JP4457220B2 - 偽造防止構造を有する印刷物及びその判別方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、デジタルカラーコピー機等を使用して違法なコピーを行なったときに、警告メッセージが発現する、特殊な微小スリットパターン構造入り線画及び/又はドットパターンと、真偽判別のための判別スクリーンに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
高性能なデジタルカラーコピー機や、パソコンスキャナー及びプリンター等の周辺機器を悪用した違法な有価証券類の偽造事件が、近年多発している。これらの事件を抑制するために、網点印刷物の世界では、印刷物中にコピー機の複写能力を超えるような小さな網点領域を、複写時の警告メッセージとして機能するように印刷物中に設定するような偽造防止技術が用いられてきた。銀行券や各種の有価証券印刷物においては、彩紋模様、万線パターン、地紋模様と呼ばれる、特殊な方法で作製された各種の線画パターンが、偽造防止技術として広く用いられてきた。だが、このような特殊な線画印刷物も高性能なデジタルカラー複写機に対しては十分な抵抗力を持っているとはいえず、本出願人はさまざまな線画印刷物に対して特殊な画線構造や形態をいくつか提案をしてきた。
【0003】
本出願人は、先に出願した、複写防止模様の作成方法及びその印刷物(特開平8−197828号公報、特開平8−300800号公報及び特願平10−365278)において、銀行券、有価証券類において広く使用されてきた、彩紋模様、万線パターン、地紋パターンを構成する、特定の領域に対して、個別の画線ごとにおいて、「2本に分岐」、「断絶線化」、「3本に分岐」と言うふうに、コピー機の複写能力を超えるような微細な画線構造(形態)を設計し、違法なコピー行為に対し特定の警告メッセージを発するような機能を実現してきた。しかし、前記個別の画線における特定の領域に対して、コピー機の複写能力を超えるような微細な画線形態を印刷物上に実現するためには、刷版用フィルム及び刷版の露光現像条件の厳しい管理、そして、印刷時における画線の太りやかすれなどの不安定要素を徹底的に排除するといった、ミクロンオーダーの高度な製版、印刷技術を必要としていた。また、ミクロンオーダーで設計された微細な画線であるため、通常の図柄印刷物と比較して版面の耐刷性は若干劣るという傾向があり、耐刷性の向上のための工夫が望まれていた。
【0004】
また、上記従来技術は、彩紋模様、万線パターン、地紋パターン等の線画パターンを対象にした特殊構造(形態)化の技術であった。したがって、ドットパターンを構成する配列要素に対して、または、人物写真などの連続階調画像を星型図形や微小文字などの配列要素の大きさを連続的に変化させることで表現する特殊スクリーン法における、個別の配列要素に対して、従来の特殊構造(形態)化の技術を適用することは不可能であった。
【0005】
また、特開平10−100529号公報には、パターン印刷物と、パターン印刷物と干渉するようなパターンを有する判別具とを用い、前記パターン印刷物を複写物上に重ね合わせるときのモアレパターンの有無により、真偽を判別することを特徴とする複写物の判別方法が開示されている。しかし、前記印刷物は、右45度上がりの黒の等間隔ストライプの繰り返しである規則的なパターン等が前提とされたものであり、前記パターンだけでは、山、肖像などの有意義画像の表現が困難である。また、金券等の全体の図柄デザイン中に、判別にまつわるパターン部分が、デザイン上、不必要に突出してしまう恐れがあるために、他の一般印刷物との差別化、あるいは前記印刷物発行元の企業イメージの向上を図る上で重要視される、意匠上の高級感や重量感が喪失してしまう恐れがある。また、デザイン上、突出しがちな判別にまつわるパターン部分は、偽造者の手による違法な複写後のパターン部分の加筆修正が、ピンポイント的に容易になされてしまうという恐れがある。
【0006】
