JP4459468B2 - 焼成炉用耐熱性部材及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、膨潤性鉱物を主成分とする被膜を形成した焼成炉用耐熱性部材及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
電子部品の焼成炉等においては、壁体からの発塵が極力小さいことが望まれる。一方で、焼成炉に用いられる断熱材としては、耐熱性が高く低熱容量であることから、セラミックス質繊維を用いたものが採用されている。しかし、セラミックス質繊維を用いた断熱材は、発塵が比較的多いという問題があり、電子部品等のクリーン性が求められる製造環境には利用し難い。
【0003】
発塵を防止するための技術として、断熱材の表面に被膜を形成し、粉落ちを防止する技術がある。この技術に関しては、例えば特開昭57−13514号や特開平1−219083号各公報に記載されている技術が公知である。
【0004】
これらの公報に記載されている技術は、セラミックス材料表面にガラス質の被膜、またはその前駆体を形成するものである。しかし、本発明者らの知見によれば、これらの技術はガラス化のための熱処理が必要であり、また熱衝撃性が十分ではなく、更に発塵の抑制が必ずしも十分でない等の問題があり、要求される性能を満たすものではない。
【0005】
また、特公平4−24316号公報には、厚さが数百オングストローム以下になるまで劈開させた平均アスペクト比が1000以上の合成マイカ微細箔片を含有した塗料が開示されている。しかし、この塗料はマイカ粉を細かく劈開させてあるので、被膜の形成後にマイカ粉が粉落ちし易く、発塵が多いという問題がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、より高い耐熱性を有し、かつ表面からの発塵がより抑制された焼成炉用耐熱性部材を提供すること、並びに前記耐熱性部材を製造するための簡便な方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、耐熱性基材上に、水により膨潤する膨潤性鉱物をコーティング液全量の3〜10重量%、及び無機バインダーを前記膨潤性鉱物に対し固形分比で5〜45重量%含有するコーティング液を塗布し、乾燥してなる被膜が形成されていることを特徴とする焼成炉用耐熱性部材(以下、単に「耐熱性部材」という)を提供する。
【0008】
また、本発明は、耐熱性基材上に、水により膨潤する膨潤性鉱物をコーティング液全量の3〜10重量%、及び無機バインダーを前記膨潤性鉱物に対し固形分比で5〜45重量%含有するコーティング液を塗布し、前記コーティング液を乾燥させることを特徴とする耐熱性部材の製造方法を提供する。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の耐熱性部材は、基材上に、水により膨潤する膨潤性鉱物を主成分として含有する被膜(以下、「膨潤性鉱物被膜」という)が成膜されている。本発明において、この膨潤性鉱物とは、層状の結晶構造を有し、さらに層間に陽イオンが介在しており、この陽イオンに水が水和することで、層間方向(層の厚み方向)に膨潤する性質を備えた鉱物のことをいう。
【0010】
具体的には、膨潤性鉱物として、合成あるいは天然のスメクタイト粘土鉱物群から選ばれたもの(この中にはベントナイトも含まれる)、あるいは層間にナトリウム等のアルカリイオンをインターカレーションさせ膨潤性を付与したマイカ(膨潤性マイカ)が挙げられる。スメクタイトやベントナイトは、特殊処理することなく、それ自身が層間にアルカリイオンを介在させ、膨潤性を有している。一方、膨潤性マイカは、タルクとケイフッ化アルカリとの混合物を加熱処理し、固相反応させることで得られる。これらの中でも、膨潤性マイカが粒子径が大きく、また個々の粒子が特にきれいな層状に並びやすく、発明の目的を最もよく実現できるので好ましい。
【0011】
膨潤性鉱物被膜を形成するには、この膨潤性鉱物を水に分散させたコーティング液を被処理部材に塗布し、乾燥させればよい。それにより、膨潤性鉱物が層状をなしたフィルム状の被膜が成膜される。このとき、膨潤鉱物の結晶層間に介在する陽イオンに水が水和して膨潤する。そして膨潤することで、劈開し易くなり、コーティング液中で薄い鱗片状となる。特に、鱗片状の膨潤性鉱物は、層構造を有し、膨潤した状態において、層状に配向しやすく、鱗状の被膜構造が形成されやすい。
【0012】
