JP4126971B2 - 混合気を圧縮自着火させて運転する内燃機関、および内燃機関の制御方法 - Google Patents

混合気を圧縮自着火させて運転する内燃機関、および内燃機関の制御方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、燃焼室内で燃料と空気との混合気を圧縮し、自着火させることによって動力を取り出す技術に関し、より詳しくは、混合気の自着火を制御することで、燃焼により生じる大気汚染物質の発生を抑制しつつ、高い効率で動力を取り出す技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関は、比較的小型でありながら大きな動力を発生させることができるので、自動車や、船舶、航空機など種々の移動手段の動力源として、あるいは工場などの定置式の動力発生源として広く使用されている。これら内燃機関はいずれも、燃焼室内で燃料を燃焼させ、このときに発生する圧力を、機械的仕事に変換して出力することを動作原理としている。
【0003】
ここで、燃料を燃焼させるために現在採用されている方式は、次の2つの方式に大別される。1つめの方式は、いわゆるガソリンエンジンのように、燃焼室内に燃料と空気との混合気を予め形成しておき、この混合気中で火花を飛ばして燃焼させる方式である。火花を飛ばして混合気の一部に着火すると、火炎が周囲の混合気に速やかに燃え広がるので、燃焼室全体の混合気を燃焼させることができる。こうした燃焼方式は、燃焼室内に予め形成しておいた混合気に火花を飛ばして点火することから、「予混合火花点火燃焼方式」と呼ばれる。2つめの燃焼方式は、いわゆるディーゼルエンジンのように、燃焼室内で空気を高圧に圧縮し、この圧縮空気中に燃料液滴を噴射して燃焼させる方式である。圧縮された空気は高温となっているので、燃焼室内に噴射された燃料液滴の表面からは直ちに燃料が蒸発し、周囲の高温高圧の空気と混合して自着火する。この自着火による影響で更に燃料液滴の蒸発が促進されて、燃料液滴全体の燃焼を速やかに完了させることができる。こうした燃焼方式は、圧縮されて高温になった空気中で、燃料液滴から燃料蒸気が拡散しながら自着火によって燃焼が開始されるので、「圧縮自着火拡散燃焼方式」あるいは単に「拡散燃焼方式」と呼ばれる。
【0004】
近年では、地球環境を保護するために、混合気の燃焼によって内燃機関から排出される大気汚染物質の排出量を低減させることが、強く要請されるようになってきた。また、地球の温暖化要因となる二酸化炭素の排出量を低減する観点から、あるいは内燃機関の運転コストを低減させるために、燃料消費量の更なる低減が強く要請されるようになってきた。
【0005】
これらの要請に応えるべく、内燃機関は種々の局面で改良および研究が行われているが、予混合火花点火燃焼方式あるいは拡散燃焼方式に代わる新たな燃焼方式も模索されている。このような新たな燃焼方式の一つとして、燃焼室内に混合気を形成しておき、これを圧縮して自着火させる燃焼方式(本明細書では、この燃焼方式を「予混合圧縮自着火燃焼方式」と呼ぶ)がある。詳細には後述するが、予混合圧縮自着火燃焼方式を採用した内燃機関は、原理的には、排気ガス中に含まれる大気汚染物質の排出量と燃料消費量とを同時に、しかも大幅に低減することが可能と考えられている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、予混合圧縮自着火燃焼方式の内燃機関は、高負荷条件で運転すると強いノッキングが発生してしまい、内燃機関を広い負荷範囲で運転することができないという問題がある。すなわち、高負荷条件で運転しようとして燃料の供給量を増加させると、圧縮中に混合気が一気に燃焼して強いノッキングが発生してしまう。こうした強いノッキングは、大きな燃焼音が発生するので運転者に不快感を与えるだけでなく、そのまま運転を継続すると最悪の場合には内燃機関にダメージを与えるおそれがある。このため、予混合圧縮自着火燃焼方式の内燃機関は、使用可能な運転条件が負荷の低い条件に限られてしまうという問題がある。
【0007】
この発明は、従来技術における上述の課題を解決するためになされたものであり、予混合圧縮自着火燃焼方式の有する優れた特徴を損なうことなく、高負荷条件での運転を可能とする技術の提供を目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】
上述の課題の少なくとも一部を解決するため、本発明の内燃機関は次の構成を採用した。すなわち、
燃料が吸入空気に対して所定の密度で混合した混合気を形成し、該混合気を燃焼室内で燃焼させることによって動力を出力する内燃機関であって、
前記燃焼室内に燃料が第1の密度で分布した第1の混合気、あるいは、該燃焼室内の一部領域には第2の密度で燃料が分布するとともに残余の領域には該第2の密度よりも高い第3の密度で燃料が分布した第2の混合気の、いずれかの混合気を形成する混合気形成手段と、
前記燃焼室内の混合気を圧縮し、該圧縮した混合気の燃焼による圧力をトルクに変換して、前記動力として出力する圧力変換機構と、
前記内燃機関が発生させるべき要求トルクを検出する要求トルク検出手段と、
前記要求トルクと所定の第1の閾値との大小関係に基づいて前記混合気形成手段を制御することにより、前記混合気の形成状態を制御する制御手段と
を備え、
前記制御手段は、前記要求トルクが前記第1の閾値より小さい場合には、前記第1の密度が、前記圧力変換機構による圧縮で燃料が自着火する密度である前記第1の混合気を形成し、該要求トルクが該第1の閾値より大きい場合には、前記第2の密度が、該圧力変換機構による圧縮で燃料が自着火しない密度である前記第2の混合気を形成するよう、前記混合気形成手段を制御する手段であり、
前記圧力変換機構は、前記要求トルクが前記第1の閾値より小さい場合には、前記第1の混合気の圧縮による自着火で発生した圧力をトルクに変換し、該要求トルクが該第1の閾値より大きい場合には、前記第3の密度の燃料の燃焼による圧力上昇で前記第2の混合気を自着火させ、該自着火で発生した圧力をトルクに変換する機構であることを要旨とする。
【0009】
また、上記の内燃機関に対応する本発明の制御方法は、
燃料が吸入空気に対して所定の密度で混合した混合気を形成し、該混合気を燃焼室内で燃焼させることによって動力を出力する内燃機関の制御方法であって、
前記内燃機関が発生させるべき要求トルクを検出する第1の工程と、
前記検出した要求トルクが所定の第1の閾値より小さい場合に、燃料が所定の第1の密度で分布した混合気を前記燃焼室内に形成して、該混合気を圧縮自着火させる第2の工程と、
前記検出した要求トルクが前記第1の閾値より大きい場合に、前記燃焼室内の一部領域には前記第1の密度よりは低い第2の密度で燃料を分布させ、該燃焼室内の残余の領域には該第2の密度より高い第3の密度で燃料を分布させた混合気を形成して圧縮した後、該第3の密度で燃料が分布した残余の領域で混合気を着火させることにより、該第2の密度で燃料が分布した領域の混合気を自着火させる第3の工程と
を備えることを要旨とする。
【0010】
かかる本発明の内燃機関および内燃機関の制御方法においては、要求トルクが小さい場合には第1の混合気を燃焼室内に形成し、該第1の混合気を圧縮自着火させることによって動力を出力する。また、該要求トルクが大きい場合には、該燃焼室の一部領域には前記第2の密度で燃料を分布させ、残余の領域には前記第3の密度で燃料を分布させた第2の混合気を形成する。ここで、該第2の密度は前記第1の密度よりは低い密度に設定され、前記第3の密度は該第2の密度よりは高い密度に設定されている。この第2の混合気を圧縮して、第3の密度で燃料が分布した残余の領域で混合気を着火させ、これにより第2の密度で燃料が分布した領域の混合気を自着火させる。
【0011】
こうすれば、要求トルクが小さな場合は前記第1の混合気を圧縮自着火させて動力を出力することができる。また、要求トルクが大きい場合には、前記第2の密度が前記第1の密度よりも低い密度に設定されているので、前記第2の混合気は勝手に自着火することはなく、前記第3の密度で分布した領域の混合気に着火することで、該第2の混合気を自着火させることができる。その結果、要求トルクが大きい場合にも小さい場合にも、燃焼室内の混合気をいわゆる予混合圧縮自着火燃焼させることができるので、大気汚染物質の排出量および燃料消費量を大きく低減することが可能となる。尚、前記第1の混合気中で燃料が分布する第1の密度と、前記第2の混合気中で燃料が分布する第2の密度とは、必ずしも異なる密度であるとは限らない。
【0012】
かかる内燃機関においては、前記吸入空気を前記燃焼室に導入するための吸気通路に、燃料噴射弁から燃料を噴射することによって、前記第1の混合気、あるいは前記第2の密度で燃料が分布した前記第2の混合気の少なくとも一方を形成することとしてもよい。
【0013】
吸気通路で燃料を噴射した場合、燃料が該吸気通路を通って燃焼室内に運ばれる間に吸入空気との混合が進むので、燃料と吸入空気とが均一に分散した混合気を該燃焼室内に形成することが可能となるので好ましい。
【0014】
前記内燃機関が、いわゆる4サイクル式の内燃機関である場合には、燃焼室内に燃料を直接噴射する筒内噴射弁から、該内燃機関の吸気行程中に燃料を噴射することによって、前記第1の混合気、あるいは前記第2の密度で燃料が分布した前記第2の混合気の少なくとも一方を形成することとしても良い。
【0015】
吸気行程中に燃料を噴射すれば、該燃料が前記吸入空気とともに前記燃焼室内を流動するために、噴射した燃料を該燃焼室内に均一に分布させることが可能となり、あるいは、燃料を噴射してから燃焼するまでに比較的長い時間を確保することができるので、燃料と吸入空気とを十分に混合させることが可能となって好ましい。
【0016】
特に、吸気行程の吸気上死点から吸気上死点後90度の範囲で設定された所定の期間に燃料を噴射することとしてもよい。
【0017】
吸気上死点付近から吸気上死点後90度の範囲では、吸入空気が燃焼室内で激しく流動するために、燃料を効果的に分散させることが可能となるので好ましい。
【0018】
前記内燃機関が、いわゆる2サイクル式の内燃機関である場合には、燃焼室内に燃料を直接噴射する筒内噴射弁から、該内燃機関の掃気行程中に燃料を噴射することによって、前記第1の混合気、あるいは前記第2の密度で燃料が分布した前記第2の混合気の少なくとも一方を形成することとしても良い。
【0019】
掃気行程中に燃料を噴射すれば、該燃料が前記吸入空気とともに前記燃焼室内を流動するために、噴射した燃料を該燃焼室内に均一に分布させることが可能となり、あるいは、燃料を噴射してから燃焼するまでに比較的長い時間を確保することができるので、燃料と吸入空気とを十分に混合させることが可能となって好ましい。
【0020】
特に、掃気行程の下死点前20度から下死点後60度の範囲で設定された所定の期間、より好ましくは、下死点から下死点後60度の範囲で設定された所定の期間に燃料を噴射することとしてもよい。
【0021】
掃気行程の下死点前20度から下死点後60度の範囲では、吸入空気が燃焼室内で激しく流動するために、燃料を効果的に分散させることが可能となるので好ましい。また、燃料の噴射開始を下死点以降とすれば、噴射した燃料が排気ガスとともに吹き抜けてしまうことを確実に回避することが可能となる。もっとも、噴射された燃料が排気弁に移動するためにはある程度の時間がかかるので、通常は、下死点前に燃料を噴射した場合でも、実際にはほとんど燃料が吹き抜けることはない。
【0022】
かかる内燃機関においては、前記燃焼室に燃料を直接噴射する筒内噴射弁から、該内燃機関の圧縮行程中に燃料を噴射することによって、前記第2の混合気中の前記残余の領域に、前記第3の密度で燃料が分布させることとしても良い。
【0023】
吸入行程中に燃焼室内に発生した吸入空気の流動は圧縮行程では減衰するために、該燃焼室内に噴射した燃料が燃焼室内の広い範囲に分散することがない。すなわち、前記第2の混合気中で燃料が前記第3の密度で分布した領域を比較的狭い範囲とすることができるので、該燃焼室内の広い領域には低密度の第2の密度で燃料を分布させればよく、効果的に燃料を分布させることができる。この結果、混合気の燃焼によって生じる大気汚染物質の排出量や、燃料消費量を低減することができる。
【0024】
前記内燃機関が、いわゆる4サイクル式の内燃機関である場合には、圧縮行程中の上死点前90度から上死点前30度の範囲で設定された所定の期間、より好ましくは、圧縮行程中の上死点前60度から上死点前30度の範囲で設定された所定の期間に燃料を噴射することによって、前記第2の混合気中の前記残余の領域に、前記第3の密度で燃料を分布させることとしても良い。
【0025】
4サイクル式の内燃機関においては、圧縮行程中の上死点前90度から上死点前30度の範囲、特に上死点前60度から上死点前30度の範囲では、燃焼室内での吸入空気の流動がある程度減衰しており、しかも燃料を噴射後、吸入空気と混合するための時間もある程度は確保することができる。このため、前記第2の混合気中で燃料が前記第3の密度で分布した領域の混合気を着火させることで、該第2の混合気を効果的に自着火させることが可能となるので好ましい。
【0026】
また前記内燃機関が、いわゆる2サイクル式の内燃機関である場合は、圧縮行程中の上死点前60度から上死点前20度の範囲で設定された所定の期間に燃料を噴射することによって、前記第2の混合気中の前記残余の領域に、前記第3の密度で燃料を分布させることとしても良い。
【0027】
2サイクル式の内燃機関においては、圧縮行程中の上死点前60度から上死点前20度の範囲では、燃焼室内での吸入空気の流動がある程度減衰しており、しかも燃料を噴射後、吸入空気と混合するための時間もある程度は確保することができる。このため、前記第2の混合気中で燃料が前記第3の密度で分布した領域の混合気を着火させることで、該第2の混合気を効果的に自着火させることが可能となるので好ましい。尚、2サイクル式の内燃機関は、4サイクル式の内燃機関に比べて排気ガスが燃焼室内に多く残留している。このため、燃焼室内に噴射された燃料が、これら高温の残留ガスによって速やかに気化する結果、2サイクル式の内燃機関では4サイクル式の内燃機関よりも、第2の混合気を効率よく自着火させることが可能である。
【0028】
また、内燃機関に、燃焼室内の燃料を直接噴射する筒内噴射弁と、該燃焼室内に形成された混合気を圧縮するピストンとが設けられている場合には、前記内燃機関の圧縮行程中に前記筒内噴射弁から噴射した燃料を、該ピストンに衝突させることにより、前記第2の混合気中の前記残余の領域に、前記第3の密度で燃料を分布させることとしてもよい。
【0029】
こうして、噴射した燃料をピストンに衝突させることにより、燃料の分散が促進されて、燃料を効果的に分布させることが可能となるので好ましい。
【0030】
更には、前記ピストンの表面の中で、前記噴射された燃料が衝突する部分の形状を、該衝突した燃料が、前記燃焼室内の所定の領域に導かれるような形状に形成することとしても良い。
【0031】
こうすれば、ピストンの表面を利用することで、噴射した燃料を前記燃焼室内の所定の領域に効果的に分布させることが可能となるので好ましい。
【0032】
あるいは、前記内燃機関が、燃焼室の一部を構成する副燃焼室と、該副燃焼室内に燃料を噴射する副室噴射弁とを備えた内燃機関である場合には、該副室噴射弁から燃料を噴射することで、前記第3の密度で燃料が分布した混合気を、該副燃焼室中に形成することとしても良い。
【0033】
こうすれば、前記副燃焼室内には前記第3の密度で燃料を分布させ、該副燃焼室を除く前記燃焼室内には前記第2の密度で燃料を分布させることで、2つの領域が分離された状態の前記第2の混合気を該燃焼室内に容易に形成することが可能となるので好適である。
【0034】
また、前記内燃機関がいわゆる4サイクル式の内燃機関である場合には、前記燃焼室内に燃料を直接噴射する筒内噴射弁から、吸気行程中に燃料を噴射することで、前記第1の混合気および前記第2の密度で燃料が分布した前記第2の混合気を形成するとともに、圧縮行程中に燃料を噴射することで、該第2の混合気中の一部の領域に燃料を前記第3の密度で分布させることとしても良い。
【0035】
あるいは、前記内燃機関がいわゆる2サイクル式の内燃機関である場合には、前記燃焼室内に燃料を直接噴射する筒内噴射弁から、掃気行程中に燃料を噴射することで、前記第1の混合気および前記第2の密度で燃料が分布した前記第2の混合気を形成するとともに、圧縮行程中に燃料を噴射することで、該第2の混合気中の一部の領域に燃料を前記第3の密度で分布させることとしても良い。
【0036】
こうすれば、同じ筒内噴射弁を用いて、前記第1の混合気および前記第2の混合気を形成することが可能となるので好ましい。
【0037】
また、上述した各種の内燃機関においては、前記要求トルクが前記第1の閾値より小さい場合には、前記第1の混合気として、空気過剰率が1.2ないし3の範囲の混合気を形成することとしても良い。
【0038】
経験上、第1の混合気の空気過剰率を1.2ないし3の範囲に設定しておけば、該第1の混合気を圧縮して確実に自着火させることができ、更に、窒素酸化物などの大気汚染物質の排出量と燃料消費量とを抑制することが可能となるので好ましい。
【0039】
また、上述した各種の内燃機関においては、前記要求トルクが前記第1の閾値より大きい場合には、前記第2の混合気中で燃料が分布する第2の密度は、リーン限界混合気よりも空気過剰率が1.1倍ないし1.5倍となる密度(より好ましくは1.1倍ないし1.3倍となる密度)としても良い。ここで、リーン限界混合気とは、該第1の混合気を圧縮して自着火させながら該内燃機関を運転したときに、1000サイクルに1サイクルの割合で自着火しないサイクルが発生し、且つ燃料に対して空気が過剰な混合気である。
【0040】
