JP4162471B2 - 前後輪駆動車の駆動制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、前輪および後輪の一方の車輪がエンジンで駆動可能とされ、他方の車輪が電動モータにより駆動可能とされた前後輪駆動車の駆動制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
燃料の燃焼により作動するエンジンおよび第1モータジェネレータを備えたハイブリッド駆動機構により前輪を駆動し、電動機として機能する第2モータジェネレータにより後輪を駆動する形式の前後輪駆動車両たとえば4輪駆動車両において、発進加速時などには前輪の駆動に加えて、第2モータジェネレータによる後輪の駆動割合を高めた前後輪駆動状態とし、必要に応じて上記エンジンを作動させる前後輪駆動車両の制御装置が知られている。たとえば、特許文献1に記載された前後輪駆動車の制御装置がそれである。このような前後輪駆動車の制御装置によれば、上記従来の前後輪駆動車の制御装置では、圧雪路や凍結路のように路面摩擦係数が低い路面の走行時や坂路走行時のような前後輪駆動が要求される時には、前後輪の荷重配分比に応じて前後輪の駆動トルクが決定され、決定された前輪駆動トルクが出力されるようにエンジンおよび第1モータジェネレータが制御されるとともに、決定された後輪駆動トルクが出力されるように第2モータジェネレータが駆動される。
【0003】
【特許文献1】
特開2001−186603号公報
【特許文献2】
特開2002−067723号公報
【特許文献2】
特開2001−234774号公報
【特許文献3】
特開平9−002090号公報
【特許文献4】
特開平9−240301号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、たとえば坂路走行において、上記のように前後輪駆動状態とされると、第2モータジェネレータにより電力が大きく消費されて蓄電装置からの電力の持ち出し量が大きくなるために、その蓄電容量や発電容量に制限されることにより、路面摩擦係数が高いにも拘わらず、路面摩擦係数が低い路面の走行時と同様に、前後輪駆動状態での連続走行距離が十分に得られない場合があった。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、特に坂路走行時において、前後輪駆動状態での走行距離が一層長く得られる前後輪駆動車の駆動制御装置を提供することにある。
【0006】
本発明者は上記課題を解決するために種々検討を重ねた結果、従来は前後輪駆動走行が必要であるとされていた坂路走行であっても、車輪がスリップするまでは従来のような前後輪荷重配分比に基づく完全な前後輪駆動状態としなくても必ずしも走行に支障が生じないことを見い出した。本発明は斯かる知見に基づいて為されたものである。
【0007】
【課題を解決するための第1の手段】
すなわち、第1発明の要旨とするところは、前輪および後輪の一方の車輪がエンジンで駆動可能とされ、他方の車輪が電動モータにより駆動可能とされた前後輪駆動車の駆動制御装置であって、(a) 前後輪駆動のために、運転者の要求トルクと前後輪のトルク配分比とに基づいて前記他方の車輪を駆動する電動モータから出力されるべき第1出力トルクを算出するモータトルク算出手段と、(b) 前記一方の車輪のスリップの発生を判定するスリップ判定手段と、(c) そのスリップ判定手段により前記一方の車輪のスリップの発生が判定されるまでは、前記他方の車輪を駆動する電動モータから出力されるトルクを所定のトルク制限値を超えないように制限し、前記一方の車輪のスリップの発生が判定された後にはそのトルク制限値を解消するモータトルク制限手段とを、含むことにある。
【0008】
【第1発明の効果】
このようにすれば、スリップ判定手段により前記一方の車輪のスリップの発生が判定されるまでは、モータトルク制限手段により、前記他方の車輪を駆動する電動モータから出力されるトルクが所定のトルク制限値を超えないように制限され、前記一方の車輪のスリップの発生が判定された後にはそのトルク制限値が解消されるので、特に坂路走行時における前後輪駆動状態での走行距離が一層長く得られる。
【0009】
【第1発明の他の様態】
ここで、好適には、前記モータトルク制限手段は、車両の走行路が坂路であるときに前記他方の車輪を駆動する電動モータから出力されるトルクを、前記所定のトルク制限値を超えないように制限するものである。このようにすれば、坂路走行時における前後輪駆動状態での走行距離が一層長く得られるとともに、車両の走行路が坂路ではないときには、たとえば路面摩擦係数の低下に対応する前後輪駆動要求に従って前記第1出力トルクを用いた通常の前後輪駆動状態が得られる。
【0010】