また、鱗片状膨潤性鉱物は、膨潤後の平均粒子径が0.5〜10μmとなることが好ましく、この範囲にあると、コーティング液を塗布し乾燥させたときに鱗状に粒子が並びやすく、特に良好な膨潤性鉱物被膜が形成される。図1は実施例1で得られた膨潤性鉱物被膜の表面を撮影した電子顕微鏡写真であるが、鱗状に粒子が並んだ被膜が形成されているのがわかる。
【0013】
コーティング液における膨潤性鉱物の含有量は3〜10重量%の割合が好ましい。膨潤性鉱物量が3重量%より少ないと、コーティング液の粘度が低く、コーティングした際にレベリングや密着性において好ましくない。10重量%より多いと、粘度が高すぎてコーティング液の塗布性が悪くなり、均質な膨潤性鉱物被膜が形成し難くなる。
【0014】
また、コーティング液には無機バインダーを添加することが好ましく、それにより膨潤性鉱物の粒子同士の結合がより強固になり、発塵性をより低減させることができるようになる。無機バインダーとしては、コロイダルシリカ、アルミナゾル、アルカリ珪酸塩(珪酸リチウム、水ガラス、珪酸ソーダ)から選ばれた一種または複数種類が利用できる。これらの中でも、コロイダルシリカが最も高い効果が得られ好ましい。無機バインダーの添加量は、固形分換算で膨潤性鉱物に対して5〜45重量%の割合が好ましく、5重量%より少ないと無機バインダーを添加した効果が十分に発現せず、45重量%より多いと乾燥時に割れが発生しやすくなる。
【0015】
コーティング液の塗布量としては、基材の表面に0.05〜2g/cm2の面密度で塗布することが好ましく、これにより良好な膜質の膨潤性鉱物被膜が得られる。また、コーティング液を塗布し、乾燥した後に、適当な加熱処理、例えば100℃程度の温度下に数時間放置してもよく、これにより膨潤性鉱物被膜の安定化を図ることができる。
【0016】
このようにして得られる膨潤性鉱物被膜は、後述される実施例にも示すように、800℃程度までの耐熱性に加えて、優れた気密性(ガスバリア性)、低発塵性、平滑性を有している。また、成膜時や熱衝撃を受けた際に亀裂が生じたりすることがない。これは、膨潤性鉱物が、アルカリイオンが層間に介在した層構造を有するため、ミクロ的に見て、層間で微妙なズレが起こり易く、更に鱗状になった各粒子間でも微妙なズレが発生し易いので、問題となるような亀裂が発生する前にその力が吸収緩和されるからであると推察される。このことは、被膜として考えた場合に熱衝撃を受けることで、発塵し易くなったり、剥がれやすくなったりする問題を抑える点で有意なものとなる。また、無機質であるので、加熱時に発煙や臭いを発する問題がない。
【0017】
これに対し、層状構造を有する鉱物でも、水により膨潤しないもの(例えば非膨潤性マイカ)を用いた場合は、薄膜化がうまくゆかず、耐熱性、低発塵性、平滑性のいずれの点でも劣ったものとなる。
【0018】
尚、本発明において、膨潤性鉱物被膜が成膜される基材としては耐熱性基材、例えば断熱材等が適当であり、耐熱性をはじめとして、上記の優れた緒特性を付与することができる。特に、低発塵性を備えることから、電子部品の焼成炉等に好適である。
【0019】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を更に説明する。
【0020】
(実施例1)
水に膨潤性合成マイカ(平均粒径5μm)を7重量%混合し、良く攪拌した。この液100重量部に、コロイダルシリカを1.2重量%配合し、コーティング液を得た。尚、膨潤性合成マイカは、タルクとケイフッ化アルカリを混合し、蓋付き坩堝中で850℃、1時間の加熱処理を施すことで得た。
【0021】
他方で、下記の原料を混合してスラリーを得た。
アルミナ繊維 100重量部
コロイダルシリカ 8重量部(固形分換算)
有機バインダ(ポリアクリルアミド) 1重量部(固形分換算)
【0022】
上記スラリーから吸引脱水成形法により厚さが50mm、幅が300mm、長さが300mmの成形体を得、それを乾燥させて、密度が0.25g/cm3の断熱板を得た。
【0023】
そして、上記断熱板の表面に、上記コーティング液を0.25g/cm2の面密度で塗布し、110℃にて6時間自然乾燥させた。こうして、厚さ約100μmの被膜で被覆された繊維質断熱材を得た。この被膜の表面状態を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真を図1に示す。
【0024】
(実施例2)
実施例1と同一の膨潤性合成マイカ(平均粒径5μm)を7重量%の割合で配合した液(7%液)を得た。この液100重量部に珪酸リチウムを1.2重量部配合し、コーティング液を得た。そして、他は実施例1と同様にして被膜を備えた断熱材を得た。
