JP4332618B2 - 抗hiv剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規ポリペプチド及びその複合体に関し、特にその抗HIV剤、AIDSの発症予防剤又はAIDSの治療剤としての用途に関する。
【0002】
また、本発明は、該ポリペプチド又はその複合体を有効成分として含有する医薬組成物、更には、AIDSの発症予防方法又はAIDSの治療方法に関する。
【0003】
【従来の技術】
現在、AIDS(後天性免疫不全症候群)の治療法として、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に対する逆転写酵素阻害剤及びプロテアーゼ阻害剤等を組み合わせる多剤併用療法が一般的に行われているが、多剤耐性菌の出現、副作用、高コストという問題が生じている。
【0004】
従って、上記阻害剤とは異なるメカニズムを有する薬剤、例えば、HIVの宿主細胞への侵入を阻害する薬剤が望まれている。
【0005】
HIVが宿主細胞へ侵入するメカニズムの1つとして、HIVのgp41タンパク質中のα−へリックス構造を有するC34(カルボキシ末端側のC領域中の、gp160におけるアミノ酸配列の628〜661位;図1参照(図1では628位のアミノ酸を1位として表してある。))の3量体が、α−へリックス構造を有するN36(アミノ末端側のN領域中の、gp160におけるアミノ酸配列の546〜581位)の3量体を包み込むようにして6量体を形成し、HIVの細胞膜と宿主細胞の細胞膜との融合が起こるというメカニズムが知られている(例えば、非特許文献1等参照、図2参照)。
【0006】
最近、N36をターゲットにして上記6量体形成を防ぐための薬剤、例えばDP178等が開発されてきている。しかし、DP178(T-20)は臨床試験においてPhase IIIまで進んでいるが、耐性株の発生が懸念されている。
【0007】
【非特許文献1】
レヴュー(Review):ディー.エム.エッカート(D.M.Eckert), ピー.エス.キム(P.S.Kim), アニュアルレヴューオブバイオケミストリー(Annual Review of Biochemistry), 2001年, 70, p.777-810
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、N36に強い親和性を有するポリペプチドを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
項1.下記のモジュール構造1〜3の少なくとも1種を含む、エイズウイルスのN36に結合性を有するポリペプチド。
(Y')m1−X1aX1b−A1−X1cX1dX1e−A2−(X'')n1 :モジュール構造1(MS1)
(Y')m2−X2a−A1A1−X2bX2c−A2A2−(X'')n2 :モジュール構造2(MS2)
(Y')m3−X3a−A1−X3bX3cX3d−A2−X' :モジュール構造3(MS3)
{モジュール構造中、
A1は酸性アミノ酸を示し、
A2は塩基性アミノ酸を示し、
X1a〜X3dは同一又は異なった任意のアミノ酸を示し、
X'は保護基を有していてもよい任意のアミノ酸、−OR1又は−NR2R3 を示し、
X''は−OR4又は−NR5R6を示し、
(R1〜R6は同一又は異なってH、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。)
Y'はH、R7CO−(R7はアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基又は置換基を有していてもよいベンジル基を示す。)、トルエンスルホニル基又はメタンスルホニル基を示し、
n1は、モジュール構造1がC末端の場合は1であり、C末端の場合以外は0である。
n2は、モジュール構造2がC末端の場合は1であり、C末端の場合以外は0である。
m1は、モジュール構造1がN末端の場合は1であり、N末端の場合以外は0である。
m2は、モジュール構造2がN末端の場合は1であり、N末端の場合以外は0である。
m3は、モジュール構造3がN末端の場合は1であり、N末端の場合以外は0である。
また、モジュール構造1〜3において、アミノ酸は−NH−CH(R')−CO−(R'はアミノ酸の側鎖を示す。)を意味するものとする。}
項2.3つの前記ポリペプチドと3つのN36が6量体を形成し得る上記項1に記載のポリペプチド。
【0010】
項3.更に7つのアミノ酸からなる挿入配列を含む上記項1に記載のポリペプチド。
【0011】
項4.モジュール構造1、モジュール構造2及びモジュール構造3からなる群から選ばれる少なくとも2種のモジュール構造を含み、任意に7つのアミノ酸からなる挿入配列を含む上記項1に記載のポリペプチド。
【0012】
項5.モジュール構造1〜3と7つのアミノ酸からなる挿入配列の合計が2〜15個である上記項1に記載のポリペプチド。
【0013】
項6.モジュール構造1〜3からなる群から選ばれる2〜15個のモジュール構造からなる上記項1に記載のポリペプチド。
【0014】
項7.以下の式のいずれかで表される上記項1に記載のポリペプチド。
MS1−MS1−MS1−MS1−MS1、MS2−MS2−MS2−MS2−MS2、MS3−MS3−MS3−MS3−MS3、AA−MS1−MS1−MS1−MS1、MS1−AA−MS1−MS1−MS1、MS1−MS1−AA−MS1−MS1、MS1−MS1−MS1−AA−MS1、MS1−MS1−MS1−MS1−AA、AA−MS2−MS2−MS2−MS2、MS2−AA−MS2−MS2−MS2、MS2−MS2−AA−MS2−MS2、MS2−MS2−MS2−AA−MS2、MS2−MS2−MS2−MS2−AA、MS3−AA−MS3−MS3−MS3、MS3−MS3−AA−MS3−MS3、MS3−MS3−MS3−AA−MS3、MS3−MS3−MS3−MS3−AA、AA−MS3−MS3−MS3−MS3、MS1−MS2−AA−MS1−MS3、MS1−MS2−MS2−MS1−MS3、MS1−AA−MS2−MS1−MS3、MS1−MS2−MS1−AA−MS3、MS1−MS2−MS2−MS1−MS3、MS1−MS1−MS2−MS1−MS3、MS1−MS1−MS2−MS2−MS3、MS1−MS1−MS2−MS3−MS3、MS1−MS1−MS1−MS1−MS3、MS1−MS1−MS1−MS2−MS3、MS1−MS1−MS1−MS3−MS3、MS1−MS1−MS3−MS1−MS3、MS1−MS1−MS3−MS2−MS3、MS1−MS1−MS3−MS3−MS3、MS1−MS2−MS1−MS1−MS3、MS1−MS2−MS1−MS2−MS3、MS1−MS2−MS1−MS3−MS3、MS1−MS2−MS2−MS2−MS3、MS1−MS2−MS2−MS3−MS3、MS1−MS2−MS3−MS1−MS3、MS1−MS2−MS3−MS2−MS3、MS1−MS2−MS3−MS3−MS3、MS1−MS3−MS1−MS1−MS3、MS1−MS3−MS1−MS2−MS3、MS1−MS3−MS1−MS3−MS3、MS1−MS3−MS2−MS1−MS3、MS1−MS3−MS2−MS2−MS3、MS1−MS3−MS2−MS3−MS3、MS1−MS3−MS3−MS1−MS3、MS1−MS3−MS3−MS2−MS3、MS1−MS3−MS3−MS3−MS3
(MS1はモジュール構造1を示し、MS2はモジュール構造2を示す、MS3はモジュール構造3を示し、AAは7つのアミノ酸からなる挿入配列を示す。)
項8.上記項1に記載のポリペプチドに、逆転写酵素阻害剤、HIVプロテアーゼ阻害剤及びケモカインレセプター拮抗剤からなる群から選ばれる少なくとも1種が、スペーサー物質を介して又は介さずに結合していることを特徴とする複合体。
【0015】
項9.上記項1〜7のいずれかに記載のポリペプチド及び/又は上記項8に記載の複合体、又はその薬学的に許容される塩を有効成分として、薬学的に許容される担体、賦形剤又は希釈剤を含有する抗HIV剤。
【0016】
項10.上記項1〜7のいずれかに記載のポリペプチド及び/又は上記項8に記載の複合体、又はその薬学的に許容される塩を有効成分として、薬学的に許容される担体、賦形剤又は希釈剤を含有するAIDS発症予防剤又はAIDS治療剤。
【0017】
項11.上記項9に記載の抗HIV剤又は上記項10に記載のAIDS発症予防剤又はAIDS治療剤の有効量をAIDS患者又はHIVのキャリアに投与するAIDSの発症予防又は治療方法。
【0018】
項12.AIDSの多剤療法に上記項11に記載のAIDSの発症予防又は治療方法を併用するAIDSの発症予防又は治療方法。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本願発明におけるモジュール構造とは、6個又は7個のアミノ酸からなるポリペプチドであり、以下の3種類が例示される。
(Y')m1−X1aX1b−A1−X1cX1dX1e−A2−(X'')n1 :モジュール構造1(MS1)
