JP4277424B2 - 車両用無段変速機の制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は車両用無段変速機の制御装置に係り、特に、動力伝達を行う摩擦力を適切に制御して滑りを回避しつつ摩擦によるエネルギー損失を低減する技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
(a) 走行用の動力源と駆動輪との間の動力伝達経路に配設され、摩擦力を介して動力伝達を行うとともにその摩擦力を制御できる無段変速機と、(b) 前記動力源と駆動輪との間の動力伝達経路を接続、遮断する断続装置(例えば前後進切換装置のクラッチやブレーキなど)と、を有し、(c) 前記無段変速機の推定負荷トルクに基づいてその無段変速機の摩擦力を制御する車両用無段変速機の制御装置が知られている。特開平6−109115号公報に記載の装置はその一例で、無段変速機として溝幅が可変の一対のプーリに伝動ベルトが巻き掛けられたベルト式無段変速機が用いられているとともに、動力源と無段変速機との間に配設されたトルクコンバータのタービントルクを推定負荷トルクとして求め、プーリと伝動ベルトとの間の摩擦力に関与するベルト挟圧力を制御するようになっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、断続装置が遮断状態から接続状態へ切り換えられる際にもタービントルクを推定負荷トルクとすると、実際の負荷トルクと推定負荷トルク(タービントルク)との誤差が大きくなり、必要以上のベルト挟圧力が作用して燃費等のエネルギー効率が低下したり、ベルト挟圧力が低くてベルト滑りが生じたりする可能性があった。すなわち、断続装置の係合過程では、その係合トルクが負荷トルクに対応するためタービントルクよりも小さい一方、その係合過程でアクセルが踏込み操作されると、断続装置が完全係合するまでの時間が長くなり、例えば係合ショックを抑制するためにアキュムレータを備えている場合には、アキュムレータの作動端で係合トルクが急に増加して完全係合する際に、動力源のイナーシャにより負荷トルクがタービントルクを越えて大きくなることがある。
【0004】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、断続装置が遮断状態から接続状態へ切り換えられる際の無段変速機の摩擦力の適正化を図り、滑りを防止しつつ摩擦によるエネルギー損失を低減することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 走行用の動力源と駆動輪との間の動力伝達経路に配設され、摩擦力を介して動力伝達を行うとともにその摩擦力を制御できる無段変速機と、(b) 前記動力源と駆動輪との間の動力伝達経路を接続、遮断する断続装置と、を有し、(c) 前記無段変速機の推定負荷トルクに基づいてその無段変速機の摩擦力を制御する車両用無段変速機の制御装置において、(d) 前記断続装置が遮断状態から接続状態へ切り換えられる際には、その接続に伴って前記無段変速機に作用する前記動力源のイナーシャを考慮して定められたその断続装置の伝達トルクを前記推定負荷トルクとする接続切換時負荷トルク算出手段を有し、且つ、 (e) その接続切換時負荷トルク算出手段は、アクセル操作された場合は前記動力源のイナーシャを考慮して定められた前記断続装置の伝達トルクを前記推定負荷トルクとし、アクセル操作されていない場合は前記動力源のイナーシャを考慮することなく定められた前記断続装置の伝達トルクを前記推定負荷トルクとすることを特徴とする。
【0006】
第2発明は、(a) 走行用の動力源と駆動輪との間の動力伝達経路に配設され、摩擦力を介して動力伝達を行うとともにその摩擦力を制御できる無段変速機と、 (b) 前記動力源と駆動輪との間の動力伝達経路を接続、遮断する断続装置と、を有し、 (c) 前記無段変速機の推定負荷トルクに基づいてその無段変速機の摩擦力を制御する車両用無段変速機の制御装置において、 (d) 前記断続装置が遮断状態から接続状態へ切り換えられる際には、その接続に伴って前記無段変速機に作用する前記動力源のイナーシャを考慮して定められたその断続装置の伝達トルクを前記推定負荷トルクとする接続切換時負荷トルク算出手段を有し、且つ、 (e) その接続切換時負荷トルク算出手段は、アクセル操作量が予め定められた判定値以上の場合は前記動力源のイナーシャを考慮して定められた前記断続装置の伝達トルクを前記推定負荷トルクとし、アクセル操作量がその判定値より小さい場合は前記断続装置の係合トルクを前記推定負荷トルクとすることを特徴とする。
第3発明は、第1発明または第2発明の車両用無段変速機の制御装置において、(a) 前記走行用の動力源には流体継手が接続されており、(b) 前記断続装置が接続状態の場合に、前記流体継手の出力トルクを基本にして前記推定負荷トルクを算出する接続状態負荷トルク算出手段を備えていることを特徴とする。
【0007】
第4発明は、第1発明〜第3発明の何れかの車両用無段変速機の制御装置において、前記断続装置は、車両を前進させる前進状態、後退させる後進状態、および動力伝達を遮断する遮断状態とに切り換えることができる前後進切換装置の構成要素である摩擦係合装置であることを特徴とする。
【0008】
第5発明は、第1発明〜第4発明の何れかの車両用無段変速機の制御装置において、前記無段変速機は、溝幅が可変の一対のプーリと、その一対のプーリに巻き掛けられて摩擦力により動力伝達を行う伝動ベルトとを有するベルト式無段変速機で、そのプーリが伝動ベルトを挟圧するベルト挟圧力が前記推定負荷トルクに基づいて制御されることを特徴とする。
【0009】
【発明の効果】
このような車両用無段変速機の制御装置においては、断続装置が遮断状態から接続状態へ切り換えられる際には、その接続に伴って無段変速機に作用する動力源のイナーシャを考慮して定められた断続装置の伝達トルクを推定負荷トルクとして摩擦力が制御されるため、実際の負荷トルクと推定負荷トルクとの誤差が小さくなり、摩擦力が適切に制御されて滑りを防止しつつ摩擦によるエネルギー損失が低減される。すなわち、断続装置の係合過程(スリップ状態)では、断続装置の伝達トルク(係合トルクに対応)が推定負荷トルクとされることにより、無段変速機の摩擦力が低減されてエネルギー損失が低減される一方、断続装置の急係合などで動力源のイナーシャが無段変速機に作用しても、それに起因する無段変速機の滑りを防止することができるのである。
【0010】
第3発明では、断続装置が完全係合させられた接続状態では、流体継手の出力トルクを基本にして推定負荷トルクを算出するようになっているため、接続状態においても無段変速機の滑りを防止しつつ摩擦力が必要最小限に制御されてエネルギー損失が低減される。
