JP4336057B2 - 動弁装置の可変バルブタイミング機構 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、DOHC型式の4サイクルエンジンにおいてバルブの開閉タイミングを変えるためにカム軸の回転位相を変えるようにした動弁装置の可変バルブタイミング機構に関し、特に、吸気カム軸に設置される一つの機構により吸気カム軸と排気カム軸の両方の回転位相を変えるようにした可変バルブタイミング機構に関する。
【0002】
【従来の技術】
バルブシステムがDOHC型式の4サイクルエンジンでは、吸気バルブや排気バルブの開閉タイミングをエンジンの運転状態に応じて変えるための手段として、クランク軸の駆動回転に対する吸気カム軸や排気カム軸の回転位相を、ソレノイドによる油圧の切り換え制御により変えるようにした、所謂動弁装置の可変バルブタイミング機構(VVT)が従来から知られている。
【0003】
そして、そのような動弁装置の可変バルブタイミング機構を使用して、燃費向上を目的とした吸・排気同時遅角制御と、トルク向上を目的とした吸気進角制御の両方の制御を行なう場合、例えば、プライマリチェーンでクランク軸と排気カム軸を連係させると共にセカンダリチェーンで排気カム軸と吸気カム軸を連係させた排気カム軸駆動の二段掛けチェーンレイアウトのものがある。これは、排気側の動弁装置の可変バルブタイミング機構により吸・排気同時遅角の制御を行い、吸気側の動弁装置の可変バルブタイミング機構により吸気進角の制御を行なうという方法をとっている。またプライマリチェーンでクランク軸と吸気カム軸を連係させると共にセカンダリチェーンで吸気カム軸と排気カム軸を連係させた吸気カム軸駆動の二段掛けチェーンレイアウトとし、吸・排気同時遅角制御と吸気進角制御の両方を行うようにしたものもある。
【0004】
さらにまた、同じタイミングチェーンによりクランク軸と排気カム軸と吸気カム軸とを連係させた一段掛けチェーンレイアウトとしたものもある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、動弁装置の可変バルブタイミング機構を用いて吸・ 排気同時遅角制御と吸気進角制御の両方を行う場合、上記のような従来の方法によれば、何れの場合についても、吸気カム軸側と排気カム軸側にそれぞれ動弁装置の可変バルブタイミング機構を設置することが必要となり、また、それぞれの動弁装置の可変バルブタイミング機構を個別のソレノイドにより制御することが必要となる。
【0006】
これに対して、例えば、吸気カム軸駆動の二段掛けチェーンレイアウトとして、吸気カム軸の側にだけ動弁装置の可変バルブタイミング機構を設置し、この一つの動弁装置の可変バルブタイミング機構によって吸気進角制御と吸・排気同時遅角制御の両方を行うということが検討されており、そうすることで、排気カム軸に動弁装置の可変バルブタイミング機構を設置する必要がなく、エンジンを軽量化、コンパクト化することができ、また、排気側で動弁装置の可変バルブタイミング機構やそれに関連するソレノイドやオイル通路が不要となるため、コストの削減を図ることができる。
【0007】
しかしながら、一つの動弁装置の可変バルブタイミング機構により吸・排気同時遅角制御と吸気進角制御の両方を行うためには、その動弁装置の可変バルブタイミング機構の構成部品である吸気制御用と排気制御用の各ベーンロータについて、一つのソレノイドによる油圧切り換え制御により、排気制御用ベーンロータを初期位置と遅角位置の回動範囲で作動させると共に、吸気制御用ベーンロータを、回動範囲の中間部を初期位置として進角位置と遅角位置の回動範囲で作動させるということが必要となってくる。
【0008】
ところが、そうした場合、吸気制御用ベーンロータの初期位置が、該ベーンロータの回動範囲の中間部に位置することとなって、吸・ 排気同時遅角制御や吸気進角制御を行っていない通常のエンジン運転時において、ソレノイドからの油圧による制御だけでは、回動範囲の中間部にある初期位置で吸気制御用ベーンロータを安定して保持することが実際上は不可能となる。
【0009】