また、好適には、燃料の燃焼により作動するエンジンと、発電機および電動機として作動するモータジェネレータとを備え、複数の作動モードの中から車両状態に応じて決定された作動モードでそのエンジンおよびモータジェネレータを作動させるハイブリッド駆動装置により、前記一方の車輪が回転駆動されるものである。このようにすれば、エンジンによって回転駆動されるモータジェネレータによる発電電力により、蓄電装置或いは電動機に電力が供給されるので、坂路走行時における前後輪駆動状態での走行距離が一層長く得られる。
【0011】
また、好適には、前記ハイブリッド駆動装置のモータジェネレータは、前記車両の後進走行時は前進走行時に比較して低い発電能力を有するものであり、前記モータトルク制限手段は、車両の後進走行であるときに前記他方の車輪を駆動する電動モータから出力されるトルクを、前記所定のトルク制限値を超えないように制限するものである。このようにすれば、モータジェネレータが前進走行時に比較して低い発電能力となる後退走行において、坂路走行時における前後輪駆動状態での走行距離が一層長く得られる。
【0012】
【課題を解決するための第2の手段】
また、前記課題を解決するための第2発明の要旨とするところは、前輪および後輪の一方の車輪がエンジンで駆動可能とされ、他方の車輪が電動モータにより駆動可能とされた前後輪駆動車の駆動制御装置であって、(a) 前後輪駆動のために、運転者の要求トルクと前後輪のトルク配分比とに基づいて前記他方の車輪を駆動する電動モータから出力されるべき第1出力トルクを算出するモータトルク算出手段と、(b) 車両の後進走行であるときに前記他方の車輪を駆動する電動モータから出力されるトルクを所定のトルク制限値を超えないように制限し、前記一方の車輪のトルクを優先的に利用するモータトルク制限手段とを、含むことにある。
【0013】
【第2発明の効果】
このようにすれば、車両の後進走行であるときに、モータトルク制限手段により、前記他方の車輪を駆動する電動モータから出力されるトルクが所定のトルク制限値を超えないように制限され、前記一方の車輪のトルクが優先的に利用されるので、特に坂路走行時における前後輪駆動状態での走行距離が一層長く得られる。
【0014】
【発明の好適な実施の形態】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施例の駆動制御装置が適用されたハイブリッド車両である前後輪駆動車両すなわち4輪駆動車両の動力伝達装置の構成を説明する骨子図である。この4輪駆動車両は、前輪系を第1原動機を備えた第1駆動装置すなわち主駆動装置10にて駆動し、後輪系を第2原動機を備えた第2駆動装置すなわち副駆動装置12にて駆動する形式の車両である。
【0016】
上記主駆動装置10は、ハイブリッド駆動装置として機能するものであり、空気および燃料の混合気が燃焼させられることにより作動させられる内燃機関であるエンジン14と、電気モータおよび発電機として選択的に機能するモータジェネレータ(以下、MGという)16と、ダブルピニオン型の遊星歯車装置18と、変速比が連続的に変化させられる無段変速機20とを同心に備えている。上記エンジン14は第1原動機すなわち主原動機として機能し、MG16も車両の駆動源である原動機として機能している。上記エンジン14は、その吸気配管の吸入空気量を制御するスロットル弁の開度θTHを変化させるためにそのスロットル弁を駆動するスロットルアクチュエータ21を備えている。
【0017】
上記遊星歯車装置18は、機械的に力を合成し或いは分配する合成分配機構であって、共通の軸心まわりに独立して回転可能に設けられた3つの回転要素、すなわち上記エンジン14にダンパ装置22を介して連結されたサンギヤ24と、第1クラッチC1を介して無段変速機20の入力軸26に連結され且つ上記MG16の出力軸が連結されたキャリヤ28と、第2クラッチC2を介して無段変速機20の入力軸26に連結され且つブレーキB1を介して非回転部材たとえばハウジング30に連結されるリングギヤ32とを備えている。上記キャリヤ28は、サンギヤ24およびリングギヤ32とかみ合い且つ相互にかみ合う1対のピニオン(遊星歯車)34および36を、それらの自転可能に支持している。上記第1クラッチC1、第2クラッチC2、ブレーキB1は、いずれも互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータによって押圧されることにより係合させられたり、その押圧解除により解放されたりする油圧式摩擦係合装置である。
【0018】
