以下、本発明について詳しく説明する。
図1は、本発明の膜形成方法における代表的な液滴の乾燥過程を模式的に示す図である。
本発明の膜形成方法においては、液体材料を液滴にして基板上に配置し、それを乾燥させて基板上に液滴の乾燥膜を形成する。なお、ここでは、基板上に1つの液滴を配置した場合について説明するが、本発明はこれに限らず、例えば、基板上に複数の液滴を配置し、それらを乾燥する場合も含む。また、後述するように、複数の液滴の乾燥膜を、連続的に並べることにより、基板上に線状の膜パターンを形成することも可能である。
本発明の膜形成方法では、乾燥過程において、液体材料の固形分濃度と、液滴の乾燥速度とのうちの少なくとも一方をパラメータとして、液滴の乾燥膜を、様々な形状に制御する。具体的には、例えば、液滴の乾燥膜を、図1(a)に示すように、中央部に比べて縁の膜厚が厚い形状としたり、あるいは、図1(b)に示すように、着弾後の液滴に比べて収縮した形状としたりする。
図1(a)に示す乾燥過程は、液滴の中央部に比べて縁における固形分濃度が早く飽和濃度に達するように、上記パラメータ(液体材料の固形分濃度、液滴の乾燥速度)を定めたものである。一般に、基板上に配置された液滴は縁(エッジ)において乾燥の進行が速い。液滴の乾燥過程において、液滴の縁における固形分濃度が飽和濃度に達すると、その縁において固形分が局所的に析出する。すると、その析出した固形分によって液滴の縁がピン止めされたような状態となり、それ以降の乾燥に伴う液滴の収縮(外径の収縮)が抑制される。以後、この現象、すなわち、縁で析出した固形分によって乾燥に伴う液滴の収縮が抑制される現象を「ピニング」と呼ぶ。
一方、図1(b)に示す乾燥過程は、液滴の全体の固形分濃度が略同時に飽和濃度に達するように、上記パラメータ(液体材料の固形分濃度、液滴の乾燥速度)を定めたものである。この場合、液滴の縁での局所的な固形分の析出が生じにくいことから、上述したピニングが起こらず、乾燥過程において、蒸発に伴って液滴が収縮する。すなわち、乾燥の進行とともに、液滴の外径が小さくなる。以後、この現象、すなわち、乾燥時にピニングすることなく液滴が収縮する現象を「ディピニング」と呼ぶ。なお、図1(a)及び(b)に矢印で示す液滴内の液体の流れは、一例であり、実際とは異なる場合がある。
ここで、上記パラメータのうち、液滴の乾燥速度は、基板が搭載されるステージの移動速度、基板上に配置される液滴同士の間隔(液滴間距離)、複数の液滴の配列や配置のタイミング、及び液体材料に対する基板表面の接触角などに応じて変化する。
例えば、ステージが移動すると、液滴近傍の気相の蒸気濃度が低下するなどにより、液滴の乾燥が促進される。ステージの移動速度が大きいほど、大気に対する液滴の相対的な移動速度が大きくなり、液滴の乾燥速度が大きくなる。
図2は、基板上に複数(ここでは2滴)の液滴を配置した例を示す図である。図2に示すように、液滴の乾燥時、液相から気相に出て行く蒸気は、液滴を中心に3次元に拡散する。「蒸気拡散層」とは、液滴から蒸発した分子が拡散による移動のために、液滴近傍の気相中に濃度勾配を形成している領域をいう。ここでは、液滴表面近傍の気相中に形成され、他の液滴に影響を与える濃度を有する蒸気層のことを広義の蒸気拡散層として含むものとする。また、液滴間距離は隣り合う両液滴同士の中心間隔とする。なお、蒸気拡散層の厚さは、液体材料の物性や固形分濃度、環境温度などに応じて変化する。
基板上に複数の液滴が配置されるとき、液滴が他の液滴の蒸気拡散層内に存在したり、あるいは隣り合う両液滴の蒸気拡散層が互いに一部重なると、液滴表面の蒸気濃度の変化等によって、液滴の蒸発速度が変化する。具体的には、液滴間距離が短く、蒸気拡散層の重なる距離が長いほど、液滴の蒸発速度(乾燥速度)が小さくなり、乾燥時間が長くなる。一方、蒸気拡散層が重ならない場合は、液滴間距離が変化しても、液滴の蒸発速度及び乾燥時間はほとんど変化しない。したがって、蒸気拡散層の影響を受ける範囲内で、液滴間距離を変化させることにより、液滴の乾燥速度を変化させることができる。
また、基板上に複数の液滴を配置する場合、上述した液滴間距離だけでなく、液滴を配置するタイミング、数、及び配列等によっても液滴の乾燥時間が変化する。例えば、基板上に先に液滴が配置されてから次の液滴を配置するまでの期間に応じて、次の液滴の配置時における先の液滴の乾燥(蒸発)状態が変化する。そのため、その変化に応じて、それらの液滴間での蒸気拡散層の影響の大きさ、並びに液滴の乾燥速度が変化する。すなわち、上記期間が長いほど、複数の液滴間での蒸気拡散層の影響が小さくなり、液滴の乾燥速度が大きくなる。
