プラスイオン、マイナスイオンの両極性のイオンを放出して、空気中にプラスイオンであるH+(H2O)mと、マイナスイオンであるO2 -(H2O)n(m、nは自然数)を略同等量発生させることにより、両イオンが空気中の浮遊カビ菌やウィルスの周りを取り囲み、その際に生成される活性種の水酸基ラジカル(・OH)の作用により、前記浮遊カビ菌等を不活化することが可能なイオン発生装置に関する発明が本発明者等によってすでになされている(例えば、特許文献1、2を参照)。
なお、上記の発明については、本願出願人によって既に実用化され、実用機には、セラミックの誘電体を挟んで外側に放電電極、内側に誘導電極を配設した構造のイオン発生装置、及びこれを搭載した空気清浄機や空気調和機などがある。
しかしながら、前記浮遊カビ菌等を不活化することが可能なイオン発生装置には、プラスイオンとマイナスイオンを同時に発生させることで、発生とともに両極性のイオンの一部は中和して消滅しているという課題があった。この問題点に鑑み、本発明者等は図10に示すイオン発生装置に関する発明をなし、かかる発明に関する特許出願(特願2003−137098)が本出願人によってすでになされている。
以下、図10に示すイオン発生装置について説明する。図10はイオン発生装置の構成を模式的に示した図である。図10に示すイオン発生装置は、イオンを発生する2つの放電部を備えたイオン発生素子100と、イオン発生素子100に対して所定の電圧印加を行う電圧印加部120とを有して成る。
イオン発生素子100は、誘電体114(上部誘電体114aと下部誘電体114b)と、第1放電部108(放電電極108a、誘導電極108b、放電電極接点108c、誘導電極接点108d、接続端子108e、108f、及び接続経路108g、108h)と、第2放電部109(放電電極109a、誘導電極109b、放電電極接点109c、誘導電極接点109d、接続端子109e、109f、及び接続経路109g、109h)と、コーティング層115とを有して成る。
放電電極接点108c、109cは、放電電極108a、109aと同一形成面(すなわち上部誘電体114aの表面)に設けられた接続端子108e、109e、及び接続経路108g、109gを介して、放電電極108a、109aと電気的に導通されている。また、誘導電極接点108d、109dは、誘導電極108b、109bと同一形成面(すなわち下部誘電体114bの表面)に設けられた接続端子108f、109f、及び接続経路108h、109hを介して、誘導電極108b、109bと電気的に導通されている。
そして、放電電極接点108c、109c、誘導電極接点108d、109dと電圧印加部120との間はそれぞれリード線(銅線やアルミ線など)108p、108q、109p、109qで接続され、電圧印加部120から放電電極108aと誘導電極108bとの間、及び、放電電極109aと誘導電極109bとの間に後述する電圧印加が行われ、放電電極108a、109a近傍において放電が行われることにより、それぞれプラスイオン、マイナスイオンが発生する。
図10のイオン発生装置が放出するプラスイオンとしてはH+(H2O)mであり、マイナスイオンとしてはO2 -(H2O)n(m、nは自然数でH2O分子が複数個付いていることを意味する)である。
次に、電圧印加部120の構成及び動作について図11を参照して説明する。図11(a)に電圧印加部120の電気的構成を示す。電圧印加部120は、入力電源101から電力を受け取るトランス107の1次側回路として、整流ダイオード102、入力抵抗103、トランス駆動用スイッチング素子104、コンデンサ105、及びダイオード106を有する。入力電源101が交流商用電源の場合、入力電源101の電圧により、整流ダイオード102、入力抵抗103を介して、コンデンサ105が充電され、コンデンサ105の両端電圧が規定電圧以上になればトランス駆動用スイッチング素子104がオンして、トランス107の1次側巻線107aに電圧が印加される。その直後、コンデンサ105に充電されたエネルギーはトランス107の1次側巻線107aとトランス駆動用スイッチング素子104を通じて放電され、コンデンサ105の両端電圧はゼロに戻り、再び充電がされ、規定周期で充放電を繰り返す。
