JP3870702B2 - 光学的情報記録用媒体及びその記録消去方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば書き換え可能な相変化型記録層を有する光学的情報記録用媒体に関し、特に、記録時の基準クロック周期が15ns以下の高データ転送レートが達成可能であるような速い結晶化速度と、優れた記録信号ジッタ特性と、記録マークの優れた保存安定性を有する光学的情報記録用媒体及び記録消去方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
相変化型記録層を有する光学的情報記録用媒体は、結晶状態の可逆的な変化に伴う反射率変化を利用して記録再生消去が行われる。このような光学的情報記録用媒体、中でも相変化光ディスクは、可搬性、耐候性、耐衝撃性等に優れた安価な大容量記録媒体として開発および実用化が進んでいる。例えば、CD−RWなどの書き換え可能なCDが既に普及しており、DVD−RW、DVD+RW、DVD−RAMなどの書き換え可能なDVDが販売されつつある。
【0003】
相変化型記録の方法としては、結晶相と非晶質相との間での可逆的変化を利用し、結晶状態を未記録・消去状態とし、記録時に非晶質(アモルファス)のマークを形成する手法が現在実用化されている。通常、記録層を融点より高い温度まで加熱し急冷して非晶質のマークを形成し、一方、記録層を加熱し結晶化温度付近に一定時間保つことで結晶状態とする。すなわち一般的には、安定的な結晶相と非晶質相との間での可逆的変化を利用する。
【0004】
このような相変化型記録層の材料としては、カルコゲン系合金薄膜が用いられることが多い。例えば、GeSbTe系、InSbTe系、GeSnTe系、AgInSbTe系合金が挙げられる。これらの化合物はオーバーライト可能な材料として知られている。オーバーライトとは、一旦記録済みの媒体に再度記録をする際に、記録前に消去を行うことなくそのまま重ね書きする手法、いわば消去しながら記録する手法である。
【0005】
特に、{(Sb2Te3)1-a(GeTe)a}1-bSbb(0.2<a<0.9、0≦b<0.1)合金を主成分とする薄膜、または(SbcTe1-c)dM1-d(ただし、0.6<c<0.9、0.8<d<1、MはGe、Ag、In等から選ばれる1種以上の元素)合金を主成分とする薄膜は、結晶・非晶質(アモルファス)いずれの状態も安定で、かつ、両状態間の比較的高速の相転移が可能な記録材料であることが知られている。また、後者の記録材料では、記録されたアモルファスマークを安定化させるためにGeの添加が特に有効であることが知られている(EP834、874号公報)。これらの系は繰り返しオーバーライトをおこなった時に偏析が生じにくいといった長所もあり、両合金薄膜とも相変化型光ディスクの記録層として実用化されている。
【0006】
ところで、上記2種類の合金は性質が大きく異なる。
例えば、前者は結晶核の生成頻度が大きく、アモルファスマークを結晶化する際には結晶核が重要な働きをするのに対して、後者ではアモルファスマークの結晶化に結晶核がほとんど関係していない。また、両者は記録時のレーザーパルスの照射方式、いわゆるパルス分割方式(パルスストラテジー)の許容範囲が異なる。
【0007】
後者の合金の方が、マーク間を詰めて記録した場合の再生信号特性が良く、高密度記録に適している。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
現在、さらなる高記録密度が達成でき、かつ高速で記録消去が可能で高転送レートが達成できる光学的情報記録用媒体を目指し、記録材料の開発が進められている。高転送レートを達成するには記録及び消去の両方を高速で行う必要があるため、記録層の結晶化速度が速く、アモルファスマークの消去(結晶化)が十分に速くなければならない。