(Y')m2−X2a−A1A1−X2bX2c−A2A2−(X'')n2 :モジュール構造2(MS2)
(Y')m3−X3a−A1−X3bX3cX3d−A2−X' :モジュール構造3(MS3)
(X1a〜X3d、A1、A2、X'、X''、Y'、n及びmは前記に定義した通りである。)。
【0021】
本発明のポリペプチド中の各モジュールにおいて、A1は酸性アミノ酸を示し、好ましくはグルタミン酸、アスパラギン酸又はシステイン酸であり、より好ましくはグルタミン酸又はアスパラギン酸である。A2は塩基性アミノ酸を示し、好ましくはリジン、アルギニン、オルニチン又はヒスチジンであり、より好ましくはリジン、アルギニン又はオルニチンであり、更に好ましくはリジン又はオルニチンである。
【0022】
A1及びA2は、各モジュールにおいてそれぞれi位、i+4位の関係になっている。このi位、i+4位のアミノ酸がそれぞれ酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸という組み合わせ(又はその逆の組み合わせでも良い)にすることにより、両者間にsalt bridgeが形成され、本発明ポリペプチドのα-へリックスが形成されやすくなる。また、このsalt bridgeの双極子の方向が、ペプチド主鎖によって形成される双極子の方向と逆を向くのでヘリックスを形成した場合の分子の熱力学的安定性が増大する。
【0023】
上記酸性アミノ酸及び塩基性アミノ酸の組み合わせの中でも、グルタミン酸−リジンの組み合わせがより好ましい。
【0024】
上記酸性アミノ酸及び塩基性アミノ酸組み合わせは、各モジュール中に1又は2個存在するのが好ましい。
【0025】
また、本発明のポリペプチドは、モジュール内にのみに限られず、モジュール間(モジュール構造を超えた範囲)においても、上記のi位、i+4位の組み合わせを有していてもよい。本発明のポリペプチドは、モジュール間におけるこの組み合わせを有することにより、α−へリックスを更に安定化させることができる。
【0026】
本発明のポリペプチド中におけるアミノ酸X1a〜X3d(X1a、X1b、X1c、X1d、X1e、X2a、X2b、X2c、X3a、X3b、X3c及びX3d)は、同一又は異なった任意のアミノ酸を示す。
【0027】
上記任意のアミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、セリン、スレオニン、システイン、システイン酸、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジン、プロリン、オルニチン、サルコシン、β−アラニン、ノルロイシン(Nle)、ナフチルアラニン(Nal)等が例示できる。
【0028】
なお、プロリンは、使用によりα−へリックス構造を破壊する可能性がある場合には使用しないほうが良いが、アミノ末端(以下、「N末端」という。)又はカルボキシ末端(以下、「C末端」という。)に位置してα−へリックス構造を破壊する可能性がない場合には使用しても良い。
【0029】
例えば、図2の「a」の位置のアミノ酸、即ち、X1a、X2a又はX3aのアミノ酸としては、トリプトファン、ロイシン、イソロイシン、グルタミン、セリン、スレオニン、アスパラギン、バリン、フェニルアラニン、チロシン、メチオニン、グリシン、アラニン、ナフチルアラニン等が好ましい。
【0030】
図2の「b」の位置のアミノ酸、即ちX1b又は「c」の位置のアミノ酸、即ちX3bのアミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、セリン、スレオニン、システイン、システイン酸、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジン、プロリン、オルニチン、サルコシン、β−アラニン、ノルロイシン、ナフチルアラニン等が例示できる。
【0031】
なお、プロリンは、使用によりα−へリックス構造を破壊する可能性がある場合には使用しないほうが良いが、N末端又はC末端に位置してα−へリックス構造を破壊する可能性がない場合には使用しても良い。
【0032】
図2の「d」又は「e」の位置のアミノ酸、即ち、X1c、X2b、X3c、X1d、X2c又はX3dのアミノ酸としては、例えば、トリプトファン、ロイシン、イソロイシン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、スレオニン、バリン、フェニルアラニン、チロシン、メチオニン、グリシン、アラニン等が好ましい。
【0033】
図2の「f」の位置のアミノ酸、即ちX1eのアミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、セリン、スレオニン、システイン、システイン酸、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジン、プロリン、オルニチン、サルコシン、β−アラニン、ノルロイシン、ナフチルアラニン等が例示できる。
【0034】
なお、プロリンは、使用によりα−へリックス構造を破壊する可能性がある場合には使用しないほうが良いが、N末端又はC末端に位置してα−へリックス構造を破壊する可能性がない場合には使用しても良い。
【0035】
X'は保護基を有していてもよい任意のアミノ酸、−OR1又は−NR2R3 を示し、X''は−OR4又は−NR5R6を示す。
【0036】
アミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、セリン、スレオニン、システイン、システイン酸、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジン、プロリン、オルニチン、サルコシン、β−アラニン、ノルロイシン、ナフチルアラニン等が例示できる。
【0037】
なお、プロリンは、使用によりα−へリックス構造を破壊する可能性がある場合には使用しないほうが良いが、N末端又はC末端に位置してα−へリックス構造を破壊する可能性がない場合には使用しても良い。
【0038】
本発明のポリペプチドが保護アミノ酸を有する場合、保護基としては以下のものが例示できる。エトキシカルボニル基、メトキシカルボニル基、9−フルオレニルメトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、4−メトキシベンジルオキシカルボニル基、2,2,2−トリクロロエチルオキシカルボニル基、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等が例示できる。
【0039】
R1〜R6(R1、R2、R3、R4、R5及びR6)は、同一又は異なってH、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。
【0040】
アルキル基としては、例えば、C1〜C4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が挙げられ、好ましくは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル等が挙げられる。アリール基としては、例えばフェニル基、置換基を有するフェニル基が例示できる。置換基としては、上で例示したアルキル基、ハロゲン原子、シアノ、カルボン酸、ニトロ、アミノ、アセチルアミノ、アルコキシ基、水酸基等が例示できる。置換基の数は特に限定されず、1〜5、好ましくは1〜3である。
【0041】
Y'はH、R7CO−、トルエンスルホニル基又はメタンスルホニル基を示す。R7はアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基又は置換基を有していてもよいベンジル基を示す。アルキル基は上述したものが使用できる。置換基の例示又は数も上で例示した通りである。
【0042】
n1は、モジュール構造1がC末端の場合は1であり、C末端の場合以外は0である。n2は、モジュール構造2がC末端の場合は1であり、C末端の場合以外は0である。
【0043】
m1は、モジュール構造1がN末端の場合は1であり、N末端の場合以外は0である。m2は、モジュール構造2がN末端の場合は1であり、N末端の場合以外は0である。m3は、モジュール構造3がN末端の場合は1であり、N末端の場合以外は0である。
【0044】
また、モジュール構造1〜3において、アミノ酸は−NH−CH(R')−CO−(R'はアミノ酸の側鎖を示す。)を意味するものとする。
【0045】
本発明のポリペプチドは、上記モジュール構造1〜3の少なくとも1種、好ましくは、モジュール構造1〜3を少なくとも1種以上含むポリペプチドである。本発明のポリペプチドが、モジュール構造として同じモジュール構造のみからなっていても良い。
【0046】
本発明のポリペプチドは、上記モジュール構造を例えば2〜15個、好ましくは3〜12個、更に好ましくは4〜10個含むことができ、特に5〜7が好ましい。各モジュール構造の結合順序は、本発明のポリペプチドがα−へリックス構造をとり、N36と結合する限り限定されない。
