これまで離散パターンを使用する種々の技術が知られている。離散パターンを使用する技術としては、例えば、透過型液晶表示装置の導光板や、散乱板、ディザリング・パターン、リソグラフィー用フォトマスク・パターン、滑り止め用のパターンなどを挙げることができ、近年では、DNAチップにおけるDNAの配置などに対する離散パターンの適用も検討されている。
上述した離散パターンは、従来では、いわゆる乱数発生器などを用いてランダムにドットを配置する、あるいは、方眼紙のような規則的な直交格子上にドットを配置することにより形成されている。しかしながら、従来の手法にしたがい、通常の乱数発生器を単に用いただけで生成されたランダムなパターンには、以下のような不都合がある。すなわち、ランダムにドットを配置したとしても、ドットは有限の大きさを有しているためドット間における重なりやドット密度にムラが生じてしまい、これがドット・パターンの概観を損ね、輝度ムラ、濃度ムラといった光学的な不都合を発生させてしまうことになるというものである。また、規則的に配置した場合には、ドット間あるいは外部の規則パターンとの干渉によって、モアレ等の光学的な不都合を発生させてしまう。
そこで、ドット間の重なり、またはドット間に過度の接近なく不規則パターンを生成する方法が特開平10−153779号公報において提案されている。そこではまず「絶対乱数配置法」として、(1)乱数発生器により初期位置(x、y)をすべてのドットに対し与え、(2)重なっているドットに関しては再び乱数を発生させ位置を修正するという手順が提案されている。しかしながら、特開平10−153779号公報において開示されている計算方法では、50%を越える高い充填率の領域においてドット間の重なりを排除する計算が収束しないという不都合があることが知られている。すなわち特開平10−153779号公報に記載の手法では、ランダム性を保持したまま、ドット間の異常接近のない不規則パターンを生成することが実質的に困難であるという不都合がある。また、擬似乱数の多重発生に基づくこのような手法では、低充填率領域で仮にドット間の重なりが除去できても、ドット・パターン自体のムラを取り除くことが困難であるという不都合もある。
図1には、特開平10−153779号公報に記載の手法により形成されるドット・パターンの例を示す。図1に示したドット・パターンは、(1)直線または曲線から形成される2次元規則格子点上にドットを配置し、それを初期位置とし、(2)乱数発生器により初期位置からの変位を与え、(3)重なっているドットに関しては再び乱数を発生させ位置を修正するというプロセスにより生成されたものである。図1に示されるように、この方法によれば、格子点からの変位を小さく保つ限りにおいてはドット間の重なりなくドットを配置することが可能である。しかしながら格子点からの摂動としてランダム位置を生成する方法では、充填率が比較的高い、例えば50%を越えるような領域において、モアレ模様の発生を避けつつ充分な不規則性を有するパターンを生成することが困難である。また、擬似乱数の多重発生に基づくこのような手法では、仮にドット間の重なりが除去できても、ドット同士に凝集がしばしば見られ、一様性の高いランダムパターンを生成するのが困難である。
この理由について、以下に考察する。上述したランダム・ドットを利用する公知例において、ドットの寸法を100μm程度とし、充填率を70%として配置する場合について考察する。ここで、図1に示すようにドットの形状を完全な正方形と仮定する。上述したドットの寸法の場合には、上述の充填率では、ドットの間にはわずか20μmの間隔が生成されるにすぎない。図1には、正確な縮尺率で、ドット100およびドット間の間隔102を示す。この規則的な格子から出発して、ランダムに摂動を与えた場合には、図1の破線で示すドット104が得られる。これらのドット104は、図1にも示されるように極めて制限された不規則性(以下、本発明においてはランダム性という。)を有するパターンしか生成し得ないことがわかる。この理由は、互いに隣り合ったドット同士は、互いに飛び越さず、また、位置の修正についても充填率が高いため、制限された範囲でしか行うことができないためである。
図1に示した従来例では、正方格子を用いて説明しているが、ドット同士が接近しすぎないという条件の下では、他の種類の規則格子であっても多かれ少なかれ、ドット・パターンのランダム性が制限されてしまうことになる。すなわち、所定のドットを初期位置として与え、これに対して摂動としてランダムな配置を生成する方法は、充填率が高くなると原理的に真にランダムに近いドット・パターンを与えることができないという不都合を生じさせ、ランダムなパターンを充填率にかかわらずに生成する点からは、充分なものとはいえない。
さらに、上述した方法により生成されたドット・パターンの光学的特性について考察すると、ドット・パターンを光線が透過または反射する際のモアレ模様の発生という問題も生じる。従来、印刷技術の分野では、モアレ模様の排除の方法につき多くの研究・提案がなされている。例えば特開2000−94756号公報においては、プリンタのハーフトーン処理において、紙送りのドラム回転による規則的な印刷の揺らぎと、印刷網点パターンとにより生成されるモアレ(いわゆる送りムラ・すじムラ)を回避する技術が提案されている。
このため、特開2000−94756号公報においては網点配置にランダム性が導入されている。すなわち、規則格子上に配列する印刷網点に対してランダムに摂動を与えることにより、モアレなどにより生成される上述したムラが良好に改善されている。しかしながら、先に述べた理由により、上述した方法をそのままランダム性を有し、かつ一様な離散パターンに直接適用することは困難である。
プリンタといった印刷技術の他にも、上述したランダムなドット・パターンの生成およびモアレ模様の低減といった問題は、種々の分野、例えば、背面照明装置(以下、本発明においてはバック・ライトという。)を含んだ表示装置においても発生する。
例えば代表的な例として、透過型液晶表示装置は小型・軽量に制作できること、消費電力が低いことなどから、いわゆるIT革命のハード面での核となる技術として近年ますますその重要度を増している。しかし従来型のディスプレイ、すなわちCRTとは異なり、液晶それ自体は発光しないため、バックライト・ユニットを用いて液晶セル全体を照明する必要がある。とりわけ最近は液晶表示装置にカラー化・高精細化の要求が強まっており、それに応じてバックライト・ユニットにも広い面積を一様に明るく照明できる特性が強く求められている。
図2は、バックライト・ユニットを含む典型的な表示装置として、透過型液晶ディスプレイを示す。図2に示した透過型液晶表示装置を例に取り、上述したランダムなドット・パターンおよびモアレに対する対応策について以下に説明する。図2に示すように、従来の透過型液晶表示装置は、バックライト・ユニットを含んで構成されており、このバックライト・ユニットは、ランダムにドット・パターン106が形成された導光板108と、導光板108に隣接して配置される蛍光管CFLと、この蛍光管CFLを覆って、蛍光管CFLから放出される光線を効率的に導光板108へと入射させるためのリフレクタ112と、導光板108により散乱された光線を効率的に例えば図示しない液晶パネルへと反射させるための反射シート114とを含んで構成されている。
導光板108に形成されたドット・パターン106は、可能な限りランダムとなるように形成されていて、モアレ模様といった問題が改善されている。図2に示すように、バックライト・ユニットには、拡散シート116と、プリズム・シート118aと、118bとが配置されていて、液晶パネルへと照射される光線を規制している。
上述したバックライト・ユニットは、ノートパソコンといった小型が要求される装置においては、図2に示したように側面照明方式(サイドライト方式)が広く採用されている。図2に示したバックライト・ユニットにおいては、蛍光管といった冷陰極線管(CFL)から出た光線は、アクリル樹脂などから形成される導光板108の底面に形成されたドット・パターン、または導光板108の下側に配置された反射シート114で散乱され、導光板上面に配された拡散シート116、さらにプリズム・シート118a、118bを通過して図示しない液晶パネルへと照射され、ユーザにより観測されることになる。すなわち図2に示したバックライト・ユニットは、線状光源を面状光源に変換するためのデバイスということができる。
図2に示されるようにいわゆるサイドライト方式を採用する限りにおいては、光源の光を散乱して液晶パネルへと反射させるための機構が不可欠であり、この機構は、バックライト・ユニットの輝度向上を達成するための重要な要素技術となる。このため従来から導光板108の底面、または反射シート114に対して製法上の様々な検討がなされている。例えば、特開平8−085001号公報では、負のスクイ角を持つ切削工具を使って導光板底面に機械加工を施し、故意に散乱面を形成して散乱効果を得る検討が行われている。しかしながら上述した方法では、バックライト・ユニットの輝度の一様性を定量的に制御するのが困難であること、また光の散乱方向に偏りが生じて散乱光線が無駄となるため、高い輝度の質の良いバックライト・ユニットを得るには不向きであること、といった不都合がある。
さらに、これまで特開平7−294745号公報で、導光板底面に凹面型の断面形状を持つ溝を施して、光線を導光板上面に散乱させる方法、特開平6−242320号公報で、二酸化チタン等の粒子状顔料を塗布したパターンを導光板底面に形成する方法などが提案されている。上述した従来の方法は、ある種の幾何学的周期性を持った散乱体、すなわちドット・パターンを導光板に形成するという点において共通の特徴を有している。しかしながら、液晶表示装置には、通常カラーフィルタやプリズム・シートといった微細な周期パターンを含む要素が必然的に含まれるので、ドット構造の配列に周期性がある場合には、ドット構造と光線が光学的に干渉してモアレ模様を生じることになる。このようなモアレ模様は、光源としての価値を著しく低下させることになるため、可能な限り、または完全に発生しないようにすることが望ましい。
上述したように、バックライト・ユニットを使用する透過型液晶表示装置といった表示装置において導光板108に形成されたドット・パターンにより生成されるモアレ模様についても、これまで上述したような種々の要素技術を使用してその低減が検討されている。
例えば特開平9−269489号公報では、マイクロドットと称する微小な散乱体を導光板底面にランダムに多数配置して光散乱を生じさせる方法が開示されており、さらには、特開2000−171797号公報でその改善について検討されている。また、特開平11−250713号公報では、反射型の液晶表示装置への応用を企図して導光板上面にランダムにドットを配置する試みもなされている。図3には、反射型液晶表示装置に対してランダムに生成されたドット・パターンを適用する従来例を示す。
図3に示されるように従来では、従来の方法により擬似乱数を用いてランダムに形成されたドット・パターンを含む導光板がバックライト・ユニットを構成するために使用されている。図3に示すバックライト・ユニットでは、擬似的にランダムに形成された複数のドット120が形成された導光板122に対して、蛍光管CFLと、リフレクタ124とが隣接して配置されている。図4に示した導光板120と、蛍光管CFLと、リフレクタ124とは、フレーム126により保持されていて、矢線Aの方向へと光線を反射させるバックライト・ユニットを構成している。図3に示したバックライト・ユニットには、図2において説明したように、反射シートと、拡散シートと、プリズム・シートとが配置されているが、図3においては省略して示している。
図3に示した従来のバックライト・ユニットに使用される導光板122には、導光板122の散乱強度をできるだけ導光板122の全体にわたり均一とするといった光学的な要求から、例えば導光板122の中心領域と、導光板122の四隅の領域とにおいて、ドットの充填率分布を連続的に変化させることが要求される場合がある。このため、与えられた連続的な充填率分布を満足するように初期位置を生成する簡便な手法の確立についても検討が行われている。例えば格子間隔が異なる領域を連結させて充填率を連続的に変化させたパターンの形成が従来試みられている。しかしながらこの方法では、充填率の変化する境界部において、多くの場合につなぎ目が目視されてしまうといった欠陥が発生する。
このようなつなぎ目は、与えられた充填率分布に見合うように連続的に形状の変化する2次元格子を、ドットを形成する面全体にわたり生成することにより低減することができるとも考えられる。しかしながら、分布が単純で、簡単な解析関数で与えられる場合を除けば、上述した格子生成自体が高度、かつ大規模な計算を必要とするものである。すなわち格子点からの摂動を考える従来の方法は、不規則性において不充分であるばかりではなく、充填率分布への対応という点で充分に満足されるものではない。
さらに、上述したバックライト・ユニットに対しては、輝度向上、または光線に対する角度依存性を改善するべく、バックライト・ユニットの構造自体を変更することも提案されている。例えば、沖庸次・勝間田実、’99最新液晶プロセス技術、プレスジャーナル、平成10年9月10日発行、第441頁では、導光板上面にプリズムを直接形成したバックライト・ユニットが提案されている。また、上述した以外にも、拡散シート、プリズム・シートなどの光学的シートを省略することも提案されている。
しかしながら、上述した検討は、いずれも導光板の散乱機構を正確に制御することを必要とするため、モアレ模様や干渉縞の発生する可能性を高めてしまうことになり、モアレ模様の低減に対しての対策をより厳密に講じる必要を生じてしまう。さらには、上述した従来の擬似的にランダムなドット・パターンは、上述した高充填率分布への対応という点では不充分であること、ドット・パターンの一様さ自体が不充分であること、またバックライト・ユニットの構造によっては、ある種の干渉縞が不可避であることなど、より高品質のドット・パターンを含む離散パターンを提供する必要がある。このためには、離散パターンのランダム性に加えて、均一さに対する指標を新たに導入した上で、より厳密な条件を満足したランダムな離散パターンの生成方法を提供することが望まれていた。
一方で、近年では多次元空間中の所定のある領域から不規則、かつ一様にサンプル点を抽出するという問題に対して、LDS法を使用することが、特に数値積分といった数学的な分野において検討されてきている。例えば、二宮祥一らの情報処理、第39巻、794頁、1998年においては、金融派生商品の価格計算をモンテカルロ法と同様の多重数値積分の近似によって行う場合には、擬似乱数のかわりにFAURE数列やSOBOL数列などの決定的なLDSによって、多次元空間において不規則かつ一様に分布したサンプルを利用することによって精度の高い計算を非常に高速に行えることが示唆されている。
また、米国特許第5、872、725号明細書および特開平11−259452号公報において説明されているように、これらは数学的に偏り、または非一様性を意味するディスクレパンシイとして定義される量の上限が定められている数列であって、モンテカルロ法のような多重積分の計算の収束を劇的に速める数列であるが故に使用されている。また、レイ・トレーシング法におけるレンダリング速度向上のためにも、上述したLDS法を用いた数値積分が使用される場合も報告されている。
すなわち、上述したようにランダム性にのみ直接依拠したドット・パターンにより形成される擬似ランダムなドット・パターンでは、上述した不都合を改善しつつ、良好な導光板、該導光板を利用するバックライト・ユニット、該バックライト・ユニットを含む透過型液晶表示装置を提供するなどの光学部材には、不充分であり、このため、ディスクレパンシイを制御して初期分布を生成する新規な方法が必要とされていた。本発明においては、用語“ディスクレパンシイ”とは、例えば手塚、“点列のディスクレパンシイについて”、「離散構造とアルゴリズムIV」、室田一雄編、近代科学社、第3章に記載されるように、離散したドットの分布の一様さの指標を意味する。
また、銀塩写真フィルムのように連続的な階調を含む画像、すなわち連続階調画像を、印刷や複写などで行われているように二値表現だけが可能な媒体で表現する手法であるハーフトーニング(halftoning)においても、離散的なドットパターンを取り扱う必要が生じる。印刷、製版の分野ではハーフトーニングを網掛けとも呼んでいる。上述した技術は、より一般的には、微小ドットの密度で画像の濃淡を表現する二値化手法であるということができる。
近年では、デジタル信号処理技術、プリンタおよびファクシミリ技術の進展により、このような二値化手法に対する産業上の要求は大変大きく、様々な手法が提案されてきている。文献により表現は異なるものの、以後、同じ大きさを持つ微小ドットの密度で濃淡を表現する手法を、FM(frequency modulated)スクリーン法と呼ぶ。このFMスクリーン法は、計算手法の観点から大別すると、誤差拡散法と、マスク法に大別される。
