JP4196154B2 - 多層シート - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はジカルボン酸構成単位とジオール構成単位とを有するポリエステル樹脂であって、ジカルボン酸構成単位及び/又はジオール構成単位が環状アセタール骨格を有する化合物に由来する単位を含むことを特徴とするポリエステル樹脂(A)から成る層と、ポリエステル樹脂(A)を除くポリエステル樹脂から成る透明樹脂層を含む、耐熱性、耐衝撃性及び透明性に優れ、且つ経済性に優れた多層シートに関する。
【0002】
【従来の技術】
透明樹脂によるシートはショーケース、屋外看板、カーポート等のエクステリア用途や透明容器、耐熱透明飲料用カップ、惣菜トレー、再加熱を要する容器、蓋材等の食品用途等の用途を有しており、基材としてポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート−スチレン共重合体等の樹脂が用いられてきた。しかし、ポリカーボネートは耐候性に劣ることや剛性が低いこと、またポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート−スチレン共重合体は耐衝撃性に劣るなどの欠点を有するため、それぞれ用途への利用には制限があった。
【0003】
一方で、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」ということがある)は透明性、機械的性能、耐溶剤性、保香性、耐候性、リサイクル性等にバランスのとれた樹脂であり、近年、ポリエステル系の透明シートの需要が拡大している。しかしながらPETは耐熱性が必ずしも良好でないため、高い耐熱性が要求される分野には利用できない。
【0004】
このため、耐熱性の要求される分野に対しては、ポリエチレンナフタレートやポリアリレート、ナフタレンジカルボン酸変性PET等が用いられてきたが、これらの樹脂は非常に高価であるため、用途は限られたものであった。
【0005】
また耐熱性のポリエステルとして、米国特許2,945,008号の実施例9,10には、エチレングリコールとPETの変性成分として下記構造式(5):
【化5】
で表される3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンとを含むジオール成分とジカルボン酸成分としてのジメチルテレフタレートとをチタン化合物触媒の存在下で重合せしめて180〜220℃で溶融するポリエステルが得られたことが記載されている。また同公報中には、開示されている変性PETは、ガラス転移点が高く耐熱性に優れるとの記載がなされている。
【0006】
本発明者らが、該米国特許で開示されている変性PETから単層シートを製造したところ、耐熱性、機械物性、透明性に優れるものの、シート表面に傷が付くことにより耐衝撃性が著しく低下するという欠点を有することが分かった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は前記の如き状況に鑑み、耐熱性、透明性、耐衝撃性に優れた多層シートを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ジカルボン酸成分とジオール成分の少なくとも一方が環状アセタール骨格を有する化合物を含む原料モノマーを重合して得られたポリエステル樹脂(A)から成る層の少なく1層と、ポリエステル樹脂(A)を除くポリエステル樹脂から成る透明樹脂層の少なくとも1層を含む多層シートが耐熱性、透明性、及び耐衝撃性に優れ、且つ経済性に優れることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、ジカルボン酸構成単位とジオール構成単位とを有するポリエステル樹脂であって、ジカルボン酸構成単位がすべてテレフタル酸単位であり、ジオール構成単位の10〜50モル%が環状アセタール骨格を有するジオール単位であり、50〜90モル%がエチレングリコール単位であるポリエステル樹脂(A)から成る層の少なくとも1層と、ポリエステル樹脂(A)以外の他のポリエステル樹脂から成る透明樹脂層の少なくとも1層とを含む多層シートであり、該環状アセタール骨格を有するジオールが3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、または5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサンであり、ポリエステル(A)をコア層とし、ポリエステル樹脂(A)以外の他のポリエステル樹脂をスキン層とした3層以上の層構成である多層シートである。