JP4457227B2 - 炭素被覆形強磁性金属球形粒子及びその製造方法 - Google Patents

炭素被覆形強磁性金属球形粒子及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、炭素により表面が被覆された強磁性金属球形粒子の構造とその製造方法に関
する。
鉄、ニッケル、コバルトからなる旧分類で呼ばれるところの鉄族元素は、最外殻d電子
の存在により、強磁性を示す。一方、これらの鉄族元素は炭素と共晶系をつくるため、多
量のグラファイトを含有する金属粉末(以下、「強磁性金属グラファイト粉末」と称する
)の形成が可能であり、種々の工業的応用に供せられている。
このような強磁性金属グラファイト粉末としては、ニッケルグラファイト粉末が市販さ
れており、低摩耗材として摺動部品製造などに応用されている。また、ニッケルグラファ
イト粉末は、プラズマ溶射法により航空機エンジンのベース素材表面にコーティングする
ための材料としても重要である。さらに、このニッケルグラファイト粉末に薄く金を被覆
したものは金被覆ニッケルグラファイト粉末として市販され、半導体デバイスのパッケー
ジ材料に供せられている。これらの市販されているニッケルグラファイト粉末は、粒径が
10μmないし30μmの不定形の外見を有し、かつ、表面にニッケル相とカーボン相が
露出した組織構造すなわち共晶系に一般的な組織構造を有している。また、その表面形状
は、粗であり、直径数十nm程度の多数の孔及び窪みを有している。
このような組織構造のため、従来、市販されていたニッケルグラファイト粉末は、腐食
性雰囲気下で用いると露出したニッケル相が腐食されるという欠点、及び不定形形状のた
め、さらなる低摩耗性の改善は実現困難という問題点を有していた。このような問題点の
存在などの事情もあって、強磁性という特徴を利用したニッケルグラファイト粉末の応用
や腐食性雰囲気下で使用可能な低磨耗材としてのニッケルグラファイト粉末の応用は開発
されていなかった。上記の構造上の問題点が解決されれば、これらの新しいニッケルグラ
ファイト粉末の応用が拓かれるものと期待される。
Ni,Co,Feなどの磁性金属粉末に炭素を被覆したものも知られている(例えば、
特許文献1〜3)。すなわち、特許文献1では、ニッケル粉末を加熱した試料台に乗せベ
ンゼンを含むガスにさらす方法により、表面に熱分解炭素を堆積したニッケル粉末が製造
され、電池用電極材料として供せられている。しかしながら、この製造方法では、ニッケ
ル粉末の試料台に接した表面はベンゼンを含むガスにさらされないため炭素は堆積せず、
したがって、腐食性雰囲気下で使用可能なニッケル粉末の提供は困難である。
また、特許文献2では、Fe、Ni、Coなどの粉末とカーボンブラックを混合し不活
性ガス中で1600℃〜2800℃で加熱し45℃/min以下の冷却速度で冷却する方
法により、グラファイト被覆金属粒子が製造されているが、冷却速度が遅いため安価でか
つ大量の製造は困難である。特許文献3には、カーボンロッドに金属粉末を充填させ、ア
ーク放電させる方法により炭素被覆を有するナノ水準金属微粒子の製造が記載されている
が、アーク放電法は大量生産に適さない。
このように、従来知られていた製造方法による炭素表面被覆形強磁性金属球形粒子は、
均一な厚さの炭素により被覆されていないため腐食性雰囲気下での使用が困難(特許文献
1に記載)という欠点や大量かつ安価に生産することが困難(特許文献2及び3に記載)
という欠点を有していた。
一方、炭素のみからなるグラフェンシートが円筒形に丸まってできるカーボンナノチュ
ーブ(以降CNTと呼ぶ)とグラフェンシートが繊維軸に対して垂直若しくは傾斜又は平
行に積層されてできるカーボンナノファイバー(以降CNFと呼ぶ)は、電子放出源やリ
チウムイオン2次電池電極、燃料電池電極などへの応用が期待され、量産化製造技術の開
発が活発に行われている。
これらの応用におけるデバイスの高性能特性を実現するためには、CNTやCNFを所
望の位置に所望の分布を持って配置させる必要がある。特に、CNTは優れた機械的、電
気的性質を有するため、CNTを所望の位置に所望の分布を持って配置させる技術の応用
価値は高い。例えば、CNTを平面ディスプレイの電子放出源として用いる場合には、溶
媒に分散させたCNTを電子放出源電極上にエアブラシにより吹き付けることによりCN
Tを形成している。また、ニッケルなどの触媒金属膜を所望の位置に所望の形状で設置さ
せた後、メタンやアセチレンを原料ガスとした化学気相成長法により触媒金属膜上に選択
的にCNTを形成することも可能である。
上記の配置法のうち、化学気相成長法を用いる方法は高価な成長装置が必要という欠点
がある。吹き付け法を用いる方法は所望の形状にCNTを配置するために高価な写真食刻
装置が必要という欠点がある。
強磁性金属粒子の表面にCNTやCNFを形成できれば、CNTやCNFを所望の位置
に所望の分布を持って配置させるために外部磁場によって強磁性金属粒子を操作すること
により、高価な装置を必要とせずに所望の形状にCNTやCNFを配置することができる
と期待される。しかし、従来技術ではCNTやCNFが表面に形成され、かつ、外部磁場
により精密に操作可能な形状を有する強磁性金属粒子は実現されていなかった。
特許文献4には、強磁性金属粒子が存在する炭素フィブリルのクラスターが記載されて
いる。この文献における炭素フィブリルとは米国特許5,171,560及び米国特許4
