本発明は、大容量の光情報記録媒体、その製造方法、および光情報記録再生装置に関する。
近年の光通信を用いた情報化社会の発展により、大容量の情報を高速で通信できる通信システムの構築が必要となっている。このような大容量高速光通信を展開するために必要不可欠な光デバイスとして、大容量の光情報を蓄積するための光情報記録媒体が挙げられる。さらにテレビ画像などの映像のデジタル化、高精細化などの高画質化に伴い、これらを高画質状態に保ち、かつ長時間記録可能な大容量光情報記録媒体の開発が急務である。
現在、光情報記録媒体として、片面4.7GBの容量を有するDVDが実用化され、コンピューター用途のほか、ビデオなどの大容量動画を扱うための媒体として広く普及している。このDVDは、直接基板に情報が書き込まれた読み出し専用のROM(DVD−ROM)の他、書換え可能な記録再生媒体としても実用化が進んでいる。このように光情報記録媒体の高記録密度化を目的とした開発が行われており、情報記録の高密度化を達成する手段として、CDなどに使われていたレーザー(780nm)よりも短波長の650nmのレーザー光を用いている。しかし、コンピューターグラフィックスやデジタルハイビジョン映像等の大容量の情報を扱うためには、さらにその4〜5倍の高記録密度化を達成する必要がある。これを達成するため、さらに短波長の青色半導体レーザー(波長405nm)を用いる光ディスクの開発が行われ、片面23.3GBの光ディスクが実用化された。
片面23.3GBの光ディスクは、高精細なハイビジョン放送を2時間記録できるが、2時間を越えるコンテンツを録画する場合には画質を劣化させて記録する方式がとられている。従って、画質を劣化させずに長時間記録再生を行うためには、さらに大容量の光ディスク開発が必要不可欠である。しかしながら、現行の23.3GBの青色レーザーを用いた光ディスクでは、これまで大容量化に用いられてきた波長の短波長化やレンズの高NA化といった方式では、更なる大容量化は難しいと考えられている。それは、これ以上の短波長化を行う場合には光は紫外光となるため、光ディスク装置やディスクの構成部材であるレンズ、樹脂といった部品を全て紫外光に対して透明にする必要があるため、材料の大幅な変更が望まれる。また紫外光を安定に発振する安価な半導体レーザーの開発がこれまで以上に難しくなる。
また、レンズの高NA化では、ディスクとの距離が近づくため、ディスク上の塵埃が光を散乱するため、それらがない状況下で使用することが必要となり、光ディスクのメリットである可換性が損なわれるという欠点がある。
以上より、これまで用いられて来なかった方式による大容量化が必須となってきている。更なる光ディスク大容量化の技術として、多層記録、多値記録、超解像記録方式などの開発が行われている。これらの次世代の大容量化を担う技術として、超解像記録は最も有力な大容量化技術の一つである。
超解像記録方式とは、超解像層によるレーザー集光機能あるいはマスク機能を用いて、照射されるレーザービーム系を小さくして記録面上に照射させる記録方式であり、光ディスクの記録層や保護層、反射層などの多層膜構造中に形成される超解像層の光学定数(屈折率(n)、消衰係数(k))の可逆的な変化によってもたらされる大容量記録方式の一つである。超解像層に読み書き用のレーザーが照射されると、温度の上昇あるいは光によるフォトンの吸収によって励起状態となることにより、レーザーが照射されている間だけ屈折率、消衰係数が変化し、レーザーがなくなるとまた元の状態に戻る。光ディスクはレーザー光がディスクに照射され、ディスクで反射されてピックアップに帰ってくる光の光量の大小によって記録部と非記録部を判定し、再生を行うが、この超解像層の可逆的な光学定数の変化により、このピックアップに帰ってくる光の領域を、通常照射されるレーザー光の照射面積よりも小さくすることができる。すなわち、光学的マスク効果により、読み出せる領域を小さくすることにより、分解能を向上させることが可能である。
なお、ここで消衰係数(k)とは材料の光の吸収係数に比例した量であり、吸収係数の大きい材料ほど大きな値になる。また、この屈折率(n)及び吸収係数(k)の2つの定数をまとめて光学定数と呼ぶ。
これまで、この超解像層としてコバルト酸化物系の薄膜材料などが用いられてきた(例えば、特許文献1参照)。この薄膜の大きな屈折率変化による超解像効果により大容量の光ディスクが得られてきている。
近年の光ディスクの大容量化に伴い、照射されるレーザーの波長が従来の650nmからより短波長の405nmへと移行するに伴い、屈折率変化が十分とはいえないという問題が生じてきている。本発明の課題は、このような波長の変化に対応した超解像層を搭載した大容量の光情報記録媒体を得ることにある。
本発明は、基板上に、光エネルギーにより情報が記録される光情報記録層と、光を反射させる反射層および照射された光のビーム径を小さくする超解像層を有し、上記超解像層が、定常状態におけるバンドギャップエネルギーEgに相当する波長λgと、読み書きのために照射されるレーザー光の波長λとの差Δλ=λ-λgが-100nm以上60nm以下であり、かつ定常状態における該波長の透過率T0がレーザーの照射によりTに変化し、比透過率差ΔT=|T-T0|/T0×100が10%以上である、金属酸化物または化合物半導体により形成されている光情報記録媒体にある。
また、本発明は、基板上に反射層と光情報記録層と超解像層を有する光情報記録媒体と、上記光情報記録媒体に対して光情報を読み書きするためのピックアップと、上記光情報記録媒体に回転駆動を与えるモータとを具備し、上記超解像層が、定常状態におけるバンドギャップエネルギーEgに相当する波長λgと、読み書きのために照射されるレーザー光の波長λとの差Δλ=λ-λgが-100nm以上60nm以下であり、かつ定常状態における該波長の透過率T0がレーザーの照射によりTに変化し、比透過率差ΔT=|T-T0|/T0×100が10%以上である、金属酸化物または化合物半導体により形成されている光情報記録再生装置にある。
上記ΔλとΔTの条件は、超解像層をFe2O3、NiO、CoO、ZnO、Cr2O3、CeO2、MnO、SiO2、TiO2、MgO、CuO、BaO、Y2O3およびCdOから選ばれた少なくとも1種の金属酸化物によって形成することによって達成される。また、超解像層をZnS-ZnSe、GaN-InN、ZnS、GaNまたはZnSeから選ばれたいずれか1種の化合物によって形成することによって達成される。
本発明の光情報記録媒体或いは光情報記録再生装置において、超解像層の膜厚は20nm以上100nm以下の範囲とすることが好ましい。
さらに、本発明は、超解像層を有する光情報記録媒体の製造方法において、上記超解像層をFe2O3、NiO、CoO、ZnO、Cr2O3、CeO2、MnO、SiO2、TiO2、MgO、CuO、BaO、Y2O3およびCdOから選ばれた少なくとも1種の金属酸化物の薄膜により形成し、その薄膜形成を流量分率で2%以上20%未満の酸素を含有するスパッタガスを用いてスパッタリング法によって行うようにしたことにある。
本発明は、波長が405nm又はそれ以下である短波長のレーザー光を照射して情報が記録される光情報記録媒体に対して、大容量化を図るのに特に有効である。
本発明の効果は、後述の実施例に示すように、超解像層をFe2O3、NiO、CoO、ZnO、Cr2O3の各酸化物によって形成したものにおいて確認された。また、超解像層をFe2O3と、Cr2O3、CeO2、MnO、ZnO、NiO、CoO、MgO、CuO、BaO、Y2O3およびCdOから選ばれた1種との混合物、Fe2O3とSiO2およびTiO2との混合物によって形成したものにおいて確認された。さらに、超解像層をZnS-ZnSe、GaN-InN、ZnS、GaN、ZnSeによって形成したものにおいて確認された。
なお、本発明で対象とする光情報記録媒体は、基板上に少なくとも反射層と光情報記録層および超解像層を有するものであればよく、更に別の層たとえば保護層を有する場合を包含する。また、反射層と光情報記録層および超解像層の積層順序を限定するものではない。
さらに本発明の光情報記録媒体は、基板上に少なくとも反射層と、光情報記録層と、超解像層と保護層を有し、上記超解像層は情報を読み書きするレーザー照射時の加熱によるバンドギャップのレッドシフトにより非線形に光学定数が変化する薄膜であり、かつ2種類以上の価数の等しい金属イオンを含む金属酸化物の固溶体、化合物、或いは混合物であり、これらの金属イオンから任意に選ばれる2つの金属イオンをMi、Mjとしたとき、これらのイオン半径RMiとRMjのイオン半径の不整合度ΔR=|(RMi-RMj)/RMi|が8%以下であり、上記金属酸化物の混合物のバンドギャップエネルギーEgとレーザー波長に対応するエネルギーEとの差ΔE=Eg−Eが0.4eV以上1.4eV以下である。
さらに本発明の光情報記録媒体は、少なくとも基板と反射層と光情報記録層と超解像層と保護層を有し、上記超解像層はFe2O3とGa2O3を含有する。また、このFe2O3とGa2O3はFe2O3を20%〜55%、Ga2O3を45%〜80%含有する。
また、本発明の光情報記録媒体は、熱吸収層を有し、この熱吸収層はBiまたはGe-Sb-Te系合金から選ばれる。または、上記超解像層はBiまたはGe-Sb-Te系合金から選ばれる熱吸収材料が分散されている。
