JP4210718B2 - 響胴放射型スピーカ - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、響胴の一部を構成する響板を直接加振することにより自然音に極めて近い音響を再生するスピーカに関する。
【0002】
【従来の技術】
音響機器に使用されているスピーカとしては、コーン等の振動板の振動を導電型等の駆動方式によって直接放射或いはホーン式で放射し、電気エネルギを音響エネルギに変換している。そのため、スピーカから放射される音波に指向性があり、聴く位置がスピーカとの関連で特定される。また、再生周波数帯域の幅を広くするために、高音域用,中音域用,低音域用を組み合わせた複合型スピーカシステムにしている。
各音域用のスピーカの組合せにより平坦な周波数特性の音響が得られるが、コーン等の振動板から得られる音波は空気音であり、依然として自然音に比較すると違和感があり、特に音質に敏感な音楽愛好家や音楽専門家の要求を十分に満足するまでには至っていない。また、高音域用,中音域用,低音域用にそれぞれ専用のスピーカを組み合わせているが、個々のスピーカから聞こえる音質が微妙に異なるため、耳の肥えた視聴者には耳障りな印象を与えかねない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、本発明者は、聴覚障害者用に音の世界を感じ取ってもらうことを目的として、振動知覚トレーニング用共鳴箱を開発し、特開平10−277081号公報として紹介した。提案した振動知覚トレーニング用共鳴箱は、図1に示すように、内部が空洞になった起振ボックス本体1の底板2に磁気回路3を固定し、磁気回路3にボイスコイル4を嵌挿させている。底板2は、一端が起振ボックス本体1から突出しており、外部に接続される信号端子5が底板2の突出部に設けられている。ボイスコイル4は、起振ボックス本体1に振動を直接伝えるように表板6に固定されている。
信号端子5を介して外部から音情報が磁気回路3に入力されると、入力信号に従って磁気回路3でボイスコイル4が励起され、起振ボックス本体1の表板6を直接振動させる。表板6の振動は手等に振動として知覚されると同時に音波として放射される。この音波は共鳴箱の振動に起因する固体音として放射され、共鳴箱自体が1種の楽器として働くので、極めて自然音に近い音響が得られる。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、先願で提案した起振ボックスの長所を活用し、低音域用,中音域用,高音域用の各音源を一つの響胴に組み込み、響胴を構成する響板の振動及び響胴内部の空気振動により、低音,中音,高音が実質的に同じ音質で連続し、従来にない高品質の音響を再生できるスピーカを提供することを目的とする。
【0005】
本発明のスピーカは、その目的を達成するため、中音域用響板及び低音域用響板を前面に張り付けた響胴と、響胴の内部に立設された支柱に直接又は間接に固定された高音域用音源,中音域用音源及び低音域用音源とを備えている。高音域用音源は、磁気回路で励起されるボイスコイルを起振ボックスに内蔵させ、起振ボックスの前面に張り付けた高音域用響板にボイスコイルが固定された構造をもつ。中音域用音源及び低音域用音源のボイスコイルは、中音域用響板及び低音域用響板にそれぞれ固定されている。
【0006】
中音域用響板及び低音域用響板は、連続した音響を得る上で、相互に接続された状態で響胴の前面に張り付けることが好ましい。中音域用響板及び低音域用響板の共振は、支柱に設けられたスプリングから前方に突出するピンを中音域用響板及び低音域用響板の共振点に当接させることにより抑制できる。高音域用響板の共振も、起振ボックスの前面両縁に両端を固定したスプリングから突出するピンを高音域用響板の共振点に当接することにより抑制できる。響板の共振抑制には、制振テープを使用しても良い。
響胴の側面に響板を張り付けることも可能である。この場合、波型の側部響板を使用すると、響胴内の定在波を防止できる。側部響板としては比較的薄い板材が使用されるため,適宜の補強部材を響胴の内部に組み込む。
【0007】
【実施の形態】