【0047】
好ましい態様のうちの1つとして、モジュール構造1をアミノ末端(以下、「N末端」という。)に有するポリペプチドが挙げられ、その中でも、N末端に位置するモジュール構造1が「Trp-Z-Glu-Trp-Asp-Arg-Lys」(「Z」は、ノルロイシン、メチオニン又はグルタミン酸を表す。)であることが特に好ましい。
【0048】
また、もう1つの好ましい態様として、モジュール構造3がC末端に位置するポリペプチドも例示でき、その中でもX'が−NH2のものがより好ましい。
【0049】
本発明のポリペプチドにおいて、各モジュール間にモジュール構造を形成するアミノ酸以外のアミノ酸が存在しないことが特に好ましい。しかしながら、本発明のポリペプチドがα−へリックスを形成し、N36と結合することができる限り、各モジュール構造間に7個の任意のアミノ酸からなる7アミノ酸挿入配列が含まれていても良い。N末端又はC末端であれば、1〜6個の任意のアミノ酸を付加してもよい。
【0050】
任意のアミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、セリン、スレオニン、システイン、システイン酸、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジン、プロリン、オルニチン、サルコシン、β−アラニン、ノルロイシン、ナフチルアラニン等が例示できる。これらのアミノ酸は、上述した通り保護基を有していてもよい。
【0051】
なお、プロリンは、使用によりα−へリックス構造を破壊する可能性がある場合には使用しないほうが良いが、N末端又はC末端に位置してα−へリックス構造を破壊する可能性がない場合には使用しても良い。
【0052】
モジュール間に含まれてもよい7アミノ酸挿入配列としては、例えば「X2a−A2A2−X2bX2c−A1A1」(X2a、X2b、X2c、A1及びA2は前記で定義した通りである。)が好ましい態様として例示できる。
【0053】
この7アミノ酸挿入配列は、例えば、モジュール構造間であれば1個、N末端又はC末端であれば1〜3個、本発明のポリペプチドに含むことができる。
【0054】
更に、本発明のポリペプチドは、そのN末端及び/又はC末端に、N36に結合し得る化合物を有することもできる。
【0055】
本発明のポリペプチドは、アミノ酸を、例えば13又は14〜104又は105個、好ましくは13又は14〜83又は84個、より好ましくは13又は14〜48又は49個、特に好ましくは34又は35個有することができる。
【0056】
本発明のポリペプチドにおいて使用されるアミノ酸は、L体(Lアミノ酸)が好ましいが、D体を用いても良い。D体を用いる場合には、全ての光学活性アミノ酸をD体にする必要がある。
【0057】
更には、本発明のポリペプチドにおけるペプチド結合(-NH-CO-⇔-N=C(OH)
-)を、それと生物学的に等価な結合、例えば、アルケン(-CH=CH-)又はフルオロアルケン(-CF=CH-)とすることも可能である。アルケンについては、例えば、S. Oishi, T. Kamano, A. Niida, Y. Odagaki, N. Hamanaka, M. Yamamoto, K. Ajito, H. Tamamura, A. Otaka, and N. Fujii. Diastereoselective Synthesis of New Ψ[(E)-CH=CMe]- and Ψ[(Z)-CH=CMe]-type Alkene Dipeptide Isosteres by Organocopper Reagents and Application to Conformationally Restricted Cyclic RGD Peptidomimetics. J. Org. Chem. 2002, 67, 6162-6173.等に記載されており、フルオロアルケンについては、例えば、A. Otaka, H. Watanabe,
A. Yukimasa, S. Oishi, H. Tamamura, and N. Fujii. New Access to a-Substituted (Z)-Fluoroalkene Dipeptide Isosteres Utilizing Organocopper Reagents under "Reduction-Oxidative Alkylation (R-OA)" Conditions. Tetrahedron Lett. 2001, 42, 5443-5446.等に記載されている。
【0058】
本発明のポリペプチドの好ましい態様として、例えば以下の式で表されるポリペプチドが例示できる(MS1はモジュール構造1を示し、MS2はモジュール構造2を示す、MS3はモジュール構造3を示し、AAは7つのアミノ酸からなる挿入配列を示す。);
MS1−MS1−MS1−MS1−MS1、MS2−MS2−MS2−MS2−MS2、MS3−MS3−MS3−MS3−MS3、AA−MS1−MS1−MS1−MS1、MS1−AA−MS1−MS1−MS1、MS1−MS1−AA−MS1−MS1、MS1−MS1−MS1−AA−MS1、MS1−MS1−MS1−MS1−AA、AA−MS2−MS2−MS2−MS2、MS2−AA−MS2−MS2−MS2、MS2−MS2−AA−MS2−MS2、MS2−MS2−MS2−AA−MS2、MS2−MS2−MS2−MS2−AA、MS3−AA−MS3−MS3−MS3、MS3−MS3−AA−MS3−MS3、MS3−MS3−MS3−AA−MS3、MS3−MS3−MS3−MS3−AA、AA−MS3−MS3−MS3−MS3、MS1−MS2−AA−MS1−MS3、MS1−MS2−MS2−MS1−MS3、MS1−AA−MS2−MS1−MS3、MS1−MS2−MS1−AA−MS3、MS1−MS2−MS2−MS1−MS3、MS1−MS1−MS2−MS1−MS3、MS1−MS1−MS2−MS2−MS3、MS1−MS1−MS2−MS3−MS3、MS1−MS1−MS1−MS1−MS3、MS1−MS1−MS1−MS2−MS3、MS1−MS1−MS1−MS3−MS3、MS1−MS1−MS3−MS1−MS3、MS1−MS1−MS3−MS2−MS3、MS1−MS1−MS3−MS3−MS3、MS1−MS2−MS1−MS1−MS3、MS1−MS2−MS1−MS2−MS3、MS1−MS2−MS1−MS3−MS3、MS1−MS2−MS2−MS2−MS3、MS1−MS2−MS2−MS3−MS3、MS1−MS2−MS3−MS1−MS3、MS1−MS2−MS3−MS2−MS3、MS1−MS2−MS3−MS3−MS3、MS1−MS3−MS1−MS1−MS3、MS1−MS3−MS1−MS2−MS3、MS1−MS3−MS1−MS3−MS3、MS1−MS3−MS2−MS1−MS3、MS1−MS3−MS2−MS2−MS3、MS1−MS3−MS2−MS3−MS3、MS1−MS3−MS3−MS1−MS3、MS1−MS3−MS3−MS2−MS3、MS1−MS3−MS3−MS3−MS3。
【0059】
本発明のポリペプチドの更に好ましい具体例としては、例えば、「Ac-Trp-Nle-Glu-Trp-Asp-Arg-Lys-Ile-Glu-Glu-Tyr-Thr-Lys-Lys-Ile-Lys-Lys-Leu-Ile-Glu-Glu-Ser-Gln-Glu-Gln-Gln-Glu-Lys-Asn-Glu-Lys-Glu-Leu-Lys-NH2」(SC34−a)、「Ac-Trp-Met-Glu-Trp-Asp-Arg-Lys-Ile-Glu-Glu-Tyr-Thr-Lys-Lys-Ile-Lys-Lys-Leu-Ile-Glu-Glu-Ser-Gln-Glu-Gln-Gln-Glu-Lys-Asn-Glu-Lys-Glu-Leu-Lys-NH2」(SC34−b)、「Ac-Trp-Nle-Glu-Trp-Asp-Arg-Lys-Ile-Glu-Glu-Tyr-Thr-Lys-Lys-Ile-Glu-Glu-Leu-Ile-Lys-Lys-Ser-Gln-Glu-Gln-Gln-Glu-Lys-Asn-Glu-Lys-Glu-Leu-Lys-NH2」(SC34(EK)−a)、「Ac-Trp-Met-Glu-Trp-Asp-Arg-Lys-Ile-Glu-Glu-Tyr-Thr-Lys-Lys-Ile-Glu-Glu-Leu-Ile-Lys-Lys-Ser-Gln-Glu-Gln-Gln-Glu-Lys-Asn-Glu-Lys-Glu-Leu-Lys-NH2」(SC34(EK)−b)、「Ac-Trp-Glu-Glu-Trp-Asp-Lys-Lys-Ile-Glu-Glu-Tyr-Thr-Lys-Lys-Ile-Glu-Glu-Leu-Ile-Lys-Lys-Ser-Glu-Glu-Gln-Gln-Lys-Lys-Asn-Glu-Glu-Glu-Leu-Lys-Lys-NH2」(SC35(EK))(「Ac」はアセチル基を示す。)等を例示することができる。
【0060】
