Dracopoli et al.(eds)、Current Protocols in Human Genetics、John Wiley & Sons、NY(1994); Colberre-Garapin et al.、1981. J. Mol. Biol.、150:1に記載されている(この内容は本明細書の一部を構成する)。
さらに、発現タンパク質分子の発現レベルはベクターの増幅により増大させることができる(Bebbington and Hentschel、"The use of vector based on gene amplification for the expression of cloned genes in mammalian cells in DNA cloning"、Vol.3、Academic Press、New York、1987参照)。タンパク質を発現するベクター系中のマーカーが増幅可能である場合、宿主細胞培養中に存在する阻害剤(インヒビター)レベルの増加はマーカー遺伝子のコピー数を増加させるであろう。増幅した領域はタンパク質コーディング遺伝子と関連するので該タンパク質の生成が同時に増加するであろう(Crouse et al.、1983、Mol. Cell. BioL、3:257)。
選択可能なマーカーとしてグルタミンシンターゼ(GS)またはジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)をコードする核酸を保持するベクターは、それぞれ薬物のメチオニンスルホキシミンまたはメトトレキセート存在下で増幅することができる。グルタミンシンターゼに基づくベクターの利点は、グルタミンシンターゼ陰性である細胞株(例えばネズミミエローマ細胞株、NSO)の利用可能性である。グルタミンシンターゼ発現系は、内因性遺伝子の機能を抑制するさらなる阻害剤を与えることによりグルタミンシンターゼ発現細胞(例えばCHO細胞)中でも機能することができる。
選択可能なマーカーとしてDHFRを発現するベクターには限定されるものではないがpSV2-dhfrプラスミドが含まれる(Subramani et al.、Mol. Cell. Biol. 1:854(1981)。選択可能なマーカーとしてグルタミンシンターゼを発現するベクターには、限定されるものではないがStephens and Cockett、1989、Nucl. Acids. Res.、17:7110に記載のpEE6発現ベクターが含まれる。グルタミンシンターゼ発現系およびその構成要素はPCT公開公報:W087/04462;W086/05807;W089/01036;W089/10404;およびW091/06657に詳述されている(これらの内容は本明細書の一部を構成する)。さらに、本発明にしたがって用いることができるグルタミンシンターゼ発現ベクターは、例えば、Lonza Biologics, Inc. (Portsmouth、NH)を含む供給業者から市販品を入手できる。
特定の態様において、可溶性CTLA4分子または可溶性CTLA4突然変異体分子をコードする核酸配列を真核性宿主中で外来配列を発現するよう設計されたベクターに挿入することができる。該ベクターの調節エレメントは特定の真核性宿主に従って変更することができる。真核性宿主細胞中で可溶性CTLA4または可溶性CTLA4突然変異体を発現するベクターにはタンパク質発現を最適化するためのエンハンサー配列を含むことができる。
細胞培養の種類
限定されるものではないが理解のために、当業者は、タンパク質生成のための細胞培養および培養行程には3つの一般的種類、すなわち連続培養、バッチ培養、およびフェドバッチ培養を含むことができることを理解するであろう。連続培養において、例えば、新鮮培養液の補充(すなわちフィーディング培地)が培養期間中細胞に提供されるが、古い培養液は毎日除去され、生成物が例えば毎日または連続的に回収される。連続培養では、フィーディング培地を毎日加えることができ、また連続的に、すなわち点滴または注入で加えることができる。連続培養では、細胞が生存したままであり、環境および培養条件が維持されるかぎり、細胞は所望の長さで培養中にとどまることができる。
バッチ培養では、細胞は最初培地中で培養され、この培地は除去も、交換も、添加もされない。すなわち培養行程中または終了前に細胞に新しい培地は「供給(フェド、fed)」されない。所望の生成物は培養行程の終了時に回収される。
フェドバッチ培養では、該行程中に新鮮培養液を1日に1回またはそれ以上(または連続的に)添加することにより培養行程時間を増加させる。すなわち、培養期間中細胞に新しい培地(「フィーディング培地」が供給される。フェドバッチ培養は種々のフィーディング(供給)管理および回数、例えば毎日(連日)、1日おき、2日に1回など、1日に1回以上、または1日に1回未満などを含むことができる。さらにフェドバッチ培養にフィーディング培地を連続的にフィーディングすることができる。
次に、所望の生成物を培養/生成行程の終了時に回収する。本発明は、好ましくは、培養期間中の2またはそれ以上の温度変化は増大した品質のタンパク質生成をもたらし、温度変化がないかまたは温度変化が1回だけの場合に生じるものよりタンパク質生成期を延長することができるフェドバッチ細胞培養を含む。本発明は、好ましくはポリアニオン化合物を接種後のある時に加えるフェドバッチ細胞培養を含む。
本発明の培養方法においてフィーディング培地をD-ガラクトースを含むように添加するか、D-ガラクトースをフィーディング培地以外のある方法により培養に供給することができることも予測される。ガラクトース含有フィーディング培地のフィーディング(供給)、または他の形の供給は、培養行程中およびその終了時まで毎日(または連続的に)生じることが好ましいが他のフィーディング計画を適用することができる。D-ガラクトースを含むそのような連続フィーディング管理では、培養中の適切なガラクトース量を達成および維持するように時限、調節および/またはプログラムされた方法で、培養にフィーディング培地が例えば培養に連続的に供給される「点滴」または注入、または他の自動添加として供給される。培養行程の開始から細胞を回収する日まで培養行程中毎日ガラクトース含有フィーディング培地を1日1回ボーラスフィーディングすることを含むフィーディング管理が最も好ましい。ガラクトースをフィーディングすることを含む本発明の方法によれば、フィーディング培地中のD-ガラクトース濃度は、培養プロセス中培養またはリアクターのD-ガラクトースレベルの持続または維持をもたらす量でフィーディングされることが好ましい。フィーディング培地に用いるのに適したD-ガラクトースの量は、約1g/L〜約50g/L、好ましくは約3g/L〜約25g/L、より好ましくは約3g/L〜約20g/Lを含む。特定の非限定的例としてフィーディング培地中の12.5g/LのD-ガラクトースが本発明の培養方法、特に例えば50Lリアクター規模に用いるのに適している。さらに、細胞を培養するのに用いるフィーディング培地中の残存ガラクトース濃度(例えばリアクターまたは培養容器中の)は培養行程を通して約0.1-10g/L、好ましくは約0.1-5g/L、より好ましくは 約0.2-5g/L、より好ましくは 約0.2-2.5g/L、さらにより好ましくは約0.5-2g/L、最も好ましくは約0.5-1.0g/Lの量に維持され、持続することが好ましい。(同一出願人による米国特許出願No.60/436,050(2002年12月23日出願)および米国特許出願No.10/ (同時に出願)参照。(これらの内容は本明細書の一部を構成する。))。
2またはそれ以上の温度変化を含む本発明の局面において、本発明の細胞培養法を含む2またはそれ以上の温度変化は該プロセスまたは生成行程終了時まで培養中のより多くの生細胞の生存をもたらすことができよう。生存する細胞数がより多いと、例えば本明細書で例示したようなタンパク質生成の非増殖関連プロセスで生成されるタンパク質生成量もより大きくなる。すなわち、そのような場合には、所望の生成物のより大量の蓄積が該プロセスの終了時に得られる。本発明によれば、培養中の個々の細胞によりタンパク質または糖タンパク質生成速度(すなわち、細胞特異的生産性)は、本発明の温度変化培養法により影響を受けないかまたは増加しない。(例えば下記および実施例4参照)。
本発明によれば、動物または哺乳類細胞培養に常套的に用いられる培養容器および/または培養装置を用いてタンパク質の大または小規模生成のための条件下で細胞培養を実施し、糖タンパク質を細胞により生成することができる。当業者が認識するであろうように、典型的には、組織培養皿、T-フラスコおよびスピナーフラスコを実験室規模で使用する。より大きな規模(例えば、500L、5000Lなど、例えば、同一出願人の米国特許出願No.60/436,050(2002年12月23日出願)、および米国特許出願No.10/ (本願と同時に出願)に記載するように(これらの内容は本明細書の一部を構成する))で培養するには、限定されるものではないが流動化ベッドバイオリアクター、中空糸バイオリアクター、ローラーボトル培養、または撹拌タンクバイオリアクターシステムを含む手順を用いることができる。ローラーボトルまたは撹拌タンクバイオリアクターシステムとともにマイクロキャリアを用いても用いなくてもよい。該システムはバッチ、連続、またはフェドバッチ方法で用いることができる。さらに、培養装置またはシステムは、フィルター、比重、遠心力などを用いる細胞分離器を装備してもしていなくてもよい。
