本発明は、光学的もしくは電気的に情報を記録し、消去し、書き換え、および/または再生するための情報記録媒体ならびにその製造方法に関するものである。
発明者は、データファイルおよび画像ファイルとして使える、大容量な書き換え型相変化情報記録媒体である、4.7GB/DVD−RAMを開発した。これは既に商品化されている。
この4.7GB/DVD−RAMは、例えば日本国特許公開公報2001−322357号(特許文献1)に開示されている。この公報に開示されているDVD−RAMの構成を、図10に示す。図10に示す情報記録媒体31は、基板1の一方の表面に、第1の誘電体層102、第1の界面層103、記録層4、第2の界面層105、第2の誘電体層106、光吸収補正層7、および反射層8がこの順に形成されている7層構造を有する。この情報記録媒体において、第1の誘電体層は、第2の誘電体層よりも、入射されるレーザ光により近い位置に存在する。第1の界面層と第2の界面層も同じ関係を有する。このように、本明細書においては、情報記録媒体が、同じ機能を有する層を2以上含む場合、入射されるレーザ光から見て近い側にあるものから、順に「第1」「第2」「第3」・・・と称する。
第1の誘電体層102と第2の誘電体層106は、光学距離を調節して記録層4の光吸収効率を高め、結晶相の反射率と非晶質相の反射率との差を大きくして信号振幅を大きくする機能を有する。従来誘電体層の材料として使用している、ZnS−20mol%SiO2は非晶質材料で、熱伝導率が低く、透明であって且つ高屈折率を有する。また、ZnS−20mol%SiO2は、膜形成時の成膜速度が大きく、機械特性および耐湿性も良好である。このように、ZnS−20mol%SiO2は、誘電体層を形成するのに適した優れた材料である。
第1の誘電体層102および第2の誘電体層106の熱伝導率が低いと、記録層4にレーザ光が入射した際に、熱を、記録層4から反射層8の方へ厚さ方向において速やかに拡散させることができ、熱が誘電体層102または106の面内方向に拡散しにくくなる。即ち、誘電体層によって記録層4がより短い時間で冷却されることとなり、非晶質マーク(記録マーク)が形成され易くなる。記録マークが形成されにくい場合は、高いピークパワーで記録する必要があり、記録マークが形成され易い場合は低いピークパワーで記録できる。誘電体層の熱伝導率が低い場合は、低いピークパワーで記録できるので、情報記録媒体の記録感度は高くなる。一方、誘電体層の熱伝導率が高い場合は、高いピークパワーで記録するので、情報記録媒体の記録感度は低くなる。情報記録媒体中の誘電体層は、熱伝導率を精度良く測定できないほど、薄い膜の形態で存在する。そのため、発明者らは、誘電体層の熱伝導率の大きさを知る相対的な判断基準として、情報記録媒体の記録感度を採用している。
記録層4は、Ge−Sn−Sb−Teを含む、高速で結晶化する材料を用いて形成する。かかる材料を記録層4として有する情報記録媒体は、優れた初期記録性能を有するだけでなく、優れた記録保存性および書き換え保存性をも有する。相変化情報記録媒体は、記録層4が結晶相と非晶質相との間で可逆的相変態を生じることを利用して情報の記録、消去および書き換えを行う。高パワーのレーザ光(ピークパワー)を記録層4に照射して急冷すると、照射部が非晶質相となり記録マークが形成される。低パワーのレーザ光(バイアスパワー)を照射して記録層を昇温して徐冷すると、照射部が結晶相となり記録されていた情報は消去される。ピークパワーレベルとバイアスパワーレベルとの間でパワー変調したレーザ光を記録層に照射することにより、既に記録されている情報を消去しながら新しい情報に書き換えていくことができる。繰り返し書き換え性能は、ジッタ値が実用上問題の無い範囲で書き換えを繰り返し得る最大回数で表される。この回数が多いほど、繰り返し書き換え性能が良いといえる。特に、データファイル用の情報記録媒体は、優れた繰り返し書き換え性能を有することが望まれる。
第1の界面層103および第2の界面層105は、第1の誘電体層102と記録層4との間、および第2の誘電体層106と記録層4との間で生じる物質移動を防止する機能を有する。ここで物質移動とは、レーザ光を記録層に照射して繰り返し書き換えている間に、第1及び第2の誘電体層ZnS−20mol%SiO2に含まれるSが記録層に拡散していく現象をいう。多量のSが記録層に拡散すると、記録層の反射率低下を引き起こし、繰り返し書き換え性能が悪化する。この現象は既に知られている(非特許文献1、N. Yamada et al. Japanese Journal of Applied Physics Vol.37 (1998) pp. 2104-2110参照)。また、日本国特許公開公報平10−275360号(特許文献2)および国際公開第WO97/34298パンフレット(特許文献3)には、この現象を防止する界面層を、Geを含む窒化物を使用して形成することが開示されている。
光吸収補正層107は、記録層4が結晶状態であるときの光吸収率Acと非晶質状態であるときの光吸収率Aaの比Ac/Aaを調整し、書き換え時にマーク形状が歪まないようにする働きがある。反射層8は、光学的には記録層4に吸収される光量を増大させる機能を有し、熱的には記録層4で生じた熱を速やかに拡散させて急冷し、記録層4を非晶質化し易くするという機能を有する。反射層8はまた、多層膜を使用環境から保護する機能を有している。
このように、図10に示す情報記録媒体は、それぞれが上述のように機能する7つの層を積層した構造とすることによって、4.7GBという大容量において、優れた繰り返し書き換え性能と高い信頼性を確保し、商品化に至ったものである。
図10を参照して説明した情報記録媒体は、書き換え可能な媒体の一例である。その他の情報記録媒体としては、例えば、情報に対応する信号ピットを基板に形成して、レーザ光を照射して情報を再生する再生専用の媒体、および光の照射により非可逆的な相変態を生じる材料または分解する材料から成る記録層を備え、情報の書きこみが1度だけ可能であるライトワンスタイプの媒体がある。
また、情報記録媒体の誘電体層に適した材料としては、予てより種々のものが提案されている。例えば、日本国特許公開公報平5−109115号(特許文献4)には、光情報記録媒体において、耐熱保護層が、1600K以上の融点をもつ高融点元素と低アルカリガラスとの混合物により形成されていることが開示されている。同公報には、高融点元素として、Nb、Mo、Ta、Ti、Cr、Zr、およびSiが挙げられている。また、同公報には、低アルカリガラスはSiO2、BaO、B2O3またはAl2O3を主成分とするものであることが開示されている。
日本国特許公開公報平5−159373号(特許文献5)には、光情報記録媒体において、耐熱保護層がSiよりも融点の高い窒化物、炭化物、酸化物、硫化物のうちの少なくとも1種の化合物と、低アルカリガラスとの混合物により形成されていることが開示されている。同公報には、高融点の化合物として、Nb、Zr、Mo、Ta、Ti、Cr、Si、Zn、Alの炭化物、酸化物、硫化物が例示されている。また、同公報には、低アルカリガラスがSiO2、BaO、B2O3、Al2O3を主成分とするものであることが開示されている。
日本国特許公開公報平8−77604号(特許文献6)には、再生専用の情報記録媒体において、誘電体層がCe、La、Si、In、Al、Ge、Pb、Sn、Bi、Te、Ta、Sc、Y、Ti、Zr、V、Nb、Cr、およびWより成る群より選ばれた少なくとも一元素の酸化物、Cd、Zn、Ga、In、Sb、Ge、Sn、Pb、Biより成る群より選ばれた少なくとも一元素の硫化物、またはセレン化物等より成ることが開示されている。
日本国特許公開公報2001−67722号(特許文献7)には、光記録媒体において、第1の界面制御層および第2の界面制御層が、Al、Si、Ti、Co、Ni、Ga、Ge、Sb、Te、In、Au、Ag、Zr、Bi、Pt、Pd、Cd、P、Ca、Sr、Cr、Y、Se、La、Liから成る元素群のうち1種以上を含む窒化物、酸化物、炭化物、および硫化物から選択されることが開示されている。
特開2001−322357号公報
特開平10−275360号公報(特許請求の範囲)
WO97/34298(特許請求の範囲)
特開平5−109115号公報(特許請求の範囲)
特開平5−159373号公報(特許請求の範囲)
特開平8−77604号公報(特許請求の範囲)
特開2001−67722号公報(特許請求の範囲)
N. Yamada et al. Japanese Journal of Applied Physics Vol.37(1998) pp. 2104-2110
上述のように、第1及び第2の誘電体層をZnS−20mol%SiO2を用いて形成した場合、Sの拡散防止のために誘電体層と記録層との間には界面層が必然的に必要となる。しかしながら、媒体の価格を考慮すると、媒体を構成する層の数は1つでも少ないことが望ましい。層の数が少ないと、材料費の削減、製造装置の小型化、および製造時間短縮による生産量の増加を実現することができ、媒体の価格低減につながる。
発明者は、層数を減らす一つの方法として、第1の界面層および第2の界面層のうち、少なくとも1つの界面層を無くす可能性について検討した。その場合、繰り返し記録による誘電体層から記録層へのSの拡散が生じないよう、ZnS−20mol%SiO2以外の材料で誘電体層を形成する必要があると、発明者は考えた。さらに、誘電体層の材料については、カルコゲナイド材料である記録層との密着性が良いこと、上記7層構造のものと同等かそれ以上の高記録感度が得られること、透明であること、および記録の際に溶けないように高融点を有することが望まれる。
本発明は、界面層を設けることなく記録層と直接接するように誘電体層が形成された情報記録媒体であって誘電体層から記録層へ物質が移動せず、且つ誘電体層と記録層との密着性が良好であり、優れた繰り返し書き換え性能を有する情報記録媒体を提供することを主たる課題としてなされたものである。
なお、上記特許文献4〜7はいずれも、誘電体層から記録層へ物質が移動する問題については言及していない。したがって、これらの公報は、本発明が解決しようとする課題および当該課題を解決する手段、即ち具体的な組成を教示していないことに留意すべきである。
発明者らは、後述の実施例で説明するように、種々の化合物を使用して、誘電体層を形成し、誘電体層の記録層への密着性、および情報記録媒体の繰り返し書き換え性能を評価した。その結果、界面層を介さずに直接記録層の上下に誘電体層を設ける構成において、記録層に拡散し易い誘電体層、例えば従来のZnS−20mol%SiO2で誘電体層を形成した場合、記録層への密着性は良いが、媒体の繰り返し書き換え性能が悪いということが判った。また、例えば、HfO2およびZrO2は、熱伝導率が低く、また融点が高いため、これを誘電体層として使用すれば、情報記録媒体の記録感度を高くでき、また優れた繰り返し書き換え性能を確保できる。しかし、HfO2のみ、又はZrO2のみを用いて誘電体層を形成した場合、記録層への密着性が悪いという結果が得られた。その他の種々の酸化物、窒化物、硫化物、およびセレン化物を用いて、誘電体層を記録層に接して形成した情報記録媒体について、誘電体層の記録層への密着性および繰り返し書き換え性能を評価した。しかし、1種類の酸化物、窒化物、硫化物、またはセレン化物を用いて誘電体層を形成した場合には、良好な密着性と良好な繰り返し書き換え性能とを両立させることはできなかった。
そこで、発明者は、まず、Sを含まない2種類以上の化合物を組み合わせて、誘電体層を形成することを検討した。その結果、HfO2とCr2O3の組み合わせ、およびHfO2とZrO2とCr2O3の組み合わせが、記録層と接する誘電体層の構成材料として適していることを見出し、さらにHfの含有量(HfとZrとを含む場合には、HfとZrの含有量の合計)とCrの含有量が特定範囲内にあるときに、界面層を形成する必要がないことを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は、光の照射または電気的エネルギーの印加によって、情報を記録および/または再生する情報記録媒体であって、第1金属成分として、Hf、またはHfとZrを含み、第2金属成分としてCrを含み、さらにOを含むHf/Zr−Cr−O系材料層を有し、当該Hf/Zr−Cr−O系材料層において、第1金属成分の含有量が30原子%以下であり、第2金属成分の含有量が7原子%以上37原子%以下である、情報記録媒体を提供する。
本発明の情報記録媒体は、光を照射することによって、あるいは電気的エネルギーを印加することによって、情報を記録および/または再生する媒体である。本発明は、情報を繰り返し記録する媒体(いわゆる書き換え型の媒体)、基板等に所定のピットを予め形成して、このピットに基づいて情報(例えば、音声および画像等)を専ら再生するための媒体、および情報を1回だけ記録できる媒体(いわゆるライトワンス型の媒体)等、種々の媒体に適用される。そのため、ここでは、記録と再生の両方が可能な媒体および再生のみが可能な媒体を表すために、「記録および/または再生」という用語を使用している。また、一般に、光の照射は、レーザ光(即ち、レーザビーム)を照射することにより実施され、電気的エネルギーの印加は記録層に電圧を印加することにより実施される。以下、本発明の情報記録媒体を構成するHf/Zr−Cr−O系材料層を、より具体的に説明する。なお、以下の説明においては、単に「Hf/Zr−Cr−O系材料層」というときは、第1金属成分および第2金属成分が前記の割合で含まれている層を指すことに留意されたい。
本発明において、第1金属成分は、Hfのみ、またはHfとZrである。HfとZrの組み合わせを第1金属成分として特定しているのは、ZrはHfと物理的および化学的性質が似ていることによる。したがって、HfおよびZrの両方を第1金属成分として含む層は、Hfのみを第1金属成分として含む層においてHfの一部がZrで置き換えられた層とみなし得る。本明細書において「Hf/Zr」という表示は、1)Hfのみを含む形態、および2)HfとZrをともに含む形態を総称するために使用されていることに留意されたい。即ち、「/」は表現を簡易にするために使用している。また、HfとZrの両方を含む場合には、2つの元素を合わせた量が第1金属成分の含有量として、上記範囲内にあることを要することに留意されたい。
より具体的には、本発明の情報記録媒体は、式(1):
(式中、Mは第1金属成分を示し、QおよびRはそれぞれ、0<Q≦30、7≦R≦37の範囲内にあり、且つ20≦Q+R≦60である)
で表される材料から実質的に成るHf/Zr−Cr−O系材料層を、構成要素として含むものである。ここで、「原子%」とは、式(1)が、第1金属成分(即ち、Hf、あるいはHfとZrを含む場合にはHfとZr)、第2金属成分(即ち、Cr)およびO原子を合わせた数を基準(100%)として表された組成式であることを示している。以下の式においても「原子%」の表示は、同様の趣旨で使用されている。この材料がHfおよびZrの両方を含む場合、Qは両者の割合の合計に相当する。また、「実質的に成る」という用語は、上記式(1)に示される元素以外の成分がHf/Zr−Cr−O系材料層に含まれるとしても、ごく僅かであり、当該他の成分が全体に占める割合(即ち、式(1)に示される成分と当該他の成分を合わせた数を基準としたときの当該他の成分の割合)が10原子%以下であることを示すために用いている。以下において、「原子%」の表示を付した式で表される材料から「実質的に成る」というときには、同様のことを意味している。
本明細書において、「M」は、Hf/Zr−Cr−O系材料層にHfのみが含まれている場合には、Hfを示し、HfとZrとが含まれている場合には、HfおよびZrの両方を示す。即ち、上記式(1)で示される材料には、「M」としてHfだけが含まれる材料、および「M」としてHfおよびZrの両方を含む材料が含まれる。「M」を使用しているのは、上述のように、HfおよびZrの物理的および化学的性質が互いに似ていて、それらを一つの成分とみなし得ることによる。本明細書では、第1金属成分としてHfのみを含む材料を示すために「Hf−Cr−O系材料」のような表示を使用することがあり、また、第1金属成分としてHfおよびZrを含む材料を示すために「Hf−Zr−Cr−O系材料」のような表示を使用することがある。
式(1)において、第1金属成分(M)、第2金属成分(Cr)および酸素(O)が、どのような化合物として存在しているかは問われない。このような式で材料を特定しているのは、薄膜に形成した層の組成を調べるに際し、化合物の組成を求めることは難しく、現実には、元素組成(即ち、各原子の割合)のみを求める場合が多いことによる。式(1)で表される材料において、第1金属成分の殆どはOとともにHfO2またはHfO2とZrO2との混合物として存在し、第2金属成分の殆どはOとともにCr2O3として存在していると考えられる。
上記式(1)で表される材料から実質的に成るHf/Zr−Cr−O系材料層は、記録層を有する情報記録媒体中において、記録層と隣接する2つの誘電体層のうち、いずれか一方の誘電体層として存在することが好ましく、両方の誘電体層として存在することがより好ましい。上述の範囲で第1金属成分、第2金属成分およびOを含む誘電体層は、融点が高く且つ透明である。また、この層は、MO2(即ち、HfO2、またはHfO2とZrO2との混合物)が優れた繰り返し書き換え性能を確保し、Cr2O3がカルコゲナイド材料である記録層との密着性を確保する。したがって、この情報記録媒体は、界面層が無くても、記録層と誘電体層との間で剥離が生じず、また、優れた繰り返し書き換え性能を示す。あるいは、式(1)で表される材料の層は、情報記録媒体において、記録層と誘電体層との間に位置する界面層としてもよい。
本発明の情報記録媒体において、Hf/Zr−Cr−O系材料層は、式(11):
(式中、Mは第1金属成分を示し、Nは20≦N≦80の範囲である)
で表される材料から実質的に成る層であってよい。式(11)は、Hf/Zr−Cr−O系材料層がMO
2とCr
2O
3との混合物から成る場合に、2つの化合物の好ましい割合を表している。ここで、「mol%」とは、式(11)が、各化合物の総数を基準(100%)として表わされた組成式であることを示している。以下の式においても「mol%」の表示は、同様の趣旨で使用されている。この材料がHfO
2およびZrO
2の両方を含む場合、Nは両者の割合の合計に相当する。また、「実質的に成る」という用語は、上記式(11)に示される化合物以外の成分がHf/Zr−Cr−O系材料層に含まれるとしても、ごく僅かであり、当該他の成分が全体に占める割合(即ち、MO
2、Cr
2O
3および当該他の成分を合わせたモル数を基準としたときの当該他の成分の割合)が10モル%以下であることを示すために用いている。以下において、「モル%」の表示を付した式で表される材料から「実質的に成る」というときは、同様のことを意味している。
本明細書において、MO2は、Hf/Zr−Cr−O系材料層にHfのみが含まれる場合にはHfO2を指し、Hf/Zr−Cr−O系材料層にHfおよびZrが含まれる場合にはHfO2およびZrO2を指す。「MO2」を使用しているのは、上述のように、HfO2およびZrO2の物理的および化学的性質が互いに類似していることによる。したがって、成分として「MO2」を含む材料には、HfO2だけがMO2として含まれる形態、ならびにHfO2およびZrO2の両方がMO2として含まれる形態が含まれる。さらに、本明細書において、「HfO2/ZrO2」という表示が「MO2」に代えて使用される。さらに、本明細書において、MO2としてHfO2だけを含む材料を指すために、HfO2−Cr2O3系材料のような表示を使用することがある。また、特にHfO2およびZrO2の両方を含む材料を指すために、「HfO2−ZrO2−Cr2O3系材料」という表示を使用することがある。
式(11)で表される材料から実質的に成る層も、記録層を有する情報記録媒体において記録層と隣接する2つの誘電体層のうち、いずれか一方の誘電体層として存在することが好ましく、両方の誘電体層として存在することがより好ましい。式(11)で表される材料から実質的に成る層を誘電体層とすることによる効果は、式(1)で表される材料に関連して説明したとおりである。
本発明の情報記録媒体において、Hf/Zr−Cr−O系材料層は、Siをさらに含み、式(2):
(式中、Mは第1金属成分を示し、U、V、およびTはそれぞれ、0<U≦30、7≦V≦37、および0<T≦14の範囲内にあり、且つ20≦U+V+T≦60である)
で表される材料から実質的に成る層であってよい。
式(2)においても、第1金属成分(M)、第2金属成分(Cr)、ケイ素(Si)および酸素(O)の各原子が、どのような化合物として存在しているかは問われず、このような式で材料を特定しているのは、式(1)と同じ理由による。式(2)で表される材料において、Siの殆どはOとともにSiO2として存在していると考えられる。
式(2)で表される材料から実質的に成る層も、記録層を有する情報記録媒体において記録層と隣接する2つの誘電体層のうち、いずれか一方の誘電体層として存在することが好ましく、両方の誘電体層として存在することがより好ましい。Siを含むHf/Zr−Cr−O系材料層を誘電体層とする情報記録媒体においては、誘電体層と記録層との良好な密着性が確保され、また、優れた繰り返し書き換え性能が確保されることに加えて、より高い記録感度が実現される。これはSiを含むことによって、層の熱伝導率が低くなることによると考えられる。あるいは、式(2)で表される材料から実質的に成る層は、情報記録媒体において、記録層と誘電体層との間に位置する界面層としてもよい。
上記Siを含むHf/Zr−Cr−O系材料層は、式(21):
(式中、Mは第1金属成分を示し、XおよびYはそれぞれ、20≦X≦70および20≦Y≦60の範囲内にあり、且つ60≦X+Y≦90である)
で表される材料から実質的に成る層であってよい。式(21)は、Siを含むHf/Zr−Cr−O系材料層が、MO
2、Cr
2O
3、およびSiO
2の混合物から成る場合に、3つの化合物の好ましい割合を示している。式(21)で表される材料から実質的に成る層も、記録層を有する情報記録媒体において記録層と隣接する誘電体層のうち、いずれか一方の誘電体層として存在することが好ましく、両方の誘電体層として存在することがより好ましい。あるいは、式(21)で表される材料から実質的に成る層は、情報記録媒体において、記録層と誘電体層との間に位置する界面層としてもよい。
式(21)で表される材料から実質的に成る層を誘電体層とする場合、SiO2は、情報記録媒体の記録感度を高める機能を有する。その場合、式(21)において、60≦X+Y≦90とすることにより、記録層との良好な密着性を確保する。SiO2の割合は、X+Yをこの範囲で変化させることによって調整され、それにより、SiO2の割合を適切に選択して記録感度を調整することができる。さらに、式(21)において、20≦X≦70、および20≦Y≦60にすることにより、MO2およびCr2O3を適切な割合で層中に存在させることができる。したがって、式(21)で表される材料から実質的に成る誘電体層は、透明であって、記録層との密着性に優れるとともに、情報記録媒体が、良好な記録感度および繰り返し書き換え性能を有することを確保する。
式(21)で表される材料は、MO
2とSiO
2を略等しい割合で含んでもよい。その場合、この材料は、下記の式(22):
(式中、Mは第1金属成分を示し、Zは、25≦Z≦67の範囲内にある)
で表される。MO
2とSiO
2とを略等しい割合で含むと、構造が安定なMSiO
4が形成される。MとしてHfのみが含まれ、HfO
2とSiO
2とを略等しい割合で含む場合には、HfSiO
4が形成される。MとしてHfおよびZrが含まれ、HfO
2とZrO
2とを合わせた割合がSiO
2の割合と等しい場合には、HfSiO
4とZrSiO
4が形成される。式(22)で表される材料がHfSiO
4とZrSiO
4の両方を含む場合、ZはHfSiO
4の含有量とZrSiO
4の含有量の和に相当する。式(22)で表される材料から実質的に成る層も、記録層を有する情報記録媒体において記録層と隣接する誘電体層のうち、いずれか一方の誘電体層として存在することが好ましく、両方の誘電体層として存在することがより好ましい。式(22)において、Zを25≦Z≦67の範囲とすることにより、MSiO
4およびCr
2O
3が適切な割合で層中に存在する。したがって、式(22)で表される材料から実質的に成る誘電体層は、透明であって、且つ記録層との密着性に優れるとともに、情報記録媒体が、良好な記録感度および繰り返し書き換え性能を有することを確保する。あるいは、式(22)で表される材料から実質的に成る層は、情報記録媒体において、記録層と誘電体層との間に位置する界面層としてもよい。
本発明はまた、光の照射または電気的エネルギーの印加によって情報を記録および/または再生する情報記録媒体であって、第1金属成分としてHfまたはHfとZrを含み、第2金属成分としてCrを含み、且つ式(3):
(式中、Mは第1金属成分であり、Dは、ZnS、ZnSeまたはZnOであり、C、EおよびFはそれぞれ、20≦C≦60、20≦E≦60、および10≦F≦40の範囲内にあり、且つ60≦C+E+F≦90である)
で表されるHf/Zr−Cr−Zn−O系材料から実質的に成る層をさらに含んでいる情報記録媒体を提供する。以下の説明においては、式(3)で表される材料から実質的に成る層を、単に「Hf/Zr−Cr−Zn−O系材料層」と呼ぶ場合がある。
