JP4395285B2 - 光硬化性シートおよびそれを用いた成形品の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光硬化性シートおよびそれを用いた成形品の製造方法に関する。本発明は、特に、優れた外観、意匠性、耐磨耗性、耐薬品性および耐候性を有し、表面粘着性のない光硬化性シートおよびそれを用いた成形品の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
プラスチック製品の成形と同時にその表面に装飾を施す方法として、(1)金型内表面に予め模様を付けておく方法、(2)金型内壁面に転写フィルムを装着し、成形と同時にフィルムの模様等を成形品の外面に転写する方法、(3)機能付シートまたは印刷シートを金型内壁面に貼り付けておき、成形と同時にそのシートを成形品表面に貼り付けする方法等が提案されている。(2)または(3)の方法については、例えば、特開昭60−250925号公報、特公昭59−36841号公報、特公平8−2550号公報に耐候性付与シートまたは印刷シートを金型内壁面に形成した後、成形用樹脂を射出成形することにより、シートで表面が被覆された成形品を製造する方法が提案されている。
【0003】
しかしながら、上記の技術は、加飾や機能性の付与を熱可塑性シートや印刷の転写で行っているため、得られた成形品の表面硬度が不十分なものであった。例えば、成形品に耐候性を付与する場合には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などからなる高耐候性シートを用いれば良いが、充分な表面硬度が得られないという問題がある。これに対して、表面硬度の高い成形品を得ようとする場合には、予め架橋した表面硬度の高いシートを用いなければならない。しかしながら、そのようなシートは、立体形状の成形品への適用が困難である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、特公平7−323号公報に示されているように、アクリル樹脂、反応性ビニル基を有する化合物および光重合開始剤を含有する樹脂組成物により形成される光硬化性樹脂層とシート基材とが積層されてなる光硬化性シートが提案されている。しかしながら、この方法では、光硬化させる前のシートは、低分子量の反応性ビニル基を有する化合物を含有するため、表面に粘着性が有り、あるいは表面の粘着性が時間と共に変化する等の現象が起こり、ロール状態での保存安定性が不良である。具体的には、粘着して巻き出せない、低温で保存しないと両端より化合物がしみ出す等の問題があった。さらには、その表面粘着性のため、印刷シートとして使用する場合の印刷工程において不具合が生じていた。
【0005】
かかる問題を解決するために、本発明者らは、先に、側鎖に脂環式エポキシ基またはラジカル重合性不飽和基を有するアクリル樹脂と光重合開始剤からなる組成物を積層した基材シートを開発することにより表面粘着性のない光硬化性シートを提案した。これらの光硬化性シートは、光硬化前の優れた成形性と光硬化後の優れた表面性状(硬度,耐候性,等)を高次元で両立している光硬化性シートである。本発明者らは、これらの光硬化性シートを開発する過程を通じて、良好な成形性と表面性状を具備する光硬化性シートを安定して得るためには、光硬化性シート中の溶剤量、光硬化性樹脂組成物層の厚みおよび基材シートの厚みとから規定される光硬化性樹脂組成物中の溶剤量が特定の数値以下にあることが必要であることを見出し、これにより本発明を完成するに至ったものである。
【0006】
すなわち、本発明の目的は、意匠性の良好な成形品の製造に有利に用いることのできる、耐磨耗性、耐候性および耐薬品性に優れ、かつ、表面粘着性がなく、加工性および保存安定性に優れた光硬化性シートを安定して提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するため、光硬化性樹脂組成物(A)の層と、基材シート(B)とを含む光硬化性シートにおいて、下記式(1)で表される光硬化性樹脂組成物(A)中の溶剤量(X)の値が10以下である光硬化性シートを提供する。
【0008】
X=Y/(a/(a+b)) (1)
ここで、Xは光硬化性シート単位質量あたりの光硬化性樹脂組成物(A)中の溶剤量であり、aは光硬化性樹脂組成物(A)層の膜厚(μ)であり、bは基材シート(B)の厚み(μ)であり、Yは光硬化性シート単位質量あたりの溶剤量である。
【0009】
本発明は、また、光硬化性樹脂組成物(A)層側にカバーフィルムが仮着されている光硬化性シートを提供する。
【0010】
本発明は、また、上記光硬化性シートの基材シート側に形成された印刷層および/または蒸着層を含む光硬化性加飾シートを提供する。
【0011】
本発明は、さらに、上記光硬化性シートの基材シート側に形成された印刷層および/または蒸着層、および接着層を含む光硬化性加飾シートを提供する。
【0012】
本発明は、また、上記光硬化性シートの基材シート側に形成された印刷層および/または蒸着層、および接着層およびプライマーシートを含む光硬化性加飾シートを提供する。
【0013】
本発明は、また、上記光硬化性シートまたは光硬化性加飾シートを、光硬化性樹脂組成物(A)側が金型の内壁面に向かい合うように挿入配置する工程、金型を閉じて、溶融樹脂を金型内に射出し、樹脂を固化させることにより光硬化性シートまたは光硬化性加飾シートが表面に配置された樹脂成形品を形成する工程、および光照射することにより成形品表面の光硬化性樹脂組成物を光硬化させる工程を含む成形品の製造方法を提供する。
【0014】
本発明は、さらに、上記光硬化性シートまたは光硬化性加飾シートを、光硬化性樹脂組成物(A)側が金型の内壁面に向かい合うように挿入配置する工程、光硬化性シートまたは光硬化性加飾シートを予備成形してシートを金型形状に追従させる工程、金型を閉じて、溶融樹脂を金型内に射出し、樹脂を固化させることにより光硬化性シートまたは光硬化性加飾シートが表面に配置された樹脂成形品を形成する工程、および光照射することにより成形品表面の光硬化性樹脂組成物を光硬化させる工程を含む成形品の製造方法を提供する。
【0015】
本発明は、さらに、上記成形品の製造方法において、予めカバーフィルムを剥離除去する工程をさらに含む成形品の製造方法を提供する。
【0016】
本発明は、また、上記の方法により得られた成形品を提供する。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について順次説明する。
【0018】
本発明の光硬化性シートは、光硬化性樹脂組成物(A)の層と、基材シート(B)とを含む光硬化性シートにおいて、下記式(1)で表される光硬化性樹脂組成物(A)中の溶剤量(X)の値が10以下のものである。
【0019】
X=Y/(a/(a+b)) (1)
ここで、Xは光硬化性シート単位質量あたりの光硬化性樹脂組成物(A)中の溶剤量であり、aは光硬化性樹脂組成物(A)層の膜厚(μ)であり、bは基材シート(B)の厚み(μ)であり、Yは光硬化性シート単位質量あたりの溶剤量である。
【0020】
このように、光硬化性樹脂組成物(A)中の溶剤量(X)の値が10以下と小さいことにより、本発明の光硬化性シートは、優れた諸物性(耐磨耗性、耐薬品性、非表面粘着性、加工性、保存安定性等)を発現することが可能となる。
【0021】
光硬化性樹脂組成物(A)としては、1分子内に2個以上の光重合性官能基を有し、かつ、光重合反応により硬化して架橋体を形成する化合物を含有する組成物であるのが好ましい。かかる化合物の光重合性官能基としては、ビニル基や(メタ)アクリル基等のエチレン性不飽和基を有し、光ラジカル重合機構で反応する官能基や、脂環式エポキシ基等の光カチオン重合機構で反応する官能基等が挙げられる。
【0022】
光硬化性樹脂組成物(A)は、低分子量の架橋性化合物を含有する場合、光硬化性シート表面が粘着性を有し、シートの保存安定性が低下するので、低分子量の架橋性化合物を含有しない方が好ましい。
【0023】
特に、光硬化性樹脂組成物(A)が側鎖に光重合性官能基を有する熱可塑性樹脂(a−1)を含み、かつ、(a−1)以外の架橋性化合物を実質的に含まない構成の場合、著しく良好な耐磨耗性と成形性、保存安定性が両立された光硬化性シートを得ることができるので、好ましい。このようにポリマー側鎖に光重合性官能基を有する構造を導入したことにより、ポリマー側鎖間で架橋反応が進行するため、低分子量架橋性化合物を含有させなくても著しく良好な耐磨耗性が発現すると共に、低分子量の架橋性化合物が存在しないことよりシート表面に粘着性が無く、保存安定性に優れるという利点を有する。
【0024】
この光重合性官能基としては、光を照射することにより重合を進行せしめるものであればよいが、好ましくはラジカル重合性不飽和基、または下記構造式(1)で示される脂環式エポキシ基が挙げられる。
【0025】
【化1】
【0026】
側鎖にラジカル重合性不飽和基を有する熱可塑性樹脂としては、例えば、ガラス転移温度が25〜175℃、好ましくは30〜150℃の、ポリマー中にラジカル重合性不飽和基を有するものが挙げられる。具体的には、ポリマーとして以下の化合物(1)〜(8)を重合または共重合させたものに対し、後述する方法(イ)〜(ニ)によりラジカル重合性不飽和基を導入したものを用いることができる。
【0027】
(1) 水酸基を有する単量体:N−メチロールアクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等
(2) カルボキシル基を有する単量体:(メタ)アクリル酸、アクリロイルオキシエチルモノサクシネート等
(3) エポキシ基を有する単量体:グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等
(4) アジリジニル基を有する単量体:2−アジリジニルエチル(メタ)アクリレート、2−アジリジニルプロピオン酸アリル等
(5) アミノ基を有する単量体:(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等
(6) スルホン基を有する単量体:2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等
