JP4296358B2 - 銀及び銀合金メッキ浴 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は銀及び銀合金メッキ浴に関し、浴の経時安定性にきわめて優れ、且つ、銀合金メッキ浴においては銀と他の金属を確実に共析させることができる非シアン型の安全な浴を提供する。
【0002】
【発明の背景】
一般に、銀は種々の化合物と不溶性の塩を生成し易いので、メッキ浴中に銀を経時安定的に溶解するのは容易でなく、浴が分解して銀が析出し易い。また、銀は電気化学的には貴な金属であるため、他の金属との合金メッキは容易でない。このため、実用的な銀系メッキ浴の種類にはおのずから制限があり、例えば、銀又は銀−スズ合金メッキ浴では、旧来より各種のシアン化合物を含有するアルカリ性シアン浴が知られている。
しかしながら、シアン化合物はきわめて毒性が強く、特別な排水処理を必要とするために処理コストが嵩むうえ、アルカリ領域でしか使用できないために、銀合金メッキを行う場合、相手金属の種類が限定されてしまう。また、アルカリ浴では用途も限定されるし、当該シアン浴は実用上充分な安定性も備えていない。
このため、強酸性をも含む広いpH領域で銀を安定に溶解し、安全性の高い銀又は銀合金メッキ浴を新たに開発することが望まれている。
【0003】
【従来の技術】
ヨーロッパ特許第666342(A1)号公報には、シアン化合物を含有しない非シアン型の銀系メッキ浴として、チオリンゴ酸、チオ乳酸、チオグリコール酸などのメルカプトアルカンカルボン酸、2−メルカプトエタンスルホン酸、3−メルカプトプロパンスルホン酸などのメルカプトアルカンスルホン酸、及びこれらの塩の少なくとも一種を含有する銀−スズ合金メッキ浴が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来技術では、メッキ浴に特定のメルカプト系有機酸類を含有させることにより、酸性側でも浴が安定で、室温〜高温の広い浴温条件下で電気メッキが可能であるうえ、メッキ皮膜中の銀/スズの組成比は電流密度や浴温に相対的に依存しないことが述べられている。
しかしながら、チオグリコール酸、チオ乳酸などを含有する銀−スズ合金メッキ浴は、実際には、2週間程度で分解が起こって銀が析出することが多く、長期間継続使用する電気メッキ浴としては、実用上経時安定性の面で問題がある。
また、電流密度条件を変化させると銀の共析率が変動し易く、しかも、高電流密度でメッキを行うと電着皮膜にヤケやデンドライトなどが生じ易いという弊害がある。そのうえ、銅や銅合金などの被メッキ素材に対する銀の置換析出(即ち、酸化還元電位に基づく化学置換作用による析出)や、析出した銀合金皮膜上へのさらなる銀の置換析出などの問題もあり、緻密で良好な外観を有する銀合金メッキは得られない。
【0005】
本発明は、この従来技術に開示されたメルカプト系有機酸類を出発点にして、当該酸類とは異なる化合物を含む非シアン型の安定な銀又は銀合金メッキ浴を開発することを技術的課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
Lewis酸・塩基錯体の安定性に関しては、ハード・ソフトな酸・塩基という一般的、且つ定性的な概念(即ち、HSAB原理)が知られており(ハード・ソフト・酸・塩基概念の有機化学への応用;有機合成化学 第33巻第11号(1975)参照)、例えば、電気陰性度が大きく分極率が低く、原子価電子を強く保持する性質の塩基をハード塩基といい、逆に、電気陰性度が小さく分極率が高く、原子価電子を比較的弱く保持する性質の塩基をソフト塩基という。ハード塩基はハード酸に配位してより安定な錯体を形成し、また、ソフト塩基はソフト酸に配位してより安定な錯体を形成する。
本発明者らは、Lewis酸の性質を有する銀イオンはソフト酸に分類できるため、メッキ浴中における銀塩の安定化には、ソフト酸と結合し易いソフト塩基を活用するのが有効ではないかと着想した。
【0007】
そこで、前記従来技術では所定のメルカプト系有機酸類が使用されていること、及びチオ尿素が銀のキレート剤として公知であることに鑑みながら、当該HSAB原理に基づいて、銀或は各種の銀合金メッキ浴中における種々のソフト塩基の挙動について鋭意研究した。
その結果、少なくとも1個以上の塩基性窒素原子を有する特定のスルフィド系化合物をメッキ浴に含有させると、前記従来技術の対象とした銀−スズ合金浴だけではなく、銀及び、銀−ビスマス、銀−インジウムなどの各種の銀合金メッキ浴に対しても、浴の経時安定性がきわめて良好であるとともに、銀と種々の金属の共析が容易に行われるため、安定した組成の銀合金メッキが得られることを見い出した。
さらには、上記特定のスルフィド系化合物に包含される化合物群のうちの鎖状のポリチオエーテル類を研究した延長上で、少なくとも1個以上の塩基性窒素原子を有する環状のポリチオエーテル類である特定のチオクラウンエーテル化合物は、銀メッキ浴、或は銀合金メッキ浴に適用した場合に、当該スルフィド系化合物と同様の効果が得られることを見い出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明1は、(A)銀塩と、銀塩及びビスマス、インジウム、鉛、銅、亜鉛、ニッケル、パラジウム、白金、金から選ばれた金属の塩の混合物とのいずれかよりなる可溶性塩、
(B)下記の一般式(1)で表される特定のスルフィド系化合物の少なくとも一種
【化3】
(x及びyは夫々1〜4の整数を表す;pは0又は1〜100の整数を表す;qは1〜100の整数を表す;
(a)p=0の場合、
Ra及びRcの少なくとも一方が1個以上の塩基性窒素原子を有する置換された又は無置換のアルキル、アルケニル、アルキニル、アラルキル、シクロアルキル、多環式シクロアルキル、アリール、多環式アリール、ヘテロ環式基、及びベンゾイミダゾール環基、キノリン環基、キノキサリン環基、プテリジン環基、フェナントロリン環基、フェナジン環基、インドリン環基、ペルヒドロインドリン環基から選ばれた多環式ヘテロ環式基よりなる群から選ばれたものを表し、上記置換基はC1〜6アルキル、C2〜6アルケニル、C2〜6アルキニル、C1〜6アルコキシ、C1〜6アルキルチオ、C1〜6アルコキシC1〜6アルキル、C1〜6アルキルチオC1〜6アルキル、C1〜6アルキルカルボニル、C1〜6アルコキシカルボニル、アミノ、C1〜6アルキルアミノ、C1〜6ジアルキルアミノ、カルバモイル、ハロゲン、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、アルキルスルフィニル、アリールスルフィニル、アルキルスルフェニル、アリールスルフェニル、シアノ、ニトロ、ヒドロキシ、カルボキシル、メルカプト、イミノ、アリールチオ、アルキルジチオ、アリールジチオ、アルキルトリチオ、アリールトリチオ、アルキルテトラチオ、アリールテトラチオ基から選ばれた少なくとも一種である。但し、Ra及びRcは互いに同一又は異なっても良い;
(b)p=1〜100の場合、
Ra及びRcは置換された又は無置換のアルキル、アルケニル、アルキニル、アラルキル、シクロアルキル、多環式シクロアルキル、アリール、多環式アリール、ヘテロ環式基、多環式ヘテロ環式基よりなる群から選ばれたものを表し、Rbは置換された又は無置換のアルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アラルキレン、シクロアルキレン、多環式シクロアルキレン、アリレン、多環式アリレン、ヘテロ環式基、多環式ヘテロ環式基よりなる群から選ばれたものを表し、且つ、Ra、Rb、Rcの少なくとも一つが1個以上の塩基性窒素原子を有する。但し、Ra、Rb、Rcは互いに同一又は異なっても良い)
を含有することを特徴とする銀及び銀合金メッキ浴である。
【0009】
即ち、本発明2は、(A)可溶性第一スズ塩、
(A)可溶性銀塩及び可溶性スズ塩、
(B)下記の一般式(1)で表される特定のスルフィド系化合物の少なくとも一種
【化4】
(x及びyは夫々1〜4の整数を表す;pは0又は1〜100の整数を表す;qは1〜100の整数を表す;
(a)p=0の場合、
Ra及びRcの少なくとも一方が1個以上の塩基性窒素原子を有する置換された又は無置換のアルキル、アルケニル、アルキニル、アラルキル、シクロアルキル、多環式シクロアルキル、多環式アリール、ピロール環基、ピラジン環基、ピリダジン環基、チアゾール環基、チアジアゾール環基、イミダゾリン環基、イミダゾール環、チアゾリン環基、トリアゾール環、テトラゾール環基、ピコリン環基、フラザン環基、ピペリジン環基、ピペラジン環基、トリアジン環、モルホリン環基から選ばれたヘテロ環式基、及びキノリン環基、キノキサリン環基、プテリジン環基、フェナントロリン環基、フェナジン環基、インドリン環基、ペルヒドロインドリン環基から選ばれた多環式ヘテロ環式基よりなる群から選ばれたものを表し、上記置換基はC1〜6アルキル、C2〜6アルケニル、C2〜6アルキニル、C1〜6アルコキシ、C1〜6アルキルチオ、C1〜6アルコキシC1〜6アルキル、C1〜6アルキルチオC1〜6アルキル、C1〜6アルキルカルボニル、C1〜6アルコキシカルボニル、アミノ、C1〜6アルキルアミノ、C1〜6ジアルキルアミノ、カルバモイル、ハロゲン、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、アルキルスルフィニル、アリールスルフィニル、アルキルスルフェニル、アリールスルフェニル、シアノ、ニトロ、ヒドロキシ、カルボキシル、メルカプト、イミノ、アリールチオ、アルキルジチオ、アリールジチオ、アルキルトリチオ、アリールトリチオ、アルキルテトラチオ、アリールテトラチオ基から選ばれた少なくとも一種である。但し、Ra及びRcは互いに同一又は異なっても良い;
(b)p=1〜100の場合、
Ra及びRcは置換された又は無置換のアルキル、アルケニル、アルキニル、アラルキル、シクロアルキル、多環式シクロアルキル、アリール、多環式アリール、ヘテロ環式基、多環式ヘテロ環式基よりなる群から選ばれたものを表し、Rbは置換された又は無置換のアルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アラルキレン、シクロアルキレン、多環式シクロアルキレン、アリレン、多環式アリレン、ヘテロ環式基、多環式ヘテロ環式基よりなる群から選ばれたものを表し、且つ、Ra、Rb、Rcの少なくとも一つが1個以上の塩基性窒素原子を有する。但し、Ra、Rb、Rcは互いに同一又は異なっても良い)
を含有することを特徴とする銀−スズ合金メッキ浴である。
【0010】
本発明3は、(A)銀塩と、銀塩及びスズ、ビスマス、インジウム、鉛、銅、亜鉛、ニッケル、パラジウム、白金、金から選ばれた金属の塩の混合物とのいずれかよりなる可溶性塩、
(B)次の(イ)〜(ハ)に示される特定のチオクラウンエーテル化合物の少なくとも一種
(イ)少なくとも1個以上の塩基性窒素原子を分子内に有するチオクラウンエーテル化合物、
(ロ)少なくとも1個以上の塩基性窒素原子及び酸素原子を分子内に有するチオクラウンエーテル化合物、