続いてトランス107の2次側回路について説明する。トランス107の2次巻線107bが第1放電部108の放電電極108a、誘導電極108bに接続され、トランス107の2次巻線107cが第2放電部109の放電電極109a、誘導電極109bに接続されている。1次側回路のトランス駆動用スイッチング素子104がオンすることにより、1次側のエネルギーがトランスの2次巻線107b、107cに伝達され、トランスの2次巻線107b、107cにインパルス状電圧が発生する。
放電電極108aには、トランス107の2次巻線107bだけでなく、ダイオード110のアノード及びダイオード111のカソードが接続され、ダイオード110のカソードは切換リレー112の1つの選択端子112aに、またダイオード111のアノードは切換リレー112の別の選択端子112bに接続される。切換リレー112の共通端子112cは、接地または入力電源101の片側(これを基準電位と定義)に接続される。入力電源101が交流商用電源であるとき、日本国内では入力交流商用電源の片方が接地されているため、接地端子がない電気機器などは入力電源101の片側につなげば接地するのと同じ機能を得ることができる。また、第2放電部109の放電電極109aには、トランスの2次巻線107cだけでなく、ダイオード113のアノードが接続され、ダイオード113のカソードは、接地または入力電源101の片側に接続される。
次に、動作電圧波形について説明する。入力電源101が交流商用電源であるとき、入力電源101の整流ダイオード102に接続されている側の電圧波形は図11(b)のようになる。トランス107の2次巻線107b、107cの両端には、図11(c)のような交番電圧のインパルス波形が印加される。
2次巻線107cにダイオード113が接続されることで、第2放電部109の放電電極109a、誘導電極109bの電圧を接地端子、場合によっては入力電源101の片側(ダイオード113及び切換リレー112が接続される側)を基準にみた電圧波形は、図11(f)、(g)に示すように、図11(c)の波形がそれぞれ負にバイアスされた波形となり、第2の放電部109からはマイナスイオンが発生する。
切換リレー112が選択端子112b側にあって、2次巻線107bがダイオード111を介して共通端子112cに接続されると、第1放電部108の放電電極108a、誘導電極108bの電圧を接地端子、場合によっては入力電源101の片側(ダイオード113及び切換リレー112が接続される側)を基準にみた電圧波形は、図11(d)、(e)に示すように、図11(c)の波形がそれぞれ正にバイアスされた波形となり、第1放電部108からはプラスイオンが発生する。また、切換リレー112が選択端子112a側にあって、2次巻線107bがダイオード110を介して共通端子112cに接続されると、第1放電部108の放電電極108a、誘導電極108bの電圧を接地端子、場合によっては入力電源101の片側(ダイオード113及び切換リレー112が接続される側)を基準にみた電圧波形は、図11(f)、(g)に示すように、図11(c)の波形がそれぞれ負にバイアスされた波形となり、第1放電部108からはマイナスイオンが発生する。
このように、切換リレー112の選択端子が112a側にあるとき、第1放電部108から発生するイオンはマイナスイオンとなり、第2放電部109から発生するマイナスイオンとで双方の放電部からマイナスイオンが発生する。この運転モードは、家庭内の電気機器などでプラスイオン過多となった空間にマイナスイオンを多量に供給し、自然界での森の中のようなプラスとマイナスのイオンバランスのとれた状態にしたいときや、リラクゼーション効果を求めたりする場合に有効となる。
また、切換リレー112の選択端子が112b側にあるとき、第1放電部108から発生するイオンはプラスイオン、第2放電部109から発生するイオンはマイナスイオンとなり、プラス、マイナス両方のイオンが同時に発生する。そして、空気中にH+(H2O)mとO2 -(H2O)nが放出されることにより、これらのイオンが空気中の浮遊カビ菌やウィルスの周りを取り囲み、その際生成される活性種の水酸基ラジカル(・OH)の作用により不活化することが可能となる。
このとき、空気中にH
+(H
2O)
mとO
2 -(H
2O)