本発明は、上記のような問題の解消を課題とするものであり、具体的には、1つの可変バルブタイミング機構により吸・排気同時遅角制御と吸気進角制御の両方を行うことができるようにするとともに、吸気制御用のベーンロータを初期位置に確実に保持できるようにした動弁装置の可変バルブタイミング機構を提供することを課題とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、クランク軸により回転駆動される吸気側カム軸と、該吸気側カム軸により回転駆動される排気側カム軸とを介して吸気バルブ,排気バルブを開閉するとともに、該吸気,排気バルブのそれぞれの開閉タイミングをエンジンの運転状態に応じて可変制御するようにした動弁装置の可変バルブタイミング機構において、
上記クランク軸の回転が伝達されるロータハウジングを上記吸気側カム軸に相対回転可能に装着し、該ロータハウジング内に吸気側,排気側ベーンロータを該ロータハウジングに対して相対回転可能に、かつ同軸をなしさらに同一の油圧が作用するように配設し、吸気側ベーンロータを上記吸気側カム軸に固定し、上記排気側ベーンロータを排気カム軸に共に回転するよう連結し、上記吸気側,排気側ベーンロータの両方をロータハウジングに固定することにより初期位置に位置させるとともに、該吸気側,排気側ベーンロータの両方をロータハウジングへの固定を解除することにより上記初期位置より遅角側に移動させる吸気・排気同時遅角位置と、上記吸気側ベーンロータをロータハウジングへの固定を解除することにより上記初期位置より進角側に回動させる吸気進角位置とのいずれかに切り換えて回動させる位相切り換え手段を備えたことを特徴としている。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1において、上記位相切り換え手段は、油圧により、上記吸気側ベーンロータを上記初期位置から遅角側又は進角側に回動させ、上記排気側ベーンロータを上記初期位置から遅角側に回動させる油圧駆動機構と、上記吸気側,排気側ベーンロータ同士を固定するか,又は該両ベーンロータをロータハウジングに固定するロックピン部材と、該ロックピン部材を、上記初期位置では上記吸気側及び排気側ベーンロータの両方をロータハウジングに固定するよう移動させ、吸気・排気同時遅角位置では吸気側,排気側ベーンロータ同士を固定するよう移動させ、吸気進角位置では吸気側ベーンロータのロータハウジングへの固定を解除するロックピン切り換え機構とを備えていることを特徴としている。
【0012】
【発明の作用効果】
請求項1の発明にかかる可変バルブタイミング機構によれば、クランク軸で駆動されるロータハウジングを吸気側カム軸に装着し、該ロータハウジング内に吸気側カム軸に連結される吸気側ベーンロータと、排気側カム軸に連結される排気側ベーンロータとを収納し、吸気側及び排気側ベーンロータの両方を初期位置から遅角側に回動可能とし、吸気側ベーンロータのみを初期位置から進角側に回動可能としたので、一つの可変バルブタイミング機構で吸気側,排気側カム軸の両方の回転位相を変えることができ、吸気,排気バルブの同時遅角と、吸気バルブの進角を実現することができる。その結果、両方のカム軸に可変バルブタイミング機構を設置する場合に比べてエンジンを軽量化できるとともに、コンパクト化でき、またそれに関連するソレノイドやオイル通路が不要となることから、コストの削減を図ることができる。
【0013】
また本発明では、初期位置では吸気側,排気側ベーンロータの両方をロータハウジングに固定し、吸気・排気同時遅角位置に回動させるときには両ベーンロータのロータハウジングへの固定を解除し、吸気進角位置に回動させるときには吸気側のベーンロータのロータハウジングへの固定を解除するようにしたので、吸気側ベーンロータについてもその中間位置である初期位置に確実に保持でき、また吸気,排気バルブの同時遅角及び吸気バルブの進角についても安定した位相の切り換えを行なうことができる。
【0014】