式(3)で表される材料から実質的に成る層もまた、記録層を有する情報記録媒体において記録層と隣接する2つの誘電体層のうち、いずれか一方の誘電体層として存在することが好ましく、両方の誘電体層として存在することがより好ましい。式(3)で表される材料は、式(21)で表される材料と同様に、MO2、Cr2O3およびSiO2を含む。したがって、この材料によれば、透明性、および記録層への密着性に優れた誘電体層が形成され、また、この誘電体層を含む情報記録媒体は、良好な記録感度および繰り返し書き換え性能を有する。式(3)で表される材料は、成分Dとして、ZnS、ZnSeまたはZnOを含むので、この材料で形成される誘電体層は、カルコゲナイド材料から成る記録層との密着性がより向上したものとなる。さらにまた、薄膜状態で非晶質状態になり易いMO2−Cr2O3−SiO2系材料に、結晶状態になり易いZnSまたはZnSeを添加することにより、記録感度をさらに向上させることができる。あるいは、式(3)で表される材料から実質的に成る層は、情報記録媒体において、記録層と誘電体層との間に位置する界面層としてもよい。
式(3)において、20≦C≦60、および20≦E≦60とすることにより、MO2およびCr2O3を適切な割合で層中に存在させることができる。式(3)において、10≦F≦40にすることにより、情報記録媒体の繰り返し書き換え性能を損なうことなく、成分Dによる効果(例えば密着性の向上等)が達成される。また、式(3)において、C+E+Fを60以上90以下の範囲で変化させることにより、SiO2の割合を適切に調整して、記録感度を調整することができる。
式(3)で表される材料は、MO
2とSiO
2を略等しい割合で含んでよい。その場合、この材料は、下記の式(31):
(式中、Mは第1金属成分を示し、Dは、ZnS、ZnSeまたはZnOであり、AおよびBはそれぞれ、25≦A≦54、および25≦B≦63の範囲内にあり、且つ50≦A+B≦88である)
で表される。前述のようにMO
2とSiO
2を略等しい割合で含むことにより、安定な構造のMSiO
4が形成される。この材料が、HfSiO
4とZrSiO
4の両方を含む場合、Aは、HfSiO
4とZrSiO
4の含有率の総和になる。式(31)で表される材料から実質的に成る層も、記録層を有する情報記録媒体において記録層と隣接する誘電体層のうち、いずれか一方の誘電体層として存在することが好ましく、両方の誘電体層として存在することがより好ましい。式(31)において、AおよびBをそれぞれ、25≦A≦54、および25≦B≦63とすることにより、MSiO
4およびCr
2O
3が適切な割合で層中に存在する。したがって、式(31)で表される材料から実質的に成る誘電体層は、透明であって、且つ記録層との密着性に優れるとともに、情報記録媒体が良好な記録感度および繰り返し書き換え性能を有することを確保する。また、式(31)で表される材料が誘電体層に含まれる場合には、SiO
2および成分Dが、情報記録媒体の記録感度を高くし、成分Dが誘電体層の記録層への密着性をより向上させる。あるいは、式(31)で表される材料から実質的に成る層は、情報記録媒体において、記録層と誘電体層との間に位置する界面層としてもよい。
上記本発明の情報記録媒体は、記録層を有するものであることが好ましい。特に本発明の情報記録媒体は、書き換え型情報記録媒体として好ましく提供される。
書き換え型情報記録媒体において、記録層は、光の照射または電気的エネルギーの印加によって相変態が可逆的に生じるものであることが好ましい。相変態が可逆的に生じる記録層は、具体的には、Ge−Sb−Te、Ge−Sn−Sb−Te、Ge−Bi−Te、Ge−Sn−Bi−Te、Ge−Sb−Bi−Te、Ge−Sn−Sb−Bi−Te、Ag−In−Sb−TeおよびSb−Teから選択される、いずれか1つの材料を含むことが好ましい。これらはいずれも高速結晶化材料である。したがって、これらの材料で記録層を形成すると、高密度且つ高転送速度で記録でき、また、信頼性(具体的には記録保存性または書き換え保存性)の点でも優れた情報記録媒体が得られる。
本発明の情報記録媒体は、2つ以上の記録層を有するものであってよい。そのような情報記録媒体は、例えば、基板の一方の表面の側に、2つの記録層が誘電体層および中間層等を介して積層された、片面2層構造を有するものである。片面2層構造の情報記録媒体は、片側から光を照射して、2つの記録層に情報を記録するものである。この構造によれば、記録容量を大きくすることが可能となる。あるいは、本発明の情報記録媒体は、基板の両方の面に記録層が形成されたものであってよい。記録層はすべて、相変態が可逆的に生じる記録層であってよく、あるいは1つまたは複数の記録層が相変態が可逆的に生じるものであって、他の記録層が相変態が非可逆的に生じるものであってよい。
本発明の情報記録媒体において、記録層が、相変態が可逆的に生じるものである場合には、記録層の膜厚は15nm以下であることが望ましい。15nmを超えると、記録層に加えられた熱が面内に拡散し、厚さ方向に拡散しにくくなり、情報の書き換えに支障をきたすことがある。
本発明の情報記録媒体は、基板の一方の表面に、第1の誘電体層、記録層、第2の誘電体層、および反射層がこの順に形成された構成を有するものであってよい。この構成を有する情報記録媒体は、光の照射により記録される媒体である。本明細書において、「第1の誘電体層」とは、入射される光に対してより近い位置にある誘電体層をいい、「第2の誘電体層」とは、入射される光に対してより遠い位置にある誘電体層をいう。即ち、照射される光は、第1の誘電体層から、記録層を経由して、第2の誘電体層に到達する。この構成の情報記録媒体は、例えば、波長660nm付近のレーザ光で記録再生する場合に用いられる。
本発明の情報記録媒体がこの構成を有する場合、第1の誘電体層および第2の誘電体層のうち少なくとも1つの誘電体層が、上記Hf/Zr−Cr−O系材料層(具体的には、上記式(1)、(11)、(2)、(21)および(22)で表される材料のいずれか1つから実質的に成る層)、または上記Hf/Zr−Cr−Zn−O系材料層(具体的には、上記式(3)または(31)で表される材料から実質的に成る層)である。好ましくは、両方の誘電体層が、上記Hf/Zr−Cr−O系材料層または上記Hf/Zr−Cr−Zn−O系材料層である。その場合、両方の誘電体層は、同一組成の層としてよく、あるいは異なる組成の層としてよい。
この構成を有する情報記録媒体の一形態として、基板の一方の表面に、第1の誘電体層、界面層、記録層、第2の誘電体層、光吸収補正層、および反射層がこの順に形成されており、第2の誘電体層が前記Hf/Zr−Cr−O系材料層または前記Hf/Zr−Cr−Zn−O系材料層であって、記録層と界面を接している情報記録媒体が挙げられる。
本発明の情報記録媒体は、基板の一方の表面に、反射層、第2の誘電体層、記録層、および第1の誘電体層がこの順に形成された構成を有するものであってよい。この構成は、光が入射する基板の厚さを薄くする必要がある場合に採用される。具体的には、波長405nm付近の短波長のレーザ光で記録再生する場合に、対物レンズの開口数NAを例えば0.85と大きくして、焦点位置を浅くする場合に、この構成の情報記録媒体が使用される。このような波長および開口数NAを使用するには、光が入射する基板の厚さを、例えば60〜120μm程度にする必要がある。そのような薄い基板の表面には、層を形成することが困難である。したがって、この構成の情報記録媒体は、光が入射されない基板を支持体として、その一方の表面に反射層等を順次形成することにより形成されたものとして特定される。
本発明の情報記録媒体がこの構成を有する場合、第1の誘電体層および第2の誘電体層のうち少なくとも1つの誘電体層が、上記Hf/Zr−Cr−O系材料層または上記Hf/Zr−Cr−Zn−O系材料層である。好ましくは、両方の誘電体層が、上記Hf/Zr−Cr−O系材料層または上記Hf/Zr−Cr−Zn−O系材料層である。その場合、両方の誘電体層は、同一組成の層としてよく、あるいは異なる組成の層としてよい。
この構成を有する情報記録媒体の一形態として、基板の一方の表面に、反射層、光吸収補正層、第2の誘電体層、記録層、界面層、および第1の誘電体層がこの順に形成されており、前記第2の誘電体層がHf/Zr−Cr−O系材料層または上記Hf/Zr−Cr−Zn−O系材料層であって、前記記録層と界面を接している情報記録媒体が挙げられる。
本発明はまた、本発明の情報記録媒体を製造する方法として、上述したHf/Zr−Cr−O系材料層を、スパッタリング法で形成する工程を含む製造方法を提供する。スパッタリング法によれば、スパッタリングターゲットの組成と略同じ組成を有するHf/Zr−Cr−O系材料層を形成できる。したがって、この製造方法によれば、スパッタリングターゲットを適切に選択することにより、所望の組成のHf/Zr−Cr−O系材料層を容易に形成できる。
具体的には、スパッタリングターゲットとして、下記の式(10):
(式中、Mは第1金属成分を示し、JおよびKはそれぞれ、3≦J≦24、および11≦K≦36であり、且つ34≦J+K≦40である)
で表される材料から実質的に成るものを使用できる。式(10)は、後述する式(110)で表される材料を元素組成で表した式に相当する。したがって、このターゲットによれば、上記式(10)で表される材料から実質的に成る層を形成することができる。
スパッタリングによる形成される層の元素組成は、スパッタリング装置、スパッタリング条件、およびスパッタリングターゲットの寸法等によって、スパッタリングターゲットの元素組成と異なる場合がある。そのような差異が、上記式(10)で表される材料から成るスパッタリングターゲットを使用した場合に生じるとしても、形成される層の元素組成は、少なくとも上記式(1)で表されるものとなる。
本発明の情報記録媒体の製造方法においては、スパッタリングターゲットとして、式(110):
(式中、Mは第1金属成分を示し、nは20≦n≦80である)
で表される材料から実質的に成るものを使用してよい。これは、スパッタリングターゲットの組成を、MO
2とCr
2O
3の割合で表した式に相当する。このようにスパッタリングターゲットを特定しているのは、通常、第1金属成分としてのHfまたはHfとZr、第2金属成分としてのCr、およびOを含む材料から成るスパッタリングターゲットは、この第1金属成分の酸化物と第2金属成分の酸化物の組成が表示されて、提供されることによる。また、発明者は、組成がそのように表示されたスパッタリングターゲットをX線マイクロアナライザーで分析して得た元素組成が、表示されている組成から算出される元素組成と略等しくなることを(即ち、組成表示(公称組成)が適正であること)を確認している。したがって、このスパッタリングターゲットによれば、式(11)で表される材料から実質的に成る層が形成される。
本発明の情報記録媒体の製造方法においては、Siを含むHf/Zr−Cr−O系材料層を形成するために、スパッタリングターゲットとして、式(20):
(式中、Mは第1金属成分を示し、G、HおよびLは、4≦G≦21、11≦H≦30、2≦L≦12であり、且つ34≦G+H+L≦40である)
で表される材料から実質的に成るものを用いてよい。このスパッタリングターゲットを使用すれば、式(21)または式(2)で表される材料から実質的に成る層が形成される。
本発明の情報記録媒体の製造方法においては、スパッタリングターゲットとして、式(210):
(式中、Mは第1金属成分を示し、xおよびyはそれぞれ、20≦x≦70、および20≦y≦60であり、且つ60≦x+y≦90である)
で表される材料から実質的に成るものを使用してよい。このようにスパッタリングターゲットを特定しているのは、HfまたはHfとZrの組合せである第1金属成分、Crである第2金属成分、ならびにSiおよびOを含む材料から成るスパッタリングターゲットが、通常、MO
2(即ち、HfO
2、またはHfとZrとを含む場合にはHfO
2とZrO
2)、ならびにCr
2O
3およびSiO
2の組成が表示されて、提供されていることによる。発明者らは、式(210)のように組成が表示されているターゲットについても、組成表示(即ち、公称組成)が適正であることを確認している。したがって、このスパッタリングターゲットによれば、式(21)で表される材料から実質的に成る層が形成される。
上記式(210)で示されるスパッタリングターゲットは、MO
2とSiO
2を略等しい割合で含むものであってよい。その場合、スパッタリングターゲットは、式(220):
(式中、Mは第1金属成分を示し、zは、25≦z≦67である)
で表される材料から実質的に成るものである。このスパッタリングターゲットによれば、式(22)で示される材料から実質的に成る層が形成される。
本発明はまた、本発明の情報記録媒体を製造する方法として、上述した、Hf/Zr−Cr−Zn−O系材料層を、スパッタリングで形成する工程を含む製造方法を提供する。スパッタリング法によれば、スパッタリングターゲットと実質的に同じ組成である、Hf/Zr−Cr−Zn−O系材料層を形成できる。具体的には、スパッタリングターゲットとして、下記の式(30):
(式中、Mは第1金属成分を示し、Dは、ZnS、ZnSeまたはZnOであり、c、eおよびfはそれぞれ、20≦c≦60、および20≦e≦60、10≦f≦40であり、且つ60≦c+e+f≦90である)
で表される材料から実質的に成るものを使用してよい。このようにスパッタリングターゲットを特定しているのは、HfまたはHfとZrの組み合わせである第1金属成分、Crである第2金属成分、SiおよびOに加えて、成分Dを含むターゲットが、MO
2(即ち、HfO
2、またはHfとZrとを含む場合にはHfO
2とZrO
2)、Cr
2O
3、SiO
2、および成分Dの組成が表示されて、供給されていることによる。このスパッタリングターゲットによれば、式(3)で示される材料から実質的に成る層が形成される。
上記式(30)で示されるスパッタリングターゲットは、MO
2とSiO
2を略等しい割合で含むものであってよい。その場合、スパッタリングターゲットは、式(310):
(式中、Mは第1金属成分を示し、Dは、ZnS、ZnSeまたはZnOであり、aおよびbはそれぞれ、25≦a≦54、および25≦b≦63の範囲内にあり、且つ50≦a+b≦88である)
で表される材料から実質的に成るものである。このスパッタリングターゲットによれば、式(31)で示される材料から実質的に成る層が形成される。
本発明は、記録層を有する情報記録媒体において、記録層と直接接して形成する誘電体層を、好ましくはHfO2−Cr2O3系材料、HfO2−Cr2O3−SiO2系材料、もしくはこれらの材料にZnS、ZnSeもしくはZnOを混合した材料、またはこれらの材料のHfO2の一部がZrO2で置換された材料で形成することを特徴とする。この特徴によれば、従来の光情報記録媒体が有していた、記録層と誘電体層との間の界面層を無くして、層数を減少できるとともに、信頼性が高く、優れた繰り返し書き換え性能および高記録感度が確保された光情報記録媒体を実現することができる。また、これらの材料の層を、電気的エネルギーを印加する情報記録媒体において、記録層を断熱するための誘電体層として使用すれば、小さい電気的エネルギーで記録層の相変化を生じさせることができる。
発明を実施するための形態
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。以下の実施の形態は例示的なものであり、本発明は以下の実施の形態に限定されない。
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1として、レーザ光を用いて情報の記録および再生を実施する、光情報記録媒体の一例を説明する。図1に、その光情報記録媒体の一部断面を示す。
図1に示す情報記録媒体25は、基板1の一方の表面に、第1の誘電体層2、記録層4、第2の誘電体層6、光吸収補正層7、および反射層8がこの順に形成され、さらに接着層9でダミー基板10が接着された構成を有する。この構成の情報記録媒体は、波長660nm付近の赤色域のレーザビームで記録再生する、4.7GB/DVD−RAMとして使用できる。この構成の情報記録媒体には、基板1側からレーザ光12が入射され、それにより情報の記録及び再生が実施される。情報記録媒体25は、第1の界面層103および第2の界面層105を有していない点において図10に示す従来の情報記録媒体31と相違する。
実施の形態1においては、第1の誘電体層2および第2の誘電体層6がともに、Hf/Zr−Cr−O系材料層、またはHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層である。
一般に、誘電体層の材料には、1)透明であること、2)融点が高く、記録の際に溶融しないこと、および3)カルコゲナイド材料である記録層との密着性が良好であることが要求される。透明であることは、基板1側から入射されたレーザ光12を通過させて記録層4に到達させるために必要な特性である。この特性は、特に入射側の第1の誘電体層に要求される。高い融点は、ピークパワーレベルのレーザ光を照射したときに、誘電体層の材料が記録層に混入しないことを確保するために必要な特性である。誘電体層の材料が記録層に混入すると、繰り返し書き換え性能が著しく低下する。カルコゲナイド材料である記録層との密着性が良好であることは、情報記録媒体の信頼性を確保するために必要な特性である。さらに、誘電体層の材料は、得られる情報記録媒体が、従来の情報記録媒体(即ち、ZnS−20mol%SiO2から成る誘電体層と記録層との間に界面層が位置する媒体)と同等かそれ以上の記録感度を有するように選択する必要がある。
Hf/Zr−Cr−O系材料層は、HfO2とCr2O3の混合物、またはHfO2とZrO2とCr2O3の混合物から実質的に成る層であることが好ましい。HfO2およびZrO2は、透明で、高い融点を有し、且つ酸化物の中では熱伝導率が低い材料である。特にHfO2の融点は約2800℃と高いことから、これを含む材料を誘電体層とすることによって、情報記録媒体の耐熱性を向上させることができる。ZrO2の融点は、HfO2の融点よりも低いものの約2700℃と高い。ZrO2はHfO2よりもコスト的に有利である。したがって、ZrO2をHfO2の一部に代えて使用することにより、Hf/Zr−Cr−O系材料層の高い融点をHfで確保しつつ、低コストで情報記録媒体を得ることが可能となる。あるいは、HfO2とZrO2とを組み合わせることにより、Hf/Zr−Cr−O系材料層の融点を調節することも可能となる。Cr2O3は、カルコゲナイド材料である記録層との密着性が良い。したがって、この2種類または3種類の酸化物の混合物を含む層を第1および第2の誘電体層2および6とし、これらを図示するように記録層4と接するように形成することによって、繰り返し書き換え性能に優れ、且つ記録層と誘電体層との間の密着性が良好である、情報記録媒体25を実現し得る。MO2(MはHfまたはHfとZr)とCr2O3の混合物は、上記式(11)、即ち、(MO2)N(Cr2O3)100-N(mol%)で表される。この混合物において、Cr2O3含有量(即ち、100−N)は20mol%以上であることが好ましい。Cr2O3が多すぎると、情報記録媒体の記録感度が低くなるので、Cr2O3の含有量は80mol%以下が好ましい。より好ましくは、30mol%以上50mol%以下である。
第1および第2の誘電体層2および6は、Siを含むHf/Zr−Cr−O系材料層であってよい。Siを含むHf/Zr−Cr−O系材料層は、MO2(MはHfまたはHfとZr)、Cr2O3およびSiO2の混合物から実質的に成っていることが好ましい。この混合物は、上記式(21)、即ち、(MO2)X(Cr2O3)Y(SiO2)100-X-Yで表される。この式において、XおよびYはそれぞれ、20≦X≦70、および20≦Y≦60の範囲内にあり、60≦X+Y≦90である。
図7に、式(21)で表される材料の組成範囲を示す。図7において、座標は(MO2,Cr2O3,SiO2)である。この図において、式(21)で表される材料は、a(70,20,10)、b(40,20,40)、c(20,40,40)、d(20,60,20)、e(30,60,10)で囲まれる範囲(線上を含む)内の材料である。
SiO2を含むHf/Zr−Cr−O系材料層は、情報記録媒体の記録感度を高める。また、SiO2の割合を調整することにより、記録感度を調整することが可能となる。SiO2によって記録感度を高くするためには、混合物中のSiO2の含有量は、10mol%以上であることが好ましい。一方、SiO2の含有量が多いと記録層4との密着性が悪くなるため、SiO2の含有量は40mol%以下であることが好ましい。HfO2、ZrO2およびCr2O3が奏する機能は、先に説明したとおりであり、適切な割合で混合されることにより、情報記録媒体の性能を適切なものとする。MO2−Cr2O3−SiO2混合物の場合、Cr2O3の含有量は20mol%以上60mol%以下であることが好ましく、MO2の含有量は20mol%以上70mol%以下であることが好ましい。第1の誘電体層2と第2の誘電体層6は、それぞれSiO2の含有量が異なる混合物から成る層であってよい。例えば、第1の誘電体層2を(MO2)50(Cr2O3)30(SiO2)20(mol%)とし、第2の誘電体層6を(MO2)40(Cr2O3)20(SiO2)40(mol%)としてよい。
MO2−Cr2O3−SiO2混合物において、MO2とSiO2の含有量が略等しい場合には、MSiO4が含まれていることが好ましい。MSiO4が形成されている混合物は、上記式(22)、即ち(MSiO4)Z(Cr2O3)100-Z(mol%)で表される。この式において、Zは、25≦Z≦67の範囲内にある。MO2とSiO2を略等しい割合で含むと、MSiO4が生成され、より結合の強いMO2−SiO2系が得られる。記録層との密着性をより良好にし、且つ情報記録媒体の繰り返し書き換え性能と高い記録感度を確保するためには、Zは、33≦Z≦50の範囲内にあることがより好ましい。
Hf/Zr−Cr−Zn−O系材料層は、HfO2、Cr2O3、およびSiO2の混合物に、またはHfO2、ZrO2、Cr2O3、およびSiO2の混合物に、ZnS、ZnSeまたはZnOをさらに含む混合物から実質的に成る層である。この混合物は、上記式(3)、即ち、(MO2)C(Cr2O3)E(D)F(SiO2)100-C-E-F(mol%)で表される。この式において、Mは第1金属成分(即ち、HfまたはHfとZrの組合せ)であり、C、EおよびFはそれぞれ、20≦C≦60、20≦E≦60、および10≦F≦40の範囲内にあり、且つ60≦C+E+F≦90である。混合物が成分Dを含むことにより、この混合物からなる層は、記録層4とより良好に密着する。また、ZnSおよびZnSeは薄膜でも結晶性が強く、非晶質のMO2−Cr2O3−SiO2混合物に添加されると、混合物の熱伝導率をさらに低下させる。したがって、ZnSまたはZnSeを含む混合物で第1および第2誘電体層2および6を形成すると、情報記録媒体の記録感度をより高くし得る。このように4種の材料を混合することにより、記録消去の条件(媒体の線速度およびレーザ光の波長)に適した記録感度を有し、また、密着性および繰り返し書き換え性能にも優れた情報記録媒体を実現できる。
上記式(3)で示される混合物は、MO2とSiO2を略等しい割合で含んでもよい。そのような混合物は、上記式(31)、即ち、(MSiO4)A(Cr2O3)B(D)100-A-B(mol%)で表される。この式において、Mは第1金属成分(即ち、HfまたはHfとZrの組合せ)であり、AおよびBはそれぞれ、25≦A≦54、および25≦B≦63の範囲内にあり、50≦A+B≦88である。MO2とSiO2を略等しい割合で含むことにより、MSiO4が形成され、より結合の強いHfO2−SiO2系またはHfO2−ZrO2−SiO2系が得られる。それにより、記録消去の条件により適した記録感度を有し、また、密着性および繰り返し書き換え性能にも優れた情報記録媒体を実現できる。
Hf/Zr−Cr−O系材料層において、HfとZrの両方が第1金属成分として含まれる場合、HfおよびZrの含有量は、前述のとおり合わせて30原子%以下であることが好ましい。したがって、Hf−Zr−Cr−O系材料層には、例えば、Hfが1原子%含まれ、Zrが29原子%含まれていてよい。あるいは、Hf−Zr−Cr−O系材料層には、Hfが20原子%含まれ、Zrが3原子%含まれていてよい。HfとZrの両方が第1金属成分として含まれる場合、HfとZrの混合割合は特に限定されず、HfO2によりもたさられる耐熱性と、ZrO2の経済性とを考慮して、適宜選択される。具体的には、Hf−Zr−Cr−O系材料層は、(HfO2)25(ZrO2)10(Cr2O3)65(mol%)で表される材料、または(HfO2)3(ZrO2)60(Cr2O3)37(mol%)等で表される材料から実質的になる層であってよい。
本発明の情報記録媒体においては、第1および第2の誘電体層2および6のうち一方がHf−Cr−O系材料層、Hf−Cr−Zn−O系材料層またはHf−Zr−Cr−O系材料層であり、他方がHf−Zr−Cr−Zn−O系材料層であってよい。第1および第2の誘電体層2および6の両方がHf−Zr−Cr−Zn−O系材料層であっても、本発明の目的を達成することは可能である。
Hf/Zr−Cr−O系材料層およびHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層は、先に述べたように、上記式(1)、(11)、(2)、(21)、(3)または(31)で示される材料を90モル%以上含む。即ち、上記各式で表される成分以外の他の成分(これを便宜的に第三成分と呼ぶ)を、10モル%未満で含む場合には、材料層の熱安定性および耐湿性は変わらず、第1の誘電体層2および第2の誘電体層6として好ましく用いられる。第三成分は、Hf/Zr−Cr−O系材料層またはHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層を形成する際に不可避的に含まれるもの、または不可避的に形成されるものである。第三成分として、例えば、誘電体、金属、半金属、半導体および/または非金属がHf/Zr−Cr−O系材料層またはHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層に含まれる。