(7) イソシアネート基を有する単量体:2,4−トルエンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチルアクリレートの等モル付加物のような、ジイソシアネートと活性水素を有するラジカル重合性単量体の付加物、2−イソシアネートエチル(メタ)アクリレート等
(8) さらに、上記の共重合体のガラス転移温度を調節したり、光硬化性シートの物性を調和させたりするために、上記の化合物をそれと共重合可能な単量体と共重合させることもできる。そのような共重合可能な単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類、N−フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、N−ブチルマレイミド等のイミド誘導体、ブタジエン等のオレフィン系単量体、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物等を挙げることができる。
【0028】
次に、上述のようにして得た重合体に、以下に述べる方法(イ)〜(ニ)によりラジカル重合性不飽和基を導入する。
【0029】
(イ) 水酸基を有する単量体の重合体または共重合体の場合には、(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基を有する単量体等を縮合反応させる。
【0030】
(ロ) カルボキシル基、スルホン基を有する単量体の重合体または共重合体の場合には、前述の水酸基を有する単量体を縮合反応させる。
【0031】
(ハ) エポキシ基、イソシアネート基またはアジリジニル基を有する単量体の重合体または共重合体の場合には、前述の水酸基を有する単量体又はカルボキシル基を有する単量体を付加反応させる。
【0032】
(ニ) 水酸基またはカルボキシル基を有する単量体の重合体または共重合体の場合には、エポキシ基を有する単量体またはアジリジニル基を有する単量体、あるいはイソシアネート基を有する単量体、またはジイソシアネート化合物と水酸基含有アクリル酸エステル単量体との等モル付加物を付加反応させる。
【0033】
上記の反応は、微量のハイドロキノン等の重合禁止剤を加え、乾燥空気を送りながら行うことが好ましい。
【0034】
本発明に用いられる、側鎖に脂環式エポキシ基を有する熱可塑性樹脂としては、例えば、ガラス転移温度が25〜175℃、好ましくは30〜150℃の、ポリマー側鎖中に脂環式エポキシ基を有するものが挙げられる。具体的な合成例を挙げると、例えば、第1の方法として、脂環式エポキシ基を有する(メタ)アクリレート(9)をラジカル重合開始剤の存在下で溶液重合法等の公知の重合方法により単独重合したり、上記(1)〜(8)に示すような他の共重合可能なモノマーと共重合することにより得ることができる。
【0035】
また、側鎖に脂環式エポキシ基を有する熱可塑性樹脂は、上記単独重合や共重合以外の方法によっても得ることができる。例えば、第2の方法として、脂環式エポキシ基と第1の反応性基とを有する化合物と、第1の反応性基と反応する第2の反応性基を有する熱可塑性樹脂とを反応させることによって得ることができる。この第1の反応性基と第2の反応性基の組合せの代表例としては、下記の表1に示すようなイソシアネート基と水酸基との組合せが挙げられる。
【0036】
【表1】
【0037】
上記の第1の方法において、脂環式エポキシ基を有する(メタ)アクリレート(9)としては、他のラジカル重合性単量体と共重合可能なものであれば特に限定されないけれども、具体的には下記構造式(2)で示されるような化合物が挙げられる。
【0038】
【化2】
【0039】
(上式中、Rはメチル基または水素原子を表し、nは0〜5の整数である)
熱可塑性樹脂(a−1)の側鎖の光重合性官能基の量は、二重結合当量(側鎖ラジカル重合性不飽和基1個あたりの平均分子量)または脂環式エポキシ当量(側鎖脂環式エポキシ基1個あたりの平均分子量)が、仕込み値からの計算値で平均3000g/モル以下であることが、耐擦傷性、耐磨耗性向上の観点から好ましい。さらに好ましい範囲は、平均1200g/モル以下であり、最も好ましい範囲は、平均600g/モル以下である。
【0040】
このように、架橋に関与する光重合性官能基を熱可塑性樹脂中に複数導入することにより、低分子量の架橋性化合物を使用する必要がなく、後述する長期間の保管や加熱成形時においても、表面粘着性を有することなく、効率的に硬化物性を向上することが可能となる。
【0041】
熱可塑性樹脂(a−1)の数平均分子量は、5,000〜2,500,000の範囲が好ましく、10,000〜1,000,000の範囲がさらに好ましい。熱可塑性樹脂(a−1)を含む光硬化性樹脂組成物(A)を用いて形成した光硬化性シートをインサート成形やインモールド成形する際に、金型離型性が良好になる点や光硬化後の成形品の表面硬度の点から、数平均分子量は5,000以上であることが好ましい。一方、合成の容易さや外観の観点、また、基材シート(B)との密着性発現の観点から、数平均分子量が2,500,000以下であることが好ましい。
【0042】
また、熱可塑性樹脂(a−1)はガラス転移温度が25〜175℃に調節されていることが好ましく、30〜150℃に調節されていることがさらに好ましい。インサート成形およびインモールド成形時の光硬化性シートの金型剥離性や光硬化後の成形品の表面硬度の観点から、ガラス転移温度が25℃以上であることが好ましい。一方、光硬化性シートの取り扱い性の観点からガラス転移温度は175℃以下であることが好ましい。
【0043】
また、得られる熱可塑性樹脂共重合体のガラス転移温度を考慮すると、ホモポリマーとして高いガラス転移温度を有するものとなるビニル重合性単量体を使用することが好ましい。
【0044】
さらに、熱可塑性樹脂共重合体の耐候性向上の観点からは、ビニル重合性単量体として(メタ)アクリレート類を主成分として用いることが好ましい。
【0045】
また、後述するように、本発明の光硬化性樹脂組成物(A)中に無機微粒子(a−3)を添加する場合、無機微粒子(a−3)の表面の官能基(ヒドロキシル基,カルボキシル基,シラノール基等)と反応しうる基、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ハロゲン化シリル基およびアルコキシシリル基からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基を分子内に有するビニル重合性単量体は、得られる光硬化性樹脂組成物の剛性、靱性、耐熱性等の物性をより向上させるように働くので、かかる官能基がラジカル重合可能なビニル重合性単量体成分の一部として含有されていてもよい。
【0046】
このような反応性の基を分子内に含有するビニル重合性単量体としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0047】
光硬化性樹脂組成物(A)には、光重合開始剤(a−2)が含有されていてもよい。光重合開始剤(a−2)としては、光照射によってラジカルを発生させる光ラジカル重合開始剤や酸を生成する光カチオン重合開始剤が挙げられるが、側鎖の光重合性官能基がラジカル重合性不飽和基の場合は光ラジカル重合開始剤が使用され、脂環式エポキシ基の場合は光カチオン重合開始剤が使用される。
【0048】
光ラジカル重合開始剤としては、公知の化合物を用いることができ、特に限定はないけれども、硬化時の黄変性や耐候時の劣化を考慮すると、アセトフェノン系、ベンゾフェノン系、アシルホスフィンオキサイド系のような分子内にアミノ基を含まない開始剤がよい。例えば、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド等が好ましい。これらのうちには成形方法によっては一時的にその化合物の沸点以上の温度になることがあるので、注意が必要である。成形品の表面硬度を上げるため、n−メチルジエタノールアミンなどの酸素による重合硬化阻害を抑制する添加剤を添加しても良い。また、これらの光重合開始剤の外に、成形時の熱を利用しての硬化も考慮して、各種過酸化物を添加してもよい。光硬化性シートに過酸化物を含有させる場合には、150℃、30秒程度で硬化させる必要があるので、臨界温度の低い過酸化物、例えば、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等が好ましく用いられる。
【0049】
光ラジカル重合開始剤の添加量は、硬化後の残存量が耐候性に影響するため、側鎖に光重合性官能基を有する化合物に対して5質量%以下が望ましく、特に硬化時の黄変に関連するアミノ系の光ラジカル重合開始剤は1質量%以下が望ましい。
【0050】
光カチオン重合開始剤としては、公知の化合物を用いることができ、特に限定はないけれども、具体的にはジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩、鉄アレーン(芳香族炭化水素)錯体等が挙げられる。なかでも、脂環式エポキシ基を有する化合物との反応性、着色の問題等を考慮すると下記構造式(3)で示されるトリアリールスルホニウム塩がより好ましい。
【0051】
【化3】
【0052】
(上式中、R1 は炭素−炭素結合または炭素−硫黄結合を介する置換または未置換の芳香族環を表し、R2 およびR3 は、それぞれ、置換または未置換の芳香族環を表す)
このような光カチオン重合系を選択することにより、光ラジカル重合系と比較して、硬化収縮が少なく、樹脂との密着性に優れるため、硬化層の割れ、剥がれが発生しにくく、硬化前後において低臭気であり、酸素による重合阻害が無い等の利点が得られることがある。
【0053】
光カチオン重合開始剤の添加量は、側鎖に光重合性官能基を有する化合物100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましい。
【0054】
光硬化性樹脂組成物(A)には、さらに耐擦傷性や耐磨耗性を向上させる目的で、無機微粒子(a−3)を添加することができる。本発明に用いられる無機微粒子(a−3)においては、得られる光硬化性樹脂組成物が透明となれば、その種類や粒子径、形態は特に制限されない。無機微粒子の例としては、コロイダルシリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化スズ、異種元素ドープ酸化スズ(ATO等)、酸化インジウム、異種元素ドープ酸化インジウム(ITO等)、酸化カドミウム、酸化アンチモン等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、2種類以上組み合わせて用いられてもよい。なかでも、入手の容易さや価格面、得られる光硬化性樹脂組成物層の透明性や耐磨耗性発現の観点から、コロイダルシリカが特に好ましい。
