以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
(第1の実施形態)
図1に示されるように、本発明の第1の実施形態に従うOFDMシステムでは、複数の送信アンテナ101a,101bを有するOFDM信号送信装置100からそれぞれOFDM信号が送信される。送信されたOFDM信号は、複数の受信アンテナ201a,201bを有するOFDM信号受信装置200によって受信される。ここでは、OFDM信号送信装置100が二つの送信アンテナ101a,101bを有し、OFDM信号受信装置200が二つの受信アンテナ201a,201bを有する場合について述べるが、これに限られず、3つ以上の送信アンテナ及び受信アンテナを有する場合にも本発明は有効である。
図2(a)(b)に模式的に示すように、本実施形態ではOFDM信号送信装置100において異なる2つの送信データから2つのOFDM信号を形成し、これらを異なる送信アンテナ101a,101bから送信する。図2(a)に示す第1OFDM信号は、送信データDATA_a(N,K)が重畳されており、図2(b)に示す第2OFDM信号は、送信データDATA_b(N,K)が重畳されている。ここで、DATA_a(N,K)は、送信アンテナ101aから送信されるデータでNシンボル目のKサブキャリアで送信されている信号を表す。DATA_b(N,K)は、送信アンテナ101bから送信されるデータでNシンボル目のKサブキャリアで送信されている信号を表す。パイロットサブキャリアについては後述する。
今、送信アンテナ101aから受信アンテナ201aまでの伝搬路の伝達関数(以下、伝搬路の伝達関数を伝搬路応答値という)をHaa、送信アンテナ101aから受信アンテナ202bまでの伝搬路応答値をHab、送信アンテナ101bから受信アンテナ201aまでの伝搬路応答値をHba、送信アンテナ101bから受信アンテナ202bまでの伝搬路応答値をHbbとすれば、受信アンテナ201aの受信信号RXa及び受信アンテナ201bの受信信号RXbは、次のように記述できる。
TXa及びTXbは、それぞれ送信アンテナ101a及び101bからの送信信号を示す。受信信号RXa及びRXbに、伝搬路応答値Haa, Hab, Hba, Hbbで形成される行列の逆行列を乗じることにより、送信信号TXa及びTXbを復調することができる。
第1の実施形態では、データを送信するためのデータサブキャリアとは別に、周波数オフセットやクロックオフセットの残留位相誤差の補償に用いる既知信号を送信するためのパイロットサブキャリアが用いられる。すなわち、受信時にはパイロットサブキャリアにより送信されてくる既知信号を用いて残留位相誤差の検出及び補償を行う。
ここで、比較のために説明すると先の特許文献1では、第1の送信アンテナから図30(a)に示すOFDM信号が送信され、第2の送信アンテナから図30(b)に示すOFDM信号が送信される。すなわち、図30(a)に示されるように第1のアンテナのみから斜線で示すパイロットサブキャリアが送信される。第2のアンテナからは、図30(b)に示されるようにパイロットサブキャリアが送信されず、パイロットサブキャリアに相当する周波数では空白で示すようにヌル信号が送信される。従って、パイロットサブキャリアは互いに干渉することなく送信されるため、指向性ビームによって受信特性が悪化するようなことはなくなるが、パイロットサブキャリアの全送信電力が低下する。
一方、第1の実施形態によれば、二つの送信アンテナ101a及び101bからパイロットサブキャリアを送信してパイロットサブキャリアの全送信電力を十分に確保しつつ、良好な受信特性を得ることができる。
次に、図3を用いて図1中に示すOFDM信号送信装置100について説明する。OFDM信号送信装置100は符号化器102、シリアル・パラレル変換器103、変調器104a及び104b、シリアル・パラレル変換器105、パイロットサブキャリア挿入部106、ビーム形成器107及び逆高速フーリエ変換(IFFT)ユニット108a及び108bを有する。
入力される送信データは後述するような構造の無線パケットであり、符号器102によって符号化される。符号化されたデータはシリアル・パラレル変換器103によってシリアル・パラレル変換が施されることにより、送信アンテナ101aに対応する第1送信データと送信アンテナ101bに対応する第2送信データとに振り分けられる。第1送信データ及び第2送信データは、それぞれ変調器104a及び104bによってサブキャリア変調される。変調器104a及び104bの変調方式としては、これらに限られないが、例えばBPSK(Binary Phase Shift Keying),QPSK(Quadrature Phase Shift Keying),16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)あるいは64QAMが用いられる。
変調器104aから出力される変調データは、シリアル・パラレル変換器105aにより複数の第1データサブキャリアに振り分けられる。同様に変調器103bから出力される変調データは、シリアル・パラレル変換器105bにより複数の第2データサブキャリアに振り分けられる。
第1データサブキャリア及び第2データサブキャリアにそれぞれ割り当てられた変調データ(以下、これを第1データサブキャリア及び第2データサブキャリアと称する)は、パイロットサブキャリア挿入部106に入力される。パイロットサブキャリア挿入部106では、OFDM信号の一部のサブキャリアがパイロット信号を送信するためのパイロットサブキャリアに割り当てられ、残りのサブキャリアがデータ信号を送信するためのデータサブキャリアに割り当てられる。
具体的には、パイロットサブキャリア挿入部106は、第1データサブキャリアの間に少なくとも一つの第1パイロットサブキャリアで送信されるパイロット信号(以下、本明細書ではこれを第1パイロットサブキャリアと称する)をそれぞれ挿入し、第2データサブキャリアの間に少なくとも一つの第2パイロットサブキャリアで送信されるパイロット信号(以下、本明細書ではこれを第2パイロットサブキャリアと称する)をそれぞれ挿入する。第1データサブキャリアと第1パイロットサブキャリアの集合を第1サブキャリア信号と呼び、第2データサブキャリアと第2パイロットサブキャリアの集合を第2サブキャリア信号と呼ぶことにする。
パイロットサブキャリア挿入部106から出力される第1サブキャリア信号及び第2サブキャリア信号は、ビーム形成器107に入力される。ビーム形成器107では、シリアル・パラレル変換器105aからの出力とシリアル・パラレル変換器105bからの出力をそれぞれ重み付け合成して複数の送信ビームを形成するためのビームフォーミング処理を行う。ビーム形成器107については、後に送信アンテナ数がより多い場合を例にとり詳しく説明する。
ビーム形成器107からの出力信号は、IFFTユニット108a及び108bによりそれぞれ逆高速フーリエ変換が施される。IIFFT後の出力は送信アンテナ101a及び101bから出力される。図3では、ビーム形成器107はIFFTユニット117a,108bの前に挿入されているが、IFFTユニット117a,108bの後に挿入してもよい。IFFTユニット108a及び108bでの逆高速フーリエ変換の結果、ビームフォーミング処理後の第1サブキャリア信号及び第2サブキャリア信号は周波数軸上の信号から時間軸上の信号に変換されることによって多重化され、図2(a)(b)に示されるような第1OFDM信号a及び第2OFDM信号bを生成する。OFDM信号a及びbは、図示しない無線送信ユニットを介して送信アンテナ101a及び101bへそれぞれ送られ、これらのアンテナ101a及び101bから送信される。
次に、図4を用いてパイロットサブキャリア挿入部106について説明する。
パイロットサブキャリア挿入部106では、シリアル・パラレル変換器105aからの第1データサブキャリア及びシリアル・パラレル変換器105bからの第2データサブキャリアは、ビーム形成器107へそのまま出力される。このとき第1データサブキャリアの間及び第2データサブキャリアの間に、それぞれ少なくとも一つの第1パイロットサブキャリア及び第2パイロットサブキャリアが挿入される。本実施形態では、第1パイロットサブキャリア及び第2パイロットサブキャリアはそれぞれ4つ存在する。
