本発明において、2種以上の糖アルコール類としては、グリセロール、エリスリトール、キシリトール、キシロース、ソルビトール、イソソルビトール、マンニトールなどの単糖類又はそのアルコールが挙げられる。
その組成は、目的に応じて、種々の組合せと比率が可能である。例えば2種の糖を組み合わせる場合は5:95〜95:5、10:90〜90:10、20:80〜80:20、30:70〜70:30などとすることができる。
糖アルコール類の組合せは、以下に記す参考例から、糖アルコール類の分子の大きさにより作用発現の速さに差があると推測されることから、次のような組合せが考えられる。
例えば、3単糖のグリセロール([参考例5])は投与後2時間目に作用が発現するが、リバウンド現象が生じる(非特許文献5、[0014])。発明者はこの現象を以下のような過程によるものと考えた。分子径の小さいグリセロール分子は、2時間後には外リンパ腔に到達し、外リンパ液の浸透圧が上昇する。低張な内リンパ液から水分子が外リンパ腔に移動し、内リンパ腔容積は減少(減荷効果を発揮)する。その後、グリセロール分子は時間経過と共に内リンパ液と外リンパ液を隔てるライスネル膜を通過し、内リンパ腔に達して、内リンパ液が高張となる。そのため水が外リンパ腔から内リンパ腔に移動し、内リンパ腔容積は増加して、リバウンド(水腫の再形成)する。
6単糖のイソソルビトールは作用発現が遅く、3〜6時間目に減荷作用を発揮する(非特許文献13、[参考例1−2]、[参考例1−4])ことから、グリセロールとイソソルビトールを組み合わせると、作用発現が早く、効果は長時間持続し、且つリバウンド現象をも阻止できると予想される。イソソルビトールは分子が大きく、外リンパ腔に留まり続けるため、外リンパ腔の浸透圧が高く保たれる。その結果、グリセロールのリバウンド効果が相殺されるであろうと考えるからである。
同様に、3単糖のグリセロール、4単糖のエリスリトールに6単糖のイソソルビトール、ソルビトール、マンニトールなど、分子の大きさに着目した組合せが効果的であると考えられる。
さらに糖アルコールの瀉下作用の強弱には差があって、強力な瀉下作用を有する糖アルコールは、術側には内リンパ水腫減荷作用を示さず、正常側に内リンパ水腫を発現することが判った。多糖類添加により止瀉を図った後には、正常側における内リンパ腔水腫発現は阻止できるが、内リンパ腔虚脱が認められ、その作用には固有差があることが判った。
まず、瀉下作用が強いものは、エリスリトール(Ery、[参考例3−2−b])で、それに次いで瀉下作用が強いのはグリセロール(Gly、[参考例5])、キシリトール(XL、[参考例6])、キシロース(XS、[参考例7])、他にソルビトール(SO[参考例9−2])、マンニトール([参考例9−1])などで、弱いものにはイソソルビトール(IB、[参考例1−2])がある。瀉下作用の弱いIBを除いて、血漿AVPの急激な上昇を招くため、正常側には内リンパ水腫を生じ、手術側において内リンパ水腫減荷効果は生じなかった([参考例3−1]、[参考例1−4])。
瀉下作用の強いEryの1回投与量を最大無作用量(ED50)以下とするように削減し、瀉下作用の殆ど認められないIBを組合せることが好ましいと考えられる。他の組合せとしては、瀉下作用の強いEryに、Eryより瀉下作用の弱い3単糖のGly、5単糖のXL、XS、6単糖のSO、マンニトールなどを組み合わせる他に、瀉下作用の比較的強いGly、XL、XS、SO、マンニトールなどに、瀉下作用の殆ど認められない6単糖のIBの組み合わせも好ましいと考えられる。このようにED50以下に止めることで、止瀉を図るために添加する多糖類の添加が少なくて済むことは好ましい。
<止瀉を図った後の虚脱の違い>
次に、止瀉を図ると糖アルコール類の作用は変化し、メニエール病治療効果を発揮する。4単糖のEryは3時間目に非常に強力な作用が発現するが、6時間目にはやや減弱する(特許文献2)。したがってEryの量を削減し、6単糖を組み合わせれば、作用が平均的に且つ持続的になると推測される。5単糖のXSはEryに次いで強い減荷作用(治療効果)を発現した。これはXSの消化管からの独特な吸収過程によるものとも考えられる。XS、XLに、6単糖のSO、マンニトール、IBを組み合わせても、同様の効果が期待できる。
一方で、例えば4単糖のEryは止瀉を図ると、正常側にも虚脱が生じる傾向が認められた。止瀉に成功した場合、内リンパ腔虚脱効果(正常側)が強いものはEry([参考例3−2−b])、XS([参考例3])、弱いものはIB([参考例1−2]、[参考例1−3])があり、Gly([参考例1])、XL([参考例6])はその中間的な作用が認められた。たとえ水腫減荷作用が強くても、正常側に虚脱を生じることは好ましくない。
虚脱効果(正常側)が強い3炭糖のGly、4炭糖のEry、5単糖のXSと、比較的弱い6炭糖、例えばIB、他にSO、マンニトールを組み合わせることが好ましい。このようにして、治療効果発現を迅速にし、効果持続時間を適度に延長させ、同時に正常側への影響も相殺できると考えられる。
IBは瀉下作用が少ないため、止瀉のための添加物を特に必要としない([参考例1−2]、[参考例1−4])。しかし、添加物を加えることで血漿浸透圧が上がり、それに同期して血漿AVPが上昇することで、IBの減荷作用を相殺するおそれがあることが分かった([参考例1−3])。しかし、多糖類を添加しても、正常側に虚脱を生じない([参考例3]、[参考例8])ことは安全性が高いことを意味しており、好ましい。
正常側の水腫、又は虚脱は好ましくないと発明者が考える理由は以下のとおりである。発明者は実験動物において、開頭手術直後などに内リンパ水腫を観察してきた。これらは健常な(プライエル反射正常な)動物では、2日以内の比較的短時間で消失する。このことから推測されるように、健常人ではライスネル膜が伸張し、または軽度の水腫を形成することがあっても速やかに正常に復するものと思われるが、メニエール病患者は内リンパ液の吸収障害などの素因を有する可能性が高く、糖アルコール類の強い作用で内リンパ腔容積が大きく変化することは好ましくないと考えられるからである。イソソルビトールは正常側では虚脱効果が殆ど認められないにもかかわらず、術側(実験的内リンパ水腫形成術)では減荷効果が認められた(非特許文献13)。これはライスネル膜(内リンパ腔と外リンパ腔を隔てる半透性膜)が大きく伸張していることなど、何らかの器質的、機能的変化が起きていることが関連しているのではないかと考えられる。
上記の要素、分子の大きさによる作用発現の早さ、持続時間の違い、瀉下作用の強弱による内リンパ腔容積の変化(減荷又は水腫形成)の違い、止瀉を図った後の内リンパ腔の容積変化(虚脱など)の違いを考慮して、例えば、瀉下作用の強く、止瀉を図ると虚脱現象を示すEryと弱いIBを組合せると患側には十分な減荷作用を発揮しつつ、且つ正常側には水腫を生じず、多糖類を加えた場合にも虚脱を生じない治療薬を得られる。他の組合せとしてはGlyとXL、XS、IB、SO、マンニトールなど、EryとXL、SO、マンニトールなど、XLとIB、SO、マンニトールなど、XSとIB、SO、マンニトールなど、SOとIB、マンニトールとIBなどが好ましい。
独特の苦みを有するIBに対して味の改良のため優れた甘味を有するGly、Ery、XL、XS、SO、マンニトールなどを配合することで、内服に適し、かつ治療効果も改善し、より好ましいものになる。
多糖類としては、キサンタンガム、グァーガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、タラガム、ペクチン、アルジネートナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、寒天、カラギーナンなどが挙げられる。また分子量の大きい多糖類(キサンタンガムなど)の方が少量で強力な止瀉作用を示す傾向が認められた。摂取量が少なくて済むため、摂取が容易で不都合が少ない。
キサンタンガムに代表されるグループには、他にグァーガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、タラガムなどがあるが、これらは粘度の高いものほど止瀉作用が高い傾向が認められた。しかし、摂取して3〜5時間に便の量が約2分の1〜3分の1に減少し、形態も不整で大きさも小さくなる傾向があり、視診で腹部の膨満感、触診でガスの発生が認められ、ゴロゴロ感があることが推測された。このグループから2種以上を組み合わせると飛躍的に粘度が増すため、止瀉作用も向上した。この現象を利用し、複数種組み合わせることで、より少ない配合量で、十分な止瀉効果を発現させること、同時に、排便が減るという副作用を軽減することが可能となることを見出した。
ペクチンは比較的大量に添加しなくては十分な止瀉作用を現わさなかったが、整腸作用に優れており、便の量は何も投与されていない動物と同程度で、形態や性状も同じであった。大量に添加すると、便の表面はより滑らかになり、排便は容易で腹部の膨満感などの症状も認められなかった。ペクチンに代表されるグループには、アルジネートナトリウム、寒天、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、カラギーナンなどがあり、粘度が高いものほど止瀉作用が強い傾向があった。
