JP4195663B2 - 乱視矯正用レンズの製造方法 - Google Patents
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Description
特許文献1には乱視を補正するための乱視屈折面としてのトーリック面をレンズの被観察体側の面(外面)に形成し、レンズの眼球側の面(内面)に累進屈折面を形成するという技術が開示されている。トーリック面とは円を中心を通らない直線を軸として回転させたときに描かれる曲面であって、「タル型」と「ドーナツ型」の二種類がある。トーリック面では縦方向と横(周)方向の曲率が異なるため、所定の縦横の曲率とされたトーリック面を設定して乱視の矯正とするものである。
(1)乱視を矯正する面がトーリック面で構成されているが、トーリック面によって生ずる現状の収差を更に抑制することが望ましい。
(2)レンズの眼球側の面(内側)に累進屈折面を形成しているが、このようにレンズの眼球側の面を累進屈折面とすることは特に非点収差の点で不利であり、遠用度数・近用度数ともマイナス度数のときを除いて、歪曲に関しても不利となる。
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、従来のレンズに比べて収差の点で有利な乱視矯正用レンズ及びその製造方法を提供することにある。
いずれかのレンズ前駆体に上方に配置された比較的遠方を見るための第1の領域と、第1の領域よりも下方に配置され同第1の領域よりも大きな屈折力を有する第2の領域と、これら領域の間に配置され屈折力が累進的に変化する累進領域とからなる累進屈折面を同累進屈折面の第1の領域でのフィッティングポイントにおける等価球面度数が少なくともプラスである場合には前記非トーリック面と合成して前記第1のレンズ前駆体のレンズの物体側の面に形成するようにし、等価球面度数がマイナスの場合には前記累進屈折面第2のレンズ前駆体のレンズの眼球側の面に形成するようにしたことをその要旨とする。
図6はプラスレンズにおいて外面乱視矯正レンズPと内面乱視矯正レンズQとの形状を比較したものである。また、図7はマイナスレンズ(近視用レンズ、以下同)において外面乱視矯正レンズpと内面乱視矯正レンズqとの形状を比較したものである。また、各レンズにおいてはそれぞれ90度ずれたプラス側の度数とマイナス側の度数の2方向におけるレンズ断面を+記号と−記号を付して示す。外面乱視矯正レンズP,pは内面側が球面とされ、内面乱視矯正レンズQ,qは外面側が球面とされている。これらはレンズの表裏の屈折力の平均値がほぼ同等となるように設定された仮想レンズである。尚、説明の簡略化のために乱視矯正面は単なるトーリック面で構成した。
これらレンズではプラスレンズもマイナスレンズも常にプラス側の軸方向のカーブでは外面乱視矯正レンズP,pがより深く設定されることとなる。一方、マイナス側の軸方向のカーブは逆に内面乱視矯正レンズQ,qがより深く設定されることとなる。非点収差はレンズの表面カーブをプラス度数側で深くすることで抑制することができる収差であるため、この点で外面乱視矯正レンズP,pのほうが有利である。
非点収差及び歪曲収差を抑制させる場合にはトータルとしては外面乱視矯正レンズのほうが有利であるといるといえるが、プラスレンズ又はマイナスレンズへの適用を考えれば特にプラスレンズに対して最適であるといえる。
このような累進屈折面の第1の領域の遠用フィッティングポイントから第2の領域の近用フィッティングポイントへと視線を移動させる際に視線が通過する主注視線では同主注視線に沿う方向における同累進面の断面の曲率P1と同主注視線の任意の点に関して、その点を通る平面であって、かつその点における主注視線の接線が垂直に交わる平面と累進面が交わってできる断面曲線の曲率P2との曲率差ΔPを0としないようにすることが好ましい。上記曲率P1とP2との曲率差ΔPが0ではないということは要は主注視線上に面アスを発生させることである。これによって主注視線を透過する透過光の非点収差が効率的に抑制されることとなる。
まず、非点収差について説明する。基本的に累進屈折力レンズでは上方域で遠くを見、下方域で近くを見るという構成となっている。このため、レンズの度数配置は上方でマイナス側、下方でプラス側となっている。一方、非点収差はレンズの表面カーブをプラス度数側で深くすることで抑制することができる収差であり外面累進レンズは元来非点収差を抑制するための効率的な形状を有しているものといえる。従って、外面累進レンズは内面累進レンズよりも非点収差の点で有利である。