また、図3(a)及び(b)に示すように、蒸気拡散層が重なる範囲内で、1つの液滴Aに並べて配置される液滴Bの数が多いほど、蒸気拡散層の影響が大きく現れ、液滴Aの乾燥速度が小さくなる。また、蒸気拡散層が重なる範囲内で、1つの液滴Aの一方の側に1つの液滴Bが配置される場合(図3(a))、液滴Aでは、液滴Bが配置された側の乾燥速度が部分的に小さくなる。この場合、乾燥速度に部分的な偏りが生じるために、液滴Aの乾燥膜の形状は異方的になる。これに対して、1つの液滴Aの全周にわたって複数の液滴Bが配置される場合(図3(b))、上述した乾燥速度の部分的な偏りが生じにくく、液滴Aの乾燥膜の形状は等方的となる。
図4(a)及び(b)は、液体材料に対する基板表面の接触角(静的接触角)が互いに異なる場合の液滴の様子を示している(接触角θa<θb)。
同量の液滴を基板上に配置するとき、接触角が小さいほど液滴の外径は大きい。液滴の外径が大きいと、乾燥速度が大きくなる傾向にあることから、液体材料に対する基板表面の接触角が小さいほど、乾燥速度が大きくなる。接触角は、例えば、基板表面を親液化処理することにより小さくなり、基板表面を撥液化処理することにより大きくなる。
以上のことから、基板が搭載されるステージの移動速度、基板上に配置される液滴同士の間隔(液滴間距離)、複数の液滴の配列や配置のタイミング、及び液体材料に対する基板表面の接触角などを制御することにより、液滴の乾燥速度を変化させることができる。なお、液滴の乾燥速度を変化させる方法としては、上記の他に、温度や、湿度、気圧などの環境因子を制御したり、加熱手段や送風手段を用いたりしてもよい。これらの制御手法は、必要に応じて、組み合わせて用いることができる。
図5は、一定の乾燥条件下での、液滴からの液体(溶媒、分散媒など)の蒸発量の時間積分を示す図である。図5に示すように、乾燥の初期段階には、時間あたりの蒸発量が多い(図5に示すA部)。これは、基板上に液滴が配置された直後の乾燥初期においては、液滴の周囲の蒸気濃度が低く、液滴の乾燥速度(蒸発速度)が大きいからである。その後、液滴の周囲(液体分子の平均自由工程距離分)が飽和濃度に達すると、液滴の乾燥速度は、蒸気の拡散速度に律速された定常状態となり(図5に示すB部)、乾燥初期に比べて遅くなる。
前述したように、基板上に配置された液滴は縁(エッジ)において乾燥の進行が速い。そのため、乾燥の初期段階(図5に示すA部)には、液滴の縁で液体が急速に蒸発し、固形分濃度が上昇する傾向にある。このとき、液滴の縁における固形分濃度が飽和濃度に達すると、上述したピニングが生じる。
[ピニング]
図6〜図8はそれぞれ、ピニングを経て形成された乾燥膜(ピニング薄膜)の形状を示しており、上段が平面図、下段が断面図である。前述したように、ピニングは、縁で析出した固形分によって乾燥に伴う液滴の収縮が抑制された現象である。ピニングが起きると、先の図1(a)に示したように、液滴内で、液滴の縁で蒸発により失った分の液体を中央部から補う流れ、すなわち中央部から縁に向かう液体の流れが形成される。この液体の流れは、上記パラメータに応じて変化する。図6〜図8に示す乾燥膜は、乾燥過程における上記パラメータが互いに異なる。
図6に示す乾燥膜は、乾燥時における液滴内で中央部から縁への液体の流れが強く形成されるように上記パラメータを定めることにより、形成されたものである。先の図1(a)に示すように、ピニングが起きた後、液滴内で、中央部から縁に向かう液体の流れが強く形成されると、この液体の流れに伴い、液滴の縁に固形分が多く運ばれる。液滴の縁では、固形分の析出に伴う粘度上昇等により、液体の流れが滞留しやすく、固形分の高濃度状態が維持される。すなわち、中央部から縁に向かう液体の流れに比べて、縁から中央部に向かう液体の流れが弱くなる。その結果、液滴の縁において固形分が多く析出し、乾燥膜の縁の部分の膜厚が厚くなる。
この場合、上記パラメータのうち、液体材料の固形分濃度が低いほど、また、乾燥速度が大きいほど、中央部から縁に向かう液体の流れが強くなる。したがって、液体材料の固形分濃度を低下させたり、乾燥速度を大きくしたりすることにより、乾燥膜の中央部に対する縁の膜厚比を大きくすることができる。つまり、縁の厚い乾燥膜が形成される。また、固形分が微粒子の場合、その微粒子の粒径が小さいほど、液体の流れに乗せて固形分を縁に運びやすいために、乾燥膜の中央部の膜厚が薄くなりやすい。乾燥膜の中央部に対する縁の膜厚比が大きくなることで、例えば、図6に示すように、リング状の乾燥膜が形成される。
図7に示す乾燥膜は、液滴内での中央部から縁への液体の流れが弱くなるように上記パラメータを定めたものである。上記パラメータのうち、液体材料の固形分濃度が高いほど、また、乾燥速度が小さいほど、中央部から縁に向かう液体の流れが弱くなり、液滴の縁に固形分が運ばれにくくなる。また、固形分が微粒子の場合、その微粒子の粒径が大きいほど、固形分を液滴の中央部から縁まで運びにくくなることから、乾燥膜の中央部の膜厚が薄くなりにくい。その結果、図7に示すように、中央部と縁とが同程度の膜厚の、略平坦な断面形状を有する乾燥膜が形成される。