【0011】
無段変速機としてベルト式無段変速機が用いられている第5発明では、断続装置の接続切換時に動力源のイナーシャに起因するベルト滑りが防止されて寿命が向上するとともに、係合過程ではその係合トルクに応じてベルト挟圧力が制御されることにより、過度の摩擦力によるエネルギー損失が低減される。
【0012】
【発明の実施の形態】
走行用の動力源としては、燃料の燃焼によって駆動力を発生するガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関、或いは電気エネルギーで作動する電動モータなど、種々の動力源を採用できる。内燃機関および電動モータの両方を走行用の動力源として備えていても良い。
【0013】
摩擦力を介して動力伝達を行うとともに摩擦力を制御できる無段変速機としては、第5発明のようにベルト式無段変速機が好適に用いられるが、トロイダル型無段変速機などの他の無段変速機を採用することもできる。ベルト挟圧力などの摩擦力の制御や変速比の制御は、例えば油圧シリンダなどの油圧制御で行うように構成され、変速比を制御する変速制御装置および摩擦力を制御する挟圧力制御装置は、油圧を制御する電磁開閉弁やリニアソレノイド弁などを含んで構成される。
【0014】
ベルト式無段変速機の変速制御は、一対のプーリの何れか一方の油圧制御によって行われ、挟圧力制御は他方のプーリの油圧制御によって行われるが、一般に変速制御は動力源側に位置する入力側可変プーリが用いられ、ベルト挟圧力の制御は駆動輪側に位置する出力側可変プーリが用いられる。
【0015】
変速制御装置は、例えば変速条件に従って目標変速比を求めて実際の変速比が目標変速比になるように制御したり、車速や出力軸回転速度などに応じて入力側の目標回転速度を求め、実際の入力軸回転速度が目標回転速度になるようにフィードバック制御したりするなど、種々の態様を採用できる。入力側の目標回転速度は目標変速比に対応し、必ずしも目標変速比そのものを求める必要はない。
【0016】
上記変速条件は、例えばアクセル操作量などの運転者の出力要求量および車速(出力軸回転速度に対応)などの運転状態をパラメータとするマップや演算式などによって設定される。なお、常に自動的に変速比が制御される必要はなく、所定車速以上の走行中など一定の条件下で運転者が手動操作で任意に変速比を変更できるようになっていても良い。
【0017】
挟圧力制御装置は、例えば(a) 無段変速機に作用する推定負荷トルクを算出する推定負荷トルク算出手段と、(b) その推定負荷トルクに基づいて無段変速機の滑りを防止する上で必要な最低限の理論必要摩擦力を算出する理論必要摩擦力算出手段と、(c) 滑りに関与する物理量の変化特性やばらつきに応じて安全率を算出する安全率算出手段と、(d) 理論必要摩擦力を基準にして安全率を加味して最終の必要摩擦力を算出する必要摩擦力算出手段と、を有して構成される。油圧制御で摩擦力を制御する場合、上記理論必要摩擦力算出手段は、例えば理論必要油圧を算出する理論必要油圧算出手段にて構成され、必要摩擦力算出手段は、例えば必要油圧を算出する必要油圧算出手段にて構成される。
【0018】
断続装置は、例えば動力源と無段変速機との間に配設されるが、無段変速機と駆動輪との間に配設されていても良い。また、この断続装置は、直結クラッチや反力を受ける反力ブレーキなどで、油圧式の摩擦係合装置が好適に用いられる。
【0019】
断続装置の遮断状態から接続状態への切換えは、例えば車両を発進させるために運転者の操作に従って行われ、車両の停止状態で行われる場合が多いが、惰性走行時などの車両走行中に行われる場合も含む。車両停止時に接続状態へ切り換えられると、例えば動力源として内燃機関が設けられている場合、内燃機関の回転が停止してしまうため、トルクを伝達するとともに相対回転を許容するトルク伝達装置を無段変速機と動力源との間に配設することになる。トルク伝達装置としては、第3発明のようにトルクコンバータやフルードカップリング等の流体継手が好適に用いられるが、例えば所定の低車速以下ではクリープトルクを発生させるためにスリップ係合させられるとともに、所定の車速以上で完全係合させられる電磁クラッチ(発進クラッチ)などを用いることも可能である。本発明は走行中の断続装置の切換えのみに適用することも可能で、上記トルク伝達装置は必ずしも必須ではない。
【0020】
接続切換時負荷トルク算出手段によって算出される断続装置の伝達トルクは、例えば遮断状態から接続状態への切換え開始時からの経過時間をパラメータとして予め実験等によって定められたマップや演算式などを用いて求められる。動力源のイナーシャは回転速度などによって異なるため、最も大きなイナーシャが発生する場合を想定して上記マップ等を設定するか、或いはエンジン回転速度やアクセル操作量(運転者の出力要求量)などのイナーシャに関与する物理量をパラメータとしてマップ等を設定することが望ましい。
【0021】
断続装置の係合過程(スリップ状態)では、断続装置の係合トルクが伝達トルクに対応するため、例えば断続装置にアキュムレータが接続されている場合はその油圧特性に応じて上記マップ等を設定すれば良いし、リニアソレノイド弁によって油圧を直接制御する場合は、指令値を用いて算出することもできる。
【0022】
動力源のイナーシャが影響するのは、例えば係合過程でアクセルが踏込み操作されて完全係合するまでの時間が長くなり、係合ショックを抑制するために設けられたアキュムレータが作動端に達して係合トルクが急に増加する際に断続装置が急に完全係合させられる場合であるため、通常のアキュムレータの作動範囲(係合トルクの漸増範囲)内で完全係合させられる場合と場合分けして伝達トルクを算出する。具体的には、断続装置の係合過程でアクセル操作量などの運転者の出力要求量が所定値以上になったか否か、或いは動力源の回転速度が所定値以上になったか否か、などにより係合トルクの漸増範囲内で完全係合するか否かを判断し、漸増範囲内で完全係合する場合は動力源のイナーシャを考慮することなく定められたマップなどで伝達トルク(係合トルクに対応)を求め、漸増範囲内で完全係合しない場合は動力源のイナーシャを考慮して定められたマップなどで伝達トルクを求めるのである。リニアソレノイド弁を用いて直接圧制御する場合も、アキュムレータと同様に所定時間を経過すると油圧を急に高くするようになっているのが普通であり、同様の制御を適用できる。
【0023】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10の骨子図である。この車両用駆動装置10は横置き型で、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、走行用の動力源として用いられる内燃機関としてエンジン12を備えている。エンジン12の出力は、トルクコンバータ14から前後進切換装置16、ベルト式無段変速機(CVT)18、減速歯車20を介して差動歯車装置22に伝達され、左右の駆動輪24L、24Rへ分配される。