また上記光情報記録層は基板上に形成された情報を書き込み可能な薄膜であり、または基板に直接描画された記録パターンである。
また本発明の光情報記録再生装置は、少なくとも光情報記録媒体より光情報を読書きするためのピックアップと、上記光情報記録媒体を支持し、かつ回転駆動を与えるスピンドル及びスピンドルモータとを具備し、上記光情報記録媒体は、少なくとも基板と反射層と光情報記録層と超解像層と保護層を有し、上記超解像層は情報を読み書きするレーザー照射時の加熱によるバンドギャップのレッドシフトにより非線形に光学定数が変化する薄膜であり、かつ2種類以上の価数の等しい金属イオンを含む金属酸化物の固溶体、化合物、或いは混合物であり、これらの金属イオンから任意に選ばれる2つの金属イオンをMi、Mjとしたとき、これらのイオン半径RMiとRMjのイオン半径の不整合度ΔR=|(RMi-RMj)/RMi|が8%以下であり、上記金属酸化物の混合物のバンドギャップエネルギーEgとレーザー波長に対応するエネルギーEとの差ΔE=Eg−Eが0.4eV以上1.4eV以下である。
さらに本発明の光情報記録再生装置は、少なくとも光情報記録媒体より光情報を読書きするためのピックアップと、上記光情報記録媒体を支持し、かつ回転駆動を与えるスピンドル及びスピンドルモータとを具備し、上記光情報記録媒体は、少なくとも基板と、その記録面上に形成された反射層と、光情報記録層と、超解像層と保護層を有し、上記超解像層はFe2O3とGa2O3を含有する。
上記光情報記録媒体は熱吸収層を有し、または上記超解像層に熱吸収材料が分散されている。
本発明の光情報記録媒体は、照射されるレーザーのエネルギーに近いバンドギャップを有する超解像薄膜を搭載している。また、レーザー励起による屈折率、消衰係数の変化が大きいので、レーザーの出力が小さくても大きな屈折率や消衰係数の変化が得られる。このため、低消費電力で大容量が得られる。
さらに本発明の光情報記録媒体は、加熱による透過率の変化が大きく、レーザーの出力が小さく、加熱温度が低くても大きな透過率の変化が得られるため、光ディスクの超解像効果が大きく、低消費電力で大容量の光情報記録媒体を得ることができる。
波長405nmに相当するエネルギー3.1eV近傍にバンドギャップを有するFe2O3、NiO、CoO、ZnO、Cr2O3、ZnS-ZnSe、CdS-ZnSe、GaN-InNを超解像層として20〜100nmの厚さに形成した。その結果、低消費電力で大容量の光ディスクを得ることができた。
また、超解像膜として45Fe2O3-55Ga2O3(mol%)の組成を有する薄膜を用い、熱吸収層としてBi系薄膜を形成した光情報記録媒体において、特性が最も良好な光ディスクを得ることができた。
図1に、本発明の一実施例に係る光ディスクの断面模式図を示す。図1において、1は基板、2は反射層、3、5、7は保護層、4は光情報記録層、6は超解像層、8はカバー層、9はグルーブ、10はランドである。この光ディスクは、カバー層8の側より読み書き用のレーザーが基板面上に集光照射され、光情報記録層4に情報を記録するほか、記録された情報の再生を行う。
用いたレーザーの波長は405nmであり、InGaN系の化合物半導体レーザーを光源に用いた。このレーザーは連続発信するものであるが、記録情報に基づいてパルスジェネレータによりパルス化されて光ディスクに照射される。このレーザーを集光するためのレンズにはNAが0.85のレンズを用いた。
本実施例では、基板1として厚さ1.1mmのポリカーボネート基板を用いた。この基板上には光の案内溝であるトラックが、ディスク内周部から連続的に形成されており、スパイラルを形成している。トラックの半径方向のピッチは310nmで、凹部と凸部から形成されている。凹部と凸部の高低差は22nmである。この凹部が図1中のグルーブ9であり、凸部がランド10である。本実施例では、グルーブ9に記録を行った。
反射層2にはAg-1%Au(重量%)合金反射膜を用いた。膜厚は50nmとした。成膜は純Arガスを用いてDCマグネトロンスパッタリングにより行った。保護膜3,5,7には、80ZnS-20SiO2(mol%)の非晶質膜を用いた。保護膜の成膜は、純Arガスを用いてRFスパッタリングによって行った。保護膜3,5,7の膜厚は全薄膜の光学定数(屈折率、消衰係数)及び膜厚により定まる反射率が最適になるように設計した。光情報記録層4にはGeSbTe系相変化記録膜を用いた。成膜は純Arガスを用いてRFスパッタリングによって行った。膜厚は20nmとした。
超解像層6の材料の基本光学特性を評価するために、図2に示す単層膜を形成した。そして、屈折率、消衰係数及び励起レーザーを照射した際のこれらの変化、並びに分光透過率曲線より求められた光学的バンドギャップ及び加熱によるバンドギャップの変化量について評価を行った。なお、本試験では、基板1としてトラックの形成されていない平滑なガラス基板を用いた。
屈折率及び消衰係数は波長405nmのレーザーを搭載したエリプソメーターを用いて測定した。図3に、本屈折率、消衰係数変化の測定に用いたエリプソメーターの模式図を示す。光源12には波長405nmの半導体レーザーを用いた。このレーザーを、パルス発生器11を用いて所望の強度、時間を有するパルス光とした。このパルス光は偏光子13を用いて光の振動面が試料表面に平行な光(s偏光)と垂直な光(p偏光)になるように偏光させた。また焦点レンズ21を用いて、このレーザー光14を試料表面に集光させた。このとき、集光部のレーザー径は0.6μmであった。
このような偏光を試料に照射すると、試料の膜厚、屈折率及び消衰係数によってs偏光とp偏光の反射率と位相が異なる。従って、膜厚を予め測定しておき、s偏光とp偏光の反射率比、位相を求めることにより、屈折率と消衰係数を推定できる。
反射光15の受光側に検光子16を置き、検光子の角度を回転させ、それぞれの検光子角度で得られる反射光量からs偏光とp偏光の反射率比、位相を求めた。検光子の角度は一回転を12分割した各角度で測定した。また受光器18は許容量以上の光が入射されると適切な解析が不能になるため、各パルス光の強度に応じたフィルター17を設置して受光器に入る反射光量を調節した。
反射光15は受光器18に導入される光をデジタルオシロスコープ19で時間分割し、2nsごとに測定した。またパルス光が入射される50ns前から測定を開始し、パルスが発生してから100nsの間、測定を行った。また一回の測定ではレーザーや受光器のばらつきや電気的なノイズによりSN比が低く精密な測定ができないため、制御用コンピューター20により、それぞれの測定を128回積算してその平均値として求めた。
Fe2O3薄膜の屈折率、消衰係数のパルス照射による時間変化を、それぞれ図4の(a)、(b)に示す。Fe2O3の膜厚は70nmとした。横軸は時間(ナノ秒)であり、時刻0からパルスが立ち上がる。パルス光を入射せず、レーザー光強度0.16GW/m2と一定にした場合、屈折率は2.27、消衰係数は0.92であったが、8.2GW/m2のパルス光を試料に入射するとパルス光入射に伴い屈折率は2.81、消衰係数は0.70にそれぞれ変化した。
次に、同様の測定をFe2O3の膜厚を変化させて行い、膜厚に対する屈折率と消衰係数のそれぞれの変化量ΔnとΔkを求めた。Δn、Δkはn、kをパルス光が入射したときの屈折率、n0、k0をそれぞれパルス光が入射していないときの屈折率とすると、
Δn=(n-n0)/n0×100
Δk=(k-k0)/k0×100
として求めた。なお、パルス光を入射したときのパルス光強度は図4に示すように8.2GW/m2であり、パルス光を入射しないときの強度は0.16GW/m2とした。また膜厚は、図2に示す試料の一部にスパッタリングによる熱の発生に耐える樹脂テープを貼ってマスクとし、成膜後にその樹脂テープを剥がして基板面と膜面の段差を形成し、その段差を触針式の表面粗さ計を用いて測定した。
表1に、作製した薄膜の膜厚、n、n0、Δn、k、k0、Δkを示す。また、後に示す分光光度計による透過率の測定により得られた波長405nmにおける透過率(T)も合わせて示す。
表1に示す膜厚とΔnの関係を図5の(a)に示し、膜厚とΔkの関係を図5の(b)に示す。表1に示すように、パルスレーザーを照射しない場合には、屈折率(n0)、消衰係数(k0)とも各薄膜試料でほぼ一定の値を示した。一方、パルスレーザーを照射したときの屈折率及び消衰係数(n、k)は膜厚により異なっており、膜厚が厚いほど大きな変化を示していた。表1のΔn、Δk、及び図5を見ると、膜厚が20nm未満の薄い場合には屈折率、消衰係数ともほとんど変化しなかった。しかしながら膜厚が20nm以上の場合には顕著にn、kの変化が見られ、Δn、Δkとも絶対値で5%以上の変化を示すことが分かった。
また、膜厚が厚い場合には良好な屈折率、消衰係数の変化が見られるものの、膜厚70nm程度がピークであり、膜厚がそれ以上の場合には若干低下する傾向が見られた。膜厚が薄い場合には光の吸収が少ないため、入射される光との相互作用が小さく、n、kの変化が顕著でないと考えられる。一方、膜厚が厚い場合には逆に透過率の低下により膜全体が光により励起されなくなるために、変化が飽和してくるものと考えられる。
図13に、表1に示した膜厚と透過率の関係を示す。透過率は膜厚が厚くなるに伴って低下し、100nmを超えると透過率が1.0%以下と非常に小さくなることが分かった。このような低い透過率では、光ディスクを作製した際に十分な信号強度が得られないため、透過率が1.0%以上であることが好ましい。従って、膜厚は100nm以下であることが好ましい。