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明のポリエステル樹脂(A)は、(1)環状アセタール骨格を有するジカルボン酸単位(環状アセタール骨格を有するジカルボン酸に由来する構成単位)を10〜50モル%含むジカルボン酸構成単位と環状アセタール骨格を有さないジオール構成単位、(2)環状アセタール骨格を有さないジカルボン酸構成単位と環状アセタール骨格を有するジオール単位(環状アセタール骨格を有するジオールに由来する構成単位)を10〜50モル%含むジオール構成単位、又は、(3)環状アセタール骨格を有するジカルボン酸単位を10〜50モル%含むジカルボン酸構成単位と環状アセタール骨格を有するジオール単位を10〜50モル%含むジオール構成単位とからなるポリエステル樹脂である。
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)に用いられる環状アセタール骨格を有するジオールとしては一般式(1):
【化6】
または一般式(2):
【化7】
で表される化合物が好ましい。一般式(1)と(2)において、R1およびR2はそれぞれ独立して、炭素数が1〜10の脂肪族基、炭素数が3〜10の脂環式基、及び炭素数が6〜10の芳香族基からなる群から選ばれる有機基、好ましくは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基又はこれらの構造異性体、例えば、イソプロピレン基、イソブチレン基を表す。R3は炭素数が1〜10の脂肪族基、炭素数が3〜10の脂環式基、及び炭素数が6〜10の芳香族基からなる群から選ばれる有機基、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、又はこれらの構造異性体、例えば、イソプロピル基、イソブチル基を表す。一般式(1)及び(2)の化合物としては、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサン等が特に好ましい。
【0011】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)の環状アセタール骨格を有するジオール以外のジオールとしては、特に制限はされないが、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテル化合物類;1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,3−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,4−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,5−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,6−デカヒドロナフタレンジメタノール、2,7−デカヒドロナフタレンジメタノール、テトラリンジメタノール、ノルボルネンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロドデカンジメタノール等の脂環式ジオール類;4,4’−(1−メチルエチリデン)ビスフェノール、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール(ビスフェノールZ)、4,4’−スルホニルビスフェノール(ビスフェノールS)等のビスフェノール類;前記ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物;ヒドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルベンゾフェノン等の芳香族ジヒドロキシ化合物;及び前記芳香族ジヒドロキシ化合物のアルキレンオキシド付加物等が例示できる。
【0012】
環状エーテル骨格を有するジカルボン酸としては、一般式(3):
【化8】
又は一般式(4):
【化9】
で表される化合物が好ましい。一般式(3)及び(4)において、R3は前記と同様であり、R4及びR5はそれぞれ独立して炭素数が1〜10の脂肪族基、炭素数が3〜10の脂環式基、及び炭素数が6〜10の芳香族基からなる群から選ばれる有機基、好ましくは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基又はこれらの構造異性体、例えば、イソプロピレン基、イソブチレン基を表す。R6およびR7はそれぞれ独立して水素原子、メチル基、エチル基、又はイソプロピル基、好ましくは水素原子あるいはメチル基を表す。一般式(3)及び(4)の化合物としては、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−カルボキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、5−カルボキシ−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−カルボキシエチル)−1,3−ジオキサン等が特に好ましい。