上記遊星歯車装置18とそのキャリヤ28に連結されたMG16は、エンジン14の作動状態すなわちサンギヤ24の回転状態においてMG16の発電量を制御することすなわちMG16の回転駆動トルクである反力が逐次大きくなるようにキャリヤ28に発生させられることにより、リングギヤ32の回転速度を滑らかに増加させて車両の滑らかな発進加速を可能とする電気トルコン(ETC)装置を構成している。このとき、遊星歯車装置18のギヤ比ρ(サンギヤ24の歯数/リングギヤ32の歯数)がたとえば一般的な値である0.5とすると、リングギヤ32のトルク:キャリヤ28のトルク:サンギヤ24のトルク=1/ρ:(1−ρ)/ρ:1の関係から、エンジン14のトルクが1/ρ倍たとえば2倍に増幅されて無段変速機20へ伝達されるので、トルク増幅モードと称される。
【0019】
また、上記無段変速機20は、入力軸26および出力軸38にそれぞれ設けられた有効径が可変の1対の可変プーリ40および42と、それら1対の可変プーリ40および42に巻き掛けられた無端環状の伝動ベルト44とを備えている。それら1対の可変プーリ40および42は、入力軸26および出力軸38にそれぞれ固定された固定回転体46および48と、その固定回転体46および48との間にV溝を形成するように入力軸26および出力軸38に対して軸心方向に移動可能且つ軸心まわりに相対回転不能に取付られた可動回転体50および52と、それら可動回転体50および52に推力を付与して可変プーリ40および42の掛かり径すなわち有効径を変化させることにより変速比γ(=入力軸回転速度/出力軸回転速度)を変更する1対の油圧シリンダ54および56とを備えている。
【0020】
上記無段変速機20の出力軸38から出力されたトルクは、減速装置58、差動歯車装置60、および1対の車軸62、64を介して1対の前輪66、68へ伝達されるようになっている。なお、本実施例では、前輪66、68の舵角を変更する操舵装置が省略されている。
【0021】
前記副駆動装置12は、第2原動機すなわち副原動機として機能するリヤモータジェネレータ(以下、RMGという)70を備え、そのRMG70から出力されたトルクは、減速装置72、差動歯車装置74、および1対の車軸76、78を介して1対の後輪80、82へ伝達されるようになっている。
【0022】
図2は、前記主駆動装置10の遊星歯車装置18を種々の作動モードに切り換えるための油圧制御回路の構成を簡単に示す図である。運転者によりP、R、N、D、Bの各レンジ位置へ操作されるシフトレバー90に機械的に連結されたマニアル弁92は、シャトル弁93を利用しつつ、シフトレバー90の操作に応答して、Dレンジ、Bレンジ、Rレンジにおいて第1クラッチC1の係合圧を調圧する第1調圧弁94へ図示しないオイルポンプから出力された元圧を供給し、Dレンジ、BレンジにおいてクラッチC2の係合圧を調圧する第2調圧弁95へ元圧を供給し、Nレンジ、Pレンジ、RレンジにおいてブレーキB1の係合圧を調圧する第3調圧弁96へ元圧を供給する。上記第2調圧弁95、第3調圧弁96は、ハイブリッド制御装置104によって駆動されるリニヤソレイド弁97からの出力信号に従って第2クラッチC2およびブレーキB1の係合圧を制御し、第1調圧弁94は、ハイブリッド制御装置104によってデューティー駆動される三方弁である電磁開閉弁98からの出力信号に従って第1クラッチC1の係合圧を制御する。
【0023】
図3は、本実施例の前後輪駆動車両に設けられた制御装置の構成を説明する図である。エンジン制御装置100、変速制御装置102、ハイブリッド制御装置104、蓄電制御装置106、ブレーキ制御装置108は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェースを備えた所謂マイクロコンピュータであって、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って入力信号を処理し、種々の制御を実行する。また、上記の制御装置は、相互に通信可能に接続されており、所定の制御装置から必要な信号が要求されると、他の制御装置からその所定の制御装置へ適宜送信されるようになっている。
【0024】
エンジン制御装置100は、エンジン14のエンジン制御を実行する。例えば、燃料噴射量制御のために図示しない燃料噴射弁を制御し、点火時期制御のために図示しないイグナイタを制御し、トラクション制御ではスリップ中の前輪66、68が路面をグリップするようにエンジン14の出力を一時的に低下させるためにスロットルアクチュエータ21を制御する。
【0025】
上記変速制御装置102は、たとえば、無段変速機20の伝動ベルト44の張力が必要かつ十分な値となるように予め設定された関係から、実際の変速比γおよび伝達トルクすなわちエンジン14およびMG16の出力トルクに基づいて、ベルト張力圧を調圧する調圧弁を制御し、伝動ベルト44の張力を最適な値とするとともに、エンジン14が最小燃費率曲線或いは最適曲線に沿って作動するように予め記憶された関係から、実際の車速Vおよびエンジン負荷たとえばスロットル開度θとして表現されるスロットル弁開度θTH或いはアクセルペダル操作量ACCに基づいて目標変速比γm を決定し、実際の変速比γがその目標変速比γm と一致するように無段変速機20の変速比γを制御する。
