本発明は、ペルチェ効果を利用したペルチェモジュールに使用される熱電材料及びその製造方法、並びにこの熱電材料を使用した熱電モジュールに関する。
ペルチェ効果を利用した熱電モジュールは、無音及び無振動で動作し、メンテナンスが不要であることから、小型冷蔵庫及び半導体装置内部の温度調整器等の様々な分野への適用が検討されている。このような熱電モジュールに使用される熱電材料の特性は、そのゼーベック係数をα(V/K)、比抵抗をρ(Ω・m)、熱伝導率をκ(W/m・K)としたとき、下記数式1に示す性能指数Zによって評価することができる。そして、この性能指数Zが高い熱電材料ほど、熱電性能が優れている。
上記数式1に示すように、熱電材料の性能指数Zを高くするためには、熱伝導率κを低くすることが有効である。そこで、従来、熱電材料の熱伝導率κを低くするため、結晶粒径を小さくする方法、キャリア濃度を低減する方法等が検討されている(例えば、特許文献1乃至3参照。)。特許文献1に記載の熱電材料は、Bi及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の元素と、S、Te及びSeからなる群から選択された少なくとも1種の元素とを含む熱電材料に、更に、遷移金属元素及び/又は希土類金属元素、具体的には、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、Y、La、Ce、Nd、Sm及びMm(ミッシュメタル)からなる群から選択された少なくとも1種の元素を添加することにより、アモルファス化又は微結晶化を促進し、熱伝導率κを低くしている。
また、特許文献2には、Bi及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の元素と、Te及びSeからなる群から選択された少なくとも1種の元素とを含む原料を、液体急冷法により薄膜又は粉末状とし、これを更に粉砕した粉末を、結晶が粗大化しない条件で放電プラズマ焼結して固化成形することにより、結晶組織を微細化する熱電冷却用材料の製造方法が提案されている。
更に、特許文献3には、Bi、Te、Sb及びSeからなる群から選択された少なくとも2種の元素からなる原料粉末を成形した後、0.9GHz以上のマイクロ波により加熱焼成する熱電素子の製造方法が提案されている。この熱電素子の製造方法では、結晶粒子を粒成長させることなく焼結することができるため、熱電材料の結晶粒を微細化することができる。
特開平8−111546号公報
特開平10−41554号公報
特開2002−232024号公報
しかしながら、前述の従来の技術には以下に示す問題点がある。熱電材料における熱伝導率κは、比抵抗ρとの相関が極めて強く、特許文献1乃至3のように、結晶粒径を小さくして熱伝導率κを低くした場合、キャリア移動度が低下して比抵抗ρが増加し、性能指数Zを効果的に向上させることができないという問題点がある。同様に、キャリア濃度を低減して熱伝導率κを低くした場合も、比抵抗ρが増加するため、性能指数Zを効果的に向上させることができないという問題点がある。
また、Bi2Te3系熱電材料は、比抵抗ρが、結晶構造のC軸方向は高く、A軸方向は低いため、その結晶異方性を利用し、結晶方位を整列させた状態でA軸方向に通電することにより、比抵抗ρを低減して性能指数Zを高くすることができるが、Bi2Te3系熱電材料の熱伝導率κはA軸方向が高いため、この方法でも性能指数Zを効果的に向上させることはできないという問題点がある。
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、比抵抗ρを増加させずに熱伝導率κを低くすることができる熱電材料及びその製造方法並びに熱電モジュールを提供することを目的とする。
本願第1発明に係る熱電材料は、AをBi及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の元素としたとき、A2TexSe3−xで表される組成を有する六方晶系の熱電材料において、マイクロ波焼結法により固化成形され、6cサイトのTeの一部がSeで置換され、Seが6cサイトと3aサイトに存在する結晶構造を有し、全Se量に対して、6cサイトに位置しているSeの割合が51原子%以上であることを特徴とする。