前記第2の混合気中に燃料が含まれる前記第2の密度をリーン限界混合気よりも小さく(すなわち空気過剰率を大きく)しておけば、該第2の混合気が前記燃焼室内で圧縮されたときに、該混合気中で燃料が該第2の密度で分布している領域が自着火することを確実に回避することができる。とは言え、燃料の密度をあまりに低くしたのでは、該第2の混合気を燃焼させても、所望の出力を発生させることが困難となる。もちろん、第2の混合気中の燃料密度が高い領域を増やしたり、あるいは燃料の密度を増加させることも可能であるが、こうした場合は、混合気を圧縮自着火させることで、窒素酸化物などの大気汚染物質の排出量や燃料消費量を低減させる効果も小さくなってしまう。従って、該第2の混合気中で燃料が該第2の密度で分布した領域の空気過剰率が、リーン限界混合気に対して1.1倍ないし1.5倍の空気過剰率(より好ましくは1.1倍ないし1.3倍の空気過剰率)となるように、該第2の混合気を設定しておけば、これらの要請をバランス良く満足することができるので好ましい。
【0041】
あるいは、上述した各種の内燃機関においては、前記要求トルクが前記第1の閾値より大きい場合には、前記第2の混合気中で燃料が前記第2の密度で分布した領域の空気過剰率が、前記第3の密度で分布した領域の空気過剰率の1.2倍ないし2.7倍となるように、燃焼室内に燃料を分布させても良い。
【0042】
第3の密度をあまりに低く設定すれば、燃料が該第3の密度で分布した領域は着火し難くなり、かといって、密度を高く設定すると、大気汚染物質の生成量および燃料消費量が増加する。すなわち、第3の密度には適切な範囲が存在している。経験上、前記第2の混合気中で燃料が前記第2の密度で分布した領域の空気過剰率が、前記第3の密度で分布した領域の空気過剰率の1.2倍ないし2.7倍となるように、該第3の密度を選択したときに、これらの要請をバランス良く満足させることが可能である。
【0043】
より具体的には、前記第2の混合気中で燃料が前記第2の密度で分布した領域の空気過剰率を2ないし3.5に設定し、前記第3の密度で分布した領域の空気過剰率が1.3ないし1.7に設定しておけば、これらの要請をバランス良く満足することができる。
【0044】
上述した内燃機関においては、前記燃焼室内の混合気を着火するための着火手段を備えることとして、前記要求トルクが前記第1の閾値より大きい場合には、前記第2の混合気の中で燃料が前記第3の密度で分布した領域に、前記着火手段を用いて着火させることとしてもよい。
【0045】
こうして、前記第2の混合気中で燃料が前記第3の密度で分布した領域を着火してやれば、該領域を適切なタイミングで燃焼させることができ、延いては該第2の混合気の他の領域を適切なタイミングで自着火させることとが可能となるので好適である。
【0046】
こうした着火手段としては、前記燃焼室内の略中央部に設けられた点火栓を好適に用いることができる。
【0047】
点火栓は、内燃機関の着火手段として広く使用されているので、前記燃焼室内の混合気を着実に着火させることができる。また、該点火栓を設ける位置を燃焼室の略中央部とすれば、該点火栓を比較的容易に設けることが可能である。
【0048】
あるいは内燃機関が、燃焼室の一部を構成する副燃焼室と、該副燃焼室内に燃料を噴射する副室噴射弁とを備えた内燃機関である場合には、該副室噴射弁から燃料を噴射することで、前記第3の密度で燃料が分布した混合気を該副燃焼室中に形成するとともに、該副燃焼室内に点火栓で火花を飛ばすことによって、該第3の密度で燃料が分布した混合気に着火することとしても良い。
【0049】
こうすれば、前記副燃焼室に形成された混合気を確実に着火させることができ、延いては、該副燃焼室以外に形成された前記第2の混合気を確実に自着火させることが可能となるので好ましい。
【0050】
上述した内燃機関においては、前記要求トルクが前記第1の閾値よりも大きい場合には、前記第2の混合気中で燃料が前記第2の密度で分布している領域の混合気を、次のようにして自着火させても良い。先ず、前記圧力変換機構で該第2の混合気を圧縮することにより、燃料が前記第3の密度で分布した領域を自着火させる。こうした自着火による前記燃焼室内の圧力上昇を利用して、燃料が該第2の密度で分布した領域の混合気を圧縮して自着火させることとしても良い。
【0051】
こうすれば、前記第2の混合気中に、燃料を前記第3の密度で適切なタイミングで分布させるだけで、何ら特別な着火手段を必要とすることなく、該第2の混合気を自着火させることが可能となるので好ましい。
【0052】
あるいは、前記要求トルクが前記第1の閾値よりも大きい場合に、前記第2の混合気中で燃料が前記第2の密度で分布している領域の混合気を、次のようにして自着火させても良い。先ず、前記圧力変換機構で該第2の混合気を圧縮した後、圧縮された混合気中に、前記第3の密度で分布した燃料を噴射することにより、該燃料を拡散燃焼させる。こうした拡散燃焼による前記燃焼室内の圧力上昇を利用して、燃料が該第2の密度で分布した領域の混合気を圧縮して自着火させることとしても良い。
【0053】
こうすることによっても、前記第2の混合気中に、燃料を適切なタイミングで噴射するだけで、何ら特別な着火手段を必要とすることなく、該第2の混合気を自着火させることが可能となる。
【0054】
上述した内燃機関がいわゆる4サイクル式の内燃機関である場合には、該内燃機関の実質的な圧縮比を、11ないし17の範囲で所定の値に設定することとしても良い。
【0055】
圧縮比が低すぎると、第1の混合気を圧縮して自着火させることが困難となる。かといって、圧縮比が高すぎると、第2の混合気を圧縮したときにも自着火し易くなる。従って、これらの要請を同時に満足させるためには、圧縮比を適切な範囲に設定する必要がある。いわゆる4サイクル式の内燃機関では、経験上、実質的な圧縮比を11ないし17の範囲に設定しておけば、これらの要請を同時に満足させることができる。また、いわゆる2サイクル式の内燃機関の場合には、経験上、実質的な圧縮比を10ないし14の範囲に設定しておけば、これらの要請を同時に満足させることができる。尚、4サイクル機関および2サイクル機関の実質的な圧縮比とは、ピストンの上昇中に、吸気弁を閉じてから上死点に達するまでの間に、燃焼室内の混合気を圧縮した比率を言う。
【0056】
また、上述した内燃機関においては、前記燃焼室内の圧力を検出することによって該燃焼室内での燃焼状態を判断し、該判断結果に基づいて、空気の吸入量を制御することにより、前記第1の混合気中に分布する燃料の密度を補正することとしても良い。
【0057】
こうして、燃焼状態に応じて前記第1の混合気中の燃料の密度を補正すれば、適切な密度とすることができるので、前記要求トルクが前記第1の閾値より小さい場合に、内燃機関を適切に運転することが可能となって好適である。
【0058】
燃焼室内の圧力を検出可能な、こうした内燃機関においては、次のようにして該第1の混合気中の燃料の密度を補正しても良い。先ず、該燃焼室内での燃焼による圧力上昇の有無を判断する。そして、前記要求トルクが前記第1の閾値よりも小さく且つ前記燃焼による圧力上昇が無いと判断された場合には、前記吸入空気量を減少させることにより、前記第1の混合気中の燃料の密度を所定値だけ増加させることとしてもよい。
【0059】
該要求トルクが該第1の閾値よりも小さく場合に、該燃焼室内で混合気の燃焼による圧力上昇が検出されなければ、該第1の混合気が自着火しなかったものと考えられる。そこで、このような場合には、吸入空気量を減少させることによって該第1の混合気中の燃料の密度を増加させる。こうして燃料の密度を増加させれば、該第1の混合気を自着火させることが可能となる。また、吸入空気量を減少させることによって燃料の密度を増加させており、該第1の混合気中の中の燃料量は変えていないので、該内燃機関が出力する動力の変動を回避することができるので好適である。
【0060】
あるいは、次のようにして前記第1の混合気中の燃料の密度を補正しても良い。先ず、前記燃焼室内の圧力を検出して、圧力の上昇速度が所定の許容速度より大きいか否かを判断する。そして、前記要求トルクが前記第1の閾値より小さく且つ該圧力上昇速度が許容速度より大きいと判断された場合には、前記吸入空気量を増加させることにより、前記第1の混合気中の燃料の密度を所定値だけ減少させることとしてもよい。
【0061】
該要求トルクが該第1の閾値よりも小さく場合に、該圧力上昇速度が許容速度を超えた場合は、前記燃焼室内に形成された前記第1の混合気が圧縮によって早期に自着火し、ノックが発生したものと考えられる。そこで、このような場合には、吸入空気量を増加させることによって該第1の混合気中の燃料の密度を減少させる。こうして燃料の密度を減少させれば、該第1の混合気が早期に自着火してノックすることを回避することが可能となる。また、吸入空気量を増加させることによって燃料の密度を減少させており、該第1の混合気中の中の燃料量は変えていないので、該内燃機関が出力する動力の変動を回避することができるので好適である。
【0062】
また、燃焼室内の圧力を検出可能なことを利用して、次のような制御を行っても良い。先ず、検出した燃焼室内の圧力に基づいて、該燃焼室内での圧力上昇速度が所定の許容速度を超えた否かを判断する。次いで、前記要求トルクが前記第1の閾値より小さく且つ前記圧力上昇速度が前記許容速度を超えたと判断された場合には、該第1の閾値を更新することとしてもよい。
【0063】
該要求トルクが該第1の閾値よりも小さいにもかかわらず、該圧力の上昇速度が該許容速度を超えていることは、該第1の閾値の設定が不適切であったために、前記第1の混合気が圧縮によって自着火してノックが発生したものと考えられる。そこで、こうした場合に、例えば該要求トルクで、あるいは所定量ずつ該第1の閾値を更新してやれば、かかる運転条件では前記第2の混合気が形成されることになり、以降はノックの発生を回避することが可能となる。
【0064】
あるいは、前記第1の閾値を次のようにして更新することとしても良い。先ず、前記燃焼室内の圧力を検出し、該圧力に基づいて、前記燃焼室内で生じた燃焼熱の発生量を、前記クランク軸の回転位置を表すクランク角に対する発生速度の形態で算出する。そして、該燃焼熱の発生速度が所定値を越えるクランク角が、ピストンが最も上昇するクランク角よりも5度以上前で、且つ、前記要求トルクが前記第1の閾値より小さい場合には、例えば該要求トルクで、あるいは所定量ずつ該第1の閾値を更新することとしても良い。
【0065】
該要求トルクが該第1の閾値よりも小さく、且つ、ピストンが最も上昇するクランク角よりも5度以上前のタイミングで、該燃焼熱の発生速度が所定値を越えている場合、前記第1の混合気が圧縮によって早期に自着火し、ノックが発生しているものと考えられる。そこで、この様な場合に該要求トルクで該第1の閾値を更新してやれば、こうした運転条件では前記第2の混合気が形成されることになり、以降はノックの発生を回避することが可能となる。
【0066】
前記内燃機関が、燃焼室内に燃料を直接噴射する筒内噴射弁と、圧縮行程中に燃焼室内に燃焼室内の圧力を検出する圧力検出手段と、該燃焼室内の混合気を着火させる着火手段とを備え、該筒内噴射弁から該内燃機関の圧縮行程中に燃料を噴射することによって、前記第2の混合気中に燃料を前記第3の密度で分布させる場合には、該燃料の噴射時期を次のようにして補正することとしても良い。先ず、検出した燃焼室内の圧力に基づいて該燃焼室内で生じた燃焼熱の発生速度を検出する。そして、前記要求トルクが前記第1の閾値よりも大きく、該着火手段で燃焼室内の混合気を着火する前に該燃焼熱の発生速度が所定値を越えた場合には、該燃料の噴射時期を遅延させることとしても良い。
【0067】
該要求トルクが該第1の閾値よりも大きく、該着火手段が燃焼室内の混合気を着火する前に該燃焼熱の発生速度が所定値を越えた場合は、該第2の混合気中で燃料が前記第3の密度で分布した領域の混合気が圧縮により自着火したものと考えられる。そこで、このような場合は、燃料を第3の密度で分布させるために前記筒内噴射弁の噴射時期を遅延させれば、自着火の時期も遅延させて、該着火手段で着火させることが可能となる。
【0068】
あるいは、燃焼室内に燃料を直接噴射する筒内噴射弁と、圧縮行程中に燃焼室内に燃焼室内の圧力を検出する圧力検出手段と、該燃焼室内の混合気を着火させる着火手段とを備えた内燃機関においては、次のようにして着火時期を補正することとしても良い。先ず、検出した燃焼室内の圧力に基づいて該燃焼室内での圧力の上昇速度が所定の許容速度を超えたか否かを判断する。そして、着火手段で燃焼室内に着火した後に、該圧力上昇速度が該許容速度を超えたと判断された場合は、該燃焼室の着火時期を遅延させることとしても良い。
【0069】
着火手段で燃焼室内に着火した後に圧力上昇速度が所定の許容速度を超える場合は、着火時期が早すぎてノックが発生しているものと考えられる。そこで、このような場合は、着火時期を遅延させることにより、ノックの発生を回避することが可能となる。
【0070】
更には、燃焼室内に燃料を直接噴射する筒内噴射弁と、圧縮行程中に燃焼室内に燃焼室内の圧力を検出する圧力検出手段とを備え、圧縮行程中に該筒内噴射弁から燃焼室内に燃料を噴射して前記第2の混合気中に該燃料が前記第3の密度で分布した領域を形成し、該領域を燃焼させる場合には、次のようにして燃料の噴射時期を補正することとしても良い。先ず、燃焼室内の圧力に基づいて、圧力上昇速度が所定の許容速度を超えたか否かを判断する。そして、燃料を前記第3の密度で分布させるために燃焼室内に燃料を噴射した後に、該圧力上昇速度が該許容速度を超えた場合には、該燃料の噴射時期を遅延させることとしても良い。
【0071】
圧縮行程中に前記筒内噴射弁から燃料を噴射した後に、前記圧力上昇速度が前記許容速度を超えた場合には、噴射した燃料が着火する時期が早すぎてノックが発生しているものと考えられる。そこで、このような場合には、圧縮行程中に噴射する燃料の噴射時期を遅延させることで、噴射した燃料が着火する時期を遅延させ、ノックの発生を回避することが可能となる。
【0072】
また、燃焼室内から排出される排気ガス中の窒素酸化物の濃度を検出するNOx濃度検出手段を内燃機関に設けることとして、該検出した窒素酸化物の濃度が所定の許容値を超える場合には、圧縮行程中に前記筒内噴射弁から燃料を噴射する時期を遅延させることとしても良い。
【0073】
窒素酸化物は燃焼室内で混合気が激しく燃焼した時に発生する。ここで、前記第1の混合気は当初から自着火させることが予定されており、前記第2の混合気は圧縮しただけでは自着火しない混合気である。従って、窒素酸化物が前記許容値を超えるほど燃焼室内で混合気が激しく燃焼が発生したと言うことは、前記第2の混合気中に燃料を前記第3の密度で分布させるために、圧縮行程中に前記筒内噴射弁から燃料を噴射する時期が早すぎて、該第2の混合気が自着火する時期が早すぎたものと考えられる。そこで、このような場合には、圧縮行程中に該筒内噴射弁から燃料を噴射する時期を遅延させることにより、該第2の混合気を適切な時期に自着火させることが可能となる。
【0074】
こうしたNOx濃度検出手段を備える内燃機関においては、検出した窒素酸化物の濃度が所定の許容値を超える場合には、前記第2の混合気中に燃料を前記第3の密度で分布させるために前記筒内噴射弁から噴射する燃料を、減量することとしても良い。
【0075】
第2の混合気中で燃料が第3の密度で分布した領域は、他の領域よりも燃料の密度が高くなっており、この領域では窒素酸化物が発生し易くなっている。従って、窒素酸化物の濃度が所定の許容値を超えていると言うことは、該領域に噴射した燃料が過多である可能性も考えられる。こうした場合には、該第2の混合気中に該第3の密度で燃料を分布させるために噴射する燃料を減量することで、窒素酸化物の濃度を所定の許容値以下に抑制することが可能となる。
【0076】
また、前記NOx濃度検出手段を備えるとともに、前記第2の混合気中で燃料が第3の密度で分布している領域に着火することで、該第2の混合気の他の領域を自着火させる内燃機関においては、検出した窒素酸化物の濃度が所定の許容値を超えた場合には、該第2の混合気に着火する時期を遅延させることとしても良い。
【0077】
前述したように窒素酸化物は燃焼室内で混合気が激しく燃焼することによって発生するから、窒素酸化物の濃度が所定の許容値を超えたと言うことは、該第2の混合気中で燃料が第3の密度で分布した領域に着火する時期が早すぎて、他の領域の混合気が早く自着火してしまい、ノックが発生しているものと考えられる。そこで、こうした場合には、該着火時期を遅延させることで、該第2の混合気を適切な時期に自着火させることが可能となる。
【0078】
上述した内燃機関に、燃焼室内から排出される排気ガス中の一酸化炭素の濃度を検出するCO濃度検出手段、あるいは炭化水素系化合物の濃度を検出するHC濃度検出手段の少なくとも一方を備えることとして、該検出した一酸化炭素の濃度あるいは炭化水素系化合物の濃度の少なくとも一方が、それぞれの所定の許容値を超えた場合には、前記第2の混合気中に燃料を前記第3の密度で分布させるために、圧縮行程中に前記筒内噴射弁から燃料を噴射する時期を進角させることとしても良い。
【0079】
一酸化炭素あるいは炭化水素系化合物は、混合気が完全に燃焼できなかった場合に発生する。従って、これらが許容値を超える濃度で発生した場合には、前記第2の混合気中に燃料を前期第3の密度で分布させる時期が遅すぎて、該第2の混合気が完全には燃焼しなかった可能性が考えられる。あるいは、該第2の混合気中で燃料が分布した密度が低すぎて、該第3の密度に達していなかった可能性が考えられる。前者の場合には、圧縮行程中に前記筒内噴射弁から燃料を噴射する時期を進角させる(早くしてやる)ことにより、また後者の場合には、圧縮行程中に噴射する燃料量を増やしてやることにより、該第2の混合気を完全に燃焼させることが可能となる。
【0080】
また、内燃機関が着火手段を備えており、前記第2の混合気中で燃料が前記第3の密度で分布している領域に着火することにより、該第2の混合気を自着火させている場合には、次のようにして着火時期を補正することとしても良い。すなわち、一酸化炭素の濃度あるいは炭化水素系化合物の濃度の少なくとも一方を検出し、検出した濃度が、それぞれの所定の許容値を超えている場合には、該第2の混合気中で燃料が該第3の密度で分布している領域に着火する時期を進角させることとしても良い。
【0081】
このように、燃焼室内の混合気に着火手段を用いて着火する場合、着火時期が遅すぎると燃焼室内の圧力が減少するために着火し難くなる。従って、一酸化炭素あるいは炭化水素系化合物の濃度の一方が、それぞれの許容値を超える濃度で発生した場合には、該第2の混合気で燃料が該第3の密度で分布した領域に着火する時期が遅すぎて、該第2の混合気を完全には燃焼させることができなかった可能性が考えられる。この様な場合には、着火時期を進角して(早くして)やれば、該第2の混合気を完全に燃焼させることが可能となる。