【0026】
また、上記エンジン制御装置100および変速制御装置102は、たとえば図4に示す最良燃費運転線に沿ってエンジン14の作動点すなわち運転点が移動するように、たとえば上記スロットルアクチュエータ21や燃料噴射量を制御するとともに無段変速機20の変速比γを変更する。また、ハイブリッド制御装置104からの指令に応じて、上記エンジン14の出力トルクTE または回転速度NE を変更するために上記スロットルアクチュエータ21や変速比γを変更し、エンジン14の運転点を移動させる。
【0027】
上記ハイブリッド制御装置104は、電池などから成る蓄電装置112からMG16に供給される駆動電流或いはそのMG16から蓄電装置112へ出力される発電電流を制御するインバータ114を制御するためのMG制御装置116と、蓄電装置112からRMG70に供給される駆動電流或いはそのRMG70から蓄電装置112へ出力される発電電流を制御するインバータ118を制御するためのRMG制御装置120とを含み、シフトレバー90の操作位置PSH、スロットル(アクセル)開度θ(アクセルペダル122の操作量ACC)、車速V、蓄電装置112の蓄電量SOCに基づいて、たとえば図5に示す複数の運転モードのうちからいずれか1つの選択を行うとともに、スロットル開度θ、ブレーキペダル124の操作量BF に基づいて、MG16或いはRMG70の発電に必要なトルクにより制動力を発生させるトルク回生制動モード、或いはエンジン14の回転抵抗トルクにより制動力を発生させるエンジンブレーキモードを選択する。
【0028】
シフトレバー90がBレンジ或いはDレンジへ操作された場合、たとえば比較的低負荷の発進或いは定速走行ではモータ走行モードが選択され、第1クラッチC1が係合させられ且つ第2クラッチC2およびブレーキB1が共に解放されることにより、専らMG16により車両が駆動される。なお、このモータ走行モードにおいて、蓄電装置112の蓄電量SOCが予め設定された下限値を下回った不足状態となった場合や、駆動力をさらに必要とするためにエンジン14を始動させる場合には、後述のETCモード或いは直結モードへ切り換えられて、それまでの走行を維持しながらMG16或いはRMG70が駆動され、そのMG16或いはRMG70により蓄電装置112が充電される。
【0029】
また、比較的中負荷走行または高負荷走行では直結モードが選択され、第1クラッチC1および第2クラッチC2が共に係合させられ且つブレーキB1が解放されることにより遊星歯車装置18が一体的に回転させられ、専らエンジン14によりまたはそのエンジン14およびMG16により車両が駆動されたり、或いは専らエンジン14により車両が駆動されると同時にMG16により蓄電装置112の充電が行われる。この直結モードでは、サンギヤ24の回転速度即ちエンジン回転速度NE (rpm )とキャリヤ部材28の回転速度すなわちMG16の回転速度NMG(rpm )とリングギヤ32の回転速度即ち無段変速機20の入力軸26の回転速度NIN(rpm )とは同じ値であるから、二次元平面内において3本の回転速度軸(縦軸)すなわちサンギヤ回転速度軸S、リングギヤ回転速度軸R、およびキャリヤ回転速度軸Cと変速比軸(横軸)とから描かれる図6の共線図では、たとえば1点鎖線に示されるものとなる。なお、図6において、上記サンギヤ回転速度軸Sとキャリヤ回転速度軸Cとの間隔は1に対応し、リングギヤ回転速度Rとキャリヤ回転速度軸Cとの間隔はダブルピニオン型遊星歯車装置18のギヤ比ρに対応している。
【0030】
また、たとえば発進加速走行では、ETCモードすなわちトルク増幅モードが選択され、第2クラッチC2が係合させられ且つ第1クラッチC1およびブレーキB1が共に解放された状態でMG16の発電量(回生量)すなわちそのMG16の反力(MG16を回転させる駆動トルク)が徐々に増加させられることにより、エンジン14が所定の回転速度に維持された状態で車両が滑らかに零発進させられる。このようにエンジン14によって車両およびMG16が駆動される場合には、エンジン14のトルクが1/ρ倍たとえばρ=0.5とすると2倍に増幅されて無段変速機20へ伝達される。すなわち、MG16の回転速度NMGが図6のA点(負の回転速度すなわち発電状態)である場合には、無段変速機20の入力軸回転速度NINは零であるため車両は停止しているが、図6の破線に示すように、そのMG16の発電量が増加させられてその回転速度NMGがその正側のB点へ変化させられることにともなって無段変速機20の入力軸回転速度NINが増加させられて、車両が発進させられるのである。
