JP4326055B2 - 井型断面中空繊維 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、軽量性、嵩高性、保温性、撥水性などに優れ、独特の風合いを持つ井型断面中空繊維であって、光沢の抑えられた優れた艶消し効果を有し、かつ良好に巻き取ることができる井型断面中空繊維に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
合成繊維における高い付加価値を持つ中空繊維として、井型断面中空繊維が開発されている(特開平8-127936号公報、特開平10-110324 号公報)。この繊維は、井型断面という特殊な単糸断面形状から、独特の風合いを持ち、中空部により形成されるデッドエアー部と突起部により単糸間に形成されるデッドエアー部により、高い軽量性、嵩高性、保温性を備え、突起部による水滴との接触面積の低さから、撥水性にも優れている。
【0003】
しかしながら、この繊維は、井型断面という特殊な単糸断面形状のため、外部からの入射光が単糸断面外周の突起部で反射し、かなり強い独特の光沢を呈し、用途によってはその光沢感が繊維製品の外観を損ねてしまい、使用し難いという問題があった。
【0004】
一般的に、合成繊維の光沢感を抑えるためには、熱可塑性ポリマーに酸化チタン微粒子を含有させる方法が行われている。
しかしながら、井型断面繊維の場合、少量の酸化チタン微粒子の添加では単糸断面外周の突起部で起こる光の反射を十分に抑えることができない。酸化チタン微粒子の添加量を増加させると、光の反射を抑えることは可能になるが、繊維の強伸度及び形状の安定性が低下しやすく、また、単糸表面に酸化チタン微粒子が突出し、糸と糸の間の接触面積が少なくなって、摩擦係数が低くなるために、巻き取り時にパッケージ端面で綾落ちが生じるという問題があった。
【0005】
特に井型断面中空繊維は、糸と糸とが単糸断面外周の突起部で接触するため、接触面積が通常の丸断面繊維等と比べて極めて小さく、摩擦係数も小さい。このため、酸化チタン微粒子の添加量の増加による摩擦係数の低下は著しく、パッケージ端面での綾落ち発生は顕著なものとなる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述した問題点を解決し、酸化チタン微粒子を含有することによって、光沢が抑えられて優れた艶消し効果を有し、かつ摩擦係数が高く、巻き取り時に綾落ちがなく良好に巻き取ることが可能な井型断面中空繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究の結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、熱可塑性ポリマーからなり、横断面形状が中心部付近に中空部を有する四角形部のそれぞれの角に、略直角をなす2つの突起部を有する井型面形状を呈する中空繊維であって、酸化チタン微粒子を繊維全体の0.1 〜10.0重量%含有し、トリイソステアリルトリメリテートを含む油剤が繊維表面に繊維全体の1.0 重量%以上付与されており、繊維の糸/糸動摩擦係数(F/Fμd)が2.9 以上であることを特徴とする井型断面中空繊維を要旨とするものである。
【0008】
なお、本発明における繊維の糸/糸動摩擦係数(F/Fμd)は、図3に示すような測定装置を用いて測定した。糸送りローラ4、9間を速度100 m/分で糸条を走行させ、初荷重T1=10g(荷重W=20g)を動滑車5にかけて糸条を走行させ、糸条をガイド7で3回撚り合わせる。糸条の撚り合わせ後の応力T2(g)をテンションメーター8にて測定し、初荷重T1に対する応力T2の比として、F/Fμd=T2/T1で求めた。
【0009】
また、嵩高率とは、横断面における中空部と突起部で形成されるデッドエアー部の面積の割合をいう。測定法は、ニコン社製マイクロフォトS光学顕微鏡に顕微鏡写真撮影装置を取り付け、5本の単糸について、単糸の横断面形状を撮影し、図2の断面模式図に示すように、面積Aと面積Bの値を算出し、次のようにして求めるものであり、5本の平均値とする。