【0082】
また、上述の内燃機関に、燃焼室内に生じる圧力振動に基づいてノックの発生を検出するノック検出手段が備えられている場合には、次のようにしても良い。すなわち、前記要求トルクが前記第1の閾値よりも小さい時にノックの発生が検出された場合には、該内燃機関が吸入する吸入空気量を増加させて、前記第1の混合気中に分布する燃料の密度を減少させることとしても良い。
【0083】
燃料の性状、あるいは内燃機関が吸入する空気の温度や湿度などの影響で、該要求トルクが該第1の閾値よりも小さいにも関わらず、ノックが発生する場合もあり得る。このような場合には、吸入空気量を増加させることによって該第1の混合気中の燃料の密度を減少させることにより、ノックの発生を回避することができる。また、こうして吸入空気量を増加させることで燃料の密度を減少させれば、該第1の混合気中の中の燃料量は変える必要がないので、該内燃機関が出力する動力の変動を回避することができるので好適である。
【0084】
また、燃料の性状、あるいは内燃機関が吸入する空気の温度や湿度などの影響で、該要求トルクが該第1の閾値よりも小さいにも関わらず、ノックが発生した場合には、該第1の閾値を、例えば該要求トルクであるいは所定量ずつ更新することとしても良い。こうすれば、それ以降、かかる条件で運転する場合には、燃焼室内には該第1の混合気ではなく前記第2の混合気が形成されることになるので、ノックの発生を回避することができる。
【0085】
上述した内燃機関においては、前記要求トルクが特に小さい場合には、次のようにして運転することとしてもよい。先ず、前記第1の閾値よりも小さな第2の閾値と、該要求トルクとを比較する。そして、要求トルクが該第2の閾値よりも小さい場合には、燃焼室内に燃料が偏在して分布した第3の混合気を形成し、該第3の混合気が燃焼したことによる圧力上昇をトルクに変換して出力する。
【0086】
要求トルクが特に小さくなると、混合気中で燃料が分布する密度が小さくなり、それに連れて燃焼し難くなる傾向がある。この様な場合には、燃焼室内で燃料を偏在させて、混合気の一部の領域では燃料の密度を高めることで、混合気を確実に燃焼させることが可能となる。
【0087】
そして、こうして燃料が偏在した前記第3の混合気に着火するために、該第3の混合気を圧縮して、自着火させることとしてもよい。あるいは、着火手段を用いて、燃料が偏在した領域に着火することとしても良い。
【0088】
該第3の混合気を圧縮して自着火させてやれば、単に圧縮するだけで、特に着火手段などを用いることなく燃焼させることができるので好ましい。これに対して、着火手段を用いれば、所望の時期に該第3の混合気を確実に着火させることができるので好適である。
【0089】
また、着火手段を用いて該第3の混合気に着火する場合には、前記圧力変換機構による圧縮では自着火しないような混合気としておくこととしても良い。
【0090】
こうすれば、該第3の混合気の着火時期は、該着火手段で着火する時期によってのみ決定されることとなるので、該第3の混合気を適切な時期に確実に着火させることが可能となる。
【0091】
一方、上述した内燃機関において、前記要求トルクが特に大きい場合には、次のようにして運転することとしてもよい。先ず、前記第1の閾値よりも大きな第3の閾値と、該要求トルクとを比較する。そして、要求トルクが該第3の閾値よりも大きい場合には、吸気行程中に前記筒内噴射弁から燃料を噴射することによって、前記燃焼室内に第4の混合気を形成する。ここで、該第4の混合気は、前記第1の密度より高い第4の密度で燃料が分布した混合気とする。こうして形成した第4の混合気を、着火手段を用いて着火させ、該第4の混合気が燃焼したことによる燃焼室内の圧力上昇をトルクに変換して出力することとしても良い。
【0092】
前記第4の密度は前記第1の密度や前記第2の密度よりは高いので、燃料が第4の密度で分布した前記第4の混合気を燃焼させれば、大きな出力を得ることができるので好適である。また、こうした第4の混合気は前記第1の混合気に比べて自着火し易いが、吸気バルブを閉じるタイミングを遅らせて実質的な圧縮比を低くしてやることで、ノックを発生させることなく内燃機関を運転することが可能である。
【0093】
また、上述した内燃機関は、次のような構成としても良い。先ず、クランク軸を回転させてピストンを上昇させることによって燃焼室内の混合気を圧縮することとして、該クランク軸の回転速度を検出可能とする。また、燃焼室に通じる吸気通路を、該クランク軸の回転に同期して開閉する吸気弁と、該燃焼室内で燃焼した混合気が排出される排気通路を、該クランク軸の回転に同期して開閉する排気弁とを備え、該吸気弁および該排気弁の開閉時期を切り換えることで、該内燃機関の運転状態を4サイクル運転と2サイクル運転とに切り換え可能とする。そして、該クランク軸の回転速度が所定の閾値より小さい場合には、該内燃機関を2サイクル運転に切り換え、該回転速度が該閾値より大きい場合には4サイクル運転に切り換えることとしても良い。
【0094】
4サイクル式の内燃機関では、他の行程とは独立して排気行程が設けられているので、燃焼室内で混合気が燃焼して膨張した後、次に吸入空気が流入するまでに、燃焼した混合気は燃焼室内から全て排出される。これに対して、2サイクル式の内燃機関では、排気行程が他の行程とは独立していないために、燃焼した混合気の一部が燃焼室内に残存したまま、吸入空気が流入することとなる。残存している燃焼ガスは温度が高いことに加えて、活性な中間生成物も含まれている。2サイクル式の内燃機関では、こうした残存する燃焼ガスとともに吸入空気を圧縮することになるので、4サイクル式の内燃機関よりは、混合気を容易に自着火させることが可能である。とは言え、内燃機関を高速運転する場合には、独立した排気行程を有する4サイクル式の内燃機関の方が適している。従って、内燃機関を低速で運転する場合には、2サイクル運転を行いながら、前記第1の混合気あるいは前記第2の混合気を形成して運転し、該内燃機関を高速で運転する場合には、4サイクル運転を行うことで、大気汚染物質の排出量と燃料消費量とを大幅に低減させながら、内燃機関を広い回転速度で運転することが可能となって好適である。
【0095】
こうした内燃機関においては、前記吸気弁および前記排気弁を電気的に駆動することとしても良い。具体的な駆動方法としては、電歪素子を利用したり、電磁石を利用した周知の種々の駆動方法を適用することができる。あるいは、吸気弁および排気弁を油圧を用いて駆動しても良い。こうして電気的に、あるいは油圧を利用して駆動してやれば、該内燃機関の運転状態を、4サイクル運転と2サイクル運転とに容易に切り換えることが可能となるので好適である。
【0096】
【発明の実施の形態】
以下では、本発明の作用・効果をより明確に説明するために、次のような順序に従って、本発明の実施例を説明する。
A.誘発自着火燃焼方式のコンセプト:
A−1.誘発自着火燃焼方式の概要:
A−2.予混合圧縮自着火燃焼方式の概要:
Aー3.誘発自着火燃焼方式による負荷範囲の拡大原理:
B.第1実施例:
B−1.装置構成:
B−2.エンジン制御の概要:
B−3.第1実施例における混合気形成および燃焼形態:
B−4.変形例:
C.第2実施例:
C−1.装置構成:
C−2.低負荷条件の制御内容:
C−3.高負荷条件の制御内容:
C−4.変形例:
【0097】
A.誘発自着火燃焼方式のコンセプト:
本願の発明者は、予混合圧縮自着火燃焼方式の備える優れた特性を活用すべく、長年研究開発を行ってきたが、この燃焼方式に更なる改良を加えることで、高負荷条件でも運転可能とする新たな燃焼方式を開発した。本明細書中では、新たに開発した燃焼方式を「誘発自着火燃焼方式」と呼ぶことにする。誘発自着火燃焼方式を内燃機関に適用すれば、後述するように、高負荷条件の下でもノッキングを起こすことなく運転することが可能となり、しかも予混合圧縮自着火燃焼方式の備える優れた特長は、ほとんど損われることがない。以下では、理解の便宜から先ず初めに「誘発自着火燃焼方式」のコンセプトについて説明し、その後、この燃焼方式を内燃機関に適用した各種実施例について説明する。
【0098】
A−1.誘発自着火燃焼方式の概要:
誘発自着火燃焼方式のコンセプトについての詳細な説明に入る前に、先ず、誘発自着火燃焼方式を適用した内燃機関の動作を概要を説明する。図1は、誘発自着火燃焼方式を適用した内燃機関の動作の概要を、一例を取って説明する説明図である。いわゆる4サイクル式の内燃機関は、燃焼室A内でピストンBを上下動させ、これに同期して吸気バルブCおよび排気バルブDを開閉させながら、燃料と空気との混合気を燃焼させることによって動力を取り出している。図1には、4サイクル機関の4つの行程、すなわち吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程の4つの行程を、左から右に向かって順番に表示している。また、誘発自着火燃焼方式では、負荷に応じて運転形態を切り換える。図1の上段には、負荷の低い条件での運転形態を示し、下段には負荷の高い条件での運転形態を示している。尚、図1では理解の便宜から、内燃機関は4サイクル機関であるものとしたが、後述するように誘発自着火燃焼方式は4サイクル機関に限らず、2サイクル機関あるいは6サイクル機関など異なる方式の内燃機関に適用することも可能である。
【0099】
初めに、図1の上段を参照しながら、負荷が低い条件での運転形態について説明する。ピストンBが一番上にある状態から、吸気バルブCを開きながらピストンBを降下させると、吸気バルブCから燃焼室A内に空気が流入して吸気行程が開始される。図1では、吸気バルブCから燃焼室A内に空気が流入する様子を矢印で表示している。吸気行程では、空気の流入に合わせて、燃焼室A内に設けた燃料噴射弁Eから燃料噴霧を噴射してやる。図1では、噴射された燃料噴霧をハッチングを付して表示している。噴射された燃料噴霧は、吸入空気とともに燃焼室Aで攪拌され、燃焼室内にほぼ均一な密度で分散して混合気を形成する。尚、詳細には後述するが、燃料噴霧は燃焼室A内に直接噴射するのではなく、吸気バルブCの上流側から噴射することとしてもよい。また、図1に示した例では、燃料噴射弁Eは排気側に設けられているが、吸気側に設けることとしてもよい。
【0100】
ピストンBが一番下まで下がりきるのに合わせて吸気バルブCを閉じ、ピストンBを上昇させて圧縮行程を開始する。圧縮行程では吸気バルブCも排気バルブDも閉じられており、燃焼室A内に形成された混合気は断熱圧縮されるので、ピストンBの上昇とともに急激に温度が上昇していく。そして、ほぼピストンBが上がりきった時点で混合気は発火温度に達し、燃焼室A内の混合気がほぼ同時に燃え始めて、速やかに燃焼が完了する。燃焼室A内の圧力は、混合気の燃焼によって更に高くなり、その結果、ピストンBを強い力で押し下げようとする。圧縮行程に続く膨張行程では、ピストンBを降下させながら、ピストンBが受ける力を動力に変換して外部に出力する。
【0101】
ピストンBが下がりきってしまうと、それ以上は動力を取り出すことができないので、排気バルブDを開いてピストンBを上昇させ、排気行程を開始する。排気行程では、燃焼室内で混合気が燃焼したことによって発生した燃焼生成物が、排気ガスとして排気バルブDから外部に排出される。燃焼生成物には、二酸化炭素や水蒸気の他、窒素酸化物、未燃の炭化水素、一酸化炭素、ススなどが含まれている。図1では、これら燃焼生成物が、排気バルブDから排気ガスとして排出される様子を矢印で表示している。こうしてピストンBが上がりきって、ほぼ全ての排気ガスを排出したら、排気バルブDを閉じる。そして、吸気バルブCを開きながらピストンBを降下させると、再び吸気行程が開始される。
【0102】
このように誘発自着火燃焼方式は、低負荷運転領域では、燃焼室内に燃料と空気との混合気を形成し、これを圧縮自着火させて動力を発生させる。詳細には後述するが、こうすることで、燃焼による大気汚染物質の排出量および燃料消費量を、ともに大きく減少させることが可能である。誘発自着火燃焼方式の低負荷条件での運転形態は、いわゆる予混合圧縮自着火燃焼方式として提案されている運転形態と基本的には同じである。
【0103】
次に、誘発自着火燃焼方式の、高負荷条件での運転形態について説明する。図1の下段には、内燃機関が高負荷条件で運転されているときの4つの行程が、左から順番に示されている。先ず、吸気行程においては、吸気バルブCを開いてピストンBを降下することによって燃焼室A内に空気を吸入する。高負荷時においても、吸気行程では、空気の流入に合わせて燃料噴射弁Eから燃料噴霧を噴射することで、燃焼室A内に混合気を形成してやる。ここで、高負荷時に形成される混合気の空気過剰率は、低負荷時に形成される混合気の空気過剰率よりも大きな値となるように(燃料の密度が小さくなるように)、燃料の噴射量が設定されている。すなわち、低負荷時に形成される混合気は、ピストンBが上昇したときに、混合気が圧縮されて自着火するような空気過剰率に設定されているが、高負荷時の混合気は、ピストンBの上昇による圧縮では自着火しないように、低負荷時の空気過剰率よりも大きな空気過剰率に設定されている。
【0104】
ここで空気過剰率とは、混合気中に含まれる空気量と燃料量との割合を示す指標である。混合気中で空気量と燃料量との割合を示す指標として良く使用される空燃比は、燃料量に対する空気量の重量比によって空気量と燃料量との比率を表しているのに対して、空気過剰率は、空気と燃料とが過不足無く燃焼するような割合を基準として、空気量と燃料量との比率を表現する。燃料の重量は燃料の種類によって変わるから、空気に対して同じように燃料を供給しても空燃比は異なった値を取るのに対し、空気過剰率を用いれば、燃料の種類によらずに空気量と燃料量との割合を表示することが可能である。例えば、どのような燃料を用いた場合でも、空気過剰率が「1」とは、空気と燃料とが、互いに過不足無く燃焼するような比率で混合気に含まれていることを意味している。また、空気過剰率が「2」とは、燃料を過不足無く燃やすために必要な割合の2倍の空気が混合気中に含まれていることを意味している。
【0105】
ピストンBが、ほぼ一番下まで下がるのに合わせて吸気バルブCを閉じ、次いでピストンBを上昇させて、燃焼室A内に形成した混合気の圧縮を開始する。低負荷時には、このままピストンBを上昇させて混合気を自着火させたが、高負荷時には、圧縮行程の半ば以降に、燃料噴射弁Eから追加の燃料を燃焼室A内に噴射する。こうして追加の燃料を噴射する結果、燃焼室A内には、吸気行程で形成した燃料の密度の薄い(すなわち空気過剰率の大きい)ままの混合気の領域と、追加の燃料が噴射されて燃料の密度が局部的に濃くなった(すなわち空気過剰率が小さくなった)混合気の領域とが形成される。ピストンBはそのまま上昇を続け、こうして燃焼室A内に形成された2つの領域は、互いに混じり合うだけの時間の無いまま圧縮される。図1の下段の圧縮行程では、吸気行程で形成した混合気中に燃料噴射弁Eから追加の燃料を噴射している様子を概念的に示している。図中に荒いハッチングを付した部分は、吸気行程中に形成された燃料の密度の薄い混合気を模式的に表したものである。また、燃料噴射弁Eから噴射された燃料噴霧は、細かいハッチングを付して表している。
【0106】
ピストンBがほぼ一番上に上がりきった頃合いの適切なタイミングを見計らって火花を飛ばし、追加の燃料が噴射された領域の混合気に点火してやる。すると、点火によって形成された火炎は、追加の燃料が噴射された領域に半ば選択的に燃え広がって、この領域の混合気を速やかに燃焼させる。詳細には後述するが、混合気が燃える速度は空気過剰率の影響を強く受けており、燃焼速度が最も速くなる最適な空気過剰率が存在する。前述したように吸気行程中に形成した混合気は、ピストンBの圧縮によっては自着火しない程度に大きな空気過剰率に設定されているので、追加の燃料が噴射された領域は、追加の燃料が届かなかった領域よりも燃焼し易い空気過剰率となっている。このことから、点火によって形成された火炎は、先ず初めに、追加の燃料が噴射された領域の混合気を選択的に且つ速やかに燃焼させる。こうして混合気の一部が速やかに燃焼すると、これに伴って燃焼室A内の圧力が速やかに上昇し、吸気行程中に形成した空気過剰率の大きな混合気の温度が上昇して自着火温度に達するため、その混合気がほぼ同時に自着火する。その結果、燃焼室A内に形成された全ての混合気を速やかに燃焼させることができる。
【0107】
こうして燃焼室A内の混合気が燃焼すると、ピストンBは押し下げられる方向に強い力を受けることになる。続く膨張行程では、ピストンBを降下させながら、ピストンBが受ける力を動力に変換して外部に出力する。そして、ピストンBが下がりきってしまうと、排気バルブDを開いてピストンBを上昇させ、排気バルブDから排気ガスを排出させる。ピストンBが上がりきって、ほぼ全ての排気ガスを排出したら、排気バルブDを閉じて排気行程を終了する。
【0108】
このように誘発自着火燃焼方式では、高負荷時には、ピストンの上昇によっては自着火しない空気過剰率の大きな混合気と、これよりは燃料の密度の濃い(空気過剰率の小さい)混合気とを形成する。そして、火花を飛ばして空気過剰率の小さな混合気を燃焼させ、燃焼による圧力上昇で空気過剰率の大きな混合気を圧縮して自着火させる。こうすれば、混合気の燃焼開始を火花を飛ばす時期によって制御することが可能であり、従って高負荷運転時であっても、燃焼開始時期を適切に制御してやることでノッキングの発生を回避することができる。
【0109】
火花によって点火されて初めに燃焼する混合気は、追加の燃料が噴射されて空気過剰率が小さくなっており速やかに燃焼するので、燃焼室内の圧力を速やかに上昇させ、吸気行程中に形成した混合気を効果的に圧縮して自着火させることができる。加えて、火花を飛ばして燃焼を開始するのは、ピストンがほぼ上がりきった付近の燃焼室容積が最も小さくなる付近であり、わずかな混合気を燃焼させるだけで燃焼室内圧力を効果的に上昇させることができる。すなわち、圧縮行程の半ば以降に追加で噴射する燃料は、全体の燃料量に対して僅かな分量で良く、大部分の燃料は、低負荷運転時と同様に自着火して燃焼させることができる。このため、大気汚染物質の排出量および燃焼消費量の大幅な低減という低負荷運転時に得られる効果をほとんど損なうことなく、高負荷条件で運転することが可能となる。