本発明のポリペプチドは、公知のポリペプチド合成法、特に液相合成法あるいは固相合成法によって製造することができる。また、本発明のポリペプチドをコードするDNAを遺伝子組換え技術により宿主細胞に導入し、発現させる方法によっても合成することができる。
【0061】
例えば、固相合成法では、最もC末端に対応するアミノ酸のアミノ基を9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)基などのウレタン型保護基で保護したN-保護アミノ酸のカルボキシル基を、アミノ基を有する不溶性樹脂に結合させた後、アミノ基の保護基を除去し、N末端方向に順次保護アミノ酸を縮合させ、次いで不溶性樹脂およびアミノ酸の保護基を脱保護させて、本発明のポリペプチドを得ることができる。
【0062】
前記のアミノ基を有する不溶性樹脂としては、特に限定されないが、Fmoc-NH-SAL樹脂(4-(2',4'-ジメトキシフェニル-Fmoc-アミノエチル)フェノキシリンカー樹脂)が好ましく、開裂によって直接目的物を与えることができる。
【0063】
本発明のポリペプチドの合成に用いる保護アミノ酸は、官能基を公知の方法により公知の保護基で保護することにより得ることができるし、市販の保護アミノ酸を使用することもできる。保護基としては公知のものが使用でき、例えば、上記に例示したを使用できる。
【0064】
保護アミノ酸を調製する場合には、例えば、DIPCDI(ジイソプロピルカルボジイミド)-HOBt(1-ヒドロキシベンゾトリアゾール)法等のような公知の方法を用いることができる。本縮合反応は公知の溶媒中で行うことができ、例えば、ジメチルホルムアミド等の有機溶媒が例示される。アミノ基の保護基の脱離試薬としては限定されず、ピペリジン/ジメチルホルムアミド等の公知の試薬によって、Fmoc基等の保護基を切断することができる。
【0065】
また、合成の各段階における縮合反応の進行の程度は、例えばニンヒドリン反応法のような公知の方法によって確認することができる。
【0066】
上記のようにして、所望のアミノ酸配列を有する保護ポリペプチドを得ることができる。
【0067】
不溶性樹脂としてFmoc-NH-SAL樹脂を用いた場合、TMSBr(トリメチルシリルブロミド)やTFA(トリフルオロ酢酸)等で処理することにより、樹脂及び保護基を同時に脱離させることができる。
【0068】
このようにして得られた本発明のポリペプチドは、例えば、抽出、再結晶、各種クロマトグラフィー(ゲルろ過、イオン交換、分配、吸着)、電気泳動、向流分配等、公知の手段により単離精製することができ、逆相高速液体クロマトグラフィーによる方法が好ましい。
【0069】
本発明のポリペプチドは、HIVが生体内の宿主細胞(例えば、T細胞等)に侵入(感染)することを防ぐことができ、または感染したHIVが宿主細胞内で増殖し更なる感染を引き起こすことを防ぐことができるので、HIVの感染予防、AIDSの発症予防、更にはAIDSの治療等にも使用することができる。
【0070】
本発明ポリペプチドに、公知の方法で、抗HIV活性物質である逆転写酵素阻害剤、HIVプロテアーゼ阻害剤及びケモカインレセプター拮抗剤からなる群から選ばれる少なくとも1種を化学的に結合することが可能である。
【0071】
逆転写酵素阻害剤は、HIVの逆転写酵素の活性を阻害する物質であって、ヌクレオシド系の阻害剤及び非ヌクレオシド系の阻害剤に分けられる。
【0072】
ヌクレオシド系の阻害剤は、HIVがRNAから逆転写によってDNAを合成する際にRNA中に取り込まれ、その結果DNAの合成を阻害するために非天然型ヌクレオシド又はヌクレオシドアナログであることが好ましい。
【0073】
上記ヌクレオシドアナログとは、ヌクレオシドと類似の立体構造をもつ非ヌクレオシド化合物を指す。また、これらの逆転写酵素阻害剤は、市販のものあるいは既知の合成法に従って調製したものを使用することが可能である。
【0074】
ヌクレオシド系の逆転写酵素阻害剤としては、ピリミジン塩基、プリン塩基、イミダゾール塩基又はトリアゾール塩基のいずれかの塩基と、少なくとも一つの水酸基を有するフラノース又はそのアシクロ体とから構成されるヌクレオシド又はその類縁体が好ましい。
【0075】
例えば、AZT(CAS REGISTRY NUMBERS: 30516-87-1:ジドブジン(zidovudine))、ddI(CAS REGISTRY NUMBERS: 69655-05-6:ジダノシン(didanosine))、ddC(CAS REGISTRY NUMBERS: 7481-89-2:ザルシタビン(zalcitabine))、2',3'-ジデヒドロ-2',3'-ジデオキシチミジン(CAS REGISTRY NUMBERS: 3056-17-5:d4T:スタブジン(stavudine))、3'-チア-2',3'-ジデオキシシチジン(CAS REGISTRY NUMBERS: 134678-17-4:3TC:ラミブジン(lamivudine))、2'-β-フルオロ-ddC、3'-フルオロチミジン(CAS REGISTRY NUMBERS: 25526-93-6:FLT)、9-(2-ホスホニル-メトキシエチル)-アデニン(CAS REGISTRY NUMBERS: 106941-25-7:PMEA)、6-Cl-ddI、6-Cl-ddC等が挙げられる。
【0076】
また、非ヌクレオシド系の逆転写酵素阻害剤としては、例えば、テトラヒドロ−イミダゾ−ベンゾ−ジアゼピン−オンもしくは−チオン(TIBO)誘導体(具体的には、(+)-S-4,5,6,7-テトラヒドロ-5-メチル-6-(3-メチル-2-ブテニル)イミダゾ[4,5,1-jk][1,4]ベンゾジアゼピン-2(1H)-チオン)(CAS REGISTRY NUMBERS: 167206-29-3:R82913)、ヒドロキシエトキシ−メチルフェニルチオチミン(HEPT)誘導体、ネビラピン(Nevirapine)(CAS REGISTRY NUMBERS: 129618-40-2)、ピリジノン誘導体等が挙げられる。
【0077】
これらのうち、本発明のポリペプチドとの結合が容易であり、細胞内に取り込まれることによって効果的にDNA合成を阻害できるので、ヌクレオシド系の逆転写酵素阻害剤が好ましい。ヌクレオシド系のHIV転写酵素阻害剤の中でも、既に臨床においてヒトに投与されているAZT、ddI、ddC、d4T、3TC等が好ましい。
【0078】
HIVプロテアーゼ阻害剤としては、HIVのプロテアーゼの活性を阻害する物質であって、該プロテアーゼの基質遷移状態ミミック化合物である阻害剤が好ましい。
【0079】
基質遷移状態ミミックとは、酵素の基質結合部位に結合可能な物質で、酵素基質複合体における基質と類似の立体構造を有する物質を指す。
【0080】
例えば、Nelfinavir, Ro 31-8959(CAS REGISTRY NUMBERS: 127779-20-8:サキナビル(saquinavir))、A-77003(CAS REGISTRY NUMBERS: 134878-17-4)、A-80987(CAS REGISTRY NUMBERS: 144141-97-9)、KNI-93(CAS REGISTRY NUMBERS: 138258-64-7)、KNI-102(CAS REGISTRY NUMBERS: 139694-65-8)、KNI-174、KNI-227(CAS REGISTRY NUMBERS: 147384-69-8)、KNI-272(CAS REGISTRY NUMBERS: 147318-81-8)、L-735527(CAS REGISTRY NUMBERS: 150378-17-9 :インジナビル(indinavir))、SC-52151(CAS REGISTRY NUMBERS: 143224-34-4 :テリナビル(Telinavir))、VX-478、ABT-538(CAS REGISTRY NUMBERS: 155213-67-5:リトナビル(ritonavir))、DMP-323(CAS REGISTRY NUMBERS: 151867-81-1)、U-96988(CAS REGISTRY NUMBERS: 149394-65-0)等が挙げられる。
【0081】
その中でも高い抗ウイルス活性を有するRo 31-8959、L-735527、KNI-272等が好ましい。
【0082】
これらHIVプロテアーゼ阻害剤としては、市販のもの又は公知の合成法に従って調製したものを使用することができる。Ro 31-8959については、例えば、J.Med.Chem.36,p2300-2310(1993)に記載の調製法が挙げられる。
【0083】
ケモカインレセプター拮抗剤としては、TAK-779 (Takeda), SCH-351125 (Schering-Plough), E913 (Ono), AMD3100, KRH-1120 (Kureha), AMD8664, T-140(京大、藤井)等が挙げられる。これらの化合物は、HIVが感染する際に必要とされる第2受容体(ケモカインレセプター)をブロックすることによりHIVの宿主細胞への侵入を阻害する働きを有する。
【0084】
