二酸化珪素からなる鋳型は、耐熱性が高く、シリコンを溶解、凝固させる1450℃程度の高温でも形状安定性に優れており、また太陽電池素子の発電効率を低下させる不純物の含有量が少ないなどの面でシリコン鋳造用鋳型として適している。しかしながら、従来の石英製鋳型は回転モールド法や石英チューブの加工などで製造される円筒形をしており、得られるシリコンインゴットも円筒形状であった。通常、太陽電池用多結晶シリコン基板の形状は、太陽電池モジュールの限られたスペースに太陽電池素子を無駄なく敷き詰めることができ、太陽電池の素子化工程での基板の取り扱いや搬送などの効率化に適した形状として最も簡易に加工できる正方形あるいは長方形であることが望ましい。このため円筒形状の鋳型を使って得られる円筒形のシリコンインゴットを立方体もしくは直方体に加工する場合、もとから立方体もしくは直方体の形状をしているシリコンインゴットを加工する場合に比べて余分に切断除去する部分が多くなり原料歩留まりが低下するのに加え、石英自体が高価であるという問題があった。
また、二酸化珪素の原料を鋳込み成形や加圧プレス成形などで鋳型形状に成形し、焼成して作られる鋳型は、鋳型の成形時に石膏型や金型などを用いて原料を鋳型形状に成形し、脱型して成形体を得るため、成形する鋳型内面には底部から上部に向けて脱型のための抜き勾配(テーパー)が必ず必要となる。このため、こうした鋳型を用いて鋳造されたシリコンインゴットの側面にもインゴット底部から先頭部に向けてテーパーが付くため、シリコンインゴットを立方体あるいは直方体に加工する際、インゴット上部では底部で除去されるシリコンより多くの余分なシリコンを除去しなくてはならず、高価なシリコン原料が無駄に除去されるためシリコンインゴットの製造コストが上昇するという問題があった。
こうした問題点を回避するため高純度黒鉛を用いて板状の側面部材と底面部材を作製し、それらを組立て、ネジ止めして鋳型を作製する方法も試みられている(例えば特許文献1参照)。
しかし、このような高純度黒鉛製鋳型は非常に高価なために多結晶シリコンインゴットの低コスト化を実現するには黒鉛製鋳型の繰り返し使用が必要であった。このため黒鉛製鋳型を用いてシリコンインゴットを鋳造する際には、鋳型材保護の観点から鋳型内面に数mm以上の厚い離型材層を形成せねばならず、高価な離型材の使用量が増えシリコンインゴットの製造コストが高くなるという問題があった。また、離型材層は脆弱であり、厚みが厚くなるほど破損や剥離が生じ易くなる。離型材層が鋳型から剥離しシリコンの溶解やシリコン融液の冷却固化過程でシリコン融液内に混入すると、異物としてシリコンインゴット内に残留しシリコンインゴットに不良を発生させ歩留まりが低下する問題があった。
また、組立て式の黒鉛部材は繰り返し使用されることによって消耗し、ネジ止め部分や各側面部材と底面部材とが接する部分に緩みが生じて、シリコンの溶解やシリコン融液の冷却固化過程でシリコン融液が漏れるという問題があった。
さらに、シリコンの密度は固体より液体が大きく、即ちシリコンの融液は凝固膨張するため、鋳型内でシリコン融液を冷却固化する際には鋳型側面部および底面部は外側へ広がる方向に応力を受ける。このため鋳型部材の中でも特にネジ止め部分へかかる応力は大きく、機械的消耗が激しいためにネジ山が損傷し、鋳型部材の固定に緩みが生じてシリコン融液が漏れるという問題もあった。
その他、シリコン鋳造用鋳型の鋳型内面に形成して使用される離型材層は、シリコンの溶解中あるいは冷却固化中にシリコン融液と鋳型が融着することを防止するという効果を有するが、こうした離型材層は一般に窒化珪素や酸化珪素などのセラミック粉末に水やアルコールなどの溶媒とPVA(ポリビニルアルコール)などのバインダーを混合・攪拌してスラリー化し、この離型材スラリーを鋳型の内面に塗布・乾燥することによって形成される。この方法によって形成される離型材層には次のような問題点がある。
まず、この離型材スラリーの塗布には、一般に刷毛やヘラ、またはスプレーなどが用いられるが、形成した離型材層の厚みにばらつきが生じ不均一な層が形成される。塗布後の離型材スラリーは乾燥工程や脱バインダー処理などの熱処理工程によってセラミック粉末同士を繋いでいるバインダー成分や溶媒が除去されるため、シリコンを鋳造する際の離型材層は粉末の凝集力だけで鋳型内表面へ付着していると考えられる。このため離型材スラリーを均一に塗布することができず、離型材層の厚みにばらつきが生じたり、不均一な層が形成されたりすると、層が厚過ぎる部分では離型材層が鋳型から剥離し易くなるなど脆弱になるという問題がある。離型材層が脆弱だと、鋳型内でシリコン原料を溶解したり鋳型内へシリコンの融液を注湯したりする際、また、シリコン融液を冷却固化させる際に離型材が破損し、その一部が鋳型内面から剥離してシリコン融液内に混入してしまうことがある。また離型材が剥離して鋳型材質が剥き出しになれば、離型材としての本来の役割を果たさない。
また、離型材スラリーを鋳型内面へスプレー塗布する離型材層の形成方法では、比較的均一に塗布できるものの、一回の塗布で形成できる離型材層の厚みが薄いため塗布に時間がかかり生産性が悪くコストがかかるという問題がある。そして、離型材層の厚みを短時間に稼ぐために塗布した離型材スラリーを十分乾燥させないまま重ね塗りをすると、塗布した離型材層にひび割れや剥離が発生するため塗布時間を短縮できないという問題がある。このスプレー塗布に使用する離型材スラリーは、刷毛やへらを用いて塗布する際の離型材スラリーに比べて粘度を低く調合するため粉体に対する溶媒成分を多くする必要があり、離型材スラリー中の粉体密度が小さく、塗布後の乾燥や熱処理によって溶媒やバインダー成分が除去される際に離型材層が収縮し、ひび割れや剥離が生じ易い。また粉体密度が小さいため粉体の凝集力が弱く、鋳型への付着力が低下するため離型材層が鋳型から剥離し易い。このため離型材スラリーのスプレー塗布では、薄く塗布したスラリーを十分乾燥させ、何度も重ね塗りする必要があった。