図8に示す乾燥膜は、図7よりもさらに、液滴内での中央部から縁への液体の流れが弱くなるように上記パラメータを定めたものである。図8に示す乾燥膜は、例えば、図6及び図7に示す乾燥膜に比べて、液体材料の固形分濃度が高く、乾燥速度が小さく、固形分である微粒子の粒径が大きい。この場合、液滴の中央部から縁への固形分の運搬が行われにくく、図8に示すように、乾燥膜の縁に比べて中央部の膜厚が厚くなる。
このように、ピニングが生じる条件下において、上記パラメータ(液体材料の固形分濃度、液滴の乾燥速度)、あるいは、微粒子の粒径を変化させることにより、液滴の乾燥膜を様々な形状に制御することができる。
また、縁の部分の膜厚が厚いリング状の乾燥膜について、上記パラメータ、及び微粒子の粒径、を変化させることにより、縁の盛り上がり部分の幅等を制御することが可能である。具体的には、高濃度で微粒子の粒径が大きいほど、中央から縁に向かう液体の流れの影響を受けにくくなることから、膜形状が平坦に近づくとともに、縁の盛り上がり部分の幅が狭くなる傾向にある。
図9は、ピニングを経て形成された乾燥膜に関し、特に、リング状の膜について、液体材料の固形分濃度及び微粒子の粒径を変化させた場合の膜形状の変化の様子を示している。 ここで、微粒子の粒径:(a)<(b)、であり、液体材料の固形分濃度:(a)<(b)、である。(a)の乾燥膜の外径をW1、縁の厚さをh1、縁の盛り上がり部分の幅をL1とし、(b)の乾燥膜の外径をW2、縁の厚さをh2、縁の盛り上がり部分の幅をL2、とするとき、W1<W2、h1<h2、L1>L2、であった。
なお、ピニングによる乾燥中の液滴上に、別の液滴を重ねて配置してもよい。この場合、乾燥中の液滴の液体分が増すことで、中央から縁への液体の流れが維持され、固形分が縁にさらに運ばれる。そのため、縁への固形分の移動が促進され、縁の膜厚がさらに厚くなりやすい。また、液体材料に対する基板表面の親和性を制御し、親和性が変化する境界部分をピニングの誘因として作用させてもよい。また、基板上に配置された液体材料を加熱することや、液体材料として低沸点溶媒を用いることにより、上記パラメータによる膜形状の変化が顕著になる。
[ディピニング]
一方、ピニングを防ぎ、ディピニングを起こすには、液滴の乾燥速度を小さくしたり、液体材料の固形分濃度を低くするなどにより、特に乾燥の初期段階における液滴の縁での固形分の析出を防ぐとよい。
先の図1(b)に示すように、ディピニングによる乾燥過程では、蒸発に伴って液滴が収縮する(例えば、収縮比:1/2以下)。液滴の収縮過程では、液滴内で、中央部から縁に向かう液体の流れと縁から中央部に向かう流れとを含む対流が持続的に形成され、液滴内における局所的な固形分濃度の上昇が抑制されるとともに、液滴内の固形分濃度の均一化が図られる。そして、液滴の全体の固形分濃度が飽和濃度に達することで、液滴の全体において概ね一斉に析出が起こる。この場合、液滴の収縮過程における液滴の形状を維持して固化が生じ、その乾燥膜(ディピニング薄膜)は、中央部と縁とがほぼ同程度の膜厚となるか、縁に比べて中央部の膜厚が大きくなる。
ディピニングによる膜形成では、乾燥過程において液滴を収縮させることから、基板上に極めて微小な膜を形成することが可能である。この他、乾燥過程の液滴の収縮を利用して、例えば、密な構造の膜(コロイド結晶など)を形成したり、結晶性薄膜を形成したりするなど、様々な特徴を有する膜を形成することができる。
[微小膜]
ディピニング薄膜の大きさ(外径)は、液体材料の固形分濃度の調整によって制御することができる。具体的には、所定量の液滴について、液体材料の固形分濃度が高いほど、乾燥膜の径が大きくなる。逆に、液体材料の固形分濃度を低く抑えることにより、極めて微小な薄膜を形成することが可能である。この場合、基板上に配置可能な液滴量に下限がある場合にも、液体材料の固形分濃度を調整することによって、乾燥過程における液滴の収縮比を高め、基板上に極めて微小な乾燥膜を形成することができる。
図10は、シリカ微粒子を含む液体材料(シリカスラリー)を用いて基板上に乾燥膜を形成した様子を示している。ここで、液体材料の固形分濃度:0.01wt%、液滴量(乾燥前):9pl(ピコリットル)、基板ステージの移動速度:500μm/sである。また、液滴が配置される基板として、(a)Si基板(接触角:50°)、(b)ガラス基板(接触角:9°)を用いた。
その結果、液滴の乾燥過程でディピニングが生じ、配置直後の液滴に比べて収縮した乾燥膜が形成された。また、Si基板(図10(a))では、液滴の着弾径:45μmに対し、乾燥膜の径:3.0μmであった。ガラス基板(図10(b))では、液滴の着弾径:84μmに対し、乾燥膜の径:4.8μmであった。