本発明においては、3aサイトのTeだけでなく、6cサイトのTeの一部もSeで置換されているため、結晶格子が歪み、フォノン散乱の効果により、比抵抗ρを増加させずに熱伝導率κを低くすることができる。
全Se量に対して、6cサイトに位置しているSeの割合を51原子%以上としたので、熱伝導率κを15%以上低減することができ、性能指数Zを3.0以上にすることができる。
本願第2発明に係る熱電材料の製造方法は、AをBi及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の元素としたとき、A2TexSe3−xで表される組成の粉末及び/又は箔片を液体急冷法により冷却速度を1×103K/秒以上にして作製する工程と、前記粉末及び/又は箔片を、焼結時間をt(分)とし、焼結温度をT(℃)としたとき、下記数式2で表される条件で、マイクロ波焼結法により固化成形する工程と、を有し、A2TexSe3−xで表される組成で、6cサイトのTeの一部がSeで置換され、Seが6cサイトと3aサイトに存在する結晶構造を有し、全Se量に対して、6cサイトに位置しているSeの割合が51原子%以上である六方晶系熱電材料を製造することを特徴とする。
本発明においては、液体急冷法により冷却速度を1×103K/秒以上にして作製した粉末及び/又は箔片を、上記数式2で表される条件で固化成形しているため、液体急冷法で急冷凝固させたときに生じた結晶構造が固化成形後も保持され、6cサイトのTeの一部がSeで置換された結晶構造をもつ熱電材料を製造することができる。これにより、比抵抗ρを増加させずに熱伝導率κを低くすることができ、従来の熱電材料よりも、性能指数Zが高い熱電材料が得られる。
この熱電材料の製造方法においては、焼結温度Tを(−18.8×t+578.1)℃未満にして固化成形しているので、6cサイトにおけるSe含有率を51原子%以上にすることができるため、性能指数Zを3.0以上にすることができる。
また、前記粉末及び/又は箔片は、マイクロ波焼結法又は通電加熱焼結法により固化成形することができる。
本願第3発明に係る熱電モジュールは、前述の熱電材料が組み込まれていることを特徴とする。
本発明においては、AをBi及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の元素としたとき、A2TexSe3−xで表される組成で、且つ6cサイトのTeの一部がSeで置換された結晶構造をもつ熱電材料を使用しているため、従来の熱電モジュールに比べて、効率的に熱電特性を向上させることができる。
本発明によれば、AをBi及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の元素としたとき、A2TexSe3−xで表される組成の熱電材料において、6cサイトのTeの一部がSeで置換された結晶構造となっているため、結晶構造が歪み、フォノン散乱効果により、比抵抗ρを増加させずに熱伝導率κを低くすることができる。
以下、本発明の実施の形態について、添付の図面を参照して具体的に説明する。先ず、本発明の第1の実施形態に係る熱電材料について説明する。本実施形態の熱電材料は、AをBi及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の元素としたとき、A2TexSe3−xで表される組成の六方晶系熱電材料であり、3aサイトのTeの一部及び6cサイトのTeの一部がSeで置換され、3aサイト及び6cサイトの両方にSeが配置された結晶構造となっている。
以下、本実施形態の熱電材料について、Bi
2Te
xSe
3−xを例にして詳細に説明する。図1は本実施形態の熱電材料の結晶構造の一例を示す図であり、図2はBi
2Te
3の結晶構造を示す図である。図2に示すように、Bi
2Te
3の結晶構造は空間群
で示され、その結晶構造中には、1種類のBiと、位置するサイトが相互に異なる2種類のTe(Te1,Te2)が存在する。具体的には、単位格子内に、6cサイトに位置するBi、6cサイトに位置するTe1及び3aサイトに位置するTe2の15個の元素が配置されており、結晶学的にはBi
2Te1
2Te2と表される。
