本発明は、エネルギービームの照射により情報の記録が行われる情報記録媒体に関し、特に、DVD−RAM、DVD−RW、DVD+RW等の赤色レーザー対応の相変化型光ディスク及びBlu−ray、HD(High Density)DVD等の青色レーザー対応の相変化型光ディスクに関する。
近年、DVD−ROM、DVD−Video等の再生専用型光ディスクの市場が拡大している。それに続き、DVD−RAM、DVD−RW、DVD+RW等の書換え可能なDVDの市場がコンピュータ用バックアップ媒体及びVTRに代わる映像記録媒体として急速に拡大しつつある。この市場の拡大に伴い、ここ数年、記録型DVDに対する転送レート及びアクセススピードの向上並びに大容量化への要望が増大している。
DVD−RAM、DVD−RW等の記録消去可能な記録型DVDでは、情報が記録される記録層に相変化材料を用いる相変化記録方式が採用されている。相変化記録方式では、基本的に「0」と「1」の情報を相変化材料の結晶状態とアモルファス状態に対応させて記録している。また、相変化材料の結晶状態とアモルファス状態の屈折率が異なるため、結晶に変化させた部分とアモルファスに変化させた部分の反射率の差が最大になるように、記録型DVDを構成する各層の屈折率、膜厚等を設計している。この結晶化した部分とアモルファス化した部分にレーザー光を照射し、光ディスクの各部分からの反射光量の違いを検出して記録層内に記録された「0」と「1」を検出する。
また、所定の位置をアモルファスにする(通常、この動作を「記録」と呼ぶ)ためには、比較的高パワーのレーザー光を照射して、記録層の温度が記録層材料の融点以上になるように加熱する。一方、所定の位置を結晶にする(通常、この動作を「消去」と呼ぶ)ためには、比較的低パワーのレーザー光を照射して、記録層の温度が記録層材料の融点以下の結晶化温度付近になるように加熱する。このように、記録層の所定部分に照射するレーザー光のパワーを調整することにより、所定部分の状態をアモルファス状態と結晶状態との間で可逆的に変化させることができる。
上述のことから、相変化記録方式の情報記録媒体の記録層に用いる相変化材料としては、アモルファス状態と結晶状態との屈折率の差が大きく、且つ消去動作においてアモルファスが極めて短時間で結晶化する材料が好ましい。また、記録と消去を繰り返すことによる劣化の小さい材料が好ましい。このような観点から、従来、様々な相変化材料が検討されてきた。
例えば、特開2001−322357では、記録材料としてGe−Sn−Sb−Te系材料に、Ag、Al、Cr、Mn等の金属を添加した材料を使用することにより、高密度記録が可能で、繰返し書換え性能に優れ、結晶化感度の経時劣化が少ない情報記録媒体が得られることが開示されている。特開平2−14289には、Ge-Sb-Sn-Te系の記録層材料が開示されている。
また、特開昭62−209741には、Bi−Ge−Te系相変化記録材料が開示されており、その材料の実用的な組成範囲が規定されている。特開平1−287836には、Bi−Ge−Sb−Te系相変化記録材料の実用的な範囲が開示されている。また、記録層の形成材料として、Bi−Ge−Se−Te系相変化記録材料も提案されており、その実用的な範囲が開示されている(例えば、特許文献1及び2を参照)。
さらに、PCOS2001ではDVD−RAMの2倍速から4倍速に対応できる記録材料としてGe−Sn−Sb−Te系材料が報告されている。ISOM/ODS2002ではDVD−RAMの2倍速と5倍速に対応できる情報記録媒体が報告されており、この5倍速媒体は、新たに核生成層を付加した8層構造にすることによって5倍速を実現している。
また、記録型DVDを大容量化する技術としては、レーザー光の波長を405nmと短波長化し且つ対物レンズNAを0.85と大きくすることにより、レーザースポット径を一層小さくし、より高密度の情報を記録する方法が知られている(例えば、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.39(2000),pp.756-761,Part1,No.2B,Feb.2000)。この方法は、通称Blu−ray Discの主要技術として利用されており、従来のDVDより薄い0.1mm厚の基板を採用することによって、ディスクのチルトに対する影響を小さくしている。なお、Blu−ray Discに用いられる0.1mm厚の基板は記録層の機械的保護、電気化学的保護(腐食防止)等の重要な役割を果たす。
従来のDVD−RAM、DVD−RW等の書換え型の光ディスクの基本構造は、0.6mm厚のポリカーボネート(PC)基板上に第1誘電体層、相変化記録層、第2誘電体層及び反射層を順次積層した4層構造であり、さらに反射層側から0.6mm厚の基板を貼り合せることによって作製される。しかしながら、上述のBlu−ray Discでは、従来の光ディスクと同様の積層構造で作製すると基板の厚さが0.1mmと薄いため、基板の剛性を保つことが難しくなる。それゆえ、Blu−ray Discは、厚い基板、例えば、1.1mm厚のPC基板上に反射層、第2誘電体層、相変化記録層及び第1誘電体層を順次積層し(従来の書換え型光ディスクと逆の順序に積層)、最後に第1誘電体側から0.1mm厚の基板をカバー層として形成して作製される。Blu−ray Discのカバー層の形成方法としては、第1誘電体層上に0.1mm厚のシートを紫外線硬化樹脂接着剤で貼り付ける方法と、第1誘電体層上に紫外線硬化樹脂をスピンコート法により均一に塗布し、紫外線照射により紫外線硬化樹脂を硬化させてカバー層を形成する方法とが提案されている。
Blu−ray Discの記録層の形成材料としては、例えば、特許2941848に開示されているAg−In−Sb−Te系記録材料が用い得る。また、この文献にはAg−In−Sb−Te系記録材料に第5元素及び第6元素を添加した材料の組成についても詳細に開示されている。
また、記録型DVDを大容量化する方法として、0.6mm厚の基板上に従来と同様の順序で各層を積層した光ディスクを作製し、レーザー光の波長405nm、対物レンズNAを0.65として情報を記録する方法も提案されている。この方法は、上述のBlu−ray Discのような0.1mm厚のカバー層を用いる方法と比べて、対物レンズNAが小さいためにレーザースポット径が大きく、記録密度は低くなる。しかしながら、基板の剛性を保つことが容易であり、記録層の多層化が容易になるという利点がある。また、媒体上の埃や傷の影響を小さくすることができるという利点もある。
特開昭62−73439号公報(第1頁、第1図)
特開平1−220236号公報(第1頁、第1図)
ところで、上述した光ディスクのように可換型情報記録媒体では、様々な情報記録装置に対する互換性が極めて重要である。例えば、DVD−RAM媒体では既にCLV回転制御による2倍速記録(転送レート:22Mbps)に対応したDVD−RAMドライブが市場に存在するが、CAV制御記録(22〜55Mbps)用のDVD−RAM媒体をこの2倍速CLV対応ドライブで記録再生することを保証することは消費者の利益の観点から重要なことである。また、逆に、2倍速CLV対応ドライブにより記録されたCAV対応DVD−RAM媒体を、CAV対応ドライブで記録再生できることを保障することも当然ながら非常に重要なことである。
近い将来、DVD−RAMドライブの記録方法(基板側からレーザー光を照射して記録する方法)を踏襲する青色レーザーを用いたドライブ(HD DVD)が市場に導入されるので、青色レーザーを搭載したドライブの需要は確実に伸びるものと予測される。また、青色レーザーを搭載した1倍速記録ドライブの普及に伴い、赤色レーザーを用いたDVD−RAMドライブの場合と同様に、より高速記録可能な2倍速及び3倍速対応ドライブの需要が発生することは容易に予測される。このような状況では、1倍速記録ドライブと高速記録可能な2倍速及び3倍速対応ドライブとの互換性を維持することが重要となる。
本発明の目的は、Bi−Ge−Te系相変化材料を記録層として用いた情報記録媒体において、青色レーザーで情報記録する場合にも、データの繰返し記録に対する耐久性が高く、高速記録が可能で、且つ、対応可能な記録線速の範囲が広い情報記録媒体を提供することである。
本発明の情報記録媒体を説明する前に、本発明に到った経緯について説明する。本発明者らは、上述の従来の相変化材料のうち、Bi−Ge−Te系相変化材料を記録層として用い、記録層中のBi、Ge及びTeの組成比率をBi、Ge及びTeの三角組成図上の以下の各点により囲まれた組成範囲にすることにより、記録データの信頼性が高く且つデータの繰返し記録に対する耐久性の高い情報記録媒体が得られること検証実験により見出した。
B2(Bi2,Ge47,Te51)
C2(Bi3,Ge47,Te50)
D2(Bi4,Ge47,Te49)
D6(Bi16,Ge37,Te47)
C8(Bi30,Ge22,Te48)
B7(Bi19,Ge26,Te55)
Bi、Ge及びTeの三角組成図上における上記各点により囲まれた組成範囲を、図3に示した。図3中の太線で囲まれた組成範囲が、記録データの信頼性が高く且つデータの繰返し記録に対する耐久性の高い情報記録媒体を得るために最適な記録層の組成範囲である。
従来例(特開昭62−209741)には、Bi−Ge−Te系相変化材料の実用的な組成範囲がBi、Ge及びTeを頂点とする三角組成図上でGeTeとBi2Te3とを結ぶ線上の領域に存在することが開示されている。しかしながら、本発明者らの検証実験によると、GeTeとBi2Te3を結ぶ線上よりさらにGeが過剰に添加された領域の組成を有するBi−Ge−Te系相変化材料を記録層として用いることにより、信号品質が良好で、且つ、繰返し記録に対する耐久性に優れていることを見出した。
これは以下のような理由によるものと考えられる。Bi−Ge−Te系相変化材料には、現在までに明らかになっている範囲では、GeTe、Bi2Te3、Bi2Ge3Te6、Bi2GeTe4及びBi4GeTe7の化合物が存在する。記録層の所定部分に情報を記録する(アモルファス化する)ために光ビームを照射して溶融した直後に、溶融領域の一部が再結晶化が起こるような場合、記録層の組成によって異なるが、以上に挙げた化合物、Bi、Ge及びTeのうち融点が高い物質から順に溶融領域外縁部から再結晶化するものと考えられる。これらの物質を融点が高い順に並べると以下のようになる。
Ge:約937℃
GeTe:約725℃
Bi2Ge3Te6:約650℃
Bi2Te3:約590℃
Bi2GeTe4:約584℃
Bi4GeTe7:約564℃
Te:約450℃
Bi:約271℃
上述のようにGeの融点が最も高いため、Bi、Ge及びTeを頂点とする三角組成図のGeTeとBi2Te3を結ぶ線上の組成材料より、Geを過剰に添加した相変化材料を記録層として用いた情報記録媒体では、溶融領域の外縁部にGeが偏析し易くなるものと考えられる。溶融領域の外縁部にGeが過剰に存在すると、溶融領域の外縁部の結晶化速度が遅くなり外縁部からの再結晶化を抑制できる。それゆえ、多数回書換えにより生じる再結晶化の「帯」の発生を抑制することができる。また、同時にトラック中心(溶融領域の中心部)付近では結晶化速度が高速となり、高速記録時においても良好な消去性能を得ることができる。しかしながら、Geの添加量が多すぎると記録膜全体の結晶化速度が低下してしまうので、過剰に添加するGeの量を適度な量に設定することが重要である。
溶融領域の外縁部からの再結晶化を抑制できれば、再生信号振幅を向上させるためにレーザーパワーを高めて、幅広い領域を溶融させる必要がなくなり、隣接トラックに記録されていた記録マークを消去してしまう問題(クロスイレーズ)も解消できる。
また、相変化記録方式の情報記録媒体の記録層に用いる相変化材料としては、アモルファス状態にある記録マークの保存寿命の観点から、アモルファス状態の相が複数存在せず、材料の結晶化温度が高く、さらにアモルファスが結晶化する際の活性化エネルギーが大きいことが重要である。本発明者らはBi、Ge及びTeを頂点とする三角組成図のGe50Te50付近では上記条件を満足することを検証実験により見出した。これは、従来例にも記載されているように、GeTeの結晶化温度が200℃程度と高く、組成がBi2Te3に近づくに伴い、結晶化温度が低下することが原因の一つであると考えられる。また、本発明者らは、検証実験によりGe50Te50付近の組成では長期保存後でも、アモルファスの状態が変化し難く、良好な消去特性が得られることを見出した。しかしながら、GeTe量が多すぎると結晶化速度が低下し、高速記録は不可能となる。逆に、Bi2Te3量が多すぎると、結晶化温度が低下するため保存寿命が悪化する。それゆえ、最適なBi−Ge−Te系相変化材料の組成は、Ge50Te50に適当な量のBi2Te3を添加した組成であり、且つ、過剰なGeが存在する領域の組成である。