系列発生器110は、擬似ランダム系列として例えばM系列のようなpseudorandom noise(PN)系列を発生する。第1パイロットサブキャリアは、擬似ランダム系列PN(i)とROM121aに格納された第1パイロットサブキャリアの極性データSa(j)との積を乗算ユニット111a〜111dで求めることにより生成される。同様に第2パイロットサブキャリアは、擬似ランダム系列PN(i)とROM121bに格納された第2パイロットサブキャリアの極性データSb(j)との積を乗算ユニット112a〜112dで求めることにより生成される。送信アンテナ101aから送信される、第1パイロットサブキャリアのベースバンド信号をPa(i,j)とすれば、Pa(i,j)は以下のようにPN(i)とSa(j)との積で表される。
ただし、iはシンボル番号であり、時間方向に並ぶ。jはパイロットサブキャリアの番号であり、周波数方向に並ぶ。同様に、送信アンテナ101bからのパイロットサブキャリアのベースバンド信号Pb(i,j)は次のようにPN(i)とSb(j)との積で表される。
第1の実施形態では、送信アンテナ101a及び101bからそれぞれ送信されるパイロットサブキャリアの数を共に4個とし(j=1〜4)、送信アンテナ101a及び101bからそれぞれ送信される第1及び第2パイロットサブキャリアの極性データSa(j)及びSb(j) (j=1, 2, 3, 4)を以下のように設定する。
すなわち、送信アンテナ101aから送信される第1パイロットサブキャリアと送信アンテナ101bから送信される第2パイロットサブキャリアとでは、擬似ランダム系列に乗算する極性データSa(j)及びSb(j)がそれぞれ異なっており、これによって第1パイロットサブキャリアの極性パターンと第2パイロットサブキャリアの極性パターンが異なっている。ここで、第1パイロットサブキャリアの極性パターンとは、第1パイロットサブキャリアの各々の極性の組み合わせのパターンである。同様に第2パイロットサブキャリアの極性パターンとは、第2パイロットサブキャリアの各々の極性の組み合わせのパターンである。このように第1パイロットサブキャリア及び第2パイロットサブキャリアの極性パターンを異ならせることによる効果については、後に詳しく述べる。ここではパイロットサブキャリアの極性データ及び擬似ランダム系列は実数を用いて表現されているが、複素数の極性データあるいは複素数の擬似ランダム系列を用いることも可能である。
次に、図5を用いて図1中のOFDM信号受信装置200について説明する。OFDM信号受信装置200はFFT(高速フーリエ変換)ユニット202a及び202b、干渉除去回路203、残留位相誤差検出器204、位相補償ユニット205a及び205b、シリアル・パラレル変換器206及び復号化器207を有する。
受信アンテナ201aで受信されるOFDM信号は、図示しない無線受信ユニットを介してFFTユニット202aへ入力され、フーリエ変換が施されることにより各サブキャリアの信号に分割される。同様に、受信アンテナ201bで受信されるOFDM信号も、FFTユニット202bによってフーリエ変換が施されることにより各サブキャリアの信号に分割される。
図1に示したように、受信アンテナ201aで受信される信号は送信アンテナ101a及び101bから送信されるOFDM信号が重畳されており、受信アンテナ201bで受信される信号も送信アンテナ101a及び101bから送信されるOFDM信号が重畳されている。干渉除去回路203においては、送信アンテナ101a及び101bからのOFDM信号をそれぞれ分離して受信するために干渉除去を行う。このための干渉除去方式は公知の技術であるが、ここでは数式(1)の伝搬路応答で作られている行列の逆行列を受信信号に乗算する方式について説明する。数式(1)の伝搬路応答で作られている行列の逆行列は、次のように書ける。
数式(6)の逆行列をそれぞれ受信アンテナ201a及び201bから出力される受信信号より作られる受信信号ベクトルに乗算することで、送信アンテナ101a及び101bからのOFDM信号が分離される。マルチパス環境ではサブキャリア毎に伝搬路応答値が異なるため、伝搬路応答値はサブキャリアの数だけ存在し、逆行列の係数の導出及び逆行列の乗算は、サブキャリア毎に行われる。こうして干渉除去回路203によって分離された信号は、残留位相誤差検出器204へ送られる。
残留位相誤差検出器204では、図示しない無線パケットのプリアンブルを用いて補償された周波数オフセットやクロックオフセット等の残留成分を検出する。残留位相誤差検出器204は、さらにパイロットサブキャリアにより伝送された既知信号を用いて二つの受信信号RXa及びRXbの残留位相誤差を検出し、これを位相補償ユニット205a及び205bへ送出する。
図6に、残留位相誤差検出器204の検出原理を示す。ここでは、残留位相誤差の検出は、干渉除去を行わない信号について適用する場合を例にして説明する。すなわち、パイロットサブキャリアに関しては、数式(6)で示された行列(数式(6)の右辺)は、単位行列で表される場合、あるいはFFTユニット202a及び202bの出力を重み付け合成して、信号電力対雑音電力比を最大にする行列、すなわち受信ダイバーシチを行う行列またはベクトルで表せる場合である。2個の送信アンテナ101a及び102bを用いて2値の擬似ランダム系列から生成される2値のパイロットサブキャリアを送信する場合、干渉除去前のOFDM信号受信装置においては図6に示すように22 =4個の受信信号点(1,1),(1,−1),(−1,1),(−1,−1)の候補が存在する。ここで、例えば(1,−1)は送信アンテナ101aから“1”の変調信号が送信され、送信アンテナ101bから“−1”の変調信号が送信されることを表す。
第1の実施形態のように送信アンテナ101a及び101bで共通の擬似ランダム系列から生成される第1パイロットサブキャリア及び第2パイロットサブキャリアを送信アンテナ101a及び101bから送信する場合、受信信号点は(1,1)及び(−1,−1)の組み合わせ、あるいは(1,−1)及び(−1,1)の組み合わせとなる。この組み合わせは、無線パケット受信中に変化することがない。例えば、受信信号点の組み合わせが(1,−1)及び(−1,1)の場合、OFDM信号受信装置にとってはあたかも単一の送信アンテナからBPSK信号が送信されたのと同様に見える。
次に、(−k+1)番目のサブキャリアで送信されるパイロットサブキャリアPa(1)及びPb(1)を用いて残留位相誤差を検出する場合について説明する。いま、受信アンテナ201aに接続されているFFT202aのみを考え、(−k+1)番目のサブキャリアにおける送信アンテナ101aから受信アンテナ201aまでのパイロットサブキャリア伝搬路応答値をHaaとする。同様に、送信アンテナ101bから受信アンテナ201aまでの伝搬路応答値をHbaとする。パイロットサブキャリアの極性が数式(4)及び(5)で表されている場合、(−k+1)番目のパイロットサブキャリアに対応する極性はSa(1)=1及びSb(1)=1である。よって、二つの送信アンテナからの信号が多重されたパイロット信号はHaa+Hbaという伝搬路応答値が乗算されるため(1,1)及び(−1,−1)の二つの点が受信される。よって、残留位相誤差検出器は伝搬路応答値Haa及びHbaを用いて合成された伝搬路応答値Haa+Hbaを計算し、基準信号点(1,1)及び(−1,−1)を作成する。
さて、次のOFDMシンボルで(1,1)が送信されたとし、この時の受信信号点が図6で示す「次シンボル」であったとする。このとき、残留位相誤差検出器204は現在の受信信号点(1,1)と次シンボルとの位相差θを残留位相誤差として検出することができる。なお、残留位相誤差検出値は、受信アンテナ201aの系統の出力と、受信アンテナ201bの系統の出力と複数の出力の両方から得ることができる。この場合、両者の平均値や重み付け平均値を位相補償器205a及び205bへ出力することが可能である。
第1の実施形態では、パイロットサブキャリアを用いた残留位相誤差検出は干渉除去を用いずに行ったが、干渉除去を行った後に残留位相誤差の検出を行うことも可能である。この場合、パイロットサブキャリアの受信信号点は送信アンテナ101a及び101bからの送信信号点と等しい数しか現れないことになる。なお、パイロットサブキャリアを用いた残留位相誤差の検出を干渉除去を行った後で適用する場合、パイロットサブキャリアの信号電力対雑音電力比が悪化するため、推定精度は悪化することになる。