,855,091にその製法が記載されたものであって、本明細書で云うところのCNF
に相当するものであり、CNTを指すものではない。また、特許文献4に記載の炭素フィ
ブリルは、二酸化ケイ素などの担体物質上に担持された強磁性金属粒子をベンゼンなどの
気体流にさらすことにより形成されるものであって、炭素フィブリルの直径は強磁性金属
粒子の寸法と同程度となり、かつ、炭素フィブリルの軸方向の長さはその直径よりもはる
かに大きくなる。この結果、強磁性金属粒子の形状が外部磁場によりその配置を精密に制
御可能な等方的形状の球形であったとしても、強磁性金属粒子から成長した炭素フィブリ
ルの寸法が強磁性金属粒子の寸法よりも大きいため異方的形状となる。
実際、特許文献4の発明の詳細な説明[0043]には、炭素フィブリルに付随する強
磁性金属粒子の量は炭素フィブリルの量に較べはるかに少ない旨記述されている。この結
果、必然的に異方的形状となる。このような形状を有する強磁性金属粒子付の炭素フィブ
リルのクラスターは、形状異方性がはなはだしいため操作性に劣り、したがって、外部磁
場により炭素フィブリルの配置を精密に制御することは困難となる。長さ方向の軸の寸法
が強磁性金属球形粒子の寸法よりはるかに大きくなく、望ましくは長さ方向の軸が強磁性
金属球形粒子の表面と平行なCNTやCNFを強磁性金属球形粒子上に形成できれば、形
状等方性に優れるため操作性に優り、所望の形状にCNTやCNFを配置することができ
るが、このような形状を有する強磁性金属球形粒子とその製造方法は、これまでに知られ
ていなかった。
球状粒子の製造技術として、熱プラズマによる製造方法が知られている(特許文献5,
6)。特許文献5には、プラズマ流を上方に向けて発生し、それに対し向流的に粒子を供
給すること、供給機構の付与が有効であることが記載されている。この粉末供給法では、
プラズマ流の温度が下がった所に粉末を供給するので、高融点化合物の球状化には不利で
あると思われる。
特許文献6では、プラズマ下流部にプラズマフレーム炉を設けてプラズマフレームの均
質化を図っている。原料供給は、プラズマフレーム炉の下流部で行うのでやはり、高融点
化合物の球状化には適さない。
本発明者らは、プラズマ中に粉末供給プローブを用いて粉末を供給する方法による3,07
0℃という高融点をもつ炭化チタンの球状化方法に関して報告した(非特許文献1)。さ
らに、本発明者らは、熱プラズマ処理を用いた炭素粒子などの無機材料合成技術を開発し
ている(非特許文献2、特許文献7)。
特開平5−28994号公報 特開平9−143502(特許第3482420号)公報 特表平9−506210号公報 特表2002−507055号公報 特開平4−246104号公報 特開平10−189291号公報 特開2003−272624号公報 "Spheroidization of Titanium Carbide Powders by Induction Thermal Plasma Processing", Y.L. Li and T. Ishigaki, J. Am. Ceram. Soc., 84(9), 1929-1936(2001) 高温学会誌、第28巻第3号(2002年5月)、第98−106頁
本発明が解決しようとする第1の課題は、従来の強磁性金属グラファイト粉末の欠点で
ある容易腐食性ならびに磨耗性を改善した炭素表面被覆形強磁性金属球体粒子を大量かつ
安価に生産可能な製造方法を提供するところにある。また、第2の課題は、前記強磁性金
属球体表面をCNT及び/又はCNFで修飾することにより、高価な装置を必要とせずに
、強磁性の特性を利用して、CNT及び/又はCNFを所望の位置に所望の分布を持って
配置可能とする新規材料とその製造方法を提供するところにある。
ここで、「表面をCNT及び/又はCNFで修飾する」とは、表面の一部又は全面にC
NT及び/又はCNFが配置された状態を指すが、表面上でのCNT及び/又はCNFの
個々の配置形態や分布までを規定するものではない。CNT及び/又はCNFの長さ方向
の軸は強磁性金属球体表面に対して平行であっても平行でなくてもよいが、平行でない場
合にはその軸長は、強磁性金属球体の直径の2倍を越えないことが要求される。2倍を越
えるとCNT及び/又はCNFで修飾された強磁性金属球体の形状は、修飾といえないほ
ど形状等方性を失い、外部磁場による操作の容易性を失うからである。ただし、長さ方向
の軸が強磁性金属球体表面に対して平行な場合は、直径の2倍を越える軸長であってもC
NT及び/又はCNFは強磁性金属球体に接して配置されるため、「表面をCNT及び/
又はCNFで修飾する」と云う。
前記の第1の課題を解決するためには、鉄族元素と炭素からなる融体を固化することに
より、緻密な炭素層により被覆され、かつ、粒子形状が球状をなす強磁性金属粒子が製造
されればよい。しかし、鉄族元素は炭素と共晶を形成するため、鉄族元素と炭素からなる
融体が固化する際に、通常、鉄族元素を含む固相が表面に露出してしまう。このため、鉄
族元素が表面に露出せず炭素層により表面が被覆された構造は、従来用いられてきた大量
かつ安価に生産可能な製造方法によっては実現されていなかった。
そこで、本発明者らにおいては、鋭意研究した結果、強磁性金属グラファイト粉末に熱
プラズマ処理を施す合成法を採用することにより、炭素で完全に被覆され、したがって表
面に強磁性金属が露出されず、かつ球状形状を有する炭素表面被覆形強磁性金属球形粒子