必要に応じてこれらの多糖類を1種または2種以上を添加して止瀉を図るが、2種以上組み合わせる場合、上記2つのグループから適宜選択して組み合わせ、添加することにより、止瀉と同時に整腸作用をはかることが可能になることを見出した。また、同じグループの中から複数種組み合わせる等、様々の組み合わせが可能で、添加量を少なくしつつ、場合によっては流れをよくすることもできることから、摂取しやすくするなどの優れた性質を新たに発揮させ、それを生かしつつ、同時に胃腸症状の軽減又は消失を目指すことが可能であることも判った。
多糖類の配合量は、糖アルコール類に対し1〜30重量%、2〜20重量%、3〜20重量%であり、また上限値を15重量%、10重量%、5重量%として、1〜15重量%、2〜10重量%などとすることもできる。多糖類の配合量が上記範囲を外れると瀉下効果が十分に達成され難い場合も生じる。
糖アルコール類と多糖類の規定量を混合し、混合物に対し約10〜約55重量%、好ましくは約15〜約50%の精製水を加えて、常温又は必要に応じて加熱下に練和すると、練和物はゲル化しゼリー状になる。精製水の量が10重量%より少ないと粘度が上がりすぎ、また、55重量%を超えると希薄になりすぎて良質なゲルが得られないため好ましくない。このゲル剤を乾燥、粉砕すれば粉剤が得られる。また、上記練和物を押し出し造粒等の方法で造粒し、乾燥後製粒することによって顆粒剤が得られる。
乾燥、粉砕、及び造粒は、慣用の方法が何れも適用できる。製剤化に際し、好ましいゲル化を促進し、且つ離水の生じにくいゲルを得ることの出来る無機塩を添加することも可能である。
その他に、血漿浸透圧上昇を避けることは本発明の特徴の1つであるが、血漿浸透圧上昇を招かない範囲で、他の薬効成分、例えば制酸作用、整腸作用を有する薬物として乾燥水酸化アルミニウムゲル、天然ケイ酸アルミニウム、沈降炭酸カルシウムなど、内耳循環改善作用を有する薬物として交感神経β作動薬、血管拡張薬あるいは脳循環改善薬、迷路水腫の軽減を図る薬物として利尿剤、鎮静ないし制吐を図る薬物として鎮静剤、自律神経調節剤を配合することも可能である。その添加量の範囲は、糖アルコール類に対し5%以下、より好ましくは3%以下、さらに2%以下が好ましい。
糖アルコール類の投与量は、病態によるが成人1日あたり0.15〜1.5g/kg、好ましくは0.15〜1.0g/kg、より好ましくは0.15〜0.85g/kg、さらに好ましくは0.15〜0.7g/kgであり、これを1ないし数回、例えば3回に分けて投与する。これは従来の60%以下の量である。
本発明のメニエール病治療薬は、糖アルコール類と多糖類とを練和して得たゲル剤をそのまま服用してもよく、また、ゲル剤から定法で製剤化して得られる粉剤又は顆粒剤を服用してもよい。ゲル剤から得られる粉剤又は顆粒剤は、糖アルコール類原末に比較して嵩が約20%以上好ましくは50%以上減少するため、保存、携帯に有利であり、患者にとって服用の負担が軽減される。
また、粉剤又は顆粒剤に用時に約10〜約55重量%の水を加えれば、再ゲル化して一塊のゼリー状となるため、服用がさらに容易となる。本発明によるゲル剤は、糖アルコール類原末の飽和水溶液に対し嵩が約3分の1に激減するため、従来の液状製剤と比較しても服用上格段に有利である。
以下に、実施例、参考例を示して本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。実験計画をたてるに当たり、動物愛護が叫ばれる社会的事情にも配慮し、大量の動物を灌流固定(と殺)することは避けるよう工夫した。なお、糖アルコール類、または糖アルコール類に多糖類を配合したものを投与した動物は、一度のみの利用にとどめた。
個々の糖アルコール類の特徴を考慮し、2種以上を組み合わせ、必要に応じて、多糖類を添加し、止瀉を図ることで、内リンパ水腫減荷効果を確実に発現させ、且つ正常側には内リンパ水腫や虚脱を生じさせないような薬物の開発を試みた。
瀉下作用が小さく、多糖類添加後に虚脱作用が殆ど認められないIBと、瀉下作用が強く、単味では正常側の内リンパ腔容積を増加させる傾向があり、多糖類添加後には虚脱作用が生じるEryを選び、多糖類としてPecを添加して投与した。IB、Eryとも、通常の4分の1の0.7g/kg、Pecは0.15g/kgとした。
モルモットの左側のみに内リンパ嚢閉鎖術を施行し、「実験的内リンパ水腫モデル動物」を作成した。内リンパ嚢の閉鎖は内リンパ嚢の骨外部分を双極性電気凝固器(bipolar electrocoagulator)で焼却することで行った。内リンパ液の吸収に重要な役割を演じる内リンパ嚢を焼灼することで内リンパ液の吸収障害がもたらされ、実験的内リンパ水腫が形成される。この水腫は進行的に形成され、その大きさは約2週間ないし1ヶ月後にはほぼ一定となって、数ヶ月間持続する。術式の詳細は既報(非特許文献8)と同様である。内リンパ腔容積の計測は正常側の右側、術側の左側ともに行なった。
IB、Ery、多糖類の混和剤投与後、指定された時間まで、便の状態と腹部中心に全身状態を観察した。さらに、胃腸症状は灌流固定の際に、大腸、結腸、直腸の状態を精査し、便の形成状況については、1)便の固さと形、2)形のある便の形成された長さと便の間隔と配列状態の2点について特に観察し、表2の基準により判定した。
蒸留水を3日間以上投与した群の便の固さ及び性状を「正常便」:評価点3として、表2の1)に示すとおり、「やや軟便」:評価点2、「軟便」:評価点1、「泥状便」:評価点0とした。なお、モルモットの場合は飼料の形状から水様便はない。泥状便はヒトでは水様便に当たり、モルモットの軟便はヒトでは泥状便と軟便を含むものに相当する。開腹による消化器内部の詳細な観察と、体外に排出された便の観察を対比すると、便の固さのみの観察では下痢などの消化器症状は判定できないことが判った。したがって、便の固さに加え、量や形、大きさ、表面の滑らかさ等を評価し、腹部の視診、手指による触診で、腹部の膨満感やガスの発生、ガスの移動、さらに下腹部に圧を加えることで容易に排便するかどうかなど、詳細に検討し、評価した。
指定された時間、飼育後、灌流固定して、側頭骨を摘出した。トリクロロ酢酸で脱灰、アルコール系列で脱水、パラフィン・セロイジンの2重包埋を行った。薄切により得た蝸牛軸切片をヘマトキシリン・エオジン染色し、光学顕微鏡で蝸牛組織の観察を行い、ライスネル膜の長さと内リンパ腔の面積の変化を観察、計測を行った。各回転毎にライスネル膜の伸展と内リンパ腔の容積変化を計測し、その結果を下記の計算式により積分して、蝸牛毎に膜の伸展率、内リンパ嚢の面積増加率を求めた。正常側の右側では内リンパ腔の容積変化から、内リンパ腔虚脱効果又は内リンパ水腫の程度を評価した。術側の左側では内リンパ水腫減荷効果を判定した。組織作成法、計測法、評価法の詳細は非特許文献5(Takeda T et al: Acta Otolaryngol 119: 341-4(1999)と同様である。
A)胃腸症状についての検討
便の固さ、形状の観察結果を表3に示す。なお、動物群の番号は実験の過程でナンバリングした番号をそのまま用いたため、順不同である。
Ery単味の第20群では全動物が泥状便であったが、Ery+P0.5g/kg投与の第24群では軟便または泥状便の動物は約半数の動物にとどまり止瀉効果が認められた(P<0.01、Mann-Whitney U検定、特許文献2)。従来のイソソルビド製剤(以下、IB従来品、〈IB〉ともいう)投与の第10群では約半数の動物が軟便または泥状便となり、ガスの発生など消化器症状が発現した。それに対し、IB+P*群は3時間後(第14群)の便の固さは8匹が正常便で、消化管内での便の排列、ガスの発生など、他の消化器症状も有意な軽回が認められた(止瀉作用、消化器症状は各々P<0.05、P<0.01、Mann-Whitney U検定)。
EryとIBを混和、Pecを添加した第33群(投与後3時間目)では、8匹中6匹が正常便となり泥状便の動物はいなかった。Ery単味の第20群、〈IB〉単味の第10群と比べ、有意な止瀉効果が認められた(各々、P<0.001、P<0.05、Mann-Whitney U検定)。消化器症状は1匹を除いてごく軽度で、Ery単味の第20群とのみ有意に軽回していることが判った(P<0.001、Mann-Whitney U検定)。下痢症状を含め消化器症状は蒸留水を投与した対照群と有意差はなく、ほぼ正常に復したと言える。投与後6時間では全動物が正常な固さの便となったが、便の間隔は半数の動物が一定であって、1匹には消化器症状は依然としていくらか残っていることが判った。
B)内リンパ腔容積に与える影響(正常側における膜の伸展と面積の増加の関連)
各回転毎にライスネル膜の伸展と内リンパ腔の容積変化を計測し、その結果を表4に示す。