図8(a)に示すように、プラスレンズでは外面累進レンズRのベースカーブBCはレンズ上方位置では浅くレンズ下方位置では深く形成されている。これは累進面が基本的に上方位置にある遠用部領域に対して下方位置にある近用部領域は相対的にプラス度数となるため光学的には理にかなった構成とされている。一方、図8(b)に示すような内面累進レンズrのベースカーブBCでは光学的にこれとは逆にレンズ上方位置では深くレンズ下方位置では浅く形成される必要がある。
ところが、このような構成とした場合では、例えば図9のように外面累進レンズRのある近用領域のa点について内面累進レンズrと比較した場合、外面累進レンズRにおいては累進レンズとしてこのa点と同じのパワーが発揮される位置はb点、すなわちa点よりも高さだけ遠用部領域に近い位置とされる。すなわち、内面累進レンズrでは外面累進レンズRと同じパワーを得ようとする場合ではより短い距離で外面累進レンズRと同等の加入をしなければならないこととなる。
更に、図9に示すように眼球から各レンズまでの距離L1,L2を比較するとは内面累進レンズrの距離L2では外面累進レンズRの距離L1に比べてカーブが浅い分だけ遠くなってしまうこととなっている。これらのような内面累進レンズrの特徴が歪曲収差として顕著に現れてしまうこととなるわけである。
このようなことから歪曲収差についても外面累進レンズのほうが有利であるといえる。
乱視矯正面2は眼鏡着用者の測定乱視度数に基づいて予め仮想設定される。本実施の形態では最大曲率半径の主経面がx軸方向に、最小曲率半径の主経面がy軸方向に指向し、更にレンズ周辺部分の曲率が異なる非トーリック面とされている。
図4に示すように、製造工程は第1の加工工程とそれに続く第2の加工工程からなる2つの工程から成り立っている。第1の加工工程では主としてレンズ内外面に所定の球面を形成することが目的であり、第2の加工工程では主としてレンズ外面に乱視矯正面2と累進屈折面3を合成した合成面を形成することが目的である。
まず第1の加工工程について説明する。
第1の加工工程では図5に示すようないわゆる「セミフィニッシュ」と呼ばれる十分な厚みを有するレンズ前駆体としての材料ブロック10を製造する。材料ブロック10の表裏とも同じ曲率の単純な球面(ベースカーブ)に形成されている。
上記第1の加工工程において得られたベースカーブのそれぞれ異なる材料ブロック10からユーザーに好適のベースカーブの材料ブロック10を選ぶ。上記のように本実施の形態のレンズ1はプラスレンズであるため、非点収差も歪曲収差も有利な外面側に加工を施すものとする。従って、材料ブロック10の外面に乱視矯正面2と累進屈折面3を合成した合成面5を形成してレンズ1を得る。本実施の形態1ではこの段階で図示しないCAM(computer aided manufacturing)装置を使用して切削加工及び研削加工を施す。尚、レンズ1がマイナスレンズである場合には所望により歪曲収差の点で有利な内面側に加工を施すようにすることも可能である。
(1)上記実施の形態のレンズ1はプラスの外面乱視矯正レンズであるため従来の内面乱視矯正レンズと比較して非点収差の点でも歪曲収差の点でも有利である。
(2)上記実施の形態のレンズ1の乱視矯正面2はレンズ1の表面1a側に形成されていることから従来の内面乱視矯正レンズと比較して非点収差の点で有利であることに加え、非トーリック面であるため更に非点収差の抑制の点で有利である。
(3)上記実施の形態のレンズ1ではレンズ1の表面1a側に累進屈折面3を乱視矯正面2と併せて形成されているため、累進屈折面3を形成することによる非点収差や歪曲収差が裏面1b側に累進屈折面を形成する場合よりも抑制されることとなる。また、主注視線S1が非へそ線となっているため更に非点収差が抑制されることとなる。
(4)マイナスレンズを加工する場合には装用者の所望によって歪曲収差の点で有利な内面乱視矯正レンズを選択することが可能である。その際に別途内面加工用の材料ブロックを用意しなくとも上記材料ブロック10の表裏のカーブは同じであるため、同材料ブロック10をそのまま内面加工用に使用することが可能である。
・上記レンズ1はプラスチックレンズであったが、ガラス等の他の材料で構成しても構わない。
その他本発明の趣旨を逸脱しない態様で実施することは自由である。