請求項2の発明では、両方のベーンロータ同士を固定するか,又は両方のベーンロータをロータハウジングに固定するロックピン部材を設け、油圧式のロックピン切り換え機構によりロックピン部材を、上記初期位置のときには上記吸気側及び排気側のベーンロータの両方をロータハウジングに係合するよう移動させ、吸気・排気同時遅角位置のときには上記両方のベーンロータのロータハウジングへの固定を解除し、吸気進角位置のときには両方のベーンロータ同士の固定を解除するようにしたので、通常のエンジン運転時で吸気側のベーンロータと排気側のベーンロータが共に初期位置にある時には、ロックピン部材が両ベーンロータをロータハウジングに係合して固定することで、回動範囲の中間部にある吸気側のベーンロータは、ロックピン部材により初期位置に確実に固定保持される。
【0015】
そして、吸気側ベーンロータと排気側ベーンロータが共に初期位置にある初期状態から吸気進角制御が開始されるときには、油圧切り換え機構により、上記両方のベーンロータ同士の固定が解除され、フリーとなった吸気側ベーンロータだけが、初期位置から進角位置に回動する。
【0016】
また、初期状態から吸・ 排気同時遅角制御が開始されるときには、両方のベーンロータのロータハウジングへのロックピン部材による固定が解除され、かつロックピン部材により一体的に連結された状態で初期位置から遅角位置に回動する。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形の形態について図面に基づいて説明する。
【0018】
図1ないし図7は、本発明の一実施形態による動弁装置の可変バルブタイミング機構を説明するための図であり、図1は動弁装置の可変バルブタイミング機構の主要構成部品の分解斜視図、図2は気筒軸方向平面で見た可変バルブタイミング機構の断面図、図3は可変バルブタイミング機構の第1ベーンロータの断面図(図2のIII-III 線断面図)、図4は第2ベーンロータの断面図(図2のIV-IV 線断面図)、図5は各ベーンロータの遅角,進角動作を示す図、図6は可変バルブタイミング機構が配設されたV型4サイクルエンジンの概略正面図、図7は可変バルブタイミング機構による遅角,進角動作を示す図である。
【0019】
本実施形態の動弁装置の可変バルブタイミング機構は、バルブシステムがDOHC形式である4サイクルエンジンの吸気カム軸に対して設置されるものであり、位相切り換え手段により油圧切り換え機構(不図示)を介して後述する吸気側,排気側ベーンロータを初期位置,吸気・排気同時遅角位置,吸気進角位置の間で切り換え制御を行なうことによって、クランク軸の角度位置に対する吸気カム軸と排気カム軸の回転位相(相対角度位置)をそれぞれ変えるようにしたものである。
【0020】
本実施形態の可変バルブタイミング機構が設置されるエンジン11は、4サイクルV型8気筒エンジンであり、これはシリンダブロック12の下合面に共通のクランクケース13を接続するとともに、Vバンクをなすように一体形成された左右のシリンダ部12a,12aの上合面にシリンダヘッド14を接続した概略構造のものである。上記各シリンダヘッド14のVバンク内側には各気筒ごとに2本の吸気バルブ14aが、Vバンク外側には各気筒ごとに2本の排気バルブ14bがそれぞれ吸気,排気ポートを開閉可能に配設されている。
【0021】
上記シリンダヘッド14には上記吸気バルブ14a,排気バルブ14bをそれぞれ開閉駆動する吸気カム軸2,排気カム軸20がクランク軸15と平行に配設されている。そして上記クランク軸15の駆動回転がプライマリーチェーン16から可変バルブタイミング機構を介して吸気カム軸2に伝達され、吸気カム軸2の回転が該可変バルブタイミング機構からセカンダリーチェーン17を介して排気カム軸20に伝達される。これは所謂吸気カム軸駆動の二段掛けチェーンレイアウトによるものであって、排気カム軸20には可変バルブタイミング機構は設置されていない。
【0022】
上記可変バルブタイミング機構1は、ロータハウジング3を構成するロータハウジング前端部材31,ロータハウジング本体32,ロータハウジング後端部材33と、吸気制御用の吸気側ベーンロータ4と、排気制御用の排気側ベーンロータ5と、排気カム軸20に連係するカム軸連係部材6と、吸気側ベーンロータ4を初期位置に保持するためのロックピン部材7と、ロータハウジング3と吸気カム軸2の間に介装される板巻きバネ8(バネ係止用ピン81,82を含む)と、各連結ボルト9,10を構成部品とするものである。