すなわち、Si基板では、乾燥膜の径が配置直後の液滴に比べて約1/15(収縮比)となり、ガラス基板では、約1/17.5となった。なお、0.01wt%、9plのシリカスラリーの液滴の径が3μmになると、そのときの液滴の固形分濃度は50wt%である。この値は、シリカスラリーが充填率0.5〜0.6で固化するという文献の値とほぼ一致している。すなわち、シリカスラリーの液滴が径3.0μmまで収縮したとき、液滴の全体で略同時に飽和濃度に達したと考えられる。
また、本例では、接触角が高い撥液性の基板(Si基板:接触角50°)のみならず、接触角が低い親液性の基板(ガラス基板:接触角9°)でも、ディピニングが生じた。すなわち、液体材料に対する基板表面の親和性に関わらず、液滴の乾燥速度を小さく抑えることにより、ディピニングを生じさせることができた。
図11(a)〜(c)は、液体材料の固形分濃度を変化させたときの、ディピニングによる乾燥膜(ディピニング薄膜)の形状の変化の様子を示している。(a)〜(c)について、基板に配置したときの液滴量はすべて同じである。液体材料の固形分濃度は、(a)<(b)<(c)であり、(a)が最も低い。このとき、ディピニング薄膜の径は、(a)0.8μm、(b)2.6μm、(c)9.6μm、であった。すなわち、固形分濃度に応じて乾燥膜の径が変化した。本例では、液体材料の固形分濃度が最も低い(a)において、径が0.8μmの極めて微小な乾燥膜が形成された。
[コロイド結晶膜]
ディピニングによる膜形成では、液滴が収縮している段階での固形分の析出が抑制されることから、特徴的な膜構造を得ることが可能である。例えば、微粒子(コロイド粒子)を含む液体材料を用いる場合に、その微粒子の表面電位に応じて液相(分散媒)の塩濃度を調整することにより、密な構造を有する乾燥膜を形成することが可能である。
すなわち、液相内の微粒子が電荷を帯びる場合、イオン間の静電相互作用によって微粒子の周りに電気二重層が形成される。コロイド粒子を含む液相の塩濃度を適正な値にして粒子表面の電気二重層の大きさを適切にしておくと粒子配列が最密構造(最密充填構造)になり、液相からコロイド結晶が生成される。ディピニングによる膜形成では、液滴の収縮過程での固形分の析出が抑制されることから、液中の微粒子の配列構造が崩れにくい。その結果、密な構造(最密構造)を有する膜が形成される。
図12は、ディピニング薄膜の構造の観察像を模式的に示している。ここでは、ポリスチレン微粒子を含む液体材料を用いて液滴の乾燥膜を作成した。また、液中の微粒子の表面電位に応じて、液体材料の塩濃度を調整した。具体的には、微粒子の表面近くに適切な電気二重層が形成されるように、液体材料の塩濃度を調整した。そして、その液体材料の液滴から、ディピニングを経て乾燥膜を形成した。その結果、図12に示すように、乾燥膜に、最密構造(最密充填構造)からなるコロイド結晶が観察された。
[結晶性薄膜]
ディピニングによる膜形成では、液滴の収縮に応じて固形分が凝集することから、液体材料に溶質として含まれる低分子物質を結晶化させることが可能である。すなわち、液滴の収縮過程で、過飽和状態を作って溶液中から溶質を析出させることにより、溶質分を結晶化させることができる(凝集法)。
一般に、結晶生成過程では、濃度の過飽和度の調節によって核の生成しやすさが変化する。過飽和度が大きいと安定して結晶核が生成しやすいため、液中のいたるところで結晶が発生する。逆に過飽和度が小さいと結晶核が生成しにくく、過飽和分子は先に生じた核の成長にのみ使われる。すなわち、1つの結晶性粒子(薄膜)を生成したい場合、はじめにやや過飽和度を大にして1つの結晶核を形成し、その後、核を形成するのには不十分な程度の過飽和度にすることで、結晶成長が促進され、新たに核を生成することなく、1つの結晶性粒子(薄膜)を形成することができる。
すなわち、ディピニングを利用して結晶膜を形成するには、液体材料の固形分濃度、及び液滴の乾燥速度を、適切に管理するのが好ましい。特に液滴の乾燥速度については、上述した、ステージ速度、液滴間距離、複数の液滴の配列や配置のタイミング、及び基板表面の接触角などの制御要素を適切に組み合わせるのが好ましい。液体材料の固形分濃度、及び乾燥速度を適切に管理することにより、良好な結晶性薄膜を形成することが可能となる。
図13は、結晶性薄膜の形成を目的として、乾燥条件を変化させた場合の膜構造の変化の様子を示している。ここでは、溶質としてのNaClを含む液体材料を用いた。また、液滴の乾燥時におけるステージ速度が、(a)500μm/s、(b)100000μm/s、(c)75000μm/s、の3つの条件について膜形成を行った。なお、実際には、乾燥速度を変化させるための他の制御要素についても変化させた。