【0009】
(SbcTe1-c)dM1-d(ただし、0.6<c<0.9、0.8<d<1、MはGe、Ag、In等から選ばれる1種以上の元素)合金を主成分とする薄膜は、Sb量とTe量の比によって結晶化速度をコントロールできる。即ち、Sb量を多くTe量を少なくすることにより結晶化速度が速くなる。
しかし従来、結晶化速度を速めるためにSb量を大幅に多くすると、ジッタ(記録されたマーク部、マーク間部を再生したときの再生信号のジッタ)が悪化してしまうという傾向があった。従ってある程度以上の高結晶化速度の記録材料では、良好なジッタが得にくい。
【0010】
この原因は必ずしも明らかではないが、再生信号波形をオシロスコープで観察すると、結晶状態の反射率レベルが一定ではなく幅を持って太くなって見えることから、Sbが多くなったときには本来の結晶相に加えて反射率の異なる別の結晶相が現れている可能性がある。すなわち結晶領域(未記録・消去状態の領域)において、異なる反射率をもつ2種以上の相がビームの大きさに対して十分に均一ではない状態で混ざっている可能性がある。
【0011】
このため高結晶化速度と良好な再生信号ジッタとを両立できる光学的情報記録用媒体を得たいという要請があった。この要請は、非常に高線速での記録消去、例えば基準クロック周期が15ns以下での記録消去が行えるような媒体で特に大きい。
本発明は、上記問題点を解決するためになされたもので、その目的は、高結晶化速度と優れたジッタ特性を有する光学的情報記録用媒体とそれに適した記録消去方法を得ることにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、基板上に少なくとも相変化型記録層を設けてなる光学的情報記録用媒体であって、該相変化型光記録層が((SbxTe1-x)1-yGey)1-zAuz(ただし0.70≦x≦0.95、0.01≦y≦0.10、0.01≦z≦0.12)で表される組成を主成分とする合金からなることを特徴とする光学的情報記録用媒体に存する。
【0013】
本発明によれば、(SbxTe1-x)1-yGey(ただし、0.70≦x≦0.95、0.01≦y≦0.10)系合金記録層にAuを適量添加することにより、結晶化速度の速い媒体においてジッタ(記録されたマーク部、マーク間部を再生したときの再生信号のジッタ)が改善されるので、高結晶化速度と優れたジッタ特性を有する光学的情報記録用媒体を得ることができる。
【0014】
ジッタ特性が改善される理由は必ずしも明らかではないが、Auを添加すると、前述の結晶反射率レベルが一定ではなく幅を持って太く見える現象が低減されることが観察される。このことから、Sb量が多くなったときに現れる結晶相の出現をAuが抑えている可能性が考えられる。
ところで、特開平1−251342号公報には、Ge−Sb系合金にカルコゲン元素(Se、Te、S)を添加し、さらに結晶化速度の増加、感度の向上などのためにPd又はAuを添加した記録層を有する情報記録媒体が記載されている。
【0015】
該公報に開示された組成範囲は、Ge含有量の取りうる値が5〜80at.%(原子%)にも及ぶ広いもので、本願発明の組成範囲と一部重なる。しかしながら本発明では、添加しうるGe量は最大でも10at.%を超えることはない。これ以上の添加はジッタ特性を悪化させてしまい、Auの添加によるジッタ改善効果を打ち消してしまうからである。またGe量を多くしすぎると結晶化速度を低下させる傾向もあるため、高線速での記録が困難になってしまう。
【0016】
また、特開平11−240252号公報(USP6,096,399号)には、Ge−Sb−Te系合金にAgまたはAuを0.2〜2.5at.%添加した記録層を有する情報記録媒体が記載されている。しかし実験例で使用されているのはGe−Sb−Te系合金の中でも、本願とは異なるGe2Sb2Te5である。