【0023】
可変バルブタイミング機構1では、油圧切り換え機構を構成するソレノイドバルブ(図示せず)から油圧が供給されるオイル通路21,22が形成された吸気カム軸2の前端部分に対して、吸気側ベーンロータ4が連結ボルト9により一体的に固着されており、吸気側ベーンロータ4の後側には、前部の外周面にスプライン歯6aを有するカム軸連係部材6が、吸気カム軸2に相対回動可能に嵌挿されていて、カム軸連係部材6の後端部の外周面には、排気カム軸20と連係するためのセカンダリチェーン17を巻回するセカンダリスプロケット61が一体的に形成されている。
【0024】
また、吸気側ベーンロータ4の後側で、カム軸連係部材6の前部外側には、内周面にスプライン歯5aを有する排気側ベーンロータ5が、カム軸連係部材6のスプライン歯6aにスプライン嵌合により相対回動不能に連結されていて、吸気側ベーンロータ4と排気側ベーンロータ5は、互いに摺接するように軸線方向で前後して配設されている。なお、図2では、図面の上方をエンジン前方とし、図面の下方をエンジン後方としている。
【0025】
一方、上記吸気側ベーンロータ4と排気側ベーンロータ5を収納するためのロータハウジング3が、前端部材31とロータハウジング本体32と後端部材33を連結ボルト10で一体的に連結することによって形成されており、ロータハウジング3の後端部材33の外周部には、クランク軸15の回転駆動を伝達するプライマリチェーン16を巻回するためのプライマリスプロケット34が形成されている。
【0026】
上記吸気側ベーンロータ4と排気側ベーンロータ5は、上記ロータハウジング3内に、それぞれが所定の回動範囲で相対回動可能に収納されており、吸気側ベーンロータ4が固着された吸気カム軸2に対して、ロータハウジング3及びカム軸連係部材6は、それぞれ同軸上で相対回動可能に配設されている。また、カム軸連係部材6の後部はロータハウジング3から後方に突出していて、該突出部に形成されたセカンダリスプロケット61は、ロータハウジング3の後端部材33に形成されたプライマリスプロケット34よりも後方に位置している。
【0027】
なお、ロータハウジング3の前面側(前端部材31の前方)で、プライマリスプロケット34を備えたロータハウジング3と、吸気カム軸2に固着された吸気側ベーンロータ4の間には、板巻きバネ8が介装されていて、板巻きバネ8の一端側を固定するバネ係止用ピン81がロータハウジング前端部材31に固着され、板巻きバネ8の他端側を固定するバネ係止用ピン82が、ロータハウジング前端部材31に形成された円周方向の長孔31aを貫通して、吸気側ベーンロータ4に固着されている。
【0028】
そのようにロータハウジング3と吸気側ベーンロータ4の間に板巻きバネ8が介装されていることで、クランク軸15の回転駆動が伝達されるプライマリスプロケット34を一体的に設けたロータハウジング3と、吸気側ベーンロータ4を固着した吸気カム軸2との間で、回転位相が初期状態から遅角側又は進角側に変えられた場合、両者の間の回転位相を初期状態に戻そうとする付勢力が、板巻きバネ8の復元バネ力によって働くようになっている。
【0029】
上記可変バルブタイミング機構1のロータハウジング3内に収納されている各ベーンロータ4,5のうち吸気側ベーンロータ4は、図3に示すように、回動範囲の中間部にその初期位置が設定されており、この状態から遅角位置まで,及び進角位置までの両方向に回動が許容されている。一方排気側ベーンロータ5は、図4に示すように、回動範囲の一端にその初期位置が設定され、この状態から遅角位置まで一方向にのみ回動が許容されている。なお、図2〜図4は、各ベーンロータ4,5がそれぞれ初期位置にある状態を示している。
【0030】
各ベーンロータ4,5のそれぞれの回動範囲について更に具体的に説明すると、各ベーンロータ4,5を収納するロータハウジング3のロータハウジング本体32の内周面には、図3,図4にそれぞれ示すように、内方に突出する隔壁部分32a,32bが、円周方向で等間隔に複数個(本実施形態では4個)形成されている。ベーンロータ4,5の回動中心部であるロータ部分41,51の外周面に摺接する隔壁部分32a,32bは、ロータハウジング本体32の軸線方向略中央から前方の隔壁部分32aと後方の隔壁部分32bで円周方向の長さ(隔壁の厚さ)が異なるようにそれぞれ形成されている。