位相補償ユニット205a及び205bでは、受信信号に対して残留位相誤差分だけ位相回転を施すことにより位相補償を行う。位相補償後の二つの受信信号はパラレル・シリアル変換器206によりシリアル信号とされ、続く復号化器207により復号されることにより、送信信号に対応する受信信号が得られる。
前述のように、パイロットサブキャリアは残留位相誤差を検出するために用いられる。パイロットサブキャリアの受信電力が低いために例えば雑音に埋もれた状態でパイロットサブキャリアが受信された場合には、残留位相誤差の検出を誤ってしまう可能性がある。その場合、位相補償ユニット205a及び205bでは誤った残留位相誤差検出結果に従って位相補償が行われるため、全てのデータサブキャリアが誤って受信されてしまう可能性が高い。従って、パイロットサブキャリアの受信電力がOFDM信号受信装置の受信特性を決定してしまうと言っても過言ではない。この問題を解決するため、本実施形態では前述したように、送信アンテナ101aから送信される第1パイロットサブキャリアと送信アンテナ101bから送信される第2パイロットサブキャリアの極性を異ならせている。
図7は、二つの送信アンテナ101a及び101bから同一極性パターンのパイロットサブキャリアを送信する場合のアンテナ101a及び101bの送信指向性イメージと、アンテナ101a及び101bによる送信合成ビームパタンを模式的に示している。送信アンテナ101aから送信される第1パイロットサブキャリアの極性データSa(1), Sa(2), Sa(3), Sa(4)は数式(4)とし、送信アンテナ101bから送信される第2パイロットサブキャリアの極性データSb(1), Sb(2), Sb(3), Sb(4)は次の数式(7)としている。
送信アンテナ101a及び101bは、図7の上側に示されるような無指向性のアンテナを仮定する。このため、アンテナ101a及び101bから同時に同一極性のパイロットサブキャリアが送信されると、各々の送信信号は互いに干渉し合い、合成ビームパタンは指向性ビームを形成する。さらに、IEEE802.11a規格の場合を例にとると、OFDM信号の中心周波数(キャリア周波数)である5GHzであるのに対して、パイロットサブキャリアの間隔は約4.4MHzと非常に小さいため、4つのパイロットサブキャリアの指向性ビームは図7の下側に示されるようにほぼ同じ方向を向く。この結果、4つのパイロットサブキャリアの受信電力が共に大きく低下する場所、すなわちOFDM信号受信装置の受信特性が大幅に劣化するような不感帯が生じる可能性がある。
一方、図8は第1の実施形態に従い送信アンテナ101aから送信される第1パイロットサブキャリアの極性パターンと送信アンテナ101bから送信される第2パイロットサブキャリアの極性パターンを異ならせた場合のアンテナ101a及び101bの送信指向性イメージと、アンテナ101a及び101bによる送信合成ビームパタンを模式的に示している。送信アンテナ101aから送信される第1パイロットサブキャリアの極性データSa(1), Sa(2), Sa(3), Sa(4)は数式(4)とし、送信アンテナ101bから送信される第2パイロットサブキャリアの極性データSb(1), Sb(2), Sb(3), Sb(4)は数式(5)としている。
数式(4)及び(5)に従うと、例えば極性データSa(1)に従って制御された第1パイロットサブキャリアと極性データSb(1)に従って制御された第2パイロットサブキャリア間の位相差は0であるのに対して、極性データSa(2)に従って制御された第1パイロットサブキャリアと極性データSb(2)に従って制御された第2パイロットサブキャリア間の位相差は180°である。この結果、例えば図8の下側に示されるように、極性Sa(1)及びSb(1)のパイロットサブキャリアで形成される指向性ビームの方向と、極性Sa(2)及びSb(2)のパイロットサブキャリアパイロットサブキャリアで形成される指向性ビームの方向は180°異なる。
図9は、本発明の実施形態を用いてパイロットサブキャリアを送信した場合の受信機におけるパイロットサブキャリアの平均正規化受信レベルを示したものである。送信アンテナは2本であり、数式(4)及び(5)を用いたPa(1),Pa(2),Pa(3),Pa(4)及びPb(1)、Pb(2),Pb(3),Pb(4)の4本のパイロットサブキャリアを用いている。なお、パイロットサブキャリアの極性はOFDM信号の中心周波数は5GHzであり、信号帯域幅は約20MHz、アンテナ素子間隔は半波長であり、各々の素子は無指向性であるとしている。伝搬路モデルはIEEE802.11-03-940/r1 “TGn Channel model”に示されている「Channel model D(NLOS)」を用いている。図9のX軸は、送信アンテナからみた角度を示しており、ある送信角度に応じた4つのパイロットサブキャリアの受信電力がY軸に示されている。
図9から分かるように、ある角度においてはパイロットサブキャリアの電力が他の角度と比較して落ち込むことがある。しかしながらその場所では、他のパイロットサブキャリアの受信電力が高くなるため、受信機はレベルの高いパイロットサブキャリアを用いて残留位相誤差の補償を行うことが可能である。
一方、図10は、数式(4)及び(7)を用いてパイロットサブキャリアを送信した場合の受信電力を示したものである。すなわち、同一の極性のパイロット信号を用いた場合の特性である。図10から分かるように、ある角度においては、パイロットサブキャリアの電力が他の角度と比較して落ち込むことがある。そして、その傾向は他のパイロットサブキャリアでも同じであり、すべてのパイロットサブキャリアの電力が同時に落ち込む。よってそのような角度に存在する受信機では、ため、他のパイロットサブキャリアを用いても残留位相誤差の補償を行うことが困難である。
従って、受信側ではある一つのパイロットサブキャリアの受信電力が小さくても、他のパイロットサブキャリアの受信電力が大きくなる可能性が高くなる。このため、全てのパイロットサブキャリアの受信電力が同時に落ち込んでしまうような不感帯を減らすことが可能になり、高品質な受信が可能なエリアが拡大される。
また、第1の実施形態では全てのアンテナ送信アンテナ101a及び101bに関してサブキャリアの送信電力を特に大きくするなどの必要がないため、複合3次歪みが増大することがなく、D/A変換器の入力ダイナミックレンジを特に拡大させる必要もない。
以上の説明では、OFDM信号送信装置100が2個の送信アンテナ101a及び101bを有する例について述べたが、送信アンテナ数が更に多い場合にも拡張可能である。図11(a)(b)には、例として4個の送信アンテナ101a〜101dを用いた場合に各々の送信アンテナから送信される第1〜第4パイロットサブキャリアの二種類の極性パターンの例を示す。図11(c)(d)には、同様に3個の送信アンテナ101a〜101cを用いた場合に各々の送信アンテナから送信される第1〜第4パイロットサブキャリアの二種類の極性パターンの例を示す。ここでは、第1〜第4パイロットサブキャリアについて二種類のパイロットサブキャリア極性1及び2が用意されている。パイロットサブキャリア極性1は実数を用いた場合の極性パターンであり、パイロットサブキャリア極性2は虚数を用いた場合の極性パターンである。パイロットサブキャリア極性2は、フーリエマトリクスの係数を用いて生成している。
図11(a)に示す4送信アンテナの場合のパイロットサブキャリア極性1では、第1パイロットサブキャリアの極性をSa(1)=1,Sa(2)=1,Sa(3)=1, Sa(4)=−1とし、第2パイロットサブキャリアの極性をSb(1)=1,Sb(2)=−1,Sb(3)=1,Sb(4)=1とし、第3パイロットサブキャリアの極性をSc(1)=1,Sc(2)=−1,Sc(3)=−1,Sc(4)=−1とし、第4パイロットサブキャリアの極性をSd(1)=1,Sd(2)=1,Sd(3)=−1,Sd(4)=1としている。ここで、ある周波数から送信されるパイロットサブキャリアについて、各々の極性を要素として持つベクトルを考える。パイロットサブキャリアはそれぞれのアンテナから4本送信され、送信アンテナは4本あるため、パイロットサブキャリアの極性パターンとして4つの極性データの要素を持つ次の4つのベクトルが定義できる。