前記従来技術の項で説明したとおり、Ge−Sb−Te系合金には性質の大きく異なる2種の合金薄膜、Ge2Sb2Te5を代表的組成とする{(Sb2Te3)1-a(GeTe)a}1-bSbb(0.2<a<0.9、0≦b<0.1)合金を主成分とする薄膜、本願に係る記録層の(SbcTe1-c)dM1-d(ただし、0.6<c<0.9、0.8<d<1、MはGe、Ag、In等から選ばれる1種以上の元素)合金を主成分とする薄膜とがある。
【0017】
そして、該公報は実質的に前者を記録層とする場合に関するものであるのに対し、本発明は後者を記録層とする場合に関するもので、Auを添加する目的や効果も全く異なる。本願発明は後者を記録層とする中でも特にSb含有量が多くTe含有量が少ない場合に特有の問題を解決するためのものである。
本発明の別の要旨は、上記光学的情報記録用媒体に対して、基準クロック周期を15ns以下として記録及び/又は消去を行うことを特徴とする記録消去方法に存する。
【0018】
すなわち、上記光学的情報記録用媒体は、相変化速度が速く、かつ再生信号のジッタ特性に優れるので、基準クロック周期15ns(ナノ秒)以下の高線速で、再生信号のジッタに優れた記録消去が可能となる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
本発明においては、基板上に少なくとも相変化型記録層を設けてなる光学的情報記録用媒体であって、該相変化型記録層が((SbxTe1-x)1-yGey)1-zAuz(ただし0.70≦x≦0.95、0.01≦y≦0.10、0.01≦z≦0.12)で表される組成を主成分とする合金からなる。
【0020】
上記記録層の組成において、十分なジッタ改善効果を得るためにはAuを所定量以上含有する必要があるため、0.01≦zである。より好ましくは0.03≦zである。一方、Au量が多すぎるとアモルファスマークの保存安定性が悪化するため、z≦0.12である。より好ましくはz≦0.10である。
さて、SbとTeの含有比率は結晶化速度に関係し、Sbが多くTeが少なくなると結晶化速度は速くなる。一般には、媒体を高速で回転させながら光照射部から出射した光ビーム(レーザー)スポットを記録層に照射し、光照射部と媒体とを高速で相対移動させながら記録消去を行う。この相対移動速度が大きい場合を記録線速度が大きいと称し、相対移動速度が小さい場合を記録線速度が小さいと称する。
【0021】
記録線速度が大きい状態では、記録層は一旦光ビームスポットにより加熱された後、急速に冷却される。すなわち記録層の温度履歴は急冷的になり、同じ組成の記録層では、記録線速度が大きいほどアモルファス相が形成されやすく結晶相が形成されにくくなる。
このため、目的とする記録線速度が大きい媒体ではSb量を多くして結晶化速度を速くし、目的とする記録線速度が小さい媒体ではSb量を少なくして結晶化速度を遅くするなど、記録線速度に応じて添加量を調整するのが望ましい。結晶化速度が遅すぎず実用的な記録線速度で記録できるためには0.70≦xとする。好ましくは0.80≦xとする。一方、結晶化速度が速すぎず実用的な記録線速度で記録できるためには、x≦0.95とする。好ましくはx≦0.90とする。
【0022】
Ge量はアモルファスマークの保存安定性に関係し、Ge量が多くなるとアモルファスマークの保存安定性が増す傾向がある。Ge量が小さすぎるとこの効果が不十分となるため、上記合金において0.01≦yとする。好ましくは0.03≦yとする。
Ge量が多すぎると再生信号のジッタが悪化するためy≦0.10とする。好ましくはy≦0.08とする。
【0023】
以上のことから、本発明の媒体の記録層組成を((SbxTe1-x)1-yGey)1-zAuzと表した場合、x、y、zの値を、0.70≦x≦0.95、0.01≦y≦0.10、0.01≦z≦0.12とする。
