JP4256622B2 - リン酸カルシウム多孔体の製造方法及びリン酸カルシウム多孔体製造器具 - Google Patents
リン酸カルシウム多孔体の製造方法及びリン酸カルシウム多孔体製造器具 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、リン酸カルシウム多孔体の製造方法及びリン酸カルシウム多孔体製造器具に関する。更に詳しくは、生体内に埋入したとき、生体組織が侵入し易く、且つ生体に吸収され易いリン酸カルシウム多孔体の製造方法並びにリン酸カルシウム多孔体製造器具に関する。本発明の製造方法により得られるリン酸カルシウム多孔体は、人工骨、人工歯根及び人工関節等の骨補填材などに広く利用される。
【0002】
【従来の技術】
近年、骨補填材として様々な材料が開発されている。それらのうちの多くは水酸アパタイト焼結体からなる骨補填材である。水酸アパタイトは、生体内の硬組織の無機成分と同じであり、生体親和性に優れている。しかし、焼結により得られる水酸アパタイト焼結体は、結晶性が高く、化学的に安定であるために、生体内で吸収されにくいことが分かっている。即ち、骨補填材として水酸アパタイト焼結体を生体内に長期間に渡って埋入しても、埋入した骨補填材(水酸アパタイト焼結体)がそのまま残存することとなる。このため、理想的には、骨欠損部に充填された骨補填材は、骨欠損部が修復されるまでの初期においては、骨欠損部の補強又は固定の役割を持ち、骨欠損部が修復されるにつれて骨補填材自身が生体骨に吸収されていくことが望ましい。
【0003】
このような骨補填材として、水和反応により得られるリン酸カルシウム系のものが知られている。このリン酸カルシウム系の骨補填材の主な成分として、低結晶性の水酸アパタイト、リン酸八カルシウム、リン酸水素カルシウム水和物等が挙げられる。これらのなかでも、特に低結晶性の水酸アパタイトは、体温に近い反応により得られるため、生体内で生成する硬組織の無機成分と類似している。そのため、生体親和性を有することはもちろんのこと、生体内への長期埋入により徐々に生体骨に吸収されていく。リン酸八カルシウムは、水酸アパタイトの前駆体として知られており、徐々に低結晶性の水酸アパタイトに転移していくため、生体内において同様に吸収される。また、リン酸水素カルシウム水和物は、水酸アパタイトよりも溶解性が高いために、より速く生体内に吸収され得る。
【0004】
更に、吸収性を高めるためには、生体内に埋入した際に骨補填材の内部に骨芽細胞、破骨細胞、血管といった生体組織が早期に侵入する必要がある。そのためには、骨補填材自身を多孔化し、その気孔が表面に開口しており、且つ、その孔径が数十〜数百μmである必要がある。このような骨補填材は、特開平7−31673号公報に記載された方法で作製することができる。これは、生体吸収性高分子をリン酸カルシウムペーストに混合した骨補填材であり、生体内に埋入し、硬化した骨補填材は、最初に生体吸収性高分子が分解吸収されて気孔が形成され、その後に孔内に組織が侵入するものである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、この方法においては、生体吸収性高分子を生体内で吸収させることにより気孔を形成させているため、気孔が形成されるまでに時間がかかり、結果的に骨補填材内部への生体組織の侵入が遅くなる。また、生体吸収性高分子はビーズ状、凹凸状等の形状で配合されているため、気孔構造にネックを生じさせることとなり、孔径数十〜数百μmを連続して有する気孔の形成ができないことがある。また、所定の孔径を連続して有する気孔を得るため生体吸収性高分子の配合量を多くすると、骨補填材自身の強度が低下してしまう恐れがある。
本発明は、上記課題を解決するものであり、生体内に埋入したとき、生体組織が侵入し易く、且つ生体に吸収され易いリン酸カルシウム多孔体の製造方法及びリン酸カルシウム多孔体製造器具を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明のリン酸カルシウム多孔体の製造方法は、リン酸カルシウム系粉体と、水を含有する硬化液とを混練してなるリン酸カルシウムペーストを、気孔形成用多孔板の一面側から他面側へと通過させることにより、連続気孔を有するリン酸カルシウム多孔体を形成することを特徴とする。