本発明に従ったスピーカは、たとえば図2に示すように響胴10の内部に高音域用音源20,中音域用音源30及び低音域用音源40を配置している。各音源20,30,40としては、磁気回路にボイスコイルを嵌挿した通常の音源が使用される。
響胴10は、台座11に立設した支脚12で支持され、前面に中音域用響板51及び低音域用響板52が張られている。台座11には,更に一対の支柱13が立設されている。支柱13は,響胴10の内部を垂直方向に延び,響胴10の天板14に上端が固定されている。
【0008】
高音域用音源20は、支柱13に固定され、高音域用響板53に固定したボイスコイル21を起振ボックス22に内蔵させている。中音域用音源30は、同じく支柱13或いは一対の支柱13,13に取り付けられた固定板17(図4a)に固定され、中音域用響板51にボイスコイル31が固定されている。低音域用音源40も同じく支柱13又は固定板17に固定され、低音域用響板52にボイスコイル41が固定されている。なお、低音域用音源40は、重厚な低音域の音響を再生するため、必要に応じて複数個設置する。
このように、振動発生源である各音源20,30,40をカウンタウェイトとして働く支柱13に固定しているため、音源20,30,40から響板51,52,53に効率よく振動が伝達される。また、支柱13を響胴10の内部に配置しているので、響胴10の側面が支柱13による物理的拘束から解放され、スピーカの設計自由度も向上する。
【0009】
中音域用音源30及び低音域用音源40は、ボイスコイル31,ボイスコイル41を介して音波振動を中音域用響板51及び低音域用響板52それぞれに直接伝達し、中音域用響板51及び低音域用響板52の振動によって音波を放出する。高音域用音源20では、ボイスコイル21を介して高音域用響板53を振動させる。高音域用響板53は、高音域用音源20を構成する起振ボックス22(図4b)の前面に張り付けられている。
【0010】
このように響胴10を構成する響板51,52及び高音域用響板53の振動により音波が放出されるため、低音域から高音域にかけて不連続性がなく、響胴10自体の表面振動及び響胴10内部の空洞振動が相俟って響胴10が1種の楽器として働き、自然に極めて近い音質が再生される。また、響板51,52,53に同材質の板材を使用するとき、低音域から高音域まで同じ音質の音波が放出される。
響板51〜53には、音情報を含む電気信号を振動に変換することから比動的ヤング率が大きく、音の伝播速度が速く、且つ内部損失が小さくて響きの良い材質が使用される。たとえば、木板,セラミック板,ガラス板,硬質プラスチック,金属板等がある。
木質の響板では湿気による膨潤を低減し、安定した音質を得るため、化学処理した板材の使用が好ましい。この種の化学処理としては、レゾルシンホルムアルデヒド処理,低分子量フェノール含浸処理等がある。化学処理により、響板51〜53の比動的ヤング率が向上し、内部損失が減少するため、響きの良い音質が得られる。また、響板51,52に金属板や織布を使用し、或いは貼り付けると、独特の音色で響胴10を振動させることができる。低音域用響板52には、固有振動数を小さくするため、中音域用響板51に比較して薄い板材の使用が好ましい。
【0011】
響胴10の側壁を響体として使用することも可能である。この場合、響板51,52と同様な材質の響板が響胴10の側部に張り付けられる。側部の響板としては、図3に示すように内側に向けて波型に成形した響板54が好ましい。側部響板54は、響板51,52又は背板15に一側が固着された傾斜側板55,55の間に設けられる。波型の側部響板54は、特定周波数の音波を強調する平行面がないため、波型形状のために強度が高くなると共に響胴10内に発生する定在波を防ぐ作用を呈する。
【0012】
側部響板54及び傾斜側板55には、響板51,52と同様に薄い板材が使用されるため補強することが好ましい。補強手段としては、たとえば響胴10の上下方向に延びる補強リブ56を側部響板54の波形部に内側からあてがい、響胴10の上下方向に関して適宜の位置で水平方向に延びる単数又は複数の梁57で補強リブ56を支持する構造が採用される。
ボイスコイル31,41で響板51,52を直接加振するとき、固有振動の関係で響板51,52が共振し、大きい振幅でビビリ等の異常音が放出されることがある。このような共振は、響板51,52の振動を弾性体や制振テープ等で吸収することにより抑制される。