nが略同量放出されると、効率良く空気中の浮遊カビ菌やウィルスを不活化することができるので、第1放電部108と第2放電部109とに印加するインパルス電圧の絶対値を略同等にして第1放電部108から発生するプラスイオンと第2放電部109から発生するマイナスイオンとが略同量になるようにするために、トランス107は2次巻線107b、107cに誘起される電圧が略同等になるように設定されている。
特開2003−47651号公報
特開2002−319472号公報
本発明に係るイオン発生装置は、発生したプラスイオンとマイナスイオンがイオン発生素子の電極近傍で中和して消滅することを抑え、発生した両極性のイオンを有効的に空間に放出するために、単一のイオン発生素子でプラスイオンとマイナスイオンを所定周期で交互に発生させる方式ではなく、イオンを発生させる放電部を複数有するイオン発生素子でプラスイオンとマイナスイオンを個別に発生させ、各々を独立して室内に放出する方式(以下、イオン独立放出方式と呼ぶ)を採用した構成としている。
イオン発生素子の形態としては、針状電極を用いた構成としてもよいが、ここでは、誘電体の表面に設けられた放電電極と、誘電体内部に埋没された誘導電極とで一対の電極を成す構成を考える。
図1は、本発明に係るイオン発生装置の一実施形態を示す概略構成図であり、本図(a)、(b)は、それぞれイオン発生装置の平面図及び側面断面図を模式的に示している。
本図に示すように、本発明に係るイオン発生装置は、イオンを発生する放電部を複数(本実施形態では2つ)備えたイオン発生素子10と、イオン発生素子10に対して所定の電圧印加を行う電圧印加部20と、イオン発生素子10と電圧印加部20との間を電気的に接続するリード線12p、12q、13p、13qとを有して成る。
イオン発生素子10は、誘電体11(上部誘電体11aと下部誘電体11b)と、第1放電部12(放電電極12a、誘導電極12b、放電電極接点12c、誘導電極接点12d、接続端子12e、12f、及び接続経路12g、12h)と、第2放電部13(放電電極13a、誘導電極13b、放電電極接点13c、誘導電極接点13d、接続端子13e、13f、及び接続経路13g、13h)と、コーティング層14とを有して成り、第1の放電電極12aと誘導電極12bとの間、及び第2の放電電極13aと誘導電極13bとの間に後述の電圧印加を行い、放電電極12a、13a近傍において放電を行うことにより、それぞれプラスイオン、マイナスイオンを発生させることができる。
誘電体11は、略直方体状の上部誘電体11aと下部誘電体11bを貼り合わせて成る(例えば、縦15[mm]×横37[mm]×厚み0.45[mm])。誘電体11の材料として無機物を選択するのであれば、高純度アルミナ、結晶化ガラス、フォルステライト、ステアタイト等のセラミックを使用することができる。また、誘電体11の材料として有機物を選択するのであれば、耐酸化性に優れたポリイミドやガラスエポキシなどの樹脂が好適である。ただし、耐食性の面を考えれば、誘電体11の材料として無機物を選択する方が望ましく、さらに、成形性や後述する電極形成の容易性を考えれば、セラミックを用いて成形するのが好適である。
また、放電電極12a、13aと誘導電極12b、13bとの間の絶縁抵抗は均一であることが望ましいため、誘電体11の材料としては、密度ばらつきが少なく、その絶縁率が均一であるものほど好適である。
なお、誘電体11の形状は、略直方体状以外(円板状や楕円板状、多角形板状等)であってもよく、さらには円柱状であってもよいが、生産性を考えると、本実施形態のように平板状(円板状及び直方体状を含む)とするのが好適である。
放電電極12a、13aは、上部誘電体11aの表面に該上部誘電体11aと一体的に形成されている。放電電極12aは、電界集中させ放電を起こす放電部位12jと、この周囲もしくは一部を取り囲む導電部位12kと、接続端子部12eとに分類されるが、これらは全て同一パターン上にあり、印加される電圧は等しくなる。放電電極13aも同様に、放電部位13j、導電部位13k、接続端子部12eを有する。
第1放電部12からプラスイオン、第2放電部13からマイナスイオンを発生させている場合において、放電部位12jと同電圧の導電部位12kが放電部位12jの周囲または一部を取り囲んでいるため、放電部位12jから発生したプラスイオンは、逆極性でマイナス電位の放電部位13jに達する前に、プラス電位の導電部位12kによって反発され、放電部位13jに達することを防ぐことができる。放電部位13kについても同様である。なお、発生するイオンがほとんど中和しない送風方向や放電電極12aと放電電極13aとの距離の場合は、導電部位12k、導電部位13kを設けなくても構わない。