【0007】
本発明においては、上記リン酸カルシウム系粉体は、リン酸水素カルシウム粉体及びリン酸四カルシウム粉体を主成分とするリン酸カルシウム多孔体の製造方法とすることができる。
また、上記リン酸カルシウムペーストが、多糖類を含有するリン酸カルシウム多孔体の製造方法とすることができる。更に、上記多糖類は、デキストラン及びデキストラン硫酸塩の少なくとも一方であるリン酸カルシウム多孔体の製造方法とすることができる。
【0008】
本発明のリン酸カルシウム多孔体製造器具は、上記リン酸カルシウム多孔体の製造方法において用いられる製造器具であって、一端側にペースト押出口を有するシリンダと、該シリンダの内部を摺動するプランジャーと、該ペースト押出口に配設された上記気孔形成用多孔板とを備えることを特徴とする。
本発明においては、上記リン酸カルシウム系粉体と上記硬化液とを混練する機能を有するリン酸カルシウム多孔体製造器具とすることができる。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
上記「気孔形成用多孔板」は、多数の貫通孔を有し、上記「リン酸カルシウムペースト」を、一面側から他面側へと通過させた際に、通過方向に連続する気孔が形成されたリン酸カルシウム多孔体を形成できるものであればよい。
この気孔形成用多孔板の材質は、特に限定されるものではないが、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属、ポリオレフィン、ポリアミド及びポリカーボネート等の樹脂、天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム等の硬質ゴム、アルミナ、窒化珪素等のセラミックスなどが挙げられる。また、気孔形成用多孔板は、これらのうちの1種類の材質のみからなっていてもよいし、2種類以上の材質からなっていてもよい。
気孔形成用多孔板の作製方法は、特に限定されないが、例えば、上記の材質を直接ドリル加工やレーザー加工したり、射出成型法、光造形法等の種々の方法により作製することができる。
【0010】
また、気孔形成用多孔板の一面側及び他面側に開口する多数の貫通孔の他面側開口部の形状、大きさ、及び間隔等により、得られるリン酸カルシウム多孔体の気孔断面の形状、寸法及び気孔率を制御することができる。開口部の形状及び大きさは、一面側と他面側とで同一であってもよいし、異なっていてもよい。更に、気孔形成用多孔板の貫通孔の他面側における開口部の形状、大きさ及び間隔等は、多孔体の気孔の所要形状、寸法等により設定すればよいが、特に均等な気孔を形成するためには各々の貫通孔の間隔を一定にする必要がある。
【0011】
リン酸カルシウムペーストを気孔形成用多孔板の一面側から他面側へ通過させる手段は、特に限定されないが、気孔形成用多孔板を備えるリン酸カルシウム多孔体製造器具を用いてリン酸カルシウムペーストを押出することが好ましい。
このようなリン酸カルシウム多孔体製造器具としては、一端側にペースト押出口を有するシリンダと、シリンダの内部を摺動するプランジャーと、ペースト押出口に配設された前記気孔形成用多孔板とを備える多孔体製造器具(例えば、図1参照)を使用することができる。このような器具は、一般に市販されているシリンジのノズル側を切断し、気孔形成用多孔板を取り付けて形成することもできる。
【0012】
上記「リン酸カルシウム多孔体製造器具」の材質は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール及びポリエステル等の樹脂、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属、天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム等の硬質ゴムなどからなるものを用いることができる。なかでも、樹脂が好ましい。
