図1は、この発明の一実施形態による人工歯根製造システム20の構成を示すブロック図である。人工歯根製造システム20は、3次元スキャナ21,加工用データ生成部22,3次元加工装置23および骨成長促進処理加工装置24を備えている。
3次元スキャナ21は、歯槽骨の歯根保持部の3次元形状情報を実質的に含む測定データを取得する。加工用データ生成部22は、3次元スキャナ21により得られた測定データに基づいて、歯槽骨の歯根保持部に対応する形状の人工歯根の3次元モデル情報を含む加工用データを生成する。加工用データは、歯科用インプラントのうち実質的に歯槽骨に埋入する部位を表す3次元モデル情報を含む。3次元加工装置23は、加工用データ生成部22により生成された加工用データに基づいて人工歯根を成形する。骨成長促進処理加工装置24は、加工用データに基づいて、歯科用インプラントのうち実質的に歯槽骨に埋入する部位全体にのみ骨成長促進処理を施す。
3次元スキャナ21の構成は、とくに限定されるものではないが、たとえば、コーンビーム方式のX線CTスキャナを用いることができる。コーンビーム方式のX線CTスキャナを用いることで、歯槽骨や歯の3次元形状情報を高精度で取得することができる。
加工用データ生成部22の構成も、とくに限定されるものではないが、たとえば、3次元スキャナ21の出力がDICOM等2次元スライス画像であれば、これから3次元モデルを再構築し、再構築した3次元モデルに基づく加工用データを生成する。もちろん、3次元スキャナ21の出力が3次元モデル情報であれば、直接これに基づいて加工用データを生成することも可能である。
加工用データ生成部22は、たとえば独立したコンピュータソフトウェアとしてコンピュータ上で実行するようにしてもよいし、その機能の全部または一部を3次元スキャナ21および/または3次元加工装置23および/または骨成長促進処理加工装置24にて実行するようにしてもよい。
3次元加工装置23の構成もとくに限定されるものではなく、与えられた加工用データにしたがって3次元形状を形成できるものであれば、たとえば、切削(研削)工具等を用いて、チタン等の歯科用インプラント材料やハイドロキシアパタイト等の骨代用物質等から3次元形状を削り出すタイプのものであってもよいし、放電加工機のようなものであってもよいし、光硬化性材料に光を照射して3次元形状を形成するようなタイプのものであってもよい。
骨成長促進処理加工装置24の構成もとくに限定されるものではない。たとえば、歯科用インプラントの歯槽骨に埋入する部位に、直接、骨成長促進処理を施すタイプのものや、歯槽骨から露出する部位の全体に(またはその一部に)骨成長促進処理を阻止する処理(たとえばマスキング処理)を施したのち全体に(または歯槽骨に埋入する部位より広めに)骨成長促進処理を施すタイプのものや、全体に(または歯槽骨に埋入する部位より広めに)骨成長促進処理を施したのち、歯槽骨から露出する部位の骨成長促進処理を除去する処理を行うタイプのもの等がある。
骨成長促進処理もとくに限定されるものではない。たとえば、歯科用インプラントの表面にハイドロキシアパタイト等の骨親和性材料を塗布したり高速で打ち込んだりしてもよいし、サンドブラストやエッチング等により歯科用インプラントの表面に細かい凹凸を設けるだけであってもよい。
人工歯根製造システム20の各構成要素の設置場所はとくに限定されるものではない。人工歯根製造システム20の各構成要素を、1カ所、たとえば歯科医院に設置するようにしてもよいが、分散配置してもよい。たとえば、3次元スキャナ21(および加工用データ生成部22)を各歯科医院に設置し,その他の構成要素を人工歯根製作センター等に設置するようにしてもよい。この場合、測定データや加工用データの授受は、固定の記憶媒体を用いて行ってもよいが、電気通信回線を介して行うようにすれば、より迅速で好ましい。
図2は、人工歯根製造システム20を用いて、図4Aに示す歯科用インプラント30の人工歯根32(フィクスチャ)を製造する手順を示すフローチャートである。図3A〜図4Cは、該手順を説明するための図面である。図1〜図4Cに基づいて、人工歯根32を製造する手順を説明する。
図2に示すように、まず、3次元スキャナ21を用いて測定データを取得する(ステップS1)。測定データには、図3Aに示す歯槽骨5の歯根保持部7の3次元形状情報が実質的に含まれていればよい。したがって、測定データとしては、歯槽骨5の歯根保持部7の3次元形状を直接表す情報であってもよいし、抜歯前の歯11の歯根12の3次元形状を表す情報であってもよいし、歯11と歯根保持部7との間にある歯根膜13の3次元形状を表す情報であってもよい。もちろん、これらを組み合わせた情報であってもよい。
測定データは抜歯前に取得するのが好ましいが、抜歯後であってもよい。図3Bのように既に抜歯済みの場合には、測定データとして、歯槽骨5の歯根保持部7の3次元形状を直接表す情報が採取される。
3次元スキャナ21としてコーンビーム方式のX線CTスキャナを用いる場合、測定データは、X線吸収率(骨密度と等価)の3次元空間分布(たとえば、一辺0.1ミリメートル程度の立方体単位)として表現されることになる。
つぎに、3次元スキャナ21により得られた測定データに基づいて、歯槽骨5の歯根保持部7に対応する形状の人工歯根32を成形するための加工用データを生成する(ステップS2)。加工用データには、人工歯根32の3次元モデル情報が含まれる。該3次元モデル情報は、実質的に歯根保持部7の形状を反転した形状を表す情報であり、たとえば、歯根保持部7近傍の上記測定データを所定のしきい値で2値化したものに所定の補正処理、たとえば、反転処理および/またはオフセット処理および/または干渉部除去処理(人工歯根32を歯槽骨5の歯根保持部7に埋入する際に障害となる部分(干渉部分)が存在する場合に、3次元モデルにおいて当該干渉部分に相当する部分を予め除去しておく処理)を行うことにより得られる。加工用データは、加工用データ生成部22において生成される。なお、人工歯根32の寸法を歯根保持部7の寸法と同等かやや大きくなるよう設定しておくと両者の初期固定が得やすいので好ましい。