細胞培養の期と関連パラメータ
用語「接種(innoculation)」は細胞を出発培地に加えて培養を開始することを表す。
培養の増殖期は、あらゆる時点の生細胞密度がいかなる以前の時点より高い期である。
培養の定常期は、生細胞密度があらゆる長さの期間にわたりほぼ一定(すなわち測定誤差内)である期である。
培養の死滅期は、増殖期後または増殖期および定常期後にくる、あらゆる時点の生細胞密度が該期の先のあらゆる時点より低い期である。
例えばポリアニオン化合物が延長された増殖期をもたらす場合のような増殖関連培養法において、生成期は延長された成長期中に始まってよい。
非増殖関連培養法において、細胞培養の生成期は定常期であってよい。
好ましくは、培養液を生成期中に添加(「フェド」)し、特に延長された生成期における連続タンパク質生成を支持し、十分量の高品質糖タンパク質生成物(タンパク質回収時の高レベルの最終シアル酸含有量により例示および/または決定される)を達成する。フィーディングは、毎日かまたは細胞生存性およびタンパク質生成を支持する他の計画にしたがって行うことができる。
増殖および標準(初期)生成期の温度より連続的に低く変化する温度で延長された生成期中に、細胞はフィーディングを受け、生存し続ける。これは、初期培養温度でまたは温度が初期培養温度から1回だけ変化するときに生じるより延長されるかまたはより長い全期間、所望のタンパク質生成物の生成をもたらす。本発明の培養法は培養期間の終了時までより多くの生細胞の生存をもたらすことができよう。したがって、ある態様において、生存する細胞がより多ければ、所望の生成物を生成する細胞もより多い。同様に、これは、個々の細胞によるタンパク質生成速度、すなわち細胞特異的生産性が同じままで培養プロセス終了時に生成物のより大きな蓄積量をもたらす(例えば実施例4参照)。当該分野で知られているように細胞特異的生産性または細胞特異的速度(cell specific rate)は、典型的には細胞当たりまたは一定の細胞量または容量当たりの生成される生成物の特異的発現速度を表す。細胞特異的生産性は、生成されたgタンパク質/細胞/日で測定し、下記式を含む積分法に従って測定することができる。
dP/dt = qp X、または
P = qp∫0 t Xdt
[式中、qpは細胞特異的生産性定数であり、Xは細胞数または細胞容量、または細胞量等価物であり、dP/dtはタンパク質生成速度である。]
すなわち、qpは生成物濃度対生細胞の時間積分のプロットから得ることができる(∫0 t Xdt「生細胞日数」)。この式によれば、生成された糖タンパク質生成物の量を生細胞日数に対してプロットすると、傾きは細胞特異的速度に等しい。生細胞は、種々の方法、例えばバイオマス、O2取り込み速度、ラクターゼデヒドロゲナーゼ(LDH)、血中血球容積、または濁度により測定することができる(例えば、米国特許No.5,705,364、T. Etcheverry et al.)。
本発明の培養方法による可溶性CTLA4分子および可溶性CTLA4突然変異体分子の生成
本発明に含まれる他の態様において、本発明の細胞培養法(2またはそれ以上の温度変化を含むものおよびポリアニオン化合物の遅延添加を含むもの両方)を用いて下記のごとく可溶性CTLA4分子または可溶性CTLA4突然変異体分子を生成する。可溶性CTLA4分子は好ましくはCTLA4融合タンパク質、好ましくはCTLA4Igである。図3に示すアミノ酸-1〜357または+1〜357を含むCTLA4Igがより好ましい。図3に示すアミノ酸-1〜357または+1〜357からなるCTLA4Igが最も好ましい。可溶性CTLA4突然変異体分子は、好ましくは図4に示すアミノ酸-1〜357または+1〜357を含む、最も好ましくは図4に示すアミノ酸-1〜357または+1〜357からなるL104EA29YIgである。タンパク質生成物のための延長された生成期を含む2および3工程温度変化細胞培養法は、培養中の宿主細胞により高品質および大量の可溶性CTLA4分子および可溶性CTLA4突然変異体分子を生じるのに特に適している。
好ましい態様において、CTLA4Igは組換え操作した宿主細胞により生成される。CTLA4Ig融合タンパク質はCTLA4IgをコードするDNA配列を含むベクターでトランスフェクトしたCHO細胞により組換え的に生成することができる。(米国特許No.5,844,095、P. S. Linsley et al.、および本明細書の実施例2参照)。CTLA4Ig融合タンパク質は大量に生成され、本発明の多工程温度変化法に従って培養すると適切にシアリル化される。本発明は、高レベルの回収できるタンパク質生成物、例えばシアリル化されたCTLA4Igタンパク質生成物の生成をもたらす。別の好ましい態様において、図4に示すアミノ酸-1〜357または+1〜357を含む可溶性CTLA4突然変異体分子L104EA29YIgは本発明の細胞培養方法により生成される。
CTLA4に対するリガンドはB7分子である。本明細書で用いている「リガンド」は、別の分子を特異的に認識し、それと結合する分子を表す。分子とそのリガンドの相互作用は本発明の培養法の生成物により調節することができる。例えば、CTLA4とそのリガンドB7との相互作用は、CTLA4Ig分子の投与によりブロックすることができる。他の例として、腫瘍壊死因子(TNF)とそのリガンドであるTNFレセプター(TNFR)との相互作用は、エタネルセプトまたは他のTNF/TNFRブロッキング分子の投与によりブロックすることができる。
野生型CTLA4または「非突然変異CTLA4」は、図5に示す天然の完全長CTLA4のアミノ酸配列(および米国特許No.5,434,131、5,844,095、および5,851,795にも記載されている(この内容は本明細書の一部を構成する))またはB7分子を認識し結合するかもしくはB7分子と干渉しCD28および/またはCTLA4(例えば内在性CD28および/またはCTLA4)をブロックするそのあらゆる部分を有する。野生型CTLA4は、例えば図5に示す+1位のメチオニンで始まり、+124位のアスパラギン酸で終わる野生型CTLA4の細胞外ドメイン、または-1位のアラニンで始まり、+124位のアスパラギン酸で終わる野生型CTLA4の細胞外ドメインを含む特定部分を含む。
天然の野生型CTLA4は、N末端細胞外ドメイン、貫膜ドメイン、およびC末端細胞質ドメインを有する細胞表面タンパク質である。該細胞外ドメインは標的分子、例えばB7分子と結合する。細胞において天然の野生型CTLA4タンパク質は、アミノ末端またはN末端にシグナルペプチドを含む未成熟ポリペプチドとして翻訳される。未成熟ポリペプチドは、該シグナルペプチドの開裂または除去を含む翻訳後プロセシングを受け、未成熟形のN末端と異なる新たに生じたN末端を有するCTLA4開裂生成物を生じる。当業者は、CTLA4開裂生成物の新たに生じたN末端から1またはそれ以上のアミノ酸を除去するさらなる翻訳後プロセシングが生じるかもしれないことを理解するであろう。成熟CTLA4タンパク質は+1位のメチオニンまたは-1位のアラニンで始まってよい。成熟型のCTLA4分子は細胞外ドメインまたはB7と結合するそのあらゆる部分を含む。
本明細書で用いているCTLA4突然変異体分子は、図5に示す野生型CTLA4を含む分子、または野生型CTLA4配列中、好ましくは野生型CTLA4の細胞外ドメイン中に突然変異または複数の突然変異を有し、B7と結合するそのあらゆる部分もしくは誘導体を含む。CTLA4突然変異体分子は、野生型CTLA4分子の配列と同じではないが同様の、B7と結合する配列を有する。突然変異は、保存的(例えばイソロイシンをロイシンで置換)または非保存的(例えばグリシンをトリプトファンで置換)構造または化学特性、アミノ酸欠失、付加、フレーム変化、またはトランケーションを有するアミノ酸で置換された1またはそれ以上のアミノ酸残基を含むことができる。
CTLA4突然変異体分子は、その中にまたはそれと結合した非CTLA4分子を含むことができる、すなわちCTLA4突然変異体融合タンパク質。該突然変異体分子は可溶性(すなわち循環(circulating))であり得るか、または細胞表面と結合することができる(膜結合)。CTLA4突然変異体分子はL104EA29YIg、および米国特許出願No.09/865,321、60/214,065、および60/287,576;WO 01/92337 A2;米国特許No.6,090,914、5,844,095、および5,773,253;ならびにR. J. Peach et al.、1994、J Exp Med、180: 2049-2058に記載のものを含む。CTLA4突然変異体分子は合成または組換えにより生成することができる。