誤差拡散法は、入力画像を一画素ごとに、しきい値と比較することによって二値あるいは多値画像に変換し、その際に出力値と入力値との間に生じた誤差を所定の近傍の画素群に重みづけして拡散することによって、画像濃度を保存しようとするものである。この場合、入力画像と出力画像の画素は、1対1に対応することになる。この方法による出力画像は比較的画質がよく解像性もよいとされ、広く実用にされている。しかし、単に所与のしきい値と比較して二値化を進めてゆくマスク法に比べ、1画素ごとにやや複雑な計算が必要とされる。また、入力画像によってドットを打つ位置が異なるため、混色の程度を予測するのがむずかしく、色の再現性が悪いとされている。また、誤差拡散法を適用する境界領域において過渡的な領域が出現すること、ワームやserpentine rasterと呼ばれる虚像がしばしば観察されることなども、未解決な問題と考えられている(谷萩隆嗣、マルチメディアとディジタル信号処理、コロナ社、1997、295ページ)。加えて、電子的なハードウェアの進歩は近年目覚しく、誤差拡散にともなう計算量は必ずしも致命的な問題とはならないが、画質において問題が存在することは、改善を要する問題であると認識されている。
誤差拡散法の画質上の問題を軽減するために、周辺への誤差の割り当ての分布を変えたり(Floyd-Steinberg法をはじめ様々な分布がある)、また、拡散の走査方向を最適化する試みなどがさまざまなされている(たとえばT.Asano、 “Digital halftoning algorithm based on random space-filling curve”、 Proc. International
Conference on Image Processing、 1996、 545、参照)。しかし、ひとつの画素の誤差を、周囲の有限の領域に振り分けるという手法では、多かれ少なかれ宿命的に画質上の問題が発生することはある程度避けることができない。この理由は、誤差拡散法では、走査方向によって、誤差を発生する側と、誤差を受け持たされる側の区別が導入されることになる。そのような区別は、二値化画像を構成するドットが平等であるべき限りにおいては、人為的なものに過ぎないからである。
画像の二値化においても同じことが言える。本来、二値化画像は、全体として元の画像を正しく再現するように決められるべきである。画素間に一方だけを考えた関係を導入する手法は、本質的に近似でしかありえない。上述したように、誤差拡散法の改良は長い歴史を持っているが、いずれも、誤差拡散アルゴリズムの存在を前提にした、対症療法的なものであった。最善の二値化アルゴリズムは、おそらく全ドットの相互の関係に基づくものであろうが、階調勾配の再現なども可能な実用的なアルゴリズムは、今まで知られていなかった。
以下さらに、二値化画像の画質に関するUlichneyの基準と、マスク法の従来技術についての説明を行う。Ulichneyは視覚的に好ましいFMスクリーンパターンの条件として以下の二つの条件を挙げている(R. A. Ulichney、 Proceedings of the IEEE、 76 (1988) 56.)。
1.ドットの分布についての動径フーリエ成分が、「青色ノイズ」特性をもつこと、
2.ドットの分布が等方的であること、である。
これらの基準は、画質評価の標準的な指標として現在広く受け入れられている。
Ulichneyの発見は誤差拡散アルゴリズムの改良という方向性に沿って提案されてきたものであったが、その後、その知見をマスク法に適用して、誤差拡散法の欠点の一部を補う二値化手法を構成することが検討されている。すなわち、Ulichneyの示した上記の定量的基準を満たすように、二値化の際のしきい値を与えるマスクを製作することが考えられた。それがしばしば「青色ノイズマスク法」と呼ばれている手法である。その代表的な論文として、Mitsa-Parker(T. Mitsa and K. J. Parker、 J. Opt. Soc. Am. A、 9 (1992) 1920)を挙げることができる。同様に、特許公報第2622429、米国特許第5、111、310号明細書を従来法を総説するものとして挙げることができる。
図4には、マスク法(組織的ディザ法)の処理の概念図を示す。図4(a)が読み取り画像、図4(b)がディザマトリックス、図4(c)が表示画像を示す。マスク法は一般に、読み取り画像に対して、所与の行列のしきい値と比較して二値化を行う方法である。図4に示したものは、そのうちでももっとも簡単な、原画素と二値化画像の画素が1対1に対応したマスク法を示す。そこでは、「ディザマトリクス」と呼ばれる数表に示された値と、原画素の輝度値を比較して、その大小関係によって、二値化画像の白黒を決定する方式が説明されている。青色ノイズマスク法が目指すのは、結果として得られた二値画像(図4(c)がそれにあたる)が、等方的な青色ノイズ特性をもつことである。したがって、連続階調画像の二値化問題は基本的に、ドットパターンの最適化問題と等価であると言える。青色ノイズ特性とは、理想的には所定の階調レベルにおいてドット一個あたりの面積と、充填率との比に関連する主波長を中心としてドットが分布する離散パターンを意味する。
なおマスク法にはこの他にも、原画素ひとつに、多数のドットを含むドットパターン(ディザリングビットマップと呼ばれる)を対応させる方法もある。便宜上これを、1対多マスク法と呼び、図4において説明した方法を1対1マスク法と呼ぶ。
上述したように、また特開2000−59626号公報に詳述されているように、現在のほとんどすべての二値化手法は、上述したUlichneyの基準を基に設計されている。Ulichney自身が誤差拡散法に基づいて提示したように、Ulichneyの基準を満たす二値化画像は実際上、ざらつき感や幾何学模様のない滑らかな画像となることが知られている。しかしながら、Ulichneyの基準はマクロ量についての制限となっており、それを実際に製作する直接的な基準とはなっていない、という不都合がある。さらに具体的に考えると、仮に望ましいパワースペクトル(Wiener-Khinchinの定理によりドット位置の分布についての自己相関関数のフーリエ変換と等しい)についての条件を提示されたとしても、実際にドットパターンないし、それをもとにしたしきい値マスクを作ることは容易ではない。また、等方性についての制限が与えられたとしても、それを実現する方法は自明ではない。この不都合は、Ulichneyの基準を発展的に継承した、Lauらの「緑色ノイズマスク」法についての一連の研究にも当てはまる(例えば、D. L. Lau、 G. R. Arce、 and N. C. Gallaghe、 Proc. IEEE、 86 (1998) 2424 参照)。
さらに、Ulichneyの条件では、ドットパターンのムラを直接的に表す有効な指標が存在しないという点で、不満足なものである。実際、Ulichney(R. A. Ulichney、 Proceedings of the IEEE、 76 (1988) 56.))によれば、白色雑音によるドットパターン(すなわち、各ドットの位置を擬似乱数で確率抽出したパターン)が与えられているが、Ulichneyのanisotropyなる量では「完全に等方的(-10dB)」と判定されている。
さらに、1対多青色マスク法の現状について説明を行うと、誤差拡散法の煩雑な計算処理を簡便にするという目的で、青色ノイズ特性を持つドットパターンを異なる輝度ごとに用意し、原画素の輝度値にしたがって、元画素をそのドットパターンで置き代えてゆく二値化手法が、米国特許第4、920、501号明細書に開示されている。まず1対多マスク法の概要について図に示す。図5に示すように、原画像OPを小区画に分割する(図5(a))。その代表輝度値(Jとした)に対応する散開型のドットパターンを選択する(図5(b)。それがその小区画の二値化画像となる(図5(c))。図5では階調を256階調とし、その256枚のドットパターンをあらかじめメモリ上に格納していることを想定している。表1には、米国特許第4,920,501号明細書に開示された手法をまとめる。
このドットパターン生成手法は、初期配置を乱数で生成することと、それをシミュレーテド・アニーリング法(西森英稔、スピングラス理論と情報統計力学、岩波書店、1999、9.4節参照)で緩和させてゆくことにある。この従来法は、白色雑音特性をもつ初期配置に、最適化手法を用いることでその周波数特性を改善させうるということを示した。さらに、このアルゴリズムで、Ulichney条件をよく満たすような青色マスクが製作できるとされている。しかし擬似乱数により生成された初期配置は明らかにムラが大きく、そのままでは高品質な二値化ができないという不都合があった。
特開平10−275228号公報においては、上述した方法の改良が検討されている。特開平10−275228号に開示された方法は、後述するMitsa-Parker条件を満たすように、初期パターンとしての中間階調パターンから、他のパターンを順次シミュレーテド・アニーリング法を用いて決めるものである。その初期パターンは、乱数により「ダーツ投げ」的に決めるのではなく、従来技術を用いて最適なものを採用することを指摘するにすぎない。いずれにしても、特開平10−275228号公報に開示の初期位置生成→最適化、という手順でパターンを作る方法である。
しかしながら、特開平10−275228号公報でも開示されているように、仮に中間階調のパターンを、Ulichney基準の意味で最適に選んだとしても、それから生成される多階調のパターンは必ず幾分かは最適でない。たとえば、中間階調において、ドットパターンを、最近接ドットの間隔がある値にほとんど集中するように最適化したものとする。そこにひとつドットを加えると、そのドット近傍では、必ず最適でないドット間隔を持った場が出現する。なぜなら、過去にすでに作ったドットは固定されているものと考えるからである。
すなわち、これらの手法は、ドットパターンの最適化という観点からは、原理的な不都合を生じる。また、特開平10−275228号公報においては、出発パターンの最適化方法については、なんら具体的に改良を検討しているわけではない。
さらに、1対1青色マスク法を用いて最適な二値化を行うことについても未だ充分な訳ではなく、種々の改良検討が行われている。MitsaとParkerは、1対1青色マスクの製作においては、下記式の条件が満たされるべきことを説明している(T.Mitsa and K.J.Parker、 J. Opt. Soc. Am. A、 9 (1992) 1920.)。
上式中、p(i,j,g2)は、g2階調のマスクパターンにおける(i,j)区画の出力値(0または1)を表す。この条件は、「g1階調において(i,j)区画が黒ならば、それより高いg2階調でもその区画は黒である」ということを述べている。これを便宜上 Mitsa-Parker条件と呼ぶことにする。特開2000−59626号公報に詳述されているように、これが満たされていれば、
という関係から、しきい値マスクを作ることができる(256階調を仮定した)。すなわち、 Mitsa-Parker条件の下では、1対多マスク法のためのしきい値マスクを用いて、1対1マスク用のしきい値マスクを製作することができるといえる。
これを前提に、特開2001−298617号公報においては、青色ノイズ特性をもつしきい値マスクの製作法が開示されている。そこでは、低階調のドットパターンから始めて(そこではベイヤー行列に基づく規則的ディザ法を使って点を打つ)、前段階の(より低い)階調パターンにおけるドットに斥力ポテンシャルを与え、ポテンシャルの最低の点に新たにドットを打つという手順で、順次高階調のパターンを製作する。そこでは、この原理を用いて均質で青色ノイズ特性をもつドットパターンを製作できるとされている。なお、この公知例は、W.Purgathofer、 R.F.Tobler、 and M.Greler、 Proceedings of the International Conference on Image Processing、 1032 (1994) に述べられているものと実質的に同等である。彼らはまた、
のような斥力ポテンシャルを提案している。rがドットからの距離である。この式は、距離がsという大きさを越えると急速にポテンシャルが減少することを示す。これは、Ulichney基準をミクロ的に言い換える試みと解釈することができる。というのは、Ulichney自身、最近接のドット間隔が「主波長」の周りに適度に集中していれば、青色ノイズ特性をもつパターンが作成できることを述べているからである。しかしながら、このような観点からパターンの望ましいスペクトル特性を得ようとする手法は今まで提案されていない。
彼らの方法、また、特開2001−298617号公報で開示された方法は、力学的緩和過程としては充分なものではない。上述したように、ある階調において、ドットパターンが、最近接ドットの間隔がsという値にほとんど集中するように最適化されていたとする。そこにひとつドットを加えると、そのドット近傍では、必ず最適でないドット間隔を持った場が出現する。なぜなら、過去にすでに作ったドットは固定されているものと考えるからである。
より最近、強力な緩和アルゴリズムがHillerらによって提案された(S.Hiller、 O.Deussen、 and A.Keller、 “Tiled Blue Noise Samples”、 Proceedings of the 6th International Fall Workshop on Vision、 Modeling、 and Visualization 2001、 in press)。彼らによる方法、擬似乱数でドットパターンを生成した後、Lloyd法と呼ばれる緩和アルゴリズムを適用し、高速に青色ノイズ特性を持つドットパターンを生成したと報告している。Lloydの方法とは、いわゆるボロノイ分割を元にして、各ボロノイ多角形の重心にドットを移動させる操作を反復することによって、最近接ドット間隔を平準化する方法である。これを図6に示す。図6(a)がランダムに生成された初期位置とそのボロノイ分割を示し、図6(b)がLloyd緩和していく様子を示し、図6(c)が緩和後のドットパターンである。Hillerらはさらに、適切に境界にもボロノイ図形を生成することで、区画の間の継ぎ目といった問題なく、一様な二値化画像を生成できると主張している。
この手法では、今まで述べてきた緩和過程に特有の問題点が改善されている。すなわち、ドットを緩和されるものと、緩和させるものに分割することなく、全体を緩和させることで、一様なパターンを生成している。しかも緩和の原理は、ドット間の最近接間隔を直接的に最適化する方法に基づくものである。
しかしながらHillerらの方法には2つの不都合があることも判明している。第一に、ボロノイ分割に基づいた彼らの方法では、階調を段階的に変化させたドットパターンを作るのが原理的に難しいことである。第二に、初期位置生成に擬似乱数を用いているために、緩和後のパターンにはムラが見られることにある。
以下、本発明を図面に示した実施の形態に基づいて説明するが、本発明は後述する実施の形態に制限されるものではない。以下、パートIとして、本発明の第1の構成である初期配置を与えた後、ドット間に斥力モデルを適用して斥力の緩和を行い、LDS法によるランダムな離散パターンの形成を説明し、パートIIにおいて、本発明の第2の構成であるドットを自動的に生成・削除することによる離散パターンの形成について説明する。さらに、パートIIIとして、本発明の第3の構成である良好な青色ノイズ特性を与えることができる濃淡画像の二値化パターンの生成について説明する。また、さらにパートIVとして、上述したLDS法およびドット自動生成法に基づいて得られた離散パターンを使用する光学的部材、サイドライト装置、および透過型液晶表示装置について説明する。
パート I:LDS法およびドット間の斥力を仮定してドットを緩和させることによる離散パターンの形成
以下、パートIとしてセクションAにおいて、離散パターンの初期位置の決定について説明し、セクションBにおいて斥力緩和法によりドット間の重なりを排除して離散パターンを形成する方法について説明し、セクションCにおいて、充填率を連続的に変化させる場合の取り扱いについて説明し、セクションDにおいて、本発明により与えられる離散パターンのディスクレパンシイの範囲およびランダム性の判断基準について説明する
<セクションA>
低ディスクレパンシイを有する離散パターンの初期位置の生成
(A−1)ディスクレパンシイの数学的定式化
縦Lx、横Lyの長さを有する長方形、正方形といった矩形領域にN個の点が分布する場合に、そのディスクレパンシイは、以下のように与えることができる。