【0013】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)の環状アセタール骨格を有するジカルボン酸以外のジカルボン酸としては、特に制限はされないが、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロドデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸及びこれらのエステル形成性誘導体;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2−メチルテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸及びこれらのエステル形成性誘導体が例示できる。
【0014】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)は、少なくとも、(1)環状アセタール骨格を有するジカルボン酸単位を10〜50モル%、好ましくは15〜45モル%含むジカルボン酸構成単位、又は(2)環状アセタール骨格を有するジオール単位を10〜50モル%、好ましくは15〜45モル%含むジオール構成単位を有する。環状アセタール骨格を有するジカルボン酸単位及び/又は環状アセタール骨格を有するジオール単位の含有量が上記より小さい場合には、本発明に用いるポリエステル樹脂(A)が十分な耐熱性を示さない場合があり好ましくない。また上記範囲より大きい場合には耐衝撃性がかえって低下する場合があり、好ましくない。
【0015】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)のジカルボン酸成分としては機械的性能の面から芳香族ジカルボン酸及びこのエステル形成性誘導体が好ましく、特にテレフタル酸及びそのエステル形成性誘導体が好ましい。ジカルボン酸構成単位中に占める芳香族ジカルボン酸単位の割合は、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上である。上記割合とすることにより、本発明の多層シートは耐熱性、機械的性能に優れたものとなる。
【0016】
より好ましいポリエステル樹脂(A)は、芳香族ジカルボン酸単位を70モル%以上含むジカルボン酸構成単位と、環状アセタール骨格を有するジオール単位を10〜50モル%及びエチレングリコール単位を50〜90モル%(但し、前記モル%はジオール類の合計量に基づく)を含むジオール構成単位を有するポリエステル樹脂である。上記組成割合のジオール構成単位とジカルボン酸構成単位を有することにより、本発明のポリエステル樹脂(A)は特に機械的性能、耐熱性を優るという特長が得られる。
【0017】
特に、耐熱性を考慮した場合、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカンを使用することが好ましい。更に、経済性、耐熱性、機械的性能のバランスを考慮すると、ジカルボン酸成分及びジオール成分の組み合わせとしてジカルボン酸成分にテレフタル酸、ジオール成分に3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン及びエチレングリコールを用いるのが好ましい。
【0018】
本発明に用いるポリエステル樹脂(A)を製造する方法は特に制限はなく、従来公知の方法を適用することができる。例えばエステル交換法、直接エステル化法等の溶融重合法、又は溶液重合法等を挙げることができる。エステル交換触媒、エステル化触媒、エーテル化防止剤、熱安定剤、光安定剤等の各種安定剤、重合調整剤等も従来既知のものを用いることが出来る。
【0019】
本発明の多層シートは、上述の環状アセタール骨格を有するジカルボン酸を含むジカルボン酸成分及び/又は環状アセタール骨格を有するジオールを含むジオール成分を用いて得られたポリエステル樹脂(A)と、ポリエステル樹脂(A)を除くポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、メチルメタクリレート−スチレン共重合体から選ばれた1種以上の透明樹脂とを、少なくとも2以上の層を有する多層シートに成形することにより得られる。
【0020】
