JP4218305B2 - ポリマーフィルムの製造方法及び位相差フィルム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はポリマーフィルムの製造方法及び位相差フィルムに関する。特にテンター延伸時の破断や表面欠点がなく、耳切り不良もなく、適度なレタデーション特性が付与された視野角拡大効果を有するポリマーフィルムの製造方法及び位相差フィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】
液晶表示装置は、CRTに比べ省スペースであること、消費電力が低いこと等の特徴があり、モニター等に広く使用されている。特にデスクトップ型モニターでは、画面が大きく広い視野角が得られることが要求されている。
【0003】
視野角を拡大するには、位相差フィルムを偏光板と液晶セルの間に配置すればよく、例えば、面内レタデーションが20〜200nm、厚み方向レタデーションが70〜400nmのポリマーフィルムを用いることで視野角が改善されるとしている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
このようなレタデーションを有するポリマーフィルムは、テンターと呼ばれる延伸機を用いて、フィルムの両端をクリップやピン等の把持手段で把持しつつ幅方向または長手方向と幅方向同時に延伸して、延伸方向に分子配向させることで製造されるが、テンター延伸機を用いて延伸する場合、下記の問題があった。
(1)フィルムの把持部分に応力が集中するため、破断が起こりやすい。
(2)フィルム表面に揮発した添加剤等の析出物が付着し品質欠陥が発生する。
(3)テンター出口で把持部のフィルム変形が大きく、スリット(耳切り)ができなくなる。
【0005】
破断を防止するには、延伸応力を小さくすることが有効であると考えられる。ところで、位相差フィルム等光学用として用いられるポリマーフィルムは、厚みむらや表面の凹凸等が十分小さく、平面性に優れていることが必要であり、通常、溶液流延製膜法により製膜される。フィルム中の溶媒を完全に乾燥させてからではなく、ある程度、残留した状態で延伸をすることにより延伸応力を低減することが可能であるが、この方法では把持部近傍のフィルムも柔らかくなってしまい、かえって破断が多くなってしまう場合があった。これに対しては、把持部分のフィルム中の揮発分含有率を中央部分のフィルム中の揮発分含有率より小さくすることで破断を起こりにくくする方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
ところが、フィルムの端部の残留溶媒量を少なくすると、フィルム端部のカールが大きくなりフィルムを把持具に挿入するのが難しくなるという問題があった。また、先に挙げた問題点の(2)、(3)については未だ改良されていないのが現状である。
【0007】
【特許文献1】
特開2002−22943号公報
【0008】
【特許文献2】
特開2002−127245号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、テンター延伸時の破断や表面欠点がなく、耳切り不良もなく、適度なレタデーション特性が付与された視野角拡大効果を有するポリマーフィルムの製造方法及び位相差フィルムを提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、これまで着目されてこなかった、テンターの把持具の温度に着目し鋭意検討を行った結果、把持具がフィルムを把持する際の温度と破断頻度、品質欠陥、テンター出口でのフィルム変形との間に密接な関係があることを見出し、本発明に達したものである。
【0011】
本発明は、下記の構成により達成される。
1.ポリマーと有機溶媒とを含むドープを支持体上に流延し、該有機溶媒を蒸発させ、流延膜を該支持体から剥離した後、該流延膜の両端部を把持具で把持しながら横方向に延伸するポリマーフィルムの製造方法において、該把持具の温度をあらかじめ該有機溶媒の沸点以上でかつ延伸温度未満に調整して該流延膜を把持することを特徴とするポリマーフィルムの製造方法。(但し、前記有機溶媒の沸点は、複数の有機溶媒が混合された溶媒である場合は、最も混合割合の多い有機溶媒の沸点である。)
【0012】
2.延伸温度が70〜160℃、延伸倍率が1.05〜2.00倍、把持具で把持する際の流延膜中の残留溶媒量が10〜50質量%であることを特徴とする前記1記載のポリマーフィルムの製造方法。
【0013】
3.ドープが、ドープの15〜35質量%のポリマー、有機溶媒の1〜40質量%の炭素数1〜4のアルコール及びポリマーの1〜30質量%の可塑剤を含有することを特徴とする前記1または2記載のポリマーフィルムの製造方法。
【0014】
4.酢酸メチルが有機溶媒の50質量%以上であることを特徴とする前記3記載のポリマーフィルムの製造方法。
【0015】
5.ポリマーが、炭素数2〜3のアシル基の置換度が2.4〜3.0のセルロースエステルであることを特徴とする前記1〜4のいずれか1項記載のポリマーフィルムの製造方法。
【0016】
6.冷風または温風を吹き付けることにより把持具の温度を調整することを特徴とする前記1〜5のいずれか1項記載のポリマーフィルムの製造方法。
【0018】
以下に、本発明を詳述する。
本発明において、ポリマーを有機溶媒に溶解した溶液のことをドープという。
【0019】
先ず、本発明に係わる溶液流延製膜法によるポリマーフィルムの製膜方法について説明する。
【0020】