第三成分として含まれる誘電体は、より具体的には、Al2O3、CeO2、CoO、CuO、Cu2O、Dy2O3、Er2O3、FeO、Fe2O3、Fe3O4、Ga2O3、Ho2O3、In2O3、In2O3とSnO2の混合物、La2O3、MgO、MnO、Mn3O4、Mo2O5、Nb2O5、Nd2O3、NiO、Sc2O3、Sm2O3、SnO、SnO2、Ta2O5、Tb4O7、TiO2、WO3、Y2O3、Yb2O3、AlN、BN、CrN、Cr2N、HfN、NbN、Si3N4、TaN、TiN、VN、ZrN、B4C、Cr3C2、HfC、Mo2C、NbC、SiC、TaC、TiC、VC、W2C、WC、およびZrCである。
第三成分として含まれる金属は、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Mn、Fe、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、DyおよびYbである。
第三成分として含まれる半金属および半導体は、より具体的には、B、Al、C、GeおよびSnである。第三成分として含まれる非金属は、より具体的には、Sb、Bi、TeおよびSeである。
第1の誘電体層2および第2の誘電体層6は、各々の光路長(即ち、誘電体層の屈折率nと誘電体層の膜厚dとの積nd)を変えることにより、結晶相の記録層4の光吸収率Ac(%)と非晶質相の記録層4の光吸収率Aa(%)、記録層4が結晶相であるときの情報記録媒体25の光反射率Rc(%)と記録層4が非晶質相であるときの情報記録媒体25の光反射率Ra(%)、記録層4が結晶相である部分と非晶質相である部分の情報記録媒体25の光の位相差Δφを調整する機能を有する。記録マークの再生信号振幅を大きくして、信号品質を上げるためには、反射率差(|Rc−Ra|)または反射率比(Rc/Ra)が大きいことが望ましい。また、記録層4がレーザ光を吸収するように、AcおよびAaも大きいことが望ましい。これらの条件を同時に満足するように第1の誘電体層2および第2の誘電体層6の光路長を決定する。それらの条件を満足する光路長は、例えばマトリクス法(例えば久保田広著「波動光学」岩波新書、1971年、第3章を参照)に基づく計算によって正確に決定することができる。
上記において説明した、Hf/Zr−Cr−O系材料およびHf/Zr−Cr−Zn−O系材料は、その組成に応じて異なる屈折率を有する。概して、これらの材料は、1.8〜2.5の範囲内の屈折率を有する。誘電体層の屈折率をn、膜厚をd(nm)、レーザ光12の波長をλ(nm)とした場合、光路長ndは、nd=aλで表される。ここで、aは正の数とする。情報記録媒体25の記録マークの再生信号振幅を大きくして信号品質を向上させるには、例えば、15%≦Rc且つRa≦2%であることが好ましい。また、書き換えによるマーク歪みを無くす又は小さくするには、1.1≦Ac/Aaであることが好ましい。これらの好ましい条件が同時に満たされるように第1の誘電体層2および第2の誘電体層6の光路長(aλ)を、マトリクス法に基づく計算により正確に求めた。得られた光路長(aλ)、ならびにλおよびnから、誘電体層の厚さdを求めた。その結果、第1の誘電体層2の厚さは、好ましくは100nm〜200nmであり、より好ましくは130nm〜170nmであることが判った。また、第2の誘電体層6の厚さは、好ましくは20nm〜70nmであり、より好ましくは30nm〜60nmであることが判った。
基板1は、通常、透明な円盤状の板である。誘電体層および記録層等を形成する側の表面には、レーザ光を導くための案内溝が形成されていてもよい。案内溝を基板に形成した場合、基板の断面を見ると、グルーブ部とランド部とが形成される。グルーブ部は2つの隣接するランド部の間に位置するともいえる。したがって、案内溝が形成された表面は、側壁でつながれた頂面と底面とを有することとなる。本明細書においては、レーザ光12の方向において、レーザ光12に近い側にある面を便宜的に「グルーブ面」と呼び、レーザ光から遠い側にある面を便宜的に「ランド面」と呼ぶ。図1においては、基板の案内溝の底面23がグルーブ面に相当し、頂面24がランド面に相当する。後述の図2、3および6においても同様である。これに対し、図4および図5の基板101においては、底面である面24が「ランド面」に相当し、頂面である面23が「グルーブ面」に相当する。これは、後述するように、図4および図5に示す情報記録媒体は、反射層および記録層の形成順序が、図1に示す情報記録媒体のそれとは逆であることによる。記録マークは、記録層において、グルーブ面に相当する記録層の表面に形成されるか(グルーブ記録)、ランド面に相当する記録層の表面に形成されるか(ランド記録)、あるいはグルーブおよびランド両方の面に相当する記録層の表面に形成される(ランド−グルーブ記録)。図1に示す態様において基板1のグルーブ面23とランド面24の段差は、40nm〜60nmであることが好ましい。後述する図2、図3および図6に示す態様の情報記録媒体を構成する基板1においても、グルーブ面23とランド面24との段差はこの範囲であることが好ましい。また、層を形成しない側の表面は、平滑であることが望ましい。基板1の材料として、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィンもしくはPMMAのような樹脂、またはガラスを挙げることができる。成形性、価格、および機械強度を考慮すると、ポリカーボネートが好ましく使用される。図示した形態において、基板1の厚さは、0.5〜0.7mm程度である。
記録層4は、光の照射または電気的エネルギーの印加によって、結晶相と非晶質相との間で相変態を起こし、記録マークが形成される層である。相変態が可逆的であれば、消去や書き換えを行うことができる。可逆的相変態材料としては、高速結晶化材料である、Ge−Sb−TeもしくはGe−Sn−Sb−Teを用いることが好ましい。具体的には、Ge−Sb−Teの場合、GeTe−Sb2Te3擬二元系組成であることが好ましく、その場合、4Sb2Te3≦GeTe≦50Sb2Te3であることが好ましい。GeTe<4Sb2Te3の場合、記録前後の反射光量の変化が小さく、読み出し信号の品質が低下する。50Sb2Te3<GeTeの場合、結晶相と非晶質相間の体積変化が大きく、繰り返し書き換え性能が低下する。Ge−Sn−Sb−Teは、Ge−Sb−Teよりも結晶化速度が速い。Ge−Sn−Sb−Teは、例えば、GeTe−Sb2Te3擬二元系組成のGeの一部をSnで置換したものである。記録層4において、Snの含有量は、20原子%以下であることが好ましい。20原子%を越えると、結晶化速度が速すぎて、非晶質相の安定性が損なわれ、記録マークの信頼性が低下する。Snの含有量は記録条件に合わせて調整することができる。
また、記録層4は、Ge−Bi−Te、Ge−Sn−Bi−Te、Ge−Sb−Bi−Te、またはGe−Sn−Sb−Bi−TeのようなBiを含む材料で形成することもできる。BiはSbよりも結晶化しやすい。したがって、Sbの少なくとも一部をBiで置換することによっても、記録層の結晶化速度を向上させることができる。
Ge−Bi−Teは、GeTeとBi2Te3の混合物である。この混合物においては、8Bi2Te3≦GeTe≦25Bi2Te3であることが好ましい。GeTe<8Bi2Te3の場合、結晶化温度が低下し、記録保存性が劣化しやすくなる。25Bi2Te3<GeTe の場合、結晶相と非晶質相間の体積変化が大きく、繰り返し書き換え性能が低下する。
Ge−Sn−Bi−Teは、Ge−Bi−TeのGeの一部をSnで置換したものに相当する。Snの置換濃度を調整して、記録条件に合わせて結晶化速度を制御することが可能である。Sn置換は、Bi置換と比較して、記録層の結晶化速度の微調整により適している。記録層において、Snの含有量は10原子%以下であることが好ましい。10原子%を越えると、結晶化速度が速くなりすぎるために、非晶質相の安定性が損なわれ、記録マークの保存性が低下する。
Ge−Sn−Sb−Bi−Teは、Ge−Sb−TeのGeの一部をSnで置換し、さらにSbの一部をBiで置換したものに相当する。これは、GeTe、SnTe、Sb2Te3およびBi2Te3の混合物に相当する。この混合物においては、Sn置換濃度とBi置換濃度を調整して、記録条件に合わせて結晶化速度を制御することが可能である。Ge−Sn−Sb−Bi−Teにおいては、4(Sb−Bi)2Te3≦(Ge−Sn)Te≦25(Sb−Bi)2Te3であることが好ましい。(Ge−Sn)Te<4(Sb−Bi)2Te3の場合、記録前後の反射光量の変化が小さく、読み出し信号品質が低下する。25(Sb−Bi)2Te3<(Ge−Sn)Teの場合、結晶相と非晶質相間の体積変化が大きく、繰り返し書き換え性能が低下する。また、記録層において、Biの含有量は10原子%以下であることが好ましく、Snの含有量は20原子%以下であることが好ましい。BiおよびSnの含有量がそれぞれこの範囲内にあれば、良好な記録マークの保存性が得られる。
可逆的に相変態を起こす材料としては、その他に、Ag−In−Sb−Te、Ag−In−Sb−Te−Ge、およびSbを70原子%以上含むSb−Teが挙げられる。
非可逆的相変態材料としては、日本国特許公報平7−25209公報(特許第2006849号)に開示されるように、TeOx+α(αはPd、Ge等である)を用いることが好ましい。記録層が非可逆的相変態材料である情報記録媒体は、記録が一度だけ可能である、いわゆるライトワンスタイプのものである。そのような情報記録媒体においても、記録時の熱により誘電体層中の原子が記録層中に拡散して、信号の品質を低下させるという問題がある。したがって、本発明は、書き換え可能な情報記録媒体だけでなく、ライトワンス型の情報記録媒体にも好ましく適用される。
記録層4が可逆的に相変態する材料から成る場合(即ち、情報記録媒体が書き換え可能な情報記録媒体である場合)には、前述のように、記録層4は、前述のように、その厚さが15nm以下であることが好ましく、12nm以下であることがより好ましい。
光吸収補正層7は、前述のように、記録層4が結晶状態であるときの光吸収率Acと非晶質状態であるときの光吸収率Aaの比Ac/Aaを調整し、書き換え時にマーク形状が歪まないようにする働きがある。光吸収補正層7は、屈折率が高く、且つ適度に光を吸収する材料で形成されることが好ましい。例えば、屈折率nが3以上6以下、消衰係数kが1以上4以下である材料を用いて、光吸収補正層7を形成できる。具体的には、Ge−Cr、およびGe−Mo等の非晶質のGe合金、Si−Cr、Si−Mo、およびSi−W等の非晶質のSi合金、Te化物、ならびにTi、Zr、Nb、Ta、Cr、Mo、W、SnTe、およびPbTe等の結晶性の金属、半金属及び半導体材料から選択される材料を使用することが好ましい。光吸収補正層7の膜厚は、20nm〜80nmであることが好ましく、30nm〜50nmであることがより好ましい。
反射層8は、光学的には記録層4に吸収される光量を増大させ、熱的には記録層4で生じた熱を速やかに拡散させて記録層4を急冷し、非晶質化し易くする機能を有する。さらに、反射層8は、記録層4および誘電体層2および6を含む多層膜を使用環境から保護する。反射層8の材料としては、例えば、Al、Au、Ag、およびCu等の熱伝導率の高い単体金属材料が挙げられる。反射層8は、その耐湿性を向上させる目的で、ならびに/あるいは熱伝導率または光学特性(例えば、光反射率、光吸収率または光透過率)を調整する目的で、上記の金属材料から選択される1つまたは複数の元素に、他の1つまたは複数の元素を添加した材料を使用して形成してよい。具体的には、Al−Cr、Al−Ti、Ag−Pd、Ag−Pd−Cu、Ag−Pd−Ti、またはAu−Cr等の合金材料を用いることができる。これらの材料は何れも耐食性に優れ且つ急冷機能を有する優れた材料である。同様の目的は、反射層8を2以上の層で形成することによっても達成され得る。反射層8の厚さは50〜180nmであることが好ましく、60nm〜100nmであることがより好ましい。
図示した情報記録媒体25において、接着層9は、ダミー基板10を反射層8に接着するために設けられる。接着層9は、耐熱性及び接着性の高い材料、例えば、紫外線硬化性樹脂等の接着樹脂を用いて形成してよい。具体的には、アクリル樹脂を主成分とする材料またはエポキシ樹脂を主成分とする材料で、接着層9を形成してよい。また、必要に応じて、接着層9を形成する前に、紫外線硬化性樹脂よりなる、厚さ5〜20μmの保護層を反射層8の表面に設けてもよい。接着層9の厚さは好ましくは15〜40μmであり、より好ましくは20〜35μmである。
ダミー基板10は、情報記録媒体25の機械的強度を高めるとともに、第1の誘電体層2から反射層8までの積層体を保護する。ダミー基板10の好ましい材料は、基板1の好ましい材料と同じである。ダミー基板10を貼り合わせた情報記録媒体25において、機械的な反り、および歪み等が発生しないように、ダミー基板10と基板1は、実質的に同一材料で形成され、同じ厚さを有することが好ましい。
実施の形態1の情報記録媒体は、1つの記録層を有する片面構造ディスクである。本発明の情報記録媒体は、2つの記録層を有してよい。例えば、実施の形態1において反射層8まで積層したものを、反射層8同士を対向させて、接着層を介して貼り合わせることによって、両面構造の情報記録媒体が得られる。この場合、2つの積層体の貼り合わせは、接着層を遅効性樹脂で形成し、圧力と熱の作用を利用して実施する。反射層8の上に保護層を設ける場合には、保護層まで形成した積層体を、保護層同士を対向させて貼り合わせることにより、両面構造の情報記録媒体を得る。
続いて、実施の形態1の情報記録媒体25を製造する方法を説明する。情報記録媒体25は、案内溝(グルーブ面23とランド面24)が形成された基板1を成膜装置に配置し、基板1の案内溝が形成された表面に第1の誘電体層2を成膜する工程(工程a)、記録層4を成膜する工程(工程b)、第2の誘電体層6を成膜する工程(工程c)、光吸収補正層7を成膜する工程(工程d)および反射層8を成膜する工程(工程e)を順次実施し、さらに、反射層8の表面に接着層9を形成する工程、およびダミー基板10を貼り合わせる工程を実施することにより、製造される。以下の説明を含む本明細書において、各層に関して、「表面」というときは、特に断りのない限り、各層が形成されたときの露出している表面(厚さ方向に垂直な表面)を指すものとする。
最初に、基板1の案内溝が形成された面に、第1の誘電体層2を成膜する工程aを実施する。工程aは、スパッタリングにより実施される。スパッタリングは、高周波電源を用いて、Arガス雰囲気中またはArガスと酸素との混合ガス雰囲気中で実施する。
工程aで使用されるスパッタリングターゲットとしては、上記の式(110)、即ち、(MO2)n(Cr2O3)100-n(mol%)で表され、MがHfまたはHfとZrであり、nが、20≦n≦80の範囲内にある材料から実質的に成るターゲットを使用できる。このターゲットによれば、上記式(11)で表される材料から実質的に成る層が形成される。
あるいは、スパッタリングターゲットは、式(210)、即ち、(MO2)x(Cr2O3)y(SiO2)100-x-y(mol%)で表され、MがHfまたはHfとZrであり、xおよびyがそれぞれ、20≦x≦70、および20≦y≦60の範囲内にあり、且つ60≦x+y≦90である材料から実質的に成るものであってよい。このターゲットによれば、上記式(21)で表される材料から実質的に成る層が形成される。
あるいは、スパッタリングターゲットは、上記式(220)、即ち、(MSiO4)z(Cr2O3)100-z(mol%)で表され、MがHfまたはHfとZrであり、zが25≦z≦67の範囲内にある材料から実質的に成るものであってよい。このターゲットによれば、式(22)で表される材料から実質的に成る層が形成される。
あるいは、スパッタリングターゲットは、上記式(30)、即ち、(MO2)c(Cr2O3)e(D)f(SiO2)100-c-e-f(mol%)で表され、MがHfまたはHfとZrであり、Dが、ZnS、ZnSeまたはZnOであり、c、eおよびfがそれぞれ、20≦c≦60、および20≦e≦60、10≦f≦40の範囲内にあり、且つ60≦c+e+f≦90である材料から実質的に成るものであってよい。このターゲットによれば、式(3)で表される材料から実質的に成る層が形成される。
あるいは、スパッタリングターゲットは、上記式(310)、即ち、(MSiO4)a(Cr2O3)b(D)100-a-b(mol%)で表され、MがHfまたはHfとZrであり、Dが、ZnS、ZnSeまたはZnOであり、aおよびbがそれぞれ、25≦a≦54、および25≦b≦63の範囲内にあり、且つ50≦a+b≦88である材料から実質的に成るものであってよい。このターゲットによれば、式(31)で表される材料から実質的に成る層が形成される。
次に、工程bを実施して、第1の誘電体層2の表面に、記録層4を成膜する。工程bもまた、スパッタリングにより実施される。スパッタリングは、直流電源を用いて、Arガス雰囲気中、またはArガスとN2ガスの混合ガス雰囲気中で実施する。スパッタリングターゲットは、Ge−Sb−Te、Ge−Sn−Sb−Te、Ge−Bi−Te、Ge−Sn−Bi−Te、Ge−Sb−Bi−Te、Ge−Sn−Sb−Bi−Te、Ag−In−Sb−TeおよびSb−Teのうち、いずれか1つの材料を含むものを使用する。成膜後の記録層4は非晶質状態である。
次に、工程cを実施して、記録層4の表面に、第2の誘電体層6を成膜する。工程cは、工程aと同様に実施される。第2の誘電体層6は、第1の誘電体層2とは、異なる材料から成るスパッタリングターゲットを用いて形成してよい。
次に、工程dを実施して、第2の誘電体層6の表面に、光吸収補正層7を成膜する。工程dにおいては、直流電源または高周波電源を用いて、スパッタリングを実施する。スパッタリングターゲットとして、Ge−Cr、およびGe−Mo等の非晶質Ge合金、Si−CrおよびSi−Mo等の非晶質Si合金、Te化物、ならびにTi、Zr、Nb、Ta、Cr、Mo、W、SnTe、およびPbTe等の結晶性の金属、半金属、および半導体材料から選択される材料から成るものを用いる。スパッタリングは、一般には、Arガス雰囲気中で実施する。
次に、工程eを実施して、光吸収補正層7の表面に、反射層8を成膜する。工程eはスパッタリングにより実施される。スパッタリングは、直流電源または高周波電源を用いて、Arガス雰囲気中で実施する。スパッタリングターゲットとしては、Al−Cr、Al−Ti、Ag−Pd、Ag−Pd−Cu、Ag−Pd−Ti、またはAu−Cr等の合金材料より成るものを使用できる。
上記のように、工程a〜eは、いずれもスパッタリング工程である。したがって、工程a〜eは、1つのスパッタリング装置内において、ターゲットを順次変更して連続的に実施してよい。あるいは、工程a〜eはそれぞれ独立したスパッタリング装置を用いて実施してよい。
反射層8を成膜した後、第1誘電体層2から反射層8まで順次積層した基板1をスパッタリング装置から取り出す。それから、反射層8の表面に、紫外線硬化性樹脂を例えばスピンコート法により塗布する。塗布した紫外線硬化性樹脂に、ダミー基板10を密着させて、紫外線をダミー基板10側から照射して、樹脂を硬化させ、貼り合わせ工程を終了させる。
貼り合わせ工程が終了した後は、必要に応じて初期化工程を実施する。初期化工程は、非晶質状態である記録層4を、例えば半導体レーザを照射して、結晶化温度以上に昇温して結晶化させる工程である。初期化工程は貼り合わせ工程の前に実施してもよい。このように、工程a〜e、接着層の形成工程、およびダミー基板の貼り合わせ工程を順次実施することにより、実施の形態1の情報記録媒体25を製造することができる。
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2として、レーザ光を用いて情報の記録および再生を実施する、光情報記録媒体の別の例を説明する。図2に、その光情報記録媒体の一部断面を示す。
図2に示す情報記録媒体26は、基板1の一方の表面に、第1の誘電体層2、記録層4、第2の界面層105、第2の誘電体層106、光吸収補正層7、および反射層8がこの順に形成され、さらに接着層9でダミー基板10が接着された構成を有する。図2に示す情報記録媒体26は、第1の界面層103を有していない点において、図10に示す従来の情報記録媒体31と相違する。また、情報記録媒体26は、記録層4の上に第2の界面層105を介して第2の誘電体層106が積層されている点において、図1に示す実施の形態1の情報記録媒体25と相違する。情報記録媒体26においては、第1の誘電体層2が、実施の形態1と同様に、Hf/Zr−Cr−O系材料層、またはHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層である。その他、図2において、図1で使用した符号と同じ符号は、同じ要素を表し、図1を参照して説明した材料および方法で形成されるものである。したがって、図1に関連して既に説明した要素については、その詳細な説明を省略する。なお、この形態においては、1つだけの界面層が設けられているが、この界面層は第2の誘電体層106と記録層4との間に位置するため、便宜的に「第2の界面層」と呼んでいる。
この形態の情報記録媒体26は、第2の誘電体層106を、従来の情報記録媒体で使用されていたZnS−20mol%SiO2で形成した構成に相当する。したがって、第2の界面層105は、繰り返しの記録により第2の誘電体層106と記録層4との間で生じる物質移動を防止するために設けられる。第2の界面層105はSi−N、Al−N、Zr−N、Ti−N、Ge−NもしくはTa−N等の窒化物またはこれらを含む窒化酸化物、あるいはSiC等の炭化物で形成される。あるいは、第2の界面層105は、Hf/Zr−Cr−O系材料層、またはHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層であってもよい。あるいは、第2の界面層105は、複数の酸化物を混合して成る、ZrO2−Cr2O3−SiO2系材料層であってもよい。界面層の厚さは1〜10nmであることが好ましく、2〜7nmであることがより好ましい。界面層の厚さが大きいと、基板1の表面に形成された第1の誘電体層2から反射層8までの積層体の光反射率および光吸収率が変化して、記録消去性能に影響を与える。
続いて、実施の形態2の情報記録媒体26を製造する方法を説明する。情報記録媒体26は、基板1の案内溝が形成された表面に第1の誘電体層2を成膜する工程(工程a)、記録層4を成膜する工程(工程b)、第2の界面層105を成膜する工程(工程f)、第2の誘電体層106を成膜する工程(工程g)、光吸収補正層7を成膜する工程(工程d)および反射層8を成膜する工程(工程e)を順次実施し、さらに反射層8の表面に接着層9を形成する工程、およびダミー基板10を貼り合わせる工程を実施することにより、製造される。工程a、b、d、およびeは、実施の形態1に関連して説明したとおりであるから、ここではその説明を省略する。以下、実施の形態1の情報記録媒体の製造において実施されない工程のみ、説明する。
工程fは、記録層4を形成した後で実施され、記録層4の表面に第2の界面層105を成膜する工程である。工程fにおいては、高周波電源を用いて、スパッタリングを実施する。スパッタリングは、例えば、Geを含むスパッタリングターゲットを用いて、ArガスとN2ガスの混合ガス雰囲気中で実施する、反応性スパッタリングであってよい。この反応性スパッタリングによれば、Ge−Nを含む界面層が記録層4の表面に形成される。
次に、工程gを実施して、第2の界面層105の表面に、第2の誘電体層106を成膜する。工程gにおいては、高周波電源を使用し、例えばZnS−20mol%SiO2から成るスパッタリングターゲットを用いて、Arガス雰囲気中、またはArガスとO2ガスの混合ガス雰囲気中で、スパッタリングを実施する。それにより、ZnS−20mol%SiO2から成る層が形成される。その後、ダミー基板10を貼り合わせる工程が終了した後、実施の形態1に関連して説明したように、必要に応じて初期化工程を実施して、情報記録媒体26を得る。
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3として、レーザ光を用いて情報の記録および再生を実施する、光情報記録媒体のさらに別の例を説明する。図3に、その光情報記録媒体の一部断面を示す。
図3に示す情報記録媒体27は、基板1の一方の表面に、第1の誘電体層102、第1の界面層103、記録層4、第2の誘電体層6、光吸収補正層7、および反射層8がこの順に形成され、さらに接着層9でダミー基板10が接着された構成を有する。図3に示す情報記録媒体27は、第2の界面層105を有していない点において、図10に示す従来の情報記録媒体31と相違する。また、情報記録媒体27は、基板1と記録層4の間に第1の誘電体層102と第1の界面層103がこの順に積層されている点において、図1に示す実施の形態1の情報記録媒体25と相違する。情報記録媒体27においては、第2の誘電体層6が、実施の形態1と同様に、Hf/Zr−Cr−O系材料層、またはHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層である。その他、図3において、図1で使用した符号と同じ符号は、同じ要素を表し、図1を参照して説明した材料および方法で形成されるものである。したがって、図1で既に説明した要素については、その詳細な説明を省略する。
