JP4178584B2 - 抗アレルギー剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はグルコサミンあるいはグルコサミン誘導体の低親和性IgEリセプター(CD23またはFcεRII)への作用に基づく、抗アレルギー剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、気管支喘息、蕁麻疹などの疾患の他、花粉症などのアレルギー性鼻炎や食品によるアトピー性疾患などのアレルギーが深刻な問題となっている。これらのアレルギー疾患に対しては、ステロイド剤に代表される薬剤による治療法があるが、望ましい効果が得られなかったり強い副作用が起こることもあり問題である。また、少量の抗原を投与させる減感作療法が行われているが、治療に長期間かかり、副作用が現れたり、望ましい効果が得られない場合もあるなど課題は多い。
【0003】
上記のアレルギー性疾患はI型アレルギーに分類されるが、このI型アレルギー原因抗体がIgE抗体であることはよく知られている。
低親和性のIgEリセプター(FcεRIIあるいはCD23、以下CD23と略す)は分子サイズが、45キロダルトンの膜たんぱく質で、N末端側が細胞の内側にあり、C末端側が細胞の外に出ている。CD23は、一次構造からCa2+依存性(C−type)レクチンのメンバーの一つとされ、CD23のIgE結合領域は、レクチン領域とほぼ一致する。しかしながら、IgEとの結合には糖鎖を介せず、比較的低い親和性(Ka=約107 )で結合する。CD23の細胞外領域のC末端側は切断され、37キロダルトンのフラグメントが生じる。これはさらに切断され、33キロダルトン、25キロダルトン、12キロダルトンの分子種が生じる。これらの可溶性CD23(以下sCD23と略す)のうち25キロダルトン以上の分子サイズの分子種はIgE結合能を有する。
【0004】
CD23は、主に活性化されたB細胞で発現するが、T細胞、樹枝状細胞、単球、ランゲルハンス細胞、好塩基球でも発現する。CD23やsCD23は、アトピー性疾患などのアレルギーの原因となるIgE合成の調節に関与する。CD23は、IgEの他に、CD21とも結合し、IgE合成を調節する他、単球上のCD11bあるいはCD11cとも結合し炎症反応にも関与していると考えられている。
【0005】
近年、抗CD23モノクローナル抗体がIgEの合成を抑制し(Bonnefoy et al., 1990, Eur. J. Immunol. 20, 139; Flores-Romo et al., 1993, Science, 261, 1038)、特にCD23のIgE結合領域に結合する抗CD23モノクローナル抗体が、IgEの生産を抑制することから(Wakai et al., 1993, Hybridoma 12, 25)、CD23のIgE結合領域(レクチン領域)の作用を抑制する物質を見いだすことができれば、IgEの合成を抑制することが可能であると考えられてきた。グルコサミンは、関節炎の治療薬として用いられてきた(Setnikar et al., 1991, Arzneim.-Forsch./Drug Res., 41, 542)。また、炎症、自己免疫疾患、ガン転移等の疾患に有効な抗炎症薬等としてグルコサミン誘導体が開発されてきた(特開平9−301988号公報)。さらに、グルコサミンのポリマーであるキトサンは免疫賦活作用、抗腫瘍作用や抗菌作用などが報告され(キチン、キトサン研究会編、キチン、キトサンの応用、技報堂出版、1990年)、最近では、抗凝結作用を持つスルホン化キトサンが開発されている(化学工業日報、1998年1月6日記事)。しかしながら、グルコサミンあるいはグルコサミン誘導体に、アレルギー、特にI型アレルギーを抑える作用のあることは知られていなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、アレルギー疾患が問題となっているのにも関わらず、有効な抗アレルギー剤は未だ開発されていない。
また、CD23がアレルギーに関与するIgE抗体の生産を調節していることがわかっているが、CD23の作用を抑制する物質は見出されていない。本発明は、CD23の作用を抑制し、副作用を伴わず、I型アレルギーの予防、治療に有効な組成物を提供せんとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、この目的のために鋭意検討を続けてきた結果、特定のグルコサミン誘導体が、CD23に対して作用し、IgEとの結合を阻害し、抗アレルギー剤として利用できることを見いだし、本発明を完成した。