(1)溶解工程:ポリマーに対する良溶媒を主とする有機溶媒に溶解釜中で攪拌しながらポリマーを溶解し、ドープを形成する工程である。溶解には、常圧で行う方法、主溶媒の沸点以下で行う方法、主溶媒の沸点以上で加圧して行う方法、冷却溶解法で行う方法、高圧で行う方法等種々の溶解方法がある。溶解後ドープを濾材で濾過し、脱泡してポンプで次工程に送る。
【0021】
ドープ中には、可塑剤、酸化防止剤、染料等も添加されることがある。これらの化合物は、溶液の調製の際に、ポリマーや溶媒と共に添加してもよいし、溶液調製中や調製後に添加してもよい。液晶画面表示装置用には、耐熱耐湿性を付与する可塑剤、酸化防止剤や紫外線防止剤等を添加することが好ましい。
【0022】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。これらの化合物の添加量は、セルロースエステルに対して質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmが更に好ましい。
【0023】
紫外線吸収剤としては、偏光子や液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、かつ、液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等が挙げられる。特に好ましい紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物である。中でも、ベンゾトリアゾール系化合物は、セルロースエステルに対する不要な着色が少ないことから好ましい。紫外線吸収剤の添加量は0.01〜5質量%、特に0.5〜3質量%が好ましい。
【0024】
また、この他、カオリン、タルク、ケイソウ土、石英、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ等の無機微粒子、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の塩等の熱安定剤を加えてもよい。更に帯電防止剤、難燃剤、滑剤、油剤等も加える場合がある。
【0025】
(2)流延工程:ドープを加圧型定量ギヤポンプを通して加圧ダイに送液し、流延位置において、無限に移送する無端の金属ベルトあるいは回転する金属ドラムの流延用支持体(以降、単に支持体ということもある)上に加圧ダイからドープを流延する工程である。流延用支持体の表面は鏡面となっている。その他の流延方法としては、流延されたドープ膜をブレードで膜厚を調節するドクターブレード法、あるいは逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、口金部分のスリット形状を調製でき、膜厚を均一にしやすい加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があるが、何れも好ましく用いられる。製膜速度を上げるために加圧ダイを流延用支持体上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層してもよい。また、共流延により各層異なる組成の積層構成としてもよい。
【0026】
(3)溶媒蒸発工程:ウェブ(流延用支持体上にドープを流延した以降の流延膜の呼び方をウェブとする)を流延用支持体上で加熱し、支持体からウェブが剥離可能になるまで溶媒を蒸発させる工程である。溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法及び/または支持体の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があるが、裏面液体伝熱の方法が乾燥効率がよく好ましい。またそれらを組み合わせる方法も好ましい。
【0027】
(4)剥離工程:支持体上で溶媒が蒸発したウェブを、剥離位置で剥離する工程である。剥離されたウェブは次工程に送られる。剥離する時点でのウェブの残留溶媒量があまり大き過ぎると剥離しにくかったり、逆に支持体上で充分に乾燥させてから剥離すると、途中でウェブの一部が剥がれたりする。
【0028】
製膜速度を上げる方法として、残留溶媒が多く(残留溶媒量が多いうちに剥離するため製膜速度を上げることができる)とも剥離できるゲル流延法(ゲルキャスティング)がある。それは、ドープ中にポリマーに対する貧溶媒を加えて、ドープ流延後、ゲル化する方法、支持体の温度を低めてゲル化する方法等がある。また、ドープ中に金属塩を加える方法もある。支持体上でゲル化させ膜を強くすることによって、剥離を早め製膜速度を上げることができる。残留溶媒量がより多い時点で剥離する場合、ウェブが柔らか過ぎると剥離時平面性を損なったり、剥離張力によるツレや縦スジが発生しやすく、経済速度と品質との兼ね合いで剥離残留溶媒量を決められる。
【0029】
(5)乾燥工程:ウェブを千鳥状に配置したロールに交互に通して搬送する乾燥装置及び/またはクリップでウェブの両端をクリップして搬送するテンター装置を用いてウェブを乾燥する工程である。乾燥の手段はウェブの両面に熱風を吹かせるのが一般的であるが、風の代わりにマイクロウエーブを当てて加熱する手段もある。あまり急激な乾燥は、でき上がりのフィルムの平面性を損ねやすい。高温による乾燥は残留溶媒が8質量%以下位から行うのがよい。全体を通して、通常、乾燥温度は40〜250℃で、70〜180℃が好ましい。使用する溶媒によって、乾燥温度、乾燥風量及び乾燥時間が異なり、使用溶媒の種類、組合せに応じて乾燥条件を適宜選べばよい。
【0030】
