JP4195107B2 - ストレス蛋白質発現増強剤 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、2糖のヒアルロン酸オリゴ糖を有効成分とするストレス蛋白質発現増強剤に関する。さらに本発明は、2糖のヒアルロン酸オリゴ糖によってストレス蛋白質の発現を増強することに基づく、2糖のヒアルロン酸オリゴ糖を有効成分とする細胞障害抑制剤および細胞死抑制剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
ヒアルロン酸は、D−グルクロン酸とN−アセチル−D−グルコサミンとの2糖繰り返し単位から構成されている長鎖の多糖であり、一方、オリゴ糖も知られている。ヒアルロン酸は鶏冠、さい体、皮膚、関節液などの生体組織からの抽出液、またはストレプトコッカス属の細菌を用いる発酵法などにより製造され、毒性学的および免疫学的作用が存在しないため、薬剤や化粧品として利用されており、例えばヒアルロン酸の関節内注射による関節炎の治療がよく知られている。
【0003】
一方、種々のストレス反応によって生じる障害を防御する蛋白質としてストレス蛋白質が知られている。ストレス蛋白質はもともとは細胞に熱処理を加えた時に誘導されることから認識された蛋白質であるが、ストレスを受けない細胞にも存在している。ストレス蛋白質としてはHSP70、HSP72、HSP73などのHSP70ファミリー;HSP90ファミリー;HSP20、HSP27、HSP28などのHSP20ファミリー;HSP40、HSP47などのHSP40ファミリー、ユビキチン、ヒストンH2Bなどの蛋白質が知られている。このうちHSP70ファミリー蛋白質は分子量7万程度の熱ショック蛋白質およびその相同体からなり、大腸菌からヒトにいたるまで高度に保存された蛋白質である。
【0004】
これらのストレス蛋白質、とくにHSP70ファミリー蛋白質は、熱ショック、過酸化水素、重金属、アミノ酸アナログ、グルコース飢餓などの環境ストレスを生じさせる因子;発熱、炎症、虚血、ウイルス感染、代謝疾患、心肥大症、酸化的ストレス、細胞および組織障害、癌遺伝子や発癌物質などによる病的状態などのストレス因子によって生じた蛋白質の変性や構造変化、異常蛋白質の産生などを抑制したり、再度元の機能をもった蛋白質に再生するなどの働きによって細胞障害(細胞傷害や細胞変性など)や細胞死などを防止すると考えられている。例えば、脳虚血によって神経細胞は代謝ストレスをうけ、ストレス蛋白質を発現(合成)し、神経細胞の壊死をふせぎ、また同一のストレスに対して神経細胞に耐性を誘導することや、熱ショック蛋白質(HSP)が細胞の癌化に伴って細胞表面に発現し、特定のT細胞と反応して、腫瘍を免疫学的に拒絶に導く腫瘍免疫を成立させることなどが知られている。ストレス蛋白質は、ストレス蛋白質との関連が示唆されている多くの病気、例えば自己免疫疾患、脳の変性疾患、虚血、肥大症、炎症、細菌感染症、ウイルス感染症、アルツハイマー病、糖尿病、川崎病、精神***病などへの応用や、癌細胞の細胞死を期待するような効果についても期待されている(Cell.,17(1979)p241-254、Ann.Rev.Biochem.,55(1986)p1151-1191 、J.Cell.Biol.,117(1992)p1151-1159、Exp.Cell.Res.,195(1991)p338-344 、Exp.Cell.Res.,217(1995)p15-21 、Acta. Neuropathol., 77(1988)p128-135、Journal of Cerebra Blood Flow and Metabolism, 13(1993)p781-788、Clin. Invest., 93(1994)p759-767 、ストレス蛋白質「基礎と臨床」1994年発行、中外医学社)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ストレス蛋白質発現増強剤を提供する。さらに詳しくは、生体に悪影響を与えることなくストレス蛋白質の発現を増強することで、細胞障害や細胞死を抑制する薬剤を提供する。
【0006】
【課題を解決する手段】
本発明は、
1)2糖のヒアルロン酸オリゴ糖を有効成分とするストレス蛋白質発現増強剤、
)ストレス蛋白質がHSP70ファミリー蛋白質であることを特徴とする1)のストレス蛋白質発現増強剤、