放電電極12a、13aの材料としては、例えばタングステンのように、導電性を有するものであれば、特に制限なく使用することができるが、放電によって溶融等の変形を起こさないことが条件となる。
また、誘導電極12b、13bは、上部誘電体11aを挟んで、放電電極12a、13aと平行に設けられている。このような配置とすることにより、放電電極12a、13aと誘導電極12b、13bの距離(以下、電極間距離と呼ぶ)を一定とすることができるので、両電極間の絶縁抵抗を均一化して放電状態を安定させ、プラスイオン及び/またはマイナスイオンを好適に発生させることが可能となる。なお、誘電体11を円柱状とした場合には、放電電極12a、13aを円柱の外周表面に設けるとともに、誘導電極12b、13bを軸状に設けることによって、前記電極間距離を一定とすることができる。
誘導電極12b、13bの材料としては、放電電極12a、13aと同様、例えばタングステンのように、導電性を有するものであれば、特に制限なく使用することができるが、放電によって溶融等の変形を起こさないことが条件となる。
放電電極接点12c、13cは、放電電極12a、13aと同一形成面(すなわち上部誘電体11aの表面)に設けられた接続端子12e、13e、及び接続経路12g、13gを介して、放電電極12a、13aと電気的に導通されている。そして、放電電極接点12c、13cにリード線(銅線やアルミ線など)12p、13pの一端が接続され、リード線12p、13pの他端に電圧印加部20が接続されて、放電電極12a、13aと電圧印加部20とが電気的に導通されている。
また、誘導電極接点12d、13dは、誘導電極12b、13bと同一形成面(すなわち下部誘電体11bの表面)に設けられた接続端子12f、13f、及び接続経路12h、13hを介して、誘導電極12b、13bと電気的に導通されている。そして、誘導電極接点12d、13dにリード線(銅線やアルミ線など)12q、13qの一端が接続され、リード線12q、13qの他端に電圧印加部20が接続されて、誘導電極12b、13bと電圧印加部20とが電気的に導通されている。
さらに、放電電極接点12c、13cと誘導電極接点12d、13dは全て、誘電体11の表面であって放電電極12a、13aが設けられた面(以下、誘電体11の上面と呼ぶ)以外の面に設けることが望ましい。このような構成であれば、誘電体11の上面に不要なリード線などが配設されないので、ファン(不図示)からの空気流が乱れにくく、発生したイオンが円滑に放出されることになるからである。以上のことを考慮して、放電電極接点12c、13c及び誘導電極接点12d、13dが全て、誘電体11の上面に相対する面(以下、誘電体11の下面と呼ぶ)に設けられている。なお、放電電極接点12c、13c及び誘導電極接点12d、13dの位置関係は、最も電位差の低い放電電極接点12c、13cを一定距離をおいて隣り合わせにする配置として信頼性を向上させている。
なお、本実施形態のイオン発生素子10において、第1の放電電極12a、第2の放電電極13aは鋭角部を持ち、その部分で電界を集中させ、局部的に放電を起こす構成としている。もちろん、電界集中ができれば、本図記載の電極以外のパターンを用いてもよい。
続いて、電圧印加部20の構成及び動作について説明する。図2は図1に示すイオン発生装置の電気的構成を示す回路図である。説明の便宜上、図1と同一の部分には同一の符号を付している。電圧印加部20は、入力電源201から電力を受け取るトランス215、216の1次側駆動回路として、入力抵抗204、整流ダイオード206、トランス駆動用スイッチング素子212、コンデンサ211、フライホイールダイオード217,218を有して成る。
入力電源201が交流商用電源の場合、入力電源201の電圧により、入力抵抗204、整流ダイオード206を介して、コンデンサ211に充電され、規定電圧以上になればトランス駆動用スイッチング素子212がオンして、トランス215の1次側巻線215aとトランス216の1次側巻線216aとの直列回路に電圧印加される。その直後、コンデンサ211に充電されたエネルギーはトランス駆動用スイッチング素子212とトランス215の1次側巻線215aとトランス216の1次側巻線216aとの直列回路を通じて放電され、コンデンサ211の電圧はゼロに戻り、再び充電がされ、規定周期で充放電を繰り返す。