(ハ)上記(イ)及び(ロ)のチオクラウンエーテル化合物の少なくとも一種同士がC 1 〜 5 のアルキレン鎖で結合した化合物
を含有することを特徴とする銀及び銀合金メッキ浴である。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明1の上記スルフィド系化合物は、分子中にスルフィド、ジスルフィド、トリスルフィド、或はテトラスルフィド結合を1個、又は繰り返し有するとともに、当該結合の両翼原子団のうちの、少なくとも一方に1個以上の塩基性窒素原子を有する化合物である。
当該スルフィド系化合物を具体的な構造式で説明すると、例えば、下記の(2)式に示す2,2′-ジ(1-メチルピロリル)ジスルフィドでは、ジスルフィド結合の両翼のピロール環が塩基性窒素原子を有し、両翼の原子団は互いに同一である。
【化3】
【0012】
また、下記の(3)式に示す2,2′−ジチオジアニリンでは、ジスルフィド結合の両翼のベンゼン環に置換したアミノ基が塩基性窒素原子を有する。
【化4】
【0013】
さらに、下記の(4)式に示す2−ヒドロキシフェニル−2′−ピリジルジスルフィドでは、ジスルフィド結合の両翼原子団は互いに異なり、塩基性窒素原子は原子団の一方のピリジン環に存在する。
【化5】
【0014】
上記スルフィド系化合物中の原子団を示すRa、Rcは、アルキル、アルケニル、アルキニル、アラルキル、シクロアルキル、多環式シクロアルキル、アリール、多環式アリール、ヘテロ環式基、多環式ヘテロ環式基を表し、原子団Rbはアルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アラルキレン、シクロアルキレン、多環式シクロアルキレン、アリレン、多環式アリレン、ヘテロ環式基、多環式ヘテロ環式基を表す。
上記原子団の具体例を示すと、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、シクロペンタン環基、シクロヘキサン環基、ベンゼン環基、ナフタレン環基、フェナントレン環基、ピリジン環基、ピロール環基、ピラジン環基、ピリダジン環基、チアゾール環基、チアジアゾール環基、イミダゾリン環基、イミダゾール環、チアゾリン環基、トリアゾール環、テトラゾール環基、ピコリン環基、フラザン環基、ピペリジン環基、ピペラジン環基、トリアジン環、モルホリン環基、ベンゾチアゾール環基、ベンゾイミダゾール環基、キノリン環基、キノキサリン環基、プテリジン環基、フェナントロリン環基、フェナジン環基、インドリン環基、ペルヒドロインドリン環基などである。
但し、上記本発明1(銀メッキ浴、及び銀−スズ合金を除く銀合金メッキ浴)の場合、一般式(1)において、p=0では(繰り返しのないとき)、原子団を示すRa、Rcは、アルキル、アルケニル、アルキニル、アラルキル、シクロアルキル、多環式シクロアルキル、アリール、多環式アリール、ヘテロ環式基、多環式ヘテロ環式基よりなる群から選ばれたものを表し、さらに、上記多環式ヘテロ環式基はベンゾイミダゾール環基、キノリン環基、キノキサリン環基、プテリジン環基、フェナントロリン環基、フェナジン環基、インドリン環基、ペルヒドロインドリン環基の中から選ばれる。
また、上記本発明2の銀−スズ合金メッキ浴では、一般式(1)において、p=0では(繰り返しのないとき)、原子団を示すRa、Rcは、アルキル、アルケニル、アルキニル、アラルキル、シクロアルキル、多環式シクロアルキル、多環式アリール、ヘテロ環式基、多環式ヘテロ環式基よりなる群から選ばれたものを表し、さらに、上記ヘテロ環はピロール環基、ピラジン環基、ピリダジン環基、チアゾール環基、チアジアゾール環基、イミダゾリン環基、イミダゾール環、チアゾリン環基、トリアゾール環、テトラゾール環基、ピコリン環基、フラザン環基、ピペリジン環基、ピペラジン環基、トリアジン環、モルホリン環基の中から選ばれ、且つ、上記多環式ヘテロ環式基はキノリン環基、キノキサリン環基、プテリジン環基、フェナントロリン環基、フェナジン環基、インドリン環基、ペルヒドロインドリン環基の中から選ばれる。
一方、上記本発明1〜2の場合、一般式(1)において、p=1〜100では(繰り返しのあるとき)、原子団Ra、Rcがアルキル、アルケニルなどの列記した所定の群から選ばれたものを表し、原子団Rbがアルキレン、アルケニレンなどの列記した所定の群から選ばれたものを表すほかは、上記p=0の場合のような限定はない。
【0015】
イオウの結合数x、yは各1〜4であるため、スルフィド系化合物はスルフィド化合物、ジスルフィド化合物、トリスルフィド化合物、テトラスルフィド化合物から成る。
特に、上記化合物の中でも後二者の具体例を示すと、トリスルフィド化合物は下記の(5)式に示す4,4′−ジ(3−カルボキシルピリジル)トリスルフィドなどであり、
【化6】
【0016】
テトラスルフィド化合物は下記の(6)式に示す2,2′−ジ(6−クロロピリジル)テトラスルフィドなどである。
【化7】
【0017】
一方、スルフィド系化合物における原子団Rbの繰り返し数pは0〜100、原子団Rcの繰り返し数qは1〜100であるため、下記の(7)式に示す2,2′−ジ{6-(2-ピリジルジチオ)ピリジル}ジスルフィド、(8)式の2,4,6-トリス(2-ピリジルジチオ)-1,3,5-トリアジン、(9)式のジ(2−ピリジルチオ)メタンなどの化合物、或は、後述の(12)〜(15)式などで表される1個以上の塩基性窒素原子を分子内に有する鎖状のポリチオエーテル化合物なども本発明のスルフィド系化合物に含まれる。
【化8】
【0018】
【化9】
【0019】
【化10】
【0020】
但し、p=0の場合には、スルフィド系化合物の末端に位置するRaとRcは結合して、置換された又は無置換の単環、或は多環を形成しても良い。また、p=1〜100の場合には、RaとRb、RaとRb又はRbとRcが結合して置換された又は無置換の単環、或は多環を形成したり、RaとRb及びRbとRcが複合的に結合して置換された又は無置換の単環、或は多環を形成しても良い。
従って、下記の(10)式に示す2,4,6-トリス(2-ピリジル)-1,3,5-トリチアン、或は(11)式の5,5′−ジアミノ−2,11−ジチオ[3,3]パラシクロファンなどの化合物も本発明のスルフィド系化合物と同様に有効である。
【0021】
【化11】
【0022】
【化12】
【0023】
上記Ra、Rb、Rcは夫々置換基を有しても又は無置換でも良い。例えば、上記(7)〜(9)式のピリジン環は夫々無置換であるが、上記(4)式のジスルフィド結合の右側のベンゼン環にはヒドロキシル基が、上記(2)式ではピロール環にメチル基が、また、上記(6)式ではピリジン環にクロロ基が夫々置換している。
上記一般式(1)において、p=0の場合、上記置換基は、C1〜6アルキル、C2〜6アルケニル、C2〜6アルキニル、C1〜6アルコキシ、C1〜6アルキルチオ、C1〜6アルコキシC1〜6アルキル、C1〜6アルキルチオC1〜6アルキル、C1〜6アルキルカルボニル、C1〜6アルコキシカルボニル、アミノ、C1〜6アルキルアミノ、C1〜6ジアルキルアミノ、カルバモイル、ハロゲン、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、アルキルスルフィニル、アリールスルフィニル、アルキルスルフェニル、アリールスルフェニル、シアノ、ニトロ、ヒドロキシ、カルボキシル、メルカプト、イミノ、アリールチオ、アルキルジチオ、アリールジチオ、アルキルトリチオ、アリールトリチオ、アルキルテトラチオ、アリールテトラチオ基から選ばれた少なくとも一種である。従って、原子団Ra、Rcが置換基を有する場合には、上述で限定した置換基を有する必要があり、原子団に置換基があっても、上述の置換基を有さず、他種の置換基しか有しない場合、そのようなスルフィド系化合物は本発明から排除される。
但し、一般式(1)において、p=1〜100の場合には置換基はこの限りでなく、限定されない。
【0024】
本発明2のチオクラウンエーテル化合物は、上位概念的には、前述のスルフィド系化合物のうちの鎖状のポリチオエーテル化合物に対して、環状のポリチオエーテル類として表せる環式化合物であり、上記(イ)で表される化合物、例えば、アザチアクラウンエーテル化合物、上記(ロ)で表される化合物、例えば、アザオキサチアクラウンエーテル化合物、及びこれらを所定のアルキレン鎖で結合した上記(ハ)の化合物を包含する。
上記アザチアクラウンエーテル化合物は、基本的にはクラウンエーテルの酸素原子を硫黄原子に置き換えた分子内に少なくとも1個以上の塩基性窒素原子を有するものであり、具体的には、後述の(17)〜(20)式、(23)〜(25)式、或は(27)式などで表される化合物である。
上記アザオキサチアクラウンエーテル化合物は、例えば、当該アザチアクラウンエーテル化合物の環状基本骨格内、又は基本骨格以外の置換基内に(硫黄原子以外のヘテロ原子としての)酸素原子を少なくとも1個以上有するものであり、具体的には、後述の(16)式、(22)式、或は(26)式などで表される化合物である。
上記(ハ)の化合物は、例えば、アザチアクラウンエーテル化合物同士、アザオキサチアクラウンエーテル化合物同士、或はアザチアクラウンエーテル化合物とアザオキサチアクラウンエーテル化合物が夫々C1〜5のアルキレン鎖で結合したものであり、アルキレン鎖で結合されるチオクラウンエーテル環は2個に限定されず、3個、或は4個以上であっても良く、具体的には、後述の(21)式などで表される化合物である。
【0025】
ちなみに、上位概念としてのチオクラウンエーテル化合物は、前記スルフィド系化合物と同様に、後述の(19)式や(20)式に示すように、チオクラウンエーテル環に種々の置換基が結合していても良い。
また、チオクラウンエーテル化合物の塩基性窒素原子は、後述の(17)式や(18)式のように環の基本骨格を構成する原子として存在しても良いし、後述の(25)式のように環の一部を構成するピリジン環などの中に存在しても良く、或は、(27)式や(24)式のように環の基本骨格に置換したアミノ基などの形態で存在しても良い。
【0026】
上記モノスルフィド化合物は、一般的に、各種の常法で合成される。例えば、両翼原子団に塩基性窒素を有するヘテロ環基が結合したスルフィド化合物は、ナトリウムチオラートとハロゲン化物を反応させて合成される。
上記ジスルフィド化合物は、例えば、チオール化合物を過酸化水素やヨウ素などの酸化剤で酸化し、ジスルフィド結合を生成するなどの常法により合成される。尚、非対称のジスルフィド化合物の場合には、チオール化合物とスルフェニルクロリドを反応させて合成される。
上記トリスルフィド化合物は、チオール化合物と塩化チオニルを反応させて合成される。
また、上記テトラスルフィド化合物は、ヒドロジスルフィド化合物をヨウ素などで酸化して合成される。
【0027】
一方、上記モノスルフィド化合物のうちの鎖状のポリチオエーテル化合物に関して、例えば、後述の(15)式の窒素原子を2個有するポリチオエーテルは、1,4,7,10−テトラチアウンデカンと2−クロロピリジンを無水アルコール中、金属ナトリウムの存在下で反応させ、塩化水素の脱離により合成される。