以上詳述したように、違法なコピーに対し警告メッセージが発生したり、その警告メッセージを巧妙に加筆、修正された複写物等に対しても、特殊な機械装置等を必要とせずに容易にその審議判別が可能であり、また、銀行券等の有価印刷物に必要な意匠上の高級感、重量感を有した彩紋模様やレリーフ模様などの任意の曲線状の線画や、任意形状の配列要素からなるドットパターンにも、全体的なデザインの調和を破壊することなく、本発明の技術が適用可能な、線画パターンやドットパターンのための特殊な画線形態が望まれていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はミクロンオーダーの高度な製版印刷技術を必要とせず、版面の耐刷枚数も通常の印刷物と遜色がなく、将来的に予想される複写機器の高解像度化にたいしても前記特性を失うことなく対応可能な、デジタルカラーコピー機やパソコンの周辺機器を利用した違法なコピーに対し、基本画像を構成する線画及び/又はドットパターンの画線及び/又はドット内に微小スリットパターン構造を施し、背景画像部とメッセージ画像部とに入れられたスリットパターン構造の配列方向を異に施すことによって特定の警告メッセージが発現する微小スリットパターン構造入り線画及び/又はドットパターン印刷物であり、また、前記印刷物中に入れられたスリットパターン構造と同一ピッチの万線パターン像を有した透明フィルム等の基材からなる判別スクリーンを前記線画パターン印刷物に対して重ね合わせるだけで警告メッセージを顕像化し、容易に真偽判別が可能な判別方法及び判別スクリーンを実現することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、基材上に、線画及び/又はドットパターンから構成される基本画像を有し、前記基本画像が、背景画像部と、少なくとも1つ以上の潜像を施したメッセージ画像部とに区分けされ、前記背景画像部として区分けされた線画及び/又はドットパターンのそれぞれの各画線内及び/又はドット内に有した微小スリットパターンの配列方向の角度と、前記少なくとも1つ以上の潜像を施したメッセージ画像部として区分けされた線画及び/又はドットパターンのそれぞれの各画線内及び/又は各ドット内に有した微小スリットパターンの配列方向の角度とが、互いに異なる少なくとも2つ以上のスリット構造を有し、前記基本画像のメッセージ画像部は視認困難であるが、複写時に前記背景画像部と区別されて警告メッセージが視認されることを特徴とする偽造防止構造を有する印刷物である。
【0009】
また、微小スリットパターン構造が、等間隔の直万線パターンであることを特徴とする偽造防止構造を有する印刷物である。
【0010】
また、基本画像における背景画像部として区分けされた線画及び/又はドットパターンのそれぞれの各画線内及び/又は各ドット内に有した微小スリットパターンのスリット幅とスリットのピッチと、メッセージ画像部として区分けされた線画及び/又はドットパターンのそれぞれの各画線内及び/又は各ドット内に有した微小スリットパターンのスリット幅とスリットのピッチとが、それぞれ同一であることを特徴とする偽造防止構造を有する印刷物である。
【0011】
また、基本画像におけるメッセージ画像部が、文字、記号を表現する画像であることを特徴とする偽造防止構造を有する印刷物である。
【0012】
また、線画及び/又はドットパターンの各々の線幅やドット径を連続的に変化させて、任意の階調を有する画像が表現されることを特徴とする偽造防止構造を有する印刷物である。
【0013】
また、基本画像が、地紋模様であることを特徴とする偽造防止構造を有する印刷物である。
【0014】
また、少なくとも2つ以上の微小スリットパターン構造が直万線パターンで、そのピッチが共に画像複写装置の解像度(DPI)の逆数×以上で、500μm未満である偽造防止構造を有する印刷物である。
【0015】
また、少なくとも2つ以上の微小スリットパターン構造が直万線パターンで、そのピッチが共に画像複写装置の解像度(DPI)の逆数×2未満である偽造防止構造を有する印刷物である。