全体の矩形領域の中の位置(x、y)に対して原点(0、0)と位置(x、y)を対角線とする矩形の領域を考える。この領域の面積が正方形の中で占める割合をVとすると、V=x×y/(Lx×Ly)である。また、考えているN個の点のうち、この矩形領域の中に含まれる点の個数をA(x、y)とすると、N個の点のうち、上述した矩形領域に含まれる点の割合は、A(x、y)/Nとなる。点の分布が理想的に一様であれば、どのような矩形領域をとっても中に含まれる点の割合は、ちょうど矩形領域の面積が全体の正方形中で占める割合と同じになるはずである。
そこで、この両者の差が0からどれだけずれているか調べれば、点の偏りが分かることになる。本明細書においては、ディスクレパンシイを、(A(x、y)/N−Vの二乗を、(x、y)を上述した正方形内の全ての位置について積分したものの平方根として定義する。すなわち、ディスクレパンシイの2乗をD(Lx、Ly;N)とすると、D(Lx、Ly;N)は、下記式で与えられる。
上述したディスクレパンシイを使用すれば、理想的な分布ではディスクレパンシイは0となり、また、例えば原点にすべての点が固まっているような非常に偏った状況では、最大値である1/9となる。
一方で、仮に真にランダムに生成された点列の場合について考察する。このような真にランダムに生成された点列については、ディスクレパンシイは、それほど小さくはならない。この理由は、たとえばサイコロを6回振ってランダムな数を作った場合、1から6まで偏りなく1回ずつ出る場合より、どれかの数が複数現れる場合の方がしばしば見受けられるということから直感的に理解できる。ランダムさと、偏りの無さ、すなわち一様性とは異なる概念であり、ランダム性を有し、かつディスクレパンシイの低い点列が必要な場合には、初期位置においてすでにディスクレパンシイを低くするべく生成された点列を用いる必要がある。LDSは、そもそも定義からディスクレパンシイが低いという特徴を持つことに本発明者らは着目し、鋭意検討の結果LDS法を所定の区画内にドットを配置する現実の問題に適用することが有効であることを見出したのである。
(A−2)LDS法を適用するためのフローチャート
図7には、本発明において使用することができるLDS法のフローチャートを示す。本発明において使用するLDS法は、ステップS1から開始し、ステップS2において座標軸ごとに生成行列1の算出を行う。生成行列の詳細については例えば、「離散構造とアルゴリズムIV」、室田一雄編、近代科学社に詳細に説明されている。ついで、ステップS3において下三角要素にランダムな値を有するスクランブル行列を生成し、ステップS4において、生成行列1とスクランブル行列の積を生成行列2として記憶する。本発明においては、スクランブル行列を使用せずに初期配置を生成することも可能である。しかしながら、ドット数が多い場合には、スクランブル行列を併用することが、より一様な離散パターンを生成する点では好ましい。
ステップS5においては、所定の位置に対応して付された自然数nの二進展開を行い、その結果をベクトルxとして記憶させる。ステップS6においては、座標軸ごとの生成行列2をベクトルxに乗じて、ベクトルyを生成する。ステップS7においては、座標軸ごとにベクトルyの要素を二進小数の各桁の値として、新たな座標を生成し、ステップS8において、nを1だけ増加させて所定の個数、例えばN個になるまでステップS5からステップS8までを繰り返して、N個のLDS法により生成された座標が定められることになる。
(A−3)LDS法の具体的な手順
図7に示したLDS法における離散パターンの生成の手順を、1次元について適用する場合につき以下に詳細に説明する。後述する手順は、説明のために使用するものであり、本発明は、2次元以上のいかなるより高い次元でもそのまま応用することができる。
本発明において使用するLDS法による初期位置決定では、ネット理論を拡張したNiederreiterの構成法を使用して高速化を実現する。本発明では、初期位置としてのランダム性も重要となるので、手塚、“点列のディスクレパンシイについて”、「離散構造とアルゴリズムIV」、室田一雄編、近代科学社、第3章によるランダムなスクランブルを適用した一般化Niederreiter sequenceを用いることにより、ランダム性と小さなディスクレパンシイとを併せ持つ数列を生成した。
LDSの典型的な生成方法では、ネット理論を用いる。ディスクレパンシイの定義にあるようにいかなる大きさの領域を考えても、その中に入る点の大きさの総和が区画の大きさに近づく必要がある。そのため素数pのべき乗で階層的に一辺の長さが小さくなるp進ボックスによって区画を小区画へと分割し、さまざまな大きさのボックスによって区画がP進ボックスにより入れ子的に埋め尽くされている状況を考え、その中から、点の入るべき位置を自然数のp進展開係数を元に位置座標を決定することによって、ディスクレパンシイを低くするものである。
これを具体的に説明すると、1、2、3、4と順に並んだ自然数を用いる場合には、同じ数の重なりは生じないものの、端から順に並んでいくため広く区画の全体に散らばった点列を作ることはできない。
このため本発明においては、元となる自然数の列にそれぞれ座標値を対応させる厳密に決定論的な方法を用い、ランダムな点列のような偏りを排除しつつ、自然数のように端から順に並ぶことの無い点列を与える方法を採用する。この基本的な考え方としては、区画をまず大きな単位で小区画へと分割し、それぞれの小区画に点を配置し、点の数が増えてくると、より細かい小区画へと分割し、別々の位置を占めるようにさせるものである。
ここで、自然数の列についてその性質を考えると、まず1の位が1から9まで速く変化し、その後、上位の桁が順にゆっくりと変化する。そこで、この桁取りを逆に1の位が上位にくるよう並べ、桁毎に異なる大きさで分割された小区画を、元の自然数が少し変化するごとに大きく変化させて区画の全体を覆うことにより、偏りなく位置座標を生成することができる。すなわち、本発明において採用する生成方法においては、自然数を10進法では無く、2進法で表現した後、各桁に現れる数値を所定の方式によって置き換える。すなわち、元となる自然数列を2進数で表示した後、より速く変化する下位の桁が座標値の上位桁に対応して大きな区画の全体にわたる位置変化をもたらし、変化の遅い上位の桁が座標値の下位の桁に対応して細かな位置変化をもたらすよう変換することにより、より不規則性を高めるものである。
具体的に説明すると、例えば1から5までの自然数を2進数としてあらわすと、順に、1、10、11、100、101となる。ここで、例えばabcdという展開がされた自然数nにつき、abcdを逆からに配置して、やはり2進数の小数で0.dcbaに対応させる。この場合、上述した自然数の場合の実施の形態では、順に、0.1、0.01、0.11、0.001、0.101となり、それぞれ1/2、1/4、3/4、1/8、5/8であるから図8に示すように、0から1の間で次第に細かくなる小区画が中心Crに対してランダムに分布する点列が得られる。
2次元上の座標値を求める際には、x座標とy座標といった各次元ごとに独立に変化するように上述した方法を用いて次元ごとに異なる変換行列を適用して各桁の値を変換し、元となる自然数列から対応する座標点をドットごとに算出する。図9には、各座標軸ごとにに用いるべき座標の位置に順に自然数を割り当てることにより位置座標を生成して得られた2次元における低ディスクレパンシイの離散パターンを示す。図9中、縦軸については、上述した変換を施すことにより矢線で示される変換が行われて座標が生成され、2次元的な位置座標が得られている。図9においては、それぞれ横軸および縦軸が交差する位置座標に、ドット10を配置して、LDS法により生成された初期配置としている。
本発明においては、さらに桁の並べ替えにスクランブル法と呼ばれる一定の入れ替えを行うことによって、より点座標の並び方にバリエーションを与えることが好ましい。スクランブル法を採用する場合には、あらかじめ各次元毎に与えておいた生成行列を記憶装置に保管しておき、変換したい自然数の2進数表示の各桁の数値からなるベクトルxと乗算を行うことで、ベクトルyを生成させることにより容易に拡張することができる。
図10には、区画内に50個のドット10を配置するものとして、上述したLDS法により生成されたドット・パターンを含む離散パターンを示す。図10においては、縦軸および横軸は、規格化した単位長さで示されており、区画は、正方形とされている。
図11は、上述した本発明において用いる低ディスクレパンシイのドット・パターンを例示した図である。図11においては、ドット間の重なり合いについて特に処理しておらず、いわゆる初期位置に対応するものである。図11(a)が、本発明によりLDS法を使用して得られたドット・パターンであり、図11(b)が比較のために擬似乱数発生法を使用して生成したドット・パターンを示す。
図11(a)と、図11(b)とを比較してわかるように、LDS法を使用して生成された初期位置は、ドット間の重なり合いの処理をしていないにもかかわらず、図11(b)に示す擬似乱数発生法により生成されるドット・パターンに比較して、充分な一様性を示しており、著しくドットの密度が低い箇所や、高い箇所が生成されていないことがわかる。一方で、擬似乱数発生法を使用して生成されたドット・パターンは、図11(b)に示すように局所的に濃度の高い箇所および低い箇所が生成されており、ランダムではあるものの、一様性が、図11(a)に示す本発明の場合に比較して不充分であることが示されている。
本発明において低ディスクレパンシイの離散パターンを生成する際には、ネット理論を使用する他にも、別の実施の形態として、Good Lattice Point(GLP)法といった方法も用いることができる。図12には、GLP法を使用して得られた低ディスクレパンシイのドット・パターンを示す。図12に示したドット・パターンは、ドット10が、GLP法により正方形で示された区画内に配置されて、初期配置とされている。図12に示したドット・パターンを得る場合には、生成ベクトルを(h1、h2)として選択した場合、自然数kに対してGLPは、(((h1×k)modn)/n、((h2×k)modn/n)で与えられる。例えば、2つの隣り合ったフィボナッチ数列をF(m−1)およびF(m)で定義する場合、n=F(m)、生成ベクトルを(1、F(m−1))とすることができる。
図12は、F(m−1)=987、F(m)=1587を用いて作成したドット・パターンを例示したものである。図12に示されるように上述したGLP法においてもディスクレパンシイが小さい一様な分布が得られる。しかしながら、GLP法を使用する図12のドット・パターンから理解されるように、それぞれのドットは、LDS法に比較して比較的規則的に並んでしまうという特徴があり、例えば液晶表示装置などモアレ模様を発生させたくない用途には不向きである。
しかしながら、モアレ模様が重要な要因とならない場合、具体的には滑り止めや意匠的な用途、ディザリング・パターンとして本発明の離散パターンを使用する場合には、充分なランダム性を有する離散パターンを与えることができる。同様にして本発明の他の実施の形態においてはまた、素数の平方根の小数部を用いるRichtmeyer sequenceや、座標軸ごとに異なる素数によるp進展開を用いるHalton sequenceも、低ディスクレパンシイのパターン生成に使用可能である。
<セクションB>
斥力緩和法による隣接するドットの重なり合いの排除
(B−1)斥力緩和法の概説
格子点からの摂動を考える従来手法では、すでに説明したように高い充填率領域において本質的に不都合が発生する。すなわち、乱数の逐次発生に由来する方法は、高い充填率領域においてドット間の重なりのない不規則パターンを作ることは実質上不可能に近いためである。ドット間にある種の相互作用を導入することなしには、50%を越える高い充填率の不規則パターンを生成することは困難であり、特に本発明においてはドット間の重なり排除を、比較的疎な充填率の区画はもちろんのことながら、50%以上の高い充填率の区画についても容易に適用できることが必要とされる。また、この斥力緩和法は、後述する本発明の第二の構成および第三の構成においても、関数の形状を適宜変更することにより好適に適用することができる。
本発明においては、充填率とは、所定の区画内にドットを配置する際のドット面積と、区画の面積との比を使用することができる。この際、様々な幾何学的形状をもつドットに対応するために、上記ドット面積を、ドットの最大径の2乗にドットの個数を乗じたものとして定義する。また、単にドットの数と区画の面積との比を充填率の定義として使用することもできる。
原理的には、初期位置を擬似乱数発生法で定めた場合にも斥力緩和法によりドット間の重なり排除を達成することは可能である。しかしながら、擬似乱数発生法により初期位置を定めた場合には、多くの場合には後述するように網目状のムラがパターンに出現し、このムラを除去するのに多大な処理と処理のための時間を要することとなる。このため、予めディスクレパンシイの低い初期位置を例えば、LDS法により生成し、この初期位置に対して斥力緩和法を適用することで、よりいっそう一様性の高められた離散パターンを生成することが好ましい。
上述したように例えばLDS法を使用して初期配置を生成しただけでは、一様性、ランダム性は充分であるものの現実のドットの有限の大きさのため、ドット間に重なりが生じ、ドット見えなどの不都合が生じる原因となる。そこでこれら分布の再構成処理(重なり排除)が不可欠である。本発明においては、LDS法を使用して生成された初期位置に配置されたドットを、互いに相互作用する2次元粒子系と見なし、隣接するドット間の重なりを、初期位置から斥力により緩和される過程と見なして排除する。すなわち、本発明においては、ドット間に対して少なくとも粒子間の距離がゼロの近傍で強い斥力を及ぼす相互作用模型を適用するものである。このため、初期位置で互いに重なり合ったドットの間では、高いポテンシャル・エネルギー状態となり、互いに重なり合ったドットのみを効率的に移動可能とし、ドット間の重なり合い排除することが可能となる。
このようなモデルを採用する場合には、緩和時間の経過に応じて隣接したドットが斥力によって互いに適当な間隔を持った状態に落ち着くことになるものと考えることができる。本発明においては、上述した過程を、斥力緩和法と定義する。本発明においては、緩和の程度に応じて、また緩和をもたらす力学的機構に応じて特定の用途に適する様々なパターンを生成することができる。
図13は、ドットの形状を正方形とした場合に、ドット12、ドット14、ドット16間に斥力が作用するものとした場合の斥力緩和法の原理を示した概略図である。図13においては、ドットを、斥力的に相互作用する2次元粒子系と見なす。ある時点でドット12の周りにドット14およびドット16が配置されているものとする。本発明においては、隣接するドット間の距離が近いほど大きい斥力を受けるように斥力のモデルを与える。
緩和過程を経た後のドットの座標は、例えば金森順次郎ら、「固体―構造と物性」、岩波書店、第255頁;N.E.キューサック、「構造不規則系の物理」、吉岡書店、第110頁、1994年に記載されているいわゆる分子動力学法基づいて計算される。しかし不規則パターンを作るという目的のためには、本発明においてはドットの運動方程式をあらわに解く必要はない。そこで、本明細書においては、最も簡単な場合を実施の形態として、斥力が例えば、久保亮五ら、「大学演習熱学・統計力学」、裳華房、384頁、1961年に記載されているような分子場模型に基づくものとして説明する。しかしながら、本発明においてはさらに複雑なモデルを採用することも可能である。
分子場模型は、ある時点での分布から、注目するひとつのドットに作用する力を計算し、その力に基づいて次のステップの変位を計算する方法である。図13に示すようにドット12は、周囲に隣接するドット14およびドット16から斥力を受ける。図13には、ドット14およびドット16からドット12に作用するそれぞれの力をB14およびB16として示し、力B14、B16の合力を矢線Bで示している。同様にドット12およびドット16についても斥力を適用する。このようにすることで、ある時点において、それぞれのドットごとに周囲から受ける力が算出されることになる。この力に比例させて各ドットに変位を与え、次の時点での分布を求める。この作業を繰り返えすことにより、強い斥力を発生させるようなドット間の重なり合いを次第に排除することができることになる。
(B−2)斥力緩和法における斥力モデル
本発明において使用する斥力緩和法の目的は、有限の大きさを持つドット間の重なりもしくは異常接近を排除し、ドット間の距離を適正に保つことであるから、用いる相互作用の模型は、2つのドット間の距離がある限界Dを越えて近づくと大きな斥力を及ぼし、その限界の外では距離とともに急速にその大きさが減少するものであることが望ましい。すなわち、斥力モデルを特徴付けるパラメターとしては、斥力の到達範囲Dに加えて、斥力の減衰距離Lが存在することが好ましい。