【0055】
コロイダルシリカは、通常の水性分散液の形態や、有機溶媒に分散された形態で用いることができるが、(a−1)成分である熱可塑性樹脂とともに均一かつ安定に分散させるためには、有機溶媒に分散させたコロイダルシリカを用いることが好ましい。
【0056】
そのような有機溶媒としては、メタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、エチレングリコール、キシレン/ブタノール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン等を例示することができる。なかでも、熱可塑性樹脂とともに均一に分散させるためには、熱可塑性樹脂を溶解可能な有機溶媒を選択することが好ましい。
【0057】
有機溶媒に分散させた形態のコロイダルシリカとしては、分散媒に分散されている市販品、例えば、メタノールシリカゾルMA−ST、イソプロピルアルコールシリカゾルIPA−ST、n−ブタノールシリカゾルNBA−ST、エチレングリコールシリカゾルEG−ST、キシレン/ブタノールシリカゾルXBA−ST、エチルセロソルブシリカゾルETC−ST、ブチルセロソルブシリカゾルBTC−ST、ジメチルホルムアミドシリカゾルDBF−ST、ジメチルアセトアミドシリカゾルDMAC−ST、メチルエチルケトンシリカゾルMEK−ST、メチルイソブチルケトンシリカゾルMIBK−ST(以上商品名、日産化学工業(株)製)を用いることができる。
【0058】
無機微粒子(a−3)の粒子径は、得られる光硬化性樹脂組成物層の透明性の観点から、通常は200nm以下であるのが好ましい。より好ましくは100nm以下であり、さらに好ましくは50nm以下である。
【0059】
無機微粒子(a−3)の添加量は、側鎖に光重合性官能基を有する熱可塑性樹脂(a−1)の固形分100質量部に対して、無機微粒子固形分で5〜400質量部の範囲が好ましく、10〜200質量部の範囲が特に好ましい。無機微粒子の添加量が5質量部未満の場合には、耐磨耗性向上効果が認められないことがあり、また添加量が400質量部を超える場合には、光硬化性樹脂組成物(A)の保存安定性が低下するばかりか、得られる光硬化性シートの成形性が低下することがある。
【0060】
また、本発明で用いられる無機微粒子(a−3)としては、下記構造式(4)で表されるシラン化合物によって、予め表面が処理されたものを用いてもよい。表面処理された無機微粒子の使用は、光硬化性樹脂組成物(A)の保存安定性がさらに良好となり、また得られる光硬化性シートの表面硬度および耐候性も良好となるので好ましい。
【0061】
SiR4 a R5 b (OR6 )c (4)
(上式中、R4 およびR5 は、それぞれ、エーテル結合、エステル結合、エポキシ結合または炭素−炭素二重結合を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素残基を表し、R6 は水素原子またはエーテル結合、エステル結合、エポキシ結合もしくは炭素−炭素二重結合を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素残基を表し、aおよびbは、それぞれ、0〜3の整数であり、cは4−a−bを満足する1〜4の整数である)
前記構造式(4)で表されるシラン化合物のなかでも、下記構造式(5)〜(10)で表されるシラン化合物を好ましいものとして挙げることができる。
【0062】
SiR7 a R8 b (OR9 )c (5)
SiR7 n (OCH2 CH2 OCO(R10)C=CH2 )4-n (6)
CH2 =C(R10)COO(CH2 )p SiR11 n (OR9 )3-n (7)
CH2 =CHSiR11 n (OR9 )3-n (8)
HS(CH2 )p SiR11 n (OR9 )3-n (9)
【0063】
【化4】
【0064】
(上式中、R7 およびR8 は、それぞれ、エーテル結合、エステル結合またはエポキシ結合を有していてもよい炭素数1〜10の炭化水素残基を表し、R9 は水素原子または炭素数1〜10の炭化水素残基を表し、R10は水素原子またはメチル基を表し、R11は炭素数1〜3のアルキル基またはフェニル基を表し、aおよびbは、それぞれ、0〜3の整数であり、cは4−a−bを満足する1〜4の整数であり、nは0〜2の整数であり、pは1〜6の整数である)
前記構造式(5)で表されるシラン化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルエチルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、メトキシエチルトリエトキシシラン、アセトキシエチルトリエトキシシラン、ジエトキシエチルジメトキシシラン、テトラアセトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、テトラキス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0065】
前記構造式(6)で表されるシラン化合物としては、例えば、テトラキス(アクリロイルオキシエトキシ)シラン、テトラキス(メタクリロイルオキシエトキシ)シラン、メチルトリス(アクリロイルオキシエトキシ)シラン、メチルトリス(メタクリロイルオキシエトキシ)シラン等が挙げられる。
【0066】
前記構造式(7)で表されるシラン化合物としては、例えば、β−アクリロイルオキシエチルジメトキシメチルシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルメトキシジメチルシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、β−メタクリロイルオキシエチルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0067】
前記構造式(8)で表されるシラン化合物としては、例えば、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0068】
前記構造式(9)で表されるシラン化合物としては、例えば、γ−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0069】
前記構造式(10)で表されるシラン化合物としては、例えば、p−ビニルフェニルメチルジメトキシシラン、p−ビニルフェニルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0070】
かかるシラン化合物は、無機微粒子(a−3)の固形分1モル部に対して、0〜3モル部の割合で使用することが好ましい。シラン化合物の使用量が3モル部を超える場合には、得られる光硬化性シートの耐磨耗性が低下することがある。
【0071】
シラン化合物で表面処理された無機微粒子は、少量の水の存在下で、シラン化合物と無機微粒子を加熱攪拌することにより、得ることができる。
【0072】
無機微粒子(a−3)を、側鎖に光重合性官能基を有する熱可塑性樹脂(a−1)に添加する方法としては、予め熱可塑性樹脂(a−1)を合成後、無機微粒子を混合してもよいし、また熱可塑性樹脂(a−1)を構成するビニル重合性単量体と無機微粒子を混合した条件下で熱可塑性樹脂を重合する方法等の任意の方法を選択することができる。
【0073】
本発明において、側鎖に光重合性官能基を有する熱可塑性樹脂(a−1)中の光重合性官能基が脂環式エポキシ基の場合には、脂環式エポキシ基と無機微粒子表面の官能基(ヒドロキシル基、カルボキシル基、シラノール基等)が混合の間に架橋し、ゲル化を起こすことがある。このようなゲル化現象を防止するためには、アンモニアおよび沸点が100℃以下であるアミン化合物から選ばれた少なくとも1種を含むことが好ましい。光硬化性樹脂組成物(A)を用いて光硬化性シートを形成する際に、シート中に過剰に残存しないためには、アミン化合物の沸点は100℃以下であることが必要である。
【0074】
かかるアミン化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
【0075】
アンモニアおよび沸点が100℃以下であるアミン化合物から選ばれた少なくとも1種の添加量としては、側鎖に脂環式エポキシ基を有する熱可塑性樹脂(a−1)の固形分100質量部に対して、0.01〜0.5質量部の範囲であることが好ましい。光硬化性樹脂組成物(A)の安定性保持の観点から、アンモニアおよび沸点が100℃以下であるアミン化合物から選ばれた少なくとも1種の添加量は0.01質量部以上が好ましいが、アミン化合物の添加量が0.5質量部を超えると、光硬化性シートをインサート成形やインモールド成形することによって得られた成形品を光硬化させても、光カチオン重合が進行せず、耐擦傷性や耐薬品性が劣ることがある。
【0076】
本発明で用いられる光硬化性樹脂組成物(A)においては、熱可塑性樹脂(a−1)、光重合開始剤(a−2)、無機微粒子(a−3)以外に、必要に応じて、増感剤、変性用樹脂、染料、顔料およびレベリング剤やハジキ防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化安定剤等の添加剤を配合することができる。
【0077】
上記の増感剤は、光硬化反応を促進するものであって、その例としてはベンゾフェノン、ベンゾインイソプロピルエーテル、チオキサントン等が挙げられる。
【0078】
また、熱可塑性樹脂(a−1)中の光重合性官能基が脂環式エポキシ基の場合は、上記変性用樹脂としては、光カチオン重合性を有することが好ましく、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、エポキシ基としてグリシジル基を有する熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0079】