以上より、顕著な光学定数(n、k)の変化が得られ、なおかつ光ディスク上に形成した際に十分な信号強度が得られる最適な膜厚の範囲としては、20nm以上100nm以下が好ましい。
次に、Fe2O3の試料について、分光透過率の変化、及びこの透過率曲線を用いてバンドギャップを求め、評価を行った。まず、分光透過率曲線の測定方法並びにバンドギャップの計算方法について述べる。分光透過率は、(株)日立製作所製分光光度計U-4100を用いて波長200nmから2000nmの透過率を測定した。この分光光度計では、タングステンランプ、重水素ランプなどの白色光源から出力される光が分光器により波長分解されて試料に照射され、リファレンス光と試料を透過した光がフォトマルチメーターに導入され、強度の比を計算することによって透過率が求められる。
次に、得られた分光透過率曲線から、光学的バンドギャップを求める方法について述べる。直接遷移する場合、バンドギャップエネルギーをEg、光のエネルギーをhν、吸収係数をαとすると、数1に示す関係式が成立する。
ここで、αは吸収係数、α0は定数である。(αhν)2をhνに対してプロットし、直線部分をαhν→0に外挿することにより、hν=Egとなり、バンドギャップエネルギーEgを求めることができる。また、吸収係数αと透過率Tの関係は、数2に示す関係式により与えられる。
ここで、dは膜の厚さ(nm)である。また各光の波長(λ(nm))に対応するエネルギー(hν(eV))は、数3の関係がある。
以上より、光学的バンドギャップは次のようにして求めることができる。まず、各波長における透過率Tを実験により求める。透過率から数2を用いてαを求める。さらに対応する光の波長より数3を用いてエネルギーに変換し、各波長において数1を用いて(αhν)2とhνの関係をプロットして直線部分のαhν→0の外挿点より、光学的バンドギャップを求める。
図6に、作製したFe2O3単層薄膜の分光透過率曲線を示す。膜厚は70nmとした。図6に示すように、Fe2O3の薄膜では、400nmより短波長側では透過率が低く、400nm以上の長波長側で徐々に透過率が上昇していることが分かる。このことから、400nm近傍の波長域では光を多く吸収するため、照射されるレーザーとの相互作用が大きい。透過率が高い領域では光が薄膜を透過してしまうため、材料と光との相互作用が小さい。本発明で検討したFe2O3は波長405nmの光との相互作用が大きく、光学定数の変化が生じやすいものと考えられる。また今回用いたレーザー波長と材料の吸収が大きくなる波長とが近いことが特徴的である。
次に、この材料のバンドギャップEgを数1〜数3により求めた。図7に図6のデータ及び数1の関係から計算されたhν-(αhν)2プロットを示す。図7に点線で示したように、この薄膜のhν-(αhν)2プロットより、直線部分が得られ、これを、この点線のようにαhν→0に外挿した点より、バンドギャップEgは2.70eVと求められた。これは波長に換算すると470nmに相当する。逆に波長405nmの光のエネルギーは3.1eVであり、この材料のバンドギャップと光の波長のエネルギーとの差は約0.4eV程度であることが分かる。従って、これより高エネルギー、つまり短波長の光を吸収し光学定数の変化が誘起される。それより低エネルギーの光は吸収せず、光が照射されても光学定数の変化は見られない。
次に、このような光学定数の変化の生じる過程をより詳細に解明するため、図8に示す波長可変光源であるナノ秒のパルス光が出力可能なYAG-OPOレーザーを用いて光学定数変化の波長依存性を測定した。本発明では、励起用のレーザー光源22及び測定用のレーザー光源23としてパルス幅5ns、波長域350nm〜2400nm、繰り返し周波数20HzのYAG-OPOレーザーを用いた。
これらのレーザーの出力は非常に強く、試料にダメージを与えるので、光学フィルター24,25を置いて減光して試料にレーザー光を照射した。また励起用レーザーはミラー27を介して集光レンズ29に入り、試料面上で集光されて試料に照射される。一方、測定用のレーザー光はビームスプリッター26を介して集光レンズ28に入り、試料に垂直に集光照射される。測定用のレーザーによる励起を防ぐため、光学フィルター25の減光量を多くした。さらに、この測定用レーザーにより透過率の変化を求めるため、ビームスプリッター26によって測定光源を50%に分け、一方は直接、光検出器30に到達し、他方は試料を通して光検出器31に到達するようにした。光検出器では入力された光信号の強度に応じて電流が発生するので、それをオシロスコープ32に入力した。また二つのレーザーの発光タイミングを合わせるため、ディレイジェネレータ33内の内部トリガー機構を用いて二つの光の発光タイミングを制御した。そして励起光に対して測定光を0ns〜50nsまで変化させ、励起光入射による透過率の時間応答性を評価した。
図9に、励起光波長、測定光波長をともに405nmとしたときにおけるFe2O3薄膜の透過率変化の時間応答性を示す。横軸は遅延時間であり、励起光と測定光の時間的なずれを示す。本検討では、遅延時間が14nsのときに二つの光が同時に試料に照射された。励起光強度が0.16GW/m2と弱い場合には、透過率はほとんど変化せず3.0%のままであったが、励起光強度が8.2GW/m2と強い場合には、遅延時間14nsのとき最大で2.0%と、約30%の透過率変化を生じた。また、遅延時間が長くなるに従って元の透過率に回復していく傾向が見られた。
励起光波長を変化させて同様の測定を行った。図10に、励起光波長に対する最大の比透過率差ΔTを示す。比透過率差ΔTは、以下の式によって算出した。
ΔT=|T-T0|/T0×100
ここで、Tは励起光強度が8.2GW/m2のときにおいて最も大きく変化したときの透過率であり、T0は励起光強度が0.16GW/m2と弱い場合の定常状態における透過率である。なお、測定光波長は405nmで一定とした。後で述べるように、この比透過率差ΔTは光ディスクの信号強度であるC/N比を大きくとる必要があることから、10%以上であることが好ましい。図10に示すように、Fe2O3薄膜のバンドギャップに相当する波長である470nmよりも若干、長波長側の500nm程度から短波長側で大きく透過率が上昇し、400nmで約28%、300nmでは38%程度の透過率変化が得られることが分かった。また、10%以上の透過率変化を得るためには励起光波長が530nm以下であることが必要であることがわかった。
以上より、バンドギャップエネルギーに相当する波長をλgとし、励起光波長をλとすると、(λ-λg)が60nm以下のとき、大きな透過率変化が得られることが分かった。
次に、励起光波長を405nmと一定にし、測定光波長を変化させたときの測定光波長の比透過率差ΔTを測定した。図11に、測定光波長に対するΔTを示す。この場合、λg近傍でΔTは最大値をとり、波長が長い場合でも短い場合でもΔTが低下していることが分かった。ΔTが10%以上となる波長域はこの材料の場合370nmから570nmの範囲であることが分かった。このことから、材料のバンドギャップエネルギーに相当する波長λgと用いる波長λの差(λ-λg)が、-100nm以上100nm以下の場合に10%以上の大きな比透過差が得られることが分かった。
以上、図10、11の検討より、材料のバンドギャップエネルギーに相当する波長λgと、用いるレーザーの波長との間に、以下のような関係が存在する必要がある。つまり、励起光波長としては(λ-λg)が60nm以下であれば材料を励起することが可能となり、大きな透過率変化を得ることができる。また、励起光の波長が上記の範囲に入る光を用いたとき、(λ-λg)が-100nm以上100nm以下の範囲で大きな透過率変化を得ることができる。光ディスクのように、単一のレーザーによって上記の励起と測定を行う場合には、(λ-λg)が-100nm以上60nm以下であることが必要である。
図11のような透過率の変化を生じる原因について、図12の模式図を用いて説明する。(λ-λg)が-100nm以上60nm以下の条件を満たすレーザーが材料に照射されると、材料が光を吸収し、バンドギャップエネルギーが低エネルギー側にシフトする。従って吸収曲線は低エネルギー側にシフトするため、各エネルギーに対応する光の波長で吸収係数の上昇が見られる。従って透過率は図9に示すように低下する。このとき、図9のような曲線の変位が生じた際、定常状態でのバンドギャップエネルギーEg程度で、最も吸収係数の変化が大きく観察され、それより低エネルギー側及び高エネルギー側のいずれの場合にも吸収係数の変化量としては小さくなる。従って、図11に示すような透過率変化のプロファイルが得られる。このようなレーザー照射によるバンドギャップエネルギーの低下は、レーザー吸収による加熱により、格子振動によりバンドのブロードニングが生じるためと考えられる。
以上検討したFe2O3薄膜について、図1に示す光ディスクを作製し、その記録再生特性を評価した。記録再生特性評価は、以下のようにして行った。まず、図14に示すように記録部(マーク)と非記録部(スペース)との間隔を等しくした記録パターンをトラック周方向に記録し、その記録マークから得られる信号とノイズの比C/N(dB)を評価した。このマークとスペースの長さtm=tsをマーク長と呼ぶ。本実施例では、グルーブ部のみに記録を行った。記録は、図1に示す相変化型の記録層であるGeSbTe系合金膜の結晶と非晶質の反射率の違いを利用して行った。