本発明の複合体では、本発明のポリペプチドと上記抗HIV活性物質とが化学的に結合しているが、その結合様式は特に限定されず、例えば、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、ジスルフィド結合等が挙げられる。
【0085】
例えば、エステル結合の場合、本発明のポリペプチドに結合した抗HIV活性物質が生体内の標的細胞内に運搬された後、エステラーゼ等で該結合が切断され、抗HIV活性物質がその作用点近傍で遊離され得る。エステル結合は、運搬中に容易に切断されることがない程度の安定性を有する結合であるので好ましいが、これに限定されない。
【0086】
本発明の複合体において、上記の抗HIV活性物質と結合する本発明のポリペプチドの部位は特に限定されないが、本発明のポリペプチド自体とHIV表面タンパク質gp41のN36との親和性を維持することができるように、N末端付近が好ましい。
【0087】
具体的には、N末端のアミノ基のα-アミノ基又はω-アミノ基、或いはTamが抗体作成のために開発したMAPシステム(multiple antigenic peptide system) (J.P.Tam、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、85, 5409-5413 (1988); J.P.Tam、"Peptides:synthesis、structures,and applications" (B.Gutte、ed.)、pp.456-500、Academic Press,Inc.、New York (1995))の放射状に分枝したリジンを用いた樹枝状の構造(dendrimer)を、上記Tamの方法によって上記ポリペプチド鎖のN末端部に作成し、その末端及び側鎖に存在する複数のアミノ基に複数の抗HIV活性物質を結合させ、本発明のポリペプチド鎖一分子あたり複数の抗HIV活性物質を結合させることも可能である。
【0088】
当該樹枝状構造の形成に使用する物質は、アミノ基を2個以上含有する物質が挙げられ、その中でも、リジン、オルニチン等が好ましい。
【0089】
本発明のポリペプチドのアミノ基に結合する抗HIV活性物質の結合部位は、結合する該活性物質の種類により適宜選択されるべきであるが、当該物質中にカルボキシル基または水酸基が存在する場合はこれらの官能基を介して形成される化学的結合が好ましく、特に水酸基を介した化学的結合が好ましい。
【0090】
また、当該官能基の位置が、抗HIV活性の中心的役割を有する部位であったとしても、標的細胞付近又は細胞中で化学的結合が切断される為、結合する部位となる当該官能基の分子中での位置は特に限定はされない。
【0091】
例えば、抗HIV活性物質のカルボキシル基を介して、抗HIV活性物質を本発明のポリペプチド鎖に結合させることにより本発明の複合体を得る場合は、公知の方法により前記保護ポリペプチド樹脂のN末端部アミノ基と抗HIV活性物質のカルボキシル基の間でアミド結合を形成させ、直接的に結合させることができる。また、本発明のポリペプチドと上記抗HIV活性物質とを、適切なスペーサー物質を介して生体内で切断が可能な化学的結合により結合することもできる。
【0092】
また、抗HIV活性物質の水酸基を介して抗HIV活性物質をポリペプチド鎖に結合させて本発明の複合体を得る場合には、保護ポリペプチド樹脂のN末端部の官能基と抗HIV活性物質の水酸基の両方に対して化学的に結合可能な官能基を有するスペーサー物質を介して結合させることができる。
【0093】
このようなスペーサー物質としては、使用するポリペプチド鎖のN末端部のアミノ基と結合が可能な一方のカルボキシル基を有し、さらに上記抗HIV活性物質中の水酸基ともエステル結合を形成することができる上記とは異なるカルボキシル基を有することが好ましく、具体的にはカルボキシル基を2個以上有する芳香族化合物又は脂肪族化合物等が挙げられるが、鎖状構造を形成していることから脂肪族化合物が好ましい。
【0094】
スペーサー物質としてジカルボン酸を用いた場合、一方のカルボキシル基と本発明のポリペプチドのN末端部のアミノ基とでアミド結合を形成し、スペーサー物質の他方のカルボキシル基と前記抗HIV活性物質中の水酸基とでエステル結合を形成することにより、本発明のポリペプチドと前記抗HIV活性物質とを結合することができる。
【0095】
スペーサー物質としては、特に限定されるものではないが、合成の簡便性、生体内での酵素による切断の容易性、本発明の複合体の標的部位との結合の容易性などを考慮すると、炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸が好ましく、炭素数4〜8の脂肪族ジカルボン酸がより好ましい。
【0096】
その中でも安定性や取り扱いの簡便性から、コハク酸、グルタル酸又はそれらの誘導体が特に好ましい。なお、該ジカルボン酸は、本発明のポリペプチドと抗HIV活性物質との結合を妨げない限り、他の官能基を有していても良い。
【0097】
前記保護ポリペプチド樹脂とAZTとを、ジカルボン酸をスペーサー物質として結合する方法としては、特に限定はされないが、以下の方法が例示される。
【0098】
まず、AZTと多官能スペーサーとを結合させることができる。例えば、ジメチルアミノピリジン存在下でAZTを無水コハク酸又は無水グルタル酸と反応させ、常法処理後、AZTにコハク酸又はグルタル酸がエステル結合したAZTとスペーサー物質の結合体(以下、「AZT−スペーサー物質」という。)を得る。
【0099】
次いで、このAZT−スペーサー物質を、前記保護ポリペプチド樹脂のN末端部のアミノ酸のα−アミノ基、ω−アミノ基、又は該アミノ酸にデンドリマー状に結合した樹枝状構造の末端及び側鎖に存在する複数のアミノ基に、例えば、DIPCI-HOBt法等のような公知の方法で縮合させることにより結合することができる(この物質を「保護基保護化ポリペプチド樹脂−スペーサー物質−AZT複合体」とも記載する)。
【0100】
このようにして得られた保護基保護化ポリペプチド樹脂−スペーサー物質−AZT複合体は、公知の方法により、不溶性樹脂及び保護基の離脱反応に付すことにより、本発明の複合体とすることができる。
【0101】
上記の保護基保護化ポリペプチド樹脂−スペーサー物質−AZT複合体を合成する方法において、AZTに代えて他の公知の抗HIV活性物質を使用することもできる。
【0102】
このようにして得られた本発明の複合体は、公知の方法により単離精製することができるが、逆相高速液体クロマトグラフィーにより行うのが好ましい。
【0103】
本発明の複合体によれば、本発明のポリペプチドによる効果だけでなく、抗HIV活性物質による効果も得ることができる。更に、本発明のポリペプチドがN36に結合することにより、その近傍に存在するHIVのすぐ近くで抗HIV活性物質を遊離することができるので、HIVの感染を防ぐだけでなく、高い効率の抗HIV活性も得ることができる。
【0104】
本発明の複合体はまた、HIVの感染予防、抗HIV、AIDSの発症予防、更にはAIDSの治療等にも使用することができる。
【0105】
本発明のポリペプチド及び/又は複合体には、その医薬的に許容される塩も包含される。かかる塩には、当業界で周知の方法により調製される、例えばナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウムなどの無毒性アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等が包含される。更に上記塩には、本発明ポリペプチドと適当な有機酸乃至無機酸との反応による無毒性酸付加塩も包含される。代表的酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、酢酸塩、吉草酸塩、ラウリン酸塩、乳酸塩、リン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩(トシレート)、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、ベンゼンスルホン酸塩及びメタンスルホン酸塩などを例示できる。
【0106】
本発明治療剤には、より詳しくは、上記ポリペプチド及び/又は複合体の薬理学的有効量を活性成分とし、これを適当な医薬担体乃至希釈剤と共に含む医薬組成物乃至医薬製剤が含まれる。
【0107】
上記医薬組成物(医薬製剤)に利用できる医薬担体としては、製剤の使用形態に応じて通常使用される、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤などの希釈剤或は賦形剤などを例示でき、これらは得られる製剤の投与単位形態に応じて適宜選択使用される。該製剤形態としては各種のものが治療目的に応じて選択でき、その代表的なものとしては錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、カプセル剤、坐剤、注射剤(液剤、懸濁剤など)、噴霧剤、エアゾール剤、吸入剤、徐放性ミクロカプセル剤などを例示できる。