この形態の情報記録媒体27は、第1の誘電体層102を、従来の情報記録媒体で使用されていたZnS−20mol%SiO2で形成した構成に相当する。したがって、第1の界面層103は、繰り返しの記録により第1の誘電体層102と記録層4との間で生じる物質移動を防止するために設けられる。第1の界面層103の好ましい材料および厚さは、図2を参照して説明した実施の形態2の情報記録媒体26の第2の界面層105と同じである。したがって、それについての詳細な説明は省略する。
続いて、実施の形態3の情報記録媒体27を製造する方法を説明する。情報記録媒体27は、基板1の案内溝が形成された面に第1の誘電体層102を成膜する工程(工程h)、第1の界面層103を成膜する工程(工程i)、記録層4を成膜する工程(工程b)、第2の誘電体層6を成膜する工程(工程c)、光吸収補正層7を成膜する工程(工程d)および反射層8を成膜する工程(工程e)を順次実施し、さらに反射層8の表面に接着層9を形成する工程、およびダミー基板10を貼り合わせる工程を実施することにより、製造される。工程b、c、d、およびeは、実施の形態1に関連して説明したとおりであるから、ここではその説明を省略する。以下、実施の形態1の情報記録媒体の製造において実施されない工程のみ、説明する。
工程hは、基板1の表面に第1の誘電体層102を成膜する工程である。その具体的な方法は、実施の形態2の製造方法に関連して説明した工程gと同様である。工程iは、第1の誘電体層102の表面に第1の界面層103を成膜する工程である。その具体的な方法は、実施の形態2の製造方法に関連して説明した工程fと同様である。その後、ダミー基板10を貼り合わせる工程が終了した後、実施の形態1に関連して説明したように、必要に応じて初期化工程を実施して、情報記録媒体27を得る。
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4として、レーザ光を用いて情報の記録および再生を実施する、光情報記録媒体のさらに別の例を説明する。図4に、その光情報記録媒体の一部断面を示す。
図4に示す情報記録媒体28は、基板101の一方の表面に反射層8、第2の誘電体層6、記録層4、および第1の誘電体層2をこの順に形成し、さらに接着層9でダミー基板110が接着された構成を有する。この情報記録媒体28は、第1の界面層103および第2の界面層105を有していない点において図10に示す従来の情報記録媒体31と相違する。また、この構成の情報記録媒体は、光吸収補正層7を有していない点において図1に示す構成の情報記録媒体25と相違する。
この構成の情報記録媒体28には、ダミー基板110側からレーザ光12が入射され、それにより情報の記録および再生が実施される。情報記録媒体の記録密度を高くするためには、短波長のレーザ光を使用するとともに、レーザビームをより絞り込んで、記録層に小さな記録マークを形成する必要がある。ビームを絞り込むためには、対物レンズの開口数NAをより大きくすることが必要となる。しかし、NAが大きくなると、焦点位置が浅くなる。そこで、レーザ光が入射する基板を薄くする必要がある。図4に示す情報記録媒体28において、レーザ光が入射される側のダミー基板110は、記録層等を形成する際の支持体として機能する必要がないため、その厚さを小さくすることができる。したがって、この構成によれば、より高密度の記録が可能な大容量情報記録媒体28を得ることができる。具体的には、この構成によれば、波長約405nmの青紫色域のレーザ光を記録再生に使用する、容量が25GBの情報記録媒体を得ることができる。
この情報記録媒体においても、第1および第2の誘電体層2および6は、実施の形態1と同様に、Hf/Zr−Cr−O系材料層、またはHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層である。Hf/Zr−Cr−O系材料層、およびHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層は、反射層等の形成順序および記録容量に関係無く、誘電体層として適用される。Hf/Zr−Cr−O系材料層、およびHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層に含まれる材料は、実施の形態1に関連して説明したとおりであるから、それらについての詳細な説明は省略する。
前述のように、この情報記録媒体28は、短い波長のレーザ光で記録再生するのに適している。したがって、第1および第2の誘電体層2および6の厚さは、例えば、λ=405nmであるときの好ましい光路長から求める。情報記録媒体28の記録マークの再生信号振幅を大きくして信号品質を向上させるために、例えば20%≦Rc且つRa≦5%を満足するように第1の誘電体層2および第2の誘電体層6の光路長ndをマトリクス法に基づく計算により厳密に決定した。その結果、前述のような屈折率を有するHf/Zr−Cr−O系材料層、またはHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層を第1および第2の誘電体層2および6とする場合、第1の誘電体層2の厚さは好ましくは30nm〜100nmであり、より好ましくは50nm〜80nmであることが判った。また、第2の誘電体層6の厚さは、好ましくは3nm〜50nmであり、より好ましくは10nm〜30nmであることが判った。
基板101は、実施の形態1の基板1と同様、透明な円盤状の板である。基板101の反射層等を形成する側の表面には、レーザ光を導くための案内溝が形成されていてもよい。案内溝を形成した場合、実施の形態1に関連して説明したように、レーザ光12に近い側にある面23を便宜的にグルーブ面23と呼び、レーザ光12から遠い側にある面24を便宜的にランド面と呼ぶ。基板101においてグル−ブ面23とランド面24の段差は、10nm〜30nmであることが好ましく、15nm〜25nmであることがより好ましい。また、層を形成しない側の表面は、平滑であることが望ましい。基板101の材料としては、実施の形態1の基板1の材料と同じ材料を挙げることができる。基板101の厚さは、好ましくは1.0〜1.2mm程度である。基板101の好ましい厚さは、実施の形態1の基板1のそれよりも大きい。これは、後述するように、ダミー基板110の厚さが薄いために、基板101で情報記録媒体の強度を確保する必要があることによる。
ダミー基板110は、基板101同様、透明な円盤状の板である。前述のように、図4に示す構成によれば、ダミー基板110の厚さを小さくすることによって、短波長のレーザ光で記録することが可能となる。したがって、ダミー基板110の厚さは、40μm〜110μmであることが好ましい。接着層9とダミー基板110を合わせた厚さが50μm〜120μmであることがより好ましい。
ダミー基板110は薄いので、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィン、またはPMMAのような樹脂で形成することが好ましく、特にポリカーボネートで形成することが好ましい。また、ダミー基板110は、レーザ光12入射側に位置するため、光学的には短波長域における複屈折が小さいものであることが好ましい。
接着層9は、透明な紫外線硬化性樹脂で形成することが好ましい。接着層9の厚さは5〜15μmであることが好ましい。接着層9がダミー基板110の機能を兼ね備え、50μm〜120μmの厚さとなるように形成できれば、ダミー基板110を省略することもできる。
その他、実施の形態1と同一の符号を付した要素は、既に実施の形態1に関連して説明したとおりであるので、その説明を省略する。
この形態の情報記録媒体の変形例においては、例えば、第1の誘電体層のみをHf/Zr−Cr−O系材料層、またはHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層とし、第2の誘電体層をZnS−20mol%SiO2で形成して、第2の誘電体層と記録層との間に第2の界面層を形成し得る。また、この形態の情報記録媒体の別の変形例においては、第2の誘電体層のみをHf/Zr−Cr−O系材料層、またはHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層とし、第1の誘電体層をZnS−20mol%SiO2として、第1の誘電体層と記録層との間に第1の界面層を形成し得る。
続いて、実施の形態4の情報記録媒体28の製造方法を説明する。情報記録媒体28は、案内溝(グルーブ面23とランド面24)が形成された基板101を成膜装置に配置し、基板101の案内溝が形成された表面に反射層8を成膜する工程(工程e)、第2の誘電体層6を成膜する工程(工程c)、記録層4を成膜する工程(工程b)、および第1の誘電体層2を成膜する工程(工程a)を順次実施し、さらに、第1の誘電体層2の表面に接着層9を形成する工程、およびダミー基板110を貼り合わせる工程を実施することにより、製造される。
最初に、工程eを実施して、基板101の案内溝が形成された面に、反射層8を成膜する。工程eを実施する具体的な方法は、実施の形態1に関連して説明したとおりである。次に、工程c、工程b、および工程aをこの順に実施する。工程c、bおよびaを実施する具体的な方法は、実施の形態1に関連して説明したとおりである。この形態の情報記録媒体の製造方法においては、各工程の実施順序が、実施の形態1の情報記録媒体の製造方法におけるそれと異なる。実施の形態1の情報記録媒体を製造する場合と同様に、工程cで使用されるスパッタリングターゲットは、工程aで使用されるスパッタリングターゲットと異なっていてよい。
第1の誘電体層2を成膜した後、反射層8から第1の誘電体層2まで順次積層した基板101を、スパッタリング装置から取り出す。それから、第1の誘電体層2の上に、紫外線硬化性樹脂を例えばスピンコート法により塗布する。塗布した紫外線硬化性樹脂に、ダミー基板110を密着させて、紫外線をダミー基板110側から照射して樹脂を硬化させ、貼り合わせ工程を終了させる。接着層9を、60μm〜120μmの厚さとなるように形成し、これに紫外線を照射することによって、ダミー基板110を貼り合わせる工程を省略することができる。
貼り合わせ工程が終了した後は、必要に応じて初期化工程を実施する。初期化工程の方法は、実施の形態1に関連して説明したとおりである。
(実施の形態5)
本発明の実施の形態5として、レーザ光を用いて記録および再生を実施する、光情報記録媒体のさらに別の例を説明する。図5に、その光情報記録媒体の一部断面を示す。
図5に示す情報記録媒体29は、基板101の一方の表面に第2情報層22、中間層16、および第1情報層21がこの順に形成され、さらに接着層9を介してダミー基板110が積層された構成である。より詳しくは、第2情報層22は、基板101の一方の表面に第2の反射層20、第5の誘電体層19、第2の記録層18、および第4の誘電体層17がこの順に形成されて成る。中間層16は、第4の誘電体層17の表面に形成される。第1情報層21は、この中間層16の表面に、第3の誘電体層15、第1の反射層14、第2の誘電体層6、第1の記録層13、および第1の誘電体層2がこの順に形成されて成る。この形態においても、レーザ光12は、ダミー基板110の側から入射される。また、この形態の情報記録媒体においては、2つの記録層にそれぞれ情報を記録できる。したがって、この構成によれば、上記実施の形態4の2倍程度の容量を有する、情報記録媒体を得ることができる。具体的には、この構成によれば、例えば、波長405nm付近の青紫色域のレーザ光を記録再生に使用する、容量が50GBの情報記録媒体を得ることができる。
第1情報層21における記録再生は、ダミー基板110を通過したレーザ光12によって行われる。第2情報層22における記録再生は、ダミー基板110、第1情報層21および中間層16を通過したレーザ光12によって実施される。
図5に示す形態の情報記録媒体29においても、第5の誘電体層19、第4の誘電体層17、第2の誘電体層6、および第1の誘電体層2はいずれも、Hf/Zr−Cr−O系材料層、またはHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層であることが好ましい。それらの材料層を使用すれば、第1の記録層13と第1の誘電体層2との間、第1の記録層13と第2の誘電体層6との間、第2の記録層18と第4の誘電体層17との間、第2の記録層18と第5の誘電体層19との間の界面層が不要となる。Hf/Zr−Cr−O系材料層、またはHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層の具体的な材料は、実施の形態1に関連して説明したとおりであるから、それらについての詳細な説明は省略する。
第5の誘電体層19と第2の誘電体層6は、反射層と記録層との間で断熱層として機能する。そのため、第5および第2の誘電体層19および6は、式(MO2)X(Cr2O3)Y(SiO2)100-X-Y(即ち、式(21))で表される材料、または式(MO2)C(Cr2O3)E(D)F(SiO2)100-C-E-F(即ち、式(3))で表される材料から実質的に成る層であることが好ましい。また、第5および第2の誘電体層19および6の膜厚は、好ましくは3nm〜50nmであり、より好ましくは10nm〜30nmである。
第2情報層22および第1情報層21において、レーザ光12は、第2の記録層18および第1の記録層13に到達する前に、第4の誘電体層17および第1の誘電体層2に入射される。そのため、第4および第1の誘電体層17および2は、透明で、且つ熱伝導率の低い材料から成ることが望ましい。そのような材料は、上記式(21)および式(3)で表される材料である。第4および第1の誘電体層17および2の膜厚は、好ましくは30nm〜100nmであり、より好ましくは50nm〜80nmである。
このように、図5に示すような片面2層構造の情報記録媒体においても、記録層の両側に位置する誘電体層をHf/Zr−Cr−O系材料層、またはHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層とすることによって、誘電体層を界面層を介することなく、記録層と直接的に接するように形成できる。したがって、本発明によれば、片面2層構造の情報記録媒体についても、全体を構成する層の数を減らすことができる。また、誘電体層を上記特定の材料層とすることにより、屈折率や媒体の記録感度を調整して、情報記録媒体の種類に応じて最適化することができる。
第3の誘電体層15は、中間層16と第1の反射層14との間に位置する。第3の誘電体層15は、第1情報層21の光透過率を高める機能を有するよう、透明で、高い屈折率を有することが好ましい。また、第3の誘電体層15は、反射層と同様に、第1の記録層13の熱を速やかに拡散させる機能を有するように、熱伝導率がより高い材料から成ることが好ましい。これらの条件を満足する材料は、TiO2を含むTiO2系材料およびCr2O3を含むCr2O3系材料である。TiO2系材料(またはCr2O3系材料)は、具体的には、TiO2(またはCr2O3)を50モル%以上含む材料である。TiO2系材料(またはCr2O3系材料)は、TiO2(またはCr2O3)を好ましくは80モル%以上含み、より好ましくは90モル%以上含む。また、(MO2)N(Cr2O3)100-N(即ち、上記式(11))で表される材料も好ましく用いられる。式(11)で表される材料で第3の誘電体層15を形成する場合は、Cr2O3の割合が40mol%以上となる条件で、組成を変化させることにより、熱伝導率を調整することが好ましい。TiO2系材料、Cr2O3系材料、または(MO2)N(Cr2O3)100-Nを使用すると、2.4〜2.8の大きな屈折率を有する層が得られる。第3の誘電体層15の膜厚は10nm〜30nmであることが好ましい。
基板101は、実施の形態4の基板101と同様のものである。したがって、ここでは、基板101に関する詳細な説明を省略する。
第2の反射層20は、実施の形態1の反射層8と同様のものである。また、第2の記録層18は、実施の形態1の記録層4と同様のものである。したがって、ここでは、第2の反射層20および第2の記録層18に関する詳細な説明を省略する。
中間層16は、第1情報層21におけるレーザ光の焦点位置と、第2情報層22における焦点位置とが有意に異なるようにするために設けられる。中間層16には、必要に応じて第1情報層21側に案内溝が形成されている。中間層16は、紫外線硬化性樹脂で形成することができる。中間層16は、レーザ光12が効率よく第2情報層22に到達するよう、記録再生する波長λの光に対して透明であることが望ましい。中間層16の厚さは、対物レンズの開口数NAとレーザ光波長λにより決定される焦点深度ΔZ以上であることを要する。ΔZは、ΔZ=λ/{2(NA)2}で近似できる。λ=405nm、NA=0.85の時、ΔZ=0.28μmとなる。さらに、この値の±0.3μmの範囲内は焦点深度の範囲に含まれるので、中間層16は、0.8μm以上の厚さであることを要する。また、中間層16の厚さは、第1情報層21の第1の記録層13および第2情報層22の第2の記録層18間の距離が、対物レンズの集光可能な範囲内にあるように、ダミー基板110の厚さと合わせて、使用する対物レンズについて許容できる基板厚公差内にすることが好ましい。したがって、中間層の厚さは10μm〜40μmであることが好ましい。
中間層16は、必要に応じて樹脂層を複数層、積層して構成してよい。具体的には、第4の誘電体層17を保護する層と、案内溝を有する層との2層構成にしてよい。
第1の反射層14は、第1の記録層13の熱を速やかに拡散させる機能を有する。また、第2情報層22を記録再生する際には、第1情報層21を透過したレーザ光12を使用するので、第1情報層21は全体として高い光透過率を有する必要があり、好ましくは、45%以上の光透過率を有する。そのため、第1の反射層14は、第2の反射層20と比較して、その材料および厚さが限定される。第1の反射層14の光吸収を少なくするために、第1の反射層14は、厚さを薄くして、小さい消衰係数、および大きい熱伝導率を有することが望ましい。具体的には、第1の反射層14は、好ましくは、Agを含む合金で、膜厚が5nm以上15nm以下となるように形成される。
第1の記録層13もまた、第1情報層21の高い光透過率を確保するために、第2の記録層18と比較して、その材料および膜厚が限定される。第1の記録層13は、好ましくは、その結晶相における透過率とその非晶質相における透過率の平均が45%以上になるように形成する。そのため、第1の記録層13の膜厚は7nm以下とすることが好ましい。第1の記録層13を構成する材料は、このように薄い膜厚であっても、溶融急冷によって良好な記録マークが形成され、品質の高い信号が再生できること、ならびに昇温徐冷により記録マークを消去できることを確保し得るように、選択される。具体的には、可逆的相変態材料であるGeTe−Sb2Te3系材料のようなGe−Sb−Te、またはGeTe−Sb2Te3系材料のGeの一部をSnで置換したGe−Sn−Sb−Teで、第1の記録層13を形成することが好ましい。GeTe−Bi2Te3系材料のようなGe−Bi−Te、またはGe−Bi−TeのGeの一部をSnで置換したGe−Sn−Bi−Teを用いることもできる。
接着層9は、実施の形態4の接着層9と同様、透明な紫外線硬化性樹脂で形成することが好ましい。接着層9の厚さは5〜15μmであることが好ましい。
ダミー基板110は、実施の形態4のダミー基板110と同様のものである。したがって、ここではダミー基板に関する詳細な説明を省略する。また、この形態においても、接着層9がダミー基板110の機能を兼ね備え、50μm〜120μmの厚さとなるように形成できれば、ダミー基板110を省略することもできる。
この形態の情報記録媒体においては、第1の誘電体層2、第2の誘電体層6、第4の誘電体層17、および第5の誘電体層19のうち、1つの誘電体層のみがHf/Zr−Cr−O系材料層、またはHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層であってよい。あるいは、2つ又は3つの誘電体層がそれぞれ、Hf/Zr−Cr−O系材料層、またはHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層であってよい。1つの誘電体層がこれら2つの材料層のいずれか1つである場合には、少なくとも1つの界面層が不要となり、2つの誘電体層がこれら2つの材料層のいずれか1つである場合には、少なくとも2つの界面層が不要となる。したがって、この形態の情報記録媒体においては、最大で4つの界面層を無くすことができる。Hf/Zr−Cr−O系材料層等でない誘電体層と記録層との間には必要に応じて、記録層と誘電体層との間の物質移動を防止するための界面層を設けてよい。
以上において、記録層を有する情報層を2つ有する構成の情報記録媒体を説明した。複数の記録層を有する情報記録媒体は、この構成に限定されず、情報層を3つ以上含む構成とすることも可能である。また、図示した形態の変形例は、例えば2つの情報層のうち、一つを可逆的相変態を生じる記録層を有する情報層とし、一つを非可逆的相変態を生じる記録層を有する情報層としたものである。
また、情報層を3つ有する情報記録媒体においては、3つの情報層のうち一つを再生専用の情報層とし、一つを可逆的相変態を生じる記録層を有する情報層とし、一つを非可逆的相変態を生じる記録層を有する情報層とすることも可能である。このように、情報層を2以上有する情報記録媒体には、種々の形態のものがある。いずれの形態においても、誘電体層をHf/Zr−Cr−O系材料層、またはHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層とすることによって、記録層と誘電体層との間に界面層を設ける必要を無くすことができる。情報層を2以上有する情報記録媒体においても、記録層と接する誘電体層は、Hf−Zr−Cr−Zn−O系材料層としてよい。
続いて、実施の形態5の情報記録媒体29を製造する方法を説明する。情報記録媒体29は、基板101に第2の反射層20を成膜する工程(工程j)、第5の誘電体層19を成膜する工程(工程k)、第2の記録層18を成膜する工程(工程l)、および第4の誘電体層17を成膜する工程(工程m)を順次実施した後、第4の誘電体層17の表面に中間層16を形成する工程を実施し、それから中間層16の表面に第3の誘電体層15を成膜する工程(工程n)、第1の反射層14を成膜する工程(工程o)、第2の誘電体層6を成膜する工程(工程p)、第1の記録層13を成膜する工程(工程q)、および第1の誘電体層2を成膜する工程(工程r)を順次実施し、さらに、第1の誘電体層2の表面に接着層9を形成する工程、およびダミー基板110を貼り合わせる工程を実施することにより、製造される。
工程j〜mは、第2情報層22を形成する工程に相当する。工程jは、基板101の案内溝が形成された面に、第2の反射層20を成膜する工程である。工程jは、実施の形態1の工程eと同様にして実施される。次に、工程kを実施して、第2の反射層20の表面に、第5の誘電体層19を成膜する。工程kは、実施の形態1の工程cと同様にして実施される。次に、工程lを実施して、第5の誘電体層19の表面に、第2の記録層18を成膜する。工程lは、実施の形態1の工程bと同様にして実施される。最後に、工程mを実施して、第2の記録層18の表面に、第4の誘電体層17を成膜する。工程mは、実施の形態1の工程aと同様にして実施される。
工程j〜mにより第2情報層22を形成した基板101を、スパッタリング装置から取り出し、中間層16を形成する。中間層16は次の手順で形成される。まず、第4の誘電体層17の表面に、紫外線硬化性樹脂を例えばスピンコートにより塗布する。次に、中間層に形成すべき案内溝と相補的である凹凸を有するポリカーボネート基板の凹凸形成面を、紫外線硬化性樹脂に密着させる。その状態で紫外線を照射して樹脂を硬化させた後、案内溝が形成されたポリカーボネート基板を剥離する。それにより、当該凹凸に相補的な形状の案内溝が紫外線硬化性樹脂に形成されて、図示するような案内溝を有する中間層16が形成される。別法において、中間層16は、第4の誘電体層17を保護する層を紫外線硬化性樹脂で形成し、その上に案内溝を有する層を形成することにより、形成してよい。その場合、得られる中間層は2層構造である。あるいは、中間層は、3以上の層を積層して構成してよい。
中間層16まで形成した基板101を再びスパッタリング装置に配置して、中間層16の表面に第1情報層21を形成する。第1情報層21を形成する工程は、工程n〜rに相当する。
工程nは、中間層16の案内溝を有する面に、第3の誘電体層15を成膜する工程である。工程nにおいては、高周波電源を使用し、TiO2系材料またはCr2O3系材料から成るスパッタリングターゲットを用いて、Arガス雰囲気中またはArガスとO2ガスの混合ガス雰囲気中で、スパッタリングを実施する。あるいは、工程nにおいては、HfO2およびCr2O3の混合物またはHfO2とZrO2とCr2O3の混合物から成るスパッタリングターゲットを用いて、Arガス雰囲気中で、スパッタリングを実施してよい。あるいは、工程nにおいては、TiまたはCrから成るスパッタリングターゲットを用いて、ArガスとO2ガスの混合ガス雰囲気中にて反応性スパッタリングを実施してよい。
次に、工程oを実施して、第3の誘電体層15の表面に第1の反射層14を成膜する。工程oにおいては、直流電源を使用し、Agを含む合金のスパッタリングターゲットを用いて、Arガス雰囲気中でスパッタリングを実施する。
次に、工程pを実施して、第1の反射層14の表面に第2の誘電体層6を成膜する。工程pは、工程kと同様にして実施される。