【0016】
更に、前記印刷物中に入れられた微小スリットパターン構造と同一ピッチの万線パターンの像を有した透明フィルム等の基材からなる判別スクリーンを重ね合わせ、該判別スクリーンを回転させることにより、順に少なくとも1つ以上の警告メッセージを発現し、該警告メッセージの有無により前記印刷物と複写物とを判別することを特徴とする偽造防止構造を有する印刷物の判別方法である。
【0017】
更に、印刷物中に入れられた微小スリットパターン構造と同一ピッチの万線パターンの像と干渉するピッチの万線パターンを有する前記判別スクリーンで、前記印刷物の真偽を判別する透明フィルム基材からなる判別具である。
【0018】
更に、印刷物中に表現された任意の画像は人物画像であり、その人物に対応した特定のID情報がメッセージ画像として入れられた顔画像入り身分証明書であることを特徴とする偽造防止構造を有する印刷物である。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明に係る偽造防止構造を有する印刷物の実施の形態を図面を参照して説明する。本発明は、基材上に、背景画像部と少なくとも1つ以上の潜像を施したメッセージ画像部とに区分けされた、線画及び/又はドットパターンから構成される基本画像を配置し、両画像部のそれぞれの各画線内及び/又はドット内に、配列方向又は幅とピッチを変化させた微小スリットパターンを施して成る構成のものである。
【0020】
本発明に係る偽造防止構造を有する印刷物を複写機にかけて複写した場合には、オリジナル印刷物には認めることができなかった警告メッセージが発現する。また、本発明の印刷物は複写機の複写方向に依存するので、各画線内及び/又はドット内に施された微小スリットパターンのピッチによっては、印刷物を複写しても警告メッセージが発現しない場合があるが、このような場合は、印刷物中に入れられたスリットパターン構造と同一ピッチの万線パターン像を有した透明フィルム等の基材からなる判別スクリーンを前記印刷物に対して重ね合わせることにより、確実に真偽判別を行うことができる。
【0021】
このように、基本画像を構成する線画及び/又はドットパターンの画像に対して、微小スリットパターン構造を施すことにより、確実に偽造防止効果を発揮する。本発明をさらに作製工程も含めて実施例で以下に説明する。
【0022】
【実施例】
図1は、本発明の微小スリットパターン構造を施すためのもとになる、線画及び/又はドットパターンにおける画線幅や直径を連続的に変化させて人物の顔画像を表現した、基本画像Aである。本発明は、線画及び/又はドットパターンの画線内及び/又はドット内にスリットパターン構造を付与することにあるので、基本画像における、線やドットの図柄の輪郭的特徴や、線やドットの配置的特徴に対して、本発明の作製方法において何らの不具合や、発明の効果において何らかの遜色をきたすことはない。したがって、基本画像に用いられる画像としては、単位領域内に線とドットが混在したもの、波状万線模様、同心円パターン、彩紋模様、或いは微小文字を配列要素とする配列パターン等、様々な線画及び/又はドットパターンが考えられ、本実施例に限定されるものではない。
【0023】
図2は、コピー機による複写や判別スクリーンを重ね合わせたときに発現する警告メッセージ用の画像で、「OK」と「COPY」の文字からなる。
【0024】
図3は、図1の基本画像Aと、図2の警告メッセージ用画像との交わりの部位であり、メッセージ画像部B(OK)とメッセージ画像部C(COPY)である。なお、メッセージ画像Bについては、一つのドットを単位として、交わりの部位が抽出されている。
【0025】
図4は、基本画像Aからメッセージ画像部B(OK)とメッセージ画像部C(COPY)を除外した部位の画像で、背景画像部Dである。
【0026】