s(1)〜s(4)は互いに異なっているベクトルであり、例えばs(1)のベクトルを何倍しても他のベクトルになることはない。このように、ある周波数から送信されるパイロットサブキャリアのベクトルが他の周波数から送信されるパイロットサブキャリアのベクトルと異なっていることで、各パイロットサブキャリアの指向性ビームが異なる方向を向くため、不感地帯を減らすことが可能である。なお、s(1)〜s(4)は互いに直交の関係にあるが、必ずしも直交の関係でなくとも、指向性ビームを異なる方向に向けることは可能である。
図11(b)に示す4送信アンテナの場合のパイロットサブキャリア極性2では、第1パイロットサブキャリアの極性をSa(1)=1,Sa(2)=1,Sa(3)=1,Sa(4)=−1とし、第2パイロットサブキャリアの極性をSb(1)=1,Sb(2)=−j,Sb(3)=−1,Sb(4)=−jとし、第3パイロットサブキャリアの極性をSc(1)=1,Sc(2)=−1,Sc(3)=1,Sc(4)=1とし、第4パイロットサブキャリアの極性をSd(1)=1,Sd(2)=j,Sd(3)=−1,Sd(4)=jとしている。ここで、jは虚数単位である。この場合も上で説明したように、ある周波数から送信されるパイロットサブキャリアについて、各々の極性を要素として持つベクトルを考えると、それぞれのベクトルは互いに複素領域で異なっており、複素領域で直交の関係にあるが、必ずしも直交の関係でなくとも良い。
一方、図11(c)に示す3送信アンテナの場合のパイロットサブキャリア極性1では、第1パイロットサブキャリアの極性をSa(1)=1,Sa(2)=1,Sa(3)=1,Sa(4)=−1とし、第2パイロットサブキャリアの極性をSb(1)=1,Sb(2)=−1,Sb(3)=1,Sb(4)=1とし、第3パイロットサブキャリアの極性をSc(1)=1,Sc(2)=−1,Sc(3)=−1,Sc(4)=−1としている。この場合も上で説明したように、ある周波数から送信されるパイロットサブキャリアについて、各々の極性を要素として持つベクトルを考えると、それぞれのベクトルは互いに異なっている。
次に、図11(d)に示す3送信アンテナの場合のパイロットサブキャリア極性2では、第1パイロットサブキャリアの極性をSa(1)=1,Sa(2)=1,Sa(3)=1,Sa(4)=−1とし、第2パイロットサブキャリアの極性をSb(1)=1,Sb(2)=−j,Sb(3)=−1,Sb(4)=−jとし、第3パイロットサブキャリアの極性をSc(1)=1,Sc(2)=−1,Sc(3)=1,Sc(4)=1としている。この場合も上で説明したように、ある周波数から送信されるパイロットサブキャリアについて、各々の極性を要素として持つベクトルを考えると、それぞれのベクトルは互いに異なっており、各ベクトルを複素領域で何倍しても他のベクトルになることはない。
このようにパイロットサブキャリアの配置を決定することにより、各パイロットサブキャリアの指向性ビームが異なる方向を向くため、不感地帯を減らすことが可能である。
ところで、図11(a)(b)(c)(d)に示したパイロットサブキャリア極性は、複素領域において以下の数式(9)で表すことができる。
ただし、sk(i)はパイロットサブキャリアの極性、jは虚数単位、iはパイロットサブキャリアの番号、kは送信アンテナのアンテナ番号であり、例えばkの一番目の要素は送信アンテナ101aから送信される信号を示し、kの二番目の要素は送信アンテナ101bから送信される信号を示す。
数式(9)によると、k=2のアンテナ101bから送信される第1〜第4パイロットのサブキャリア間の位相差は−90°である。k=3のアンテナ101cから送信されるパイロットサブキャリア間の位相差が−180°であり、k=4のアンテナ101dから送信されるパイロットサブキャリア間の位相差は−270°である。このように送信アンテナが異なると、パイロットサブキャリア間の位相差が異なる。従って、先と同様に各々のパイロットサブキャリアに対応する指向性ビームが異なる方向を向くため、不感帯を減少させることが可能になる。
なお、位相差−90°と位相差270°は同じであり、位相差−270°と位相差90°も同じである。よって図11(a)(b)(c)(d)を忠実に表すためには、数式(9)における指数項にはマイナスの符号が必要であるが、上述の議論よりマイナスの符号がない場合でも同じであるため、数式(9)では符号を省略している。
また、図11(a)(b)に従うと、以下の数式(10)で示すように、1番目の送信アンテナ101aから送信されるパイロットサブキャリアのうち第4パイロットサブキャリアの極性は第1〜第3パイロットサブキャリアに対して反転している。
言い換えると、第1〜第4パイロットサブキャリアの極性は次の数式(11)で表される。
さらに、一般化するとパイロットサブキャリアの極性はパイロットサブキャリアの番号iによって数式(12)または(13)となる。
上記の説明では、iはパイロットサブキャリアの番号としたが、iをパイロットサブキャリアの周波数に置き換えることも可能である。具体的には、iの値として例えば−21,−7,+7,21を使用する。この際、フーリエ変換関数の周期性を考慮して、次の数式(14)のようにパイロットサブキャリア極性を表現することも可能である。
ただし、sk(i)はパイロットサブキャリアの極性、jは虚数単位、iはパイロットサブキャリアの周波数、kは送信アンテナのアンテナ番号、Nは逆フーリエ変換における入力ポイント数である。
数式(14)を用いても、送信アンテナが異なると各パイロットサブキャリア間の位相差が異なるため、不感帯を減少することが可能になる。なお、フーリエ変換対を考慮すると、数式(14)の表現は時間軸において送信信号を送信アンテナ毎に一サンプルずつシフトさせることと等価である。
これまで説明では、送信アンテナ毎に異なる信号を送信する場合について説明したが、本実施形態は実際にはビーム形成器107によって形成される複数の送信ビーム毎に異なる信号を送信する。以下、ビーム形成器107について詳しく説明する。
ビーム形成器107は、複数の送信ビームを形成するための処理(ビームフォーミング)を行うための装置であり、その実現法については公知の技術を用いることができる。ビーム形成法には、大別して二通りのモードが知られている。第1のモードは無線送信装置と無線受信装置との間のチャネル応答が完全に分かっている場合のビーム形成モードであり、ビームを受信装置に向けるためにチャネル応答に従ってビーム形成のための重み(ウェイト)が計算される。第2のモードは、チャネル応答が完全に分かっていない場合のビーム形成モードであり、ビーム形成のために予め定められた重み(ウェイト)が用いられる。従って、ビームは必ずしも受信装置を向くとは限らない。
John Ketchumらは文献” ftp://ieee:
[email protected]/11/04/11-04-0870-00-000n-802-11-ht-system-description-and-operating-principles.doc“により、第1のビーム形成モードの一つであるEigenvector steering(ES)方式と、第2のビーム形成モードの一つであるSpatial spreading(SS)方式について述べている。また、John Ketchumらの文献では、ビーム形成を用いることによりダイバーシチ効果が得られるとの説明がある。
ビーム形成器107は、第1のビーム形成モードと第2のビーム形成モードに対応するために、例えばES方式とSS方式を有する。データサブキャリアに対しては、ES方式またはSS方式のいずれを用いた場合でも、John Ketchumらが述べているようにビーム形成を行うことが有効である。一方、パイロットサブキャリアに対しては、John Ketchumらが教示する手法でビーム形成を行うことは好ましくない。パイロットサブキャリアは受信側で既知の情報であり、また受信側で必ず正確に受信される必要があるからである。
次に、ES方式とSS方式を用いた場合のパイロットサブキャリアの構成方法について説明する。
