JP4271311B2 - フェライト系耐熱鋼 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はフェライト系耐熱鋼に関するものであり、さらに詳しくは高温におけるクリープ破断特性、靱性ならびに耐水蒸気酸化特性に優れ、ボイラ鋼管等に好適なフェライト系高Cr鋼に関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】
火力発電システムのボイラ管のように高温特性が要求される用途では、比較的安価で高温特性に優れたフェライト系高Cr鋼が構成材料として多く採用されている。
ところで、上記システムでは発電効率を向上させるために蒸気条件の高温化が進められており、例えば630℃あるいは650℃(すなわち630℃以上)の温度条件が想定されている。このような動向に伴いボイラ管等に用いられる材料には、高温クリープ強度、靱性、および耐水蒸気酸化特性について一層の改善が要求されている。
近年、上記要求に従って高温強度を向上させるべく、WあるいはB等を添加した耐熱材料が開発されており、例えば特開平7−286246号、特開平8−85847号等には、高温クリープ強度、靱性ならびに耐酸化特性を向上させた耐熱鋼が提案されている。
【0003】
しかし、従来の改良鋼種においても上記高温特性は十分といえるものではなく、さらなる改良が望まれている。
本発明は上記事情を背景としてなされたものであり、従来材に比べ高温特性、特にクリープ特性、靱性、耐高温腐食特性、耐水蒸気酸化特性をさらに向上させたフェライト系耐熱鋼を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記課題を解決するため、合金元素の最適化をはかるとともにREM、Caを積極添加し、さらに脱酸剤、脱硫剤としてのSi、Mn、Al量を低減することにより、優れた耐酸化特性を有し、かつ高い高温強度、高靱性を維持した鋼を得ようとするものである。
【0005】
すなわち、上述の目的を達成するため、本発明のフェライト系耐熱鋼のうち第1の発明は、重量%で、C:0.07〜0.14%、Si:0.10〜0.25%、Ni:0.8%以下、Cr:9.5〜13.0%、Mo:0.1〜0.6%、V:0.14〜0.24%、Nb:0.03〜0.08%、W:1.8〜2.8%、Co:2.0〜3.5%、B:0.002〜0.008%、N:0.025%以下を含有し、さらに希土類元素:0.001〜0.03%、Ca:0.001〜0.03%の一種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、希土類元素含有量: REM(%) 、Ca含有量: Ca(%) 、Si含有量: Si(%) 、Mn含有量: Mn(%) 、Al含有量: Al(%) が下記関係式を満たす成分範囲にあることを特徴とする。
( 47 × REM(%) + 33 × Ca(%) )/( 1.5 × Si(%) + 0.9 × Mn(%) + 8 × Al(%) )≧1.0
【0006】
第2の発明のフェライト系耐熱鋼は、第1の発明のフェライト系耐熱鋼において、不可避的不純物のうち、Mn:0.25%以下、Al:0.010%以下を許容含有量とすることを特徴とする。
【0007】
第3の発明のフェライト系耐熱鋼は、第1または第2の発明のフェライト系耐熱鋼において、不可避的不純物のうち、S:0.010%以下、O:0.0050%以下を許容含有量とすることを特徴とする。
【0009】
以下に、本発明の成分限定理由を説明する。
C:0.07〜0.14%
Cは、炭化物生成元素と結びついて炭化物を形成し、高温強度を向上させるが0.07%未満であると強度が不十分であり、一方、0.14%を超えると炭化物が粗大化し高温性質を低下させるので、その範囲を0.07〜0.14%とする。なお、同様の理由で、下限を0.08%、上限を0.11%とするのが望ましい。
【0010】
Si:0.10〜0.25%
Siは、耐水蒸気酸化特性を向上させる作用があるので、含有させる。ただし、Si含有量が高いと鋼塊内部の偏析が増加するため、靭性が低下し、さらに高温長時間保持により炭化物、Laves相の凝集粗大化を促進させクリープ強度が低下するので、含有量の上限は0.25%とする。なお、同様の理由で上限を0.15%未満とするのが望ましい。下限は0.10%とする。