さらに、離型材スラリーに添加された有機バインダーは、通常、シリコンの鋳造が行われる真空またはArなどの不活性ガス中で高温に加熱されると熱分解したカーボン残渣がねっとりしたタール状の煤になって鋳型内面に付着する。したがって、このような状況下でシリコンを鋳造すると、インゴット中にカーボン残渣が混入し、シリコン中で硬いSiCなどの析出異物となってその後のインゴットの加工性を悪化させたり、電流のリーク源となり太陽電池素子の特性を低下させる可能性がある。このようなバインダーは、酸素を含有する雰囲気で高温加熱する脱バインダー工程によって除去することができるが、この脱バインダー工程を設ける手間がかかり、コストや生産性の点で問題があった。また、黒鉛製の鋳型では酸化性雰囲気中で高温加熱すると、鋳型が酸化損耗してしまうため、このような脱バインダー工程を設けることが難しかった。
なお特許文献2には、バインダーとしてPVAを用い、黒鉛製の鋳型が酸化しない450〜600℃の温度領域で脱バインダー工程を実施することにより、この問題を回避した技術を開示している。しかしながら、すべての有機バインダーに対して適用することは難しいという問題が残されていた。
本発明は上述のような従来の問題点に鑑みてなされたものであり、高品質シリコンインゴットを低コストで製造するための多結晶シリコンインゴットの鋳造用鋳型およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明のシリコン鋳造用鋳型は、鋳型の内面に少なくとも窒化珪素を含有する離型材層を形成した、二酸化珪素よりなるシリコン鋳造用鋳型であって、前記鋳型の内面は一つないし複数の内側面部と一つの内底面部とを有してなるとともに、前記内側面部を有する側面部材と前記内底面部を有する底面部材とが加熱接合され、前記離型材層に含有される窒化珪素の表面に1nm以上の厚みを有する酸化物層が設けられてなる。
上述のシリコン鋳造用鋳型は、前記離型材層に二酸化珪素が含有されてなる。
上述のシリコン鋳造用鋳型は、前記鋳型を形成する二酸化珪素が溶融シリカとしてなる。
上述のシリコン鋳造用鋳型は、前記内底面部および前記内側面部がいずれも略平面としてなる。
上述のシリコン鋳造用鋳型は、前記鋳型内面が前記内底面部に対して前記内側面部が略垂直となるように形成されてなる。
上述のシリコン鋳造用鋳型の製造方法は、前記鋳型の内面に少なくとも窒化珪素を含有する離型材層を形成する工程と、前記離型材層を酸素を含む雰囲気中で加熱する工程とを含んでなる。
一つないし複数の内側面部と一つの内底面部とを有してなるとともに、前記内側面部を有する側面部材と前記内底面部を有する底面部材とが加熱接合されてなるシリコン鋳造用鋳型の製造方法であって、前記鋳型の内面に少なくとも窒化珪素を含有する離型材層を形成する工程と、前記離型材層を酸素を含む雰囲気中で加熱する工程とを含んでなる。
上述のシリコン鋳造用鋳型の製造方法は、前記シリコン鋳造用鋳型は、前記内側面部を有する側面部材と前記内底面部を有する底面部材とを具備するとともに、前記側面部材の内側面部と前記底面部材の内底面部との各々に少なくとも窒化珪素を含有する離型材スラリーを塗布し乾燥させて離型材乾燥層を形成する第1の工程と、前記離型材乾燥層が形成された前記側面部材と前記離型材乾燥層が形成された前記底面部材とを酸素を含む雰囲気中で加熱して前記離型材層を形成する第2の工程と、前記側面部材と前記底面部材とを加熱して接合させる第3の工程とを含んでなる。
一つないし複数の内側面部と一つの内底面部とを有してなるとともに、前記内側面部を有する側面部材と前記内底面部を有する底面部材とが加熱接合されてなるシリコン鋳造用鋳型の製造方法であって、前記シリコン鋳造用鋳型は、前記内側面部を有する側面部材と前記内底面部を有する底面部材とを具備するとともに、前記側面部材の内側面部と前記底面部材の内底面部との各々に少なくとも窒化珪素を含有する離型材スラリーを塗布し乾燥させて離型材乾燥層を形成する第1の工程と、前記離型材乾燥層が形成された前記側面部材と前記離型材乾燥層が形成された前記底面部材とを酸素を含む雰囲気中で加熱して前記離型材層を形成する第2の工程と、前記側面部材と前記底面部材とを加熱して接合させる第3の工程とを含んでなる。また、上述のシリコン鋳造用鋳型の製造方法は、前記第1の工程の後に、前記側面部材と前記底面部材とを組み合わせて酸素を含む雰囲気中で加熱することによって、前記第2の工程と前記第3の工程とを同時に進行させてなる。
本発明のシリコン鋳造用鋳型は、鋳型の内面に少なくとも窒化珪素を含有する離型材層を形成した、二酸化珪素よりなるシリコン鋳造用鋳型であって、前記鋳型の内面は一つないし複数の内側面部と一つの内底面部とを有してなるとともに、前記内側面部を有する側面部材と前記内底面部を有する底面部材とが加熱接合されてなるようにしたことから、各部材が隙間なく接合され、ネジなどの機械的な部品を用いていないので、シリコン融液が漏れることがない。
また、前記離型材層に含有される窒化珪素の表面に1nm以上の厚みを有する酸化物層が設けられてなるようにしたことから、シリコン融液と窒化珪素との接触や、それによるシリコン融液中への窒化珪素の溶け込み、シリコンインゴット中への窒化珪素の析出物の生成を有効に抑制することができる。