ES方式では、John Ketchumらによる文献の10ページに書かれている通り、無線送信装置と無線受信装置との間のチャネル応答を測定し、無線受信装置の方向に送信ビームを向ける。よって、パイロットサブキャリア挿入部106においていかなるパイロットサブキャリアを生成しても、パイロット信号は無線受信装置に到達するため、不感帯は発生しない。よって、ES方式を用いてビーム形成を行う場合は、パイロットサブキャリアの極性に関して、第1〜第8の実施形態と同様の設定を行えばよい。一方、SS方式はチャネル応答が完全には分かっていない場合のビーム形成モードであり、予め定められたビーム形成のための重み係数(ウェイト)が用いられるため、パイロットサブキャリアが必ず無線受信装置に到達することを保証しない。
いま、送信アンテナの数が4の場合のパイロットサブキャリアを以下の行列Pで表すとする。
行列Pの列の数は、周波数軸上でのパイロットサブキャリア数と同じである。第1列目は、各アンテナから送信される第1のパイロットサブキャリアの極性を示す。行列Pの行の数は、ビーム形成器107の入力ポート数と同じである。すなわち、行列Pは図11(b)を表している。一方、John Ketchumらの文献で例示されているWalsh行列を用いたビームフォーミング行列Qを以下に示す。
ここで、行列Qの列の数は、ビーム形成器107の入力ポートの数、すなわち送信ビームの数に等しい。行列Qの行の数は、送信アンテナの数に等しい。行列Qの第i行目が第i番目の送信ビームに対応するウェイトを表す(この例ではi=1,2,3,4)。ビーム形成器107では、行列Pと行列Qとの乗算を行い、以下のような行列QPを得る。
行列QPの列の数は、パイロットサブキャリアの数と同じである。行列QPの行の数は、送信アンテナの数に等しい。例えば、行列QPの第1列に注目すると、これは第1の送信アンテナのみから電力が“16”(つまり振幅が4)のパイロットを送信することに相当する。行列QPの第2列に注目すると、第3の送信アンテナと第4の送信アンテナのみから電力が“8”(つまり振幅が√8)のパイロットを送信することに相当する。このように第1のパイロットサブキャリアについては、第1の送信アンテナからのみ高い電力で送信されることになる。また、第2のパイロットサブキャリアについては、第3および第4の送信アンテナからのみパイロット信号が送信される。この結果、OFDM信号の周波数帯域内で送信電力にむらが生じ、複合三次歪みの発生、送信信号のダイナミックレンジの増大といった従来技術で指摘した問題点が起こる。
すなわち、SS方式に基づいたビーム形成をパイロットサブキャリアに適用すると、パイロットサブキャリアの直交性が崩れてしまう。また、あるパイロットサブキャリアについては、パイロット信号を送信しない送信アンテナが生じるため、空間ダイバーシチの効果が薄れる。
そこで、第9の実施形態ではビーム形成器107においてSS方式に従うビーム形成を用いる場合、データサブキャリアに対してはJohn Ketchumらの文献と同様にSS方式を用いるが、パイロットサブキャリアについてはビーム形成を行わない。具体的には、パイロットサブキャリアに対しては行列Qを単位行列とする(これをQ´とする)。
行列Q′の第i行目が第i番目の送信ビームに対応するウェイトを表す(この例ではi=1,2,3,4)。こうすると、行列Q′Pには行列Pがそのまま現れるため、周波数軸及び空間軸上で互いに直交したパイロットサブキャリアによってパイロット信号が送信される。 なお、SS方式を用いた場合、各アンテナからの送信信号はそれぞれcyclic delayed diversity(CDD)が施される。具体的には、第2の送信アンテナからからは第1の送信アンテナから送信される信号よりも例えば50nsecサイクリックシフトされた信号が送信される。CDD方式についてはJohn Ketchumらの文献の文献に記載されているため、説明を省略する。
このようにチャネル応答の情報を用いない第2のビーム形成モードに従って、例えばSS方式によりビーム形成を行う際に、パイロットサブキャリアにはビーム形成を適用せずにパイロット信号の送信を行う。この結果、パイロット信号が単一のアンテナのみから送信されて送信信号のダイナミックレンジを大きくすることがなくなる。さらに、空間ダイバーシチの効果により受信側に不感帯が発生するのを避けることができる。
なお、上記した例では第2のビーム形成モードでは、パイロットサブキャリアはビームフォーミングしない(単位行列を掛ける)方法について述べたが、これに代えて以下のようにしてもよい。
ビーム形成器107で行列Pに乗算するビームフォーミング行列Q′を
となる。行列Q′Pから分かるように、各アンテナからは周波数軸及び空間軸上で互いに直交したパイロットサブキャリアが送信される。これは、図11(a)に示すパイロットサブキャリアの極性パターンになっている。この結果、パイロット信号が単一のアンテナのみから送信されて送信信号のダイナミックレンジを大きくすることがなくなる。
このように、チャネル応答によらず送信ビームを形成するモードである第2のモードにおいて、データサブキャリアに対する送信ビームのウェイトとパイロットサブキャリアに対する送信ビームのウェイトとを異なる値にすることによって、パイロット信号が単一のアンテナから偏って送信されることがなくなり、各アンテナからは周波数軸及び空間軸上で互いに直交したパイロットサブキャリアが送信されるので、受信側に不感帯が発生するのを避けることができる。
次に、本発明の他の実施形態について説明する。以下に説明する他の実施形態は、いずれもOFDM信号送信装置100におけるパイロットサブキャリア挿入部106が第1の実施形態と異なる。
(第2の実施形態)
第2の実施形態に従うパイロットサブキャリア挿入部106は、図12に示されるように、第1パイロットサブキャリア及び第2パイロットサブキャリアのための極性データを格納したROM121a及び121bと、サブキャリアパターン制御器122が追加されている。ROM121a及び121bには、図13に例示されているように第1パイロットサブキャリアの極性Sa(1)〜Sa(4)を表す極性データ及び第2パイロットサブキャリアの極性Sb(1)〜Sb(4)を表す極性データが3パターン(パターンA,パターンB及びパターンC)ずつ格納されている。ROM121a及び121bからパターンA,パターンB及びパターンCのいずれの極性データを読み出すかは、ROM121a及び121bに与えるアドレスデータによって決定される。
第2の実施形態では、各送信アンテナ101a及び101bから送信される第1パイロットサブキャリア及び第2のパイロットサブキャリアの極性は固定でなく、無線パケット毎に変化する。すなわち、ROM121a及び121bから無線パケット毎に異なるパターンの極性データが読み出され、乗算器111a−111d及び112a〜112dによって擬似ランダム系列発生器110により発生される擬似ランダム系列と乗算される。
図12に示すパイロットサブキャリア挿入部106の外部に設けられた無線パケットカウンタ123は、図3中の符号化器102に入力される送信データ中の無線パケットの数をカウントし、カウント値をサブキャリアパターン制御器122へ渡す。サブキャリアパターン制御器122は、無線パケットカウンタ123のカウント値が1個インクリメントする毎に、ROM121a及び121bに与えるアドレスデータを変更する。これによりサブキャリアパターン制御器122は、ROM121a及び121bからそれぞれ読み出される、第1及び第2パイロットサブキャリアの極性データのパターンを変化させる。
例えば、ある無線パケットの送信時にはパターンAの極性データを読み出し、次の無線パケットの送信時にはパターンBの極性データを読み出し、さらに次の無線パケットの送信時にはパターンCの極性データを読み出す。この結果、パイロットサブキャリアの極性パターンが無線パケット毎に変更される。サブキャリアパターン制御器122による極性データのパターンの変更は、例えば無線パケット毎にランダムに行われる。
こうしてROM121a及び121bから読み出される極性データは、第1の実施形態と同様に乗算器111a〜111dに入力され、擬似ランダム系列発生器110により発生される擬似ランダム系列と乗じられることにより、第1パイロットサブキャリア及び第2パイロットサブキャリアが生成される。生成される第1パイロットサブキャリア及び第2パイロットサブキャリアは、それぞれ第1データサブキャリアの間及び第2データサブキャリアの間に挿入されることによって、第1サブキャリア及び第2サブキャリアが生成される。