また、環状のポリチオエーテルであるチオクラウンエーテル化合物に関して、後述の(18)式の窒素原子を2個有するジアザテトラチアクラウンエーテルは、1,4−ジチアブタンとビス(2−クロロエチル)アミン塩酸塩を無水アルコール中、金属ナトリウムの存在下で閉環反応させて合成される。
即ち、後述の(12)式〜(27)式に列記した塩基性窒素原子を有する鎖状のポリチオエーテル化合物、或は環状のポリチオエーテル化合物(即ち、チオクラウンエーテル化合物)は、基本的には対応するジメルカプタン化合物と対応するハロゲン化炭化水素を例えば無水溶媒中、金属ナトリウム等の塩基の存在下で反応させるなどの方式で合成される。
以上のように、上記スルフィド系化合物、或はチオクラウンエーテル化合物は共に常法により合成でき、元素分析、IR分析、NMR分析、MS分析、或はUV分析などで同定できる。
【0028】
本発明に属する上記スルフィド系化合物及びチオクラウンエーテル化合物、或はこれらと同様に有効なスルフィド系化合物(下記の(54)〜(55)参照)の具体例としては次の化合物などが挙げられる。
(1)2−エチルチオアニリン
(2)2−(2−アミノエチルジチオ)ピリジン
(3)2,2′−ジチアジアゾリルジスルフィド
(4)5,5′−ジ(1,2,3−トリアゾリル)ジスルフィド
(5)2,2′−ジピラジニルジスルフィド
(6)2,2′−ジピリジルジスルフィド
(7)2,2′−ジチオジアニリン
(8)4,4′−ジピリジルジスルフィド
(9)2,2′−ジアミノ−4,4′−ジメチルジフェニルジスルフィド
(10)2,2′−ジピリダジニルジスルフィド
(11)5,5′−ジピリミジニルジスルフィド
(12)2,2′−ジ(5−ジメチルアミノチアジアゾリル)ジスルフィド
(13)5,5′−ジ(1−メチルテトラゾリル)ジスルフィド
(14)2,2′−ジ(1−メチルピロリル)ジスルフィド
(15)2−ピリジル−2−ヒドロキシフェニルジスルフィド
(16)2,2′−ジピペリジルジスルフィド
(17)2,2′−ジピリジルスルフィド
(18)2,6−ジ(2−ピリジルジチオ)ピリジン
(19)2,2′−ジピペラジニルジスルフィド
(20)2,2′−ジ(3,5−ジヒドロキシピリミジニル)ジスルフィド
(21)2,2′−ジキノリルジスルフィド
(22)2,2′−ジ{6−(2−ピリジル)}ピリジルジスルフィド
(23)2,2′−α−ピコリルジスルフィド
(24)2,2′−ジ(8−ヒドロキシキノリル)ジスルフィド
(25)5,5′−ジイミダゾリルジスルフィド
(26)2,2′−ジチアゾリルジスルフィド
(27)2−ピリジル−2−アミノフェニルジスルフィド
(28)2−ピリジル−2−キノリルジスルフィド
(29)2,2′−ジチアゾリニルジスルフィド
(30)2,2′−ジ(4,5-ジアミノ-6-ヒドロキシピリミジニル)ジスルフィド
(31)2,2′−ジ(6−クロロピリジル)テトラスルフィド
(32)2,2′−ジモルホリノジスルフィド
(33)2,2′−ジ(8−メトキシキノリル)ジスルフィド
(34)4,4′−ジ(3−メトキシカルボニルピリジル)ジスルフィド
(35)2−ピリジル−4−メチルチオフェニルジスルフィド
(36)2−ピペラジル−4−エトキシメチルフェニルジスルフィド
(37)2,2′−ジ{6-(2-ピリジルジチオ)ピリジル}ジスルフィド
(38)2,2′−ジキノキサリニルジスルフィド
(39)2,2′−ジプテリジニルジスルフィド
(40)3,3′−ジフラザニルジスルフィド
(41)3,3′−ジフェナントロリニルジスルフィド
(42)8,8′−ジキノリルジスルフィド
(43)1,1′−ジフェナジニルジスルフィド
(44)4,4′−ジ(3−カルボキシルピリジル)トリスルフィド
(45)2,2′−ジチアゾリニルジスルフィド
(46)2,2′−ジピコリルジスルフィド
(47)ジメチルアミノジエチルジスルフィド
(48)2,2′−ジペルヒドロインドリルジスルフィド
(49)6,6′−ジイミダゾ[2,1−b]チアゾリルジスルフィド
(50)2,2′−ジ(5−ニトロベンズイミダゾリル)ジスルフィド
(51)2,4,6−トリス(2−ピリジルジチオ)−1,3,5−トリアジン
(52)2−アミノエチル−2′−ヒドロキシエチルジスルフィド
(53)ジ(2−ピリジルチオ)メタン
(54)2,4,6−トリス(2−ピリジル)−1,3,5−トリチアン
(55)5,5′−ジアミノ−2,11−ジチオ[3,3]パラシクロファン
(56)2,3−ジチア−1,5−ジアザインダン
(57)2,4,6−トリチア−3a,7a−ジアザインデン
【0029】
(58)次式(12)に示す1,8−ジアミノ−3,6−ジチアオクタン
【化13】
【0030】
(59)次式(13)に示す1,11−ビス(メチルアミノ)−3,6,9−トリチアウンデカン
【化14】
【0031】
(60)次式(14)に示す1,14−ビス(メチルアミノ)−3,6,9,12−テトラチアテトラデカン
【化15】
【0032】
(61)次式(15)に示す1,10−ジ(2−ピリジル)−1,4,7,10−テトラチアデカン
【化16】
【0033】
(62)次式(16)に示す1−アザ−7−オキサ−4,10−ジチアシクロドデカン
【化17】
【0034】
(63)次式(17)に示す1−アザ−4,7,11,14−テトラチアシクロヘキサデカン
【化18】
【0035】
(64)次式(18)に示す1,10−ジアザ−4,7,13,16−テトラチアシクロオクタデカン
【化19】
【0036】
(65)次式(19)に示す1,10−ジアザ−1,10−ジメチル−4,7,13,16−テトラチアシクロオクタデカン
【化20】
【0037】
(66)次式(20)に示す1,16−ジアザ−1,16−ビス(2−ヒドロキシベンジル)−4,7,10,13,19,22,25,28−オクタチアシクロトリアコンタン
【化21】
【0038】
(67)次式(21)に示す1,1′−(1,2−エタンジイル)ビス−1−アザ−4,7,10−トリチアシクロドデカン
【化22】
【0039】
(68)次式(22)に示す2,23−ジアザ−5,20−ジオキサ−8,11,14,17−テトラチアビシクロ[22.2.2]オクタコサ−1,24,27−トリエン
【化23】
【0040】
(69)次式(23)に示す7,8,9,10,18,19,20,21−オクタヒドロ−6H,17H−ジベンゾ[b,k][1,4,10,13,7,16]テトラチアジアザシクロオクタデカン
【化24】
【0041】
(70)次式(24)に示す3,6,14,17−テトラチアトリシクロ[17.3.1.18,12]テトラコサ−1,8,10,12,19,21−ヘキサエン−23,24−ジアミン
【化25】
【0042】
(71)次式(25)に示す3,7,15,19−テトラチア−25,26−ジアザトリシクロ[19.3.1.19,13]ヘキサコサ−1,9,11,13,21,23−ヘキサエン
【化26】
【0043】
(72)次式(26)に示す1,10−ジアザ−4,7−ジオキサ−13,16,21,24−テトラチアビシクロ[8.8.8]ヘキサコサン
【化27】
【0044】
(73)次式(27)に示す6,13−ジアミノ−1,4,8,11−テトラチアシクロテトラデカン
【化28】
【0045】
上記スルフィド系化合物、或はチオクラウンエーテル化合物は各々単用又は併用でき、スルフィド系化合物とチオクラウンエーテル化合物を併用しても良い。メッキ浴に対するこれらの化合物の総濃度は、メッキ浴に含まれる銀濃度に応じて増減することができ、具体的には、一般に0.0001〜5moL/L、好ましくは0.001〜2moL/Lである。
【0046】
本発明は銀メッキ浴及び銀合金メッキ浴を対象とするが、この銀合金は、上述のように、銀と、スズ、ビスマス、インジウム、鉛、銅、亜鉛、ニッケル、パラジウム、白金、金から選ばれた金属との合金である。具体的には、銀−スズ、銀−ビスマス、銀−インジウム、銀−鉛、銀−銅、銀−亜鉛、銀−ニッケル、銀−パラジウム、銀−白金、銀−金などの二成分系の銀合金を初め、銀−スズ−金、銀−スズ−パラジウム、銀−スズ−ニッケル、銀−スズ−銅、銀−銅−インジウムなどの3成分系の銀合金も含まれる。
ちなみに、銀−スズ−パラジウム、銀−スズ−ニッケルなどの3成分系では、例えば、メッキ浴にパラジウム塩、ニッケル塩を微量(例えば、200〜1000mg/L)含有させて、パラジウム、或はニッケルを含む銀−スズ合金を得るのである。
【0047】
前記ピロール環基、ピペラジン環基、ピリダジン環基、ピリジン環基、チアジアゾール環基、チアゾール環基、ヒドロキシル基が置換したキノリン環基、テトラゾール環基、モルホリン環基、キノキサリン環基、フェナントロリン環基、或はアミノ基が置換したベンゼン環基などを両翼原子団に有するスルフィド、或はジスルフィド化合物などのスルフィド系化合物は、銀−ビスマス、銀−インジウム、銀−鉛合金浴に好適であるが、銀、銀−スズ、銀−スズ−パラジウム、銀−亜鉛合金などのメッキ浴に対しても実用的である。
【0048】
上記銀塩としては、硫酸銀、亜硫酸銀、炭酸銀、スルホコハク酸銀、硝酸銀、クエン酸銀、酒石酸銀、グルコン酸銀、シュウ酸銀、酸化銀などの任意の可溶性の塩類を使用できるが、後述の酸(特に、有機スルホン酸)との塩類(メタンスルホン酸銀、エタンスルホン酸銀、2−プロパノールスルホン酸銀、ホウフッ化銀など)が好ましい。
一方、銀と合金を生成する上記特定金属の塩はメッキ浴中でSn2+、Sn4+、SnO3 2-、Bi3+、In3+、Pb2+、Cu2+、Cu+、Zn2+、Ni2+、Pd2+、Pt2+、Pt4+、Au+、Au3+などの各種の金属イオンを生成する任意の可溶性塩を意味し、その具体例は下記の通りであるが、中でも、後述の酸(特に、有機スルホン酸)との塩類が好ましい。
【0049】
(1)酸化物:酸化ビスマス、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化第二銅、酸化第一銅、酸化ニッケル、酸化第一スズ、酸化第二スズなど。
(2)ハロゲン化物:塩化ビスマス、臭化ビスマス、塩化インジウム、ヨウ化インジウム、塩化鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛、塩化第一銅、塩化第二銅、塩化ニッケル、塩化パラジウム、塩化第一スズ、塩化第二スズなど。尚、銀イオンはハロゲンイオンの存在下ではハロゲン化銀となって沈殿するが、本発明のメッキ浴では、上記ハロゲン化物を添加しても、ハロゲン化銀の沈殿はない。
(3)無機酸又は有機酸との塩、その他:硝酸ビスマス、硫酸ビスマス、硫酸インジウム、硫酸第二銅、硫酸第一スズ、ホウフッ化第一スズ、硫酸亜鉛、酢酸ニッケル、硫酸ニッケル、硫酸パラジウム、メタンスルホン酸ビスマス、メタンスルホン酸亜鉛、メタンスルホン酸第一スズ、エタンスルホン酸第一スズ、2−プロパノールスルホン酸第一スズ、メタンスルホン酸鉛、p−フェノールスルホン酸鉛、p−フェノールスルホン酸第二銅、メタンスルホン酸ニッケル、メタンスルホン酸パラジウム、エタンスルホン酸白金、2−プロパノールスルホン酸金、スズ酸ナトリウム、スズ酸カリウムなど。