本発明の光情報記録媒体を記録再生するための光情報記録再生装置を作製した。図21に、作製した光情報記録再生装置のブロック図を示す。この光情報記録再生装置は、光記憶媒体としての光ディスク100の種類を判別する媒体判別手段101を有している。光ディスクは、モータ回路制御手段102により制御されるモータ103の回転軸に、直接または間接に接続された回転機構に一時的に固定される。ピックアップ104内の光源であるレーザーと反射光を検知する検知部により、光ディスクの情報を光信号として読み取る。また、ピックアップ内の光源により、光ディスクに情報を記憶する。またピックアップはピックアップ移動ドライバ123によりトラック方向の位置決めがなされる。
光信号は、プリアンプ105、読出し信号処理手段106、アドレス読み取り手段107、クロック同期信号読み取り手段108を経て、再生信号復調手段109を介し、再生データ送出手段110により、装置外へ出力される。再生データは、表示装置やスピーカ等の所定の出力手段により出力されるか、またはパーソナルコンピュータなどの情報処理装置により、データ処理が行われる。
本実施例では、通常の記録再生に用いられる回路系のほか、任意のレーザー波長を選択可能なレーザー選択手段111を設けた。レーザー選択手段の出力に基づき、レーザーパワー制御情報解析手段112の解析に基づいて、ピークパワー決定手段113にて使用されるピークパワーが決定される。また、同様に読み出しパワー決定手段119にて読み出しパワーが決定される。
ピークパワー決定手段113の出力がパワー比決定手段114を介して記録パワーDCアンプ115と消去パワーDCアンプ116を経由してレーザードライバ117に入力され、ピックアップ内の光源を制御する。同様に、読み出しパワー決定手段119の出力は、読み出しパワーDCアンプ118を介してレーザードライバ117に入力され、ピックアップ内の光源を制御する。また、実際のレーザーとしては650nm、405nmの半導体レーザーを搭載した。
波長により焦点や焦点深度が異なるため、レーザーの選択に伴いオートフォーカシング可能な構造とした。さらに、ディスクに集光機能層が搭載され、トラッキング幅が細くなるのに対応して、トラッキング誤差検出手段126に高密度記録用のものを別に設け、媒体に合わせたトラッキングができるようにした。このトラッキング誤差検出手段126の情報はコントローラ124、ピックアップ制御回路125を介してピックアップ104に伝達される。また、媒体の反射率差を利用して媒体の種別判別機構を設け、これにより媒体種の違いに合わせてオートでトラッキングできるように設計した。
データ記録の際は、記録データ受入手段120から記録データが入力され、記録データ変調手段121でデータ変調され、記録タイミング補正手段122を介してレーザードライバ117に入力され、ピックアップ104内の光源を制御する。
図21のような構成とすることにより、波長の異なる光記録媒体をコンパチブルに使用できるだけでなく、大容量化などにより記録容量の異なるディスクを一台の装置で取り扱うことが可能となる。なお、光情報再生記録装置は、その目的と用途により、適宜その構成に変更を加えて使用しても良い。
図15に、上記のマークとスペースを記録するのに用いた信号波形を示す。マークを記録するために、記録パワーPw(mW)の出力をτw秒、及び低出力のPr(mW)の出力をτr秒照射するパルスの対を1Tとし、これを繰り返して照射し、ひとつの記録マークを形成した。図15ではこれを3回繰り返す3Tの場合について示してある。この3Tをτmとし、このτmと同じ時間のτsの間、Pe(mW)のパワーの光を照射し、スペースを記録した。これを同一半径のトラック一周について記録した。そしてτwとτrを変化させ、記録マーク長を変化させてそれぞれのマーク長に対するC/N比を計測した。本実施例ではPwを7.2mWとし、Prを0.1mWとした。またPeは4.0mWとした。
本実施例ではFe2O3の膜厚を60nmとし、最も反射率の変化が大きくなるように80ZnS-20SiO2膜の膜厚を調整した。本実施例の場合、低強度のレーザー照射では光ディスクの反射率は10.2%であった。図16に、マーク長に対するC/N比の変化を示す。比較例として超解像層を形成していない例についても合わせて示す。再生のレーザー出力を1mWとし、回転の線速度は10m/sとした。図16に示すように超解像層を形成しない場合には例えばマーク長0.05μmのときのC/N比がほぼ数dB程度しかないのに比べ、本実施例では36dB程度のC/N比が得られた。このように、本発明の超解像層を搭載した光ディスクでは、非常に小さい記録マークに対しても大きなC/N比が得られることが分かった。
次に、読み出しレーザー強度及び回転の線速度を変化させ、C/N比の変化を調べた。図17に、読み出しレーザーパワーに対する0.05μmのマーク長におけるC/N比の変化を示す。いずれの線速度の場合にも読み出しパワーが上昇するにつれてC/Nが向上していくことが分かった。特に読み出しパワーが0.5mW以上で高いC/Nが得られた。また、回転の線速度が5m/sと10m/sではC/Nはほぼ同じであったが、15m/s以上の場合には読み出しパワーを上昇させてもC/N比が大きくならなくなる傾向が見られた。これは、回転線速度の上昇によりレーザーがマークに照射されている時間が短くなり、十分に温度上昇が生じないためと思われる。
従って、本発明では回転の線速度は10m/s以下であることが好ましい。
次に、同様の検討を他の遷移金属酸化物についても行った。表2に、検討した超解像膜の組成、ガス中酸素流量比を示す。また、バンドギャップエネルギーEg、Egに相当する波長λg、及び測定波長λ(405nm)とλgの差(λ-λg)、波長405nmにおける比透過率差ΔT、及び図1に示す光ディスクを作製し0.05μmのピットを読み出したときのC/N比を示す。酸素ガス流量比は、主たる成膜ガスであるArと、酸素を含有させ、全ガス流量に対する酸素ガス流量の比を%で示した。
Egの測定は図2に示す単層膜をガラス基板上に形成して、図6、7と同じ測定、評価を行って求めた。また比透過率差は図8に示す装置を用い、測定光、励起光とも波長を405nmとして透過率の変化を求めた。励起光強度は8.2GW/m2とした。またC/N比は、実施例1の図1と同様の光ディスクを作製し、図15で示した記録パターンを0.05μmになるようにしてディスクに記録し、再生時のC/N比として求めた。読み出しパワーは1.0mWとし、回転の線速度は10m/sとした。
試料No.10〜29はFe2O3、NiO、CoO、ZnO、Cr2O3の金属酸化物を超解像層として形成した薄膜試料及びディスクである。各材料のλgは、Fe2O3では約460nm、NiOでは418nm、CoOでは350nm、ZnOでは387nm、Cr2O3では365nmであった。これらについてスパッタガス中の酸素流量を変化させて成膜したが、λgは試料No.21で大きく低下していた他はどの材料でもほとんど同じであり、酸素ガス流量に対して顕著な違いは見られなかった。
λ-λgは試料No.21以外はすべて-100nm以上60nm以下であり、このとき比透過率差は10%〜39%と、非常に大きな値を示した。また、光ディスクによる検討においても、No.21の試料以外で30dB以上の高い値を示しており、良好な結果が得られた。
ガス中酸素流量比に着目すると、CoO以外ではバンドギャップは大きな変化が見られなかった。CoOの場合ではガス中酸素流量比が20%のときにバンドギャップが大きく低下し、良好な結果が得られなかった。これはCoOがCo3O4に変わったためである。表中には示していないが、ガス中酸素流量比が20%を超えると、成膜速度の低下が著しく、膜質の向上がそれほど認められないにもかかわらず生産性が低下する恐れがあることが分かった。
ディスクを長時間回転させながら表2のC/Nの測定を行い、その劣化の度合いを評価した。図18に、再生回数に対するC/N比の変化を示す。本実施例では超解像層として試料No.10〜13のFe2O3を用いた場合、並びに試料No.14,15のNiOを用いた場合についての結果を示す。いずれも106回の再生回数に対してはほぼC/Nの低下が認められなかったが、No.10及び14の超解像層を形成した光ディスクにおいて、106回を超えたところからC/Nの低下が見られた。
試料No.10、14はいずれも酸素ガス流量が0%のものであり、酸素ガスが原料ガス中にない場合、出力低下が生じるものと考えられる。また、それ以外の酸素を流した試料については、大きな出力低下は見られなかった。
以上より、酸素ガス流量が2%以上であれば耐久性に非常に優れた光ディスクが得られるが、酸素ガス流量が20%以上であると成膜レートの低下が著しく、また膜質の大きな向上が認められない。これより酸素ガス流量は2%以上20%未満であることが好ましい。
なお、表2中のNo.22〜25に記したZnO系薄膜では、成膜直後の膜質が不安定であり、レーザー照射や加熱のプロセス中に膜質が徐々に変化してしまうという問題が生じた。従って、他の薄膜よりも実用上好ましくない結果となった。