【0110】
尚、図1では、圧縮行程の半ば以降に追加の燃料を噴射して、この燃料に火花で点火することにより燃焼を開始する場合について説明した。しかし、追加の燃料を圧縮上死点付近で噴射して拡散燃焼させ、この燃焼による圧力上昇によって燃焼室内全体の混合気を自着火させることも可能である。拡散燃焼方式は、予混合圧縮自着火燃焼方式に比べれば、大気汚染物質の排出量や燃料消費量が多くなる。しかし上述した理由から、追加で噴射する燃料は僅かな分量に過ぎず、混合気の燃焼を開始するためにこの僅かな分量の燃料を拡散燃焼させたとしても、予混合圧縮自着火燃焼のメリットが大きく損なわれることはない。
【0111】
あるいは、ピストンが上がりきる少し手前で、燃焼室内に追加の燃料を噴射して燃焼を開始させても良い。追加の燃料が噴射された混合気は、ピストンの圧縮によって自着火する空気過剰率となるが、混合気が圧縮されてから自着火するまでには若干の時間の遅れ(着火遅れ時間)があるので、この着火遅れ時間を見越して適切なタイミングで追加の燃料を噴射してやることで、適切なタイミングで混合気の燃焼を開始することが可能となる。
【0112】
以上、概要のみを説明したが、誘発自着火燃焼方式は、予混合圧縮自着火燃焼方式では強いノッキングが発生して運転することができない高負荷条件においても、混合気の着火時期を適切に制御してやることでノッキングを発生させることなく運転することができる。しかも、大気汚染物質の排出量および燃料消費量を同時に且つ大幅に低減可能という予混合圧縮自着火燃焼方式の備えるメリットは、ほとんど損なわれることがない。以下では、このような優れた特長を備える誘発自着火燃焼方式のコンセプトについて詳しく説明する。
【0113】
A−2.予混合圧縮自着火燃焼方式の概要:
上述したように誘発自着火燃焼方式は、予混合圧縮自着火燃焼方式を基礎として、これに改良を加えることによって開発された燃焼方式である。すなわち、予混合圧縮自着火燃焼方式についての長年の研究の中で、大気汚染物質の排出量および燃料消費量が大幅に低減されるメカニズムおよび高負荷運転条件で強いノッキングが発生するメカニズムが明らかにされ、これら知見を基礎として、高負荷条件での運転を可能とすべく予混合圧縮自着火燃焼方式を改良発展させることによって完成されたものである。そこで、誘発自着火燃焼方式のコンセプトを説明するための準備として、予混合圧縮自着火燃焼方式の概要について説明する。
【0114】
前述したように予混合圧縮自着火燃焼方式では、燃焼室内に混合気を形成し、これをピストンで圧縮して自着火させる。ピストンによる圧縮および、その結果として発生する混合気の自着火は、内燃機関の運転中は勝手に起きることであってこれらを直接制御することは困難なので、燃焼の制御は、燃焼室内にどのような混合気を形成するかという点に大きく依存して行われることになる。図2は、予混合圧縮自着火燃焼方式において、混合気を形成するための基本的な考え方を概念的に示したブロック図である。以下、図2に従って、混合気形成の考え方について説明する。
【0115】
予混合圧縮自着火燃焼においては、先ず初めに内燃機関が出力すべきトルク(要求トルク)を設定する。要求トルクが決まると、この値に応じて、燃料量を決めることができる。すなわち、内燃機関は燃料を燃焼させて燃焼室内の圧力上昇させ、この圧力をトルクに変換して出力している。従って、トルクの発生量と燃料量とはほぼ一対一に対応しており、要求トルクが決まれば、これに応じて必要な燃料量を決めることができる。
【0116】
燃料量を決定したら、次に空気量を決定する。混合気を圧縮して自着火させるためには、空気と燃料とが所定の割合で混合していることが必要である。従って、燃料量を決めると、この燃料と混合すべき空気量を自ずから決定することができる。
【0117】
図3は、圧縮によって混合気を自着火させるための条件を概念的に示した説明図である。図の横軸は空気過剰率である。図3に示すように、混合気は空気過剰率が「1」、すなわち燃料と空気とが過不足無く燃焼するような割合で含まれているときが、最も自着火し易くなっている。そして、空気の割合を増やした場合(空気過剰率は増加)、あるいは燃料の割合を増やした場合(空気過剰率は減少)のいずれの場合においても、混合気を自着火させるためには圧力あるいは温度を、更に上昇させる必要が生じる。また、空気過剰率がある範囲を超えると、もはや混合気の圧力や温度をいくら上昇させても、自着火させることができなくなる。
【0118】
図3から明らかなように、混合気を燃焼室内で圧縮して確実に自着火させるためには、混合気の空気過剰率が大き過ぎてはならず、適切な値となっている必要がある。このことから、図2に示したように燃料量が決まれば、混合気が確実に自着火する空気過剰率となるような適切な空気量を決定することができる。
【0119】
こうして燃料量および空気量を決定したら、燃料噴射弁および吸気バルブの上流側に設けられたスロットルバルブを制御することにより、適切な量の燃料および空気を燃焼室内に供給する。燃焼室内に供給する燃料量は燃料噴射弁の駆動期間によって制御することができる。また空気量は、スロットルバルブの開度によって制御することができる。以上のようにして、適切な量の燃料および空気を供給することにより、要求トルクに応じた分量で適切な空気過剰率の混合気が燃焼室内に形成される。こうして燃焼室内に混合気を形成したら、後はピストンを上昇させるだけで混合気が自着火し、その結果、燃焼室内の圧力が上昇してトルクに変換される。以上のようにして、要求された値のトルクが動力として出力されることになる。
【0120】
図4は、ピストンを上昇させて燃焼室内の混合気を自着火させる様子を概念的に示した説明図である。混合気の自着火領域は、温度および圧力がともに高い領域に存在する。燃焼室内に形成された混合気は、ピストンの上昇によって断熱圧縮され、温度および圧力がともに上昇して非着火領域から自着火領域へときわめて短時間で変化する。この結果、所定の着火遅れ時間の後、燃焼室内の混合気がほぼ同時に自着火することになり、速やかに燃焼が完了する。
【0121】
図5は、燃焼室内で混合気が燃焼している様子を模式的に示した説明図である。図5(a)は、予混合圧縮自着火燃焼の場合を示している。また、比較のために、予混合火花点火燃焼の場合を図5(b)に、拡散燃焼の場合を図5(c)にそれぞれ概念的に示している。予混合圧縮自着火燃焼の場合は、燃焼室内の混合気を自着火領域の条件に変化させることで自着火させているから、燃焼室内の混合気がほぼ同時に自着火して燃焼し始める。図5(a)では、ほぼ同時に燃焼し始める領域をハッチングを付して概念的に表している。予混合自着火燃焼方式の有する優れた特性は、こうした燃焼形態を取るために生じるものである。その理由を説明するために、比較として、他の燃焼方式の燃焼形態についても簡単に説明しておく。
【0122】
予混合火花点火燃焼方式では、先ず初めに混合気中で火花を飛ばして燃焼を開始させる。火花で着火することにより、混合気は火炎を発しながら激しく燃焼して、次々と周囲の混合気を燃焼させる。図5(b)は、火炎を発しながら次々と周囲の混合気に燃え広がっている様子を概念的に表している。図中でハッチングを付して表した部分が火炎を発して燃焼している部分であり、図中に示した矢印は火炎が燃え広がる方向を示している。また、火炎が通過した背後には、混合気の燃焼によって生じた燃焼ガスが残される。
【0123】
拡散燃焼方式では、圧縮した高温の空気中に燃料噴霧を噴射して燃焼させる。図5(c)中では燃料液滴の1つ1つを小さな黒丸で模式的に表している。燃料液滴は高温高圧の空気中に噴射されるので、周囲の熱の影響で表面から燃料が蒸発して液滴の周囲に混合気が形成され、該混合気の中で条件の整った部分が自着火して燃焼が開始される。その結果、燃料液滴の周りに火炎面が形成される。図5(c)では、燃料液滴の周りに形成された火炎面を、ハッチングを付して表している。こうして火炎面が形成されると、中心にある燃料液滴では火炎面からの熱によって燃料の蒸発が促進され、火炎面に次々と燃料蒸気が供給される。
【0124】
以下では、図5(a)に示すような燃焼形態を取る予混合圧縮自着火燃焼方式が、他の燃焼方式に比べて、大気汚染物質の排出量および燃料消費量が大幅に低減される理由について説明する。予混合圧縮自着火燃焼方式がこのような優れた特性を示すのは、等容度の向上と、空気過剰率の増加、および比熱の低下の3つの要因によるものと考えられる。
【0125】
初めに図6を参照しながら、等容度が向上することによって得られる効果について説明する。図6は、内燃機関の圧縮行程から膨張行程にかけて、燃焼室内で混合気が受ける状態変化を示した説明図である。図6の横軸は燃焼室の容積Vである。燃焼室の容積Vは、ピストンが下がりきった位置にある時が最も大きくなり、逆にピストンが上がりきった位置にあるときが最も小さくなる。ピストンが下がりきった位置は、特に下死点と呼ばれる。また、ピストンが上がりきった位置は、特に上死点と呼ばれる。図6の縦軸は、燃焼室内の圧力Pを示している。このように、横軸に燃焼室の容積Vを取り、縦軸に燃焼室内の圧力Pを取って混合気の状態変化を表したグラフは、PV線図と呼ばれ、内燃機関の動作を表す線図として広く使用されている。ピストンの上死点付近では、細い実線の線図と、太い破線の線図の2つの線図が示されているが、細い実線は混合気の理想的な状態変化を表したものであり、太い破線は実際の状態変化を概念的に表したものである。
【0126】
先ず初めに、混合気が理想的な状態変化を行う場合(図6中で細い実線で示す場合)について説明する。ピストンが圧縮を開始する時点では、燃焼室内の混合気は図6中にa点で示した状態にある。すなわち、ピストンは下死点にあって、燃焼室内の圧力は最も低い状態となっている。ピストンが上昇し混合気が圧縮されるに従って、燃焼室容積Vは小さく、圧力Pは高くなっていき、ピストンが上がりきった時点では、図6中にb点で示した状態に変化する。
【0127】
混合気が理想的な状態変化を行う場合には、ピストンが上死点に達した瞬間に全ての混合気が燃焼し、圧力が上昇して図6中にc点で示した状態となる。ここでは、全ての混合気が瞬間的に燃焼する場合を考えているから、b点とc点とでは燃焼室の容積Vは変わらない。混合気が燃焼して発生した高圧の燃焼ガスがピストンを押し下げながら膨張し、これにつれて燃焼室内の圧力Pは低下し、燃焼室の容積Vは大きくなっていく。そして、ピストンが下死点に達した時点で、燃焼室内の燃焼ガスは、図6中のd点で示した状態となる。混合気は燃焼室内で燃焼することによって体積が増えているので、ピストンが下がりきった時点では、圧縮開始時点よりも依然として高い圧力となっている。ピストンが下死点に達した時点で排気バルブを開いてやると、燃焼室内に残っていた圧力が一気に低下する。その後、排気行程および吸気行程を経て、再び図6中のa点に示した状態となる。図6に示したPV線図では、説明が煩雑となることを避けるために、排気行程および吸気行程については図示を省略している。
【0128】
以上に示した理想的な場合は、図6中のa点からb点までの変化は、ピストンで仕事をしながら混合気を圧縮している行程であり、図6中のc点からd点までの変化は、混合気が燃焼して生じた燃焼ガスがピストンを押し下げて仕事をしている行程である。また、b点からc点までの行程およびd点からa点までの行程ではピストンは動いていないので、仕事のやりとりは生じていない。結局、理想的な場合には、混合気を燃焼させることにより、図6中でa点、b点、c点、d点で囲まれた面積に相当する仕事が動力として取り出されることになる。
【0129】
次に、太い破線で示した実際の混合気の状態変化について説明する。理想的な場合には、ピストンが上死点に達した瞬間に全ての混合気が燃焼するものとしたが、実際には瞬間的に全ての混合気を燃焼させることはできない。そこで、燃焼に要する時間を見越して、ピストンが上死点に達する少し前から燃焼を開始させる。その結果、ピストンが上死点に達する少し手前の、図6中でbr点と表示した時点から、燃焼室内の圧力が上昇し始める。ピストンが上死点に達しても混合気の一部は依然燃焼を完了していないから、燃焼室内の圧力はc点の圧力(ピストンの上死点位置で全ての混合気が燃焼するとしたときの圧力)には達しない。そして、ピストンが降下し始めても混合気の燃焼によって燃焼室内圧力は上昇を続け、図6中でcr点と表示した時点で全ての混合気が燃焼を完了する。
【0130】
このように、燃焼室内の全ての混合気を燃焼させるためには、実際にはある程度の時間を要するので、ピストンが上死点に達する手前から燃焼を開始させる必要がある。この結果、ピストンは、燃焼が開始されて圧力が上昇し始めた混合気を圧縮することになり、その分だけ動力として取り出すことのできる仕事が減少する。この減少分は、図6でb点付近にハッチングを付して示した面積に相当している。同様に、ピストンが上死点に達しても混合気の一部は燃焼を完了していないから、燃焼室内の圧力が十分に高くならないままピストンが降下し始めることになる。この結果、圧力が上がりきっていない分だけ、動力として取り出す仕事が減少する。この減少分は、図6でc点付近にハッチングを付して示した面積に相当している。結局、燃焼室内の混合気を一瞬で燃焼させることができないために、図6中でハッチングを付した面積に相当する分だけ、出力する動力が減少することになる。
【0131】
等容度とは、燃焼室内の混合気を如何に素早く燃焼させることができるかを表す指標である。等容度が高くなるほど、燃焼室内の混合気が短時間で燃焼し、その結果、図6に細い実線で示した理想的な状態変化に近づくので、動力として取り出すことのできる仕事量が増加する。
【0132】
図5(a)に示したように、予混合圧縮自着火燃焼方式では、混合気を圧縮することで、全ての混合気をほぼ同時に燃焼させることができる。この結果、短時間で燃焼を完了させることが可能である。比較として図5(b)に示した予混合火花点火燃焼方式では、火炎面を伝播させることで混合気を燃焼させる。また、図5(c)に示した拡散燃焼方式では、燃料液滴の表面から燃料を蒸発させながら燃焼させる。これらの燃焼方式に対して、予混合圧縮自着火燃焼方式では、全ての混合気をほぼ同時に燃焼させることができるので、遙かに短い時間で燃焼を完了させることができる。この結果、予混合圧縮自着火燃焼方式の内燃機関は、等容度を高くすることができるので、同じ燃料量の混合気を燃やしても多くの仕事を取り出すことが可能となり、延いては、その分だけ燃料消費量を低減させることが可能となる。以上説明したように、予混合圧縮自着火燃焼方式を採用することで燃料消費量を低減することが可能となるのは、等容度が向上することによる効果と考えられる。
【0133】
次に、空気過剰率が増加することによる効果について説明する。図7は、混合気の空気過剰率と燃焼速度との関係を概念的に示した説明図である。図示するように、混合気の燃焼速度は一般に空気過剰率に大きく依存し、空気過剰率「1」の付近で燃焼速度は最も速くなり、空気過剰率が大きくなるに従って燃焼速度は低下する特性を示す。以下に示す理由から、予混合圧縮自着火燃焼方式は、他の方式に比べて空気過剰率を大きな値に設定することができる。
【0134】
先ず、予混合火花点火燃焼方式について説明する。前述したように、この燃焼方式では、火炎を伝播させながら燃焼室内の混合気を燃焼させる(図5(b)参照)。火炎の伝播速度が遅くなると燃焼室内の混合気を燃焼させるために要する時間が長くなり、等容度が低下して動力として取り出すことのできる仕事量が大きく減少してしまう。空気過剰率と燃焼速度は図7に示すような関係があるから、空気過剰率をあまり大きな値に設定したのでは燃焼速度が低下し、その結果、火炎の伝播速度も低下する。この様な理由から、予混合火花点火燃焼方式では、空気過剰率をあまり大きな値に設定することが困難となっている。このため通常、予混合火花燃焼方式では燃焼速度が高く設定されており、従って、火炎面の中では速やかに燃焼を完了させながら火炎面が伝播していき、火炎面の背後には燃焼によって生じた燃焼ガスが残るといった燃焼形態となる。
【0135】
また、拡散燃焼方式では、燃料液滴の表面から燃料を蒸発させて、条件の整ったところで自着火させているので、実際に混合気が燃焼している部分の空気過剰率はほぼ「1」前後の値となる。すなわち、図3に示したように、混合気は空気過剰率「1」付近が最も自着火し易いので、燃料蒸気が高温高圧の空気中を拡散していき、空気過剰率が「1」付近となった部分で自着火するからである。
【0136】
このように、予混合火花点火燃焼方式あるいは拡散燃焼方式のいずれの場合も、それぞれの理由から、空気過剰率をあまり大きな値とすることができない。これに対して予混合圧縮自着火燃焼方式では、燃焼室内の混合気をほぼ同時に自着火させるので短時間で燃焼を完了させることができ、従って、自着火可能な範囲で空気過剰率を大きな値に設定することが可能である。
【0137】
空気過剰率を大きな値に設定することができれば、燃焼速度が低下するので、大気汚染物質の1つである窒素酸化物の排出量を大きく低減させることができる。更に、空気過剰率を大きな値に設定しておけば、大気汚染物質である一酸化炭素や炭化水素の排出量も大きく低減させることができる。以下、これらの理由について簡単に説明する。
【0138】
排気ガス中に含まれる窒素酸化物は、その大部分が空気中に含まれる窒素分子と酸素分子とが燃焼による熱の影響で反応することにより発生すると考えられている。すなわち、窒素分子は安定な化合物であることから、かなりの高温に晒されて初めて酸素と反応して窒素酸化物を生成するものと考えられている。ここで、燃焼速度が低く、混合気がゆっくりと燃焼する場合は、燃焼によって発生した熱の多くは周囲に伝わり、残った熱が、燃焼している部分の混合気の温度を上昇させる。特に、内燃機関の燃焼室内に形成された混合気には、「乱れ」と呼ばれる微細な流動が残存しており、この乱れの影響で燃焼熱は周囲にどんどん拡散していく。これに対して、燃焼速度が高い場合には、燃焼によって発生した熱が拡散する暇もなく燃焼が完了するので、混合気中で、正に燃焼している部分が極めて高温となる。空気中には窒素分子が多量に含まれているので、僅かな時間でも高温に達すると、窒素分子が酸素と反応して窒素酸化物が発生する。しかし、窒素分子が酸素と反応する温度に達しなければ、窒素酸化物はほとんど発生することはない。このように、予混合火花点火燃焼方式あるいは拡散燃焼方式では、空気過剰率をあまり大きな値とすることができないために、燃焼速度が速く、従って混合気が局所的に高温に晒される結果、どうしても窒素酸化物が発生してしまう。これに対して、予混合圧縮自着火燃焼方式では、空気過剰率を大きな値に設定することができるために、燃焼速度を抑えて混合気が局所的に高温に晒されることを回避することができる。その結果、窒素酸化物の排出量を他の燃焼方式に比べて大幅に減少させることが可能となるのである。