流延用支持体面から剥離した後の乾燥工程では、溶媒の蒸発によってウェブは幅方向に収縮しようとする。高温度で急激に乾燥するほど収縮が大きくなる。この収縮を可能な限り抑制しながら乾燥することが、でき上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましい。この観点から、例えば、特開昭62−46625号公報に示されているような乾燥全工程あるいは一部の工程を幅方向にクリップでウェブの幅両端を幅保持しつつ乾燥させる方法(テンター方式)が好ましい。
【0031】
(6)巻き取り工程:ウェブを残留溶媒量が2質量%以下となってからフィルムとして巻き取る工程である。残留溶媒量を0.4質量%以下にすることにより寸法安定性の良好なフィルムを得ることができる。巻き取り方法は、一般に使用されているものを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等があり、それらを使い分ければよい。
【0032】
残留溶媒量は下記の式で表せる。
残留溶媒量(質量%)=(M−N)/N×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、NはMを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。
【0033】
ポリマーフィルムの膜厚は、使用目的によって異なるが、仕上がりフィルムとして、通常20〜200μmの範囲が好ましく、更に30〜120μmの範囲が好ましく、特に35〜100μmの範囲が好ましい。薄過ぎるとフィルムの腰が弱くハンドリング性に劣る場合がある。厚過ぎると表示装置が厚くなり、例えば、携帯性が損なわれる場合がある。膜厚の調節には、所望の厚さになるように、ドープ濃度、ポンプの送液量、ダイの口金のスリット間隙、ダイの押し出し圧力、流延用支持体の速度等をコントロールするのがよい。また、膜厚を均一にする手段として、膜厚検出手段を用いて、プログラムされたフィードバック情報を上記各装置にフィードバックさせて調節するのが好ましい。
【0034】
溶液流延製膜法を通しての流延直後からの乾燥までの工程において、乾燥装置内の雰囲気を空気とするのもよいが、窒素ガスや炭酸ガス等の不活性ガス雰囲気で行ってもよい。ただ、乾燥雰囲気中の蒸発溶媒の爆発限界の危険性は常に考慮しなければならないことはもちろんのことである。
【0035】
本発明で使用するポリマーは、溶液流延製膜に使用できるものであれば、特に制限はなく、例えば、セルロースエステル、ポリオレフィン、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0036】
本発明のポリマーフィルムを位相差フィルムとして用いる場合、面内レタデーションが20〜70nmと比較的小さい場合には、光弾性係数の小さいポリマーを用いることが、熱歪みによる位相差ムラを抑制できるので好ましく、セルロースエステルやポリオレフィン等が好ましく用いられる。特にセルロースエステルが好ましい。
【0037】
セルロースエステルとしては、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、またはセルロースアセテートプロピオネートブチレート等が挙げられる。
【0038】
中でも本発明のセルロースエステルは、炭素数2〜4のアシル基の置換度が2.4〜3.0であることが好ましく、更に2.6〜2.9であることが好ましい。炭素数2〜3のアシル基の置換度がこの範囲にあることにより適切なレタデーション特性が得られる。置換度が低過ぎると、位相差フィルムとしての耐湿熱性に劣る場合があり、置換度が大き過ぎると波長分散特性が負の特性となったり、十分なレタデーションが得られなくなる場合がある。
【0039】
本発明に用いられるセルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフ等を挙げることができる。またそれらから得られたセルロースエステルはそれぞれ任意の割合で混合使用することができる。
【0040】
本発明に用いられるセルロースエステルは、セルロース原料のアシル化剤が酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)である場合には、酢酸のような有機酸やメチレンクロライド等の有機溶媒を用い、硫酸のようなプロトン性触媒を用いて反応される。アシル化剤が酸クロライド(CH3COCl、C2H5COCl、C3H7COCl)の場合には、触媒としてアミンのような塩基性化合物を用いて反応が行われる。具体的には、特開平10−45804号公報に記載の方法で合成することができる。セルロースエステルはアシル基がセルロース分子の水酸基に反応する。セルロース分子はグルコースユニットが多数連結したものからなっており、グルコースユニットに3個の水酸基がある。この3個の水酸基にアシル基が誘導された数を置換度という。例えば、セルローストリアセテートはグルコースユニットの3個の水酸基全てがアセチル基が結合している。
【0041】
アシル基の置換度の測定方法はASTM−D817−96に準じて測定することができる。
【0042】
本発明に用いられるセルロースエステルの数平均分子量は、60000〜300000の範囲が、得られるフィルムの機械的強度が高く好ましい。更に70000〜250000が好ましい。
【0043】