CTLA4Igは、免疫グロブリン(Ig)分子またはその部分と結合した野生型CTLA4の細胞外ドメインまたはB7と結合するその部分を含む可溶性融合タンパク質である。CTLA4の細胞外ドメインまたはその部分は、免疫グロブリン分子のすべてまたは部分、好ましくは免疫グロブリン定常領域のすべてまたは部分、例えばIgCγ1(IgCgammal)、IgCγ2(IgCgamma2)、IgCγ3(IgCgamma3)、IgCγ4(IgCgamma4)、IgCμ(IgCmu)、IgCα1(IgCalpha1)、IgCα2(IgCalpha2)、IgCδ(IgCdelta)またはIgCε(IgCepsilon)のすべてまたは部分Ig部分と結合し、該融合分子を可溶性にする。該Ig部分は、前記定常領域または他の定常領域のヒンジ、CH2およびCH3ドメイン、またはCH1、ヒンジ、CH2およびCH3ドメインを含むことができる。好ましくはIg部分はヒトまたはサルであり、ヒンジ、CH2およびCH3ドメインを含む。最も好ましくは、該Ig部分は、ヒトIgCγ1のヒンジ、CH2およびCH3ドメインを含むか、またはヒトIgCγ1のヒンジ、CH2およびCH3ドメインからなる。CTLA4IgのIg部分において、Ig定常領域またはその部分を突然変異させ、そのエフェクター機能の低下をもたらすことができる(例えば、米国特許No.5,637,481、5,844,095、および5,434,131参照)。本明細書で用いている用語Ig部分、Ig定常領域、IgC(定常)ドメイン、IgCγ1(IgCgammal)、IgCγ2(IgCgamma2)、IgCγ3(IgCgamma3)、IgCγ4(IgCgamma4)、IgCμ(IgCmu)、IgCα1(IgCalpha1)、IgCα2(IgCalpha2)、IgCδ(IgCdelta)またはIgCε(IgCepsilon)は、天然配列および例えばエフェクター機能を低下させる定常領域に突然変異を有する配列のような突然変異配列の両方を含む。
CTLA4に関連する特定の態様は、図3に示す+1のメチオニンで始まり、+124位のアスパラギン酸で終わる、または-1位のアラニンで始まり、+124位のアスパラギン酸までの野生型CTLA4の細胞外ドメイン;+125位の連結アミノ酸残基グルタミン;および+126位のグルタミン酸〜+357位のリジンを含む免疫グロブリン部分を含む。このCTLA4Igを含むDNAはブタペスト条約の規定のもと1991年5月31日にAmerican Type Culture Collection(ATCC)、10801 University Blvd.、Manassas、VA20110-2209に寄託され(ATCC受託番号ATCC 68629);P. Linsley et al.,1994、Immunity 1: 793-80。CTLA4Igを発現するCHO細胞株は、1991年5月31日にATCCに寄託された(識別番号CRL-10762)。本明細書に記載の方法に従って生成された可溶性CTLA4Ig分子は、シグナル(リーダー)ペプチド配列を含んでいても含んでいなくてもよい。図3および4は、シグナル(リーダー)ペプチド配列の説明図を含む。典型的には、該分子はシグナルペプチド配列を含まない。
L104EA29YIgは、Ig尾部に結合したアミノ酸変化A29Y(29位のアラニンがチロシンアミノ酸残基に置換)およびL104E(+104位のロイシンがグルタミン酸アミノ酸残基に置換)を有する野生型CTLA4の細胞外ドメインを含む可溶性CTLA4突然変異体分子である融合タンパク質である。図4はL104EA29YIgを示す。L104EA29YIgのアミノ酸配列は、図4に示す-1アミノ酸位アラニン〜+357アミノ酸位のリジンを含む。あるいはまた、L104EA29YIgのアミノ酸配列は、図4に示す+1アミノ酸位のメチオニン〜+357アミノ酸位のリジンを含む。L104EA29YIgは、+125位の連結アミノ酸残基グルタミンおよび+126位のグルタミン酸〜+357位のリジンを含むIg部分を含む。L104EA29YIgをコードするDNAは、ブダペスト条約の規定のもと2000年6月20日にAmerican Type Culture Collection(ATCC)に寄託された(ATCC受託番号PTA-2104)。104EA29Y-Igは、同時係属中の米国特許出願No.09/579,927、60/287,576、および60/214,065およびWO/01/923337 A2に記載されている(これらの内容は本明細書の一部を構成する)。本発明の培養方法により生成された可溶性L104EA29YIg分子はシグナル(リーダー)ペプチド配列を含んでいても含んでいなくてもよい。典型的には、本発明に従って生成される分子はシグナルペプチド配列を含む。
本明細書で用いている用語可溶性は、細胞と結合または付着しない、すなわち循環する(circulating)あらゆる分子またはその断片を表す。例えば、CTLA4、B7、またはCD28は、それぞれCTLA4、B7、またはCD28の細胞外ドメインにIg部分が付着することにより可溶性になることができる。あるいはまた、CTLA4のような分子は、その貫膜ドメインを除去することにより可溶性にすることができる。典型的には、本発明に従って生成された可溶性分子はシグナル(またはリーダー)配列を含まない。
可溶性CTLA4分子とは、野生型CTLA4、または限定されるものではないが、可溶性CTLA4融合タンパク質;可溶性CTLA4融合タンパク質、例えばCTLA4Ig融合タンパク質(例えばATCC 68629)(ここで、CTLA4の細胞外ドメインは、Ig分子のすべてまたは部分、好ましくはIg定常領域のすべてまたは部分、例えばIgCγ1(IgCgammal)、IgCγ2(IgCgamma2)、IgCγ3(IgCgamma3)、IgCγ4(IgCgamma4)、IgCμ(IgCmu)、IgCα1(IgCalpha1)、IgCα2(IgCalpha2)、IgCδ(IgCdelta)またはIgCε(IgCepsilon)のすべてまたは部分であるIg部分と融合し、該融合分子を可溶性にする。);細胞外ドメインが生物学的に活性なまたは化学的に活性なタンパク質、例えば米国特許No.5,844,095(この内容は本明細書の一部を構成する)に記載のパピローマウイルスE7遺伝子産物(CTLA4-E7)、メラノーマ関連抗原p97(CTLA4-p97)またはHIV envタンパク質(CTLA4-env gp120)の部分と融合または結合している可溶性CTLA4融合タンパク質;ハイブリッド(キメラ)融合タンパク質、例えば米国特許No.5,434,131(この内容は本明細書の一部を構成する)に記載のCD28/CTLA4Ig;貫膜ドメインを除去してタンパク質を可溶性にしたCTLA4分子(例えば M. K. Oaks et al.、2000、Cellular Immunology、201: 144-153参照(この内容は本明細書の一部を構成する));可溶性CTLA4突然変異体分子L104EA29YIgを含むB7と結合するあらゆる部分または誘導体を含む、非細胞表面結合(すなわち循環)分子をいう。
可溶性CTLA4分子は可溶性CTLA4突然変異体分子でもあり得る。本発明に従って生成される可溶性CTLA4分子はシグナル(リーダー)ペプチド配列を含んでいても含んでいなくてもよい。該シグナルペプチドは、オンコスタチンM(Malik et al.、1989、Molec. Cell. Biol.、9: 2847-2853)またはCD5(N. H. Jones et al.、1986、Nature、323: 346-349)由来のシグナルペプチド、またはあらゆる細胞外タンパク質由来のシグナルペプチドを含む分子の分泌を可能にするであろうあらゆる配列であり得る。本発明の培養法により生成される可溶性CTLA4分子は、CTLA4の細胞外ドメインのN末端と結合したオンコスタチンMシグナルペプチドを含む。典型的には、本発明において該分子はシグナルペプチド配列を含まない。
本明細書で用いているCTLA4融合タンパク質は、野生型CTLA4の細胞外ドメイン、またはB7と結合するCTLA4分子を可溶性にする非CTLA4部分、例えばIg部分と融合したその部分を含む分子を表す。例えば、CTLA4融合タンパク質は、Ig定常領域のすべてまたは部分と融合したCTLA4の細胞外ドメインを含むことができる。CTLA4と融合することがあるIg定常ドメイン(またはその部分)の例には、限定されるものではないが上記のものすべてが含まれる。CTLA4融合タンパク質はCTLA4突然変異体分子でもありうる。