【0139】
また、空気過剰率を大きな値に設定すれば、一酸化炭素や炭化水素などの排出量も大きく減少させることができる。これは、次のような理由による。これらの化合物は、燃料に対して酸素が不足している条件で燃焼させたときに、燃料が酸素と十分に反応できないまま排出されたものと考えることができる。空気過剰率を大きな値に設定すれば、燃料に対して酸素が十分に存在している条件で燃焼させることになる。このため原理的には、一酸化炭素や炭化水素などの排出量を大幅に減少させることが可能となる。
【0140】
予混合圧縮自着火燃焼方式が優れた特性を備える3番目の要因は、比熱が低下することによる効果であると考えられる。この効果も、空気過剰率を大きな値に設定可能なことと密接に関係している。予混合圧縮自着火燃焼方式では、空気過剰率を大きな値に設定することで、酸素が十分に存在する条件で燃焼させることができ、従って、燃料を二酸化炭素および水蒸気の状態まで完全に酸化することができる。これに対して、他の燃焼方式では、空気過剰率をあまり大きな値とすることができないので、どうしても一部の燃料は完全には酸化されずに一酸化炭素あるいは水素分子を生成してしまう。つまり、混合気中には多少の燃料の密度のばらつきがあるので、例え混合気全体としては酸素が余っている場合でも、局所的には酸素不足で燃焼する領域が発生し、この領域では燃料を十分に酸化することができないからである。
【0141】
この様な理由から、予混合圧縮自着火燃焼方式では、燃料を完全に二酸化炭素や水蒸気に変換することができるのに対して、他の燃焼方式では、一部の燃料が一酸化炭素や水素分子に変換されてしまう。ここで、二酸化炭素や水蒸気は3つの原子が集まって形成された三原子分子であり、一酸化炭素や水素分子は2つの原子が集まって形成された二原子分子である。統計熱力学の教えるところによれば、多原子分子の気体に加えられたエネルギは、分子の並進運動と、分子の回転運動、および分子間の振動とに分配され、このうち並進運動に分配されたエネルギが、熱となって気体の温度を上昇させる。三原子分子は二原子分子よりも、回転運動の自由度および振動の自由度が多いので、これらに分配される割合が多くなり、並進運動に分配されるエネルギが少なくなる。このため、三原子分子は二原子分子よりも温度が上がり難い、すなわち比熱の値が大きくなっている。
【0142】
上述したように、予混合火花点火燃焼方式あるいは拡散燃焼方式では、燃料の一部が比熱の小さな二原子分子に変換されるのに対して、予混合圧縮自着火燃焼方式ではほとんど全ての燃料を、比熱の大きな三原子分子に変換することができる。この結果、混合気中で実際に燃焼している部分の温度上昇が抑制されるので、窒素酸化物が発生し難くなっているものと考えられる。
【0143】
Aー3.誘発自着火燃焼方式による負荷範囲の拡大原理:
以上に説明したように、予混合圧縮自着火燃焼方式は、他の燃焼方式に比べて、大気汚染物質の排出量および燃料消費量を同時に、しかも大幅に低減することができるという優れた特性を備えている。しかし、その一方で、少し負荷が高くなるだけで強いノッキングが発生してしまうという問題を有しており、使用可能な負荷範囲を拡大しなければ、実際に内燃機関に適用することは困難である。予混合圧縮自着火燃焼方式のこのような問題を克服すべく、本願の発明者は、誘発自着火燃焼方式という新たな燃焼方式を開発した。この新たな燃焼方式によれば、予混合圧縮自着火燃焼方式の有する優れた特性をほとんど犠牲にすることなく、高負荷運転時のノッキングの発生を確実に回避することができる。以下では、誘発自着火燃焼方式において高負荷運転時のノッキング発生を回避するメカニズムについて説明するが、その準備として、予混合圧縮自着火燃焼方式では負荷を増加させると強いノッキングが発生するメカニズムについて簡単に説明しておく。
【0144】
図8は、予混合圧縮自着火燃焼方式において、負荷を増加させようとしたときの制御の流れを概念的に示したブロック図である。負荷を増加させる場合、先ず要求トルクの設定値を増加させる。すると、要求トルクに応じて定まる燃料量が増加し、これ応じて空気量も増加する。こうして、要求トルクの増加量に応じて、燃焼室内に形成される混合気量が増加する。前述したように、予混合圧縮自着火燃焼方式では、ピストンを上昇させて、燃焼室内に形成された混合気を自着火させる。
【0145】
図9は、ピストンを上昇させて、混合気を自着火させる様子を概念的に示した説明図である。図中の実線で囲った矢印は、低負荷条件時に混合気が圧縮されて自着火領域に移行する様子を示している。上述したように、負荷を増加させると燃焼室内の混合気量も増加するから、その分だけ混合気は高い圧力の状態から圧縮されることになる。図9中で破線で囲った矢印は、負荷を増加させたときに、混合気が圧縮されて自着火領域に移行する様子を概念的に示したものである。図9で、実線で囲った矢印と破線で囲った矢印とを比較すれば明らかなように、負荷を増加させれば、混合気はより少ない圧縮で自着火領域に浸入して、容易に自着火することになる。
【0146】
図10は、ピストンを上昇させて混合気を圧縮自着火させたときの熱発生率および、それによる燃焼室内の圧力上昇率の計測結果を、クランク角θに対して概念的に示した説明図である。ここで、熱発生率とはクランク角あたりの熱の発生量を示す数値であり、圧力上昇率とはクランク角あたりの圧力の上昇量を示す数値である。また、図中の実線は低負荷条件での計測結果を示し、破線は高負荷条件での計測結果を示している。図10に示されているように、高負荷条件では低負荷条件よりも早い時期から熱の発生が始まる。これは、負荷を増加させると、より少ない圧縮で混合気が自着火することに対応した現象である。また、高負荷条件では、低負荷条件よりも熱の発生率自体も大きくなっている。これは、負荷の増加に伴って、燃料量が増加していることに対応する。
【0147】
このように負荷を増加させるに従って、熱の発生時期が早くなり、しかも熱の発生量も増加するから、燃焼室容積が小さい時期により多くの熱が発生することになる。その結果として、燃焼室内の圧力が急激に上昇する。図10には、熱発生率の下側に、圧力上昇率を対応させて示している。図中の実線と破線とを比較すれば明らかなように、負荷を増加させると圧力上昇率のピーク値が急激に増加している。一般に、ノッキングの発生は、圧力上昇率のピーク値と強い相関があることが知られており、圧力上昇率のピーク値が所定の許容値を超えると、強いノック音が発生する。このような理由から、予混合圧縮自着火燃焼方式では、負荷を増加させると強いノッキングが発生するものと考えられる。
【0148】
こうした知見に基づいて開発された誘発自着火燃焼方式では、負荷に応じて燃焼形態を切り換える。図11は、負荷に応じて、低負荷側の燃焼形態と高負荷側の燃焼形態とを切り換えている様子を概念的に示した説明図である。そして、低負荷側では、基本的に、上述した予混合圧縮自着火燃焼方式と同じ形態で混合気を燃焼させる。低負荷条件であれば、予混合圧縮自着火燃焼方式と同じ燃焼方式を採用しても、ノッキングを発生させることなく内燃機関を運転することができる。
【0149】
図12は、誘発自着火燃焼方式の高負荷側の燃焼形態を概念的に示す説明図である。高負荷条件では、燃焼室内を2つの領域に分けて混合気を形成する。一方の領域には、低負荷条件で形成する混合気よりも空気過剰率の大きな混合気を形成する。図3に示したように、空気過剰率が大きくなると混合気は自着火し難くなるから、高負荷時には、ピストンが上昇して圧縮されても自着火しない程度に混合気の空気過剰率を大きくしておくのである。図12では、大きな空気過剰率に設定されている領域を、一重のハッチングを付して表している。また、他方の領域には、この領域よりも空気過剰率の小さな混合気を形成する。図12では、空気過剰率が小さな値に設定されている領域を、二重のハッチングを付して表している。このように、燃焼室内に、2つの領域に分かれた混合気を形成する方法については後述する。
【0150】
こうして形成した空気過剰率の小さな領域(二重のハッチングを付した領域)の混合気に、火花を飛ばして点火する。図7に示したように、空気過剰率が小さくなり「1」に近づくほど燃焼速度は速くなる。更に、空気過剰率が小さくなっている領域は、燃焼室の一部分の小さな領域に過ぎないので、この領域の混合気は、点火後直ちに燃焼が完了する。あるいは、火花で点火するのではなく、ピストンで更に圧縮することにより、空気過剰率の小さな領域の混合気を自着火させても良い。いずれの方法によっても、この領域の混合気は速やかに燃焼して、燃焼室内の圧力を上昇させる。このように、ピストンの圧縮による圧力上昇に加えて、空気過剰率の小さな領域の混合気を燃焼させて更に圧力を上昇させてやれば、燃焼室内の残余の混合気、すなわちピストンによる圧縮では自着火しない程度に大きな空気過剰率に設定された領域(一重のハッチングを付した領域)の混合気を自着火させることができる。図12中で、二重のハッチングを付した領域から一重のハッチングを付した領域に向かって表示された黒い矢印は、空気過剰率の小さな領域の混合気が燃焼して、空気過剰率の大きな混合気を圧縮している様子を模式的に表したものである。
【0151】
このように誘発自着火燃焼方式は、高負荷時には、燃焼室内に、空気過剰率の異なる2つの領域に分けて混合気を形成し、空気過剰率の小さな領域の混合気が燃焼したときの圧力上昇を利用して、空気過剰率の大きな領域の混合気を自着火させる。こうすれば、空気過剰率の小さな領域での燃焼開始時期を制御することで、燃焼室内の全ての混合気の燃焼時期を制御することができ、延いては高負荷条件でもノッキングを発生させることなく内燃機関を運転することが可能となる。
【0152】
また、高負荷条件の誘発自着火燃焼方式は、空気過剰率の小さな混合気を燃焼させて、燃焼室内の圧力を上昇させている。空気過剰率の小さな混合気は燃焼速度が速く、着火後直ちに燃焼を完了して空気過剰率の大きな混合気を自着火させることができる。このため、空気過剰率の大きな混合気の自着火時期を精度良く制御することが可能となる。
【0153】
更に、空気過剰率の小さな混合気を着火させるタイミングでは、ピストンは上死点付近にあって燃焼室容積が小さくなっているので、僅かな発熱で燃焼室内圧力を効果的に上昇させることができる。このため、空気過剰率の小さな混合気は、燃焼室内の小さな領域に形成すれば足り、燃焼室内のほとんどの領域には、空気過剰率の大きな混合気とすることができる。すなわち、高負荷条件下の誘発自着火燃焼方式は、燃焼室内の一部領域の混合気をどのような方式で燃焼させるにせよ、大部分の混合気については、低負荷条件と同様に空気過剰率が大きな状態で圧縮自着火させていることになる。このことから、誘発自着火燃焼方式は、低負荷条件時に得られる優れた特性をほとんど損なうことなく、高負荷条件下でも内燃機関を運転することが可能となる。
【0154】
ここで、図13を参照しながら、高負荷条件でのノッキングの発生を回避するメカニズムについて更に詳しく説明する。図13は、誘発自着火燃焼方式の内燃機関を高負荷条件下で運転させて、熱発生率および圧力上昇率を計測した結果を、クランク角θに対して示した説明図である。また、参考として、予混合圧縮自着火燃焼方式の内燃機関についての計測結果も破線で示してある。
【0155】
予混合圧縮自着火燃焼方式では、高負荷条件になると、ピストンが上死点に達する前に燃焼室内の混合気がほぼ同時に自着火してしまう(図8、図9参照)。その結果、大きな圧力上昇率が発生して強いノッキングが生じる。
【0156】
これに対して、実線で示した誘発自着火燃焼方式では、混合気は大きな空気過剰率に設定されており、ピストンによる圧縮では自着火することがない。そして、適切なタイミングで空気過剰率の小さな領域の混合気を燃焼させる。具体的には、この領域の混合気に点火プラグなどを用いて火花を飛ばしても良いし、あるいは燃焼させようとするタイミングを狙って燃料噴霧を噴射し、混合気を自着火させたり、あるいは拡散燃焼させても良い。図13では、こうして空気過剰率の小さな混合気を燃焼させたことによる熱発生を、熱発生率を示すグラフ中にハッチングを付して表している。
【0157】
こうして混合気の一部を燃焼させることにより、燃焼室内の圧力が上昇し、燃焼室内の残余の混合気を自着火させる。前述したように、燃焼室内の大部分の領域を占める混合気は、空気過剰率が大きな値に設定されているので、低負荷条件下よりも更にゆっくりと燃焼する(図7参照)。また、空気過剰率の小さな混合気を燃焼させるタイミングを適切に選んでやれば、熱発生率が最大となるタイミングを、ピストンが上死点を過ぎて燃焼室容積が大きくなる時期に設定することができる。この様な理由から、図13の熱発生率の計測結果に示されているように、誘発自着火燃焼方式の熱発生率は予混合圧縮自着火燃焼方式の熱発生率に比べて、熱発生の開始時期が遅くなり、最大熱発生率が小さくなり、更に熱発生期間が長くなっている。そして、このような熱発生率を反映して、誘発自着火燃焼方式では圧力上昇率が抑制され、ノッキングの発生を確実に回避することが可能となる。
【0158】
以上に説明したように、誘発自着火燃焼方式は、低負荷条件では燃焼室内に均一な混合気を形成して圧縮自着火させ、高負荷条件では、空気過剰率の小さな混合気を燃焼させることで、空気過剰率の大きな混合気を圧縮自着火させるという燃焼コンセプトである。このような燃焼コンセプトを採用した内燃機関は、高負荷運転条件でもノッキングを発生させることなく運転することができ、しかも全ての負荷条件において、大気汚染物質の排出量を大きく低減させ、加えて燃料消費量も大きく減少させることが可能となる。以下では、こうした誘発自着火燃焼方式を内燃機関に適用した具体例を、各種実施例に基づいて説明する。
【0159】
B.第1実施例:
誘発自着火燃焼方式は、いわゆる2サイクル機関あるいは4サイクル機関など種々の方式の内燃機関に適用することができるが、第1実施例では、現在もっとも広く使用されている4サイクル機関に適用した場合について説明する。
【0160】
B−1.装置構成:
図14は、4サイクル式のガソリンエンジン10の構成を概念的に示した説明図である。4サイクル式のガソリンエンジン10は、前述したように吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程の4つの行程を繰り返しながら燃焼室内で混合気を燃焼させて、そのときに発生する燃焼熱を機械的仕事に変換して動力として出力する。図14でエンジンの中央に「#1」,「#2」,「#3」,「#4」と表示されている丸形は、それぞれ燃焼室を模式的に示したものである。各燃焼室には、吸入空気を取り入れるための吸気通路12と、燃焼室内に燃料を噴射する燃料噴射弁14と、噴射した燃料に点火するための図示しない点火プラグと、燃焼室内で発生した燃焼ガスを排出するための排気通路16などが接続されている。
【0161】
吸気通路12の上流側にはエアクリーナ20が設けられており、エアクリーナ20には空気中の異物を除去するためのフィルタが内蔵されている。エンジンに吸入される空気は、エアクリーナ20を通過する際にフィルタで異物を除去された後、燃焼室内に吸入される。また、吸気通路12には、スロットル弁22が設けられており、電動アクチュエータ24を駆動してスロットル弁22を適切な開度に制御することで、燃焼室内に吸入される空気量を制御することができる。
【0162】
各燃焼室に設けられた燃料噴射弁14には、燃料ポンプ18で高圧に加圧された燃料が供給されている。また、燃焼室には燃料噴射弁14に加えて、燃焼室内の圧力を検出する筒内圧センサ31を搭載することも可能である。更には、燃焼室を構成する部材の適切な箇所に、ノックの発生を検出する周知のノックセンサ33を搭載することも可能である。
【0163】
排気通路16の下流には、排気ガスに含まれる大気汚染物質を浄化するための触媒26が設けられている。上述したように、誘発自着火燃焼方式を採用すれば、排気ガス中の大気汚染物質を大幅に減少することができるが、僅かに含まれる汚染物質も、排気通路に設けた触媒26で完全に浄化することが可能となっている。また、燃焼室内に形成された混合気の空気過剰率を検出する空気過剰率センサ28を排気通路16に設けることとしても良い。空気過剰率センサ28は、排気ガスに含まれる酸素濃度を検出することにより、燃焼室内に形成された混合気の空気過剰率を検出することができる。あるいは、排気ガス中の窒素酸化物、一酸化炭素、炭化水素系化合物の濃度をそれぞれ検出するNOxセンサ25、COセンサ27、HCセンサ29をそれぞれ設けることとしても良い。
【0164】
ガソリンエンジン10の動作は、エンジン制御用ユニット(以下、ECU)30によって制御されている。ECU30は、CPUや、RAM、ROM、A/D変換素子、D/A変換素子などをバスで相互に接続して構成された周知のマイクロコンピュータである。ECU30は、エンジン回転速度Ne やアクセル開度θacを検出し、これらに基づいてスロットル弁22を適切な開度に制御する。エンジン回転速度Ne は、図示しないクランクシャフトの先端に設けたクランク角センサ32によって検出することができる。アクセル開度θacは、アクセルペダルに内蔵されたアクセル開度センサ34によって検出することができる。また、ECU30は、燃料噴射弁14を適切なタイミングで駆動することにより、燃焼室内に適切な量の燃料を適切なタイミングで供給する。更に、排気通路16に空気過剰率センサ28が設けられている場合には、空気過剰率センサ28からの出力に基づいて、燃料噴射弁14の駆動時間あるいはスロットル弁22の開度を制御することで、燃焼室内に形成する混合気の空気過剰率が適切な値となるように制御することも可能である。