なお、トランス駆動用スイッチング素子212は、上記の説明では無ゲート2端子サイリスタ(サイダック[新電元工業の製品名])を採用した説明となっているが、若干異なる回路を用いて、サイリスタ(SCR)を用いてもよい。また、入力電源201は直流電源の場合であっても、上記と同様の動作が得られる回路とすれば、これを問わない。すなわち、当回路の1次側駆動回路としては、特に限定するものではなく、同様の動作が得られる回路であればよい。
トランス215、216の2次側回路としての2次巻線215b、216bがそれぞれ第1の放電電極12a、第1の誘導電極12b、第2の放電電極13a、第2の誘導電極13bに接続されている。1次側回路のトランス駆動用スイッチング素子212がオンすることにより、1次側のエネルギーが2次巻線215bと2次巻線216bに伝達され、インパルス状電圧が発生する。なお、各2次巻線と各電極とは、第1の放電電極12aと第1の誘導電極12b間に印加される電圧の極性と、第2の放電電極13aと第2の誘導電極13bとの間に印加される電圧の極性とが逆になるように接続されている。また、トランス215、216は各2次巻線に誘起される電圧が略同等になるように設定されている。
また、第1の放電電極12aには、トランス202の2次巻線202bだけでなく、ダイオード209のカソード及びダイオード210のアノードが接続され、ダイオード209のアノードは切換リレー203の1つの選択端子203aに、またダイオード210のカソードは切換リレー203の別の選択端子203bに接続される。切換リレー203の共通端子203cは、抵抗205を介して、接地または入力電源201の片側(ラインAC2:基準電位)に接続される。入力電源201が交流商用電源であるとき、日本国内では入力交流商用電源の片方が接地されているため、接地端子がない電気機器などは入力電源201の片側につなげば同じ機能を得ることができる。また、抵抗205は保護用であり、これがなくても(短絡していても)動作には支障がない。また、第2の放電電極13aには、トランス216の2次巻線216bだけでなく、ダイオード208のアノードが接続され、ダイオード208のカソードは、抵抗205を介して、接地または入力電源201の片側(ラインAC2)に接続される。
次に、動作電圧波形について説明する。トランス215、216の2次巻線215b、216bの両端には、交番電圧のインパルス波形が印加される。第1の放電電極12aを基準に見た第1の誘導電極12bの電圧波形は、図3(a)に示すように、プラス極性から始まる交番電圧波形となり、第2の放電電極13aを基準に見た第2の誘導電極13bの電圧波形は、図3(b)に示すように、マイナス極性から始まる交番電圧波形となる。
また、2次巻線216bは順方向の向きのダイオード208を介してラインAC2(場合によっては接地端子)に接続されているので、ラインAC2を基準に見た第2の放電電極13aの電圧波形は図4(a)に示すように、また、第2の誘導電極13bの電圧波形は図4(b)に示すように、図3(b)の波形が負にバイアスされた波形となる。従って、放電によってプラスイオンとマイナスイオン両方が瞬間的には生成されるが、プラスイオンは第2放電部13のマイナス電位で中和され、マイナスイオンは反発し放出される。
一方、2次巻線215bは、切換リレー203が選択端子203a側にあるとき、逆方向の向きのダイオード209を介してラインAC2に接続されているので、ラインAC2を基準に見た第1の放電電極12aの電圧波形は図5(a)に示すように、また、第1の誘導電極12bの電圧波形は図5(b)に示すように、図3(a)の波形が正にバイアスされた波形となる。従って、放電によってプラスイオンとマイナスイオン両方が瞬間的には生成されるが、マイナスイオンは第1放電部12のプラス電位で中和され、プラスイオンは反発し放出される。一方、切換リレー203が選択端子203b側にあるときは、2次巻線215bは順方向の向きのダイオード210を介してラインAC2に接続されているので負にバイアスされ、第1放電部12からはマイナスイオンが発生する。