【0031】
それにより、ロータハウジング本体32の軸線方向中央よりも前方では、図3に示すように、隔壁部分32a自体の円周方向の長さを小さく(隔壁部分32aの厚さを薄く)して、円周方向で隣合う隔壁部分32a同士の間隔(油室の長さ)を長くし、油室内(隣合う隔壁部分32a,32aの間)で往復移動するベーン部分(吸気側ベーンロータ4のベーン部分)42の移動可能距離を大きくすることで、吸気側ベーンロータ4の回動範囲が大きく許容されている。
【0032】
また、ロータハウジング本体32の軸線方向中央よりも後方では、図4に示すように、隔壁部分32b自体の円周方向の長さを大きく(隔壁部分32bの厚さを厚く)して、円周方向で隣合う隔壁部分32b同士の間隔(油室の長さ)を短くし、油室内(隣合う隔壁部分32b,32bの間)で往復移動するベーン部分(排気側ベーンロータ5のベーン部分)52の移動可能距離を小さくすることで、排気側ベーンロータ5の回動範囲が小さく許容されている。
【0033】
上記のようにロータハウジング3と各ベーンロータ4,5の間で隔壁部分32a,32bにより区画されて形成されている各油室のそれぞれでは、各ベーンロータ4,5のベーン部分42,52を境として、その一側が遅角側油室R(進角方向に作動させるための油室)となり、他側が進角側油室A(遅角方向に作動させるための油室)となって、吸気側ベーンロータ4のロータ部分41には、吸気カム軸2のオイル通路21と遅角側油室Rを連通させるためのオイル通路43と、吸気カム軸2のオイル通路22と進角側油室Aを連通させるためのオイル通路44とがそれぞれ形成されている。
【0034】
また、各ベーンロータ4,5のベーン部分42,52には、一対のベーン部分42,52の遅角側端部で、排気側ベーンロータ5の側にストッパーピン55が形成され、吸気側ベーンロータ4の側に溝状のストッパーピン受部45が形成されている。吸・排気同時遅角制御の時には、ストッパーピン55とストッパーピン受部45を当接させることで、吸気側ベーンロータ4と排気側ベーンロータ5を連動して作動させ、吸気進角制御の時には、ストッパーピン55からストーパーピン受け部45が離れることで、吸気側ベーンロータ4だけを作動させることができるようにしている。
【0035】
さらに、各ベーンロータ4,5とロータハウジング3には、対向する一対のロックピン7a,7bとその間に介装されるスプリング7cとからなる伸縮可能なロックピン部材7が、各ベーンロータ4,5が初期位置の状態において、吸気側ベーンロータ4を回動範囲の中間部にある初期位置で保持するために、排気側ベーンロータ5を貫通して吸気側ベーンロータ4とロータハウジング3(後端部材33)のそれぞれに係合するように設けられている。
【0036】
また、ロックピン部材7と係合する吸気側ベーンロータ4とロータハウジング3(後端部材33)のそれぞれには、図5(A)〜図5(C)に示すように、吸気側ベーンロータ4に形成された係合用凹部48に対して、遅角側油室Rと連通させるためのオイル通路46が形成され、またロータハウジング3(後端部材33)に形成された係合凹部38に対して、進角側油室Aと連通させるためのオイル通路37,47が形成されている。
【0037】
上記のような構成を備えた本実施形態の可変バルブタイミング機構1によれば、図5(B)に示すように、吸気側ベーンロータ4と排気側ベーンロータ5がそれぞれ初期位置にある状態では、ロックピン部材7が排気側ベーンロータ5を貫通して吸気側ベーンロータ4とロータハウジング3のそれぞれに係合していることから、回動範囲の中間部にある吸気側ベーンロータ4を、ロックピン部材7により初期位置に確実に固定保持しておくことができる。
【0038】
そして、吸気進角制御を開始すると、各ベーンロータ4,5が共に初期位置にある初期状態から、遅角側油室Rに作動油が導入され遅角側油室Aから作動油が排出されることで、図5(A)に示すように、先ず、遅角側油室Rからオイル通路46を通して吸気側ベーンロータ4の係合用凹部48に油圧が作用して、ロックピン7aが没入してロックピン部材7と吸気側ベーンロータ4との係合が解除され、その後、フリーな状態となった吸気側ベーンロータ4だけが、遅角側油室Rからの油圧によりロータハウジング3内の進角位置にまで移動する。