また、一般に、Bi2Te3を熱電材料として使用する場合、熱電特性を調整するためにSeが添加され、例えば、Bi2Te2.7Se0.3に代表される組成に調整される。そして、Bi2Te2.7Se0.3等の様にSeが添加された従来のBi2Te3系熱電材料は、3aサイトに位置するTe2がSeに置換された結晶構造となっている。図3はBi2Te2Seの結晶構造を示す図であり、図4は横軸にTe量をとり、縦軸に熱伝導率κのうち格子振動(フォノン)による成分κphをとって、Se置換量と格子熱伝導率κphとの関係を示すグラフ図である。図4に示すように、3aサイトに位置するTe2が全てSeで置換されたBi2Te2Se(図3)及びSeが添加されていないBi2Te3(図2)は、いずれも結晶構造が安定しているため格子熱伝導率κphが高い。これに対して、3aサイトに位置するTe2の一部がSeで置換されたものは、結晶構造が歪み、図2及び図3に示す結晶構造のものに比べて、格子熱伝導率κphが低下する。
更に、図1に示す本実施形態の熱電材料のように、3aサイトに位置するTe2の一部だけでなく、6cサイトに位置するTe1の一部もSeに置換されていると、結晶構造の歪みが増し、Te2がSeに置換された従来の熱電材料に比べて格子熱伝導率κphを大幅に低減することができる。
ここで、全Se量に対する6cサイトに置換されているSeの量の割合(=6cサイトに位置するSe量/全Se量)を占有率として定義する。例えば、Bi2Te3のTeをSeで10原子%置換した場合(Bi2Te2.7Se0.3)、従来の熱電材料では、Seは全て3aサイトに配置されるため、Bi2Te12(Te20.7Se0.3)となり、6cサイトにおけるSeの占有率は0%となる。一方、本実施形態の熱電材料のように、Seが6cサイトにも配置される場合、Bi2(Te11.7Se0.3)Te2となり、この場合、6cサイトにおけるSeの占有率は100%となる。この6cサイトにおけるSeの占有率(=6cサイトに位置するSe量/全Se量)は、30原子%以上であることが好ましい。これにより、Seの置換率が同じである従来の熱電材料に比べて、熱導電率κを15%以上低減することができると共に、性能指数Zを3.0以上にすることができる。一方、6cサイトにおけるSeの占有率が30原子%未満であると、熱導電率の低減率が5%以上15%未満となる。
本実施形態の熱電材料のように、3aサイトだけでなく、6cサイトにもSeが配置されていると、結晶構造が歪み、比抵抗ρを増加させずに、熱伝導率κを低減することができる。その結果、性能指数Zを効率的に向上させることができる。
なお、本実施形態においては、A2TexSe3−xで表される組成の熱電材料のうち、AがBiである場合を例にして説明しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、6cサイトのTeの一部がSeで置換された結晶構造の六方晶系熱電材料であればよく、AはBi及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の元素とすることができる。そして、組成がSb2TexSe3−xである場合は、図1に示すBi2TexSe3−xのBiが全てSbで置換された結晶構造となり、また、組成がBiySb2−yTexSe3−xである場合は、図1に示すBi2TexSe3−xのBiの一部がSbで置換された結晶構造となる。
また、本実施形態の熱電材料の結晶構造におけるTe及びSeの配置は、X線チャンネリング分光法及び粉末X線回折図形を使用したRietveld解析により精度よく評価することができる。
次に、本発明の第2の実施形態として、前述の第1の実施形態の熱電材料の製造方法について説明する。図5は本実施形態の熱電材料の製造方法を示すフローチャート図である。図5に示すように、本実施形態の熱電材料の製造方法においては、先ず、Bi及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の元素、Te及びSeが所望の組成となるように原料を秤量する(ステップS1)。
次に、秤量した原料粉を石英製のアンプルに入れた後、アンプル内を真空引きし、その内部を真空状態又は不活性ガスを導入した状態として、アンプルの口を封じ切る(ステップS2)。そして、このアンプルをスタンドに回転可能な状態で支持された管状炉内に入れ、600乃至700℃に加熱することにより原料粉を溶解し、更に、管状炉を揺動させながら原料融液を撹拌する(ステップS3)。その後、融液を冷却して凝固させてインゴットとする(ステップS4)。次に、液体急冷法により、冷却速度を1×103K/秒以上にして急冷凝固させて、ステップS4で作製したインゴットを、箔片状及び/又は粉末状にする(ステップS5)。このとき、冷却速度が1×103K/秒未満であると、6cサイトのTeがSeで置換されない。本実施形態の熱電材料の製造方法において適用可能な液体急冷法としては、例えば単ロール法、双ロール法、ガスアトマイズ法及び回転ディスク法等が挙げられる。これにより、A2TexSe3−xで表される組成で、6cサイトのTeの一部がSeで置換された結晶構造をもつ六方晶系の熱電材料の箔片及び/又は粉末が得られる。