本発明においては上述したモデルを定式化するために図14に示す座標系を設定する。すなわち、パターンを生成するための2次元平面(もしくは曲面)上においてある任意のドットに注目し、そのドットの中心を原点として2次元極座標(r、θ)を設定する。始線OO’のドット18、19に対する位置関係は、任意とすることができる。ドット19の中心Pが、位置(r、θ)に来た場合に作用する力を、下記式
で定義する。上記式中、
は、大きさがrであるベクトルOPを表す。
本発明においては、斥力の到達範囲Dを角度θに依存させることもでき、例えば図14に示したように、D(θ)=OQのように定義することもできる。上記式は、ドット間に作用する力がいわゆる中心力であることを意味する。この条件は、緩和過程の進行に伴いドット群が渦を巻き、重なり排除が効率よく行えないなどの不都合を生じないようにする点で効果的であることが見出された。
力の大きさの指標となる関数F(r、θ)は、rに依存しない所定の有限の関数F1(θ)に対し、下記式
の条件を満たすものを選択することができる。F(r、θ)は、正が斥力を示し、負が引力を示すものとする。ただし関数D(θ)は、一般にドットの最大径sまたはドットの平均間隔Δrのオーダの任意の関数である。ここでドットの平均間隔は、ドットを所定の充填率を満たすように正方格子上に並べた場合の格子間隔として定義することができる。
以下に、本発明の実施の形態においてにおいて使用することができる斥力モデルを例示する。また、便宜上斥力の減衰距離Lを、自然対数の底eを用いて下記式
で定める。上記式から明らかなように、本発明においては、Lは一般にθに依存するものとすることができる。
(B−3)斥力モデルの具体例
(1)等方的斥力モデル
本発明においては、上記式において使用されるF、F1、Dのθ依存性を無視したものを等方的斥力モデルと定義する。この場合、所定のドットの中心が中心ドット周りの半径Dの円に入ると、互いにドットの間に強い斥力が生じることになる。上述の条件を満足する関数形は、種々あるが、数値計算的な取り扱いの点からは、べき関数と指数関数を組み合わせた以下の斥力モデルを採用することができる。
(a)指数関数型
(b)湯川型
(c)べき乗型
(d)レナードジョーンズ(LJ)型
(ただし、m、n、αは、実数であり、m>n、かつα>1である。)
(e)複合型
(ただし、m、n、αは、実数であり、m>n、かつα>1である。)
図15には、上述したそれぞれの斥力モデルを、図中における曲線が類似する位置となるようなパラメータを使用して算出したグラフを示す。図15では、すべてのモデルに対しD=0.1mmとし、F1=5とした。使用したその他のパラメータを、表2にまとめる。
本発明において説明する上述した斥力モデルの実施の形態においては、いわゆる剛体球モデルのバリエーションとしてr<Dで力の大きさが一定となるもののみを挙げている。しかしながらrに依存させることもでき、この場合には斥力は、rに応じて単調に減少することが望ましい。
図15から理解されるように、これらの関数形の違いがドット・パターンから生成される離散パターン対してに劇的な違いを与えることはない。本発明の離散パターンを光学的な用途に提供し、この際モアレ模様を排除するためにランダムな離散パターンを作るといった目的においては、n=1の指数関数型でも充分である。しかしながら、ドット間の距離をある狭い範囲に限定したい場合などには、LJ型または各斥力モデルを使用することもできるし、これらの斥力モデルに、例えば線形結合させた複合型のモデルを採用することもできる。
例えば、上述した極小値を有する斥力モデルは、ドットの変位範囲を一定以下にとどめたい場合に有効であり、この理由は、所定の位置においてドット間の力が引力的に極小となることによる。ただしこれらの極小点を持つ例えばLJ型の斥力モデルは、他に比べて数値誤差が蓄積しやすいので、数値計算の場合には誤差に注意することが必要とされる。
(2)異方的斥力モデル
上述した斥力モデルにおいて、斥力がθ依存性を持つモデルを、本発明においては異方的斥力モデルとする。以下に、本発明の実施の形態において使用することができるの異方的斥力モデルを例示的に列挙する。実際のパターンを作る上では、上述したθ依存性は重要な要素となる。円形や正多角形などの対称性のよい形状を持つドットであれば、等方的な斥力模型にも相当の利用価値がある。しかし対称性の低い形状のドットをより一様に分布させるためには、本発明においては、ドット形状に応じて斥力の到達範囲を異方的とすることが好ましい。この場合の斥力モデルについても、数多く例示することができるが、ドットの形状が矩形とされている特定の実施の形態については、特に有用な斥力モデルとして、以下の2つのモデルを挙げることができる。
(a)楕円モデル
指数型、べき型、LJ型など種々のものがありえるが、一例として最も簡単なn=1の指数型の楕円模型については、下記式
で与えられる。ただし、上記式中、
である。図16には、各パラメータの関係を示す。図16では、Dは、楕円の長軸であり、kDは、楕円の短軸であり、rは、隣接する他のドットの中心までの距離である。上記式で与えられる斥力場を図17に示す。図17に示した斥力場は、パラメータkを0.3としたときに与えられるものである。
(b)矩形モデル
このモデルにおいても、指数型、べき型、LJ型など種々例示することができるが、最も簡単なn=1の指数型の矩形モデルについては下記式、
により与えられる。上記式中、R(r、θ)は下記式、
で表される。矩形モデルを使用した場合の斥力場を図18に示す。ただし、図18においては、k=1とした。
これまで説明した斥力モデルは、いわゆる剛体球のクラスに属するモデルである。しかしながら、本発明においては、上述したモデルに限定されることはなく、ドット間の距離が近くなると強い反発力を生ずるという性質を有していさえすれば、例えばN.E.キューサック、「構造不規則系の物理」、吉岡書店、1994年に記載されるような、これまで知られたいかなる斥力モデルでも用いることができる。
(B−4)斥力緩和法における収束判定条件
緩和過程の進行を数値的に表す上でもっとも妥当な変量としては、ドット一つあたりのポテンシャル・エネルギーEを挙げることができる。このポテンシャル・エネルギーEは、厳密には、斥力との間において下記式
の関係を満たすスカラ関数Vに対して、
のように定義される。上記式中、gradは、2次元の勾配演算子(gradient)を表し、
は、ドットiから見たドットjのポテンシャル・エネルギーEを表している。また、Nは、全ドット数である。n=1の等方的指数関数モデルにつき、Vの関数形を具体的に例示すると下記式、
で表される。図19には、上記したV(r)において、D=0.1、L1=0.04、F1=5とした場合のrに対するVの形を示す。
本発明における収束判定条件としては、k=0.5の指数型モデルを採用し、ドット形状を矩形ドットとし、上記V(r)を評価関数として用いた場合には、一様で重なりのないパターンを生成するため緩和過程の第nステップにおける1ドットあたりのポテンシャル・エネルギーEnの減少率を、
とすることが好ましいことが見出された。
他の模型、もしくは異方的な場合も同様にしてポテンシャル・エネルギーEを計算できる。しかしながら計算式が煩雑になる場合は、類似する関数を収束判定に供することも実際的は可能である。また、本発明においては図19に示したグラフをいくつかの直線で近似して、収束判定を行うこともできる。さらに、楕円模型の収束判定を、上記等方的モデルの関数Vで代用することもできる。この理由は、本発明においてはドットの動力学自体を扱うものではなく、Vは、ドットの接近の様子を示す単なる目安に過ぎないためである。さらに、本発明の別の実施の形態においては、ドット間の距離に対して急速に大きさが減少する関数のうち、比較的ポテンシャル・エネルギーEに類似した評価関数を使用することもできる。なお、上述した収束判定条件は、斥力緩和法の計算時間、使用する評価関数などにより適宜必要に応じて設定することができる。
(B−5)斥力緩和法の実際の処理プロセス
図20には、本発明において使用する斥力緩和法のフローチャートを示す。図20に示されたプロセスは、ステップS11から開始し、ステップS12において、上述したLDS法によりドットの初期位置を算出する。その後、ステップS13においては、各ドットにつき、周囲からの斥力を算出する。この場合には、上述したいかなる斥力モデルでも、必要に応じて選択することができる。ステップS14においては、各ドットにつき、算出された斥力の合力に基づき、ドットの位置座標を初期位置から変位させ、ステップS15においてステップS14において生成された位置座標を新たなドットの分布として記憶させる。
ステップS16においては、新たなドットの配置に基づいて、ポテンシャル・エネルギーを計算させ、ステップS17において上述した収束判定条件を使用してポテンシャル・エネルギーが収束したか否かを判断する。ポテンシャル・エネルギーEが充分に小さくない場合には、再度ドットについて斥力を計算させ、変位を行わせ、新しい分布を生成し、エネルギーを算出させ、収束するまでポテンシャル・エネルギーEを低下させる。ステップS17の判断において、収束判定条件よりもエネルギーの変化が小さくなった場合(yes)には、ポテンシャル・エネルギーEは収束したものとして、最終的なドットの位置を離散パターンとして登録し、ステップS18で終了する。
表3には、上述したLDS法を使用した場合と、従来の擬似乱数を使用した場合に得られる初期位置について、斥力緩和法を使用して離散パターンを生成した結果をまとめる。
表3においては、2次元直交直線座標(x、y)上の点(0、0)から点(x、L)へ引いた線分を対角線とする矩形領域に、全部でN個のドットがあるパターンについてD(Lx、Ly;N)を計算した結果に対して、106を乗じた値で示している。表3の計算に際しては、周期的境界条件を適用し、小区画を0.1mm角の正方形ドットとし、充填率を50%として計算し、緩和時間はLDSと擬似乱数で共通とした。なお、擬似乱数発生法により算出されたディスクレパンシイについては、緩和時間の影響を判断するために緩和時間を5倍にまで延ばして挙動を判断した。その結果を、擬似乱数発生法の1225ドットのデータにおけるかっこ内の値で示す。表3からわかるように、LDSと擬似乱数の差はNと共に拡大して行くので、擬似乱数にとってこれは最も条件のよいところでLDSとの比較を行ったことになる。表2に示されるように擬似乱数を使用した場合には、緩和前および緩和後の双方において、LDS法を使用した場合に比べてディスクレパンシイが大きいことがわかる。
また、LDS法を使用し、斥力緩和法で形成された離散パターンは、僅かにディスクレパンシイが増加する傾向にあるものの、充分にディスクレパンシイが低い状態を保持していることが理解される。一方で、従来の擬似乱数発生法を使用する場合には、斥力緩和法によりディスクレパンシイは、大きく、または小さくなっているが、これは、擬似乱数発生法を使用した場合には、一様性に劣るため、斥力緩和によりドットの移動する距離が大きいものもあるためと推定される。これに対応して緩和時間に対する依存性も大きく、斥力緩和法は従来の擬似乱数発生法においても効果的ではあるものの、計算機資源、計算労力の面でLDS法と併用することが好ましいといえる。
図21は、本発明により生成された離散パターンと、擬似乱数を用いた方法を使用して生成された離散パターンとを比較して示した図である。図21(a)が、本発明によりLDS法および斥力緩和法を使用して生成した離散パターンであり、図21(b)が、擬似乱数発生法および斥力緩和法を使用して生成した離散パターンである。適用する斥力モデルについては同一のモデルを使用した。図21(a)に示されるように、本発明にしたがって生成された離散パターンは、そのランダム性が一様で、ほとんどドットの濃淡は観測されない。
しかしながら、図21(b)に示す擬似乱数発生法を使用して生成された離散パターンは、ドットの濃淡が目視で観測され、一様性が劣ることが示されている。図21に示した結果は、本発明において使用するLDS法が良好な初期位置を与えることに加え、本発明において採用する斥力緩和法が、ディスクレパンシイを小さく抑えつつ、隣接したドット間の重なり合いを排除することが可能であることを示すものである。
図22には、図20のプロセスを使用して、初期位置をLDS法により与え、かつ等方的な指数関数型斥力モデルを使用して得られた本発明の離散パターンを示す。斥力モデルにおいて使用したパラメターは、n=1、D=0.8mm、L1=0.4Dであり、ドット形状は、0.1mm角の正方形とした。図22は、区画内に生成された離散パターンのうち、4mm×5mmを拡大して示したものである。さらに、図22では、充填率を70%と設定している。図22に示されるように、本発明によれば高い充填率においても良好な一様性を持つランダムな離散パターンを形成することができることが示される。
なお、図22の計算においては、緩和時間を非常に長くとっても正方格子の規則的な配列に帰着されることはない。逆に言えばこのことは、正方格子から、擬似乱数に基づく摂動で図22に示した適切な不規則パターンが生成され得ないことを意味しており、本発明が採用するLDS法および斥力緩和法の相乗的な効果により、良好な離散パターンが生成されているものと結論することができる。
図23には、同じ充填率(70%)において、矩形的指数関数型モデルを採用した場合に得られた本発明の離散パターンを示す。使用した斥力モデルにおけるパラメータは、n=1、D=0.1mm、L=0.15Dであり、ドットの形状は、0.1mmの正方形とした。図23に示した領域は、図22において説明したと同一の領域である。図23に示されるように、斥力模型のパラメ−タを調整することのみにより、用途に応じて離散パターンの様相をかなり自由に変化させることが見出された。
図22および図23の結果から、ドットの形状に応じて、最適な斥力モデルが存在することが示される。例えば、長方形のドットに関しては、楕円型の斥力到達範囲をもつ斥力模型が適合するといえる。上述した本発明の高い柔軟性は、従来の方法においてはまったく得られないものであり、例えば特開平10−153779号公報において開示されている方法に比較して、はるかに高い柔軟性を与えることができると共に、高い充填率においても良好な一様性の離散パターンを提供することを可能とするものである。
一方で、上述した斥力緩和法を適用する場合、境界条件の扱いが重要となる。何の条件も課さないとドットが区画の全体が広がってしまうためである。場合によっては、ドットの配置される領域を複数の区画に分割して条件を変えて不規則パターンを計算させたい状況も考えられる。このためつなぎ目などを排するという観点からは境界条件の選択は、特に重要となる。
一様分布か、それに近いような充填率分布の場合には、いわゆる周期的境界条件により斥力を計算して充分良い結果が得られる。しかし端部において充填率が最大になる場合などには、上述した力学的な斥力モデルによるドットの再配列を行う結果、充填率分布に誤差が生じる場合もある。この理由は、周期的境界条件を使用するために、境界において仮想的に充填率の不連続が生じるためである。そのような場合、LDS法で生成した初期位置を境界において反転させ、それを外場として記憶し、それ以後の境界条件とすることもできる。本明細書においては、上述した境界条件の設定を、自己相似境界条件と定義する。その説明を模式的に図24に示す。この境界条件を用いると充填率の不連続もなくなり、良好な結果が得られることが見出された。なお、初期位置を境界条件として使えることは、LDS法により与えられる初期位置自体が高い一様性を有し、かつランダムなためである。
また、いったん個々の区画について独立に離散パターンを計算させ、これらの離散パターンを接合しようとする場合には、まず自己相似境界条件を用いて部分的な離散パターンを計算させ、その後谷間の部分について斥力緩和法を使用して計算を実行させることができる。その際、境界条件は、周囲のパターンから得られる図24に示すような外場を採用することができる。図24においては、所定の区画内のドットを10aで示し、境界Bndに対して反転されたドットを10bで示している。後述するように所定の充填率分布を守った上で周囲と継ぎ目のないパターンが得られるのは、ドット間に斥力緩和法による相互作用を導入しているためと考えられる。
<セクションC>
充填率の連続的な変化:確率抽出法