ポリエステル樹脂(A)と多層化可能な透明樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート、1,4−シクロヘキサンジメタノール変性ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート等のポリエステル樹脂;ポリスチレン樹脂;アクリル樹脂;ポリカーボネート樹脂;メチルメタクリレート−スチレン共重合体;アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体;塩化ビニル樹脂;脂環式ポリオレフィン樹脂が挙げられるが、技術的に容易に多層化のできる樹脂としてポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、メチルメタクリレート−スチレン共重合体が特に好ましく用いられる。
【0021】
本発明のポリエステル樹脂(A)はシートの表面に傷が付くことで、耐衝撃性が低下するという欠点を有する。耐衝撃性の低下は、傷が付いた面の裏面から力が加わった場合のみ観察され、力が加わる面に傷が付いても耐衝撃性の低下は観察されない。このため、力の加わる面が限定された用途であれば、多層化によりポリエステル樹脂(A)層の少なくとも片面を保護する、すなわち最低2層の多層シート(ポリエステル樹脂(A)層/透明樹脂層)とすることでポリエステル樹脂(A)の表面に傷が付いても、耐衝撃性が低下するという欠点は改善される。ポリエステル樹脂(A)をコア層にした3層以上の層構成(例えば、透明樹脂層/ポリエステル樹脂(A)層/透明樹脂層、透明樹脂層/ポリエステル樹脂(A)層/透明樹脂層/透明樹脂層、透明樹脂層/ポリエステル樹脂(A)層/透明樹脂層/ポリエステル樹脂(A)層/透明樹脂層)としてポリエステル樹脂(A)層の両面を保護すれば、一層の改善効果が得られる。更に、ポリエステル樹脂(A)をスキン層として用いた3層以上の層構成(例えば、ポリエステル樹脂(A)層/透明樹脂層/ポリエステル樹脂(A)層、ポリエステル樹脂(A)層/透明樹脂層/透明樹脂層/ポリエステル樹脂(A)、ポリエステル樹脂(A)層/透明樹脂層/ポリエステル樹脂(A)層/透明樹脂層/ポリエステル樹脂(A))とした場合にも同様の改善効果が得られることが分かった。
【0022】
ポリエステル樹脂(A)と多層化する透明樹脂の種類および層構成(積層順、層の数)は用途により選択すれば良い。例えば、PETのシートにさらに耐熱性を付与するために、PETをスキン層、ポリエステル樹脂(A)をコア層、あるいはポリエステル樹脂(A)をスキン層、PETをコア層に用いた2種3層の層構成(PET層/ポリエステル樹脂(A)/PET層、ポリエステル樹脂(A)層/PET層/ポリエステル樹脂(A)層)とすることで、耐熱性、透明性、耐衝撃性に優れた多層シートが得られる。また、耐候性や表面硬度を特に必要とする用途ではアクリル樹脂をスキン層に、ポリエステル樹脂(A)をコア層に用いることで(アクリル樹脂層/ポリエステル樹脂(A)/アクリル樹脂層)、耐候性、表面硬度、耐熱性、透明性、耐衝撃性に優れた多層シートが得られる。
【0023】
更に、本発明は耐衝撃性に劣るポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、メチルメタクリレート−スチレン共重合体の耐衝撃性をポリエステル樹脂(A)によって改善した多層シートをも内包する。ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、メチルメタクリレート−スチレン共重合体をコア層に、ポリエステル樹脂(A)をスキン層に用いることで、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、メチルメタクリレート−スチレン共重合体単層のシートに比べて飛躍的に耐衝撃性が向上する。なお、特に傷が付きやすい用途ではスキン層のポリエステル樹脂(A)を塗膜などで保護しても良い。
【0024】
本発明の多層シートの製造方法としては共押出法、共押出ラミネート法、押出ラミネート法、ドライラミネート法等の公知の積層化技術を用いることができる。またこれらの積層化のために樹脂間に適した接着剤、あるいは接着性樹脂を用いても良い。
【0025】
本発明の多層シートの全光線透過率は、厚さ0.8mmの多層シートをASTM D1003に基づき測定される値で好ましくは87%以上である。87%未満の場合、厚さが1mmを越える多層シートでは透明性が不十分となり好ましくない。
【0026】