次に、複合酸化物系の超解像層についても検討を行った。結果を表3に示す。
表3に示す超解像層の成膜は、いずれもFe2O3ターゲットに該当する酸化物チップを該当量載せてスパッタリングにより行った。組成分析は、ポリイミドフィルムに薄膜を成膜し、フィルムごと王水中に入れて薄膜を溶解してICP発光分析を行い、定量的な組成分析を行った。その他の評価項目については、表2に示した方法と同じ方法で測定を行った。
試料No.30〜38は、Fe2O3にCr2O3を添加した薄膜材料である。Cr2O3含有量の増加に伴い、λgは低下していた。これは、表2に示したようにCr2O3のλgが小さいため、両者の混晶を形成するため、λgが低下したものと考えられる。これに伴いλ-λgが小さくなり、ΔT、C/Nとも大きく向上することが分かった。またガス中の酸素流量比を変化させて成膜した場合には、表2に示した結果と同様に、λgの大きな変化は見られず、ΔT、C/Nともに良好な結果となった。図18のときと同様の劣化試験を試みたところ、酸素含有量が2%及び20%のときに、やはり再生回数が106回以上になっても劣化が見られず、良好な結果が得られた。従って、この材料系の場合にも酸素ガス流量は2%以上であることが好ましかった。しかしながら、酸素ガス流量比が20%の場合には、成膜速度が極端に低下し、かつ光ディスクの光学特性において2%の場合に比べて大きな差が見られなかったことから、生産性の低下を招くため、好ましくなかった。以上より、酸素ガス流量はこの組成の場合にも2%以上20%未満であることが好ましかった。
試料No.39〜41は、希土類であるCeO2を含有させたものである。CeO2の含有により若干λgは低下していた。また酸素流量の増加に伴って若干λgの低下が見られた。ΔTは17%以上であり、かつC/Nはいずれも30dB以上であり、良好な結果が得られた。
試料No.42〜51は、金属酸化物としてMnO、ZnO、SiO2・TiO2、NiO、CoO、MgO、CuO、BaO、Y2O3、CdOをFe2O3に対して添加した超解像層である。成膜は純Arを用いて行った。このうち、試料No.44のSiO2・TiO2は、SiO2とTiO2とをモル比で1:1に混合した酸化物である。これらの材料の添加によりいずれの薄膜においてもバンドギャップのシフトが見られ、λgはより短波長側にシフトしていた。そして高いΔTと、C/Nを得ることができた。
以上、Fe2O3にCr2O3、CeO2、MnO、ZnO、SiO2・TiO2、NiO、CoO、MgO、CuO、BaO、Y2O3、CdOを添加することにより、より良好な特性の得られる超解像層を形成することができた。これにより、高いC/N比を有する光ディスクを生成することが可能になった。
次に、ZnS-ZnSe系、GaN-InN系化合物半導体材料について検討を行った。結果を表4に示す。
まず試料No.52〜55のZnS-ZnSe系薄膜について述べる。これらの成膜においては、152.4mmφのZnSターゲット上にZnSeの10mm角×1mm厚の焼結体チップを乗せ、その個数を変化させることにより組成を変化させた。ZnSにZnSeを加えていくことにより80%ZnSeを含有したZns-ZnSe系薄膜を得ることができた。また、得られた薄膜の組成を分析するため、あらかじめポリイミドフィルムにこの薄膜を成膜し、フィルムごと王水中に入れて薄膜を溶解してICP発光分析を行い、定量的な組成分析を行った。スパッタガスには純Arガスを用いた。
ZnSのλgは346nmであったが、ZnSe含有量の増加に伴いλgは長波長側にシフトし、20ZnS-80ZnSe試料ではλgは435nmであった。この超解像層組成の変化に伴い、λ-λgも変化し、それによって比透過率差ΔTも変化していた。図19にZnS-ZnSe系薄膜のZnSe組成に対する比透過率差ΔTの値を示す。図19に示すとおり、この材料系であればいずれの組成においても10%以上の高い比透過率差が得られるため、C/Nが30dB以上と高い光ディスクを作製できた。
次に、試料No.56〜60のGaN-InN系の化合物半導体を超解像層として形成した場合について示す。この薄膜の成膜は、152.4mmφのGaターゲット上に10mm角×1mm厚のInチップを載せ、純N2ガスをスパッタガスとして用いて行った。Gaは38℃程度で融解するので、スパッタパワーを100W以下に抑えて成膜した。また酸素の混入を抑制するため、ガス入り口にP2O5のゲッターを設けた。また、純InNの成膜はInターゲットを用い、同様にN2ガスを用いてスパッタすることによりInN単層の薄膜を得た。組成分析はZnS-ZnSe系の場合と同様にして行った。
GaN-InN系薄膜の場合も、ZnS-ZnSe系と同様にInNの含有量増加に伴ってλgが上昇していくことが確認された。またそれに伴って比透過率差ΔTも変化していた。図20に、GaN-InN系薄膜のInN含有量に対するΔTの変化を示す。InN含有量が増加するに伴ってΔTは低下し、76mol%でΔTが10%となり、それ以上の含有量ではΔTが10%未満となり、好ましくないことが分かった。このことから、GaN-InN系薄膜において、InN含有量は76mol%以下であることが好ましい。
以上の実施例では、図1に示す記録再生消去の可能な光ディスクを作製した例について述べたが、図1に示す光情報記録層として穴あけ型の有機色素系薄膜材料を用いた場合にも同様に0.05μm程度の小さな記録マークに対して大きなC/N比で記録再生することができた。
また、あらかじめ基板に信号の書かれているROM媒体に対しても上記の特性を確認するため、図14に示したものと同様のサイズのマーク、スペースの書かれたROM基板を作製して評価を行った。図22に、作製したROM媒体断面の模式図を示す。図22において、34は記録ピットである。
ROMディスクは以下の工程によって作製した。まず、フォトレジスト上に電子線描画装置を用いて一定間隔のマーク・スペースの形成された記録ピットのパターンを形成した。その後Ni金型にピットパターンを複写し、この金型にポリカーボネートを射出成形することによって基板1を形成した。最小ピットサイズは0.05μmであり、ピットの深さは22nmとした。またトラックピッチは310nmとした。
作製したこの基板上に、反射層2としてAg-1%Au(重量%)合金反射膜を形成した。膜厚は50nmとした。成膜は純Arガスを用いてDCマグネトロンスパッタリングによって行った。保護膜3,5には、80ZnS-20SiO2(mol%)の非晶質膜を用いた。成膜は純Arガスを用いてRFスパッタリング法によって行った。超解像層6には表2の試料No.11の薄膜を用いた。
このROM媒体においても最小マーク長0.05μmにおいてC/Nが37dB程度となり、高いC/N比が得られることが分かった。
次に、比透過率差ΔTとC/N比との関係について調べるため、表2〜4に記載のデータのΔTに対するC/N比をプロットした結果を図23に示す。ΔTが10%以上の場合にはC/N比は30dB以上であったが、10%未満の場合には30dB未満であることがわかった。C/N比が30dB未満の場合、この光ディスクを読み出す場合のエラーレートが急激に上昇し、正しく読み出すことが不可能であったので好ましくなかった。したがって、比透過率差は10%以上であることが好ましい。
本発明による光ディスクの別の実施例について説明する。図24に本実施例に係る光ディスクの断面の模式図を示す。図24において、201は基板、202は反射層、203は保護層、204は超解像層、205は接着層、206はカバー層、209は記録ピットである。本発明では、この超解像層にFe2O3-Ga2O3系薄膜を用いた。また、このFe2O3-Ga2O3薄膜にBiなどの熱吸収材料を含有させてもよい。
本実施例では、図24に示すような基板201上にランダムな信号パターンが形成された光ディスク、または記録ピットとスペースとの間が一定の周期で形成されているCN比試験用の読み出し専用の光ディスク基板上に、これらの薄膜材料を形成し、光ディスクを作製した。本発明の光ディスクでは、このカバー層側より読み書き用のレーザーが基板面上に集光照射され、光情報記録層に情報を記録するほか、記録された情報の再生を行う。
用いたレーザーの波長は405nmであり、InGaN系の化合物半導体レーザーを光源に用いた。これは連続発信するレーザーであるが、記録情報に基づいてパルスジェネレータによりパルス化されて光ディスクに照射される。このレーザーを集光するためのレンズにはNAが0.85のレンズを用いた。
本実施例では、基板201として厚さ1.1mmのポリカーボネート基板を用いた。この基板201の外径は120mmであり、チャックのため内径15mmの内周穴が形成されている。この基板上にランダムな信号または記録ピットとスペースとの間が一定の周期で形成されているCN比試験用の記録ピット209が凹凸によって記録されている。凹凸は同一トラック上に形成されており、このトラックの半径方向のピッチは310nmである。凹部と凸部との高低差は22nmである。
ランダム信号はクロック信号(1T)に対して2T、3T、・・・8Tの記録信号に相当する記録ピット並びにスペースがランダムに形成されている。最短マークである2Tの信号の記録ピット長を141nmとし、最長マークである8Tの信号に対する記録ピット長を564nmとした。