また、Bi、Ge及びTeを頂点とする三角組成図のGe50Te50付近の組成とすることにより、従来例で示したGe−Sb−Sn−Te系、Ge−Sb−Te系、Ag−In−Sb−Te系記録材料に比べて、波長405nmの青色領域における結晶部とアモルファス部の光学定数の差(Δn、Δk)が大きくなるため、記録部と未記録部の反射率差(コントラスト)を大きくすることができ、再生信号振幅を大きくすることが可能となる。
また、更なる情報の高密度化のために波長405nmの青色レーザーを用いて記録を行った場合、Bi−Ge−Te系相変化材料の組成を、Bi、Ge及びTeを頂点とする三角組成図のGeTeとBi2Te3を結ぶ線上の組成よりもGeを過剰に添加した組成にすることにより、下記の問題点を解決することができることを見出した。
(1)一般に、レーザービームのスポット径はレーザー波長λ、レンズ開口数NAとしたときにλ/NAに比例することが知られている。波長405nmの半導体レーザー、開口数NA0.85の対物レンズを用いた場合のレーザースポット径は、従来のDVDで用いられている波長650nmの半導体レーザー(赤色レーザー)、開口数NA0.60の対物レンズを用いた場合のレーザースポット径の約半分の径となる。また、波長405nmの半導体レーザー、開口数NA0.65の対物レンズを用いた場合にも、そのレーザースポット径は、従来のDVDの場合のレーザースポット径の約6割程度のサイズとなる。それゆえ、従来のDVDと同一の線速度で、青色レーザービームを用いてオーバーライトを試みた場合、スポット径が小さくなるので、記録トラック上のある地点を加熱する時間が従来のDVDよりも短くなる。その結果、情報のオーバーライトを行った際に消え残りが生じ易くなる。
(2)一般に、レーザービームが短波長化されると、記録層内の結晶部(未記録部)とアモルファス部(記録部)との光学定数の差(Δn、Δk)が小さくなる。それゆえ、記録部と未記録部の反射率差(コントラスト)が小さくなり再生信号振幅が低下する。
(3)青色レーザーを用いた場合、ビーム径がより絞り込まれるので、ビーム中心のエネルギー強度が赤色レーザーの場合よりも高くなる。その結果、多数回書換えによる記録層へ与えるダメージが大きくなる。
(4)多数回の再生による情報の劣化も大きくなる。
(5)高記録密度化を図るため、トラックピッチを狭くした場合や、記録トラックとして基板に設けられた溝(グルーブ)と溝間(ランド)の両方を用いた場合、隣接トラックに記録されたマークの一部を結晶化してしまうクロスイレーズが顕著になる。クロスイレーズの問題が発生するとトラックピッチを狭くすることが困難になり、青色レーザーによりビーム径を小さくした効果を十分に活かすことができなくなってしまう。
以上、説明したように、上述のような組成範囲のBi−Ge−Te系記録材料は青色レーザーを用いて情報記録するための材料として優れた記録材料である。しかしながら、本発明者らの検証実験により、Bi−Ge−Te系記録材料で形成された記録層に青色レーザーで情報記録する際に、さらにいくつかの問題が発生するおそれがあることが明らかになった。以下、その問題について説明する。
(1)一つ目の問題は、青色レーザーによる情報の書換可能回数が少なくなるおそれがあるということである。記録層材料としてBi−Ge−Te系記録材料のBi、Ge及びTeの三角組成図上のGeTeとBi2Te3を結ぶ線上よりも、Geを適度に過剰に添加された組成のBi−Ge−Te系記録材料を用いた場合、青色レーザーを用いて多数回情報の書換えを行ったところ、書換可能回数は約1000回となった。この書換可能回数は、次世代製品Blu−ray discやHD DVDの規格で定められた書換可能回数であることや、青色レーザーのエネルギー強度を考えれば十分な回数であると考えられる。しかしながら、実際のドライブでの使用を考えた場合、例えば、書換え毎に高パワーのトップパルスがトラック内の同じ部分に照射されたり、トラック内の一部の領域のみを繰り返し書き始めの位置を同じにして書換えることがあり得る。それゆえ、ディスクの所定部分は、高パワーの青色レーザーで多数回書換えられることが想定され、実際には1000回以上の書換耐久性を有することが望ましい。
なお、上記Bi−Ge−Te系記録材料の組成で書換可能回数が約1000回程度となる原因は以下にように推測される。一般に記録媒体上の同一場所にオーバーライトを繰り返した場合、記録層材料は融解・凝固を繰り返す。融解は溶融領域の中央部から、凝固は溶融領域の周辺部から始まる。凝固の際には、記録層材料を構成する元素または化合物のうち、Geなどは先に凝固し、Bi、Te、Bi4GeTe7などは後で凝固する。この場合、後で凝固する成分(Bi、Te、Bi4GeTe7など)は溶融領域の周辺部から中央部への凝固の進行に伴い中央部に移動するので、後で凝固する成分の濃度が周辺部で減少し中央部では増大して偏析する。この際、先に凝固する成分(Geなど)の濃度は、溶融領域外縁部で高くなり、溶融領域中心部に行くに従って低くなる。
一方、融解の際には、後で凝固した成分(Bi、Te、Bi4GeTe7など)が先に融解して、凝固の際に生じたBi、Te、Bi4GeTe7などの濃度勾配により溶融領域の中央部から周辺部へ拡散する。一般に各元素及び化合物に濃度勾配が生じていると、それらの濃度勾配をなくすように、各元素及び化合物は濃度の高いところから低いところに向かって拡散する。しかしながら、Bi、Te、Bi4GeTe7などが溶融領域の中央部から周辺部へ拡散しても、凝固の際に記録層中に生じたBi、Te、Bi4GeTe7などの濃度勾配を完全になくすまでには至らない。従って、同一場所でオーバーライトを多数回繰り返すと、凝固時に発生する溶融領域外縁のGeなどの偏析成分の増加が融解時の溶融領域内の各元素及び各化合物の濃度勾配による拡散で打ち消されるようになるまで各元素及び各化合物の偏析が進行する。溶融領域外縁でGeなどの偏析が進行するほど、記録マークからの反射率の分散が大きくなり、記録マークの消え残りが生じるなどの要因でノイズが増加する。
また、書換可能回数が少なくなる原因として次のような原因も考えられる。Ge原子は比較的原子半径が大きく、融解時の拡散速度が遅いあるいは拡散し難いために、上記のGe原子の偏析が進行し易くなるためであると推測される。また、多数回書換えることにより、Ge原子がGe単体で偏析できなくなり、溶融領域外縁の再結晶化を抑制する効果が小さくなることが原因とも考えられる。
(2)二つ目の問題は、青色レーザーによる情報記録の際に、対応可能な記録線速の範囲が狭く、高速記録が難しくなるおそれがあるということである。上述のBi−Ge−Te系相変化材料は赤色レーザーを使用するDVD−RAMのCAV(Constant Angular Verosity:一定角速度)記録用に開発された記録層材料であり、現在のDVD−RAMの2倍速記録(転送速度22Mbps)から5倍速記録(55Mbps)までの記録線速範囲で良好な記録再生特性を実現することができる。この記録速度は、CLV(Constant Linear Velocity:一定線速度)の記録線速に換算すると8.2m/sec〜21.0m/secの範囲となる。
青色レーザーを用いて上記記録線速に対応した情報記録を行うためには、記録層材料の結晶化速度をさらに速くし、高速記録時の消去比を一層向上させる必要がある。これは、青色レーザーのスポット径が赤色レーザーのスポット径の約半分であることから、同一の線速度でオーバーライトを試みた場合、赤色レーザーで記録する場合に比べて記録トラック上のある地点を通過する時間が約半分と短くなるため、以前に記録した情報のオーバーライトによる消え残りが生じ易くなるからである。
現在、規格審議が進んでいる青色レーザー使用の次世代光ディスク(HD DVD)の記録線速は5.64m/sec〜6.01m/sec(転送速度36Mbps)である。この記録速度であれば、Bi−Ge−Te系相変化材料で十分対応可能である。しかしながら、2倍速記録、3倍速記録まで想定すると、このような高記録速度の範囲では消去比が不足し、書換えが困難になるおそれがある。特に、3倍速記録の場合、消去比不足となる可能性が高い。また、高速記録を行う場合、より高い記録パワーが必要となり、記録感度が悪くなるというおそれもある。
本発明は以上のような課題を解決するためになされたものであり、本発明の第1の態様に従えば、情報記録媒体であって、基板と、基板上に設けられ、Bi、Ge、Te及びこれらの元素以外の元素MAを含む相変化材料で形成された記録層とを備え、Geの一部が元素MAで置換されており、該記録層中のBi、(Ge+MA)及びTeの組成比率がBi、(Ge+MA)及びTeの三角組成図上の以下の各点により囲まれた組成範囲にあり、
B2’(Bi2,(Ge+MA)47,Te51)
C2’(Bi3,(Ge+MA)47,Te50)
D2’(Bi4,(Ge+MA)47,Te49)
D6’(Bi16,(Ge+MA)37,Te47)
C8’(Bi30,(Ge+MA)22,Te48)
B7’(Bi19,(Ge+MA)26,Te55)
元素MAがSiであり、該記録層中の元素MAの含有量が1〜20原子%の範囲であることを特徴とする情報記録媒体が提供される。
第1の参考態様に従えば、情報記録媒体であって、基板と、基板上に設けられ、Bi、Ge、Te及びこれらの元素以外の元素MAを含む相変化材料で形成された記録層とを備え、Geの一部が元素MAで置換されており、該記録層中のBi、(Ge+MA)及びTeの組成比率がBi、(Ge+MA)及びTeの三角組成図上の以下の各点により囲まれた組成範囲にあり、
B2’(Bi2,(Ge+MA)47,Te51)
C2’(Bi3,(Ge+MA)47,Te50)
D2’(Bi4,(Ge+MA)47,Te49)
D6’(Bi16,(Ge+MA)37,Te47)
C8’(Bi30,(Ge+MA)22,Te48)
B7’(Bi19,(Ge+MA)26,Te55)
元素MAがBであり、該記録層中の元素MAの含有量が1〜10原子%の範囲であることを特徴とする情報記録媒体が提供される。
本発明者らは、Bi−Ge−Te系相変化材料を用い且つ記録層中のBi、Ge及びTeの組成比率がBi、Ge及びTeの三角組成図上の以下の各点により囲まれた組成範囲の相変化材料を形成母材とし、その形成母材のGeの一部をSi及びBのうち少なくとも一種の元素(置換元素MA)で置換した相変化材料を記録層材料として用いることにより、青色レーザーで情報記録した際にも溶融領域の再結晶化が抑制され、多数回書換の耐久性が改善されることを見出した。
B2(Bi2,Ge47,Te51)
C2(Bi3,Ge47,Te50)
D2(Bi4,Ge47,Te49)
D6(Bi16,Ge37,Te47)
C8(Bi30,Ge22,Te48)
B7(Bi19,Ge26,Te55)
上記記録層の形成母材のGeの一部をSiで置換した場合、SiはGeやGeTeよりも融点が高いので、溶融部外縁部では結晶化速度の小さいSiTeが生成されて偏析するので再結晶化が抑制される。また、Si原子の原子半径は小さいので、SiTeは、凝固時には速やかに偏析し、溶融時には速やかに拡散する。さらに、SiはTe以外の記録層材料中の構成元素、すなわちBi及びGeとは化合物を形成し難いので、多数回書換を行ってもSiTeは安定して存在し、再結晶化抑制効果が阻害される可能性は低い。
上記記録層の形成母材のGeの一部をBで置換した場合、B原子は原子半径が1.2Å以下と小さいので、B原子は凝固時に速やかに溶融領域外縁に偏析する。さらに、B原子は溶融時には比較的速やかに拡散するので、多数回書換を行っても溶融領域外縁におけるGe原子の偏析の増加を抑制することができる。
ただし、置換元素MA(Si及び/又はB)の含有量が多くなると、記録層材料中の結晶部とアモルファス部の光学定数の差(Δn、Δk)が小さくなるため、置換元素MAがSiの場合には、Siの含有量は1〜20原子%の範囲にする必要があり、置換元素MAがBの場合には、Bの含有量は1〜10原子%の範囲にする必要がある。なお、置換元素MAの総含有量が1原子%未満では、上述のような置換元素MAよる効果(再結晶化抑制効果など)が得られない。