但し、レンズの外面を加工する場合と内面を加工する場合では形状自体が異なるため条件はまったく同じにはなり得ない。実際には形状の異なるレンズ同士を精密に比較することは困難であるが、レンズ表面における乱視のプラス軸側方向とマイナス軸側方向の屈折力及びレンズ裏面における乱視のプラス軸側方向とマイナス軸側方向の屈折力を測定し、これらの4つの屈折力の値の平均値を揃えることで両レンズがほぼ同一の乱視矯正力を有しているものとして判定した。尚、以下の両レンズの比較においては敢えて累進屈折面を合成させずに乱視矯正面だけで設計したレンズ同士で行っている。累進屈折面成分が合成されていると以下の非点収差で得られる数値が複雑化してかえって正確さに欠けるためである。
尚、歪曲収差については上記図6に示すように外面乱視矯正レンズは内面乱視矯正レンズと比較してプラス側のカーブが深くなることからトータルとしてやはり外面乱視矯正レンズのほうが有利となる。
外面乱視矯正レンズではレンズの物体側の面をトーリック面とし、レンズの眼球側の面を球面とした。一方、比較対象としての内面乱視矯正レンズではレンズの物体側の面を球面とし、レンズの眼球側の面をトーリック面とした。
両レンズの基本条件は以下の通りである。
・S+1.00D、C+2.00D(S:遠用度数、C:乱視度数)
(プラス軸側方向+3.00D、マイナス軸側方向+1.00D)
・レンズ径70mm
・レンズ屈折率1.60
・レンズ中心部厚み3.905mm
また、基本条件以外の条件については表1の通りである。
これらの結果に基づけば平均度数誤差はすべてプラスの値を示し、トーリック面を用いたレンズではレンズ中心から離間するにつれて度数が強くなる傾向にあることが理解できる。
また、非点収差はレンズ中心から離間するにつれて度数が大きくなる傾向にある。非点収差はプラス軸側方向で大きく差が出ており、外面乱視矯正レンズでは1.16Dであるのに対し内面乱視矯正レンズでは1.65Dであった(その差0.49D)。マイナス軸側方向では内面乱視矯正レンズのほうが非点収差が少なかったが、レンズのトータルな非点収差についてはプラス軸側方向の差が影響し外面乱視矯正レンズのほうが有利である。
尚、このレンズの中心での乱視度数は2.00Dであるため本来レンズ中心での非点収差は2.00Dとすることも可能であるが、装用者にとっては自身の所定の乱視度数において収差を0.00Dと認識するためここではレンズ中心を装用者の立場を基準として0.00Dとした。
外面乱視矯正レンズではレンズの物体側の面を非トーリック面とし、レンズの眼球側の面を球面とした。一方、比較対象としての内面乱視矯正レンズではレンズの物体側の面を球面とし、レンズの眼球側の面を非トーリック面とした。レンズの基本条件において遠用度数(S)、乱視度数(C)、レンズ径及びレンズ屈折率は上記a)と同じであるが、表2及び表3に示した両レンズの平均度数誤差が0となるように非トーリック面を設計したため中心厚は3.699mmという薄さに抑えることができた。
また、基本条件以外の条件については表4の通りである。
これらの結果から上記トーリック面を用いたレンズに比べて非トーリック面を用いたレンズでは非点収差が格段に減少していることが理解できる。更に、非トーリック面を用いて乱視矯正をする場合に特に外面乱視矯正レンズに用いることが非点収差抑制の観点から好適であることが理解できる。
Claims (1)
- レンズの眼球側となる面を球面形状に形成した第1のレンズ前駆体と、レンズの物体側となる面を球面形状に形成した第2のレンズ前駆体を前もって用意し、装用者の具体的な乱視度数に基づく乱視矯正面としての非トーリック面を両レンズの物体側の面に形成するとともに、
いずれかのレンズ前駆体に上方に配置された比較的遠方を見るための第1の領域と、第1の領域よりも下方に配置され同第1の領域よりも大きな屈折力を有する第2の領域と、これら領域の間に配置され屈折力が累進的に変化する累進領域とからなる累進屈折面を同累進屈折面の第1の領域でのフィッティングポイントにおける等価球面度数が少なくともプラスである場合には前記非トーリック面と合成して前記第1のレンズ前駆体のレンズの物体側の面に形成するようにし、等価球面度数がマイナスの場合には前記累進屈折面第2のレンズ前駆体のレンズの眼球側の面に形成するようにしたことを特徴とする乱視矯正用レンズの製造方法。
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