プラスイオンとしてはH+(H2O)mであり、マイナスイオンとしてはO2 -(H2O)n(m、nは自然数でH2O分子が複数個付いていることを意味する)である。
このように、切換リレー203が選択端子203b側にある場合、第1放電部12、第2放電部13ともに発生するイオンはマイナスイオンとなる。従って、この運転モードは、家庭内の電気機器などでプラスイオン過多となった空間にマイナスイオンを多量に供給し、自然界での森の中のようなプラスとマイナスのイオンバランスのとれた状態にしたいときや、リラクゼーション効果を求めたりする場合に有効となる。なお、この運転モードが必要でない場合は、図2に示す切換リレー203及びダイオード210を設けない構成にするとよい。
また、切換リレー203が選択端子203a側にある場合、第1放電部12から発生するイオンはプラスイオンとなり、第2放電部13から発生するイオンはマイナスイオンとなる。そして、空気中にH+(H2O)mとO2 -(H2O)nを同時に放出することにより、これらのイオンが空気中の浮遊カビ菌やウィルスの周りを取り囲み、その際生成される活性種の水酸基ラジカル(・OH)の作用により不活化することが可能となる。
上記記載について詳細に述べる。第1放電部12、第2放電部13を構成する電極間に交流電圧を印加することにより、空気中の酸素ないしは水分が電離によりエネルギーを受けてイオン化し、H+(H2O)m(mは任意の自然数)とO2 -(H2O)n(nは任意の自然数)を主体としたイオンを生成し、これらをファン等により空間に放出させる。これらH+(H2O)m及びO2 -(H2O)nは、浮遊菌の表面に付着し、化学反応して活性種であるH2O2または(・OH)を生成する。H2O2または(・OH)は、極めて強力な活性を示すため、これらにより、空気中の浮遊細菌を取り囲んで不活化することができる。ここで、(・OH)は活性種の1種であり、ラジカルのOHを示している。
活性種である過酸化水素H2O2または水酸基ラジカル(・OH)は、有害物質を酸化若しくは分解して、ホルムアルデヒドやアンモニアなどの化学物質を、二酸化炭素や、水、窒素などの無害な物質に変換することにより、実質的に無害化することが可能である。
また、これらのプラスイオンとマイナスイオンの作用により空気中のカビや菌を不活化し、その増殖を抑制することができる。その他、プラスイオンとマイナスイオンには、コクサッキーウィルス、ポリオウィルス、などのウィルス類も不活化する働きがあり、これらウィルスの混入による汚染が防止できる。また、プラスイオンとマイナスイオンには、臭いの元となる分子を分解する働きがあることも確かめられており、空間の脱臭にも利用できる。
また、これらのプラスイオンとマイナスイオンの作用は、第1放電部12から発生するプラスイオンと第2放電部13で発生するマイナスイオンとが略同量であると効率的に行われるので、切換リレー203が選択端子203a側にある場合に第1、第2放電部から発生するイオンを略同量にするために、即ち、イオンバランスをとるために、第1、第2放電部の浮遊容量を等しくすることにより、接地または入力電源201の片側(ラインAC2:基準電位)を基準とした第1、第2放電部の電位の絶対値が等しいものになるようにしている。
以下に、これを実現するための構成を図6〜図8を参照して説明する。図6〜図8において、図1、図2と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を省略する。図6は、図1、図2に示すイオン発生装置の構成を示す配置図である。図6に示すイオン発生装置は、イオン発生素子10、トランス215、216を含む図2に示す構成部品が基板223に実装されている電圧印加部20、リード線12p、12q、13p、13qとこれらを保持する保持フック(保持手段)224、225、イオン発生装置の外郭を形成するケース221、イオン発生素子10を固定する電極枠222から構成されている。
図7は、図6に示す電極枠222の裏面を見た平面図である。図7に示すように、リード線12pはその一端がイオン発生素子10の裏面部に設けられている放電電極接点12cにハンダ付けされ、リード線12qはその一端がイオン発生素子10の裏面部に設けられている誘導電極接点12dにハンダ付けされている。そして、リード線12p、12qはともに電極枠222に固定された保持フック224によって、線間距離が最小になるように、また、電極枠222の裏面に沿うように保持され、電極枠222の一方の長辺端部近傍に配線されている。