従って、本発明の抗アレルギー剤は、一般式(I):
【化2】
[式中、R1 は糖類の残基、炭素原子数1ないし20のアルキル基または水素原子を表し、R2 およびR3 は互いに独立してベンジル基または水素原子を表し、R4 、R5 およびR6 は互いに独立して硫酸基、リン酸基あるいは水素原子を表す。]
で表されるグルコサミン誘導体もしくはそれらの塩のなかで、グルコサミン−6−リン酸、グルコサミン−6−硫酸またはN,N−ジベンジルグルコサミンを有効成分として含有することを特徴とするものである。
【0008】
上記置換基の定義において、糖類の残基としては、グルコース、ガラクトース、マンノース、アラビノースおよび上記の一般式(I)と同一構造を繰り返し構造単位とするもので、例えば該構造単位が1ないし5個、好ましくは1ないし3個結合したものなどが挙げられる。
炭素原子数1ないし20のアルキル基としては、直鎖または枝分かれ鎖のいずれのものでもよい。好ましくは、炭素原子数1〜12、更に好ましくは1〜6のアルキル基である。
【0009】
好ましい化合物としては、例えば、R1 が糖類の残基、アルキル基または水素原子を表し、R2 およびR3 が水素原子を表し、R4 、R5 およびR6 が互いに独立して硫酸基、リン酸基あるいは水素原子を表す化合物、または、R1 が糖類の残基、アルキル基または水素原子を表し、R2 およびR3 がベンジル基を表し、R4 、R5 およびR6 は水素原子を表す化合物などが例示できる。
【0010】
本発明のグルコサミンあるいはグルコサミン誘導体は、CD23中の活性領域に対して作用し、アレルギーと関係するIgEやCD21とCD23の結合を抑制することにより抗アレルギー作用を発揮するものと考えられる。さらにCD23は、単球上の糖蛋白質であるCD11bやCD11cと結合し、炎症作用に関わるが、この作用もグルコサミンあるいはグルコサミン誘導体が阻害するものと考えられる。
【0011】
本発明の抗アレルギー剤として使用できる化合物は、グルコサミンあるいはグルコサミン誘導体であり、天然あるいは合成品のいずれも使用できる。本発明品を得るための製造法にはなんら制限がなく、化学的、酵素的、あるいは生物学的に製造することができる。例えば、キチンやキトサン、糖蛋白質糖鎖、グリコサミノグリカンなどの天然物の化学的あるいは酵素的な分解により得ることができ、天然物の分解物をさらにリン酸化や硫酸化、エステル化、グリコシル化などの化学処理することによって得ることができる。天然物の場合、その由来は制限されない。例えば、かに殻などから得られるキチンを酸により加水分解して得られるグルコサミンなどを利用することができる。
【0012】
グルコサミン誘導体の製造法は特に限定されないが、例えば、グルコサミン−6−硫酸の場合、Bruce らの方法(Bruce et al., 1985, Eur. J. Biochem. 152, 75-82 )で化学合成することができる。また、グルコサミン−6−リン酸の場合、Szymona らの方法(Szymona et al., 1980, Ann. Univ. Mariae Curie-Sklodowska, Sect. D. 35, 1-6)で酵素合成できる。
また、N,N−ジベンジルグルコサミンの場合は、例えば次の方法で合成できる。D−グルコサミン塩酸塩1mmol(216mg)、ベンズアルデヒド2mmol(212mg)、シアノ水素化ホウ素ナトリウム3mmol(189mg)を50%メタノール水溶液5mlに溶解し、25℃で16時間振とうし、生成物を逆相クロマトグラフィーで精製して、目的物190mg(収率53%)を得る。これらの化合物の構造はプロトンNMRで確認した。
【0013】
本発明にかかるグルコサミンの塩型は、特に限定されず、例えばグルコサミン塩酸塩、グルコサミン硫酸塩などが使用できる。さらに、グルコサミン誘導体の場合においても、塩型は何ら限定されない。例えば、リン酸化グルコサミン、硫酸化グルコサミンの塩型は限定されず、ナトリウム、カリウム、バリウム、カルシウムなどの塩が利用される。グルコサミンは自然界に広く存在するため、安全性が極めて高い。従って、医薬品として利用できるだけでなく、健康食品、栄養素食品、機能性食品などのほか広く一般食品に添加することができる。
【0014】
