JP4189893B2 - 抗菌性混合糸 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、抗菌性能を有する混合糸に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
素材に抗菌性を付与する方法は従来より今日にいたり行われており、例えば、繊維素材あるいは繊維布帛やシート等を抗菌性物質によって表面処理を行う方法がある。しかし、この方法では抗菌性能を付与できるものの、抗菌性能の耐久性に劣るという問題がある。これを解決する方法として、ナイロンやポリエステルのような繊維素材の製造工程中に活性のある抗菌物質を混合練り込む方法がある。しかし、この方法では一定の抗菌性能を示すもののコスト高になる。また、一般に、抗菌剤自体が一定の毒性を有するものが多く、安全上問題があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明らは、上記問題点に鑑み、コストが高くなく、かつ安全性のある抗菌剤について、検討した。従来より、乳酸が食品の日持ちを向上させる食品保存剤として用いられており、乳酸が静菌・防カビ作用を有することが知られている。しかし、乳酸の脱水縮合重合体であるポリ乳酸系重合体からなる繊維やフィルムには、抗菌性が認められるという明確な報告はなく、ましてやポリ乳酸のポリマー組成物との関係について抗菌性を論じた報告はない。本発明者らは、繊維への成形加工工程で、乳酸が有する潜在的な静菌・防カビ作用を発現させるべく、ポリ乳酸系重合体と抗菌性との関係について種々検討した結果、ポリ乳酸系重合体の構成成分においてある特定の組成範囲のものに、顕著な抗菌活性が認められることを見出し、本発明に到達した。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ポリ乳酸系繊維と公定水分率が5%以上の繊維とからなる混合糸であり、前記ポリ乳酸系繊維を構成するポリ乳酸系重合体中に、乳酸、ラクチドおよびオリゴ乳酸を0.01〜1.0重量%含有しており、該混合糸には親水性の界面活性剤が付与され、静菌活性値が2.2以上であることを特徴とする抗菌性混合糸を要旨とするものである。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明に用いるポリ乳酸系繊維を構成するポリ乳酸系重合体は、熱可塑性脂肪族ポリエステルであって、ポリ(α−ヒドロキシ酸)を主たる繰り返し単位とする重合体が挙げられる。具体的には、ポリ(D−乳酸)、ポリ(L−乳酸)、D−乳酸とL−乳酸との共重合体、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、DL−乳酸とヒドロキシカルボン酸等が挙げられ、これらの重合体のうち、融点が80℃以上である重合体が好ましい。ここで、乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体である場合におけるヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシカプリル酸などが挙げられる。
【0006】
このようなポリ乳酸系重合体は、数平均分子量が約20,000以上、好ましくは40,000以上のものが製糸性及び得られる糸条特性の点で好ましい。数平均分子量の上限については、溶融紡糸が行えるものであればよく、150,000程度であればよい。
【0007】
ポリ乳酸系重合体には、必要に応じて他の添加剤、例えば艶消し剤や顔料、結晶核剤等の各種添加剤を本発明の効果を損なわない範囲内で添加しても良い。
【0008】
ポリ乳酸系繊維の繊維横断面形状は、通常の丸断面の他、楕円形、菱形、三角形、四角形、多角形、T形、井形等の異形断面のもの等いずれのものを用いることができ、適宜選択すればよい。また、中空部を有する中空断面形状であってもよい。
【0009】
ポリ乳酸系繊維は、一種のポリ乳酸系重合体単独からなる単相形態のものであっても、2種以上のポリ乳酸系重合体からなる複合形態のものであってもよい。複合形態としては、並列型複合形態、多層型複合形態、芯鞘型複合形態、分割型複合形態、分割型多葉複合形態等が挙げられ、用途等に応じて適宜選択すればよい。
【0010】
本発明の混合糸を構成するポリ乳酸系繊維において、繊維表面積が大きい方が細菌との接触面積が増えるため、より静菌作用を発揮でき、また、不織布を自然界において分解する生分解性能を要する用途に用いる場合にも繊維の表面積が大きいものが分解性に優れるので、中空断面、異形断面、分割型複合断面等の断面形状のものを用いることが好ましい。