【0024】
エンジン12は、吸入空気量を電気的に調整する電気式スロットル弁30を備えており、運転者の出力要求量を表すアクセル操作量θACC などに応じてエンジンECU(電子制御ユニット)110(図2参照)により電気式スロットル弁30の開閉制御や燃料噴射制御等のエンジン出力制御が行われることにより、エンジン12の出力が増減制御される。また、エンジン12の吸気管31にはブレーキブースタ32が接続され、吸気管31内の負圧によってブレーキペダル33の踏込み操作力(ブレーキ力)を助勢するようになっている。
【0025】
トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車14p、およびタービン軸34を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tを備えており、流体を介して動力伝達を行う流体継手である。また、それ等のポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tの間にはロックアップクラッチ26が設けられ、それ等を一体的に連結して一体回転させることができるようになっている。上記ポンプ翼車14pには、ベルト式無段変速機18を変速制御したりベルト挟圧力を発生させたり、或いは各部に潤滑油を供給したりするための油圧を発生する機械式のオイルポンプ28が設けられている。
【0026】
前後進切換装置16は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、トルクコンバータ14のタービン軸34はサンギヤ16sに連結され、ベルト式無段変速機18の入力軸36はキャリア16cに連結されている。そして、キャリア16cとサンギヤ16sとの間に配設された直結クラッチ38が係合させられると、前後進切換装置16は一体回転させられてタービン軸34が入力軸36に直結され、前進方向の駆動力が駆動輪24R、24Lに伝達される。リングギヤ16rとハウジングとの間に配設された反力ブレーキ40が係合させられるとともに上記直結クラッチ38が開放されると、入力軸36はタービン軸34に対して逆回転させられ、後進方向の駆動力が駆動輪24R、24Lに伝達される。また、直結クラッチ38および反力ブレーキ40が共に開放されると、エンジン12とベルト式無段変速機18との間の動力伝達が遮断される。直結クラッチ38および反力ブレーキ40は何れも油圧式摩擦係合装置で、エンジン12とベルト式無段変速機18との間の動力伝達経路を接続、遮断できる断続装置に相当する。
【0027】
ベルト式無段変速機18は、上記入力軸36に設けられたV溝幅が可変の入力側可変プーリ42と、出力軸44に設けられたV溝幅が可変の出力側可変プーリ46と、それ等の可変プーリ42、46に巻き掛けられた伝動ベルト48とを備えており、可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。可変プーリ42、46は、V溝幅を変更する油圧シリンダを備えて構成されており、入力側可変プーリ42の油圧シリンダの油圧が変速制御回路50(図2参照)によって制御されることにより、両可変プーリ42、46のV溝幅が変化して伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が連続的に変化させられる。
【0028】
図3は、上記変速制御回路50の一例で、変速比γを小さくするアップシフト用の電磁開閉弁52および流量制御弁54と、変速比γを大きくするダウンシフト用の電磁開閉弁56および流量制御弁58とを備えている。そして、アップシフト用の電磁開閉弁52がCVTコントローラ80(図2参照)によりデューティ制御されると、モジュレータ圧PMを減圧した所定の制御圧PVUが流量制御弁54に出力され、その制御圧PVUに対応して調圧されたライン圧PLが供給路60から入力側可変プーリ42の油圧シリンダに供給されることにより、そのV溝幅が狭くなって変速比γが小さくなる。また、ダウンシフト用の電磁開閉弁56がCVTコントローラ80によりデューティ制御されると、モジュレータ圧PMを減圧した所定の制御圧PVDが流量制御弁58に出力され、その制御圧PVDに対応してドレーンポート58dが開かれることにより、入力側可変プーリ42内の作動油が排出路62から所定の流量でドレーンされてV溝幅が広くなり、変速比γが大きくなる。なお、変速比γが略一定で入力側可変プーリ42に対する作動油の供給が必要ない場合でも、油漏れによる変速比変化を防止するため、流量制御弁54は所定の流通断面積でライン油路64と供給路60とを連通させ、所定の油圧を作用させるようになっている。
【0029】
また、出力側可変プーリ46の油圧シリンダの油圧は、伝動ベルト48が滑りを生じないように、挟圧力制御回路70(図2参照)により調圧制御される。図4は、挟圧力制御回路70の一例で、前記オイルポンプ28によりオイルタンク72から汲み上げられた作動油は、リニアソレノイド弁74に供給されるとともに、挟圧力制御弁76を経て出力側可変プーリ46の油圧シリンダに供給される。リニアソレノイド弁74は、CVTコントローラ80によって励磁電流が連続的に制御されることにより、オイルポンプ28から供給された作動油の油圧を連続的に調圧して、制御圧PS を挟圧力制御弁76に出力するもので、挟圧力制御弁76から出力側可変プーリ46の油圧シリンダに供給される作動油の油圧PO は、制御圧PS が高くなるに従って上昇させられ、それに伴ってベルト挟圧力すなわち可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力が増大させられる。
【0030】
リニアソレノイド弁74にはまた、カットバック弁78のON時に制御圧PS がフィードバック室74aに供給される一方、カットバック弁78のOFF時には、その制御圧PS の供給が遮断されてフィードバック室74aが大気に開放されるようになっており、カットバック弁78のON時にはOFF時よりも制御圧PS 、更には油圧PO の特性が低圧側へ切り換えられる。カットバック弁78は、前記トルクコンバータ14のロックアップクラッチ26のON(係合)時に、図示しない電磁弁から信号圧PONが供給されることによりONに切り換えられるようになっている。
【0031】