次に、工程qを実施して、第2の誘電体層6の表面に第1の記録層13を成膜する。工程qにおいては、直流電源を使用し、Ge−Sb−Te、Ge−Sn−Sb−Te、Ge−Bi−Te、Ge−Sn−Bi−Te、Ge−Sb−Bi−Te、およびGe−Sn−Sb−Bi−Teから選択されるいずれか1つの材料を含むスパッタリングターゲットを用いて、Arガス雰囲気中またはArガスとN2ガスの混合ガス雰囲気中でスパッタリングを実施する。
次に、工程rを実施して、第1の記録層13の表面に第1の誘電体層2を成膜する。工程rは工程mと同様にして実施される。このように、工程n〜rを順次実施して、第1情報層21を形成する。
第1情報層21まで形成した基板101をスパッタリング装置から取り出す。それから、第1の誘電体層2の表面に、紫外線硬化性樹脂を例えばスピンコート法により塗布する。塗布した紫外線硬化性樹脂に、ダミー基板110を密着させて、紫外線をダミー基板110側から照射して樹脂を硬化させ、貼り合わせ工程を終了させる。実施の形態5の情報記録媒体の製造方法においても、実施の形態4の情報記録媒体の製造方法と同様にして、ダミー基板110を貼り合わせる工程を省略することもできる。
貼り合わせ工程が終了した後は、必要に応じて、第2情報層22および第1情報層21の初期化工程を実施する。初期化工程は、中間層を形成する前もしくは後に、第2情報層22について実施し、ダミー基板110の貼り合わせ工程の前もしくは後に、第1情報層21について実施してよい。初期化工程を実施する方法は、実施の形態1に関連して説明したとおりである。
(実施の形態6)
本発明の実施の形態6として、レーザ光を用いて情報の記録および再生を実施する情報記録媒体のさらに別の例を説明する。図6に、その光情報記録媒体の一部断面を示す。
図6に示す情報記録媒体30は、基板1の一方の表面に、第1の誘電体層102、第1の界面層3、記録層4、第2の界面層5、第2の誘電体層106、光吸収補正層7、および反射層8がこの順に形成され、さらに接着層9でダミー基板10が接着された構成を有する。図6に示す情報記録媒体30においては、第1および第2の界面層3および5を、Hf/Zr−Cr−O系材料層、またはHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層としている。その他、図6において、図1で使用した符号と同じ符号は、同じ要素を表し、図1を参照して説明した材料および方法で形成されるものである。したがって、図1を参照して既に説明した要素については、その詳細な説明を省略する。
この形態の情報記録媒体は、第1および第2の誘電体層102および106を、従来の情報記録媒体で使用されていたZnS−20mol%SiO2で形成した構成に相当する。このような構成において、Hf/Zr−Cr−O系材料層またはHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層は、第1および第2の界面層3および5として使用できる。第1および第2の界面層3および5の好ましい材料は、実施の形態1の第1および第2の誘電体層2および6のそれと同じである。したがって、それらについての詳細な説明は省略する。第1および第2の界面層3および5の厚さは、記録消去性能に影響を与えないように、1〜10nmであることが好ましく、約2〜7nmであることがより好ましい。Hf/Zr−Cr−O系材料層またはHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層である界面層は、従来のGeを含む窒化物から成る界面層と比較して、材料コストが安価である、消衰係数が小さい(透明性が高い)、ならびに融点が高く熱的に安定であるといった利点を有する。
続いて、実施の形態6の情報記録媒体30を製造する方法を説明する。情報記録媒体30は、基板1の案内溝が形成された面に第1の誘電体層102を成膜する工程(工程h)、第1の界面層3を成膜する工程(工程s)、記録層4を成膜する工程(工程b)、第2の界面層5を成膜する工程(工程t)、第2の誘電体層106を成膜する工程(工程g)、光吸収補正層7を成膜する工程(工程d)および反射層8を成膜する工程(工程e)を順次実施し、さらに反射層8の表面に接着層9を形成する工程、およびダミー基板10を貼り合わせる工程を実施することにより、製造される。工程b、dおよびeは、実施の形態1に関連して説明したとおりであり、工程gは実施の形態2に関連して説明したとおりであり、工程hは実施の形態3に関連して説明したとおりであるから、ここでは、その説明を省略する。
工程sは、第1の誘電体層102の表面に第1の界面層3を成膜する工程である。工程sは、実施の形態1の工程aと同様にして実施される。工程tは、記録層4の表面に第2の界面層5を成膜する工程である。工程tは、実施の形態1の工程cと同様にして実施される。
以上、図1〜図6を参照して、本発明の情報記録媒体の実施形態として、レーザ光で記録再生する光情報記録媒体を説明した。本発明の光情報記録媒体はこれらの形態に限定されない。本発明の光情報記録媒体は、Hf/Zr−Cr−O系材料層またはHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層を、構成層の1つとして、好ましくは記録層と接するように設ける限りにおいて、任意の形態をとりうる。また、本発明の光情報記録媒体は、種々の波長で記録するのに適している。したがって、本発明の光情報記録媒体は、例えば、波長630〜680nmのレーザ光で記録再生するDVD−RAMまたはDVD−R、または波長400〜450nmのレーザ光で記録再生する大容量光ディスク等であってよい。
本発明の情報記録媒体は、再生専用の媒体であってよい。そのような媒体は、通常、基板に情報に対応する信号ピットを形成し、その上に反射層を形成することによって作製され、情報の再生はピットとその他の部分との反射光の光路差を読みとって行う。したがって、再生専用の媒体には、図1〜図6で示すような記録層は存在しない。そのような媒体において、Hf/Zr−Cr−O系材料層は、例えば、反射層の片方の面または両方の面に接するように設けて、反射層を水分から保護する、および/または反射層の反射率を調節するために用いることができる。
(実施の形態7)
本発明の実施の形態7として、電気的エネルギーを印加して情報の記録および再生を実施する情報記録媒体の一例を示す。図8に、その情報記録媒体の一部断面を示す。
図8は、基板201の表面に、下部電極202、記録部203および上部電極204がこの順に形成されたメモリ207である。メモリ207の記録部203は、円柱状の記録層205および記録層205を取り囲む誘電体層206を含む構成を有する。先に図1〜図6を参照して説明した光情報記録媒体とは異なり、この形態のメモリ207においては、記録層205および誘電体層206は、同一面上に形成され、それらは積層された関係にない。しかし、記録層205および誘電体層206はともに、メモリ207においては、基板201、下部および上部電極202および204を含む積層体の一部を構成しているから、それぞれ「層」と呼び得るものである。したがって、本発明の情報記録媒体には、記録層と誘電体層が同一面上にある形態のものも含まれる。
基板201として、具体的には、Si基板などの半導体基板、またはポリカーボネート基板、SiO2基板およびAl2O3基板などの絶縁性基板を、基板201として使用できる。下部電極202および上部電極204は、適当な導電材料で形成される。下部電極202および上部電極204は、例えば、Au、Ag、Pt、Al、Ti、WおよびCrならびにこれらの混合物のような金属をスパッタリングすることにより形成される。
記録部203を構成する記録層205は、電気的エネルギーを印加することによって、相変化する材料から成り、相変化部と称することもできる。記録層205は、電気的エネルギーを印加することによって生じるジュール熱によって、結晶相と非晶質相との間で相変化する材料で形成される。記録層205の材料としては、例えば、Ge−Sb−Te、Ge−Sn−Sb−Te、Ge−Bi−Te、Ge−Sn−Bi−Te、Ge−Sb−Bi−TeおよびGe−Sn−Sb−Bi−Te系材料が使用され、より具体的には、GeTe−Sb2Te3系又はGeTe−Bi2Te3系材料が使用される。
記録部203を構成する誘電体層206は、上部電極204および下部電極202との間に電圧を印加することによって、記録層205に流れた電流が周辺部に逃げることを防止し、記録層205を電気的および熱的に絶縁する機能を有する。したがって、誘電体層206は、断熱部と称することもできる。誘電体層206は、Hf/Zr−Cr−O系材料層、またはHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層であり、具体的には、式(1)、(11)、(2)、(21)、(22)、(3)もしくは(31)で表される材料から実質的に成る層である。Hf/Zr−Cr−O系材料層およびHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層は、高融点であること、加熱された場合でも材料層中の原子が拡散しにくいこと、ならびに熱伝導率が低いことから、好ましく用いられる。
このメモリ207については、後述の実施例において、その作動方法とともにさらに説明する。
(試験1)
まず、本発明の情報記録媒体の製造方法において用いられるHf−Cr−O系スパッタリングターゲットの公称組成(換言すれば、供給に際してターゲットメーカーが公に表示している組成)、その分析組成、およびこのターゲットを用いて得られるHf−Cr−O系材料層の分析組成の関係について試験により確認した。
本試験では、Hf−Cr−O系材料の1つであるHfO
2−Cr
2O
3系材料から成るスパッタリングターゲットの組成分析を行い、その公称組成と分析組成との相違を調べた。より詳細には、式(110)においてMがHfである下記の式:
で公称組成が表記され、nの値の異なる(n=20および80)2種類のスパッタリングターゲットを粉末状にし、X線マイクロアナライザ−法により組成分析を行った。この結果、スパッタリングターゲットの分析組成が、化合物基準(本試験では酸化物基準)の式(110)ではなく、元素基準の式(10):
で得られた。得られたターゲットの分析組成を表1に示す。さらに、この公称組成に基づいて、元素基準での換算組成(原子%)を理論計算により求めた。計算した換算組成(原子%)を表1に付記する。
表1に示すように、(HfO2)n(Cr2O3)100-n(mol%)の式(110)により公称組成が表記されるスパッタリングターゲットの粉末を分析した結果、n=20のターゲットについてHf3.9Cr35.1O61(原子%)、n=80のターゲットについてHf23.7Cr12O64.3(原子%)という分析組成が得られた。これら分析組成は公称組成(mol%)の換算組成(原子%)とほぼ等しかった。従って、(HfO2)n(Cr2O3)100-n(mol%)の式(110)により表記する場合に、nが20≦n≦80を満たすターゲット組成は、HfJCrKO100-J-K(原子%)の式(10)により表記する場合に、JおよびKが、3≦J≦24、11≦K≦36、34≦J+K≦40を満たすことがわかる。
さらに、上記2種の公称組成(mol%)を有するスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法により誘電体層としてHf−Cr−O系材料層を形成し、この誘電体層をX線マイクロアナライザ−法により組成分析した。この結果、誘電体層の分析組成が、酸化物基準の式(11):
ではなく、元素基準の式(1):
で得られた。誘電体層(Hf−Cr−O系材料層)の分析組成を表1に示す。
本試験において、誘電体層は、表1に示す公称組成を有するスパッタリングターゲット(直径100mm、厚み6mm)を一般的な成膜装置(スパッタリング装置)に取り付け、0.13Paの圧力下、Arガス(100%)の雰囲気中で、高周波電源を用いて500Wのパワーでスパッタリングすることによって、Si基板上に500nmの厚さで形成した。
(HfO2)n(Cr2O3)100-n(mol%)の式(110)によって表記されるスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法により形成した誘電体層の分析組成は、スパッタリングターゲットの換算組成および分析組成のいずれにも極めて近かった。
よって、誘電体層の分析組成の式(1)におけるQおよびRは、スパッタリングターゲットの分析組成の式(10)におけるJおよびKと同様に、3≦Q≦24、11≦R≦36、34≦Q+R≦40を満たすことが望ましい。しかしながら、誘電体層の組成は、成膜装置の構造や成膜条件、スパッタリングターゲットの大きさ、雰囲気ガスの組成等により、同じスパッタリングターゲットをスパッタリングしても違いが生じ得る。このような可能性を考慮した結果、上記式(1)におけるQおよびRは、0<Q≦30、7<R≦37、20≦Q+R≦60を満たすことが好ましく、より好ましくは3≦Q≦24、11≦R≦36、34≦Q+R≦40を満たす。
また、誘電体層の分析により検出されたHfおよびCrは、一般的には、それぞれHfO2およびCr2O3の形態で誘電体層にて安定に存在していると考えられる。よって、本試験のようにスパッタリングターゲットの分析により検出されたHfおよびCrの含有量と誘電体層の分析により検出されたHfおよびCrの含有量とがほぼ等しい場合、スパッタリングターゲットの公称組成(mol%)は、該スパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法により形成された誘電体層の組成(mol%)と同様であると考えられる。この結果、(HfO2)n(Cr2O3)100-n(mol%)の式(110)で公称組成が表記されるスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法により形成した誘電体層(Hf−Cr−O系材料層)は、(HfO2)N(Cr2O3)100-N(mol%)の式(11)で表記され、式(11)におけるNは、式(110)におけるnと実質的に同じであると考えられる。
(試験2)
本試験では、Hf−Cr−O系材料の1つであるHfO
2−Cr
2O
3−SiO
2系材料から成るスパッタリングターゲットの組成分析を行い、試験1と同様に、その公称組成と分析組成との相違を調べた。より詳細には、式(210):
で公称組成が表記され、xおよびyの値の異なる(x=20且つy=60;x=70且つy=20;およびx=30且つy=30)3種類のスパッタリングターゲットを粉末状にし、試験1と同様に分析した。この結果、スパッタリングターゲットの分析組成が、酸化物基準の式(210)ではなく、元素基準の式(20):
で得られた。得られたターゲットの分析組成を表2に示す。また、試験1と同じく、スパッタリングターゲットの公称組成に基づいて計算した換算組成(原子%)を表2に付記する。尚、表2に示す換算組成において、全ての元素の割合の合計は必ずしも100%になっていないが、換算組成は適宜四捨五入して計算して得たためである。
表2に示すように、(HfO2)x(Cr2O3)y(SiO2)100-x-y(mol%)の式(210)により公称組成が表記されるスパッタリングターゲットの粉末を分析した結果、x=20且つy=60のターゲットについてHf5.0Cr28.3Si5.1O61.6(原子%)、x=70且つy=20のターゲットについてHf20.9Cr12.0Si2.4O64.7(原子%)、x=30且つy=30のターゲットについてHf7.9Cr16.5Si11.3O64.3(原子%)という分析組成が得られた。これら分析組成は公称組成(mol%)の換算組成(原子%)とほぼ等しかった。従って、(HfO2)x(Cr2O3)y(SiO2)100-x-y(mol%)の式(210)により表記する場合に、xおよびyが、60≦x+y≦90、20≦x≦70および20≦y≦60を満たすターゲット組成は、HfGCrHSiLO100-G-H-L(原子%)の式(20)により表記する場合に、G、HおよびLが、4≦G≦21、11≦H≦30、2≦L≦12、34≦G+H+L≦40を満たすことがわかる。
さらに、上記3種の公称組成(mol%)を有するスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法により誘電体層としてHf−Cr−O系材料層を形成し、この誘電体層を、試験1と同様に組成分析した。この結果、誘電体層の分析組成が、酸化物基準の式(21):
ではなく、元素基準の式(2):
で得られた。誘電体層(Hf−Cr−O系材料層)の分析組成を表2に示す。
本試験において、誘電体層は、表2に示す公称組成を有するスパッタリングターゲットを試験1と同様の条件でスパッタリングすることによって、炭素(C)基板上に500nmの厚さで形成した。
(HfO2)x(Cr2O3)y(SiO2)100-x-y(mol%)の式(210)によって表記されるスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法により形成した誘電体層の分析組成は、試験1の場合と同様に、スパッタリングターゲットの換算組成および分析組成のいずれにも極めて近かった。
よって、誘電体層の分析組成の式(2)におけるU、VおよびTは、スパッタリングターゲットの分析組成の式(20)におけるG、HおよびLと同様に、4≦U≦21、11≦V≦30、2≦T≦12、34≦U+V+T≦40を満たすことが望ましい。しかしながら、試験1の場合と同様の可能性を考慮した結果、上記式(2)におけるU、VおよびTは、0<U≦30、7<V≦37、0<T≦14、20≦U+V+T≦60を満たすことが好ましく、より好ましくは4≦U≦21、11≦V≦30、2≦T≦12、34≦U+V+T≦40を満たす。
また、誘電体層の分析により検出されたHf、CrおよびSiは、一般的には、それぞれHfO2、Cr2O3およびSiO2の形態で誘電体層にて安定に存在していると考えられる。よって、試験1と同様の考察により、(HfO2)x(Cr2O3)y(SiO2)100-x-y(mol%)の式(210)で公称組成が表記されるスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法により形成した誘電体層(Hf−Cr−O系材料層)は、(HfO2)X(Cr2O3)Y(SiO2)100-X-Y(mol%)の式(21)で表記され、式(21)におけるXおよびYは、式(210)におけるxおよびyと実質的に同じであると考えられる。
試験1および2の結果によれば、スパッタリングターゲットの公称組成から得た換算組成は分析組成に極めて近く、また、本発明者らが採用した条件でHf−Cr−O系材料層を形成する限り、誘電体層の分析組成にも近かったので、スパッタリングターゲットの換算組成(原子%)を、該ターゲットを用いたスパッタリングにより形成した誘電体層の組成(原子%)とみなして実質的に差し支えない。また、本発明者らが採用した条件でHf−Cr−O系材料層を形成する限り、スパッタリングターゲットの公称組成(mol%)を、誘電体層の組成(mol%)とみなして実質的に差し支えない。
さらに、試験1および2ではHf−Cr−O系材料層について試験したが、Hf−Cr−Zn−O系材料層、Hf−Zr−Cr−O系材料層およびHf−Zr−Cr−Zn−O系材料層についてもこれと同様であると考えられる。
従って、以下の実施例においては、スパッタリングターゲットの組成を公称組成(mol%)で表し、特に言及しない限り、スパッタリングターゲットおよび該スパッタリングターゲットを用いるスパッタリング法により形成したHf/Zr−Cr−O系材料層またはHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層の組成(mol%)は同じものと考えた。尚、以下の実施例では、スパッタリングターゲットならびにHf/Zr−Cr−O系材料層およびHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層の組成を化合物基準(mol%)でのみ表記するが、当業者であれば化合物基準の組成(mol%)に基づいて換算して元素基準の組成(原子%)を容易に得ることができるであろう。
(実施例1)
実施例1では、本発明を完成するに至るまでの予備試験として、実施の形態1にて図1を参照しながら上述した情報記録媒体25と同様の構造を有し、第1の誘電体層および第2の誘電体層が互いに同じ組成を有する材料から成る情報記録媒体を、これら誘電体層の材料を表3に示すように種々変化させて作製した。
以下、情報記録媒体の作製方法について説明するが、理解を容易にするために、各構成要素の参照番号として図1の情報記録媒体25における構成要素と同じ番号を用いるものとする(尚、後述の実施例の情報記録媒体についてもこれと同様に、対応する情報記録媒体における構成要素と同じ番号を用いるものとする)。
まず、基板1として、深さ56nm、トラックピッチ(基板の主面に平行な面内におけるグルーブ表面およびランド表面の中心間距離)0.615μmの案内溝が片側表面に予め設けられた、直径120mm、厚み0.6mmの円形のポリカーボネート基板を準備した。
この基板1の上に、(ZnS)80(SiO2)20(mol%)の第1の誘電体層2を150nmの厚さで、Ge27Sn8Sb12Te53(原子%)の記録層4を9nmの厚さで、(ZnS)80(SiO2)20(mol%)の第2の誘電体層6を50nmの厚さで、Ge80Cr20(原子%)の光吸収補正層7を40nmの厚さで、Ag−Pd−Cuの反射層8を80nmの厚さで、スパッタリング法により以下のようにして順次成膜した。
第1の誘電体層2を成膜する工程においては、(ZnS)80(SiO2)20(mol%)の組成を有するスパッタリングターゲット(直径100mm、厚み6mm)を成膜装置に取り付け、パワー400Wで、Arガス(97%)とO2ガス(3%)との混合ガスを導入して高周波スパッタリングを行った。スパッタ時の圧力は約0.13Paとした。
記録層4を成膜する工程においては、GeTe−Sb2Te3擬二元系組成のGeの一部をSnで置換したGe−Sn−Sb−Te系材料から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚み6mm)を成膜装置に取り付け、パワー100Wで、Arガス(97%)とN2ガス(3%)との混合ガスを導入して直流スパッタリングを行った。スパッタ時の圧力は約0.13Paとした。
第2の誘電体層6を成膜する工程は、層厚さを変えたこと以外は上記の第1の誘電体層2を成膜する工程と同様にして実施した。これにより、第1の誘電体層2と第2の誘電体層6とは、実質的に同じ組成を有するものとなった。
光吸収補正層7を成膜する工程においては、Ge80Cr20(原子%)の組成を有する材料から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚み6mm)を成膜装置に取り付け、パワー300Wで、Arガス(100%)を導入して直流スパッタリングを行った。スパッタ時の圧力は約0.4Paとした。
反射層8を成膜する工程においては、Ag−Pd−Cuの組成を有する材料から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚み6mm)を成膜装置に取り付け、パワー200Wで、Arガス(100%)を導入して直流スパッタリングを行った。スパッタ時の圧力は約0.4Paとした。
以上のようにして基板1の上に第1の誘電体層2、記録層4、第2の誘電体層6、光吸収補正層7および反射層8を順次成膜して積層体を形成した後、紫外線硬化性樹脂を反射層8の上に塗布し、塗布した紫外線硬化性樹脂の上に、ダミー基板10として直径120mm、厚み0.6mmの円形のポリカーボネート基板を密着させた。そして、ダミー基板10の側から紫外線を照射して樹脂を硬化させた。これにより、硬化した樹脂から成る接着層9を30μmの厚さで形成すると同時に、ダミー基板10を接着層9を介して積層体に貼り合わせた。
ダミー基板10を貼り合わせた後、初期化工程を実施した。初期化工程においては、波長810nmの半導体レーザを使って、情報記録媒体25の記録層4を、半径22〜60mmの範囲の環状領域内でほぼ全面に亘って結晶化させた。これにより初期化工程が終了し、サンプル番号1−1の情報記録媒体25の作製が完了した。
さらに、第1の誘電体層2および第2の誘電体層6の材料が表3に示す材料から成る点を除いてサンプル番号1−1の情報記録媒体25と同様の構成を有する、サンプル番号1−2〜1−19の情報記録媒体25を作製した。これら情報記録媒体25は、第1の誘電体層および第2の誘電体層の成膜工程を変更した点を除いて、上記のサンプル番号1−1の情報記録媒体25の場合と同様にして作製した。
サンプル番号1−2〜1−19の情報記録媒体25を作製するために、第1の誘電体層2および第2の誘電体層6の成膜工程において、SiO2、ZnS、(ZnSe)80(SiO2)20(mol%)、ZnSe、(ZnO)80(SiO2)20(mol%)、ZnO、Cr2O3、(Cr2O3)50(SiO2)50(mol%)、ZrO2、ZrSiO4、(ZrO2)80(SiO2)20(mol%)、Ge90Cr10(原子%)、(Bi2O3)80(SiO2)20(mol%)、TeO2、(TeO2)80(SiO2)20(mol%)、HfO2、HfSiO4、および(HfO2)80(SiO2)20(mol%)の組成を有する材料から成るスパッタリングターゲット(いずれも直径100mm、厚み6mm)をそれぞれ用いた。