【0050】
上記銀及び特定金属の可溶性塩は単用又は併用でき、これらの金属の総濃度(金属としての換算添加量)は、一般に0.01〜200g/L、好ましくは0.1〜100g/Lである。
【0051】
本発明のメッキ浴は酸性浴、中性浴、アルカリ性浴を問わないが、アルカリ性浴では用途が限定される傾向があるため、酸性浴、中性浴が好ましい。
酸性浴の場合には、メッキ浴での反応が比較的穏やかで、排水処理の容易なアルカンスルホン酸、アルカノールスルホン酸等の有機スルホン酸、或は、脂肪族カルボン酸などの有機酸が好ましいが、塩酸、硫酸、ホウフッ化水素酸、ケイフッ化水素酸、過塩素酸などの無機酸を選択することもできる。
また、アルカリ性浴の場合には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどを用いることができる。
上記酸、或はアルカリは単用又は併用され、その添加量は一般に0.1〜500g/L、好ましくは10〜250g/Lである。
【0052】
上記アルカンスルホン酸としては、化学式CnH2n+1SO3H(例えば、n=1〜11)で示されるものが使用でき、具体的には、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1―プロパンスルホン酸、2―プロパンスルホン酸、1―ブタンスルホン酸、2―ブタンスルホン酸、ペンタンスルホン酸、ヘキサンスルホン酸、デカンスルホン酸、ドデカンスルホン酸などが挙げられる。
【0053】
上記アルカノールスルホン酸としては、化学式
CmH2m+1-CH(OH)-CpH2p-SO3H(例えば、m=0〜2、p=1〜10)
で示されるものが使用でき、具体的には、2―ヒドロキシエタン―1―スルホン酸、2―ヒドロキシプロパン―1―スルホン酸、2―ヒドロキシブタン―1―スルホン酸、2―ヒドロキシペンタン―1―スルホン酸などの外、1―ヒドロキシプロパン―2―スルホン酸、3―ヒドロキシプロパン―1―スルホン酸、4―ヒドロキシブタン―1―スルホン酸、2―ヒドロキシヘキサン―1―スルホン酸、2―ヒドロキシデカン―1―スルホン酸、2―ヒドロキシドデカン―1―スルホン酸などが挙げられる。
【0054】
上記脂肪族カルボン酸としては、一般に、炭素数1〜6のカルボン酸が使用できる。具体的には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、スルホコハク酸などが挙げられる。
【0055】
本発明のメッキ浴には、メッキ皮膜の平滑性、緻密性、密着性、外観などを向上し、或は光沢性や半光沢性などを付与するために、平滑剤を含有することができる。
上記平滑剤としては、各種の界面活性剤が代表的であるが、これ以外にも当該作用を有する化合物であれば任意のものが使用できる。
上記界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系、両性の各種界面活性剤の中から少なくとも一種を使用することができる。
【0056】
当該ノニオン系界面活性剤の具体例としては、C1〜C20アルカノール、フェノール、ナフトール、ビスフェノール類、C1〜C25アルキルフェノール、アリールアルキルフェノール、C1〜C25アルキルナフトール、C1〜C25アルコキシル化リン酸(塩)、ソルビタンエステル、スチレン化フェノール、ポリアルキレングリコール、C1〜C22脂肪族アミン、C1〜C22脂肪族アミドなどにエチレンオキシド(EO)及び/又はプロピレンオキシド(PO)を2〜300モル付加縮合させたものや、C1〜C25アルコキシル化リン酸(塩)などが挙げられる。
【0057】
エチレンオキシド(EO)及び/又はプロピレンオキシド(PO)を付加縮合させるC1〜C20アルカノールとしては、オクタノール、デカノール、ラウリルアルコール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、ステアリルアルコール、エイコサノール、セチルアルコール、オレイルアルコール、ドコサノールなどが挙げられる。
同じくビスフェノール類としては、ビスフェノールA、ビスフェノールB、ビスフェノールFなどが挙げられる。
C1〜C25アルキルフェノールとしては、モノ、ジ、若しくはトリアルキル置換フェノール、例えば、p−メチルフェノール、p−ブチルフェノール、p−イソオクチルフェノール、p−ノニルフェノール、p−ヘキシルフェノール、2,4−ジブチルフェノール、2,4,6−トリブチルフェノール、ジノニルフェノール、p−ドデシルフェノール、p−ラウリルフェノール、p−ステアリルフェノールなどが挙げられる。
アリールアルキルフェノールとしては、2−フェニルイソプロピルフェノール、クミルフェノールなどが挙げられる。
C1〜C25アルキルナフトールのアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチルヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシルなどが挙げられ、ナフタレン核の任意の位置にあって良い。
C1〜C25アルコキシル化リン酸(塩)は、下記の一般式(a)で表されるものである。
【0058】
【化29】
(式(a)中、Ra及びRbは同一又は異なるC1〜C25アルキル、但し、一方がHであっても良い。MはH又はアルカリ金属を示す。)
【0059】
ソルビタンエステルとしては、モノ、ジ又はトリエステル化した1,4−、1,5−又は3,6−ソルビタン、例えばソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンジステアレート、ソルビタンジオレエート、ソルビタン混合脂肪酸エステルなどが挙げられる。
C1〜C22脂肪族アミンとしては、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、牛脂アミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミンなどの飽和及び不飽和脂肪酸アミンなどが挙げられる。
C1〜C22脂肪族アミドとしては、プロピオン酸、酪酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸、ヤシ油脂肪酸、牛脂脂肪酸などのアミドが挙げられる。
【0060】
更に、上記ノニオン系界面活性剤としては、
R1N(R2)2→O
(上式中、R1はC5〜C25アルキル又はRCONHR3(R3はC1〜C5アルキレンを示す)、R2は同一又は異なるC1〜C5アルキルを示す。)
などで示されるアミンオキシドを用いることができる。
【0061】
上記ノニオン系界面活性剤は2つ以上を混合しても良く、メッキ浴の添加量は一般に0.05〜100g/L、好ましくは0.1〜50g/Lである。
【0062】
上記カチオン系界面活性剤としては、下記の一般式(b)で表される第4級アンモニウム塩
【0063】
【化30】
(式(b)中、Xはハロゲン、ヒドロキシ、C1〜C5アルカンスルホン酸又は硫酸、R1、R2及びR3は同一又は異なるC1〜C20アルキル、R4はC1〜C10アルキル又はベンジルを示す。)
或は、下記の一般式(c)で表されるピリジニウム塩などが挙げられる。
【0064】
【化31】
(式(c)中、Xはハロゲン、ヒドロキシ、C1〜C5アルカンスルホン酸又は硫酸、R5はC1〜C20アルキル、R6はH又はC1〜C10アルキルを示す。)
【0065】
塩の形態のカチオン系界面活性剤の例としては、ラウリルトリメチルアンモニウム塩、ステアリルトリメチルアンモニウム塩、ラウリルジメチルエチルアンモニウム塩、オクタデシルジメチルエチルアンモニウム塩、ジメチルベンジルラウリルアンモニウム塩、セチルジメチルベンジルアンモニウム塩、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム塩、トリメチルベンジルアンモニウム塩、トリエチルベンジルアンモニウム塩、ヘキサデシルピリジニウム塩、ラウリルピリジニウム塩、ドデシルピリジニウム塩、ステアリルアミンアセテート、ラウリルアミンアセテート、オクタデシルアミンアセテートなどが挙げられる。
【0066】
上記アニオン系界面活性剤としては、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、(モノ、ジ、トリ)アルキルナフタレンスルホン酸塩などが挙げられる。アルキル硫酸塩としては、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウムなどが挙げられる。ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩としては、ポリオキシエチレン(EO12)ノニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン(EO15)ドデシルエーテル硫酸ナトリウムなどが挙げられる。ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩としては、ポリオキシエチレン(EO15)ノニルフェニルエーテル硫酸塩などが挙げられる。アルキルベンゼンスルホン酸塩としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。また、(モノ、ジ、トリ)アルキルナフタレンスルホン酸塩としては、ジブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0067】
上記両性界面活性剤としては、ベタイン、スルホベタイン、アミノカルボン酸などが挙げられる。また、エチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドとアルキルアミン又はジアミンとの縮合生成物の硫酸化或はスルホン酸化付加物も使用できる。
当該ベタインは下記の一般式(d)又は(e)などで表されるものである。
【0068】
【化32】
(式(d)中、R7はC1〜C20アルキル、R8及びR9は同一又は異なるC1〜C5アルキル、nは1〜3の整数を示す。)
【0069】
【化33】
(式(e)中、R10はC1〜C20アルキル、R11は(CH2)mOH又は(CH2)mOCH2CO2 -、R12は(CH2)nCO2 -、(CH2)nSO3 -、CH(OH)CH2SO3 -、m及びnは1〜4の整数を示す。)
【0070】
代表的なベタインは、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−ウンデシル−1−カルボキシメチル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、2−オクチル−1−カルボキシメチル−1−カルボキシエチルイミダゾリニウムベタインなどが挙げられ、硫酸化及びスルホン酸化付加物としてはエトキシル化アルキルアミンの硫酸付加物、スルホン酸化ラウリル酸誘導体ナトリウム塩などが挙げられる。