種々の特性改善のために、必要に応じてこの記録層に、In、Ag、Ga、Zn、Sn、Si、Cu、Pd、Pt、Pb、Cr、Co、O、N、S、Se、V、Nb、Ta等を添加してもよい。特性改善の効果を得るために、添加量は合金の全体組成の0.1at.%(原子%)以上が好ましい。ただし、本発明組成の好ましい特性を損なわないため10at.%以下にとどめるのが好ましい。
【0024】
記録層膜厚は5nmから100nmの範囲が好ましい。記録層膜厚が5nmより薄いと十分なコントラストが得られ難く、また結晶化速度が遅くなる傾向があり、短時間での記録消去が困難となりやすい。また、反射率を十分に高くするためにより好ましくは10nm以上とする。
一方記録層膜厚が100nmを越すとやはり光学的なコントラストが得にくくなり、クラックも生じやすくなる。
【0025】
熱容量を小さくし記録感度を上げるためにより好ましくは50nm以下とする。さらにまた、記録層膜厚が50nm以下とすることで、相変化に伴う体積変化を小さくし、記録層自身や上下の保護層に対して、繰り返しオーバーライトによる繰り返し体積変化の影響を小さくすることができる。ひいては、微視的かつ不可逆な変形の蓄積が抑えられノイズが低減され、繰り返しオーバーライト耐久性が向上する。
【0026】
書き換え可能型DVDのような高密度記録用媒体では、ノイズに対する要求が一層厳しいため、より好ましくは記録層膜厚を30nm以下とする。
次に相変化光ディスクの構造における他の部分について説明する。相変化光ディスクでは基板上に保護層、記録層、保護層、反射層をこの順に、或いは逆の順に有する場合が多い。
【0027】
基板としては、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリオレフィンなどの樹脂、あるいはガラス等を用いることができる。基板側から記録再生光を入射する場合は、基板は記録再生光に対して透明とする必要がある。
記録層は、その上下を保護層で被覆されている場合が多い。保護層の材料としては誘電体が多く用いられるが、屈折率、熱伝導率、化学的安定性、機械的強度、密着性等に留意して決定される。一般的には透明性が高く高融点である金属や半導体の酸化物、硫化物、窒化物やCa、Mg、Li等のフッ化物が用いられる。
【0028】
これらの酸化物、硫化物、窒化物、フッ化物は必ずしも化学量論的組成をとる必要はなく、屈折率等の制御のために組成を制御したり、混合して用いることも有効である。より具体的にはZnSや希土類硫化物と酸化物、窒化物、炭化物等の耐熱化合物の混合物が挙げられる。たとえばZnSとSiO2の混合物は相変化型光ディスクの保護層に用いられる場合が多い。これらの保護層の膜密度はバルク状態の80%以上であることが機械的強度の面から望ましい。
【0029】
保護層は通常、5nmから500nmの厚さに設けられる。保護層の厚みは5nm未満であると、記録層の変形防止効果が不十分であり、保護層としての役目をなさない傾向がある。500nmを超えると保護層を構成する誘電体自体の内部応力や接している膜との弾性特性の差が顕著になって、クラックが発生しやすくなる。
【0030】
一般に保護層を構成する材料は成膜レートが小さく、長い成膜時間を要する。成膜時間を短くし製造時間を短縮しコストを削減するためには、保護層膜厚を200nm以下に抑えるのが好ましい。より好ましくは150nm以下である。
記録層と反射層の間に設ける保護層の膜厚は、記録層の変形を防ぐためには5nm以上が好ましい。一般に、繰り返しオーバーライトによって保護層内部には微視的な塑性変形が蓄積され、ひいては再生光を散乱させノイズを増加させる。これを抑制するためには保護層膜厚を60nm以下とするのが好ましい。
【0031】
一方、記録層と基板の間に設ける保護層の膜厚は、基板を保護するために20nm以上が好ましい。