離散パターンを現実的な用途に適用する場合には、一様なランダム性を保持させつつ充填率を変化させることが必要となる場合も発生する。本発明においては、ドットの充填率を連続して変化させ、かつ目視される欠陥を離散パターンに与えないようにするために確率抽出法を使用する。本発明を透過型液晶表示装置のバックライト・ユニットの導光板などに適用する場合に必要とされる充填率分布を、図25に示す。図25の左下隅の充填率は、約60%、その対角側が約30%程度の充填率とされていて、それらの間を充填率の等高線で示す。
このような充填率分布を与えるのは、四隅において散乱性を増加させることで、透過型液晶表示装置の画面の四隅で現われがちな低輝度領域を解消するためである。図22に示すような連続的な充填率分布は、格子点からのランダム摂動を考える従来の方法では、モアレ模様や、目視される境界を生成させることなく実現することは、実質的に困難である。本発明においては、確率抽出法を採用し、離散パターンを生成する全領域を所定の大きさ、例えば、数mm程度の区画に分け、そこにまずおのおの充填率を定義する。このとき、区画iの充填率をdiとして定義する。充填率から、下記式
で与えられる変量を定義する。ここで和は、すべての区画にわたって行う。この量を各区画に定義された確率とみなし、その確率に応じて所定の充填率とすべき区画を選択する。すなわち、Uを区間(0、1)で定義されたディスクレパンシイとし、方程式
から区画kを選択する。離散的関数Fkは、累積確率分布に相当する量である。そうして区画k内で再度2組のディスクレパンシイの値を用いて位置を選択する。このようにして選択することにより、初期位置において任意の充填率分布を実現することができる。以下の再構成処理によりドットのずれが生じるものの、この充填率が連続関数で与えられている限り、また、斥力模型の到達範囲と減衰距離が正しく充填率に応じてスケーリングされている限り、充填率分布のずれはほとんど無視し得る。本発明においては、上述した手法を確率抽出法と定義する。
確率抽出法と緩和法を組み合わせて使う場合、斥力のパラメターを充填率によってスケールするのは重要である。充填率が70%程度から10%程度まで変化する導光板等の用途に関しては、
の範囲に取るのが望ましい。ここでΔrはドットの平均間隔であり、ドットを所与の充填率を満たすように正方格子上に並べたときの格子間隔と定義する。充填率αとは
のような関係で結ばれる。ここでsはドットの最大径である。例えば、ドットが0.1mm、充填率50%であれば、約0.14mmとなる。上記範囲の中で斥力模型に応じて適切にパラメターを選べば、ドット間の平均的な距離がほぼΔrを中心にして分布する。Δrの数倍にもなるDを取った場合、ドットの重なり等がうまく排除されないことが判明している。このスケーリングを行うことで、充填率が変化する場合はもちろん、ドットの径が連続的に変化する場合にも、共通のDおよびLを用いて、ドットの重なりなどのない均一な不規則パターンを得ることができる。
図26は、本発明において、確率抽出法を使用して生成された連続的に充填率の変化する離散パターン、およびその部分的拡大図を示した図である。図26に示した離散パターンは、矩形ドットに対し、図25に比例する充填率分布を持つ充填率とされている。図26の算出においては、斥力モデルを、n=1、k=0.5、D=Δr[mm]、L1=0.4Dの楕円指数型とした。ドット径は0.1mmとして充填率を計算した。図26に示されるように、本発明により生成された連続的に充填率が変化する離散パターンは、充填率の変化する境界領域において目視される一様性の低下はなく、またモアレ模様といった問題も発生することなく、良好な離散パターンを与えることがわかる。
<セクションD>
離散パターンのLDS法におけるディスクレパンシイの範囲
(D−1)ディスクレパンシイの範囲
ディスクレパンシイについての計算を、様々のパターンについて実行させた結果を図27に示す。ここでは横軸にN、すなわち計算領域におけるドット数を取っている。図27に示されるように、それぞれのディスクレパンシイは所定の区画内に配置されるドットの数に応じて変化している。図27において+は充填率50%の一様パターンについて、擬似乱数によってドットを分布させたときのDの値を示す。図27の一点鎖線で示すように、この値は、図27に示したNの範囲内では、D=0.15/Nの直線の周りに分布する。ここでDは、ランダムなパターンに対してある正方形領域を取り、各ドットの中心座標に対して計算される。Nは、その正方形領域内に入るドットの個数である。図27中、◇は一様充填率(50%)の時に擬似乱数によって決めた初期配置を、斥力緩和法によって重なり排除を行ったものである。この場合は、斥力緩和法によってムラが減少させられるために、Dの値は、分布の揺らぎの範囲内で擬似乱数そのものよりも小さくなる傾向にある。しかし図21において説明したように、LDSで初期位置を決めた場合(○および黒三角)に比べて、分布には多少なりとも偏りが存在しており、分布の揺らぎの範囲内でDの値はそれらよりは大きくなるといえる。図27を含む様々な計算結果により、図21のようなムラが現れないためには、Dの値は、所定の条件を満たすことが必要であることがわかった。ここでDは、ランダムなパターンに対してある正方形領域を取り、各ドットの中心座標に対して計算される。Nは、その正方形領域内に入るドットの個数である。ここでDは、ランダムなパターンに対してある正方形領域を取り、各ドットの中心座標に対して計算される。Nは、その正方形領域内に入るドットの個数である。ただし、充填率分布が存在するランダムなドット・パターンの場合は、計算領域内で[(最大充填率)―(最小充填率)]/(最大充填率)の値が0.05を越えないようにする。この理由は、充填率の分布がムラとしてDに反映されないようにするためである。また、計算領域の充填率は、計算領域を10個以上100個以下のドットが入るような大きさの区画に分割した場合に、その区画に入るドットの個数から求めるものとする。
上述した検討の結果、本発明において提供されるべき一様性を与えるためには、所定の区画内に配置されるドットの数が4000以下の場合に、ディスクレパンシイの2乗であるDが、下記式
を満足することが必要であることが見出された。ここでNの範囲を4000以下に決めたのは、これ以上になると、ディスクレパンシイを計算する領域が大きくなり、充填率分布が存在するような場合にはそれがDの誤差を生じさせることがあるためである。本発明においてはさらに、斥力緩和法により生成された離散パターンについては、Nが50から4000の範囲で、D≦0.13/N1.15を満たす時に、明らかに目視し得るムラのない、一様な離散パターンとなることが判明した。
さらに、本発明においては、上式に加えて、Nが50から4000の範囲で、D≦0.30/N1.15を満たすときに、目視し得るムラの存在しない非常に一様なランダム・パターンが得られることが判明した。図に示したように、一様な充填率分布(50%)に対してLDSを初期値に使い、斥力緩和法で重なり排除を行った場合の離散パターン(○)はこの条件を満たしている。この場合のディスクレパンシイは、LDSによるものよりも僅かに増加する傾向にあるが、擬似乱数の場合の減少の度合いと比べれば、その変化ははるかに小さい。確率抽出法により充填率分布をつけ、LDSで初期位置を与えた場合(黒三角)は、Dの値にばらつきが大きくなる傾向にあるが、そのばらつきの範囲内で上記条件を満たす。
ここで留意するべきことは、ディスクレパンシイが低いことが直接ランダムな離散パターンを与えないことにある。ディスクレパンシイが低いことは、一様性といった点では良好ではあるものの、規則的な格子でもディスクレパンシイが同程度に低い離散パターンがあり得る。このような場合には、いくらディスクレパンシイを低く抑えたところで、モアレ模様が発生して特に光学的な用途には適用するには不適切である。すなわち、ディスクレパンシイが低いことは、本発明において一様性を与えるための必要条件であるが、一様で、かつランダムな離散パターンを与えるための十分条件ではない。
そこで、本発明者らは、目視観察において一様であり、かつ実用上問題のないランダム性を与える離散パターンを複数種、本発明の方法により生成して鋭意検討を加えた。
図28は、擬似乱数発生法を使用して発生された離散パターンを示した図であり、図29は、LDSおよび斥力緩和法を用いて生成された離散パターンを示した図である。図28および図29に示されるように、両者には一様性といった点で、大きな違いがあることがわかる。本発明者らは、図28および図29に示される離散パターンから実測されるDの計算を行った。計算にあたっては、図28および図29に示したように、点Pを固定し、矩形領域の一辺の長さx1およびy1を変化させてDを計算した。
その手順の概略を示すために、領域を正方形(x1=y1)とし、その1辺とDとの関係を、図30に示す。図30(a)が図29に示した離散パターンについて得られたディスクレパンシイであり、図30(b)が、図29において実測されたディスクレパンシイを示す。図28のパターンに比べ、図29のパターンのDが小さいことが明らかに見て取れる。これは図28におけるムラの存在を反映した結果である。すなわちDは実際に不規則パターンの一様さの指標となっていることを実証するものである。
(D−2)ランダム性の指標
本発明者らは、ランダム性の指標として総変動量S1を下記式により定義した。
上記式中、gは、所定のドットを中心とした動径分布関数であり、
で定義される。ここでδは、ディラックのデルタ関数、Rは所定のドットを原点とした場合の他のドットまでの距離を表し、その和は、対象とする領域における(原点ドット以外の)すべててのドットの中心位置にわたって算出する。また、上記式中Nは、その領域に入るドットの総数である。和をとる領域は、原点ドットを中心にした正方形領域とし、その正方形の中に例えば50個以上のドットが入るようにすることを目安とすることができる。
上記の関数は、半径rの円周上における単位長さあたりのドットの存在確率密度と解釈できる。これは規格化条件
が成り立つことから理解できる。例えば、図31に示す5×5の正方格子の各格子点にドットが配置されている場合について説明する。この場合には、中心位置周りの動径分布関数は、下記式
で与えられる。上式中、aは格子定数である。これが上記規格化条件を満たすことも容易に確かめられる。
実際にはデルタ関数は、下記式
のようなガウス関数で置き換えて計算する。これはひとつには有限の測定誤差を考慮したものである。ここでsは、下記式
となるように選択する。Nに関係しているのは、gを計算する際周囲のドット個数が有限であることを考慮に入れたものである。Δrは所与の充填率を満たす正方格子を考えたときの格子定数である。
上述した正方格子のgを図32(a)に示す。図32(a)は、s=a/24とした場合のgを示している。図32(a)に示されるように、ピークがトゲ状シャープに変化していることは、ドットが規則的に配置されていることに対応する。これは中心ドットに対して周囲のドットの位置が規則的に離散しているためである。逆にいえば、もしもドットの配置が不規則であれば、充分大きなNに対しては、原点ドットに対して平均されたgにおいて図32(a)のようなシャープなピークは現れず、滑らかな関数になることが期待される。そこで、r1からr2の範囲で、下記式、
で定義される関数に対して、
と定義し、これを規則性の指標、すなわち総変動量とする。ただし、ここでのgもしくはg1は、原点のドット位置を様々に変えたときの平均的な分布関数と見なされる。
ここで、gavを下記式
とした。この値を図32(a)では点線で示した。S1は、図32(a)における面積A、B、C、D...の和に対応している。
上述した正方格子に対してsを変化させてシミュレーションを行った結果を図32(b)に示す。規則格子では、原点ドットに対して平均した分布関数は、任意のドットの周りの分布関数に厳密に等しい。ここではsの値を上から順にa/24、a/10、a/2とし、r1=1、r2=3とおいた。図32(b)に示した計算例は規則格子を使った例ではあるが、ガウス関数をドット中心位置の揺らぎを表す関数と解釈することができるので、sを大きくすることが擬似的に不規則性を再現することになる。図32(b)において横に引かれた破線は、gav、すなわちg1の平均値である。ここでは5×5の格子を例として考えているので、gavは、図32(b)において1から3の範囲において計算するものとした。図32(b)に示すように、関数がなだらかであるほどS1の値が小さくなっていることがわかる。すなわち、規則性が低いほどS1の値は小さいと結論される。
ここで本発明の離散パターンを光学的用途に提供する場合に、モアレ模様などの不都合を生じさせないためには、ドットの規則性が充分に低くなければならない。本発明者らは実際に生成されたランダムなドット・パターンに対し鋭意検討を加えた結果、Dについて上述した条件を満たすと共に、r1=1.0Δr、r2=4.0Δrとしたとき、S1が0.7以下である場合に実用上問題のないランダム性を有していることが見出され、さらにはS1が、下記式、
を満たすことが実質上モアレ模様を確実に発生させない点で好ましいことが見出された。また、本発明者らは、鋭意検討を加え、この条件を満たさないパターンは、多かれ少なかれドットが規則性を残しているため、モアレ模様が目視で確認できるほどに生成するという不都合を与えることを確認した。
(D−3)離散パターンからのディスクレパンシイおよび総変動量の算出
上述したディスクレパンシイおよび総変動量を現実の離散パターンから算出するためには、種々の方法を採用することができる。例えば、離散パターンをディジタルカメラ、スキャナなどによりディジタル・データとする。その後、得られた離散パターンを含むディジタル・データから、図28、図29において説明した手法を使用してディスクレパンシイを算出する。さらに、離散パターンのディジタル・データから上述した(D−2)において説明した各パラメータを算出し、総変動量S1を求めることにより、離散パターンを含む物体から、本発明において規定される離散パターンの一様なランダム性を判断することができる。
離散パターンは、2次元的形状として与えることも可能である。また、フォトリソグラフィーといった手段により物体に対して離散パターンを付する場合には、離散パターンは、3次元形状として形成することができる。離散パターンが、3次元形状として形成されている場合には、離散パターンを形成する構造のいかなる部分を基準として用いて、本発明の一様性、ランダム性の判断を行うことができる。さらに、適切なディスクリミネーション、トリミングといった画像処理を行い、必要な特性を与える領ドット形状を特定し、そのドットにつき、本発明の一様性、ランダム性を有することを判断することもできる。
加えて、本発明においては、モアレ模様が発生しないことが特に光学的用途に使用する場合には必要とされる。この場合には、上述したように測定された離散パターンのディジタル・データから得られた離散パターンの動径分布関数を検討することもできる。本発明において、特にモアレ模様を発生させないためには、上述した離散パターンの平均的動径分布関数が、鋭いピークを有しないことが好ましい。しかしながら、モアレ模様が問題とならない、例えばスリップ防止用のパターン、ディザリング処理のためのパターンなどにおいては、特に動径分布関数の制限に配慮する必要はない。
パートII:ドット自動生成法による離散パターンの生成
本発明における第一の構成では、上述したように領域全体を小区画に分割し、各小区画内では充填率が一様であるとみなして各小区画に対して確定的な点列発生方法を使ってドットを生成した後、小区画内部及び小区画どうしの間に発生した充填率の不具合を、緩和法を使って緩和させることにより、ドットパターンを生成することもできる。しかしながら、生成するドットの個数は小区画単位でドットを生成させる段階で既に決定しており、緩和法の過程でドット数が増減することはない。したがって充填率分布関数の勾配が急激に変化する部分において、予め定められた充填率ではなく、充填率を必要に応じて変化させるべく、ドットを生成することが望ましい場合もある。
図33には、予め充填率を定めておき、ドットをランダム化させるように斥力緩和法により緩和させた場合の実施の形態を示す。図33に示されたドットパターンでは、充填率の勾配が大きいため、充填率の谷の部分で、緩和に伴うドットの移動の自由度が制限され、その結果、緩和過程においても望ましい時間的変化を示さないことが原因である。このような欠陥は、上記のように小区画ごとにドットの初期個数を固定する方法では多かれ少なかれ見られるという不都合があった。この場合は、ドットを小区画ごとに生成または削除することにより、図33に示したような不都合を防止することができる。
以下、本発明におけるドット自動生成による離散パターンの生成について詳細に説明する。本発明においては、パートIにおいて説明したと同様に、ドットを所定の領域へと配置する。しかしながら、本発明のドット自動生成法では、入力データとして、1)ドットを生成する矩形領域、2)1つのドットの面積、3)矩形領域上に定義された充填率分布関数を与える。本発明のドット自動生成・削除法において使用する矩形領域および充填率分布関数を図34に示す。図34(a)が矩形領域を示したものであり、図34(b)が図34(a)に示した矩形領域上に定義された充填率分布関数を示した図である。