嵩高率(%)=〔(面積A)/(面積A+面積B)〕×100
【0010】
【発明の実施の形態】
次に、本発明について詳細に説明する。
本発明の井型断面中空繊維を構成する熱可塑性ポリマーとしては、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610等を主成分とするポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等を主成分とするポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等を主成分とするポリオレフィン等が挙げられる。
特に、ナイロン6を中心とするポリアミドを熱可塑性ポリマーとして用いた場合、従来のポリアミド繊維にはみられない独特のドライタッチな風合いの繊維を得ることが可能となる。
【0011】
次に、本発明の繊維の形状について図面を用いて説明する。図1は本発明の井型断面中空繊維の一実施態様を示す断面模式図である。
本発明の繊維は、横断面形状が四角形であり、中心部付近に中空部1を有する中空繊維の四角形部3のそれぞれの角に、略直角をなす2つの突起部2を有する井型断面形状を呈するものである。
【0012】
このように、井型断面形状を呈していることによって、マルチフィラメント糸として各単糸が重なり合ったときに、各単糸の有する突起部により多数の中空部(デッドエアー部)が形成され、嵩高性と保温性に優れる繊維となる。さらに、繊維表面に多数の突起部が現れることによっても嵩高性、撥水性にも優れるものとなる。
【0013】
そこで、本発明の井型断面中空繊維は、横断面における全面積のうち突起部2の面積の割合が30%以上、嵩高率が20%以上であることが好ましい。突起部2の面積の割合が30%未満であると、繊維全体に占める突起部の割合が少なくなり、井型断面中空繊維が持つ特性である、十分な嵩高性や保温性、撥水性といった機能が発現しにくくなる。突起部の面積の割合の上限は特に限定されるものではないが、60%程度とすることが好ましい。面積の割合が60%を超えると、繊維の形状の維持が難しくなりやすい。
【0014】
嵩高率が20%未満である場合、形成されるデッドエアー部が少なくなり、この繊維より得られた布帛は、嵩高性、保温性が不十分であり、軽量感にも乏しいものとなりやすい。嵩高率の上限は、特に限定されるものではないが、40%程度とすることが好ましい。嵩高率が40%を超えると、中空部が大きすぎる場合は中空割れの生じた繊維となりやすく、突起部が長すぎる場合は、繊維の形状の維持が難しくなり、また、得られた布帛の品位が低下しやすい。
【0015】
本発明の井型断面中空繊維を構成する熱可塑性ポリマーには、繊維全体に対する割合で、酸化チタン微粒子を0.1〜10.0重量%、好ましくは0.3〜1.0重量%含有されている。
酸化チタン微粒子の含有量が0.1 重量%未満であると、十分な艶消し効果が得られない。一方、含有量が10.0重量%を超えると艶消し効果が飽和するだけでなく、紡糸性が悪化し、繊維の強度及び形態の安定性が低下しやすくなる。
【0016】
井型断面中空繊維においては、酸化チタン微粒子を含まない場合のF/Fμdは2.9 〜3.0 程度であり、酸化チタン微粒子を0.5 重量%程度含有した場合のF/Fμdは2.5 〜2.7 程度である。
【0017】
そして、酸化チタン微粒子の含有量が0.3 重量%を超えると、糸と糸の間の摩擦係数が低くなるために、巻き取り時にパッケージ端面での綾落ちが発生するようになる。しかしながら、酸化チタン含有量が0.3 重量%以上であっても、糸/糸−動摩擦係数であるF/Fμdの値を2.9 以上とすれば、巻き取り時の綾落ちを防ぐことが可能となる。
【0018】
そこで、F/Fμdを、酸化チタン微粒子を含む場合においても、酸化チタン微粒子を含まない場合と同様の程度にまで上げる具体的な方法としては、トリイソステアリルトリメリテートを成分として含む油剤を繊維表面に付与する方法が有効である。
