JP4187554B2 - 含油焼結金属部品およびそれを用いたトルクリミッタ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、焼結金属で形成して潤滑油を含浸させた含油焼結金属部品およびそれを用いたトルクリミッタに関する。
【0002】
【従来の技術】
焼結金属で形成して潤滑油を含浸させた含油焼結金属部品は、内部から滲み出す油によって表面の潤滑性が得られるため、各種装置の潤滑を必要とする部品のうち、特に、装置作動中の給油が困難なものや、給油の省略によるメンテナンスフリー化が望まれるものに対して適用されることが多い。
【0003】
このような含油焼結金属部品を組み込んだ装置の一つとして、プリンタや複写機の給紙装置の駆動部等に多く使用されるコイルばね内蔵型のトルクリミッタがある。その一般的な構造は、例えば本発明の実施形態である図1に示すように、含油焼結金属製の内輪1とその外側に回転自在に設けられた外輪2との間にコイルばね3を組み込み、このコイルばね3に内輪1の外径面を締め付ける小径コイル部3aを設け、コイルばね3の両端に形成された折曲片4、5の一方を外輪2の閉塞端に連結し、他方の折曲片5を外輪2の開口端部に回転可能に圧入された調整リング6に連結している(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
このトルクリミッタでは、調整リング6側から見て、内輪1をコイルばね3の巻方向と同じ方向に回転させると、コイルばね3の小径コイル部3aが内輪1を締め付ける緊縛力により、内輪1の回転がコイルばね3を介して外輪2に伝達され、外輪2が内輪1と同方向に回転する。
【0005】
外輪2の負荷が増し、コイルばね3の小径コイル部3aの内輪1に対する緊縛力が、小径コイル部3aと内輪1との接触部における摩擦力より小さくなると、内輪1と小径コイル部3aとの間で滑りが生じ、外輪2への回転トルクの伝達が遮断される。
【0006】
また、内輪1をコイルばね3の巻方向と逆の方向に回転させると、コイルばね3の小径コイル部3aが縮径して、内輪1に小径コイル部3aが巻き付きロックするようになっている。
【0007】
【特許文献1】
特開平10−96432号公報(図1)
【0008】
このようなタイプのトルクリミッタでは、コイルばねと接触して滑る含油焼結内輪から供給される油により、作動中の潤滑が行われるようになっている。この含油焼結内輪は、一般に、図2に示すように、金属粉末と添加粉末とを混合して内輪形状に圧縮成形し、焼結およびサイジング(整形)を行った後、真空で含油処理して製造する。
【0009】
上記含油処理においては、整形した内輪およびこれに含浸させる油を高温に加熱して、油が内輪内部に入り込みやすいようにしている。この油の加熱温度は、通常、65〜75℃程度に設定されている。
【0010】
含油処理が完了した内輪は、その表面に油が厚く付着しており、このままの状態で使用すると、トルクリミッタ作動中に、過剰な油の影響によりコイルばねの小径コイル部との間の摩擦係数が変化してトルク変動を発生させたり、過剰な油が飛散して装置やプリント紙等を汚してしまうおそれがある。このため、図2に示したように、含油処理に続いて遠心分離機による油切りを行い、油が内輪表面に薄く均一に付着した状態となるようにしている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
上述した含油焼結内輪を組み込んだトルクリミッタでは、内輪製造工程において、油切り処理により内輪表面に薄く付着した油が、内輪とともに冷却されて熱収縮するときに、その収縮率の差(油が内輪を形成する金属の約100倍)により内輪内部に引き込まれ、常温となったときには内輪表面に残らない状態となるおそれがある。そして、表面に油がない状態の内輪を組み込むことにより、作動初期には、内輪とコイルばねの小径コイル部とが直接接触しながら滑ることになって、異音や微小な振動が発生することがある。
【0012】
このため、納入先で作動初期にトラブルが発生しないように、組立後に内輪表面に油を滲出させるためのなじみ運転を行っており、この作業に余分な時間とコストがかかっている。
【0013】
そこで、この発明の課題は、含油焼結金属部品を組み込んだトルクリミッタ等の装置を、組立直後から異音や振動を発生させることなく使用できるようにすることである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、この発明は、焼結金属で形成され、潤滑油を加熱して含浸させる含油処理の後に、表面から余分な潤滑油を除去する油切り処理を受けて使用される含油焼結金属部品において、前記含油処理時の潤滑油加熱温度を所定の温度以下に設定することにより、前記油切り処理で除去されなかった潤滑油が、常温となっても部品表面に残存するようにしたのである。
【0015】
すなわち、部品の含油処理時の潤滑油加熱温度を従来よりも常温に近い温度に設定することにより、油切り処理で除去されなかった潤滑油の冷却時の収縮量を少なくして、部品内部に引き込まれる油量を減少させ、潤滑油が常温となったときにも部品表面に残存するようにした。これにより、この部品を組み込んだ装置は、その作動初期においても、良好な潤滑状態を確保でき、異音や振動を発生させることなく使用することができる。
【0016】
ここで、前記含油処理時の潤滑油加熱温度は、30〜50℃に設定することが好ましい。これは、一般的な潤滑油(常温での動粘度が100〜150cStのもの)を使用する場合、加熱温度を50℃以下とすれば、油切り処理後に常温となったときの部品表面の残油量を十分に確保することができ、一方、加熱温度を30℃未満まで下げてしまうと、潤滑油が部品内部に入り込みにくくなり、含油量が不十分となったり、含浸作業に長時間を要するようになって作業性が低下したりするからである。