本課題は、2つのメッセージ画像部B及びCと背景画像部Dにおいて、線画及び/又はドットパターンの画線内及び/又はドット内に微小なスリットパターン構造、すなわち、塗りつぶされた線画及び/又はドットパターンの画線内及び/又はドット内において、規則的に同一方向に配列された、隙間幅が数十ミクロンから数百ミクロン程度の細長い形状の、無印刷の白ぬけ領域を施すことによって達成される。本実施例のように、基本画像が、画線幅やドット径の変化によって任意の階調画像が表現されている場合、1つの画線内や1つのドット内に微小なスリットパターン構造を施す領域の大きさは、人物の顔画像のシャドウ部を表す画線幅やドット径が大きい部分と、人物のハイライト部を表す画線幅やドット径が小さい部分にかかわらず、一定としなければならない。シャドウ部の画線やドット径の増大に応じてスリットパターン構造を施す領域を増大させると、基本画像の階調性が失われてしまうので注意が必要である。さらには、2つのメッセージ画像部B及びCと背景画像部Dにおいて、微小スリットパターン構造の配列方向がそれぞれ異なることを特徴としている。
【0027】
本発明では、2つのメッセージ画像部B及びCと背景画像部Dに施す微小スリットパターン構造のピッチを254ミクロンとし、スリット幅を約127ミクロンとし(このとき画線幅は約127ミクロン)、その配列方向は、印刷物左右方向を0度として反時計周り方向をプラス回転として、メッセージ画像部B(OK)用として90度、メッセージ画像部C(COPY)用として45度、背景画像部D用として0度とし、基本画像Aに対して微小スリットパターン構造を入れた。このとき得られた微小スリットパターン構造入り線画及び/又はドットパターンの模式図を図5に示す。
【0028】
微小スリットパターン構造入りのメッセージ画像部B(OK)と背景画像部Dの境界付近Eの拡大図を図6に、微小スリットパターン構造入りのメッセージ画像部C(COPY)と背景画像部Dの境界付近Fの拡大図を図7に示す。
【0029】
図6及び図7の拡大図から理解できるように、背景画像部及びメッセージ画像部における微小スリットパターン構造は、その両領域において、その配列方向のみが異なるだけであるので、背景画像部及びメッセージ画像部の両領域において、濃度差を有していない。したがって通常のオリジナル印刷物を観察した限りにおいては、警告メッセージが露呈してしまうようなことはない。さらには、微小スリットパターン構造の配列方向の差異ですら、肉眼では識別することが不可能であって、たとえ拡大鏡などを使用してその差異が識別可能だとしても、拡大鏡で得られる局所的な情報では、警告メッセージの全体像を復元することは極めて困難である。
【0030】
得られた微小スリットパターン構造入り線画及び/又はドットパターンをもとに、市販のレーザープロッターを用いて製版用フィルムを作製し、次に、市販のポジタイプPS版で刷版を作製し、得られた刷版を用い、市販の上質紙上に、市販のオフセットインキ(薄赤紫色)で、印刷機器の調整は一般の平版オフセット印刷に等しく、特別に調整することなくオフセット印刷を行い印刷物を得た。
【0031】
図8は、上記得られた印刷物を、ミノルタ社製デジタルカラーコピー機(Limos 2. CF900)を用いて地図モードで複写した複写物を示したものである。オリジナル印刷物中には認めることができなかった「OK」と「COPY」の文字からなる警告メッセージが、はっきりと複写物に発現した。なお、警告メッセージの発現の様態は、コピー機の複写(走査)方向に依存する。
【0032】
一方、上記複数のスリット構造の直万線パターンのピッチが、共に画像複写装置の解像度(DPI)の逆数×2(127ミクロン)未満である微小スリットパターン構造入り線画及び/又はドットパターン印刷物の場合、複写物は警告メッセージは発現することはない。このような場合、前記判別スクリーンを重ね合わせることによって確実にその真偽判別を行うことができる。
【0033】
次に、コピー機における読み取り部の移動方向を0度として、コピー機のガラス面上に、印刷物表面を伏せて置かれたオリジナル印刷物の左右方向を反時計周りに回転させて、警告メッセージ「OK」と「COPY」の発現性のテストを行い、その結果を図9に示す。図9の角度の欄には時計周りの回転量を示す。