止瀉を図るためEryにPecを添加した第24群は、正常側に虚脱を生じる動物が多かったが、IBとEryを混和した第33群(3時間後)は軽度の虚脱が生じただけであった。第24群と第33群の間には有意差はないが、これは第24群の内リンパ腔容積変化のバラツキが大きいためである。第24群では、8耳中3耳の内リンパ腔容積が約10%増加し、水腫を形成したが、その他は、5耳が5〜10%減少した。15%減少した例も2耳あり、バラツキが大きかった。対照群との比較では、虚脱を起こす傾向が認められた(P<0.05、t−検定)(本願明細書、参考例[0150])。第24群では、膜の伸展が対照群と比して著しい(P<0.001、t−検定)。一方EryとIBを混和した第33群は対照群と比して膜の伸展に有意差はない。このことは内耳に浸透圧効果が生じる際に緩やかに、且つ一定の作用が生じたことを意味し、非常に好ましい。なお、第33群と第24群の膜の伸展度は有意に小さかった(P<0.01、t−検定)。
〈IB〉の第10群は対照群(蒸留水)と比べ、正常側に水腫を形成した(有意差は0.05、t−検定)が、第33群は改善した(有意差は0.01、t−検定)。この効果は投与後6時間後の第34群も持続していた。
C)内リンパ水腫減荷効果:術側における膜の伸展率と面積の増加率の関連
モルモットの左側のみに内リンパ嚢閉鎖術を施行し、「実験的内リンパ水腫モデル動物」を作成した。内リンパ液の吸収に重要な役割を演じる内リンパ嚢を焼灼することで内リンパ液の吸収障害がもたらされ、実験的内リンパ水腫が形成される。計測は、B)と同様に行い、その結果を表5、図1に示す。なお、術側の結果を示す場合には動物番号にL(左側を意味する)をつけた。閉鎖術による実験的水腫の形成程度は数%から百数十%とバラツキが大きく、膜の伸展率、面積増加率の平均±標準偏差を比較することでは糖アルコールの効果、その経時変化などを検討することには困難がある。図1は横軸に膜の伸展率、縦軸に面積増加率をとり、各動物群毎に術側の2変数の散布図と回帰直線を示したものである。内リンパ水腫が生ずると、内リンパ腔の体積が増加し、ライスネル膜が伸展する。蒸留水を投与した第1L群(術側)では、この両者の間に統計学的に1次相関が存在すると推計される。薬剤投与により水腫の減荷が起こると、膜が伸展しているにもかかわらず、内リンパ腔の面積増加が少なくなり、回帰直線が下方に移動することになる。
減荷作用の強いEry+Pec群(第20L群)は対照群と比べ強い減荷作用を示した(P<0.001、ANCOVA)。IB+P*群(第14L群)は比較的緩やかな減荷作用を示した(P<0.01、ANCOVA)。またPecを添加した第24群はEryのみの第20群と比較すると強力な減荷作用が認められた(P<0.001、ANCOVA)。Pecを添加した第14L群と従来品の第10L群の減荷作用の間には有意差が存在した(P<0.01、ANCOVA)。第33L群(IB+Ery+Pec、3時間)は対照群と比較し、有意に内リンパ水腫減荷作用が認められた(P<0.01、ANCOVA)。第34L群(6時間後)では3時間後とほぼ同様の減荷作用が持続した。なお、減荷作用は第14L群(IB+P*)より強く、有意差が存在した(P<0.05、ANCOVA)。しかし、第24L群(Ery+Pec)より弱かった(P<0.01、ANCOVA)。しかし、糖アルコールの投与量を半減(Eryの投与量は第24群の4分の1、IBの投与量は第10群の4分の1)したにもかかわらず、十分な減荷作用を発現している点で優れている。
このようにEryとIBを混和することにより、糖アルコール類の投与量を削減し、添加物は止瀉を図るもののみに限定することによって、正常側には影響を殆ど与えず、術側には十分な水腫減荷効果を発揮する治療薬の開発に成功した。特に好ましいのは、膜を伸展させないことで、一定の効果が確実に発現したことを意味する。さらに単味の場合よりも多糖類の添加が少なくて良いことである。
[参考例1:従来のイソソルビド製剤についての検討]
現在我が国で臨床に用いられている治療薬はイソソルビトール(興和創薬(株)製:一般名イソソルビド、以下、IB従来品、〈IB〉ともいう)で、表示によるとイソソルビトール含有率は70%の水溶液である。この1回服用量は30mlで、イソソルビトールの含有量は21gである。この溶液はイソソルビトールを安定に溶解させるため、溶解補助剤、安定化剤が添加され、さらに内服しやすい味に整えるため甘味料、香料などが添加されていると思われる。
イソソルビド製剤とIB単味の水溶液の内リンパ容積に対する影響を調べ、比較した。
[参考例1−1:IB従来製剤の添加物について]
イソソルビトール21gを蒸留水に溶解させ、安定的に溶解させるためキサンタンガムを必要量添加して、30mlとした。この水溶液の重量を〈IB〉30mlの重量と比較した。
処方1
イソソルビトール 21g
キサンタンガム 0.15g
蒸留水
30ml
処方1の水溶液の重量は34.74gで、一方〈IB〉30mlの重量は36.67gであった。添加物の重量は1.93g(約9.2重量%)と判った。糖アルコール類は消化管から吸収され、血中に移行する。その結果血漿浸透圧が上昇し、その上昇にほぼ比例して血漿AVPが上昇する(非特許文献16)。添加物も血漿浸透圧を上昇させ、血漿AVPの上昇が続発する。
〈IB〉の問題点を詳細に検討し、合わせて添加物が本来の目的である内リンパ水腫減荷効果にどのような影響を与えるのかを調べた。イソソルビトールなど糖アルコール類投与後、胃腸症状は灌流固定の際に、大腸、結腸、直腸の状態を精査し、便の形成状況については、1)便の固さと形、2)形のある便の形成された長さと便の間隔と配列状態の2点について特に観察し、表2の基準により判定した。
[参考例1−2:イソソルビトール(IB)のみを投与した場合]
モルモット50匹を6群に分け、各群に次に示すように薬物の投与を行った。IBの投与量は実験的内リンパ水腫動物の減荷に有効な量である2.8g/kg(非特許文献13)とした。これは、メニエール病患者に投与される21〜30g/回に相当すると考えられる。IB水溶液は1回投与量が8ml/kgとなるように調整した。
群 投与薬剤 灌流(投与後)
第1群:対照群 蒸留水 3時間後
第2群:IB2H群 IB2.8g/kg 2時間後
第3群:IB3H群 同 3時間後
第4群:IB4H群 同 4時間後
第5群:IB6H群 同 6時間後
第6群:IB12H群 同 12時間後
A)胃腸症状についての検討
結果を表6に示す。
便の固さは灌流時点に排出された便と直腸部分の便を観察し、評価した。
対照群はすべて正常便であった。IB2H群は直腸付近では正常な便が形成されていたが、次第に軟便に移行していた(便の固さ、配列は各々P<0.01、P<0.001、Mann-Whitney U検定)。大きさは不整、間隔もバラバラで不定になっており、不快な胃腸症状の発現が推定された。3、4、6時間後に下痢は重篤になり(各々P<0.01、P<0.001、P<0.01、Mann-Whitney U検定)、便の配列も不規則になった(いずれもP<0.001、Mann-Whitney U検定)。便の間隔が開いた箇所には、腸管内への穿刺により、ガスの発生が認められた。IB12H群では全動物でほぼ正常な固さの便が形成されていた。
以上から、IB投与による下痢及び胃腸症状は2〜4時間で重篤なものとなり、6時間後も継続しているが、12時間後にはおおよそ正常に復することが判った。
B)内リンパ腔容積に与える影響(正常側における膜の伸展と面積の増加の関連)
各群の正常側における膜の伸展率(IR-L)、面積増加率(IR-S)の平均±標準偏差を表7に示し、比較検討した。
投与後2時間後には内リンパ水腫が形成され、増加率が約12%を超えるものが8匹中7匹となった(P<0.001、t−検定)。しかし、3時間後には対照群と同等程度のものが3匹、5〜8%の虚脱(容積の減少)が認められるものが3匹、容積増加率が約14%のものが2匹と、内リンパ腔の容積にはバラツキが大きかった。結果として対照群との有意差は認められなかったが、IB2H群(第2群)と比較すると容積は有意に減少しており(各々、P<0.01、t−検定)、IBによる減荷効果が発現したと言える。4時間後には内リンパ腔の容積の平均は再び増加するが、対照群と比べ、有意差はなかった。同様の状態が12時間後まで続いた。一方ライスネル膜は2時間目、4時間目で有意に伸展していた(P<0.05)。
IB単味を2g/kg(50%水溶液)内服した場合、内服直後から血清浸透圧が上昇し始め、その後40ないし90分後に17〜30mOsm/liter上昇してピークになり、約6〜7時間で元に復する(非特許文献17)。Becker(Becker B:Isosorbide: An oral hyperosmotic agent. Arch. Ophthalmol. 78:147-50.)も同様に、経口投与後1〜2時間後に19〜30mOsm/liter上昇すると報告している。非特許文献16及び表1(非特許文献10)を考え合わせると、明らかな水腫が形成されるに十分な上昇である。一方脳脊髄液(以下、CSF)浸透圧の上昇は3例のみの観察結果であるが、1〜2時間後から上昇し始め4時間後も高い値を保っている(非特許文献17)。
表7に示すとおり、経口投与後2時間で内リンパ水腫が形成されたことは、血漿浸透圧と同期して血漿AVPが上昇したためであると考えられる。また、内耳の構造は、血液脳関門に似た関門が存在するが、CFSの浸透圧が投与後2時間目以後に上昇し始めること、及び分子の大きさを考慮すると3時間目以降に内リンパ腔虚脱効果が発現することは当然と言える。
[参考例1−3:イソソルビトール(IB)単味を大量投与した場合]