2糖のヒアルロン酸オリゴ糖を有効成分とする細胞障害抑制剤、
2糖のヒアルロン酸オリゴ糖を有効成分とする細胞死抑制剤、
を提供するものである。
【0007】
本発明で使用するヒアルロン酸は、基本的にはβ−D−グルクロン酸の1位とβ−D−N−アセチルグルコサミンの3位とが結合した2糖単位を少なくとも1個含む2糖以上のものでかつβ−D−グルクロン酸とβ−D−N−アセチルグルコサミンとから基本的に構成されるものであれば、2糖単位が1個または複数個結合したものにそれらの要素が結合した糖であってもよく、またこれらの誘導体、例えば、アシル基等の加水分解性保護基を有したもの等も使用し得る。該糖は不飽和糖であってもよく、不飽和糖としては、非還元末端糖、通常、グルクロン酸の4,5位炭素間が不飽和のもの等が挙げられる。本発明で使用するヒアルロン酸としては、具体的には動物等の天然物から抽出されたもの、微生物を培養して得られたもの、化学的もしくは酵素的に合成されたものなどいずれも使用することができる。例えば鶏冠、さい体、皮膚、関節液などの生体組織から公知の抽出法と精製法によって得ることができる。またストレプトコッカス属の細菌等を用いた発酵法によっても製造できる。
【0008】
本発明においては、ヒアルロン酸オリゴ糖もヒアルロン酸に包含され、上記2糖単位1個からなる2糖およびその誘導体のような低分子量のヒアルロン酸から、重量平均分子量400万程度の高分子量のヒアルロン酸まで使用することができる。好ましくは組織における浸透性などの点で優れる重量平均分子量380程度〜900,000程度のヒアルロン酸が挙げられ、より好ましくは2〜20糖程度のヒアルロン酸を挙げることができる。
【0009】
ヒアルロン酸のうち分子量の低いものは、具体的には、酵素分解法、アルカリ分解法、加熱処理法、超音波処理法(Biochem., 33(1994)p6503-6507)等の公知の方法によってヒアルロン酸を低分子化する方法、化学的もしくは酵素的に合成する方法(Glycoconjugate J., (1993)p435-439、WO93/20827) などで製造することが好ましい。例えば酵素分解法としては、ヒアルロン酸分解酵素(ヒアルロニダーゼ(睾丸由来)、ヒアルロニダーゼ(Streptomyces由来)、ヒアルロニダーゼSDなど)、コンドロイチナーゼAC、コンドロイチナーゼACII、コンドロイチナーゼACIII 、コンドロイチナーゼABCなどのヒアルロン酸を分解する酵素をヒアルロン酸に作用させてヒアルロン酸オリゴ糖を生成する方法(新生化学実験講座「糖質II−プロテオグリカンとグリコサミノグリカン−」p244-248、1991年発行、東京化学同人 参照)などが挙げられる。
【0010】
また、アルカリ分解法としては、例えばヒアルロン酸の溶液に1N程度の水酸化ナトリウム等の塩基を加え、数時間加温して、低分子化させた後、塩酸等の酸を加えて中和して、低分子量のヒアルロン酸を得る方法などが挙げられる。 本発明で用いるヒアルロン酸は、塩の形態を包含し、製剤上の必要に応じて、その薬学上許容できる塩を用いることができる。例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、トリ(n−ブチル)アミン塩、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、アミノ酸塩等のアミン塩などであることができる。
【0011】
本発明の薬剤は、ヒアルロン酸オリゴ糖単独又は種々の分子量のヒアルロン酸を組み合わせたものなど特に限定することなく使用できる。
本発明の薬剤は、2糖のヒアルロン酸オリゴ糖(以下、ヒアルロン酸オリゴ糖ともいう)を有効成分とするものであり、その有効量をヒトを含む哺乳動物に投与することによって生体に悪影響を与えることなくストレス蛋白質の発現を増強するか発現を誘導することができる薬剤である。この薬剤は、たとえばストレスあるいはその他の理由で生じた細胞の障害(例えば細胞傷害、細胞変性など)又は細胞死などに起因する疾患に羅患したヒトを含む哺乳動物に投与することによって、ストレス蛋白質の発現を増強するか発現を誘導することで、細胞障害や細胞死などを抑制して、該動物を治療することができる。なお、本発明のストレス蛋白質発現増強剤はストレス蛋白質発現誘導剤も包含する。
【0012】