さらに、離型材層の窒化珪素表面に形成した酸化物層がシリコン鋳造中の高温で軟化して離型材層中の窒化珪素粉末同士の結合を促進し、離型材層の強度を向上させることができ、従来問題であった離型材層の破損や剥離やシリコンインゴット中への混入などを有効に低減することができる。
さらに、この結果、高品質の多結晶シリコンインゴットを製造することが可能となる。
さらに、離型材層には二酸化珪素が含有されてなるようにしたことから、離型材層中の二酸化珪素がシリコン鋳造中の高温で軟化して離型材層中の窒化珪素粉末同士を結合する作用が促進される。
その結果、離型材層の強度が向上し、離型材層の破損や剥離やシリコンインゴット中への混入などを極めて低減することができ、高品質の多結晶シリコンインゴットを製造することが可能となる。
そして、前記鋳型を形成する二酸化珪素は、溶融シリカとしてなるようにしたので、安価な上、要求する形状に自在に成形することができ、その成形体を焼成することでシリコン鋳造用鋳型に要求される機械的強度を得ることができる。
また、前記内底面部および前記内側面部は、いずれも略平面としたことから、これらの内底面部や内側面部に離型材スラリーを塗布する方法の幅が広がり、用途に応じて最適な方法を選択することができるようになる。
その結果、鋳型内部に均一で強度の強い離型材層を生産性よく形成できるようになる。
そして、前記鋳型内面は、前記内底面部に対して前記内側面部が略垂直となるように形成されてなるようにしたので、鋳型内部に成形の抜き勾配などのテーパーがある従来の鋳型に比べて多結晶シリコンインゴットの切断加工時に除去するシリコンの量を低減でき、多結晶シリコンインゴットを低コストで製造することが可能となる。
次に、シリコン鋳造用鋳型の製造方法は、前記鋳型の内面に少なくとも窒化珪素を含有する離型材層を形成する工程と、前記離型材層を酸素を含む雰囲気中で加熱する工程とを含んでなるようにしたことから、本発明のシリコン鋳造用鋳型を極めて簡単に作製することができる。
また、前記シリコン鋳造用鋳型は、前記内側面部を有する側面部材と前記内底面部を有する底面部材とを具備するとともに、前記側面部材の内側面部と前記底面部材の内底面部との各々に少なくとも窒化珪素を含有する離型材スラリーを塗布し乾燥させて離型材乾燥層を形成する第1の工程と、前記離型材乾燥層が形成された前記側面部材と前記離型材乾燥層が形成された前記底面部材とを酸素を含む雰囲気中で加熱して前記離型材層を形成する第2の工程と、前記側面部材と前記底面部材とを加熱して接合させる第3の工程とを含んでなる。
このようにしたことから、本発明のシリコン鋳造用鋳型を極めて簡単に作製することができると同時に、離型材乾燥層を酸素を含む雰囲気中で加熱して離型材層を形成する第2の工程によって、離型材スラリーに含まれる有機バインダーなどの有機成分をほぼ完全に除去することができるので、高い品質のシリコンインゴットを得ることができるシリコン鋳造用鋳型を得ることができる。
そして、前記第1の工程の後に、前記側面部材と前記底面部材とを組み合わせて酸素を含む雰囲気中で加熱することによって、前記第2の工程と前記第3の工程とを同時に進行させてなるようにしたので、本発明にかかる離型材層と鋳型の接合を同時に行うことができ、極めて高い生産性で効率よく本発明のシリコン鋳造用鋳型を作製することができ、低コスト化が可能となる。
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明にかかるシリコン鋳造用鋳型を説明する図である。図1(a)は、シリコン鋳造用鋳型の一例を示す斜視図であり、図1(b)は、図1(a)のA−a方向の断面図である。
図1(a)に示すように、この例では、4つの側面部材11と1つの底面部材12とを組立て、加熱接合して一体型の鋳型1として、形成されている。底面部材12および側面部材11の鋳型の内面には凹凸加工を施すことが好ましい。これは後述する離型材スラリーの接着性、定着性を向上させるためである。
これらの側面部材11および底面部材12は、二酸化珪素より形成されているため、シリコンの融点(1412℃)以上より高い温度であっても、安定してシリコン融液を保持し、冷却してシリコンインゴットを作製することができる。
また、この二酸化珪素は、溶融シリカであることが望ましい。このような溶融シリカは、例えば、特許文献3において知られており、溶融シリカの粉末を加圧成形したり、スラリー状として泥しょう鋳込み成形したり、押出成形することによって、自在な形状に成形することができる。そして、1200〜1500℃の温度で焼結し溶融シリカ焼結体となる。さらに、このような溶融シリカは、非晶質かつ高純度であって、1100℃付近以上の温度で徐々に軟化するため、この焼結体の部材同士を組み合わせて、例えば、1200℃から1500℃程度の温度領域で焼結させることが可能となる。
このように溶融シリカを用いることによって、高純度、高成形性、高寸法精度に優れ、再現性よく複雑な形状の鋳型1を形成することができる。さらに、溶融シリカは、石英などの結晶質材料と比べて、安価であるため、低コストのプロセスとすることができる。
なお、これらの溶融シリカから形成された鋳型部材は、このような温度領域で軟化はするものの、鋳型底部および側面部を鋳型外側より黒鉛板やセラミックス板などの板状の耐火性部材で支持することによって、容易にシリコン融液を保持するのに十分な形状の安定性を持たせることができるため、シリコン鋳造用鋳型に要求される機械的強度を得ることができ、問題とはならない。