【0039】
また、吸・ 排気同時遅角制御を開始すると、各ベーンロータ4,5が共に初期位置にある初期状態から、進角側油室Aに作動油が導入され遅角側油室Rから作動油が排出されることで、図5(C)に示すように、先ず、進角側油室Aからオイル通路47,37を通してロータハウジング3(後端部材33)の係合凹部38に油圧が作用して、ロックピン7bが没入してロックピン部材7とロータハウジング3(後端部材33)との係合が解除され、その後、ロックピン部材7で連結された吸気側ベーンロータ4と排気側ベーンロータ5とが共に、進角側油室Aからの油圧によりロータハウジング3内の遅角位置にまで移動する。
【0040】
図7は、吸気,排気バルブのタイミング動作を示している。図中、(D)は1つのタイミングチェーンによりクランク軸と吸気,排気カム軸を連結した一段掛けチェーンレイアウトを示しており、(E)はプライマリチェーンによりクランク軸と排気カム軸とを連結するとともにセカンダリチェーンにより排気カム軸と吸気カム軸とを連結した排気側二段掛けチェーンレイアウトを示しており、(F)はプライマリチェーンによりクランク軸と吸気カム軸とを連結するとともにセカンダリチェーンにより吸気カム軸と排気カム軸とを連結した吸気側二段掛けチェーンレイアウトを示している。なお、上記(D),(E)は吸気,排気カム軸にそれぞれ可変バルブタイミング機構を配置した従来例を示しており、(F)は吸気カム軸にのみ可変バルブタイミング機構を配置した本実施形態を示している。また(a)は吸気・排気同時遅角動作を、(b)は初期位置状態を、(c)は吸気進角動作を示している。
【0041】
エンジン運転領域が、例えば、低負荷低回転域又は高負荷高回転域にあるときには、排気カム軸及び吸気カム軸の両方の回転位相を位相角度0度の初期位置に保持する(イニシャルb)。中負荷中回転域にあるときには、燃費の向上を図るために排気カム軸,吸気カム軸の回転位相をαだけ遅角させる(同時リタードa)。また高負荷低回転域にあるときには、トルク向上を図るために吸気カム軸の回転位相をβだけ進角させる(アドバンスc)。
【0042】
一方、本実施形態の可変バルブタイミング機構1では、既に述べたように、吸・ 排気同時遅角制御時には吸気側ベーンロータ4と排気側ベーンロータ5を連動して作動させ、吸気進角制御時には吸気側ベーンロータ4だけを作動させるために、各ベーンロータ4,5に対してストッパーピン55とストッパーピン受部45を形成している。
【0043】
しかしながら、そのようなストッパーピン55とストッパーピン受部45だけでは、吸・ 排気同時遅角制御時において、例えば、吸気カム軸側からと排気カム軸側からの負荷の大きさが異なるような場合、制御を開始して初期位置から各ベーンロータ4,5が移動する際に、排気側ベーンロータ5の方が吸気側ベーンロータ4に先行して早く作動を開始したり、或いは、制御を終了して各ベーンロータ4,5が初期位置に戻る際に、吸気側ベーンロータ4の方が排気側ベーンロータ5に先行して早く作動を開始したりすることで、吸気側と排気側の制御タイミングにずれが起きるような可能性がある。
【0044】
これに対して、本実施形態では、吸・排気同時遅角制御時には、吸気側ベーンロータ4と排気側ベーンロータ5はロックピン部材7により完全に結合されていて、何れの方向に作動しても両者4,6の間に作動のずれを生じることはないため、例えば、吸気カム軸側からと排気カム軸側からの負荷の大きさが異なるような場合でも、吸気側と排気側で制御タイミングにずれを生じることはなく同時に遅角制御することができる。特にエンジン回転方向とは逆方向に回動位相を変える遅角制御時において、2個のベーンロータ4,5を共働させて確実に遅角制御を行うことができる。
【0045】
なお、上記実施形態では、可変バルブタイミング機構を吸気カム軸に配置した場合を説明したが、本発明の範囲外の可変バルブタイミング機構では排気カム軸に該機構を配置することもできる。この場合、吸気カム軸については進角側にのみ回動可能であり、排気側については遅角,進角側の両方に回動可能である。