グリセロールが2時間後に正常側の内リンパ腔容積を減少(虚脱)させる(非特許文献5)にもかかわらず、IBの作用は明らかでないのは、イソソルビトールの投与量が少ない可能性もあると考えた。そこで、IBの量をグリセロール検査に用いられるグリセロールと等しいモル数になるように、8.5g/kg、さらに倍量の17g/kgに増量して、消化器症状と正常側の内リンパ腔の容積変化を観察した。結果を表8、9に示す。
IB*:イソソルビトール8.5g/kg
IB**:イソソルビトール17.0g/kg
IBを増量することにより、半数以上の動物に軟便、泥状便の重度の下痢の症状が認められ、便の間隔も不整になった(いずれも、P<0.001、Mann-Whitney U検定)。IBの投与量に比例して症状は重篤になった。腸内にガスの貯留も認められた。内リンパ水腫は蒸留水投与群、IB通常量投与群(第3群)と比較して著明になった(P<0.001、t−検定)。血漿浸透圧が上昇した結果であることが推測され、安全性確保のため、投与量の削減が必要であることは歴然であった。
[参考例1−4:イソソルビトール従来品を投与した場合]
正常な便をしているモルモット40匹を4群に分け、第7群〜10群には〈IB〉をIBが2.8g/kgとなるように投与し、投与後各々3時間目、4時間目、6時間目(〈IB〉の減荷効果が最大となる投与後6時間後(非特許文献13)、12時間目に灌流固定し、組織を採取して内リンパ減荷効果を観察、評価した。消化器症状は灌流時まで継続して行った。便の固さは灌流時のものである。いずれの群も、1回の投与量は8ml/kgとなるように調製した。
群 投与薬剤 灌流(投与後)
第10群:〈IB〉3H群 イソソルビトール2.8g/kg含有 3時間後
第11群:〈IB〉4H群 同 4時間後
第12群:〈IB〉6H群 同 6時間後
第13群:〈IB〉12H群 同 12時間後
A)胃腸症状についての検討
便の固さ、形状の観察結果を表10に示す。
〈IB〉投与群では2時間後に便が軟化し始め、3〜4時間後(第10、11群)に下痢症状は最悪となり、6時間後(第12群)にはいくらか改善していた。いずれの群も蒸留水を投与した対照群と比べると下痢症状は有意に悪化(P<0.01、Mann-Whitney U検定)し、IB単味の群(第2〜5群)と比べると有意差は認められなかった(Mann-Whitney U検定。第12群(〈IB〉6H群)では、形成された便の長さは60.2±15.8cmであるが、10匹中9匹は便の間隔はバラバラまたは泥状で、約20〜40cmの間隔が開いている箇所も散見され、腸管内にはガスが発生していたことから、かなりの胃腸症状が現れていたものと推測される。対照群と比較すると、第10〜12群で有意差が認められた(いずれもP<0.001、Mann-Whitney U検定)。下痢等の胃腸症状が出現していたことが分かる。この事実は、〈IB〉投与後に患者が時折訴える下痢、膨満感、ゴロゴロ感などの消化器症状と符合する。12時間後には便の固さは正常に戻っていたが、間隔が一定に戻っていたのは10匹中僅か2匹で、第1群と比較し有意差が認められた(P<0.001Mann-Whitney U検定)。しかし、最も症状が悪化した3時間後と比較すると回復が認められた(P<0.01、Mann-Whitney U検定)。
B)内リンパ腔の容積変化
正常側における膜の伸展率と面積の増加率の関連
各回転毎にライスネル膜の伸展と内リンパ腔の容積変化を計測し、その結果を表11に示す。
第10群(〈IB〉3時間後)は対照群と有意差はないが、4時間後(第11群)、6時間後(第12群)には内リンパ水腫が形成された。第10群はIBのみを投与した第3群と比べると、内リンパ腔の容積は有意に増加していた(P<0.05)。4時間目(第11群)は内リンパ腔容積の増加傾向がさらに明らかになり、対照群と比べ有意差が存在し(対照群に対しP<0.05)、内リンパ水腫が認められた。ライスネル膜は3、4時間目に有意に伸展していた(P<0.05)。
参考例1−2で、IBは瀉下作用の小さいため、わずかながら内リンパ腔容積を減少させる傾向を示した。ところが、参考例1−3でIBを3倍、6倍に増量すると、瀉下作用が増し、内リンパ腔容積は増加傾向を示した。IBの大量投与により血漿浸透圧、血漿AVPが上昇したためと考えられる。また、IB単味で2.8g/kg投与すると、3時間後には内リンパ腔の容積は減少傾向を示すにもかかわらず、添加物が配合された〈IB〉では同量投与しても3時間後には容積が増加傾向にあった([参考例1−4])。
これらの事実こそが、〈IB〉は下痢が軽度であるにもかかわらず、投与後3時間では虚脱効果が発現しない理由であり、治療効果(内リンパ水腫減荷効果)発現まで6時間(非特許文献13)かかる理由であると思われる。すなわち、過剰な添加剤により糖アルコール単味の場合よりも血漿浸透圧がさらに上昇するため、血漿AVPの上昇も大きく(非特許文献16、17)、結果として糖アルコール類が元来有する内リンパ腔容積の減少効果が最も著しく現れる2〜3時間後にはその効果を相殺して、内リンパ水腫を形成したと考えられる。添加物は浸透圧の上昇を招くが、分子が大きく内リンパ腔虚脱効果を発現しなかったと考えられる。6時間後に容積が減少したが、これは6時間目には血漿浸透圧が元に復する(非特許文献17)ためであろう。血漿浸透圧、血漿AVPが正常範囲に復してから、外リンパ腔に残留する分子の浸透圧作用により、初めて減荷効果を発現すると考えられるのである。
これは不必要な、または必要以上の添加物に起因するものであり、不必要な添加物は治療に逆行することが判った。この事実は、[参考例3−2−a]でもさらに検証する。IBは瀉下作用が小さいため、単味でも一定の減荷作用が発現するが、決して優れた減荷作用を有しているとは言えず、製剤化した〈IB〉はIB自体が弱いながらも有する減荷作用を発現させることに成功しているとは決して言えないことが分かった。添加剤は極力削減し、必要最小限にとどめるべきである。
IBを大量に投与すると、血漿浸透圧、血漿AVPの上昇はより大きくなるため、明らかな内リンパ水腫を形成した([参考例1−3])。このことから、主薬である糖アルコール類の投与量も極力削減しなくてはならない。
発明者はIB以外の糖アルコール類は、止瀉が可能になれば優れた減荷作用を有することを見出した(特許文献2)。これらは優れた甘味を有することから内服しやすく、味を調整するための添加物等も必要としないことから、止瀉のための適切な配合を考えることにより、効果が最大に発現する方法を考案した。
[参考例2]〜[参考例8]では、糖アルコール類を様々に変えて、さらにその投与量を変え、または多糖類を添加するなどして、それぞれの全身的な影響と局所への効果、内リンパ腔の容積(正常側)と内リンパ水腫減荷作用(術側)、ライスネル膜の進展度などを観察する。
[参考例2]
モルモットの左側に必要に応じて内リンパ嚢閉鎖術を施行し、「実験的内リンパ水腫モデル動物」を作成した。
なお、[参考例1]の第1、3、5、10、12群の左側には内リンパ嚢閉鎖術を施行しており、内リンパ水腫減荷効果を観察し、計測を行った。結果を以下に示す。これらの結果は[実施例1]、[参考例4]、[参考例8]において、比較検討したに利用した。
正常側から推測できたとおり、IB単味、〈IB〉双方とも、3時間後には有意な減荷効果は認められず、6時間後に減荷効果が認められた。
IB2.8g/kgにペクチン(Pec)を0.3g/kg添加し、経口投与して消化器症状を観察し、決められた時間経過後に灌流固定して、内リンパ水腫減荷効果を観察した(IB+P*群)。さらに、投与量をIB、Pec共に半量にして観察した(IB+P**群)。結果を以下の表14、15、16と術側の測定結果を図2、3、4に示す。
群 投与薬剤 灌流(投与後)
第14群:IB+P*3H群 イソソルビトール2.8g/kg含有 3時間後
第15群:IB+P*6H群 同 6時間後
第16群:IB+P**3H群 同 3時間後
第17群:IB+P**6H群 同 6時間後
A)胃腸症状についての検討
結果を表14に示す。
Pecを添加することで、投与量の多少に関わらず、3時間後、6時間後には、IB単味の第3群、第5群と比較して止瀉効果が認められた(いずれも、P<0.05、P<0.01)。便の排列も投与量の多少に関わらず、3時間後、6時間後には、IB単味の第3群、第5群と比較して、改善が認められた(いずれも、P<0.05、P<0.01)。
B)内リンパ腔容積に与える影響(正常側における膜の伸展と面積の増加の関連)
各群の正常側における膜の伸展率(IR-L)、面積増加率(IR-S)の平均±標準偏差を表15に示し、比較検討した。
正常側には、いずれの群も軽度の虚脱が認められるが、投与量を半減した16群では虚脱は認められなかった。また、全ての群で明らかな水腫が認められた例はなく、IB従来品と比較し、安全であることが確認された。
C)内リンパ水腫減荷効果:術側における膜の伸展率と面積の増加率の関連
結果を、表16、図2、図3、図4に示す。
図2はIB+P*の経時的変化(第14L、15L群)を示す。図3、4はIB、Pecとも半減した場合(第16群、第17群)の減荷効果を評価するため、各々3時間後(第14L、16L群)、6時間後(第15L、17L群)に分けて、減荷効果を観察、測定した結果である。蒸留水を投与した第1L群、IB単味の群との比較も行った。