本発明による組成物は、有効成分としてグルコサミンあるいはグルコサミン誘導体が含まれていることが重要であって、他の医薬品、化学薬品、成型用の助剤、食品成分や食品添加物が含まれていても差し支えない。例えば、乳糖、コーンスターチ、白糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビット、結晶セルロース、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、アラビアガム、トラガント、ゼラチン、シェラック、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリプロピレングリコール・ポリオキシエチレン・ブロックポリマー、メグルミン、澱粉、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチン等を添加しても構わない。また、pH調整剤、溶解剤、等張化剤、或いは必要に応じて溶解補助剤、安定化剤などを加えて製品化することができる。
【0015】
また、必要に応じて、他の抗アレルギー作用を有する成分、消炎作用を有する成分、免疫賦活作用を有する成分、ビタミン類、タンパク質、糖類、トリグリセライド、脂肪酸、ステロールなどの油脂、アミノ酸、保湿剤、角質溶解剤などの成分を配合することもできる。
【0016】
本発明品を投与する形態は、食品に用いる場合は経口であるが、その他薬として利用する場合は、経口の他、経皮投与、あるいは注射による投与が可能である。食品に添加する場合以外の投与剤型としては、カプセル剤、錠剤、顆粒剤などの経口製剤、軟膏、貼付剤等の外用剤および注射剤が考えられる。本発明の有効成分を摂取あるいは投与する場合の量は、症状、年齢などにより異なり、特に限定されないが、通常成人一日当たり50mg〜5000mgであり、好ましくは100mg〜3000mg、さらに好ましくは200mg〜2000mgである。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の態様を示すが、本発明の趣旨はもとよりこれらに限定されるものではない。
【0018】
【性能評価】
1.CD23とIgEの結合阻害試験
(1) 試験方法
CD23とIgEの結合阻害試験は、佐藤らの方法(Sato et al., 1997, J. Immunol. Methods, 209, 59-66)によって行った。この方法は、CD23分子を多く発現する細胞とIgEおよび被験サンプルを混合し、結合したIgEの量を比較することで、被験サンプルがどの程度IgEとCD23の結合を阻害するかをみる方法である。以下、試験方法を簡単に説明する。
本試験には着脱可能なメンブレンフィルターカップ付きのマイクロ遠心チューブを利用する。試験前に次の溶液を準備する。
▲1▼50μlのIgE溶液(5μg IgE/mlTBS(トリス塩酸緩衝液):10mM Tris−HCl,pH7.3/140mM NaCl/2mM CaCl2 /l mM MgCl2 )、
▲2▼被験サンプル溶液 50μl、
▲3▼Epstein−Barr virusによって形質転換されたヒトB細胞株L−KT9の懸濁液(1.5×105 細胞/100μlTBS)。
【0019】
▲1▼のIgE溶液を50μl、▲2▼のサンプル溶液を50μl、▲3▼のL−KT9細胞懸濁液を100μlフィルターカップ内で混合し、4℃で2時間放置した。インキュベーション後、2000×Gにて5分間遠心し、細胞と結合していない余分なIgEを除去した。さらに、細胞を洗浄するために200μlのTBSを加え、すぐに遠心した。この洗浄操作を2度繰り返した後、200μlの0.1MEDTA/0.1M PBS(リン酸緩衝液pH7.3)により細胞上のCD23と結合しているIgEを溶出した。溶出されたIgEの量をELISAによって分析した。▲2▼の被験サンプル溶液のかわりに、TBSだけを使用したものをコントロールとし、コントロールの結果と被験サンプルの結果を比べて結合がどれだけ阻害されたかを観察した。
被験サンプルとして、抗CD23モノクローナル抗体(9P25)(コスモバイオ社製)、マンノース、ガラクトース、グルコース、ラクトース、グルコサミン、グルコサミン−6−リン酸、グルコサミン−6−硫酸、N,N−ジベンジルグルコサミンを試験した。
【0020】
(2) 試験結果
試験結果を図1に示す。図1の結果から、CD23とIgEの結合が、グルコサミン、グルコサミン誘導体、特にリン酸化グルコサミン、硫酸化グルコサミン、N,N−ジベンジルグルコサミンによって阻害されることがわかる(図中に阻止率として表示)。