第1サブキャリア及び第2サブキャリアが図3中に示したIFFTユニット108a及び108bに入力されることにより、第1OFDM信号及び第2OFDM信号が生成される。第1OFDM信号及び第2OFDM信号は、図示しない無線送信ユニットを介して図3中に示したように送信アンテナ101a及び101bへそれぞれ送られ、これらのアンテナ101a及び101bから送信される。
第2の実施形態によると、例えばパターンAの極性データによって制御されたパイロットサブキャリアを送信する場合と、パターンBの極性データによって制御されたパイロットサブキャリアを送信する場合とで、アンテナ101a及び101bにより形成される指向性ビームのパターンが異なる。
ここで、例えばパターンAのパイロットサブキャリアに対して受信電力が低い場所に位置しているOFDM信号受信装置においては、パターンAと異なるパターンBのパイロットサブキャリアが送信された場合には、パイロットサブキャリアの受信電力が回復する可能性が高い。従って、無線パケット毎にパイロットサブキャリアのパターンを変更することにより、パイロットサブキャリアの受信電力がいつまで経っても低くいために全く受信ができないような場所を減らすことが可能になる。
パイロットサブキャリアの極性データのパターンを無線パケット毎に変更する際、変更をランダムにする必要は必ずしもない。例えば、パイロットサブキャリアの極性データの種々のパターンのうち、OFDM信号受信装置毎に受信特性が良好になるようなパターンを記憶しておき、送信先のOFDM信号受信装置に対応して記憶されているパターンを用いてパイロットサブキャリアの送信を行うことも可能である。
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。第3の実施形態では、前回送信した無線パケットがエラーを起こし、再送パケットを送信する際にだけパイロットサブキャリアの極性パターンを変化させる。図14に示されるように、第3の実施形態に従うパイロットサブキャリア挿入部106では、図12における無線パケットカウンタ123が再送検出器124に置き換えられていること以外は、図12に示したパイロットサブキャリア挿入部106と同様である。
無線パケットは、図15に例示されるようにOFDM信号受信装置が同期をとるために用いるユニークワード、送信元(OFDM信号送信装置)を特定するための送信元フィールド、送信先(OFDM信号受信装置)を特定するための送信先フィールド、当該無線パケットが再送パケットかそうでないかを示す再送フィールド、及び各フィールドに誤りが生じたかを判断するための誤り検出フィールドを含み、その後に複数のデータシンボルが続く。
図3中の符号化器102に入力される送信信号は、再送検出器124にも入力される。再送検出器124は送信信号である無線パケット中の再送フィールドを解析し、当該無線パケットが再送パケットであった場合には、その旨をサブキャリアパターン制御器122に通知する。サブキャリアパターン制御器122は、無線パケットが再送パケットである旨の通知を受けると、ROM121a及び121bに与えるアドレスデータを変更し、ROM121a及び121bからそれぞれ読み出される、第1及び第2パイロットサブキャリアの極性データのパターンを制御する。この結果、同一の送信相手に対して、前回送信した無線パケットのパイロットサブキャリアとは異なる極性パターンのパイロットサブキャリアを含む無線パケットが送信される。
第3の実施形態では、無線パケットが再送である旨は再送フィールドを解析して判断したが、無線アクセス制御を行う上位層(例えばIEEE802.11aの規格ではMedium Access Control : MAC層)が直接サブキャリアパターン制御機器へ、該無線パケットが再送パケットであることを通知することも可能である。
このように第3の実施形態では、同一の送信相手に対して、OFDM信号送信装置100が前回送信した無線パケットのパイロットサブキャリアと異なる極性パターンに従って再送パケットが送信される。この結果、再送時には複数の送信アンテナによって形成される指向性ビームのパターンが変わり、OFDM信号受信装置が正しく再送パケットを受信できる確率が大きくなる。
(第4の実施形態)
本発明の第4の実施形態に従うパイロットサブキャリア挿入部106では、図16に示されるように二つの擬似ランダム系列発生器110a及び110bが設けられる。第1擬似ランダム系列発生器110aでは、送信アンテナ101aから送信される第1パイロットサブキャリアを変調する第1擬似ランダム系列PNaが発生される。第2擬似ランダム系列発生器110bでは、送信アンテナ101bから送信される第2パイロットサブキャリアを変調する第2擬似ランダム系列PNbが発生される。
第1パイロットサブキャリアと第2パイロットサブキャリアの極性パターンは全て同じであっても異なってもよいが、ここでは全て同じ極性データSを使用した場合について説明する。第1パイロットサブキャリアは、擬似ランダム系列PNaとパイロットサブキャリアの極性データSに従って次のように変調が施される。
同様に、第2パイロットサブキャリアは擬似ランダム系列PNbとパイロットサブキャリアの極性データSに従って次のように変調が施される。
図17に、このように変調が施されたデータサブキャリアとパイロットサブキャリアを含む第1OFDM及び第2OFDM信号を示す。第1OFDM信号及び第2OFDM信号は、それぞれIFFTユニット108a及び108bへ送られ、送信アンテナ101a及び101bから送信される。
図18に、第4の実施形態に従う図5中に示した残留位相誤差検出器204の検出原理を示す。ここでは干渉除去を行う前に残留位相誤差を推定する場合について説明する。二つの送信アンテナ101a及び101bで2値の擬似ランダム系列及び2値のパイロットサブキャリアを送信した場合、第1の実施形態の場合の図6と同様に、22 =4個の受信信号点(1,1),(1,−1),(−1,1),(−1,−1)の候補が存在する。第1の実施形態では、受信信号点は(1,1)及び(−1,−1)の組み合わせ、あるいは(1,−1)及び(−1,1)の組み合わせが存在する。これに対して、第4の実施形態では送信アンテナ101a及び101bからそれぞれ送信されるパイロットサブキャリアを異なる擬似ランダム系列により変調しているため、OFDMシンボル毎に4つの全ての受信信号点が現れる可能性がある。
例えば、第4の実施形態では(1,−1)、(−1,1)の組み合わせが送信される場合と、(1,1)、(−1,−1)の組み合わせが送信される場合の二通りが考えられる。前者の組み合わせは送信アンテナ101a及び送信アンテナ101bからの信号の位相差が180°であるが、後者の組み合わせは0°である。よって、前者の組み合わせが送信された場合と後者の組み合わせが送信された場合では、送信の指向性ビームが異なるため、受信電力が変化することになる。なお、(1,−1)、(−1,1)、(1,1)、(−1,−1)の4つの受信信号点の候補は、第1の実施形態で説明したように、各送信アンテナ及び受信アンテナまでの伝搬路係数をパイロットサブキャリアで送信される信号と組み合わせることによって求めることが可能である。
次に、残留位相誤差の測定方法について説明する。今、パイロットサブキャリアの受信シンボルが(1,1)であったとする。この場合、第1の実施形態では次シンボルも(1,1)が送信されるか、あるいは(−1,−1)が送信されるため、受信側ではあたかも単一のアンテナからBPSK信号が受信されたように見え、受信電力は変化しない。
一方、第4の実施形態では次シンボルとして(−1,1)が送信される可能性もあるため、位相誤差を含んだ受信シンボルは図16に示す「次シンボル1」及び「次シンボル2」の2通りが考えられる。次シンボルの受信信号点が(1,1)あるいは(−1,−1)であった場合、残留位相誤差検出器204は位相差θ1を残留位相誤差として検出する。一方、次シンボルの受信信号点が(−1,1)あるいは(1,−1)であった場合、残留位相誤差検出器204は現在の伝搬路応答値から(−1,1)の受信信号のレプリカを作成し、(−1,1)と「次シンボル2」との位相差θ2を残留位相誤差検出器204として検出する。