反射層は、反射率、熱伝導度が大きい材料からなるのが好ましい。反射率、熱伝導度が大きい反射層材料としてはAg、Au、Al、Cu等を主成分とする金属が挙げられる。中でもAgはAu、Al、Cu等に比べて反射率、熱伝導度が最も大きい。
【0032】
短波長ではAgと比較してAu、Cu、Alは光を吸収しやすくなる。このため、記録再生に650nm以下の短波長レーザーを使用する場合には、反射層としてAgを主成分とする金属を用いることが特に好ましい。さらにAgはスパッタリングターゲットとしての値段が比較的安く、放電が安定で成膜速度が速く、空気中で安定であるため好ましい。
【0033】
Ag、Al、Au、Cu等は他の元素を含んでいてもよい。これら金属は不純物が混ざると熱伝導度や反射率が低下してしまうが、反面、安定性や膜表面平坦性が改善される場合があるので、5at.%以下程度の他元素を含んでもよい。含有元素としては、Cr、Mo、Mg、Zr、V、Ag、In、Ga、Zn、Sn、Si、Cu、Au、Al、Pd、Pt、Pb、Ta、Ni、Co、O、Se、V、Nb、Ti、O、Nからなる群から選ばれる1以上の元素が好ましい。
【0034】
反射層の膜厚は50nm以上200nm以下が好ましい。十分な反射率と放熱効果を得るためには50nm以上が好ましい。一方、膜応力を低減するためには200nm以下が好ましい。また、成膜時間を短くし製造時間を短縮しコストを削減するためにも、膜厚200nm以下が好ましい。
なお、記録層及び保護層の厚みは、上記機械的強度、信頼性の面からの制限の他に、多層構成に伴う干渉効果も考慮して、レーザー光の吸収効率が良く、記録信号の振幅すなわち記録状態と未記録状態のコントラストが大きくなるように選ばれる。
【0035】
記録層、保護層、反射層等はスパッタリング法などによって形成される。各スパッタリングターゲットを同一真空チャンバー内に設置したインライン装置で膜形成を行うことが各層間の酸化や汚染を防ぐ点で望ましい。また、生産性の面からも優れている。
これらの層のうえに、紫外線硬化樹脂などからなる保護コート層を設けて保護しても良い。また、記録容量を大容量化するために、基板上に記録層を2層以上設けてもよいし、或いは基板上に上記各層を形成したのち、接着剤で貼り合わせても良い。
【0036】
次に、本発明の光学的情報記録用媒体の好ましい記録方法について説明する。
本記録方法は、以上述べた光学的情報記録用媒体に対して、基準クロック周期を15ns以下として記録及び/又は消去を行う。
これによれば、上記光学的情報記録用媒体は相変化速度が速く、かつ再生信号のジッタ特性に優れるので、基準クロック周期15ns(ナノ秒)以下の高線速で、再生信号のジッタに優れた記録消去が可能となる。
【0037】
通常、ディスク状の媒体には螺旋状又は同心円状に記録トラックが形成され、これに沿って情報の記録が行われる。媒体を高速で回転させながら光照射部から出射した光ビーム(レーザー)スポットを記録層に照射し、光照射部と媒体とを高速で相対移動させながら記録・再生・消去を行う。
光源から出射した光は、通常各種光学系を経て対物レンズを通って媒体に照射される。光照射部を媒体に対して相対移動させるとは、例えば対物レンズをほぼ固定した状態でディスク状の媒体を回転させながら、該レンズから媒体の記録トラックに光を照射する。記録トラックが媒体に螺旋状に形成されている場合は、媒体を回転させながら対物レンズをディスク半径方向に少しずつ変移させる。
【0038】
まず、アモルファス相を形成する際には高パワーのレーザーパルスと低パワーのレーザーパルスを交互に照射するのが好ましい。以下、高パワーのレーザーパルスを記録パルスと称し、このとき印加されるパワーを記録パワーPwとする。また低パワーのレーザーパルスをオフパルスと称し、このとき印加されるパワーをバイアスパワーPbとする。
【0039】