本発明の薬剤は、細胞の障害又は細胞死などに起因する疾患において、ストレス蛋白質による防御作用が示唆される多くの疾患、例えば心臓疾患(心筋梗塞など),尿細管障害,循環器疾患,脳疾患(脳卒中など)、神経疾患などの血管狭搾や虚血による虚血性疾患;エイズ(AIDS),免疫抑制剤や抗ガン剤の投与による胸腺細胞の障害,末梢T細胞の減少,免疫不全症等の免疫関連疾患;肝炎,潰瘍性大腸炎などの炎症;外傷;細菌感染症;ウイルス感染症;アルツハイマー病;糖尿病;肥大症;川崎病;精神***病;発熱;代謝疾患;癌などへの効果が期待される。
【0013】
本発明の薬剤は、ヒアルロン酸オリゴ糖又はその塩を、そのまままたは必要に応じて担体、賦形剤、その他の添加物と共に、経口的あるいは非経口的に投与(関節内投与、静脈内、筋肉内、皮下などの組織内投与(注射)、経腸投与、経皮投与など)するための医薬品として、任意の剤形に製剤化することが可能であり、任意の投与方法で患者に投与される。
【0014】
経口製剤としては、散剤、顆粒剤、カプセル剤、錠剤等の固形製剤;シロップ剤、エリキシル剤、乳剤等の液状製剤を挙げることができる。散剤は、例えば、乳糖、デンプン、結晶セルロース、乳酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、無水ケイ酸等の賦形剤と混合して得ることができる。顆粒剤は、上記賦形剤のほか、必要に応じ、例えば白糖、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等の結合剤や、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等の結合剤や、カルボキシメチルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤をさらに加え、湿式又は乾式で造粒して得ることができる。錠剤は、上記散剤又は顆粒剤をそのまま、或いはステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤を加えて打錠して得ることができる。また、上記錠剤又は顆粒剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタアクリル酸メチルコポリマー等の腸溶性基剤で被覆し、或いはエチルセルロース、カルナウバロウ、硬化油等で被覆し、これらを腸溶性或いは持続性製剤にすることができる。硬カプセル剤は、上記散剤又は顆粒剤を硬カプセルに充填して得ることができる。また軟カプセル剤は、ヒアルロン酸オリゴ糖又はその塩を、グリセリン、ポリエチレングリコール、ゴマ油、オリーブ油等に混合し、これをゼラチン膜で被覆して得ることができる。シロップ剤は、白糖、ソルビトール、グルセリン等の甘味剤とヒアルロン酸オリゴ糖又はその塩とを、水に溶解して得ることができる。また、甘味剤及び水のほかに、精油、エタノール等を加えてエリキシル剤とするか、或いはアラビアゴム、トラガカント、ポリソルベート80、カルボキシメチルセルロースナトリウム等を加えて乳剤又は懸濁剤にすることができる。またこれらの液状製剤には必要に応じ、矯味剤、着色剤、保存剤等を加えることができる。
【0015】
非経口製剤としては、注射剤、直腸投与剤、ペッサリー、皮膚外用剤、吸入剤、エアゾール剤、点眼剤等を挙げることができる。注射剤は、ヒアルロン酸オリゴ糖又はその塩に塩酸、水酸化ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のpH調節剤;塩化ナトリウムウム、ブドウ糖等の等張化剤;及び注射用蒸留水を加え、滅菌濾過した後、アンプルに充填して得ることができる。また、更にマンニトール、デキストリン、シクロデキストリン、ゼラチン等を加えて真空凍結乾燥し、用時溶解型の注射剤とすることができる。またヒアルロン酸オリゴ糖又はその塩にレシチン、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の乳化剤を加えた後、水中で乳化された注射用乳剤とすることもできる。
【0016】
直腸投与剤は、ヒアルロン酸オリゴ糖又はその塩にカカオ脂肪酸のモノ、ジ又はトリグリセリド、ポリエチレングリコール等の坐剤用基剤を加えた後、温して溶解し、これを型に流し込んで冷却するか、或いはヒアルロン酸オリゴ糖又はその塩をポリエチレングリコール、大豆油等に混合した後、ゼラチン膜で被覆して得ることができる。皮膚外用剤は、ヒアルロン酸オリゴ糖又はその塩に、白色ワセリン、ミツロウ、流動パラフィン、ポリエチレングリコール等を加え、必要に応じて加温し、混練して得ることができる。テープ剤は、ヒアルロン酸オリゴ糖又はその塩を、ロジン、アクリル酸アルキルエステル重合体等の粘着剤と混練し、これを不織布等に展延して得ることができる。吸入剤は、例えば薬学的に許容される不活性ガス等の噴射剤に、ヒアルロン酸オリゴ糖又はその塩を溶解又は分散し、これを耐圧容器に充填して得ることができる。