【0034】
図9に示す実験結果において、はっきりと警告メッセージが発現しているのがわかるものを○、はっきりとではないが警告メッセージを識別できるものを△、ほとんどわからないもの又はまったく識別できないものを×、という3段階によって目視評価を行った。
【0035】
警告メッセージが発現する角度はある程度の範囲を持っていることが分かり、メッセージ画像部Bの発現については、コピー機の複写方向に対する印刷物の左右方向が40度から50度の間は複写時の警告メッセージが発現しない。メッセージ画像部Cについても、コピー機の複写方向に対する印刷物の左右方向が30度と70度付近の場合については警告メッセージが発現しないことが分かった。
【0036】
したがって、複数のメッセージ画像部において、おのおののスリットの配列方向を、それぞれ異ならせて配置することで、どのような角度で複写されたとしても必ず警告メッセージが発現するような印刷物を設計することができる。また、単一のメッセージ画像部に対し、複数の背景画像部を設計し、上記背景画像におけるおのおののスリットの配列方向を、それぞれ異ならせて配置することによっても、同様の上記効果を有する印刷物を実現することができる。
【0037】
また、警告メッセージの発現は、デジタルコピー機における、画像入出力時の特定の線数を持ったスクリーンとの干渉によって、メッセージ画像部と背景画像部とで再現性が異なることで、観察者にとって知覚可能な警告メッセージとして、背景画像部から差別化されて発現する。したがってスリット幅の大きさ、すなわち非画線幅は、警告メッセージの発現適性には、関与しない。したがって製版、印刷工程における不安定要因によって、本実施例で述べたスリット幅の値に対して、実際のスリット幅に変動が生じたとしても支障はない。なお、画像設計段階で設計されたスリットのピッチについては、前記の不安定要因によって変動されないことはいうまでもない。
【0038】
スリット幅が大きい場合、必然的に画線幅が小さくなり、印刷物全体の色調は薄いものとなる。したがって、有価印刷物における、地紋模様やレリーフ模様のような背景画像としての用途に適した印刷模様となる。
【0039】
次に、微小スリットパターン構造のピッチと、スリット幅が異なる9種類のサンプルを作成した。本例に示されるように、上記図5に示した印刷物全体を縮小、あるいは拡大するだけで、図10に示したような様々な設計値のスリットを得ることができる。図5の図柄の設計値を100%とし、10%ずつ大きさを拡大・縮小して最小30%〜最大110%までの、計9水準の印刷用図柄を得、更に前述した同様の印刷方法を経て、9水準の印刷物を得た。得られた印刷物を、ミノルタ社製(Limos 2. CF900)、キャノン社製(CLC900)、リコー社製(imagio 4055)の3機種のデジタルカラーコピー機を使用して複写実験を行った。実験結果を図11に示す。
【0040】
上述したように、スリット幅(非画線幅)は、警告メッセージの発現適性には関与しないので、設計値は大まかなものでよい。本例では、おおよその目安として、画線幅(画線部の幅)とスリット幅(非画線部の幅)の比が1対1となるように設計した。この設計比に基づく場合、最も細密な設計が必要とされる水準1においてさえも、画線幅は約38ミクロンとなる。この値は、製版、印刷工程における不安定要因によって、画線の太りやかすれ等の変動をうけることなく、既知の方法によって容易に印刷することが可能である。
【0041】
図11の複写結果より、キャノン社製(CLC900)以外のコピー機による複写においては、良好な警告メッセージの発現効果を得た。その有効なスリットの設計値は広範囲であることが確認される。なお、リコー社製(IMAGIO4055)において、警告メッセージの発現効果が、ミノルタ社製(Limos 2. CF900)より、細密な水準側に広範囲に及ぶのはリコー社製(IMAGIO4055)の解像度が他のコピー機より高いからである。高解像度で細部(スリット構造)の再現性に優れるが故に、水準4の印刷物に対しても警告メッセージが発現するのである。