第2の参考態様に従えば、情報記録媒体であって、基板と、基板上に設けられ、Bi、Ge、Te及びこれらの元素以外の元素MBを含む相変化材料で形成された記録層とを備え、Geの一部が元素MBで置換されており、該記録層中のBi、(Ge+MB)及びTeの組成比率がBi、(Ge+MB)及びTeの三角組成図上の以下の各点により囲まれた組成範囲にあり、
B2’(Bi2,(Ge+MB)47,Te51)
C2’(Bi3,(Ge+MB)47,Te50)
D2’(Bi4,(Ge+MB)47,Te49)
D6’(Bi16,(Ge+MB)37,Te47)
C8’(Bi30,(Ge+MB)22,Te48)
B7’(Bi19,(Ge+MB)26,Te55)
元素MBがSn及びPbのうち少なくとも一種の元素であり、該記録層中の元素MBの含有量が1〜20原子%の範囲であることを特徴とする情報記録媒体が提供される。
本発明者らは、Bi−Ge−Te系相変化材料を用い且つ記録層中のBi、Ge及びTeの組成比率がBi、Ge及びTeの三角組成図上の上記各点(B2、C2、D2、D6、C8及びB7)により囲まれた組成範囲の相変化材料を形成母材とし、その形成母材のGeの一部をSn及びPbのうち少なくとも一種の元素(置換元素MB)で置換した相変化材料を記録層材料として用いることにより、青色レーザーで情報記録した際にも、SnTe、PbTeが記録層中で結晶核として形成されて核生成速度が向上するので、高速記録時の消去不足を補うことができることを見出した。
また、上記形成母材のGeの一部をSn及びPbのうち少なくとも一種の元素で置換することにより、記録層中にSnTe、PbTeの結晶核が多く形成され、結晶核からの結晶成長が抑制されるので、低線速記録時の再結晶化を抑制する効果も期待できる。
Sn及びPbは単体で低融点の元素であるため、Geの一部をSn及びPbのうち少なくとも一種の元素で置換することにより、より低記録パワーでの情報記録が可能になり、高速記録時の記録感度劣化を抑えることができる。さらに、低線速記録時においても記録パワーを小さくすることができるため、多数回書換による記録層のダメージを低減すことができ、書換耐久性を向上させることができる。
ただし、置換元素MB(Sn及びPbのうち少なくとも一種の元素)の含有量が多くなると、記録層材料中の結晶部とアモルファス部の光学定数の差(Δn、Δk)が小さくなるので、置換元素MBの総含有量は1〜20原子%の範囲にする必要がある。なお、置換元素MBの総含有量が1原子%未満では、上述のような置換元素MBの効果(消去不足の解消など)が得られない。
本発明の第2の態様に従えば、情報記録媒体であって、基板と、基板上に設けられ、Bi、Ge、Te及びこれらの元素以外の元素Mを含む相変化材料で形成された記録層とを備え、Geの一部が元素Mで置換されており、該記録層中のBi、(Ge+M)及びTeの組成比率がBi、(Ge+M)及びTeの三角組成図上の以下の各点により囲まれた組成範囲にあり、
B2’(Bi2,(Ge+M)47,Te51)
C2’(Bi3,(Ge+M)47,Te50)
D2’(Bi4,(Ge+M)47,Te49)
D6’(Bi16,(Ge+M)37,Te47)
C8’(Bi30,(Ge+M)22,Te48)
B7’(Bi19,(Ge+M)26,Te55)
元素Mが元素MA及び元素MBを含み、元素MAがSiであり、元素MBがSn及びPbのうち少なくとも一種の元素であり、該記録層中の元素MA及び元素MBの総含有量が1〜20原子%の範囲であり、且つ元素MA及び元素MBがそれぞれ1原子%以上含まれることを特徴とする情報記録媒体が提供される。
第3の参考態様に従えば、情報記録媒体であって、基板と、基板上に設けられ、Bi、Ge、Te及びこれらの元素以外の元素Mを含む相変化材料で形成された記録層とを備え、Geの一部が元素Mで置換されており、該記録層中のBi、(Ge+M)及びTeの組成比率がBi、(Ge+M)及びTeの三角組成図上の以下の各点により囲まれた組成範囲にあり、
B2’(Bi2,(Ge+M)47,Te51)
C2’(Bi3,(Ge+M)47,Te50)
D2’(Bi4,(Ge+M)47,Te49)
D6’(Bi16,(Ge+M)37,Te47)
C8’(Bi30,(Ge+M)22,Te48)
B7’(Bi19,(Ge+M)26,Te55)
元素Mが元素MA及び元素MBを含み、元素MAがBであり、元素MBがSn及びPbのうち少なくとも一種の元素であり、該記録層中の元素MAの含有量が1〜10原子%の範囲であり、且つ、元素MA及び元素MBの総含有量が1〜20原子%の範囲であることを特徴とする情報記録媒体が提供される。
本発明の第2の態様及び第3の参考態様に従う情報記録媒体では、Bi−Ge−Te系相変化材料を用い且つ記録層中のBi、Ge及びTeの組成比率がBi、Ge及びTeの三角組成図上の上記各点(B2、C2、D2、D6、C8及びB7)により囲まれた組成範囲の相変化材料を形成母材とし、その形成母材のGeの一部を上述の置換元素MA(Si及び/又はB)及び置換元素MB(Sn及びPbのうち少なくとも一種の元素)で置換した相変化材料を記録層材料として用いた。
上述したように、記録層の形成母材のGeを置換元素MA(Si及び/又はB)で置換した場合には低線速記録時における再結晶化抑制効果があり、置換元素MB(Sn及びPbのうち少なくとも一種の元素)で置換した場合には高線速記録時における消去比不足解消効果がある。それゆえ、本発明の第2の態様及び第3の参考態様に従う情報記録媒体のように、形成母材中のGeの一部を置換元素MA及びMBで置換する事により、上述のような置換元素MA及びMBによる効果を併せ持った情報記録媒体が得られる。すなわち、本発明の第2の態様及び第3の参考態様に従う情報記録媒体では、低線速記録時における再結晶化の課題が解消され且つ高線速記録時における消去比不足が解消されるので、記録可能な線速範囲をより広くすることが可能になる。
しかしながら、記録層中の置換元素MA及びMBの総含有量が多くなると、置換元素MAによる効果と置換元素MBによる効果とが互いに相殺してしまうので、置換元素MA及びMBの総含有量は制限され、1〜20原子%にする必要がある。ただし、置換元素MAにBを用いた場合には、記録層中の元素MAの含有量が1〜10原子%の範囲であり且つ、置換元素MA及びMBの総含有量は1〜20原子%の範囲にする必要がある。
また、置換元素MA及びMBの総含有量が20原子%を超えると記録材料の結晶部とアモルファス部の光学定数の差(Δn、Δk)が小さくなり、一方、なお、置換元素MA及びMBの総含有量が1原子%未満では、上述のような置換元素MA及びMBの効果が得られない。
本発明の第1及び第2の態様及び第1から第3の参考態様に従う情報記録媒体で使用される記録層材料をまとめると、以下に示す組成系の相変化材料となる。本発明では、記録層中のBi、Ge及びTe以外の元素の含有量を調節することにより対応可能な線速度範囲を調整することができる。
4元系記録層材料:Bi−Ge−Si−Te,B−Bi−Ge−Te,Bi−Ge−Sn−Te,Bi−Ge−Pb−Te
5元系記録層材料:B−Bi−Ge−Si−Te,Bi−Ge−Pb−Sn−Te,Bi−Ge−Si−Pb−Te,Bi−Ge−Si−Sn−Te、B−Bi−Ge−Pb−Te,B−Bi−Ge−Sn−Te
6元系記録層材料:B−Bi−Ge−Pb−Sn−Te,Bi−Ge−Pb−Si−Sn−Te,B−Bi−Ge−Si−Sn−Te,B−Bi−Ge−Pb−Si−Te,
7元系記録層材料:B−Bi−Ge−Pb−Si−Sn−Te
以上のような多元系の組成を適宜調整することにより、記録層材料の性能をよりきめ細かに制御することが可能となる。
本発明の第1及び第2の態様及び第1から第3の参考態様に従う情報記録媒体では、上記情報記録媒体の情報記録に用いられる光ビームの波長が390nm〜420nmであることが好ましい。
情報記録媒体の情報記録時に用いる光ビームとして、波長が390nm〜420nmの光ビームを用いることは、ビームスポット径が小さくなるので大容量化には極めて有効である。しかしながら、CDやDVDで一般に用いられている波長650nm〜780nm程度の光ビームに比べて、(1)エネルギー強度が高く多数回書換えが困難である、(2)アモルファス状態と結晶状態との屈折率差が小さいため信号強度が小さくなる、といった問題が生じる。
本発明者らは、検証実験により、本発明の第1及び第2の態様及び第1から第3の参考態様に従う情報記録媒体で用いた相変化材料を記録層として用いることにより、波長が390nm〜420nmの光ビームを用いて情報を記録しても、記録データの信頼性が高く且つデータの繰返し記録に対する耐久性の高い好適な特性を有する情報記録媒体が得られることを見出した。
本発明の第1及び第2の態様及び第1から第3の参考態様に従う情報記録媒では、上記基板上に同心円状あるいはスパイラル状の溝が形成されており、該溝及び溝間の少なくともいずれか一方を記録トラックとして用いることが好ましく、特に、上記溝及び上記溝間の両方を記録トラックとして用いることが好ましい。
溝(グルーブ)及び溝間(ランド)の両方を記録トラックとして用いる方法は、グルーブあるいはランドのどちらか一方のみを記録トラックで用いる場合に比べて、トラックピッチを狭くすることができるので、大容量化に極めて有効な方法である。しかしながら、グルーブ及びランドの両方を記録トラックとして用いた場合、グルーブとランドとの形状の違いに起因するグルーブとランドとの熱特性の違いから、記録層のグルーブ部とランド部ではその熱履歴が異なる。その結果、情報の記録消去特性においてグルーブとランドで差が生じたり、上述のクロスイレーズが発生するなどの問題が生じる。
しかしながら、本発明者らは、検証実験により、本発明の第1及び第2の態様及び第1から第3の参考態様に従う情報記録媒体で用いた相変化材料を記録層材料として用いることにより、グルーブ及びランドの両方を記録トラックとして用いる場合でも、好適な特性が得られることを見出した。
本発明の第1及び第2の態様及び第1から第3の参考態様に従う情報記録媒体では、上記情報記録媒体の記録トラックのトラックピッチTPと、情報の記録再生に用いられる光ビームの波長λと、光ビームを集光するための対物レンズの開口数NAとの間に、
0.35×(λ/NA)≦TP≦0.7×(λ/NA)
なる関係が成立することが好ましい。
情報の大容量化を図るために、トラックピッチを狭くすることは極めて有効な方法である。しかしながら、トラックピッチを狭くすると、情報記録時に隣接トラックに記録されたマークの一部が結晶化してしまうという現象(いわゆる、クロスイレーズ)が極めて現れ易くなる。しかしながら、本発明者らは、検証実験により、本発明の第1及び第2の態様及び第1から第3の参考態様に従う情報記録媒体で用いた相変化材料を記録層として用いることにより、トラックピッチTPが0.35×(λ/NA)≦TP≦0.7×(λ/NA)(λ:光ビームの波長、NA:対物レンズの開口数)となるような狭トラックピッチの場合であっても、クロスイレーズを大幅に低減できることを見出した。
本発明の第1及び第2の態様及び第1から第3の参考態様に従う情報記録媒体では、上記情報記録媒体が、さらに、界面層を備え、該界面層が上記記録層の少なくとも一方の側の表面に接して設けられていることが好ましい。
上述の第1及び第2の態様及び第1から第3の参考態様に従う情報記録媒体において、本発明者らは、記録層の少なくとも一方の界面に接して界面層を形成することにより、書換回数や保存寿命が飛躍的に向上することを検証実験により見出した。
本発明の第1及び第2の態様及び第1から第3の参考態様に従う情報記録媒体では、記録層に接してBi2Te3、SnTe、PbTe等を含有した核生成層を設けても良い。記録層に接して核生成層を設けると、記録マーク周辺の再結晶化の抑制効果がさらに向上する。これは、結晶核の増加速度が大きい場合、それぞれの結晶核から成長した結晶がその隣の結晶核から成長した結晶とすぐにぶつかり合い結晶成長を抑制するためであると考えられる。また、本発明の第1及び第2の態様及び第1から第3の参考態様に従う情報記録媒体では、記録層の形成材料が上述の組成範囲の関係を維持していれば、たとえ、不純物が混入していたとしても、不純物の原子%が1%以内であれば、本発明の効果は失われない。