また、パワーは、スパッタリングターゲットとして用いる材料の融点等に応じて調節し、具体的には、サンプル番号1−2については1kW、サンプル番号1−3〜1−7についてはサンプル番号1−1と同じく400W、サンプル番号1−8〜1−12および1−17〜1−19については500W、サンプル番号1−13については300W、サンプル番号1−14〜1−16については200Wとした。スパッタ時の圧力は、サンプル番号1−13で約1.33Paとしたが、その他のサンプルではサンプル番号1−1と同じく約0.13Paとした。成膜装置に導入するガスには、サンプル番号1−2および1−14〜1−16についてはサンプル番号1−1と同じくArガス(97%)とO2ガス(3%)との混合ガスを用い、サンプル番号1−3〜1−12および1−17〜19についてはArガス(100%)を用い、サンプル番号1−13については、Arガス(60%)とN2ガス(40%)との混合ガスを用いた。
尚、第1および第2の誘電体層の成膜工程において、サンプル番号1−13の情報記録媒体の場合には混合ガス中のN2がスパッタリングターゲットからスパッタされたGeおよびCrと反応してGe−Cr−Nの誘電体層を形成した。他のサンプルの場合には、成膜された誘電体層は、用いたスパッタリングターゲットと実質的に同じ組成を有するであろうと考えた。
加えて、比較のために、図10に示すような、第1の誘電体層102と記録層4との間および第2の誘電体層106と記録層4との間に、第1の界面層103および第2の界面層105をそれぞれ備える従来の構成の情報記録媒体31を作製した。第1の界面層103および第2の界面層105はいずれもGe−Cr−Nから成る厚さ5nmの層とした。
この従来構成の情報記録媒体31は、第1の界面層103および第2の界面層105を成膜した点を除いてサンプル番号1−1の情報記録媒体と同様の作製条件により作製した。第1の界面層103の成膜工程においては、Ge90Cr10(原子%)の組成を有する材料から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚み6mm)を成膜装置に取り付け、パワー300Wで、Arガス(60%)とN2ガス(40%)との混合ガスを導入して、約1.33Paの圧力下、高周波スパッタリングを行った。この結果、混合ガス中のN2がスパッタリングターゲットからスパッタされたGeおよびCrと反応して、Ge−Cr−Nの層が第1の界面層103として形成された。第2の界面層105の成膜工程もこれと同様の条件で実施した。
以上のようにして得られたサンプル番号1−1〜1−19の情報記録媒体25および比較例(従来構成)の情報記録媒体31について、誘電体層の密着性および情報記録媒体の繰り返し書き換え性能を評価した。後述するように、密着性は剥離の有無により、繰り返し書き換え性能は繰り返し回数により評価した。これらの結果を表3に示す。尚、サンプル番号1−1〜1−19の情報記録媒体25および比較例の情報記録媒体31はいずれも本発明の範囲に属するものでない。
情報記録媒体25における誘電体層の密着性の評価は、高温高湿条件下での剥離の有無に基づいて行った。具体的には、初期化工程後の情報記録媒体25を、温度90℃で相対湿度80%の高温高湿槽に100時間放置した後、記録層とこれに接する誘電体層の間、より詳細には記録層4と第1の誘電体層2の界面および記録層4と第2の誘電体層6の界面の少なくとも一方で剥離が発生していないか、光学顕微鏡を使って目視で調べた。もちろん、剥離の無いものが密着性の評価が高く、剥離の有るものは密着性の評価が低い。
また、情報記録媒体25の繰り返し書き換え性能の評価は、繰り返し回数を指標として行い、繰り返し回数は以下の条件で決定した。
情報記録媒体25に情報を記録するために、情報記録媒体25を回転させるスピンドルモータと、レーザ光12を発する半導体レーザを備えた光学ヘッドと、レーザ光12を情報記録媒体25の記録層4上に集光させる対物レンズとを具備した一般的な構成の情報記録システムを用いた。情報記録媒体25の評価においては、波長660nmの半導体レーザと開口数0.6の対物レンズを使用し、4.7GB容量相当の記録を行った。情報記録媒体25を回転させる線速度は8.2m/秒とした。また、後述の平均ジッタ値を求める際のジッタ値の測定には、タイムインターバルアナライザーを用いた。
まず、繰り返し回数を決定する際の測定条件を決めるために、ピークパワー(Pp)およびバイアスパワー(Pb)を以下の手順で設定した。上記のシステムを用いて、レーザ光12を、高パワーレベルのピークパワー(mW)と低パワーレベルのバイアスパワー(mW)との間でパワー変調しながら情報記録媒体25に向けて照射して、マーク長0.42μm(3T)〜1.96μm(14T)のランダム信号を(グルーブ記録により)記録層4の同一のグルーブ表面に10回記録した。そして、前端間のジッタ値および後端間のジッタ値を測定し、これらの平均値として平均ジッタ値を求めた。バイアスパワーを一定の値に固定し、ピークパワーを種々変化させた各記録条件について平均ジッタ値を測定し、ピークパワーを徐々に増加させて、ランダム信号の平均ジッタ値が13%に達したときのピークパワーの1.3倍のパワーを仮にPp1と決めた。次に、ピークパワーをPp1に固定し、バイアスパワーを種々変化させた各記録条件について平均ジッタ値を測定し、ランダム信号の平均ジッタ値が13%以下となったときの、バイアスパワーの上限値および下限値の平均値をPbに設定した。そして、バイアスパワーをPbに固定し、ピークパワーを種々変化させた各記録条件について平均ジッタ値を測定し、ピークパワーを徐々に増加させて、ランダム信号の平均ジッタ値が13%に達したときのピークパワーの1.3倍のパワーをPpに設定した。このようにして設定したPpおよびPbの条件で記録した場合、例えば10回繰り返し記録において、8〜9%の平均ジッタ値が得られた。システムのレーザパワー上限値を考慮すれば、Pp≦14mW、Pb≦8mWを満足することが望ましい。
繰り返し書き換え性能の指標となる繰り返し回数は、本実施例では平均ジッタ値に基づいて決定した。上記のようにして設定したPpとPbとでレーザ光をパワー変調しながら情報記録媒体25に向けて照射して、マーク長0.42μm(3T)〜1.96μm(14T)のランダム信号を(グルーブ記録により)同一のグルーブ表面に所定回数繰り返して連続記録した後、平均ジッタ値を測定した。平均ジッタ値は、繰り返し回数が1、2、3、5、10、100、200および500回であるときに測定し、繰り返し回数が1000〜10000回の範囲では1000回毎に測定し、繰り返し回数が20000〜100000回の範囲では10000回毎に測定した。平均ジッタ値が13%に達したときを繰り返し書き換えの限界として判断し、このときの繰り返し回数により繰り返し書き換え性能を評価した。もちろん、繰り返し回数が大きいほど繰り返し書き換え性能が高い。情報記録媒体が、コンピュータの外部メモリとして用いられる場合には、繰り返し回数は10万回以上が好ましく、画像音声レコーダ用途であれば1万回以上が好ましい。
表3に示すように、サンプル番号1−1〜1−12の情報記録媒体のうち、剥離が無い(密着性が高い)情報記録媒体(即ち、サンプル番号1−1および1−3〜1−9)については繰り返し回数が100000回に全く満たない(繰り返し書き換え性能が低い)のに対して、剥離が有る(密着性が低い)情報記録媒体(即ち、サンプル番号1−2、1−10〜1−12および1−17〜1−19)については繰り返し回数が100000回を上回る(繰り返し書き換え性能が高い)という傾向が見られた。
また、サンプル番号1−13および1−14の情報記録媒体については、ピークパワー14mW以下では十分な記録マークが形成できず、よって、低記録感度であった。この理由としては、これらサンプルにおける誘電体層の材料の熱伝導率が、他のサンプルのものに比べて高いことが予想された。
また、サンプル番号1−15および1−16の情報記録媒体では書き換えができず、記録時に誘電体層の材料が溶けて記録層に混ざっていた。これは、これらサンプルにおける誘電体層の材料の融点が他の材料のものよりも低いためと考えられる。
これに対して、従来構成の比較例の情報記録媒体(これは界面層を備える)では、剥離が無く、且つ、繰り返し回数も100000回以上であって、密着性および繰り返し書き換え性能が共に高かった。
以上のような予備試験の結果によれば、記録層に接する誘電体層の材料として、酸化物、窒化物、セレン化物、硫化物、またはこれらのいずれかとSiO2とを組み合わせた混合物を用いたサンプル番号1−1〜1−19の情報記録媒体のうち、高い密着性および高い繰り返し書き換え性能を同時に満足するものは存在しなかった。しかしながら、本実施例で明らかになったことは、HfO2またはZrO2を含む材料を誘電体層の材料に用いた情報記録媒体(サンプル番号1−10〜1−12および1−17〜1−19)は繰り返し書き換え性能に優れており、ZnS、ZnO、ZnSe、Cr2O3を含む材料を誘電体層の材料に用いた情報記録媒体(サンプル番号1−1および1−3〜1−9)は記録層との密着性に優れていることであった。特に、Cr2O3から成る材料を誘電体層の材料に用いた情報記録媒体(サンプル番号1−8)では、繰り返し書き換え性能について10000回の書き換え回数が得られていることから、HfO2とCr2O3との混合物を誘電体層材料とすることにより、高い密着性および高い繰り返し書き換え性能を同時に達成することが期待できた。
(実施例2)
実施例2では、高い密着性および高い繰り返し書き換え性能を同時に達成することを目的として、密着性に優れた材料と繰り返し書き換え性能に優れた材料との混合物を誘電体層の材料に用いた情報記録媒体を作製した。具体的には、実施例1の酸化物、セレン化物、硫化物のうち2つを組み合わせた混合物(表4を参照のこと)を誘電体層の材料とした。本実施例においても、実施例1と同様に、第1の誘電体層および第2の誘電体層が互いに同じ組成を有する材料から成る情報記録媒体25を、これら誘電体層の材料を表4に示すように種々変化させて作製した。
本実施例の情報記録媒体は、第1および第2の誘電体層の材料が表4に示す材料から成る点を除いて、実施例1の情報記録媒体25と同様の構成とし、第1および第2の誘電体層の成膜工程を変更した点を除いてこれと同様にして作製した。サンプル番号2−1〜2−8の情報記録媒体を作製するために、第1の誘電体層および第2の誘電体層の成膜工程において、表4に示す所定の組成を有する材料から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚み6mm)をそれぞれ用いた。また、第1の誘電体層および第2の誘電体層の成膜工程において、パワーは、サンプル番号2−1および2−2については500W、サンプル番号2−3〜2−8については400Wとし、圧力は、いずれのサンプルについても約0.13Paとし、成膜装置に導入するガスには、いずれのサンプルについてもArガス(100%)を用いた。
スパッタリング法により成膜された誘電体層は、用いたスパッタリングターゲットと実質的に同じ組成を有すると見なした。尚、特に言及しない限り、後述の実施例についても同様とする。
以上のようにして得られたサンプル番号2−1〜2−8の情報記録媒体について、実施例1と同様にして、誘電体層の密着性および情報記録媒体の繰り返し書き換え性能を評価した。これらの結果を表4に示す。尚、サンプル番号2−1〜2−8の情報記録媒体のうち、サンプル番号2−1および2−2の情報記録媒体が本発明の範囲に属するものである。
表4に示すように、サンプル番号2−1〜2−8の情報記録媒体の全てについて、剥離が発生せず、よって、密着性が改善された。これら情報記録媒体のうち、HfO2−Cr2O3系の材料を誘電体層の材料に用いたもの(サンプル番号2−1および2−2)が繰り返し回数が大きく、繰り返し書き換え性能が極めて優れていた。この結果によれば、記録層に接する誘電体層として、HfO2とCr2O3とを混合した材料から成る層(Hf−Cr−O系材料層)を用いた場合、記録層と誘電体層との間に界面層を設けない構成の情報記録媒体において、高い密着性および高い繰り返し書き換え性能が同時に達成された。
加えて、記録層から反射層へ厚さ方向に速やかに熱を拡散させるためには、誘電体層は低い熱伝導率を示すことが好ましい。実施例2では、繰り返し書き換え性能については誘電体層材料としてHfO2−Cr2O3の系の材料を用いた情報記録媒体(サンプル番号2−1および2−2)が極めて優れていた。これら情報記録媒体のピークパワー(Pp)を比較すると、サンプル番号2−1の情報記録媒体については13mW、サンプル番号2−2の情報記録媒体については13.5mWであり、Cr2O3の含有割合(酸化物基準)が高い方がPpも高かった。一方、HfO2−ZnS、HfO2−ZnO、またはHfO2−ZnSeの系の材料を誘電体層の材料に用いた情報記録媒体(サンプル番号2−3〜2−8)では、繰り返し書き換え性能は劣るものの、Ppはいずれも11mW〜12mWの範囲内にあり、よって、高記録感度であったことから、これらの系の材料の方がHfO2−Cr2O3の系の材料よりも熱伝導率が低いことが予想された。このような結果から、HfO2−Cr2O3の系の材料とHfO2−ZnS、HfO2−ZnO、およびHfO2−ZnSeの系の材料のいずれかとを混合した材料を誘電体層の材料に用いることにより、高い密着性および高い繰り返し書き換え性能が同時に達成されることに加えて、高記録感度化が期待できた。また、結晶性の強いZnSおよびZnSeの結晶成長を抑えるためには、非晶質であるSiO2をこれらにあわせて混合することも検討した。
(実施例3)
実施例3では、高記録感度の情報記録媒体を実現することを目的として、HfO2−Cr2O3の系の材料とHfO2−ZnS、HfO2−ZnO、およびHfO2−ZnSeの系の材料のいずれかとを混合し、結晶性の強いZnSおよびZnSeの結晶成長を抑えることを目的として、非晶質であるSiO2をさらに混合したものを誘電体層の材料に用いた情報記録媒体を作製した。また、HfO2−Cr2O3の系の材料とSiO2を混合した材料を誘電体層の材料に用いた情報記録媒体も作製した。本実施例においても、実施例1と同様に、第1の誘電体層と第2の誘電体層が互いに同じ組成を有する材料から成る情報記録媒体25を、これら誘電体層の材料を表5に示すように種々変化させて作製した。
本実施例の情報記録媒体も、実施例2と同じく、第1および第2の誘電体層の材料が表5に示す材料から成る点を除いて、実施例1の情報記録媒体25と同様の構成とし、第1および第2の誘電体層の成膜工程を変更した点を除いてこれと同様の条件で作製した。サンプル番号3−1〜3−9の情報記録媒体を作製するために、第1の誘電体層および第2の誘電体層の成膜工程において、表5に示す所定の組成を有する材料から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚み6mm)をそれぞれ用いた。また、第1の誘電体層および第2の誘電体層の成膜工程において、パワーは、サンプル番号3−1、3−2および3−6については500W、サンプル番号3−3〜3−5および3−7〜3−9については400Wとし、圧力は、いずれのサンプルについても約0.13Paとし、成膜装置に導入するガスは、いずれのサンプルについてもArガス(100%)とした。
以上のようにして得られたサンプル番号3−1〜3−9の情報記録媒体について、実施例1と同様にして誘電体層の密着性および情報記録媒体の繰り返し書き換え性能を評価した。これらの結果を、繰り返し書き換え性能の評価の際に求めたピークパワー(Pp)と共に表5に示す。比較のために、実施例1にて作製した図10に示す従来構成の情報記録媒体31についても同様に評価した結果も表5に示す(後述の実施例に関する表6〜10も同様とする)。尚、サンプル番号3−1〜3−9の情報記録媒体はいずれも本発明の範囲に属するものである。
表5に示すように、サンプル番号3−1および3−2の情報記録媒体では、剥離がなく、且つ繰り返し回数が100000回以上に維持されたが、HfO2−Cr2O3系材料を誘電体層の材料に用いたサンプル番号3−1の情報記録媒体のPpが13.2mWであるのに対して、HfO2−Cr2O3系材料にSiO2を混合した材料を誘電体層の材料に用いたサンプル番号3−2の情報記録媒体ではPpを12.6mWにまで下げることができた。サンプル番号3−2の誘電体層の材料に含まれるCr2O3のうち10mol%の部分をZnS、ZnSeまたはZnOで置き換えた材料を誘電体層の材料に用いたサンプル番号3−3〜3−5の情報記録媒体においては、Ppをさらに下げることができ、サンプル番号3−3の情報記録媒体では11.6mWの低いPpが得られた。
また、サンプル番号3−6〜3−9の情報記録媒体では、誘電体層の材料を、HfO2とSiO2をほぼ等しい割合で含むHfSiO4の系の材料とした。誘電体層材料の組成はmol%単位での酸化物基準で表記されるので、例えば(HfO2)35(Cr2O3)30(SiO2)35(mol%)は、(HfSiO4)35(Cr2O3)30(モル比)となり、それを100%換算すれば(HfSiO4)54(Cr2O3)46(mol%)(サンプル番号3−6の誘電体層の材料)となる。このようなサンプル番号3−6〜3−9の情報記録媒体でも、11〜12mWの低いPpが得られた。特に、Cr2O3の一部をZnSで置き換えた材料を誘電体層の材料に用いたサンプル番号3−7の情報記録媒体では、比較例の従来構成の情報記録媒体31と同等の密着性(剥離)、繰り返し書き換え性能(繰り返し回数)、およびPpが得られた。また、本実施例にて作製したサンプル番号3−1〜3−9の情報記録媒体の(凹凸のない平面部における)Rc実測値は15%〜17%であり、Ra実測値は2%以下であった。
以上のように、記録層に接する誘電体層として、HfO2−Cr2O3の系またはHfO2−Cr2O3−SiO2の系の材料から成る層(Hf−Cr−O系材料層)を用いた場合、またはHfO2−Cr2O3−SiO2にZnS、ZnSeまたはZnOを混合した系の材料から成る層(Hf−Cr−Zn−O系材料層)を用いた場合、第1および第2の界面層を設けない構成(よって従来よりも層数の少ない構成)の図1に示す情報記録媒体25において、第1および第2の界面層を備える図10に示す従来構成の情報記録媒体31と同等の性能が得られた。
なお、本実施例では、第1および第2の誘電体層の材料に同じ組成の材料を用いたが、Hf/Zr−Cr−O系材料およびHf/Zr−Cr−O系材料から選択される互いに組成の異なる層を第1および第2の誘電体層に用いることもできる。その場合にも本実施例の結果と同程度に良好な性能が得られた。
(実施例4−1)
実施例4−1では、HfO2−Cr2O3の系の材料について誘電体層に用いるのに適した組成範囲を調べるために、表6−1に示すように、第2の誘電体層の材料におけるHfO2とCr2O3との含有率(モル%)を種々変化させて情報記録媒体を作製した。本実施例の情報記録媒体は、実施の形態3にて図3を参照しながら上述した情報記録媒体27と同様の構造とし、よって、第1の誘電体層および第2の誘電体層が異なる組成を有する材料から成り、第1の誘電体層と記録層との間に第1の界面層を備えるものとした。
本実施例の情報記録媒体27は次のようにして作製した。まず、実施例1と同様の基板1を準備し、この基板1の上に、(ZnS)80(SiO2)20(mol%)の第1の誘電体層102を150nmの厚さで、Ge−Cr−Nの第1の界面層103を5nmの厚さで、Ge27Sn8Sb12Te53(原子%)の記録層4を9nmの厚さで、表6−1に示す組成の第2の誘電体層6を50nmの厚さで、Ge80Cr20(原子%)の光吸収補正層7を40nmの厚さで、Ag−Pd−Cuの反射層8を80nmの厚さで、スパッタリング法により順次成膜した。ここで、第1の誘電体層102および第1の界面層103の各材料は、図10を参照しながら上述した従来の情報記録媒体31におけるものと同様である。
本実施例の情報記録媒体27は、第1の誘電体層102の成膜工程と記録層4の成膜工程との間に第1の界面層103の成膜工程を追加した点ならびに第2の誘電体層6の成膜工程を変更した点を除いて、実施例1のサンプル番号1−1の情報記録媒体の場合と同様にして作製した。第1の界面層103を成膜する工程は、実施例1にて上述した比較例の従来構成の情報記録媒体31の作製方法における第1の界面層を成膜する工程と同様にして実施した。また、第2の誘電体層6の成膜工程は、サンプル番号4−1〜4−11の情報記録媒体を作製するために表6−1に示す所定の組成を有するスパッタリングターゲット(直径100mm、厚み6mm)をそれぞれ用い、いずれのサンプルについても、成膜装置に導入するガスをArガス(100%)とし、パワーを500Wとし、圧力を約0.13Paとして実施した。尚、第1の誘電体層102を成膜する工程は、実施例1にて上述したサンプル番号1−1の情報記録媒体25の作製方法における第1の誘電体層2を成膜する工程と同様であり、従来構成の情報記録媒体31の作製方法における第1の誘電体層102を成膜する工程と同様でもある。
以上のようにして得られたサンプル番号4−1〜4−11の情報記録媒体27について、誘電体層の密着性および情報記録媒体の繰り返し書き換え性能を、実施例1にて上述したのとほぼ同様にして評価したが、本実施例では、密着性の評価は、記録層4とこれに接する第2の誘電体層6との間で剥離が発生していないかどうか調べることにより実施した。これらの結果を、繰り返し書き換え性能の評価の際に求めたピークパワー(Pp)と共に表6−1に示す。尚、サンプル番号4−1〜4−11の情報記録媒体のうち、サンプル番号4−3〜4−9の情報記録媒体が本発明の範囲に属するものである。
表6−1に示すように、第2の誘電体層の材料が80mol%以下の割合でHfO2を含むサンプル番号4−3〜4−11の情報記録媒体では、剥離が発生しなかった。また、第2の誘電体層の材料が20mol%以上の割合でHfO2を含むサンプル番号4−1〜4−9の情報記録媒体では、100000回以上の繰り返し回数が得られ、さらに、Pp≦14.0mWを満たした。従って、サンプル番号4−3〜4−9の情報記録媒体で、高い密着性および高い繰り返し書き換え性能が得られると共に、低いピークパワーが得られた。本実施例の結果から、誘電体層の材料には、HfO2−Cr2O3系では、HfO2を20〜80mol%で含む組成範囲の材料が好ましいことが確認された。
(実施例4−2)
実施例4−2では、上記実施例4−1で使用したHfO2−Cr2O3系の材料のうち、3つの材料(サンプル番号4−3、4−6、4−9)について、HfO2の一部に代えてZrO2が含まれている材料を用意し、それらの材料とHfO2−Cr2O3系の材料とを比較した。HfO2およびZrO2の含有率(モル%)は、表6−2に示すように変化させた。本実施例の情報記録媒体は、実施例4−1の情報記録媒体と同様の構造とし、第2の誘電体層の成膜工程にて、サンプル番号4−3a〜c、4−6a〜c、ならびに4−9a〜cの情報記録媒体を作製するために表6−2に示す所定の組成を有するスパッタリングターゲットをそれぞれ用いた点を除いて実施例4−1と同様の条件で作製した。この際、HfO2とZrO2とを合わせた含有率(即ち、第1金属成分の酸化物MO2の含有率)が、サンプル番号4−3a〜cでは20mol%となり、4−6a〜cでは50mol%となり、4−9a〜cでは20mol%となるようにした。
以上のようにして得られたサンプル番号4−3a〜c、4−6a〜c、ならびに4−9a〜cの情報記録媒体について、実施例4−1と同様にして誘電体層の密着性および情報記録媒体の繰り返し書き換え性能を評価した。これらの結果を、繰り返し書き換え性能の評価の際に求めたピークパワー(Pp)と共に表6−2に示す。
表6−2に示すように、第2の誘電体層の材料がHfO2とZrO2の両方を含むサンプル番号4−3a〜c、4−6a〜c、ならびに4−9a〜cにおいては、いずれもHfのみを含む実施例4−1のサンプル番号4−3、4−6、および4−9と同様に、剥離が発生せず、高い密着性および高い繰り返し性能が得られると共に、低いピークパワーが得られた。本実施例の結果から、HfO2−Cr2O3系の材料およびHfO2−ZrO2−Cr2O3系の材料はともに、良好な性能を有する情報記録媒体を構成するのに適した材料であることが確認された。
(実施例5−1)
実施例5−1では、HfO2−Cr2O3−SiO2の系の材料について誘電体層に用いるのに適した組成範囲を調べるために、表7−1に示すように、第2の誘電体層の材料におけるHfO2とCr2O3とSiO2との含有率(モル%)を種々変化させて情報記録媒体を作製した。本実施例の情報記録媒体は、実施例4−1の情報記録媒体と同様の構造とし、第2の誘電体層の成膜工程にて、サンプル番号5−1〜5−12の情報記録媒体を作製するために表7−1に示す所定の組成を有するスパッタリングターゲットをそれぞれ用いた点を除いて実施例4−1と同様の条件で作製した。この際、実施例4−1の結果から、HfO2の含有率が20mol%以上、且つCr2O3の含有率が20mol%以上となる範囲で、SiO2の含有率を変えた。
以上のようにして得られたサンプル番号5−1〜5−12の情報記録媒体について、実施例4−1と同様にして誘電体層の密着性および情報記録媒体の繰り返し書き換え性能を評価した。これらの結果を、繰り返し書き換え性能の評価の際に求めたピークパワー(Pp)と共に表7−1に示す。尚、サンプル番号5−1〜5−12の情報記録媒体のうち、サンプル番号5−1〜5−4および5−7〜5−12の情報記録媒体が本発明の範囲に属するものである。
表7−1に示すように、第2の誘電体層の材料がSiO2を10mol%以上40mol%以下の割合で含むサンプル番号5−1〜5−4および5−7〜5−12の情報記録媒体において、剥離が発生せず、高い密着性および高い繰り返し書き換え性能が得られると共に、低いピークパワーが得られた。本実施例の結果から、誘電体層の材料には、HfO2−Cr2O3−SiO2系では、HfO2を20〜70mol%、Cr2O3を20〜60mol%、およびSiO2を10〜40mol%で含む組成範囲の材料が好ましいことが確認された。
(実施例5−2)