(投与方法)本発明のヒアルロン酸オリゴ糖を有効成分とする薬剤の投与方法は、特に限定されないが、虚血性疾患において心臓疾患の治療に使用する場合、静脈内注射が好ましく、また神経疾患の治療に使用する場合、筋肉内注射、静脈内注射、皮下注射又は腹腔内注射が好ましい。
(投与量)投与量は、対象とする疾患、患者の年令、健康状態、体重等に応じ適宜決定するが、一般には0.05〜50mg/kg を1日1回あるはそれ以上に分けて投与する。
(毒性)本発明で使用するヒアルロン酸オリゴ糖は、医薬としての生物活性を示す投与量において細胞毒性はほとんどもしくは全く認められなかった。
【0017】
【実施例】
参考例1 フルオレセイン標識ヒアルロン酸の調製
ヒアルロン酸ナトリウム塩(重量平均分子量84万および230万の各分子量)とフルオレセインアミンとを文献(Carbohydr. Res., 105(1982)p69-85)記載の方法で反応させて、フルオレセイン標識ヒアルロン酸を各々調製した。
参考例2 ビオチン化ヒアルロン酸結合性蛋白(以下、ヒアルロン酸結合性蛋白をHABRと記す)の調製
ビオチン化HABRは、Tengbladの方法(Biochem. Biophys. Acta., 578(1979)p281-289)に従ってHABRを牛鼻軟骨プロテオグリカンから分離して抽出し、固定化ヒアルロン酸を用いるアフィニティークロマトグラフィーによって精製後、これをビオチンで標識することで得た。
参考例3
変形性関節症および外傷性関節炎のモデルであるイヌの十字靱帯切除術(以下、ACLTと記す)モデルに対するヒアルロン酸の関節内投与による影響を調べた。
【0018】
5〜8か月齢の雄性ビーグル犬(体重7〜9kg)8頭を使用した。この8頭のイヌのうち6頭の両足にACLTを施した。残りの2頭は手術を施さずに正常コントロール(non-operated normal control )とした。
試験物質としては、ヒアルロン酸ナトリウム塩(重量平均分子量84万)をリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)に溶解し10mg/mlとした液(以下、HA84と記す)、および陰性対照としてPBSを用いた。
【0019】
ACLT後、5週間目から試験物質の投与を開始し、1回/週で5週間(計5回)上記試験物質の投与を表1の投与濃度、投与液量および投与量で行った。なお、ACLTを施した6頭のイヌの前足右膝関節にPBSを投与し、前足左膝関節にHA84を投与した。なお、HA84の5回目の投与は、ヒアルロン酸の組織内分布を調べるために、ヒアルロン酸の代わりに参考例1記載のフルオレセイン標識ヒアルロン酸を用いた。
【0020】
【表1】
Figure 0004195107
【0021】
最終投与後の1週間目に剖検し、膝関節の滑膜を採取した。滑膜を4%パラホルムアルデヒドで固定した後、パラフィン包埋した標本および凍結包埋した標本を作成した。
このパラフィン包埋した標本から薄切切片を作成し、ヘマトキシリン−エオシン(HE)染色を施して、200個の滑膜細胞における空胞変性細胞をカウントした。
【0022】
また、上記凍結包埋した標本から薄切切片を作製し、抗HSP72モノクローナル抗体(アマシャム社製)と2次抗体としてFITCラベル抗マウスIgG(ジャクソン社製)とを用いてHSP72の免疫染色を行ったのち、共焦点レーザー顕微鏡で観察して、200個の滑膜細胞におけるHSP72陽性細胞をカウントした。
【0023】
さらに上記凍結包埋した標本から凍結切片を作製し、上記フルオレセイン標識ヒアルロン酸に由来するフルオレセインの蛍光と、同一切片について参考例2記載のビオチン化HABRとストレプトアビジン結合テキサスレッド(Texas red)(サザンバイオテクノロジー社製)とを用いて染色されたヒアルロン酸に由来するテキサスレッドの蛍光とを、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察し、両者の局在性を調べた。