また、各部材を加熱接合したので、部材同士が隙間なく接合され、ネジなどの機械的な部品を用いていないので、鋳型1に保持したシリコン融液が漏れることがない。さらに、一体成型で全て同時に作製したものと比べると、容易に鋳型1の各部材をばらばらに分解することができるので、鋳型1からシリコンインゴットを容易に取り出すことができる。
さらに本発明にかかるシリコン鋳造用鋳型は、図1(b)に示す断面図のように、鋳型1の内面には、少なくとも窒化珪素を含有する離型材層2が設けられている。また、この離型材層2には、窒化珪素に加えて二酸化珪素が含有されていることがより望ましい。なお、離型材層2は、離型材の原料粉末(必要に応じて多種)の所定量を秤量し、例えば10重量%のPVA(ポリビニルアルコール)水溶液に混合し、撹拌すれば、離型材の粉末をスラリー状とすることができるので、これを鋳型1の内面に塗布、乾燥することによって、離型材乾燥層を形成し、さらに酸素を含む雰囲気中で所定温度で加熱することによって、本発明のシリコン鋳造用鋳型の離型材層2を形成することができる。
図2に本発明のシリコン鋳造用鋳型の離型材層に含有される窒化珪素の構造概念図を示す。本発明においては、図2(a)に示すように鋳型1の内面に設けられた離型材層2に含有される窒化珪素201はその表面に1nm以上の厚みを有する酸化物層201aが設けられていることが望ましい。離型材層2に含まれる窒化珪素201は、このような酸化物層201aが設けられていなくても離型材としての作用効果を奏するが、このように窒化珪素201の周囲に酸化物層201aが設けられているときには、シリコン融液と窒化珪素201との接触や、それによるシリコン融液中への窒化珪素201の溶け込み、シリコンインゴット中への窒化珪素の析出物の生成を有効に抑制する効果がさらに高まるという利点がある。
さらに、離型材層2の窒化珪素201表面に形成した酸化物層201aがシリコン鋳造中のおよそ1412℃の高温で軟化して窒化珪素201の粉末同士の結びつきが強められ、離型材層2の強度を向上させることができるという効果も有する。
また、離型材層2に二酸化珪素が含有されている場合は、図2(b)に示すように、酸化物層201aを形成した窒化珪素201の周囲を二酸化珪素202がさらに微細な粉末として取り巻くような構成になっていることが好ましい。この二酸化珪素202は、シリコン鋳造中の高温で軟化して離型材層2中の窒化珪素201の粉末同士を結合するという効果を有するので、離型材層2の強度を向上させることができ、従来問題であった離型材層2の破損や剥離やシリコンインゴット中への混入などを有効に低減し、この結果、高品質の多結晶シリコンインゴットを製造することが可能となる。
本発明の離型材層2に含有される窒化珪素201としては、シリコンジイミドの熱分解法で得られる球状粉末を用いることが望ましい。それはこの方法によって得られた窒化珪素201は、粒度分布の幅が狭く、大きさの揃ったものとなるため、後述する方法によって離型材層2が焼成されたときに、窒化珪素201の粒径のバラツキによって、粒子が凝集したり融着したりすることを防止することができ、離型材層2の強度が安定するからである。なお、窒化珪素201としては、粒径が0.1〜1.5μmの球状粉末を用いることが好ましい。この範囲を外れると、離型材層2中において窒化珪素201の凝集粒子あるいは融着粒子などの粗大粒子の含有率が高くなって好ましくない。
そして、このシリコンジイミドの熱分解法で得られた球状の窒化珪素201に酸化雰囲気下の炉内で加熱処理を施せば、表面に酸化物層201aを形成することができる。この加熱処理は、窒化珪素201を例えば電気炉(酸化炉)などに入れて酸化雰囲気下850℃〜1300℃で30分〜600分程度加熱することによって、非晶質層のシリカを多く含んだ酸化物層201aを形成することができる。なお、温度が高くなりすぎると、窒化珪素粉末どうしが酸化物層201aの部分で結合あるいは融着し凝集する結果、硬い粗大粒子が形成されるため好ましくない。硬く粗大な粒子群が粉末中に多いと、離型材スラリーの作製または塗布における作業性が悪いため好ましくない。具体的には、粗大な粒子はスラリー中で沈降するため均一なスラリーが作製できず、また均一に塗布できないため、形成した離型材皮膜の厚みや強度にばらつきが生じ、離型材皮膜の薄い部分や破損した部分でシリコン融液と鋳型が融着しやすい問題がある。さらに離型材皮膜中の粗大粒子は皮膜中での凝集力が弱く、鋳型との付着性も悪く剥離し易いため、この粗大粒子を含んだ離型材皮膜がシリコン融液中に剥離混入して異物となるという問題が発生し不適である。一方加熱処理の温度が低すぎると酸化物層201aの形成が進まず、処理に多大な時間を要するという問題がある。
なお、あらかじめ窒化珪素201に対してこの加熱処理を行い、表面に酸化物層201aを形成した窒化珪素201を用いて離型材層2を形成しても良いが、本発明においては、耐熱性に優れた二酸化珪素の鋳型を用いているので、酸化物層201aを形成していない窒化珪素201を含有する離型材スラリーを鋳型1の内面に塗布・乾燥の後、鋳型1を酸化雰囲気下850℃以上の温度に加熱してやることによって、離型材乾燥層に含有される窒化珪素201の表面に酸化物層201aを形成することができ、極めて簡単に本発明のシリコン鋳造用鋳型を作製することができるため望ましい。