次に、得られた箔片及び/又は粉末を、マイクロ波焼結法又は通電加熱焼結法により固化成形する(ステップS6)。図6は図1に示す熱電材料のSeが再配列した場合の結晶構造を示す図である。Bi2Te3系化合物及びSb2Te3系化合物においては、Se等の添加元素は3aサイトに入りやすく、長時間加熱したり、水素還元したりすると、図6に示すように、6cサイトに位置していたSeが3aサイトに再配列されてしまう。その結果、結晶構造が安定になり、格子熱導電率κphを低減する効果が得られなくなる。このため、本実施形態の熱電材料の製造方法においては、固化成形時の加熱時間を極短時間にしている。
具体的には、マイクロ波焼結法により固化成形する場合は、ステップS5により得られた箔片及び/又は粉末を、冷間プレスによりペレット化した後、周波数を例えば1乃至30GHzとし、焼結時間t(分)及び焼結温度T(℃)が下記数式3に表される範囲内になるようにする。また、図7は横軸に焼結時間をとり、縦軸に焼結温度をとって、固化成形条件と性能指数Zとの関係を示すグラフ図である。焼結温度Tが(−25×t+575)℃未満となるような条件で固化成形すると、成形体の密度が95%以上にならず、比抵抗ρが増加してしまう。また、焼結温度Tが(−12.5×t+575)℃以上となるような条件で固化成形すると、6cサイトに位置していたSeが全て3aサイトに再配列してしまう。これに対して、図7に示すように、下記数式3に示す条件、即ち、焼結温度Tが(−25×t+575)℃以上で且つ(−12.5×t+575)℃未満となるようにすると、性能指数Zを2.5以上にすることができる。
なお、マイクロ波焼結法での固化成形条件は、下記数式4に示す範囲内、即ち、焼結温度Tが(−25×t+575)℃以上で且つ(−18.8×t+578.1)℃未満であることが好ましい。これにより、6cサイトにおけるSe占有率を30原子%以上にすることができるため、Seの置換率が同じである従来の熱電材料に比べて、格子熱伝導率κphを15%以上低減することができると共に、性能指数Zを3.0以上にすることができる。
同様に、通電加熱焼結法により固化成形する場合は、ステップS5により得られた箔片及び/又は粉末を、金型に充填した後、例えば20乃至500MPaの圧力を印加しながら通電し、100乃至500℃/分の速度で昇温して、焼結時間t(分)及び焼結温度T(℃)が上記数式3に表される範囲内になるようにする。このとき、焼結温度Tが(−25×t+575)℃未満となるような条件で固化成形すると、成形体の密度が95%以上にならず、比抵抗ρが増加してしまう。一方、加熱温度Tが(−12.5×t+575)℃以上となるような条件で固化成形すると、6cサイトに位置していたSeが全て3aサイトに再配列してしまう。よって、通電加熱焼結法により固化成形する場合は、上記数式3に示す条件、即ち、焼結温度Tが(−25×t+575)℃以上で且つ(−12.5×t+575)℃未満となるようにする。なお、通電加熱焼結法での固化成形条件は、上記数式4に示す範囲内、即ち、加熱温度Tが(−25×t+575)℃以上で且つ(−18.8×t+578.1)℃未満であることが好ましい。これにより、6cサイトにおけるSe占有率を30原子%以上にすることができるため、Seの置換率が同じである従来の熱電材料に比べて、格子熱伝導率κphを15%以上低減することができると共に、性能指数Zを3.0以上にすることができる。