上記「シリンダ」の内部の断面形状は、円形、多角形等であればよいが円形であることが好ましい。また、上記「プランジャー」の断面形状は、シリンダ内を摺動するものであるため、シリンダの内部の断面形状と同じである。
また、気孔形成用多孔板は、シリンダの一端側のペースト押出口に一体に形成されたものであってもよいし、別体であってもよい。また、別体の場合、取り付け、取り外しができるように装着されるものであってもよいし、ペースト押出口に接着剤等で固定されるものであってもよい。
【0013】
更に、リン酸カルシウム系粉体と、水を含有する硬化液とを混練する機能を有している製造器具を用いることもできる。このような製造器具としては、例えば、特開2000−237208号公報に記載されている器具と同様のものを用いることができ、この製造器具のペースト押出口に気孔形成用多孔板を配設したもの等(例えば、図2参照)が挙げられる。
このような混練機能を有する製造器具を用いた場合、リン酸カルシウム多孔体を得るまでの操作を1つのシリンダ内で行うことができ、リン酸カルシウム多孔体の製造工程中における雑菌や不純物の混入等を防ぐことができる。また、シリンダ内で混練するため、原料を無駄なく使用でき、必要な量のペースト、或いは多孔体が正確に得られる。
【0014】
また、上記の方法等により得られるリン酸カルシウム多孔体は、骨欠損部へ埋入する際、所望の形状に成形することができる。また、リン酸カルシウム多孔体製造器具からペーストを押出する際、骨欠損部に直接押出し、硬化させ、多孔体を形成してもよい。
【0015】
リン酸カルシウム多孔体に形成される気孔は、径方向の寸法が10〜1000μm(より好ましくは20〜800μm、更に好ましくは30〜500μm)であることが好ましい。この範囲の気孔であれば、生体内に埋入したとき、生体組織が侵入し易く、且つ生体に吸収され易いため好ましい。
【0016】
本発明における、上記「リン酸カルシウム系粉体」は特に限定されず、リン酸四カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム水和物、無水リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム水和物、ドロマイト、α−リン酸三カルシウム、β−リン酸三カルシウム、リン酸八カルシウム及びアパタイト等の粉体が用いられる。また、このリン酸カルシウム系粉体としては、2種以上を組み合わせることにより、アパタイト、リン酸水素カルシウム水和物、或いはリン酸八カルシウム等を生成するものを使用することもできる。これらのリン酸カルシウム系粉体は1種のみであってもよいし、2種以上が併含されていてもよい。また、炭酸カルシウム等のリン成分を含まないカルシウム化合物粉体が含有されていてもよい。
【0017】
更に、リン酸カルシウム系粉体の主成分が、リン酸水素カルシウム粉体及びリン酸四カルシウム粉体であることが好ましい。これら2種類の粉体の量比は特に限定されないが、モル比で8/2〜2/8、特に6/4〜4/6、更には等量程度とすることが好ましい。この範囲の量比とすることで、より好ましい硬化速度を有するリン酸カルシウムペーストとすることができる。
尚、リン酸水素カルシウム粉体とは、リン酸水素カルシウム二水和物及び無水リン酸水素カルシウムのうちの少なくとも一方の粉体を意味する。更に主成分とは、リン酸カルシウム系粉体を100質量%とした場合に、リン酸水素カルシウム粉体及びリン酸四カルシウム粉体が合計で60質量%以上、特に80質量%以上、更には実質的に100質量%であることを意味する。これら2種類の粉体が合計で60質量%以上であれば、適度な硬化速度を有し、充填性及び形態付与性に優れ、充填後は十分な速さで硬化するリン酸カルシウムペーストを容易に調製することができる。
【0018】