なお、Siを積極的に含有させる場合、耐水蒸気酸化特性に有効に働くSiが脱酸に使用されないように、酸化当量比(後述する)を厳密に管理する。
【0011】
Ni:0.8%以下
Niは焼入れ性を向上させ、またデルタフェライトの生成を抑制し、靭性を改善するので含有させるが、過剰に含有すると高温クリープ強さが低下するので上限を0.8%とする。なお、上記作用を確実に得るためには、0.20%以上含有させるのが望ましい。
上記と同様の理由で、下限を0.25%、上限を0.45%とするのが望ましい。
【0012】
Cr:9.5〜13.0%
Crは、この鋼種において焼入性、高温強度を高める基本合金成分であるが、過剰に含有させるとδフェライトが晶出し、また、粗大なLaves相の析出を助長して高温性質および靭性を劣化させる。これらの観点から、下限を9.5%、上限を13.0%とし、望ましくは下限を11.0%、上限を12.5%とする。
【0013】
Mo:0.1〜0.6%
Moは、焼戻軟化抵抗を高め、また高温強度を改善するために0.1%以上の含有が必要であるが、0.6%を超えて含有させても、それ以上の効果は期待できず、また有害なδフェライトが生成されてクリープ破断強度が低下するため、含有量を0.1〜0.6%の範囲に限定した。なお、同様の理由で下限を0.2%、上限を0.4%とするのが望ましい。
【0014】
V:0.14〜0.24%
Vは、安定した炭化物を形成し、クリープ強度を向上させる作用を有しており、これら作用を得るため0.14%以上含有させる。一方、過剰に含有させると延靭性が低下するので上限を0.24%とする。なお、同様の理由で下限を0.16%、上限を0.2%とするのが望ましい。
【0015】
Nb:0.03〜0.08%
Nbは、微細な炭窒化物を形成して高温強度を向上させ、さらに、Bと複合添加させることにより、一層クリープ強度を向上させるので含有させる。ただし、0.03%未満の含有では効果はなく、一方、0.08%を越えて含有させると炭窒化物が増大して延靭性を低下させるので、その範囲を0.03〜0.08%とする。
【0016】
W:1.8〜2.8%
Wは、固溶強化として、また、炭化物あるいはLaves相の形態で析出して、高温強度の向上に寄与する。さらに、Bと複合添加することにより、高温クリープ強度を向上させる。しかし、過剰に含有させると偏析傾向が増大するとともに延靭性を低下させる。
上記作用を考慮した上で、下限を1.8%、上限を2.8%とし、さらに望ましくは、下限を2.0%、上限を2.5%とする。
【0017】
Co:2.0〜3.5%
Coは、δフェライトの析出を抑えることで衝撃性質を向上させ、またクリープ破断強度を向上させるために含有させる。
上記作用を考慮して、Coを2.0%以上含有させる。但し、3.5%を越えて含有させてもその効果が飽和するので、上限は3.5%とする。なお、同様の理由で下限を2.5%、上限を3.0%とするのが望ましい。
【0018】
B:0.002〜0.008%
Bは、微量の含有で焼入れ性が増大し、靭性を向上させるとともに粒界および粒内の炭化物の析出凝集を抑え、高温クリープ強さを高める。さらに、適量のNb、W、Nと複合添加することにより、高温クリープ強さの向上に寄与する。しかし、0.002%未満の含有では上記効果が不十分である。また、0.008%を越えて含有すると高温クリープ延性を低下させ、さらに溶接性を悪化させるためその含有量を0.002〜0.008%に限定した。なお、同様の理由で下限を0.004%、上限を0.006%とするのが望ましい。
【0019】
N:0.025%以下
Nは、基地を強化するとともに、V、あるいはNbと炭窒化物を形成し、また、Bとの複合添加効果によりクリープ強度の向上に有効に作用する。ただし、過剰に含有すると粗大な窒化物を形成して、延靱性、及び高温クリープ強度が低下するので、その上限を0.025%とする。なお、同様の理由で上限を0.021%とするのが望ましい。また、上記作用を確実に得るためには0.014%以上含有させるのが望ましい。
【0020】
希土類元素:0.001〜0.03%
Ca :0.001〜0.03%の一種以上
REM(希土類元素)およびCaは、脱酸ならびに脱硫作用を有し、金属溶湯に単独あるいは複合添加することにより、鋼に内在する非金属介在物の低減、微細化、均一分散化を図ることができることから、靱性の向上および高温長時間でのクリープ延性の向上に寄与する。さらに、粒界の優先酸化、及び粒内への酸素の拡散を抑制し、高温で安定な酸化皮膜の形成を促進して耐高温腐食特性、及び耐水蒸気酸化特性の向上に寄与する。