図2のCVTコントローラ80はマイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、上記ベルト式無段変速機18の変速制御や挟圧力制御を行うもので、シフトポジションセンサ82、アクセル操作量センサ84、エンジン回転速度センサ86、出力軸回転速度センサ88、入力軸回転速度センサ90、タービン回転速度センサ92、油温センサ94、油圧センサ96などから、それぞれシフトレバー98(図5参照)のシフトポジションSFTP、アクセルペダルの操作量θACC 、エンジン回転速度NE、出力軸回転速度NOUT(車速Vに対応)、入力軸回転速度NIN、タービン回転速度NT、ベルト式無段変速機18の油圧回路の油温TO 、出力側可変プーリ46の油圧PO などを表す信号が供給されるようになっている。
【0032】
シフトレバー98は運転者によって選択操作されるもので、シフトポジションSFTPとして前進走行用のDレンジ、後進走行用のRレンジ、動力伝達を遮断するNレンジ、駐車用のPレンジを備えている。そして、そのシフトレバー98には図5に示すマニュアルシフトバルブ100がケーブル等を介して接続されており、そのマニュアルシフトバルブ100により油路が切り換えられることにより、Dレンジでは前記前後進切換装置16の反力ブレーキ40が開放されるとともに直結クラッチ38が係合させられ、Rレンジでは直結クラッチ38が開放されるとともに反力ブレーキ40が係合させられ、NレンジおよびPレンジでは直結クラッチ38および反力ブレーキ40が共に開放される。反力ブレーキ40には、マニュアルシフトバルブ100からリバースコントロールバルブ102を経て作動油が供給されるようになっており、リバースコントロールバルブ102は、シフトレバー98がRレンジへ操作され時だけ信号圧PR の供給が停止されてON状態になり、反力ブレーキ40への作動油の供給が許容されるようになっている。また、直結クラッチ38および反力ブレーキ40には、それぞれアキュムレータ104、106が接続され、N→DシフトやN→Rシフトでそれ等のクラッチ38やブレーキ40が係合させられて駆動輪24L、24Rへ駆動力が伝達される際のシフトショックが軽減されるようになっている。なお、Pレンジでは、図示しないメカニカルパーキングロック機構により駆動輪24R、24Lの回転が機械的に阻止されるようになっている。
【0033】
前記CVTコントローラ80にはまたエンジンECU(電子制御ユニット)110が接続され、ベルト式無段変速機18の変速制御やベルト挟圧力の制御に必要な各種の情報、例えばエンジン12の吸入空気量Q、エンジン水温THW、オルタネータの電気負荷ELS、アクセルOFFのコースト走行時にエンジン12に対する燃料供給を停止するフューエルカットの有無、減筒運転の有無、エアコンのON・OFF、ロックアップクラッチ26のON・OFF、などに関する信号が供給されるようになっている。
【0034】
また、CVTコントローラ80は、図6に示すように機能的に変速制御手段112、入力状態判断手段114、挟圧力制御手段116を備えており、挟圧力制御手段116は更に推定入力トルク算出手段118、理論必要油圧算出手段120、安全率算出手段122、必要油圧算出手段124を備えている。
【0035】
変速制御手段112は、図7に示すように運転者の出力要求量を表すアクセル操作量θACC および車速V(出力軸回転速度NOUTに対応)をパラメータとして予め定められた変速マップから入力側の目標回転速度NINTを算出し、実際の入力軸回転速度NINが目標回転速度NINTと一致するように、それ等の偏差に応じてベルト式無段変速機18の変速制御、具体的には変速制御回路50の電磁開閉弁52、56をフィードバック制御して、入力側可変プーリ42の油圧シリンダに対する作動油の供給、排出を制御する。図7のマップは変速条件に相当するもので、車速Vが小さくアクセル操作量θACC が大きい程大きな変速比γになる目標回転速度NINTが設定されるようになっている。また、車速Vは出力軸回転速度NOUTに対応するため、入力軸回転速度NINの目標値である目標回転速度NINTは目標変速比に対応し、ベルト式無段変速機18の最小変速比γmin と最大変速比γmax の範囲内で定められている。上記変速マップは、CVTコントローラ80のマップ記憶装置(ROMなど)126に予め記憶されている。この変速制御手段112および変速制御回路50を含んで変速制御装置が構成されている。
【0036】
入力状態判断手段114および挟圧力制御手段116は、エンジン12側から駆動輪24L、24R側へ動力が伝達される駆動状態か、駆動輪24L、24R側からエンジン12側へ動力が伝達される被駆動状態(エンジンブレーキ状態)か、断続装置としての直結クラッチ38および反力ブレーキ40が共に開放されている遮断状態か、に場合分けしてベルト挟圧力すなわち出力側可変プーリ46の油圧PO を制御するためのもので、具体的には図8のフローチャートに従って信号処理を行う。図8のフローチャートは所定のサイクルタイムで繰り返し実行されるもので、ステップS2〜S4は入力状態判断手段114によって実行され、ステップS5−1〜S5−4は挟圧力制御手段116の推定入力トルク算出手段118によって実行され、ステップS6−1〜S6−4は挟圧力制御手段116の理論必要油圧算出手段120によって実行され、ステップS7−1〜S7−4は挟圧力制御手段116の安全率算出手段122によって実行され、ステップS8は挟圧力制御手段116の必要油圧算出手段124によって実行される。
【0037】
図8のステップS1では、ベルト挟圧力の制御に必要な各種の信号を読み込み、ステップS2では、シフトポジションSFTPがNまたはPレンジか否か、言い換えれば直結クラッチ38および反力ブレーキ40が共に開放された遮断状態か否かを判断する。そして、NまたはPレンジの場合はステップS5−1以下を実行することにより、遮断状態の挟圧力制御を行う一方、NまたはPレンジでない場合はステップS3でアイドル接点がONか否かを判断する。アイドル接点は前記アクセル操作量センサ84に内蔵されていて、アクセル操作量θACC が略0のアクセルOFF時にONになるもので、アイドル接点がOFFの場合は通常は駆動状態であり、ステップS5−4以下を実行して駆動状態の挟圧力制御を行う。また、アイドル接点がONの場合は通常は被駆動状態であるが、更にステップS4でフューエルカットの有無を判断し、フューエルカット時にはステップS5−2以下を実行してフューエルカットON被駆動状態の挟圧力制御を行う一方、フューエルカットが実施されていない場合は、ステップS5−3以下を実行してフューエルカットOFF被駆動状態の挟圧力制御を行う。
【0038】