Pecを添加した群(IB+P*)の術側においては、投与後3時間目には減荷効果が認められ、6時間後も継続していた(図2)。有意差は表に示すとおりで、投与量を半減しても、十分な減荷効果が認められた。又、各々対応するIB単味の群と比較すると、有意に減荷作用が優れていた。投与量を削減(IB+P**)しても効果に差は殆どなく、投与量を削減することで、瀉下作用、利尿作用が減弱し、血漿浸透圧の上昇を阻止できた成果であると考えられる。
[参考例3]
糖アルコール類として4単糖アルコールであるエリスリトールを選び、消化器症状と併せて、内リンパ腔の容積に与える効果、全身への危険性についても観察し、評価した。参考例3は、3グループに分かれる。
参考例3−1(第18〜22群)50匹、参考例3−2−a(第23、24群)20匹、参考例3−2−b(第25〜29群)50匹の3グループに分け、参考例3−1では、Eryのみを投与し、投与後の便、消化器症状の変化と内耳及び内リンパ腔の容積を調べた。参考例3−2−aでは、Eryに多糖類としてペクチン(Pec)を添加した薬剤を経口投与し、同様の観察を行って、内リンパ腔虚脱効果を発現する量を調べ、血漿浸透圧及び血漿AVPと虚脱効果には、特許文献3の結果と共通する相関関係があることを見出した。参考例3−2−bではその効果の経時的変化、さらに虚脱が生じることは好ましくないため、Ery、Pec共に投与量を2分の1または4分の1に減量して、その効果を観察し、虚脱が小さくなることを見出した。
[参考例3−1:エリスリトール(Ery)単味を投与した場合]
モルモット60匹を各群10匹ずつ6群に分け、各群に次に示すように薬物の投与を行った。Ery水溶液は1回投与量が8ml/kgとなるように調整した。
群 投与薬剤 灌流(投与後)
第 1群:対照群 蒸留水8ml/kg 3時間後
第18群:E1H群 Ery2.8g/kg 1時間後
第19群:E2H群 同 2時間後
第20群:E3H群 同 3時間後
第21群:E6H群 同 6時間後
第22群:E12H群 同 12時間後
A)胃腸症状についての検討
結果を表17に示す。
ア)便の固さの判定
便の固さは灌流時点に排出された便と直腸部分の便を観察し、評価した。対照群はすべて正常便であった。E1H、E2H群は直腸付近では正常な便が形成されていたが、次第に軟便に移行していた。E3H、E6H群はすべて泥状便であった。E6H群の5匹中1匹は泥状便にわずかな軽回が認められたが、形は形成されていなかった。E12H群では全動物でほぼ正常な固さの便が形成されていた。
イ)形のある便の形成された長さと便の間隔と配列状態
対照群では55.0±8.8cmで、便の大きさは一定で、その間隔も一定であったが、E1H群では一部軟便で、大きさは不整、間隔もバラバラになっているなど不定になっており、不快な胃腸症状の発現が推定された。便の形成された長さは22.8±6.9cmであった。E2H〜E6H群では一部軟便に近い部分もあったが、腸内はほぼ泥状便で満たされており、便の形成は0cmであった。投与後12時間のE12H群では、ほぼ一定の形をした便が66.0±12.1cm形成されていた。便の間隔は対照群では通常約0.7〜1cmでほぼ一定であるところ、E12H群の一部の動物では8〜10cmの箇所もあり、不定で、便の間隔が開いた箇所には、腸管内への穿刺により、ガスの発生が認められた。
以上から、Ery投与による下痢は2〜3時間で重篤なものとなり、6時間後も継続しているが、12時間後にはおおよそ正常に復することが判った。
B)内リンパ腔容積に与える影響(正常側における膜の伸展と面積の増加の関連)
特許文献2に示したとおり、術側においてはEryは単味では全く減荷作用を示さなかった。表18に正常側の膜の伸展率(IR-L)、面積増加率(IR-S)の平均±標準偏差を示し、比較検討した。
Ery投与後1時間目にはライスネル膜が伸展し、2時間目には明らかな内リンパ水腫が形成されて、6時間後まで継続しており、対照群と比し、有意差が存在した(各々P<0.01、P<0.05、P<0.01、t−検定)。12時間後には水腫が存在する動物もいたが、正常に復したものもあり、有意差は認められなかった。
糖アルコール類投与により期待された減荷効果は、単味で投与した場合には術側には認められず(特許文献2)、正常側には内リンパ水腫が形成されたことが判った。その理由としては、瀉下効果に随伴する脱水による、血漿AVPの上昇(非特許文献11)、血漿浸透圧の上昇に伴う血漿AVPの上昇(非特許文献16、17)が考えられる。
[3−2:エリスリトール(Ery)にペクチン(P)を添加し投与した場合]
モルモット20匹を各群10匹ずつ2群に分け、各群に次に示すように薬物投与を行い、一定時間経過後に灌流固定した。
[3−2−a:ペクチン(P)の添加量による効果の違いを観察する]
群 投与薬剤 灌流(投与後)
第23群:E+P0.1g群 Ery2.8g/kg+P0.1g/kg 3時間後
第24群:E+P3H群 Ery2.8g/kg+P0.5g/kg 3時間後
灌流固定の際、大腸、結腸、直腸の状態、特に便の形成状況を観察した。
A)胃腸症状についての検討
便の固さ、間隔の判定と便の形成された長さは上記の2グループに分けて観察した。その結果を表19に示す。
参考例3−1のE3H群(Pecを添加せずEryのみ投与、3時間後)は10匹すべてが泥状便であったが、第23群(E+P0.1g群:Pec0.1g/kg添加)では10匹中、泥状便の動物が5匹、軟便の動物が3匹で、肛門から2〜3cm程度の便の形がみられた。残りの2匹はやや軟便で、23cm、42cmの便が形成されていたが、その間隔は不定で、間隔が10cm以上開いているところもあった。10匹の平均は7.3±13.3cmであった。第24群(E+P3H群:Pec0.5g/kg添加)では3匹が泥状便、他の7匹のうち軟便、やや軟便が各1匹、3匹は正常な固さで止瀉効果が認められた(P<0.01、Mann-Whitney U検定)。しかし、これら7匹の便の間隔はいずれも不定であった。形成された便の長さの平均(10匹)は19.2±21.7であった。
B)内リンパ腔容積に与える影響(正常側における膜の伸展と面積の増加の関連)
術側にはPecを0.5g/kg添加することでEryの減荷効果が発現することを確認した(特許文献2)。そこで、本発明においては正常側において、Pecの添加量の差による内リンパ腔の容積の変化の違いを検討するため、各群の膜の伸展率、面積変化率の平均と標準偏差を比較検討した。結果は表20に示す。
第23群(Pec0.1g/kg添加、約3.6重量%添加)は内リンパ水腫を形成していた(対照群と比較し有意差が認められた。P<0.05)が、Pecを0.5g/kg添加した第24群は内リンパ腔の容積は減少(虚脱)した(対照群に対し、P<0.05。Ery単味の第20群に対し、P<0.01、t−検定)。
多糖類のペクチンの添加量は0.1g/kgでは、十分な止瀉を図れず、内リンパ水腫減荷効果は発現しなかった(特許文献2)。正常側では内リンパ水腫を形成した(P<0.01、t−検定)。Pecを0.5g/kg添加すると、8耳中3耳の内リンパ腔容積が約10%増加し、水腫を形成したが、その他は、5耳が5〜10%減少した。15%減少した例も2耳あり、バラツキが大きかったが、虚脱を起こす傾向が認められ(P<0.01、t−検定)、投与量の削減が望ましいと思われた。そこで、投与量を半量にしたところ、十分な効果を得た([参考例3−3−b])。
C)全身状態への影響の検討
対象と方法)体重280〜320mgのモルモットで、正常な便をしている20匹を、4グループに分け、第1グループには生理食塩水のみ、第2グループにはEry単味、第3グループにはEry+Pec0.1g/kg、第4グループにはEry+Pec0.5g/kgを投与した。投与後、3時間でギロチンを用いて断頭、採血し、明細書中の非特許文献8に記載された方法で、血中AVPを測定した。投与薬剤と検査結果を表21に示す。Ery投与量はいずれも2.8g/kgで、水溶液の1回の投与量は8ml/kgとなるように調整した。
ア)下痢と血漿AVP値の検討
多糖類を糖アルコールに対し約3.6重量%配合(Pec0.1g/kg)した場合は、重度の下痢症状が発現し(表19)、血漿AVPが高値をとる(表21)が、一方、17.9重量%配合(Pec0.5g/kg)した場合は、5匹中3匹は便は正常で、血漿AVPも低下する(表21)。非特許文献10、表1に示したとおり、血漿AVPの値と内リンパ容積の増加率は比例する。表21(血漿AVPの値)と、先の表20に示す組織学検討結果、すなわち、Ery単味の群は血漿AVPが高値をとり、内リンパ水腫を形成したという事実は、非特許文献10、表1と整合性がある。
Pec0.5g/kgでは血漿AVPが比較的低く、糖アルコールの浸透圧効果が発現し、虚脱現象が認められたものと考えられる。多糖類の添加量が少ない場合には下痢が生じ、脱水が続発するが、十分な添加により内リンパ腔の容積減荷効果が認められた。
血漿浸透圧は特殊な要因がなければ、投与薬剤のモル数に比例して上昇する。Ery単味の群では浸透圧は58mOsm/liter、Pecを0.1g/kg添加した群では45mOsm/liter上昇したが、0.5g/kg添加した群では37mOsm/literの上昇でとどまっている。Pecの添加が不十分な場合の浸透圧上昇は激しい下痢による脱水に起因するものである。しかしながら治療に必要な量のEryとPecの投与により血漿浸透圧が大きく上昇することも分かった。したがって、添加物も含め薬剤の投与量の削減は、治療効果発現のための重要な課題である。