更に、前述のマイクロ波焼結法及び通電加熱焼結法以外に、放電プラズマ焼結法により固化成形することもできる。その場合、ステップS5により得られた箔片及び/又は粉末を型に入れ、200乃至500MPa程度の圧力を印加しながら、プラズマ発生器等によって箔片及び/又は粉末間で放電プラズマを発生させて、200乃至600℃程度の温度条件下で15分間以内加熱する。その際、焼結時間が15分間を超えると、6cサイトに位置していたSeが全て3aサイトに再配列してしまう。なお、放電プラズマ焼結法により固化成形する際は、焼結温度を460℃以下とし、焼結時間を5分間以内とすることが好ましい。これにより、6cサイトにおけるSe占有率を30原子%以上にすることができるため、Seの置換率が同じである従来の熱電材料に比べて、格子熱導電率κphを15%以上低減することができると共に、性能指数Zを3.0以上にすることができる。
本実施形態の熱電材料の製造方法においては、Bi及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の元素と、Te、Se及びSからなる群から選択された2種以上の元素とを含む組成の原料を、液体急冷法により、冷却速度を1×103K/秒以上にして急冷凝固させて得た箔片及び/又は粉末を、短時間の加熱で固化成形しているため、6cサイトのTeの一部がSeで置換され、6cサイトにもSeが位置する結晶構造をもつ六方晶系の熱電材料が得られる。これにより、結晶構造を歪ませることができるため、熱電材料の比抵抗ρを増加させずに熱伝導率κを低くすることができる。
なお、本実施形態の熱電材料の製造方法においては、液体急冷法により作製した箔片及び/又は粉末を、マイクロ波焼結法、通電加熱焼結法及び放電プラズマ焼結法等により固化成形しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、液体急冷法により作製した箔片を固化成形せずに、そのままモジュール化してもよい。また、液体急冷法以外に、熱電材料のインゴットをアーク溶解した後急冷しても、6cサイトのTeの一部がSeで置換された結晶構造をもつ六方晶系の熱電材料が得られる。
次に、本発明の第3の実施形態に係る熱電モジュールについて説明する。本実施形態の熱電モジュールは、前述の第1の実施形態の熱電材料かならなる複数の熱電素子を、セラミックス等の絶縁材料からなり表面に電極が形成された基板上に搭載したものである。本実施形態の熱電モジュールに搭載される熱電素子としては、例えば前述の第2の実施形態の方法で固化成形された熱電材料から切り出されたもの、及び前述の条件で液体急冷法により急冷凝固して得た熱電材料箔片を所定の大きさに切断したもの等を使用することができる。
本実施形態の熱電モジュールにおいては、AをBi及びSbからなる群から選択された少なくとも1種の元素としたとき、A2TexSe3−xで表される組成で、且つ6cサイトのTeの一部がSeで置換された結晶構造をもつ熱電材料を使用しているため、比抵抗ρ及び熱伝導率κが共に低く、熱電特性が優れた熱電モジュールが得られる。
以下、本発明の実施例の効果について、本発明の範囲から外れる比較例と比較して説明する。先ず、本発明の第1実施例として、前述の第2の実施形態の熱電材料の製造方法と同様の方法で、組成がBi2Te2.7Se0.3であるインゴットを作製し、液体急冷法により箔片化し、6cサイトにおけるSe占有率が58%である液体急冷箔片を作製した。そして、この箔片を、直径が30mmの金型に充填し、冷間で98MPaの圧力を印加しながらプレスしてペレット化した。このペレットをマイクロ波焼成装置のチャンバー内に配置し、チャンバー内を1.33Pa(1×10−2Torr)以上の高真空に排気した後、Arガスで置換した。その後、マイクロ波焼結法により、周波数を28GHz、出力を2kWとし、450℃で5分間加熱して固化成形し、実施例1の熱電材料を作製した。また、マイクロ波焼結法により、周波数を2GHz、出力を5kWとし、500℃で4分間加熱して固化成形し、実施例2の熱電材料を作製した。更に、マイクロ波焼結法により、周波数を28GHz、出力を2kWとし、350℃で12分間加熱して固化成形し、実施例3の熱電材料を作製した。
次に、液体急冷法により作製した箔片を、直径が30mmでアルミナ製の型に充填して通電加熱装置のチャンバー内に配置し、チャンバー内を1.33Pa(1×10−2Torr)以上の高真空に排気した後、Arガスで置換した。そして、通電加熱焼結法により、SKD61鋼製の導電性パンチを使用し、98MPaの圧力を印加しながら、480℃の温度下で4分間加熱して固化成形し、実施例4の熱電材料を作製した。また、通電加熱焼結法により、98MPaの圧力を印加しながら、500℃の温度下で5分間加熱して固化成形し、実施例5の熱電材料を作製した。更に、通電加熱焼結法により、98MPaの圧力を印加しながら、350℃の温度下で15分間加熱して固化成形し、実施例6の熱電材料を作製した。更にまた、通電加熱焼結法により、98MPaの圧力を印加しながら、450℃の温度下で8分間加熱して固化成形し、実施例7の熱電材料を作製した。