このランダムマーク信号をオシロスコープ上で観測することにより、最長マークからの信号の比(変調度)を求めることができる。この変調度が大きいほど最短マークの分解能が向上したと結論することができる。また同時にクロック周波数に対する各マークの立ち上がり、立ち下がりの時間的ずれの標準偏差(ジッター)を観測することで、分解能の向上の一指針を得ることができる。従ってジッター値は低いほどディスクとしての特性は良好であると判断できる。
またCN測定は、記録マークとスペースの長さが同一かつ一定で、マークとスペースが周期的に記録されているCN測定用光ディスクを作製して行った。このマーク及びスペースの長さをマーク長と呼ぶ。この部位からは同一周波数の信号が検出されるため、スペクトラムアナライザーを用いていろいろなマーク長におけるCN比を求めることができる。このCN比が大きいほど各マークにおける分解能が高いということができる。本検討では、一周のトラック内に一定のマーク長のマーク、スペースを形成したピットを形成し、トラックごとにマーク長を変えてディスクを作製した。最短マーク長を50nmとし、最長マーク長を600nmとした。ピット形成のための原盤作製は電子線描画によって行った。基板にはSiO2ガラス基板を用い、レジストを電子線描画した後エッチングすることで原盤作製を行った。
本検討では、上記のような波長405nmの半導体レーザーを搭載し、レンズのNAが0.85の光学系のピックアップを備えたディスクテスターを用いて光ディスクを評価した。この装置では、レーザーの記録、再生、消去パワー、ディスク回転数、ディスクティルト(半径、直径方向)などを変化することができる。ディスクテスターから出力される信号から、変調度、ジッター、CN比を求めた。この際、出力信号を一旦リミットイコライザーに入力して増幅したのち、計測器にて測定した。変調度はデジタルオシロスコープを用いて測定した。またジッターはタイムインターバルアナライザを用いて計測した。ジッター測定時は、当該トラックの両側にさらにそれぞれ2トラック以上の記録ピットが形成されているようなトラックを選んで測定に供した。さらにCN比はスペクトラムアナライザーを用いて測定した。
本検討では読み取りのためのパワーPr(mW)を0.2〜0.5mWまで変化させ、上記値の変化を記録した。このときの基板回転線速度を10m/sとした。
図24の基板201上にスパッタリング法を用いて薄膜材料よりなる反射層202、保護層203および超解像層204を順次形成した。反射層202には99%Ag-1%Au(重量%)合金反射膜を用いた。膜厚は20nmとした。成膜は純Arガスを用いてDCマグネトロンスパッタリングを用いて行った。保護膜203にはSiO2膜を用いた。成膜は純Arガスを用いてRFスパッタリング法で行った。
超解像層204として、本実施例では三価の遷移金属酸化物のうち、Fe2O3とGa2O3の混合物の薄膜に着目し、検討を行った。薄膜の組成は、モル%で45Fe2O3-55Ga2O3とした。この混合酸化物の薄膜を作成するため、本実施例では154.2mmφのFe2O3焼結体ターゲットにプラズマが集中する領域(エロージョン領域)上にGa2O3の焼結体チップを乗せ、そのチップ数を変えることで組成を変化させた。成膜ガスはArガスに酸素を5%〜20%含有させたものを用いた。酸素ガスが5%未満の場合は、膜に欠陥が生じやすく、光ディスクの繰り返し特性を劣化させる。また20%を超えて含有させると成膜速度が遅くなるため、量産に適合し難しくなる。
形成した薄膜の組成を、ICP発光分析により分析した。ICP分析は別途ポリイミドフィルム上に超解像層204のみを単層で500nm程度形成し、フィルムごと王水中で溶解させ、プラズマ中の発光スペクトルを解析することで行った。
スパッタリング法により反射層202、保護層203および超解像層204を順次形成した後、接着層205を用いてカバー層206をディスク表面に形成した。カバー層206の厚さを85μm、接着層の厚さを15μmとし、合計で100μmのカバー層とした。カバー層206の外形は基板と同じ120mmφとし、内径は23mmφとした。材質はポリカーボネートとした。
なお、カバー層206は本実施例のように接着剤で貼り合せされるほか、紫外線硬化樹脂層を塗布することにより接着剤無しで形成されるものであってもよい。
カバー層は以下に示す手順により基板上に形成した。まず1.1mmの基板上に接着層205を形成するための紫外線硬化性の接着剤を内周に近いところに円周に沿って滴下し、スピン回転させて振り切ることで約20μm程度の接着層を形成した。スピン回転数は10,000rpm程度とした。一方、0.1mm厚のカバー層を台座の上に保持し、その上から反転させて接着層を下にして基板201をかぶせた。この際、基板201とカバー層206の軸が同軸となる治具を用いて位置合わせを行った。
そして真空チャンバー中に両者を挿入して油回転ポンプで真空引きし、同時に上部から加圧することで気泡が残らないように注意しながら基板201とカバー層206を圧着した。その後カバー層206が圧着された基板201を反転させ、カバー層206側を上にして、カバー層206側から接着層205を形成する接着剤を硬化させるために紫外線を照射して固化させた。
図25〜27に、このようにして作製した光ディスクの評価結果を示す。図25はランダム信号における8Tマークに対する2Tマークの変調度(I2pp/I8pp)の再生パワー(Pr)依存性、図26はジッターの再生パワー依存性、図27はマーク長に対するCN比の変化を示す。図27において再生パワーを0.15mWと0.5mWとした。比較例として超解像層204のない光ディスクを作製し、同様の検討を行った。
図25に示す変調度の再生パワー依存性を見ると、再生パワーPrが上昇するに従って、超解像層204を形成した光ディスクでは変調度が徐々に増加し、再生パワーが0.5mWのとき0.2mWに比べ約3倍となっていた。一方、超解像層204を形成していない比較例では再生パワーが上昇しても変調度はほぼ一定の値を示した。
同様に図26に示したジッターを見ると、比較例の超解像層204を形成していないものは再生パワーが増加してもほぼ一定のジッター値を示したが、超解像層204を形成したものではジッターが8%から7%に低下していた。
また図27のCN比を見ると、比較例ではマーク長180nm程度からCN比が低下し、140nm近傍ではCN値は10dB以下となっていたが、実施例では再生パワーが0.15mWのとき、マーク長が100nmで10dB程度のCN比が得られ、さらに再生パワーが0.5mWのとき、30dBを超えるCN比が得られていた。
以上のように、Fe2O3-Ga2O3系の超解像層を光ディスクに設けることにより、より短いマークの記録信号の読み出しが可能となる。
次に、超解像膜204の組成を種々変化させて実施例3と同様の測定を行い、超解像効果の検証を行った。本実施例では、二種の三価の金属酸化物に着目し、それらの混合物の混合比について検討を行った。表5に、検討した超解像層204の組成、並びに実施例3と同様の方法で測定した変調度、ジッター、CN比の評価結果を示す。変調度は図25に示す図より読み出しパワー0.5mWにおけるI2pp/I8pp値を示した。またジッターは図26に示す図より読み出しパワー0.5mWにおけるジッター値を示した。またCN比はマーク長50nmの時の値を示した。
さらに、これらの超解像層の材料的知見を得るため、これらの薄膜の光学的バンドギャップを評価した。また、これら三価の金属イオンのイオン半径比を評価した。これらについても表5中に示す。
なお、表5において超解像膜組成比の左欄の酸化物に含まれる三価の陽イオンをMi3+とし、右欄の酸化物に含まれる3価の陽イオンをMj3+とした。表5において、No.61、69、73、77は、それぞれFe2O3、Ga2O3、Cr2O3、Mn2O3の単相の薄膜であり、その他は二種の三価金属酸化物の固溶体または化合物、または混合物の薄膜である。これらの薄膜の光学的バンドギャップは以下に示す方法により求めた。まず、この超解像層の単相の薄膜を透明なガラス基板上に形成した。そして分光光度計を用いて超解像層の透過率を評価した。分光透過率曲線の測定方法並びにバンドギャップの計算方法については、実施例1に記載したのと同じ方法を用いた。
表5には、このバンドギャップエネルギーEgと、今回の実施例で用いている波長405nmの青紫レーザーのエネルギー3.06eVとの差ΔE=Eg-Eも同時に示した。また、陽イオンのイオン半径の不整合度ΔRは以下の式を用いて求めた。
ΔR=|(RMi-RMj)/RMi|
ここでRMiは金属元素Miの三価のイオン半径、RMjは金属元素Mjの三価のイオン半径である。イオン半径はR.D.Shannonのイオン半径を用いた。No.24〜27に記載されているCo3O4はCo2+とCo3+混合原子価混合酸化物であるが、Co3+を含む化合物であるため、Co3+をMi3+としてそのイオン半径を用いて計算した。
図28、29及び30に、表5中のFe2O3-Ga2O3系、Fe2O3-Cr2O3系、及びFe2O3-Mn2O3系薄膜の透過率を示す。図28を見ると、Ga2O3含有量が増加するに従い、吸収端が短波長側にシフトしていくことが分かる。また図29のFe2O3-Cr2O3系薄膜においても同様にCr2O3含有量の増加に伴って吸収端が短波長側へシフトする、いわゆるブルーシフトが見られた。しかしながら、Ga2O3を含有させた場合に比べてブルーシフト量が小さい。さらに図30のFe2O3-Mn2O3系薄膜では、Mn2O3含有量の増加に伴い、吸収端が若干長波長側にシフトしていた。