本明細書で用いている「非CTLA4部分」は、CD80および/またはCD86と結合せず、CTLA4とそのリガンドとの結合に干渉しない分子またはその部分を表す。例には、限定されるものではないが、Ig分子のすべてまたは部分、生物学的に活性なまたは化学的に活性なタンパク質、例えばパピローマウイルスE7遺伝子産物(CTLA4-E7)、メラノーマ関連抗原p97(CTLA4-p97)またはHIV envタンパク質(CTLA4-env gp120)の部分が含まれる(米国特許No.5,844,095に記載のもの(この内容は本明細書の一部を構成する))。Ig部分の例には、免疫グロブリン定常ドメイン、例えばIgCγ1(IgCgamma1)、IgCγ2(IgCgamma2)、IgCγ3(IgCgamma3)、IgCγ4(IgCgamma4)、IgCμ(IgCmu)、IgCα1(IgCalpha1)、IgCα2(IgCalpha2)、IgCδ(IgCdelta)またはIgCε(IgCepsilon)のすべてまたは部分が含まれる。Ig部分には、前記定常領域または他の定常領域のヒンジ、CH2およびCH3ドメイン、またはCH1、ヒンジ、CH2およびCH3ドメインが含まれうる。好ましくは、Ig部分はヒトまたはサルであり、ヒンジ、CH2およびCH3ドメインを含む。最も好ましくは、Ig部分はヒトIgCγ1のヒンジ、CH2およびCH3ドメインを含むか、またはヒトIgCγ1のヒンジ、CH2およびCH3ドメインである。Ig部分において、Ig定常領域またはその部分を突然変異させ、そのエフェクター機能を低下させることができる(例えば米国特許No.5,637,481、5,844,095、および5,434,131参照)。
CTLA4の細胞外ドメインとは、B7を認識し、それと結合する野生型CTLA4のあらゆる部分をいう。例えば、CTLA4の細胞外ドメインは、+1位のメチオニン〜+124位のアスパラギン酸を含む(図5)。例えば、CTLA4の細胞外ドメインは、-1位のアラニン〜+124位のアスパラギン酸を含む(図5)。
本明細書で用いている用語突然変異は、野生型分子のヌクレオチドまたはアミノ酸配列の変化、例えば野生型CTLA4細胞外ドメインのDNAおよび/またはアミノ酸配列の変化を表す。DNAの突然変異は、コードされたアミノ酸配列の変化をもたらすコドンを変化させることがある。DNA変化には、置換、欠失、挿入、選択的スプライシング、またはトランケーションが含まれよう。アミノ酸変化には、置換、欠失、挿入、付加、トランケーション、またはタンパク質のプロセシングまたは開裂エラーが含まれよう。あるいはまた、ヌクレオチド配列中の突然変異は、当該分野でよく理解されているようにアミノ酸配列のサイレント突然変異を生じることがある。また理解されているように、ある種のヌクレオチドコドンは同じアミノ酸をコードする。例には、アミノ酸、アルギニン(R)をコードするヌクレオチドコドンCGU、CGG、CGC、およびCGA、またはアミノ酸、アスパラギン酸(D)をコードするコドンGAUおよびGACが含まれる。
すなわち、タンパク質は、その特異的ヌクレオチド配列が異なるが、同じ配列を有するタンパク質分子をコードする1またはそれ以上の核酸分子によりコードされ得る。突然変異体分子は、1またはそれ以上の突然変異を有してよい。指針として、アミノ酸をコードする配列は以下の通りである。
本明細書で用いている断片(フラグメント)または部分は分子のあらゆる部分または断片である。CTLA4またはCD28について、断片または部分は、好ましくは、B7を認識し、それと結合するか、またはB7と干渉してそのCD28および/またはCTLA4との結合をブロックするCTLA4もしくはCD28の細胞外ドメインまたはその部分もしくは断片である。また、本明細書で用いている「対応する(corresponding)」は配列の同一性を共有することを意味する。
本明細書で用いているB7は、限定されるものではないが、CTLA4および/またはCD28を認識し、それと結合するB7-1(CD80)(Freeman et al.、1989,J Immunol.、143: 2714-2722(この内容は本明細書の一部を構成する))、B7-2(CD86)(Freeman et al.、1993、Science、262: 909-911(この内容は本明細書の一部を構成する);Azuma et al.、1993、Nature、366: 76-79(この内容は本明細書の一部を構成する))を含むB7ファミリーの分子のあらゆるメンバーを表す。CD28は、米国特許No.5,580,756および5,521,288(これらの内容は本明細書の一部を構成する)に記載のようにB7を認識し、それと結合する分子を表す。本明細書で用いているB7陽性細胞には細胞表面に発現した1種類またはそれ以上のB7分子を有するあらゆる細胞が含まれる。
本明細書で用いている「誘導体」は、その親分子の活性および配列類似性を共有する分子である。例えばCTLA4の誘導体には、B7を認識し、それと結合する野生型CTLA4の細胞外ドメインと少なくとも70%同様なアミノ酸配列を有する可溶性CTLA4分子、例えばCTLA4Igまたは可溶性CTLA4突然変異体分子L104EA29YIgが含まれる。誘導体は、アミノ酸配列および/またはアミノ酸の化学的質のあらゆる変化、例えばアミノ酸類似体を意味する。
本明細書で用いている免疫応答を調節するとは、免疫応答を活性化、刺激、上方調節、阻害、ブロック、低下、減弱、下方調節、または修飾することである。種々の疾患、例えば自己免疫疾患は、免疫応答を調節することにより、例えば機能的CTLA4および/またはCD28陽性細胞とB7陽性細胞との相互作用を調節することにより治療することができよう。例えば、免疫応答の調節方法には、B7陽性細胞と、内因性CTLA4および/またはCD28分子とB7分子との反応に干渉する可溶性CTLA4分子、例えば本発明に従って生成され、可溶性CTLA4/B7複合体を形成するもの、を接触させることが含まれる。本明細書に記載のレセプター、シグナル、または分子を「ブロックする」または「阻害する」とは、当該分野で認識された試験により検出されるレセプター、シグナル、または分子の活性化と干渉することを意味する。ブロックまたは阻害は一部または完全であり得る。
本明細書で用いている「B7との相互作用をブロックする」とは、B7のそのリガンド、例えばCD28および/またはCTLA4との結合に干渉し、T細胞とB7陽性細胞の相互作用を妨害することをいう。B7との相互作用をブロックする物質の例には、限定されるものではないが、CTLA4、CD28、またはB7分子(例えば、B7-1、B7-2);該分子の可溶性形(またはその部分)、例えば可溶性CTLA4;CTLA4/CD28/B7介在相互作用を通して細胞シグナルと干渉するように設計されたペプチド断片または他の小分子のあらゆるものを認識し、それと結合する抗体(またはその部分)のような分子が含まれる。好ましい態様において、ブロック用物質は、可溶性CTLA4分子、例えばCTLA4Ig(ATCC 68629)またはL104EA29YIg(ATCC PTA-2104);可溶性CD28分子、例えばCD28Ig(ATCC 68628);可溶性B7分子、例えばB7-Ig(ATCC 68627);抗B7モノクローナル抗体(例えば、ATCC HB-253、ATCC CRL-2223、ATCC CRL-2226、ATCC HB-301、ATCCHB-11341、および米国特許No.6,113,898またはYokochi et al.、1982、J. Immunol.、128 (2): 823-827)に記載のモノクローナル抗体;抗CTLA4モノクローナル抗体(例えば、ATCC HB-304、および参考文献82-83に記載のモノクローナル抗体);および/または抗CD28モノクローナル抗体(例えば、Hansen et al.,1980、Immunogenetics、10: 247-260、またはMartin et al.、1984、J. Clin. Immunol.、4(1):18-22に記載のATCC HB 11944およびMAb 9.3)である。B7との相互作用のブロックは、当該分野で認識されている試験、例えば免疫疾患(例えばリウマチ性疾患)関連症状の減少を測定することによるか、T細胞/B7細胞相互作用の減少を測定することによるか、またはB7とCTLA4/CD28との相互作用の減少を測定することにより検出することができる。ブロックは一部または完全であり得る。
本明細書で用いている分子の有効量とは、分子とそのリガンドとの相互作用をブロックする量をいう。例えばB7とCTLA4および/またはCD28の相互作用をブロックする分子の有効量は、B7陽性細胞上のB7分子と結合すると、B7分子が内因性リガンド、例えばCTLA4およびCD28と結合するのを阻害する分子の量である。あるいはまた、B7とCTLA4および/またはCD28の相互作用をブロックする分子の有効量は、T細胞上のCTLA4および/またはCD28分子と結合するとB7分子が内因性リガンド、例えばCTLA4およびCD28と結合するのを阻害する分子の量である。阻害またはブロックは一部または完全であり得る。