このような加熱処理により、窒化珪素201の表面に形成する酸化物層201aの厚みは、処理温度と時間によって制御することができるが、1nm以上の厚みとすることが望ましい。1nm以下では、窒化珪素201の焼結性を向上させる効果に乏しい。なお、酸化物層201aの厚みはTEM(透過型電子顕微鏡)像、およびそれによる元素分析により測定することができる。なお、窒化珪素201の表面に形成する酸化物層201aの厚みの上限値については、特に限定されるものではないが、200nmを超える厚みとすると窒化珪素201がややもろくなる恐れがあることから、この値以下とすることが望ましい。
このような方法によって作製した窒化珪素201の表面の酸化物層201aは、大気中の水分などに由来するSi−OH(シラノール基)が形成されている。そして、相互の窒化珪素201のSi−OH(シラノール基)間でSi−O−Si(シロキサン結合)が生じるので、窒化珪素201同士の密着性が大幅に改善され、離型材層2が強固なものになる。
このように、表面に酸化物層201aが形成された窒化珪素201が離型材層2に含有されるようにすれば、この鋳型1を鋳造炉内で高温に保持してシリコン融液を注湯する際に、離型材層2の窒化珪素201同士が表面の酸化物層201aを介して焼結して離型材層2の強度が適度に向上する。そのためシリコン融液を注湯するときに離型材層2が剥離して、鋳型1とシリコンインゴットとが接触することがなく、シリコンインゴットを鋳型1から脱型する際に離型材層2がバラバラになるため、脱型が容易になり、鋳型1とシリコンインゴットとが付着することによって発生するシリコンインゴットの欠けを防止することができる。
また、本発明の離型材層2に含有される二酸化珪素202としては、可燃ガスと助燃ガス、例えば水素ガスと酸素ガスとの高温火炎中に四塩化珪素を噴射して加熱処理して得られる非晶質の球状のシリカ微細粉末(いわゆる、フュームドシリカ微粉末、あるいはフューズドシリカ粉末)を用いることが好ましく、粒径は0.01〜0.1μm程度の微粉末を用いることが望ましい。
図2(b)に示すように、本発明の離型材層2は、窒化珪素201と、二酸化珪素202とが混合された混合層となっているので、窒化珪素201の周囲を二酸化珪素202が取り巻き、窒化珪素201同士を強く結合させる効果を誘発する。
なお、ここで用いる二酸化珪素202としては、非晶質の微細なシリカ粉末を用いることが望ましく、さらに非晶質の微細なシリカ粉末の中でも、上述の気相法によって得られるものを用いることが望ましい。珪酸ソーダ(Na2O・nSiO2)水溶液の加水分解法やイオン交換法で得られる非晶質球状シリカ微粉末は、アルカリ金属不純物を多く含み、シリコンインゴット汚染の原因となるので、不純物を除去してから使用する必要がある。
また、離型材層2中の二酸化珪素202の重量比率は10〜70重量%の範囲とすることが望ましく、さらに好適には、二酸化珪素202を10〜20重量%とするのが望ましい。二酸化珪素202の重量比率が70%よりも大きくなると、鋳型1が離型材を介してシリコンのインゴットに付着し、シリコンのインゴットから鋳型を剥離するときに、シリコンインゴットに欠けが発生する。また、二酸化珪素202の重量比率が10%より小さくなると、窒化珪素201と二酸化珪素202との固着効果が低減して、離型材層2の強度が低下するので好ましくない。
なお、本発明において、離型材層2中の微細な二酸化珪素202として、水素ガスと酸素ガスとによって形成される高温火炎中に四塩化珪素を噴射して加熱処理して得られる球状の非晶質微細シリカを使用すれば、焼結性が高いため、その添加比率が5〜20重量%の範囲であっても、鋳型1への離型材層2の形成を容易にすることができ、上述のシリカ粉末を用いたとき(最低10重量%)と比べて、使用できる重量比率の幅を広げることができる。
上述のように少なくとも窒化珪素201を含有する離型材層2を設けた鋳型1を7〜100Torrに減圧したアルゴン(Ar)雰囲気中に置き、鋳型1をシリコン融液と同程度か若干低い温度で加熱してシリコン融液を注湯する。また、鋳型1内にシリコン原料を入れて直接加熱溶解してもよい。その後、鋳型1の底部から徐々に降温させてシリコン融液を鋳型底部から徐々に一方向凝固させる。最後に、鋳型1からシリコンインゴットを取り出して切断し、マルチワイヤーソーなどを用いてスライスして太陽電池用シリコン基板を得る。
本発明のシリコン鋳造用鋳型において、側面部材11と底面部材12とを組立て、加熱接合して一体型の鋳型に形成する方法は次の通りである。
図1に示すような側面部材11は、主成分として二酸化珪素からなる原料、好ましくは溶融シリカの粉末原料を、例えば加圧プレス成形することによって成形体を作製することができる。このとき、それぞれの側面部材11を組み立てたときに鋳型1の内面に該当する内側面部111は反りなどが生じないよう形成することが望ましい。また、側面部材11同士が組み合わされて接合する部分に、相互の側面部材11同士が当接して嵌合するように溝部と凸部(不図示)などを形成することが望ましく、これによって、各部材同士を確実に固定することができる。
また、底面部材12も、同様に主成分として二酸化珪素からなる原料、好ましくは溶融シリカの粉末原料を、例えば加圧プレス成形することによって成形体を作製する。このとき、内底面部121は反りなどが生じないよう形成することが望ましい。また、底面部材12と側面部材11とが組み合わされて接合する部分に、底面部材12と複数の側面部材11とが当接して嵌合するように溝部と凸部(不図示)を形成することが望ましく、これによって、各部材同士を確実に固定することができる。