【0071】
スルホベタインとしては、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアンモニウム−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、N−ココイルメチルタウリンナトリウム、N−パルミトイルメチルタウリンナトリウムなどが挙げられる。
アミノカルボン酸としては、ジオクチルアミノエチルグリシン、N−ラウリルアミノプロピオン酸、オクチルジ(アミノエチル)グリシンナトリウム塩などが挙げられる。
【0072】
前記ノニオン系界面活性剤以外のこれらの界面活性剤は2以上を併用しても良く、メッキ浴への添加量は一般に0.05〜100g/L、好ましくは0.1〜50g/Lである。
【0073】
また、下記の化合物も上記平滑剤として好適である。
即ち、β−ナフトール、β−ナフトール−6−スルホン酸、β−ナフタレンスルホン酸、m−クロロベンズアルデヒド、p−ニトロベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、(o−、p−)メトキシベンズアルデヒド、バニリン、(2,4−、2,6−)ジクロロベンズアルデヒド、(o−、p−)クロロベンズアルデヒド、1−ナフトアルデヒド、2−ナフトアルデヒド、2(4)−ヒドロキシ−1−ナフトアルデヒド、2(4)−クロロ−1−ナフトアルデヒド、2(3)−チオフェンカルボキシアルデヒド、2(3)−フルアルデヒド、3−インドールカルボキシアルデヒド、サリチルアルデヒド、o−フタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、パラアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−バレルアルデヒド、アクロレイン、クロトンアルデヒド、グリオキサール、アルドール、スクシンジアルデヒド、カプロンアルデヒド、イソバレルアルデヒド、アリルアルデヒド、グルタルアルデヒド、1−ベンジリデン−7−ヘプタナール、2,4−ヘキサジエナール、シンナムアルデヒド、ベンジルクロトンアルデヒド、アミン−アルデヒド縮合物、酸化メシチル、イソホロン、ジアセチル、ヘキサンジオン−3,4、アセチルアセトン、3−クロロベンジリデンアセトン、sub.ピリジリデンアセトン、sub.フルフリジンアセトン、sub.テニリデンアセトン、4−(1−ナフチル)−3−ブテン−2−オン、4−(2−フリル)−3−ブテン−2−オン、4−(2−チオフェニル)−3−ブテン−2−オン、クルクミン、ベンジリデンアセチルアセトン、ベンザルアセトン、アセトフェノン、(2,4−、3,4−)ジクロロアセトフェノン、ベンジリデンアセトフェノン、2−シンナミルチオフェン、2−(ω−ベンゾイル)ビニルフラン、ビニルフェニルケトン、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、クロトン酸、プロピレン−1,3−ジカルボン酸、ケイ皮酸、(o−、m−、p−)トルイジン、(o−、p−)アミノアニリン、アニリン、(o−、p−)クロロアニリン、(2,5−、3,4−)クロロメチルアニリン、N−モノメチルアニリン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、N−フェニル−(α−、β−)ナフチルアミン、メチルベンズトリアゾール、1,2,3−トリアジン、1,2,4−トリアジン、1,3,5−トリアジン、1,2,3−ベンズトリアジン、イミダゾール、2−ビニルピリジン、インドール、キノリン、モノエタノールアミンとo−バニリンの反応物、ポリビニルアルコール、カテコール、ハイドロキノン、レゾルシン、ポリエチレンイミン、エチレンジアミンテトラ酢酸二ナトリウム、ポリビニルピロリドンなどである。
【0074】
さらに、ゼラチン、ポリペプトンを初め、下記の一般式(f)〜(i)で表される化合物も平滑剤として有用である。
【0075】
【化34】
(式(f)中、Rは水素、アルキル基(C1〜C4)又はフェニル基、RIは水素、水酸基又は存在しない場合、RIIはアルキレン基(C1〜C4)、フェニレン基又はベンジル基、RIIIは水素又はアルキル基(C0〜C4)である。)
【0076】
【化35】
(式(g)中、R、RIはアルキル基(C1〜C18)である。)
【0077】
【化36】
(式(h)中、Rは水素、アルキル基(C1〜C4)又はフェニル基である。)
【0078】
【化37】
(式(i)中、R1、R2、R3、R4及びR5は夫々同一又は異なっていても良く、(1)H、(2)―SH、(3)―OH、(4)OR(Rは所望により―COOHで置換されていても良いC1〜C6アルキル基)、(5)OH、ハロゲン、―COOH、―(CO)COOH、アリール又はOC1〜C6アルキル基で置換されていても良いC1〜C6アルキル基を意味する。)
【0079】
上記一般式(f)〜(i)で表された化合物のうちでも、特に、N―(3―ヒドロキシブチリデン)―p―スルファニル酸、N―ブチリデンスルファニル酸、N―シンナモイリデンスルファニル酸、2,4―ジアミノ―6―(2′―メチルイミダゾリル(1′))エチル―1,3,5―トリアジン、2,4―ジアミノ―6―(2′―エチル―4―メチルイミダゾリル(1′))エチル―1,3,5―トリアジン、2,4―ジアミノ―6―(2′―ウンデシルイミダゾリル(1′))エチル―1,3,5―トリアジン、サリチル酸フェニルなどが挙げられる。
【0080】
同じく、上記一般式(i)のうち、ベンゾチアゾール類系の平滑剤としては、特に、ベンゾチアゾール、2―メチルベンゾチアゾール、2―(メチルメルカプト)ベンゾチアゾール、2―アミノベンゾチアゾール、2―アミノ―6―メトキシベンゾチアゾール、2―メチル―5―クロロベンゾチアゾール、2―ヒドロキシベンゾチアゾール、2―アミノ―6―メチルベンゾチアゾール、2―クロロベンゾチアゾール、2,5―ジメチルベンゾチアゾール、6―ニトロ―2―メルカプトベンゾチアゾール、5―ヒドロキシ―2―メチルベンゾチアゾール、2―ベンゾチアゾールチオ酢酸などが挙げられる。
【0081】
また、上記平滑剤においては、界面活性剤に加えてそれ以外の各種の有効な化合物をも示したが、これらの有効な化合物を各種の界面活性剤と併用すると、その相乗作用で電着皮膜の平滑性がさらに改善される。
界面活性剤以外として示した上記各種の平滑剤のメッキ浴への添加量は、一般に0.001〜40g/L、好ましくは0.01〜20g/Lである。
【0082】
本発明のメッキ浴を用いて電気メッキを行う場合、浴温は一般に70℃以下、好ましくは10〜40℃程度である。また、陰極電流密度はメッキ浴の種類により多少の差異はあるが、一般に0.01〜150A/dm2程度、好ましくは0.1〜50A/dm2程度である。
一方、本発明のメッキ浴を調製する手順としては、銀塩、銀と合金を生成する特定金属の塩、所定のスルフィド系化合物、及び平滑剤やその他の添加剤をベースとなる酸やアルカリの液に同時に混合する一浴方式で行っても良いし、少なくとも銀塩をスルフィド系化合物に混合した水溶液を、建浴時に残りの浴構成成分と合わせる2液混合方式などにより行っても差し支えない。即ち、銀塩をスルフィド系化合物の共存下で安定な状態に置いて調製することが肝要である。
【0083】
本発明のメッキ浴での上記各成分の添加濃度は、バレルメッキ、ラックメッキ、高速連続メッキ、ラックレスメッキなどに対応して任意に調整・選択できる。
また、本発明のメッキ浴には、上記平滑剤の外に、通常のメッキ浴で使用される錯化剤、pH調整剤、緩衝剤、電導性塩などの添加剤を含有できることは勿論である。
例えば、上記錯化剤としては、エチレンジアミンテトラ酢酸、イミノジ酢酸、ニトリロトリ酢酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グリコール酸、グルコヘプトン酸、グリシン、ピロリン酸、トリポリリン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ビスホスホン酸などが挙げられる。
尚、銀−スズ合金浴のようなスズ塩を含有する銀合金メッキ浴では、カテコール、ハイドロキノン、フェノールスルホン酸、ナフトールスルホン酸、アスコルビン酸などの酸化防止剤を添加することにより第一スズ塩の酸化を有効に抑制できる。
【0084】
【作用】
本発明では、銀及び銀合金の各メッキ浴に特定のスルフィド系化合物、或はチオクラウンエーテル化合物を含有するため、スルフィド、ジスルフィドなどの結合における分極し易いイオウ原子のソフトな塩基としての(前述のHSABの原理に基づく)配位特性と、イオウ結合の両翼の原子団の少なくとも一方に存在する1個以上の塩基性窒素原子の非共有電子対による配位特性の相乗により、当該スルフィド系化合物、或はチオクラウンエーテル化合物は銀イオンに対して良好な配位機能を示すと推定できる。
【0085】
【発明の効果】
(1)本発明の銀及び銀合金メッキ浴では、上述のように、特定のスルフィド系化合物、或はチオクラウンエーテル化合物の作用で銀が安定に溶解できるため、メッキ浴の経時安定性は大幅に向上する。このため、浴の分解を少なくとも6ケ月以上に亘って抑制でき(後述の試験例参照)、電気メッキ浴としての実用性を有効に確保できる。
ちなみに、本発明の銀又は銀合金メッキ浴は、イオウ系化合物のうちの特定のスルフィド系化合物、或はチオクラウンエーテル化合物を含有することを特徴とするが、特に、前記従来技術の特定のメルカプト系有機酸類やチオ尿素などの他種類のイオウ系化合物を含有する浴では2〜3週間程度の短期間で分解が起こるため(後述の試験例のうち、比較例2A・B〜3A・B参照)、これらの公知の化合物に比較しても、本発明のスルフィド系化合物、或はチオクラウンエーテル化合物は、浴の経時安定性に対する寄与の点で格段に優れていることに注意すべきである。
【0086】
(2)従来の非シアン型の銀合金メッキ浴では、分解が進んで電気メッキ自体の長期実施が容易でなく、電気メッキを行ったとしても電着皮膜における銀の共析率が悪いという問題があった。
しかし、本発明の銀合金メッキ浴を使用して電気メッキを行うと、後述の試験例に示すように、銀と他の金属を確実に共析化でき、良好な銀合金の電着皮膜を形成することができる。
また、チオグリコール酸やチオ尿素を含有する浴では、電流密度の条件が低密度〜高密度に変化すると、銀の共析率のバラツキが大きいのに対して、本発明の銀合金メッキ浴では、低密度〜高密度のいずれの電流密度の条件下でも電着皮膜における銀の共析率のバラツキが小さく、皮膜中の銀の含有率が安定化する。このため、メッキ時の電流密度の管理が容易であるうえ、用途に応じた組成比のメッキ皮膜を容易に形成できる。
【0087】
(3)本発明1のメッキ浴を用いた銀、或は銀合金の電着皮膜は、後述の試験例で述べるように、ヤケ(コゲ)、デンドライト、粉末状化、或は、銅、銅合金などの被メッキ素地に対する銀の置換析出や析出した皮膜へのさらなる銀の置換析出などの異常が認められず、実用的で良好な皮膜外観を具備することができる。