【0042】
対オリジナルサイズが50%(水準3)以下の印刷物における、各ドットと各波状線内に施された微小スリット構造は、スリットが再現し得ない一様な中間調のべた領域として複写されている。したがって警告メッセージは発現することはない。しかしこのような場合、本発明で提案する判別スクリーンを重ね合わせることによって確実にその真偽判別を行うことが出来る。
【0043】
本発明で提案する判別スクリーンは、透明フィルム等の基材上に、印刷物中に施された微小スリット構造のピッチと、同一ピッチの万線パターンの像を有したものであり、具体的には、ピッチが127ミクロン、画線幅が64ミクロンの直万線パターンの像を有したものである。微小スリットパターン構造が再現されていない複写物においては、判別スクリーンを重ね合わせた場合、干渉が起こり得ないので、警告メッセージが発現せず、それが偽造物であるとの判定が可能である。判別拡大鏡などを用いて、複写物内における微小スリットパターン構造の有無を検査すればその真偽判別は可能ではあるが、本発明で提案する、印刷物の図柄に対応した判別スクリーンを用いることによって、その真偽判別を容易に、そして確実に行うことができる。
【0044】
図12は、対オリジナルサイズが50%である水準3の印刷物Gに対し、判別スクリーンHを重ね合わせて警告メッセージKを顕像化したものである。上記判別スクリーンは、透明フィルム等の基材上に、印刷物中に施された微小スリット構造のピッチと、同一ピッチの万線パターンの像を有したものであり、具体的にはピッチが127ミクロン、画線幅が約64ミクロンの直万線パターンの像を有している。本実施例では、この判別スクリーンの基材としては、感光した写真フィルムを使用した。また、判別スクリーン上の直万線パターンを重ね合わせによる印刷物画像の錯乱を回避したいのであれば、透明スクリーン基材上に凹凸の溝パターンを形成してもよい。
【0045】
なお、ピッチが120ミクロン以下で、スリット幅が60ミクロン程度の微小スリットパターン構造が施された線画及び/又はドットパターンにおいては、警告メッセージの変わりに、基本画像に対応した特定のID情報等を潜像化してもよい。この場合、仮にパソコンの周辺機器などを利用して、スリットのピッチ、幅、そして角度が、オリジナル印刷物と同一でない偽の微小スリット構造が入れられたとしても、基本画像に対する特定の、真のID情報が判別スクリーンによって発現しないので、コスト性に優れて有効で確実な、暗号的ID情報を有した線画及び/又はドットパターンが実現可能である。
【0046】
さらに具体的には、微小文字などの配列要素の大きさを連続的に変化させることで、任意の連続階調画像を表現する特殊スクリーン法によって、人物の顔写真を表現し、その人物を特定する、ID情報、たとえば生年月日等の情報をメッセージ画像部に採用する。偽造者にとっては既存技術である特殊スクリーン法によって、印刷物とは異なる人物の顔写真を、高い完成度で偽造することは出来ても、配列要素内部に入れられた微小スリットパターン構造までも刻銘に偽造することは困難である。
【0047】
以上、本発明の実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が考えられることはいうまでもない。
【0048】
【発明の効果】
本発明の印刷物中に用いられる画線幅は、最小の水準中に用いられているものでも、従来技術と比較して2倍から3倍の大きさを有している。そのため製版、印刷工程に多少の不安定要因が介在したとしても容易に印刷物を作成することが出来る。また、版面の耐刷能力についても、通常の印刷物と比較しても遜色はないため、コスト的に有利に印刷が可能である。また、本発明で使用される画線幅は最小でも40ミクロン前後から、そして最大で120ミクロン前後であるということから、印刷が困難であるとされる顔料粒子径が比較的大きな金や銀インキを刷色インキとするような印刷にも適したものである。
【0049】