これによれば、記録パルスにより加熱された領域をオフパルスの間に相対的に急冷することができ、アモルファス相が形成されやすい。パルスの立上がり/立下がりを速くしたり、記録に用いるレーザー光源を安価なものとするためには、小さい記録パワーPwで記録できるのが好ましいが、小さいパワーで記録可能であるということは再生光で劣化しやすいことにつながる。このため、媒体は記録パワーPwが8〜25mWになるように設計するのが好ましい。より好ましくは8〜20mWである。
【0040】
なお、バイアスパワーPbは記録パワーPwの0.5倍以下(Pb/Pw≦0.5)が好ましく、より好ましくは0.3倍以下(Pb/Pw≦0.3)である。ここで、トラッキング性能等を考慮すると、バイアスパワーPbは、再生時に照射する再生光のパワーPrの値に近い値が好ましい。再生パワーPrは通常0.5〜1.0mWである。
【0041】
冷却速度を速めたい場合には、バイアスパワーPbを小さくするのがよく、0としてもよい。即ち光を照射しなくてもよい。
結晶相形成時には、記録層に消去パワーPeのレーザー光を連続照射するのが好ましい。消去パワーPeは、オーバーライトの際に結晶相を消去できるよう記録層を加熱できる大きさであれば特に制限はないが、通常、バイアスパワーPbより大きく記録パワーPwより小さい。例えば0.2≦Pe/Pw<1.0とする。消去パワーPeの大きさは、記録パワーPwの照射により溶融した部分の再結晶化領域にも関係する。
【0042】
消去パワーPeが連続照射されると、記録層は結晶化温度付近まで加熱されるとともに、加熱された領域を相対的に徐冷することができ、結晶相を形成できる。
以上を組み合わせることで、アモルファス相と結晶相を形成し分けることができ、オーバーライト記録を行うことができる。
【0043】
アモルファス相を形成する際に記録パルスとオフパルスを交互に照射する具体例を以下に示す。長さnT(Tは基準クロック周期、nは自然数)のマーク(アモルファス相)を形成する際には、時間nTを下記式(1)のように分割する。
【0044】
【数1】
α1T、β1T、α2T、β2T、・・・、αm-1T、βm-1T、αmT、βmT・・・(1)
(但し、α1+β1+α2+β2+・・・αm-1+βm-1+αm+βm=n−j、
jは0以上の実数、mは1以上の整数であり、j、mは媒体及び記録条件の
組合せにより決められる値である。)
上記式において、αiT(1≦i≦m)なる時間に記録パルスを照射し、βiT(1≦i≦m)なる時間にはオフパルスを照射して記録する。そしてマークとマークの間の領域(結晶相)においては、消去パワーPeを有する光を照射する。これによってオーバーライト記録が行える。
【0045】
【実施例】
以下に本発明を実施例を用いて説明するが、その要旨の範囲を越えない限り本発明は実施例に限定されるものではない。
溝幅0.5μm、溝深さ40nm、溝ピッチ1.6μmの案内溝を有する直径120mm、1.2mm厚のディスク状ポリカ−ボネ−ト基板上に、(ZnS)80(SiO2)20層(100nm)、Au−Ge−Sb−Te記録層(18nm)、(ZnS)80(SiO2)20層(40nm)、Al99.5Ta0.5合金反射層(200nm)をスパッタリング法により成膜し、相変化型光ディスクを作製した。
【0046】
なお、記録層組成は表−1に示す6種類とした。またこれらの組成を((SbxTe1-x)1-yGey)1-zAuzで表記した場合のx、y、zの値も併せて表−1に記載した。
【0047】
【表1】
まず、実施例1〜2、比較例1〜4の各ディスクについて、初期結晶化を行った。
次に実施例1〜2、比較例1〜3の各ディスクについて、レ−ザ−波長780nm、NA0.5のピックアップを有するディスク評価装置を用い、以下の手順で案内溝内に記録・消去を行ったのち再生してディスク特性を評価した。
【0048】
まず、線速度24m/s、基準クロック周期T=11.6ns、Pw=17mW、Pe=8.5mW、Pb=0.8mWとして、EFMランダム信号を図1に示すレーザー波形を用いて10回、オーバーライト記録した。