また、リン酸水素カルシウム粉体及びリン酸四カルシウム粉体を主成分とするリン酸カルシウム系粉体の調製方法は特に限定されず、どのような方法によって調製された粉体も使用することができる。例えば、リン酸水素カルシウム粉体及びリン酸四カルシウム粉体等を混合して得ることができる。このリン酸水素カルシウム粉体としては、例えば、無水リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム水和物として市販されているものをそのまま使用することもできるし、水和物を120℃程度の温度で加熱し、脱水したものを使用することもできる。また、リン酸四カルシウム粉体としては、例えば、等モル量の炭酸カルシウム及びリン酸水素カルシウム二水和物の混合物を焼成し、整粒したもの等を用いることができる。
【0019】
上記「水を含有する硬化液」は、純水、蒸留水等の水のみであってもよいし、多糖類等を含む水溶性高分子水溶液のような粘性のあるものであってもよい。硬化液とリン酸カルシウム系粉体との液粉比は、気孔形成用多孔板の開口部形状により異なるため、特に限定されないが、リン酸カルシウムペーストが気孔形成用多孔板を通過する程度の粘性となる液粉比とする必要がある。但し、過度に粘性が低い場合には、気孔形成用多孔板を通過したリン酸カルシウムペーストが、形成させた気孔を維持することができず、気孔が閉鎖する可能性があるため、好ましくない。
【0020】
硬化液としては、多糖類を含む水溶性高分子水溶液を用いることが好ましい。また、多糖類としては、各種の単糖類がポリグリコシル化し、高分子化したもの等を用いることができ、特に、デキストラン及びデキストラン硫酸塩のうちの少なくとも一方を用いることが好ましい。デキストラン及びその硫酸塩は、水に易溶性であるため、水に溶解し易く、容易に均質なリン酸カルシウムペーストとすることができる。
【0021】
本発明における多糖類等の水溶性高分子の配合量は、水を100質量%とした場合に、1〜150質量%とするのが好ましい。この場合、水溶性高分子が水に溶解してリン酸カルシウム系粉体の粒子間を接合するため、リン酸カルシウムペーストが適度な粘性を有するものとなり、気孔形成用多孔板を通過させた直後より硬化するまでの間、形態を維持するのに優れたリン酸カルシウムペーストとなる。水溶性高分子の含有量が1質量%未満の場合、水溶性高分子を含有させることによる特有の作用、効果が低減することがある。一方、含有量が150質量%を超える場合、それ以上の著しい効果が期待されない。
【0022】
多糖類等の水溶性高分子は、混練前にリン酸カルシウム系粉体及び硬化液の少なくとも一方に予め配合することができる。更に、これらは粉体と硬化液との混練時に配合することもできるが、予め硬化液に含有させて用いることが好ましい。
【0023】
また、リン酸カルシウムペーストの硬化速度は、混練等の操作をする環境の温度により左右されるものであり、実使用では、通常10〜30℃で操作が行われるが、リン酸カルシウムペーストの硬化を促進するために、30℃を超える雰囲気で硬化させてもよい。但し、リン酸カルシウムペースト中の生成物の結晶性を低く保つために200℃以下とすることが好ましい。特に、生体内の雰囲気と同じ37℃で硬化させることが好ましい。
【0024】
更に、リン酸カルシウムペーストを100質量%とした場合に、リン酸カルシウム系粉体及び硬化液の合計が80質量%以上であることが好ましく、この合計が85質量%以上、特に90質量%以上であってもよく、更には実質的に100質量%であってもよい。リン酸カルシウム系粉体及び硬化液の合計を80質量%以上とすることで、適度な硬化速度を有するリン酸カルシウムペーストを容易に調製することができる。
【0025】
本発明におけるリン酸カルシウムペーストには、上記リン酸カルシウム系粉体及び硬化液以外にも、硬化前の液中(体液等)での崩壊抑制等の観点から、多糖類、ポリアクリル酸ナトリウム及びカルボキシメチルセルロースナトリウム等の水溶性高分子を含有させることができる。この水溶性高分子は1種のみを含有させてもよいし、2種以上を併含させてもよい。更に、水溶性高分子としては多糖類が好ましい。