また、本発明の第1及び第2の態様及び第1から第3の参考態様に従う情報記録媒体は、エネルギービームの照射により熱が発生し、この熱により原子配列の変化が起こり、これにより情報の記録が行われる情報記録媒体に適用可能であるので、特に情報記録媒体の形状によらず、光カード等の円盤状情報記録媒体以外の情報記録媒体にも適用できる。なお、本明細書では、本発明の情報記録媒体を相変化型光ディスク、あるいは単に光ディスクと記載することもある。また、本明細書中では上記したエネルギービームを光ビーム、または単にレーザー光と表現することもある。
また、本発明の第1及び第2の態様及び第1から第3の参考態様に従う情報記録媒体では、記録層の光ビーム入射側に基板が配置されるような構成を前提としているが、記録層の光ビーム入射側とは反対側に基板を配置し、光ビーム入射側には、基板よりも薄い保護シート等の保護材を配置しても良い。
また、本発明の第1及び第2の態様及び第1から第3の参考態様に従う情報記録媒体に照射されるエネルギービームとしては、情報記録媒体上に熱を発生させることが可能なエネルギービームであれば同様の効果が得られるので、電子ビーム等のエネルギービームを使用しても良い。
本発明の情報記録媒体によれば、Bi、Ge及びTeを含む相変化材料のGeの一部を上述した置換元素MA及び/又は置換元素MBで置換し、且つ、置換元素の総含有量を上述した範囲(置換元素にBだけを用いる場合は1〜10原子%、それ以外は1〜20原子%)とすることにより、青色レーザーで情報記録した場合にも、データの繰返し記録に対する耐久性が高く、高速記録が可能で、且つ、対応可能な記録線速の範囲が広い情報記録媒体が得られる。
以下、本発明の情報記録媒体の実施例を説明するが、本発明はこれに限定されるものでない。
[情報記録媒体及びその製造方法]
実施例1で作製した情報記録媒体は相変化型光ディスクであり、その概略断面図を図1に示した。この例で作製した光ディスク10は、図1に示すように、基板1上に第1保護層2、第1界面層3、記録層4、第2界面層5、第2保護層6、熱拡散層7、紫外線硬化樹脂層8が順次積層された構造を有する。次に、この例の光ディスク10の作製方法を説明する。なお、この例で作製した光ディスク10では、グルーブとランドの両方に情報を記録する、いわゆる、ランド・グルーブ記録方式を採用した。
まず、基板1には、直径120mm、厚さ0.6mmのポリカーボネート製基板を用いた。基板1は射出成形により作製し、基板1の半径23.8mmから58.6mmの情報の記録領域には、ランドトラック及びグルーブトラックの各トラックピッチが0.34μmとなるような溝を形成した。また、トラックには93チャネルビットの周期でウォブルを施した。
次に、基板1上に、第1保護層2として(ZnS)80(SiO2)20をスパッタリングにより60nmの膜厚で形成した。次いで、第1保護層2上に、第1界面層3としてGe8Cr2−N(相対比表示)をスパッタリングにより2nmの膜厚で形成した。
次に、第1界面層3上に、記録層4をスパッタリングにより11nmの膜厚で形成した。記録層4はBi3Ge47Te50又はBi30Ge22Te48を形成母材としてGeの一部をSi(添加元素MA)に置換した種々の材料で形成した。記録層4の形成方法は次の通りである。スパッタリングターゲットとして、Ge50Te50とBi2Te3ターゲット以外に、Geの一部をSiと置換するために、さらにSi50Te50ターゲットを用意して3種類のダーゲットで同時スパッタリングして記録層を形成した。この際、記録層の組成が、所望の組成となるように、各々のターゲットに印加するスパッタリングパワーを調整した。なお、この例では、Si元素の含有量を1〜25原子%の範囲で変化させた種々の光ディスクを形成した。なお、比較のため、Si元素を含まない光ディスク、すなわち、記録層4を形成母材(Bi3Ge47Te50又はBi30Ge22Te48)のみで形成した光ディスクも作製した。
上記方法で形成された記録層4上に、第2界面層5としてGe8Cr2−N(相対比表示)をスパッタリングにより2nmの膜厚で形成した。次いで、第2界面層5上に、第2保護層6(中間層ともいう)として(ZnS)50(SiO2)50をスパッタリングにより40nmの膜厚で形成した。さらに、第2保護層6上に、熱拡散層7としてAl99Ti1をスパッタリングにより150nmの膜厚で形成した。
次に、熱拡散層7上に、紫外線硬化樹脂層8としてUV樹脂をこの上に塗布し、その上に、さらに厚さ0.6mmのポリカーボネート製の透明基板(不図示)を載置して、透明基板越しにUV照射を行い、UV樹脂を硬化させることにより透明基板を紫外線硬化樹脂層8上に張り合わせた。以上の製造方法により、図1に示した光ディスク10を得た。
上記の作製方法で得られた種々の光ディスクに対して、初期化装置(不図示)を用いて、波長810nm、ビームスポットの長径が96μm、短径が1μmである楕円ビームのレーザー光を照射して初期化を行った。
なお、この例では、図1に示すように、従来のDVD−RAM等の製品と同様の膜構成で光ディスクを作製したが、図1とは逆の順序で基板1上に各層を積層した構造の光ディスクであっても本発明と同様の効果が得られる。また、吸収率制御層を必要に応じて、所定の位置に積層しても良い。
[情報記録再生装置]
この例で作製した種々の光ディスクに対して情報の記録及び再生を行うための情報記録再生装置の概略構成図を図2に示した。この例で用いた情報記録再生装置20は、図2に示すように、主に、この例で作製した光ディスク10を回転させるためのモーター21と、光ディスク10にレーザー光を照射する光ヘッド22と、トラッキング制御のためのL/Gサーボ回路23と、再生信号処理系24と、記録信号処理系27とから構成される。再生信号処理系24は、図2に示すように、再生信号のゲインを調整するプリアンプ回路25と、再生信号に基づいて情報再生を行う1−7復調器26とから構成される。記録信号処理系27は、図2に示すように、入力信号を所定の変調方式で変調する1−7変調器30と、記録信号波形を生成する記録波形発生回路29と、レーザー光の発光を制御するレーザー駆動回路28とから構成される。
この例で用いた光ヘッド22は、波長405nmの半導体レーザーと、開口数NAが0.65の対物レンズを備えている(不図示)。一般的に、波長λのレーザー光を開口数NAの対物レンズにより集光した場合、レーザー光のスポット径はおよそ0.9×λ/NAとなるので、この例の場合、レーザー光のスポット径は約0.6μmとなる。ただし、この例では、レーザー光の偏光を円偏光とした。また、この例では、トラックピッチTPを0.34μmとしたので、トラックピッチTPと、波長λと、開口数NAとの間には、
TP=0.55×(λ/NA)
の関係が成立する。
また、この例で作製した光ディスクはランド・グルーブ記録方式の光ディスクであるので、図2に示した情報記録再生装置20もランド・グルーブ記録方式に対応している。この例の情報記録再生装置20では、図2中のL/Gサーボ回路23により、ランドとグルーブに対するトラッキングを任意に選択することができる。
以下に、情報記録再生装置20の動作を図2を用いて説明する。なお、記録再生を行う際のモーター制御方法としては、記録再生を行うゾーン毎にディスクの回転数を変化させるZCLV方式を採用した。また、この例では、情報記録の際に、マークエッジ方式を用い、1−7変調方式で光ディスク10上に情報を記録した。この変調方式では、情報は2T〜8Tのマーク長で記録される。ここで、Tとは情報記録時のクロックの周期を表しており、この例ではT=15.4nsとした。すなわち、この例では、最短2Tのマーク長はおよそ0.17μm、最長8Tのマーク長は約0.7μmとなる。また、この例では、記録線速を5.64m/sec(1倍速)、11.28m/sec(2倍速)及び16.92m/sec(3倍速)の3種類で記録した。
まず、情報記録に必要な信号が記録装置外部から1−7変調器30に入力される。次いで、1−7変調器30に入力された信号は1−7変調方式で変調され、2T〜8Tのデジタル信号が出力される。次いで、1−7変調器30から出力された2T〜8Tのデジタル信号は記録波形発生回路29に入力される。
記録波形発生回路29では、入力された2T〜8Tのデジタル信号に基づいて、情報記録時のレーザー光照射に必要なマルチパルス記録波形が生成される。この例では、マルチパルス記録波形の高パワーレベル領域を、幅を約T/2の高パワーパルスと、高パワーパルス間に形成された幅が約T/2の低パワーパルスとで構成された一連のパルス列で形成した。また、マルチパルス記録波形の上記一連のパルス列の間の領域は中間パワーレベルのパルスで構成した。この際、記録層に記録マークを形成(アモルファス化)するための高パワーレベルのパルス強度と、記録マークを結晶化させるための中間パワーレベルのパルス強度を、記録再生を行う光ディスク毎に最適な値に調整した。
また、記録波形発生回路29内では、2T〜8Tのデジタル信号波形を時系列的に交互に「0」と「1」に対応させ、「0」の場合には、中間パワーレベルのレーザーパルスを照射し、「1」の場合には、上述の高パワーパルスと低パワーパルスで構成された一連のパルス列を照射するようにした。この際、中間パワーレベルのレーザーパルスが照射された光ディスク10上の部分は結晶となり、上述の高パワーパルスと低パワーパルスで構成された一連のパルス列が照射された部分はアモルファス(マーク部)に変化する。さらに、記録波形発生回路29は、上述の高パワーパルスと低パワーパルスで構成された一連のパルス列を形成する際に、マーク部の前後のスペース長に応じてマルチパルス波形の先頭パルス幅と最後尾のパルス幅を変化させる方式(適応型記録波形制御)に対応したマルチパルス波形テーブルを有しており、これによりマーク間に発生するマーク間熱干渉の影響を極力排除できるマルチパルス記録波形を発生している。
次に、上述の記録波形発生回路29で生成されたマルチパルス記録波形は、レーザー駆動回路28に転送され、レーザー駆動回路28は、入力されたマルチパルス記録波形に基づいて、光ヘッド22内の半導体レーザーの発光を制御する。そして、半導体レーザーから出射されたレーザー光を光ヘッド22内の対物レンズにより光ディスク10の記録層上に絞り込み、マルチパルス記録波形に対応したタイミングでレーザー光を照射することにより、情報の記録を行った。
上述のように記録された情報の再生動作を次に説明する。まず、光ヘッド22からレーザー光を光ディスク10の記録マーク上に照射し、記録マークと記録マーク以外の部分(未記録部分)からの反射光を光ヘッド22で検出して再生信号を得る。この再生信号の振幅をプリアンプ回路25により所定のゲインで増幅し、1−7復調器26に転送する。1−7復調器26では、入力された再生信号に基づいて情報を復調し再生データを出力する。以上の動作により、記録されたマークの再生が完了する。
なお、後述するエラーレート測定の際には上記2T〜8Tを含むランダムパターンの信号の記録再生を行った。
[記録層材料の評価]
上記製造方法で作製した記録層に含まれるSi(置換元素MA)の含有量を変化させた種々の光ディスクに対して以下のような測定を行い評価した。
上記製造方法で作製した種々の光ディスクを、図2に示した情報記録再生装置に装着して、1倍速及び2倍速の記録線速度におけるエラーレート(ただし、ランダムパターンを10回書換後のエラーレート)を測定した(以下では、これらの評価項目を1倍速記録エラーレート及び2倍速記録エラーレートという)。この試験結果から、各光ディスクの記録消去性能及び信号品質を評価した。ここでは、エラーレートの測定は、連続する5トラックの内周から外周方向に順番にランダムパターン(2T〜8Tのランダムパターン)を記録した後に、5トラックの中心トラックにおけるエラーレートを測定した。
また、この例では、記録層の書換寿命の評価をするために、1倍速記録及び2倍速記録おける1000回書換え後のエラーレートを測定した(以下では、これらの評価項目を1000回書換え後の1倍速記録エラーレート及び2倍速記録エラーレートという)。なお、この例で作製した光ディスクではランド・グルーブ記録を採用しているが、ここではランドとグルーブにそれぞれ情報を記録した際の平均値を示した。なお、各評価の目標値は以下の通りである。
エラーレート(10回書換後):5×10−5以下
1000回書換後のエラーレート:1×10−4以下
まず、この例では、記録層の形成母材にBi3Ge47Te50を用いて作製した光ディスクの中から、Si元素の含有量が5原子%の光ディスクについて、上記各試験を行い性能評価を行った。その結果、1倍速記録エラーレートは3.5×10−5、2倍速記録エラーレートは4.5×10−5、1000回書換後の1倍速記録エラーレートは8.0×10−5、そして、1000回書換後の2倍速記録エラーレートは9.5×10−5となり、全ての評価項目で目標レベルを達成することができた。