図35において本発明において用いるドットに関連する概念であるバブルを説明する。ここで、図35においてはドットをPi(i=1、 …、 n)とする。本発明の特定の実施の形態においては、すべてのドットは同じ面積Aを持つものとする。ドットPiの中心(xi、 yi)を指定すると、充填率分布関数を使ってその位置での充填率Gi(xi、 yi)%が計算できる。充填率とは、単位面積当たりのドットの面積総和の百分率である。1つのドット位置を考えたとき、その位置で指定した充填率が満たされるために他のドットが内在してはいけない円形領域を決めることができる。この円形領域のことをバブルBとして定義する。図35に示した実施の形態においては、中心(xi,yi)にドットが配置されており、直径diのバブルBが面積Sとされているのが示されている。
このバブルBは、中心が[xi、 yi]で、直径がdi(xi、yi)とされており、本発明においては、たとえば具体的には、下記式により与えることができる。
上記式中、Gi(xi,yi)は、百分率で表示した充填率であり(例えば80%)、Aは、ドットの面積である。上述したように、本発明においては、ドットの面積は予め与えられているので、矩形領域内の一点[xi、yi]を指定すると、充填率分布関数を使ってその位置でのバブルの直径dを求めることができる。
本発明は、上述したバブルを使用して、以下、
1) 初期ドットの生成ステップ(省略可能)
2) 引力斥力モデルを用いたドット座標値の更新ステップ
3) 適応的なドットの追加削除ステップ
のステップを用いることにより、ドットの自動生成・自動削除を行い、生成されたドットを含めて力学的な緩和を行わせることで、特に充填率分布が急に変化する領域において良好な離散パターンを生成する。
以下、初期ドット生成ステップについて説明する。初期ドット生成ステップは、本発明においては、使用することもできるし、また、省略することができる。初期ドット生成ステップを省略する場合には、ドットが0個の初期状態からスタートすることになる。その後順次ドットを増加させ、ドット自動生成・削除ステップでドットを順次矩形領域内に追加してゆくことができる。しかしながら本発明においては、所望するドットパターンに近いドットパターンを最初に生成しておくことにより、所望するドットパターンを生成するまでの計算時間、記憶容量といったハードウエア資源を節約できる。本発明において、初期ドット生成ステップを省略する実施の形態においては、後述するドットの引力・斥力緩和による位置座標更新ステップおよびドット追加削除ステップを繰り返して適用することにより、ハードウエア資源の容量に応じて実行することが可能なので、以下、本発明の実施の形態においては、初期ドット生成ステップを含む手順について説明する。
上述したように、本発明において採用する初期ドット生成ステップは、計算時間を短縮する目的のために、求めたいドットパターンに近いドットパターンを生成するステップである。本発明においては、上述した初期ドット生成ステップにおいていくつかの方法を使用することができる。図36には、本発明において使用することができる4分木を使用する方法を示す。図36に示された四分木を使用する方法は、まず矩形領域の中心にバブルを配置する。このバブルの直径は上記式からその点における充填率を使用して計算したものである。このバブルが矩形領域の十分な面積を覆っているsで示された区画では、そのバブルを残してこれ以上の分割をしない。十分な領域を覆っていないisで示された区画では、4分木を使用して矩形領域を4つの小区分に分割し、それぞれの小区分に対して同じ処理を行ない、それぞれの小区分についてバブルを配置する。この処理を再帰的に繰り返すことにより、図36(c)で示されるようにバブルを与え、与えられたバブルの中心位置をドットの位置として決定することで、初期ドットを生成する。本発明のさらに別の実施の形態においては、初期ドットを上述したパートIで説明したように、充填率分布を使用したLDS法により生成することもできる。
本発明においては、ついで引力斥力モデルを用いてドットの位置座標を調節して最適な引力・斥力ポテンシャル内において初期ドットの配置を修正する。ドット座標値更新ステップでは、2つのバブルが近接した位置にある場合にそれらに斥力を作用させ、また離れた位置にある場合には引力を働かせて、これらの力が釣り合う位置にバブルを移動させ、移動後のポテンシャルエネルギーが最低となる位置座標へとバブル中心位置を設定する。
より具体的に説明するため、2つのバブルB1、B2の間のポテンシャルを考察する。2つのバブルの中心は、それぞれ[x1、 y1]、 [x2、 y2]、であり、直径がそれぞれd1(x1、 y1)、 d2(x2、 y2)であるとする。2つのバブルの中心間の距離を変数rで表すと、rが下式で計算される値r0であるとき、2つのバブルは接している状態で、引力・斥力ともに均衡した状態である。この状態を斥力関数と共に図37に示す。図37に示すように、互いに隣接するバブルは、バブルが重なり合う場合には、斥力が作用し、バブル境界が接している場合には、斥力および引力が共に作用せず、バブルが互いに離れている場合には、引力が作用する構成とされている。
この状態を安定状態と考え、力が作用しない状態とする。また、図37に示されるように、rがr0より大きいときに引力が、r0より小さいとき斥力が働くようにバブル間力を決める。1つの例として、下式f(r)のようにバブル間力f(r)を定めることができる。
図37に示した上記式が表す関数f(r)は、斥力到達距離Dを有しており、斥力項と、引力項とを含んでいる。本発明において、ドットを自動的に生成する場合には、特に斥力ばかりではなく、図37に示した引力を考慮することが好ましい。このため、パートIで示された各種ポテンシャルのうち、引力項を含む関数をドット自動生成ステップにおいて使用することができる。この理由としては、ドット自動生成法を用いた場合には、生成されるドットと他のドットとの間の斥力ばかりではなく、離れたドットへと近づけることを考慮することが必要とされるためである。
本発明において採用するドット自動生成ステップにおいては、新たに生成された1つのバブルBi[xi、 yi]は、周囲に位置する複数のバブルから上記式により与えられる力を受けて新たな座標を取得することになる。この際、ポテンシャル・エネルギーによる運動方程式としては、たとえば下記式を用いることができる。
ここでtは、時間であり、mは、ドット質量であり、cは、ドットの移動の際の抵抗を表す係数である。この上記式を、差分を使って書き換えた式を用いて、反復毎に時間Δtを一定量増加させることにより、移動先の位置を計算する。このようにして求まったバブルの中心位置をドットの位置として決定する。
さらに、本発明のドット生成方法においては、3番目のステップである、適応的なドットの追加削除ステップを実行する。このドット自動生成ステップは、生成されたドットの移動とともに、反復処理の中で繰り返し行われる処理である。ドット追加削除ステップでは、矩形領域内に適正な数のバブルを生成するために、反復計算の過程で重なりの激しいバブルを削除し、隙間部分には、新規のバブルを追加する処理を行う。本発明においては、上述したドット追加削除ステップにおいて使用することができる方法は種々考えられるものの、1つの方法として、ドローネ三角形分割を利用してバブルの追加削除を行う方法を挙げることができる。
本発明において、ドローネ三角形分割を利用する方法では、まず既存のバブル中心を結ぶドローネ三角形メッシュを生成する。メッシュの辺長さとその両端のバブルから計算されるr0値(バブル半径の和)とを比較する。辺長がr0と比べてある割合以上に大きい場合には、その辺の中点に新しいバブルを生成する。一方辺長がr0と比べてある割合以下に小さい場合には、両端のバブルのどちらか一方を削除する。このバブルの追加削除は、必ずしも反復の度に行う必要はなく、反復数回に一回行うだけでもよい。
本発明においては、上述したドローネ三角形分割以外にもいかなる方法を使用しても、バブルの生成・削除処理を行うことができる。たとえば、隣接するバブルの距離に対して一定のしきい値を設けておき、このしきい値以上に離れたバブルの間の重心に新たなバブルを生成する方法、またバブル間の距離に最小しきい値を設けておき、最小しきい値よりも小さな距離しか離れていないバブルのうちの一方を消滅させる方法など、適切にバブルを追加削除することができる限り本発明においては、いかなる方法でも採用することができる。
以下、本発明のドット自動生成法の具体的な実施の形態を詳細に説明する。本発明においては、ドット自動生成法は、ドットの自動生成および自動削除を適応的に行い充填率分布を適正に保つことを目的として行われる。このために本発明において使用することができる処理プロセスを、図38に示す。図38(a)は、所定の矩形領域にドットを生成させるための概略的な手順を示し、図38(b)には、ドット追加・削除プロセスの概略的な手順を示す。本発明のドット自動生成処理における入力データは、3種類あり、ドットを生成した矩形領域と、ドット面積と、充填率分布関数である。この矩形領域は、ドットを生成したい領域に、充填率分布が正確に得られるように、本発明の特定の実施の形態では、端部付近のマージンをつけた領域として与える。ドット面積は、上記式を使って充填率からバブル直径を計算するときに使われる。3つめの入力データである充填率分布関数は、ドットを生成する矩形領域上に定義された充填率分布関数である。このドット生成において使用することができる矩形領域を図39(a)に示し、充填率分布関数を図39(b)に示す。矩形領域内の一点を与えると、その点での充填率はこの充填率分布関数から計算される。
図38のフローチャートを使用してドット自動生成・自動削除処理について説明すると、ドット自動生成・削除処理は、ステップS20から開始し、ステップS21において、矩形領域と、ドット面積と、充填率分布関数とを入力する。ついで、図38の手順では、ステップS22において矩形領域境界にドットを生成する宣言を行う。この宣言の後、図38(b)に示したドット自動生成・削除の手順を、矩形領域の境界について実行する。図38(b)の手順が収束した後、図38(a)に示すステップS23へと結果を渡し、矩形領域内部にドットを生成する宣言を行う。その後、再度図38(b)に示した手順を使用して、矩形領域の内部にドットを生成させ、その結果をステップS24へと渡して結果を出力させ、ステップS26で本発明のドット自動生成・自動削除処理を終了する。
上述したステップS22で生成した矩形境界上のドット座標値を固定したうえで、ステップS23を実行させるのは、矩形領域の境界領域にバブルを生成しておくことで、ステップS23で生成するドットが反復計算過程で矩形外部に移動しないようにするためである。すなわち、ステップS22の手順を予め実行しておくことで、境界付近に位置するドットは、境界上のドットから斥力をうけるため、矩形外部にはみださないようにすることができる。
またこの際に用いる矩形領域は、図39(a)に示すように、実際に利用される領域にマージンをつけて矩形領域が与えられている。この理由は、ステップS22の実行により、利用する領域境界線に沿ってドットが整列することになり、もしマージンがない場合には矩形領域が互いに隣接する境界部でモアレなどを生じる原因となる。このため、利用したい領域境界にドットが整列しないようにするために、マージンをつけて矩形領域を生成する。図39(a)ではドットを生成する領域を矩形領域として図示しているが、本発明においては、目的に応じて任意の形状の領域を使用することができる。また、図39(a)では、ドットを生成する領域を平面領域として図示しているが、本発明においては、目的に応じて曲面形状など立体的な領域を使用することもできる。
さらに、本発明においては、図38(a)のステップS22で行う処理は線分(1次元図形)を対象に、一方ステップS23で行う処理は矩形領域(2次元図形)を対象に行うが、それぞれのステップにおいて使用する処理は同様に、図38(b)で示した手順を用いることができる。図38(b)の手順を説明すると、ステップS28においてまず最初に初期ドットを生成する。この場合については、本発明においてはLDS法、または乱数発生法のいずれでも使用することができる。しかしながら、本発明の特定の実施の形態では、良好な離散パターンを比較的短時間で得るためには、LDS法を使用して初期ドットを生成することもできる。ついで、ステップS29において反復計算の過程で、ドットの座標値を更新する。この反復計算は、ステップS30におけるドット座標値の更新量が所定のしきい値よりも小さくなった場合に、ドットの移動がほぼ終了したものと判断し(yes)、その結果をステップS23へと渡す。
それ以外の場合(no)には、ステップS31でドットの自動生成・自動削除を行い、再度ステップS29におけるドット座標値の更新を実行する。再度ステップS30の判断を行い、ドットの座標値の更新量が十分に微小である場合(yes)にその結果出力データとしてステップS24へと渡し、矩形領域内部に充填されたドットパターンの出力を行い、ステップS26で処理を終了する。以下、それぞれのステップに関して、以下に詳しく述べる。
以下、まず図38(b)のステップS28の初期ドットを生成するステップについて詳細に説明する。このステップは先に述べたように、求めたいドットパターンに近いドットパターンを最初に生成しておくことにより、計算時間を短縮させるために行う処理である。図36において示したように、上述したように4分木を使う方法を使用して初期ドットを生成することができる。なお、本発明において4分木を使用する場合には、ステップS22における処理では対象が線分なので、2分木を使い、ステップS23における処理では対象が矩形領域であるために4分木を使って初期ドットを生成することができる。
また、本発明においては上述したように、予めLDS法により初期ドットを与えておく方法を用いることができる。即ち矩形領域を複数の小区画に分割し、各小区画に対しては、充填率を一定と考えて、LDSを使って初期ドットを生成することができる。また、本発明においては、初期ドットを予め生成しておく場合には、初期ドットに対して、各小区画ごとに充填率分布に揺らぎを与えておき、より離散パターンの離散性を向上させることもできる。
以下、図38において、ステップS29のドットの座標値を更新するステップについて述べる。このステップでは、各ドットに対して1つのバブル(円形領域)を対応させ、バブル間に引力・斥力を作用させることにより、ドットの新しい位置を計算する。バブル間に作用する力は上記式を使って計算する。また、ドットの運動については、上記式の運動方程式を使用して解析を行い、引力・斥力の総和が減少するようにドットの新しい位置座標を計算する。
なお、ステップS22における処理ではバブルを生成する対象が線分であるために、1つのバブルはその両側に位置するバブルから力を受けて、線分上において新しい位置に移動する。一方、ステップS24における処理では、対象が矩形領域であるために、1つのバブルは周囲に位置するバブルから力を受けて、2次元的に矩形領域内の新しい位置へと移動する。この際、バブル間の斥力および引力は、上記式に示すように、一定距離(本発明における特定の実施の形態においては、1.5r0)以上離れたバブルからは力を受けないように定めれば、一定距離以上近傍にあるバブルからの力のみを考慮するだけですむことになるので、安定した収束を期待でき、また計算時間を節約することができる。
さらに、本発明のドット自動生成・自動削除処理における反復計算の実行を判断する処理である、ステップS30を説明する。上述した処理によりすべてのドットの移動距離を計算する。その距離の最大値が予め定められたしきい値以下である場合には、ドットの移動距離は微小であると判断して(yes)、反復計算を終了する。それ以外の場合(no)には、ドットの自動生成・自動削除ステップへと進む。また、本発明においては、移動距離以外にも引力・斥力の総和の変化量が所定のしきい値以下となった時点で反復計算を終了させることもできる。
ついで、ステップS31では、ドット自動生成・自動削除を実行する。まず、ステップS31では、互いに隣接する2つのバブル中心間距離と、r0値(2つのバブル半径の和)とを比較する。バブル中心間距離rがr0値と比べて、たとえば所定のしきい値以上大きい場合には、その2つのバブルの間に新しいバブルを追加する。その際のしきい値としては、たとえばバブル間の距離が1.8r0といった値を用いることができる。一方、rがr0と比べてある割合または最小しきい値よりも小さい場合には、どちらか一方のバブルを削除する。その割合または最小しきい値としては、0.5r0といった値を用いることができる。