【0011】
ポリ乳酸系繊維の結晶化度は、10〜40%の範囲にあることが好ましい。繊維の結晶化度を上記範囲とすることによって、繊維の熱収縮を低く抑え、実用的な機械的強度を有するものとなる。上記範囲の結晶化度は、熱処理を行うことや延伸を行うことにより、また、ポリ乳酸系重合体に対して、例えば、タルク、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化チタンなど結晶核剤を添加することにより達成される。結晶核剤を添加すると繊維の結晶化を促進させ、得られる混合糸の機械的強度や耐熱性を向上させることができ、しかも製造時の溶融紡出・冷却工程での紡出糸条間の融着(ブロッキング)を防止しうる点で好ましい。このような結晶核剤の添加量は、0.1〜3.0重量%の範囲、より好ましくは0.2〜2.0重量%の範囲であることが望ましい。
【0012】
ポリ乳酸系繊維の単糸繊度は、適宜選択すればよいが、0.5デニール以上であることが好ましい。単糸繊度が0.5デニール未満であると、生産量が低下する傾向にあり、また生産量を向上させるために紡糸口金の数を増加させた場合に、紡糸工程が不安定になる。また、単糸繊度の上限についても特に限定されない。一般的な冷却風で繊維を固化させる方法による製造面からは、50デニール程度が好ましい。50デニールを超えると、溶融紡糸された糸条の冷却不足により引き取りが困難になる傾向にあり、また、糸条の冷却を促進させるために紡糸口金の孔数を減らした場合に生産量が低下する。
【0013】
本発明の混合糸は、公定水分率5%以上の吸水性を有する繊維を含有するものであり、公定水分率が5%以上の繊維としては、天然繊維である木綿、麻、羊毛、絹などを用いることができる。また、再生繊維として、パルプより得られるビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン、溶剤紡糸されたレーヨンであるリヨセルなどを用いることもできる。さらに、合成繊維であっても、ポリエーテルエステルアミドを含有したものや、ポリアルキレンオキシド変性物等を含有したものも用いることができる。また、公定水分率5%以上の繊維として、前述したものを2種類以上から構成したものであってもよい。
【0014】
公定水分率が5%以上の繊維は、吸水性に優れるため、後述するポリ乳酸系繊維の静菌・抗菌性能の発現に寄与する。また、本発明の混合糸に公定水分率が5%以上の繊維が混合していることによって、混合糸に十分な吸水性、保水性を付与することができる。このような混合糸からなる布帛は、たとえば、吸汗性に優れた衣類や、水分の拭き取り性に優れたワイパーなどの用途に好適に用いられる。
【0015】
公定水分率5%以上の繊維である天然繊維や再生繊維は、ポリ乳酸系短繊維と同様に自然界で微生物により分解される性質を有するため、生分解性が要求される用途に好適に用いることができる。
【0016】
本発明を構成するポリ乳酸系繊維および公定水分率5%以上の繊維の形態は、短繊維であっても長繊維であってもよく、適宜目的に応じて選択する。
【0017】
本発明の混合糸は、ポリ乳酸系繊維と公定水分率5%以上の繊維とからなるものであり、両繊維を、公知の混繊法または混紡法により、混繊糸または混紡糸としたものである。
【0018】
本発明の混合糸のポリ乳酸系繊維と公定水分率が5%以上の繊維との混合割合(重量比)は、70/30〜30/70であることが好ましい。ポリ乳酸系繊維の割合が30重量%未満であると、本発明が目的とする抗菌効果が得られない傾向となり、70重量%を超えると、吸水性に劣る傾向となる。
【0019】
本発明の混合糸は、親水性の界面活性剤が付与されており、親水性の界面活性剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性系界面活性剤等が挙げられ、これらを単独または混合して用いる。界面活性剤は、所定濃度(例えば、1〜1.5重量%程度)に調整した水溶液または水分散液の形態で、混合糸に噴霧するとよい。また、構成繊維同士を混合する前(繊維製造工程等において)に、ポリ乳酸系繊維および/または公定水分率5%以上の繊維に噴霧してもよい。また、これらの繊維が短繊維である場合、混綿工程で混綿ウエブに噴霧すると、界面活性剤が付与された繊維は、カード機等の開繊装置で開繊する際に、絡みつきが減少されるので好ましい。
【0020】