本発明に用いられる有機溶媒は、ポリマーの溶解性に優れ、乾燥負荷が少ない等溶液流延製膜法に適したものであれば制限はなく、例えば、塩素系有機溶媒としては、塩化メチレン(沸点39.8℃)が挙げられる。非塩素系有機溶媒としては、酢酸メチル(沸点56.9℃)、酢酸エチル(沸点77.1℃)、アセトン(沸点56.1℃)、テトラヒドロフラン(沸点66℃)、1,3−ジオキソラン(沸点74℃)、1,4−ジオキサン(沸点101.1℃)、シクロヘキサノン(沸点155.6℃)、ギ酸エチル(沸点53℃)、2,2,2−トリフルオロエタノール(沸点73.6℃)、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール(沸点109℃)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール(沸点60℃)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(沸点58℃)、ニトロエタン(沸点101.2℃)等を挙げることができる。ポリマーがセルロースエステルの場合では、特に塩化メチレン、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトンを好ましく使用し得る。特に酢酸メチルを有機溶剤中に50質量%以上含有させることにより、支持体から剥離したウェブの強度が高くなり延伸時の破断頻度が減少できるので好ましい。
【0044】
本発明に用いられるポリマー溶液には、上記有機溶媒の他に、1〜40質量%の炭素原子数1〜4のアルコールを含有させることが好ましい。ドープを流延用支持体に流延後、溶媒が蒸発をし始めアルコールの比率が多くなるとウェブ(流延膜)がゲル化し、ウェブを丈夫にでき、テンターで延伸する場合の破断を防止するのに有効である。炭素原子数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノールを挙げることができる。これらのうちドープの安定性がよく、沸点も比較的低く、乾燥性も良く、且つ毒性がないこと等からエタノールが最も好ましい。
【0045】
ドープ中のポリマー濃度は15〜35質量%、ドープ粘度は10〜70Pa・sの範囲に調製されることが良好なフィルム面品質を得る上で好ましい。
【0046】
ドープに可塑剤を配合することにより、フィルムの脆弱性が改善されて強靱性が向上されるので、テンターで延伸した際の破断を防止するのに有効であり好ましい。可塑剤としては、従来公知のポリマーとの相溶性がある化合物から適宜選択できる。ポリマーがセルロースエステルの場合は、特にリン酸エステルやカルボン酸エステルが好ましく用いられる。リン酸エステルとしては、例えばトリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、フェニルジフェニルホスフェート等を挙げることができる。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステル及びクエン酸エステル等、フタル酸エステルとしては、例えばジメチルフタレート、ジエチルホスフェート、ジオクチルフタレート及びジエチルヘキシルフタレート等、またクエン酸エステルとしてはクエン酸アセチルトリエチル及びクエン酸アセチルトリブチルを挙げることができる。またその他、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバチン酸ジブチル、トリアセチン等も挙げられる。アルキルフタリルアルキルグリコレートもこの目的で好ましく用いられる。アルキルフタリルアルキルグリコレートのアルキルは炭素原子数1〜8のアルキル基である。アルキルフタリルアルキルグリコレートとしてはメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、プロピルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等を挙げることができ、中でもメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレートが好ましく、特にエチルフタリルエチルグリコレートが好ましく用いられる。また、これらアルキルフタリルアルキルグリコレートを2種以上混合して使用してもよい。
【0047】
これらの化合物の添加量は、目的の効果の発現及びフィルムからのブリードアウト抑制等の観点から、ポリマーに対して1〜30質量%が好ましい。
【0048】
これらの化合物は、溶液の調製の際に、ポリマーや溶媒と共に添加してもよいし、溶液調製中や調製後に添加してもよい。
【0049】
本発明では、流延用支持体上にドープを流延してウェブとし、支持体上の剥離位置における温度を10〜40℃、好ましくは15〜30℃とし、且つ剥離位置におけるウェブの残留溶媒量を10〜120質量%とした時点でウェブを剥離することが好ましい。ウェブの剥離時の残留溶媒量をこの範囲にするには、流延後の流延用支持体の表面温度を制御し、ウェブからの有機溶媒の蒸発を効率的に行えるように上記温度範囲にする方法が好ましく用いることができる。支持体温度を制御するには、伝熱効率のよい伝熱方法を使用するのがよい。例えば、液体による裏面伝熱方法が好ましい。ベルト(支持体)マシンにおいて、移送するベルトが下側に来た所の温度制御には、緩やかな風でベルト温度を調節することができる。支持体の温度は、加熱手段を分割することによって、部分的に支持体温度を変えることができ、流延用支持体の流延位置、乾燥部、剥離位置等異なる温度とすることができる。
【0050】