次に、この例で記録層の形成母材にBi3Ge47Te50を用いて作製した光ディスクのうち、Si元素の含有量が0、1、2、20及び25原子%である光ディスクをそれぞれ100枚作製し、作製した全ての光ディスクに対して上記各試験を行い性能評価を行った。その結果を表1に示した。ただし、この表では、Si元素の各含有量毎に作製した100枚の光ディスクのうち、各評価項目の上述した目標レベルを達成した光ディスクが何枚であったかを調べた(以下では、合格率という)。表1は記録層の形成母材にBi3Ge47Te50を用いた光ディスクの各評価項目の合格率であり、Si元素の含有量に対する各評価項目の合格率を示した。なお、表1中における合格率の表記は、(合格枚数)/100枚で表した。例えば、100枚中50枚目標レベルに到達した場合には50/100と記載した。
表1から明らかなように、記録層の形成母材にBi3Ge47Te50を用いた場合、Si元素を添加しない光ディスクでは、1倍速記録エラーレート、2倍速記録エラーレート及び1000回書換後の2倍速記録エラーレートの評価項目で合格率が100%(100枚中100枚合格)であったが、1000回書換後の1倍速記録エラーレートでは合格率が100枚中25枚となり、残り75枚は目標レベルに到達しなかった。
また、記録層中のSi元素の含有量が1〜20原子%の光ディスクでは、表1から明らかなように、全ての評価項目で合格率が100%となった。
記録層中のSi元素の含有量が25原子%の光ディスクでは、表1から明らかなように、1倍速記録エラーレート及び2倍速記録エラーレートともに合格率が100枚中25枚となり、残り75枚は目標レベルに到達しなかった。目標レベルに到達しなかった光ディスクでは信号変調度が小さくなっていた。また、記録層中のSi元素の含有量が25原子%の光ディスクでは、1000回書換後の1倍速記録エラーレート及び2倍速記録エラーレートともに合格率が100枚中80枚となり、残り20枚は目標レベルに到達しなかった。
また、この例の光ディスクにおける記録層の形成母材としてBi2Ge47Te51及びBi4Ge47Te49を用いた場合にも形成母材にBi3Ge47Te50を用いた場合と同様の特性が得られた。
次に、この例では、記録層の形成母材にBi30Ge22Te48を用いて作製した光ディスクの中から、Si元素の含有量が5原子%の光ディスクに対して、上記各試験を行い性能評価を行った。その結果、1倍速記録エラーレートは4.8×10−5、2倍速記録エラーレートは3.5×10−5、1000回書換後の1倍速記録エラーレートは9.5×10−5、そして、1000回書換後の2倍速記録エラーレートは8.8×10−5となり、全ての評価項目で目標レベルを達成することができた。
また、この例で記録層の形成母材にBi30Ge22Te48を用いて作製した光ディスクのうち、Si元素の含有量が0、1、2、20及び25原子%である光ディスクをそれぞれ100枚作製し、作製した全ての光ディスクに対して上記各試験を行い性能評価を行った。その結果を表2に示した。表2はこの例で記録層の形成母材にBi30Ge22Te48を用いて作製した光ディスクの各評価項目の合格率であり、Si元素の含有量に対する各評価項目の合格率を示した。
表2から明らかなように、記録層の形成母材にBi30Ge22Te48を用いた場合、Si元素を添加しない光ディスクでは、1倍速記録エラーレート、2倍速記録エラーレート及び1000回書換後の2倍速記録エラーレートの評価項目で合格率が100%(100枚中100枚合格)であったが、1000回書換後の1倍速記録エラーレートでは合格率が100枚中50枚となり、残り50枚は目標レベルに到達しなかった。
また、記録層中のSi元素の含有量が1〜20原子%の光ディスクでは、表2から明らかなように、全ての評価項目で合格率が100%となった。
記録層中のSi元素の含有量が25原子%の光ディスクでは、表2から明らかなように、1倍速記録エラーレート及び2倍速記録エラーレートともに合格率が100枚中20枚となり、残り80枚は目標レベルに到達しなかった。目標レベルに到達しなかった光ディスクでは信号変調度が小さくなっていた。また、記録層中のSi元素の含有量が25原子%の光ディスクでは、表2から明らかなように、1000回書換後の1倍速記録エラーレート及び2倍速記録エラーレートともに合格率が100枚中80枚となり、残り20枚は目標レベルに到達しなかった。
また、この例の光ディスクにおける記録層の形成母材にBi16Ge37Te47及びBi19Ge26Te55を用いた場合にも、記録層の形成母材にBi30Ge22Te48を用いた光ディスクと同様の特性が得られた。
上述の結果から、Bi2Ge47Te51、Bi4Ge47Te49、Bi3Ge47Te50、Bi16Ge37Te47、Bi19Ge26Te55及びBi30Ge22Te48を記録層の形成母材とし、各母材中のGeの一部をSi(置換元素MA)で置換した材料で記録層を形成した光ディスクでは、記録層中の置換元素MAの含有量を1〜20原子%とすることにより、全評価項目において目標値が達成された。
すなわち、記録層中の添加元素MAにSiを用いた場合には、記録層中のBi、(Ge+MA)及びTeの組成比率を、Bi、(Ge+MA)及びTeの三角組成図上の以下の各点により囲まれた組成範囲に設定し、
B2’(Bi2,(Ge+MA)47,Te51)
C2’(Bi3,(Ge+MA)47,Te50)
D2’(Bi4,(Ge+MA)47,Te49)
D6’(Bi16,(Ge+MA)37,Te47)
C8’(Bi30,(Ge+MA)22,Te48)
B7’(Bi19,(Ge+MA)26,Te55)
且つ、記録層中の添加元素MA(Si)の含有量を1〜20原子%とすることにより、青色レーザーで情報記録した場合でも、データの繰返し記録に対する耐久性が高く、高速記録が可能で、且つ、対応可能な記録線速の範囲が広い情報記録媒体が得られることが分かった。
[参考例1]
参考例1の光ディスクでは、記録層の形成母材にBi3Ge47Te50及びBi30Ge22Te48を用い、各母材中のGeの一部をB(置換元素MA)に置換した材料で記録層を形成した。この例の光ディスクにおける記録層の形成方法は次の通りである。
Ge50Te50及びBi2Te3ターゲットを用意し、同時スパッタリングを行い記録層4を形成した。この際、Geの一部をBで置換するために、スパッタリングターゲット上に、Bチップを貼り付けて成膜を行った。また、記録層4の組成が、所望の組成となるように、各々のターゲットに印加するスパッタリングパワーを調整した。なお、この例では、記録層中のBの含有量を1〜15原子%の範囲で変化させて種々の光ディスクを作製した。なお、比較のため、Bを含まない光ディスク、すなわち、記録層を形成母材(Bi3Ge47Te50又はBi30Ge22Te48)のみで形成した光ディスクも作製した。なお、記録層以外は実施例1と同様にして光ディスクを作製した。
また、この例では、Bの含有量が0、1、2、10及び15原子%である光ディスクをそれぞれ100枚作製し、作製した全ての光ディスクに対して実施例1と同様に1倍速記録エラーレート及び2倍速記録エラーレートと、1000回書換え後の1倍速記録エラーレート及び2倍速記録エラーレートを測定して評価した。なお、各評価項目の目標値は実施例1と同様とした。
この例で記録層の形成母材にBi3Ge47Te50を用いて作製した光ディスクに対して行った上記試験の評価結果を表3に示した。なお、表3は記録層の形成母材にBi3Ge47Te50を用いた光ディスクの各評価項目の合格率であり、Bの含有量に対する各評価項目の合格率を示した。
表3から明らかなように、記録層の形成母材にBi3Ge47Te50を用いた場合、B元素を添加しない光ディスクでは、1倍速記録エラーレート、2倍速記録エラーレート及び1000回書換後の2倍速記録エラーレートの評価項目で合格率が100%(100枚中100枚合格)であったが、1000回書換後の1倍速記録エラーレートでは合格率が100枚中25枚となり、残り75枚は目標レベルに到達しなかった。
また、記録層中のB元素の含有量が1〜10原子%の光ディスクでは、表3から明らかなように、全ての評価項目で合格率が100%となった。
記録層中のB元素の含有量が15原子%の光ディスクでは、表3から明らかなように、1倍速記録エラーレート及び2倍速記録エラーレートともに合格率が100枚中25枚となり、残り75枚は目標レベルに到達しなかった。目標レベルに到達しなかった光ディスクでは信号変調度が小さくなっていた。また、記録層中のB元素の含有量が15原子%の光ディスクでは、1000回書換後の1倍速記録エラーレート及び2倍速記録エラーレートともに合格率が100枚中80枚となり、残り20枚は目標レベルに到達しなかった。
また、この例の光ディスクにおける記録層の形成母材としてBi2Ge47Te51及びBi4Ge47Te49を用いた場合にも、形成母材にBi3Ge47Te50を用いた場合と同様の特性が得られた。
次に、この例で記録層の形成母材にBi30Ge22Te48を用いて作製した光ディスクに対して行った上記試験の評価結果を表4に示した。なお、表4は記録層の形成母材にBi30Ge22Te48を用いた光ディスクの各評価項目の合格率であり、B元素の含有量に対する各評価項目の合格率を示した。
表4から明らかなように、記録層の形成母材にBi30Ge22Te48を用いた場合、B元素を添加しない光ディスクでは、1倍速記録エラーレート、2倍速記録エラーレート及び1000回書換後の2倍速記録エラーレートの評価項目で合格率が100%(100枚中100枚合格)であったが、1000回書換後の1倍速記録エラーレートでは合格率が100枚中50枚となり、残り50枚は目標レベルに到達しなかった。
また、記録層中のB元素の含有量が1〜10原子%の光ディスクでは、表4から明らかなように、全ての評価項目で合格率が100%となった。
記録層中のB元素の含有量が15原子%の光ディスクでは、表4から明らかなように、1倍速記録エラーレート及び2倍速記録エラーレートともに合格率が100枚中20枚となり、残り80枚は目標レベルに到達しなかった。目標レベルに到達しなかった光ディスクでは信号変調度が小さくなっていた。また、記録層中のB元素の含有量が15原子%の光ディスクでは、表4から明らかなように、1000回書換後の1倍速記録エラーレート及び2倍速記録エラーレートともに合格率が100枚中80枚となり、残り20枚は目標レベルに到達しなかった。
また、この例の光ディスクにおける記録層の形成母材としてBi16Ge37Te47及びBi19Ge26Te55を用いた場合にも、記録層の形成母材にBi30Ge22Te48を用いた光ディスクと同様の特性が得られた。
上述の結果から、Bi2Ge47Te51、Bi4Ge47Te49、Bi3Ge47Te50、Bi16Ge37Te47、Bi19Ge26Te55及びBi30Ge22Te48を記録層の形成母材とし、各母材中のGeの一部をB(置換元素MA)で置換した材料で記録層を形成した光ディスクでは、記録層中のBの含有量を1〜10原子%とすることにより、全評価項目において目標値が達成された。
すなわち、記録層中の添加元素MAにBを用いた場合には、記録層中のBi、(Ge+MA)及びTeの組成比率を、Bi、(Ge+MA)及びTeの三角組成図上の以下の各点により囲まれた組成範囲に設定し、
B2’(Bi2,(Ge+MA)47,Te51)
C2’(Bi3,(Ge+MA)47,Te50)
D2’(Bi4,(Ge+MA)47,Te49)
D6’(Bi16,(Ge+MA)37,Te47)
C8’(Bi30,(Ge+MA)22,Te48)
B7’(Bi19,(Ge+MA)26,Te55)
且つ、記録層中の添加元素MA(B)の含有量を1〜10原子%とすることにより、青色レーザーで情報記録した場合でも、データの繰返し記録に対する耐久性が高く、高速記録が可能で、且つ、対応可能な記録線速の範囲が広い情報記録媒体が得られることが分かった。
[参考例2]
参考例2の光ディスクでは、記録層の形成母材にBi3Ge47Te50及びBi30Ge22Te48を用い、各母材中のGeの一部をSn(置換元素MB)に置換した材料で記録層を形成した。この例の光ディスクにおける記録層の形成方法は次の通りである。