これらの図から(αhν)2-hνプロットを行い、バンドギャップエネルギーEgを求めた。図31に、各酸化物の含有量(mol%)に対するバンドギャップエネルギーEg(eV)を示す。Ga2O3系では2.60から4.91eVまでバンドギャップがシフトし、組成に対して線形に変化した。またCr2O3系ではGa2O3系に比べてシフト量が小さく、2.60から2.96eVの間で変化した。またMn2O3系では逆にバンドギャップは低下し、2.60から2.42eVに低下した。
これらの薄膜について光ディスク特性を評価した。Fe2O3-Ga2O3系薄膜の場合、試料No.66の45Fe2O3-55Ga2O3薄膜の変調度、ジッター及びCN比とも、非常に良好な値を示していることが分かった。また、このNo.66を中心として、Fe2O3、Ga2O3リッチになるに従っていずれの特性も劣化していく傾向が認められた。そしてNo.69のGa2O3単相の場合では、ディスク特性は良好でないことが分かった。
試料No.70〜73及び試料No.74〜No.77はFe2O3-Cr2O3系及びFe2O3-Mn2O3系薄膜、及びCr2O3、Mn2O3単相の場合であるが、これらの場合はGa2O3にみられる明瞭なディスク特性の改善が見られなかった。
一方、試料No.78〜80、No.81〜83及びNo.84〜87はGa2O3に三価のイオンを含有する種々の遷移金属酸化物を混合させた薄膜である。この場合、変調度、ジッター、CN比とも、良好な結果を示す組成が存在することが明らかになった。
試料No.84はFe2O3-Al2O3系薄膜であるが、No.61のFe2O3薄膜と同等な特性であり、明瞭な光ディスク特性の改善が見られなかった。これは、Fe2O3とAl2O3の陽イオンであるFeとAlの陽イオン半径比が17%と大きいため、Al2O3がFe2O3中に固溶せず、バンドギャップシフトが有効に生じなかったためと考えられる。またイオン半径比が8.0以下であれば、二つの金属酸化物の添加量に応じてバンドギャップを適正に変化させることができるため、非常に高い超解像効果を生じさせることができる。
以上のように、Fe2O3、Ga2O3、Mn2O3、V2O3、Mo2O3、Co3O4などの3価の金属イオンを含有する酸化物の混合物を超解像層204として用いる場合、イオン半径比が8.0以下の2種類の混合酸化物を用い、さらに、この混合物の光学バンドギャップが3.60eV以上4.41eV以下であれば、波長405nmの青紫色レーザーを用いた光ディスクシステムにおいて高記録密度化に対して良好な結果を得ることができる。青紫色レーザーのバンドギャップは3.06eVであるため、このレーザーのエネルギーEに対する超解像膜のバンドギャップエネルギーEgとの差ΔE(ΔE=Eg−E)が、0.4eV以上1.4eV以下であれば、良好な超解像特性を得ることができる。
イオン半径比が8.0を超える場合、混合物を作ってもバンドギャップシフトが有効に起こらないため、超解像効果の高い薄膜を得ることが難しい。また、照射するレーザーのエネルギーEに対する超解像膜のバンドギャップエネルギーEgとの差ΔEが0.4eV以上1.4eV以下であると、非常に高い超解像効果を得ることができる。
Fe2O3とGa2O3を混合させた超解像膜の場合、Ga2O3含有量が45mol%以上80mol%以下であれば、CN比が30dB以上となり、きわめて良好な特性を得ることができる。この場合Fe2O3は20mol%以上55mol%以下であることが好ましい。Ga2O3含有量が45mol%未満では、ΔEが0.4eV未満となり、適切な範囲にないため、大きな超解像効果を得ることが難しい。また同様にGa2O3含有量が80%を超える場合には、ΔEが1.4eVを超えるため、好ましくない。
なお、本実施例では2種類の酸化物のみの例を示したが、上記条件を満足する3種類以上の酸化物を混合した場合でも、任意の2つの金属イオンにおいて上記条件を満足する組み合わせであれば、上記の効果が得られることが分かった。例えば、Fe2O3とMn2O3とGa2O3を混合させた三元系の超解像膜を作製した場合にも、ΔEが0.4eV以上1.4eV以下、ΔRが8%以下である酸化物の組み合わせであれば、高い超解像効果を有する光ディスクが作製可能である。
以上のような高い超解像効果が得られるメカニズムについて検討を行った。本実施例では、レーザー照射による加熱に着目し、加熱による透過率の変化を調べた。また、表5に示したFe2O3-Ga2O3系薄膜について検討を行った。実施例4に示した分光光度計に加熱冷却試料ステージを取り付け、加熱・冷却過程における分光透過率曲線の変化を求めた。
図32に、表5、No.61のFe2O3系薄膜の加熱による透過率変化を示す。この薄膜では、波長600nm近傍の領域に加熱により大きく透過率が変化する波長域が存在することがわかる。400nm近傍においても透過率変化が見られるが、透過率の絶対値が小さい。
図33に、表5中のNo.66の45Fe2O3-55Ga2O3薄膜の加熱による透過率変化を示す。
波長600nm以下の領域で加熱により透過率の低下が見られ、特に400〜500nmの波長域で大きな透過率変化が得られた。405nm付近では、透過率は約30%であった。図34に、表5中No.67の20Fe2O3-80Ga2O3薄膜の透過率変化を示す。吸収端は、より短波長側にシフトしており、450nm以下の領域で透過率が大きく変化した。400nmにおける透過率は約60%であった。また図35に、No.69のGa2O3単相の透過率変化を示す。バンドギャップが短波長側にあるため、バンドギャップは観測されない。このため波長400nm近傍では透過率の変化は見られなかった。
以上のように、吸収端近傍で加熱による透過率の変化が見られ、吸収端波長を変化させることで、目的の波長で大きな透過率変化を得ることができる。
また図36及び37に、表5のNo.61のFe2O3薄膜と、No.67のFe2O3-Ga2O3薄膜について、加熱処理前後の分光透過率曲線を示した。図36のFe2O3薄膜の場合には、加熱前後で大きく分光特性が変化しており、加熱により膜構造が変化していることが分かる。一方、図37のFe2O3-Ga2O3系薄膜では、加熱前後で分光透過率曲線がほとんど変化していない。このことから、Ga2O3を含有した薄膜では、加熱による構造の変化が少ない。このため、光ディスク構造中においてレーザーの繰り返し照射による劣化が少ない。
図33に示した表5、No.66の45Fe2O3-55Ga2O3薄膜透過率変化から、式1〜3の関係を用いてバンドギャップの変化を求めた。(αhν)2-hνプロットの加熱による変化を図38に示す。バンドギャップは3.90eVから3.82eVと低下し、いわゆるレッドシフトしていることが分かる。これにより、420nmの以下で透過率変化が生じたと考えられる。
図39に、表5のNo.61、No.66及びNo.67の室温と500℃における透過率差ΔT=T500℃−TRTを示す。No.61のFe2O3薄膜試料においては、波長600nm近傍に非常に大きなΔTを有する波長域が存在しているが、青色レーザーに対応する波長400nm近傍では、ΔTは数%程度と小さい。一方、No.66及びNo.67は、400nm近傍のΔTはNo.61の試料に比べて大きくなっていることが分かる。また図33〜35に示すように透過率のブルーシフトに対応して、透過率差が最大となる波長が短波長側にシフトしている。
以上のように、Fe2O3とGa2O3を混合させることにより、線形にバンドギャップがシフトし、20Fe2O3-80Ga2O3組成のときに波長400nm近傍で最も大きい透過率変化を生じさせることができた。
しかしながら、表5をみると、No.66の試料の方がNo.67の試料よりも良好な光ディスク特性を有していることが分かる。光ディスク構成では本実施例のように外部からの加熱ではなくレーザー照射による加熱を生じさせる必要があるため、熱吸収の影響を考慮しなければならない。図33、34に示したように、No.67の薄膜はNo.66の薄膜よりも短波長側に吸収端がシフトしているため、波長400nmでは、透過率が60%前後と高くなっている。従って、No.67の薄膜では照射したレーザーが十分に吸収されていない可能性がある。
この対策として、薄膜に熱を吸収させるための熱吸収層、及び熱吸収特性に優れた材料を超解像膜に分散させ、温度を上昇させるという方法が考えられる。そこで、次に、この熱吸収層、及び熱吸収材料について検討を行った。
図40に本実施例によるROMディスクの断面図を示す。本実施例では、接着層の代わりに紫外線硬化樹脂層211を設け、また熱吸収層207を設けた。熱吸収層207は、基板201と紫外線硬化樹脂層211の間であればどこに形成されても良いが、好ましくはこの図のように超解像層204の下に形成される方が良い。
光ディスクの作製方法は実施例1と同様である。本実施例では熱吸収層207として金属Biをスパッタリングで20nm厚さに形成した。熱吸収層207は、用いるレーザー波長に対する吸収係数が大きく、熱容量が大きく、かつ熱伝導性が低い材料であればどのような材料を用いても良い。代表的な熱吸収層としては金属Bi薄膜のほか、Ge-Sb-Te系材料などが挙げられる。