をはじめて見出した。炭素皮膜は高結晶性ほど耐腐食性が向上するが、この方法によれば
、結晶化度の高い炭素皮膜が形成される。
さらに、熱プラズマ処理における高周波投入電力と冷却速度を制御することにより、前
記の第2の課題であるCNTやCNFで表面が修飾された炭素表面被覆形強磁性金属球形
粒子をはじめて見出した。高周波電力の増加により、より炭素リッチ組成の混合物の溶融
が可能になる。また、冷却速度を増大するとCNT、CNFの析出量が増加する。
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、その構成は、以下(1)〜(5)に
記載のとおりである。
(1)
鉄、ニッケル、コバルトからなる元素群から選ばれた1種以上の金属元素と炭素との共晶点組成を含む組成の共晶合金からなる球状の強磁性金属核と、上記球状強磁性金属核の表面の全面を被覆する該強磁性金属元素と炭素とを含有する液滴から析出したグラファイト殻とを具備し、前記グラファイト殻の網目状の亀裂にカーボンナノチューブ及び/又はカーボンナノファイバーが形成されたことを特徴とする炭素被覆形強磁性金属球形粒子。
)鉄、ニッケル、コバルトからなる元素群から選ばれた1種以上の金属元素と炭素との共晶組成における炭素含有量より炭素リッチの金属―炭素の複合又は混合粉末を、
気相中において熱プラズマ処理を行うことにより上記粉末を溶解して球形の融体を形成する工程、
該融体を気相中において共晶点以上の温度で炭素の析出温度以下に冷却することにより炭素を融体表面に析出させて球形の融体表面を高融点成分の炭素からなるグラファイトを被覆する工程、
グラファイトによって被覆された球形融体を気相中において該共晶点以下に冷却することにより鉄、ニッケル、コバルトからなる元素群から選ばれた1種以上の金属元素と炭素との共晶点組成を含む組成の共晶合金からなる球形核とグラファイト構成される球形構造物を形成するとともにグラファイト殻に亀裂を形成させて球形核表面の一部を気相に露出する工程、
露出した鉄、ニッケル、コバルトからなる元素群から選ばれた1種以上の元素の触媒作用により気相中の活性炭素を用いてカーボンナノチューブ及び/又はカーボンナノファイバーをグラファイト殻の亀裂に形成する工程、
とを含むことを特徴とする炭素被覆形強磁性金属球形粒子の製造方法。
本発明によって、これまで困難であった炭素表面被覆形強磁性金属球形粒子の大量かつ
安価に生産可能な製造方法及びその表面がCNT及び/又はCNFにより修飾された炭素
表面被覆形強磁性金属球形粒子が実現可能になった理由、及び作用などにつきニッケルグ
ラファイトを例にとって現象論的に考察すると以下のように説明できる。
まず、市販のニッケルグラファイト(Sulzer Metco社製造)粉末の組織構
造を示し、そのような組織構造となる原因について考察する。このニッケルグラファイト
粉末の平均組成は、そのカタログにNi75重量%、炭素25重量%と記述されているも
のである。また、融点1455℃のニッケルと融点3827℃の炭素との共晶組成は、ニ
ッケルが98重量%の組成であり、その共晶点は1327℃である。
図1は、この市販のNi75重量%含有ニッケルグラファイト粒子の走査電子顕微鏡像
(図1(a))、エネルギー分散型X線分光スペクトル(図1(b))、及びCu Kα
照射によるX線回折スペクトル(図1(c))である。図1(a)の走査電子顕微鏡像か
ら、ニッケルグラファイト粉末は、粒径が10μmないし30μmの不定形の外見を有し
、その表面形状は粗であり、直径数十nm程度の多数の孔及び窪みを有していることがわ
かる。図1(b)のエネルギー分散型X線分光スペクトルは、ニッケルグラファイト粉末
の表面から約200nmの深さにわたる組成情報を与える。スペクトル強度から計算され
たこの表面部分の組成は、Ni63.82重量%であった。この値は、カタログデータで
あるNi75重量%という平均組成値より若干小さい。
表面から深さ2nmの深さにわたる組成情報を与えるオージェ電子分光分析も行ったが
、Niの組成はエネルギー分散型X線分光スペクトルから求めた値と同程度であった。従
って、ニッケルグラファイト粉末の表面は、平均組成値より若干多い炭素が存在するもの
の、多量のニッケルが表面に露出した構造を有していることがわかる。また、図1(c)
のX線回折スペクトルはグラファイトとNi金属からの回折を示し、ニッケルグラファイ
ト粉末が炭素相とニッケル相からなる共晶であることを支持している。
以上の結果から、市販のニッケルグラファイト粉末では、表面にニッケル相とカーボン
相が露出した組織構造、すなわち、共晶系に一般的な組織構造、を有していることがわか
る。このように、炭素表面被覆形強磁性金属球形粒子は、従来の量産技術では実現されて
いなかった。
本発明者らは、前述のとおり熱プラズマ処理を用いた無機材料合成技術を開発している
(非特許文献2、特許文献7)。熱プラズマの特徴は、イオン系が電子系と熱平衡にあり
、このため1万℃以上の高温のプラズマイオン温度まで実現できるところにある。したが
って、このプラズマ中にキャリアガスを用いて原料粉末を投入すると、原料粉末は1万℃
以上にも加熱される。
本発明の方法の特徴は、固体原料粉を用いて、熱プラズマ球状化を行うことにより、炭
素表面被覆形強磁性金属球形粒子の製造が可能になった点にある。本発明の対象とする共
晶化合物系は、液相生成温度は、共晶温度〜炭素の融解温度3,827℃であり、液相生成温