臨床的プロトコールにおいて、融合タンパク質のIg部分、例えばCTLA4Igまたは突然変異体CTLA4Igが対象に有害な免疫応答を誘発しないことが好ましい。好ましい部分はヒトまたは非ヒト霊長類Ig定常領域を含むIg定常領域のすべてまたは部分である。適切なIg領域の例には、エフェクター機能、例えばFcレセプターとの結合、補体依存性細胞毒性(CDC)、または抗体依存性細胞介在性細胞毒性(ADCC)に関与するヒンジ、CH2およびCH3ドメイン、またはCH1、ヒンジ、CH2およびCH3ドメインを含むIgCγ1(IgCgamma1)、IgCγ2(IgCgamma2)、IgCγ3(IgCgamma3)、IgCγ4(IgCgamma4)、IgCμ(IgCmu)、IgCα1(IgCalpha1)、IgCα2(IgCalpha2)、IgCδ(IgCdelta)、またはIgCε(IgCepsilon)が含まれる。Ig部分は、その中(例えば、エフェクター機能、例えばCDCまたはADCCを減少させるCH2ドメイン中)に1またはそれ以上の、IgのFcレセプターとの結合能を増加または低下させることによりIgのそのリガンドとの結合能を調節する突然変異を有し得る。例えば、Ig部分中の突然変異は、ヒンジドメイン内のあらゆるまたはすべてのそのシステイン残基の変化を含むことができる。例えば、図3に示すように+130、+136、および+139位のシステインがセリンで置換される。Ig部分は、図3に示すように+148位のプロリンのセリンによる置換も含み得る。さらに、Ig部分の突然変異は、+144位のロイシンのフェニルアラニンによる置換、+145位のロイシンのグルタミン酸による置換、または+147位のグリシンのアラニンによる置換を含み得る。
以下の実施例は本発明を説明するために本発明の特定の局面を示し、当業者に対する本発明の方法の説明を提供する。実施例は、本発明およびその種々の局面の理解および実施に有用な特定の方法論および例示を提供するものであり、本発明を限定するものと解釈すべきではない。
以下に示す実施例1-4は、培養行程中の温度変化を含む細胞培養法に関する実験を説明する。実施例6-11は、ポリアニオン化合物の培養への遅延添加を含む細胞培養法に関する実験を説明する。
実施例1
本実施例は、本明細書の実施例2-4に記載の例示したCTLA4Ig融合タンパク質を生成する組換え細胞を培養するための本発明の方法に用いる物質および試薬を提供する。
1. 細胞培養液
細胞接種物生成ならびに5リットル(5L)および50リットル(50L)生成物リアクターを含むバイオリアクター中の培養の増殖のすべての期に用いる基礎細胞培養液は、表1に示すようにグルタミン、重炭酸ナトリウム、インスリン、およびメトトレキセート(Invitrogen、Carlsbad、CA)を含む変法CD-CHO培地であった。培地のpHは1N HClで7.0に調整した。
フェドバッチ法におけるフィーディング細胞については、表2に示す変法(modified)フィード培地、すなわちグルコース、グルタミン、インスリン、およびTC Yeastolate(Becton-Dickinson、Franklin Lakes、NJ)含有eRDF-1培地(Invitrogen)を用いた。フィーディング培地のpHはすべての成分を添加した後、1N NaOHで7.0に調整した。
生成用バイオリアクターは、最初、温度、圧、pH、および溶存酸素濃度を厳密にモニターし、調節しながらバッチリアクターとして操作した。培養条件は、生細胞密度および種々の主要代謝物の濃度を測定することにより評価した。フィーディング法は、接種1日後に開始した。残りの発酵はフェドバッチ法で行った。
5L規模(1つのマリンインペラー付きガラスリアクター)および50L規模(2つのマリンインペラー付きステンレススチールリアクター)のバイオリアクターを用いた。(実施例2参照)。データ収集システム(Intellution Fix 32)により、行程を通して温度、pH、および溶存酸素(DO)を記録した。ガス流量をロタメーターを介して調節した。水中フリット(5μmのポアサイズ)を介してリアクター内に空気を吹き込みリアクターのヘッドスペースを通してCO2を除去した。酸素分子を同じフリットから吹き込んでDOを調節した。同じフリットからCO2を吹き込みpHを調節した。
3. フィーディング方法
接種の24時間後、グルコース濃度が>3.0g/Lであれば1日最小限培養容量の1%の変法eRDF-Iフィード培地をバイオリアクターに加えた。グルコース濃度が3g/L以下の場合は、1日ボーラスフィードの容量をグルコース濃度が3.0g/Lまで戻るように計算した。1日フィード量をバッチシートに記録した。
4. サンプリング
細胞の試料を毎日リアクターから取り出した。細胞数の計算に用いる試料をトリパンブルー(Sigma、St. Louis、MO)で染色した。細胞数および細胞生存性の測定は顕微鏡を用い血球計算法にて行った。代謝物の分析のためにさらに試料を2000rpm(4℃)で20分間遠心し、細胞を分離した。上清を以下のパラメーターについて分析した:力価(titer)、シアル酸、グルコース、ラクテート、グルタミン、グルタメート、pH、pO2、pCO2、アンモニア、および所望により乳酸脱水素酵素(LDH)。さらに予備試料を-20℃で凍結した。
実施例2
本実施例は、図3に-1〜357または+1〜357として示すCTLA4Ig(ATCC 68629として寄託したDNAをコードする)の培養CHO細胞からの生成を説明する。
本実施例は、2または3工程温度変化を含む、全行程時間が14、21または28-30日間の培養行程を含む大量かつ高品質のCTLA4Igタンパク質を生成するための本発明の方法も説明する。37℃から34℃への温度変化(T-変化)は第6日(対数増殖期の終わり)に生じ、34℃から32℃への第2温度変化は第10日に生じる。該行程は第14日、第21日、または第28日で終了し、2工程変化については温度を第10日の変化から行程終了時まで32℃に調節した。3工程変化については、温度を変化の日から行程終了時まで30℃に調節した。記載した方法は、1回温度変化または無温度変化行程に比べてタンパク質生成物の最終力価の増加、最終細胞生存性の増加、および容量生産性(volumetric productivity)をもたらした。本発明によれば、第2および第3温度変化は、高細胞生存性を維持しながら、標準的発酵(培養)プロセスの行程時間を2〜3週間(またはそれ以上)まで延長した。生成物力価のほぼ線形増加が生成期間を通して観察された。
CTLA4Ig発現に用いたCHO細胞は、T-75フラスコ(Corning、Corning、NY)ならびに250および500mLスピナー(Bellco、Vineland、NJ)を用い、グルタミン、重炭酸ナトリウム、インスリン、およびメトトレキセート(実施例1参照)を含む変法CD-CHO培地中で増殖させた。T-フラスコおよびスピナーを6%CO2中37℃でインキュベートした。十分な接種物を作製した後、培養を上記培地それぞれ3Lまたは30L運転容量を含む5L(Applikon、Foster City、CA)または50Lバイオリアクター(Feldmeier、Syracuse、NY)に移した。初期播種密度は約2x105生細胞/mLであった。
5L容器は1個のマリンインペラーを取り付けたガラスリアクターであり(Applikon、Foster City、CA);50L容器は、2個のマリンインペラーを取り付けたステンレススチールリアクター(Feldmeier、Syracuse、NY)であった。Intellution Fix32(Intellution、Foxboro、MA)を用いるデータ収集システムにより、行程を通して温度、pH、および溶存酸素(DO)を記録した。ガス流量をロタメーター(Cole Parmer、Vernon Hills、IL)により調節した。水中フリット(5μmのポアサイズ)を介してリアクター内に空気を吹き込みリアクターのヘッドスペースを通してCO2を除去した。酸素分子を同じフリットから吹き込んでDOを調節した。同じフリットからCO2を吹き込み高めのpHを調節した。低めのpH調節は1N NaOHの添加により行った。限定するものではないが、pHの許容範囲は、6-9、好ましくは6.8-7.2であり、浸透圧は200-500mOsm、好ましくは280-340mOsmであった。
バイオリアクター中の培養に以下のごとく、実施例1、表2に記載の変法eRDF培地(Invitrogen)を用いて毎日ボーラスフィーディングした。接種1日後に開始し、最小限1%培養容量をフィーディング培地として加えた。グルコースレベルが3g/L以下に落ちたら、計算した容量を加えてグルコースレベルを3g/Lに戻す。