本実施例では、アイドル接点がONかOFFかによって駆動状態か被駆動状態かを判断するようになっているが、アイドル接点がONの場合でもクリープ走行等の低車速では駆動状態であるため、例えばタービン回転速度NTとエンジン回転速度NEとを比較することにより、駆動状態か被駆動状態かをより正確に判断するようにしても良い。すなわち、NT≦NEであれば駆動状態で、NT>NEであれば被駆動状態と判断するのである。アイドル接点がOFFのアクセル踏込み操作時でも、同様にして駆動状態か被駆動状態かをより正確に判断することができる。
【0039】
ステップS5−1、S5−2、S5−3、S5−4は、何れも推定入力トルクTINTを算出するステップで、NまたはPレンジの場合のステップS5−1を除くステップS5−2、S5−3、S5−4は図9に示すフローチャートに従って信号処理を行う。図9のステップR1では、直結クラッチ38または反力ブレーキ40が係合過渡時か否かを、例えばそれ等の油圧やタービン回転速度NT、或いはN→Dシフト時またはN→Rシフト時からの経過時間などに基づいて判断し、係合過渡時であればステップR2以下を実行し、係合過渡時でなければステップR4以下を実行する。
【0040】
係合過渡時でない場合、すなわち直結クラッチ38または反力ブレーキ40が完全係合させられている場合に実行するステップR4では、吸入空気量Qおよびエンジン回転速度NEに基づいて、予め設定されたマップや演算式に従って推定エンジントルクTEを算出する。但し、被駆動状態では正確に算出できないため、エンジン12のポンプ作用による推定エンジントルクTEをフューエルカットの有無などに応じて予めマップなどで設定しておく。ステップR5では、トルクコンバータ14の速度比e(=出力回転速度/入力回転速度)に基づいて、予め設定されたマップや演算式に従ってトルク比を算出し、上記推定エンジントルクTEに掛算するとともに、入力軸回転速度NINの変化によって発生するエンジン12等のイナーシャトルク分を加算することにより、推定タービントルクTTを算出する。ロックアップクラッチ26がON(係合)の場合は、トルク比=1.0である。そして、ステップR6で、推定タービントルクTTを推定入力トルクTINにする。なお、後進時は前後進切換装置16を構成している遊星歯車装置のギヤ比を考慮して推定入力トルクTINが設定される。
【0041】
本実施例では、CVTコントローラ80による一連の信号処理のうち、上記ステップR4、R5、R6を実行する部分が接続状態負荷トルク算出手段として機能しており、推定タービントルクTTは流体継手の出力トルクに相当し、推定入力トルクTINは推定負荷トルクに相当する。
【0042】
一方、係合過渡時に実行するステップR2では、シフトレバー98がDレンジかRレンジかに応じて、直結クラッチ38または反力ブレーキ40の係合トルクに基づいて、前後進切換装置16を構成している遊星歯車装置のギヤ比を考慮して予め定められたマップなどから入力軸36に伝達される伝達トルクTDを算出し、ステップR3でその伝達トルクTDを推定入力トルクTINにする。すなわち、N→DシフトまたはN→Rシフト直後の係合過程(スリップ状態)では、それ等のクラッチ38やブレーキ40の係合トルクが伝達トルクTDに対応し、その伝達トルクTDがベルト式無段変速機18への入力トルクになるため、係合過渡時においても適切な挟圧力制御を行うためには伝達トルクTDを求める必要がある。本実施例では、直結クラッチ38、反力ブレーキ40に何れもアキュムレータ104、106が接続されているため、それ等のアキュムレータ104、106の油圧特性に応じて定められたマップなどにより、N→DシフトまたはN→Rシフトからの経過時間などに基づいて算出できる。例えば図10は、直結クラッチ38が係合させられるN→Dシフト時のタイムチャートの一例で、係合トルクに対応するクラッチ係合油圧はアキュムレータ104の油圧特性に従って上昇させられるため、N→Dシフト時間t0 からの経過時間に基づいてクラッチ係合油圧から伝達トルクTDを求めることができる。機械的なアキュムレータ104、106を使用せず、リニアソレノイド弁などで係合油圧を直接制御する場合は、その指令値から係合トルクを算出することができる。図10の「入力トルク」は、ベルト式無段変速機18に対する入力トルクである。
【0043】
また、車両停止時のアクセルOFF状態でN→DまたはN→Rシフトが行われた場合には、それ等のアキュムレータ104、106の作動範囲である油圧漸増範囲内で滑らかに完全係合させられるが、その係合過程などでアクセルが踏込み操作されると完全係合するまでの時間が長くなり、アキュムレータ104、106が作動端に達して係合トルクが急に増加する際に急に完全係合させられ、エンジン12等のイナーシャの影響が大きくなる。すなわち、図10の実線はアクセル操作量θACC が略0のアクセルOFF時のもので、直結クラッチ38は、アキュムレータ104のピストンが後退させられる時間t1 〜t2 の油圧漸増範囲内で完全係合させられてタービン回転速度NTが0になるとともに、ベルト式無段変速機18への入力トルクは比較的滑らかに上昇させられるのに対し、一点鎖線はN→Dシフト直後にアクセルが踏込み操作された場合で、エンジン回転速度NE更にはタービン回転速度NTが吹き上がるため、時間t1 〜t2 の油圧漸増範囲内でクラッチ38が完全係合できず、アキュムレータ104のピストンが作動端に達してクラッチ係合油圧がライン圧PLまでステップ上昇させられる際に急係合させられるため、その係合時にエンジン12のイナーシャなどで入力トルクが急増する。このため、本実施例ではベルト滑りを回避する上で、そのようなアクセル踏込み操作を前提として、図10の入力トルクの欄に一点鎖線で示すような特性を有する伝達トルクマップが設定されている。この伝達トルクマップは、前記マップ記憶装置126に予め記憶されている。
【0044】
なお、エンジン12等のイナーシャを反映したアクセル操作量θACC やエンジン回転速度NEなどをパラメータとして伝達トルクマップを設定し、ベルト式無段変速機18への入力トルクに相当する伝達トルクTDを運転状態に応じて更に高い精度で算出できるようにすることも可能である。例えば、アクセルが踏込み操作されたか否かによって、図10の入力トルクの欄に実線および一点鎖線で示すような2種類の伝達トルクマップを設定し、アクセル操作の有無によりそれ等を使い分けるようにしても良い。このようにアクセル操作の有無で伝達トルクマップを使い分ける場合が請求項1の一実施態様である。
【0045】
また、前記ステップR1では、完全係合の際にエンジン12等のイナーシャによって発生するトルク変動時間も係合過渡時と判定し、ステップR2以下が実行されるようになっている。但し、例えば係合トルクの漸増範囲内(例えば図10の時間t2 に達するまで)にタービン回転速度NTなどから完全係合したと判断した場合は、直ちにステップR4へ移行するようにしても良いなど、種々の態様を採用できる。