度が高いが、この方法により球状化が可能になった。なお、Fe−C;共晶温度1,153℃
、共晶組成:炭素4.2重量%,Co−C;共晶温度1,320℃、共晶組成:炭素2.6重量%,
Ni−C;共晶温度1,327℃、共晶組成:炭素0.6重量%である。
本発明の方法により、プラズマのもつ高エネルギーと高温からの冷却過程を利用して、
共晶化合物の融液の冷却過程を制御して特殊な構造を持った炭素表面被覆形金属球形粒子
が合成可能となった。熱プラズマプロセスで行うと必然的に速い冷却速度が実現し、通常
102〜5x104℃/秒の冷却速度となる。
例えば、粉末として前述した市販のニッケルグラファイト粉末を用い、プラズマ中のイ
オン温度を適切に調整すると、炭素とニッケルを含む液滴がプラズマ中で形成される。こ
のとき、液滴の形状は、表面エネルギーが最小となる球形の形状となる。キャリアガスに
よって運ばれ、プラズマ中を通過した液滴は急速に冷却される。この冷却過程で、まず、
高融点成分である炭素がグラファイトとして液滴状の融体表面に析出する。表面に析出す
るのは、液滴内部に較べ液滴表面の温度が低いためである。また、グラファイトの表面エ
ネルギーが小さいこと、及び、グラファイトの比重が液滴の比重よりはるかに小さいこと
も、このグラファイト表面析出構造が構造的に安定であることを保証している。
冷却が進み、共晶点温度の1327℃以下になるとグラファイトにより被覆された液相
は固化し、ニッケル核を有する炭素表面被覆形強磁性金属球形粒子が合成される。熱プラ
ズマ処理を用いた無機材料合成技術では、炭素とニッケルを含む液滴の形成及び上記液滴
の冷却が気相中において行われることが大きな特徴である。このため、球形形状を有しか
つ一様な厚さのグラファイト層によって被覆された炭素表面被覆形強磁性金属球形粒子が
実現する。
以上の説明では、冷却過程において熱平衡を仮定している。実際には過冷却が生じ、グ
ラファイト層に被覆されたニッケルを主成分とする液滴中の炭素組成は共晶組成である2
重量%以上になるものと思われる。
CNT又はCNFの生成に鉄族元素が触媒として関与することはよく知られている。し
かし、鉄族元素が存在すれば必ずCNTやCNFが合成されるというものではない。事実
、図1に示したニッケルグラファイト粉末には、CNTやCNFは存在しない。CNTや
CNFが合成されるためには、充分な活動度を有する炭素、すなわち、炭素ラジカルや炭
素イオンからなる活性炭素が必要であり、市販のニッケルグラファイト粉末の製造方法で
はこのような活性炭素の存在は実現していないからである。
一方、熱プラズマ処理を用いた本発明の方法では、プラズマ中に金属―炭素の複合又は
混合粉末が供給されるため、プラズマ中に炭素ラジカル及び炭素イオンが存在する。熱プ
ラズマ状態は10,000℃以上の高温なので炭素は原子状あるいはイオン化した状態になる。
これらは、化学的に活性なのでCNTあるいはCNFとして析出するようになる。この存
在と粒子表面の微量の鉄族元素の存在とにより、CNT及び/又はCNFが効率的に生成
され、CNT及び/又はCNFで表面が修飾された炭素表面被覆形強磁性金属球形粒子が
実現する。炭素ラジカル及び炭素イオンからなる活性炭素の生成量は、熱プラズマ処理の
プロセス条件によって制御可能である。
前に述べたように、高周波電力の増加により、より炭素リッチ組成の混合物の溶融が可
能になる。同時に、炭素ラジカル及び炭素イオンからなる活性炭素の生成量も増加して、
CNT、CNFの析出量が増加する。プラズマ中のヘリウム含有量を大きくすると、冷却
速度を増大してCNT、CNFの析出量が増加する。同じ、高周波電力でも粉末供給量を
大きくすると、炭素ラジカル及び炭素イオンからなる活性炭素の生成量が減少するので、
CNT、CNFの析出量も減少する。このため、CNT及び/又はCNFで表面が修飾さ
れない炭素表面被覆形強磁性金属球形粒子の形成も可能である。
このように、これまで困難であった炭素表面被覆形強磁性金属球形粒子及びその表面が
CNT及び/又はCNFにより修飾された炭素表面被覆形強磁性金属球形粒子が本発明に
よって実現可能になった理由は、本発明者らが開発した熱プラズマ処理を用いた無機材料
合成法の作用によるものである。
以上の構成によって、本発明は、耐腐食性と低磨耗性に優れた炭素表面被覆形強磁性金
属球形粒子の大量かつ安価に生産可能な製造方法の提供及び上記の炭素表面被覆形強磁性
金属球形粒子の表面がCNT及び/又はCNFにより修飾された構造体の提供に成功した
ものである。また、これによって従来の強磁性金属グラファイト粉末に比し耐腐食性と低
摩耗性に優れた摺動部品用材料の実現、及び、CNTT及び/又はCNFを所望の位置に
所望の分布を持って配置可能とする新規材料の提供に成功したものである。
これらの新規材料の提供の結果、腐食性環境下でも使用可能な摺動部分を有するマイク
ロマシーンや、強磁性特性を利用して外部磁場によりCNT及び/又はCNFの位置と分
布を制御し精密に組み立てられたCNT及び/又はCNF電極を有する超小型リチウムイ
オン2次電池や超小型燃料電池の実現が可能となると予測される。
さらに、本発明による炭素表面被覆形強磁性金属球形粒子は、耐腐食性と強磁性とを兼
ね備えているので、生体に関係したバイオデバイスに有用な材料に発展するものと期待さ
れる。すなわち、網膜に埋め込まれるバイオニック・アイの電極材料や薬剤投与自動調節
用体内埋め込み式ナノポンプのボールベアリング材料や体熱を電力に変える超小型発電装