【0031】
シフトレバー90がNレンジ或いはPレンジへ操作された場合、基本的にはニュートラルモード1または2が選択され、第1クラッチC1、第2クラッチC2、およびブレーキB1が共に解放され、遊星歯車装置18において動力伝達経路が解放される。この状態において、蓄電装置112の蓄電量SOCが予め設定された下限値を下回った不足状態となった場合などにおいては、充電・エンジン始動モードとされ、ブレーキB1が係合させられた状態で、MG16によりエンジン14が始動させられる。シフトレバー90がRレンジへ操作された場合、たとえば軽負荷後進走行ではモータ走行モードが選択され、第1クラッチC1が係合させられるとともに第2クラッチC2およびブレーキB1が共に解放されることにより、専らMG16により車両が後進走行させられる。しかし、たとえば中負荷或いは高負荷後進走行ではフリクション走行モードが選択され、第1クラッチC1が係合させられ且つ第2クラッチC2が解放されるとともに、ブレーキB1がスリップ係合させられる。これにより、車両を後進させる駆動力としてMG16の出力トルクにエンジン14の出力トルクが加えられる。上記後退走行のフリクション走行モードでは、MG1による発電を期待することができず、ETCモードなどの前進走行に比較して、発電能力が低い。
【0032】
また、前記ハイブリッド制御装置104は、前輪66、68の駆動力に従った車両の発進時或いは急加速時において、車両の駆動力を一時的に高めるために、所定の駆動力配分比に従ってRMG70を作動させ、後輪80、82からも駆動力を発生させる高μ路アシスト制御や、凍結路、圧雪路のような低摩擦係数路(低μ路)における発進走行時において、車両の発進能力を高めるために、RMG70により後輪80、82を駆動すると同時に、たとえば無段変速機20の変速比γを低くさせて前輪66、68の駆動力を低下させる低μ路アシスト制御を実行する。
【0033】
蓄電制御装置106は、電池、コンデンサなどの蓄電装置112の蓄電量SOCが予め設定された下限値SOCD を下回った場合には、MG16或いはRMG70により発電された電気エネルギで蓄電装置112を充電あるいは蓄電するが、蓄電量SOCが予め設定された上限値SOCU を上まわった場合には、そのMG16或いはRMG70からの電気エネルギで充電することを禁止する。また、上記蓄電に際して、蓄電装置112の温度TB の関数である電力或いは電気エネルギの受入制限値WINと持出制限値WOUT との間の範囲を、実際の電力見込み値PB 〔=発電電力PMG+消費電力PRMG (負)〕が越えた場合には、その受入れ或いは持ち出しを禁止する。
【0034】
ブレーキ制御装置108は、たとえばTRC制御、ABS制御、VSC制御などを実行し、低μ路などにおける発進走行時、制動時、旋回時の車両の安定性を高めたり或いは牽引力を高めるために、油圧ブレーキ制御回路を介して各車輪66、68、80、82に設けられたホイールブレーキ66WB、68WB、80WB、82WBを制御する。たとえば、TRC制御では各車輪に設けられた車輪回転(車輪速)センサからの信号に基づいて、車輪車速(車輪回転速度に基づいて換算される車体速度)たとえば右前輪車輪車速VFR、左前輪車輪車速VFL、右後輪車輪車速VRR、左後輪車輪車速VRL、前輪車速VF 〔=(VFR+VFL)/2〕、後輪車速VR 〔=(VRR+VRL)/2〕、および車体車速V(VFR、VFL、VRR、VRLのうちの最も遅い速度)を算出する一方で、たとえば主駆動輪である前輪車速VF と非駆動輪である後輪車速VR との差であるスリップ速度ΔVが予め設定された制御開始判断基準値ΔV1 を越えると、前輪にスリップ判定をし、且つスリップ率RS 〔=(ΔV/VF )×100%〕が予め設定された目標スリップ率RS1内に入るようにスロットルアクチュエータ21、ホイールブレーキ66WB、68WBなどを用いて前輪66、68の駆動力を低下させる。また、ABS制御では、制動操作時において、各車輪のスリップ率が所定の目標スリップ範囲内になるように ホイールブレーキ66WB、68WB、80WB、82WBを用いて前輪66、68、後輪80、82の制動力を維持し、車両の方向安定性を高める。また、VSC制御では、車両の旋回走行時において、図示しない舵角センサからの舵角、ヨーレートセンサからのヨーレート、2軸Gセンサからの前後加速度および左右(横)加速度などに基づいて車両のオーバステア傾向或いはアンダーステア傾向を判定し、そのオーバステア或いはアンダーステアを抑制するように、ホイールブレーキ66WB、68WB、80WB、82WBのいずれか、およびスロットルアクチュエータ21を制御する。
【0035】