【0046】
本実施例では、CVTコントローラ80による一連の信号処理のうち、上記ステップR2およびR3を実行する部分が接続切換時負荷トルク算出手段として機能しており、推定入力トルクTINは推定負荷トルクに相当する。
【0047】
図9のステップR7では、推定入力トルクTINを例えば図11に示すように入力状態に応じて別々に補正する。具体的には、駆動状態および被駆動状態では、エンジンフリクショントルク、オイルポンプ駆動トルク、エアコン駆動トルク、オルタネータ駆動トルクを考慮し、駆動状態(S5−4)ではそれ等のトルクを減算する一方、被駆動状態(S5−2、S5−3)ではそれ等のトルクを加算して、最終的な推定入力トルクTINTを算出する。すなわち、オイルポンプ28やエアコンのコンプレッサ、オルタネータ等の補機はエンジン12によって駆動されるため、駆動状態ではエンジン12の出力トルクからそれ等の駆動トルクを差し引いたトルクがベルト式無段変速機18側へ伝達されるのである。また、車軸からの逆トルクでエンジン12が回転駆動される被駆動状態では、上記オイルポンプ28等の補機もその逆トルクで回転駆動されることになり、その反力(回転抵抗)がベルト式無段変速機18の負荷になる。このため、エンジン12のトルク(ポンプ作用による回転抵抗)にそれ等のトルクを加算したトルクがベルト式無段変速機18の入力トルクになる。なお、これ等の補正を、推定タービントルクTT、或いは推定エンジントルクTEを算出する段階で行うようにしても良い。
【0048】
また、NレンジまたはPレンジの遮断状態の場合(S5−1)は、ベルト式無段変速機18への入力トルクが略0であるため、ベルト滑りを考慮する必要性が低く、別の設定方法が可能である。例えばエンジン停止時であれば、低温時のエンジン12の始動性を向上させるために、エンジン12の回転負荷になるオイルポンプ28の負荷が小さくなるように、比較的小さな推定入力トルクTINTを設定してベルト挟圧用の油圧を低圧にすることが望ましい。また、本実施例ではエンジン12の吸気管負圧を利用してブレーキ力を助勢するブレーキブースタ32を備えているため、Nレンジでも所定のブレーキ助勢力が得られるように所定の吸気管負圧を確保することが望ましく、電気式スロットル弁30の開き量が小さくなるように、比較的小さな推定入力トルクTINTを設定してベルト挟圧用の油圧を低圧にすることが望ましい。すなわち、ベルト挟圧用の油圧が高いと、オイルポンプ28を回転駆動するための負荷が大きくなるため、所定のアイドル回転速度を維持するために電気式スロットル弁30(またはアイドル回転速度制御用バルブ)を開き制御する必要があるが、このように電気式スロットル弁30を開いて吸入空気量を多くすると、吸気管負圧が低くなってブレーキ助勢力が低下してしまうのである。
【0049】
図8に戻って、ステップS6−1、S6−2、S6−3、S6−4は、何れも上記推定入力トルクTINTに基づいて理論必要油圧PBを算出する。この理論必要油圧PBは、理論必要ベルト挟圧力に対応するもので、ベルト滑りを防止できる最低必要油圧であり、入力側可変プーリ42から出力側可変プーリ46へ動力伝達する駆動状態の場合(S6−4)、入力側可変プーリ42のベルト掛かり径Rを用いて、基本的に次式(1) に従って求めることができる。Kは、プーリ面積や摩擦係数などのハード諸元、オイル密度などによって定まる係数で、ベルト掛かり径Rは変速比γから求めることができる。図13は、推定入力トルクTINT、変速比γ、および理論必要油圧PBの関係を示す概略図である。なお、(1) 式は簡略式で、遠心力などを考慮して更に厳密に求めることが望ましい。
PB=K×(TINT/R) ・・・(1)
【0050】
出力側可変プーリ46から入力側可変プーリ42へ動力伝達する被駆動状態の場合(S6−2、S6−3)は、入力側可変プーリ42側のベルト挟圧力を適切に制御する必要があるため、出力側可変プーリ46と入力側可変プーリ42との推力比αを予め定められたマップや演算式から求め、入力側可変プーリ42側で所定のベルト挟圧力が得られる出力側可変プーリ46の理論必要油圧PBを次式(2) に従って算出する。推力比αを求めるマップや演算式は、予め実験などにより変速比γをパラメータとして設定されており、前記マップ記憶装置126に記憶されている。
PB=K×α×(TINT/R) ・・・(2)
【0051】
また、NレンジまたはPレンジの遮断状態の場合(S6−1)は、推定入力トルクTINTそのものが正確でないとともに、エンジン12等のイナーシャがベルト式無段変速機18に影響しないためベルト滑りを考慮する必要性が低く、上記(1) 式、(2) 式のどちらを用いて理論必要油圧PBを算出しても良い。また、この他の演算式から理論必要油圧PBを算出しても良いが、この理論必要油圧PBの算出式に基づいて、所定の油圧になるように前記推定入力トルクTINTを設定することになる。推定入力トルクTINTを設定することなく、ステップS6−1で直接理論必要油圧PBを設定するようにしても良い。
【0052】
ステップS7−1、S7−2、S7−3、S7−4では、安全率SFを例えば図12に示すように駆動状態か被駆動状態かによって別々に算出する。安全率SFは、ベルト滑りに関与する物理量の変化特性やばらつきに拘らずベルト滑りが生じないように、前記理論必要油圧PBに掛算されるもので、1.0を基準にして所定の安全係数をそれぞれ加算して求める。具体的には、駆動状態の場合(S7−4)は、エンジントルクの変動に関する安全係数SF1 、エンジン12のフリクショントルクのばらつきに関する安全係数SF2 、伝動ベルト48と可変プーリ42、46との間の摩擦係数のばらつきと温度特性に関する安全係数SF3 、悪路や段差乗り越え時等の路面からの逆入力に関する安全係数SF4 、をそれぞれ1.0に加算して安全率SFを求める。また、被駆動状態の場合(S7−2、S7−3)は、前記推力比αのばらつきに関する安全係数SF5 を加算して安全率SFを算出するが、フューエルカット時にはエンジントルクの変動が無いため、上記安全係数SF1 を加算する必要はない。フューエルカットOFF時の被駆動状態の場合、すなわちステップS7−3では安全係数SF1 を加算すれば良い。図12の「○」は安全率SFに反映されることを意味し、「×」は安全率SFに反映されないことを意味し、「△」は、場合によって反映されることを意味する。
【0053】