本発明のポリマーフィルムの製造方法では、レタデーションを付与するために支持体から剥離したウェブを、ウェブ中の残留溶媒量が10〜50質量%の範囲にある間に、ウェブの幅方向(ウェブの搬送方向に対しウェブ面内の直角方向)に1.05〜2.00倍延伸することが好ましい。ウェブ中の残留溶媒量が多過ぎると延伸の効果が得られず、また、少な過ぎると延伸が著しく困難となり、ウェブの破断が発生してしまう場合がある。また、延伸倍率が小さ過ぎると十分なレタデーション特性が得られず、大き過ぎると延伸が困難となり破断が発生してしまう場合がある。延伸倍率の更に好ましい範囲は1.1〜1.5倍である。延伸温度は、高過ぎると可塑剤が揮散し、低過ぎると延伸応力が大きくなり過ぎて破断しやすくなるので、70〜160℃の範囲が好ましい。なお、適度なレタデーション特性を得るために延伸終了時点での残留溶媒量も10〜50質量%の範囲にあることが好ましく、更に10〜30質量%の範囲にあることが好ましい。
【0051】
フィルムの屈折率nx、ny、nz(それぞれ縦方向、横方向、厚み方向の屈折率を示す)のコントロールは、上記横延伸条件の他に、ウェブを縦方向に延伸または収縮させることによってコントロールすることができる。縦方向の延伸倍率は、0.8〜1.1倍の範囲である。ウェブを延伸する方法はテンターと呼ばれる横延伸機を好ましく用いることができる。つまりウェブの両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を横方向に広げて横方向に延伸する方法である。縦方向に延伸または収縮させるには、同時2軸延伸機を用いて搬送方向(縦方向)にクリップやピンの搬送方向の間隔を広げたり、または縮めることで行うことができる。リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動すると滑らかに延伸を行うことができ、破断等の危険性が減少できるので好ましい。
【0052】
また、縦方向に延伸する方法としては、複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用して縦方向に延伸する方法も用いることができる。
【0053】
本発明では特に横延伸する方法に特徴がある。つまり、支持体から剥離したウェブ(ドープ膜)の両端部を把持具で把持するに際して、把持具の温度をあらかじめ用いる有機溶媒の沸点以上、延伸温度未満に調整してフィルムを把持する点に特徴がある。なお、有機溶媒が複数の溶媒からなる混合溶媒の場合の沸点とは、最も混合割合の多い主たる有機溶媒の沸点を指す。
【0054】
図1の例を用いて説明する。支持体から剥離されたウェブ1はテンターの把持開始点2で把持具3によってウェブの両端部を把持される。必要により予熱ゾーン4で予熱され、延伸ゾーン5で横方向に延伸される。次いで必要に応じ保持・緩和ゾーン6を通過し、冷却ゾーン7で冷却され、把持終了点8で把持具から解放される。幅方向の幅を狭める緩和操作は必要により保持・緩和ゾーン6及び/または冷却ゾーン7で行うことができる。各ゾーン間には温度制御の独立性を維持するために温度緩衝ゾーン9を設けることが好ましい。把持具は進行側レール10に沿って進み、把持開始点2から把持終了点8を経て、戻り側レール11に沿って把持開始点2に戻る。戻り側レール11の途中で把持具温度調節手段12により把持具は把持開始点2において所定の温度範囲になるように調整される。従来は、把持具を加熱・冷却する手段がなく、把持具の温度は室温付近まで自然冷却されていた。
【0055】
ウェブを把持する際の把持具の温度が用いる有機溶媒の沸点より低いと、把持部の有機溶媒の乾燥が遅くなり、ウェブ中央部に比べて柔らかくなり、破断の頻度が多くなってしまう。更に、ウェブ中の添加剤等が把持部に析出し破断や品質欠陥になる場合もある。また、把持具の温度が延伸温度以上であると、把持部はウェブと接触しているためウェブ中央部よりも伝熱速度が速くなるので、ウェブ中央部に比べ把持部のウェブ温度が高くなり、破断頻度が多くなってしまう。把持具温度の更に好ましい範囲は、用いる有機溶媒の沸点から10℃高い温度以上、延伸温度から10℃低い温度以下である。
【0056】
把持具の温度を所定の温度範囲に調整する方法は、特に限定はないが、把持部の戻り側に加熱・冷却手段を設けることが好ましい。例えば、温度調整された熱風または冷風を把持部に直接吹き付ける方法、把持部を温度調整されたゾーン中を通過させる方法等を好ましく用いることができる。図1の例では戻り側の把持具が通過する部分に熱風または冷却風を送り込む場合を示してある。なお、把持部の戻り側において、把持具の温度をウェブ中の添加剤等が析出しない温度以上に保温しておくことが好ましい。
【0057】
本発明では、横延伸を2段階で行い、かつ2段階目の延伸を1段階目の延伸温度より1〜50℃高い温度で行う方法も好ましく用いられる。延伸温度を高くする方法に特に制限はない。例えば、熱風加熱の場合は、第1段階の延伸と第2段階の延伸をそれぞれ異なる温度でコントロールされた2つに区画されたオーブン内で延伸する方法、遠赤外線やマイクロ波加熱装置等の輻射加熱の場合は、第1段階の延伸と第2段階の延伸をヒーター本数や能力を変化させて行う方法等が好ましく用いられる。第1段階と第2段階の延伸は、連続的に行ってもよいし、第1段階の延伸の後、冷却行程や幅保持工程、縦方向または幅方向の緩和工程等を通過させた後、第2段階の延伸を行ってもよい。テンター方式によりオーブン内の温度を下流に進むほど段階的に高く設定して延伸する方法が、設備がコンパクトにできるので好ましい。
【0058】
ウェブを横延伸するに際しては、延伸前はウェブのガラス転移温度以下の温度にしておき、次いで昇温しながら延伸することが好ましい。昇温速度は、10〜1000℃/分の範囲が好ましい。更に、延伸終了後は直ちに冷却することが好ましい。冷却速度は10〜1000℃/分の範囲が好ましい。
【0059】
また、延伸終了後、幅保持あるいは幅収縮させながら冷却することによりフィルムの湿熱下(例えば60℃、90%RH下)での寸法変化率を少なくすることができ好ましい。