つぎに、生成された加工用データに基づいて、3次元加工装置23を用いて、人工歯根32を成形する(ステップS3)。この実施形態においては、歯科用インプラント材料としてチタン(またはチタン合金)を用い、この歯科用インプラント材料を切削(研削)して人工歯根32を成形するものとする。このようにして、歯槽骨5の歯根保持部7の3次元形状に対応する3次元形状を有する人工歯根32が成形される。
成形された人工歯根32を有する歯科用インプラント30を図4Aに示す。この例では、人工歯根32とアバットメント31とが一体に成形され、歯科用インプラント30を構成している。なお、アバットメント31の形成された既成の歯科用インプラント材料を用意しておき、ステップS3において、人工歯根32のみを成形するようにしてもよいが、ステップS3において人工歯根32とともにアバットメント31を成形するようにしてもよい。後者の場合、測定データに、抜歯予定歯の3次元形状情報、および/または、他の歯とのかみ合わせを示す3次元情報、等を含ませておけば、これらの情報に基づいて、最適寸法のアバットメント31を成形することができるので好都合である。
この実施形態においては、骨成長促進処理(後述)を不要としているので、歯科用インプラント30の製造工程は、これで完了する。ただし、人工歯根32の3次元モデル情報を生成する際に上述の干渉部除去処理において除去された部分があると判断した場合には、歯科用インプラント30のうち当該除去された部分に対応する部位に骨成長促進処理を施す(ステップS4およびステップS5)よう構成することもできる。
このようにして歯科用インプラント30が成形されると、抜歯予定の歯11が残っている場合(図3A参照)には、この歯11を抜き、即時、図4Bに示すように、歯科用インプラント30の人工歯根32を歯槽骨5の歯根保持部7に埋入する。抜歯後すぐに埋入することで、治療期間を短縮するとともに患者の負担を軽減することができる。
また、上述のように、インプラント窩を穿けないことによる種々の効果、たとえば、骨密度の高い歯根保持部7の皮質骨5aが温存され、この皮質骨5aで人工歯根32を支持することとなるため、海綿骨5bの骨密度の如何にかかわらず、天然歯の場合と同等の保持力を容易に得ることができる等、種々の効果が得られる。
所定の治癒期間(たとえば1〜6ヶ月程度)をおいて人工歯根32と歯槽骨5とを融合させた後、図4Cに示すように、アバットメント31に上部構造体1をかぶせて結合する。
図5Aないし図5Cは、この発明の他の実施形態による人工歯根42を有する歯科用インプラント40を説明するための図面である。図5Bに示すように、歯科用インプラント40も、歯科用インプラント材料にてアバットメント41と人工歯根42とを一体に形成したものであるが、実質的に歯槽骨5に埋入する部位全体(図面上、クロスハッチングで示す部分)にのみ、骨成長促進処理43が施されている。
歯科用インプラント40の製造方法は、歯科用インプラント30の場合とほぼ同じであるが、加工用データが歯科用インプラント40のうち実質的に歯槽骨5に埋入する部位を表す3次元モデル情報を含む点と、当該加工用データに基づいて、歯科用インプラント40のうち実質的に歯槽骨5に埋入する部位全体にのみ骨成長促進処理43を施す点で、歯科用インプラント30の場合と異なる。
歯科用インプラント40のうち実質的に歯槽骨5に埋入する部位を表す3次元モデル情報は、たとえば、歯槽骨5の歯根保持部7の3次元形状情報から得ることができる。図5Aに示す抜歯前の歯11の歯根12のうち、歯根保持部7の上縁14から下にある部分が、歯科用インプラント40のうち実質的に歯槽骨5に埋入する部位に対応する。
上述のように、骨成長促進処理加工には種々の方法が考えられるが、たとえば、歯科用インプラント40全体に(または歯槽骨5に埋入する部位より広めに)骨成長促進処理43を施したのち、骨成長促進処理加工装置24を用いて、歯槽骨5から露出する部位の骨成長促進処理43を除去するタイプのものは、3次元加工装置23をそのまま骨成長処理加工装置24として併用可能である点で好ましい。
たとえば、切削(研削)工具等を用いるタイプの3次元加工装置23を使用して歯科用インプラント40の形状を成形したあと(ステップS3)、歯科用インプラント40の表面全体にハイドロキシアパタイト等の骨親和性材料を塗布する(骨成長促進処理43を施す)。この後、再び、3次元加工装置23を骨成長促進処理加工装置24として用いることにより、歯科用インプラント40の歯槽骨5から露出する部位の骨成長促進処理43を除去する(ステップS4,ステップS5)のである。
このように、実質的に歯槽骨5に埋入する部位全体にのみ骨成長促進処理43を施すことで、図5Aに示すように歯槽骨5の歯根保持部7の上縁14が変則的な形状(たとえば、斜め)であったとしても、図5Cに示すように、歯根保持部7全体に渡って歯科用インプラント40との骨融合を図ることができ、かつ、歯科用インプラント40のうち歯根保持部7から露出している部分、とくに歯肉10と接している部分、での細菌の繁殖を防止することが可能となる。
図6Aないし図6Bは、この発明のさらに他の実施形態による人工歯根52を有する歯科用インプラント50を説明するための図面である。図6Aは、インプラント50を植立する前(すなわち抜歯前)の歯11を示す図面である。歯11は、複数(この例では3つ)の歯根12a、12b、12c(これらを合わせて歯根12という。)を有している。説明の便宜上、歯11を保持する歯槽骨の記載を省略しているが、当該歯槽骨の歯根保持部は、この歯11を保持する複数の歯根保持穴(実質的に歯根12a、12b、12cをそれぞれ反転した形状)により構成されているものとする。