また、本発明の印刷物の潜像発現の効果は絶大である。発現の様態は、コピー機における入出力走査方向に対して依存性はあるものの、最高解像力レベルのデジタルカラーコピー機においても容易に警告メッセージが発現した。また、本発明によれば、将来的に予想される複写性能の向上に伴う偽造の危険性についても、微小スリットパターン構造のピッチ、スリット幅をさらに細密にすることで迅速に対処が可能である。仮に、現在のものと比較して2倍の最高解像力レベルのデジタルカラーコピー機が出現したとしても、スリットのピッチ及び幅を50%サイズの水準の設計値(ピッチ127ミクロン、幅63.5ミクロン)を採用することで容易に対処が可能である。
【0050】
なお、おおよそ50%サイズ以下の水準においては、微小スリットパターン構造が画像入力装置の入力解像度を超えているために複写物として出力された際、警告メッセージは発現しない。しかし、微小スリットパターン構造を持たない複写物上の線画及びドットでは判別スクリーンに対しても干渉がおき得ない。したがって判別スクリーンを重ね合わせたときに警告メッセージが発現しないので、容易に偽造物であるとの判定が可能である。
【0051】
また、100%サイズ以下の水準における微小スリットパターン構造の設計値の範囲内においては、警告メッセージの変わりに、基本画像を特定できるようなID情報(隠し情報)を採用することで本発明の効果はさらに発揮される。この方法を、基本画像を顔画像とするような顔画像入りの身分証明書などに採用した場合、本人の生年月日やパスワード等を、微小スリットパターン構造を介して潜ませることが可能なので、うわべだけの顔画像の差し替えに対する偽造防止効果が高い。
【0052】
本発明は、基本画像と呼ばれる既存の線画及び/又はドットパターンの画像に対して微小スリットパターン構造を施すことによってその発明は達成される。したがって、複写時の警告メッセージや、判別スクリーンを重ね合わせた時に発現する警告メッセージや隠し情報の発現性について、線画デザイナーは考慮したり、またデザイナーのデザイン上に特別な制約が生じることはない。また、デザイン知識を有しない任意の者でも偽造防止印刷物を作成することができ作業の分担性が可能となる。また、すでにデータベース化されて保存されている線画やドットパターンデザインに対しても、微小スリットパターン構造を施すことで容易に偽造防止効果を有した線画デザインへと作り変えることが可能であるため効率性に優れる。
【0053】
加えて、先の複写防止模様の作成方法及びその印刷物(特開平8−197828号公報、特開平8−300800号公報及び特願平10−365278)では、潜像を施す部分と施さない部分の連続線とで画線面積を等しくする必要があり、そのため画線の設計値の算出や編集作業に時間がかかってしまう。これに対し本発明は、前述したように既存の画線もしくは新しくデザインされた画線に対し、微小スリットパターン構造を施すだけなので編集作業が容易である。
【0054】
また、同一の図柄をもとに、微小スリットパターン構造を含む全体の図柄のサイズ変更を行うだけで、一つは複写時に警告メッセージを発現させるもの、もう一つは、判別スクリーンを使用するID情報が潜在化された、異なる2つの偽造防止印刷物を簡単に選択し作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の、微小スリットパターン構造を施すためのもとになる基本画像Aを示す。
【図2】 コピー機による複写や判別スクリーンを重ね合わせたときに発現する警告メッセージ用の画像を示す。
【図3】 図1の基本画像Aと、図2の警告メッセージ用画像との交わりの部位を示す。
【図4】 基本画像Aからメッセージ画像部B(OK)とメッセージ画像部C(COPY)を除外した部位の画像で、背景画像部Dを示す。
【図5】 微小スリットパターン構造入り線画及び/又はドットパターンの模式図を示す。
【図6】 微小スリットパターン構造入りのメッセージ画像部B(OK)と背景画像部Dの境界付近の拡大図Eを示す。