CD23がレクチン領域をもつことから、本性能評価の対照としては糖類を中心に調べた。しかしながら、マンノース、ガラクトース、グルコース、ラクトースでは、CD23とIgEの結合に影響を与えなかった。一方、抗CD23モノクローナル抗体と同様、本発明のグルコサミン、グルコサミン−6−リン酸、グルコサミン−6−硫酸およびN,N−ジベンジルグルコサミンによって、CD23とIgEの結合は明確に阻害された。この結果により、グルコサミンおよびグルコサミン誘導体が、アレルギーの原因となるIgE抗体生産に関わるCD23に作用することが明確となった。
【0021】
2.PCA(ラット受動皮膚アナフィラキシー)反応試験
グルコサミン誘導体の一つであるN,N−ジベンジルグルコサミンをマウスに投与し、トリニトロフェニル−アスカリス(TNP−As)を水酸化アルミニウムLゲル(Alum)とともに感作した際のIgE抗体産生能に対する作用を、ラットPCA反応による漏出色素班を指標に検討した。
【0022】
(1) 試験方法
感作動物として日本チャールズ・リバー株式会社より8週齢のBALB/cAnN Crj系雌性マウスを、PCA反応用の受身動物として日本エスエルシー株式会社より8週齢のSlc:Wistar系雄性ラットを購入して使用した。入荷後、一週間以上の検疫訓化期間中に一般状態の観察および体重測定を行い、健康と判断した動物を試験に使用した。マウスの感作は1群5匹とし、N,N−ジベンジルグルコサミンの20および100mg/kgと媒体(生理食塩水)投与の対照群の計3群を設定した。N,N−ジベンジルグルコサミンの投与は、注射針を用いて腹腔内に投与し、投与容量はいずれも10ml/kgとした。群分けは感作のためのマウスは被検物質投与前の体重を基に層別連続無作為化法で、惹起試験のラットは皮内投与前に体重の重い方から使用した。
【0023】
マウスにTNP−As 5μgを吸着させたAlum 1mgを含む生理食塩水0.2mlを腹腔内に1回投与して感作した。被検物質投与群および対照群では感作直後から1日1回5日間被検物質または媒体を投与し、感作10日後に採血した。得られた血清を用いてラットPCA反応(一定倍率希釈血清法:タイター)により、TNP−IgE抗体の産生量を求めた。
【0024】
抗TNP−Asマウス血清を生理食塩液で2の倍乗となるように希釈し、予め、刈毛されたラットの背部に0.05ml/site皮内投与した。なお、各血清とも2匹のラットを用いた。皮内投与の24時間後、TNP−BSA1mgとエバンスブルー5mgを含む生理食塩液1mlを尾静脈より投与して反応を惹起した。PCA反応惹起30分後にエーテル麻酔下で放血致死させ、背部皮膚を剥離して反応部位の青染円の長径および短径を測定し、平均直径[(長径+短径)/2]が5mm以上のものを陽性と判定した。PCA反応陽性を示す最高希釈倍数をPCA反応抗体価とした。
得られた試験成績は、平均値および標準誤差で表し、対照群と各被検物質群については分散分析を行い、群間の差が有意な場合は Dunnett’multiple test を行った。いずれの検定においても有意水準は5%以下とした。
【0025】
(2) 試験結果
試験結果を下表に示す。
【表1】
コントロール(投与量0)と比較して有意差あり(Dunnett's multiple test )
【0026】
対照群(投与量0)のマウス血清(抗TNP−IgE抗体)のラットPCA抗体価は166倍であった。N,N−ジベンジルグルコサミンの20および100mg/kg腹腔内投与ではPCA抗体価が122および109倍と用量依存的に抗TNP−IgE抗体産生を抑制した。
このことから、N,N−ジベンジルグルコサミンが、I型アレルギーの原因となる特異的IgEの産生を抑制することが明らかとなった。
N,N−ジベンジルグルコサミン以外の他のグルコサミン誘導体も同様の結果を示した。
【0027】
【実施例】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例1
これらを混合した後、ゼラチンを用いてカプセル化する。
【0028】
実施例2
これらを混合した後、打錠して錠剤とする。
【0029】
実施例3
【0030】
実施例3
【0031】
【発明の効果】
本発明に従って処方された抗アレルギー剤は、グルコサミンあるいはグルコサミン誘導体を含み、CD23の作用を抑制することにより、良好な抗アレルギー作用が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】CD23とIgEの結合阻害試験の結果を示すグラフである。
Claims (1)
- グルコサミン−6−リン酸、グルコサミン−6−硫酸またはN,N−ジベンジルグルコサミンを有効成分とする抗I型アレルギー剤。
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