この例ではGe50Te50とBi2Te3ターゲット以外に、Geの一部をSnと置換するために、さらにSn50Te50ターゲットを用意して3種類のダーゲットで同時スパッタリングして記録層を形成した。この際、記録層の組成が、所望の組成となるように、各々のターゲットに印加するスパッタリングパワーを調整した。なお、この例では、記録層中のSnの含有量を1〜25原子%の範囲で変化させて種々の光ディスクを作製した。なお、比較のため、Snを含まない光ディスク、すなわち、記録層を形成母材(Bi3Ge47Te50又はBi30Ge22Te48)のみで形成した光ディスクも作製した。なお、記録層以外は実施例1と同様にして光ディスクを作製した。
この例では、この例で作製した種々の光ディスクについて、1倍速及び3倍速の記録線速度におけるエラーレート(以下では、これらの評価項目を1倍速記録エラーレート及び3倍速記録エラーレートという)と、1倍速記録及び3倍速記録における1000回書換え後のエラーレート(以下では、これらの評価項目を1000回書換え後の1倍速記録エラーレート及び3倍速記録エラーレートという)を測定して評価した。なお、各評価項目の目標値は実施例1と同様とした。
まず、この例では、記録層の形成母材にBi3Ge47Te50を用いて作製した光ディスクの中から、Snの含有量が10原子%の光ディスクに対して上記の各試験を行い性能評価を行った。その結果、1倍速記録エラーレートは4.5×10−5、3倍速記録エラーレートは3.4×10−5、1000回書換後の1倍速記録エラーレートは8.8×10−5、そして、1000回書換後の3倍速記録エラーレートは9.4×10−5となり、全ての評価項目で目標レベルを達成することができた。
次に、この例で記録層の形成母材にBi3Ge47Te50を用いて作製した光ディスクのうち、Snの含有量が0、1、2、20及び25原子%である光ディスクをそれぞれ100枚作製し、作製した全ての光ディスクに対して上記各試験を行い性能評価を行った。その結果を表5に示した。なお、表5は記録層の形成母材にBi3Ge47Te50を用いた光ディスクの各評価項目の合格率であり、Snの含有量に対する各評価項目の合格率を示した。
表5から明らかなように、記録層の形成母材にBi3Ge47Te50を用いた場合、Snを添加しない光ディスクでは、1倍速記録エラーレートで合格率が100%となったが、3倍速記録エラーレートでは100枚中25枚となり、残り75枚は目標レベルに到達しなかった。また、表5から明らかなように、1000回書換後の1倍速記録エラーレート及び3倍速記録エラーレートの評価項目ではともに合格率が100枚中20枚となり、残り80枚は目標レベルに到達しなかった。
また、記録層中のSnの含有量が1〜20原子%の光ディスクでは、表5から明らかなように、全ての評価項目で合格率が100%となった。
記録層中のSnの含有量が25原子%の光ディスクでは、表5から明らかなように、1倍速記録エラーレート及び3倍速記録エラーレートともに合格率が100枚中5枚となり、残り95枚は目標レベルに到達しなかった。目標レベルに到達しなかった光ディスクでは信号変調度が小さくなっていた。また、記録層中のSnの含有量が25原子%の光ディスクでは、1000回書換後の1倍速記録エラーレート及び3倍速記録エラーレートともに合格率が100枚中80枚となり、残り20枚は目標レベルに到達しなかった。
また、この例の光ディスクにおける記録層の形成母材としてBi2Ge47Te51及びBi4Ge47Te49を用いた場合にも、形成母材にBi3Ge47Te50を用いた場合と同様の特性が得られた。
さらに、記録層中のSnの一部若しくは全てをPbに置き換えた場合にも上記と同様の結果が得られた。なお、置換元素にPbを用いた場合の記録層の形成方法は次の通りである。Ge50Te50とBi2Te3ターゲット以外に、Geの一部をPbと置換するために、さらにPb50Te50ターゲットを用意して3種類のダーゲットで同時スパッタリングして記録層を形成した。この際、記録層の組成が、所望の組成となるように、各々のターゲットに印加するスパッタリングパワーを調整した。
次に、この例では、記録層の形成母材にBi30Ge22Te48を用いて作製した光ディスクの中から、Snの含有量が10原子%の光ディスクに対して上記各試験を行い性能評価を行った。その結果、1倍速記録エラーレートは4.9×10−5、3倍速記録エラーレートは3.0×10−5、1000回書換後の1倍速記録エラーレートは9.6×10−5、そして、1000回書換後の3倍速記録エラーレートは8.5×10−5となり、全ての評価項目で目標レベルを達成することができた。
また、この例で記録層の形成母材にBi30Ge22Te48を用いて作製した光ディスクのうち、Snの含有量が0、1、2、20及び25原子%である光ディスクをそれぞれ100枚作製し、作製した全ての光ディスクに対して上記各試験を行い性能評価を行った。その結果を表6に示した。表6は記録層の形成母材にBi30Ge22Te48を用いた光ディスクの各評価項目の合格率であり、Snの含有量に対する各評価項目の合格率を示した。
表6から明らかなように、記録層の形成母材にBi30Ge22Te48を用いた場合、Snを添加しない光ディスクでは、1倍速記録エラーレートで合格率が100%(100枚中100枚合格)であったが、3倍速記録エラーレートでは合格率が100枚中40枚となり、残り60枚は目標レベルに到達しなかった。また、Snを添加しない場合には、1000回書換後の1倍速記録エラーレート及び3倍速記録エラーレートの評価項目で合格率が100枚中30枚となり、残り70枚は目標レベルに到達しなかった。
また、記録層中のSnの含有量が1〜20原子%の光ディスクでは、表6から明らかなように、全ての評価項目で合格率が100%となった。
記録層中のSnの含有量が25原子%の光ディスクでは、表6から明らかなように、1倍速記録エラーレート及び3倍速記録エラーレートともに合格率が100枚中10枚となり、残り90枚は目標レベルに到達しなかった。目標レベルに到達しなかった光ディスクでは信号変調度が小さくなっていた。また、記録層中のSnの含有量が25原子%の光ディスクでは、表6から明らかなように、1000回書換後の1倍速記録エラーレート及び3倍速記録エラーレートともに合格率が100枚中80枚となり、残り20枚は目標レベルに到達しなかった。
また、この例の光ディスクにおける記録層の形成母材としてBi16Ge37Te47及びBi19Ge26Te55を用いた場合にも、記録層の形成母材にBi30Ge22Te48を用いた光ディスクと同様の特性が得られた。さらに、記録層中のSnの一部若しくは全てをPbに置き換えた場合にも上記と同様の結果が得られた。
上述の結果から、Bi2Ge47Te51、Bi4Ge47Te49、Bi3Ge47Te50、Bi16Ge37Te47、Bi19Ge26Te55及びBi30Ge22Te48を記録層の形成母材とし、各母材中のGeの一部をSn及びPbのうち少なくとも一種の元素(置換元素MB)で置換した材料で記録層を形成した光ディスクでは、記録層中の置換元素MBの総含有量を1〜20原子%とすることにより、全評価項目で目標値が達成された。
すなわち、記録層中のBi、(Ge+MB)及びTeの組成比率を、Bi、(Ge+MB)及びTeの三角組成図上の以下の各点により囲まれた組成範囲に設定し、
B2’(Bi2,(Ge+MB)47,Te51)
C2’(Bi3,(Ge+MB)47,Te50)
D2’(Bi4,(Ge+MB)47,Te49)
D6’(Bi16,(Ge+MB)37,Te47)
C8’(Bi30,(Ge+MB)22,Te48)
B7’(Bi19,(Ge+MB)26,Te55)
且つ、記録層中の添加元素MBの含有量を1〜20原子%とすることにより、青色レーザーで情報記録した場合でも、データの繰返し記録に対する耐久性が高く、高速記録が可能で、且つ、対応可能な記録線速の範囲が広い情報記録媒体が得られることが分かった。
実施例2の光ディスクでは、記録層の形成母材にBi3Ge47Te50及びBi30Ge22Te48を用い、各母材中のGeの一部をSi(置換元素MA)及びSn(置換元素MB)に置換した材料で記録層を形成した。この例の光ディスクにおける記録層の形成方法は次の通りである。
この例では、Geの一部をSi及びSnで置換するために、Sn50Te50チップを貼り付けたGe50Te50と、Bi2Te3ターゲットと、Si50Te50ターゲットとを用意し、同時スパッタリングして記録層を形成した。この際、記録層の組成が、所望の組成となるように、各々のターゲットに印加するスパッタリングパワーを調整した。なお、この例では、記録層中のSi及びSnの含有量をそれぞれ変化させて種々の光ディスクを作製した。具体的には、Si及びSnの含有量をそれぞれ1〜20原子%の範囲で変化させ且つSi及びSnの含有量の組み合せを変化させた種々の光ディスクを作製した。なお、比較のため、Si及びSnを含まない光ディスク、すなわち、記録層を形成母材(Bi3Ge47Te50又はBi30Ge22Te48)のみで形成した光ディスクも作製した。なお、記録層以外は実施例1と同様にして光ディスクを作製した。
この例では、この例で作製した種々の光ディスクに対して、実施例1と同様に、1倍速記録エラーレート及び3倍速記録エラーレート(ランダムパターンを10回書換えた後のエラーレート)と、1000回書換え後の1倍速記録エラーレート及び3倍速記録エラーレートとを測定して評価した。なお、各評価項目の目標値は実施例1と同様とした。
まず、この例では、記録層の形成母材にBi3Ge47Te50を用いて作製した光ディスクの中から、Siの含有量が5原子%であり且つSnの含有量が10原子%である光ディスクに対して上記試験を行い評価した。その結果、1倍速記録エラーレートは2.0×10−5、3倍速記録エラーレートは2.5×10−5、1000回書換後の1倍速記録エラーレートは6.0×10−5、そして、1000回書換後の3倍速記録エラーレートは7.0×10−5となり、全ての評価項目で目標レベルを達成することができた。
次に、この例で記録層の形成母材にBi3Ge47Te50を用いて作製した光ディスクのうち、Si及びSnの含有量の組み合わせ(以下、[Si,Sn]原子%と記す)が[Si,Sn]=[0,0]、[1,1]、[1,19]、[1,20]、[19,1]及び[20,1]原子%である光ディスクをそれぞれ100枚作製し、作製した全ての光ディスクに対して上記各試験を行い性能評価を行った。その結果を表7に示した。なお、表7は記録層の形成母材にBi3Ge47Te50を用いた光ディスクの各評価項目の合格率であり、Si及びSnの含有量の組み合わせに対する各評価項目の合格率を示した。
表7から明らかなように、記録層の形成母材にBi3Ge47Te50を用いた場合、Si及びSnを添加しない光ディスク([Si,Sn]=[0,0]原子%の光ディスク)では、1倍速記録エラーレートで合格率が100%となったが、3倍速記録エラーレートでは100枚中25枚となり、残り75枚は目標レベルに到達しなかった。また、Si及びSnを添加しない場合には、表7から明らかなように、1000回書換後の1倍速記録エラーレート及び3倍速記録エラーレートの評価項目でともに合格率が100枚中20枚となり、残り80枚は目標レベルに到達しなかった。
また、記録層中のSi及びSnの総含有量が1〜20原子%([Si,Sn]=[1,1]、[1,19]及び[19,1]原子%)の光ディスクでは、表7から明らかなように、全ての評価項目で合格率が100%となった。
記録層中のSi及びSnの総含有量が21原子%([Si,Sn]=[1,20]及び[20,1]原子%)の光ディスクでは、表7から明らかなように、1倍速記録エラーレート及び3倍速記録エラーレートともに合格率が100枚中10枚となり、残り90枚は目標レベルに到達しなかった。目標レベルに到達しなかった光ディスクでは信号変調度が小さくなっていた。また、記録層中のSi及びSnの総含有量が21原子%の光ディスクでは、1000回書換後の1倍速記録エラーレート及び3倍速記録エラーレートともに合格率が100枚中90枚となり、残り10枚は目標レベルに到達しなかった。
また、この例の光ディスクにおける記録層の形成母材としてBi2Ge47Te51及びBi4Ge47Te49を用いた場合にも、形成母材にBi3Ge47Te50を用いた場合と同様の特性が得られた。さらに、記録層中のSnの一部若しくは全てをPbに置き換えた場合にも上記と同様の結果が得られた。