ただし、光硬化性樹脂組成物(A)は、前記熱可塑性樹脂(a−1)以外の架橋性化合物を実質的に含有すべきではない。特に、40℃において液体状の架橋性モノマー、オリゴマーや、分子量2000以下の低分子量の架橋性モノマー、オリゴマーは実質的に含有するべきではない。特に、40℃において液体状の架橋性モノマー、オリゴマーや、分子量2000以下の低分子量の架橋性モノマー、オリゴマーを含有すると、長期間の保管や加熱成形時において表面粘着性を有するようになり、印刷工程において不具合を生じたり、インサート成形やインモールド成形時において金型を汚染する等の問題を生じることがある。より好ましくは、50℃において液体状の架橋性モノマー、オリゴマーを実質的に含有するべきではなく、さらに好ましくは60℃において液体状の架橋性モノマー、オリゴマーを実質的に含有するべきではない。
【0080】
本発明に用いる基材シート(B)としては、その使用方法によって好適なものが選ばれるが、例えば、ABS(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体)系樹脂、AS(アクリロニトリル/スチレン共重合体)系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、セロファン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレンビニルアルコール系樹脂、軟質アクリル系樹脂等の材質からなるシートが挙げられる。また、これらの各シートの複合体、積層体などを使用することもできる。なかでも、100℃加熱時における伸度が100%以上である熱可塑性樹脂シートが、インサート成形やインモールド成形時に金型形状への追従性が良好となるので好ましい。光硬化性樹脂組成物(A)との密着性や耐候性、透明性等を考慮すると、さらに好ましくは架橋ゴム成分を有する熱可塑性アクリル樹脂シートである。架橋ゴム成分を有する透明熱可塑性アクリル樹脂シートとしては、特開平9−263614号公報等に開示されているような、多層構造を有するアクリル樹脂を押し出し成形することによって得られる透明熱可塑性アクリルシートがある。
【0081】
また、基材シート(B)中には、必要に応じて、適宜、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス等の滑剤、シリカ、球状アルミナ、鱗片状アルミナ等の減摩剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、微粒子酸化セリウム系等の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤等の光安定剤、可塑剤、安定剤、着色剤等の各種添加剤を添加してもよい。
【0082】
本発明の光硬化性シートは、上述した構成を有することより、光硬化前の優れた成形性や保存安定性と、光硬化後の優れた表面性状(硬度、耐候性等)を高次元で両立している光硬化性シートである。後述するように、通常、本発明の光硬化性シートは、有機溶剤等の溶剤に光硬化性樹脂組成物(A)を混合、溶解させた溶液を、各種コート法により基材シート(B)上にコーティングした後に溶剤除去のための乾燥を行って製造する。この際、光硬化性シート内に溶剤が多量に残存していると、光照射前の光硬化性樹脂組成物(A)層の表面が粘着性を有するようになり、印刷工程における歩留まりの低下や、ロール状態での保存安定性の低下、あるいはインサート成形やインモールド成形時の金型汚染性の低下等の問題を生じる。また、光硬化性シートをインサート成形やインモールド成形することによって得られた成形品を光硬化させても、耐擦傷性、耐薬品性、耐候性等の表面物性が劣ることがある。このような不具合を解決するには、光硬化性シート中の溶剤量、光硬化性樹脂組成物層の厚みおよび基材シートの厚みとから規定される光硬化性樹脂組成物中の溶剤量を特定の数値以下にすることが必要である。
【0083】
ここで、光硬化性樹脂組成物(A)中の溶剤量(X)の値は、前記式(1)により表される数値である。
【0084】
本発明において、光硬化性樹脂組成物(A)中の溶剤量(X)は、揮発性物質の定量分析に通常用いられている手法で測定することが可能である。例えば、次のような方法により測定することができる。まず、対象となる光硬化性シートの、光硬化性樹脂組成物(A)層の厚み(a)および基材シート(B)の厚み(b)を測定する。厚み(a)および(b)は、光硬化性シートの破断面を電子顕微鏡等で観察する方法等により測定することができる。次に、適当な大きさの光硬化性シートの試片を秤量した後、このシート試片を所定量の適当な抽出溶剤に混合攪拌し、各溶剤の揮発を防ぐために密栓した後に適当な時間放置する。抽出溶剤としては、光硬化性シート内に残存しているであろう溶剤とは異なる種類で、かつ、光硬化性シートを完全に溶解または部分的に溶解、膨潤するものが好ましい。次に、混合溶液中の溶剤量をガスクロマトグラフィー等の分析手法により定量し、単位質量あたりの光硬化性シート内に残存している溶剤量(Y)を算出する。最後に、得られた(a)、(b)、(Y)の各数値を前記式(1)に代入し、光硬化性シート単位質量あたりの光硬化性樹脂組成物(A)中の溶剤量(X)を算出する。
【0085】
この光硬化性シート単位質量あたりの光硬化性樹脂組成物(A)中の溶剤量(X)は、10以下であり、好ましくは5以下であり、さらに好ましくは3以下である。溶剤量(X)が10を超える場合には、光照射前の光硬化性樹脂組成物(A)層の表面が粘着性を有し、印刷工程における不具合や、ロール状態での保存安定性の低下、金型汚染性の低下、さらには光硬化後の光硬化性樹脂組成物(A)の耐擦傷性、耐薬品性、耐候性の低下等が起こる。
【0086】
本発明の光硬化性シートは、基材シート(B)上に光硬化性樹脂組成物(A)層が積層された構造で、インサート成形やインモールド成形時の加工性に優れるだけでなく、各種物性(特に、耐候性−耐磨耗性(表面硬度)−密着性のバランス)に優れた成形品を与えることが可能な光硬化性シートである。光硬化性樹脂組成物(A)層と基材シート(B)の間には、本発明の光硬化性シートの優れた性状を損なわない限りにおいては、さらに1層以上の光硬化性樹脂組成物層を積層することも可能である。この場合、新たに導入する1層以上の光硬化性樹脂組成物としては、光硬化性樹脂組成物(A)と同等もしくは類似の組成物を用いると、光硬化後の光硬化性シートの表面性状(特に、密着性、耐候性、外観、意匠性)が良好となる傾向にあり、好ましい。
【0087】
本発明の光硬化性シートの製造方法としては、例えば、光硬化性樹脂組成物(A)を有機溶媒等の溶剤に十分に攪拌溶解させ、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法等の公知の印刷方法や、ナイフコート法、コンマコート法、リバースコート法、ディップコート法等の公知のコート方法により基材シート(B)上にコーティングし、溶剤除去のための乾燥を行い、積層シートとする方法がある。
【0088】
光硬化性樹脂組成物(A)を攪拌溶解させる溶剤としては、光硬化性樹脂組成物(A)の各成分を溶解または均一に分散させ、かつ、基材シート(B)の物性(機械的強度、透明性等)に実用上甚大な悪影響を及ぼさない揮発性の溶剤であれば、特に制限されない。そのような溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、エチレングリコール等のアルコール系溶剤、キシレン、トルエン、ベンゼン等の芳香族系溶剤、ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素系溶剤、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素系溶剤、フェノール、クレゾール等のフェノール系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン等のケトン系溶剤、ジエチルエーテル、メトキシトルエン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、1,1−ジメトキシメタン、1,1−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、THF等のエーテル系溶剤、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等の脂肪酸系溶剤、無水酢酸等の酸無水物系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、ギ酸ブチル等のエステル系溶剤、エチルアミン、トルイジン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の窒素含有溶剤、チオフェン、ジメチルスホキシド等の硫黄含有溶剤、ジアセトンアルコール、2−メトキシエタノール(メチルセロソルブ)、2−エトキシエタノール(エチルセロソルブ)、2−ブトキシエタノール(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコール、2−アミノエタノール、アセトシアノヒドリン、ジエタノールアミン、モルホリン等の2種以上の官能基を有する溶剤、あるいは水等の各種の公知の溶剤を使用することができる。
【0089】
また、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンからなる基材シート上に上記樹脂液をコーティングする際には、基材シートと光硬化性樹脂組成物との密着性を上げるため、(1)予め、基材シート上に低分子量ポリオレフィン等からなるプライマーを塗布しておくか、または(2)予め、コロナ放電などで基材シート表面を活性化しておく(このコロナ放電を行う工程としては、活性化された直後が密着性が高いので、コーティングの少し前であるのが好ましい)のが好ましい。さらに、光硬化性樹脂組成物が光硬化時に体積収縮し、基材シートとの密着性が低下するのを防ぐ目的で、プライマー層を積層することが好ましい。
【0090】
本発明の光硬化性シートは、基材シート側に印刷層を設けることにより、光硬化性加飾シートとすることもできる。
【0091】
印刷層は、成形品表面に模様や文字等の加飾を施すものである。加飾は、任意であるが、例えば、木目、石目、布目、砂目、幾何学模様、文字、全面ベタ等からなる絵柄が挙げられる。印刷層の材料としては、塩化ビニル/酢酸ビニル系共重合体等のポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキッド樹脂、塩素化ポリオレフィン系樹脂等の樹脂をバインダーとし、適切な色の顔料または染料を着色剤として含有する着色インキを用いるのがよい。