また、リード線13pはその一端がイオン発生素子10の裏面部に設けられている放電電極接点13cにハンダ付けされ、リード線13qはその一端がイオン発生素子10の裏面部に設けられている誘導電極接点13dにハンダ付けされている。そして、リード線13p、13qはともに電極枠222に固定された保持フック225によって、線間距離が最小になるように、また、電極枠222の裏面に沿うように保持され、電極枠222の他方の長辺端部近傍に配線されている。なお、保持フック224、225を複数設けた構成にしても構わない。
図8は、図6に示すイオン発生装置を上面から見たイオン発生素子10の各電極接点とトランス215、216に設けられている各接続接点端子の配置を示す配置図である。図8に示すように、リード線12pの他端は、トランス215に設けられている接続接点端子215pに接続され、リード線12qの他端は、トランス215に設けられている接続接点端子215qに接続されている。また、リード線13pの他端は、トランス216に設けられている接続接点端子216pに接続され、リード線13qの他端は、トランス216に設けられている接続接点端子216qに接続されている。
接続接点端子215p、215qは図2に示すトランス215の2次巻線215bの両端にトランス215内部で接続されており、接続接点端子216p、216qは図2に示すトランス216の2次巻線216bの両端にトランス216内部で接続されている。また、これらの各接続接点端子の配設順序は、それぞれの接続接点端子が接続されるイオン発生素子10の各電極接点の配設順序と同じ順序になっている。このような順序で配設すると、各リード線の長さを揃えるのが容易になるからである。なお、接続接点端子215p、215q、216p、216qは基板223のイオン発生素子10と対向する面に設けるようにしても良い。
このように、略同一長さのリード線12p、12q、13p、13qが、図6に示すように、基板223と略平行に配線されている。これにより、基板223とリード線12p、12q、13p、13qとの距離は略同一になっている。基板223は、電圧印加部20が実装されているため、基準電位となる図2に示す入力電源201の片側(ラインAC2)または接地端子に接続されている。従って、基板223とリード線12p、12q、13p、13qとの距離が略同一ということは、ラインAC2とリード線12p、12q、13p、13qとの間の浮遊容量が略同一になるということになる。
即ち、リード線12pが接続される放電電極接点12cと導通する放電電極12aとラインAC2間の浮遊容量と、リード線13pが接続される放電電極接点13cと導通する放電電極13aとラインAC2間の浮遊容量とを略同一にすることができる。また、リード線12qが接続される誘導電極接点12dと導通する誘導電極12bとラインAC2間の浮遊容量と、リード線13qが接続される誘導電極接点13dと導通する誘導電極13bとラインAC2間の浮遊容量とを略同一にすることができる。
また、リード線12p、12qがともに、また、リード線13p、13qがともに線間距離を最小にして配線されているので、リード線12p、12q間の浮遊容量とリード線13p、13q間の浮遊容量とは略同一になる。即ち、各リード線が接続される放電電極12aと誘導電極12b間の浮遊容量と、放電電極13aと誘導電極13b間の浮遊容量とを略同一にすることができる。以上のことから、放電電極12aとラインAC2間の浮遊容量と、放電電極13aとラインAC2間の浮遊容量とを略同一にすることができる。
トランス215の2次巻線215bに誘起される電圧とトランス216の2次巻線216bに誘起される電圧とは略同一になるように設定されている。従って、上述のことから、ラインAC2から見た放電電極12aの電位の絶対値とラインAC2から見た放電電極13aの電位の絶対値とを略同一にすることができ、図2に示す切換リレー203が選択端子203a側にある場合には、第1放電部12から発生するプラスイオンと第2放電部13から発生するマイナスイオンとを略同量にする、即ち、イオンバランスをとることができる。