位相補償ユニット205a及び205bでは、受信信号に対して残留位相誤差分だけ位相回転を施すことにより、位相補償を行う。位相補償後の二つの受信信号はパラレル・シリアル変換器206によりシリアル信号とされ、続く復号器207により復号されることにより、送信信号に対応する受信信号が得られる。なお、第4の実施形態では、干渉除去を行う前に残留位相誤差を測定する方法について述べたが、干渉除去を行った後に残留位相誤差を検出することも可能である。干渉除去を行った場合は、干渉除去後の出力にはそれぞれ単一のアンテナから送信されたパイロットサブキャリアが現れるため、受信信号点は2つしか現れない。
このように第4の実施形態によると、図17に示すようにOFDMシンボルで(1,1)、(−1,−1)の組み合わせが送信される場合と、(1,−1),(−1,1)の組み合わせが送信される場合がある。よってOFDMシンボル毎に受信電力が変化する。従って、あるOFDMシンボルでパイロットサブキャリアの受信電力が低下して残留位相誤差の検出が不可能になった場合でも、次シンボルでは受信電力が回復する可能性がある。この結果、パイロットサブキャリアの受信電力が全て低下してしまうことによる不感帯をなくすことができる。
(第5の実施形態)
本発明の第5の実施形態に従うパイロットサブキャリア挿入部106は、図19に示されるように図12に示した第2の実施形態または図14に示した第3の実施形態と、図16に示した第4の実施形態を組み合わせている。すなわち、第5の実施形態では送信アンテナ毎にパイロットサブキャリアの極性が異なっており、さらに送信アンテナ毎にパイロットサブキャリアを変調する擬似ランダム系列が異なっている。従って、パイロットサブキャリアのベースバンド信号は、送信アンテナ101a及び101bに対してそれぞれ次のように書くことができる。
この場合、パイロットサブキャリアは図20のようになり、パイロットサブキャリアについて送信アンテナ101a及び101bにより形成されるそれぞれ指向性ビームは、周波数毎に異なる方向を向き、シンボル時間方向でも異なる方向を向く。従って、ある周波数またはある時間でパイロットサブキャリアの受信レベルが低かったとしても、別の周波数または別のシンボルでパイロットサブキャリアを受信でき、不感帯を減らすことが可能になる。
(第6の実施形態)
本発明の第6の実施形態に従うパイロットサブキャリア挿入部106では、図21に示されるように擬似ランダム系列発生器110a及び110bからの擬似ランダム系列が送信ダイバーシチ回路125a及び125bに入力されることによって、パイロットサブキャリアは次のように送信される。
ただし、「*」は複素共役を示す。数式(19)−(22)で示しているように、擬似ランダム系列は二つの送信アンテナ101a及び101bと二つのシンボルを使って送信ダイバーシチを用いて送信される。数式(19)−(22)で示した送信ダイバーシチ方法は、米国特許第6,185,258B1号明細書で開示されている送信ダイバーシチ方法と同じである。
数式(19)−(22)で示した具体的なパイロットサブキャリアの信号は、図22における−k+1番目のサブキャリア及びk−4番目のサブキャリアに適用されている。数式(19)−(22)はj番目のパイロットサブキャリアに対して示したものであり、他のサブキャリアでは送信方法を変えることも可能である。具体的には、以下のように記述することができる。
数式(23)−(26)で示した具体的なパイロットサブキャリアは、図22における−k+4番目のサブキャリア及びk−1番目のサブキャリアに適用されている。図5に示したOFDM信号受信装置における残留位相誤差検出器204では、例えば米国特許第6,185,258B1号明細書で開示されている復号方法を用いて送信ダイバーシチに対応する復号を行うことにより、パイロットサブキャリアの信号対雑音電力比を最大にすることが可能になる。
数式(16)−(19)から分かるように、ここでは2シンボル時間を使ってダイバーシチ送信を行っているので、1シンボルのみを受信しただけではダイバーシチ利得が得られない。図23は、−k+4番目のサブキャリアが数式(16)−(19)を用いて変調された場合の信号を示している。図23に示すように、シンボル1では1シンボルのみを受信した信号で残留位相誤差の検出を行うが、2シンボル目からは前回受信したシンボルを利用できるため、シンボル1とシンボル2の受信信号を用いてシンボル2の残留位相誤差の検出を行うことが可能である。同様に、シンボル2とシンボル3の受信信号を用いてシンボル3の残留位相誤差の検出を行うことも可能である。すなわち、二つのシンボル間をオーバラップさせて、位相誤差の検出を行うことが可能である。なお、全ての残留位相誤差検出を現在受信している単一シンボルのみを用いて行うことも可能である。
このように第6の実施形態によれば、パイロットサブキャリアを送信ダイバーシチを用いて送信することにより、精度の良い残留位相誤差を検出することができ、受信性能が向上する。
(第7の実施形態)
本発明の第7の実施形態に従うパイロットサブキャリア挿入部106では、図24に示されるようにパイロットサブキャリアとデータサブキャリアの位置を送信アンテナ101a及び101bで異ならせるためのサブキャリア配置装置126a及び126bが設けられる。サブキャリア配置装置126a及び126bはパイロットサブキャリアとデータサブキャリアの場所が送信アンテナで異なっていることである。次に図24を参照してパイロットサブキャリア挿入部607の具体的な説明をする。
送信アンテナ101a用に擬似ランダム系列と極性Sa(1)-Sa(4)を乗算された変調信号は、それぞれパイロットサブキャリアPa(1)-Pa(4)としてサブキャリア配置装置126aへ入力される。サブキャリア配置装置126aでは、データサブキャリアとパイロットサブキャリアの並べ替えを行い、IFFTユニット108aへ入力する。送信アンテナ101bも同様であるため説明を省略する。
図25に、第7の実施形態におけるサブキャリア配置を示すように、サブキャリアのうちパイロットサブキャリアは単一の送信アンテナからのみ送信される。例えば、送信アンテナ101aからは−k番目のサブキャリアとして擬似ランダム系列で変調されたパイロットサブキャリアPN(1)が送信され、送信アンテナ101bからはデータサブキャリア(DATA)が送信される。−k+2番目のサブキャリアについても同様に、送信アンテナ101aからはパイロットサブキャリアが送信され、送信アンテナ101bからはデータサブキャリア(DATA)が送信される。
データ信号はランダムな信号であるから、送信アンテナ101aから送信される第1データサブキャリアと送信アンテナ101bから送信される第2データサブキャリア間の相関は一般に低い。このため、送信アンテナ101aから送信されるサブキャリアと送信アンテナ101bから送信されるサブキャリア間の位相差は、−k番目のサブキャリアと−k+2番目のサブキャリアとで異なるため、k番目のサブキャリアで送信されるパイロットサブキャリアと、-k+2番目のサブキャリアで送信されるパイロットサブキャリアの指向性ビームは異なる可能性が高い。
従って、第7の実施形態によると全てのパイロットサブキャリアの受信電力がヌルの影響で同時に落ちこむ確率が非常に小さくなるため、不感帯が生じるようなことはない。また、1シンボル区間でたまたまパイロットサブキャリアの電力が低下しても、現シンボルと次シンボルでデータ信号が異なる可能性は高いため、次シンボルでパイロットサブキャリアの受信電力が回復する可能性は高い。このように第7の実施形態によると、パイロットサブキャリアを受信できる確率を大きくし、不感帯を減らすことができる。
パイロットサブキャリアの配置の変更は、無線パケットの中で行うことも可能である。
例えばIEEE 802.11aの規格では、図15に示すユニークワードの中に、全サブキャリアの伝達関数を推定するためのパイロット信号が挿入されており、これを元に数式(1)で示した伝搬路応答を求めることが可能である。ところが、データシンボル中には、パイロット信号はパイロットサブキャリアのみを用いて送信されているため、伝搬路の時間的な変動が早い場合は、伝搬路応答の追従が困難である。ところが、パイロットサブキャリアの配置を無線パケット間で変更し、他のサブキャリアからもパイロット信号を送信することで、他のサブキャリアの伝搬路応答を追従することが可能になる。よって本方式を用いることで精度の良い受信を行うことができる。なお、第7の実施形態でパイロットサブキャリアの極性を全て同じとしたが、第1〜第6の実施形態と同様にすることも可能である。