【0165】
排気通路16に、NOxセンサ25、COセンサ27、HCセンサ29などが設けられている場合には、ECU30は、これらの出力を受け取って、それぞれ排気ガス中の窒素酸化物、一酸化炭素、炭化水素系化合物の濃度を検出する。また、燃焼室内に筒内圧センサ31が設けられている場合は、ECU30は筒内圧センサで検出した圧力を解析することにより、燃焼室内での熱発生量やノックの発生を検出する。あるいはノックセンサ33が設けられている場合も、ECU30は、ノックセンサ33からの信号を検出することで、ノックの発生を検出することができる。
【0166】
図15は、任意の燃焼室の中心でガソリンエンジン10の横断面を取って、燃焼室の構造を概念的に示した説明図である。ガソリンエンジン10の燃焼室は、シリンダブロック140内に設けられた円筒形のシリンダ142と、シリンダ142内を上下に摺動するピストン144と、シリンダブロックの上部に設けられたシリンダヘッド130などによって形成されている。シリンダヘッド130には、吸入空気が流入する吸気ポートを開閉する吸気バルブ132と、排気ガスが流出する排気ポートを開閉する排気バルブ134と、点火プラグ136が設けられている。吸気バルブ132および排気バルブ134は、それぞれに周知のカム機構によって駆動され、吸気ポートおよび排気ポートを開閉する。また、燃料噴射弁14もシリンダヘッド130に設けられており、燃料噴射弁14から燃料噴霧を燃焼室内に直接噴射することが可能となっている。
【0167】
尚、図15では、燃料噴射弁14は排気ポートの下方に設けられているが、吸気ポートの下方に設けることとしても良い。吸気ポートの下方に設けてやれば、燃料噴射弁14の上方を排気ガスが流れることがないので、燃料噴射弁14が高温に晒され難いという利点がある。一方、排気ポートは吸気ポートに比べてポートの断面積が小さく、更にポート形状の自由度も高いので、燃料噴射弁14を排気ポートの下方に設けることとすれば、燃料噴射弁14を適切な位置に搭載し易いという利点がある。
【0168】
ピストン144は、コネクティングロッド146を介してクランクシャフト148に接続されている。ピストン144は、クランクシャフト148の回転に応じてシリンダ142内を上下に摺動する。また、ピストン144の頂面は、燃料噴射弁14から噴射された燃料噴霧を点火プラグ136の近傍に導くために、特殊な形状に形成されている。
【0169】
B−2.エンジン制御の概要:
以上のような構成を有するガソリンエンジン10は、ECU30の制御の下で、誘発自着火燃焼を行いながら運転される。図16は、ECU30が行うエンジン運転制御ルーチンの流れを示したフローチャートである。以下、フローチャートに従って説明する。
【0170】
エンジン制御ルーチンを開始すると、先ず初めにECU30は、ガソリンエンジン10が発生させるべき目標出力トルクを算出する処理を行う(ステップS100)。目標出力トルクは、アクセル開度センサ34で検出したアクセル開度θacに基づいて算出する。すなわち、エンジンの操作者は、エンジンの出力トルクを増やしたいと思った場合はアクセルペダルを踏み増す操作を行う。また、エンジンからトルクを発生させる必要がないと考えた場合は、アクセルペダルを全閉状態とする。従って、アクセルペダルの操作量はエンジン操作者が要求しているトルクを代表していると考えることができる。ステップS100では、こうした原理に基づいて、アクセル開度θacからエンジンが出力すべき目標トルクを算出する。
【0171】
次いで、ECU30はエンジン回転速度Ne を検出する(ステップS102)。エンジン回転速度Ne は、クランク角センサ32の出力に基づいて算出することができる。
【0172】
目標出力トルクおよびエンジン回転速度を検出したら、制御方式を設定する処理を行う(ステップS104)。前述したように、誘発自着火燃焼方式は、エンジン負荷によって燃焼形態が異なっているので、いずれの燃焼形態に対応させた制御を行うかを設定するのである。制御方式の設定は、図17に示すようなエンジン回転速度と目標出力トルクとをパラメータとするマップを参照することによって行う。マップには、エンジン回転速度および目標出力トルクの組合せに応じて、低負荷条件の制御を行うか、高負荷条件の制御を行うかが予め設定されている。
【0173】
制御方式を設定したら、続いて燃焼室内に噴射する燃料量および吸入空気量を算出する処理を行う(ステップS106)。これらの値の算出も、低負荷条件あるいは高負荷条件のそれぞれに用意されているマップを参照することによって行う。
【0174】
図18は、低負荷条件用のマップを概念的に示した説明図である。低負荷条件用のマップは、吸入空気量のマップと燃料噴射量のマップの2つのマップが用意されており、それぞれのマップには、エンジン回転速度と目標出力トルクとに応じて、それぞれ適切な吸入空気量および燃料噴射量が設定されている。これらの設定値は、図2に示した考え方を基礎として、実験的な手法により求められた適切な値が設定されている。尚、低負荷条件用のマップは、目標出力トルクが小さな条件で参照されるマップであり、ある目標出力トルク以上の領域では、燃料噴射量のマップ値も吸入空気量のマップ値もクリップされた値が設定されている。理屈の上からは、低負荷条件用のマップは目標出力トルクが小さな領域のみマップ値が設定されていれば足りるが、何らかの原因で低負荷条件用の制御中に、目標出力トルクの高い領域を参照した場合を考慮して、一応マップ値を設定されている。但し、ノックが発生しないように、小さな目標出力トルクのマップ値にクリップされている。
【0175】
図19は、高負荷条件用のマップを概念的に示した説明図である。高負荷条件用のマップは、吸入空気量のマップと主燃料噴射量のマップと副燃料噴射量のマップとの合計3つのマップが用意されている。それぞれのマップには、エンジン回転速度と目標出力トルクとに応じて、吸入空気量、主燃料噴射量、副燃料噴射量がそれぞれ設定されている。これらのマップの設定値も、図2に示した考え方を基礎として、実験的な手法により求められた適切な値が設定されている。
【0176】
図16のステップS106では、このように対応するマップを参照しながら、低負荷条件用の制御時には、吸入空気量および燃料噴射量を算出し、高負荷条件用の制御時には、吸入空気量および主燃料噴射量、副燃料噴射量をそれぞれ算出する処理を行う。
【0177】
こうして燃料噴射量および吸入空気量を算出したら、算出した分量の空気が各燃焼室に吸入されるように、スロットル弁22の開度を制御する処理を行う(ステップS108)。スロットル弁の開度の制御は周知の種々の方法で行うことができる。例えば、吸気通路12に設けたエアフローセンサで吸入空気量を計測し、適切な空気量となるようにスロットル弁22の開度を制御すればよい。あるいは、エアフローセンサを用いるのではなく、スロットル弁22の下流側の吸気通路内圧力を計測して、吸入空気量を算出してもよい。簡便には、エンジン回転数に応じて適切な空気量が得られるようなスロットル開度を予めマップに設定しておき、このマップを参照してスロットル開度を設定することとしてもよい。
【0178】
ECU30は、スロットル制御に続いて燃料噴射制御を行う(ステップS110)。燃料噴射制御では、ステップS106で算出した燃料噴射量に基づいて燃料噴射弁14を駆動することにより、ピストン144の動きに合わせて、適切なタイミングで適切な量の燃料を燃焼室内に供給する。燃料噴射制御の詳細については、別図を用いて後述する。
【0179】
燃料噴射制御を行ったらECU30は、実行中の制御方式が高負荷条件用の制御か否かを判断する(ステップS112)。高負荷条件用の制御方式である場合は(ステップS112:yes)、燃焼室内の混合気を燃焼させるためには点火プラグで一部の混合気に点火させる必要があるので、続く点火時期制御(ステップS114)を行う。また、高負荷条件用の制御方式でない場合は(ステップS112:no)、燃焼室内の混合気をピストンによる圧縮のみで自着火させることができるので、点火時期制御はスキップする。
【0180】
点火時期制御では、ピストンが上死点近傍に位置する所定のタイミングで、ECU30の制御の下、点火プラグ136から火花を飛ばして混合気に点火する。点火時期制御の詳細についても、別図を用いて後述する。
【0181】
こうして混合気を燃焼させると、燃焼室内の圧力が急激に上昇し、ピストン144を下方向に押し下げようとする。この力は、コネクティングロッド146を介してクランクシャフト148に伝えられ、クランクシャフト148でトルクに変換されて動力として出力される。
【0182】
次いで、ECU30は、エンジンを停止する旨が設定されたか否かを確認し(ステップS116)、停止する旨が設定されていなければステップS100に戻って続く一連の処理を繰り返す。エンジンを停止する旨が設定された場合は、そのままエンジン運転制御ルーチンを終了する。こうして、ガソリンエンジン10は、ECU30の制御の下で、図16の制御ルーチンに従って運転され、操作者の設定に応じたトルクを出力する。
【0183】
B−3.第1実施例における混合気形成および燃焼形態:
エンジン運転制御ルーチンの中で行われる燃料噴射制御および点火時期制御の内容について説明する。図20は、ECU30が、ピストン144の動きに合わせて適切なタイミングで燃料を噴射し、適切なタイミングで点火している様子を概念的に示した説明図である。図20(a)は吸気行程中の燃焼室内部の様子を示し、図20(b)は圧縮行程の半ば以降の燃焼室内部の様子を、図20(c)は圧縮上死点付近の燃焼室内部の様子を示している。
【0184】
燃料噴射制御では、吸気行程の前半のタイミングで燃料噴射弁14の駆動を開始して、燃焼室内に燃料噴霧を噴射する。図20(a)は、燃料噴射弁14から燃焼室内に燃料噴霧150が噴射されている様子を模式的に表している。燃料噴射量は、駆動期間を変えることによって制御する。ECU30は、具体的には次のような処理を行う。先ず、先に求めておいた燃料噴射量に基づいて、燃料噴射弁14の駆動期間を算出する。算出に用いる燃料噴射量は、低負荷条件用の制御中であれば、図18のマップを参照して求めた燃料噴射量であり、高負荷条件用の制御中であれば、図19のマップを参照して求めた主燃料噴射量である。こうして算出した駆動期間から、燃料噴射弁14の駆動開始タイミングと駆動終了タイミングとを決定する。尚、ここでは、駆動開始タイミングは固定されているので、燃料噴射弁の駆動期間から直ちに駆動終了タイミングを決定することができる。もちろん、エンジンの運転条件に合わせて、駆動開始タイミングを変更することも可能である。誘発自着火燃焼方式を4サイクル式のエンジンに適用した場合、吸気行程中に燃料を噴射する時期は、通常、吸気上死点から吸気上死点後90度の範囲内で適切な期間に設定されることが多い。
【0185】
吸気行程中は、シリンダ内で降下するピストン144に吸引されて、吸気バルブ132から吸入空気が流入してくるので、燃料噴射弁14から噴射された燃料噴霧は、吸入空気と混合しながら燃焼室内に流入する。また、吸入空気が勢いよく流入することに加えて、流入後もピストンが降下するために、吸入された空気と燃料噴霧は燃焼室内で攪拌されて、ピストンが下死点に達する頃には、燃料と空気とがほぼ均一に混ざり合った混合気が形成される。
【0186】
圧縮行程ではピストン144を上昇させることにより、こうして形成された混合気を圧縮する。エンジンが低負荷条件で制御されていれば、このまま圧縮を続けることにより、ほぼ上死点付近で混合気を自着火させて、速やかに燃焼させることができる。換言すれば、低負荷条件時は、ピストン144による圧縮だけで自着火するような空気過剰率となるように、燃料噴射量と吸入空気量とが設定されている。本実施例では、低負荷条件で形成される混合気の空気過剰率は、1.2〜3付近の値に設定されている。尚、ガソリンエンジン10は圧縮比14に設定されている。混合気の空気過剰率は、エンジンの圧縮比に応じて適した値に設定される。誘発自着火燃焼方式を4サイクル式の内燃機関に適用した場合、実質的な圧縮比は主に11〜17の範囲から選択され、これに応じて、低負荷条件で形成する混合気の空気過剰率は、1.2〜3の範囲から主に選択される。
【0187】
これに対して、高負荷条件で制御されている場合は、ピストンによる圧縮では自着火しないように、主燃料噴射量は吸入空気量に対して少なめに、すなわち混合気の空気過剰率が大きな値となるように設定されている。本実施例では、高負荷条件の時に、吸入行程中に形成する混合気の空気過剰率は、2〜3.5の範囲に設定されている。もちろん、ガソリンエンジン10の圧縮比の設定が高くなれば、空気過剰率の設定はより大きな値に変更される。この様に、ピストンによる圧縮だけでは自着火しない空気過剰利に設定されている混合気を自着火させるべく、圧縮行程中に追加の燃料噴霧を噴射する。
【0188】
図20(b)は、圧縮行程の半ば以降のタイミングで、燃料噴射弁14から追加の燃料噴霧152を噴射している様子を概念的に示した説明図である。尚、図20(b)では燃焼室全域に粗いハッチングを付しているのは、燃焼室内には吸気行程中に噴射された燃料噴霧が混合気を形成していることを模式的に表したものである。燃料噴射量は、吸気行程中の燃料噴射と同様に、燃料噴射弁14の駆動期間を変更することで調整することができる。具体的には、図16に示したエンジン運転制御ルーチンのステップS106で求めておいた副燃料噴射量に基づいて、燃料噴射弁14の駆動期間を算出し、得られた駆動期間から駆動開始タイミングを決定する。本実施例では、圧縮行程での燃料噴射については、燃料噴射弁の駆動終了タイミングが固定されており、駆動期間から駆動開始タイミングを容易に決定することができる。尚、誘発自着火燃焼方式を4サイクル式のエンジンに適用した場合、圧縮行程中に燃料を噴射する期間は、通常、圧縮上死点前90度から圧縮上死点前30度の範囲内で、より好ましくは、圧縮上死点前60度から圧縮上死点前30度の範囲内で、適切な期間に設定されることが多い。
【0189】
圧縮行程の後半で噴射された燃料噴霧は、ピストン144の頂面に衝突し、噴霧の方向を変えて点火プラグ136の近傍に導かれる。ピストン144の頂面は、衝突した燃料噴霧を効率よく点火プラグ136の近傍に導くことができるように、予め所定の形状に設定されている。こうして、圧縮行程後半に噴射された燃料噴霧152は、周辺にある空気過剰率の大きな混合気と混合しながら点火プラグ136に向かって移動し、圧縮上死点付近では点火プラグ136の近傍に空気過剰率の小さな混合気を形成する。誘発自着火燃焼方式を4サイクル式の内燃機関に適用した本実施例では、このようにして点火プラグ136の近傍に形成される混合気の空気過剰率は、1.3〜1.7の範囲から選択された適切な値に設定されている。換言すれば、エンジン運転制御ルーチンのステップS106で参照される副燃焼噴射量用のマップには、この様な空気過剰率の混合気が形成されるように、適切なマップ値が予め設定されている。尚、点火プラグ136の近傍に形成される混合気の空気過剰率は、2サイクル式の内燃機関でも、ほぼ同様の値を好適に適用することができる。
【0190】
尚、圧縮行程の後半に噴射した燃料噴霧は、噴射後、圧縮上死点までの比較的短い期間で混合気中に分散し、空気過剰率の小さな混合気を形成しなければならない。このため、できるだけ微粒化された燃料噴霧を噴射することができるように、燃料噴射弁14には、ホローコーン型(中空円錐型)の燃料噴射弁、フルコーン型(中実円錐型)の燃料噴射弁、あるいは多孔衝突型の燃料噴射弁などを好適に用いることができる。
【0191】
次いで、圧縮上死点付近の適切なタイミングで、点火プラグ136から火花を飛ばして、空気過剰率の小さな混合気に点火する。図20(c)は、点火プラグ136で点火する様子を概念的に示している。図示されているように、点火プラグ136の近傍には空気過剰率の小さな混合気154が形成されている。この混合気154は、圧縮行程の後半に噴射された燃料噴霧152によって形成されたものである。この混合気154は、空気過剰率が小さいため燃焼速度が速く、点火すると速やかに燃焼を完了する。その結果、燃焼による圧力で燃焼室内圧力が上昇し、燃焼室内の広い範囲に亘って形成されている空気過剰率の大きな混合気がほぼ同時に自着火させることができる。このように、圧縮行程の半ば以降で噴射する燃料は、圧縮上死点付近で空気過剰率の大きな混合気を自着火させる分量で足りる。従って、全噴射燃料量に対して、通常であれば5%±2%程度、多くても15%程度の燃料を噴射するだけでよい。
【0192】
点火プラグ136で点火する時期は、燃焼室内の広い範囲に亘って形成された空気過剰率の大きな混合気が適切なタイミング(代表的には、圧縮上死点BTDC)で自着火するように、エンジン回転速度Ne および目標出力トルクに対するマップとして予め設定されている。
【0193】
以上に説明したように、誘発自着火燃焼方式を適用した第1実施例のガソリンエンジン10では、高負荷条件時には、吸気行程中と圧縮行程の半ば以降に燃料噴霧を噴射して、空気過剰率が大きな混合気の領域と空気過剰率が小さな混合気の領域とを形成し、空気過剰率の小さな混合気を燃焼させたときの圧力上昇を利用して、燃焼室内の残余の混合気を自着火させる。こうすれば、燃焼室内の混合気が自着火するタイミングを制御することができるので、エンジンを高負荷条件で運転した場合でもノッキングの発生を回避することができる。また、燃焼室内の混合気は、予混合火花点火燃焼方式あるいは拡散燃焼方式などの他の燃焼方式に比べれば大きな空気過剰率の条件下で、ほぼ同時に自着火する燃焼形態となる。これは、前述した予混合圧縮自着火燃焼方式と同じ燃焼形態であり、従って、大気汚染物質の排出量および燃料消費量を大幅に低減させることが可能となるのである。
【0194】
B−4.変形例:
以上に説明した第1実施例では、吸気行程中に燃料を噴射する燃料噴射弁も、圧縮行程中に噴射する燃料噴射弁も、同じ噴射弁を用いているが、それぞれのタイミングに要求される特性に合わせて、異なる燃料噴射弁を用いても良い。
【0195】
あるいは、上述の第1実施例では、燃焼室内に点火プラグ136を設けておき、この点火プラグ136で点火する時期によって、燃焼室内の混合気を自着火させるタイミングを制御した。しかし、燃焼室内に形成された混合気を結果的に圧縮自着火させることができるものであれば、異なる方法を用いることも可能である。