【0024】
これらの結果から、空胞変性細胞の出現率およびHSP72陽性細胞の出現率を求め、Yukms統計ライブラリー(ユックムス株式会社製)を用いて、Bonferroniの統計解析を行った。
結果を表2に示す。
【0025】
【表2】
Figure 0004195107
【0026】
参考例3において、PBS投与群において空胞変性細胞が認められたが、HA84投与群では空胞変性細胞の出現率に有意な明らかな低下が見られた。一方、HSP72陽性細胞は、non-operated normal control 群に比べてPBS投与群において出現率の増加が認められたが、HA84投与群では出現率がさらに有意に増大していた。
【0027】
また、HA84に代えて重量平均分子量230万のヒアルロン酸(以下、HA230と記す)を用いて同様の試験を行った結果、HA84よりは弱いながら空胞変性細胞の出現率を低下させ、HSP72陽性細胞の出現率を増大させた。本参考例3によって、ACLTによる滑膜細胞の空胞変性は、ヒアルロン酸の投与によって抑制されることが示された。また、HSP72陽性細胞の出現率はヒアルロン酸の投与により有意に増加した。HSP72はストレス下の細胞に発現して、細胞をストレスによる細胞障害から保護する機能を有することが知られている。以上により、ヒアルロン酸による細胞の空胞変性の抑制は、ヒアルロン酸がストレス蛋白質(本実施例の場合はHSP72)の発現を増強あるいは誘導することによるものであることが示唆された。
【0028】
また、フルオレセイン標識ヒアルロン酸(原料のヒアルロン酸の重量平均分子量84万)に由来する蛍光はおもに組織内の細胞内、細胞周辺に粒状に認められた。一方、ビオチン化HABRを用いたヒアルロン酸の組織染色部分はこの粒状部分と重なる部分とそれ以外の部分とがあり一致していなかった。また、一方、重量平均分子量230万のヒアルロン酸にフルオレセイン標識したものは、わずかにしか検出できなかった。
【0029】
これは、HABRは10糖以上のヒアルロン酸を認識する(J.Biol.Chem.,254(1979)p4624-4630)ことから、細胞内に取り込まれたヒアルロン酸は低分子化を受けて少なくとも10糖以下のヒアルロン酸あるいはそれ以外のオリゴ糖として存在することが考えられる。このことは、10糖以下のヒアルロン酸がストレス蛋白質(本実施例の場合はHSP72)の発現の増強あるいは誘導に関与していることを示唆する。
【0030】
また、HA84投与群がHA230投与群に比べ、空胞変性抑制効果およびストレス蛋白質(本実施例ではHSP72)の発現増強効果において優れていた。このことは、前述のフルオレセイン標識ヒアルロン酸の組織内分布が示すように、HA84すなわち分子量の低いヒアルロン酸の方が、組織における浸透性あるいは保持性に優れているためと考えられた。
【0031】
実施例
熱ショックを与えたイヌ膝関節滑膜細胞の細胞障害および細胞死に対するヒアルロン酸オリゴ糖による作用とHSP72の発現との相関性をin vitroにおいて調べた。
試験物質として、ヒアルロン酸不飽和二糖(商品名 不飽和コンドロ二糖キット(Cキット)の△Di−HA(ナトリウム塩):2-acetamido-2-deoxy-3-O-(β-D-gluco-4-enopyranosyluronic acid)-D-glucose 、生化学工業(株)製造、販売)添加群および陰性対照を2群設けた。
【0032】
イヌ膝関節滑膜細胞を採取し、藩種して、ほぼ集密的(subconfluent)になるまで、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)に、血清、L−グルタミン酸、ペニシリン、ストレプトマイシンを加えた培地で培養したものに、上記試験物質を各々添加した。ヒアルロン酸(オリゴ糖)添加群は培地中の該オリゴ糖濃度が1.0mg/ml(第3群)および3.0mg/ml(第4群)の各濃度になるように添加し、また陰性対照は何も添加しなかった。陰性対照の1群は37℃で3時間インキュベート(第1群)し、もう1群の陰性対照(第2群)およびヒアルロン酸添加群は45℃で1時間インキュベートして熱ストレスを与えた後、さらに37℃で2時間インキュベートした。
【0033】
この後、培地を採取して、細胞障害および細胞死の指標である乳酸脱水素酵素(LDH)の酵素活性をUnimate LDH(ロッシュ社製)および血液生化学検査自動分析装置(商品名コバスミラ、ロッシュ社製)を用いて測定した。LDHの酵素活性が上がることは細胞障害および細胞死が生じたことを意味する。