【0108】
特に好ましい本発明医薬製剤は、通常の蛋白製剤などに使用され得る各種の成分、例えば安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤、リン脂質などを適宜使用して調製される。
【0109】
上記安定化剤としては、例えばヒト血清アルブミンや通常のL−アミノ酸、糖類、セルロース誘導体などを例示でき、これらは単独で又は界面活性剤などと組合せて使用できる。特にこの組合せによれば、有効成分の安定性をより向上させ得る場合がある。
【0110】
上記L−アミノ酸としては、特に限定はなく例えばグリシン、システィン、グルタミン酸などのいずれでもよい。
【0111】
上記糖としても特に限定はなく、例えばグルコース、マンノース、ガラクトース、果糖などの単糖類、マンニトール、イノシトール、キシリトールなどの糖アルコール、ショ糖、マルトース、乳糖などの二糖類、デキストラン、ヒドロキシプロピルスターチ、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸などの多糖類など及びそれらの誘導体などを使用できる。
【0112】
界面活性剤としても特に限定はなく、イオン性及び非イオン性界面活性剤のいずれも使用でき、例えばポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル系、ポリオキシエチレンアルキルエ−テル系、ソルビタンモノアシルエステル系、脂肪酸グリセリド系などを使用できる。
【0113】
セルロース誘導体としても特に限定はなく、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどを使用できる。
【0114】
上記糖類の添加量は、有効成分1μg当り約0.0001mg程度以上、好ましくは約0.01〜10mg程度の範囲とするのが適当である。界面活性剤の添加量は、有効成分1μg当り約0.00001mg程度以上、好ましくは約0.0001〜0.01mg程度の範囲とするのが適当である。ヒト血清アルブミンの添加量は、有効成分1μg当り約0.0001mg程度以上、好ましくは約0.001〜0.1mg程度の範囲とするのが適当である。アミノ酸は、有効成分1μg当り約0.001〜10mg程度とするのが適当である。また、セルロース誘導体の添加量は、有効成分1μg当り約0.00001mg程度以上、好ましくは約0.001〜0.1mg程度の範囲とするのが適当である。
【0115】
本発明医薬製剤中に含まれる有効成分の量は、広範囲から適宜選択されるが、通常約0.00001〜70重量%、好ましくは0.0001〜5重量%程度の範囲とするのが適当である。
【0116】
また本発明医薬製剤中には、各種添加剤、例えば緩衝剤、等張化剤、キレート剤などをも添加することができる。ここで緩衝剤としては、リン酸、酢酸、クエン酸、ε−アミノカプロン酸、グルタミン酸及び/又はそれらに対応する塩(例えばそれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩)などを例示できる。等張化剤としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、グリセリンなどを例示できる。またキレート剤としては、例えばエデト酸ナトリウム、クエン酸などを例示できる。
【0117】
本発明医薬製剤は、溶液製剤として使用できる他に、これを凍結乾燥化し保存し得る状態にした後、用時水、生埋的食塩水などを含む緩衝液などで溶解して適当な濃度に調製した後に使用することも可能である。
【0118】
また、本発明医薬製剤は、錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、カプセル剤などの固体投与形態や、溶液、懸濁剤、乳剤、シロップ、エリキシルなどの液剤投与形態に調製されてもよい。これらは更に投与経路に応じて経口剤、非経口剤、経鼻剤、経膣剤、坐剤、舌下剤、軟膏剤などに分類され、それぞれ通常の方法に従い、調合、成形乃至調製することができる。
【0119】
例えば、錠剤の形態に成形するに際しては、上記製剤担体として乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸、リン酸カリウムなどの賦形剤、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどの結合剤、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウムなどの崩壊剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリドなどの界面活性剤、白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油などの崩壊抑制剤、第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウムなどの吸収促進剤、グリセリン、デンプンなどの保湿剤、デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸などの吸着剤、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコールなどの滑沢剤などを使用できる。
【0120】
更に錠剤は必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠或は二重錠乃至多層錠とすることができる。
【0121】
丸剤の形態に成形するに際しては、製剤担体として例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルクなどの賦形剤、アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノールなどの結合剤、ラミナラン、カンテンなどの崩壊剤などを使用できる。
【0122】
カプセル剤は、常法に従い通常本発明の有効成分を上記で例示した各種の製剤担体と混合して硬質ゼラチンカプセル、軟質カプセルなどに充填して調整される。
【0123】
経口投与用液体投与形態は、慣用される不活性希釈剤、例えば水、を含む医薬的に許容される溶液、エマルジョン、懸濁液、シロップ、エリキシルなどを包含し、更に湿潤剤、乳剤、懸濁剤などの助剤を含ませることができ、これらは常法に従い調製される。
【0124】
非経口投与用の液体投与投与形態、例えば滅菌水性乃至非水性溶液、エマルジョン、懸濁液などへの調製に際しては、希釈剤として例えば水、エチルアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びオリーブ油などの植物油などを使用でき、また注入可能な有機エステル類、例えばオレイン酸エチルなどを配合できる。これらには更に通常の溶解補助剤、緩衝剤、湿潤剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤、分散剤などを添加することもできる。 滅菌は、例えばバクテリア保留フィルターを通過させる濾過操作、殺菌剤の配合、照射処理及び加熱処理などにより実施できる。また、これらは使用直前に滅菌水や適当な滅菌可能媒体に溶解することのできる滅菌固体組成物形態に調製することもできる。
【0125】
坐剤や膣投与用製剤の形態に成形するに際しては、製剤担体として、例えばポリエチレングリコール、カカオ脂、高級アルコール、高級アルコールのエステル類、ゼラチン及び半合成グリセライドなどを使用できる。
【0126】
噴霧剤、エアゾール剤、吸入剤、経鼻又は舌下投与用組成物は、周知の標準賦形剤を用いて、常法に従い調製することができる。
【0127】
尚、本発明医薬製剤中には、必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤などや他の医薬品などを含有させることもできる。
【0128】
上記医薬製剤の投与方法は、特に制限がなく、各種製剤形態、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度などに応じて決定される。例えば錠剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤及びカプセル剤は経口投与され、注射剤は単独で又はブドウ糖やアミノ酸などの通常の補液と混合して静脈内投与され、更に必要に応じ単独で筋肉内、皮内、皮下もしくは腹腔内投与され、坐剤は直腸内投与され、経膣剤は膣内投与され、経鼻剤は鼻腔内投与され、舌下剤は口腔内投与される。
【0129】
上記医薬製剤の投与量は、特に限定されず、所望の治療効果、投与法、治療期間、患者の年齢、性別その他の条件などに応じて広範囲より適宜選択されるが、一般的には、通常成人に対して有効成分量が、1日体重1kg当り、約0.01μg〜10mg程度、好ましくは約0.1μg〜1mg程度とするのがよく、該製剤は1日に1回又は数回に分けて投与することができる。
【0130】