【0060】
なお、ウェブ両端部の把持部分は通常、フィルムが変形しており製品として使用できないので切除して、原料として再利用する。
【0061】
以上のようにして得られたポリマーフィルムは、フィルムの遅相軸方向(フィルム面内での屈折率の最大方向)が、巻き取り方向に対して直角方向(フィルムの幅方向)に対して、±10度であることが好ましく、更に±5度の範囲にあることが好ましく、特に±1度の範囲にあることが好ましい。
【0062】
本発明のポリマーフィルムがVAモード、TNモード等の液晶セルを用いた液晶表示装置に用いられる位相差フィルムの場合は、前記式(1)で定義されるRoが20〜70nm、前記式(2)で定義されるRtが70〜200nmの範囲とすることにより、視野角拡大効果が得られるので好ましい。
【0063】
ポリマーフィルムのRo、Rtを上記範囲とするには、前述したようにフィルムの延伸条件を適宜コントロールすることにより達成できる。
【0064】
本発明の位相差フィルムは、偏光フィルムの少なくとも片面に張り合わせることにより楕円偏光板とすることができる。
【0065】
偏光フィルムは従来から公知のものを用いることができ、例えば、ポリビニルアルコールフィルムのごとき親水性ポリマーフィルムを、沃素のような二色性染料で処理して延伸したものである。偏光フィルムは、それ単体では、耐久性がないので、一般には、その両面に保護フィルムとしてセルローストリアセテートフィルムを接着してある。
【0066】
楕円偏光板をなすには、この保護フィルム付の偏光フィルムと貼り合わせてもよいし、保護フィルムを兼ねて直接偏光フィルムと張り合わせてもよい。張り合わせる方法は特に限定はないが、水溶性ポリマーの水溶液からなる接着剤により行うことができる。この水溶性ポリマー接着剤は完全鹸化型のポリビニルアルコール水溶液が好ましく用いられる。
【0067】
このようにして得られた楕円偏光板は、種々の表示装置に使用できる。表示装置としては、液晶表示装置、有機電解発光素子、プラズマディスプレー等があり、例えば、一枚偏光板反射型液晶表示装置の場合、その構成は、表側から、偏光板保護フィルム/偏光子/本発明の位相差フィルム/ガラス基盤/ITO透明電極/配向膜/TN型液晶/配向膜/金属電極兼反射膜/ガラス基板である。従来の場合、偏光板保護フィルム/偏光子/偏光板保護フィルム/位相差板/ガラス基盤/ITO透明電極/配向膜/TN型液晶/配向膜/金属電極兼反射膜/ガラス基板の構成となる。従来の構成では、位相差板の波長に対する位相差特性が不十分であるため着色が見られるが、本発明の位相差フィルムを用いることで着色のない良好な液晶表示装置が得られる。
【0068】
また、コレステリック液晶からなる反射型偏光素子の場合は、バックライト/コレステリック液晶層/本発明の位相差フィルム/偏光子/偏光板保護フィルムの構成で用いることができる。
【0069】
また、本発明の位相差フィルムを1/4波長板として用いた偏光板の場合、自然偏光を円偏光に変換できる円偏光板となる。これは、プラズマディスプレーや有機ELディスプレー等の前面板に設置することで反射防止フィルムや防眩フィルムとして働き、着色や視認性の劣化を防止できる。また、タッチパネルの反射防止にも使用できる。
【0070】
有機電解発光素子は有機EL素子とも呼ばれ、例えばジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライドフィジックス第25巻773項(1986年)等で紹介されているものである。その構成は、例えば、透明基盤/陽極/有機発光層/陰極、または透明基盤/陽極/正孔注入輸送層/電子注入輸送発光層/陰極、または透明基盤/陽極/正孔注入輸送層/電子注入輸送層/陰極、または透明基盤/陽極/正孔注入輸送層/有機発光層/電子注入輸送層/陰極等の順で構成されている。この構成では、外部からの光が透明基盤側から入り、陰極表面で反射した光が写ってしまい視認性が悪い。ところが、透明基盤の表面に円偏光板を設けることで、陰極表面での反射光を遮断できるので視認性に優れたディスプレイとなるのである。
【0071】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明の態様はこれに限定されない。
【0072】
実施例中の残留溶媒量、Ro、Rtの測定は以下の方法で行った。
(残留溶媒量)
残留溶媒量(質量%)=(M−N)/N×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、NはMを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。
【0073】
(Ro、Rt)
自動複屈折率計KOBRA−21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて23℃、55%RHの雰囲気下で590nmの波長において3次元屈折率測定を行い、遅相軸の横方向とのなす角度及び遅相軸方向の屈折率nx、進相軸方向の屈折率ny、厚み方向の屈折率nzを求める。面内方向のレタデーション(Ro)及び厚み方向のレタデーション(Rt)を下記式から算出した。なお、式中、dはフィルムの厚み(nm)である。
【0074】
Ro=(nx−ny)×d
Rt=((nx+ny)/2−nz)×d
実施例1