混合糸に付与されてなる親水性の界面活性剤は、100ppm以上であること好ましい。100ppm未満であると、混合糸の抗菌効果が十分に発揮されにくい傾向となる。
【0021】
ポリ乳酸系重合体は疎水性であるため、ポリ乳酸系重合体からなる繊維もまた疎水性である。このような疎水性のポリ乳酸系繊維は、素材自身が抗菌性を持っていても、すなわち、後述するポリ乳酸系繊維を構成するポリ乳酸系重合体中に、乳酸、ラクチドおよびその他のオリゴ乳酸を含有していても、菌の繁殖を積極的に抑える抗菌効果は発揮されない。親水性界面活性剤が付与されることにより、ポリ乳酸系繊維表面が親水性となるので、菌との接触が可能となり、菌の繁殖を抑えることができると推定される。さらに、本発明の混合糸は、公定水分率5%以上の繊維とポリ乳酸系繊維とが混合している状態であり、繊維同士が隣接しているため、ポリ乳酸系繊維は、公定水分率5%以上の繊維が含有する水分とも接触した状態であるので、菌とも接触しやすくなり、その繁殖を抑えることができると推定される。
【0022】
このような抗菌効果は、ポリ乳酸系繊維を構成しているポリ乳酸系重合体中に、乳酸、ラクチドおよびオリゴ乳酸を含有しているために発揮されると推察される。ポリ乳酸系繊維を構成するポリ乳酸系重合体中には、乳酸、ラクチドおよびオリゴ乳酸を0.01〜1.0重量%含有している。乳酸、ラクチドおよびその他のオリゴ乳酸の含量が0.01重量%未満であると抗菌性能の効果が薄れ、一方、1.0重量%を超えると常温下でも空気中の湿気等の水分により加水分解が進行するため、長期保存安定性に欠ける傾向となる。
【0023】
本発明においては、ポリ乳酸系繊維を構成するポリ乳酸系重合体中に含有する乳酸、ラクチドおよびオリゴ乳酸の量を上記範囲とするためには、重合過程において反応条件を調節すること、あるいは、重合終了後、溶融状態で減圧することにより過剰のラクチド、オリゴ乳酸等を除くことにより達成される。
【0024】
本発明の混合糸は、統一試験法(繊維製品衛生加工協議会認定の抗菌効果試験方法)による静菌活性値が2.2以上である。静菌活性値とは、一定の菌数の検定菌を標準試料および対象試料に植菌し、一定時間培養後の標準試料の生菌数をB(cells/ml)、一定時間培養後の対象試料の生菌数をC(cells/ml)とした場合のlogB−logCで表される。静菌活性値が2.2未満であると、菌の繁殖を抑えることができるとはいえない。
【0025】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。実施例において、各物性値は次のようにして求めた。また、抗菌性の評価すなわち静菌活性値については前述の方法により求めた。
(1)融点(℃):パーキンエルマ社製の示差走査熱量計DSC−7型を使用し、昇温速度を20℃/分として測定して得た融解吸熱曲線の極値を与える温度を融点(℃)とした。
【0026】
(2)メルトフローレート(以下、MFRという。)(g/10分):ASTMD 1238に記載の方法に準じて210℃、荷重2160gにおける溶融吐出量を測定した。
【0027】
(3)抗菌性能:抗菌性能は統一試験法(繊維製品衛生加工協議会認定の抗菌効果試験方法)により、静菌活性値を測定し、抗菌性能を評価した。前記評価にあたっては、使用菌株として、Staphylococcus aureus ATCC 6538P(黄色葡萄状球菌)を用いた。
すなわち、バイアル瓶に入れた滅菌済試料0.4gに生菌数を1±0.3×105に調整した菌液0.2mlを出来るだけ均一に接種し、37℃で18時間培養する。ツイン80 0.2%を添加した生理食塩水20mlを加え攪拌し菌を洗い出す。10倍希釈系列を作成しニュートリエント寒天培地と混釈し37℃で24時間以上培養しコロニー数を数え、生菌数を求めた。
【0028】
静菌活性値の計算としては、標準試料および試験試料について、上記試験をそれぞれ行い、下式から静菌活性値を求めた。なお、標準試料としては、ナイロン標準白布を用いた。
静菌活性値=logB−logC
B:標準試料の18時間培養後、回収した菌数
C:試験試料の18時間培養後、回収した菌数
【0029】
実施例1