図6Bに示すように、人工歯根52は、上述の歯11を保持する複数の歯根保持穴のうち1つの歯根保持穴(歯根12aを保持する歯根保持穴)の形状を実質的に反転した形状を有する主歯根部52aと、他の歯根保持穴(歯根12bを保持する歯根保持穴、および、歯根12cを保持する歯根保持穴)の形状の一部のみを反転した形状を有する補助歯根部52bおよび52cと、を備えている。歯科用インプラント50は、主歯根部52aおよび補助歯根部52b、52cを一体に成形してなる人工歯根52と、アバットメント51とを、歯科用インプラント材料を用いて一体に形成したものである。
つぎに、歯科用インプラント50の製造方法について説明する。なお、説明の便宜上、歯槽骨の歯根保持部の説明に代えて、抜歯前の歯11の歯根12について説明することがある。図6Aに示す歯11の場合、歯根12a、12b、12cの生えている向きがそれぞれ異なるため、すべての歯根12a、12b、12cの形状をそっくり模した形状の人工歯根だと、元の歯根保持部に挿入不能となってしまう。そこで、まず、主となる歯根(この例では歯根12a)を決定するとともに、他の歯根(この例では歯根12b、12c)を、補助となる歯根と決定する。
主となる歯根をどれにするかは、たとえば、周囲の残存歯(図示せず)等との位置関係から割り出される人工歯根52の挿入可能方向範囲、および/または、各歯根12a、12b、12cの表面積によって決定することができる。
人工歯根52の挿入可能方向範囲の決定方法はとくに限定されるものではないが、たとえば、3次元スキャナ21の測定データに基づいて、加工用データ生成部22において自動的に決定させたり歯科医が決定したりする。
各歯根12a、12b、12cの表面積の計算方法についてもとくに限定されるものではないが、たとえば、3次元スキャナ21の測定データに基づいて加工用データ生成部22において自動的に計算することができる。
主となる歯根の決定方法もとくに限定されるものではないが、たとえば、歯根の向きが上記挿入可能方向範囲内にある歯根のうち、表面積の最も大きい歯根を、主となる歯根とするよう決定してもよい。主となる歯根の決定も、3次元スキャナ21の測定データに基づいて加工用データ生成部22において自動的に決定したり歯科医が決定したりすることができる。
主となる歯根12aが決定されると、当該主となる歯根12aの向きP1に基づいて、人工歯根52の挿入方向Q1を決定する。人工歯根52の挿入方向Q1はとくに限定されるものではないが、少なくとも主歯根部52aが、対応する歯根保持穴に支障なく挿入できる方向でなければならない。この例では、人工歯根52の挿入方向Q1を主となる歯根12aの向きP1に一致させている。人工歯根52の挿入方向Q1の決定も、たとえば、3次元スキャナ21の測定データに基づいて加工用データ生成部22において自動的に決定したり歯科医が決定したりすることができる。
人工歯根52の挿入方向Q1が決定されると、つぎに、補助となる歯根12b、12cのうち、人工歯根52としてそのまま再現する部分と、そうでない部分(非再現部分15という。)とを判別する。これを非再現部分15の判別という。非再現部分15の判別方法はとくに限定されるものではないが、たとえば、人工歯根52としてそのまま再現したとすると当該人工歯根52を挿入方向Q1の向きに歯根保持部に挿入する際に支障となる部分(干渉部分)を、非再現部分15として判別するようにしてもよい。非再現部分15の判別も、たとえば、3次元スキャナ21の測定データに基づいて加工用データ生成部22において自動的に決定したり歯科医が決定したりすることができる。
なお、上述の人工歯根の挿入方向Q1を、歯根12aの向きP1および上記干渉部分に関する情報に基づいて決定するようにしてもよい。すなわち、歯根12aの向きP1、並びに、干渉部分の体積、および/または、干渉部分と歯槽骨との接触面積に基づいて、人工歯根の挿入方向Q1を決定するのである。たとえば、歯根12aの向きP1を中心とする歯根12aの挿入可能方向範囲内で、干渉部分の体積、および/または、干渉部分と歯槽骨との接触面積が最小となる方向を、当該人工歯根の挿入方向Q1として決定するのである。
さて、非再現部分15の判別処理結果に基づいて、加工用データ生成部22において、主歯根部52aおよび補助歯根部52b、52cを備えた人工歯根52の3次元モデルを含む加工データが生成される。この加工データに基づいて、3次元加工装置23を用いて人工歯根52を成形したり、必用な場合に、骨成長促進処理加工装置24を用いて骨成長促進処理を施したりするのは、上述の各実施形態の場合と同様である。
なお、図6Bに示すように、人工歯根52を歯槽骨の歯根保持部に埋入すると、図6Aの非再現部分15に対応する形状の空洞部53が生ずるが、この空洞部53には、やがて、歯槽骨が再生される。したがって、人工歯根52のうち、少なくともこのような空洞部53に面する部位(歯11の非再現部分15に対応する部位)および/またはその近傍に骨成長促進処理を施しておくのが好ましい。
上述の実施形態においては、人工歯根の主歯根部が抜歯前の歯11の1つの歯根に対応する場合を例に説明したが、この発明はこれに限定されるものではない。たとえば、抜歯前の歯11の2本以上の歯根が同じような向きである場合等には、人工歯根の主歯根部を、抜歯前の歯11の2本以上の歯根に対応させて成形するようにしてもよい。
図7Aないし図7Bは、この発明のさらに他の実施形態による人工歯根62を有する歯科用インプラント60を説明するための図面である。図7Aは、インプラント60を植立する前(すなわち抜歯前)の歯11を示す図面である。歯11は、複数(この例では3つ)の歯根12a、12b、12c(これらを合わせて歯根12という。)を有している。説明の便宜上、歯11を保持する歯槽骨の記載を省略しているが、当該歯槽骨の歯根保持部は、この歯11を保持する複数の歯根保持穴(実質的に歯根12a、12b、12cをそれぞれ反転した形状)により構成されているものとする。