次に、この例では、記録層の形成母材にBi30Ge22Te48を用いて作製した光ディスクの中から、Siの含有量が5原子%であり且つSnの含有量が10原子%である光ディスクについて上記各試験を行い評価した。その結果、1倍速記録エラーレートは2.1×10−5、3倍速記録エラーレートは2.3×10−5、1000回書換後の1倍速記録エラーレートは5.5×10−5、そして、1000回書換後の3倍速記録エラーレートは6.0×10−5となり、全ての評価項目で目標レベルを達成することができた。
また、この例で記録層の形成母材にBi30Ge22Te48を用いて作製した光ディスクのうち、Si及びSnの含有量の組み合わせが[Si,Sn]=[0,0]、[1,1]、[1,19]、[1,20]、[19,1]及び[20,1]原子%の光ディスクをそれぞれ100枚作製し、作製した全ての光ディスクに対して上記各試験を行い性能評価を行った。その結果を表8に示した。なお、表8は記録層の形成母材にBi30Ge22Te48を用いた光ディスクの各評価項目の合格率であり、Si及びSnの含有量の組み合わせに対する各評価項目の合格率を示した。
表8から明らかなように、記録層の形成母材にBi30Ge22Te48を用いた場合、Si及びSnを添加しない光ディスク([Si,Sn]=[0,0]原子%の光ディスク)では、1倍速記録エラーレートで合格率が100%となったが、3倍速記録エラーレートでは100枚中25枚となり、残り75枚は目標レベルに到達しなかった。また、B及びSnを添加しない場合には、表8から明らかなように、1000回書換後の1倍速記録エラーレート及び3倍速記録エラーレートの評価項目でともに合格率が100枚中20枚となり、残り80枚は目標レベルに到達しなかった。
また、記録層中のSi及びSnの総含有量が1〜20原子%([Si,Sn]=[1,1]、[1,19]及び[19,1]原子%)の光ディスクでは、表8から明らかなように、全ての評価項目で合格率が100%となった。
記録層中のSi及びSnの総含有量が21原子%([Si,Sn]=[1,20]及び[20,1]原子%)の光ディスクでは、表8から明らかなように、1倍速記録エラーレート及び3倍速記録エラーレートともに合格率が100枚中20枚となり、残り80枚は目標レベルに到達しなかった。目標レベルに到達しなかった光ディスクでは信号変調度が小さくなっていた。また、記録層中のSi及びSnの総含有量が21原子%の光ディスクでは、1000回書換後の1倍速記録エラーレート及び3倍速記録エラーレートともに合格率が100枚中85枚となり、残り15枚は目標レベルに到達しなかった。
また、この例の光ディスクにおける記録層の形成母材としてBi16Ge37Te47及びBi19Ge26Te55を用いた場合にも、記録層の形成母材にBi30Ge22Te48を用いた光ディスクと同様の特性が得られた。さらに、記録層中のSnの一部若しくは全てをPbに置き換えた場合にも上記と同様の結果が得られた。
上述の結果から、Bi2Ge47Te51、Bi4Ge47Te49、Bi3Ge47Te50、Bi16Ge37Te47、Bi19Ge26Te55及びBi30Ge22Te48を記録層の形成母材とし、各母材中のGeの一部をSi(置換元素MA)と、Sn及びPbのうち少なくとも一種の元素(置換元素MB)とで置換した材料で記録層を形成した光ディスクでは、記録層中の置換元素MA及びMBの総含有量を1〜20原子%とすることにより、全評価項目で目標値が達成された。
すなわち、置換元素MAにSiを用いた場合には、記録層中のBi、(Ge+MA+MB)及びTeの組成比率を、Bi、(Ge+MA+MB)及びTeの三角組成図上の以下の各点により囲まれた組成範囲に設定し、
B2’(Bi2,(Ge+MA+MB)47,Te51)
C2’(Bi3,(Ge+MA+MB)47,Te50)
D2’(Bi4,(Ge+MA+MB)47,Te49)
D6’(Bi16,(Ge+MA+MB)37,Te47)
C8’(Bi30,(Ge+MA+MB)22,Te48)
B7’(Bi19,(Ge+MA+MB)26,Te55)
且つ、記録層中の置換元素MA及びMBの総含有量を1〜20原子%とすることにより、青色レーザーで情報記録した場合でも、データの繰返し記録に対する耐久性が高く、高速記録が可能で、且つ、対応可能な記録線速の範囲が広い情報記録媒体が得られることが分かった。
[参考例3]
参考例3の光ディスクでは、記録層の形成母材にBi3Ge47Te50及びBi30Ge22Te48を用い、各母材中のGeの一部をB(置換元素MA)及びSn(置換元素MB)に置換した材料で記録層を形成した。この例の光ディスクにおける記録層の形成方法は次の通りである。
この例では、Geの一部をB及びSnで置換するために、Sn50Te50チップを貼り付けたGe50Te50と、Bi2Te3ターゲットとを用意し、スパッタリングターゲット上にBチップを貼り付けて、同時スパッタリングして記録層を形成した。この際、記録層の組成が、所望の組成となるように、各々のターゲットに印加するスパッタリングパワーを調整した。なお、この例では、記録層中のB及びSnの含有量をそれぞれ変化させて種々の光ディスクを作製した。具体的には、Bの含有量を1〜11原子%の範囲で変化させ、Snの含有量を1〜20原子%の範囲で変化させ、且つ、B及びSnの含有量の組み合せを変化させた種々の光ディスクを作製した。なお、比較のため、B及びSnを含まない光ディスク、すなわち、記録層を形成母材(Bi3Ge47Te50又はBi30Ge22Te48)のみで形成した光ディスクも作製した。なお、記録層以外は実施例1と同様にして光ディスクを作製した。
まず、この例では、記録層の形成母材にBi3Ge47Te50を用い、B及びSnの含有量の組み合わせが[B,Sn]=[0,0]、[1,1]、[1,19]、[1,20]、[10,1]、[10,10]、[10,11]及び[11,1]原子%である光ディスクをそれぞれ100枚作製し、作製した全ての光ディスクに対して、実施例1と同様に、1倍速記録エラーレート及び3倍速記録エラーレート(ランダムパターンを10回書換えた後のエラーレート)と、1000回書換え後の1倍速記録エラーレート及び3倍速記録エラーレートとを測定して評価した。なお、各評価項目の目標値は実施例1と同様とした。その結果を表9に示した。なお、表9は記録層の形成母材にBi3Ge47Te50を用いた光ディスクの各評価項目の合格率であり、B及びSnの含有量の組み合わせに対する各評価項目の合格率を示した。
表9から明らかなように、記録層の形成母材にBi3Ge47Te50を用いた場合、B及びSnを添加しない光ディスク([B,Sn]=[0,0]原子%の光ディスク)では、1倍速記録エラーレートで合格率が100%となったが、3倍速記録エラーレートでは100枚中25枚となり、残り75枚は目標レベルに到達しなかった。また、B及びSnを添加しない場合には、表9から明らかなように、1000回書換後の1倍速記録エラーレート及び3倍速記録エラーレートの評価項目でともに合格率が100枚中20枚となり、残り80枚は目標レベルに到達しなかった。
また、記録層中のB及びSnの総含有量が1〜20原子%であり、且つ、Bの含有量が1〜10原子%である場合([B,Sn]=[1,1]、[1,19]、[10,1]及び[10,10]原子%)の光ディスクでは、表9から明らかなように、全ての評価項目で合格率が100%となった。
なお、記録層中のB及びSnの総含有量は20原子%以下であるが、Bの含有量が10原子%を超えている光ディスク、すなわち、[B,Sn]=[11,1]原子%の光ディスクでは、表9から明らかなように、全ての評価項目で合格率が100枚中20枚となり、残り80枚は目標レベルに到達しなかった。目標レベルに到達しなかった光ディスクでは信号変調度が小さくなっていた。
また、記録層中のB及びSnの含有量の組合せが[B,Sn]=[1,20]原子%の光ディスクでは、表9から明らかなように、全ての評価項目で合格率が100枚中10枚となり、残り90枚は目標レベルに到達しなかった。また、記録層中のB及びSnの含有量の組合せが[B,Sn]=[10,11]原子%の光ディスクでは、表9から明らかなように、全ての評価項目で合格率が100枚中20枚となり、残り80枚は目標レベルに到達しなかった。これらの記録層中のB及びSnの総含有量が21原子%となる光ディスクでは、信号変調度が小さくなっていた。
また、この例の光ディスクにおける記録層の形成母材としてBi2Ge47Te51及びBi4Ge47Te49を用いた場合にも、形成母材にBi3Ge47Te50を用いた場合と同様の特性が得られた。さらに、記録層中のSnの一部若しくは全てをPbに置き換えた場合にも上記と同様の結果が得られた。
次に、記録層の形成母材にBi30Ge22Te48を用い、B及びSnの含有量の組み合わせが[B,Sn]=[0,0]、[1,1]、[1,19]、[1,20]、[10,1]、[10,10]、[10,11]及び[11,1]原子%の光ディスクをそれぞれ100枚作製し、作製した全ての光ディスクに対して上記各試験を行い性能評価を行った。その結果を表10に示した。なお、表10は記録層の形成母材にBi30Ge22Te48を用いた光ディスクの各評価項目の合格率であり、B及びSnの含有量の組み合わせに対する各評価項目の合格率を示した。
表10から明らかなように、記録層の形成母材にBi30Ge22Te48を用いた場合、B及びSnを添加しない光ディスク([B,Sn]=[0,0]原子%の光ディスク)では、1倍速記録エラーレートで合格率が100%となったが、3倍速記録エラーレートでは100枚中25枚となり、残り75枚は目標レベルに到達しなかった。また、B及びSnを添加しない場合には、表10から明らかなように、1000回書換後の1倍速記録エラーレート及び3倍速記録エラーレートの評価項目でともに合格率が100枚中20枚となり、残り80枚は目標レベルに到達しなかった。
また、記録層中のB及びSnの総含有量が1〜20原子%であり、且つ、Bの含有量が1〜10原子%である場合([B,Sn]=[1,1]、[1,19]、[10,1]及び[10,10]原子%)の光ディスクでは、表10から明らかなように、全ての評価項目で合格率が100%となった。
記録層中のB及びSnの総含有量は20原子%以下であるが、Bの含有量が10原子%を超えている光ディスク、すなわち、[B,Sn]=[11,1]原子%の光ディスクでは、表10から明らかなように、全ての評価項目で合格率が100枚中25枚となり、残り75枚は目標レベルに到達しなかった。目標レベルに到達しなかった光ディスクでは信号変調度が小さくなっていた。
また、記録層中のB及びSnの含有量の組合せが[B,Sn]=[1,20]原子%の光ディスクでは、表10から明らかなように、全ての評価項目で合格率が100枚中15枚となり、残り85枚は目標レベルに到達しなかった。また、記録層中のB及びSnの含有量の組合せが[B,Sn]=[10,11]原子%の光ディスクでは、表10から明らかなように、全ての評価項目で合格率が100枚中30枚となり、残り70枚は目標レベルに到達しなかった。これらの記録層中のB及びSnの総含有量が21原子%となる光ディスクでは、信号変調度が小さくなっていた。
また、この例の光ディスクにおける記録層の形成母材としてBi16Ge37Te47及びBi19Ge26Te55を用いた場合にも、記録層の形成母材にBi30Ge22Te48を用いた光ディスクと同様の特性が得られた。さらに、記録層中のSnの一部若しくは全てをPbに置き換えた場合にも上記と同様の結果が得られた。
上述の結果から、Bi2Ge47Te51、Bi4Ge47Te49、Bi3Ge47Te50、Bi16Ge37Te47、Bi19Ge26Te55及びBi30Ge22Te48を記録層の形成母材とし、各母材中のGeの一部をB(置換元素MA)と、Sn、Pbのうち少なくとも一種の元素(置換元素MB)とで置換した材料で記録層を形成した光ディスクでは、記録層中の置換元素MA(B)及びMBの総含有量を1〜20原子%とし且つ置換元素MA(B)の含有量を1〜10原子%することにより、全評価項目で目標値が達成された。
すなわち、置換元素MAにBを用いた場合には、記録層中のBi、(Ge+MA+MB)及びTeの組成比率を、Bi、(Ge+MA+MB)及びTeの三角組成図上の以下の各点により囲まれた組成範囲に設定し、
B2’(Bi2,(Ge+MA+MB)47,Te51)
C2’(Bi3,(Ge+MA+MB)47,Te50)