ポリ乳酸系繊維を作成するために、光学純度が98.8%で、融点170℃、MFR25g/10分のポリL−乳酸樹脂を溶融し、紡糸温度220℃、単孔吐出量0.31g/分の条件下で紡糸口金より溶融紡糸した。次に、紡出糸条を冷却装置にて冷却し、紡糸油剤を付与した後、引き取り速度800m/分で巻き取った。次いで、得られた未延伸糸を、延伸トウ繊度が30万デニールとなるよう合糸してトウとなし、周速の異なる公知の延伸機を用いて延伸温度120℃、延伸倍率を2.51倍として延伸を行った後、クリンパーにて捲縮を付与し、分子量600のポリエチレングリコールモノオレートを20重量%含有した仕上げ油剤0.3重量%を付与した、その後、このトウを乾燥し、引き続き、51mmの長さに切断して、1.5デニールのポリ乳酸系短繊維を得た。得られたポリ乳酸系短繊維の単繊維強度は3.9g/d、120℃×15分の雰囲気下における乾熱収縮率は4.2%であった。
【0030】
公定水分率5%以上の繊維として、平均繊度1.5デニール、平均繊維長24mmの木綿の晒し綿を用意した。
【0031】
そして、上述のポリ乳酸系短繊維50重量%、木綿繊維50重量%となるように計量混綿し、混打綿機に通した後、引き続きフラットカード機に通し、ウエブを集束してスライバーを得た。このスライバーを3本ダブリングして第1練条機に通し、さらにこの得たスライバーを8本ダブリングして仕上げ練条機に通した後、この得たスライバーを2本ダブリングして粗紡機に通した。この得られたスライバーをリング精紡機にて精紡して、撚り数19回/インチ、40番手の紡績糸を得た。この紡績糸の強度は2.8g/d、伸度は33%であった。
【0032】
実施例2
ポリ乳酸系繊維と木綿繊維との混綿比率を30/70(重量%)とした以外は、実施例1と同様にして本発明の混合糸を得た。
【0033】
実施例3
ポリ乳酸系繊維と木綿繊維との混綿比率を70/30(重量%)とした以外は、実施例1と同様にして本発明の混合糸を得た。
【0034】
実施例1〜3で得られた混合糸を用い、針数260本の筒編機(小池製作所製)で製編した。得られた筒編地の抗菌性能の評価を行い、その結果を表1に示した。
【0035】
【表1】
【0036】
表1から明らかなように実施例1〜3の混合糸からなるいずれの布帛も静菌・抗菌性能があることが確認できた。
【0037】
【発明の効果】
本発明によれば、ポリ乳酸系繊維と公定水分率が5%以上の繊維とからなる混合糸に親水性界面活性剤が付与されたものであって、親水性界面活性剤を付与したことによってポリ乳酸系繊維の表面が親水性となることで、菌と接触が可能となり、菌の繁殖を抑制するという静菌・抗菌効果を発揮することができたものと考えられる。また、本発明の混合糸には、公定水分率が5%以上の繊維が含まれているので、空気中の水分を含有しやすく、このような繊維とポリ乳酸系繊維とが接触していることで、ポリ乳酸系繊維は、さらに菌と接触しやすくなる。したがって、公定水分率が5%以上の繊維は、ポリ乳酸系繊維が静菌・抗菌効果を発現することに寄与し、また、混合糸自体に良好な吸湿・吸水性を付与させるものである。
【0038】
また、本発明の抗菌性混合糸は、ポリ乳酸系重合体が抗菌性を発揮するものであるため、人体に対しても安全性が極めて高い。
【0039】
本発明の混合糸を用いて編織物、組物、紐等の繊維製品とすることによって、食品等の各種包装材、壁紙、各種フィルター、流し等の水切り袋、テーブルクロス、足拭きマット、ふきん等の日用品・生活関連資材、農園芸資材、医療・衛生材、衣料品等の様々な分野において、静菌・抗菌性能を発揮することができる。
Claims (4)
- ポリ乳酸系繊維と公定水分率が5%以上の繊維とからなる混合糸であり、前記ポリ乳酸系繊維を構成するポリ乳酸系重合体中に、乳酸、ラクチドおよびオリゴ乳酸を0.01〜1.0重量%含有しており、該混合糸には親水性の界面活性剤が付与され、静菌活性値が2.2以上であることを特徴とする抗菌性混合糸。
- 混合糸に親水性の界面活性剤が100ppm以上付与されていることを特徴とする請求項1記載の抗菌性混合糸。
- ポリ乳酸系繊維が、ポリ(D-乳酸)、ポリ(L-乳酸)、D-乳酸とL-乳酸との共重合体、D-乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、L-乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、DL−乳酸とヒドロキシカルボン酸から選ばれるいずれかの重合体、あるいはこれらのブレンド体であることを特徴とする請求項1または2に記載の抗菌性混合糸。
- 公定水分率が5%以上の短繊維を30〜70重量%含有していることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の抗菌性混合糸。
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