図7は、たとえば前記ハイブリッド制御装置104の制御機能の要部すなわち後輪80、82を駆動する電動モータとして機能するRMG70に対する駆動制御機能を説明する機能ブロック線図である。図7において、要求トルク決定手段130は、たとえば図8に示す予め記憶された関係(マップ)から実際の車速Vおよびスロットル開度θに基づいて運転者が車両に要求する要求トルクTfaを決定する。トルク配分比決定手段128は、たとえば前記2軸Gセンサからの前後加速度Gに基づいて車体の荷重を担う前輪66および68と後輪80および82との間の荷重配分比を決定するとともに、その荷重配分比に基づいて4輪駆動時の前輪トルク配分比Ktfおよび後輪トルク配分比Ktr(Ktrは1よりも小さい値であり、前輪トルク配分比Ktf=1−Ktrである)を決定する。たとえばこの後輪トルク配分比Ktrは、静的後輪荷重配分比Ktrw に前後加速度Gから求められる路面傾斜角度θL に基づいて決定される補正値 (sin θL ・K) を加えることにより算出された値( =Ktrw +sin θL ・K) である。
【0036】
フロント側トルク算出手段132は、要求トルク決定手段130により決定された要求トルクTfaと上記トルク配分比決定手段128により決定された前輪トルク配分比Ktf或いは後輪トルクTr とに基づいて、前輪66および68に要求されるトルク指令値である前輪トルクTf (=Tfa×KtfまたはTfa−Tr )を算出する。フロント(前輪)駆動力制御手段134は、そのフロント側トルク算出手段132により算出された前輪トルクTf が発生するように、エンジン14およびMG16を制御する。
【0037】
モータトルク制御手段136は、リヤ(後輪)トルク制御手段としても機能するものであり、後輪80および82を駆動してそのトルクを変化させるRMG70を制御するために、リヤモータトルク算出手段138およびリヤモータ駆動手段140を備えている。リヤモータトルク算出手段138は、前記要求トルク決定手段130により決定された要求トルクTfaと上記トルク配分比決定手段128により決定された後輪トルク配分比Ktr或いは前輪トルクTf とに基づいて、後輪80および82に要求されるトルク指令値である後輪トルクTr (=Tfa×KtrまたはTfa−Tf )すなわち第1出力トルクを算出する。リヤモータ駆動手段140は、そのリヤモータトルク算出手段138により算出された後輪トルクTr が発生するようにRMG70に電力供給してそのRMG70を制御する。図9は、車両が勾配角度がθL である登坂路を後退走行するときの、上記要求トルクTfa、前輪トルクTf 、後輪トルクTr を示している。また、図10の実線は、RMG70の最大定格トルクに対応する後輪トルクTr の最大定格トルクであり、上記第1出力トルクはその最大定格トルク内において決定される。RMG70の出力トルクをTRMG 、後輪側に設けられている差動歯車装置74の変速比をγr とすると、後輪トルクTr は、TRMG ×γr であって、RMG70の出力トルクTRMG と1対1の関係にある。
【0038】
坂路判定手段142は、車両の走行路の勾配が所定値以上である坂路であるか否かを、たとえばスロットル開度θに基づいて決定された平坦路走行時の標準車両加速度および実際の車両加速度との比較に基づいて判定する。スリップ判定手段144は、車輪たとえば前輪66および68のスリップが発生したか否かを、たとえば前輪回転速度と後輪回転速度との回転速度差に基づいて判定する。
【0039】
モータトルク制限手段146は、上記坂路判定手段142によって車両の走行路が坂路であると判定されている場合は、上記スリップ判定手段144によって前輪66および68のスリップが判定されるまでは、トルク制限値すなわち上限トルクTUGを設定し、前記リヤモータトルク算出手段138において算出された後輪トルクTrをその上限トルクTUGを超えないように制限する。すなわち、後輪トルクTrを、(Tfa×Ktr≦TUG)とする。この上限トルクTUGは、たとえば50Nm程度の値である。
【0040】
図11は、前記ハイブリッド制御装置104の制御作動の要部すなわち前後輪トルク制御作動を説明するフローチャートである。図11において、前記要求トルク決定手段130に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1では、たとえば図8に示す予め記憶された関係(マップ)から実際の車速Vおよびスロットル開度θに基づいて運転者が車両に要求する要求トルクTfaが決定される。次いで、前記トルク配分比決定手段128に対応するS2では、たとえば前記2軸Gセンサからの前後加速度に基づいて車体の荷重を担う前輪66および68と後輪80および82との間の荷重配分比が決定されるとともに、その荷重配分比に基づいて4輪駆動時の前輪トルク配分比Ktfおよび後輪トルク配分比Ktrが決定される。
【0041】