その結果、(c)の条件において、ディピニングを経て、良好な結晶性薄膜(単結晶性の薄膜)が形成された。(a)の条件では、ディピニングにおける液滴の収縮過程で、液滴内の様々な場所で結晶核がほぼ同時に生成され、良好な結晶性薄膜が形成されなかった。(b)の条件では、ピニングが生じ、環状に散在した結晶性薄膜が形成された。
図14は、これまで説明した上記パラメータ(液体材料の固形分濃度、液滴の乾燥速度)と乾燥膜の形状との関係を概略的に示している。図14に示すように、固形分濃度が低く、乾燥速度が小さい条件において、ディピニング薄膜が形成される。ディピニングが生じない乾燥条件下では、ピニング薄膜が形成される。そして、ピニング薄膜は、固形分濃度が大きいと、膜厚が厚くなり、平坦な膜に近づく。また、乾燥速度が大きいと、縁の盛り上がりが大きくなる。
このように、本発明の膜形成方法によれば、液体材料の固形分濃度、及び液滴の乾燥速度のうちの少なくとも一方を変化させることにより、液滴の乾燥膜を、様々な形状に制御することができる。その結果、基板上に所望の形状の膜を精度よく安定して形成することが可能となる。したがって、この膜形成方法を用いて電子デバイスを製造することにより、デバイス品質の向上を図ることができる。
また、ピニング薄膜のうち、リング状薄膜は、他の材料の容器あるいは土台として好ましく利用可能である。すなわち、リング状薄膜の縁の内側に別の材料を配置する場合、縁の盛り上がりが壁となって、材料の配置精度の向上が図られる。
また、ディピニング薄膜は、微細化や膜物性の向上が図られるので、様々な分野に応用可能である。
例えば、ディピングを経て形成される微小膜は、半導体素子、TFT素子、EL素子などの各種電子デバイスの高精細化に好ましく利用可能である。液滴吐出法を用いて基板上に液滴を配置する場合、吐出可能な液滴量には下限があるものの、この膜形成方法を用いることにより、従来と同じ装置を用いても、着弾直後の液滴に比べて微小な膜を容易に形成することができる。この場合、従来の装置を用いて、フェムトリットル(fl)の液滴を吐出可能な装置と同等、もしくはそれ以上の微小な膜を形成することが可能である。
また、ディピニングを経て形成されるコロイド結晶膜や結晶性薄膜は、高い伝導度や純粋な特性などから、有機ELにおける薄膜、有機TFTにおける電極などに好ましく利用可能である。また、膜の結晶化が図られることにより、構造解析が容易になることから、バイオや製薬の分野におけるたんぱく質等の構造解析にも利用可能である。また、光学部材としての利用も可能である。例えば、結晶性薄膜上に硬化性樹脂を重ねて配置することにより、マイクロレンズ等への応用も可能である。
図15は、本発明の膜形成方法に好適に用いられる膜形成装置の構成例を示している。図15において、膜形成装置10は、ベース112と、ベース112上に設けられ、基板20を支持する基板ステージ22と、ベース112と基板ステージ22との間に介在し、基板ステージ22を移動可能に支持する第1移動装置(移動装置)114と、基板ステージ22に支持されている基板20に対して処理液体を吐出可能な液体吐出ヘッド21と、液体吐出ヘッド21を移動可能に支持する第2移動装置116と、液体吐出ヘッド21の液滴の吐出動作を制御する制御装置23とを備えている。更に、膜形成装置10は、ベース112上に設けられている重量測定装置としての電子天秤(不図示)と、キャッピングユニット25と、クリーニングユニット24とを有している。また、第1移動装置114及び第2移動装置116を含む膜形成装置10の動作は、制御装置23によって制御される。
第1移動装置114はベース112の上に設置されており、Y方向に沿って位置決めされている。第2移動装置116は、支柱16A,16Aを用いてベース112に対して立てて取り付けられており、ベース112の後部12Aにおいて取り付けられている。第2移動装置116のX方向(第2の方向)は、第1移動装置114のY方向(第1の方向)と直交する方向である。ここで、Y方向はベース112の前部12Bと後部12A方向に沿った方向である。これに対してX方向はベース112の左右方向に沿った方向であり、各々水平である。また、Z方向はX方向及びY方向に垂直な方向である。
第1移動装置114は、例えばリニアモータによって構成され、ガイドレール140,140と、このガイドレール140に沿って移動可能に設けられているスライダー142とを備えている。このリニアモータ形式の第1移動装置114のスライダー142は、ガイドレール140に沿ってY方向に移動して位置決め可能である。