トリイソステアリルトリメリテートを油剤成分として付与することにより、F/Fμdを上げることができ、これにより、従来の紡糸巻取設備及び条件を用いて本発明の井型断面中空繊維を綾落ちなく巻き取ることができる。
【0019】
トリイソステアリルトリメリテートは、油剤成分の5重量%以上、さらには10〜25重量%含有されていることが好ましい。
そして、油剤の付着量は、繊維全体に対して1.0 重量%以上、さらには、1.2 〜3.0 重量%であることが好ましい。油剤の付着量が1.0 重量%未満ではF/Fμdを上げる効果が不十分で、かつ油剤付着量不足による毛羽発生などが起こりやすくなる。一方、3.0 重量%を超えると、コストが高くなり、また巻き取りローラへの油剤付着による汚れや紡糸性の悪化などが発生しやすくなる。
【0020】
なお、本発明で使用する酸化チタン微粒子は、平均粒径が0.6 μm以下のものが好ましく、さらには0.4 μm以下のものがよい。平均粒径が0.6 μmを超えると、紡糸工程においてろ材の目詰まりが生じやすく、これに起因して糸切れが生じやすくなる。
【0021】
このように、本発明の井型断面中空繊維は、酸化チタン微粒子を繊維全体の0.1 〜10.0重量%含有することによって、光沢が3.0 級以下の繊維となる。
ここでいう光沢とは、評価する繊維の丸編み地を作成し、酸化チタン微粒子を0.3 重量%含有する60d/16fの丸断面繊維を1級、酸化チタン微粒子を含まない60d/16fの井型断面中空繊維の光沢を5級とし、光沢が強いほど判定級が大きくなるように光沢の強さを目視にて5段階評価したものである。
【0022】
中空でない、通常の丸断面形状の繊維において、酸化チタン微粒子を含まない場合の光沢は4.0 級程度であり、酸化チタン微粒子を0.05重量%程度含む場合の光沢の値は1.5 〜2.0 級程度である。これに対し、井型断面中空繊維においては、酸化チタン微粒子を0.05重量%程度含有した場合においても光沢は4.0 級程度であり、これを本発明のように酸化チタン微粒子を0.1 重量%以上含有させると、光沢が3.0 級以下の繊維とすることができる。
このように光沢が3.0 級以下の繊維とすることで、得られる布帛は単糸断面形状による強い光沢感が抑えられ、優れた艶消し効果を有するものとなる。
【0023】
本発明の井型断面中空繊維は、合成繊維の製造の常法に従い、溶融紡糸装置を用いて製造することができる。まず、酸化チタン微粒子を0.1 〜10.0重量%含有する熱可塑性樹脂を溶融紡糸し、紡糸糸条を冷却した後、トリイソステアリルトリメリテートを含む油剤を付与し、直接紡糸延伸法により、2000m/分以上の速度で巻き取る。または、冷却した糸条を延伸することなく未延伸状態で一旦巻き取り、この糸条を再度ローラ間で延伸しながら巻き取る。
【0024】
生産性よく製造するためには、直接紡糸延伸法による高速溶融紡糸法を用いることが望ましいが、紡糸速度が速いと、糸条表面に酸化チタン微粒子が析出しやすく、繊維のF/Fμdが低下しやすい。しかしながら、トリイソステアリルトリメリテートを含む油剤を付与すれば、直接紡糸延伸法によっても本発明の繊維のF/Fμdが2.9 以上の井型断面中空繊維を得ることができる。
【0025】
【実施例】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。
なお、繊維の強伸度、断面形状及び巻き取りパッケージの綾落ちの測定は次のようにして行い、繊維の嵩高率、光沢及びF/Fμdの測定や評価は前記の方法で行った。
〔強伸度〕
得られた繊維について、島津製作所製オートグラフAGS−50Dを用い、試料長25cm、引っ張り速度25cm/分で測定した。
〔繊維の断面形状〕
ニコン社製マイクロフォトS光学顕微鏡に顕微鏡写真撮影装置を取り付け、5本の単糸について、単糸の横断面形状を撮影し、突起部の面積の割合を算出し、その平均値とした。
〔綾落ち〕
得られた繊維について、巻き径20cm(内、紙管径10.8cm)の巻き取りパッケージにおける端面の綾落ちの個数を数え、下記の基準で綾落ちの程度を評価した。