図7Bに示すように、人工歯根62は、上述の歯11を保持する歯槽骨の歯根保持部に別個に挿入可能な複数(この例では2つの)の要素歯根部63,62cを備えている。要素歯根部63は、一体に成形された歯根部62a、62bを備えている。要素歯根部63,62cを結合したときに、全体として、実質的に上述の歯11を保持する歯槽骨の歯根保持部に対応する形状(すなわち、実質的に当該歯根保持部の形状をそのまま反転した形状)となるよう構成されている。歯科用インプラント60は、それぞれ別体として形成された要素歯根部63,62cを備えた人工歯根62と、人工歯根62と別体として成形されたアバットメント61と、を備えている。これらは、いずれも歯科用インプラント材料により構成されており、後述のように、歯槽骨の歯根保持部に挿入後、または挿入と同時に、所定の結合手段によって相互に結合される。
つぎに、歯科用インプラント60の製造方法について説明する。なお、説明の便宜上、抜歯前の歯11を保持する歯槽骨の歯根保持部の説明に代えて、歯11の歯根12について説明することがある。図7Aに示す歯11の場合、歯根12a、12bの生えている向きはほぼ同じ(P1)であるが、これらと歯根12cの生えている向きP2とが異なるため、すべての歯根12a、12b、12cの形状をそっくり模した形状の一体化した人工歯根だと、元の歯根保持部に挿入不能となってしまう。図7Aの例だと、人工歯根の挿入方向を歯根12a、12bの向きP1と一致させた場合には、歯根12のうち上記P1と異なる向きP2を有する部分16が障害となって、元の歯根保持部に挿入不能となる。
そこで、まず、各歯根12a、12b、12cの向き等に基づいて、要素歯根部の数および各要素歯根部の境界を設定する。要素歯根部の数および境界の設定方法はとくに限定されるものではないが、各要素歯根部を結合したときに全体として実質的に歯槽骨の歯根保持部に対応する形状となることを前提として、要素歯根部の数が、歯槽骨の歯根保持部に個別に挿入可能な最少個数となるように設定するのが好ましい。たとえば、歯11の歯根の向きの総数と同数の要素歯根部を設けるとともに、各要素歯根部の挿入方向とこれらに対応する歯根の向きとがそれぞれ実質的に一致するよう、各要素歯根部の境界を設定すればよい。
この例では、歯11の歯根の向きの総数(P1とP2との2つ)と同数(2つ)の要素歯根部63および62cを設けるとともに、各要素歯根部63および62cの挿入方向Q1およびQ2とこれらに対応する歯根の向きP1およびP2とがそれぞれ一致するよう、各要素歯根部63および62cの境界62dを設定している。境界62dは、実質的に、歯11における上記部分16とそれ以外の部分との境界12dに一致するが、各要素歯根部63および62cの結合の容易性、形成の容易性、強度等を考慮して補正される。
要素歯根部の数および各要素歯根部の境界の設定は、たとえば、3次元スキャナ21の測定データに基づいて加工用データ生成部22において自動的に設定したり歯科医が設定したりすることができる。
このようにして設定された各要素歯根部の数および境界並びに歯11の歯根12の測定データに基づいて、加工用データ生成部22において、各要素歯根部63,62cの3次元モデルを含む加工データが、個別に生成される。これらの加工データに基づいて、3次元加工装置23を用いて、要素歯根部63,62cをそれぞれ成形したり、必用な場合に、骨成長促進処理加工装置24を用いて骨成長促進処理を施したりするのは、上述の各実施形態の場合と同様である。
このようにして別々に成形された要素歯根部63,62cは、抜歯後の歯槽骨の歯根保持部に別個に挿入後、または挿入と同時に所定の結合手段によって結合される。結合手段はとくに限定されるものではないが、図7Bにおいては、結合手段としてネジが例示されている。すなわち、歯根保持部に先に挿入される要素歯根部62cの適部に雌ねじ64が形成されており、要素歯根部62cおよび63をこの順に歯槽骨の歯根保持部に挿入したあと、要素歯根部63の適部に設けられた(段付きの)貫通穴を介して、ボルト65を雌ねじ64にねじ込む。このようにして要素歯根部62cと63とを結合することで、一体化された人工歯根62が得られる。
歯槽骨の歯根保持部の内部で一体化することにより、一体化された人工歯根62を、歯槽骨の歯根保持部から機械的に離脱不能とすることができる。すなわち、このように構成することで、回転方向のみならず、挿入方向についても、歯科用インプラント60と歯槽骨との初期固定力を確保することができる。なお、埋入後、歯槽骨の歯根保持部と要素歯根部62cおよび63との骨融合が進むと、要素歯根部62c、63は、ネジなどの結合手段に頼ることなく、歯槽骨を介して結合されることになる。
図7Bに示すように、この例では、要素歯根部63の上端に雌ねじ66を設け、アバットメント61の下端に設けた雄ねじをこれにねじ込むことで、アバットメント61と人工歯根62とを結合している。アバットメント61の下端でボルト65の頭部を覆い隠すようにしているが、これにより、ボルト65が抜け出て来るのを防止するとともに、上部構造体1の材料等の異物がボルト65まわりに侵入するのを防止している。
なお、要素歯根部63,62cの結合方法は、ネジに限定されるものではない。たとえば、上述のボルト65に代えてピンを用いてもよい。また、要素歯根部63,62cの境界部に、たとえば、蟻溝のようなかみ合わせ部を設けておき、歯槽骨の歯根保持部に要素歯根部62cを挿入したあと要素歯根部63を挿入する際に両者が相互にかみ合うようにしてもよい。