図1において横軸は時間、縦軸はレーザーパワーであり、記録パワーPw、消去パワーPe、バイアスパワーPbの3種類のパワーを使用している。図1(a)は長さ3Tのマークを記録する場合のレーザー波形を表し、図1(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)はそれぞれ長さ4T、5T、6T、7T、8T、9T、10T、11Tのマークを記録する場合のレーザー波形を表す。
【0049】
すなわち、長さnT(Tは基準クロック周期で、nは3〜11の自然数)のマーク(アモルファス相)を形成する際には、時間nTの期間を上記式(1)のように分割し、記録パワーPwを持つ記録パルス、バイアスパワーPbを持つオフパルスを交互に照射し、一部消去パワーPeを照射した。マーク間部を形成する期間は消去パワーPeを持つ消去光を照射した。
【0050】
詳しくは、各マーク形成時はPwとPbのパルス列を次のように照射した(Tは基準クロック周期)。
3Tマーク:1.5TのPw、1.2TのPb
4Tマーク:1TのPw、1TのPb、1TのPw、0.6TのPb
5Tマーク:1TのPw、1.35TのPb、1.5TのPw、0.6TのPb
6Tマーク:1TのPw、1TのPb、1TのPw、1TのPb、1TのPw、
0.6TのPb
7Tマーク:1TのPw、1TのPb、1TのPw、1.35TのPb、
1.5TのPw、0.6TのPb
8Tマーク:1TのPw、1TのPb、1TのPw、1TのPb、1TのPw、
1TのPb、1TのPw、0.6TのPb
9Tマーク:1TのPw、1TのPb、1TのPw、1TのPb、1TのPw、
1.35TのPb、1.5TのPw、0.6TのPb
10Tマーク:1TのPw、1TのPb、1TのPw、1TのPb、1TのPw、
1TのPb、1TのPw、1TのPb、1TのPw、0.6TのPb
11Tマーク:1TのPw、1TのPb、1TのPw、1TのPb、1TのPw、
1TのPb、1TのPw、1.35TのPb、1.5TのPw、
0.6TのPb
以上のように記録したEFMランダム信号を、線速度2.4m/sで再生し、3Tスペースジッタ(3Tマーク間部ジッタ)を測定した。なお、マーク間部(スペース)は未記録部・消去部に対応し、マーク部は記録部に対応する。3Tスペースとは長さ3Tのマーク間部を指し、3Tスペースジッタとは記録されたEFMランダム信号を再生したときの長さ3Tのマーク間部のジッタである。
【0051】
次いで、Pe/Pw=0.5としてPwを18〜24mWの間で変化させた以外は同条件で、10回オーバーライト記録と3Tスペースジッタの測定を繰り返した。
結果をグラフにしたものを図2に示す。図2において横軸は記録パワーPw(mW)、縦軸は3Tスペースジッタ(ns)である。
【0052】
比較例1〜3のディスクはいずれもAuを含まないが、最も低いジッタを示したものは比較例2のディスクであり、ジッタボトム値(記録パワーを変化させた中でのジッタの最低値)は20.8nsであった。
3種類の中では、比較例1は最もSb量が少なくTe量が多く、比較例3は最もSb量が多くTe量が少なく、比較例2は中間である。Sb量が多くTe量が少ないほど結晶化速度は速くなるため、比較例2のディスクの結晶化速度は比較例1のディスクと比較例3のディスクの間である。
【0053】
結晶化速度が比較的遅い比較例1のディスクはジッタボトム値が25.7nsであった。結晶化速度がより速い比較例2のディスクはジッタボトム値が20.8nsと改善されたが、結晶化速度が最も速い比較例3のディスクはジッタボトム値が22.7nsと、却って悪化してしまった。これはSbとTeの含有量を変えることによって結晶化速度を変化させるだけでは、これ以上良いジッタを得ることは困難であることを示している。
【0054】