次に、前記スリップ判定手段144に対応するS3では、前輪66および68のスリップが発生したか否かが、たとえば前輪回転速度と後輪回転速度との回転速度差に基づいて判断される。このS3の判断が否定される場合は、前記モータトルク制限手段146に対応するS4において上限トルクTUGがたとえば50Nmに設定される。しかし、S3の判断が肯定される場合は、S7において上限トルクTUGがたとえば無限大∞或いは図10に示す後輪トルクTr の最大定格より高い値に設定されることにより、後輪トルクTr に対する上限トルクTUGの制限が解消される。
【0042】
上記のようにして上限トルクTUGが設定されると、前記リヤモータトルク算出手段138に対応するS5において、上記S1において決定された要求トルクTfaと上記S2において決定された後輪トルク配分比Ktr或いは前輪トルクTf とに基づいて、後輪80および82に要求される後輪トルクTr (=Tfa×KtrまたはTfa−Tf )が算出され、その後輪トルクTr が発生するように、RMG70が制御される。また、前記フロント側トルク算出手段132に対応するS6において、上記S1において決定された要求トルクTfaと上記S2において決定された前輪トルク配分比Ktf或いはS5において決定された後輪トルクTr とに基づいて、前輪66および68に要求される前輪トルクTf (=Tfa×KtfまたはTfa−Tr )が算出され、その前輪トルクTf が発生するように、エンジン14およびMG16が制御される。
【0043】
上述のように、本実施例によれば、スリップ判定手段144(S3)により前輪66、68のスリップの発生が判定されるまでは、モータトルク制限手段146(S4)により、後輪80、82を駆動するRMG(電動モータ)70から出力されるトルクが通常の4輪駆動時に決定される第1出力トルクよりも低くなるように制限されるので、特に坂路走行時における4輪駆動状態での走行距離が一層長く得られる。
【0044】
また、本実施例によれば、前記モータトルク制限手段146(S4)によって、車両の走行路が坂路であると判定されているときに、後輪80、82を駆動するRMG(電動モータ)70から出力されるトルクが前記第1出力トルクよりも低くなるように制限されることから、坂路走行時における4輪駆動状態での走行距離が一層長く得られるとともに、車両の走行路が坂路ではないときには、たとえば路面摩擦係数の低下に対応する4輪駆動要求に従って上記第1出力トルクを用いた通常の4輪駆動状態が得られる。
【0045】
また、本実施例によれば、燃料の燃焼により作動するエンジン14と、発電機および電動機として作動するMG16とを備え、複数の作動モードの中から車両状態に応じて決定された作動モードでそのエンジン14およびMG16を作動させる主駆動装置(ハイブリッド駆動装置)10により、前輪66、68が回転駆動されるものであることから、エンジン14によって回転駆動されるMG16による発電電力により、蓄電装置112或いはRMG(電動機)70に電力が供給されるので、坂路走行時における4輪駆動状態での走行距離が一層長く得られる。
【0046】
また、本実施例によれば、主駆動装置(ハイブリッド駆動装置)10のMG16は、車両の後進走行時は前進走行時に比較して低い発電能力を有するものであり、モータトルク制限手段146は、車両の後進走行であるときに、スリップ判定手段144(S3)により前輪66、68のスリップの発生が判定されるまでは、後輪80、82を駆動するRMG(電動機)70から出力されるトルクを前記第1出力トルクよりも低くなるように制限して前輪66、68のトルクが優先的に利用するものであることから、MG16が前進走行時に比較して発電能力が低く、RMG(電動モータ)70から第1出力トルクを出力させる通常の4輪駆動における消費電力を下回るような発電能力となる後退走行において、特に坂路走行時における4輪駆動状態での走行距離が一層長く得られる。
【0047】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0048】
たとえば、前述の実施例の車両は、前輪66、68をエンジン14およびMG16を備えた主駆動装置10が駆動し、後輪80、82をRMG70を備えた副駆動装置12が駆動する前後輪駆動(4輪駆動)形式であったが、反対に、主駆動装置10が後輪80、82を駆動し、副駆動装置12が前輪66、68を駆動する形式の車両であってもよく、また、副駆動装置12は電動機から構成されたものであってもよい。また、車両に備えられた車輪は、必ずしも4輪でなくてもよい、たとえば後輪80、82の左車輪および右車輪が複数の車輪からそれぞれ構成されてもよい。
【0049】