図8Aないし図8Bは、この発明のさらに他の実施形態による人工歯根72を有する歯科用インプラント70を説明するための図面である。図8Aは、インプラント70を植立する前(すなわち抜歯前)の歯11を示す図面である。歯11は、湾曲した歯根12を有している。この実施形態においても、説明の便宜上、歯11を保持する歯槽骨の記載を省略しているが、当該歯槽骨の歯根保持部は、この歯11を保持する湾曲した1つの歯根保持穴により構成されているものとする。
図8Bに示すように、人工歯根72は、上述の歯11を保持する歯槽骨の歯根保持部に別個に挿入可能な複数(この例では2つの)の要素歯根部72a,72bを備えている。要素歯根部72a,72bを結合したときに、全体として、実質的に上述の歯11を保持する歯槽骨の歯根保持部に対応する形状(すなわち、実質的に当該歯根保持部の形状をそのまま反転した形状)となるよう構成されている。歯科用インプラント70は、それぞれ別体として形成された要素歯根部72a,72bを備えた人工歯根72と、人工歯根72と別体として成形されたアバットメント71と、を備えている。これらは、いずれも歯科用インプラント材料により構成されており、上述の例と同様に、歯槽骨の歯根保持部に挿入後、または挿入と同時に、所定の結合手段によって相互に結合される。
つぎに、歯科用インプラント70の製造方法について説明する。なお、説明の便宜上、抜歯前の歯11を保持する歯槽骨の歯根保持部の説明に代えて、歯11の歯根12について説明することがある。図8Aに示す歯11の場合、歯根12がかなり湾曲しているため、歯根12の形状をそっくり模した形状の一体化した人工歯根だと、元の歯根保持部に挿入不能となってしまう。たとえば、図8Bに示す要素歯根部72bに該当する箇所が障害となって、元の歯根保持部に挿入不能となる。
そこで、まず、歯根12の形状等に基づいて、要素歯根部の数および各要素歯根部の境界を設定する。要素歯根部の数および境界の設定方法はとくに限定されるものではないが、各要素歯根部を結合したときに全体として実質的に歯槽骨の歯根保持部に対応する形状となることを前提として、要素歯根部の数が、歯槽骨の歯根保持部に個別に挿入可能な最少個数となるように設定するのが好ましい。この点は、上述の例と同様である。たとえば、歯11の歯根12の形状をそっくり模した形状の一体化した人工歯根を元の歯根保持部に挿入すると仮定した場合に障害となる箇所の数に「1」を加えた個数と同数の要素歯根部を設けるとともに、各要素歯根部が所定順序で元の歯根保持部に全て挿入可能となるよう、各要素歯根部の境界を設定すればよい。
この例では、元の歯根保持部に挿入すると仮定した場合に障害となる箇所の数(上記要素歯根部72bに該当する箇所1カ所)に「1」を加えた個数(2つ)の要素歯根部72aおよび72bを設けるとともに、要素歯根部72a、72bがこの順序で元の歯根保持部に2つとも挿入可能となるよう、要素歯根部部72a、72bの境界72dを設定している。境界72dは、実質的に、人工歯根72のうち、元の歯根保持部に挿入すると仮定した場合に障害となる部分とそれ以外の部分との境界に一致するが、各要素歯根72a、72bの結合の容易性、形成の容易性、強度等を考慮して補正される。この例では、境界72dは単一の平面によって構成されている。
要素歯根部の数および各要素歯根部の境界の設定は、たとえば、3次元スキャナ21の測定データに基づいて加工用データ生成部22において自動的に設定したり歯科医が設定したりすることができるのは、上述の例と同様である。
このようにして設定された各要素歯根部の数および境界並びに歯11の歯根12の測定データに基づいて、加工用データ生成部22において、各要素歯根部72a、72bの3次元モデルを含む加工データが、個別に生成される。これらの加工データに基づいて、3次元加工装置23を用いて、要素歯根部72a、72bをそれぞれ成形したり、必用な場合に、骨成長促進処理加工装置24を用いて骨成長促進処理を施したりするのも、上述の各実施形態の場合と同様である。
このようにして別々に成形された要素歯根部72a、72bは、抜歯後の歯槽骨の歯根保持部に別個に挿入後、または挿入と同時に所定の結合手段によって結合される。結合手段はとくに限定されるものではないが、図8Bにおいては、結合手段としてネジが例示されている。すなわち、歯根保持部に先に挿入される要素歯根部72aの適部(この例では上端部)に雌ねじ73が形成されており、要素歯根部72a、72bをこの順に歯槽骨の歯根保持部に挿入したあと、アバットメント71の適部(この例では中央部)に設けられた(段付きの)貫通穴を介して、ボルト74を雌ねじ73にねじ込む。このようにして、アバットメント71の下端部で要素歯根部72bの上端部を押さえ込みつつ、アバットメント71と要素歯根部72aとを結合することで、一体化された歯科用インプラント70が得られる。
歯槽骨の歯根保持部の内部で人工歯根72を一体化することにより、人工歯根72を含む歯科用インプラント70を、歯槽骨の歯根保持部から機械的に離脱不能とすることができる。すなわち、このように構成することで、回転方向のみならず、挿入方向についても、歯科用インプラント70と歯槽骨との初期固定力を確保することができる。なお、埋入後、歯槽骨の歯根保持部と要素歯根部72a、72bとの骨融合が進むと、要素歯根部72a、72bは、ネジなどの結合手段に頼ることなく、歯槽骨を介して結合されることになるのは、上述の例と同様である。
なお、要素歯根部72a、72bの結合方法がネジに限定されるものではないことも上述場合と同様である。たとえば、上述のボルト74に代えてピンを用いてもよい。また、要素歯根部72a、72bの境界部に、たとえば、蟻溝のようなかみ合わせ部を設けておき、歯槽骨の歯根保持部に要素歯根部72aを挿入したあと要素歯根部72bを挿入する際に両者が相互にかみ合うようにしてもよい。