実施例5−2では、上記実施例5−1で使用したHfO2−Cr2O3−SiO2の系の材料のうち、4つの材料(サンプル番号5−1、5−2、5−3、5−4)について、HfO2の一部に代えてZrO2が含まれている材料を用意し、それらの材料とHfO2−Cr2O3−SiO2系の材料とを比較した。HfO2およびZrO2の含有率(モル%)は、表7−2に示すように変化させた。本実施例の情報記録媒体は、実施例4−1の情報記録媒体と同様の構造とし、第2の誘電体層の成膜工程にて、サンプル番号5−1aおよびb、5−2aおよびb、5−3aおよびb、ならびに5−4aおよびbの情報記録媒体を作製するために表7−2に示す所定の組成を有するスパッタリングターゲットをそれぞれ用いた点を除いて実施例4−1と同様の条件で作製した。この際、HfO2とZrO2とを合わせた含有率(即ち、第1金属成分の酸化物MO2の含有率)が、サンプル番号5−1aおよびbでは70mol%となり、5−2aおよびbでは60mol%となり、5−3aおよびbでは50mol%となり、5−4aおよびbでは40mol%となるようにした。
以上のようにして得られたサンプル番号5−1aおよびb、5−2aおよびb、5−3aおよびb、ならびに5−4aおよびbの情報記録媒体について、実施例4−1と同様にして、誘電体層の密着性および情報記録媒体の繰り返し書き換え性能を評価した。これらの結果を、繰り返し書き換え性能の評価の際に求めたピークパワー(Pp)と共に表7−2に示す。
表7−2に示すように、第2の誘電体層の材料がHfO2とZrO2の両方を含むサンプル番号5−1aおよびb、5−2aおよびb、5−3aおよびb、ならびに5−4aおよびbにおいては、いずれもHfのみを含む実施例5−1のサンプル番号5−1〜4と同様に、高い繰り返し性能が得られると共に、低いピークパワーが得られた。また、いずれのサンプルにおいても剥離は発生せず、誘電体層の密着性は高かった。本実施例の結果から、HfO2−Cr2O3−SiO2系の材料およびHfO2−ZrO2−Cr2O3−SiO2系の材料はともに、良好な性能を有する情報記録媒体を構成するのに適した材料であることが確認された。
(実施例6)
実施例6では、HfO2とSiO2を略等しい割合で含む、HfSiO4−Cr2O3の系の材料について誘電体層に用いるのに適した組成範囲を調べるために、第2の誘電体層の材料を、表8に示すようにHfSiO4とCr2O3との含有率(モル%)を種々変化させて情報記録媒体を作製した。本実施例の情報記録媒体は、実施例5−1と同じく、実施例4−1の情報記録媒体と同様の構造とした。作製方法は実施例5−1の場合と同様であるので説明を省略する。この際、HfO2およびSiO2の含有率が20mol%以上50mol%以下の範囲(従って、HfSiO4の構成割合が25mol%以上100mol%以下の範囲)で、Cr2O3の含有率を変えた。
表8において、サンプル番号5−4、5−9および5−12の情報記録媒体は、上記の実施例5−1の情報記録媒体に対応するものである。表7−1に記載のサンプル番号5−4、5−9および5−12の情報記録媒体の第2の誘電体層の材料について、(HfO2)40(Cr2O3)20(SiO2)40(mol%)は(HfSiO4)67(Cr2O3)33(mol%)に、(HfO2)30(Cr2O3)40(SiO2)30(mol%)は(HfSiO4)43(Cr2O3)57(mol%)に、(HfO2)20(Cr2O3)60(SiO2)20(mol%)は(HfSiO4)25(Cr2O3)75(mol%)に換算した。
以上のようにして得られたサンプル番号5−4、5−9、5−12および6−1〜6−4の情報記録媒体について、実施例4−1と同様にして誘電体層の密着性および情報記録媒体の繰り返し書き換え性能を評価した。これらの結果を、繰り返し書き換え性能の評価の際に求めたピークパワー(Pp)と共に表8に示す。尚、サンプル番号5−4、5−9、5−12および6−1〜6−4の情報記録媒体のうち、サンプル番号5−4、5−9、5−12、6−3、および6−4の情報記録媒体が本発明の範囲に属するものである。
表8に示すように、サンプル番号6−1と6−2の情報記録媒体を除いて、剥離が発生せず、高い密着性および高い繰り返し書き換え性能が得られると共に、低いピークパワーが得られた。本実施例の結果から、誘電体層の材料には、HfSiO4−Cr2O3系では、HfSiO4を25〜67mol%で含む組成範囲の材料が好ましいことが確認された。
(実施例7)
実施例7では、HfO2−Cr2O3−ZnS−SiO2の系の材料について誘電体層に用いるのに適した組成範囲を調べるために、第2の誘電体層の材料を、表9に示すようにHfO2とCr2O3とZnSとSiO2との含有率(モル%)を種々変化させて情報記録媒体を作製した。本実施例の情報記録媒体は、実施例5−1と同じく、実施例4−1の情報記録媒体と同様の構造とした。作製方法は、第2の誘電体層の成膜工程においてパワーを400Wとしたこと以外は、実施例5−1の場合と同様であるので説明を省略する。この際、実施例4−1の結果から、HfO2の含有率が20mol%以上、且つCr2O3の含有率が20mol%以上の範囲で、ZnSとSiO2の含有率を変えた。
以上のようにして得られたサンプル番号7−1〜7−16の情報記録媒体について、実施例4−1と同様にして誘電体層の密着性および情報記録媒体の繰り返し書き換え性能を評価した。これらの結果を、繰り返し書き換え性能の評価の際に求めたピークパワー(Pp)と共に表9に示す。尚、サンプル番号7−1〜7−16の情報記録媒体のうち、サンプル番号7−2〜7−4および7−6〜7−16の情報記録媒体が本発明の範囲に属するものである。
表9に示すように、第2の誘電体層の材料がZnSを50mol%の割合で含むサンプル番号7−1の情報記録媒体において、繰り返し回数が1000回であった。また、第2の誘電体層の材料がSiO2を50mol%の割合で含むサンプル番号7−5の情報記録媒体では、剥離が発生していた。その他のサンプル番号の情報記録媒体では、剥離が発生せず、高い密着性および高い繰り返し書き換え性能が得られると共に、低いピークパワーが得られた。従って、本実施例の結果から、誘電体層の材料には、HfO2−Cr2O3−ZnS−SiO2系では、HfO2を20〜60mol%で、Cr2O3を20〜60mol%で、ZnSを10〜40mol%で、SiO2を10〜40mol%で含む組成範囲の材料が好ましいことが確認された。
(実施例8)
実施例8では、HfO2−Cr2O3−ZnSe−SiO2の系の材料について誘電体層に用いるのに適した組成範囲を調べるために、HfO2とCr2O3とZnSeとSiO2との含有率(モル%)の異なる種々の材料を誘電体層に用いた情報記録媒体を実施例7と同様にして作製した。この材料は、実施例7で調べた材料において、ZnSに代えてZnSeを含むものである。実施例7と同様の評価を行ったところ、HfO2−Cr2O3−ZnSe−SiO2系では、HfO2を20〜60mol%で、Cr2O3を20〜60mol%で、ZnSeを10〜40mol%で、SiO2を10〜40mol%で含む組成範囲の材料が好ましいことが確認された。
(実施例9)
実施例9では、HfO2−Cr2O3−ZnO−SiO2の系の材料について誘電体層に用いるのに適した組成範囲を調べるために、HfO2とCr2O3とZnOとSiO2との含有率(モル%)の異なる種々の材料を誘電体層に用いた情報記録媒体を実施例7と同様にして作製した。この材料は、実施例7で調べた材料において、ZnSに代えてZnOを含むものである。実施例7と同様の評価を行ったところ、HfO2−Cr2O3−ZnO−SiO2系では、HfO2を20〜60mol%で、Cr2O3を20〜60mol%で、ZnOを10〜40mol%で、SiO2を10〜40mol%で含む組成範囲の材料が好ましいことが確認された。
(実施例10)
実施例10では、HfSiO4−Cr2O3−ZnSの系の材料について誘電体層に用いるのに適した組成範囲を調べるために、第2の誘電体層の材料を、表10に示すようにHfSiO4とCr2O3とZnSとの含有率(モル%)を種々変化させて情報記録媒体を作製した。本実施例の情報記録媒体は、実施例5−1と同じく、実施例4−1の情報記録媒体と同様の構造とした。作製方法は、第2の誘電体層の成膜工程においてパワーを400Wとしたこと以外は、実施例5−1の場合と同様であるので説明を省略する。この際、HfSiO4の含有率が25mol%以上、且つCr2O3の含有率が25mol%以上の範囲で、ZnSの含有率を変えた。
以上のようにして得られたサンプル番号8−1〜8−10の情報記録媒体について、実施例4−1と同様にして誘電体層の密着性および情報記録媒体の繰り返し書き換え性能を評価した。これらの結果を、繰り返し書き換え性能の評価の際に求めたピークパワー(Pp)と共に表10に示す。尚、サンプル番号8−1〜8−10の情報記録媒体はいずれも本発明の範囲に属するものである。
表10に示すように、サンプル番号8−1〜8−10の全ての情報記録媒体において、剥離が発生せず、高い密着性および高い繰り返し書き換え性能が得られると共に、低いピークパワーが得られた。従って、本実施例の結果から、誘電体層の材料には、HfSiO4−Cr2O3−ZnS系では、HfSiO4を25〜54mol%で、Cr2O3を25〜63mol%で、ZnSを12〜50mol%で含む組成範囲の材料が好ましいことが確認された。
(実施例11)
実施例11では、HfSiO4−Cr2O3−ZnSeの系の材料について誘電体層に用いるのに適した組成範囲を調べるために、HfSiO4とCr2O3とZnSeとの含有率(モル%)の異なる種々の材料を誘電体層に用いた情報記録媒体を実施例10と同様にして作製した。この材料は、実施例10で調べた材料において、ZnSに代えてZnSeを含むものである。実施例10と同様の評価を行ったところ、HfSiO4−Cr2O3−ZnSe系では、HfSiO4を25〜54mol%で、Cr2O3を25〜63mol%で、ZnSeを12〜50mol%で含む組成範囲の材料が好ましいことが確認された。
(実施例12)
実施例12では、HfSiO4−Cr2O3−ZnOの系の材料について誘電体層に用いるのに適した組成範囲を調べるために、HfSiO4とCr2O3とZnOとの含有率(モル%)の異なる種々の材料を誘電体層に用いた情報記録媒体を実施例10と同様にして作製した。この材料は、実施例10で調べた材料において、ZnSに代えてZnOを含むものである。実施例10と同様の評価を行ったところ、実施例10と同様に、HfSiO4−Cr2O3−ZnO系では、HfSiO4を25〜54mol%で、Cr2O3を25〜63mol%で、ZnOを12〜50mol%で含む組成範囲の材料が好ましいことが確認された。
(実施例13)
実施例13では、実施の形態2にて図2を参照しながら上述した情報記録媒体26と同様の構造を有し、第1の誘電体層および第2の誘電体層が互いに異なる組成を有する材料から成る情報記録媒体を作製した。
本実施例の情報記録媒体26は次のようにして作製した。まず、基板1として、深さ56nm、トラックピッチ(基板の主面に平行な面内におけるグルーブ表面およびランド表面の中心間距離)0.615μmの案内溝が片側表面に予め設けられた、直径120mm、厚み0.6mmの円形のポリカーボネート基板を準備した。
この基板1の上に、(HfSiO4)33(Cr2O3)40(ZnS)27(mol%)の第1の誘電体層2を150nmの厚さで、Ge27Sn8Sb12Te53(原子%)記録層4を9nmの厚さで、Ge−Cr−Nの第2の界面層105を3nmの厚さで、(ZnS)80(SiO2)20(mol%)の第2の誘電体層106を50nmの厚さで、Ge80Cr20(原子%)の光吸収補正層7を40nmの厚さで、Ag−Pd−Cuの反射層8を80nmの厚さで、スパッタリング法により順次成膜した。ここで、第2の界面層105および第2の誘電体層106の各材料は、図10を参照しながら上述した従来の情報記録媒体31におけるものと同様である。
本実施例の情報記録媒体26は、第1の誘電体層2の成膜工程を変更した点ならびに記録層4の成膜工程と第2の誘電体層106の成膜工程との間に第2の界面層105の成膜工程を追加した点を除いて、実施例1のサンプル番号1−1の情報記録媒体の場合と同様にして作製した。第1の誘電体層2の成膜工程においては、(HfSiO4)33(Cr2O3)40(ZnS)27(mol%)の組成を有するスパッタリングターゲット(直径100mm、厚み6mm)を成膜装置に取り付け、パワー400Wで、Arガス(100%)を導入して、約0.13Paの圧力下、高周波スパッタリングを行った。第2の界面層105を成膜する工程は、実施例1にて上述した比較例の従来構成の情報記録媒体31の作製方法における第2の界面層105を成膜する工程と同様にして実施した。尚、第2の誘電体層106を成膜する工程は、実施例1にて上述したサンプル番号1−1の情報記録媒体25の作製方法における第2の誘電体層6を成膜する工程と同様であり、従来構成の情報記録媒体31の作製方法における第2の誘電体層106を成膜する工程と同様でもある。
以上のようにして得られたサンプル番号9−1の情報記録媒体26について、誘電体層の密着性および情報記録媒体の繰り返し書き換え性能を、実施例1にて上述したのとほぼ同様にして評価したが、本実施例では、密着性の評価は、記録層4とこれに接する第1の誘電体層2との間で剥離が発生していないかどうか調べることにより実施した。また、繰り返し書き換え性能の評価は、グルーブ記録だけでなくランド記録も行って(即ち、ランド−グルーブ記録により)グルーブ記録およびランド記録のそれぞれについて繰り返し回数を調べることにより実施した。これらの結果を、繰り返し書き換え性能の評価の際に求めたピークパワー(Pp)およびバイアスパワー(Pb)と共に表11に示す。加えて、比較のために、実施例1にて作製した図10に示す従来構成の情報記録媒体31について同様に評価した結果も表11に示す。
表11に示すように、第1の誘電体層2の材料のみに(HfSiO4)33(Cr2O3)40(ZnS)27(mol%)を用い、基板1の上にスパッタリング法により形成する層(即ち、反射層8までの層)の層数を6層とした本実施例のサンプル番号9−1の情報記録媒体26において、総数を7層とした比較例の従来構成の情報記録媒体31と同等の密着性、繰り返し回数、ピークパワー、およびバイアスパワーが得られた。尚、本実施例では、第1の誘電体層2として、(HfSiO4)33(Cr2O3)40(ZnS)27(mol%)の組成を有する材料から成る層(Hf−Cr−Zn−O系材料層)を用いたが、この組成は一例であり、HfSiO4−Cr2O3−ZnS系の材料では、実施例10に示すような組成範囲に亘って、本実施例と同様に良好な結果が得られた。さらに、第1の誘電体層2として、他のHf/Zr−Cr−O系材料層または他のHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層を用いてもよい。
(実施例14)
実施例14では、実施の形態4にて図4を参照しながら上述した情報記録媒体28と同様の構造を有する情報記録媒体を作製した。
本実施例の情報記録媒体28は次のようにして作製した。まず、基板101として、深さ21nm、トラックピッチ(基板の主面に平行な面内におけるグルーブ表面およびグルーブ表面の中心間距離)0.32μmの案内溝が片側表面に予め設けられた、直径120mm、厚み1.1mmの円形のポリカーボネート基板を準備した。
この基板101の上に、Ag−Pd−Cuの反射層8を80nmの厚さで、(HfSiO4)54(Cr2O3)46(mol%)の第2の誘電体層6を16nmの厚さで、Ge37.5Sb11Te51.5(原子%)の記録層4を11nmの厚さで、(HfSiO4)54(Cr2O3)46(mol%)の第1の誘電体層2を68nmの厚さで、スパッタリング法により順次成膜した。
反射層8を成膜する工程は、実施例1のサンプル番号1−1の情報記録媒体の作製方法におけるものと同様の条件で実施した。
第2の誘電体層6を成膜する工程においては、(HfSiO4)54(Cr2O3)46(mol%)の組成を有する材料から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚み6mm)を成膜装置に取り付け、パワー500Wで、Arガス(100%)を導入して、約0.13Paの圧力下、高周波スパッタリングを行った。
記録層4を成膜する工程においては、Ge−Sb−Te系材料から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚み6mm)を成膜装置に取り付け、パワー100Wで、Arガス(97%)とN2ガス(3%)の混合ガスを導入して直流スパッタリングを行った。スパッタ時の圧力は約0.13Paとした。
第1の誘電体層2を成膜する工程は、層厚さを変えたこと以外は上記の第2の誘電体層6を成膜する工程と同様にして、実施した。これにより、第1の誘電体層2と第2の誘電体層6とは、実質的に同じ組成を有するものとなった。
以上のようにして基板101の上に反射層8、第2の誘電体層6、記録層4および第1の誘電体層2を順次成膜して積層体を形成した後、紫外線硬化性樹脂を第1の誘電体層2の上に塗布し、塗布した紫外線硬化性樹脂の上に、ダミー基板110として直径120mm、厚み90μmの円形のポリカーボネート基板を密着させた。そして、ダミー基板110の側から紫外線を照射して樹脂を硬化させた。これにより、硬化した樹脂から成る接着層9が10μmの厚さで形成され、ダミー基板110を接着層9を介して積層体に貼り合わせた。
ダミー基板を貼り合わせた後、初期化工程を実施した。初期化工程においては、波長670nmの半導体レーザを使って、情報記録媒体28の記録層4を、半径22〜60mmの範囲の環状領域内でほぼ全面に亘って結晶化させた。これにより初期化工程が終了し、サンプル番号10−1の情報記録媒体28の作製が完了した。
加えて、比較のために、第1の誘電体層2と記録層4との間および第2の誘電体層6と記録層4との間に、Ge−Cr−Nの第1の界面層103および第2の界面層105をそれぞれ備え、且つ、第1の誘電体層2および第2の誘電体層6に代えて、(ZnS)80(SiO2)20(mol%)の第1の誘電体層102および第2の誘電体層106を備える点を除いて、本実施例の情報記録媒体と同様の構成を有する、比較例の情報記録媒体を作製した(図示せず)。第1の界面層103および第2の界面層105はいずれも厚さ5nmで形成した。
この比較例の情報記録媒体は、第1の界面層103および第2の界面層105を成膜する工程ならびに第1の誘電体層102および第2の誘電体層106を成膜する工程を、実施例1にて作製した比較例の従来構成の情報記録媒体31の作製方法におけるものと同様にして実施した点を除いて、本実施例の情報記録媒体の作製方法と同様にして作製した。
以上のようにして得られたサンプル番号10−1の情報記録媒体28および比較例の情報記録媒体(図示せず)について、誘電体層の密着性および情報記録媒体の繰り返し書き換え性能を評価した。これらの結果を、繰り返し書き換え性能の評価の際に求めたピークパワー(Pp)と共に表12に示す。
本実施例にて、情報記録媒体28における誘電体層の密着性の評価は実施例1と同様の条件で行った。これに対して、情報記録媒体28の繰り返し書き換え性能の評価は、実施例1と同じく繰り返し回数を指標とした点は共通するが、実施例1とは異なる条件によった。
情報記録媒体28の繰り返し書き換え性能の評価に際し、実施例1の場合と同様の構成の情報記録システムにて、波長405nmの半導体レーザと開口数0.85の対物レンズを使用し、23GB容量相当の記録を行った。情報記録媒体28を回転させる線速度は5m/秒とした。また、CNR(即ち、信号振幅とノイズの比)および消去率の測定には、スペクトラムアナライザーを用いた。
まず、繰り返し回数を決定する際の測定条件を決めるために、ピークパワー(Pp)およびバイアスパワー(Pb)を以下の手順で設定した。レーザ光12を、高パワーレベルのピークパワー(mW)と低パワーレベルのバイアスパワー(mW)との間でパワー変調しながら情報記録媒体28に向けて照射して、マーク長0.16μmの2T信号を記録層4の同一のグルーブ表面に10回記録した。2T信号を10回記録した後、CNRを測定した。2T信号の10回記録の際、バイアスパワーを一定の値に固定し、ピークパワーを種々変化させた各記録条件についてCNRを測定し、信号振幅が飽和するときの最小のピークパワーの1.2倍のパワーをPpに設定した。次に、上記と同様にして2T信号を10回記録した後、信号を再生して2T信号の振幅を測定した。さらに、該グルーブ表面に9T信号を1回重ね書きし、信号を再生して2T信号の振幅を測定し、10回記録後に測定した振幅を基準とする2T信号の減衰率を消去率として求めた。2T信号の10回記録および9T信号の1回重ね書きの際、ピークパワーを先に設定したPpに固定し、バイアスパワーを種々変化させた各パワー条件について、以上のように定義される消去率を求め、消去率が25dB以上となるバイアスパワー範囲の中心値をPbに設定した。図4に示す構造を有する情報記録媒体28については、Pp≦6mW、Pb≦3mWを満足することが望ましい。
繰り返し書き換え性能の指標となる繰り返し回数は、本実施例ではCNRおよび消去率に基づいて決定した。上記のようにして設定したPpとPbとでレーザ光をパワー変調しながら情報記録媒体28に向けて照射して、2T信号を同一のグルーブ表面に所定回数繰り返して連続記録した後、CNRを測定し、また、消去率を求めた。消去率は、上記と同様に、所定回数記録した後およびその上に9T信号を1回重ね書きした後に2T信号を測定し、所定回数記録した後に測定した2T信号の振幅に対する、9T信号を1回重ね書きした後に測定した2T信号の振幅の減衰率により求めた。CNRおよび消去率は、繰り返し回数が、1、2、3、5、10、100、200、500、1000、2000、3000、5000、7000、10000回であるときに求めた。10回繰り返した場合のCNRおよび消去率を基準として、CNRが2dB低下するか、または消去率が5dB低下したときを繰り返し書き換えの限界と判断し、このときの繰り返し回数により繰り返し書き換え性能を評価した。もちろん、繰り返し回数が大きいほど繰り返し書き換え性能が高い。情報記録媒体28の繰り返し回数は1万回以上が好ましい。
本実施例のサンプル番号10−1の情報記録媒体28では、図1に示すような情報記録媒体25と比べて、基板上への各層の成膜順が逆であること、記録条件(レーザ波長やレンズの開口数)が異なること、ならびに記録容量が約5倍に増えていることに関係なく、第1の誘電体層2および第2の誘電体層6として、(HfSiO4)54(Cr2O3)46(mol%)の組成を有する材料から成る層(Hf−Cr−O系材料層)を用いることによって、界面層を設けることなく、良好な性能が得られた。また、本実施例にて作製したサンプル番号10−1の情報記録媒体28の(凹凸のない平面部における)Rc実測値は20%であり、Ra実測値は3%であった。表12から、サンプル番号10−1の情報記録媒体28は、第1および第2の界面層を設けた比較例の情報記録媒体と同等の性能を示すことが確認された。
本実施例のサンプル番号10−1の情報記録媒体28では、第1および第2の誘電体層の双方にHfSiO4−Cr2O3の系の材料から成る層を用いたが、他のHf/Zr−Cr−O系材料層またはHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層を用いてもよい。
また、本実施例の情報記録媒体28では、第1および第2の誘電体層の双方にHf/Zr−Cr−O系材料層を用いることとしたが、本発明はこれに限定されない。一例として、第1および第2の誘電体層のいずれか一方にHf/Zr−Cr−O系材料層またはHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層を用い、他方の誘電体層に、例えば従来の(ZnS)80(SiO2)20(mol%)の組成を有する材料を用い、該他方の誘電体層と記録層との間に界面層を設ける構成としてもよい。この場合においても、本実施例と同様な結果が得られた。従って、誘電体層としてHf/Zr−Cr−O系材料層、またはHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層を用いることにより、従来、第1および第2の誘電体層と記録層との間にそれぞれ用いていた2つの界面層のうち少なくとも一方、好ましくは双方を減らすことができ、且つ、従来の情報記録媒体と同等の性能を確保することができる。
(実施例15)
実施例15では、実施の形態5にて図5を参照しながら上述した情報記録媒体29と同様の構造を有する情報記録媒体を作製した。
本実施例の情報記録媒体29は次のようにして作製した。まず、実施例14と同様の基板101を準備し、この基板101の上に、Ag−Pd−Cuの第2の反射層20を80nmの厚さで、(HfSiO4)54(Cr2O3)46(mol%)の第5の誘電体層19を16nmの厚さで、Ge45Sb4Te51(原子%)の第2の記録層18を11nmの厚さで、(HfSiO4)54(Cr2O3)46(mol%)の第4の誘電体層17を68nmの厚さで、スパッタリング法により順次成膜した。これにより、基板101の上に、第2情報層22が形成された。
第2の反射層20、第5の誘電体層19および第4の誘電体層17を成膜する工程は、実施例14の情報記録媒体28の作製方法における、反射層8、第2の誘電体層6、第1の誘電体層2を成膜する工程と同様の条件でそれぞれ実施した。また、第2の記録層18を成膜する工程は、異なる組成のスパッタリングターゲットを用いたこと以外は、実施例14の情報記録媒体28の作製方法における記録層4を成膜する工程と同様の条件で実施した。