なお、本発明においては隣接するバブルを特定することが必要となる。この隣接するバブルを特定する手法としては、ステップS22における処理では対象が線分であるために、線分上のバブル列を順序づけて保持しておくことができる。一方、ステップS23における処理の場合には対象が矩形領域であるために、線分を対象とする場合ほど容易ではない。このため、まずドローネ3角形分割を使ってバブル中心をノードとする3角形メッシュを生成する。その結果3角形の辺で結ばれた2つのバブルを隣接バブルと判断することができる。
また、前回の反復で新規に追加されたバブルが安定した場所に移動しないうちに、上述した追加削除判定を行うと、新たに追加したバブルが削除判定条件に合致し、削除されてしまう可能性がある。よって、ステップS31のドット自動生成・自動削除手順は、反復の度に行うのではなく、所定の反復回数(5-10回程度)ごとに一度だけ実行させることが好ましい。
図40には、上述した本発明のドット自動生成処理により生成される以前のドットパターンを示し、図41には、本発明にしたがってドットが生成された直後のドットパターンを示す。図41に示したハッチングで示した新たなドットは、その後周囲ドットからの引力・斥力に応じて最も安定な状態となる位置座標を取得し、たとえば急激に分布関数が変化する領域においてモワレなどの光学的な不都合を抑制することを可能としている。
パートIII:力学的スケーリング則に基づく濃淡画像の2値化
本発明においては、上述したLDSおよび斥力緩和法を利用して、所定の青色ノイズを満足する濃淡画像の2値化を行うことが可能である。本発明における濃淡画像の2値化においては、初期パターンをLDS法を用いて生成した後、この初期ドットパターンに対して斥力緩和法を適用して、力学的多体問題として濃淡画像の二値化のためのディザリング・パターンを提供する離散パターンを提供することが可能である。以下、本発明による濃淡画像の二値化について詳細に説明する。
本発明の濃淡画像の二値化への適用は、上述したようにある任意のiドットと、iドットに隣接したドットとの間に斥力を与え、その力学的時間発展を追うことにより行われる。ここで、iドットに対して、本発明においては、運動方程式としてm、cを定数として下記式、
を使用する。最右辺の総和記号は、iドットに隣接するすべてのドットにわたる斥力のベクトル和を意味する。上記式は、速度に比例する減衰項を含んだものとされている。ここで、t0を初期時刻とする。上記式の一般解は、t>t0に対し、
として得ることができる。ここで、定数の比c/mの値は、任意に設定できる。この比を大きくした場合、たとえばmをcに対して小さくとった場合は、具体的には、軽い粒子を粘性の強い流体中で運動させる場合に相当する。この場合には、c/mが大なので、指数関数の項は、1よりも遙かに小さく、無視することができる。このため、粒子の位置は、良好に下記式、
で示される差分方程式で記述できる。上記式中、右辺の相互作用力の項に含まれた未知量を、過去の時刻の値で置き換えた。多体問題の言葉でいえば、多体相関を平均場近似したことにあたる。
本発明においては、上述した条件の下で力学的緩和法を、LDSと組み合わせて用いることで、良好な効果を得ることができることが見出されたのである。以後、本発明の濃淡画像の2値化方法を、DLDS(dynamical LDS)法として参照する。Ulichney(R. A. Ulichney、 Proceedings of the IEEE、 76 (1988) 56.)によれば、Ulichneyの基準として上に挙げた青色ノイズ特性とは、もともと、最近接ドット間隔が主波長(principal wavelength)近傍に集中すべきとの想定から考えられたものである。0から1の間に規格化された階調αに対して(すなわち、α=1が黒、α=0が白)、主波長は下記式、
で定義される。ただし、aはドット1個あたりの面積である。最近接ドット間隔が、主波長近傍に集中するような等方的ドットパターンは、青色ノイズ特性をもつことが知られている。本発明では、上述した主波長に対してドット間斥力の到達長さDを、主波長程度に設定するものである。すなわち、Dを斥力到達範囲として、
として設定する。これはミクロ量についての直接的な規定であり、フーリエ変換等の複雑な処理なしに、結果として現れるドットパターンが、低いディスクレパンシイを保ちながら青色ノイズ特性を持つことを保証するものである。なお、本発明においては、斥力は等方的な中心力であるものとする。
斥力の到達範囲の階調依存性は多少最適化の自由度を持っている。しかしながら、上述した主波長を力学的なスケーリングのために使用して、DLDS法を用いることにより、優れた特性の2値化パターンを得ることができる。この手法を、以下、スケーリングDLDS法と呼ぶ。
上述したスケーリングDLDS法を適用することができる2値化手法について、より詳細に説明する。図42には、本発明を好適に適用することができる2値化処理の概略図を示す。図42(a)は、濃淡画像である原画像OPを示し、図42(b)は、区画ごとの濃度勾配を示し、図42(c)は、濃度勾配に関連して生成されたドットパターンを示す。図42(a)に示すように、原画像OPの複数の画素を覆うような区画に対して、その区画における階調勾配に忠実に初期ドットを発生させ、それをスケーリングDLDS法で最適化する。図に示す原画像には、図42(b)の等高線で示されるように濃度勾配が存在しているのが模式的に示されている。図42(b)では、等高線が高い側が濃度が低く、低い側が濃度が高くされている。その濃度勾配に対応して生成されたドットパターンが図42(c)に示されている。図42(b)と図42(c)とは、PrおよびPlどうしが対応する関係となっている。
また、本発明のスケーリングDLDS法は、周囲の区画におけるドットパターンを記憶させておき、それらのドットの作る斥力場を固定された外場として考え、各ドットの位置座標を斥力緩和法により取得させる。本発明のスケーリングDLDS法によれば、区画間の継ぎ目を実質的には見えなくすることができるので、小区画の間に現れがちな障害を実質的に除去できる。
本発明においては、原画像における連続的階調変化を含むような領域を、基本区画として考える。濃度は、0〜255の階調に均等に割り当てられており、それぞれの階調に対して充填率が定められている。当該区画は、複数の原画素を含む。その区画における初期配置の生成にあたっては、上述した確率抽出法を利用する。これにより、位置による階調変化と調和した初期ドットパターンが得られる。
ついで、LDS法を使用して生成された初期ドットパターンに対して斥力緩和法を適用してドットパターンの周波数特性を改善してゆく。その際には、ドット間斥力の到達範囲Dは、主波長に対するスケーリング則に関連して階調値の関数としてスケーリングするのを基本とする。しかしながら、本発明においては階調の勾配に応じて、
のように、主波長に関連した関数を使用して斥力の到達範囲を変更することもできる。
本発明者らが鋭意検討した結果、ディザリィング・ビットマップの1画素あたり、100分の0.2以上の階調勾配がある場合には、
で与えられる関数を使用することが効果的に青色ノイズ特性を得ることができることが確認された。図43には、上記式を使用した斥力緩和法を使用して得られたドットパターンを示す。図43に示されるように、本発明のDLDS法によりドット間の間隔が、階調勾配に見合ってスケールリングされており、モワレ、ムラなどの欠陥のない、良好な2値化画像が得られているのが示されている。
また、上述したスケーリングDLDS法では、原画像全体をひとつの小区画と見て初期ドットを生成して2値化作業を行うこともできるが、計算の高速化などには、原画像を小区画に分割することが望ましい。図44には、本発明における濃淡画像の二値化における小区画への分割を用いる場合の実施の形態を示す。図44に示された区画すべてをスキャンするにあたり、境界外に生成ドットがない場合は、上述した自己相似境界条件を使用して、ドットパターンを生成することができる。すなわち、初期配置を境界に折り返し、境界において形成される斥力場を外場として採用して、斥力緩和法を適用することができる。すでにドットパターンを生成した区画を境界として持つ区画(例えば図44の「P3」で指定された区画の左側境界)については、外部区画のドットパターンの一部(境界に接する領域)を記憶しておき、それを外場の源として扱うことができる。このようにすれば、区画の境界で継ぎ目などは生じない。誤差拡散法では、画質向上のため、小区画のスキャンにも様々な方式が存在するが、本発明の手法では、このような工夫の必要がなくなり、簡素なソフトウエアおよびハードウェアを用いることができる。
図45には、図44に示した小区画に分割した後に、自己相似境界条件を使用して得られた濃淡2値化ドットパターンの拡大図を示す。図45には境界が含まれているが、知覚するのは困難なのが示されている。また図45では例えば、図45の下側部分ではかなり急な階調勾配が与えられているが、階調によって、ドット間隔が主波長の程度で正しくスケールされており、光学的に大きな不都合が生じていないことがわかる。図45に示すように、本発明によれば、各区画において、周囲のドットパターンと調和させてドットパターンを生成することが可能となり、画像分割に伴う虚像、モワレ模様などがまったく現れない良好な二値化画像が得られることが示される。
本発明者らは、さらに上述したスケーリングDLDS法を用いて、1対多マスク法におけるドットパターンの生成について検討を加えた。図5に示した1対多マスク法に対して、本発明を適用する場合について説明する。すなわち、1対多マスク法において各階調のドットパターンを作成するにあたり、スケーリングDLDS法を適用した。この場合には、各階調のドットパターンは、厳密にはMitsa-Parker条件を満足しないものの、本発明者らが検討したところ、1対多青色マスク法として充分に適用することができることが見出された。本発明において使用する決定的数列としてのLDSの特性から、異なる階調間でのドットパターンは独立したものとはならず、隣接する階調のパターンの間で相関が存在する。この相関は、連続的に階調が変化する場合の原画像の好ましい二値化のためには必要な条件とされており、本発明のスケーリングDLDS法が十分に1対多青色マスク法に対して適用することができる。
図46は、異なる階調の間でのLDSの相関を示した図である。図46では階調0.32と0.30が比較されている。なお、図46では、階調0.32としたときに階調0.30のドットに対して追加されるドットを■、階調0.30のドットを□で示している。図ではドット■を、ドット□に対して上書きしているため、黒く見える部分が、階調0.32において追加されたドットである。このような異なる階調間での相関は、階調変化に伴う擬似画像を除去するために望ましい。
図46に示されたドットパターンに対して斥力緩和法を適用して緩和させたドットパターンを図47に示す。斥力緩和法による再配置が行われることにより、青色ノイズ特性をもつドットパターンに特徴的な、最近接ドット間隔がよく揃ったパターンが生成されている。また、図47においては、異なる二階調での重なりは初期配置ほど明確ではないが、0.02という比較的大きな階調差(本発明において説明する特定の実施の形態においては、階調を全体で256階調としているので、0.02の階調差は、約5階調分の差に対応する)にもかかわらず、大部分のドットは□と■で重なりを持っていることがわかる。したがって、スケーリングDLDS法で生成したパターンは、1対多青色しきい値マスクとしてきわめてよい特性を有していることが示される。これをしきい値マスクとして使用する際には、境界においてつなぎ目を生じさせないために、ドットの緩和過程において周期的境界条件を課するのが望ましい。
また、本発明は、従来の1対1青色マスク生成手法において、出発点となる青色ノイズドットパターンの生成についても適用することができる。上述のMitsa-Parkerらの論文、または米国特許第5,543,941号明細書で開示された1対1のしきい値マスク作成方法では、中間階調において、青色ノイズ特性を持つドットパターンを出発点として用いる。本発明のスケーリングDLDS法で生成したドットパターンは、きわめて優れた青色ノイズ特性をもつため、その使用に使用することができることが確認できた。
さらに、本発明者らは、本発明のスケーリングDLDS法を、ボロノイ分割に基づき、青色ノイズ特性を持つドットパターンの生成に適用した。本発明における確率抽出法とスケーリングDLDS法を適用してドットパターンを作る際、運動方程式の差分表現における右辺の相互作用力を求める必要がある。これは原則として、計算領域のすべてのドット対について計算を行わなければならない。このため、本発明においてはいわゆるバケット探索法を用いるなど、データ構造を工夫することで計算速度を相当に高速化可能である。ここで、ドット対を特定するにあたり、ボロノイ分割を利用するのは好ましい方法のひとつである。すなわち、あるタイムステップにおいて、図6(a)に示したようなボロノイ分割を行い、あるドットに働く斥力は、そのドットの属するボロノイ多角形に隣接するボロノイ多角形内部に存在するものについてだけ計算する。この近似は、連続階調画像の再現において、充分に現実的な近似となることが確認できた。
本発明者らは、さらに、本発明のスケーリングDLDS法をHillerの緩和法に基づいてムラのないドットパターンをつくる方法について適用することを検討した。Hillerらの方法における初期位置生成を本発明のスケーリングDLDS法を用いて行うことで、これまで避けがたいとされてきたムラを避けることができることが可能であることが見出された。
パート IV:本発明による離散パターンを使用する光学部材、サイドライト装置、透過型液晶表示装置およびCCD用フォトマスクの製造
本発明者らは、LDS法および斥力緩和法を使用した離散パターンを含む光学部材、導光板、サイドライト・ユニット、CCD用フォトマスクなどの光学的部材、および液晶表示装置および離散パターン生成システムについてさらに検討を加えた。本発明において上述した離散パターンの生成方法を使用して生成された離散パターンは、種々の方法により平面、または立体上にパターニングすることができ、本発明の離散パターンを含む物体とすることができることが見出された。図48には、本発明の離散パターンを生成するために使用したコンピュータ・システムの実施の形態を示す。
図48に示すコンピュータ・システムは、上述した離散パターンの生成方法を実行するための中央処理装置(CPU)と、各種パラメータおよびドットの位置座標といった離散パターンの生成に必要となるデータを記憶するための記憶手段とを少なくとも含むコンピュータ22と、必要な表示を行うためのディスプレイ手段24と、各種パラメータを入力するための入力手段26と、本発明の離散パターンの生成方法を実行させるためのプログラムが記録された記憶媒体から、プログラムを読み取るとともに、生成された離散パターンに対応するディジタル・データを所定のフォーマットで書き込むための読出・書込手段28とを含んで構成されている。
本発明の離散パターン生成方法により生成された離散パターンから、当該離散パターンを含む物体を製造するためには、まず、コンピュータ22により得られた離散パターンを、プリンタ手段29によりハード・コピーとして出力させるか、またはディジタル・データとして読出:書込手段28へと出力させる。離散パターンがハード・コピーとして出力される場合には、本発明の離散パターンが記録された記録紙自体が、そのまま離散パターンを含む物体とされる。例えば、インクジェット・プリンタや、電子写真方式を使用するカラー・プリンタなどのプリンタ手段29により、コンピュータ22により得られた離散パターンを、ディザリング・パターンとして用い、そのまま紙、プラスチックシートといったパターン受容要素に印刷することもできる。また、プリンタ手段としては、可視光領域のレーザを使用するプリンタ手段を挙げることもできる。
このような可視光レーザを使用するプリンタ手段としては、ディジタル・データを直接使用して、レーザといった方法により直接、離散パターン受容要素として使用される感光性フィルムに対して出力を行い、現像・定着後に各種フォトマスクといった光学部材として使用可能な物体とすることができるものを挙げることができる。このようなフォトマスクは、フォトレジストを使用するマイクロフォトリソグラフィーに提供することができ、感光性材料に対して本発明の離散パターンを付与することを可能とする。さらに、本発明においては、パターン受容要素としては、感光性樹脂を挙げることができ、本発明の離散パターン生成システムにより、可視光レーザにより感光性樹脂を層状に硬化させ、直接本発明の離散パターンを含む3次元物体を製造させることも可能である。