多糖類としては、上記した各種の単糖類がポリグリコシル化し、高分子化したもの等を用いることができ、特に、デキストラン及びデキストラン硫酸塩のうちの少なくとも一方を用いることが好ましい。
【0026】
また、気孔形成用多孔板を通過したリン酸カルシウムペーストを温度10〜40℃、好ましくは20〜40℃、相対湿度(以下、単に湿度という。)20〜100%、好ましくは70〜100%の雰囲気で静置することにより硬化させることができる。
更に、場合によっては気孔形成用多孔板を通過したリン酸カルシウムペーストを、10〜40℃、好ましくは30〜40℃の液体中で、好ましくは、疑似体液、生理食塩水、リンガル液等の生体液の組成を模倣した液体、或いは、血液等の生体内に存在する液体、更に好ましくは、感染症防止や適合性を考慮した場合、多孔体を埋入する患者さんより採取した液体の中で熟成させるか、或いは、直接、気孔形成用多孔板を通過したリン酸カルシウムペーストを生体内に埋入して、生体内で熟成させてもよい。
【0027】
尚、本発明のリン酸カルシウム多孔体には、用途に応じて、硫酸バリウム、次炭酸ビスマス等のX線造影剤を含有させることもできる。また、抗ガン剤、抗生物質等の薬物を混ぜ合わせ、薬物徐放性を付加させることもでき、タンパク質、ホルモン又は細胞等と複合化させ、骨欠損部へ充填した際の骨形成を更に促進させることもできる。
また、これらを混合させる操作は、上記リン酸カルシウム系粉体と水を含有する硬化液とを混練する前、混練中及び混練後の全ての工程において可能である。
【0028】
【実施例】
以下、実験例によって本発明を更に具体的に説明する。
[1]リン酸カルシウム多孔体製造器具の構成及びそれによる多孔体の製造方法(1)リン酸カルシウム多孔体製造器具の構成
図1に示すリン酸カルシウム多孔体製造器具Aは、ポリプロピレン製であり、シリンダ1と、プランジャー2と、気孔形成用多孔板3とを備える。
シリンダ1は長さが約60mm、直径が約10mmの円筒形状であり、シリンダ1の一端側のペースト押出口11には、取り外しが可能な気孔形成用多孔板3が嵌め込まれている。
【0029】
(2)リン酸カルシウム多孔体製造器具による多孔体の製造方法
上記のリン酸カルシウム多孔体製造器具Aを用いて、リン酸カルシウム多孔体を製造する方法を以下に示す。
▲1▼リン酸カルシウムペーストが気孔形成用多孔板から漏出するのを防ぐために、気孔形成用多孔板の外部から蓋を装着する。尚、気孔形成用多孔板を外しておき、蓋をシリンダ1のペースト押出口11に直接装着してもよい。
▲2▼予め調製しておいた、リン酸カルシウムペーストをシリンダ1内に投入し、蓋をシリンダ1から取り外す。その後、プランジャー2をシリンダ1に取り付け、ペースト押出口11側へ移動させ、シリンダ1内のペーストを、ペースト押出口11に装着された気孔形成用多孔板3を通過させて押出する。
▲3▼得られた成形体を硬化させ、連続する気孔を有するリン酸カルシウム多孔体を得る。
【0030】
[2]混練機能を有するリン酸カルシウム多孔体製造器具の構成及びそれによる多孔体の製造方法
(1)混練機能を有するリン酸カルシウム多孔体製造器具の構成
図2に示す混練機能を有するリン酸カルシウム多孔体製造器具Bは、ポリプロピレン製であり、シリンダ1と、プランジャー2と、気孔形成用多孔板3と、ストッパ4とを備える。またプランジャー2は、仕切り具21及びピストン22から構成されている。
シリンダ1は長さが約85mm、直径が約25mmの円筒形状であり、シリンダ1の一端側のペースト押出口11には、取り外しが可能な気孔形成用多孔板3が配設されている。
仕切り具21は略円柱状体であり、シリンダ1の開口部から挿入され、ストッパ4によって固定される。また、仕切り具21の中心部にはその周囲に雌ねじが設けられた貫通孔である雌ねじ部211が設けられている。更に、仕切り具21の側面にはストッパ4を挿入するための挿入穴が設けられている。また、仕切り具21の外周、及び雌ねじ部211には、それぞれ溝212、213が設けられており、これら溝212、213にはシリコーン樹脂製のOリング51、52が篏装されている。