【0092】
印刷層に用いられるインキの顔料としては、例えば、次のものを使用できる。通常、顔料としては、黄色顔料としてポリアゾ等のアゾ系顔料、イソインドリノン等の有機顔料や黄鉛等の無機顔料、赤色顔料としてポリアゾ等のアゾ系顔料、キナクリドン等の有機顔料や弁柄等の無機顔料、青色顔料としてフタロシアニンブルー等の有機顔料やコバルトブルー等の無機顔料、黒色顔料としてアニリンブラック等の有機顔料、白色顔料として二酸化チタン等の無機顔料が使用できる。
【0093】
印刷層に用いられるインキの染料としては、本発明の効果を損なわない範囲で、各種の公知の染料を使用することができる。
【0094】
また、インキの印刷方法としては、オフセット印刷法、グラビア輪転印刷法、スクリーン印刷法等の公知の印刷法やロールコート法、スプレーコート法等の公知のコート法を用いるのがよい。この際、本発明におけるように、低分子量の架橋性化合物を使用するのではなく、ポリマー同士を架橋させる構成の光硬化性樹脂組成物を用い、かつ、光硬化性樹脂組成物中の溶剤量(X)を小さくした場合には、表面に粘着性が無く、印刷時のトラブルが少なく、歩留りが良好である。
【0095】
また、成形品表面に加飾を施すための層として、印刷層の代わりに蒸着層を設けてもよいし、印刷層と蒸着層の両方を設けてもよい。
【0096】
蒸着層は、アルミニウム、ニッケル、金、白金、クロム、鉄、銅、インジウム、スズ、銀、チタニウム、鉛、亜鉛等の群から選ばれる少なくとも1種の金属、またはこれらの合金もしくは化合物を使用して、真空蒸着法やスパッタリング法、イオンプレーティング法、鍍金法等の方法により形成することができる。
【0097】
これらの加飾のための印刷層や蒸着層は、所望の成形品の表面外観が得られるよう、インサート成形やインモールド成形時の伸張度合いに応じて、適宜その厚みを選択すればよい。
【0098】
また、本発明の光硬化性シートは、基材シート側に印刷層および/または蒸着層、接着層および必要に応じてプライマーシートが形成された光硬化性加飾シートとすることができる。その場合、光硬化性加飾シートの好ましい厚み範囲は、30〜750μmである。シート厚みが30μm未満の場合には、深しぼり成形を行った際に、曲面でのシート厚みが著しく低下し、結果として耐擦傷性や耐薬品性等のシート物性が低下することがある。また、シート厚みが750μmを超える場合には、金型への形状追従性が低下することがある。
【0099】
上記接着層には、印刷層または蒸着層と成形樹脂、印刷層または蒸着層とプライマーシートとの密着性を高める性質のものであれば、任意の合成樹脂状材料を選択して用いることができる。例えば、成形樹脂がポリアクリル系樹脂の場合は、ポリアクリル系樹脂を用いるとよい。また、成形樹脂がポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン共重合体系樹脂、ポリスチレン系ブレンド樹脂の場合は、これらの樹脂と親和性のあるポリアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂等を使用すればよい。さらに、成形樹脂がポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂である場合には、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、クマロンインデン樹脂、ブロックイソシアネートを用いた熱硬化型ウレタン樹脂等が使用可能である。なお、接着層の粘着性低減や耐熱性向上の目的に、疎水性シリカやエポキシ樹脂、石油樹脂等をさらに含有させることもできる。
【0100】
上記プライマーシートは、必要に応じて形成されるものであり、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂、塩素化ポリプロピレン系樹脂、塩素化ポリエチレン系樹脂等の公知の樹脂が使用可能である。なお、成形樹脂との密着性を高める目的からは、成形樹脂と相溶性の材料からなるのが良い。現実的には、プライマーシートは成形樹脂と同じ、または類似のポリマー材料からなるのが好ましい。また、プライマーシートの存在は、射出成形品の表面欠陥が光硬化性樹脂組成物上に伝搬されるのを最少にするといった利点を与え、またプライマーシート上に印刷層や接着層が存在する場合には射出成形時の溶融樹脂により各層の厚みや模様が乱れることを防ぐといった利点を与える。その場合、プライマーシートは、光硬化性樹脂組成物の完全に円滑な上面を呈しながら、成形樹脂の表面欠陥を吸収するほどの厚みを有するのがよく、その厚みは50〜700μmの範囲であることが好ましい。プライマーシートの厚みが50μm未満の場合には、成型樹脂表面の表面欠陥を十分に吸収することが困難となる場合がある。一方、プライマーシート厚みが700μmを超える場合には、金型への形状追従性が低下することがある。
【0101】
また、本発明の光硬化性シートは、基材シート(B)上の光硬化性樹脂組成物(A)層の上に、さらにカバーフィルムを設けることもできる。このカバーフィルムは、光硬化性シート表面の防塵に有効であり、また活性エネルギー線照射前の光硬化性樹脂組成物(A)層の表面の傷つき防止にも有効である。
【0102】
上記カバーフィルムは、後述するようにインサート成形やインモールド成形する前まで光硬化性樹脂組成物(A)層に密着されており、インサート成形やインモールド成形する際は直ちに剥離されるので、光硬化性樹脂組成物(A)層に対して適度な密着性と良好な離型性を有していることが好ましい。このような条件を満たしたフィルムで有れば、任意のフィルムを選択して用いることができる。そのようなフィルムとしては、例えば、ポリエチレン系フィルム、ポリプロピレン系フィルム、ポリエステル系フィルム等が挙げられる。
【0103】
ところで、自動車のボディーパネルやスポイラー等のような成形品のサイズが大きく、かつ、成形品の肉厚が薄い場合には、成形樹脂から発生するガスが成形樹脂内に残留したり、金型内の空気が成形樹脂とシートの間に介在しやすくなり、成形樹脂に対するシートの密着性が低下するという問題が生じることがある。そのような場合、成形樹脂に接するシート面に、ガス透過性を有する層を設けることで、問題を解決することができる。そのようなガス透過性を有する層として、スパンデックス、アクリル繊維、ポリエチレン系繊維、ポリアミド系繊維等で構成された織布または不織布を挙げることができる。また、織布/不織布の代わりに、発泡層からなるものを用いてもよい。発泡層の形成方法としては、公知の発泡剤を含む樹脂溶液を塗布した後に加熱等により発泡させて連続空孔を形成させる方法等が挙げられる。
【0104】
次に、上記の光硬化性シートまたは光硬化性加飾シートを用いた成形品の製造方法の一例について説明する。
【0105】
まず、光硬化性シートまたは光硬化性加飾シートにカバーフィルムが設けられている場合は、カバーフィルムをシートより剥離除去する。なお、カバーフィルムは、金型内にシートを挿入配置する直前に剥離してもよいし、シートを金型内に挿入配置する遥か以前に剥離しておいても構わない。ただし、光照射前の光硬化性樹脂組成物(A)層の防塵や傷つき防止を考慮すると、前者のほうが好ましい。
【0106】
光硬化性シートまたは光硬化性加飾シートを、光硬化性樹脂組成物(A)側が金型の内壁面に向かい合うように挿入配置する(すなわち、光硬化性樹脂組成物(A)層の反対側が成形樹脂と接する状態にする)。この際、長尺のシートのまま(ロールから巻き出しながら)必要部分を間欠的に送り込んでもよいし、シートを枚葉化して1枚ずつ送り込んでもよい。特に加飾のための印刷層や蒸着層を有する長尺のシートを使用する場合、位置決め機構を有する送り装置を使用して、加飾のための層と金型との見当が一致するようにするとよい。また、シートを間欠的に送り込む際に、シートの位置をセンサーで検出した後にシートを固定するようにすれば、常に同じ位置でシートを固定することができ、加飾のための層の位置ずれが生じないので便利である。
【0107】
次いで、必要に応じて、光硬化性シートまたは光硬化性加飾シートを予備成形する。例えば、ホットパック等の加熱手段によりシートをその軟化点以上に軟化させ、金型に設けられた吸引孔を通じて真空吸引することにより金型形状にシートを追従させることで予備成形することができる。なお、シートを金型内に挿入配置する前に、シートを予めシートの熱変形温度未満の温度に予熱しておくと、シートを金型内に挿入配置後に行う加熱時間を短縮することができ、生産性を向上させることが可能となる。もちろん、シートを予備成形せずに、後述する成形樹脂の射出圧により、シートの成形および成形樹脂との一体化を同時に行うことも可能である。この際、シートを予め予備加熱して軟化させておくことも可能である。
【0108】
また射出成形用金型とは別の予備成形用金型を用いて、真空成形法、圧空成形法、熱せられたゴムを押し付ける押圧成形法、プレス成形法等の公知の成形法により、シートを予め所望の形状に予備成形した後に、予備成形したシートを光硬化性樹脂組成物側が金型の内壁面に向かい合うように成形用金型に挿入配置しても良い。
【0109】
その後、金型を閉じて、キャビティー内に溶融状態の成形樹脂を射出し、樹脂を固化させることにより光硬化性シートまたは光硬化性加飾シートが表面に配置された成形品を形成する。
【0110】
本発明で使用する成形樹脂としては、種類は問わず、射出成形可能な全ての樹脂が使用可能である。そのような成形樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂、エチレン−プロピレン共重合体樹脂、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体樹脂、オレフィン系熱可塑性エラストマー等のオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ABS(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン系共重合体)系樹脂、AS(アクリロニトリル/スチレン系共重合体)系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂等の汎用の熱可塑性または熱硬化性樹脂を挙げることができる。また、ポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等の汎用エンジニアリング樹脂やポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、液晶ポリエステル系樹脂、ポリアリル系耐熱樹脂等のスーパーエンジニアリング樹脂を使用することもできる。さらに、ガラス繊維や無機フィラー(タルク、炭酸カルシウム、シリカ、マイカ等)等の補強材、ゴム成分等の改質剤を添加した複合樹脂や各種変性樹脂を使用することができる。なお、成形樹脂の成形後の収縮率を前記シートの収縮率に近似させることにより、インサート成形やインモールド成形により得られる成形品の反りやシートの剥がれ等の不具合を解消できるので好ましい。