また、スライダー142はZ軸回り(θZ)用のモータ144を備えている。このモータ144は、例えばダイレクトドライブモータであり、モータ144のロータは基板ステージ22に固定されている。これにより、モータ144に通電することでロータと基板ステージ22とは、θZ方向に沿って回転して基板ステージ22をインデックス(回転割り出し)することができる。すなわち、第1移動装置114は、基板ステージ22をY方向(第1の方向)及びθZ方向に移動可能である。
基板ステージ22は基板20を保持し、所定の位置に位置決めするものである。また、基板ステージ22は不図示の吸着保持装置を有しており、吸着保持装置が作動することにより、基板ステージ22の穴46Aを通して基板20を基板ステージ22の上に吸着して保持する。
第2移動装置116はリニアモータによって構成され、支柱16A,16Aに固定されたコラム16Bと、このコラム16Bに支持されているガイドレール62Aと、ガイドレール62Aに沿ってX方向に移動可能に支持されているスライダー160とを備えている。スライダー160はガイドレール62Aに沿ってX方向に移動して位置決め可能であり、液体吐出ヘッド21はスライダー160に取り付けられている。
液体吐出ヘッド21は、揺動位置決め装置としてのモータ62,64,67,68を有している。モータ62を作動すれば、液体吐出ヘッド21は、Z軸に沿って上下動して位置決め可能である。このZ軸はX軸とY軸に対して各々直交する方向(上下方向)である。モータ64を作動すると、液体吐出ヘッド21は、Y軸回りのβ方向に沿って揺動して位置決め可能である。モータ67を作動すると、液体吐出ヘッド21は、X軸回りのγ方向に揺動して位置決め可能である。モータ68を作動すると、液体吐出ヘッド21は、Z軸回りのα方向に揺動して位置決め可能である。すなわち、第2移動装置116は、液体吐出ヘッド21をX方向(第1の方向)及びZ方向に移動可能に支持するとともに、この液体吐出ヘッド21をθX方向、θY方向、θZ方向に移動可能に支持する。
このように、図15の液体吐出ヘッド21は、スライダー160において、Z軸方向に直線移動して位置決め可能で、α、β、γに沿って揺動して位置決め可能であり、液体吐出ヘッド21の液滴吐出面11Pは、基板ステージ22側の基板20に対して正確に位置あるいは姿勢をコントロールすることができる。なお、液体吐出ヘッド21の液滴吐出面11Pには液滴を吐出する複数のノズルが設けられている。
液体吐出ヘッド21は、いわゆる液体吐出方式(液滴吐出方式)により、液体材料(レジスト)をノズルから吐出するものである。液体吐出方式としては、圧電体素子としてのピエゾ素子を用いてインクを吐出させるピエゾ方式、液体材料を加熱し発生した泡(バブル)により液体材料を吐出させる方式等、公知の種々の技術を適用できる。このうち、ピエゾ方式は、液体材料に熱を加えないため、材料の組成等に影響を与えないという利点を有する。なお、本例では、上記ピエゾ方式を用いる。
図16は、ピエゾ方式による液体材料の吐出原理を説明するための図である。図16において、液体材料を収容する液室31に隣接してピエゾ素子32が設置されている。液室31には、液体材料を収容する材料タンクを含む液体材料供給系34を介して液体材料が供給される。ピエゾ素子32は駆動回路33に接続されており、この駆動回路33を介してピエゾ素子32に電圧が印加される。ピエゾ素子32を変形させることにより、液室31が変形し、ノズル30から液体材料が吐出される。このとき、印加電圧の値を変化させることにより、ピエゾ素子32の歪み量が制御され、印加電圧の周波数を変化させることにより、ピエゾ素子32の歪み速度が制御される。すなわち、液体吐出ヘッド21では、ピエゾ素子32への印加電圧の制御により、ノズル30からの液体材料の吐出の制御が行われる。
図15に戻り、電子天秤(不図示)は、液体吐出ヘッド21のノズルから吐出された液滴の一滴の重量を測定して管理するために、例えば、液体吐出ヘッド21のノズルから、5000滴分の液滴を受ける。電子天秤は、この5000滴の液滴の重量を5000の数字で割ることにより、一滴の液滴の重量を正確に測定することができる。この液滴の測定量に基づいて、液体吐出ヘッド21から吐出する液滴の量を最適にコントロールすることができる。
クリーニングユニット24は、液体吐出ヘッド21のノズル等のクリーニングをデバイス製造工程中や待機時に定期的にあるいは随時に行うことができる。キャッピングユニット25は、液体吐出ヘッド21の液滴吐出面11Pが乾燥しないようにするために、デバイスを製造しない待機時にこの液滴吐出面11Pにキャップをかぶせるものである。