【0031】
ピストン22は、シャフト部221と、混練部222と、ハンドル部223と、つまみ224とを備える。シャフト部221は雄ねじが設けられた丸棒状体である。この雄ねじは仕切り具21の雌ねじ部211と螺合し、シャフト部221が回転することでピストン22がシリンダ1内を上下に移動する。
ハンドル部223は、中心がシャフト部221の末端に固定された円盤状体である。このハンドル部223は上面側につまみ224が設けられており、シャフト部221を回転させるためのハンドルとなる。また、ハンドル部223はピストン22及び仕切り具21をシリンダ1のペースト押出口11側へ移動させ、シリンダ1内のペーストを押出するための指当てともなる。
ストッパ4は、シリンダ1内の仕切り具21が移動しないように固定するためのピンであり、このストッパ4をシリンダ1の側面に設けられた貫通孔と、仕切り具21の側面に設けられた挿入穴に差し込むことで仕切り具21がシリンダ1内の所定位置に固定される。
【0032】
(2)混練機能を有するリン酸カルシウム多孔体製造器具によるリン酸カルシウム多孔体の製造方法
上記の混練機能を有するリン酸カルシウム多孔体製造器具Bを用いて、リン酸カルシウム多孔体を製造する方法を以下に示す。
▲1▼混練する際にリン酸カルシウム系粉体等が気孔形成用多孔板3から漏出するのを防ぐために、気孔形成用多孔板3に外部から蓋6を装着する。尚、気孔形成用多孔板3を外しておき、蓋6をシリンダ1のペースト押出口11に直接装着してもよい。
▲2▼所定量のリン酸カルシウム系粉体及び水を含有する硬化液をシリンダ1内に投入する。続いて、仕切り具21をシリンダ1内に挿入し、ストッパ4で固定する。この仕切り具21は、予めピストン22のシャフト部221を雌ねじ部211に螺合させ、混練部222が仕切り具21に接触する位置まで移動した状態になっている。
▲3▼製造器具を10〜15秒程度軽く振る。次いで、つまみ224を持ってハンドル部223を回転させ、混練部222をペースト押出口11側まで移動させた後、ハンドル部223を反対方向に回転させて、混練部222を仕切り具21側まで移動させる操作を3〜10回程度繰り返し、リン酸カルシウム系粉体と水を含有する硬化液とを混練する。
▲4▼蓋6及びストッパ4をシリンダ1から取り外す。その後、図3に示すように、ハンドル部223を押え、仕切り具21と共にピストン22をペースト押出口11側へ移動させ、シリンダ1内のペーストを、ペースト押出口11に配設された気孔形成用多孔板3を通過させ、押出する。
▲5▼得られた成形体を硬化させ、連続する気孔を有するリン酸カルシウム多孔体を得る。
【0033】
上記調製方法に示すように、混練機能を有するリン酸カルシウム多孔体製造器具Bはハンドル部223を回すことによって、ねじ切りがされたシャフト部221が上下し、ピストン22先端の混練部222が回転することによってシリンダ1内のリン酸カルシウム系粉体及び水を含有する硬化液が混練される。
【0034】
[3]リン酸カルシウム多孔体の評価
実施例1
(1)リン酸カルシウムペーストの調製
等モル量のリン酸四カルシウム粉体と、無水リン酸水素カルシウム粉体とを混合してリン酸カルシウム系粉体を得た。その後、室温(約25℃)にて、得られたリン酸カルシウム系粉体と、50質量%デキストラン硫酸ナトリウム水溶液(硬化液)とを、液粉比(硬化液/リン酸カルシウム系粉体)0.3で混練し、リン酸カルシウムペーストを調製した。
【0035】
(2)リン酸カルシウム多孔体の製造
図4に示す開口部の形状を有する気孔形成用多孔板が押出口に配設された図1のリン酸カルシウム多孔体製造器具Aに、(1)で調製したリン酸カルシウムペーストを充填した後、押出し、硬化させ、押出方向に気孔が連続しているリン酸カルシウム多孔体(寸法;直径:10mm、長さ:40mm)を得た。
尚、図4に示す気孔形成用多孔板の開口部の形状は、一面側から他面側にかけて貫通孔の横断面形状が略一定であり、多孔体の気孔横断面が略円形となるように設計されている。即ち、各々の相隣る押出物は、それぞれの一部が押出方向に接合されており、押出物の間に、押出方向に連続する気孔が形成されている。