[参考例3−2−b:ペクチン(P)を0.5g/kg添加し、投与後の経時的変化を観察、さらにEry、Pec共に投与量を1/2、1/4に減量して効果を観察する]
第3−2−aグループの結果から、Pecを0.5g/kg添加することで、脱水状態に陥るおそれもなく、安全に確実な内リンパ水腫減荷効果の発現が期待できることが判った(特許文献2)ので、次にモルモット50匹を各群10匹ずつ5群に分け、次に示すように薬物投与を行い、消化器症状を観察して、一定時間経過後に灌流固定した。第27〜29群は、EryとPecの混和懸濁液を2倍又は4倍に希釈し、EryとPecの投与量を2分の1、4分の1に減量した。なお、第25、27、28群の左側は内リンパ嚢閉鎖術を施行している。薬剤の1回投与量は全群とも8ml/kgである。
群 投与薬剤 灌流(投与後)
第25群:E+P6H群 Ery2.8g/kg+P0.5g/kg 6時間後
第26群:E+P12H群 Ery2.8g/kg+P0.5g/kg 12時間後
第27群:E+P/2・3H群 Ery1.4g/kg+P0.25g/kg 3時間後
第28群:E+P/2・6H群 Ery1.4g/kg+P0.25g/kg 6時間後
第29群:E+P/4・3H群 Ery0.7g/kg+P0.125g/kg 3時間後
A)胃腸症状についての検討
結果を表22に示す。
3−2−aの第24群(3時間後)では泥状便は3匹、投与後6時間で灌流した第25群では、1匹が泥状便、2匹が軟便で下痢症状が軽回した。参考例3−1のEryのみの第20群(3時間後)では、10匹とも泥状便、第25群(6時間後)では7匹が泥状便であることからすると、下痢の防止効果は顕著である(便の固さ、間隔、各々P<0.01、P<0.01、Mann-Whitney U検定)。6時間後の第25群は3時間後の第24群と比較すると有意差はなかった(Mann-Whitney U検定)が、形成された便の長さは30.8±23.6cm(10匹の平均)で明らかな回復が認められた。第26群(12時間後)では全動物が正常便であった。注目すべきは便の間隔が10匹中9匹で一定であることで、Eryのみの第22群(E12H群:12時間後)と比べ、有意に胃腸症状の改善が認められた(P<0.001、Mann-Whitney U検定)。
EryとPecの量を2分の1または4分の1にすると、Eryの瀉下作用はさらに軽くなり、消化管内の便の配列も規則的で、自覚症状も軽いものと推測された。Eryのみの群(20群、21群)と比較すると、いずれも有意な改善が見られた(P<0.001、Mann-Whitney U検定)。EryとPecを通常量投与した24群、25群と比較すると、2分の1に減量した27群、28群には明らかな有意差は認められず、4分の1に減量した29群と24群との間には認められた(便の形成した長さ、固さ、間隔、各々P<0.001、P<0.05、P<0.01、Mann-Whitney U検定)。
Pecを添加することで、3時間後、6時間後の結果が示すとおり、腸内のガスも認められず、ガス発生も抑制されて、不快な胃腸症状を極力抑えることができ、かつ早期に正常に復していたことが12時間後(第26群)の結果からも確認できた。
EryとPecを2分の1または4分の1に減ずると、通常量を投与した場合と比較して、下痢症状はさらに軽回した。特に便が形成されており、便の配列が規則的になる傾向が認められたことから、消化器症状が改善したことが推測された。
B)内リンパ腔の容積変化:正常側における膜の伸展率と面積の増加率の関連
表23に各群の伸展率と面積増加率の平均と標準偏差を示す。
[参考例3−2−a]に示したとおり、第24群(3時間後)は対照群(蒸留水)、E3H群(Eryのみ)と比べ容積が有意に減少、すなわち虚脱が生じていた(各々P<0.05、P<0.01、t−検定)。さらに第25群(6時間後)も対照群、E3H群と比較し、有意に虚脱している(各々P<0.01、P<0.001、t−検定)。第26群(12時間後)は対照群と比較し有意差が認められなかった。以上から、投与後3時間で虚脱が明らかとなり、6時間後にも継続していたが、12時間後にはほぼ正常に復していたことが判った。
Eryの瀉下作用は投与後3時間をピークに、6時間後には軽回する。したがって下痢による脱水で血漿AVPは3時間後には上昇し、6時間後には下がるものと考えられる。さらに、血漿浸透圧も考慮しなくてはならない。血漿浸透圧は内服直後から上昇し始め、その後40ないし90分後にピークになり、約6〜7時間で元に復する。それに伴い血漿AVPも同期して変動するものと思われる。
一方作用発現に必要な内耳の浸透圧は、1〜2時間後から上昇し始め4時間後も高い値を保っていると思われる。その間は、血漿AVPが上昇し、下痢による脱水による上昇と相まって、Eryの減荷作用を相殺するものと考えられる(第19〜21群、後述の第20L、21L群)。
EryとPecの量を2分の1または4分の1にすると、同様に内リンパの虚脱が生じる。第27〜29群のいずれも蒸留水投与群、Eryのみの投与群と比較し、有意差が認められた(P<0.001、t−検定)。Ery+Pecの通常量投与した群と比べ、有意差は認められないが、Ery投与量が少ないにもかかわらず、同等の虚脱作用が発現した。その理由は、Eryの瀉下作用は殆ど認められなくなること、さらに投与量が少ないことから血漿浸透圧の上昇が僅かで済むことで、減荷作用発現に好ましいと考えられる。
C)内リンパ水腫減荷効果:術側における膜の伸展率と面積の増加率の関連
結果を、表24、図5に示す。
第27L群(1/2に減量、3時間後)は対照群、Ery単味のE3H群と比べ、有意に減荷効果が認められた(いずれもP<0.001、ANCOVA)。第28L群(1/2、6時間後)も対照群、E6H群と比べ有意差が存在し(いずれもP<0.001、ANCOVA)、依然として減荷効果が認められた。さらに、Ery+Pecを通常量の投与した第24L、25L群と比較すると、これらの間には有意差は認められなかった(ANCOVA)。このことから投与量を2分の1に減量しても、通常量投与した場合と同等の、強力な減荷効果を発現し、約6時間継続することが判った。また、第27L群と第28L群の間には有意差(P<0.001、ANCOVA)が存在することから、減荷効果は持続しているものの、次第に減弱していることか判る。この結果は[参考例3−2−b]の正常側の結果から予想されるものであった。
[参考例4:IB+アルジネートナトリウム(Al)]
IBにアルジネートナトリウム(Al)を添加し投与して、様々な添加物が配合されている従来品の〈IB〉と比較を行なった。
正常な便をしているモルモット30匹を3群に分け、第30、31群には、アルジネートナトリウム0.11g/kg、無機塩0.09g/kgを添加して調整したゲル製剤(イソソルビトール2.8g/kg)の投与を行ない、投与後3時間目と6時間目(〈IB〉の減荷効果が最大となる投与後6時間後(非特許文献13))に灌流固定した(以下、IB+Al*群ともいう)。第32群にはAlを0.3g/kgを添加し、3時間後に灌流固定して(以下、IB+Al**群ともいう)、各々の組織を採取して内リンパ容積変化を観察、評価した。消化器症状は灌流時まで継続して行った。便の固さは灌流時のものである。いずれの群も、1回の投与量は4ml/kgとなるように調製した。組織作成などの手順、及び計測は、非特許文献4と同様の方法で行なった。
群 投与薬剤 灌流(投与後)
第30群:IB+Al*群 IB2.8g/kg+Al+無機塩 3時間後
第31群:IB+Al*群 同 6時間後
第32群:IB+Al**群 IB2.8g/kg+Al0.3g/kg 3時間後
A)胃腸症状についての検討
便の固さ、形状の観察結果を表25に示す。
IB単味の群、〈IB〉投与群では約半数の動物が軟便または泥状便となり、ガスの発生など消化器症状が発現した。それに対し、IB+Al*群は3時間後(第30群)の便の固さは、やや軟便がわずかに2匹で、他の8匹は正常便で、便の間隔も不整、バラバラなものは〈IB〉と比べ少なかった事から、〈IB〉(第10群)と比べ、止瀉作用が有意に優れ(P<0.05)、消化器症状も軽かったことが推測される(P<0.01、Mann-Whitney U検定)。6時間後(第31群)には全ての動物が正常な固さの便で、その間隔は6匹が一定であり、消化器症状は〈IB〉(第12群)と比べ有意に軽かったことが分かった(便の固さ、間隔、各々P<0.01、P<0.01、Mann-Whitney U検定)。
IB+Al**群は3時間後(第32群)の便の固さは、やや軟便が7匹中わずかに1匹で、便の間隔も不整、バラバラなものは〈IB〉と比べ少なかった(便の固さ、間隔、各々P<0.01、P<0.01、Mann-Whitney U検定)。IB+Al*群(第30群)と比較し、Alの添加量は多いが、有意差は認められなかった(Mann-Whitney U検定)。
B)内リンパ腔の容積変化:正常側における膜の伸展率と面積の増加率の関連