【0025】
(比較例1)
原料として非膨潤合成マイカ(平均粒径5μm)を水に7重量%の割合で配合し、この液100重量部に対してコロイダルシリカを固形分換算で1.2重量部配合し、コーティング液を得た。そして、他は実施例1と同様にして被膜を備えた断熱材を得た。
【0026】
(比較例2)
原料として水にEガラス粉(平均粒径7μm)を7重量%の割合で混合し、その液100重量部にコロイダルシリカを1.2重量部の割合で配合してコーティング液を得た。そして、他は実施例1と同様にして被膜を備えた断熱材を得た。
【0027】
上記各実施例及び比較例で得られた断熱材について、熱衝撃性及び気密性を評価した。尚、熱衝撃性の評価は、600℃に保持された電気炉に断熱材を投入し、30分保持した後に炉から取り出し、それを強制空冷により冷却した後に被膜表面の状態を観察し、裂等の発生がないものを「○」、亀裂等が発生しているが致命的でないものを「△」、使用に耐えないレベルの亀裂等が発生しているものを「×」、として評価した。また、気密性の評価は、JISR2115に準拠した通気率を計測し、透気度が10-13m2より小さいのものを「○」、10-13m2〜10-11m2のものを「△」、10-11m2より大きいものを「×」とした。それぞれの結果を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
表1に示すように、本発明に従う各実施例の断熱材は両評価ともに優れた結果が得られている。しかし、比較例1の断熱材では被膜の緻密性が低いため、全ての試験において不満足なものとなっている。また、比較例2は、粉落ちが多く、また緻密性がかなり低いので、実用にならない程度のものであった。
【0030】
(比較例3)
また、比較例2の断熱材を更に800℃、1時間の熱処理を施して被膜のガラス化処理を施して同様の熱衝撃性と気密性の評価を行った。結果を表1に併記したが、加熱処理を施してガラス化させることで、比較例2の断熱材でも気密性が改善されることが分かる。しかし、ガラス化させた被膜は、基材との熱膨張差の違いに起因する亀裂の発生が問題となる。
【0031】
また、上記特性上の問題に加えて、熱処理に要するコストアップも問題となり、更にはガラス化のための熱処理温度に耐え得る基材にしか適用できないという制約もある。
【0032】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、耐熱性に優れ、表面からの発塵がより抑制された耐熱性部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得られた耐熱性部材の表面状態を写した電子顕微鏡写真である。
Claims (7)
- 耐熱性基材上に、水により膨潤する膨潤性鉱物をコーティング液全量の3〜10重量%、及び無機バインダーを前記膨潤性鉱物に対し固形分比で5〜45重量%含有するコーティング液を塗布し、乾燥してなる被膜が形成されていることを特徴とする焼成炉用耐熱性部材。
- 膨潤性鉱物がマイカ、ベントナイト、スメクタイトの一種もしくは二種以上からなる混合物であることを特徴とする請求項1に記載の焼成炉用耐熱性部材。
- 膨潤性鉱物は、鱗片状の結晶構造を有し、かつ平均粒子径が0.5〜10μmであること特徴とする請求項1または2に記載の焼成炉用耐熱性部材。
- 膨潤性鉱物は、層間にアルカリイオンが介在する層構造を有することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の焼成炉用耐熱性部材。
- 無機バインダーがコロイダルシリカであることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の焼成炉用耐熱性部材。
- 800℃までの耐熱性を有し、かつJIS R2115に規定される通気率が10−13m2以下であるいることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の焼成炉用耐熱性部材。
- 耐熱性基材上に、水により膨潤する膨潤性鉱物をコーティング液全量の3〜10重量%、及び無機バインダーを前記膨潤性鉱物に対し固形分比で5〜45重量%含有するコーティング液を塗布し、前記コーティング液を乾燥させることを特徴とする焼成炉用耐熱性部材の製造方法。
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