また、保持フック224、225を設けたことによりリード線12p、12q、13p、13qが所定の位置に保持されるので、複数のイオン発生装置を製作した場合においても、装置によってのリード線12p、12q、13p、13qの位置関係は均一になる。従って、リード線の線処理が無管理になることで放電電極12aの電位の絶対値及び放電電極13aの電位の絶対値が異なり、第1放電部12から発生するイオン及び第2放電部13から発生するイオンのバランスが装置によって異なるということが防止でき、製品の均一性を保つことができる。
なお、リード線12p、12q、13p、13qの長さは、リード線12pとリード線13pとが略同一長さであり、リード線12qとリード線13qとが略同一長さであれば良く、必ずしも4本とも略同一長さに揃える必要はない。また、本実施形態はトランス215、216の2個のトランスを有する実施形態を例に説明しているが、2次巻線215b、216bに相当する2個の2次巻線を有する1個のトランスで構成することも可能である。
また、トランス215、216とイオン発生素子10との配置は、図6に示す配置に限らず、図9に示すような配置であっても良い。図9は、図6に示すイオン発生装置の他の配置を示す配置図である。図9に示すイオン発生装置が図6に示すイオン発生装置と相違する点は、トランス215、216の配置と、それに伴うリード線12p、12q、13p、13qの配線位置とが異なる点である。
トランス215、216とイオン発生装置10とは、接続接点端子215p、215q、216p、216qと、誘導電極接点12d、放電電極接点12c、放電電極接点13c、誘導電極接点13dとがそれぞれ対向するように配置されている。そして、接続接点端子215p、215q、216p、216qと、誘導電極接点12d、放電電極接点12c、放電電極接点13c、誘導電極接点13dとの間はそれぞれ短い直線状のリード線12q、12p、13p、13qで接続されている。
このようにすることにより、イオン発生装置10とトランス215、216とを最短距離で接続することができ、各リード線の及ぼす影響を最小にすることができる。また、リード線12q、12p、13p、13qが略同等の長さで略同等の位置に配線されるので、上述したように、放電電極12aの浮遊容量と放電電極13aの浮遊容量とが略同一になり第1放電部12から発生するプラスイオンと第2放電部13から発生するマイナスイオンが略同量になる、即ち、イオンバランスをとることができる。また、図6に示す保持フック224、225を用いることなくリード線12q、12p、13p、13qを所定の位置に配線できるので、装置によって発生イオン量が変わることを防止することができるとともにコストを低減できる。
なお、この場合に用いられるリード線12q、12p、13p、13qは屈曲しないものにすることが望ましい。屈曲しないものにすると、図9に示すイオン発生装置の組立時にリード線12q、12p、13p、13qの少なくとも一端は誘導電極接点12d、放電電極接点12c、放電電極接点13c、誘導電極接点13dまたは接続接点端子215p、215q、216p、216qにハンダ付けせずとも接触させて導通させることができるので、生産効率を上げることができる。また、各リード線は略棒状のピンにしても構わない。
上述した本発明に係るイオン発生装置は、空気調和機、除湿器、加湿器、空気清浄機、冷蔵庫、ファンヒータ、電子レンジ、洗濯乾燥機、掃除機、殺菌装置などの電気機器に搭載するとよい。そして、かかる電気機器にはイオン発生装置で発生したイオンを空気中に送出する送出手段(例えば、送風ファン)を搭載するとよい。このような電気機器であれば、機器本来の機能に加えて、搭載したイオン発生装置で空気中のイオン量やイオンバランスを変化させ、室内環境を所望の雰囲気状態とすることが可能となる。
また、上記の実施形態では、イオンを発生する放電部を複数有して成る単一のイオン発生素子でプラスイオンとマイナスイオンを個別に発生させ、各々を独立して室内に放出する構成を例に挙げて説明を行ったが、本発明の構成はこれに限定されるものではなく、複数のイオン発生素子でプラスイオンとマイナスイオンを個別に発生させ、各々を独立して室内に放出する構成としても構わない。
また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において各部の構成等を適宜に変更して実施することも可能である。