さらに、鋳型内面において、側面部材11同士、側面部材11と底面部材12とが接合される部分の形状は直角、または半径5mm未満のR形状または5mm未満のC面取り処理された形状にすることが望ましい。このようにすれば、できあがったシリコンインゴットから正方形あるいは長方形のシリコン基板を切り出す際に、余分に切断除去する部分を少なく抑えることができるからである。
また、これらの側面部材11および底面部材12の厚みは5mmから25mmの範囲とすることが望ましい。その理由は厚みが5mm以下では鋳型が薄くなり、シリコンを溶解または凝固させる1450℃程度の高温に曝される側面部材11の上部が軟化変形し、正常な形状のシリコンブロックが鋳造できないからである。また、25mm以上の厚みがあると鋳型に要求される機械的強度を考慮しても必要以上に鋳型が厚く、また重くなり、取り扱いが困難になるためである。
本発明のシリコン鋳造用鋳型の製造方法では、側面部材11と底面部材12とを鋳型の形状に組み立てたときに鋳型内面となる側に、少なくとも窒化珪素を含有する離型材スラリーを塗布し、乾燥させて離型材乾燥層を形成する第1の工程と、さらに、この離型材乾燥層を酸素を含む雰囲気中で加熱して、離型材乾燥層を離型材層2へと形成させる第2の工程と、側面部材11と底面部材12とを鋳型形状に組み立てて加熱接合させる第3の工程とを有する。
まず、本発明のシリコン鋳造用鋳型の作製方法にかかる第1の工程として、鋳型内面となる側に、少なくとも窒化珪素201を、好ましくは二酸化珪素202を加えて、所定量を秤量し、5〜15重量%のPVA(ポリビニルアルコール)水溶液に混合し、撹拌すれば、粉体であるこれらの原料をスラリー状とすることができ、鋳型1に塗布することが容易となる。このようにして作製した離型材スラリーを鋳型1の内面に塗布、乾燥することによって、離型材乾燥層を形成する。
なお、本発明による離型材乾燥層の形成には、刷毛や、へらで鋳型1の部材に塗布し、ホットプレート上で乾燥させる方法を用いても良いが、例えば、スプレーなどを用いて鋳型1の内面に塗布し、乾燥して形成する方法、加熱板・シリコンラバーダイアフラムを設えたラミネート装置を用いて、加熱圧着させる方法も可能である。
特に、鋳型1の内面を構成する内側面部と内底面部とが、それぞれ側面部材と底面部材において、略平面である場合には、多くの塗布方法を適用することができるので好ましく、その中でも、スクリーン印刷を用いて離型材スラリーを塗布形成することが望ましい。このスクリーン印刷を用いて離型材スラリーを内側面部や内底面部に塗布すれば、離型材乾燥層の均一性を格段に高めることができ、その結果、極めて高い品質の離型材層2を鋳型1の内部に形成し、シリコンインゴットの歩留まりを高くすることができるからである。
この離型材乾燥層の厚みは、離型材層2の厚みが0.3mmから1.2mmの範囲となるように形成することが望ましい。その理由は、離型材層2が0.3mmより薄いとシリコンの融液が離型材層2を貫通して鋳型1と融着し、鋳造したシリコンインゴットに割れ、欠けなどが生じ、一方、離型材層2が1.2mmより厚いとシリコン融液を鋳型1に融着させない離型材としては十分な厚みであるが離型材層2の形成に時間がかかり、また離型材層2の厚みが必要以上に厚過ぎると離型材層2に破損や剥離が生じ易くなり、鋳型1から剥離した離型材層2がシリコンの溶解やシリコン融液の冷却固化過程でシリコン内に異物として混入し、シリコンインゴットに不良を発生させ歩留まりが低下するためである。なお、離型材乾燥層を加熱して離型材層2とした場合、その厚みは若干減少するが、ほぼ同じであると見なしてよい。
次に、本発明のシリコン鋳造用鋳型の作製方法にかかる第2の工程は次の通りである。まず、上述の方法によって離型材乾燥層が形成された側面部材11と底面部材12とを、それぞれ850〜1500℃の酸化雰囲気で焼成すれば、この離型材乾燥層に含有される窒化珪素201の表面に酸化物層201aを形成し、離型材層2を得ることができる。
このようにして得られた離型材層2は、既に上述したように、鋳型1を鋳造炉内で高温に保持してシリコン融液を注湯する際に、離型材層2の窒化珪素201同士が表面の酸化物層201aを介して焼結して離型材層2の強度が適度に向上する。そのためシリコン融液を注湯するときに離型材層2が剥離して、鋳型1とシリコンインゴットとが接触することがなく、シリコンインゴットを鋳型1から脱型する際に離型材層2がバラバラになるため、脱型が容易になり、鋳型1とシリコンインゴットとが付着することによって発生するシリコンの欠けを防止することができる。
さらに、第2の工程において、離型材乾燥層を高温の酸化雰囲気で焼成するので、離型材乾燥層中の有機成分、例えば、離型材スラリーに添加された多種多様のバインダーなどを、離型材層2中からほぼ完全に除去することができる。したがって、離型材層2からシリコンインゴットへのカーボン残渣の混入を極めて有効に防ぐことができるので、高い品質の太陽電池素子基板を得ることができる。
そして、本発明のシリコン鋳造用鋳型の作製方法にかかる第3の工程として、この離型材層2を形成した内側面部と内底面部を鋳型1の内面となるように側面部材11と底面部材12とを組立て、1200℃から1500℃で加熱接合して一体化させて鋳型1を得る。この加熱接合の方法としては、接合部のみを局所的に加熱するガラス接合の方法を用いてもよいし、部材同士を接触させた状態で全体を加熱して接合してもよい。