アセチル基の置換度1.95、プロピオニル基の置換度0.7、数平均分子量75000のセルロースアセテートプロピオネート100質量部、トリフェニルフォスフェイト10質量部、エチルフタリルエチルグリコレート2質量部、酢酸メチル(沸点56.9℃)300質量部、エタノール90質量部を加圧密閉容器に投入し、80℃に加温して容器内圧力を200kPaとし、撹拌しながらセルロースエステルを完全に溶解させドープを得た。溶液を安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過した後、ドープを50℃まで下げて一晩静置して、脱泡操作を施した。
【0075】
上記ドープを、ダイからステンレスベルト上に流延した。ステンレスベルトの裏面から温水を接触させて55℃に温度制御されたステンレスベルト上で1分間乾燥した後、更にステンレスベルトの裏面に、15℃の冷水を接触させて10秒間保持した後、ステンレスベルトから生乾きのフィルムを剥離した。剥離時のフィルム中の残留溶媒量は70質量%であった。
【0076】
次いで剥離したフィルムを、70℃で1分間搬送しながら乾燥させた後、両端をクリップで把持させテンターに導入し横延伸を行った。この際、テンターの温度条件は、予熱ゾーン90℃、延伸ゾーン130℃、保持・緩和ゾーン120℃、冷却ゾーン30℃に設定した。延伸倍率は1.4倍とした。緩和は、保持・緩和ゾーンから冷却ゾーンに渡って緩和率2%とした。また、把持開始点での把持具の温度が70℃となるように戻り側レール部で把持具に熱風を吹き付けた。フィルム中の残留溶媒量は、把持開始点で約40質量%、延伸ゾーンの出口で約30質量%、冷却ゾーン出口で約10質量%であった。
【0077】
次いでロール搬送させながら110℃で20分間乾燥し、膜厚80μmのセルロースエステルフィルムを得た。得られたフィルムの残留溶媒量は0.2質量%、Roは50nm、Rtは130nm、フィルム表面に欠陥等なく光学用フィルムとして使用に耐えるものであった。また、テンターへの導入も安定しており、破断も発生することなく、テンター出口での耳切り性も特に問題なく生産安定性も良好であった。
【0078】
比較例1
実施例1で把持開始点での把持具の温度を30℃とした以外は同様にして行ったところフィルム把持部から裂ける破断が頻発した。
【0079】
比較例2
実施例1で把持開始点での把持具の温度を140℃とした以外は同様にして行ったところフィルム把持部から裂ける破断が頻発した。
【0080】
実施例2
実施例1で把持開始点での把持具の温度を115℃とした以外は同様にして行ったところテンターへの導入も安定しており、破断も発生することなく、テンター出口での耳切り性も特に問題なく生産安定性も良好であった。
【0081】
実施例3
アセチル基の置換度1.95、プロピオニル基の置換度0.7、数平均分子量75000のセルロースアセテートプロピオネート100質量部、トリフェニルフォスフェイト10質量部、エチルフタリルエチルグリコレート2質量部、塩化メチレン(沸点39.8℃)328質量部、エタノール62質量部を加圧密閉容器に投入し、60℃に加温して容器内圧力を200kPaとし、撹拌しながらセルロースエステルを完全に溶解させドープを得た。溶液を安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過した後、ドープを35℃まで下げて一晩静置して、脱泡操作を施した。
【0082】
上記のドープを、ダイからステンレスベルト上に流延した。ステンレスベルトの裏面から温水を接触させて30℃に温度制御されたステンレスベルト上で1分間乾燥した後、更にステンレスベルトの裏面に、15℃の冷水を接触させて10秒間保持した後、ステンレスベルトから生乾きのフィルムを剥離した。剥離時のフィルム中の残留溶媒量は100質量%であった。
【0083】
次いで剥離したフィルムを、40℃で30秒間搬送しながら乾燥させた後、両端をクリップで把持させテンターに導入し横延伸を行った。この際、テンターの温度条件は、予熱ゾーン50℃、延伸ゾーン110℃、保持・緩和ゾーン130℃、冷却ゾーン50℃に設定した。延伸倍率は1.3倍とした。緩和は、保持・緩和ゾーンから冷却ゾーンに渡って緩和率1%とした。また、把持開始点での把持具の温度が70℃となるように戻り側レール部で把持具に熱風を吹き付けた。
【0084】
フィルム中の残留溶媒量は、把持開始点で約50質量%、延伸ゾーンの出口で約30質量%、冷却ゾーン出口で約8質量%であった。
【0085】
次いでロール搬送させながら110℃で20分間乾燥し、膜厚80μmのセルロースエステルフィルムを得た。得られたフィルムの残留溶媒量は0.2質量%、Roは40nm、Rtは130nm、フィルム表面に欠陥等なく光学用フィルムとして使用に耐えるものであった。また、テンターへの導入も安定しており、破断も発生することなく、テンター出口での耳切り性も特に問題なく生産安定性も良好であった。
【0086】
実施例4
実施例3で延伸倍率を1.4倍にした以外は同様にして行ったところ破断の発生はなかったが、フィルム把持部の一部に裂けが観察され、生産安定性が実施例1に比べやや劣っていた。
【0087】
実施例5
アセチル基の置換度2.89、数平均分子量150000のセルロースアセテート100質量部、トリフェニルフォスフェイト8質量部、ビフェニルジフェニルホスフェート4質量部、下記のレタデーション上昇剤7.8質量部、塩化メチレン300質量部、メタノール54質量部、1−ブタノール11質量部を加圧密閉容器に投入し、60℃に加温して容器内圧力を200kPaとし、撹拌しながらセルロースエステルを完全に溶解させドープを得た。溶液を安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過した後、ドープを35℃まで下げて一晩静置して、脱泡操作を施した。
【0088】