【0017】
前記油切り処理は、遠心分離機により行うことが好ましい。潤滑油を部品表面に薄く均一に残存させることができるからである。
【0018】
内輪の外側に外輪を回転自在に設け、これらの両輪間に組み込んだコイルばねに内輪の外径面を締め付ける小径コイル部を設け、このコイルばねの両端に形成された折曲片の一方を外輪に連結し、他方の折曲片を外輪の開口端部に回転可能に圧入された調整リングに連結したトルクリミッタにおいて、前記内輪を、油切り処理後に常温となった潤滑油が表面に残存する上記のような含油焼結金属部品で形成することにより、トルクリミッタの作動初期においても、内輪とコイルばねの小径コイル部とを適量の潤滑油を介して滑らせることができ、異音や振動の発生を防止することができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づき、この発明の実施形態を説明する。図1に示す実施形態のトルクリミッタは、前述したように、内輪1と、内輪1の外側に回転自在に設けられた外輪2と、これらの両輪1、2間に組み込まれたコイルばね3とを有し、コイルばね3には内輪1の外径面を締め付ける小径コイル部3aと、両輪1、2に対して非接触の大径コイル部3bとが設けられている。
【0020】
小径コイル部3aの端部には折曲片4が設けられ、この折曲片4が外輪2の閉塞端に連結されている。一方、大径コイル部3bの端部には折曲片5が設けられ、この折曲片5は外輪2の開口端部に回転可能に圧入された調整リング6に連結されている。
【0021】
前記内輪1は、含油焼結金属から成り、その内部から供給される油によりトルクリミッタ作動中の潤滑が行われるようになっている。その製造工程は、前述の図2に示したように、まず、銅や鉄等の金属粉末とグラファイト等の添加粉末とを混合し、この混合物を金型に充填して内輪形状に圧縮成形する。そして、この成形物を焼結してサイジング(整形)を行った後、真空で含油処理し、最後に遠心分離機による油切りを行って、表面に油が薄く均一に付着した状態とする。なお、焼結状態によっては、サイジングと含油処理の間で、硬化のための焼処理とそれによって生じるスケールを取り除くバレル処理を行う場合もある。
【0022】
上記含油処理においては、整形した内輪を超音波洗浄して乾燥させ、内輪およびこれに含浸させる潤滑油を30〜50℃に加熱する。この加熱温度が常温に近い温度であるため、油切り処理後の冷却時の潤滑油収縮量は少なく、常温となったときにも潤滑油が内輪表面に薄く均一に付着した状態が保たれる。
【0023】
なお、潤滑油加熱温度を従来よりも低くすることにより潤滑油は内輪内部へ入り込みにくくなるが、加熱温度が30℃以上であれば、含浸時間を多少長めにとるだけで十分な含油量を確保でき、作業性が大幅に低下することもない。
【0024】
上記の構成から成るトルクリミッタによるトルクの伝達および遮断作用は、先に述べた従来のものと同一であるため、説明を省略する。
【0025】
このトルクリミッタの組立直前における内輪表面の状況を従来と比較するために、次のような実験を行った。実験では、サイジングまでの工程が同じ2つの焼結内輪を用意し、その一方(実施例)を50℃で、他方を(比較例)70℃でそれぞれ含油処理した後、各内輪を同じ条件で遠心分離機により油切りして冷却した。そして、常温となった各内輪を油取り紙上で転がして、内輪外径面から油取り紙に転移した潤滑油の付着状況を比較した。その結果、比較例では、油取り紙にほとんど潤滑油が付着しなかったのに対して、実施例では、油取り紙の内輪との接触面全体に潤滑油が均一に付着しており、実施例の内輪を組み込んだトルクリミッタは作動初期から良好な潤滑状態が得られることが確認された。
【0026】
なお、この発明は、上述したコイルばね内蔵型のトルクリミッタの内輪に限らず、軸受の軌道輪等、含油焼結金属部品全般に適用することができる。
【0027】
【発明の効果】
以上のように、この発明は、焼結金属から成る部品を含油処理する際に、潤滑油加熱温度を従来よりも常温に近い温度に設定したので、油切り処理後に常温となったときにも、部品表面に潤滑油を残存させることができる。従って、この部品を組み込んだ装置は、作動初期から良好な潤滑状態が得られ、組立直後から異音や振動を発生させることなく使用することができ、組立後のなじみ運転等、部品表面に油を滲出させる処理を省くことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態のトルクリミッタの縦断面図
【図2】一般的なトルクリミッタの内輪の製造工程を示すフローチャート
【符号の説明】
1 内輪
2 外輪
3 コイルばね
3a 小径コイル部
3b 大径コイル部
4、5 折曲片
6 調整リング
Claims (3)
- 焼結金属で形成され、潤滑油を加熱して含浸させる含油処理の後に、表面から余分な潤滑油を除去する油切り処理を受けて使用される含油焼結金属部品において、前記含油処理時の潤滑油加熱温度を30〜50℃に設定することにより、前記油切り処理で除去されなかった潤滑油が、常温となっても部品表面に残存するようにしたことを特徴とする含油焼結金属部品。
- 前記油切り処理が遠心分離機により行われるものであることを特徴とする請求項1に記載の含油焼結金属部品。
- 内輪の外側に外輪を回転自在に設け、これらの両輪間に組み込んだコイルばねに内輪の外径面を締め付ける小径コイル部を設け、このコイルばねの両端に形成された折曲片の一方を外輪に連結し、他方の折曲片を外輪の開口端部に回転可能に圧入された調整リングに連結したトルクリミッタにおいて、前記内輪を請求項1または2に記載の含油焼結金属部品で形成したことを特徴とするトルクリミッタ。
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