【0036】
(3)リン酸カルシウム多孔体の評価
(2)で得られたリン酸カルシウム多孔体における多数個所の断面を光学顕微鏡により観察し、そのうちの1つの断面図を図5に示す。また、その拡大図(2.5倍)を図6に示す。これらの結果によれば、直径約500μmの円形を有する気孔が全ての断面に形成されており、押出方向に気孔が連続形成されていることが確認できた。
【0037】
実施例2
リン酸カルシウム多孔体製造器具に、図7に示す開口部の形状を有する気孔形成用多孔板を配設したこと以外は、実施例1と同様にして、リン酸カルシウム多孔体(寸法;直径:10mm、長さ:40mm)を製造した。
尚、図7に示す気孔形成用多孔板の開口部の形状は、一面側から他面側にかけての貫通孔の横断面形状が略一定となっており、気孔横断面が略四角形となるように設計されている。即ち、各々の相隣る押出された四角形状のリン酸カルシウムペースト同士が、四角形の各頂点近傍において結合し、押出方向に連続する気孔が形成されている。
更に、得られた多孔体を実施例1と同様に評価した。この多孔体の光学顕微鏡による断面図の1つを図8に示す。また、その拡大図(2.5倍)の図9に示す。これらの結果によれば、一辺が約1000μmの四角形を有する気孔が全ての断面に形成されており、押出方向に気孔が連続形成されていることが確認できた。
【0038】
実施例3
図4に示す開口部の形状を有する気孔形成用多孔板が押出口に配設された図2の混練機能を有するリン酸カルシウム多孔体製造器具Bを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、リン酸カルシウム多孔体(寸法;直径:10mm、長さ:40mm)を製造し、評価した。この多孔体の光学顕微鏡による断面図の1つを図10に示す。また、その拡大図(2.5倍)の図11に示す。これらの結果によれば、直径約500μmの円形を有する気孔が全ての断面に形成されており、押出方向に気孔が連続形成されていることが確認できた。
【0039】
実施例4
図7に示す開口部の形状を有する気孔形成用多孔板を配設したこと以外は、実施例3と同様にして、リン酸カルシウム多孔体(寸法;直径:10mm、長さ:40mm)を製造し、評価した。この多孔体の光学顕微鏡による断面図の1つを図12に示す。また、その拡大図(2.5倍)の図13に示す。これらの結果によれば、一辺が約1000μmの四角形を有する気孔が全ての断面に形成されており、押出方向に気孔が連続形成されていることが確認できた。
【0040】
尚、本発明においては、上記の具体的な実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。例えば、気孔形成用多孔板としては、実施例で用いたもの以外にも、図14のものや、一面側(図15)及び他面側(図16)における開口部の形状が異なるもの等を用いることもできる。図14は、一面側から他面側にかけての貫通孔の横断面形状が略一定となっており、得られるリン酸カルシウム多孔体の気孔横断面が略四角形となるように設計されている。この開口部の間隔が狭く調整されているため、リン酸カルシウムペーストが気孔形成用多孔板の他面側から押出されると同時に、開口部から押出された相隣るリン酸カルシウムペーストが互いに結合し、ハニカム構造が形成される。また、図15及び図16は、1つの気孔形成用多孔板の一面側(図15)及び他面側(図16)における開口部の形状が異なっており、この場合は、一面側において、比較的大きな直径の開口部が形成されており、ペーストが通過し易く、他面側において開口部の形状が細い網目形状となっているため、気孔間の壁厚が薄いハニカム構造が形成される。
更に、気孔形成用多孔板は、2種類以上の材質からなっていてもよく、図17に示すように、金属メッシュの交差部に樹脂を付着させたものを使用することもできる。
【0041】
【発明の効果】