また、本発明2の平滑剤をメッキ浴に添加すると、電着皮膜の外観を一層良好に向上できる。
【0088】
(4)本発明1〜2の銀、或は銀合金メッキ浴は、いわば銀塩をスルフィド系化合物、或はチオクラウンエーテル化合物で安定に溶解させる非シアン型のメッキ浴なので、安全であり、排水規制が軽減されて排水処理のコストを削減できる。
また、本発明のメッキ浴はアルカリ側でのみ安定なシアン化合物を使用せず、pH制限を受けることもない(強酸性を含む)ので、メッキ処理に際しては、メッキ金属の種類に拘束を受け易いアルカリ浴に限定されず、酸性浴、中性浴でも良好に使用できる。このため、メッキ対象となる金属(銀合金)のバリエーションが広がるうえ、メッキ浴のpH管理が容易になる。
しかも、本発明のスルフィド系化合物、或はチオクラウンエーテル化合物は分子内の塩基性窒素原子の存在で酸性水溶液に可溶な場合が多いので、酸性メッキ浴では、浴の調製がより一層容易になる。但し、メッキ浴の調製では、本発明の化合物を界面活性剤などで分散しても良いことは言うまでもない。
【0089】
一方、ヨーロッパでは、最近、環境汚染防止の見地からEDTAなどを初めとするキレート機能を有する錯化剤や安定剤などを全般的に規制し、或は規制の対象にしようとする動きがある。この観点においては、銀又は銀合金メッキ浴に含有される安定剤などもメッキ後の排水処理の時点で回収し、環境中に放出しないことが重要であるが、チオ尿素、チオグリコール酸などの従来技術の安定剤は総じて広いpH域で水に易溶であるため、回収が容易でない。
これに対して、本発明のメッキ浴では、スルフィド系化合物、或はチオクラウンエーテル化合物が塩基性窒素原子などに起因する上記特有の性質を有するため、排水処理に際してメッキ浴を微アルカリ側、乃至それ以上のアルカリ側に傾けることで、スルフィド系化合物、或はチオクラウンエーテル化合物を沈殿させて容易に回収することができ、環境汚染を円滑に防止できる。
【0090】
【実施例】
以下、銀及び銀合金の電気メッキ浴の実施例を順次説明するとともに、調製後の各メッキ浴の経時安定性、銀合金の電着皮膜における銀の共析率、或は各電着皮膜の外観観察などの各種試験例を併記する。尚、本発明は下記の実施例に拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で多くの変形をなし得ることは勿論である。
【0091】
下記の実施例1〜3、15〜18及び23〜25は銀−スズ合金メッキ浴、実施例4〜12、19〜22及び27〜30は銀−ビスマス合金、銀−ニッケル合金を初めとする銀−スズ合金以外の銀合金メッキ浴、実施例13〜14及び26は銀メッキ浴である。
実施例7、15、16及び30はモノスルフィド化合物(主に、冒述の鎖状ポリチオエーテル化合物)の単独含有例、実施例1〜6と8〜14はジスルフィド化合物の単独含有例、実施例17〜23と26はチオクラウンエーテル化合物の単独含有例である。
また、実施例28はモノスルフィド化合物(具体的には、鎖状ポリチオエーテル化合物)とチオクラウンエーテル化合物の併用例、実施例25、27及び29はチオクラウンエーテル化合物同士の併用例である。
【0093】
《実施例1》
下記の組成で銀−スズ合金メッキ浴を建浴した。
メタンスルホン酸銀(Ag+として) 0.7g/L
硫酸第一スズ(Sn2+として) 20g/L
硫酸 150g/L
セチルジメチルベンジルアンモニウムメタンスルホネート 1g/L
β−ナフトール−6−スルホン酸 1g/L
2,2′−ジピリダジニルジスルフィド 0.021moL/L
【0095】
《実施例2》
下記の組成で銀−スズ合金メッキ浴を建浴した。
エタンスルホン酸銀(Ag+として) 5g/L
エタンスルホン酸第一スズ(Sn2+として) 30g/L
メタンスルホン酸 100g/L
グルコン酸 0.7moL/L
ポリエチレンイミン 5g/L
カテコール 0.5g/L
2,6′−ジ(2−ピリジルジチオ)ピリジン 0.25moL/L
pH4.0(NaOHで調整)
【0096】
《実施例3》
下記の組成で銀−スズ合金メッキ浴を建浴した。
ホウフッ化銀(Ag+として) 10g/L
ホウフッ化第一スズ(Sn2+として) 20g/L
ホウフッ酸 130g/L
ホウ酸 30g/L
イミダゾリン系両性界面活性剤 10g/L
ラウレルジメチルベンジルアンモニウムメタンスルホネート1g/L
5,5′−ジ(1−メチルテトラゾリル)
−ジスルフィド 0.35moL/L
【0097】
《実施例4》
下記の組成で銀−ビスマス合金メッキ浴を建浴した。
メタンスルホン酸銀(Ag+として) 20g/L
メタンスルホン酸ビスマス(Bi3+として) 10g/L
メタンスルホン酸 150g/L
プルロニック系界面活性剤 10g/L
o−クロロベンズアルデヒド 0.1g/L
2,2′−ジチアゾリルジスルフィド 0.48moL/L
【0098】
《実施例5》
下記の組成で銀−インジウム合金メッキ浴を建浴した。
メタンスルホン酸銀(Ag+として) 20g/L
硫酸インジウム(In3+として) 20g/L
メタンスルホン酸 120g/L
ポリビニルアルコール 7g/L
テトラブチルアンモニウムメタンスルホネート 2g/L
2,2′−ジピペラジニルジスルフィド 0.70moL/L
【0099】
《実施例6》
下記の組成で銀−鉛合金メッキ浴を建浴した。
メタンスルホン酸銀(Ag+として) 20g/L
メタンスルホン酸鉛(Pb2+として) 20g/L
メタンスルホン酸 70g/L
β−ナフトールポリエトキシレート(EO13) 3g/L
ポリペプトン 1g/L
2,2′−ジキノキサリニルジスルフィド 0.80moL/L
【0100】
《実施例7》
下記の組成で銀−銅合金メッキ浴を建浴した。
メタンスルホン酸銀(Ag+として) 20g/L
硫酸第二銅(Cu2+として) 20g/L
硫酸 100g/L
ビスフェノールAポリエトキシレート(EO12) 5g/L
2,2′−ビピリジル 0.03g/L
レゾルシン 0.3g/L
2,2′−ジピリジルスルフィド 0.60moL/L
【0101】
《実施例8》
下記の組成で銀−亜鉛合金メッキ浴を建浴した。
硝酸銀(Ag+として) 20g/L
硫酸亜鉛(Zn2+として) 20g/L
硫酸 100g/L
アミドベタイン系両性界面活性剤 2g/L
β−ナフトール 1g/L
2,2′−ジアミノ−4,4′−ジメチル
−ジフェニルジスルフィド 0.80moL/L
【0102】
《実施例9》
下記の組成で銀−ニッケル合金メッキ浴を建浴した。
硝酸銀(Ag+として) 20g/L
硫酸ニッケル(Ni2+として) 5g/L
硫酸 100g/L
ベンジルトリブチルアンモニウムヒドロキシド 1.5g/L
2,6−ジヒドロキシナフタレン 1g/L
2,2′−ジ(5−ジメチルアミノチアジアゾリル)
−ジスルフィド 0.25moL/L
【0103】
《実施例10》
下記の組成で銀−パラジウム合金メッキ浴を建浴した。
メタンスルホン酸銀(Ag+として) 10g/L
メタンスルホン酸パラジウム(Pd2+として) 1g/L
メタンスルホン酸 100g/L
ポリビニルピロリドン 5g/L
エチレンジアミンテトラ酢酸二ナトリウム 1g/L
2,4,6−トリス(2−ピリジルジチオ)
−1,3,5−トリアジン 0.28moL/L
【0104】
《実施例11》
下記の組成で銀−白金合金メッキ浴を建浴した。
エタンスルホン酸銀(Ag+として) 10g/L
エタンスルホン酸白金(Pt4+として) 1g/L
エタンスルホン酸 100g/L
クミルフェノールポリエトキシレート(EO10) 3g/L
β−ナフタレンスルホン酸 1g/L
2,2′−ジ(8−ヒドロキシキノリル)
−ジスルフィド 0.30moL/L
【0105】
《実施例12》
下記の組成で銀−金合金メッキ浴を建浴した。
2−プロパノールスルホン酸銀(Ag+として) 10g/L
2−プロパノールスルホン酸金(Au+として) 1g/L
2−プロパノールスルホン酸 100g/L
アルキルグリシン両性界面活性剤 1.5g/L
イミダゾール 0.5g/L
4,4′−ジピリジルジスルフィド 0.22moL/L
【0106】
《実施例13》
下記の組成で銀メッキ浴を建浴した。
クエン酸銀(Ag+として) 20g/L
クエン酸 100g/L
N−(3−ヒドロキシブチリデン)
−p−スルファニル酸 3g/L
ポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)グリコール
−モノアルキルエーテル 5g/L
3,3′−ジフェナントロリニルジスルフィド 0.60moL/L
pH=4.0(アンモニアで調整)
【0107】
《実施例14》
下記の組成で銀メッキ浴を建浴した。
酒石酸銀(Ag+として) 20g/L
酒石酸 100g/L
アルキル(ヤシ)アミンポリエトキシレート(EO15) 1g/L
イミダゾリン系両性界面活性剤 5g/L
2,2′−ジ{6−(2−ピリジル)}
−ピリジルジスルフィド 0.70moL/L
pH=4.0(アンモニアで調整)
【0108】
《実施例15》
下記の組成で銀−スズ合金メッキ浴を建浴した。
メタンスルホン酸銀(Ag+として) 1g/L
メタンスルホン酸第一スズ(Sn2+として) 45g/L
メタンスルホン酸 110g/L
ビスフェノールAポリエトキシレート(EO13) 5g/L
ジブチルナフタレンスルホン酸 1g/L
1,8−ジアミノ
−3,6−ジチアオクタン(式12の化合物) 0.15moL/L
【0109】
《実施例16》
下記の組成で銀−スズ合金メッキ浴を建浴した。
メタンスルホン酸銀(Ag+として) 1g/L
メタンスルホン酸第一スズ(Sn2+として) 45g/L
メタンスルホン酸 120g/L
ノニルフェノールポリエトキシレート(EO15) 8g/L
1,10−ジ(2−ピリジル)−1,4,7,10
−テトラチアデカン(式15の化合物) 0.03moL/L
【0110】
《実施例17》
下記の組成で銀−スズ合金メッキ浴を建浴した。
メタンスルホン酸銀(Ag+として) 0.7g/L
硫酸第一スズ(Sn2+として) 20g/L
硫酸 150g/L
セチルジメチルベンジルアンモニウムメタンスルホネート 1g/L
β−ナフトール−6−スルホン酸 1g/L
1,10−ジアザ−4,7,13,16−テトラチア
−シクロオクタデカン(式18の化合物) 0.05moL/L
【0111】
《実施例18》
下記の組成で銀−スズ合金メッキ浴を建浴した。
2−プロパノールスルホン酸銀(Ag+として) 3g/L
2−プロパノールスルホン酸第一スズ(Sn2+として) 60g/L
2−プロパノールスルホン酸 100g/L
ベタイン系両性界面活性剤 1g/L
セチルジメチルベンジルアンモニウムメタンスルホネート 1g/L
カテコール 0.5g/L
1,16−ジアザ−1,16−ビス(2−ヒドロキシベンジル)
−4,7,10,13,19,22,25,28−オクタチア
−シクロトリアコンタン(式20の化合物) 0.03moL/L