上記効果を得るためには、各元素で0.001%以上の添加が必要であるが、0.03%を越えて含有させると酸化物が過剰に生成されてかえって靱性が低下するため、REMおよびCaの含有量を上記範囲に限定した。なお、同様の理由でそれぞれ下限を0.003%、上限を0.025%とするのが望ましく、さらに下限を0.01%、上限を0.015%とするのが一層望ましい。
【0021】
(不可避不純物)
Mn:0.25%以下
Mnは、一般的な鋼製造において脱酸、脱硫剤として使用されるが、MnはSと結合し粗大な非金属介在物を形成して靱性を低下させるとともに、靱性の経時劣化を助長させ、さらにクリープ強度を低下させるため、本願発明では積極的には添加せず、不純物として取り扱う。したがって、その含有量を極力低減するのが望ましいが、精錬技術の限界を考慮して、上限を0.25%に定めるのが望ましい。より好ましくは、0.10%未満に限定する。
【0022】
Al:0.010%以下
Alは、一般には脱酸剤として使用されるが、Alは靱性を低下させ、さらに窒素と結合して高温強化に寄与するVならびにNb炭窒化物を減少させてクリープ強度を低下させるので、本願発明では積極的には添加せず、不純物として取り扱う。したがってその含有量は極力低減するのが望ましいが、精錬技術の限界を考慮して、0.010%以下に制限するのを望ましいものとした。より好ましくは、0.005%以下に限定する。
【0023】
S:0.010%以下
Sはマクロ偏析の生成を助長し、また、Mn、Fe、Nb、V等と硫化物を形成して靱性を劣化させるものであり、また脱硫に必要なREM、Caの含有を過剰にしないという点からS含有量は極力低減させるのが好ましい。ただし、精錬技術の限界を考慮して、許容含有量として0.010%以下を望ましいものとした。
【0024】
O:0.0050%以下
OはSi、Mn、Al等と酸化物を形成して延靱性を劣化させるものであり、また脱酸に必要なREM、Caの含有を過剰にしないという点からO含有量は極力低減させることが好ましい。ただし精錬技術の限界を考慮して、その許容含有量として0.0050%以下を望ましいものとした。より好ましくは、0.0030%以下である。
【0025】
酸化当量比≧1.0
本願発明鋼では、脱酸、脱硫をSi、Mn、Alを用いず、REM、Caで行うことに特徴がある。その脱酸、脱硫効果は、酸化当量比が1.0未満になるとSi、Mn、Alによる脱酸、脱硫効果が相対的に大きくなり、Si、Mn、Alによる上記弊害が生じるとともにREM、Caによる上記効果が得られなくなる。また、REM、Caは、Si等よりも優先的に脱酸、脱硫に寄与する性質があるので、REM、Caの相対量を多くすることによりSi等の上記弊害の発生を抑制する作用がある。このため、上記比が1.0以上になるように上記成分の含有量を調整する。なお、上記比は大きいほどREM、Caの作用が相対的に大きくなるので、さらに2.0以上が望ましく、さらには3.0以上が一層望ましく、5.0以上がより一層望ましい。
ただし、酸化当量比は、(47×REM(%)+33×Ca(%))/(1.5×Si(%)+0.9×Mn(%)+8×Al(%))で示されるものとする。
【0026】
【発明の実施の形態】
本発明は、上記した成分に従って溶解、精錬、鋳込み等が行われるが、精錬に際しては、脱酸、脱硫をSi、Mn、Alを用いず、REM、Caで行う。その他工程においては常法を採用することができる。
鋳込まれた鋼には、熱間鍛錬あるいは圧延により所望の形状に加工した後、適宜の熱処理が施される。例えば、1000〜1150℃で焼鈍し、1000〜1200℃に加熱し強制冷却する焼準を行い、その後700〜800℃で焼戻を行う。
なお、焼鈍および焼準温度は、炭窒化物の固溶およびδフェライトの分解を行うために1000℃以上とするのが望ましい。この温度が高すぎると結晶粒の粗大化やδフェライトへの再変態が起きるので上限温度1150℃或いは1200℃とする。また焼戻により、均一な焼戻しマルテンサイト組織が得られ、さらに炭窒化物を微細析出させクリープ破断強度を向上させることができる。
【0027】
なお、本発明鋼は溶接性にも優れており、必要に応じて溶接を行うことができ、例えば、上記した一連の熱処理後、溶接を行い、その後、650℃〜760℃の応力除去焼鈍を行う。