各回転毎にライスネル膜の伸展と内リンパ腔の容積変化を計測し、その結果を表26に示す。
第10群、第11群、第12群(各々〈IB〉3、4、6時間後)は対照群と比較すると、容積が増加する傾向があり、特に第11群(4時間後)は有意差が存在した([参考例1−4])。しかし、Alを0.11g/kg添加した第30群、第31群は、容積が減少する傾向が現れた。対照群とは有意差が存在し(P<0.05、t−検定)、軽度ではあるが虚脱が認められた。投与後3時間目の第30群はIB単味の第3群と比べ有意差は認められなかったが、〈IB〉の第10群と比べると明らかに容積が減少していた(P<0.01、t−検定)。6時間目の31群は〈IB〉の第12群と比較し有意差が存在した(P<0.01、t−検定)。Alを0.3g/kg添加した第32群では、容積はさらに減少した。対照群とは有意差が存在し(P<0.05、t−検定)、〈IB〉の第10群との間でも有意差が認められた(P<0.001、t−検定)。しかしIB+Al*群(第30群)の間には有意差はなかった(t−検定)。
これらの事実から、IB+Al*群の虚脱(減荷)効果は、投与後3時間で確実に出現し(P<0.05、t−検定)、6時間が経過しても効果は持続していた(P<0.05、t−検定)。従来品の〈IB〉と比較しても投与後3時間における効果が有意に大きく(P<0.01、t−検定)、作用の発現が迅速であることが分かった。IB+Al**群は、さらに減荷作用は強い傾向があったが、IB+Al*群を比べ、有意差はなかった。
6時間後では有意差はないが、従来品と比べ容積は減少しており、便の性状と消化管内のガスの発生状況から、瀉下作用を含め、胃腸症状の改善に成功したことが明らかであるので、より少ない量で消化器官に負担をかけることなく、十分な効果が期待できることが予想される。しかしながら、Eryと比較するとIBの減荷効果は小さいことが判った。
C)内リンパ水腫減荷効果:術側における膜の伸展率と面積の増加率の関連
結果を、表27に示す。
第30L群(3時間後)は対照群、IB従来品投与後3時間目の第10L群と比べ、有意に減荷効果が認められた(いずれもP<0.001、ANCOVA)。第31L群(6時間後)も対照群、〈IB〉6H群と比べ有意差が存在し(いずれもP<0.01、ANCOVA)、依然として減荷効果が認められた。
[参考例5]
糖アルコール類としてグリセロールを選び、多糖類としてカルボキシメチルセルロースナトリウムと組み合わせて、内リンパ腔の容積に与える効果を観察した。非特許文献4ではグリセロールをグリセロールテストを行う場合の投与量(非特許文献1、2)である12ml/kg投与し、経時的変化を観察した。結果は表28に示すとおりである。
グリセロールを投与すると、分子径が小さいため、2時間後には外リンパ腔に達し、外リンパ圧が上昇することから、浸透圧効果により内リンパ腔は有意に虚脱した(対照群と比し、P<0.001、Mann-Whitney U検定)。その後グリセロール分子はライスネル膜を通過し、内リンパ腔に入るため、内リンパ圧が上昇してリバウンド現象が発現すると考えられる。
〔グリセロール(Gly)とカルボキシメチルセルロース(CMC)〕
上記のGlyの量は検査に用いる量である。そこで、Glyを約3分の1のに減じ、経時的変化を観察した。モルモット12匹を2群に分け、次に示すように薬物投与を行い、3時間経過後に灌流固定した。止瀉効果の結果を表29、組織学的検討結果を表30に示す。
CMCを添加(10重量%)により、止瀉効果が認められた(P<0.01、Mann-Whitney U検定)
多糖類としてCMCを添加した群においては、正常側ではグリセロール単味の群と比較し、有意に内リンパ腔の虚脱が認められた(P<0.001、t−検定)。術側ではCMCを添加した群では、Gly単味の群と比較し、有意差が認められた(P<0.01、ANCOVA、特許文献3)
〔参考例6:キシリトール(XL)とキサンタンガム(XG)〕
モルモット12匹を6匹ずつ2群に分け、次に示すように薬物投与を行い、3時間経過後に灌流固定した。止瀉効果の評価結果を表31、組織学的検討結果を表32に示す。
XG添加(7.1重量%)により、止瀉効果が認められた(P<0.05、Mann-Whitney U検定)
多糖類として、XGを添加した群では、XL単味の群と比較し、内リンパ腔の容積の減少が認められた(P<0.01、t−検定)。なお、術側ではXL単味の群と比較し、明らかな内リンパ水腫減荷効果が認められた(P<0.01、ANCOVA、特許文献3)。
[参考例7:キシロース(XS)とキサンタンガム(XG)〕
モルモット12匹を2群に分け、次に示すように薬物投与を行い、3時間間経過後に灌流固定した。これらの結果のうち、止瀉効果の結果を表33、組織学的検討結果を表34に示す。
XGを添加(7.1重量%)により、止瀉効果が認められた(P<0.01、Mann-Whitney U検定)。3時間目には手指により、下腹部に圧を加えても排便しにくくなった。便の配列は一定ではなかったが、2−3cmの間隔が空いている程度で、ガスの発生は顕著ではなかった。
多糖類として、XGを添加した群(XS+XG群)では、正常側では、XS単味の群と比較し、著明な虚脱が認められた(P<0.001、t−検定)。これは、XSの消化管からの独特な吸収過程によるものとも考えられるが、吸収過程に関しては異論もあり、今後の検討課題である。術側でも、XS+XG群はXS単味の群と比較し、著明な減荷効果が認められた(P<0.001、特許文献3)。
[参考例8:イソソルビトール(IB)と寒天〕
モルモット7匹に、次に示すように薬物投与を行い、3時間経過後に灌流固定した。止瀉効果の結果を表35、組織学的検討結果を表36に示す。
寒天を添加(10.7重量%)することにより、止瀉効果が認められた(P<0.05、Mann-Whitney U検定)
寒天の添加によりIB単味、〈IB〉と比較し、内リンパ腔の容積減少(虚脱)に有意差は認められなかった(t−検定)。なお、術側ではIB単味の群と比べ明らかな内リンパ水腫減荷効果が認められた(P<0.01、ANCOVA、特許文献3)。さらに、〈IB〉群と比べても明らかな内リンパ水腫減荷効果が認められた(P<0.01、ANCOVA)。
[参考例9]
下痢をすれば血漿AVPが上昇し(非特許文献11)、血漿AVPが上昇すると内リンパ水腫を形成することは、非特許文献10で示したとおりであるが、参考例3の3−2−aグループの結果から、先の段落[0153]〜[0156]で述べたように、止瀉に成功すれば血漿AVPの上昇はわずかで、内リンパ減荷効果が確実に発現することが確認された。これらのことを踏まえれば、止瀉効果が図ることができれば、内リンパ水腫減荷効果は発現することは明らかである。
糖アルコール類と多糖類の組み合わせをさらに換えて止瀉に成功するかどうかを調べた。糖アルコール類として、エリスリトール、ソルビトール、イソソルビトール、マンニトールに、多糖類として、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カラギーナン、グァーガム、アラビアガムを任意に組み合わせた。
〔9−1: マンニトールとカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)〕
正常な便をしているモルモット8匹を2群に分け、次に示すように薬物投与を行い、その後6時間、便を観察した。
結果を表37に示す。
マンニトールによる下痢は、約7.1重量%のCMCの添加により、有意に軽回した(P<0.05、Mann-Whitney U検定)。腹部の膨満感、ガスの発生は殆ど認められなかった。
〔9−2: ソルビトールとグァーガム(Sigma社)〕
正常な便をしているモルモット10匹を2群に分け、次に示すように薬物投与を行い、その後6時間、便を観察し、その結果を表38に示した。
グァーガムを10重量%添加して、2匹が正常便、2匹がやや軟便となり、ソルビトールによる下痢を止瀉することにほぼ成功した(P<0.05、Mann-Whitney U検定)。しかし、投与後3〜4時間目で、便の量は3分の1程度に減り、視診、触診により腹部に軽度の膨満感が認められ、手指により腹部を圧迫すると、ガスの発生と移動が触れた。下腹部を圧迫すると、形が不整で、通常の2分の1以下の小さい便が少しずつ***された。
〔9−3: エリスリトールとアラビアガム(Sigma社)〕
正常な便をしているモルモット10匹を2群に分け、次に示すように薬物投与を行い、その後6時間、便を観察し、その結果を表39に示し、E3H群と比較検討した。
アラビアガムを20重量%添加しても、エリスリトールによる下痢を止瀉することは出来なかった(有意差なし)。40重量%添加すると、下痢はいくらか軽回した(P<0.01、Mann-Whitney U検定)が、より確実な止瀉が望まれるところである。両群とも、投与後3〜4時間目で、便の量は3分の1程度に減り、視診、触診により腹部の膨満感が認められ、手指により腹部を圧迫すると、ガスの発生と移動が触れたが、泥状便がわずかに***されるだけで、不快な状態が推測された。
〔9−4: エリスリトールとグァーガム(Sigma社)〕
正常な便をしているモルモット15匹を2群に分け、次に示すように薬物投与を行い、その後6時間、便を観察し、その結果を表40に示し、E3H群と比較検討した。