図9Aないし図9Bは、この発明のさらに他の実施形態による人工歯根77を有する歯科用インプラント75を説明するための図面である。図9Aは、インプラント75を植立する前(すなわち抜歯前)の歯11を示す図面である。歯11は、湾曲した歯根12を有している。この実施形態においても、説明の便宜上、歯11を保持する歯槽骨の記載を省略しているが、当該歯槽骨の歯根保持部は、この歯11を保持する湾曲した1つの歯根保持穴により構成されているものとする。
図9Bに示すように、人工歯根77は、上述の歯11を保持する歯槽骨の歯根保持部に別個に挿入可能な複数(この例では2つ)の要素歯根部77a,77bを備えている。要素歯根部77a,77bを結合したときに、全体として、実質的に上述の歯11を保持する歯槽骨の歯根保持部に対応する形状(すなわち、実質的に当該歯根保持部の形状をそのまま反転した形状)となるよう構成されている。歯科用インプラント75は、それぞれ別体として形成された要素歯根部77a,77bを備えた人工歯根77と、人工歯根77と別体として成形されたアバットメント76と、を備えている。これらは、いずれも歯科用インプラント材料により構成されており、上述の例と同様に、歯槽骨の歯根保持部に挿入後、または挿入と同時に、所定の結合手段によって相互に結合される。
つぎに、歯科用インプラント75の製造方法について説明する。なお、説明の便宜上、抜歯前の歯11を保持する歯槽骨の歯根保持部の説明に代えて、歯11の歯根12について説明することがある。図9Aに示す歯11の場合、歯根12が湾曲していることに加え、図9Bに示すように、歯11の近傍に(この例では、歯11の両脇にこれにほぼ接するように)残存歯17があることから人工歯根の挿入方向が制限されるので、歯根12の形状をそっくり模した形状の一体化した人工歯根だと、元の歯根保持部に挿入不能となってしまう。たとえば、図9Bに示す要素歯根部77bに該当する箇所が障害となって、元の歯根保持部に挿入不能となる。
そこで、まず、周囲の残存歯17との位置関係から割り出された人工歯根77の挿入可能方向範囲および歯根12の形状等に基づいて、要素歯根部の数および各要素歯根部の境界を設定する。要素歯根部の数および境界の設定方法はとくに限定されるものではないが、各要素歯根部を結合したときに全体として実質的に歯槽骨の歯根保持部に対応する形状となることを前提として、要素歯根部の数が、歯槽骨の歯根保持部に個別に挿入可能な最少個数となるように設定するのが好ましい。この点も、上述の例と同様である。たとえば、歯11の歯根12の形状をそっくり模した形状の一体化した人工歯根を元の歯根保持部に挿入すると仮定した場合に障害となる箇所の数に「1」を加えた個数と同数の要素歯根部を設けるとともに、各要素歯根部が所定順序で元の歯根保持部に全て挿入可能となるよう、各要素歯根部の境界を設定すればよい。
この例では、元の歯根保持部に挿入すると仮定した場合に障害となる箇所の数(上記要素歯根部77bに該当する箇所1カ所)に「1」を加えた個数(2つ)の要素歯根部77aおよび77bを設けるとともに、要素歯根部77a、77bがこの順序で元の歯根保持部に2つとも挿入可能となるよう、要素歯根部部77a、77bの境界77dを設定している。境界77dは、実質的に、人工歯根77のうち、元の歯根保持部に挿入すると仮定した場合に障害となる部分とそれ以外の部分との境界に一致するが、各要素歯根77a、77bの結合の容易性、形成の容易性、強度等を考慮して補正される。この例では、境界77dは2つの平面によって構成されている。
人工歯根77の挿入可能方向範囲、要素歯根部の数および各要素歯根部の境界の設定は、たとえば、3次元スキャナ21の測定データに基づいて加工用データ生成部22において自動的に設定したり歯科医が設定したりすることができるのは、上述の例と同様である。
このようにして設定された人工歯根77の挿入可能方向範囲、各要素歯根部の数および境界並びに歯11の歯根12の測定データに基づいて、加工用データ生成部22において、各要素歯根部77a、77bの3次元モデルを含む加工データが、個別に生成される。これらの加工データに基づいて、3次元加工装置23を用いて、要素歯根部77a、77bをそれぞれ成形したり、必用な場合に、骨成長促進処理加工装置24を用いて骨成長促進処理を施したりするのも、上述の各実施形態の場合と同様である。
このようにして別々に成形された要素歯根部77a、77bは、抜歯後の歯槽骨の歯根保持部に別個に挿入後、または挿入と同時に所定の結合手段によって結合される。結合手段はとくに限定されるものではないが、図9Bにおいては、結合手段としてネジが例示されている。すなわち、歯根保持部に後に挿入される要素歯根部77bの適部(この例では上端部)に雌ねじ78が形成されており、要素歯根部77a、77bをこの順に歯槽骨の歯根保持部に挿入したあと、アバットメント76の適部(この例では中央部)に設けられた(段付きの)貫通穴を介して、ボルト79を雌ねじ78にねじ込む。このようにして、アバットメント76の下端部で要素歯根部77aの上端部を押さえ込みつつ、アバットメント76と要素歯根部77bとを結合することで、一体化された歯科用インプラント75が得られる。
歯槽骨の歯根保持部の内部で人工歯根77を一体化することにより、人工歯根77を含む歯科用インプラント75を、歯槽骨の歯根保持部から機械的に離脱不能とすることができる。すなわち、このように構成することで、回転方向のみならず、挿入方向についても、歯科用インプラント75と歯槽骨との初期固定力を確保することができる。なお、埋入後、歯槽骨の歯根保持部と要素歯根部77a、77bとの骨融合が進むと、要素歯根部77a、77bは、ネジなどの結合手段に頼ることなく、歯槽骨を介して結合されることになるのは、上述の例と同様である。