【図7】 微小スリットパターン構造入りのメッセージ画像部C(COPY)と背景画像部Dの境界付近の拡大図Fを示す。
【図8】 複写物のサンプル画像を示す。
【図9】 複写機の走査角度の変化に伴った潜像発現の度合いの目視評価を示す。
【図10】 サイズを変更した各水準の設計値を示す。
【図11】 3種類のコピー機での複写結果を示す。
【図12】 判別スクリーンを重ね合わせて警告メッセージを顕像化する方法を示す。
【符号の説明】
A 基本画像
B メッセージ画像B
C メッセージ画像C
D 背景画像部D
E メッセージ画像Bと背景画像部との境界付近
F メッセージ画像Cと背景画像部との境界付近
G 印刷物
H フィルム
J 直万線パターン
K 警告メッセージ
Claims (8)
- 基材上に、線画及び/又はドットパターンから構成される基本画像を有し、前記基本画像が、背景画像部と、少なくとも1つ以上の潜像を施したメッセージ画像部とに区分けされ、前記背景画像部として区分けされた線画及び/又はドットパターンのそれぞれの各画線内及び/又はドット内に画線部及び非画線部から成る微小スリットパターンが所定方向で配列され、前記少なくとも1つ以上の潜像を施したメッセージ画像部として区分けされた線画及び/又はドットパターンのそれぞれの各画線内及び/又は各ドット内に画線部及び非画線部から成る微小スリットパターンが所定方向で配列され、前記背景画像部の微小スリットパターンの配列方向の角度と、前記少なくとも1つ以上の潜像を施したメッセージ画像部の微小スリットパターンの配列方向のそれぞれの角度が、互いに異なることを特徴とする偽造防止構造を有する印刷物。
- 前記背景画像部及び前記メッセージ画像部の前記微小スリットパターンが、非画線部の幅が64乃至140ミクロンで、画線部の幅が64乃至140ミクロンの等間隔の直万線パターンであり、前記非画線部の幅と前記画線部の幅の比が1対1であることを特徴とする請求項1記載の偽造防止構造を有する印刷物。
- 前記基本画像における背景画像部として区分けされた線画及び/又はドットパターンのそれぞれの各画線内及び/又は各ドット内に有した画線部及び非画線部から成る微小スリットパターンの画線部の幅と非画線部の幅と、メッセージ画像部として区分けされた線画及び/又はドットパターンのそれぞれの各画線内及び/又は各ドット内に有した画線部及び非画線部から成る微小スリットパターンの画線部の幅と非画線部の幅とが、それぞれ同一であることを特徴とする請求項1又は2記載の偽造防止構造を有する印刷物。
- 前記基本画像におけるメッセージ画像部が、文字、記号を表現する画像であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の偽造防止構造を有する印刷物。
- 前記線画及び/又はドットパターンの各々の線幅やドット径を連続的に変化させて、任意の階調を有する画像が表現されることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の偽造防止構造を有する印刷物。
- 前記基本画像が、地紋模様であることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の偽造防止構造を有する印刷物。
- 請求項1乃至6記載の印刷物に、前記印刷物中に入れられた微小スリットパターン構造と同一ピッチの万線パターンの像を有した透明フィルムの基材からなる判別スクリーンを重ね合わせ、該判別スクリーンを回転させることにより、順に少なくとも1つ以上の警告メッセージを発現し、該警告メッセージの有無により上記印刷物と複写物とを判別することを特徴とする偽造防止構造を有する印刷物の判別方法。
- 請求項1乃至6記載の印刷物中に表現された任意の画像は人物画像であり、その人物に対応した特定のID情報がメッセージ画像として入れられた顔画像入り身分証明書であることを特徴とする偽造防止構造を有する印刷物。
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