置部品材料などの多彩な応用が期待され、本発明は産業の発展に大いに寄与するものと期
待される。
本発明による炭素表面被覆形強磁性金属球形粒子の第1の形態は、核となる球形をなす
強磁性金属の表面が該強磁性金属元素と炭素とを含有する液滴から析出した一様な厚さの
殻となる炭素層によって被覆された組織構造を有するものである。第2の形態は、該第1
の形態の炭素表面被覆形強磁性金属球形粒子の表面がCNT及び/又はCNFによって修
飾された組織構造を有するものである。
炭素表面被覆形強磁性金属球形粒子の形状は、低摩擦特性を得るためには、短軸が長軸
の80%以上となる球形が望ましい。ここで、完全な球形が実現しにくいのは重力の影響
による。
ここで、核となる球形をなす強磁性金属は、少なくとも鉄、ニッケル、コバルトからな
る元素群から選ばれた1種以上の元素と炭素との共晶点組成を含む組成の共晶合金からな
る。このため、本発明による炭素表面被覆形強磁性金属球形粒子は、外部磁場によって操
作可能となるため、炭素表面被覆形強磁性金属球形粒子の空間的位置は外部磁場により制
御可能となる。また、核となる球形をなす強磁性金属は、上記元素群の元素のほかに以下
の高融点元素群から選ばれた1種以上の元素を含むことが可能である。
すなわち、上記の高融点元素群は、ベリリウム、ボロン、シリコン、チタン、バナジウ
ム、クロム、マンガン、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パ
ラジウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、イリジウム、白金から構成
される。上記の高融点元素群から選ばれた1種以上の元素の合計モル%は、炭素表面被覆
形強磁性金属球形粒子を外部磁場により効率的に操作可能とするには、炭素表面被覆形強
磁性金属球形粒子に含まれる鉄、ニッケル、コバルトからなる鉄族元素群から選ばれた1
種以上の元素の合計モル%以下であることが望ましい。
さらに、核となる球形をなす強磁性金属は窒素を含むことが可能である。この場合窒素
は、強磁性金属中に含まれる他の元素と結合して窒化物を形成するので、窒素の含有量は
、窒化物形成に必要な最大窒素含有量以下に規定される。窒化物形成に必要な最大窒素含
有量を越えた場合には核となる強磁性金属球の内部に窒素の気泡が形成されるため材料強
度が脆弱となり望ましくない。窒化物形成に必要な最大窒素含有量以下では、炭素表面被
覆形強磁性金属球形粒子の耐腐食性が窒化物形成により強化され、かつ、材料強度の低下
も生じない。
炭素表面被覆形強磁性金属球形粒子の粒径は、熱プラズマに投入する原料粉末の粒径に
よって決定されるので、原料粉末の粒径を適切に選べば、粒径が10nm以上の超微粒子
から粒径が100μm以下の粗大粒子まで自由に製造可能である。粒径が10nm未満の
原料粉末は、熱プラズマ投入により気化するため粒径の制御は困難であり、粒径が100
μm以上の原料粉末は、熱容量が大きいため熱プラズマ処理によっても原料は液化せず球
形粒子が得られにくい。
また、核となる球形強磁性金属の表面を被覆する炭素層の厚さは3nm以上で300n
m未満であることが望ましい。耐腐食性を有するためには、炭素層の厚さは、3nm以上
であることが望ましいからであり、粒子の外形を球形に保つためには、炭素層の厚さが3
00nm未満であることが望ましいからである。
上記の炭素層がグラファイト層であるときは、グラファイト層がナノメータサイズのグ
ラファイトグレインの集合からなり、かつ、グラファイトグレインのc軸が核となる球形
強磁性金属の表面に垂直に配向することが望ましい。このような配向の場合は、グラファ
イト層を構成するグラフェンシート面が核となる球形強磁性金属の表面に平行になるため
、グラファイト層は腐食性イオンの侵入に対し高い障壁特性を示し、したがって、耐腐食
性に優れた炭素表面被覆形強磁性金属球形粒子が実現可能となるからである。
グラファイト表面を修飾するCNT及び/又はCNFに関しては、CNT又はCNFの
みで表面を修飾していても、両者が共存で表面を修飾していてもよい。また、CNT又は
CNFはそれぞれ互いに束になったバンドル状態であっても、空間的に独立した孤立状態
であってもよい。CNT又はCNFの長さ方向の軸は、表面に対し平行、すなわち、表面
の法線に対し直角であっても、表面の法線に対し90°未満であってもよい。
特に、表面の法線に対し直角の場合は、CNT又はCNFがバンドルされた束が表面を
マスクメロン状の網目模様をもって修飾した構造の実現が可能である。マスクメロン状の
網目は、共晶組成の融体が固化するときの体積変化によって、融体表面を被覆するグラフ
ァイト層に亀裂が生じて形成される。また、この亀裂により鉄族元素が気相に露出するた
め、鉄族元素の触媒作用によりCNTやCNFが形成される。
炭素表面被覆形強磁性金属球形粒子形成に至る冷却過程で、粒子の自転速度が大きい場
合は、粒子表面と気相中の分子及び活性種との衝突が頻繁に行われるため、CNT又はC
NFは表面法線に直角に成長するものと考えられる。一方、粒子の自転速度が小さい場合
には、CNT又はCNFの長さ方向の軸は、表面法線方向を向きやすくなる。粒子の自転
は、熱プラズマ装置に原料粉末を投入する際に与えられた角運動量が主たる原因であるの
で、投入の際の角運動量を制御することにより原理的に制御可能である。また、たとえば
、投入直後の粉末に対し高周波磁場を印加することなどにより粉末の自転は抑制される。