上記のドープを、ダイからステンレスベルト上に流延した。ステンレスベルトの裏面から温水を接触させて20℃に温度制御されたステンレスベルト上で45秒間乾燥した後、更にステンレスベルトの裏面に、10℃の冷水を接触させて10秒間保持した後、ステンレスベルトから生乾きのフィルムを剥離した。剥離時のフィルム中の残留溶媒量は100質量%であった。
【0089】
次いで剥離したフィルムを、40℃で15秒間搬送しながら乾燥させた後、両端をクリップで把持させテンターに導入し横延伸を行った。この際、テンターの温度条件は、予熱ゾーン50℃、延伸ゾーン100℃、保持・緩和ゾーン130℃、冷却ゾーン30℃に設定した。延伸倍率は1.15倍とした。緩和は、保持・緩和ゾーンから冷却ゾーンに渡って緩和率1%とした。また、把持開始点での把持具の温度が70℃となるように戻り側レール部で把持具に熱風を吹き付けた。フィルム中の残留溶媒量は、把持開始点で約50質量%、延伸ゾーンの出口で約25質量%、冷却ゾーン出口で約5質量%であった。
【0090】
次いでロール搬送させながら110℃で20分間乾燥し、膜厚40μmのセルロースエステルフィルムを得た。得られたフィルムの残留溶媒量は0.1質量%、Roは20nm、Rtは110nm、フィルム表面に欠陥等なく光学用フィルムとして使用に耐えるものであった。また、テンターへの導入も安定しており、破断も発生することなく、テンター出口での耳切り性も特に問題なく生産安定性も良好であった。
【0091】
【化1】
【0092】
実施例6
厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを沃素1質量部、ホウ酸4質量部を含む水溶液100質量部に浸漬し、50℃で4倍に延伸して偏光フィルムを作った。この偏光フィルムの片面に鹸化処理した80μmのセルローストリアセテートフィルム(コニカタック、コニカ(株)製)を完全鹸化型ポリビニルアルコール5%水溶液を接着剤として用いて貼り合わせた。
【0093】
同様にして保護フィルムのない面に、実施例1で得られたセルロースエステルフィルムを貼り合わせて偏光板を作製した。なお、セルロースエステルフィルムの遅相軸と偏光フィルムの透過軸とのなす角度は、平行になるように貼り合わせた。
【0094】
TNモード液晶セルを使用した液晶表示装置(6E−A3、シャープ(株)製)に設けられている一対の偏光板を剥がし、代わりに上記偏光板を、実施例1で作製したセルロースエステルフィルムが液晶セル側となるように粘着剤で貼り合わせた。一対の偏光板の透過軸は直交するように配置した。左右の視野角(コントラスト比10以上の範囲)は約80度であり十分な視野角が得られた。
【0095】
実施例7
実施例1で得られたセルロースエステルフィルムの代わりに、実施例3で得られたセルロースエステルフィルムを使用した以外は実施例6と同様にして偏光板を作製した。
【0096】
VAモード液晶セルを使用した液晶表示装置(VL−1530S、富士通(株)製)に設けられている表側の偏光板及び位相差フィルムを剥がし、代わりに上記偏光板を、実施例3で作製したセルロースエステルフィルムが液晶セル側で、かつ偏光板の透過軸が上下方向となるように粘着剤で貼り合わせた。左右上下及び45度斜め方向いずれの視野角とも80度以上であり良好な視野角特性であった。
【0097】
【発明の効果】
本発明により、テンター延伸時の破断や表面欠点がなく、耳切り不良もなく、適度なレタデーション特性が付与された視野角拡大効果を有するポリマーフィルムの製造方法及び位相差フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の横延伸方法の実施形態の例を示す概略平面図である。
【符号の説明】
1 ウェブ
2 把持開始点
3 把持具(クリップ)
4 予熱ゾーン
5 延伸ゾーン
6 保持・緩和ゾーン
7 冷却ゾーン
8 把持終了点
9 温度緩衝ゾーン
10 進行側レール
11 戻り側レール
12 把持具温度調節手段
Claims (6)
- ポリマーと有機溶媒とを含むドープを支持体上に流延し、該有機溶媒を蒸発させ、流延膜を該支持体から剥離した後、該流延膜の両端部を把持具で把持しながら横方向に延伸するポリマーフィルムの製造方法において、該把持具の温度をあらかじめ該有機溶媒の沸点以上でかつ延伸温度未満に調整して該流延膜を把持することを特徴とするポリマーフィルムの製造方法。
(但し、前記有機溶媒の沸点は、複数の有機溶媒が混合された溶媒である場合は、最も混合割合の多い有機溶媒の沸点である。) - 延伸温度が70〜160℃、延伸倍率が1.05〜2.00倍、把持具で把持する際の流延膜中の残留溶媒量が10〜50質量%であることを特徴とする請求項1記載のポリマーフィルムの製造方法。
- ドープが、ドープの15〜35質量%のポリマー、有機溶媒の1〜40質量%の炭素数1〜4のアルコール及びポリマーの1〜30質量%の可塑剤を含有することを特徴とする請求項1または2記載のポリマーフィルムの製造方法。
- 酢酸メチルが有機溶媒の50質量%以上であることを特徴とする請求項3記載のポリマーフィルムの製造方法。
- ポリマーが、炭素数2〜3のアシル基の置換度が2.4〜3.0のセルロースエステルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のポリマーフィルムの製造方法。
- 冷風または温風を吹き付けることにより把持具の温度を調整することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のポリマーフィルムの製造方法。
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