なお、要素歯根部77a、77bの結合方法がネジに限定されるものではないことも上述場合と同様である。たとえば、上述のボルト79に代えてピンを用いてもよい。また、要素歯根部77a、77bの境界部に、たとえば、蟻溝のようなかみ合わせ部を設けておき、歯槽骨の歯根保持部に要素歯根部77aを挿入したあと要素歯根部77bを挿入する際に両者が相互にかみ合うようにしてもよい。
このように、複数の歯根12a、12b、12cを有する歯(図7A参照)や、1本の歯根12のみで構成されている歯であっても歯根が極度に湾曲している歯(図8A参照)等のように、その歯の歯根の形状自体に原因がある場合はもちろん、図9Bに示すように、残存歯17との位置関係に原因がある場合も含め、歯根保持穴の形状をそっくり反転した形状の人工歯根だと元の歯根保持部に挿入不能となってしまうような場合であっても、人工歯根を分割して形成しておき、歯根保持部に順次挿入するよう構成することで、人工歯根と歯槽骨の歯根保持部との接触面積を最大限に確保することができるので、好都合である。
図10Aないし図10Bは、この発明のさらに他の実施形態による人工歯根82を有する歯科用インプラント80を説明するための図面である。図10Aに示すように、歯科用インプラント80は、アバットメント81と人工歯根82とを、歯科用インプラント材料を用いて一体に形成したものである点で、図4Aに示す歯科用インプラント30と共通しているが、人工歯根82の一部に抜け止め用の突起83が設けられている点で、歯科用インプラント30と異なる。
突起83の形状はとくに限定されるものではないが、たとえば、人工歯根82の歯根保持部7への挿入方向Q1に対して鈍角をなすよう構成された面83aと、人工歯根82の歯根保持部7からの抜き方向R1に対して上記鈍角より小さい角(たとえば、非鈍角、すなわち直角または鋭角)をなすよう構成された面83bとを有するものとすることができる。このように構成することで、歯槽骨5の歯根保持部7に対して挿入しやすく、かつ、抜けにくい人工歯根82を実現することができる。突起83の高さ(挿入方向Q1にほぼ直交する方向の寸法)や厚さ(挿入方向Q1にほぼ平行な方向の寸法)は、人工歯根82を歯槽骨5の歯根保持部7に挿入可能で、かつ、抜け止めの効果が得られるのであれば、とくに限定されるものではない。
突起83を設ける位置はとくに限定されるものではないが、たとえば、人工歯根82の長手方向中央よりも上方(アバットメント81のある方向)に設けるのが好ましい。より好ましくは、人工歯根82の長手方向上端(人工歯根82とアバットメント81との境界)から下方に、人工歯根82の長さの1/5ないし1/3の距離を隔てた位置である。
また、図10Aの例では、突起83は、人工歯根82の長手方向の1カ所(人工歯根82の長手方向上端から下方に、人工歯根82の長さの1/4程度の距離を隔てた位置)にだけ設けているが、たとえば、突起83を、人工歯根82の長手方向の2カ所以上に設けるようにしてもよい。
また、突起83は、人工歯根82の周りに環状に形成された連続した鍔状のものであってもよいし、人工歯根82の周りに環状に配置された複数の棘状のものであってもよい。
歯科用インプラント80の製造方法は、突起83に関する部分を除き、上述の歯科用インプラント30の場合とほぼ同様である。突起83の形状、数、位置等は、たとえば、3次元スキャナ21の測定データに基づいて加工用データ生成部22において自動的に設定したり歯科医が設定したりすることができる。
このようにして設定された突起83を含む人工歯根82の3次元モデルを含む加工データに基づいて、3次元加工装置23を用いて、歯科用インプラント80を成形したり、必用な場合に、骨成長促進処理加工装置24を用いて骨成長促進処理を施したりするのは、上述の各実施形態の場合と同様である。
図10Bに示すように、歯科用インプラント80を、抜歯後の歯槽骨5の歯根保持部7に挿入すると、突起83の作用で抜き方向R1に移動しにくくなるため、回転方向のみならず、挿入方向(抜き方向)についても、歯科用インプラント80と歯槽骨5との初期固定力を確保しやすくなる。
図11Aないし図11Cは、この発明のさらに他の実施形態による人工歯根92を説明するための図面である。人工歯根92は、歯科用インプラント材料により構成されており、図11Aに示すように、実質的に、図4Aに示す歯科用インプラント30からアバットメント31を除去した形状を呈している。ただし、人工歯根92の上端(アバットメント側端)には、結合部93(この例では雌ねじ)が形成されている。
結合部93の位置および/または形状は、3次元スキャナ21の測定データに基づいて加工用データ生成部22において自動的に設定したり歯科医が設定したりすることができる。人工歯根92の3次元モデルを含む加工データに基づいて、3次元加工装置23を用いて人工歯根92を成形したり、必用な場合に、骨成長促進処理加工装置24を用いて骨成長促進処理を施したりするのは、上述の各実施形態の場合と同様である。
このようにして形成された人工歯根92は、図11Cに示すように、歯科用インプラント材料を用いて形成されたアバットメント91と結合することによって、歯科用インプラント90を構成することができる。アバットメント91の下端には結合部(この例では雄ねじ)が形成されており、この結合部と人工歯根92の結合部93とを結合することにより、アバットメント91と人工歯根92とを結合させるのである。
人工歯根92は、歯科用インプラントの一部として用いる以外に、たとえば、図11Bに示すように、抜歯後の歯槽骨5の痩せを防止する等の目的で、歯槽骨5の歯根保持部7(抜歯窩)を埋める手段として用いることもできる。図11Bの例では、歯槽骨5の歯根保持部7に埋入した人工歯根92の上端を、たとえば歯科用インプラント材料を用いて形成されたキャップ94で覆ったあと、歯肉10で被覆する。キャップ94の下端には結合部(この例では雄ねじ)が形成されており、この結合部と、人工歯根92の結合部93とを結合することにより、キャップ94と人工歯根92とを結合させるのである。