発酵プロセスは5L規模で21日間、50L規模で28日間持続した。50L規模で培養行程のより長い持続時間は該行程について加えた温度変化と関連した。分析用リアクターから毎日試料を得た。例えば、細胞計数に用いる試料をトリパンブルー(Sigma、St. Louis、MO)で染色した。細胞計数および細胞生存性の測定は、血球計算板を用い、顕微鏡下で染色された生細胞を計数して行った。代謝物の分析用に、さらなる試料部分標本を2000rpm(4℃)で20分間遠心して細胞をペレットとした。当該分野で常套的に実施されている技術およびプロトコールを用い、上清のタンパク質力価、シアル酸、グルコース、乳酸塩、グルタミン、グルタメート、pH、pO2、pCO2、アンモニア、およびLDHについて分析した。
実施例3
本実施例は、本発明に従って実施した多工程培養方法を含む種々の培養手順を評価するための比較評価の結果を示し、説明する。タンパク質の最終力価シアル酸含有量、行程終了時の細胞生存性(最終細胞生存性)、および行程終了時の細胞密度(最終生細胞密度)と同様に、糖タンパク質生成物の最終力価(g/L)を決定した。
実験I-A、I-B、およびI-C;II-A、II-B、およびII-C;ならびにIII-A、III-B、およびIII-Cは、異なる時間で評価した同じ温度変化プロフィールの同じ細胞培養行程を表し、すなわちI-A、II-A、およびIII-Aについては生成物および細胞パラメーターを14日間後に評価し、I-B、II-B、およびIII-Bは21日間後、I-C、II-C、およびIII-Cは28日間後に評価した。これらの実験は、培養条件を以下のごとく調節する5Lバイオリアクター中で行った:pH7.0;溶存酸素40%;撹拌60rpm;および初期温度37℃。データを、本発明の方法に従ってフェドバッチ細胞培養発酵から得た。
実験I、II、およびIIIを以下のごとく設計した:
実験I:細胞培養温度を第0日から第21日まで37℃に調節した(温度変化なし)。
実験II:細胞培養温度を第0日〜第6日は37℃に、第6日〜第21日は34℃に調節した(温度変化1回)。
実験III:細胞培養温度を第0日〜第6日は37℃に、第6日〜第10日は34℃に、第10日〜第21日は32℃に調節した(本発明の2工程温度変化処置)。
実験IV-AおよびV-Aは、初期(標準)生成期を含む14日培養行程後に評価した生成物力価、最終細胞生存性、および最終生細胞密度の結果を示し、実験IV-BおよびV-Bは延長生成期を含む21日培養行程後に評価したこれらの結果を示し、実験IV-CおよびV-Cは第2延長生成期を含む28日培養行程後に評価した結果を示す。実験IVおよびVは、培養条件を以下のごとく調節した50Lバイオリアクター中で行った:pH7.0;溶存酸素40%;30rpmで撹拌;および初期温度37℃。
実験IVおよびVを以下のごとく設計した。
実験IV:細胞培養温度を、第0日〜第6日は37℃に、第6日〜第10日は34℃に、第10日〜第28日は32℃に調節した(本発明の2工程温度変化処置)。
実験V: 細胞培養温度を、第0日〜第6日は37℃に、第6日〜第10日は34℃に、第10日〜第14日は32℃に、第14日〜第28日は30℃に調節した(本発明の3工程温度変化処置)。実験V-A、V-B、およびV-Cは異なる時間で評価した同じ温度変化プロフィールの同じ細胞培養を表す。すなわち、V-Aについては生成物および細胞パラメーターを14日間後に、V-Bについては21日間後に、またV-Cについては28日間後に評価した。
実験I-Vは上記の5つの異なる培養行程を示す。記載のごとく、14日間の行程を「A」と、21日間の行程を「B」と、また28日間の行程を「C」と呼ぶ。
表3は、5Lリアクター規模の培養中の細胞によるCTLA4Igの生成に対する異なる温度変化プロフィールの影響を示す実験の結果を表す。
表4は、50Lリアクター規模の培養中の細胞によるCTLA4Igの生成物に対する異なる温度変化プロフィールの影響を示す実験の結果を表す。
本実施例の実験により示されたように、多工程温度変化プロフィールは、培養プロセスを通して高細胞生存性を維持することがわかった。具体的には、表3において、実験III-Bは時限2工程温度変化プロフィールの使用は、21日培養プロセス(延長された生成期を含む)を通して高細胞生存性(図1も参照)を維持し、6.5[モル比]の高シアル酸含有量で該力価が3.5g/Lに達することを示す。2工程培養方法の成功は、「最終力価 X 最終シアル酸」の数学的積の値が高いことでも証明することができる。
それに反して、無温度変化の培養プロセス(表3、実験I-B)は細胞生存性の早期の低下をもたらした。さらに、1工程温度変化(表3、実験II-B)の使用は、本発明の2工程温度変化プロフィールおよびプロセスに比べて低い最終力価、最終シアル酸、および(「最終力価 X 最終シアル酸」)の数学的積を生じることがわかった。
さらに、50Lリアクター規模で行った細胞培養による表4に示す結果は、本発明の多工程温度変化培養技術の利点を証明する。30℃への第3温度変化は第14日に生じるように時限設定した。特に、2温度変化に比べて、3変化を用いる細胞生存性および最終力価に対する3温度変化の利点がわかる(表 4、実験V-C;図2も)。本発明の方法によれば、3温度変化は無変化または1変化法と比べてさらに細胞生存性、すなわちタンパク質生成を延長した。通常、細胞培養における規模アップ効果により、50Lリアクター規模における力価の生成は、5L規模より幾分遅いことがわかった。しかしながら、本発明により提供される2またはそれ以上の温度変化培養行程の利点を損なわないことは容易に理解される。
実施例3に示す結果からわかるように、温度変化を第6日、すなわち対数増殖期の終了時に行ったそれら行程では無温度変化の対照行程と比べて最終力価および細胞生存性の遙かによい結果が得られた。結果が示すように、容量生産性は、1回の温度変化の使用により2倍に増加した。第10日における第2温度変化は、より高い細胞生存性およびさらに増加した容量生産性(無温度変化の行程と比べて約3倍)を生じたが、糖タンパク質生成物のシアル酸含有量で測定した生成物品質は高いままであった。
実施例4
本実施例は、本発明の2下方温度変化を含む細胞培養法がタンパク質、例えば本実施例ではCTLA4Igの量(生成量/細胞/単位時間)に統計的に有意な影響を示さないことを示すデータを示す。本発明の新規細胞培養(発酵)方法によれば、該方法におけるタンパク質の全生産量は該方法が終了するまでより多くの生細胞が生存する結果である。より多くの細胞が延長された生成時間の間生存するので、より多くの細胞が該プロセス終了時に所望のタンパク質を生成することができる。同様に、これは該プロセスまたは培養行程の終了時により大量の所望のタンパク質生成物を生じる。
表5は、本発明に含まれるプロセスの種々の時間における細胞特異的生産性を示す。細胞特異的生産性は先に記載の式により決定する。すなわち、CTLA4Ig、他の可溶性CTLA4分子、および可溶性CTLA4突然変異体分子の生成のために設計した培養法は、タンパク質生成が第6日または約第6日、すなわち対数増殖期後の定常期のほぼ開始時に始まる非増殖関連プロセスである。表5に示すデータは実施例3で実施した実験と関連している。
表5の細胞特異的生産性は先に記載のごとく細胞密度と力価の測定値を用いて計算した。当業者が理解するであろうように、細胞密度測定値は、通常、約10-20%の標準偏差(SD)すなわち高SDであり、不正確である。したがって、細胞特異的生産性の測定値は対応する10-20%の標準偏差を有する。すなわち、これらの計算値の種類に関する高SDの点から、異なる行程時間についての1細胞1日当たりの生成物の生成量は、無温度変化、1温度変化、または2 温度変化を有するプロセス間で有意差はない。本発明の新規細胞培養法により生じる高レベルの高品質タンパク質生成物、およびタンパク質生成の全体的増加は、多下方温度変化を含む全培養プロセスを通して生存する生細胞数がより高いことによる。
実施例5
実施例5A
本実施例は、本明細書の実施例5B-16に記載のごとく、例示したL104EA29YIgを生成する組換え細胞を培養するための本発明の方法に用いる物質および試薬を提供する。
1. 細胞培養液
細胞接種物生成の全期に用いる基礎細胞培養液は、表6に例示のグルタミン、重炭酸ナトリウム、インスリン、およびメトトレキセート含有変法CD-CHO培地(Invitrogen、Carlsbad、CA)であった。該培地のpHは1N HClで7.0に調整した。5リットル(5L)、10リットル(10L)、および50リットル(50L)の生成リアクターを含むバイオリアクター中で培養を増殖させるのに用いる基礎細胞培養液も、メトトレキセートを含まない以外は表6に示す変法CD-CHO培地であった。該培地のpHは1N HClで7.0に調整した。