得られた耐熱鋼は、高温クリープ破断特性、靱性、耐高温腐食特性ならびに耐水蒸気酸化特性に優れており、例えば火力発電システムのボイラ管に好適な材料としてに使用することができる。
なお、本発明鋼は、上記したように高温蒸気に晒されるボイラ管用の材料に好適であるが、本発明の適用がこの用途に限定されるものではなく、上記特性が全てまたは一部要求される各種の用途に適用することができ、該用途に従って上記の優れた特性が顕著なものとして得られる。
【0028】
【実施例】
実施例に供する試験材として表1に示す組成を有する合金(実施例および比較例)を用意した。これらの合金は溶解炉にて溶解後、REM、Ca(実施例または比較例)またはSi、Mn、Al(比較例)を用いて脱酸、脱硫を行い、その後、溶湯を型に鋳込んでそれぞれ25kg鋼塊を試験材として用意した。これらの試験材に熱間鍛造および所定の熱処理を施した。
なお、熱処理は、1070℃で20時間保持後炉冷の焼鈍を行い、1070℃で10時間保持後強制冷却の焼準を行い、さらに焼戻として740℃で16時間保持後炉冷した。
【0029】
得られた供試材について、機械的性質および高温クリープ強度を評価し、その結果を表2に示した。
なお、クリープ特性試験は、630℃、196MPaの条件で行った。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
表2から明らかなように本発明鋼は、高温クリープ特性および靱性がバランスよく、いずれも優れた特性を有している。
一方、比較鋼は、高温クリープ特性と靱性とのバランスが悪く、いずれか一方において明らかに劣っている。
【0033】
【発明の効果】
以上説明したように、本願発明のフェライト系耐熱鋼は、重量%で、C:0.07〜0.14%、Si:0.10〜0.25%、Ni:0.8%以下、Cr:9.5〜13.0%、Mo:0.1〜0.6%、V:0.14〜0.24%、Nb:0.03〜0.08%、W:1.8〜2.8%、Co:2.0〜3.5%、B:0.002〜0.008%、N:0.025%以下を含有し、さらに希土類元素:0.001〜0.03%、Ca:0.001〜0.03%の一種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、希土類元素含有量: REM(%) 、Ca含有量: Ca(%) 、Si含有量: Si(%) 、Mn含有量: Mn(%) 、Al含有量: Al(%) が、( 47 × REM(%) + 33 × Ca(%) )/( 1.5 × Si(%) + 0.9 × Mn(%) + 8 × Al(%) )≧1.0の関係式を満たす成分範囲にあるので、高温クリープ特性および靱性においてバランスよく優れた特性が得られるとともに高温腐食特性および水蒸気酸化特性においても優れた特性が得られ、より優れた高温特性が要求される火力発電システム等に好適な材料として提供することができる。
Claims (3)
- 重量%で、C:0.07〜0.14%、Si:0.10〜0.25%、Ni:0.8%以下、Cr:9.5〜13.0%、Mo:0.1〜0.6%、V:0.14〜0.24%、Nb:0.03〜0.08%、W:1.8〜2.8%、Co:2.0〜3.5%、B:0.002〜0.008%、N:0.025%以下を含有し、さらに希土類元素:0.001〜0.03%、Ca:0.001〜0.03%の一種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、希土類元素含有量: REM(%) 、Ca含有量: Ca(%) 、Si含有量: Si(%) 、Mn含有量: Mn(%) 、Al含有量: Al(%) が下記関係式を満たす成分範囲にあることを特徴とするフェライト系耐熱鋼。
( 47 × REM(%) + 33 × Ca(%) )/( 1.5 × Si(%) + 0.9 × Mn(%) + 8 × Al(%) )≧1.0
るフェライト系耐熱鋼 - 不可避的不純物のうち、Mn:0.25%以下、Al:0.010%以下を許容含有量とすることを特徴とする請求項1記載のフェライト系耐熱鋼
- 不可避的不純物のうち、S:0.010%以下、O:0.0050%以下を許容含有量とすることを特徴とする請求項1または2に記載のフェライト系耐熱鋼
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