液体吐出ヘッド21が第2移動装置116によりX方向に移動することで、液体吐出ヘッド21を電子天秤、クリーニングユニット24あるいはキャッピングユニット25の上部に選択的に位置決めさせることができる。つまり、デバイス製造作業の途中であっても、液体吐出ヘッド21をたとえば電子天秤側に移動すれば、液滴の重量を測定できる。また液体吐出ヘッド21をクリーニングユニット24上に移動すれば、液体吐出ヘッド21のクリーニングを行うことができる。液体吐出ヘッド21をキャッピングユニット25の上に移動すれば、液体吐出ヘッド21の液滴吐出面11Pにキャップを取り付けて乾燥を防止する。
つまり、これら電子天秤、クリーニングユニット24、およびキャッピングユニット25は、ベース112上の後端側で、液体吐出ヘッド21の移動経路直下に、基板ステージ22と離間して配置されている。基板ステージ22に対する基板20の給材作業及び排材作業はベース112の前端側で行われるため、これら電子天秤、クリーニングユニット24あるいはキャッピングユニット25により作業に支障を来すことはない。
図15に示すように、基板ステージ22のうち、基板20を支持する以外の部分には、液体吐出ヘッド21が液滴を捨打ち或いは試し打ち(予備吐出)するための予備吐出エリア(予備吐出領域)152が、クリーニングユニット24と分離して設けられている。この予備吐出エリア152は、図15に示すように、基板ステージ22の後端部側においてX方向に沿って設けられている。この予備吐出エリア152は、基板ステージ22に固着され、上方に開口する断面凹字状の受け部材と、受け部材の凹部に交換自在に設置されて、吐出された液滴を吸収する吸収材とから構成されている。
基板20としては、ガラス基板、シリコン基板、石英基板、セラミックス基板、金属基板、プラスチック基板、プラスチックフィルム基板など各種のものを用いることができる。また、これら各種の素材基板の表面に半導体膜、金属膜、誘電体膜、有機膜などが下地層として形成されたものも含まれる。また、上記プラスチックとしては、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルケトンなどが用いられる。
なお、上記膜形成装置では、液体吐出ヘッドから吐出された液滴が基板上に配置されると、基板ステージの移動などによって液滴の乾燥速度を制御する。液滴の乾燥方法はこれに限定されず、例えば、ランプアニールなどの乾燥手段を用いて液滴の乾燥を行ってもよい。
図17(a)〜(c)は、膜パターン形成方法の一例として、上述した膜形成装置10を用いて、基板上に線状の膜パターンを形成する方法の手順の一例を示している。
この膜パターン形成方法では、吐出ヘッド21から液体材料を液滴にして吐出し、その液滴を一定の距離(ピッチ)ごとに基板21上に配置する。そして、この液滴の配置動作を繰り返すことにより、基板21上に線状の膜パターンを形成する。
具体的には、まず、図17(a)に示すように、吐出ヘッド21から吐出した液滴L1を、一定の間隔をあけて基板21上に順次配置する。
基板21上に液滴L1を配置した後、液体分(溶媒、分散媒など)の除去を行うために、乾燥処理を行う。乾燥処理は、例えばホットプレート、電気炉、熱風発生機、ランプアニールなどの加熱手段を用いた一般的な加熱処理の他に、基板21を搭載したステージを移動させることにより行ってもよい。また、本例では、上述したように、液体材料の固形分濃度、及び液滴の乾燥速度のうちの少なくとも一方をパラメータとして、液滴の乾燥膜の形状を制御する。
次に、図17(b)に示すように、上述した液滴の配置動作を繰り返す。すなわち、図17(a)に示した前回と同様に、吐出ヘッド21から液体材料を液滴L2にして吐出し、その液滴L2を一定距離ごとに基板21に配置する。このとき、液滴L2の量(1滴あたりの液体材料の量)、及びその配置ピッチP2は前回の液滴L1と同じである。また、液滴L2の配置位置を前回の液滴L1から所定距離S1だけシフトさせる。すなわち、基板21上に配置された前回の液滴L1の中心位置と、今回の液滴L2の中心位置とは上記距離S1だけ離れた位置関係となる。このシフト量S1は、本例では、上記ピッチP1,P2よりも狭く(S1<P1=P2)、かつ先に基板21に配置された液滴L1に次の液滴L2が一部重なるように定められている。
またこのとき、今回の液滴L2と前回の液滴L1とが接するが、前回の液滴L1はすでに液体分が完全に又はある程度除去されているので、両者が合体して基板21上で広がることはほとんどない。液滴L2を基板21上に配置した後、液体分の除去を行うために、前回と同様に、乾燥処理を行う。
この後、図17(c)に示すように、上述した液滴の配置動作を複数回繰り返す。各回において、配置する液滴Ln同士の距離間隔(ピッチPn)は、最初の回の距離と同じ(ピッチPn=P1)で、常に一定である。また、液滴の配置動作を複数回繰り返す際、各回ごとに、液滴Lnの配置を開始する位置を、前回の液滴が配置された位置から所定距離だけずらす。この液滴の配置動作の繰り返しにより、基板21上に配置された液滴同士の隙間が埋まり、線状の連続したパターンが形成される。また、基板上に形成される膜パターンは、常に同じピッチによる液滴配置によって形成され、全体がほぼ等しい形成過程を経ているため、構造が均質なものとなる。