また、本発明の多層シートの耐熱性は、0.8mm厚の多層シートから、押出方向を縦、幅方向を横として、縦、横100mmの正方形試験片を切り出し、この試験片を5℃刻みのオーブン内で30分加熱し、加熱後の縦及び横方向の収縮率が10%を越えない最高温度が好ましくは85℃以上、より好ましくは90℃以上である。該最高温度が85℃未満の場合、熱水等に触れた場合に多層シートが変形しやすくなり、好ましくない。
【0027】
更に、本発明の多層シートの耐衝撃性は0.8mm厚の多層シートに、JISR6010で粒度P80の研磨紙で試験片を片面に均一に傷を付け、傷のない他方の面に直径2cmの半球の錘を落下させて470Jの衝撃エネルギーを垂直に与えた際の落錘衝撃破断強度が好ましくは30kJ/m以上、より好ましくは35kJ/m以上である。落錘衝撃破断強度が30kJ/m未満の場合、シートを薄型化すると、十分な耐衝撃性が得られず好ましくない。
【0028】
本発明の多層シートの各層の厚さは、用途、層を形成する樹脂の種類、層の数などに応じて決められるが、通常は、500μm〜10mmである。また、多層シートの総厚さは用途により異なり、例えば、食品向けシート等では0.1〜0.9mm、建材、商品ディスプレイ用等の厚物シートでは1〜40mmの厚みで使用される。ポリエステル樹脂(A)層と透明樹脂層の層数の合計は通常6層までである。
【0029】
本発明の多層シートは、建材用途では例えば、自動販売機電照板、ショーケース、屋外看板、カーポート等のエクステリア用途、各種産業機械カバー、風防、間仕切り板等に使用することができる。また、食品用途として、例えば、殺菌、滅菌が必要とされる透明容器、耐熱透明飲料用カップ、惣菜トレー、再加熱を要する容器、蓋材等が挙げられる。その他の分野では、クリアケース/クリアボックス(折り曲げ加工成形品)、電灯カバー、ブリスター、赤道直下を越えるような輸出製品等が挙げられる。
【0030】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によりその範囲を限定されるものではない。なお、実施例の評価に用いた、原料は次の通りである。
【0031】
〔ポリエステル樹脂(A)の合成〕
表1〜4に記載の原料モノマー(ジカルボン酸成分とジオール成分)の所定量を、ジカルボン酸成分100モルに対し酢酸マンガン四水和物0.03モルの存在下、窒素雰囲気下で200℃迄昇温してエステル交換反応を行った。メタノールの留出量が理論量に対して90%以上に達した後、ジカルボン酸成分100モルに対し、酸化アンチモン(III)0.01モルとトリフェニルホスフェート0.06モルを加え、昇温と減圧を徐々に行い、最終的に280℃、0.1kPa以下で重合を行った。適度な溶融粘度になった時点で反応を終了し、ポリエステル樹脂(A)を得た。
【0032】
本実施例及び比較例中で使用した他の樹脂を以下に記す。
(1)ポリエチレンテレフタレート(PET):日本ユニペット(株)製、商品名:UNIPET RT553C
(2)メチルメタクリレート−スチレン共重合体(PMS):新日鉄化学(株)製、商品名:エスチレンMS600
(3)ポリメチルメタクリレート(PMMA):(株)クラレ製、商品名:パラペット HR−L
【0033】
〔評価方法〕
次に本実施例及び比較例中の多層シートの評価方法は以下の通りである。
(1)耐熱性
0.8mm厚の多層シートから、押出方向を縦、幅方向を横として、縦、横100mmの正方形試験片を切り出し、この試験片を5℃刻みのオーブン内で30分加熱し、加熱後の縦及び横方向の収縮率が10%を越えない最高温度とした。
【0034】
(2)全光線透過率
全光線透過率は、JIS−K−7105、ASTM D1003に準じて0.8mm厚の多層シートを用いて測定した。使用した測定装置は、日本電色工業社製の曇価測定装置(型式:COH−300A)である。
【0035】
(3)曇価(ヘイズ)
曇価は、JIS−K−7105、ASTM D1003に準じて測定した。0.8mm厚の多層シートを48時間調湿後、23℃、相対湿度50%の雰囲気下で測定した。使用した測定装置は、日本電色工業社製の曇価測定装置(型式:COH−300A)である。
【0036】
(4)耐衝撃性
0.8mm厚の多層シートから、押出方向を縦、幅方向を横として、縦、横100mmの正方形試験片を切り出し測定試料とした(表中傷無しと表記)。また、JIS R6010で粒度P80の研磨紙で試験片の片面に均一に傷を付け、同様に測定試料とした(表中傷有りと表記)。測定装置は、パーカーコーポレーション社製、落錘衝撃測定試験機を用い、錘の形状は直径2cmの半球、衝撃エネルギーは470Jで落錘衝撃破断強度の測定を行った。紙ヤスリで傷を付けた測定試料を測定する場合は傷の付いていない面に錘が落下するようにして測定を行った。
【0037】
実施例1、参考例1〜8、比較例1〜5