このようにして、CNT又はCNFの長さ方向の軸が表面の法線に対してなす角も、90
°又は90°未満に制御可能となる。
CNT又はCNFの長さ方向の軸長は、気相中の分子及び活性種の濃度と冷却過程にお
ける粒子の滞在時間の増大とともに増大する。この濃度と滞在時間を制御することにより
、長さ方向の軸が粒子の表面と角度をなす軸長を粒子の直径の2倍を越えないように制御
することができる。
CNT又はCNFは、リチウムイオン2次電池や超小型燃料電池の電極として有望であ
る。また、これらの応用では、CNT又はCNF中へのリチウムイオンの侵入容易性が重
要である。炭素表面被覆形強磁性金属球形粒子上のCNF又はCNTは、CNT又はCN
Fの長さ方向の軸が表面の法線に対してなす角が90°未満であるほうが、CNT又はC
NF中を拡散したリチウムイオンが鉄族元素と接触しやすく電極として望ましいのである
が、90°であってもその効果は失われない。
これは、CNT又はCNFの形成機構、すなわち、グラファイト層に生じた亀裂により
気相に露出した鉄族元素が触媒となって成長するという形成機構のため、90°であって
もCNT又はCNF中を拡散したリチウムイオンは鉄族元素と接触しやすいからである。
一方、グラファイト層は、炭素と鉄族元素との融体から析出したものであり、かつ、グラ
フェンシートが強磁性金属表面に平行であるため、リチウムイオンは侵入しにくい。この
ため、リチウムイオン侵入によるグラフェンシートの剥離は生じにくく、高信頼の電極が
実現可能となる。
熱プラズマ装置としては、鉄族元素と炭素の共晶点温度から炭素の沸点を越える500
0℃以下の温度領域を空間的に分布させて形成でき、かつそれらの温度を調節できる装置
であることが望ましく、特願2002−73218(特開2003−272624号公報
)中に記載の熱プラズマ装置が適切である。
図2は、この装置(プラズマトーチ)の概略構成図である。熱プラズマ処理が施される
強磁性金属グラファイト粉末はプラズマトーチ中に連続的に導入され、下部において回収
される。図2の装置(プラズマトーチ)10は、水冷二重管11の外に高周波コイル12
を巻き、その内部に高周波電磁誘導により熱プラズマを形成するものである。水冷二重管
11の上部は蓋13が取り付けられており、蓋13には熱プラズマ処理に供する強磁性金
属グラファイト粉末とキャリアガスとを供給する粉末供給用水冷プローブ14が設置され
ている。また装置(プラズマトーチ)10内部には、主としてプラズマ流を形成するため
のセントラルガスGp、主としてプラズマ流の外側を包むためのシースガスGsが導入さ
れる。
熱プラズマの発生条件としては、通常、周波数0.5〜6MHz、投入電力3〜60k
Wとすればよく、トーチ内部の圧力は1〜100kPaとすればよく、特に10〜80k
Paとすることが好ましい。
セントラルガス、シースガス及びキャリアガスは、いずれも少なくともArを含むこと
が望ましい。また、熱プラズマ処理により形成される炭素表面被覆形強磁性金属球形粒子
中に窒素を含有させるためには、セントラルガス、シースガス及びキャリアガスのいずれ
か1つ以上のガス中に窒素を混合させることが有効である。さらに、シースガスは、トー
チ内壁を保護するためにHe又はHを含むことが望ましい。セントラルガスとシースガ
スとの合計流量は、通常、2〜200リットル/分、好ましくは30〜130リットル/
分とすればよい。このような条件下で発生する熱プラズマ中に導入される強磁性金属グラ
ファイト粉末量は、1分あたりの導入量で1〜500gとすることが望ましい。キャリア
ガスの流量は1〜100リットル/分とすればよい。
図2の装置を用いることにより、鉄族元素と炭素の共晶温度(Ni−C:1327℃、
Fe−C:1153℃、Co−C:1320℃)〜5000℃の範囲の温度領域を含むプ
ラズマイオン温度での熱プラズマ処理が可能となる。本発明では、1000〜5000℃
の温度領域における粉末の滞留時間を、0.001〜10秒、特に0.02〜0.5秒程
度とすることが好ましい。
プラズマトーチの大きさは特に限定されないが、例えば、図2に示す構造とする場合に
は、管径10〜1000mm程度、高さ50〜3000mm、特に1000〜3000m
m程度とすることが炭素表面被覆形強磁性金属球形粒子を大量かつ安価に生産するために
は好ましい。上記のサイズのプラズマトーチを用いた場合、最大で毎分1kgの炭素表面
被覆形強磁性金属球形粒子が生産可能である。しかし、プラズマイオン温度と滞留時間を
前記のように制御できる性能を持つ装置であれば、他の装置であってもよい。
熱プラズマ処理に供する金属―炭素の複合又は混合粉末は、鉄族金属と炭素との共晶組
成における炭素含有量より炭素リッチであることが重要である。好ましくは、鉄族金属−
炭素系共晶組成の2倍〜150倍程度の炭素を含むことが好ましい。これらの粉末には、さらに、ベリリウム、ボロン、シリコン、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、イリジウム、白金から構成される高融点元素群から選ばれた1種以上の元素を含むことも可能である。また、窒素を含むことも可能である。
以下、炭素表面被覆形強磁性金属球形粒子の実施例を示して、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
図2に示すようなプラズマトーチを用い、Ni75重量%、炭素25重量%のニッケル