本発明のリン酸カルシウム多孔体の製造方法によれば、生体内に埋入したとき、生体組織が侵入し易く、且つ生体に吸収され易いリン酸カルシウム多孔体を得ることができる。また、リン酸カルシウム系粉体として、リン酸四カルシウム及びリン酸水素カルシウムを含むことで、より充填性及び形態付与性に優れるリン酸カルシウムペーストとすることができる。更に、リン酸カルシウムペーストに多糖類を含有させることで、特に特定の多糖類を含有させることで、充填性及び形態付与性に優れるペーストとすることができる。
また、本発明のリン酸カルシウム多孔体製造器具によれば、上記リン酸カルシウム多孔体を容易に得ることができる。更に、混練機能を備えるリン酸カルシウム多孔体製造器具を用いることで、製造工程中における雑菌や不純物の混入等を防ぐことができ、必要な量のペースト、或いは多孔体が正確に得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】リン酸カルシウム多孔体製造器具を説明する模式図である。
【図2】混練機能を有するリン酸カルシウム多孔体製造器具を説明する模式図である。
【図3】混練機能を有するリン酸カルシウム多孔体製造器具を用いてペースト押出した後の状態を説明する模式図である。
【図4】気孔形成用多孔板の貫通孔の開口部の形状を説明する模式図である。
【図5】実施例1のリン酸カルシウム多孔体の断面の光学顕微鏡による説明図である。
【図6】図5を2.5倍に拡大した説明図である。
【図7】気孔形成用多孔板の貫通孔の開口部の形状を説明する模式図である。
【図8】実施例2のリン酸カルシウム多孔体の断面の光学顕微鏡による説明図である。
【図9】図8を2.5倍に拡大した説明図である。
【図10】実施例3のリン酸カルシウム多孔体の断面の光学顕微鏡による説明図である。
【図11】図10を2.5倍に拡大した説明図である。
【図12】実施例4のリン酸カルシウム多孔体の断面の光学顕微鏡による説明図である。
【図13】図12を2.5倍に拡大した説明図である。
【図14】気孔形成用多孔板の貫通孔の開口部の形状を説明する模式図である。
【図15】気孔形成用多孔板の貫通孔の一面側の開口部の形状を説明する模式図である。
【図16】図15に示す気孔形成用多孔板の貫通孔の他面側の開口部の形状を説明する模式図である。
【図17】気孔形成用多孔板の開口部の構成を説明する模式図である。
【符号の説明】
A;リン酸カルシウム多孔体製造器具、B;混練機能を有するリン酸カルシウム多孔体製造器具、1;シリンダ、11;ペースト押出口、2;プランジャー、21;仕切り具、211;雌ねじ部、212、213;溝、22;ピストン、221;シャフト部、222;混練部、223;ハンドル部、224;つまみ、3;気孔形成用多孔板、4;ストッパ、51、52;Oリング、6;蓋。
Claims (6)
- リン酸カルシウム系粉体と、水を含有する硬化液とを混練してなるリン酸カルシウムペーストを、気孔形成用多孔板の一面側から他面側へと通過させることにより、連続気孔を有するリン酸カルシウム多孔体を形成することを特徴とするリン酸カルシウム多孔体の製造方法。
- 上記リン酸カルシウム系粉体は、リン酸水素カルシウム粉体及びリン酸四カルシウム粉体を主成分とする請求項1記載のリン酸カルシウム多孔体の製造方法。
- 上記リン酸カルシウムペーストが、多糖類を含有する請求項1又は2に記載のリン酸カルシウム多孔体の製造方法。
- 上記多糖類は、デキストラン及びデキストラン硫酸塩の少なくとも一方である請求項3に記載のリン酸カルシウム多孔体の製造方法。
- 請求項1乃至4のいずれか1項に記載のリン酸カルシウム多孔体の製造方法において用いられる製造器具であって、一端側にペースト押出口を有するシリンダと、該シリンダの内部を摺動するプランジャーと、該ペースト押出口に配設された上記気孔形成用多孔板とを備えることを特徴とするリン酸カルシウム多孔体製造器具。
- 上記リン酸カルシウム系粉体と上記硬化液とを混練する機能を有する請求項5記載のリン酸カルシウム多孔体製造器具。
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