○:端面の綾落ち個数が3個未満
△:端面の綾落ち個数が3個以上10個未満
×:端面の綾落ち個数が10個以上
〔風合い〕
得られた繊維を丸編機を用いて編地にし、この編地の嵩高性と軽量感について、触感により判定し、3段階(優れているものから○、△、×)で評価した。
【0026】
実施例1
平均粒径0.4 μmの酸化チタン微粒子を0.5 重量%含有する相対粘度(96%硫酸を溶媒とし、濃度1g/dl、温度25℃で測定した。)3.51のナイロン6ペレットをエクストルーダーに供給し、紡糸温度261 ℃で溶融紡糸した。そして、表1に示すようにトリイソステアリルトリメリテート成分を含有する油剤を付与した後にローラ間で延伸を施し、4150m/分の速度で巻き取り、図1に示すような井型断面形状の中空繊維(60d/16f)を得た。
【0027】
【表1】
【0028】
比較例1
酸化チタン微粒子を含有していない相対粘度3.51のナイロン6ペレットを用い、付与する油剤を表2に示すようにトリイソステアリルトリメリテート成分を含有していないものにした以外は、実施例1と同様にして行った。
【0029】
【表2】
【0030】
実施例2〜3、比較例2〜4
酸化チタン微粒子の含有量、油剤の付着量、付与する油剤の種類を表3に示す値に種々変更した以外は、実施例1と同様にして行った。
【0031】
実施例1〜3、比較例1〜4で得られた繊維の強伸度、繊維横断面における突起部の割合、嵩高率、光沢、F/Fμd、摩擦係数、綾落ち、風合いの評価を表3に示す。
【0032】
【表3】
【0033】
表3より明らかなように、実施例1〜3の繊維は、十分な強伸度を持ち、巻き取りパッケージも、綾落ちのない良好な巻き姿のものとすることができた。また、この繊維から得られた布帛は、光沢が抑えられ、嵩高性等の風合いも優れていた。
一方、比較例1、2の繊維は、酸化チタン微粒子の含有量が少なすぎたため、突起部における外部からの入射光の反射による強い光沢感が抑制しきれず、得られた布帛も光沢の強いものであった。比較例3の繊維は酸化チタン微粒子の含有量が多すぎたため、強伸度及び嵩高率が低下し、得られた布帛も風合いの劣ったものであった。また、比較例4の繊維は、トリイソステアリルトリメリテートを含有していない油剤が付与されていたため、F/Fμdが低くなりすぎ、巻き取りパッケージは多数の綾落ちが生じた。このため、このパッケージは解舒性が悪く、得られた布帛は品位に劣るものであった。
【0034】
【発明の効果】
本発明の繊維は、井型断面繊維特有の軽量感、嵩高性、保温性、撥水性などに優れると同時に、特有の光沢が抑えられて優れた艶消し効果を有し、かつ摩擦係数が高く、巻き取り時に綾落ちがなく良好に巻き取ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の井型断面中空繊維の一実施態様を示す断面模式図である。
【図2】本発明の井型断面中空繊維の嵩高率の算出方法を示す断面模式図である。
【図3】本発明の井型断面中空糸のF/Fμdを測定する装置の模式図である。
【符号の説明】
1 中空部
2 突起部
3 四角形部
4 糸送りローラ
5 動滑車
6 荷重(初荷重T1部)
7 糸撚り合わせガイド(糸撚り合わせ部)
8 テンションメーター(T2応力検出部)
9 糸送りローラ
Claims (2)
- 熱可塑性ポリマーからなり、横断面形状が中心部付近に中空部を有する四角形部のそれぞれの角に、略直角をなす2つの突起部を有する井型面形状を呈する中空繊維であって、酸化チタン微粒子を繊維全体の0.1 〜10.0重量%含有し、トリイソステアリルトリメリテートを含む油剤が繊維表面に繊維全体の1.0 重量%以上付与されており、繊維の糸/糸動摩擦係数(F/Fμd)が2.9 以上であることを特徴とする井型断面中空繊維。
- 繊維の横断面形状における全面積のうち突起部の面積の割合が30%以上であり、嵩高率が20%以上である請求項1記載の井型断面中空繊維。
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