次に、第2情報層22の上に、中間層16を以下の手順に従って形成した。まず、例えばスピンコートにより、紫外線硬化性樹脂を塗布し、塗布した紫外線硬化性樹脂の上に、表面に凹凸が設けられたポリカーボネート基板を、当該凹凸を密着させて配置した。この凹凸は、中間層16に形成すべき案内溝と相補的な形状を有するものであった。そして、ポリカーボネート基板の側から紫外線を照射して樹脂を硬化させ、ポリカーボネート基板を中間層16から剥離した。これにより、硬化した紫外線硬化性樹脂から成り、案内溝が転写により形成された中間層16が30μmの厚さで形成された。
そして、第1の初期化工程を実施した。第1の初期化工程においては、波長670nmの半導体レーザを使って、第2情報層22の第2の記録層18を、半径22〜60mmの範囲の環状領域内でほぼ全面に亘って結晶化させた。
次に、以上のようにして得た積層体の中間層16の上に、TiO2の第3の誘電体層15を15nmの厚さで、Ag−Pd−Cuの第1の反射層14を10nmの厚さで、(HfSiO4)43(Cr2O3)57(mol%)の第2の誘電体層6を12nmの厚さで、Ge40Sn5Sb4Te51(原子%)の第1の記録層13を6nmの厚さで、(HfSiO4)43(Cr2O3)57(mol%)の第1の誘電体層2を45nmの厚さで、スパッタリング法により順次成膜した。これにより、第1情報層21が形成された。
第3の誘電体層15を成膜する工程においては、TiO2の組成を有する材料から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚み6mm)を用い、パワー400Wで、Arガス(97%)とO2ガス(3%)との混合ガスを導入して、約0.13Paの圧力下、高周波スパッタリングを行った。
第1の反射層14を成膜する工程は、層厚さを変えたこと以外は、上記の第2の反射層20の成膜工程と同様の条件で実施した。
第2の誘電体層6を成膜する工程は、(HfSiO4)43(Cr2O3)57の組成を有する材料から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚み6mm)を成膜装置に取り付け、パワー500Wで、Arガス(100%)を導入して、約0.13の圧力下、高周波スパッタリングを行った。
第1の記録層13を成膜する工程においては、Ge−Sn−Sb−Te系材料から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚み6mm)を成膜装置に取り付け、パワー50Wで、Arガス(100%)を導入して、直流スパッタリングを行った。スパッタ時の圧力は約0.13Paとした。
第1の誘電体層2を成膜する工程は、層厚さを変えたこと以外は上記の第2の誘電体層6を成膜する工程と同様にして実施した。これにより、第1の誘電体層2と第2の誘電体層6とは、実質的に同じ組成を有するものとなった。
以上のようにして基板101の上に第1の誘電体層2まで成膜して積層体を形成した後、紫外線硬化性樹脂を第1の誘電体層2の上に塗布し、塗布した紫外線硬化性樹脂の上に、ダミー基板110として直径120mm、厚み65μmの円形のポリカーボネート基板を密着させた。そして、ダミー基板110の側から紫外線を照射して樹脂を硬化させた。これにより、硬化した樹脂から成る接着層9を10μmの厚さで形成すると同時に、ダミー基板110を接着層9を介して積層体に貼り合わせた。
ダミー基板110を貼り合わせた後、第2の初期化工程を実施した。第2の初期化工程においては、波長670nmの半導体レーザを使って、第1情報層21の第1の記録層13を、半径22〜60mmの範囲の環状領域内でほぼ全面に亘って結晶化させた。これにより、サンプル番号11−1の情報記録媒体29の作製が完了した。
以上のようにして得られたサンプル番号11−1の情報記録媒体29について、第1情報層21および第2情報層22毎に、誘電体層の密着性および情報記録媒体の繰り返し書き換え性能を評価した。これらの結果を、繰り返し書き換え性能の評価の際に求めたピークパワー(Pp)およびバイアスパワー(Pb)と共に表13に示す。
本実施例にて、情報記録媒体29における誘電体層の密着性の評価は実施例1と同様の条件で行ったが、第1情報層21と第2情報層22のそれぞれについて剥離の有無を調べた点で異なる。また、情報記録媒体29の繰り返し書き換え性能の評価は、実施例14とほぼ同様の条件により行ったが、情報記録媒体29の第1情報層21と第2情報層22のそれぞれに23GB容量相当の記録を行って、第1情報層21と第2情報層22のそれぞれについて繰り返し回数を調べた点で異なる。第1情報層21に記録する際には、レーザ光12を第1の記録層13に焦点させ、第2情報層22を記録する際には、レーザ光12を第2の記録層18に焦点させた。システムのレーザパワー上限値を考慮すれば、第1の情報層21でPp≦12mW、Pb≦6mWを満足することが望ましい。
本実施例のサンプル番号11−1の情報記録媒体29は、図1に示すような情報記録媒体25とは、基板上への各層の成膜順序、基板上に2つ以上の情報層があること、および記録条件において異なる。また、サンプル番号11−1の情報記録媒体29の記録容量は、図1に示す情報記録媒体25の約10倍である。しかしながら、これらの相違点に関係なく、第1誘電体層2、第2誘電体層6、第4誘電体層17および第5の誘電体層19として、HfSiO4−Cr2O3の系の材料から成る層を用いることによって、界面層を設けなくとも、良好な性能が得られた。また、本実施例にて作製したサンプル番号11−1の情報記録媒体29の(凹凸のない平面部における)第1情報層21のRc設計値は6%とし、Ra設計値は0.7%であった。第2情報層22のRc設計値は25%であり、Ra設計値は3%であった。
本実施例のサンプル番号11−1の情報記録媒体29では、第1の誘電体層2、第2の誘電体層6、第4の誘電体層17および第5の誘電体層19の全てにHfSiO4−Cr2O3の系の材料から成る層を用いたが、他のHf/Zr−Cr−O系材料層(例えばHfO2−Cr2O3の系およびHfO2−Cr2O3-SiO2の系などの材料から成る層)、またはHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層(例えばHfO2−Cr2O3-SiO2にZnS、ZnSeもしくはZnOを混合した系の材料から成る層)を誘電体層に用いても良好な性能が得られた。
また、本実施例の情報記録媒体29では、第1の誘電体層2、第2の誘電体層6、第4の誘電体層17および第5の誘電体層19の全てにHf/Zr−Cr−O系材料層を用いることとしたが、本発明はこれに限定されない。一例として、これら誘電体層のうち少なくとも一つにHf/Zr−Cr−O系材料層またはHf/Zr−Cr−O系材料層を用い、残りの誘電体層に、例えば従来の(ZnS)80(SiO2)20(mol%)の組成を有する材料を用い、該残りの誘電体層と記録層との間に界面層を設ける構成としてもよい。この場合においても本実施例と同様な結果が得られた。
また、本実施例の情報記録媒体29では、第3の誘電体層15として、TiO2から成る層を用いたが、これに代えて(HfO2)30(Cr2O3)70から成る層を用いてもよい。この場合、第1情報層21において同等の性能が得られた。
さらに、本実施例の情報記録媒体29では、2種類のHfSiO4−Cr2O3の系を採用して、一方の材料で第5および第4の誘電体層19および17を構成し、他方の材料で第2および第1の誘電体層6および2を構成した。本発明はこれに限定されず、これら4つの誘電体層を同一材料で形成してよく、あるいは全て異なる材料で形成してよい。その場合にも本実施例の結果と同程度に良好な性能が得られた。
(実施例16)
実施例16では、実施の形態6にて図6を参照しながら上述した情報記録媒体30と同様の構造を有する情報記録媒体を作製した。本実施例の情報記録媒体30においては、上述までの実施例1〜15の情報記録媒体とは異なり、第1の界面層3および第2の界面層5にHf−Cr−O系材料層を用いた。
本実施例の情報記録媒体30は次のようにして作製した。まず、実施例1と同様の基板1を準備し、この基板1の上に、(ZnS)80(SiO2)20(mol%)の第1の誘電体層102を150nmの厚さで、(HfSiO4)43(Cr2O3)57(mol%)の第1の界面層3を5nmの厚さで、Ge27Sn8Sb12Te53(原子%)の記録層4を9nmの厚さで、(HfSiO4)43(Cr2O3)57(mol%)の第2の界面層5を5nmの厚さで、(ZnS)80(SiO2)20(mol%)の第2の誘電体層106を50nmの厚さで、Ge80Cr20(原子%)の光吸収補正層7を40nmの厚さで、Ag−Pd−Cuの反射層8を80nmの厚さで、スパッタリング法により順次成膜した。ここで、第1の誘電体層102および第2の誘電体層106の各材料は、図10を参照しながら上述した従来の情報記録媒体31に備えられるものと同様である。
この情報記録媒体30は、第1の界面層3および第2の界面層5の材料が異なる点を除いて、実施例1にて作製した従来構成の情報記録媒体31(図10を参照のこと)と同様であり、第1の界面層3および第2の界面層5の成膜工程を除いてこれと同様にして作製した。第1の界面層3および第2の界面層5の成膜工程においては、(HfSiO4)43(Cr2O3)57(mol%)の組成を有する材料から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚み6mm)を成膜装置に取り付け、パワー500Wで、Arガス(100%)を導入して、約0.13Paの圧力下、高周波スパッタリングを行った。
以上のようにして得られたサンプル番号12−1の情報記録媒体30について、誘電体層の密着性および情報記録媒体の繰り返し書き換え性能を、実施例1にて上述したのとほぼ同様にして評価したが、本実施例では、密着性の評価は、記録層4とこれに接する界面層の間、より詳細には記録層と第1の界面層3および第2の界面層5の少なくとも一方との間で剥離が発生していないかどうか調べることにより実施した。また、繰り返し書き換え性能の評価は、グルーブ記録だけでなくランド記録も行って(即ち、ランド−グルーブ記録により)グルーブ記録およびランド記録のそれぞれについて繰り返し回数を調べることにより実施した。これらの結果を表14に示す。加えて、比較のために、実施例1にて作製した図10に示す従来構成の情報記録媒体31について同様に評価した結果も表14に示す。
表14に示すように、界面層の材料に(HfSiO4)43(Cr2O3)57(mol%)を用いた本実施例のサンプル番号12−1の情報記録媒体30においても、比較例の従来構成の情報記録媒体31と同等の性能が得られた。
界面層としてHf−Cr−O系材料層を用いた本実施例の情報記録媒体の層数は従来と同じであり、減らない。しかし、このようなHf−Cr−O系材料から成る界面層は、従来のGe−Cr−Nの界面層のように反応性スパッタリングに依らず、Arガスのみの雰囲気下でのスパッタリングで形成可能である。従って、本実施例によれば、界面層自体の組成バラツキや膜厚分布が従来のGe−Cr−Nの界面層よりも小さくなり、製造の容易性や安定性を向上させることができる。
尚、本実施例のサンプル番号12−1の情報記録媒体30では、第1の界面層3および第2の界面層5として、(HfSiO4)43(Cr2O3)57(mol%)の組成を有する材料から成る層(Hf−Cr−O系材料層)を用いたが、この組成は一例であり、他のHf/Zr−Cr−O系材料層、またはHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層を用いてもよい。また、第1の界面層3と第2の界面層5は、Hf/Zr−Cr−O系材料層、およびHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層から選択される互いに組成の異なる層であってよい。
(実施例17)
実施例17では、実施の形態3にて図3を参照して説明した情報記録媒体27と同様の構造を有し、第2の誘電体層6がHf−Zr−Cr−O系材料層であるもの(サンプル番号13−1)を作製した。
本実施例の情報記録媒体27は次のようにして作製した。まず、実施例1と同様の基板1を準備し、この基板1の上に、(ZnS)80(SiO2)20(mol%)の第1の誘電体層102を150nmの厚さで、(ZrO2)25(Cr2O3)50(SiO2)25(mol%)の第1の界面層103を2nmの厚さで、Ge27Sn8Sb12Te53(原子%)の記録層4を9nmの厚さで、(HfO2)30(ZrO2)10(Cr2O3)30(SiO2)30(mol%)の第2の誘電体層6を50nmの厚さで、Ge80Cr20(原子%)の光吸収補正層7を40nmの厚さで、Ag−Pd−Cuの反射層8を80nmの厚さで、スパッタリング法により順次成膜した。
本実施例の情報記録媒体27は、第1の誘電体層102の成膜工程と記録層4の成膜工程との間に第1の界面層103の成膜工程を追加した点ならびに第2の誘電体層6の成膜工程を変更した点を除いて、実施例1のサンプル番号1−1の情報記録媒体の場合と同様にして作製した。第1の界面層103を成膜する工程においては、((ZrO2)25(Cr2O3)50(SiO2)25(mol%)の組成を有するスパッタリングターゲット(直径100mm、厚み6mm)を成膜装置に取り付け、成膜装置に導入するガスをArガス(100%)とし、パワーを500Wとし、約0.13Paの圧力下にて、高周波スパッタリングを実施した。第2の誘電体層6の成膜工程においては、(HfO2)30(ZrO2)10(Cr2O3)30(SiO2)30(mol%)の組成を有するスパッタリングターゲット(直径100mm、厚み6mm)を成膜装置に取り付け、成膜装置に導入するガスをArガス(100%)とし、パワーを500Wとし、約0.13Paの圧力下にて、高周波スパッタリングを実施した。その他の層の形成工程、ダミー基板10の貼り合わせ工程および初期化工程は、実施例1と同様にして実施した。
以上のようにして得られたサンプル番号13−1の情報記録媒体27について、誘電体層の密着性および情報記録媒体の繰り返し書き換え性能を、実施例1にて上述したのとほぼ同様にして評価したが、本実施例では、密着性の評価は、記録層4とこれに接する第2の誘電体層6との間で剥離が発生していないかどうか調べることにより実施した。また、繰り返し書き換え性能の評価は、グルーブ記録だけでなくランド記録も行って(即ち、ランド−グルーブ記録により)グルーブ記録およびランド記録のそれぞれについて繰り返し回数を調べることにより実施した。これらの結果を、繰り返し書き換え性能の評価の際に求めたピークパワー(Pp)およびバイアスパワー(Pb)と共に表15に示す。加えて、比較のために、実施例1にて作製した図10に示す従来構成の情報記録媒体31について同様に評価した結果も表15に示す。
表15に示すように、第2の誘電体層6の材料に(HfO2)30(ZrO2)10(Cr2O3)30(SiO2)30(mol%)を用いた本実施例のサンプル番号13−1の情報記録媒体27において、比較例の従来構成の情報記録媒体31と同等の性能が得られた。
本実施例においては、Hf−Zr−Cr−O系材料層として、(HfO2)30(ZrO2)10(Cr2O3)30(SiO2)30(mol%)(Hf8.3Zr2.8Cr16.7Si8.3O63.9(原子%))を用いた。この組成は一例であり、HfO2とZrO2とを合わせた混合割合が20mol%以上70mol%以下であり、Cr2O3の混合割合が20mol%以上60mol%以下であり、SiO2の混合割合が10mol%以上40mol%以下であるHf/Zr−Cr−O系材料層を使用すれば、本実施例と同様に良好な結果が得られることが判った。さらに、HfとZrとを合わせた含有量が30原子%以下であり、Crの含有量が7原子%以上37原子%以下であり、Siの含有量が14原子%以下であり、Oの含有量が40原子%以上80原子%以下であるHf/Zr−Cr−O系材料層を採用した情報記録媒体についても、同様に良好な結果が得られることが判った。
(実施例18)
実施例では、光学的手段によって情報を再生する再生専用の情報記録媒体であるDVD−ROMを作製した。本実施例では、4.7GBに相当する情報の信号ピットが予め形成された基板の表面に、厚さ30nmの反射層を形成し、反射層の上に厚さ50nmの誘電体層を形成し、さらに接着層を介してダミー基板を貼り合わせることにより、DVD−ROMを作製した。反射層は、Ag−Pd−Cu合金を用いて形成し、誘電体層は組成が(HfO2)30(ZrO2)30(Cr2O3)20(SiO2)20であるターゲットを用いて、スパッタリングにより形成した。得られた情報記録媒体においては、誘電体層と反射層との間で剥離は生じず、誘電体層の反射層への密着性は高かった。また、良好な再生ジッタが得られた。本実施例より、Hf/Zr−Cr−O系材料は、再生専用の媒体においても使用できることが確認された。
(実施例19)
以上の実施例1〜18では、光学的手段によって情報を記録する情報記録媒体を作製したが、実施例19では、図8に示すような、電気的手段によって情報を記録する情報記録媒体207を作製した。本実施例の情報記録媒体207はいわゆるメモリである。
本実施例の情報記録媒体207は次のようにして作製した。まず、表面を窒化処理した、長さ5mm、幅5mmおよび厚さ1mmのSi基板201を準備し、この基板201の上に、Auの下部電極202を1.0mm×1.0mmの領域に厚さ0.1μmで形成した。下部電極202の上に、Ge38Sb10Te52(化合物としてはGe8Sb2Te11と表記される)の相変化部205を直径0.2mmの円形領域に厚さ0.1μmとなるように形成し、(HfO2)56(Cr2O3)30(SiO2)14の断熱部206を0.6mm×0.6mmの領域(但し相変化部205を除く)に相変化部205と同じ厚さとなるように形成し、Auの上部電極204を0.6mm×0.6mmの領域に厚さ0.1μmで形成した。下部電極202、相変化部205、断熱部206および上部電極204はいずれも、スパッタリング法により順次積層した。
相変化部205を成膜する工程では、Ge−Sb−Te系材料から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚み6mm)を成膜装置に取り付け、パワー100Wで、Arガス(100%)を導入して直流スパッタリングを行った。スパッタ時の圧力は約0.13Paとした。また、断熱部206を成膜する工程では、(HfO2)56(Cr2O3)30(SiO2)14の組成を有する材料から成るスパッタリングターゲット(直径100mm、厚み6mm)を成膜装置に取り付け、パワー500Wで、Arガス(100%)を導入して、約0.13Paの圧力下で、高周波スパッタリングを行った。これら工程でのスパッタリングは、相変化部205および断熱部206が互いに積層しないように、成膜すべき面以外の領域をマスク治具で覆って各々行った。尚、相変化部205および断熱部206の形成の順序は問わず、いずれを先に行ってもよい。
相変化部205および断熱部206は記録部203を構成し、相変化部205が本発明に言うところの記録層に該当し、断熱部206が本発明に言うところのHf/Zr−Cr−O系材料層に該当する。
尚、下部電極202を成膜する工程および上部電極204を成膜する工程は、スパッタリング法による電極形成技術の分野において一般的な方法で実施できるので、詳細な説明は省略する。
以上のようにして作製した本実施例の情報記録媒体207に電気的エネルギーを印加することによって相変化部205にて相変化が起こることを、図9に示すシステムにより確認した。図9に示す情報記録媒体207の断面図は、図8に示す情報記録媒体207の線A−Bに沿って厚さ方向に切断した断面を示している。
より詳細には、図9に示すように、2つの印加部212を下部電極202および上部電極204にAuリード線でそれぞれボンディングすることによって、印加部212を介して電気的書き込み/読み出し装置214を情報記録媒体(メモリ)207に接続した。この電気的書き込み/読み出し装置214において、下部電極202と上部電極204に各々接続されている印加部212の間には、パルス発生部208がスイッチ210を介して接続され、また、抵抗測定器209がスイッチ211を介して接続されていた。抵抗測定器209は、抵抗測定器209によって測定される抵抗値の高低を判定する判定部213に接続されていた。パルス発生部208によって印加部212を介して上部電極204および下部電極202の間に電流パルスを流し、下部電極202と上部電極204との間の抵抗値を抵抗測定器209によって測定し、この抵抗値の高低を判定部213で判定した。一般に、相変化部205の相変化によって抵抗値が変化するため、この判定結果に基づいて、相変化部205の相の状態を知ることができる。
本実施例の場合、相変化部205の融点は630℃、結晶化温度は170℃、結晶化時間は130nsであった。下部電極202と上部電極204の間の抵抗値は、相変化部205が非晶質相状態では1000Ω、結晶相状態では20Ωであった。相変化部205が非晶質相状態(即ち高抵抗状態)のとき、下部電極202と上部電極204の間に、20mA、150nsの電流パルスを印加したところ、下部電極202と上部電極204の間の抵抗値が低下し、相変化部205が非晶質相状態から結晶相状態に転移した。次に、相変化部205が結晶相状態(即ち低抵抗状態)のとき、下部電極202と上部電極204の間に、200mA、100nsの電流パルスを印加したところ、下部電極202と上部電極204の間の抵抗値が上昇し、相変化部205が結晶相から非晶質相に転移した。
以上の結果から、相変化部205の周囲の断熱部206として(HfO2)56(Cr2O3)30(SiO2)14の組成を有する材料から成る層を用い、電気的エネルギーを付与することによって相変化部(記録層)にて相変態を生起させることができ、よって、情報記録媒体207が、情報を記録する機能を有することが確認できた。
本実施例のように、円柱状の相変化部205の周囲に、誘電体である(HfO2)56(Cr2O3)30(SiO2)14の断熱部206を設けると、上部電極204および下部電極202との間に電圧を印加することによって相変化部205に流れた電流がその周辺部に逃げることが効果的に抑制され得る。その結果、電流により生じるジュール熱によって相変化部205の温度を効率的に上昇させることができる。特に、相変化部205を非晶質相状態に転移させる場合には、相変化部205のGe38Sb10Te52を一旦溶融させて急冷する過程が必要である。相変化部205のこの溶融は、断熱部206を相変化部205の周囲に設けることによって、より小さい電流で生起し得る。
断熱部206の(HfO2)56(Cr2O3)30(SiO2)14は、高融点であり、熱による原子拡散も生じにくいので、情報記録媒体207のような電気的メモリに適用することが可能である。また、相変化部205の周囲に断熱部206が存在すると、断熱部206が障壁となって相変化部205は記録部203の面内において電気的および熱的に実質的に隔離される。このことを利用して、情報記録媒体207に、複数の相変化部205を断熱部206で互いに隔離された状態で設けて、情報記録媒体207のメモリ容量を増やすこと、ならびにアクセス機能やスイッチング機能を向上させることができる。尚、情報記録媒体207自体を複数個つなぐことも可能である。
以上、種々の実施例を通じて本発明の情報記録媒体について説明してきたが、光学的手段で記録する情報記録媒体および電気的手段で記録する情報記録媒体のいずれにも1種または複数のHf/Zr−Cr−O系材料層およびHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層を用いることができる。かかる層を含む本発明の情報記録媒体によれば、これまで実現されなかった構成を実現でき、ならびに/または従来の情報記録媒体に比べて優れた性能が得られる。
本発明の情報記録媒体は、記録層と接しても記録層内に構成元素が拡散しにくいHf/Zr−Cr−O系材料層またはHf/Zr−Cr−Zn−O系材料層を有し、記録層と誘電体層との間に界面層を必要としない層数の少ない光学情報記録媒体等として有用である。
本発明の光情報記録媒体の一例を示す部分断面図である。
本発明の光情報記録媒体の別の例を示す部分断面図である。
本発明の光情報記録媒体のさらに別の例を示す部分断面図である。
本発明の光情報記録媒体のさらに別の例を示す部分断面図である。
本発明の光情報記録媒体のさらに別の例を示す部分断面図である。
本発明の光情報記録媒体のさらに別の例を示す部分断面図である。
式(21)で表される材料の組成範囲を示す三角図である。
電気的エネルギーの印加により情報が記録される本発明の情報記録媒体の一例を示す模式図である。
図8に示す情報記録媒体を使用するシステムの一例を示す模式図である。
従来の情報記録媒体の一例を示す部分断面図である。
符号の説明
1,101,201 基板;
2,102 第1の誘電体層;
3,103 第1の界面層;
4 記録層;
5,105 第2の界面層;
6,106 第2の誘電体層;
7 光吸収補正層;
8 反射層;
9 接着層;
10,110 ダミー基板;
12 レーザ光;
13 第1の記録層;
14 第1の反射層;
15 第3の誘電体層;
16 中間層;
17 第4の誘電体層;
18 第2の記録層;
19 第5の誘電体層;
20 第2の反射層;
21 第1情報層;
22 第2情報層;
23 グルーブ面;
24 ランド面;
25,26,27,28,29,30,31,207 情報記録媒体;
202 下部電極;
203 記録部;
204 上部電極;
205 相変化部(記録層);
206 断熱部(誘電体層);
208 パルス発生部;
209 抵抗測定器;
210,211 スイッチ;
212 印加部;
213 判定部;
214 電気的書き込み/読み出し装置。