【0013】
弾性体を使用した具体的な制振構造を図4(a)に示す。先ず、響板51,52の共振点を特定し、スプリング61の中央部に設けたピン62が緩衝材63を介して響板51,52の共振点に当接するように、支柱13,13の間にスプリング61を差し渡す。響板51,52の共振はピン62を介してスプリング61に伝達され、スプリング61の弾性変形として吸収されるため、共振に起因する大きな振幅が減少する。図4(a)ではスプリング61として板バネを図示しているが、板バネに代えてコイルバネを使用することも可能である。なお、符番17は、中音域用音源30及び低音域用音源40を取り付けるための固定板を示す。
【0014】
高音域用音源20に対しても、同様な制振構造を組み込むことができる。すなわち、図4(b)に示すように、高音域用響板53を跨ぐスプリング65の両端を起振ボックス22の前方両縁に固定する。スプリング65の中央部にはピン66が設けられており、緩衝材67を介してピン66の先端が高音域用響板53の共振点に当接する。高音域用音源20の起振ボックス22は比較的小型であることから、高音域用響板53の共振点及びその近傍に制振テープを貼り付けた簡単な構造によっても、高音域用響板53の共振を抑制できる。
側部響板54に対しても、同様な制振構造を組み込むことができる。この場合には、側部響板54と補強リブ56との間に弾性体,制振テープ等を介在させる手段が採用される。
【0015】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明の響胴放射型スピーカは、響胴の表面振動及び響胴内部の空気振動によって固体音として音波を放射させる方式であるため、1種の楽器となって働き、低音域から高音域にわたる広範囲の帯域において極めて自然音に近く澄んだ音響が再生される。しかも、指向性が広く放射効率が良いため、スピーカに対する視聴者の位置関係が緩和され、どの位置からでも臨場感に溢れ優れた音質の音響を楽しむことができ、視聴者の受ける印象は臨場感の高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明者が先に提案した起振箱
【図2】 本発明に従ったスピーカの内部構造を示す側断面図
【図3】 響胴の側部に側部響板を取り付けたスピーカーの図2に示した矢印位置を視点とする平断面図(a)及び側部響板を響胴内側から見た斜視図(b)
【図4】 中音域用響板,低音域用響板を響胴内側から見た制振機構の斜視図(a)及び制振機構を備えた起振ボックスの斜視図(b)
【符号の説明】
10:響胴 11:台座 12:支脚 14:天板 15:背板 17:固定板
20:高音域用音源 21:ボイスコイル 22:起振ボックス
30:中音域用音源 31:ボイスコイル
40:低音域用音源 41:ボイスコイル
51:中音域用響板 52:低音域用響板 53:高音域用響板 54:側部響板 55:傾斜側板 56:補強リブ 57:梁
61,65:スプリング 62,66:ピン 63,67:緩衝材
Claims (5)
- 中音域用響板及び低音域用響板を前面に張り付けた響胴と、響胴の内部に立設された支柱に直接又は間接に固定された高音域用音源,中音域用音源及び低音域用音源とを備え、高音域用音源は磁気回路で励起されるボイスコイルを起振ボックスに内蔵させ、起振ボックスの前面に張り付けた高音域用響板にボイスコイルが固定された構造をもち、中音域用音源及び低音域用音源は磁気回路で励起されるボイスコイルが中音域用響板及び低音域用響板にそれぞれ固定されていることを特徴とする響胴放射型スピーカ。
- 中音域用響板及び低音域用響板が相互に接続されて響胴の前面に張り付けられている請求項1記載の響胴放射型スピーカ。
- 支柱に設けられたスプリングから前方に突出するピンが中音域用響板及び低音域用響板の共振点に当接している請求項1記載の響胴放射型スピーカ。
- 起振ボックスの前面両縁に両端を固定したスプリングから突出するピンが高音域用響板の共振点に当接している請求項1記載の響胴放射型スピーカ。
- 響胴の側面に波型の側部響板を張り付けている請求項1記載の響胴放射型スピーカ。
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