【0112】
《実施例19》
下記の組成で銀−銅合金メッキ浴を建浴した。
メタンスルホン酸銀(Ag+として) 20g/L
硫酸銅(Cu2+として) 20g/L
硫酸 100g/L
スチレン化フェノールポリエトキシレート(EO23) 5g/L
2,2′−ビピリジル 0.03g/L
ハイドロキノン 0.7g/L
2,23−ジアザ−5,20−ジオキサ−8,11,14,17
−テトラチアビシクロ[22.2.2]オクタコサ
−1,24,27−トリエン(式22の化合物) 0.5moL/L
【0113】
《実施例20》
下記の組成で銀−鉛合金メッキ浴を建浴した。
メタンスルホン酸銀(Ag+として) 20g/L
メタンスルホン酸鉛(Pb2+として) 20g/L
メタンスルホン酸 80g/L
α−ナフトールポリエトキシレート(EO13) 3g/L
オレイルアミンポリエトキシレート(EO18) 2g/L
7,8,9,10,18,19,20,21−オクタヒドロ−6H,17H−ジベンゾ
−[b,k][1,4,10,13,7,16]テトラチアジアザ
−シクロオクタデカン(式23の化合物) 0.8moL/L
【0114】
《実施例21》
下記の組成で銀−ビスマス合金メッキ浴を建浴した。
メタンスルホン酸銀(Ag+として) 20g/L
メタンスルホン酸ビスマス(Bi3+として) 10g/L
メタンスルホン酸 150g/L
クミルフェノールポリエトキシレート(EO15) 3g/L
プルロニック系界面活性剤 7g/L
3,6,14,17−テトラチアトリシクロ
−[17.3.1.18,12]テトラコサ−1,8,10,12,19,21
−ヘキサエン−23,24−ジアミン(式24の化合物) 0.3moL/L
【0115】
《実施例22》
下記の組成で銀−亜鉛合金メッキ浴を建浴した。
硝酸銀(Ag+として) 20g/L
硫酸亜鉛(Zn2+として) 20g/L
硫酸 100g/L
アミドベタイン系両性界面活性剤 2g/L
ポリエチレンイミン 3g/L
3,7,15,19−テトラチア−25,26
−ジアザトリシクロ[19.3.1.19,13]ヘキサコサ
−1,9,11,13,21,23−ヘキサエン(式25の化合物) 0.5moL/L
【0116】
《実施例23》
下記の組成で銀−スズ合金メッキ浴を建浴した。
2−プロパノールスルホン酸銀(Ag+として) 3g/L
2−プロパノールスルホン酸第一スズ(Sn2+として) 60g/L
メタンスルホン酸 80g/L
スチレン化フェノールポリエトキシレート(EO20) 5g/L
ジブチルナフタレンスルホン酸 1g/L
ハイドロキノン 0.3g/L
1,10−ジアザ−4,7−ジオキサ−13,16,21,24−テトラチアビシクロ
−[8.8.8]ヘキサコサン(式26の化合物) 0.05moL/L
【0117】
《実施例24》
下記の組成で銀−スズ合金メッキ浴を建浴した。
メタンスルホン酸銀(Ag+として) 0.7g/L
硫酸第一スズ(Sn2+として) 20g/L
硫酸 150g/L
オクチルフェノールポリエトキシレート(EO12) 3g/L
ラウリルアルコールポリエトキシレート(EO15) 2g/L
ハイドロキノン 0.7g/L
2,2′−ジピリジルジスルフィド 0.01moL/L
1−アザ−4,7,11,14−テトラチア
−シクロヘキサデカン(式17の化合物) 0.02moL/L
【0118】
《実施例25》
下記の組成で銀−スズ合金メッキ浴を建浴した。
メタンスルホン酸銀(Ag+として) 1g/L
メタンスルホン酸第一スズ(Sn2+として) 40g/L
メタンスルホン酸 120g/L
ラウリルアルコールポリエトキシレート(EO15)
−ポリプロポキシレート(PO3) 7g/L
β−ナフトール 1g/L
1,1′−(1,2−エタンジイル)ビス−1−アザ−4,7,10
−トリチアシクロドデカン(式21の化合物) 0.01moL/L
7,8,9,10,18,19,20,21−オクタヒドロ−6H,17H−ジベンゾ
−[b,k][1,4,10,13,7,16]テトラチアジアザ
−シクロオクタデカン(式23の化合物) 0.01moL/L
【0119】
《実施例26》
下記の組成で銀メッキ浴を建浴した。
酒石酸銀(Ag+として) 20g/L
酒石酸 100g/L
アルキル(ヤシ)アミンポリエトキシレート(EO15) 1g/L
イミダゾリン系両性界面活性剤 5g/L
1,10−ジアザ−1,10−ジメチル−4,7,13,16−テトラチア
−シクロオクタデカン(式19の化合物) 0.75moL/L
pH=4.0(アンモニアで調整)
【0120】
《実施例27》
下記の組成で銀−ニッケル合金メッキ浴を建浴した。
硝酸銀(Ag+として) 20g/L
硝酸ニッケル(Ni2+として) 5g/L
硫酸 100g/L
ベンジルトリブチルアンモニウムヒドロキシド 1.5g/L
2,6−ジヒドロキシナフタレン 1g/L
1−アザ−7−オキサ−4,10−ジチア
−シクロドデカン(式16の化合物) 0.1moL/L
3,6,14,17−テトラチアトリシクロ
−[17.3.1.18,12]テトラコサ−1,8,10,12,19,21
−ヘキサエン−23,24−ジアミン(式24の化合物) 0.1moL/L
【0121】
《実施例28》
下記の組成で銀−パラジウム合金メッキ浴を建浴した。
メタンスルホン酸銀(Ag+として) 10g/L
メタンスルホン酸パラジウム(Pd2+として) 1g/L
メタンスルホン酸 100g/L
ポリビニルピロリドン 5g/L
EDTA二ナトリウム 1g/L
1,11−ビス(メチルアミノ)−3,6,9−トリチア
−ウンデカン(式13の化合物) 0.1moL/L
3,7,15,19−テトラチア−25,26
−ジアザトリシクロ[19.3.1.19,13]ヘキサコサ
−1,9,11,13,21,23−ヘキサエン(式25の化合物) 0.1moL/L
【0122】
《実施例29》
下記の組成で銀−白金合金メッキ浴を建浴した。
エタンスルホン酸銀(Ag+として) 10g/L
エタンスルホン酸白金(Pt2+として) 1g/L
エタンスルホン酸 100g/L
クミルフェノールポリエトキシレート(EO10) 4g/L
β-ナフタレンスルホン酸 0.8g/L
2,23−ジアザ−5,20−ジオキサ−8,11,14,17
−テトラチアビシクロ[22.2.2]オクタコサ
−1,24,27−トリエン(式22の化合物) 0.1moL/L
6,13−ジアミノ−1,4,8,11−テトラチア
−シクロテトラデカン(式27の化合物) 0.15moL/L
【0123】
《実施例30》
下記の組成で銀−金合金メッキ浴を建浴した。
2−プロパノールスルホン酸銀(Ag+として) 10g/L
2−プロパノールスルホン酸金(Au+として) 1g/L
メタンスルホン酸 100g/L
アルキルグリシン系両性界面活性剤 1.5g/L
β−ナフトールポリエトキシレート(EO12) 2g/L
1,14−ビス(メチルアミノ)−3,6,9,12−テトラチア
−テトラデカン(式14の化合物) 0.25moL/L
【0124】
《比較例1A》
前記実施例2のメッキ浴を基本組成としながら、ジスルフィド化合物を省略したブランク例を比較例1Aとして、銀−スズ合金メッキ浴を建浴した(即ち、省略成分以外の含有率は基本実施例と同じ、以下の比較例1Bも同様)。
【0125】
《比較例1B》
前記実施例15のメッキ浴を基本組成としながら、ジスルフィド化合物を省略したブランク例を比較例1Bとして、銀メッキ浴を建浴した。
【0126】
《比較例2A》
冒述の従来技術に開示されたチオグリコール酸は、イオウ系化合物という点では本発明のスルフィド系化合物と類似するため、前記実施例2のメッキ浴を基本組成としながら、ジスルフィド化合物を当該チオグリコール酸で代替したものを比較例2Aとして、銀−スズ合金メッキ浴を建浴した(即ち、代替成分、及びそれ以外の成分の含有率は基本実施例と同じ、以下の比較例2B、3A、3Bも同様)。
【0127】
《比較例2B》
前記実施例15のメッキ浴を基本組成としながら、ジスルフィド化合物を当該チオグリコール酸で代替したものを比較例2Bとして、銀メッキ浴を建浴した。
【0128】
《比較例3A》
冒述したように、チオ尿素は銀のキレート剤として公知であるため、前記実施例2のメッキ浴を基本組成としながら、ジスルフィド化合物を当該チオ尿素で代替したものを比較例3Aとして、銀−スズ合金メッキ浴を建浴した。
【0129】
《比較例3B》
前記実施例15のメッキ浴を基本組成としながら、ジスルフィド化合物を当該チオ尿素で代替したものを比較例3Bとして、銀メッキ浴を建浴した。
【0130】
銀及び銀合金メッキ浴では、なによりも浴が分解して銀が析出し易いため、浴の安定性がきわめて重要である。このことから、下記の試験例では、第一に浴の経時変化を測定して浴が実用的な安定性を保持するか否かを調べた。また、メッキ浴から得られる電着皮膜における銀の共析率を測定するとともに、当該電着皮膜の異常の有無(即ち、皮膜外観が実用レベルにあるか否か)の確認試験を行った。但し、浴の安定性は浴中の銀イオンに対するスルフィド系化合物、或はチオクラウンエーテル化合物の作用に依存すると推定できるため、下記の試験例では、銀−スズ合金メッキ浴をもって銀合金メッキ浴を代表させた。
【0131】
《メッキ浴の経時変化試験例》
そこで、上記各メッキ浴を建浴してから銀の析出、或は濁りなどによって、浴が分解するまでの期間を常温下で調べた。
(1)試験結果
図1〜図5はその結果である。
実施例1〜30の銀、及び銀合金メッキ浴は全て180日まで分解が起こらなかったのに対して、銀−スズ合金メッキ浴のブランク例である比較例1Aでは調製直後に分解が起こり、銀メッキ浴のブランク例である比較例1Bでは1週間程度で浴を収容した容器壁に銀の析出が認められた。チオグリコール酸を含有させた比較例2A(銀−スズ合金浴)と2B(銀浴)では共に2週間で分解が起こり、また、チオ尿素を含有させた比較例3A(銀−スズ合金浴)では3週間経過時点で激しい濁りが生じ、比較例3B(銀浴)では3週間で容器壁に銀が析出した。
【0132】
(2)試験結果の評価
電気メッキ浴は数カ月に亘り使用を継続できることが最低限の条件である。
上記試験結果によると、本発明のスルフィド系化合物、或はチオクラウンエーテル化合物を含有させた銀メッキ浴、及び各種の銀合金メッキ浴(実施例1〜30)は、少なくとも6ケ月経過時点でも分解が起こらず安定であるため、電気メッキ浴として必要最低限の実用レベルを具備していることが判った。
これに対して、本発明の化合物を含有しないブランク例(比較例1Aと1B)は、調製直後〜1週間で分解して全く実用性がなかった。チオグリコール酸を含有させたメッキ浴(比較例2Aと2B)では2週間で分解が起こり、また、チオ尿素を含有させたメッキ浴(比較例3Aと3B)では3週間程度で分解が起こった。従って、本発明のスルフィド系化合物、或はチオクラウンエーテル化合物を含有させたメッキ浴は、各種の比較例1A・B〜3A・Bに比べても、浴の経時安定性が格段に優れていることが確認できた。
【0133】
《銀共析率の測定試験例》