【0196】
更には、副燃焼室を設けておき、高負荷時には副燃焼室内に形成した混合気を燃焼させて、燃焼室内の混合気を自着火させることも可能である。
【0197】
以下では、これらの点で第1実施例とは異なる方法を採用した第1の変形例について説明する。尚、以下で説明する変形例では、複数の燃料噴射弁と副燃焼室とを備えるとともに、点火プラグによらない方法で混合気を燃焼させることとした。しかし、前述した第1実施例に対して、これらの要素を同時に変更する必要はなく、個別に変更することができることはもちろんである。
【0198】
(1)第1の変形例:
図21は、第1実施例の第1の変形例のガソリンエンジン10を、燃焼室の中心で断面を取った断面図である。第1の変形例の燃焼室には、第1実施例の燃焼室と同様に、シリンダ142と、ピストン144と、シリンダヘッド130とによって形成されるが、第1の変形例においては、シリンダヘッド130には副燃焼室131が設けられており、副燃焼室131と合わせて一つの燃焼室を構成している。図21(a)に示した第1の変形例においては、燃料噴射弁は、副燃焼室131と吸気ポートの2カ所に設けられており、それぞれ燃料噴射弁14,15は、それぞれの目的に合わせた適切な特性の噴射弁が用いられている。これに対して、図21(b)に示すように、副燃焼室131内に、点火プラグ136を設けた構成としても良い。
【0199】
以下では、図22を参照することにより、図21(a)に示した第1の変形例のガソリンエンジン10の動作について説明する。図22は、ECU30が第1の変形例のガソリンエンジン10を制御している様子を概念的に示した説明図である。図22(a)は吸気行程中の燃焼室内の様子を示し、図22(b)は圧縮行程の半ば以降の燃焼室内の様子を、図22(c)は圧縮上死点付近の燃焼室内の様子を示している。
【0200】
第1の変形例のガソリンエンジン10では、吸気ポートに設けた燃料噴射弁15から、吸気行程中に燃料を噴射して、吸入空気とともに燃焼室内に供給する。燃料噴射弁15は、燃料を吸気ポートで噴射することから、通常のガソリンエンジンで広く使用されている噴射圧力の低い燃料噴射弁を用いることができる。こうした燃料噴射弁は、安価でしかも信頼性が高いという特長があり、エンジン全体としての信頼性を向上させることができる。
【0201】
吸気ポートに噴射された燃料噴霧は、一部は燃焼室内に直接流入し、一部は吸気ポートあるいは吸気バルブ132に付着後気化して流入し、一部は吸気バルブ132を通過する際の強い空気噴流の作用で微粒化されて燃焼室に流入することにより、燃焼室内に均一な混合気を形成する。図22(a)は、こうして吸気ポートで燃料噴霧を噴射することで、燃焼室内に混合気を形成している様子を概念的に示している。
【0202】
エンジンが低負荷条件で運転されている場合は、ピストン144を上昇させて、こうして形成された混合気を圧縮することにより、ほぼ上死点付近で混合気を自着火させ、速やかに燃焼させることができる。
【0203】
一方、エンジンが高負荷条件で運転されている場合は、ピストンによる圧縮では自着火しないように、燃焼室内の混合気は大きな空気過剰率に設定されているので、圧縮行程の半ば以降の適切なタイミングで追加の燃料を噴射する。
【0204】
図22(b)は、第1実施例の第1の変形例において、圧縮行程中に追加の燃料を噴射している様子を概念的に示した説明図である。図22(b)に示した第1の変形例では、圧縮行程の後半で副燃焼室131内に燃料噴射弁14から燃料噴霧を噴射する。このように副燃焼室内に燃料を噴射すれば、副燃焼室内にはピストンによる圧縮で自着火可能な混合気を形成することができる。その結果、所定の着火遅れ時間が経過した後、副燃焼室内で自着火して、空気過剰率の大きな混合気を圧縮自着火させることができる。図22(c)は、副燃焼室131内で自着火した混合気が、燃焼室内の混合気を圧縮している様子を概念的に表した説明図である。もちろん、図21(b)に示した変形例のように、副燃焼室131内の混合気を自着火させるのではなく、副燃焼室に設けた点火プラグ136で混合気に火花を飛ばして点火することとしても良い。点火プラグで点火してやれば、燃焼開始のタイミングを簡便に且つ確実に制御することが可能となり、延いては誘発自着火燃焼方式を適用したエンジンを適切に運転することができる。一方、副燃焼室内で混合気を圧縮自着火することとすれば、点火プラグが不要となる分だけ、燃焼室を簡素な構造とすることができる。
【0205】
このように副燃焼室を設けておき、圧縮行程の半ば以降の適切なタイミングで、副燃焼室内に燃料噴霧を噴射して混合気を形成してやれば、燃焼室内で空気過剰率の大きな混合気が形成されている領域と、空気過剰率の小さな混合気が形成されている領域とを、互いが明確に分かれた状態で形成することが容易となる。2つの領域が明確に分かれた状態で形成されていれば、空気過剰率の小さな混合気の領域を燃焼させることで、他の領域の混合気を確実に自着火させることができるので、燃焼室内の混合気の着火時期を容易に制御することが可能となる。
【0206】
あるいは、燃焼室内の混合気が高温高圧に圧縮されている圧縮上死点付近のタイミングで、副燃焼室131内に燃料噴射弁14から燃料を噴射してもよい。こうすれば、副燃焼室内に噴射した燃料噴霧が拡散燃焼するので、空気過剰率の大きな混合気を圧縮自着火させることができる。拡散燃焼方式では、燃料噴霧は噴射後直ちに燃焼を開始するので、燃焼室内の混合気を自着火させるタイミングを確実に制御することができる。また、こうすればディーゼルエンジンで培われた多くの技術的な蓄積を、そのまま利用することができるので、簡便に且つ信頼性のシステムを構成することが可能となる。
【0207】
(2)第2の変形例:
上述した各種実施例では、エンジンの負荷条件、あるいは負荷とエンジン回転速度との組合せに応じて、制御方式を低負荷条件用と高負荷条件用との2つの方式に切り換えていたが、運転条件に応じて制御方式をよりきめ細かく切り換えることとしても良い。以下では、こうした第2の変形例について説明する。
【0208】
第1実施例の第2の変形例では、エンジンの負荷とエンジン回転速度との組合せに応じて、4つの制御方式を切り換えている。図23は、運転条件と各制御方式との対応関係を例示したマップである。第1実施例で説明したマップ(図17)と図23に例示するマップとを比較すれば明らかなように、第2の変形例では、エンジンの負荷が特に小さな運転条件では極低負荷条件用の制御を行い、負荷あるいはエンジン回転速度が特に大きな運転条件では極高負荷条件用の制御を行う。
【0209】
燃焼室内に噴射する燃料量は、エンジンが出力すべきトルクが小さくなるに連れて減少するから、極低負荷条件では少量の燃料しか供給されない。このように少量の燃料を燃焼室全体に均一に分散させたのでは、燃焼が不安定になる場合がある。そこで、こうした極低負荷条件では燃料をできるだけ点火プラグ136近傍に集めることで、燃焼を安定させるのである。
【0210】
図24は、極低負荷条件用の制御時に、点火プラグ136の近傍に集中的に燃料を分散させている様子を概念的に示した説明図である。第1実施例において図20(b)および図20(c)を用いて詳しく説明したように、圧縮行程の半ば以降の適切なタイミングで燃料噴射弁14から燃料噴霧を噴射してやれば、図24に示すような点火プラグ136の近傍に集中的に燃料を分散させることができる。こうすれば、燃焼室内に僅かな燃料しか噴射しない場合でも、点火プラグで確実に点火することが可能となる。
【0211】
尚、ここでは、極低負荷条件には点火プラグ136の近傍に集中的に燃料を分散させ、こうして形成した混合気に火花を飛ばすことで燃焼を安定させるものとして説明した。しかし、点火プラグで点火するものに限らず、ピストンによる圧縮で自着火させることも可能である。すなわち、図3を用いて説明したように、混合気は空気過剰率が「1」に近づくほど自着火し易くなるから、極低負荷条件でも、燃料を燃焼室内の一部の領域に集中的に分散させることで、確実に自着火させることが可能となる。こうすれば、燃料を集中的に分散させる領域が点火プラグ136の近傍である必要が無いという利点がある。これに対して、点火プラグ136で点火してやれば、燃料を一部の領域に効果的に集めることができず、ピストンによる圧縮では自着火させることができない場合でも、火花を飛ばしてやることで着火させることができるという利点がある。
【0212】
一方、エンジンに対する要求トルクがたいへん大きい場合は、燃焼室内に多量の燃料を供給しなければならない。しかし、燃料の密度が極端に濃い領域を形成することは望ましいことではなく、しかも、1回の吸気行程で吸入可能な空気量には限度があることから、多量の燃料を供給するためには燃焼室内全体に燃料の密度の高い混合気を形成することが好ましい。従って、このような場合にも、圧縮行程の半ば以降の適切なタイミングで、燃料噴射弁から多量の燃料噴霧を噴射することにより、点火プラグ136を中心とした燃料室内の広い範囲にほぼ均一な密度で分散させ、こうして形成した混合気に点火プラグ136で点火してやればよい。こうすれば、燃焼室内に多量の燃料を供給した場合でも、形成された混合気が自着火する前に点火プラグで点火することができるので、ノッキングを発生させることなくエンジンを運転することが可能である。
【0213】
また、エンジン回転速度が高くなれば、混合気を短時間で燃焼させなければならない。従って、点火プラグから火花を飛ばした時に確実に混合気に着火できることが望ましく、着火後は速やかに燃焼が完了することが望ましい。こうした観点からすれば、燃焼室内に燃料を広く分散させるのではなく、点火プラグの近傍の比較的狭い領域に集めて、その領域内の空気過剰率を比較的小さくしてやることが好ましいと言える。このことから、特にエンジン回転速度が高い場合にも、圧縮行程の半ば以降の適切なタイミングで、燃料噴射弁から燃料噴霧を噴射して、点火プラグ136の近傍に集中的に燃料を分散させ、こうして形成した混合気に点火プラグ136で点火してやればよい。こうすれば、点火プラグの位置に混合気を確実に配置することができるので、火花を飛ばして確実に点火し、混合気を速やかに燃焼させることが可能となる。
【0214】
(3)第3の変形例:
また、図14に示したように、ガソリンエンジン10にNOxセンサ25や,COセンサ27,HCセンサ29などが搭載されている場合には、これらの出力を制御内容に反映させて、制御の最適化を図ることができる。すなわち、窒素酸化物は燃焼室内で混合気が激しく燃焼することによって発生するから、窒素酸化物の濃度が異常に大きな値を示している場合は、ノックに近い燃焼が起きている可能性が高い。また、ノックの発生は、ノックセンサからの出力や、筒内圧センサで燃焼室内圧力の上昇速度に基づいて検出することもできる。ノックが発生しているのが、低負荷運転中であれば、吸入空気量を増加させて、燃焼室内に形成する混合気の空気過剰率を大きくしてやる。高負荷運転中であれば、圧縮行程中に噴射する燃料量を減少させたり、噴射時期を遅角させたり、あるいは点火時期を遅角させる。こうすれば、燃料性状の違いや、吸入空気の温度、湿度といった環境条件の違いによって、ノックに近い燃焼が起きた場合でも、これに適切に対応して誘発自着火燃焼を行わせることができる。
【0215】
また、一酸化炭素や炭化水素系化合物は、燃焼室内で混合気が十分にすることができなかった場合に排出されるから、一酸化炭素や炭化水素系化合物の濃度が異常の大きくなっている場合は、何らかの理由で燃焼室内の混合気が燃焼できなかった可能性が考えられる。また、この様な現象は、筒内圧センサで検出した燃焼室内圧力を解析して、熱発生速度を算出することによっても検出することができる。こうした燃焼不良が、低負荷条件で発生している場合は、吸入空気を減少させて燃焼室内の混合気の空気過剰率を減少させる。また、高負荷条件で発生している場合は、圧縮行程中に噴射する燃料量を増加させたり、噴射時期を進角させたり、あるいは点火時期を進角させる。こうすれば、燃料性状の違いや、吸入空気の温度、湿度といった環境条件の違いによって、燃焼不良が生じた場合でも、これに適切に対応して誘発自着火燃焼を行わせることが可能となる。
【0216】
C.第2実施例:
以上、第1実施例では、誘発自着火燃焼方式をいわゆる4サイクル式のエンジンに適用した場合について説明したが、他の方式のエンジンにも適用することが可能である。
【0217】
特に、2サイクル式のエンジンでは、後述するように、燃焼と混合気形成とが連続して行われる。このため、燃焼中に発生した中間生成物(いわゆるラジカル)や高温の排気ガスを、続くサイクルの燃焼に利用することができるので、圧縮比をさほど高く設定しなくても、比較的容易に混合気を自着火させることが可能である。また、4サイクル式のエンジンはクランクシャフトが2回転する度に1回の割合で混合気を燃焼させるが、2サイクル式のエンジンはクランクシャフトが1回転する度に混合気を燃焼させるので、同じエンジン回転速度であれば、4サイクル式のエンジンの2倍のトルクを発生させることができる。このため、低負荷条件でも広いトルク範囲をカバーすることができるという利点も得られる。以下では、第2実施例として、誘発自着火燃焼方式を2サイクルエンジンに適用した場合について説明する。
【0218】
C−1.装置構成:
図25は、2サイクル式のガソリンエンジン300の構成を概念的に示した説明図である。2サイクル式のガソリンエンジンも、燃焼室内で混合気を燃焼させて、そのときに発生する燃焼熱を機械的仕事に変換して動力として出力する。図25には、ガソリンエンジン300の燃焼室の中心で断面を取ったときの燃焼室の構造も表示されている。
【0219】
第1実施例で説明した4サイクル式ガソリンエンジン10と同様に、前述した2サイクル式ガソリンエンジン300の燃焼室も、シリンダブロック140内に設けられた円筒形のシリンダ142と、シリンダ142内を上下に摺動するピストン144と、シリンダブロックの上部に設けられたシリンダヘッド130などによって形成されている。
【0220】
シリンダヘッド130には、吸入空気が流入する吸気ポートを開閉する吸気バルブ132と、排気ガスが流出する排気ポートを開閉する排気バルブ134と、点火プラグ136と、燃焼室内に燃料噴霧を噴射する燃料噴射弁14などが設けられている。吸気バルブ132および排気バルブ134は、それぞれに周知のカム機構によって駆動され、吸気ポートおよび排気ポートを開閉する。また、吸気ポートには吸入空気を導く吸気通路12が接続され、排気ポートには排気ガスが通過する排気通路16が接続されている。
【0221】
排気通路16の下流には、排気ガスに含まれる大気汚染物質を浄化するための触媒26、および過給器50のタービン52が設けられている。排気通路16内を通過する排気ガスはタービン52を回転させた後、大気に放出される。また、吸気通路12には、過給器50のコンプレッサ54が設けられている。コンプレッサ54は、シャフト56を介してタービン52に接続されており、排気ガスによってタービン52が回転するとコンプレッサ54も回転する。その結果、コンプレッサ54はエアクリーナ20から吸い込んだ空気を加圧した後、吸気ポートに向かって圧送する。
【0222】
コンプレッサ54で加圧すると空気温度が上昇することから、吸入空気を冷却するために、コンプレッサ54の下流側にはインタークーラ62が設けられている。また、吸気通路12内にはサージタンク60や、スロットル弁22も設けられている。サージタンク60は、燃焼室が空気を吸い込んだときに生じる圧力波を緩和させる作用を有しており、またスロットル弁22は電動アクチュエータ24によって適切な開度に設定されて、吸入空気量を調整する作用を有している。
【0223】
ピストン144は、コネクティングロッド146を介してクランクシャフト148に接続されており、クランクシャフト148には、クランク角度を検出するクランク角センサ32が取り付けられている。
【0224】
前述した第1実施例の4サイクル式ガソリンエンジン10と同様に、第2実施例の2サイクル式ガソリンエンジン300の動作も、エンジン制御用ユニット(以下、ECU)30によって制御されている。ECU30は、エンジン回転速度Ne やアクセル開度θacを検出し、これらに基づいてスロットル弁22の開度を制御したり、点火プラグ136の点火タイミング、あるいは燃料噴射弁14の駆動を制御する。エンジン回転速度Ne はクランク角センサ32によって検出し、アクセル開度θacはアクセルペダルに内蔵されたアクセル開度センサ34によって検出することができる。
【0225】
こうした構成を有する第2実施例のガソリンエンジン300は、2サイクル式のガソリンエンジンであり、あまり負荷を上げなくても比較的大きなトルクを出力することができる。すなわち、要求されるトルクが比較的大きな場合でも、前述した予混合圧縮自着火燃焼方式と同様の燃焼形態で運転することができる。とは言え、あまり大きなトルクを出力しようとすると、4サイクル式のエンジンと同様に強いノッキングが発生してしまう。このことから、誘発自着火燃焼方式を適用した第2実施例のガソリンエンジン300においても、第1実施例と同様に、低負荷条件用の制御と高負荷条件用の制御とを、エンジンの負荷に応じて切り換える。具体的には、ECU30のRAMには、図17に示すように、エンジン回転速度と目標出力トルクとをパラメータとするマップとして、適切な制御方法が記憶されており、このマップを参照することにより、低負荷条件用の制御と高負荷条件用の制御とを切り換えている。
【0226】
C−2.低負荷条件の制御内容:
図26は、ガソリンエンジン300の低負荷条件時における動作を概念的に示した説明図である。前述した4サイクル式のガソリンエンジンとは異なり、2サイクル式のガソリンエンジンは掃気行程と呼ばれる独特な行程を有している。更に、2サイクルエンジンは、クランクシャフトが1回転する間に全ての行程を一巡する点でも4サイクルエンジンとは異なっている。そこで、理解の便宜を図るため、第2実施例のガソリンエンジン300の動作を説明する準備として、一般的な2サイクル式ガソリンエンジンの動作について、図26を参照しながら簡単に説明しておく。
【0227】