グラファイト粉末(平均粒径30μm、Sulzer Metco社製造)を連続的に供給して熱プラズマ処理をほどこした。熱プラズマの発生条件は、投入した高周波電力が25kW、プラズマトーチ内の圧力は66kPaであり、セントラルガスGpはAr(30リットル/分)、シースガスGsはAr(85リットル/分)とHe(10リットル/分)の混合ガス、キャリアガスはAr(10リットル/分)である。導入されるニッケルグラファイト粉末量は12g/分である。このときの平均冷却速度は、2,500℃/秒であった。この供給量で10分間供給して、120gの粉末が得られた。
図3は、熱プラズマ処理された試料の走査型電子顕微鏡像であり、図3(a)は低倍率
像、図3(b)は高倍率像である。図3(a)より熱プラズマ処理された試料は長軸が2
3μmで短軸が21μmのやや歪んだ球形をなしていることがわかる。熱処理前の形状(
図1(a))は、不定形の外見を有し、その表面形状は粗であり、直径数十nm程度の多
数の孔及び窪みを有していた。球形に変化したのは、ニッケルグラファイト粉末が熱プラ
ズマ処理の過程において炭素の融点程度に加熱された結果、表面張力により球状の融体と
なったことを反映している。
球状表面には、低倍率走査型電子顕微鏡像である図3(a)に示されるように、約30
0nmの直径を有する束がマスクメロン状の網目模様を持って形成されている。この網目
模様をなす束を透過電子顕微鏡で観察した結果、この束はCNFからなり、かつ、CNF
の長さ方向の軸は球表面の法線に対し90°の角度をなしていることが判明した。高倍率
の走査電子顕微鏡像である図3(b)には、球状の表面には約30nmの直径を有するC
NFの束が認められる。また、直径30nmの束の付近を高倍率の透過電子顕微鏡で観察
した結果、直径が1.1nm、1.5nm、及び3.5nmの3種類の単層CNTの存在
が確認された。
図4は、熱プラズマ処理によって得られた球状粒子の断面の透過電子顕微鏡像である。
左側は、球状粒子の内部のニッケル核であり、ニッケルの粒界やニッケル中の転位が認め
られる。右側は、球状粒子の表面部分の断面であり、多様な径のアモルファスの炭素粒子
及びアモルファスのニッケル粒子が認められる。これらのアモルファス粒子は、熱プラズ
マ処理における冷却過程で気相から凝縮して熱プラズマ処理された試料上に付着したもの
であり、したがって、疎であり、超音波洗浄などの処理により試料上から除去可能であっ
た。図3の走査電子顕微鏡像では、これらのアモルファス粒子の集合体は認められない。
左側と右側の間に存在する厚さ100nmの領域は、ニッケル核を包む結晶化した殻状
のグラファイト層である。さらに多数の試料観察を行った結果、この結晶化したグラファ
イト層は、熱プラズマ処理をほどこされた球状粒子の表面を一様な厚さ100nmでもっ
て被覆しており、したがって、ニッケル核はグラファイト殻の内部に封入され、球状粒子
の表面にはニッケル核は露出していないことが判明した。すなわち、熱プラズマ処理を用
いた合成法の採用により、一様な厚さを持ったグラファイト層を有する炭素殻によって被
覆され、したがって表面にニッケル核が露出されず、かつ、球状形状を有する炭素表面被
覆形強磁性金属球形粒子が実現した。
図5は、このグラファイト層の格子像であり、0.335nmの間隔のグラフェンシー
トの存在を示す格子像が顕著に認められ、グラファイト層の結晶化の度合いが極めて高い
ことを示している。また、グラファイト層を構成するグラフェンシート面は、球状粒子表
面に平行となっている。この配置は、グラファイト層形成時における球形粒子の表面エネ
ルギーを小さくする配置に対応している。このような緻密なグラファイト層に被覆されて
いるため、本実施例により製造された炭素表面被覆形強磁性金属球形粒子は、顕著な耐腐
食特性を示した。
図3、図4及び図5から、熱プラズマ処理による球状粒子の形成過程は以下のように推
察される。熱プラズマ処理における炭素の融点程度の加熱過程により、ニッケルグラファ
イト粉末はニッケルと炭素を均一に含有する球状の融体となった後、冷却過程において、
まず、球状の融体表面にグラファイト層が一様な厚さを持って形成される。冷却されるに
つれ、グラファイト層の厚さは増大し100nmに達する。
さらに、共晶点以下に冷却されると、融体は固化し、このときの体積変化により、グラ
ファイト表面にはマスクメロン網目模様の亀裂が生じる。それと同時に、ニッケルが気相
に露出されるため、ニッケルの触媒効果及び気相中の炭素ラジカル及び炭素イオンの存在
によりCNF及び/又はCNTが粒子表面の亀裂部分に形成される。なお、単層CNTの
存在は、透過電子顕微鏡観察のほか、マイクロラマン分光におけるブリージングモードの
スペクトルの存在からも確認された。このようにして、CNT及び/又はCNFで表面が
修飾された炭素表面被覆形強磁性金属球形粒子が実現した。
本実施例では、熱プラズマを発生させる高周波電力が大きく、かつ、共晶点近傍での冷
却速度が小さかったため、グラファイト層表面はCNT及び/又はCNFで修飾された。
また、CNT又はCNFの形成過程で粒子は回転していたため、CNT又はCNFの長さ
方向の軸は粒子表面に平行となったものと思われる。また、CNT及び/又はCNFで表
面が修飾された炭素表面被覆形強磁性金属球形粒子の粒径は、原料のニッケルグラファイ
ト粉末の粒径によって決定されるので、ニッケルグラファイト粉末の粒径を選択すること