次に、液体急冷法により作製した箔片を、直径が30mmの金型に充填して放電プラズマ焼結機のチャンバー内に配置し、チャンバー内を1.33Pa(1×10−2Torr)以上の高真空に排気した後、Arガスで置換した。そして、放電プラズマ焼結法により、98MPaの圧力を印加しながら、460℃の温度下で5分間加熱して固化成形し、実施例8の熱電材料を作製した。また、放電プラズマ焼結法により、98MPaの圧力を印加しながら、500℃の温度下で5分間加熱して固化成形し、実施例9の熱電材料を作製した。また、放電プラズマ焼結法により、98MPaの圧力を印加しながら、460℃の温度下で15分間加熱して固化成形し、実施例10の熱電材料を作製した。
次に、組成がBi2Te2.7Se0.3であるインゴットを、アーク溶解装置の水冷るつぼに充填し、チャンバー内を1.33Pa(1×10−2Torr)以上の高真空に排気した。そして、チャンバー内をArガスで置換し、650℃の温度条件下でインゴットをアーク溶解した後、水冷により溶融物全体を、冷却速度1×102K/秒で急冷し、実施例11の熱電材料を作製した。
次に、前述の第2の実施形態の熱電材料の製造方法と同様の方法で、組成がBi0.4Sb1.6Te2.8Se0.2であるインゴットを作製し、液体急冷法により箔片化した。なお、この液体急冷箔片の6cサイトにおけるSe占有率は63%であった。そして、この箔片を、直径が30mmの金型に充填し、冷間で98MPaの圧力を印加しながらプレスしてペレット化した。このペレットをマイクロ波焼成装置のチャンバー内に配置し、チャンバー内を1.33Pa(1×10−2Torr)以上の高真空に排気した後、Arガスで置換した。その後、マイクロ波焼結法により、周波数を28GHz、出力を1kWとし、500℃で3分間加熱して固化成形し、実施例12の熱電材料を作製した。
次に、実施例で使用した箔片と同じ箔片を、マイクロ波焼結法により、前述の実施例と同様の方法で、周波数を2GHz、出力を5kWとし、450℃で10分間加熱して固化成形し、比較例1の熱電材料を作製した。また、液体急冷法により作製した箔片を、通電加熱焼結法により、98MPaの圧力を印加しながら、350℃の温度下で5分間加熱して固化成形し、比較例2の熱電材料を作製した。更に、通電加熱焼結法により、98MPaの圧力を印加しながら、350℃の温度下で20分間加熱して固化成形し、比較例5の熱電材料を作製した。
次に、液体急冷法により作製した箔片を、ホットプレス法により、98MPaの圧力を印加しながら、460℃の温度下で5分間加熱して固化成形し、比較例3の熱電材料を作製した。また、ホットプレス法により、98MPaの圧力を印加しながら、460℃の温度下で60分間加熱して固化成形し、比較例4の熱電材料を作製した。なお、これら実施例1乃至12及び比較例1乃至5の熱電材料においては、熱伝導率κのうちキャリアによる成分κキャリアの効果を除去するため、比抵抗ρが1.0×10−5Ω・m程度になるように、キャリア濃度を調整している。
次に、上述の方法で作製した実施例1、12、参考例2、3、4、5、6、7、8、9、10、11及び比較例1乃至5の熱電材料について、熱電物性及び6cサイトにおけるSeの占有率を調べた。その結果を下記表1及び表2に示す。なお、下記表1及び表2に示すSeの占有率はX線チャンネリング分光法により求めた。また、評価は、6cサイトにおけるSeの占有率が30原子%以上で且つ性能指数Zが3.0よりも大きいものを○、Se占有率が0よりも大きく且つ30原子%未満であり、性能指数Zが2.5よりも大きいものを△、Se占有率が0原子%又は性能指数Zが2.5よりも小さいもの場合を×とした。