また、本発明の治療方法において、本発明のポリペプチド及び/又は複合体、又はその薬学的に許容される塩は、例えば、現在臨床の現場で行われている多剤療法(HAART:Highly Active Anti-retroviral Therapy)等の公知の療法と併用することも可能である。
【0131】
【実施例】
実施例1 本発明のポリペプチドSC34−aの製造
Ac-Trp-Nle-Glu-Trp-Asp-Arg-Lys-Ile-Glu-Glu-Tyr-Thr-Lys-Lys-Ile-Lys-Lys-Leu-Ile-Glu-Glu-Ser-Gln-Glu-Gln-Gln-Glu-Lys-Asn-Glu-Lys-Glu-Leu-Lys-NH2 (1) SC34保護ポリペプチド樹脂の合成
Fmoc-NH-SAL樹脂(0.51 mmol/g) 392 mg (0.2 mmol)のFmoc基を20% ピペリジン/DMF(ジメチルホルムアミド)で除去後、H2N-SAL樹脂に対し、34位に相当するFmoc-Lys(Boc)-OH (2.5 eq)を加え、DMF中、DIPCDI-HOBt法により縮合反応を行った。縮合反応の進行の程度はニンヒドリン試験法により調べた。
【0132】
以下同様にして、順次、Nα-Fmoc化された以下のアミノ酸誘導体、Leu, Glu(Ot-Bu), Lys(Boc), Gln(Trt), Asn(Trt), Lys(Boc), Glu(Ot-Bu), Gln(Trt), Gln(Trt), Glu(Ot-Bu), Gln(Trt), Ser(t-Bu), Glu(Ot-Bu), Glu(Ot-Bu), Ile, Leu, Lys(Boc), Lys(Boc), Ile, Lys(Boc), Lys(Boc), Thr(t-Bu), Tyr(t-Bu), Glu(Ot-Bu), Glu(Ot-Bu), Ile, Lys(Boc), Arg(Pbf), Asp(Ot-Bu), Trp, Glu(Ot-Bu), Nle, Trpを縮合した。アミノ酸の縮合が完了した樹脂を20% ピペリジン/DMFで処理し、Fmoc基の切断を行った。次いで、本保護樹脂を無水酢酸/ピリジンで処理することによりN末端アミノ基をアセチル化し、SC34保護ペプチド樹脂を得た。
【0133】
(2) 脱保護、樹脂からのポリペプチドの分離および精製
保護ペプチド樹脂100 mg当たり、TFA (4.0 mL)-チオアニソール(0.5 mL)-m-クレゾール(0.5 mL)-エタンジチオール(0.5 mL)-H2O(0.5 mL)で25°C, 3時間反応させた。反応混合物から樹脂を濾別し、樹脂をTFA 1 mLで2回洗浄し、濾液、洗液を合わせたものに氷冷乾燥エーテル100 mLを加え、生じた沈殿物を遠心分離し、残査をデカンテーションにより上澄みから分離した。得られた残査を冷エーテルで洗浄し、H2O−アセトニトリル(CH3CN) 1 : 1, 10 mLに溶解した。この溶液を、HPLC(コスモシール 5C18 ARIIカラム:アセトニトリル傾斜溶出)により精製し、単一ピークのポリペプチドを得た。純度はHPLCにより確認した。
[α]D (c 0.38: 0.1 N AcOH): −50.0
イオンスプレーマススペクトル(IS-MS): (C198H318N52O62)
計算値:4419.1 実測値:4419.5
(トリプルステージ四重極型質量分析装置APIII (Perkin-Elmer ScieX))
実施例 2 本発明のポリペプチドSC34(EK)−aの製造
Ac-Trp-Nle-Glu-Trp-Asp-Arg-Lys-Ile-Glu-Glu-Tyr-Thr-Lys-Lys-Ile-Glu-Glu-Leu-Ile-Lys-Lys-Ser-Gln-Glu-Gln-Gln-Glu-Lys-Asn-Glu-Lys-Glu-Leu-Lys-NH2一部のアミノ酸の配列を換えた以外は、上記(本発明のポリペプチドSC34)と同様にして、本発明のポリペプチドSC34(EK)を得た。
[α]D (c 0.4: 0.1 N AcOH): −52.4
イオンスプレーマススペクトル(IS-MS): (C198H318N52O62)
計算値:4419.1 実測値:4419.5
(トリプルステージ四重極型質量分析装置APIII (Perkin-Elmer ScieX))。
【0134】
実施例1と同様にして、以下に示す本発明のポリペプチドを合成した;
SC34−b:Ac-Trp-Met-Glu-Trp-Asp-Arg-Lys-Ile-Glu-Glu-Tyr-Thr-Lys-Lys-Ile-Lys-Lys-Leu-Ile-Glu-Glu-Ser-Gln-Glu-Gln-Gln-Glu-Lys-Asn-Glu-Lys-Glu-Leu-Lys-NH2(IS-MS;C197H316N52O62S)、計算値:4437.1、実測値:4437.5) SC34(EK)−b:Ac-Trp-Met-Glu-Trp-Asp-Arg-Lys-Ile-Glu-Glu-Tyr-Thr-Lys-Lys-Ile-Glu-Glu-Leu-Ile-Lys-Lys-Ser-Gln-Glu-Gln-Gln-Glu-Lys-Asn-Glu-Lys-Glu-Leu-Lys-NH2(IS-MS;C197H316N52O62S、計算値:4437.1、実測値:4437.5) SC35(EK):Ac-Trp-Glu-Glu-Trp-Asp-Lys-Lys-Ile-Glu-Glu-Tyr-Thr-Lys-Lys-Ile-Glu-Glu-Leu-Ile-Lys-Lys-Ser-Glu-Glu-Gln-Gln-Lys-Lys-Asn-Glu-Glu-Glu-Leu-Lys-Lys-NH2(IS-MS;C203H325N51O66、計算値:4536.2、実測値:4537.7)。
【0135】
実施例 3 本発明のAZT-SC34複合体の製造
AZT-CO-(CH2)3-CO-NH-(CH2)5-CO-Trp-Nle-Glu-Trp-Asp-Arg-Lys-Ile-Glu-Glu-Tyr-Thr-Lys-Lys-Ile-Lys-Lys-Leu-Ile-Glu-Glu-Ser-Gln-Glu-Gln-Gln-Glu-Lys-Asn-Glu-Lys-Glu-Leu-Lys-NH2
SC34の合成中間体であるN末端TrpのNa-保護基が除去され、遊離のN末端アミノ基を有する保護ペプチド樹脂に対して、まずスペーサー物質としてFmoc-NH-(CH2)5-COOHをDIPCDI-HOBt法により縮合後、Fmoc基の切断を行い、次いでAZT-CO-(CH2)3-COOHをDIPCDI-HOBt法により縮合した。
【0136】
本AZT-保護ペプチド樹脂を100 mg当たり、TFA (4.0 mL)-チオアニソール(0.5 mL)-m-クレゾール(0.5 mL)-エタンジチオール(0.5 mL)-H2O(0.5 mL)で25°C, 3時間反応させた。
【0137】
反応混合物から樹脂を濾別し、樹脂をTFA 1 mLで2回洗浄し、濾液、洗液を合わせたものに氷冷乾燥エーテル100 mLを加え、生じた沈殿物を遠心分離し、残査をデカンテーションにより上澄みから分離した。
【0138】
得られた残査を冷エーテルで洗浄し、H2O-アセトニトリル(CH3CN) 1 : 1, 10 mLに溶解した。この溶液を、HPLC(コスモシール 5C18 ARIIカラム:アセトニトリル傾斜溶出)により精製し、単一ピークのポリペプチドを得た。純度はHPLCにより確認した。
[α]D (c 0.4: 0.1 N AcOH): 41.7
イオンスプレーマススペクトル(IS-MS): (C217H344N58O68)
計算値:4853.51 実測値:4854.00
(トリプルステージ四重極型質量分析装置APIII (Perkin-Elmer ScieX))。
【0139】
試験例1 本発明のポリペプチド又は複合体の抗HIV活性の評価
活性評価はgalactosidase indicator assay (MAGI assay)1,2,3により行った。標的細胞(HeLa CD4-LTR/b-gal: 104/well)を96-well培養プレートで1日培養した後、培地を除去後、HIV-1 clones (70 MAGI unit/well, which gave 70 blue cells after 48 h incubation)を加え、種々の濃度の本発明ポリペプチドが存在する培地で細胞培養を行う。48時間後、青色細胞(HIV-1が感染すると青色に発色する)の数を測定する。コントロールとしてDP178(T-20)を用いた。
【0140】
結果を表1に示す。
【0141】
1.Kimpton J, Emerman M. 1992. Detection of replication-competent and pseudotyped human immunodeficiency virus with a sensitive cell line on the basis of activation of an integrated beta-galactosidase gene. J Virol. 66:2232-9.