により、炭素表面被覆形強磁性金属球形粒子の粒径を制御することも可能である。
一般に、気相中の炭素ラジカル及び炭素イオンの濃度は、熱プラズマ中の最高温度が高
いほど高くなる。最高温度が炭素の融点である3827℃以下の場合には、炭素ラジカル
や炭素イオンの濃度が低いため、亀裂部分には共晶組成の融体中の炭素がグラファイトと
して析出するだけで、CNFやCNTは形成されにくかった。
すなわち、本実施例では、熱プラズマ条件を適切に制御することにより、球状強磁性金
属核の表面の全面を被覆する炭素からなる殻が、グラファイトからなることを特徴とする
炭素被覆形強磁性金属球形粒子と、球状強磁性金属核の表面の全面を被覆する炭素からな
る殻が、グラファイトと、CNF若しくはCNT又はCNF及びCNTの双方とからなる
ことを特徴とする炭素被覆形強磁性金属球形粒子との双方が、製造可能であった。
さらに、熱プラズマ条件を発生させる高周波電力の制御及び共晶点近傍での冷却速度の
制御により、グラファイト層表面を修飾するCNT又はCNFの存在量も制御可能であっ
た。また、CNT又はCNFの長さ方向の軸は、粒子の回転速度によって制御されるため
、軸方向を表面の法線に対し90°又は90°未満に制御可能であった。
本実施例では、ニッケルグラファイト粉末を原料として用いたが、他の鉄族元素である
鉄又はコバルトもCNT及び/又はCNF形成における触媒作用を有するので、鉄又はコ
バルトと炭素を含有する粉末を原料として用いた場合にも、CNT又はCNFで表面が修
飾された炭素表面被覆形強磁性金属球形粒子は製造可能である。
本発明は、本発明者らが開発した熱プラズマ処理技術を鉄、ニッケル、コバルトからな
る元素群から選ばれた1種以上の金属元素と炭素との共晶組成における炭素含有量より炭
素リッチの金属―炭素の複合又は混合粉末に適用することにより、炭素表面被覆形強磁性
金属球形粒子及びCNT及び/又はCNFで表面が修飾された炭素表面被覆形強磁性金属
球形粒子が実現可能となったものである。本発明による炭素表面被覆形強磁性金属球形粒
子は、耐腐食性と強磁性とを兼ね備えているので、生体に関係したバイオデバイスに有用
な材料に発展するものと期待される。
また、本発明によるCNT及び/又はCNFで表面が修飾された炭素表面被覆形強磁性
金属球形粒子の強磁性特性を利用すれば、外部磁場によりCNT及び/又はCNFの位置
と分布を制御し精密に組み立てられたCNT及び/又はCNF電極を有する超小型リチウ
ムイオン2次電池や超小型燃料電池の実現が可能となると予測され、広く産業の発展に大
きく寄与し、貢献するものと期待される。
本発明に用いた原料であるニッケルグラファイト粉末の図面代用走査電子顕微鏡像((a))、エネルギー分散型X線分光スペクトル((b))、及びCu Kα照射によるX線回折スペクトル((c))である。 本発明において熱プラズマ処理を行うために用いた高周波プラズマの発生装置(プラズマトーチ)の概略構成図である。 本発明に用いたCNT及びCNFで表面が修飾された炭素表面被覆形ニッケル球形粒子の図面代用走査電子顕微鏡像であり、(a)は低倍率像、(b)は高倍率像である。 本発明に用いたCNT及びCNFで表面が修飾された炭素表面被覆形ニッケル球形粒子の断面を示す図面代用透過電子顕微鏡像である。 本発明に用いたCNT及びCNFで表面が修飾された炭素表面被覆形ニッケル球形粒子のグラファイト層の断面を示す図面代用格子像である。
符号の説明
10;高周波熱プラズマの発生装置(プラズマトーチ)
11;水冷二重管
12;高周波コイル
13;蓋
14;粉末供給用水冷プローブ
Gp セントラルガス
Gs シースガス

Claims (2)

  1. 鉄、ニッケル、コバルトからなる元素群から選ばれた1種以上の金属元素と炭素との共晶点組成を含む組成の共晶合金からなる球状の強磁性金属核と、上記球状強磁性金属核の表面の全面を被覆する該強磁性金属元素と炭素とを含有する液滴から析出したグラファイト殻とを具備し、前記グラファイト殻の網目状の亀裂にカーボンナノチューブ及び/又はカーボンナノファイバーが形成されたことを特徴とする炭素被覆形強磁性金属球形粒子。
  2. 鉄、ニッケル、コバルトからなる元素群から選ばれた1種以上の金属元素と炭素との共晶組成における炭素含有量より炭素リッチの金属―炭素の複合又は混合粉末を、
    気相中において熱プラズマ処理を行うことにより上記粉末を溶解して球形の融体を形成する工程、
    該融体を気相中において共晶点以上の温度で炭素の析出温度以下に冷却することにより炭素を融体表面に析出させて球形の融体表面を高融点成分の炭素からなるグラファイトを被覆する工程、
    グラファイトによって被覆された球形融体を気相中において該共晶点以下に冷却することにより鉄、ニッケル、コバルトからなる元素群から選ばれた1種以上の金属元素と炭素との共晶点組成を含む組成の共晶合金からなる球形核とグラファイト構成される球形構造物を形成するとともにグラファイト殻に亀裂を形成させて球形核表面の一部を気相に露出する工程、
    露出した鉄、ニッケル、コバルトからなる元素群から選ばれた1種以上の元素の触媒作用により気相中の活性炭素を用いてカーボンナノチューブ及び/又はカーボンナノファイバーをグラファイト殻の亀裂に形成する工程、
    とを含むことを特徴とする炭素被覆形強磁性金属球形粒子の製造方法。
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