また、前述の実施例において、モータトルク制限手段146によりRMG(電動機)70の出力トルクが制限された場合には、フロント側トルク算出手段132はその制限されたトルク分だけ増量させるようにしてもよい。このようにすれば、車両において要求トルクTfaが正確に得られ、発進加速性能が維持される。
【0050】
また、前述の実施例のトルク配分比決定手段128は、Gセンサからの前後加速度に基づいて車体の荷重を担う前輪66および68と後輪80および82との間の荷重配分比を決定するとともに、その荷重配分比に基づいて4輪駆動時の前輪トルク配分比Ktfおよび後輪トルク配分比Ktr(Ktrは1よりも小さい値であり、前輪トルク配分比Ktf=1−Ktrである)を決定するものであったが、平坦路においても後輪トルク配分比Ktrをある程度の値とするものであり、車両重量配分比に応じてそれを連続的に変化させるものであってもよい。
【0051】
また、前述の実施例の車両は、その動力伝達経路に無段変速機20を備えたものであったが、遊星歯車式或いは常時噛み合い型平行2軸式の有段変速機を備えたものであってもよい。
【0052】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の駆動制御装置を備えた4輪駆動車両の動力伝達装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1の遊星歯車装置を制御する油圧制御回路の要部を説明する図である。
【図3】図1の4輪駆動車両に設けられた制御装置を説明する図である。
【図4】図3のエンジン制御装置により制御されるエンジンの運転点の目標である最良燃費率曲線を示す図である。
【図5】図3のハイブリッド制御装置により選択される制御モードを示す図表である。
【図6】図3のハイブリッド制御装置により制御されるETCモードにおける遊星歯車装置の作動を説明する共線図である。
【図7】図3のハイブリッド制御装置などの制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図8】図7の要求トルク決定手段において要求トルクを決定するために用いられる予め記憶された関係を示す図である。
【図9】図7のフロント側トルク算出手段およびリヤモータトルク算出手段により算出されたトルクを説明する図である。
【図10】図7のモータトルク制限手段によるトルク制限値を説明する図である。
【図11】図3のハイブリッド制御装置などの制御作動の要部を説明するフローチャートであって、前後輪トルク制御ルーチンを示す図である。
【符号の説明】
10:主駆動装置(ハイブリッド駆動装置)
14:エンジン
16:モータジェネレータ(MG)
66、68:前輪(一方の車輪)
70:リヤモータジェネレータ(RMG、電動モータ)
80、82:後輪(他方の車輪)
138:リヤモータトルク算出手段(モータトルク算出手段)
144:スリップ判定手段
146:モータトルク制限手段
Claims (4)
- 前輪および後輪の一方の車輪がエンジンで駆動可能とされ、他方の車輪が電動モータにより駆動可能とされた前後輪駆動車の駆動制御装置であって、
前後輪駆動のために、運転者の要求トルクと前後輪のトルク配分比とに基づいて前記他方の車輪を駆動する電動モータから出力されるべき第1出力トルクを算出するモータトルク算出手段と、
前記一方の車輪のスリップの発生を判定するスリップ判定手段と、
該スリップ判定手段により前記一方の車輪のスリップの発生が判定されるまでは、前記他方の車輪を駆動する電動モータから出力されるトルクを所定のトルク制限値を超えないように制限し、前記一方の車輪のスリップの発生が判定された後には該トルク制限値を解消するモータトルク制限手段と
を、含むことを特徴とする前後輪駆動車の駆動制御装置。 - 前記モータトルク制限手段は、車両の走行路が坂路であるときに前記他方の車輪を駆動する電動モータから出力されるトルクを、前記所定のトルク制限値を超えないように制限するものである請求項1の前後輪駆動車の駆動制御装置。
- 燃料の燃焼により作動するエンジンと、発電機および電動機として作動するモータジェネレータを備え、複数の作動モードの中から車両状態に応じて決定された作動モードで該エンジンおよびモータジェネレータを作動させるハイブリッド駆動装置により、前記一方の車輪が駆動されるものである請求項1または2の前後輪駆動車の駆動制御装置。
- 前記ハイブリッド駆動装置のモータジェネレータは、前記車両の後進走行時は前進走行時に比較して低い発電能力を有するものであり、
前記モータトルク制限手段は、車両の後進走行であるときに前記他方の車輪を駆動する電動モータから出力されるトルクを、前記所定のトルク制限値を超えないように制限するものである請求項3の前後輪駆動車の駆動制御装置。
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