【0034】
また、培地を除いた後、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定して、抗HSP72抗体(アマシャム社製)を加えさらに、FITCラベル抗マウスIgG(ジャクソン社製)を用いてFITC染色し、その染色濃度および200個の滑膜細胞における核内にHSP72が陽性である細胞を共焦点レーザー顕微鏡(型番TCS4D 、ライカ社製)を用いて観察し、その細胞数を測定した。これらの結果から、LDHの酵素活性、HSP72の染色濃度およびHSP72核内陽性細胞の出現率を求め、Yukms統計ライブラリー(ユックムス株式会社製)を用い、Tukey の統計解析を行った。
【0035】
結果を表3に示す。
【0036】
【表3】
Figure 0004195107
【0037】
本実施例において、LDH活性はヒアルロン酸オリゴ糖の添加によって濃度依存的に低下が認められ、またHSP72の染色性および細胞核内にHSP72が陽性である細胞の出現率もヒアルロン酸オリゴ糖の添加によって濃度依存的な増強が有意に認められた。また、本実施例では熱ストレスがかかっている点が正常状態と異なる系であり、酸素ラジカルやヒアルロン酸分解酵素などがほとんど存在しないと考えられるのでヒアルロン酸オリゴ糖に代えてHA84を用いて上記と同様の試験を行った場合では、HSP72の発現は増強されなかった。これは、系に添加されたヒアルロン酸は低分子化をほとんど受けず、低分子量のヒアルロン酸、例えばオリゴ糖にはなっていないので、HSP72の発現は増強されなかったものと考えられた。
【0038】
本実施例によって、熱ショックによるイヌ滑膜細胞の障害はヒアルロン酸オリゴ糖の添加により濃度依存的に抑制されることが示された。また、細胞内におけるHSP72発現およびHSP72核内陽性細胞の出現率は、ヒアルロン酸オリゴ糖の添加によって有意に増強された。ストレス蛋白質であるHSP72はストレスにより発現し、細胞をストレスによる細胞障害や細胞死から保護する機能を有することが知られ、その場合には核にHSP72が局在することが知られている(J.Biol.Chem.259(1984)p4501-4513 )。以上により、ヒアルロン酸オリゴ糖による細胞障害および細胞死の抑制は、ヒアルロン酸オリゴ糖がストレス蛋白質(本実施例においてはHSP72)の発現を増強することによるものであることが示唆された。
【0039】
【発明の効果】
本発明は、2糖のヒアルロン酸オリゴ糖を有効成分とするものであるから、比較的安価にかつ容易に大量生産できる利点がある。また、ヒアルロン酸は毒性や抗原性がほとんどないこと、生体が元来有している治療作用や疾患の防止作用を増強することから副作用の極めて少ない治療剤として各種疾患に適用が期待されると共にこれら疾患の予防薬としても有用性が期待される。また、ヒアルロン酸のオリゴ糖などの低分子量のものについては、従来の高分子量のヒアルロン酸(例えば、重量平均分子量の範囲が80万〜230万程度)では、その物性のために適用が不可能であった投与方法を採用することが可能である。すなわち、ヒアルロン酸オリゴ糖などの低分子量のものは、従来の高分子量のヒアルロン酸に比べ対象となる治療領域が広いという利点を持っている。
【0040】
さらには、ヒアルロン酸オリゴ糖などの低分子量のものを、高分子量のヒアルロン酸と混合して使用することにより、ヒアルロン酸オリゴ糖などの低分子量のものの有する薬理作用(例えば、ストレス蛋白質発現増強作用など)と高分子量のヒアルロン酸の有する作用(たとえばヒアルロン酸レセプターを介した種々の細胞のシグナル伝達など)や、物性による組織又は細胞の保護効果の両方により、優れた治療効果を得ることが可能である。

Claims (4)

  1. 2糖のヒアルロン酸オリゴ糖を有効成分とするストレス蛋白質発現増強剤。
  2. ストレス蛋白質がHSP70ファミリー蛋白質であることを特徴とする請求項1に記載に記載のストレス蛋白質発現増強剤。
  3. 2糖のヒアルロン酸オリゴ糖を有効成分とする細胞障害抑制剤。
  4. 2糖のヒアルロン酸オリゴ糖を有効成分とする細胞死抑制剤。
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