(第8の実施形態)
本発明によると、一つの無線パケットの中で単一のアンテナからデータを送信する部分と複数のアンテナからデータを送信する部分が混在する無線パケットを受信する場合にも、残留位相誤差の補償を正確に行うことが可能である。Jan Boerらによって“Backwards compatibility,” IEEE 802.11-03/714r0で提案された無線通信用プリアンブル信号案によると、図26に示されるように、まず一つの送信アンテナ101aから時間同期、周波数同期及びAGCに用いるショートプリアンブル列x01、伝搬路応答推定用のロングプリアンブル列x02、無線パケットの変調方式や長さを示すフィールドを含む第1シグナルフィールドx03を送信し、引き続きIEEE 802.11nで用いる第2シグナルフィールドx04を送信する。なお、第2シグナルフィールドには、多重化される送信アンテナの数や、多重化方法などが記載されている。次に、送信アンテナ101bから伝搬路応答推定用のロングプリアンブル列x05,を順に送信する。このようにしてプリアンブル信号の送信が終了した後に、複数の送信アンテナ101a及び101bから送信データx08,x09を同時に送信する。
図26に示した無線通信用プリアンブル信号は、ショートプリアンブルx01から第1シグナルフィールドx03までは送信アンテナ101aからの送信を基本とした図27に示すIEEE 802.11a規格の無線通信用プリアンブル信号と同一である。これにより、図26に示すプリアンブル信号を受信したIEEE 802.11a規格に基づく無線受信装置は、受信パケットをIEEE 802.11a規格に基づく無線パケットと認識することができる。従って、図26に示すプリアンブル信号は、一つの無線機上で複数のアンテナから異なるデータを同時に送信するIEEE 802.11nを単一のアンテナからデータを送信するIEEE 802.11a規格と共存させることを可能とする。
さて、図27に示したIEEE 802.11aの無線パケットではSIGNALフィールド以降にパイロットサブキャリアが挿入されており、これを元に残留位相誤差の補償を行うことが可能である。一方、本発明を図26に示した無線パケットに適用する場合、SIGNALフィールド及びSIGNAL2フィールドにパイロットサブキャリアが挿入されており、その後X08〜X09のDATA部にもパイロットサブキャリアを配置する構成が考えられ、後X08〜X09以降では、本発明の第1〜第7の実施形態で説明したパイロットサブキャリアを配置する構成が考えられる。第8の実施形態では、第1の実施形態を用いたパイロットサブキャリアが送信されている場合について説明する。
そこで、図28を用いて図26で示した無線パケットを受信する際の具体的な制御について説明する。なお、図28は図26で示した無線パケットを受信する際の、受信装置を示したものである。図28に関して、図5と異なる点は復号器207の出力がSIGNAL解析部208へ入力され、SIGNAL解析部208の結果を元に、残留位相誤差検出部204を制御する点である。
ショートプリアンブルx01を受信した受信機は、図示しないAGC及び時間同期手段を用いてロングプリアンブル列x02の先頭を検出し、FFTウィンドウの検出を行う。また同時に周波数オフセットの推定及び補償を行う。ロングプリアンブル列x02を受信した受信機は既知のパイロットサブキャリアを用いて全てのサブキャリアの伝搬路応答を測定する。特にパイロットサブキャリアの伝搬路応答は、残留位相誤差検出器204に渡される。以上の処理は公知の技術で実現できるため、説明を省略する。
次に、無線受信機はSIGNALフィールドx03を受信する。SIGNALフィールドはFFT202a及びFFT2bにおいてFFTが施される。FFT出力は干渉除去回路に入力されるが、SIGNALフィールドは単一のアンテナから送信されているため、干渉除去を行う必要がない。よって、干渉除去回路で施される処理は、単位行列を乗算する処理か、あるいはFFT202a及び202bの出力を重み付け合成して信号電力対雑音電力比を向上させる処理になる。次に干渉除去回路の出力は残留位相誤差検出器204に入力される。
図29は、第8の実施形態の残留位相誤差検出器で行われる処理の概念図を示す。今、送信アンテナ101aから送信され、受信アンテナ201aで受信されたロングプリアンブルを受信した場合の伝搬路応答が図29に示すHaaであったとする。パイロットサブキャリアがBPSKで送信された場合、データ部で受信されるパイロットサブキャリアが取りうる値は図29に示す(1)の点あるいは(−1)の点であり、これを基準点として残留位相誤差の検出を行う。
次に、SIGNAL部のパイロットサブキャリアの受信点が図29に示す「単一アンテナ送信時の次シンボル」であった場合、残留位相誤差検出器は(1)の点と「単一アンテナ送信時の次シンボル」の点との位相差θ1を残留位相誤差として計測し、位相補償器でこれを補正する。SIGNAL2部を受信する場合も同様にして、残留位相誤差を検出することが可能である。
なお、SIGNAL2部を復調した復調器207は、復号結果をSIGNAL解析部208へ渡す。SIGNAL解析部208では、第2シグナルフィールドを解析し、多重化されている送信アンテナの数や多重化方法を解析し、残留位相誤差検出部204へ渡す。
次に、受信機は送信アンテナ101bからのロングプリアンブルを受信し、送信アンテナ101bからの伝搬路応答の測定を行う。次にDATA部X08〜X09を受信する場合について説明する。ここでは、DATA部は二つの送信アンテナ101a及び101bからの信号で多重されており、多重されるパイロットサブキャリアは数式(4)及び(5)の極性を持っている場合について説明をする。先ほど述べたように、多重化されている送信アンテナの数はSIGNAL解析部208からの信号により認識が可能である。
ここで、4つのパイロットサブキャリアのうち、数式(4)及び(5)の一番左に記してあるSa(1)及びSb(1)の極性を持つパイロットサブキャリアに着目する。この周波数で送信されるパイロットサブキャリアの極性はSa(1)=1及びSb(1)=1である。よって、いま送信アンテナ101aからの受信アンテナ201aまでの伝搬路応答がHaaで、送信アンテナ101bから受信アンテナ201aまでの伝搬路応答がHbaの場合、DATA部で受信されるパイロットサブキャリアの伝搬路応答値は図29で示すHaa+Hbaとなる。よって、残留位相誤差検出器は測定された伝搬路応答値Haa及びHbaと、SIGNAL解析部208からの多重化情報を元に、合成された伝搬路応答値Haa+Hbaを用いて基準点を求め、この基準点からのずれを検出する。
具体的には、パイロットサブキャリアはそれぞれ擬似ランダム系列で変調されたBPSK信号で送信されるため、図29に示す(1,1)及び(−1,−1)の点が受信される。すなわち、単一アンテナを受信している場合には、図29の(1)及び(−1)の点を基準に残留位相誤差を検出することが可能であるが、複数アンテナからの送信に切り替わった場合は、(1,1)及び(−1,−1)の点を基準に残留位相誤差を検出する必要がある。
このように、単一アンテナ送信の場合と、複数アンテナ送信の場合では、残留位相誤差検出器の動作を切り替える必要があるため、第8の実施形態では図26に示す第2シグナルフィールドX04(SIGNAL2)を解析することにより実現している。第2シグナルフィールドには、送信側で多重される信号の数あるいは多重の方式が記載されているため、これを解析することで伝搬路応答値の基準点を求めることができ、かつ、単一アンテナからの送信信号を受信している場合の基準点と、複数アンテナから送信されている信号を受信している場合の基準点を切り替えることが可能である。よって単一アンテナからの信号を受信している場合も、複数のアンテナからの信号を受信している場合も、いずれの場合でも適切に基準信号点を切り替えることが可能になり、いずれの場合でも適切な残留位相誤差の検出及び保証を行うことが可能になる。
本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。