実施例1、参考例1〜8及び比較例5はコア層原料を65mm押出機を用い押出し、一方、スキン層原料は30mm押出機を用いて押出し、マルチマニホールドタイプのダイを用いて2種3層の多層シート(多層シート厚み:約0.8mm、スキン層厚み:約100μm)を作成した。比較例1〜4は樹脂を65mm押出機を用い押出し、単層ダイスを用いて、シート厚み約0.8mmの単層シートを製造した。結果を表1〜5に示す。尚、表中の略記の意
味は下記の通りである。
DMT:ジメチルテレフタレート
SPD:3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−カルボキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン
DOD:5−カルボキシ−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−カルボキシキシエチル)−1,3−ジオキサン
EG:エチレングリコール
SPG:3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン
DOG:5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサン
PET:ポリエチレンテレフタレート
PMS:メチルメタクリレート−スチレン共重合体
PMMA:ポリメチルメタクリレート
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
【0042】
【0043】
参考例9、10、比較例7
参考例1、3及び比較例1で製造した0.8mm厚の多層シートを圧縮成形(熱成形)してフランジ部を有する容器を作成した。各種評価は以下に示す方法により行った。結果を表6に示す。
【0044】
(1)成形性
成形した容器の形状及び透明性について外観により判断した。
成形性に関する評価は以下に示す基準で行った。
○:金型形状通りに成形されており、透明性も有している
△:金型通りに成形されているが、屈曲部分に白化が生じた。
×:金型通りに成形されなかった。
【0045】
(2)耐熱水性
成形した容器中に熱水(80、90℃)を充填し、容器のフランジ部に蓋材をヒートシールし、充填時の熱水温度で20分間保持後、容器の容量を測定し、容量保持率を計算した。計算式を以下に示す。
容量保持率(%)=[(熱水処理後の容量)/(熱水充填前の容量]×100
【0046】
表6
実施例、比較例番号 参考例9 参考例10 比較例7
シート 参考例1 参考例3 比較例1
評価結果
成形性 ○ ○ △
耐熱水性
80℃ 99% 98% 75%
90℃ 98% 92% 41%
【0047】
【発明の効果】
本発明の多層シートは、耐熱性、透明性、耐衝撃性に優れており、エクステリア用途や食品用途などの有用な素材として用いることができ、本発明の工業的意義は大きい。
Claims (3)
- ジカルボン酸構成単位とジオール構成単位とを有するポリエステル樹脂であって、ジカルボン酸構成単位がすべてテレフタル酸単位であり、ジオール構成単位の10〜50モル%が環状アセタール骨格を有するジオール単位であり、50〜90モル%がエチレングリコール単位であるポリエステル樹脂(A)から成る層の少なくとも1層と、ポリエステル樹脂(A)以外の他のポリエステル樹脂から成る透明樹脂層の少なくとも1層とを含む多層シートであり、該環状アセタール骨格を有するジオールが3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、または5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサンであり、ポリエステル(A)をコア層とし、ポリエステル樹脂(A)以外の他のポリエステル樹脂をスキン層とした3層以上の層構成である多層シート。
- 下記の(1)ないし(3)の物性を有する請求項1に記載の多層シート。
(1)厚さ0.8mmの多層シートの全光線透過率が87%以上である。
(2)0.8mm厚の多層シートから、押出方向を縦、幅方向を横として、縦、横100mmの正方形試験片を切り出し、この試験片を5℃刻みのオーブン内で30分加熱したとき、加熱後の縦及び横方向の収縮率が10%を越えない最高温度が85℃以上である。
(3)0.8mm厚の多層シートに、JIS R6010で粒度P80の研磨紙で試験片の片面に均一に傷を付け、傷のない面に直径2cmの半球錘を落下して470Jの衝撃エネルギーを垂直に与えた際の落錘衝撃破断強度が30kJ/m以上である。 - 共押出法により多層化した、請求項1または2に記載の多層シート。
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