【0111】
最後に、金型内より成形品を取り出した後、光照射することにより成形品表面の光硬化性樹脂組成物を光硬化させる。
【0112】
照射する光としては、電子線、紫外線、γ線等を挙げることができる。照射条件は、光硬化性樹脂組成物(A)層の光硬化特性に応じて定められるが、照射量は、通常500〜2,000mJ/cm2 程度である。これによって、光硬化性樹脂組成物が硬化して硬質の被膜が表面に形成された成形品を得ることができる。
【0113】
成形品に接着した光硬化性シートまたは光硬化性加飾シートのうち、不要な部分は必要に応じて適宜トリミングして除去する。このトリミングは、シートを金型内に挿入配置した後や、成形品に光照射する前、または光照射した後に行うことができる。トリミングの方法としては、レーザー光線等を照射してシートを焼き切る方法、トリミング用の打ち抜き型を作製し、プレス加工によってシートを打ち抜く方法、人手によりシートをちぎるようにして除去する方法等の公知の方法により行うことができる。
【0114】
なお、上記では、成形品の製造方法として、射出成形を用いた製造方法について説明したが、射出成形の代わりにブロー成形を用いることも可能である。
【0115】
また、本発明の光硬化性シートにより加飾された成形品が主に屋外で使用される場合には、シートに紫外線吸収剤や光安定剤を加えることもできる。紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、サリチル酸エステル等の有機物、または粒径0.2μm以下の微粒子状の酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化チタン等の無機物を使用することができる。また、光安定剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート等のヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤、ピペリジン系ラジカル捕捉剤等のラジカル捕捉剤を用いることができる。
【0116】
このようにして得られた成形品は、成形と同時に色もしくはデザインが付与され、さらには短時間の光照射によって、耐磨耗性、耐薬品性および耐候性等が向上する。さらに、従来の成形後のスプレー塗装等と比較して、工程の短縮、歩留まりの向上、環境への影響低減がはかれる。
【0117】
また、本発明の光硬化性シートは、直接あるいは接着剤層を介して被着体にラミネートすることにより、被着体表面に積層して使用することもできる。被着体としては、各種素材からなる平板、曲面板等の板材、シート、フィルムあるいは各種立体形状物品(成形品)がある。例えば、射出成形品等の曲面を有する成形品に対しても、本発明の光硬化性シートを使用することができる。また、本発明の光硬化性シートをラミネートした被着体をさらに真空成形等の二次加工に付することも可能である。
【0118】
被着体として用いられる素材としては、木材単板、木材合板、パーティクルボード、中密度繊維板(MDF)等の木材板、木質繊維板等の木質板、鉄、アルミニウム等の金属、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレンビニルアセテート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ABS系樹脂、フェノール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、ゴム等の樹脂が挙げられる。
【0119】
これらの各被着体への本発明の光硬化性シートの積層方法としては、例えば、次の1〜4の方法を挙げることができる。
【0120】
1.接着剤層を間に介して、または介さずに、板状またはフィルム状基材に加圧ローラーで加圧して積層する方法
2.特公昭56−45768号公報、特公昭60−58014号公報等に記載されているように、光硬化性シートを成形品の表面に接着剤層を介して、または介さずに、対向させないしは載置し、成形品側からの真空吸引による圧力差により光硬化性シートを成形品表面に積層する、いわゆる真空プレス積層方法
3.特公昭61−5895号公報、特公平3−2666号公報等に記載されているように、円柱、多角柱等の柱状基材の長軸方向に、光硬化性シートを間に接着剤層を介して、または介さずに、供給しつつ、多数の向きの異なるローラーにより、柱状体を構成する複数の側面に順次光硬化性シートを加圧接着して積層していく、いわゆるラッピング加工方法
4.特開昭48−47972号公報等に記載されているように、まず光硬化性シートを板状基材に接着剤層を介して、または介さずに、積層し、次いで板状基材の光硬化性シートとは反対側の面に、光硬化性シートと板状基材との界面に到達する、断面がV字状またはU字状の溝を切削し、次いでこの溝内に接着剤を塗布した上で、溝を折り曲げ、箱体または柱状体を成形する、いわゆるVカットまたはUカット加工法等が挙げられる。
【0121】
【実施例】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、例中、「部」は「質量部」を意味する。また、以下の例中、実施例3、6、9、13は参考例である
【0122】
合成例1(側鎖に光重合性官能基を有する熱可塑性樹脂Aの合成)
窒素導入口、攪拌機、コンデンサーおよび温度計を備えた1Lの4つ口フラスコに、メチルエチルケトン50部を入れ、80℃に昇温した。窒素雰囲気下でメチルメタクリレート67.8部、グリシジルメタクリレート32.2部およびアゾビスイソブチロニトリル0.5部の混合物を3時間かけて滴下した。その後、メチルエチルケトン80部とアゾビスイソブチロニトリル0.2部の混合物を加え、重合させた。4時間後、メチルエチルケトン50部、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.5部、トリフェニルホスフィン2.5部およびアクリル酸16.2部を加え、空気を吹き込みながら80℃で30時間攪拌した。その後、冷却した後、反応物をフラスコより取り出し、側鎖に光重合性官能基を有する熱可塑性樹脂Aの溶液を得た。
【0123】
側鎖に光重合性官能基を有する熱可塑性樹脂Aにおける単量体の重合率は99.5%以上であり、ポリマー固形分量は約40質量%、数平均分子量は約6万、ガラス転移温度は約77℃、二重結合当量は平均518g/モルであった。
【0124】
合成例2(側鎖に光重合性官能基を有する熱可塑性樹脂Bの合成)
窒素導入口、攪拌機、コンデンサーおよび温度計を備えた1Lの4つ口フラスコに、メチルエチルケトン50部を入れ、80℃に昇温した。窒素雰囲気下でメチルメタクリレート41.3部、グリシジルメタクリレート58.7部、アゾビスイソブチロニトリル0.5部およびn−オクチルメルカプタン2部の混合物を3時間かけて滴下した。その後、メチルエチルケトン80部とアゾビスイソブチロニトリル0.2部の混合物を加え、重合させた。4時間後、メチルエチルケトン50部、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.5部、トリフェニルホスフィン2.5部およびアクリル酸29.5部を加え、空気を吹き込みながら80℃で30時間攪拌した。その後、冷却した後、反応物をフラスコより取り出し、側鎖に光重合性官能基を有する熱可塑性樹脂Bの溶液を得た。
【0125】
側鎖に光重合性官能基を有する熱可塑性樹脂Bにおける単量体の重合率は99.5%以上であり、ポリマー固形分量は約42質量%、数平均分子量は約6万、ガラス転移温度は約54℃、二重結合当量は平均316g/モルであった。
【0126】
合成例3(側鎖に光重合性官能基を有する熱可塑性樹脂Cの合成)
窒素導入口、撹拌機、コンデンサーおよび温度計を備えた1Lの4つ口フラスコに、窒素雰囲気下で、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート100部、メチルエチルケトン60部およびアゾビスイソブチロニトリル0.3部を入れ、撹拌しながら湯浴の温度を75℃に上げ、その温度で2時間重合させた。次いで、アゾビスイソブチロニトリル0.7部を1時間おきに5回に分けて添加した後、フラスコ内温を溶剤の沸点まで上昇させてその温度でさらに2時間重合させた。その後、フラスコ内温度が50℃以下になってから、メチルエチルケトン90部を添加して重合反応物をフラスコより取り出し、側鎖に光重合性官能基を有する熱可塑性樹脂Cの溶液を得た。
【0127】
側鎖に光重合性官能基を有する熱可塑性樹脂Cにおける単量体の重合率は99.5%以上であり、ポリマー固形分量は約40質量%、数平均分子量は約1.2万、ガラス転移温度は約73℃、脂環式エポキシ当量(側鎖脂環式エポキシ基1個あたりの平均分子量)は平均196g/モルであった。
【0128】
コロイダルシリカの表面処理例1(表面処理コロイダルシリカS1の調製)
【0129】
【表2】
【0130】
注)数値は固形分換算のモル部である。
1)MEK−ST:メチルエチルケトン分散コロイダルシリカゾル(日産化学工業(株)製)、シリカ粒子径=15nm
2)KBM503:γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製)、分子量=248
攪拌機、コンデンサーおよび温度計を備えたフラスコに、上記表2に記載の成分を入れ、攪拌しながら湯浴の温度を75℃に上げ、その温度で2時間反応させることにより、メチルエチルケトン中に分散され、表面がシラン化合物で処理されたコロイダルシリカS1を得た。
【0131】
コロイダルシリカの表面処理例2(表面処理コロイダルシリカS2の調製)
【0132】
【表3】
【0133】
注)数値は固形分換算のモル部である。