図49には、本発明の離散パターンを含む光学部材の実施の形態であるフォトマスクの平面図を示す。フォトマスクは、ゼラチン・シート、ポリエチレンテレフタレートまたは光学的な適切な特性を含むように構成された複合シートといった光学シートに、ハロゲン化銀といった感光性材料を添加するなどして光強度を変調することができる光学的部材である。このフォトマスクは、例えばポジ型フォトレジスト、ネガ型フォトレジストといった感光性材料に対して適切なマイクロリソグラフィー法を使用して3次元的な構造を与えることができる。
図50には、本発明の離散パターンを使用してマイクロフォトリソグラフィーにより離散パターンが形成された導光板30を示す。図50に示した導光板には、図示しない蛍光管CFLから照射される光線を矢線Cの方向へと散乱する。図50に示す導光板30には、このために光線を散乱させる離散パターン31が、導光板30の矢線Cで示される光線が放出される側とは反対側の面に形成されている。離散パターン31は、本発明の離散パターンの生成方法により生成されたものであり、フォトマスクを使用したマイクロリソグラフィーにより形成されている。
図50に示した実施の形態においては、離散パターン31は、四角錐台の形状とされ、導光板30における凹部として形成されたドット32から形成されている。本発明において使用することができるドットの形状、大きさについては特に制限はなく、特定の用途に対応して選択することができ例えば、多角形、円形、正方形、矩形、長円形、円錐台、多角形台を含む群から選択される少なくとも1つの2次元または3次元形状から適宜選択して使用することができる。さらに、本発明においては、これらの形状を複数混合して用いることも可能であるし、蛍光管CFLに対する配置を変化させて散乱性を調節することも可能である。
図51は、図50に示したドット32を詳細に示した拡大上面図である。図51に示されたドット32は、長辺32aが蛍光管CFLに向いており、短辺32bが、蛍光管CFLに対して垂直に配置されている。これらのドット32は、光線を散乱させることができるように導光板30の全面にわたり形成されている。しかしながら、導光板30の特に四隅における散乱性を向上させるために、図51に示した導光板のドット32には、導光板30の全体にわたり、本発明において使用する確率抽出法を使用して、ドット32に対して充填率分布が与えられている。例えば、充填率分布は、中央部では、充填率が低く、四隅に向かって充填率が50%以上、図51に示した実施の形態においては67%程度となるように高められている。
図52は、図51に示したドット32のさらに詳細な上面図(a)と、ラインD−Dに沿った断面図(b)とを示す。図51に示される実施の形態においては、ドット32は、四角錐台の形状を有している。ドット32は、導光板30に対して凹部を形成することにより構成された3次元形状とされていて、その凹部深さdが8μmとされているのが示されている。また、ドット32の長辺lgは、図示した実施の形態においては100μmとされ、短辺shtが、30μmとされている。また、四角錐台として形成されるドット32の勾配βは、必要な散乱性を与えることができるように、深さdとの関係において適宜設定することができる。
図53は、上述したドット32の導光板30の全体における充填率分布を、等高線で示した図である。図53に示された導光板30の実施の形態においては導光板30の中央部では充填率は約10%程度とされ、導光板30の四隅に向かって散乱効果を高めるために充填率が高められており、特に破線で示した蛍光管CFLから離れた角部34においては、充填率が70%を越えるまで高められているのが示される。本発明の離散パターン生成方法では、LDS法、斥力緩和法を使用し、確率抽出法により充填率分布を生成するため、上述したような充填率分布を生成しても、目視される境界が確認できない良好な導光板を提供することができる。
図54は、本発明の光学部材として使用される導光板30の別の実施の形態を示した図である。図54に示した導光板30には、本発明の離散パターン31が、光線を放出する側とは反対側の面に複数のドット36により形成されている。図54に示した実施の形態においては、ドット36は、円錐台の形状とされており、図54に示した特定の実施の形態においては、円錐台は、直径が100μmであり、高さが15μmとされている。また、円錐台なので、蛍光管CFLに対してドット36自体は、特に方向性を有してはいない。
図55は、さらに本発明の導光板30のさらに別の実施の形態を示した図である。図55に示される導光板30には、蛍光管CFLに対する配置が互いに異なるドット38、ドット40を含む本発明の離散パターンが付されていて、これらが領域(a)、領域(b)、領域(c)として区分されているのが示されている。ドット38は、導光板に対して凹部として形成された四角錐台であり、長辺が100μm、蛍光管CFLに対して垂直な短辺が70μmとされ、ドット40は、ドット38と同一の形状ではあるが、蛍光管CFLに対しての配置が、ドット中心まわりに回転されて形成されている。図55に示した導光板30の実施の形態では、上述した複数のドットの中心座標を本発明の離散パターンの生成方法を使用して与え、その後にドットを回転させることにより生成することができる。図55に示した実施の形態においては、さらに領域(b)としてドット38と、ドット40とを混在させた領域を形成することにより隅部における散乱性を調節する構成が採用されている。図55に示した実施の形態においては、ドットの蛍光管CFLに対する相対配置のみを調整することにより、部分的に導光板30から放出される光線の分布を変化させることを可能とする。
図56には、本発明の導光板30を含むサイドライト装置の部分断面図を示す。本発明のサイドライト装置は、例えば透過型液晶表示装置のバックライト・ユニットとして使用することができ、図56に示したバックライト・ユニットには、さらに拡散シート、プリズム・シートといった光学部材が含まれているが、説明の便宜上、拡散シート、プリズム・シートといった本発明においては本質的ではない構成要素については省略している。図56に示すように、本発明のサイドライト装置は、光源42と、この光源を保持するためのランプソケット44と、本発明の離散パターンが形成された導光板46と、光源42を覆って、光源42からの光線を効率的に導光板46へと入射させるためのリフレクタ48とを含んで構成されている。上述した光源としては、蛍光管CFLを使用することができる。
リフレクタ48に隣接して、導光板46の下側には、銀といった高反射率の材料から形成された反射シート50が配置されていて、光源42からの光線をより効率的に矢線Eで示される方向へと放出する構成とされている。図55に示したサイドライト装置に使用される反射シート50には、導光板46に反射シート50が密着することによりニュートンリングが形成され、バックライト・ユニットとして構成した場合にモアレ模様以外にも、ニュートンリング状の模様による品位低下を防止することは必要とされる場合が生じる。
特に近年では、透過型液晶表示装置におけるバックライト・ユニットの反射効率を上げるため、銀などの金属を、ポリエチレンテレフタレートといったシートにスパッタリングで付着させたものが使われるようになっている。このような高反射率の反射シート50を導光板46に密着させると、反射シート50のたわみによって上述したようにニュートンリング状の縞模様が観察され、透過型液晶表示装置の表示品質を著しく低下させてしまうことになる。この干渉縞を抑制するために、反射シート50と導光板との間に、20μm程度の隙間を形成することが有効である。
図57は、図56において説明した反射シート50の上面図を示す。図57に示すように、反射シート50には、本発明によりドット52を含んで生成された離散パターンを含む凹凸が形成されているのが示されている。反射シート50に形成された離散パターンを形成するドット52は、UV硬化性インクなどを使用するスクリーン印刷といった方法により形成され、光学的特性を必要以上に低下させないように、光学的濃度が低くされている。図57に示した実施の形態においては、離散パターンは、ドット52として、100μm径の高さ15μm程度とされている。
図58には、本発明により生成された離散パターンを含む反射シート50の概略的な断面図を示す。図58に示されるように、本発明の離散パターンを含んで形成された反射シート50は、ポリエチレンテレフタレートといった基材54上にスパッタリングといった方法により堆積された銀といった反射層56と、この反射層56上に形成されたドット52からなる本発明の離散パターンとを含んで構成されている。図示しない導光板は、反射シート50に対してドット52を介して接触することで、反射シート50と、導光板との間の不適切な接触または近接を防止して、ニュートンリング状の模様の発生を低減させている。
上述した離散パターンを形成するドット52の充填率をあまり上げると反射効率が低下するので、充填率は、約10%以下とすることが望ましい。図57および図58に示した実施の形態においては、充填率は、反射シート全面にわたり均一で、2.5%とされている。
本発明により生成された離散パターンは、一様性とランダム性とを共に充分に満足させているので、重なったドットが目視されたり、ムラとして目視されたりすることはない。また、アクリル樹脂などで製造された導光板とは、スクリーン印刷により形成された樹脂からなるドットであるため、導光板下部を損傷することによる不都合を低減することを可能とする。
図59には、本発明の離散パターンを含む導光板を使用した透過型液晶表示装置の分解斜視図を示す。図59に示す本発明の実施の形態の透過型液晶表示装置58は、透過型液晶表示装置58の有効画面を画成するための表示用ウインドウ60を画成する上部フレーム62と、本発明のサイドライト装置を使用したバックライト・ユニット64と、上部フレーム62とバックライト・ユニット64との間に配置された液晶表示パネル66と、スペーサ68と、拡散シート70と、プリズム・シート72とを含んで構成されている。
バックライト・ユニット64は、下側ケース74上に載置されていて、上部フレーム62と、一体として保持されることで透過型液晶表示装置58を構成している。図59に示した透過型液晶表示装置におけるバックライト・ユニットは、本発明の導光板76を含んで構成されており、蛍光管CFLから照射された光線を効率よく、また四隅における輝度変化、またモアレ模様といった不都合を生じさせずに液晶表示パネル66へと放出させ、良好な表示を行うことを可能としている。
図60は、本発明のさらに他の実施の形態である、遮光シートを示す。このような遮光シートは、液晶表示装置に使用され、液晶表示装置の輝度一様性を改善する等の目的で散乱板の透過率を場所により変化させたい場合に使用される。たとえば、いわゆるエッジライト型の構成では、ランプ際に輝線と呼ばれる明暗模様が生じることがしばしばある。これは輝線の部分で透過率を局所的に下げることでおおむね消すことができる。液晶表示装置を構成する散乱板、もしくは透明フィルムに、白インクをUV硬化性樹脂で溶解したものを印刷し、ドットパターンを形成することで、遮光シートに対してこのような効果を付与することができる。特にこの種のドットパターンの特徴は、充填率勾配が大きいことである。上述したような導光板のスタンパーパターンでは、望ましい実施例における充填率勾配は、高々ドット径あたり0.4パーセント程度であるが、遮光印刷では、数ミリの幅にドットでグラデーションをつける必要があり、その数倍から10倍の充填率勾配を要求される。このため、本発明のドット自動生成・自動削除法が特に有効に適用できる。
図60に示された本発明により形成された遮光シート80は、手前側に面と平行に配されたランプ近傍の輝線を消すために、透過率の低い領域80aが端部に沿って設けられている。また、ランプと逆の辺では、導光板端からの光漏れとその反射光により、しばしば輝度がその領域で高くなることがあるが、これを補正するために、その近傍で透過率の低い領域80bが端部に沿って設けられている。これらの間の領域80cと、領域80a、80bとの間には充填率分布の傾斜が大きいので、ドットが局在化しがちとなる。ここで、本発明におけるドット自動生成・自動削除法を使用することで、ドットの局在を解消し、良好な離散パターンを与えることが可能となる。
図61には、本発明が適用できるさらに別の実施の形態であるCCDレンズのフォトマスク82の実施の形態を示す。CCDレンズのフォトマスク82も、微小ドットパターンを光学的変調要素として使用して、透過率を制御し、フォトマスクとして供されている。本発明の離散パターンをフォトマスクとして適用する場合には、ドットをランダムに、かつ中心対称な密度分布を持たせるように配置することで、微小CCDレンズ用のフォトマスクを作成する方法が説明されている。ランダムにしてドットの規則配列を避けるのは、フォトマスクが回折格子として働き、透過光に色づきなどの問題が生ずるのを避けるためである。
図61に示したフォトマスク82は、光透過性支持体84に本発明のドット86を含んで形成された本発明の離散パターン88が形成されている。図61に示した離散パターンは、ドットの密度勾配をレンズの凹凸として転写するため、その充填率勾配は比較的大きく、ドット径あたりの充填率勾配は、遮光印刷パターンと同じ程度とされている。本発明の離散パターンをフォトマスクとして用いることにより、従来技術では不可避であった透過光におけるムラの問題は生じず、精度よくCCDレンズを製作できる。
また、本発明の離散パターンを使用して、フォトリソグラフィの用の光を均一化するためのフィルタを作成した。本発明のスケーリングDLDS法により与えられた離散パターンは、階調勾配を持ちつつ、任意の階調において主波長に関する制約を満たしたドットパターンを提供でき、良好な特性のフィルタを提供することができ、透過光におけるムラ(区画分割に伴う虚像を含む)や色づきといった不都合の発生した良好な特性のフィルタを提供することができた。
本発明の離散パターンは、上述したように光線の散乱、光線の透過、光線の吸収のいずれかにより種々の光学的特性を与えることができる部材に使用することができ、このような光学的特性を与えることができる光学部材としては、具体的には例えば、導光板、散乱板、ディザリング・パターン、リソグラフィー用フォトマスク・パターンなどを挙げることができる。
また、本発明の離散パターンは、特に光学的特性は必要とされない、例えばタイヤ、靴底などの滑り止めパターンにも使用することができる。
さらに、本発明の離散パターン生成方法は、種々のプログラミング言語、例えばC言語により記述することができ、本発明のプログラムを記述したコードは、フロッピー(登録商標)・ディスク、ハード・ディスク、コンパクト・ディスク、光磁気ディスク、ディジタル・バーサタイル・ディスク(DVD)、磁気テープといった記憶媒体に記憶することができる。
上述したように、本発明によれば、
(1)低充填率から50%以上の高充填率に至るまで任意の充填率分布を、光学的な品質低下を生じさせることなく、
(2)ドット間の重なりや異常接近のない、
(3)高い一様性を保持しつつ、充分なランダム性を保持した
離散パターンの生成方法を提供することができる。本発明の離散パターンを含む導光板、散乱板、サイドライト装置などの光学的性質は、光線照射の一様性、輝度分布などを顕著に改善することを可能とする、離散パターン、該離散パターンを用いた光学部材、導光板、サイドライト装置、透過型液晶表示装置、該離散パターンの生成方法および該離散パターンを生成するためのプログラム、該離散パターンを生成するためのコンピュータ可読なプログラムが記録されたコンピュータ可読な記録媒体並びに離散パターン生成システムを提供するものである。
また、本発明によれば、ドット径あたりの充填率変化が1パーセントを越えるような急峻な充填率勾配が必要とされる場合に、特に本手法を使うと、任意の充填率分布に従った良好な特性の離散パターンを得ることが可能である。このように生成された離散パターンは、液晶表示装置の遮光シートに好適に適用することができ、一様な輝度をもつ液晶表示装置の遮光シートを作成することが可能となる。同様に、本発明を微小CCDレンズ製作用のフォトマスクに適用することで、精度の高いCCDレンズを作成することができる。
また、本発明においては、連続階調の白黒又はカラー画像を、濃度に関して二値あるいは多値に変換して出力するインクジェットプリンタ等をはじめレーザービームプリンタ、ファクシミリや印刷機などの機器において中間調を好ましく表現できる。すなわち、ざらつき感、むら、規則的な模様、などの障害がなく一様で滑らかに中間調を表現できる。総じて言えば、本発明は、良好に分散した一様に不均一な離散パターンを提供することを可能とし、本発明の離散パターンは、良好な特性を有する光学的変調要素およびこの光学的変調要素を含む光学的部材並びに濃淡画像の2値化パターンを提供することを可能とするものといえる。