D2’(Bi4,(Ge+MA+MB)47,Te49)
D6’(Bi16,(Ge+MA+MB)37,Te47)
C8’(Bi30,(Ge+MA+MB)22,Te48)
B7’(Bi19,(Ge+MA+MB)26,Te55)
且つ、記録層中の置換元素MA(B)及びMBの総含有量を1〜20原子%とし且つ置換元素MA(B)の含有量を1〜10原子%することにより、青色レーザーで情報記録した場合でも、データの繰返し記録に対する耐久性が高く、高速記録が可能で、且つ、対応可能な記録線速の範囲が広い情報記録媒体が得られることが分かった。
上記実施例1、2および参考例1〜3では波長405nmの青色レーザーを用いて情報の記録再生を行った例を説明したが、本発明はこれに限定されず、波長640nm〜665nmの赤色レーザーを用いて情報の記録再生を行っても同様の結果が得られる。
[最適構成]
以下に、本発明の情報記録媒体を構成する各層の最適組成及び最適膜厚について説明する。
(第1保護層)
第1保護層の光ビーム入射側に存在する物質はポリカーボネート等のプラスチック基板、あるいは、紫外線硬化樹脂等の有機物である。また、これらの屈折率は1.4〜1.6程度である。上記有機物と第1保護層の間で反射を効果的に起こすためには、第1保護層の屈折率は2.0以上であることが望ましい。第1保護層の屈折率は光学的には光ビーム入射側に存在する物質(本実施例および本参考例では基板に相当する)の屈折率よりも大きい値であり、光の吸収が発生しない範囲で第1保護層の屈折率がより大きいほうが良い。具体的には、第1保護層は、屈折率nが2.0〜3.0の間であり、光を吸収しない材料で形成され、特に金属の酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、セレン化物等を含有することが望ましい。
また、第1保護層の熱伝導率は少なくとも2W/mk以下であることが望ましい。特に、ZnS−SiO2系の化合物は熱伝導率が低いので、第1保護層として最適である。さらに、SnO2、あるいはSnO2にZnS,CdS、SnS、GeS、PbS等の硫化物を添加した材料、あるいはSnO2にCr2O3、Mo3O4等の遷移金属酸化物を添加した材料は、熱伝導率が低いだけでなく、ZnS−SiO2系材料より熱的に安定であるので、特に第1保護層として優れた特性を示す。
また、光ビームの波長が405nm程度の場合、基板と記録層との間の光学干渉を有効に利用するためには、第1保護層の最適膜厚は40nm〜100nmである。
(第1界面層)
本発明の情報記録媒体の記録層に用いる相変化材料の融点は650℃以上と高温であるため、第1保護層と記録層の間に熱的に極めて安定な第1界面層を設けることが望ましい。具体的には、第1界面層の形成材料としては、Cr2O3、Ge3N4、SiC等の高融点酸化物、高融点窒化物、高融点炭化物が望ましく、これらの材料は熱的に安定であり、長期間保存後も膜はがれによる劣化が発生しない。
また、第1界面層にBi、Sn、Pb等の記録層の結晶化を促進する材料が含有されていると、記録層の再結晶化を抑制する効果が得られるのでさらに望ましい。特に、Bi、Sn、PbのTe化物、酸化物、あるいは、Bi、Sn、PbのTe化物、酸化物と窒化ゲルマニウムとの混合物、あるいは、Bi、Sn、PbのTe化物、酸化物と遷移金属酸化物、遷移金属窒化物との混合物が望ましい。遷移金属は価数を容易に変化させるため、たとえBi、Sn、Pb、Te等の元素が遊離しても、上記遷移金属が価数を変え、遷移金属とBi、Sn、Pb、Te等の間で結合が起こり、熱的に安定な化合物を生成するからである。特に、Cr、Mo及びWは融点が高く、価数を変えやすく、上記金属との間で、熱的に安定な化合物を生成しやすいため優れた材料である。
第1界面層の膜厚は0.5nm以上であればその効果を発揮する。しかしながら、第1界面層の膜厚が2nmより薄い場合、第1保護層の形成材料が第1界面層通過して記録層に溶け込み、多数回書換え後の再生信号品質を劣化させる場合がある。それゆえ、第1界面層の膜厚は2nm以上であることが望ましい。また、第1界面層の膜厚が10nmより厚くなると、光学的に悪影響を与えるため、反射率低下、信号振幅低下等の弊害がある。従って、第1界面層の膜厚は2nm〜10nmが望ましい。
(記録層)
記録層の形成材料については、すでに実施例等で詳細に説明しているが、情報記録媒体で使用される記録層材料をまとめると、以下に示す組成系の相変化材料となる。本発明では、記録層中のBi、Ge及びTe以外の元素の含有量を調節することにより対応可能な線速度範囲を調整することができる。
4元系記録層材料:Bi−Ge−Si−Te,B−Bi−Ge−Te,Bi−Ge−Sn−Te,Bi−Ge−Pb−Te
5元系記録層材料:B−Bi−Ge−Si−Te,Bi−Ge−Pb−Sn−Te,Bi−Ge−Si−Pb−Te,Bi−Ge−Si−Sn−Te、B−Bi−Ge−Pb−Te,B−Bi−Ge−Sn−Te
6元系記録層材料:B−Bi−Ge−Pb−Sn−Te,Bi−Ge−Pb−Si−Sn−Te,B−Bi−Ge−Si−Sn−Te,B−Bi−Ge−Pb−Si−Te,
7元系記録層材料:B−Bi−Ge−Pb−Si−Sn−Te
以上のような多元系の組成を適宜調整することにより、記録層材料の性能をよりきめ細かに制御することが可能となる。
なお、本発明の情報記録媒体に使用される記録層材料の各構成元素が上述の実施例等で示した組成範囲の関係を維持していれば、たとえ、不純物が混入していたとしても、不純物の原子%が1%以内であれば、本発明の効果は失われない。
また、本発明の情報記録媒体の構造では記録層の膜厚を5nm〜15nmに設定することが光学的に最適である。特に7nm〜11nmの膜厚で記録層を形成した場合、多数回書換え時の記録膜流動による再生信号劣化を抑制し、さらに光学的に変調度を最適化することができる。
(第2界面層)
本発明の情報記録媒体の記録層に用いられる相変化材料の融点は650℃以上と高温であるため、第2保護層と記録層との間に熱的に極めて安定な第2界面層を設けることが望ましい。具体的には、第2界面層として、Cr2O3、Ge3N4、SiC等の高融点酸化物、高融点窒化物、高融点炭化物が望ましい。これらの材料は熱的に安定であり、長期保存後も膜はがれによる劣化が発生しない。
また、第2界面層にBi、Sn、Pb等の記録層の結晶化を促進する材料が含有されていると、記録層の再結晶化を抑制する効果が得られるのでさらに望ましい。特に、Bi、Sn、PbのTe化物、酸化物、あるいは、Bi、Sn、PbのTe化物、酸化物と窒化ゲルマニウムとの混合物、あるいは、Bi、Sn、PbのTe化物、酸化物と遷移金属酸化物、遷移金属窒化物との混合物が望ましい。遷移金属は価数を容易に変化させるため、たとえBi、Sn、Pb、Te等の元素が遊離しても、上記遷移金属が価数を変え、遷移金属とBi、Sn、Pb、Teの間で結合が起こり、熱的に安定な化合物を生成するからである。特に、Cr、Mo、Wは融点が高く、価数を変えやすく、上記金属との間で熱的に安定な化合物を生成しやすいため優れた材料である。
第2界面層の膜厚は0.5nm以上であれば上記効果を発揮する。しかしながら、その膜厚が1nmより薄くなると、第2保護層の形成材料が第2界面層を通過して記録層に溶け込み、多数回書換え後の再生信号品質を劣化させる場合がある。それゆえ、第2界面層の膜厚は1nm以上であることが望ましい。また、第2界面層の膜厚が5nmより厚くなると、光学的に悪影響を与えるため、反射率低下、信号振幅低下等の弊害がある。従って、第2界面層の膜厚は1nm〜5nmが望ましい。
(第2保護層)
第2保護層は光を吸収しない材料で形成され、特に金属の酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、セレン化物を含有することが望ましい。また、第2保護層の熱伝導率は少なくとも2W/mk以下であることが望ましい。特に、ZnS−SiO2系の化合物は熱伝導率が低いので第2保護層として最適である。さらに、SnO2、あるいは、SnO2にZnS,CdS、SnS、GeS,PbS等の硫化物を添加した材料、あるいは、SnO2にCr2O3、Mo3O4等の遷移金属酸化物を添加した材料は、熱伝導率が低いだけでなく、ZnS−SiO2系材料よりも熱的に安定であるため、第2界面層の膜厚が1nm未満となった場合においても、記録層への第2界面層の形成材料の溶け込みが発生しないため、特に第2保護層として優れた特性を示す。
また、情報記録媒体が第2保護層と熱拡散層との間に吸収率制御層を備え、光ビームの波長が405nm程度の場合、記録層と吸収率制御層との間の光学干渉を有効に利用するためには、第2保護層の最適膜厚は25nm〜60nmである。
(熱拡散層)
熱拡散層の形成材料としては、高反射率、高熱伝導率の金属あるいは合金が望ましく、Al、Cu、Ag、Au、Pt、Pdの総含有量が90原子%以上である材料が望ましい。また、熱拡散層の形成材料としてCr、Mo、W等の高融点で硬度の大きい材料及びこれらの材料の合金もまた望ましく、これらの材料を用いると、多数回書換え時の記録層材料の流動による劣化を防止することができる。
具体的には、特に、Alを95原子%以上含有する材料で熱拡散層を形成した情報記録媒体では、廉価であり、高CNR、高記録感度及び多数回書換え耐性が優れるといった効果だけでなく、クロスイレーズ低減効果が極めて大きくなるという効果が得られる。また、上記熱拡散層がAlを95原子%以上含有する材料で形成されている場合、廉価でしかも耐食性に優れた情報記録媒体を実現することができる。Alに対する添加元素としてはCo、Ti、Cr、Ni、Mg、Si、V、Ca、Fe、Zn、Zr、Nb、Mo、Rh、Sn、Sb、Te、Ta、W、Ir、Pb、B、C等が耐食性の点において優れているが、添加元素にCo、Cr、Ti、Ni、Feを用いた場合、特に耐食性向上に大きな効果がある。
熱拡散層の膜厚は、30nm〜100nmであることが望ましい。熱拡散層の膜厚が30nmより薄い場合、記録層において発生した熱が拡散し難くなるため、特に青色レーザーで1000回程度書換えた際に、記録層が劣化し易くなり、また、クロスイレーズが発生し易くなる恐れがある。また、熱拡散層の膜厚が30nmより薄い場合、光を透過してしまうため熱拡散層として使用することが困難になり再生信号振幅が低下する恐れがある。また、熱拡散層の膜厚は100nmより厚くなると、情報書換え時に記録層に与えられた熱が拡散しやすくなるため、記録層が結晶化温度以上に保持される時間が短くなり、記録マークを充分に結晶化することができなくなる恐れがある。さらに、熱拡散層の膜厚は200nm以上となると、生産性が悪くなり、また、熱拡散層の内部応力により、基板のそり等が発生し、情報の記録再生を正確に行うことができなくなる恐れがある。また、熱拡散層の膜厚は、30nm〜90nmであれば、耐食性、生産性の点で優れており、さらに望ましい。
また、情報記録媒体が第2保護層と熱拡散層との間に吸収率制御層を備え、吸収率制御層に含まれる金属元素と熱拡散層に含まれる金属元素が同じ場合、生産上は大きな利点がある。この場合、同一ターゲットを用いて吸収率制御層と熱拡散層の2層の層を製膜することができる。すなわち、吸収率制御層製膜時にはAr−O2混合ガス、Ar−N2混合ガス等の混合ガスによりスパッタリングして、スパッタリング中に金属元素と酸素、あるいは窒素を反応させることにより適当な屈折率の吸収率制御層を形成し、熱拡散層の製膜時にはArガスによりスパッタリングし熱伝導率が高い金属の熱拡散層を形成することができる。
上述のように、本発明の情報記録媒体では、Bi、Ge及びTeを含む相変化材料のGeの一部を実施例1、2および参考例1〜3で示した置換元素MA及び/又はMBで置換した材料で記録層を形成することにより、青色レーザーで情報記録をしても、記録データの信頼性が高く、データの繰返し記録に対する耐久性が向上し、高速記録が可能になり、且つ、対応可能な記録線速の範囲が広い情報記録媒体が提供される。
図1は、実施例1で作製した相変化記録方式の光ディスクの概略断面図である。
図2は、実施例1で作製した光ディスクの評価に用いた記録再生装置の概略構成図である。
図3は、Bi−Ge−Te系相変化材料の三角組成図であり、本発明の記録層に用いるBi−Ge−Te系相変化材料の最適な組成範囲を示した図である。
符号の説明
1 基板
2 第1保護層
3 第1界面層
4 記録層
5 第2界面層
6 第2保護層
7 熱拡散層
8 紫外線硬化樹脂層
10 光ディスク