また、側面部材11と底面部材12とを組立てて鋳型1を形成する際に、鋳型内面は、内底面部に対して内側面部が略垂直となるように形成することが望ましい。このように構成すれば、鋳型1の内部に成形の抜き勾配などのテーパーがある従来の鋳型に比べて、多結晶シリコンインゴットの切断加工時に除去するシリコンの量を低減でき、多結晶シリコンインゴットを低コストで製造することが可能となるからである。
なお、上述の第3の工程において、酸素を含有する雰囲気中で所定温度に加熱するようにすれば、第2の工程と第3の工程とを同時に進行させることができる。すなわち、離型材乾燥層が形成された側面部材11と底面部材12とを内側面部と内底面部を鋳型1の内面となるように組立てた状態で、1200℃から1500℃の酸化雰囲気で焼成すれば、この離型材乾燥層に含有される窒化珪素201の表面に酸化物層201aを形成し、離型材層2を得るのと同時に、側面部材11と底面部材12とを加熱接合して一体化させて鋳型1を得ることができる。
このように、第2の工程と第3の工程とを同時に進行させれば、工程にかかる時間や手間を省くことができ、コストや生産性の点で非常に有利である。
なお、本発明の実施形態は上述の例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることはもちろんである。
例えば、離型材乾燥層あるいは離型材層2を設けた、側面部材11と底面部材12の各部の接合部分を二酸化珪素などからなるスラリーで接着して箱型にした後、それを焼成して一体化させて鋳型1を作製してもよく、部材同士の密着性を向上させることができる。
また、離型材層2を形成する前に、各部材同士を加熱接合しておいて、後から少なくとも窒化珪素を含有する離型材層2を設けてもよい。このとき、離型材層2を設ける前に、あらかじめ側面部材11と底面部材12を、それぞれ所定温度の加熱接合して一体化させて鋳型1を得た後、鋳型1の内面に、少なくとも窒化珪素、好ましくは二酸化珪素も含有する離型材スラリーを塗布・乾燥後、酸化雰囲気中で所定温度で加熱すれば、窒化珪素201の表面に1nm以上の厚みの酸化物層201aを有する離型材層2を形成することができるので、より望ましい。
さらに、離型材層2の形成方法としては、離型材のスラリーを塗布する方法に限るものではなく、プラズマ溶射などによって形成することもできる。プラズマ溶射による離型材層2は、例えば、出願人が特許文献4において開示している方法を用いることができる。特許文献4では、窒化珪素と二酸化珪素粉末を28:72〜75:25の重量比率で混合したものをプラズマ溶射機を用いてコーティングする方法であるが、これにより、鋳型がシリコンのインゴットに付着することによって発生するシリコンの欠けを防止することができるとともに、従来使用していた有機バインダーを除去する脱バインダー工程を省略することができ、シリコンインゴット製作コストを削減することができる。また、溶射による離型材層2は、大気中において高温に加熱されながら形成されるので、離型材層2に含有される窒化珪素201の表面には酸化物層201aが形成され、好ましい。
また、側面部材11、底面部材12についても、上述の形状に限るものではなく、本発明の要旨の範囲内であれば、様々な形状のものを用いることができる。本発明にかかるシリコン鋳造用鋳型の別の例を図3〜図5に示す。
図3(a)、(b)は、四枚の側面部材11aの端部を斜めにし、側面部材11a同士が端部で当接した状態で直交して、鋳型1の側面部分となるように形成されている。そして、この側面部材11aの下部には、底面部材12が設けられ、鋳型内面に離型材層2が設けられた鋳型1を形成している。図3に示す板状の側面部材11は、例えば、溶融シリカの原料を加圧プレス成形するなどして成形体を作製し、所定温度で焼結することによって溶融シリカの焼結体部材を得ることができる。このとき、内側面部は反りなどが生じないよう形成することが望ましい。また、各側面部が合わさる鋳型1の四隅の接合部分には、当接する位置に溝部と凸部(不図示)とからなる嵌合構造を形成してもよい。
図4(a)、(b)は、枠状の側面部材11bを一つ、ないし複数個重ねた状態で鋳型1の側面部分となるように形成されている。そして、この側面部材11aの下部には、底面部材12が設けられて、鋳型内面に離型材層2が設けられた鋳型1を形成している。図3に示す板状の側面部材11は、例えば、溶融シリカの原料を押し出し成形するなどして成形体を作製し、所定温度で焼結することによって溶融シリカの焼結体部材を得ることができる。このとき、内側面部は反りなどが生じないよう形成することが望ましい。また、各部材が重なる接合部分には、当接する位置に溝部と凸部(不図示)とからなる嵌合構造を形成したり、上下の部材の側面部の内側と外側に段差形状(不図示)を形成したりしてもよい。
さらに、図5(a)、(b)に示すように、円筒形状の側面部材11cと円柱形状の底面部材12aとを組み立てて、鋳型内面に離型材層2が設けられた鋳型101のようにしてもよく、各部材が重なる接合部分には、当接する位置に溝部と凸部(不図示)とからなる嵌合構造を形成するとよい。
(実施例1)
溶融シリカからなる原料を用いて、図1に示した幅360mm、高さ450mm、厚み10mmの板状の側面部材11の成形体4枚と、370mm四方、厚み10mmの板状の底面部材12の成形体1枚を加圧成形によって作製し、1300℃で焼成して鋳型部材を得た。