本例の膜パターン形成方法では、液滴の乾燥膜の形状を制御することから、基板上に所望の形状の膜パターンを精度よく安定して形成することができる。
なお、線状パターンの形成方法は、図17(a)〜(c)に示したものに限定されない。例えば、液滴の配置ピッチや、繰り返しの際のシフト量などは任意に設定可能である。
図18は、本発明の膜形成方法を用いて製造されたカラーフィルタを搭載した液晶表示装置の構成を例示する斜視図である。本実施形態に係る液晶表示装置400は、液晶駆動用IC(図示略)、配線類(図示略)、光源470、支持体(図示略)などの付帯要素が装着されている。液晶表示装置400の構成を簡単に説明する。液晶表示装置400は、互いに対向するように配置された、カラーフィルタ460、及びガラス基板414と、これらの間に挟持された図示略の液晶層と、カラーフィルタ460の上面側(観察者側)に付設された偏光板416と、ガラス基板414の下面側に付設された図示略の偏光板とを主体として構成されている。カラーフィルタ460は透明なガラスからなる基板461を具備し、観察者側に設けられた基板であり、ガラス基板414はその反対側に設けられる透明な基板である。
基板461の下側には、黒色感光性樹脂膜からなる隔壁462と、着色部463、及びオーバーコート層464が順次形成され、さらにオーバーコート層464の下側に駆動用の電極418が形成されている。なお、実際の液晶装置においては、電極418を覆って液晶層側と、ガラス基板414側の後述する電極432上に、配向膜が設けられるが、図示、及び説明を省略する。カラーフィルタ460の液晶層側に形成された液晶駆動用の電極418は、ITO(Indium Tin Oxide)などの透明導電材料を、オーバーコート層464の全面に形成させたものである。
ガラス基板414上には、絶縁層425が形成され、この絶縁層425の上には、スイッチング素子としてのTFT(Thin Film Transistor)と、画素電極432とが形成されている。ガラス基板414上に形成された絶縁層425上には、マトリクス状に走査線451と、信号線452とが形成され、走査線451と信号線452とに囲まれた領域毎に画素電極432が設けられている。各画素電極432のコーナー部分と走査線451と信号線452との間部分にはTFTが組み込まれており、走査線451と信号線452に対する信号の印加によってTFTはオン、又はオフの状態となって画素電極432への通電が制御される。
図19は、上記液晶表示装置を用いた電子機器の一例たる携帯電話機の構成を例示する斜視図である。同図において、携帯電話機92は複数の操作ボタン921のほか、受話口922、送話口923とともに、上述した液晶表示装置400を備えるものである。
なお、液滴吐出装置の用途は、電気光学装置に用いられるカラーフィルタのパターニングに限定されず、次のような様々な膜パターンの形成に用いることができる。例えば、有機EL(エレクトロルミネセンス)表示パネルに含まれる有機EL層や、正孔注入層などの薄膜形成に用いることができる。有機EL層を形成する場合には、例えばポリチオフェン系の導電性高分子などの有機EL材料を含む液滴を、基板上に形成された隔壁により仕切られる領域に向けて吐出し、液滴をその領域に配置する。このように配置された液体材料が乾燥することにより、有機EL層が形成される。
また、その他の液滴吐出装置の用途としては、プラズマディスプレイに含まれる透明電極の補助配線や、IC(integrated circuit)カードなどに含まれるアンテナなどのデバイスの形成などがある。具体的には、テトラデカンなどの有機溶液に、銀微粒子などの導電性微粒子を混合した溶液を液滴吐出装置を用いてパターニングした後、有機溶液が乾燥すると、金属薄膜層が形成される。
上記以外にも、液滴吐出装置は、例えば、立体造形に用いられる熱硬化樹脂や、紫外線硬化樹脂などの他、マイクロレンズアレイ材料、また、DNA(deoxyribonucleic acid)やたんぱく質といった生体物質などの様々な材料の配置にも用いることが可能である。
また、電子機器としては、携帯電話機の他にも、コンピュータや、プロジェクタ、デジタルカメラ、ムービーカメラ、PDA(Personal Digital Assistant)、車載機器、複写機、オーディオ機器などが挙げられる。
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。