上記エンジントルクの変動に関する安全係数SF1 は、(エンジントルク+トルク変動幅)/(エンジントルク)で求められるが、ロックアップクラッチ26のON(係合)時にはトルク変動が大きくなるため、ロックアップクラッチ26のON、OFFで場合分けし、ON時にはOFF時よりも大きな値にすることが望ましい。エンジン部品のフェールで減筒運転を行う場合もトルク変動が大きくなるため、正常時よりも大きな値にすることが望ましい。また、トルクコンバータ14のダンパーは、一般に2段折れ特性となっており、エンジントルクが折れ点トルクより大きいと振動が大きくなるため、エンジントルク(推定エンジントルクTE)が折れ点トルクよりも大きいか否かによって場合分けすることが望ましい。但し、被駆動状態ではエンジントルクが折れ点トルクを越えることはないため考慮する必要はない。その他の安全係数SF2 〜SF5 については、必ずしも場合分けする必要はなく、予め一定値を設定すれば良いが、必要に応じて場合分けすることも可能である。
【0054】
なお、NレンジまたはPレンジの遮断状態(S7−1)では、ベルト滑りを考慮する必要性が低く、ステップS7−1では安全率SF=1.0にすれば良い。
【0055】
そして、最後のステップS8では、ステップS6−1〜S6−4で求めた理論必要油圧PBにステップS7−1〜S7−4で求めた安全率SFを掛算して、必要油圧PBTを算出し、出力側可変プーリ46の油圧PO が必要油圧PBTになるように、挟圧力制御回路70のリニアソレノイド弁74に対する励磁電流を制御する。本実施例では、挟圧力制御手段116および挟圧力制御回路70を含んで挟圧力制御装置が構成されている。
【0056】
このようなベルト式無段変速機の制御装置においては、ベルト滑りに関与する物理量の変化特性やばらつきに応じて設定される安全率SFが駆動状態か被駆動状態かによって異なり、駆動状態ではエンジントルクの変動に関する安全係数SF1 が安全率SFに反映されるのに対して、被駆動状態(フューエルカットON時)ではそのエンジントルクの変動に関する安全係数SF1 が安全率SFに反映されないとともに、被駆動状態に特有の推力比αのばらつきに関する安全係数SF5 が安全率SFに反映されるため、駆動状態か被駆動状態かによって必要油圧PBTの制御範囲が変更されて、ベルト滑りを回避しつつベルト挟圧力が適切に制御されるようになり、エネルギー損失を低減して燃費を向上させることができる。
【0057】
また、本実施例では駆動状態、被駆動状態だけでなく、遮断状態か否かを判断して遮断状態の場合には必要油圧PBTを別個に設定して油圧PO を低圧に調圧するようになっているため、エンジン負荷が低減されて低温時のエンジン始動性が向上するとともに、Nレンジでもブレーキブースタ32によりブレーキ助勢力が好適に得られるようになる。
【0058】
また、本実施例ではフューエルカットの有無で被駆動状態が場合分けされており、フューエルカット時にはエンジントルクの変動に関する安全係数SF1 を加算することなく安全率SFが算出されるため、その分だけ必要油圧PBTの値が低くなってエネルギー損失が低減される。
【0059】
一方、本実施例ではN→DシフトまたはN→Rシフト時に直結クラッチ38または反力ブレーキ40が係合させられる際には、その係合に伴ってベルト式無段変速機18に作用するエンジン12等のイナーシャを考慮して定められた伝達トルクTDを推定入力トルクTINとして必要油圧PBTすなわちベルト挟圧力が制御されるため、実際の入力トルクと推定入力トルクTIN(或いはTINT)との誤差が小さくなり、ベルト挟圧力すなわち伝動ベルト48と可変プーリ42、46との間の摩擦力が適切に制御されて滑りを防止しつつ摩擦によるエネルギー損失が低減される。すなわち、クラッチ38やブレーキ40の係合過程(スリップ状態)では、その伝達トルクTD(係合トルクに対応)が推定入力トルクTINとされることにより、摩擦力が低減されてエネルギー損失が低減される一方、アクセルの踏込み操作などでクラッチ38やブレーキ40が急係合させられ、エンジン12等のイナーシャがベルト式無段変速機18に作用しても、それに起因するベルト式無段変速機18の滑りが防止されて伝動ベルト48の寿命が向上する。
【0060】
また、断続装置であるクラッチ38またはブレーキ40が完全係合させられた接続状態では、推定タービントルクTTを基本にして推定入力トルクTINTが算出されるようになっているため、接続状態においてもベルト式無段変速機18の滑りを防止しつつ摩擦力が必要最小限に制御されてエネルギー損失が低減される。
【0061】
次に、本発明の別の実施例を説明する。
図14は、前記図9のフローチャートの代わりに用いられて推定入力トルクTINTを算出するもので、ステップQ1およびQ2では、前記ステップR4、R5と同様にして推定エンジントルクTE、推定タービントルクTTを算出する。ステップQ3では、前記ステップR1と同様にして直結クラッチ38または反力ブレーキ40が係合過渡時か否かを判断し、係合過渡時でなければステップQ10で前記ステップR6と同様に推定タービントルクTTを推定入力トルクTINとする。CVTコントローラ80による一連の信号処理のうち、上記ステップQ1、Q2、およびQ10を実行する部分は接続状態負荷トルク算出手段として機能している。
【0062】
ステップQ3の判断がYESの場合、すなわち係合過渡時の場合には、ステップQ4でアクセル操作量θACC が予め定められた判定値A以上か否かを判断する。判定値Aは、アクセルの踏込み操作でエンジン12の回転速度NEが所定値以上になり、アキュムレータ104、106の油圧漸増範囲(作動範囲)内でクラッチ38やブレーキ40が完全係合できなくなって、完全係合時にエンジン12等のイナーシャがベルト式無段変速機18に対して大きく影響するか否かを判断するためのもので、Dレンジ、Rレンジ毎に予め一定値が設定されている。そして、判定値A以上の場合、すなわちエンジン12等のイナーシャがベルト式無段変速機18に対して大きく影響する場合は、ステップQ5、Q6を実行し、前記ステップR2、R3と同様にしてエンジン12等のイナーシャを考慮した伝達トルクTDを求めて推定入力トルクTINとする。
【0063】
一方、アクセル操作量θACC が判定値Aより小さい場合、すなわちエンジン12等のイナーシャがベルト式無段変速機18に殆ど影響しない場合は、ステップQ7を実行し、例えば前記図10のクラッチ係合油圧の欄に実線で示すような特性を有する係合トルクマップに従って係合トルクTKを算出する。そして、前記推定タービントルクTTと係合トルクTKとを比較し、TK≦TTすなわちクラッチ38やブレーキ40がスリップ係合させられている場合は、ステップQ9で係合トルクTKを推定入力トルクTINとし、TK>TTの場合、すなわち完全係合させられている場合は、ステップQ10で推定タービントルクTTを推定入力トルクTINにする。なお、上記係合トルクTKは、前後進切換装置16を構成している遊星歯車装置のギヤ比を考慮して求められる。また、油圧PO などから係合トルクTKを算出するようにしても良い。