入れ歯を装着する場合、図11Bのような用い方をすることで歯槽骨5の痩せを防止し、これによって、入れ歯装着時の不具合等を防止することが可能となる。さらに、インプラント治療に切り換えたいときには、被っている歯肉10を除去し、人工歯根92からキャップ94を外して、図11Cに示すように、アバットメント91を取り付けるだけでよいので、治療の迅速化が図ることができ、好都合である。
さらに、図11Bのような用い方をすることで、たとえばGBR法のような修練を必用とすることなく、短期間で歯槽骨5の抜歯窩を固形物で満たすことができる。したがって、たとえば、抜歯窩の露出によるドライソケットの発生や歯槽骨5の痩せを、簡単な施術で防止することが可能となる。また、短期間のうちに入れ歯の型取りが可能となることから、入れ歯の完成までの時間を、大幅に短縮することができる。
図12Aないし図12Cは、この発明のさらに他の実施形態による人工歯根102を説明するための図面である。人工歯根102は、上述の各実施形態と異なり、ハイドロキシアパタイト等の骨代用物質により構成されている。図12Bに示すように、人工歯根102の形状は、図11Aに示す人工歯根92とほぼ同じである。ただし、人工歯根102の上端には、ネジ等の結合部が形成されておらず、平坦である。
上述の各実施形態の場合と同様に、たとえば、図12Aに示すような抜歯前の歯11の歯根12の3次元形状を表す情報、および/または、歯槽骨5の歯根保持部7の3次元形状を表す情報等を含む測定データを、3次元スキャナ21を用いて取得する。上述の各実施形態の場合と同様に、既に抜歯済みの歯槽骨5から測定データを取得することもできる。取得した測定データに基づいて、加工用データ生成部22において人工歯根102の3次元モデルを含む加工データが生成され、この加工データに基づいて、3次元加工装置23を用いて、人工歯根102が成形されるのも、上述の各実施形態の場合と同様である。
このようにして形成された人工歯根102は、図12Cに示すように、抜歯後の歯槽骨5の痩せを防止する等の目的で、歯槽骨5の歯根保持部7(抜歯窩)を埋める手段として用いられる。人工歯根102を歯槽骨5の歯根保持部7に埋入したあと、歯肉10で被覆する。
入れ歯を装着する場合、人工歯根102を用いることで、歯槽骨5の痩せを防止し、これによって、入れ歯装着時の不具合等を防止することができる。さらに、人工歯根102は骨代用物質により構成されているので、施術後所定期間経過すると歯槽骨5と一体化する。このため、インプラント治療に切り換えたいときには、人工歯根102と一体化した歯槽骨5にインプラント窩を穿けることで、従来のインプラント治療も可能となる。
さらに、人工歯根102を用いることで、たとえばGBR法のような修練を必用とせず、短期間で歯槽骨5の歯根保持部7に骨組織を造成することができる。したがって、たとえば、抜歯窩の露出によるドライソケットの発生や歯槽骨5の痩せを、簡単な施術で防止することが可能となる。また、短期間のうちに入れ歯の型取りが可能となることから、抜歯窩に骨組織を造成する場合における入れ歯の完成までの時間を、大幅に短縮することができる。
図13Aないし図13Bは、この発明のさらに他の実施形態による人工歯根112を説明するための図面である。人工歯根112は、図12Bに示す人工歯根102と同様に、ハイドロキシアパタイト等の骨代用物質により構成されている。図13Aに示すように、人工歯根112の形状は、図12Bに示す人工歯根102とほぼ同じである。ただし、人工歯根112の上端には、鍔113が形成されている点で、人工歯根102と異なる。
人工歯根112に鍔113を設けることで、図13Bに示すように、歯槽骨5の歯根保持部7と人工歯根112との間に歯肉10の上皮細胞が侵入する可能性を一層低くし、歯槽骨5と人工歯根112との融合をより確実なものとすることができる。
鍔113の形状、寸法はとくに限定されるものではなく、たとえば、歯槽骨5の歯根保持部7と人工歯根112との隙間を塞ぐ程度のものでもよいし、歯槽骨5の歯根保持部7の上端部を覆う程度のものでもよい。鍔113の形状、寸法は、たとえば、3次元スキャナ21の測定データに基づいて、加工用データ生成部22において自動的に決定させたり歯科医が決定したりする。
なお、上述の各実施形態においては、3次元スキャナと加工用データ生成部と3次元加工装置とを用いて、歯槽骨の歯根保持部の3次元形状に対応する3次元形状を有する人工歯根を成形する方法を例に説明したが、歯槽骨の歯根保持部の3次元形状に対応する3次元形状を有する人工歯根を成形する方法は、これに限定されるものではない。たとえば、3次元スキャナにより得られた測定データに基づいて、歯槽骨の歯根保持部の形状に対応する形状の鋳型を成形し、この鋳型に基づいて上記人工歯根を鋳造するようにしてもよいし、3次元スキャナにより抜歯後の歯の測定データを取得し、この測定データに基づいて、上記人工歯根を形成するようにしてもよいし、抜歯後の歯を印象して上記人工歯根を形成するようにしてもよい。また、これらの方法を組み合わせて上記人工歯根を形成するようにしてもよい。
上記においては、本発明を好ましい実施形態として説明したが、各用語は、限定のために用いたのではなく、説明のために用いたものであって、本発明の範囲および精神を逸脱することなく、添付のクレームの範囲において、変更することができるものである。また、上記においては、本発明のいくつかの典型的な実施形態についてのみ詳細に記述したが、当業者であれば、本発明の新規な教示および利点を逸脱することなしに上記典型的な実施形態において多くの変更が可能であることを、容易に認識するであろう。したがって、そのような変更はすべて、本発明の範囲に含まれるものである。