グァーガムを5重量%、10重量%添加してもエリスリトールによる下痢を止瀉することは出来なかった。20重量%添加して、2匹が正常便、2匹がやや軟便でほぼ止瀉に成功した(P<0.001、Mann-Whitney U検定)。しかし、投与後3〜4時間目で、便の量は3分の1程度に減り、視診、触診により腹部の膨満感が認められ、手指により腹部を圧迫すると、ガスの発生と移動が触れた。下腹部を圧迫すると、形が不整で、通常の2分の1以下の小さい便が少しずつ***されるだけで、不快な状態が推測された。
〔9−5: イソソルビトール(IB)とカラギーナン〕
正常な便をしているモルモット7匹に、10.7重量%のカラギーナンを添加したIB水溶液(8ml/kg)を投与し、その後6時間、便を観察した。結果を表41に示す。
IBによる下痢症状は約10.7重量%のカラギーナンを添加することによって改善した。イソソルビトールは単味でも瀉下作用が他の糖アルコール類ほど強くないが、カラギーナン添加により、泥状便、軟便が認められなかったことは有効であったと考えられる。視診触診により、腹部の膨満は認められず、消化器症状は軽かったものと推定された。
多糖類にはイ)キサンタンガム(XG)に代表されるように止瀉効果に優れたものと、ロ)ペクチン(Pec)に代表される整腸作用に優れたものがある。
〔イ)XGに代表されるグループ〕について
キサンタンガム、グァーガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、タラガムなどがこのグループに属する。止瀉作用は、キサンタンガムが最も強く、アラビアガムが緩やかで、懸濁液の粘度が高くなると一般に止瀉作用も強力になった。一方で、摂取後3〜5時間後には便の量が減少する傾向がある。
〔ロ)ペクチン(Pec)に代表されるグループ〕について
ペクチン、アルジネートナトリウム、寒天、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カラギーナン、ヒドロキシプロピルセルロースなどがある。Pecはじめ、このグループの多糖類は整腸作用が優れているが、止瀉に比較的大量を要するため、添加量が多くなる欠点がある。しかし、大量を添加しても、便の表面は滑らかで***量も通常かそれ以上で、排便に障害はなく、視診、触診でも腹部の膨満感、ゴロゴロ感が生じず、動物も苦しがる様子がなかった。Pecより粘性の高い寒天、アルジネートナトリウムはPecより止瀉効果に優れ、CMCはPecとほぼ同程度の止瀉作用を示した。
〔イ)XGに代表されるグループとロ)Pecに代表されるグループから1種ずつ選び、組み合わせた場合〕
各々の多糖類の特質を吟味し、異なった特徴を持つイ)、ロ)の2つのグループの多糖類を1種ずつ組み合わせることで、より少量で的確な止瀉効果を発現させつつ、胃腸症状を生じずに、形の整った便を通常量***させることを可能にすることを見出した。さらに、XG+CMC、GG+CMCなど、組み合わせによっては流れを良くすることも見出した。これは嚥下が困難な患者への投与に適しており、経管栄養の患者への投与にも、水溶液にして微小チューブで支障なく投与することが可能である。
〔イ)XGに代表されるグループから2種以上組み合わせた場合〕
イ)XGに代表されるグループの多糖類は、2種以上を組み合わせると飛躍的に粘度が増すことが出来る。例えば同じ0.5%の溶液の場合、グァーガム単味の粘度に対し、XG1:グァーガム3の粘度は数倍〜数十倍と、飛躍的に高くなり、0.5%XG溶液とほぼ同じまたはそれ以上に粘調になることが知られている。同様の現象は他の多糖類の組み合わせでも、粘性を飛躍的に高めることも知られている。これによって、投与量を削減することが可能である。実際に複数種組み合わせたところ、少ない添加量でも、止瀉作用を向上させ、且つ腹部の膨満感、ゴロゴロ感も軽くすることを見出した。
〔ロ)Pecに代表されるグループから2種以上組み合わせた場合〕
Pecを単独に加えた場合の問題点は、止瀉を実現するために大量に添加しなくてはならないことである。Pecのグループから2種以上を組み合わせることで各々の特質を生かしながら、添加量も比較的少量で止瀉作用を発現することを見出した。また、Pecやアルジネートナトリウム等を糖アルコール溶液に混和するとゲル状になり、添加量が増えるとパサパサして一体感がなくなり、嚥下が困難になる場合もあるが、CMCを加えることでその問題点が解決することを見出した。
他に、3種以上の多糖類を組み合わせて、〔イ)XGに代表されるグループから2種とロ)Pecに代表されるグループから1種選び、組み合わせた場合〕、〔イ)XGに代表されるグループから1種とロ)Pecに代表されるグループから2種選び、組み合わせた場合〕があり、各々の利点を生かし、欠点を補うことが可能である。
[参考例10]
2種以上の多糖類を添加することにより、1種の多糖類の添加量より少量で確実な止瀉効果を得られるかどうかを調べた。
〔エリスリトールとXG+ペクチン(Pec)〕
正常な便をしているモルモット15匹を3群に分け、粘度が非常に高いXGと親水性の高いPecとを表42のように組み合わせEryに添加して、6時間目まで便と消化器症状の観察を行った。
XG0.09g/kg+Pec0.2g/kgを組み合わせること(多糖類合計で10.4重量%)で、Pecのみ添加した場合(17.8%)より少量で、XGの止瀉作用とPecの整腸作用とを同時に発現させることが出来た。XGだけを添加した場合、止瀉作用は強力であるが、腹部膨満が認められ、便の***量が減るが、2種を組み合わせることで下腹部に強く圧を加えても、動物は苦しむこともなく、表面の滑らかな便が出てきたことで、目的を達したことが確認出来た(P<0.001、Mann-Whitney U検定)。
〔6−2:エリスリトールとキサンタンガム(XG)+グァーガム(GG)(XGグループから2種選び、組み合わせた場合)〕
正常な便をしているモルモット15匹を3群に分け、XGグループで粘度が非常に高いXGと比較的粘度の低いGGを表43のように組み合わせエリスリトールに添加し、6時間目まで便と消化器症状の観察を行った。
XG0.03g/kg、GG0.06g/kgを組み合わせること(多糖類合計で3.2重量%)では十分な止瀉効果は認められず、いずれも増量して、XG0.06g/kg、GG0.09g/kgを組み合わせること(多糖類合計で5.4重量%)で、有意な止瀉効果が認められた(P<0.001、Mann-Whitney U検定)。便は形が不整で、***量は約2分の1に減少したが、腹部膨満は認められず、下腹部に強く圧を加えても、動物は苦しむこともなかった。
[参考例11:エリスリトールとキサンタンガム(XG)+ペクチン(Pec)+カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)〕
正常な便をしているモルモット10匹を2群に分け、Eryに、XG、Pec、CMCとを表44のように組み合わせ添加して、3時間目まで便と消化器症状の観察後、3時間目に灌流、便の配列などと共に、消化器官の観察を行い、側頭骨を取り出して組織学的に検討した。
A)胃腸症状についての検討
結果を表44に示す。
XG:0.06g/kg,Pec: 0.15g/kg,CMC:0.2g/kg
便の固さは灌流時に判定したものである
XG0.06g/kg+Pec0.15g/kg+CMC0.2g/kg(多糖類合計で14.6重量%)で、ほぼ完全な止瀉を達成できた(P<0.001、Mann-Whitney U検定)。XG単独を添加した場合には投与後便の量が減少し、腸内でガス発生が認められたが、ペクチンに代表されるグループから2種を加えることで、そのような問題点が生じることなく、止瀉に成功した。消化管内の観察においても、便の配列は、6匹中2匹は形成された便の間隔が4〜7cmのところもあり、僅かながらガスの発生も認められたが、全体的には、ほぼ規則的になり、胃腸症状は軽回したものと推測された(P<0.001、Mann-Whitney U検定)。形成された便の長さも57.0±19.6cmで、蒸留水のみ投与の55.0± 8.8cmに近い値となった。
B)内リンパ腔容積に与える影響(正常側)及び内リンパ水腫減荷効果(術側)
各群の伸展率と面積増加率の平均と標準偏差の結果を表45に示す。
エリスリトールのみを投与した第20群(3時間後)と比較し、3種の多糖類を添加したE+3P群では有意に減荷されている(P<0.05、特許文献3)。
また、多糖類としてPec1種のみを0.5g(17.9重量%)添加した第24群と比較するとわずかに上方に移動しているが、有意差はなく、十分な減荷効果を発揮していることが判った(特許文献3)。
Pecは整腸作用に優れるが、止瀉を図るには添加量が多くなりがちであり、粘度が高くなることは避けられないが、CMCを添加することで、流れがよくなり、摂取時の口当たり、舌触りなどに優れた材質になった。違和感なく摂取でき、経管栄養や、飲料に応用範囲が広がる。
単糖又はその糖アルコール類に対し、多糖類を複数種組み合わせることで、多糖類1種類を添加する場合と比べ、飛躍的に止瀉効果を高め、かつ不快な胃腸症状の軽減、又は防止をはかることができた。添加物を削減する目的を達成することができた。