上記表1に示すように、比較例1、2及び5の熱電材料は、作製条件が本発明の範囲を超えているため、6cサイトに位置するSeが全て3aサイトに再配列し、6cサイトにおけるSe含有率が0%であった。その結果、比較例1、2及び5の熱電材料は、熱伝導率κが高く、性能指数Zが低かった。また、ホットプレス法により短時間加熱で固化成形した比較例3の熱電材料は、Se占有率は高いが、焼結が不十分であるため密度が低く、比抵抗ρを低減することができなかった。その結果、比抵抗ρが高く、性能指数Zが低かった。更に、ホットプレス法により長時間加熱して固化成形した比較例4の熱電材料は、焼結度を向上させることができるため比抵抗ρを低減することはできたが、6cサイト位置していたSeが全て3aサイトに再配列し、6cサイトにおけるSe含有率が0%であった。その結果、熱伝導率κが高く、性能指数Zが低かった。
一方、上記表1及び表2に示すように、実施例1、12及び参考例2、3、4、5、6、7、8、9、10、11の熱電材料は、いずれも6cサイトにSeが配置されており、6cサイトのTeの一部がSeで置換された結晶構造であった。このため、比抵抗ρを増加させずに、熱伝導率κを低減することができた。その結果、性能指数Zが向上し、2.5を超えていた。特に、マイクロ波焼結法により焼結温度を450℃、焼結時間を5分間として固化成形した実施例1の熱電材料、通電加熱焼結法により焼結温度を480℃、焼結時間を4分間として固化成形した参考例4の熱電材料、放電プラズマ焼結法により焼結温度を460℃、焼結時間を5分間として固化成形した参考例8の熱電材料、アーク溶解法により固化成形した参考例11の熱電材料及びマイクロ波焼結法により焼結温度を500℃、焼結時間を3分間として固化成形した実施例12の熱電材料は、6cサイトにおけるSe含有率が30原子%よりも高くなり、性能指数Zが3.0を超えていた。
次に、本発明の第2実施例として、前述の第2の実施形態の熱電材料の製造方法と同様の方法で、組成がBi2Te2.7Se0.3であるインゴットを作製し、液体急冷法により冷却速度を1×103K/秒以上にして箔片化し、実施例21の液体急冷箔片を作製した。また、実施例21と同じインゴットを使用し、液体急冷法により冷却速度を1×103K/秒未満にして、箔片化し、比較例22の液体急冷箔片を作製した。更に、実施例21の液体急冷箔片を、水素雰囲気中で、400℃の温度条件下で、10時間脱酸素処理を施して、比較例23の液体急冷箔片を作製した。そして、前述の第1実施例と同様の方法で、これらの液体急冷箔片の6cサイトにおけるSe占有率を測定したところ、実施例21は58%であったが、冷却速度が1×103K/秒未満であった比較例22は、28%であり、水素還元処理を施した比較例23は18%であった。
次に、本発明の第3実施例として、液体急冷法により作製した箔片をモジュール化し、その特性を評価した。具体的には、前述の第2の実施形態の熱電材料の製造方法と同様の方法で、組成がBi2Te2.7Se0.3であるインゴットを作製し、液体急冷法により冷却速度を1×103K/秒以上にして箔片化してn型熱電材料箔片を作製した。また、同様の方法で、組成がBi0.4Sb1.6Te2.9Se0.1であるp型熱電材料箔片を作製した。これらn型及びp型熱電材料箔片の厚さは、共に10μmであった。次に、このn型及びp型熱電材料箔片を、ダイシング切断機により、縦100μm、横100μmに切断した。そして、この切断された熱電材料箔片を、厚さが0.1mmのアルミナ基板上に形成され、表面にはんだが塗布されている電極上に実装した。更に、このアルミナ基板上に実装されたn型及びp型熱電材料箔片上に、表面にはんだが塗布されている電極が形成された厚さが0.1mmのアルミナ基板を、はんだ面が熱電材料箔片側になるように配置した後、加熱プレスし、はんだを介してn型及びp型熱電材料箔片と電極とを接合し、実施例31の熱電モジュールを作製した。なお、この熱電モジュールにおける横断面サイズ(基板サイズ)は、縦2.6mm、横2.6mmであった。
また、本実施例の比較例として、実施例31と同様の方法で作製したn型及びp型熱電材料箔片を、Ar雰囲気中で、400℃の温度条件下で20時間熱処理したものを、実施例31と同様の方法でアルミナ基板上に実装し、比較例32の熱電モジュールを作製した。なお、この熱電モジュールにおける横断面サイズ(基板サイズ)も、前述の実施例31と同様に、縦2.6mm、横2.6mmとした。