【0046】
また図8に示すように、1つのタイミングチェーン70によりクランク軸と吸気カム軸2,排気カム軸20をカムスプロット71,72を介して連結した一段掛けチェーンレイアウトとした場合に、吸気カム軸2に上記実施例と同様の可変バルブタイミング機構75を装着することも可能である。この場合、ロータハウジング3内に第1,第2ベーンロータ4,5を収納した可変バルブタイミング機構75を吸気カム軸2側に配置し、ハウジング76内に1つのベーンロータ77を収納した可変バルブタイミング機構78を排気カム軸20側に配置して構成されている。吸気カム軸2については図示の初期位置から遅角側,進角側の両方に相対的に回動可能であり、排気カム軸20については初期位置から遅角側にのみ回動可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態による動弁装置の可変バルブタイミング機構を主要構成部品の分解斜視図である。
【図2】上記可変バルブタイミング機構の断面図である。
【図3】上記可変バルブタイミング機構の第1ベーンロータの断面図(図2のIII-III 線断面図)である。
【図4】上記可変バルブタイミング機構の第2ベーンロータの断面図(図2のIV-IV 線断面図)である。
【図5】上記各ベーンロータの遅角,進角動作を示す図である。
【図6】上記可変バルブタイミング機構が配設された V型4サイクルエンジンの概略正面図である。
【図7】上記可変バルブタイミング機構の遅角,進角動作を示す図である。
【図8】一段掛けチェーンレイアウトに可変バルブタイミング機構を配置した例を示す断面図である。
【符号の説明】
1,75 可変バルブタイミング機構
2 吸気カム軸
3 ロータハウジング
4 吸気側ベーンロータ
5 排気側ベーンロータ
7 ロックピン部材
14a 吸気バルブ
14b 排気バルブ
15 クランク軸
20 排気カム軸
Claims (2)
- クランク軸により回転駆動される吸気側カム軸と、該吸気側カム軸により回転駆動される排気側カム軸とを介して吸気バルブ,排気バルブを開閉するとともに、該吸気,排気バルブのそれぞれの開閉タイミングをエンジンの運転状態に応じて可変制御するようにした動弁装置の可変バルブタイミング機構において、
上記クランク軸の回転が伝達されるロータハウジングを上記吸気側カム軸に相対回転可能に装着し、該ロータハウジング内に吸気側,排気側ベーンロータを該ロータハウジングに対して相対回転可能に、かつ同軸をなしさらに同一の油圧が作用するように配設し、
吸気側ベーンロータを上記吸気側カム軸に固定し、上記排気側ベーンロータを排気カム軸に共に回転するよう連結し、
上記吸気側,排気側ベーンロータの両方をロータハウジングに固定することにより初期位置に位置させるとともに、該吸気側,排気側ベーンロータの両方をロータハウジングへの固定を解除することにより上記初期位置より遅角側に移動させる吸気・排気同時遅角位置と、上記吸気側ベーンロータをロータハウジングへの固定を解除することにより上記初期位置より進角側に回動させる吸気進角位置とのいずれかに切り換えて回動させる位相切り換え手段
を備えたことを特徴とする動弁装置の可変バルブタイミング機構。 - 請求項1において、上記位相切り換え手段は、油圧により、上記吸気側ベーンロータを上記初期位置から遅角側又は進角側に回動させ、上記排気側ベーンロータを上記初期位置から遅角側に回動させる油圧駆動機構と、上記吸気側,排気側ベーンロータ同士を固定するか,又は該両ベーンロータをロータハウジングに固定するロックピン部材と、該ロックピン部材を、上記初期位置では上記吸気側及び排気側ベーンロータの両方をロータハウジングに固定するよう移動させ、吸気・排気同時遅角位置では吸気側,排気側ベーンロータ同士を固定するよう移動させ、吸気進角位置では吸気側ベーンロータのロータハウジングへの固定を解除するロックピン切り換え機構とを備えていることを特徴とする動弁装置の可変バルブタイミング機構。
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