1)IPA−ST:イソプロパノール分散コロイダルシリカゾル(日産化学工業(株)製)、シリカ粒子径=15nm
2)KBM503:γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製)、分子量=248
攪拌機、コンデンサーおよび温度計を備えたフラスコに、上記表3に記載の成分を入れ、攪拌しながら湯浴の温度を75℃に上げ、その温度で2時間反応させることにより、イソプロパノール中に分散され、表面がシラン化合物で処理されたコロイダルシリカを得た。続いて、イソプロパノールを留去した後にトルエンを添加することを繰り返し、完全にイソプロパノールをトルエンに置換することにより、トルエン中に分散され、表面がシラン化合物で処理されたコロイダルシリカS2を得た。
【0134】
実施例1〜3
合成した側鎖に光重合性官能基を有する熱可塑性樹脂A〜Cおよび表4の化合物を用いて、表4の組成を有する光硬化性樹脂溶液を調製した。
【0135】
【表4】
【0136】
注)数値は固形分換算の質量部である。
【0137】
1)1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン
2)トリフェニルスルホニウム6フッ化アンチモネート
得られたこれらの組成物溶液をそれぞれプロペラ型ミキサーで撹拌し、基材シートとして架橋ゴム成分を含む、厚さ125μmの透明軟質アクリルシート(三菱レイヨン(株)製HBX−N47)上に塗工幅350mmに塗布し、下記表5の条件にて乾燥させ、厚さ8μmの光硬化性樹脂層を形成した。
【0138】
【表5】
【0139】
続いて、幅300mmにスリットして20mの長さにABS製コアにロール状に巻き取った。なお、透明軟質アクリルシートのみの破断伸度をテンシロンにより測定すると、100℃加熱時の破断伸度は260%であった。
【0140】
これらの光硬化性シートを、それぞれ10cm×10cmの大きさに切断し、秤量し、次いでN,N−ジメチルホルムアミド(内部標準としてメチルイソブチルケトン含有)20ml中に浸漬し、攪拌しながら一晩放置する。一晩放置後の溶液をガスクロマトグラフィーで分析し、光硬化性樹脂組成物中に残存したメチルエチルケトンおよびトルエンの合計量を測定した。結果を表6に示す。
【0141】
これらの光硬化性シートを、光硬化性樹脂組成物が金型の内壁面に向き合うように金型内に配置し、次いで赤外線ヒーター温度350℃で10秒間シートを予備加熱した後、さらに加熱を行いながら真空吸引することにより金型形状にシートを追従させた。なお、この金型の形状は、切頭角錐形状で、切頭面のサイズは100mm×100mmで、底面のサイズは108mm×117mm、深さは10mmであり、切頭面の端部の曲率半径はそれぞれ3、5、7、10mmであった。その際の金型追従性を目視で評価したところ、各端部とも良好に追従していた。
【0142】
次に、成形温度280〜300℃、金型温度40〜60℃の条件において、ポリカーボネート樹脂を成形樹脂として用いてインモールド成形を行い、光硬化性シートが成形品表面に密着したインモールド成形品を得た。この際の成形用金型の汚れを目視で評価した。結果を表6に示す。
【0143】
次いで、紫外線照射装置を用いて、約700mJ/cm2 の紫外線を照射して光硬化性樹脂組成物を硬化させ、表面物性を評価した。結果を表6に示す。
【0144】
また、室温にて約2週間ロール状態で保存した後、巻き出しながら表面の粘着性を評価した。結果を表6に示す。
【0145】
シート物性評価方法
耐酸性:
47質量%硫酸水溶液を40℃で3時間スポット試験した後の外観を目視評価した。
【0146】
○:良好
△:薄く跡有り
×:著しい跡有り
耐温水性:
80℃の温水中に24時間浸漬後のシート状態を目視評価した。
【0147】
○:良好
△:薄く白化有り
×:著しい白化有り
透明性:
ASTM D1003に準じて、ヘイズメーターを用いて全光線透過率およびヘイズを測定した。
【0148】
耐磨耗性:
テーバー磨耗試験(片側500g荷重、CS−10F磨耗輪を用い、回転速度60rpm、試験回数100回で試験を実施)後の曇価をヘイズメーターで測定した。そして(試験後の曇価)−(試験前の曇価)で表される数値を耐磨耗性(%)として示した。
【0149】
耐候性:
サンシャインウエザーメーター(スガ試験機製)を用い、乾燥48分、雨12分のサイクルで2000時間曝露試験したときの外観を目視評価した。
【0150】
○:良好
×:白化またはクラック有り
比較例1〜3
合成した側鎖に光重合性官能基を有する熱可塑性樹脂A〜Cおよび表4の化合物を用いて、表4の組成を有する光硬化性樹脂溶液を調製した。これら光硬化性樹脂溶液塗布後の乾燥を表7の条件にて行った以外は、実施例1〜3と同様にして光硬化性シートおよび成形品を得た。評価結果を表6に示す。
【0151】
【表6】
【0152】
1)○:表面粘着性無し、△:表面粘着性有り、×:表面粘着性大、巻き出し不可
2)○:汚れ無し、△:若干汚れ有り、×:汚れ大
3)光硬化性シート単位質量あたりの光硬化性樹脂組成物中のメチルエチルケトンおよびトルエンの合計量
4)光硬化性樹脂層を有していない透明軟質アクリルシートのみをインモールド成形した成形品の耐磨耗性は、50%であった。
【0153】
【表7】
【0154】
表6に示すとおり、光硬化性樹脂組成物中のメチルエチルケトンおよびトルエンの合計量が多い比較例においては、シート表面に粘着性が有り、ロール状態での保存安定性の不良を引き起こす。また、成形時の金型汚れが顕著である。一方、メチルエチルケトンおよびトルエンの合計量が少ない実施例においては、いずれのフィルムも表面粘着性が無く、保存安定性、成形性に優れており、金型汚れもなく、また硬化後の耐薬品性、透明性、耐磨耗性、耐候性が良好である。
【0155】
実施例4〜6
実施例1〜3で調製した組成物溶液をそれぞれプロペラ型ミキサーで撹拌し、基材シートとして架橋ゴム成分を含む、厚さ200μm の透明軟質アクリルシート(三菱レイヨン(株)製HBX−N47)上に塗工幅350mmに塗布し、上記表5の条件にて乾燥させ、厚さ20μmの光硬化性樹脂層を形成した。続いてカバーフィルムとしてポリエチレンフィルム(タマポリ(株)製,GF−14)を光硬化性樹脂層表面と接するように重ね合わせてプレスロールの間を通過させることで、カバーフィルムとシートが一体化した積層シートを得た。引き続いて、幅300mmにスリットして20mの長さにABS製コアにロール状に巻き取った。
【0156】
これらの光硬化性シートを、カバーフィルムのポリエチレンフィルムをシートから剥離させた後に、光硬化性樹脂組成物が金型の内壁面に向き合うように金型内に配置し、次いで赤外線ヒーター温度300℃で15秒間シートを予備加熱した。さらに加熱を行いながら真空吸引することにより金型形状にシートを追従させた。
【0157】
次に、成形温度280〜300℃、金型温度40〜60℃の条件において、ポリカーボネート樹脂を成形樹脂として用いてインモールド成形を行い、光硬化性シートが成形品表面に密着した成形品を得た。この時のシートの金型追従性及び金型離型性は共に良好であった。
【0158】
次いで、紫外線照射装置を用いて、約700mJ/cm2の紫外線を照射して光硬化性樹脂組成物を硬化させ、表面硬度が高く、光沢に優れ成形品を得た。
【0159】
実施例7〜9
カバーフィルムとしてPETフィルムを使用した以外は、実施例4〜6と同様にしてインモールド成形品を得た後に、紫外線を照射して光硬化性樹脂組成物を硬化させた。得られた成形品は表面硬度が高く、光沢に優れていた。
【0160】
実施例10
基材シートとしてポリカーボネートシート(旭硝子(株)製,レキサン8010)を用いた以外は、実施例1と同様にしてインモールド成形品を得た後に、紫外線を照射して光硬化性樹脂組成物を硬化させた。得られた成形品は表面硬度が高く、光沢に優れていた。
【0161】
実施例11〜13
実施例1〜3で調製した組成物溶液をそれぞれプロペラ型ミキサーで撹拌し、基材シートとして架橋ゴム成分を含む、厚さ200μmの透明軟質アクリルシート(三菱レイヨン(株)製HBX−N47)上に塗工幅350mmに塗布し、上記表5の条件にて乾燥させ、厚さ20μmの光硬化性樹脂層を形成した。続いて、幅300mmにスリットして20mの長さにABS製コアにロール状に巻き取った。なお、透明軟質アクリルシートのみの破断伸度をテンシロンにより測定すると、100℃加熱時の破断伸度は400%であった。
【0162】
次いで、黒、茶、黄の各色の顔料から成るインキを用い、透明軟質アクリルシート面に絵柄をグラビア印刷法によって印刷した後、光硬化性加飾シートを得た。これらのシートは表面粘着性がないので、印刷適性は良好であった。シートの厚みは223μmであった。
【0163】
これらの光硬化性加飾シートを、光硬化性樹脂組成物が金型の内壁面に向き合うように金型内に配置し、次いで赤外線ヒーター温度300℃で15秒間シートを予備加熱した後、さらに加熱を行いながら真空吸引することにより金型形状にシートを追従させた。
【0164】
次に、成形温度220〜250℃、金型温度40〜60℃の条件において、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体樹脂を成形樹脂として用いてインモールド成形を行い、光硬化性加飾シートが成形品表面に密着した成形品を得た。このようにシートの金型追従性及び金型離型性は共に良好であった。
【0165】
次いで、紫外線照射装置を用いて、約700mJ/cm2の紫外線を照射して光硬化性樹脂組成物を硬化させ、表面硬度が高く、光沢に優れ、印刷絵柄を有して意匠性に優れる成形品を得た。
【0166】
実施例14
実施例1で調製した組成物溶液をプロペラ型ミキサーで撹拌し、基材シートとして架橋ゴム成分を含む、厚さ200μmの透明軟質アクリルシート(三菱レイヨン(株)製、HBX−N47)上に塗工幅350mmに塗布し、上記表5の条件にて乾燥させ、厚さ20μmの光硬化性樹脂層を形成した。続いて、幅300mmにスリットして20mの長さにABS製コアにロール状に巻き取った。なお、透明軟質アクリルシートのみの破断伸度をテンシロンにより測定すると、100℃加熱時の破断伸度は400%であった。
【0167】
次いで、黒、茶、黄の各色の顔料から成るインキを用い、透明軟質アクリルシート面に絵柄をグラビア印刷法によって印刷した。このシートは表面粘着性がないので、印刷適性は良好であった。
【0168】