熱吸収層の有無によるCN比のマーク長に対する変化を調べた。読み出しパワーは0.15mWとした。超解像層としては、表5、No.66の45Fe2O3-55Ga2O3(mol%)及び表5、No.67の20Fe2O3-80Ga2O3(mol%)薄膜を形成した。熱吸収層がない場合には、No.66の薄膜を形成した場合の方がNo.67の薄膜を形成した場合に比べてより短マークまで高いCN比を保っており、超解像効果が高いことが分かった。一方、熱吸収層を形成した場合、いずれもより短いマーク長領域において高いCN比を示していたが、No.67の方がNo.66に比べて高いCN比を示した。これは、実施例3に示した通り、波長405nm近傍ではNo.67の薄膜の方が大きな透過率差が得られるため、熱吸収層を形成したことにより超解像層204の温度が十分に上昇したため、No.66よりも高いCN比が得られたものと考えられる。
次に、金属Bi微粒子を超解像層204中に析出させるため、超解像層204を形成するためのFe2O3スパッタリングターゲット上にGa2O3のチップのほか、金属Biチップを載せてスパッタリングを行った。20Fe2O3-80Ga2O3の組成は20Fe2O3-80Ga2O3(mol%)とした。このようにして形成した超解像層204の構造を調べるため、ガラス基板上に、この薄膜の単相膜を形成し、X線回折、分光特性評価を行った。
まず、X線回折の結果、Ga2O3のピークのほかに金属Biと見られるブロードなピークが検出された。これからBiの粒径をシェラーの式を用いて計算したところ、約10nmの微粒子であることが確認された。この薄膜の分光透過率を調べたところ、No.67の分光透過率曲線に比べて透過率が大きく低下した。また波長が短いほど透過率の低下量が大きいことが分かった。これは、Biのナノサイズの粒子による散乱による影響と考えられる。波長400nmにおける透過率は約17%であった。
この薄膜について、図24に示すROM型の光ディスクを作製してCN比を測定した。再生パワーは0.15mWとした。Biを含有させた超解像層No.67は、Biを含有しない場合に比べて、より短いマークまで高いCN比で再生できることが分かった。
以上より、熱吸収層207を形成するか、熱吸収材料を超解像層204中に含有させることにより、レーザー光を効率的に吸収させ、低パワーでも高い超解像効果を得ることが可能であった。
以上は、記録ピットをポリカーボネート基板表面に形成したROMタイプの光ディスクについて検討したものである。続いて、情報を書き込み可能な追記型Write Onceメディア、並びに読み書き、消去の可能な書き換え型Re-writableメディアを作成し、同様に超解像効果の検証を行った。また、同時にこれらの記録媒体を読み書き可能な光情報記録装置を作製した。本実施例による光ディスクの断面構造を図41に示す。本実施例の光ディスクには、光記録層208が設けられ、また光を案内するための案内溝210が形成されている。また図には示さないが、実施例6と同様に熱吸収層207を設けても良い。
光記録層208には、Ge-Sb-Te系記録層を用いた。膜厚は20nmとした。光ディスクは実施例3と同様の方法で作製した。作製後、波長633nmの連続光レーザーを搭載した初期化装置を用いて光記録層の結晶化処理を行った。また、本実施例では超解像層204として表5、No.66の組成の45Fe2O3-55Ga2O3(mol%)薄膜を用いた。
また、図21に示した光記録再生装置を用い、図15に示す信号波形を用いて実施例1と同様の方式で記録を行った。図42にCN比のマーク長依存性を示す。比較例として超解像層204を形成していない場合についても示す。この図のように、超解像層204を形成したRAMディスクにおいても、高い超解像特性を得ることができた。
本発明の超解像層を搭載した光情報記録媒体は、低いレーザーパワーで高速回転にも対応でき、かつ成膜プロセスも従来のプロセスを踏襲したものであり、かつ大容量の光情報記録媒体が得られるため、その利用可能性はきわめて高い。
本発明による光ディスクの一実施例を示す断面模式図である。
超解像層に用いる材料の基本光学特性を求めるために形成した薄膜試料の断面模式図である。
超解像層の屈折率及び消衰係数を求めるのに用いた試験装置の光学系の模式図である。
超解像層の屈折率および消衰係数の時間変化を表す図である。
超解像層の膜厚に対する屈折率および消衰係数の変化を表す図である。
超解像層の分光透過率を表す図である。
超解像層のhν-(αhν)2プロットおよびそれにより求められるバンドギャップを示す図である。
超解像層の透過率のナノ秒での時間変化を求めるための光学系の模式図である。
超解像層の透過率のナノ秒での時間変化を示す図である。
励起光波長に対する最大の比透過率差を示す図である。
波長405nmの光を励起光とし、測定光の波長を変化させたときの透過率の変化を示す図である。
励起光を照射したときのバンドギャップの変化を示す模式図である。
超解像層の膜厚の変化に対する透過率の変化を示す図である。
本発明で作製した光ディスクの記録マークの模式図である。
図14の記録マークを形成する際の書き込み用レーザーパルス光の発光パターンを示す図である。
本発明で作製した光ディスクのマーク長に対するC/N比を示す図である。
本発明による光ディスクの0.05μmのマーク長におけるC/N比の読み出しパワー依存性を示す図である。
本発明による光ディスクの0.05μmのマーク長の記録パターンを1mWで読み出した時の再生回数に対するC/N比の変化を示す図である。
ZnS-ZnSe系超解像層のZnSe含有量に対する非透過率差ΔTを示す図である。
GaN−InN系超解像層のInN含有量に対する非透過率差ΔTを示す図である。
本発明の一実施例による光情報記録再生装置の概念図である。
本発明によるROM型光情報記録媒体の断面模式図である。
表2〜4に記載されたデータについて、比透過率差ΔTとC/N比との関係を示す図である。
本発明の実施例による読み出し専用光ディスクの断面の模式図である。
超解像層を有する光ディスクの変調度の読み出しパワー依存性を示す図である。
超解像層を有する光ディスクのジッターの読み出しパワー依存性を示す図である。
超解像層を有する光ディスクのCN比のマーク長依存性を示す図である。
Fe2O3系及びFe2O3-Ga2O3系超解像層の分光透過率を表す図である。
Fe2O3系、Fe2O3-Cr2O3系及びCr2O3系超解像層の分光透過率を表す図である。
Fe2O3系及びFe2O3-Mn2O3系超解像層の分光透過率を表す図である。
酸化物含有量に対するバンドギャップエネルギー変化を示す図である。
表5、No.61の試料について透過率の温度変化を示す図である。
表5、No.66の試料について透過率の温度変化を示す図である。
表5、No.67の試料について透過率の温度変化を示す図である。
表5、No.69の試料について透過率の温度変化を示す図である。
表1、No.1の試料について加熱前後の透過率の分光特性を示す図である。
表1、No.7の試料について加熱前後の透過率の分光特性を示す図である。
表5、No.66の試料についてバンドギャップエネルギーの温度変化を示す図である。
表1のNo.1、6、7の試料について透過率差ΔTの波長依存性を示す図である。
本発明の他の実施例による読み出し専用光ディスクの断面の模式図である。
本発明の実施例による記録再生型光ディスクの断面の模式図である。
本発明で作成した記録再生型光ディスクのマーク長に対するCN比を示す図である。
符号の説明
1…基板、2…反射層、3…保護層、4…光情報記録層、5…保護層、6…超解像層、7…保護層、8…カバー層、9…グルーブ、10…ランド、11…パルス発生器、12…光源、13…偏光子、14…レーザー光、15…反射光、16…検光子、17…フィルター、18…受光器、19…デジタルオシロスコープ、20…制御用コンピューター、21…焦点レンズ、22…励起用のレーザー光源、23…測定用のレーザー光源、24…光学フィルター、25…光学フィルター、26…ビームスプリッター、27…ミラー、28…集光レンズ、29…集光レンズ、30…光検出器、31…光検出器、32…オシロスコープ、33…ディレイジェネレータ、34…記録ピット、100…光ディスク、101…媒体判別手段、102…モータ回路制御手段、103…モータ、104…ピックアップ、105…プリアンプ、106…読み出し信号処理手段、107…アドレス読み取り手段、108…クロック同期信号読み取り手段、109…再生信号復調手段、110…再生データ送出手段、111…レーザー選択手段、112…レーザーパワー制御情報解析手段、113…ピークパワー決定手段、114…パワー比決定手段、115…記録パワーDCアンプ、116…消去パワーDCアンプ、117…レーザードライバ、118…読み出しパワーDCアンプ、119…読み出しパワー決定手段、120…記録データ受入手段、121…記録データ変調手段、122…記録タイミング補正手段、123…ピックアップ移動ドライバ、124…コントローラ、125…ピックアップ制御回路、126…トラッキング誤差検出手段、201…基板、202…反射層、203…保護層、204…超解像層、205…接着層、206…カバー層、207…熱吸収層、208…光記録層、209…記録ピット、210…案内溝、211…紫外線硬化樹脂層。