これらの鋳型部材の表面に窒化珪素と二酸化珪素とをそれぞれ8:2の重量比で混合し、8%のPVA水溶液で撹拌混合して得られた離型材スラリーをスクリーン印刷で0.6mmの厚みに塗布し、離型材乾燥層を形成した後(第1の工程)、この離型材乾燥層を形成した面を容器の内側にするように組立て、大気中1250℃で焼成して、離型材層2を得るとともに、各部材を加熱接合してシリコン鋳造用の鋳型1を作製した(第2の工程および第3の工程を同時実施)。
得られた鋳型内にシリコン原料を約70kg装填し、7〜100Torrに減圧したアルゴン(Ar)雰囲気中でシリコン原料を加熱溶解した後、鋳型底面部から徐々に降温させてシリコン融液を一方向凝固させ、それぞれ高さ約250mmのシリコンインゴットを得た。
得られたシリコンインゴットについて、鋳型との融着の有無、異物混入の有無、シリコン融液の漏れの有無を観察した。また、鋳型コストを含めたトータルの加工コストについても評価した。なお、離型材層2中の窒化珪素の表面の酸化物の膜厚については、あらかじめ試料をTEM観察を用いて、条件と膜厚の関係についての条件出しを行ったうえで、必要とする膜厚の試料を作製した。
離型材層2の形成については、スクリーン印刷による方法以外に、刷毛による塗布法、スプレー塗布法、プラズマ溶射法についても同様に試料を作製した。なお、離型材層2の厚さは基本的に0.6mmとなるようにしたが、プラズマ溶射の場合は一パス当たりの膜形成速度が小さいため、0.1mmで評価した。
一方、従来例として、離型材層2に窒化珪素を含有しない場合(No.9)、鋳型種類が分割型でなく一体型の場合(No.14)、鋳型材質が黒鉛の場合(No.16)についても、全く同様にして試料を作製し同じ評価を実施した。これらの結果を表1に示す。表1の離型材層の項目において、○は添加したもの、×は添加しなかったものを示す。また、結果の項目において、◎は非常によい、○はよい、△は許容範囲ぎりぎり、×は不可を表す。表1中で窒化珪素酸化膜厚が測定不可とは、酸化物層の厚みが1nmより小さく、TEMによる測定では厚さの測定ができなかったことを示す。
表1に示すように、本発明の範囲内である、No.1〜8、10〜13、15の試料については、いずれも許容範囲の結果が得られた。しかしながら、それ以外の本発明の範囲外の試料については、評価項目のいずれかを満たさない結果となり、本発明の効果が確認された。
なお、No.11の試料は、刷毛を用いた塗布方法で形成された離型材層2であるが、塗布むら等があって均一な離型材層2を形成することがやや難しいという問題があり、許容範囲ではあるが、鋳型1より剥離した離型材のインゴット中への混入がみられた。また、No.12の試料は、スプレー塗布により形成された離型材層2であり、均一な離型材層2が形成され、インゴットへの異物混入などは観察されなかったが、塗布回数が他の塗布方法に比べ多く、作業工数が増加するという問題点があり、コストの点で不利であった。さらに、No.13の試料は、プラズマ溶射により形成された離型材層2であり、有機バインダーを含まない離型材層2が形成され、品質上の問題は観察されなかったが、膜形成に時間がかかるという問題があり、コストの点で不利であった。
このように、スクリーン印刷を用いた離型材層の形成方法が、作業効率よく均一な離型材層2を形成でき、融着や異物混入が観察されず、最も望ましいという結果を得た。
(実施例2)
溶融シリカからなる原料を用いて、図4に示すような内寸350mm四方、厚み10mm、高さ150mmの枠状の側面部材11bの成形体三つと、370mm四方、厚み10mmの板状の底面部材12の成形体一つを作製した。各側面部材の内側面部のコーナー部分は半径0mm(即ち直角)、5mm、10mm、15mmのR形状に加工した。これらの側面部材11bと底面部材12を箱型に組立て、接合部分に溶融シリカからなるスラリーを塗布して接着した後、1300℃にて焼成して一体型の鋳型1を得た(例1から例5)。
一方、鋳型内寸が、底面部が350mm四方、高さ450mmであり、各側面部には鋳型上方の開口部に向け6mmのテーパーが付いた肉厚15mmの一体型の溶融シリカ製鋳型を用いた。鋳型内部の各辺または四隅の角は半径15mmのR形状をしている(例6)。
これらの鋳型内面に、あらかじめ酸化処理を行って表面に20nmの厚さを有する酸化物層を具備した窒化珪素と、二酸化珪素とを7:3の重量比率で含有する離型材スラリー(PVAの8重量%水溶液)を刷毛で0.9mmの厚みに塗布し、乾燥してシリコン鋳造用鋳型を作製した。
得られた鋳型1内に加熱溶解したシリコン融液を、テーパーなし鋳型内に85.6kg、テーパー付き鋳型内に87.6kg注湯し、7〜100Torrに減圧したアルゴン(Ar)雰囲気中で鋳型底面部から徐々に降温させてシリコン融液を一方向凝固させ、それぞれ高さ300mmのシリコンインゴットを得た。
得られたインゴットの各側面部分を、刃の厚みが2mmの切削装置を用いて切断した。インゴット端部のR形状を避けて切断を行うため切断したシリコン端材の厚みは各インゴット底部でそれそれ3mm、5mm、8mm、13mm、18mm確保した。
得られたインゴット重量に対する切断除去したシリコン端材重量から、各インゴットの原料歩留まりと側面部分の異物の有無を観察した。その結果を表2に示す。なお、判定欄の◎は非常によい、○はよい、△は許容範囲ぎりぎりを表す。
表2に示したように、鋳型内部の各辺または四隅の角のR形状が大きいほど、また鋳型内側面のテーパーが大きいほど、切断加工時の端材厚みは厚くなり、シリコン原料歩留まりは低下する。一方、側面端材厚みが3mmの場合、シリコンインゴット側面のごく一部分で離型材の混入が見られた。上記の結果よりシリコンインゴットの端材は厚さ5mm以上除去することが望ましいという結果を得た。