実施例8を除くすべての実施例において、フェドバッチ法のフィーディング細胞用に表7に示すように変法フィード培地、すなわちグルコース、グルタミン、インスリン、およびTC Yeastolate(Becton-Dickinson、Franklin Lakes、NJ)含有eRDF-1培地(Invitrogen)を用いた。すべての成分を添加後、フィーディング培地のpHを1N NaOHで7.0に調整した。
実施例8についてはフィーディング培地は上記のものにeRDF-1の濃度を25.2g/Lに変更したものであった。
2. バイオリアクター中の生成期
生成用バイオリアクターは、最初、温度、圧、pH、および溶存酸素濃度を厳密にモニターおよび調節しながらバッチリアクターとして操作した。培養条件は生細胞密度および種々の重要な代謝物の濃度を測定することにより評価した。フィーディング法を接種の1日後に開始した。残りの発酵はフェドバッチ法で行った。
5L規模(1個のマリンインペラーを有するガラスリアクター)、10L規模(2個のマリンインペラーを有するガラスリアクター)、および50L規模(2個のマリンインペラーを有するステンレススチールリアクター)のバイオリアクターを用いた。(実施例2参照)。データ回収システム(Intellution Fix 32)で行程を通して温度、pH、溶存酸素(DO)を記録した。ガス流量をロタメーターで調節した。空気を、水中フリット(5μmポアサイズ)を介してリアクター内に空気を吹き込みリアクターのヘッドスペースを通してCO2を除去した。酸素分子をDO調節のために同じフリットから吹き込んだ。CO2を同じフリットから吹き込み、pH調節に用いた。
3. フィーディング戦略
接種後24時間でグルコース濃度が>3.0g/Lであるときは1日最小限培養容量の1%の変法eRDF-Iフィード培地をバイオリアクターに加えた。グルコース濃度が3g/L以下の場合は、1日ボーラスフィードの容量をグルコース濃度を3.0g/Lに戻すように計算した。1日フィード量をバッチシートに記録した。
4.サンプリング
細胞標本は毎日リアクターから取り出した。細胞計数に用いる試料をトリパンブルー(Sigma、St. Louis、MO)で染色した。細胞計数および細胞生存性の測定値は顕微鏡を用い血球計算法によるか、またはCedex自動細胞カウンター(Innovatis AG、Bielefeld、Germany)により行った。代謝物の分析用にさらなる試料を2000rpm(4℃)で20分間遠心して細胞を分離した。上清を以下のパラメーターについて分析した:力価、シアル酸、グルコース、乳酸塩、グルタミン、グルタミン酸塩、pH、pO2、pCO2、アンモニア、および所望により乳酸脱水素酵素(LDH)。さらなる予備試料を-20℃で凍結した。
実施例5B
本実施例5Bは、培養CHO細胞から図4中の-1〜357または+1〜357で示されるL104EA29YIg(PTA-2104としてATCCに寄託したDNAをコードする)の製造を説明する。
本実施例5Bは、ポリアニオン化合物、より具体的には硫酸デキストランを細胞培養に加えることを含む本発明の方法も説明する。
L104EA29YIg発現に用いるCHO細胞を、T-75フラスコおよび振盪フラスコを用い、グルタミン、重炭酸ナトリウム、インスリン、およびメトトレキセートを含有する変法CD-CHO培地(Invitrogen、CA)中で増殖させた。Tフラスコおよび振盪フラスコを37℃および6%CO2でインキュベーションした。十分な接種物を生成した後、培養をメトトレキセートを含まない以外は上記の変法CD-CHO培地を用いて5または10Lバイオリアクター中に移した。初期接種密度は200,000生細胞/mLまたは106細胞/mLであった。
5Lおよび10L容器はそれぞれ1および2個のマリンインペラー(Applikon、CA)を取り付けたガラスリアクターであった。ガス流量はロタメーターで調節した。水中フリット(5μmのポアサイズ)を介してリアクター内に空気を吹き込みリアクターのヘッドスペースを通してCO2を除去した。酸素分子を同じフリットから吹き込んでDOを調節した。同じフリットからCO2を吹き込み高めのpHを調節した。低めのpH調節は1N NaOHまたはNa2CO3の添加により行った。
バイオリアクター中の培養に以下のごとく、グルコース、ガラクトース、グルタミン、インスリン、およびTC Yeastolate(Becton-Dickinson、Franklin Lakes、NJ)含有変法eRDF培地(Invitrogen、CA)を用いて毎日ボーラスフィーディングした:接種後1日に開始、最小1%培養容量を加えるか、またはグルコースレベルが3g/L以下の時は計算容量をグルコースが3g/Lにもどるようにする。
実施例11を除くすべての実施例において、温度を第0〜6日は37℃に、第6〜10日は34℃に、第10日以降は32℃に調節した。
発酵法は、典型的持続時間が14-19日間であった。試料は毎日リアクターから採取した。細胞計数に用いた試料はトリパンブルー(Sigma、MO)で染色した。細胞計数および細胞生存性の測定はCedex自動細胞カウンター(Innovatis AG、Bielefeld、Germany)を用いて行った。上清についてLEA29Y力価、グルコース、乳酸塩、グルタミン、グルタミン酸塩、pH、PO2、pCO2、アンモニアを分析した。
硫酸デキストラン(平均分子量5000Daのデキストランのナトリウム塩、Sigma、MO)を水または培地に溶解した。該溶液を無菌ろ過し、濃度50mg/Lとなるようにリアクターに加えた。添加容量は、添加を行った時に操作容量の多くとも2%を構成した。
実施例6
本実施例は、接種後のある時点におけるポリアニオン化合物、より具体的には硫酸デキストランの添加の効果を評価する比較試験の結果を示し、説明する。
5Lおよび10Lバイオリアクターに0.2x106細胞/mLのL104EA29Y産生細胞を接種した。
実験6-aおよび6-bを以下のごとく設計した。
実施例6-a: 硫酸デキストランは培養に加えなかった(「コントロール」培養:5Lバイオリアクター中で4培養、10Lバイオリアクター中で4培養)。
実施例6-b: 硫酸デキストランを第6日に濃度50mg/Lで培養に加えた(「DS 第6日」培養:5Lバイオリアクター中で2培養、10Lバイオリアクター中で1培養)。
実施例6-aおよび6-bの平均生存性、生細胞密度、および全細胞密度プロフィール、ならびにその標準偏差を図6に示す。
コントロール培養において、生細胞密度のプラトーが定常期に対応する第6日〜第7日に観察された。生細胞密度および生存性の低下がコントロール培養で死滅期に対応する第7日(平均)に観察された。硫酸デキストランを第6日に培養に加えると、増殖期が第11日まで延長された。生細胞密度はコントロールの3.5x106細胞/mLに対して平均5.2x106細胞/mLに達した。生存性は、この延長された生成期を通して90%以上のままであった。第11日後、生細胞密度および全細胞密度は比例的に低下して細胞溶解を示し、その結果、生存性指数は第15日まで90%以上のままであった。
図7は、硫酸デキストラン添加した培養およびコントロール行程について生細胞密度を時間の関数として対数表示したものである。死滅率(図2に生細胞密度の勾配により示す)は、硫酸デキストランの存在の有無により異なった。硫酸デキストラン存在下における死亡速度は、第12日〜第19日は0.0012h-1の値でほぼ一定であった。これに対して、コントロールの平均死亡速度は第8日〜第12日であり、最大値は0.0024h-1であった。すなわち、硫酸デキストランを第6日に添加すると死滅期の細胞死亡速度が2倍遅くなった。
上記硫酸デキストランの有益な効果に関わらず、生成物L104EA29YIgの力価は硫酸デキストラン添加ありまたは無しで同様であった(表8)。
表8:第14日の生成物L104EA29YIg力価に対する第6日の硫酸デキストラン添加の影響
異なる行程についてL104EA29YIgシアル化の程度を表9に示す。比較的大きな行程間の変動性を考えると、L104EA29YIgシアル化は硫酸デキストランの第6日の添加により有意な影響を受けないと考えることができる。
表9:第6日の硫酸デキストラン添加の生成物L104EA29YIgシアル化に対する影響
実施例7
本実施例は死滅期の細胞培養に対する硫酸デキストラン添加の効果を示す。
L104EA29YIg産生細胞の5Lバイオリアクターを密度106細胞/mLで接種し、死滅期が第5日に開始した。硫酸デキストランを第6日に加えた。
生存性、生細胞密度、および全細胞密度プロフィールを図8に示す。該培養の第6日に硫酸デキストランを添加すると第17日までの生細胞密度の主要な低下を防止することができた。すなわち、硫酸デキストランを死滅期の間に加えると、細胞死を数日間停止させることができる。
この行程において、1.9g/Lの力価と6.6のNANAモル比が第14日に得られた。
実施例8
本実施例は死滅期の細胞培養に対する硫酸デキストラン添加の効果を示す。