次に、実施例31の熱電モジュール及び比較例32の熱電モジュールについて、n型熱電材料箔片の6cにおけるSe占有率、温度差ΔT及び放熱側基板の温度(Th)を27℃に固定したときの最大吸熱量Qmaxを測定した。その際、各熱電材料箔片のSe占有率は、X線チャンネリング分光法により求めた。また、図8は温度差ΔTの測定方法を模式的に示す断面図であり、図9は最大吸熱量Qmaxの測定方法を模式的に示す断面図である。図8に示すように、温度差ΔTの測定では、排熱用ヒートシンク2上に温調用ペルチェモジュール3及び銅板4をこの順に配置し、その上に測定対象の熱電モジュール1を放熱側基板が下側になるようにして配置した。更に、熱電モジュール1の吸熱側基板上に銅板5を配置し、銅板4及び銅板5の略中心部分に夫々放熱側基板温度(Th)測定用熱電対6及び吸熱側基板温度(Tc)測定用熱電対7を取り付けた。そして、温調用ペルチェモジュール3により放熱側基板温度Thを100℃に維持しながら、熱電モジュール1に電流を流し、吸熱側基板温度Tcを測定し、放熱側基板温度と吸熱側基板温度との差(Th−Tc)の最大値を温度差ΔTとした。
図9に示すように、最大吸熱量Qmaxの測定では、排熱用ヒートシンク2上に温調用ペルチェモジュール3及び銅板4をこの順に配置し、その上に測定対象の熱電モジュール1を放熱側基板が下側になるようにして配置した後、熱電モジュール1の吸熱側基板上に銅板5及びヒーター8をこの順に配置し、銅板4及び銅板5に夫々放熱側基板温度(Th)測定用熱電対6及び吸熱側基板温度(Tc)測定用熱電対7を取り付けた。その後、ヒーター8に電力を投入して発熱させ、温調用ペルチェモジュール3により放熱側基板温度Th及び吸熱側基板温度Tcを27℃に維持しながら、熱電モジュール1に電流を流した。そして、ヒーター8の出力を徐々に増加させながら、熱電モジュール1に流す電流を増やし、放熱側基板温度Thと吸熱側基板温度Tcとが同じになるように調節した。その結果、熱電モジュール1に流す電流を増加させても、放熱側基板温度Thと吸熱側基板温度Tcとが同じにならなくなったときのヒーター8の出力を最大吸熱量最大吸熱量Qmaxとした。
上記表3に示すように、液体急冷法により作製した箔片をそのままモジュール化した実施例31は、n型熱電材料箔片の6cサイトにおけるSe占有率が62%と高く、TeとSeとが図1に示す状態のように区別無く置換されているため、液体急冷箔片に熱処理を施したn型熱電材料箔片を使用した比較例32のモジュールに比べて、温度差ΔT及び最大吸熱量Qmax共に優れていた。
更に、基板の厚さを0.2mmとし、それ以外は実施例31の熱電モジュールと同じ方法及び条件で実施例33の熱電モジュールを作製した。そして、これら実施例31及び実施例33の熱電モジュール、並びに比較例34として従来の汎用型の熱電モジュールについて、温度差ΔT及び放熱側基板の温度(Th)を27℃に固定したときの最大吸熱量Qmaxを測定した。なお、比較例34の従来の汎用型の熱電モジュールにおける断面サイズは、縦2.6mm、横2.6mmであった。また、温度差ΔT及び最大吸熱量Qmaxは、基板と銅板とをはんだで接合した場合(グリース無)と、基板外面に厚さが20μmになるようにグリースを塗布し、その上に銅板を配置した場合(グリース有)との2通りの方法で測定した。以上の結果を下記表4に示す。
上記表4に示すように、実施例31及び実施例33の熱電モジュールは、n型熱電材料及びp型熱電材料の厚さが薄いため、比較例34の従来の熱電モジュールに比べて温度差ΔTは小さいが、最大吸熱量Qmaxは比較例34の熱電モジュールに比べて極めて大きかった。但し、熱流を阻害する要因となるため、基板の厚さは薄い方が好ましく、また、n型及びp型熱電材料を実装する際にグリースは使用しない方が好ましい。
本発明は、小型冷蔵庫及び温度調整器等に使用されるペルチェモジュール用として好適である。
本発明の第1の実施形態の熱電材料の結晶構造の一例を示す図である。
Bi2Te3の結晶構造を示す図である。
Bi2Te2Seの結晶構造を示す図である。
横軸にTe量をとり、縦軸に熱伝導率κのうち格子振動(フォノン)による成分κphをとって、Se置換量と格子熱伝導率κphとの関係を示すグラフ図である。
本発明の第2実施形態の熱電材料の製造方法を示すフローチャート図である。
図1に示す熱電材料のSeが再配列した場合の結晶構造を示す図である。
横軸に焼結時間をとり、縦軸に焼結温度をとって、固化成形条件と性能指数Zとの関係を示すグラフ図である。
温度差ΔTの測定方法を模式的に示す断面図である。
最大吸熱量Qmaxの測定方法を模式的に示す断面図である。
符号の説明
1;熱電モジュール 2;排熱用ヒートシンク 3;温調用ペルチェモジュール 4、5;銅板 6、7;熱電対 8;ヒーター