2.Kodama E, Kohgo S, Kitano K, Machida H, Gatanaga H, Shigeta S, Matsuoka M, Ohrui H, Mitsuya H. 2001. 4'-Ethynyl nucleoside analogs: Potent inhibitors active against multi-drug-resistant HIV variants in vitro. Antimicrobial Agents and Chemotherapy. .
3.Maeda Y, Venzon D, Mitsuya H. 1998. Evolution and fitness of HIV-1 with the pol gene mutations conferring multi-dideoxynucleoside resistance. J. Infect. Dis. 177:1207-1213.。
【0142】
試験例 2 本発明のポリペプチドとN36との6量体の融点の測定
試験例1で用いた本発明のポリペプチドとN36を、PBS(pH7.0)中で等モル量混合し、37℃で1時間撹拌した後、その複合体(40μM)の融点(6量体の熱安定性を示し、50%の分子が6量体を形成していない温度と定義)をCDスペクトルにて測定した。結果は表1に併せて示す。
【0143】
【表1】
【0144】
表1から、本発明のポリペプチドは非常に高い抗HIV活性を有しており、また、N36との強固な結合を形成することがわかる。
【0145】
試験例3 抗HIV剤に対する耐性を有するエイズウイルスを用いた本発明のポリペプチドの効果
試験例1と同様に、DP178に対して耐性を示すウイルスを用いて、本発明のポリペプチドの効果を確かめた。結果を表2に示す。
【0146】
【表2】
【0147】
表2から、本発明のポリペプチドは、現在治験のPhase IIIの段階に進んでいる抗HIV剤DP178より非常に強い抗HIV活性を示し、更に、DP178に耐性を示すウイルスに対しても、非常に高い抗HIV活性(耐性株よりも強い抗HIV活性)を示すことが分かった。
【0148】
試験例4 N36ポリペプチドとの親和性の評価
本発明ポリペプチドSC34及び公知のC34と公知のN36の等量混合物の各温度におけるCDスペクトルを測定し、222 nmにおける吸収の温度変化を追跡することによりSC34-N36複合体とC34-N36複合体の熱安定性について検討した。
【0149】
分子の50%が非会合状態になる温度はC34-N36が52°Cであったのに対し、SC34-N36は67°Cとなり、SC34がN36とより強固な複合体を形成していることを確認した。
【0150】
また、SC34-N36複合体を超遠心にかけ、実際に存在する分子量測定を行ったところ、6量体(3分子のSC34、3分子のN36)として存在することが確認された。結果を図3に示す。
【0151】
試験例5 水溶性試験
C34およびSC34の逆相HPLCにおける溶出時間より、水溶性増大を確認した。分析条件としてはカラムとしてコスモシール5C18 AR-II (4.6 x 150 mm)を用い、0.1% TFA水溶液中、アセトニトリル濃度を30分で30%から50%まで増大させるグラジエント溶出法を採用した。
【0152】
その結果、C34は28分、SC34は21分で溶出されることから、SC34は公知のC34と比較して大幅に水溶性が向上していることが確認された。
【0153】
試験例6 本発明とN36との6量体形成の確認
本発明のポリペプチド及びN36を等モル量ずつPBS(pH7.0)に中で混合し、37℃で1時間撹拌した。形成された複合体の濃度が40μMになるように調製し、BECKMAN XL-Iを用いて24000rpmで、20℃における見かけの分子量の測定を行った。試料溶液の部分比容v=0.73cm3/g、試料溶液密度ρ=1.00g/cm3とした。
【0154】
結果を図4に示す。この結果から、3つの本発明のポリペプチドと3つのN36が6量体を形成していることが確認できた。
【0155】
【発明の効果】
本願発明のポリペプチドは、N36への高い親和性を有しており、高い抗HIV活性を示す。更に、水溶性も高いので、医薬品として使用しやすいだけでなく、HIV及びHIV感染細胞への薬物輸送のためのベクター分子としても使用しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 HIVウイルスのC34を示す模式図である。
【図2】 HIVが宿主細胞に感染するメカニズムの1つを示す図である。
【図3】 本発明ポリペプチドSC34及びC34とN36との結合力を示す図である。
【図4】 本発明ポリペプチド(SC34)とN36とが6量体を形成していることを示す図である。
Claims (4)
- 下記いずれかのアミノ酸配列を有するポリペプチド。
Ac-Trp-Nle-Glu-Trp-Asp-Arg-Lys-Ile-Glu-Glu-Tyr-Thr-Lys-Lys-Ile-Lys-Lys-Leu-Ile-Glu-Glu-Ser-Gln-Glu-Gln-Gln-Glu-Lys-Asn-Glu-Lys-Glu-Leu-Lys-NH 2 (SC34−a);
Ac-Trp-Nle-Glu-Trp-Asp-Arg-Lys-Ile-Glu-Glu-Tyr-Thr-Lys-Lys-Ile-Glu-Glu-Leu-Ile-Lys-Lys-Ser-Gln-Glu-Gln-Gln-Glu-Lys-Asn-Glu-Lys-Glu-Leu-Lys-NH 2 (SC34(EK)−a);
(「Ac」はアセチル基を示す。) - 下記アミノ酸配列を有する複合体。
AZT-CO-(CH2)3-CO-NH-(CH2)5-CO-Trp-Nle-Glu-Trp-Asp-Arg-Lys-Ile-Glu-Glu-Tyr-Thr-Lys-Lys-Ile-Lys-Lys-Leu-Ile-Glu-Glu-Ser-Gln-Glu-Gln-Gln-Glu-Lys-Asn-Glu-Lys-Glu-Leu-Lys-NH2
(「AZT」はジドブジンを示す。) - 請求項1に記載のポリペプチド及び/又は請求項2に記載の複合体、又はその薬学的に許容される塩を有効成分として、薬学的に許容される担体、賦形剤又は希釈剤を含有する抗HIV剤。
- 請求項1に記載のポリペプチド及び/又は請求項2に記載の複合体、又はその薬学的に許容される塩を有効成分として、薬学的に許容される担体、賦形剤又は希釈剤を含有するAIDS発症予防剤又はAIDS治療剤。
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