10Lバイオリアクターに0.2x106細胞/mLのL104EA29YIg産生細胞を接種した。この特定の例において、より濃縮された製剤を毎日供給し、その結果、死滅期の開始が第10日まで遅延した(図9)。硫酸デキストランは第14日まで加えなかった。
生存性、生細胞密度、および全細胞密度プロフィールを図9に示す。硫酸デキストランを第14日に添加すると生細胞密度を4日間安定化することができ、その後培養を中止した。
本実施例は、硫酸デキストランを培養に添加すると死滅期における細胞死を停止させる別の例である。
実施例9
本実施例は、硫酸デキストランの第0日添加の影響を示す。硫酸デキストランの遅延添加の影響は、本実験でみられる効果を硫酸デキストランの添加が遅延した他の実験でみられる効果と比較することにより知ることができよう。
2回反復して5Lバイオリアクターを0.2x106細胞/mLのL104EA29YIg産生細胞を接種し、硫酸デキストランを接種と同日(第0日)に濃度50mg/Lで加えた。
生存性、生細胞密度、および全細胞密度プロフィールを図10に示す。いずれの培養も硫酸デキストランを含まない培養より高い細胞密度を達成しなかった(図6および10を比較)。該細胞は、硫酸デキストランを第6日に加えた時の第11日に対して第7日または第8日に死滅期に入った(図6および10を比較)。これら行程の第14日に得られたL104EA29YIg力価は、0.57g/L(行程#1)および0.86g/L(行程#2)であり、これらはコントロールプロセスまたは第6日に硫酸デキストランを添加したプロセスで得られる力価より有意に低い(実施例6参照)。
これらの結果は、添加の結果に対する硫酸デキストラン添加のタイミングの重要性を示す。
理論に拘束されることなく、本発明者らは、硫酸デキストラン添加の観察された効果およびそれらの添加タイミングへの依存性がペントサンポリサルフェートのヘパリン結合成長因子との結合と同様の方法で硫酸デキストランの種々の自己分泌因子に対する結合により説明することができることを提唱する(Zugmaier et al.、1992)。本発明者らは、硫酸デキストランがそのヘパリン結合ドメインでこれら因子と結合し、細胞表面ヘパラン硫酸プロテオグリカンとの結合に利用できなくなることを提唱する。結果として、硫酸デキストラン結合因子は細胞表面で濃縮することができず、それらのレセプターに対するその結合の確率が大きく低下する。最終的効果は、これら因子がもはや該細胞に対する正常作用を発揮しないことである。接種後最初の数日間で、該細胞は細胞増殖の合図を与えるある種の成長因子を産生する。第0日に加えた硫酸デキストランは産生されるそれら因子と不可逆的に結合する。しかしながら、硫酸デキストランのこれら因子との結合は細胞増殖に大きな悪影響を与えず、これはおそらく該細胞が成長因子産生の増大により反応することができることによる。増殖期の後半に成長因子の産生が止まり、細胞は、高濃度で増殖期の終了と細胞死の開始の合図を与える作用を有する異なる種類の自己分泌因子の産生を開始する。これら因子は第0日の低濃度からその後高濃度まで蓄積する。その時点で、これら因子は細胞に増殖を止め、定常期および死滅期に入るように効果的に合図する。本発明者らは、硫酸デキストランがこれら死のシグナル伝達因子と優先的に結合し、その信号伝達機能を不能にし、増殖期の延長を可能にすることを提唱する。これら因子による連続的誘導は、細胞死を進行させるのに必要であり、培養中で第14日と遅くても死のシグナル伝達因子が硫酸デキストランにより不能になると(実施例7および8)死滅期に入った細胞を定常期に再設定することができるようである。反対に、成長因子と結合している第0日に加えた硫酸デキストランは、増殖期の終了時に依然これら因子と結合しており、死のシグナル伝達分子との結合に利用できなくなる。すなわち、増殖期の延長および細胞死の開始の遅延は、硫酸デキストランを増殖期の終了時に加える場合と同様に、硫酸デキストランを第0日に加えた培養の場合は生じない(実施例9)。
実施例6において硫酸デキストランを第6日に添加した培養における第11日の細胞増殖の停止および細胞死の開始は、硫酸デキストラン結合自己分泌因子による誘導と異なるメカニズムから生じると仮定される。おそらく、11日間の増殖後の培地中の特定栄養素の枯渇はこれら培養における増殖期の終了の原因となりうるかもしれない。
実施例10
本実施例は、初期増殖期中の3つの異なる時間で硫酸デキストランを添加した影響を比較する。
L104EA29YIg産生細胞の培養を、5Lバイオリアクターに106細胞/mLで接種した。硫酸デキストランを異なる時間に50mg/Lの濃度で培養に加えた。ある培養では硫酸デキストランを第3日に加え、別のものには第4日に、また3番目のものには第5日に加えた。
生存性および生細胞密度プロフィールを図11に示す。高生細胞密度(>107細胞/mL)が3つすべての添加例(第3、4、および5日)で達成されたが、より早い添加(第3または4日)は増殖期直後の生細胞密度の低下を防止しなかった。これに対して、第5日の添加は増殖期後4日間生細胞密度を安定化させた。250時間以後の時点で、第5日硫酸デキストラン添加培養の生細胞密度は第4日硫酸デキストラン添加培養より常に高いかまたは同等(測定誤差内)であり、第4日硫酸デキストラン添加培養の生細胞密度は第3日硫酸デキストラン添加培養より常に高いかまたは同等(測定誤差内)であった。すなわち、本実施例から硫酸デキストラン添加の最適時期は初期増殖期(あらゆる硫酸デキストラン添加がない場合に観察されたであろう増殖期をいう)の終了時であると思われる。より早期の添加は増殖期を延長させることができるが、硫酸デキストラン誘導延長増殖期後の生細胞密度の安定化には有効でなく、一方、より遅い添加(死滅期中)は生細胞密度を安定化させるが生細胞密度の実質的増加をもたらすことができないかもれない(実施例7および8参照)。したがって、第14日における2.7g/Lの力価は、第5日硫酸デキストラン添加により得られるが、2.6g/Lの第14日力価は第3日または第4日硫酸デキストラン添加により得られ、1.9g/Lの第14日力価は第6日硫酸デキストラン添加により得られた(実施例7)。NANAモル比は上記行程においてそれぞれ6.3、6.6、6.0、および6.6であり、最適のタイミングで硫酸デキストラン添加した時に得られたより高い力価はシリル化と一致したレベルになったことを示した。
実施例11
本実施例は、L104EA29YIgを生成する培養における1および2温度変化の影響を示す。該培養も硫酸デキストランの遅延添加を前提とする。
5Lリアクターに200,000細胞/mLの密度で接種する。
2、1、または無温度変化を適用した。1温度変化では、温度を第6日に37℃から34℃に変化させる。2温度変化では、温度を第6日に37℃から34℃に、第10日に34℃から32℃に変化させる。すべての場合で硫酸デキストランを第6日に加えた。2温度変化の場合は3行程の平均であり、標準偏差をバーで示す。
生細胞密度、生存性、および力価をそれぞれ図12、13、および14に示す。
結果は、少なくとも1の温度変化を適用する利点を示す。行程を通して温度を37℃に維持した場合、培養は第10日に死滅期に入り、生細胞密度および生存性の低下が大きい。結果として、培養12日間後にL104EA29YIg容量生産性の明確な低下がみられる。14日間およびそれより長い培養時間では、1または2温度変化を伴う培養が力価に関して一定温度の培養をしのぐであろう。
1温度変化のみ(第6日に34℃に)を用いる場合、生細胞密度および生存性の大きな低下が第16日後にみられる。第1に加えて第2温度変化(第10日に32℃に)を用いる培養では、第16日後に生細胞密度および生存性の大きな低下はみられない。18日間以後の培養時期では、1温度変化培養における容量生産性は2温度変化培養より明らかに劣る。対照的に、1温度変化培養の容量生産性は第11〜第15日の培養時間で2温度変化培養より優れている。
結論として、第1温度変化は所望の回収時間と独立して有益であるが、第2温度変化の利点は意図する回収時間および有効な下流プロセシングに関する生存性の要求に依存する。第2温度変化がないと、第20日まではより高い生成物力価を達成できるが、20日間より長い行程の培養では2温度変化の行程は力価に関して1温度変化の行程をしのぐであろう。さらに、第12日以降の回収物は1温度変化の場合が2温度変化の場合より大量の細胞溶解生成物を含むであろうと考えられるはずであり、これが下流プロセシングを複雑にし得る。1温度変化プロフィールの場合に第12日後に観察された生細胞密度の大きな低下は、対応する細胞死が上清中に生成物のシアル化を低下させ得る極めて多量のシアリダーゼを放出させるかもしれないので生成物の品質に対する懸念が生じうる。
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