銀−スズ合金、銀−ビスマス合金メッキ浴を初めとする各種の銀合金メッキ浴(実施例1〜12、15〜25と27〜30、及び比較例2Aと3A)について、電流密度の条件を変えて電気メッキを行い(図1〜図5参照)、浴から得られた電着皮膜中の銀の共析率をICP装置(蛍光X線膜厚計でも可)を用いて測定した。尚、比較例1Aは調製直後に分解したため、電気メッキを実施できなかった。
【0134】
(1)試験結果及び評価
図1〜図5はその結果を示す。
実施例1〜12、15〜25及び27〜30の銀合金メッキ浴では、陰極電流密度の条件が低密度〜高密度に変化しても、銀の共析率のバラツキは小さく、安定した比率範囲で確実に銀と他の金属が共析化しているのが確認できた。
特に、本発明のスルフィド系化合物を含有する実施例1、及び本発明のチオクラウンエーテル化合物を含有する実施例17を比較例2A・3Aと比較すると、実施例1・17のバラツキが小さいことが確認できる。例えば、電流密度が2〜10A/dm2に変化すると、銀の共析率は、実施例1では10〜3%、実施例17では10.4〜3.0%とバラツキが狭い範囲に共にとどまるのに対して、比較例2Aでは60.3〜3.0%、比較例3Aでは63.8〜3.0%と大きくバラつくことが認められた。
ちなみに、銀−スズ合金メッキ皮膜の場合、スズウイスカーの防止用としては銀の含有率が少量である皮膜が有効であるが、本発明のメッキ浴を使用すると、電流密度が様々に変化しても銀の共析率は比較的安定していることから、電流密度の管理が容易であるうえ、各種用途に応じた銀合金皮膜を容易に形成できる。
【0135】
また、実施例と比較例の関係において、同じ電流密度の条件下(例えば、2A/dm2)での銀の共析率に着目すると、実施例1では10%、実施例17では10.4%であるのに対して、比較例2Aでは60.3%、比較例3Aでは63.8%であった。これは、鎖状のジピリダジニルジスルフィド類、或は環状のジアザテトラチアクラウンエーテル類などの本発明の化合物の方が、チオグリコール酸やチオ尿素よりも浴中の銀イオンに対する安定化作用が強力であるため、同じ電流密度を付与しても銀イオンが金属銀に還元され難く、もって実施例1、17での銀の共析率が相対的にかなり小さくなったものと推定できる。
換言すると、銀合金メッキ浴に対する安定化作用の差異は、同じ電流密度下での銀の共析率の大小となって現れ、当該共析率が小さいほどメッキ浴が安定であることが推定できる。従って、この共析率の面からも、本発明のスルフィド系化合物、或はチオクラウンエーテル化合物が、同じイオウ系化合物である比較例のチオグリコール酸やチオ尿素に比べても、銀合金メッキ浴に対する安定性の点で優れていることが裏付けられた。
【0136】
《メッキ皮膜の外観試験例》
各種の銀、及び銀合金メッキ浴(実施例1〜30、比較例1B、2A・B及び3A・B)において、電流密度の条件を変えて電気メッキを行い、浴から得られた電着皮膜の外観を目視で観察して、ヤケ(コゲ)、デンドライト、或は粉末状化などの異常の有無を確認し、実用的なメッキ皮膜としての必要最低限のレベルを備えているか否かを調べた。尚、上記試験例と同様の理由で、比較例1Aの試験は実施できなかった。
【0137】
(1)試験結果及び評価
図1〜図5はその結果を示す。
ちなみに、当該試験結果の評価基準は下記の通りである。
○:皮膜外観に異状がなく、実用レベルを保持していた。
△:粉末状化などが認められ、皮膜外観は実用レベルから劣る。
×:ヤケ、デンドライトなどが顕著に認められ、皮膜外観はきわめて劣る。
【0138】
そこで、試験結果を詳述すると、実施例1〜30の銀、及び銀合金皮膜は、電流密度が変化しても、ヤケやデンドライトなどの異常が認められず、メッキ皮膜として実用的なレベルを保持して、全て評価は○であった。
これに対して、ブランク例である比較例1Bの銀メッキ皮膜は著しい黒色粉末状を呈して、評価は全て×であった。チオグリコール酸を含有させた比較例2Aの銀−スズ合金メッキ皮膜は5A/dm2の電流密度下だけ異常が認められず、他は粉末状化、ヤケ、デンドライトなどの異常が認められて△〜×であり、比較例2Bの銀メッキ皮膜は全て粉末状化、或はヤケなどの異常が認められて△〜×であった。チオ尿素を含有させた比較例3A・3Bのメッキ皮膜も上記比較例2Bと同様に△〜×であった。
従って、比較例のメッキ皮膜のほとんど全ては実用的なレベルでなく、電着皮膜の外観の点でも、本発明のスルフィド系化合物、或はチオクラウンエーテル化合物はチオグリコール酸やチオ尿素に対して顕著な差異があることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1〜6の銀合金メッキ浴の種類、浴の安定性試験結果、銀の共析率及び電着皮膜の外観観察結果を夫々示す図表である。
【図2】 実施例7〜14の銀合金メッキ浴及び銀メッキ浴を示す図1相当図である。
【図3】 実施例15〜22の銀合金メッキ浴を示す図1相当図である。
【図4】 実施例23〜30の銀合金メッキ浴及び銀メッキ浴を示す図1相当図である。
【図5】 比較例1A・B〜3A・Bの銀合金メッキ浴及び銀メッキ浴を示す図1相当図である。
Claims (3)
- (A)銀塩と、銀塩及びビスマス、インジウム、鉛、銅、亜鉛、ニッケル、パラジウム、白金、金から選ばれた金属の塩の混合物とのいずれかよりなる可溶性塩、
(B)下記の一般式(1)で表される特定のスルフィド系化合物の少なくとも一種
(a)p=0の場合、
Ra及びRcの少なくとも一方が1個以上の塩基性窒素原子を有する置換された又は無置換のアルキル、アルケニル、アルキニル、アラルキル、シクロアルキル、多環式シクロアルキル、アリール、多環式アリール、ヘテロ環式基、及びベンゾイミダゾール環基、キノリン環基、キノキサリン環基、プテリジン環基、フェナントロリン環基、フェナジン環基、インドリン環基、ペルヒドロインドリン環基から選ばれた多環式ヘテロ環式基よりなる群から選ばれたものを表し、上記置換基はC1〜6アルキル、C2〜6アルケニル、C2〜6アルキニル、C1〜6アルコキシ、C1〜6アルキルチオ、C1〜6アルコキシC1〜6アルキル、C1〜6アルキルチオC1〜6アルキル、C1〜6アルキルカルボニル、C1〜6アルコキシカルボニル、アミノ、C1〜6アルキルアミノ、C1〜6ジアルキルアミノ、カルバモイル、ハロゲン、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、アルキルスルフィニル、アリールスルフィニル、アルキルスルフェニル、アリールスルフェニル、シアノ、ニトロ、ヒドロキシ、カルボキシル、メルカプト、イミノ、アリールチオ、アルキルジチオ、アリールジチオ、アルキルトリチオ、アリールトリチオ、アルキルテトラチオ、アリールテトラチオ基から選ばれた少なくとも一種である。但し、Ra及びRcは互いに同一又は異なっても良い;
(b)p=1〜100の場合、
Ra及びRcは置換された又は無置換のアルキル、アルケニル、アルキニル、アラルキル、シクロアルキル、多環式シクロアルキル、アリール、多環式アリール、ヘテロ環式基、多環式ヘテロ環式基よりなる群から選ばれたものを表し、Rbは置換された又は無置換のアルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アラルキレン、シクロアルキレン、多環式シクロアルキレン、アリレン、多環式アリレン、ヘテロ環式基、多環式ヘテロ環式基よりなる群から選ばれたものを表し、且つ、Ra、Rb、Rcの少なくとも一つが1個以上の塩基性窒素原子を有する。但し、Ra、Rb、Rcは互いに同一又は異なっても良い)
を含有することを特徴とする銀及び銀合金メッキ浴。 - (A)可溶性銀塩及び可溶性スズ塩、
(B)下記の一般式(1)で表される特定のスルフィド系化合物の少なくとも一種
(a)p=0の場合、
Ra及びRcの少なくとも一方が1個以上の塩基性窒素原子を有する置換された又は無置換のアルキル、アルケニル、アルキニル、アラルキル、シクロアルキル、多環式シクロアルキル、多環式アリール、ピロール環基、ピラジン環基、ピリダジン環基、チアゾール環基、チアジアゾール環基、イミダゾリン環基、イミダゾール環、チアゾリン環基、トリアゾール環、テトラゾール環基、ピコリン環基、フラザン環基、ピペリジン環基、ピペラジン環基、トリアジン環、モルホリン環基から選ばれたヘテロ環式基、及びキノリン環基、キノキサリン環基、プテリジン環基、フェナントロリン環基、フェナジン環基、インドリン環基、ペルヒドロインドリン環基から選ばれた多環式ヘテロ環式基よりなる群から選ばれたものを表し、上記置換基はC1〜6アルキル、C2〜6アルケニル、C2〜6アルキニル、C1〜6アルコキシ、C1〜6アルキルチオ、C1〜6アルコキシC1〜6アルキル、C1〜6アルキルチオC1〜6アルキル、C1〜6アルキルカルボニル、C1〜6アルコキシカルボニル、アミノ、C1〜6アルキルアミノ、C1〜6ジアルキルアミノ、カルバモイル、ハロゲン、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、アルキルスルフィニル、アリールスルフィニル、アルキルスルフェニル、アリールスルフェニル、シアノ、ニトロ、ヒドロキシ、カルボキシル、メルカプト、イミノ、アリールチオ、アルキルジチオ、アリールジチオ、アルキルトリチオ、アリールトリチオ、アルキルテトラチオ、アリールテトラチオ基から選ばれた少なくとも一種である。但し、Ra及びRcは互いに同一又は異なっても良い;
(b)p=1〜100の場合、
Ra及びRcは置換された又は無置換のアルキル、アルケニル、アルキニル、アラルキル、シクロアルキル、多環式シクロアルキル、アリール、多環式アリール、ヘテロ環式基、多環式ヘテロ環式基よりなる群から選ばれたものを表し、Rbは置換された又は無置換のアルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アラルキレン、シクロアルキレン、多環式シクロアルキレン、アリレン、多環式アリレン、ヘテロ環式基、多環式ヘテロ環式基よりなる群から選ばれたものを表し、且つ、Ra、Rb、Rcの少なくとも一つが1個以上の塩基性窒素原子を有する。但し、Ra、Rb、Rcは互いに同一又は異なっても良い)
を含有することを特徴とする銀−スズ合金メッキ浴。 - (A)銀塩と、銀塩及びスズ、ビスマス、インジウム、鉛、銅、亜鉛、ニッケル、パラジウム、白金、金から選ばれた金属の塩の混合物とのいずれかよりなる可溶性塩、
(B)次の(イ)〜(ハ)に示される特定のチオクラウンエーテル化合物の少なくとも一種
(イ)少なくとも1個以上の塩基性窒素原子を分子内に有するチオクラウンエーテル化合物、
(ロ)少なくとも1個以上の塩基性窒素原子及び酸素原子を分子内に有するチオクラウンエーテル化合物、
(ハ)上記(イ)及び(ロ)のチオクラウンエーテル化合物の少なくとも一種同士がC1〜5のアルキレン鎖で結合した化合物
を含有することを特徴とする銀及び銀合金メッキ浴。
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