さらに、塩素化ポリプロピレン樹脂(塩素化度15%)からなる接着層を、印刷面にグラビア印刷法によって形成させた後、光硬化性加飾シートを得た。シートの厚みは255μmであった。
【0169】
この光硬化性加飾シートを、光硬化性樹脂組成物が金型の内壁面に向き合うように金型内に配置し、次いで赤外線ヒーター温度300℃で15秒間シートを予備加熱した後、さらに加熱を行いながら真空吸引することにより金型形状にシートを追従させた。
【0170】
次に、成形温度200〜240℃、金型温度30〜60℃の条件において、ポリプロピレン系樹脂(タルクを20質量%含有、エチレン−プロピレン系ゴムを10質量%含有)を成形樹脂として用いてインモールド成形を行い、光硬化性加飾シートが成形品表面に密着した成形品を得た。このようにシートの金型追従性および金型離型性は共に良好であった。
【0171】
次いで、紫外線照射装置を用いて、約700mJ/cm2 の紫外線を照射して光硬化性樹脂組成物を硬化させ、表面硬度や耐磨耗性が高く、光沢に優れ、印刷絵柄を有して意匠性に優れる成形品を得た。
【0172】
実施例15
実施例1で調製した組成物溶液をプロペラ型ミキサーで撹拌し、基材シートとして架橋ゴム成分を含む、厚さ200μmの透明軟質アクリルシート(三菱レイヨン(株)製HBX−N47)上に塗工幅350mmに塗布し、上記表5の条件にて乾燥させ、厚さ20μmの光硬化性樹脂層を形成した。続いて、幅300mmにスリットして20mの長さにABS製コアにロール状に巻き取った。なお、透明軟質アクリルシートのみの破断伸度をテンシロンにより測定すると、100℃加熱時の破断伸度は400%であった。
【0173】
次いで、黒、茶、黄の各色の顔料から成るインキを用い、透明軟質アクリルシート面に絵柄をグラビア印刷法によって印刷した。このシートは表面粘着性がないので、印刷適性は良好であった。
【0174】
これとは別に、両面にコロナ放電処理を施した、厚さ50μmの透明ポリプロピレンシート(三菱化学エムケーブイ(株)製PA002)の一方の面に、塩素化ポリプロピレン樹脂(塩素化度15%)からなる接着層をグラビア印刷法によって印刷した。次いで、この接着層面に、先に作製した光硬化性シートの印刷面が向かい合うようにそれぞれのシートをセットし、加熱ロールと冷却ロールとの間に通して熱圧着させ、それぞれのシートが一体化した積層シートを得た。
【0175】
この積層シートを、光硬化性樹脂組成物が金型の内壁面に向き合うように金型内に配置(但し、本実施例で使用した金型の形状は、切頭角錐形状で、切頭面のサイズは50mm×50mmで、底面のサイズは108mm×117mm、深さは3mmである)し、次いで赤外線ヒーター温度300℃で15秒間シートを予備加熱した後、さらに加熱を行いながら真空吸引することにより金型形状にシートを追従させた。
【0176】
次に、成形温度200〜240℃、金型温度30〜60℃の条件において、ポリプロピレン系樹脂(タルクを20質量%含有、エチレン−プロピレン系ゴムを10質量%含有)を成形樹脂として用いてインモールド成形を行い、積層シートが成形品表面に密着した成形品を得た。このようにシートの金型追従性及び金型離型性は共に良好であった。
【0177】
次いで、紫外線照射装置を用いて、約700mJ/cm2 の紫外線を照射して光硬化性樹脂組成物を硬化させ、表面硬度や耐磨耗性が高く、光沢に優れ、印刷絵柄を有して意匠性に優れる成形品を得た。
【0178】
実施例16
実施例1で調製した組成物溶液をプロペラ型ミキサーで撹拌し、基材シートとして架橋ゴム成分を含む、厚さ200μmの透明軟質アクリルシート(三菱レイヨン(株)製HBX−N47)上に塗工幅350mmに塗布し、上記表5の条件にて乾燥させ、厚さ20μmの光硬化性樹脂層を形成した。続いて、幅300mmにスリットして20mの長さにABS製コアにロール状に巻き取った。なお、透明軟質アクリルシートのみの破断伸度をテンシロンにより測定すると、100℃加熱時の破断伸度は400%であった。
【0179】
次いで、黒、茶、黄の各色の顔料から成るインキを用い、透明軟質アクリルシート面に絵柄をグラビア印刷法によって印刷した。このシートは表面粘着性がないので、印刷適性は良好であった。
【0180】
これとは別に、両面にコロナ放電処理を施した、厚さ100μmの透明ポリプロピレンシート(三菱化学エムケーブイ(株)製PA002)の一方の面に、塩素化ポリプロピレン樹脂(塩素化度15%)からなる接着層をグラビア印刷法によって印刷した。次いで、この接着層面に、先に作製した光硬化性シートの印刷面が向かい合うようにそれぞれのシートをセットし、加熱ロールと冷却ロールとの間に通して熱圧着させ、それぞれのシートが一体化した積層シートを得た。
【0181】
次に、エポキシ−イソシアネート系接着剤を塗布し、脱脂処理を施した厚さ1.0mmの鋼板を用意した。そして、作製した積層シートを、この積層シートの光硬化性樹脂組成物層が表面に現れるように鋼板に重ね合わせ、加圧接着させた。次いで、紫外線照射装置を用いて、約700mJ/cm2 の紫外線を照射して光硬化性樹脂組成物を硬化させ、表面硬度や耐磨耗性が高く、光沢に優れ、印刷絵柄を有して意匠性に優れる化粧鋼板を得た。
【0182】
実施例17
実施例1で調製した組成物溶液をプロペラ型ミキサーで撹拌し、基材シートとして架橋ゴム成分を含む、厚さ200μmの透明軟質アクリルシート(三菱レイヨン(株)製HBX−N47)上に塗工幅350mmに塗布し、上記表5の条件にて乾燥させ、厚さ20μmの光硬化性樹脂層を形成した。続いて、幅300mmにスリットして20mの長さにABS製コアにロール状に巻き取った。なお、透明軟質アクリルシートのみの破断伸度をテンシロンにより測定すると、100℃加熱時の破断伸度は400%であった。
【0183】
さらに、変性アクリル系樹脂からなる接着層を、光硬化性樹脂層とは反対側の透明軟質アクリルシート面にグラビア印刷法によって形成させて、光硬化性シートを得た。シートの厚みは255μmであった。
【0184】
これとは別に、黒、茶、黄の各色の顔料から成るインキを用いた印刷層を表面に有する、厚さ1.0mmのABSシートを用意し、この印刷面に先に作製した光硬化性シートの接着層面が向かい合うようにそれぞれのシートをセットし、加熱ロールと冷却ロールとの間に通して熱圧着させ、それぞれのシートが一体化した積層シートを得た。
【0185】
次いで、得られた積層シートの光硬化性樹脂層側が最外層となるように、積層シートを所望の形状に真空圧空成形した。最後に、紫外線照射装置を用いて、約700mJ/cm2 の紫外線を照射して光硬化性樹脂組成物を硬化させ、表面硬度や耐磨耗性が高く、光沢に優れ、印刷絵柄を有して意匠性に優れる成形品を得た。
【0186】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明により、色もしくはデザインの印刷が可能な表面非粘着性の光硬化性の印刷シートが容易に得られ、それを用いて射出成形時に同時成形することにより、樹脂成形品の上に、色もしくはデザイン等の意匠をもち、良好な外観、耐磨耗性、耐候性および耐薬品性を有する表面が形成でき、インストルメントパネル、コンソールボックス、メーターカバー、ドアロックベゼル、ステアリングホイール、パワーウィンドウスイッチベース、センタークラスター、ダッシュボード等の自動車内装材用途、ウェザーストリップ、バンパー、バンパーガード、サイドマッドガード、ボディーパネル、スポイラー、フロントグリル、ストラットマウント、ホイールキャップ、センターピラー、ドアミラー、センターオーナメント、サイドモール、ドアモール、ウインドモール等、窓、ヘッドランプカバー、テールランプカバー、風防部品等の自動車外装材用途、AV機器や家電製品のフロントパネル、ボタン、エンブレム、表面化粧材等の用途、携帯電話等のハウジング、表示窓、ボタン等の用途、さらには家具用外装材用途、壁面、天井、床等の建築用内装材用途、サイディング等の外壁、塀、屋根、門扉、破風板等の建築用外装材用途、窓枠、扉、手摺、敷居、鴨居等の建具類の表面化粧材用途、各種ディスプレイ、レンズ、ミラー、ゴーグル、窓ガラス等の光学部材用途、あるいは電車、航空機、船舶等の自動車以外の各種乗物の内/外装材用途、瓶、化粧品容器、小物入れ等の各種包装容器および材料、景品や小物等の雑貨等のその他各種用途に好適に使用することができる。また、透明樹脂の上においては、その透明性を活かしたまま良好な耐磨耗性、耐候性および耐薬品性を有する表面が形成でき、自動車や鉄道車両、飛行機等の窓やヘッドランプカバー、風防部品等に好適に使用することができる。また、成形品の表面を塗装する場合に比べて工程数を省略することができて生産性もよく、環境に対する影響も少ない。
Claims (7)
- 側鎖に光重合性官能基としてラジカル重合性不飽和基を有する熱可塑性樹脂(a−1)および光ラジカル重合開始剤(a−2)を含み、(a−1)以外の架橋性化合物を実質的に含まない光硬化性樹脂組成物(A)の層と、基材シート(B)とを含む光硬化性シートにおいて、下記式(1)で表される光硬化性樹脂組成物(A)中の溶剤量(X)の値が10以下である光硬化性シート。
X=Y/(a/(a+b)) (1)
ここで、Xは光硬化性シート単位質量あたりの光硬化性樹脂組成物(A)中の溶剤量(質量%)であり、aは光硬化性樹脂組成物(A)層の膜厚(μ)であり、bは基材シート(B)の厚み(μ)であり、Yは光硬化性シート単位質量あたりの溶剤量(質量%)である。 - 光硬化性樹脂組成物(A)が、さらに無機微粒子(a−3)を含む、請求項1に記載の光硬化性シート。
- 無機微粒子(a−3)がコロイダルシリカである、請求項2に記載の光硬化性シート。
- 光硬化性樹脂組成物(A)層側にカバーフィルムが仮着されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の光硬化性シート。
- 請求項1〜4のいずれかに記載した光硬化性シートの基材シート側に形成された印刷層および/または蒸着層を含む光硬化性加飾シート。
- 請求項1〜4のいずれかに記載した光硬化性シートの基材シート側に形成された印刷層および/または蒸着層、および接着層を含む光硬化性加飾シート。
- 請求項1〜4のいずれかに記載した光硬化性シートの基材シート側に形成された印刷層および/または蒸着層、および接着層およびプライマーシートを含む光硬化性加飾シート。
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