比較例1〜3のディスクでは、Sb量が多くTe量が少なくなるにつれて、オシロスコープで観察したときの結晶反射率レベルを示す線が、幅を持って太くなる現象が顕著になった。即ち比較例3が最も反射率レベルを示す線が太かった。おそらく、比較例1では結晶化速度が遅すぎてジッタが悪く、比較例3では結晶化速度は速くなったもののジッタに悪影響を及ぼす新たな結晶相の影響が強くなりジッタが悪化したと思われる。
【0055】
一方、実施例1、2のディスクでは、Auの含まれない比較例1〜3のディスクに比べて良好なジッタが得られた。実施例1、2のジッタボトム値はそれぞれ16.5ns、14.2nsであった。すなわち実施例1、2ではCD−RWの規格(オレンジブックパート3)で定められた17.5ns以下(線速2.4m/sにおいて)のジッタが得られた。また、結晶反射率レベルを示す線が太くなる現象も軽減された。
【0056】
次に、実施例1、2、比較例1、4のディスクに、前記と同条件でEFMランダム信号を1回記録した。そののち記録したEFMランダム信号を線速度2.4m/sで再生し、3Tスペースジッタ(3Tマーク間部ジッタ)を測定した。
さらにこれらディスクを80℃、85%RHの環境に500時間保ち(加速試験、耐環境試験)、記録しておいたEFMランダム信号を線速度2.4m/sで再生し、3Tスペースジッタ(3Tマーク間部ジッタ)を測定した。
【0057】
その結果、実施例1,2、比較例1のディスクでは加速試験後の記録信号の消失はなく、ジッタボトム値の変化は実施例1で0ns、実施例2で6ns、比較例1で0nsであった。これに対し、比較例4では記録マークがほぼ完全に結晶化し消えてしまい測定不可能であった。
更に、従来より光ディスクの記録材料として使用されているInSbTe系記録層について評価を行った。前記の線速度24m/sという高線速記録に適した高結晶化速度を有する組成になるように記録層のSb/Te含有量比を調整し、In6Sb78Te17、In8Sb76Te16、In10Sb74Te16の3種類の記録層をもつ光ディスクを作製した。これらディスクに前記と同条件でEFMランダム信号を1回記録した。続いて前記の80℃、85%RHに500時間保ったところ、アモルファスマークが結晶化しマークが消失してしまった。この現象はIn量には関係がなかった。なお、In量が増えると前記の結晶反射率レベルを示す線が太くなる現象が顕著になり、ジッタが悪化した。
【0058】
【発明の効果】
本発明の光学的情報記録用媒体を用いることにより、15ns以下の基準クロック周期での記録に対応できるような高結晶化速度、優れた記録信号ジッタ特性、及び優れた保存安定性を有する光学的情報記録用媒体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本実施例におけるパルス分割方法の概略図
【図2】 本実施例における記録パワーと3Tスペースジッタの関係を示すグラフ
Claims (5)
- 基板上に少なくとも相変化型記録層を設けた光学的情報記録用媒体であって、該相変化型記録層が((SbxTe1-x)1-yGey)1-zAuz(ただし0.70≦x≦0.95、0.01≦y≦0.10、0.01≦z≦0.12)で表される組成を主成分とする合金からなることを特徴とする光学的情報記録用媒体。
- 0.03≦zである、請求項1に記載の光学的情報記録用媒体。
- z≦0.10である、請求項1又は2に記載の光学的情報記録用媒体。
- 記録時の基準クロック周期を15ns以下として請求項1乃至3のいずれかに記載の光学的情報記録用媒体に記録を行うことを特徴とする記録消去方法。
- 基準クロック周期が15ns以下で記録消去が可能な請求項1乃至3のいずれかに記載の光学的情報記録用媒体。
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