【0064】
そして、最後のステップQ11では、前記ステップR7と同様に推定入力トルクTINから推定入力トルクTINTを算出する。
【0065】
本実施例では、アクセル操作量θACC により完全係合時にエンジン12等のイナーシャが影響するか否かを判断し、イナーシャが影響する場合は前記実施例と同様にイナーシャを考慮した伝達トルクTDを推定入力トルクTINとしてベルト挟圧力を制御するが、イナーシャが殆ど影響しない場合は係合トルクTKを算出し、推定タービントルクTT以下の場合はその係合トルクTKを推定入力トルクTINとしてベルト挟圧力を制御するため、イナーシャによるベルト滑りを防止しつつ、イナーシャが殆ど影響しない場合のベルト挟圧力を低減してエネルギー損失を更に低減することができる。
本実施例は請求項2の一実施態様に相当し、CVTコントローラ80による一連の信号処理のうち、ステップQ5〜Q9を実行する部分は接続切換時負荷トルク算出手段として機能している。
【0066】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用された車両用駆動装置の骨子図である。
【図2】図1の車両用駆動装置におけるベルト式無段変速機の制御系統を説明するブロック線図である。
【図3】図2の変速制御回路の具体例を示す回路図である。
【図4】図2の挟圧力制御回路の具体例を示す回路図である。
【図5】図1の前後進切換装置のクラッチおよびブレーキを係合、開放する油圧回路の一例を示す図である。
【図6】図2のCVTコントローラが備えている機能を説明するブロック線図である。
【図7】図6の変速制御手段によって行われる変速制御において目標回転速度NINTを求める際に用いられる変速マップの一例を示す図である。
【図8】図6の入力状態判断手段および挟圧力制御手段によって行われるベルト挟圧力制御を具体的に説明するフローチャートである。
【図9】図8のステップS5−2〜S5−4で推定入力トルクTINTを算出する際の信号処理を具体的に説明するフローチャートである。
【図10】N→Dシフトの際に係合させられる直結クラッチの係合油圧やタービン回転速度、入力トルクの変化を、アクセルOFF時とアクセルが踏込み操作された場合とを比較して示すタイムチャートである。
【図11】図9のステップR7で行われる推定入力トルクの補正の具体的内容を説明する図である。
【図12】図8のステップS7−1〜S7−4で算出される安全率SFの具体的内容を説明する図である。
【図13】図8のステップS6−1〜S6−4で算出される理論必要油圧PBと、推定入力トルクTINTおよび変速比γとの関係を示す図である。
【図14】図9の代わりに用いられて推定入力トルクTINTを算出するフローチャートを示す図である。
【符号の説明】
10:車両用駆動装置 12:エンジン(動力源) 14:トルクコンバータ(流体継手) 16:前後進切換装置 18:ベルト式無段変速機 38:直結クラッチ(断続装置) 40:反力ブレーキ(断続装置) 42:入力側可変プーリ 46:出力側可変プーリ 48:伝動ベルト 80:CVTコントローラ TD:伝達トルク TK:係合トルク TT:タービントルク(流体継手の出力トルク) TIN、TINT:推定入力トルク(推定負荷トルク)
ステップR2、R3、Q5、Q6、Q7、Q8、Q9:接続切換時負荷トルク算出手段
ステップR4、R5、R6、Q1、Q2、Q10:接続状態負荷トルク算出手段
Claims (5)
- 走行用の動力源と駆動輪との間の動力伝達経路に配設され、摩擦力を介して動力伝達を行うとともに該摩擦力を制御できる無段変速機と、
前記動力源と駆動輪との間の動力伝達経路を接続、遮断する断続装置と、
を有し、前記無段変速機の推定負荷トルクに基づいて該無段変速機の摩擦力を制御する車両用無段変速機の制御装置において、
前記断続装置が遮断状態から接続状態へ切り換えられる際には、該接続に伴って前記無段変速機に作用する前記動力源のイナーシャを考慮して定められた該断続装置の伝達トルクを前記推定負荷トルクとする接続切換時負荷トルク算出手段を有し、
且つ、該接続切換時負荷トルク算出手段は、アクセル操作された場合は前記動力源のイナーシャを考慮して定められた前記断続装置の伝達トルクを前記推定負荷トルクとし、アクセル操作されていない場合は前記動力源のイナーシャを考慮することなく定められた前記断続装置の伝達トルクを前記推定負荷トルクとする
ことを特徴とする車両用無段変速機の制御装置。 - 走行用の動力源と駆動輪との間の動力伝達経路に配設され、摩擦力を介して動力伝達を行うとともに該摩擦力を制御できる無段変速機と、
前記動力源と駆動輪との間の動力伝達経路を接続、遮断する断続装置と、
を有し、前記無段変速機の推定負荷トルクに基づいて該無段変速機の摩擦力を制御する車両用無段変速機の制御装置において、
前記断続装置が遮断状態から接続状態へ切り換えられる際には、該接続に伴って前記無段変速機に作用する前記動力源のイナーシャを考慮して定められた該断続装置の伝達トルクを前記推定負荷トルクとする接続切換時負荷トルク算出手段を有し、
且つ、該接続切換時負荷トルク算出手段は、アクセル操作量が予め定められた判定値以上の場合は前記動力源のイナーシャを考慮して定められた前記断続装置の伝達トルクを前記推定負荷トルクとし、アクセル操作量が該判定値より小さい場合は前記断続装置の係合トルクを前記推定負荷トルクとする
ことを特徴とする車両用無段変速機の制御装置。 - 前記走行用の動力源には流体継手が接続されており、
前記断続装置が接続状態の場合に、前記流体継手の出力トルクを基本にして前記推定負荷トルクを算出する接続状態負荷トルク算出手段を備えている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の車両用無段変速機の制御装置。 - 前記断続装置は、車両を前進させる前進状態、後退させる後進状態、および動力伝達を遮断する遮断状態とに切り換えることができる前後進切換装置の構成要素である摩擦係合装置である
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の車両用無段変速機の制御装置。 - 前記無段変速機は、溝幅が可変の一対のプーリと、該一対のプーリに巻き掛けられて摩擦力により動力伝達を行う伝動ベルトとを有するベルト式無段変速機で、該プーリが該伝動ベルトを挟圧するベルト挟圧力が前記推定負荷トルクに基づいて制御される
ことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の車両用無段変速機の制御装置。
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