図26(a)〜(f)には、2サイクルエンジンの膨張行程、排気行程、掃気行程、吸気行程、圧縮行程のそれぞれの行程が概念的に示されている。2サイクルエンジンでは、シリンダ142内でピストン144を上下動させながら、吸気バルブ132および排気バルブ134の2つのバルブを適切なタイミングで開閉させることにより、これらの行程を次々と切り換えていく。また、図27には、ピストンの動きに合わせて吸気バルブあるいは排気バルブを開閉させるタイミングが模式的に表示されている。
【0228】
説明の都合上、点火プラグ136で混合気に点火して、燃焼室内の混合気を燃焼させた状態から説明する。混合気を燃焼させると、燃焼室内には高圧の燃焼ガスが発生してピストンを押し下げようとする。図26(a)に示すように膨張行程では、ピストンを降下させながら、燃焼室内で発生した圧力をトルクに変換して動力として出力する。
【0229】
ピストンがある程度まで降下したら、適切なタイミングで排気バルブを開いてやる。燃焼室内には、燃焼ガスが未だ高い圧力のまま閉じこめられているから、ピストンの降下中でも、排気バルブを開くことにより燃焼ガスを排出させることができる。図26(b)は、ピストンの降下中に排気バルブを開いて、排気ガスを排出している様子を概念的に示している。
【0230】
燃焼ガスの排出に伴って、燃焼室内の圧力は次第に低下して燃焼ガスを効果的に排出することができなくなるので、適切なタイミングで吸気バルブを開いてやる。過給器によって吸気通路内は加圧されているので、吸気バルブを開くと加圧された空気が流入し、燃焼室内に残っている燃焼ガスを押し出すようにして排気バルブから排出させる。図26(c)は、このように加圧された空気によって燃焼室内の燃焼ガスが排出される様子を概念的に表している。図中でハッチングが付されている部分は、燃焼ガスが残存している領域を示している。また、ハッチングを付されていない部分は、吸入空気が流入した領域を表している。このように、吸入空気で押し出すようにして燃焼室内から燃焼ガスを排出させる動作は「掃気」と呼ばれる。また、掃気を行う行程は掃気行程と呼ばれる。
【0231】
2サイクルエンジンでは、吸気通路内が加圧されているので、ピストンが下死点を過ぎて上昇に転じても、なお燃焼室内の燃焼ガスを掃気することができる。図26(d)は、掃気行程の後半にピストンを上昇させながら、燃焼室内を掃気している様子を概念的に示している。
【0232】
尚、図26では、燃料噴射弁は、燃料噴霧を燃焼室内に直接噴射可能な位置に設けられており、また、吸気バルブからは空気のみが流入するように示されている。しかしこれは、図26が、第2実施例のガソリンエンジン300の低負荷条件時の動作を示しているためであり、一般的な2サイクル式ガソリンエンジンでは、燃料噴射弁は吸気ポートに設けられ、吸気バルブからは空気とともに燃料噴霧が流入する。
【0233】
掃気によって燃焼室内から燃焼ガスがほぼ排出されたタイミングを見計らって、図26(e)に示すように、排気バルブを閉じてやる。その結果、燃焼室内の圧力が吸気通路内の圧力に達するまで、吸気バルブから吸入空気(通常の2サイクルエンジンでは混合気)が流入する。燃焼室内圧力が吸気通路内の圧力に達したタイミングを見計らって、吸気バルブを閉じ、ピストンを上昇させて燃焼室内の混合気を圧縮する。図26(f)はピストンを上昇させて燃焼室内の混合気を圧縮している様子を概念的に示している。そして、ピストンの上死点付近の所定のタイミングで点火プラグから火花を飛ばして、圧縮した混合気に点火する。それ以降は、図26(a)に示す状態に戻って、同様の動作を繰り返す。
【0234】
以上の説明を踏まえて、第2実施例のガソリンエンジン300の低負荷条件時における動作を説明する。第2実施例のガソリンエンジン300では、燃料噴射弁14は、吸気ポートの下方に設けられている。膨張行程(図26(a)参照)、および排気行程(図26(b)参照)の動作については、第2実施例のガソリンエンジン300も、上述した一般的な2サイクルエンジンの動作と同様である。
【0235】
排気バルブから燃焼ガスがある程度流出したタイミングで、図26(c)に示すように吸気バルブ132を開いて、吸気ポートから空気を流入させる。図25に示したように吸気通路12内の空気は過給器50によって所定圧力に加圧されているので、こうして吸気バルブ132を開いてやることで、燃焼室内の燃焼ガスを掃気することができる。尚、第2実施例のガソリンエンジン300では、図27に示すようにピストンの下死点(BDC)前、約30°のタイミングで、吸気バルブを開いている。
【0236】
掃気を続けながら、ピストンが上昇に転じた付近の所定のタイミングで、燃料噴射弁14から燃焼室内に燃料噴霧を噴射する。図26(d)は、掃気行程の後期に、燃料噴霧を噴射している様子を概念的に示している。掃気行程も後半になれば、程なく排気バルブ134は閉じられるので、この近辺のタイミングで燃料噴霧を噴射してやれば、噴射した燃料噴霧が排気バルブから排出されることがない。図27に示されているように、第2実施例では、燃料噴霧の噴射期間はピストンの下死点(BDC)付近から排気バルブが閉じる直前までの期間、具体的には、掃気行程の下死点前20度から下死点後60度の範囲内で設定された適切な期間に設定されている。
【0237】
燃料を噴射後、所定のタイミングで排気バルブ134を閉じた後は、図26(e)に示すように、吸気バルブ132から加圧された空気が燃焼室内に流入する。排気バルブ134を閉じるタイミングは、ピストンの下死点(BDC)後、約20°〜約50°の範囲で好適に設定することができる(図27参照)。掃気行程の後半で噴射された燃料噴霧は、吸入空気の流れによって、燃焼室内に分散され、吸入空気と混合する。第2実施例の2サイクルエンジン300では、低負荷条件でこうして形成される混合気の空気過剰率が、約1.2〜3の値となるように、燃料噴射量が設定されている。
【0238】
そして、所定のタイミングで吸気バルブ132を閉じてやると、それ以降は、ピストンの上昇とともに燃焼室内の混合気が圧縮される。吸気バルブ132が開いている間は、ピストンが上昇しても燃焼室内の混合気を圧縮することはできない。このことから、2サイクルエンジンにおいては、吸気バルブ132を閉じるタイミングが混合気の実質的な圧縮比を決定することになる。第2実施例の2サイクルエンジンにおいては、吸気バルブ132を閉じるタイミングは、図27に示すようにピストンの下死点(BDC)後、約60°に設定されている。吸気バルブ132を閉じるタイミングは、代表的には約50°〜約70°の範囲で好適に設定することができる。このようなタイミングに設定することにより、混合気の実質的な圧縮比を、10〜14の範囲の適切な値とすることができる。第2実施例の2サイクルエンジンでは、実質的な圧縮比は12に設定されている。
【0239】
適切なタイミングで吸気バルブ132を閉じた後、ピストン144を上昇していくと、図26(f)に示すように、燃焼室内で混合気が圧縮され、ピストンの上死点付近で自着火する。その結果、燃焼室内の形成された混合気を速やかに燃焼させることができる。
【0240】
誘発自着火燃焼方式を適用した第2実施例のガソリンエンジン300は、低負荷条件では、以上のようにして、空気過剰率の大きな混合気を圧縮自着火させる。こうすれば、前述した予混合圧縮自着火燃焼方式と同様の形態で混合気を燃焼させることができるので、大気汚染物質の排出量および燃料消費量を同時にしかも大幅に低減させることができる。
【0241】
C−3.高負荷条件の制御内容:
誘発自着火燃焼方式を適用した第2実施例のガソリンエンジン300の、高負荷条件における動作について説明する。図28は、高負荷条件において、ピストンの動きに合わせて混合気を形成し、燃焼させる様子を概念的に示した説明図である。
【0242】
図28(a)に示すように、高負荷条件においても低負荷条件の場合と同様に、掃気行程の後期の適切なタイミングで、燃料噴射弁14から燃焼室内に燃料噴霧を噴射する。本実施例では、掃気行程の後期に燃料を噴射するタイミングは、高負荷条件時も低負荷条件時と同じタイミングである。こうして、噴射された燃料噴霧は吸入空気の流れに乗って拡散し、混合気を形成する。高負荷条件時に形成される混合気は、ピストンによる圧縮だけでは自着火しないように、低負荷条件時よりも空気過剰率が大きな値に設定されている。第2実施例では、この空気過剰率は2〜3.5の範囲の適切な値に設定されている。
【0243】
次いで、ピストンを上昇させて燃焼室内の混合気を圧縮し、所定のタイミングで燃料噴射弁14から燃焼室内に追加の燃料噴霧を噴射する。追加の燃料を噴射するタイミングは、一般的には、圧縮行程中の上死点前60度から上死点前20度の範囲内で適切な期間に設定される。第2実施例では、図27に示されているように、ピストンの上死点(TDC)前、約50°付近で追加の燃料噴霧を噴射している。図28(b)は、こうして追加の燃料噴霧を噴射している様子を概念的に示している。図中では、追加で噴射された燃料噴霧は細かいハッチングを付して表している。また、粗いハッチングは、掃気行程の後半で噴射された燃料噴霧による混合気を示している。図示されているように、噴射された燃料噴霧はピストン頂面に衝突し、頂面形状に導かれるようにして点火プラグ136の近傍に運ばれる。その結果、点火プラグ136の近傍には、掃気行程の後半の燃料噴射によって形成された混合気よりも、空気過剰率の小さな混合気が形成される。この混合気の空気過剰率は、通常、1.3から1.7の範囲で適切な値に設定される。第2実施例では、この混合気の空気過剰率は約1.5前後の値に設定されている。
【0244】
低負荷条件では、このままピストンで圧縮することによって混合気を自着火させた。しかし、高負荷条件時には、混合気の空気過剰率が大きな値に設定されているので、ピストンによる圧縮だけで自着火することはない。また、点火プラグ136の近傍には、圧縮行程中に噴射された燃料噴霧による空気過剰率の小さな領域が形成されているが、この領域の燃料は噴射されてから時間がほとんど経っておらず、従って、混合気内部では自着火に至る種々の素反応が進行しているものの、未だ自着火には達しない。そこで、点火プラグ136から火花を飛ばして、プラグ近傍に形成された混合気に点火する。点火プラグ近傍に形成された混合気は空気過剰率が小さな値に設定されているので、点火後、速やかに燃焼を完了して燃焼室内圧力を上昇させる。こうして燃焼室内圧力を上昇させれば、空気過剰率が大きな値に設定された混合気を自着火させることができる。
【0245】
以上のように、点火プラグ136で火花を飛ばして燃焼室内の混合気を自着火させれば、火花を飛ばすタイミングを制御することにより、燃焼室内の混合気を自着火させるタイミングを適切に制御することができる。その結果、第2実施例の2サイクル式ガソリンエンジン300を、高負荷運転時にもノッキングを起こさせることなく運転することが可能となる。また、こうした方法では、空気過剰率の大きな混合気を圧縮自着火させる形態で燃焼させることから、前述した予混合圧縮自着火燃焼方式と同様に、大気汚染物質の排出量および燃料消費量を同時に且つ大幅に減少させることが可能となる。
【0246】
以上に説明したように、誘発自着火燃焼方式を適用した第2実施例のガソリンエンジン300においても、混合気の自着火時期を適切に制御することにより、高負荷条件でもノッキングを発生させることなくエンジンを運転することができる。更に、低負荷条件あるいは高負荷条件のいずれにおいても、大気汚染物質の排出量と燃料消費量とを同時に且つ大幅に減少させることが可能となる。
【0247】
C−4.変形例:
第2実施例のガソリンエンジン300にも変形例が存在する。以下、この変形例について簡単に説明する。
【0248】
図29は、第2実施例の変形例のガソリンエンジン400の大まかな構造を示した説明図である。上述した第2実施例のガソリンエンジン300に対して、吸気バルブ132および排気バルブ134が、それぞれ電動アクチュエータ162,164で駆動されている点が大きく異なっている。これら電動アクチュエータ162,164は、円盤状の電歪素子を複数枚積み重ねた構造となっている。ECU30から信号を出力して、電歪素子に印加する電圧を変更することにより、電動アクチュエータ162,164は、任意のタイミングでそれぞれの吸気バルブ132および排気バルブ134を開閉することが可能である。
【0249】
第2実施例の変形例のガソリンエンジン400は、エンジン回転速度に応じて、2サイクル運転と4サイクル運転とを切り換える。すなわち、エンジン回転速度が比較的低い範囲では、大きなトルクを出力可能な2サイクル運転を行い、エンジン回転速度の高い範囲では、高速回転が容易な4サイクル運転を行う。2サイクル運転を行う場合と、4サイクル運転を行う場合とでは、ピストンの動きに対するバルブの開閉時期が異なっているが、変形例のガソリンエンジン400では、電動アクチュエータ162,164で吸気バルブ132および排気バルブ134を駆動しているので、これらバルブを開閉時期を容易に切り換えることができる。尚、こうした電動アクチュエータを用いてバルブの開閉時期を切り換えるのではなく、他の方法、例えば、4サイクル運転用のカムシャフトと2サイクル運転用のカムシャフトとを用意しておき、吸気バルブおよび排気バルブを駆動するカムシャフトを、切り換えることによって運転状態を切り換えることとしても構わない。
【0250】
図30は、第2実施例の変形例のガソリンエンジン400に搭載されたECU30が、エンジン回転速度および負荷に応じて運転条件を切り換える様子を概念的に示した説明図である。図中でハッチングを付した領域が4サイクル運転を行う領域であり、ハッチングが付されていない領域が2サイクル運転を行う領域である。また、2サイクル運転の領域は、負荷に応じて更に4つの領域に分けられている。
【0251】
図30中で「極低負荷条件」と記載されている負荷の最も低い領域では、図26(e)を用いて前述したように、吸気行程の途中で燃料噴霧を噴射することにより、燃焼室内の一部領域に混合気を形成し、ピストンによる圧縮で自着火させる。2サイクル運転時には、吸気行程はピストンを上昇させながら行われるので、混合気を形成してから短時間で自着火させなければならない。そこで、極低負荷条件では、吸気バルブ132の閉弁時期を早めて実質的な圧縮比を高くすることで、混合気を自着火させている。
【0252】
図30中で「低負荷条件」と記載された領域では、図26を用いて前述した第2実施例の低負荷条件時と同様に、燃焼室内に形成した均一な混合気を圧縮自着火させる。また、図中で「高負荷条件」と記載された領域では、図28を用いて前述した第2実施例の高負荷条件時と同様に、燃焼室内に空気過剰率の大きな混合気と小さな混合気とを形成し、空気過剰率の小さな混合気に点火することで、空気過剰率の大きな混合気を自着火させる。
【0253】
また、図30中で「極高負荷条件」と記載された領域では、燃焼室内に、空気過剰率がほぼ「1」の均一な混合気を均一な混合気を形成し、この混合気に点火することで燃焼させる。図3を用いて説明したように、空気過剰率が「1」の混合気はピストンによる圧縮で自着火し易いので、吸気バルブ132の閉弁時期を遅くして実質的な圧縮比を低くすることで、点火前に混合気が自着火することを防いでいる。もちろん、吸気行程の途中で燃焼室内に燃料噴霧を噴射することとしてもよい。こうすれば、燃料を噴射後直ちに点火することになるので、自着火が起きる前に点火することが可能である。
【0254】
以上のように、エンジンの運転条件に応じて2サイクル運転と4サイクル運転とを切り換え、また、エンジン回転速度が低い領域では、エンジン負荷に応じて適切な時期に燃料噴霧を噴射してやれば、大気汚染物質の排出量と燃料消費量を大きく改善しつつ、高回転領域でも快適に運転することが可能となる。
【0255】
以上、各種の実施例について説明してきたが、本発明は上記すべての実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】誘発自着火燃焼方式を適用した内燃機関の動作の概要を、一例を取って説明する説明図である。
【図2】予混合圧縮自着火燃焼方式において、混合気を形成するための基本的な考え方を概念的に示したブロック図である。
【図3】圧縮によって混合気を自着火させるための条件を概念的に示した説明図である。
【図4】ピストンを上昇させて燃焼室内の混合気を自着火させる様子を概念的に示した説明図である。
【図5】燃焼室内で混合気が燃焼している様子を模式的に示した説明図である。
【図6】内燃機関の圧縮行程から膨張行程にかけて、燃焼室内で混合気が受ける状態変化を示した説明図である。
【図7】混合気の空気過剰率と燃焼速度との関係を概念的に示した説明図である。
【図8】予混合圧縮自着火燃焼方式において、負荷を増加させようとしたときの制御の流れを概念的に示したブロック図である。
【図9】ピストンを上昇させて、混合気を自着火させる様子を概念的に示した説明図である。
【図10】ピストンを上昇させて混合気を圧縮自着火させたときの熱発生率および、それによる燃焼室内の圧力上昇率の計測結果を、クランク角θに対して概念的に示した説明図である。
【図11】負荷に応じて、低負荷側の燃焼形態と高負荷側の燃焼形態とを切り換えている様子を概念的に示した説明図である。
【図12】誘発自着火燃焼方式の高負荷側の燃焼形態を概念的に示す説明図である。
【図13】誘発自着火燃焼方式の内燃機関を高負荷条件下で運転させて、熱発生率および圧力上昇率を計測した結果を、クランク角θに対して示した説明図である。
【図14】第1実施例の4サイクル式のガソリンエンジンの構成を概念的に示した説明図である。
【図15】第1実施例のガソリンエンジンの燃焼室の中心で横断面を取って、燃焼室の構造を概念的に示した説明図である。
【図16】第1実施例のガソリンエンジンを制御するためのエンジン運転制御ルーチンの流れを示したフローチャートである。
【図17】制御方式がエンジン回転速度と目標出力トルクとをパラメータとするマップに設定されている様子を概念的に示した説明図である。
【図18】低負荷条件用の制御で参照されるマップを概念的に示した説明図である。
【図19】高負荷条件用の制御で参照されるマップを概念的に示した説明図である。
【図20】ピストンの動きに合わせて適切なタイミングで燃料を噴射し、点火している様子を概念的に示した説明図である。
【図21】第1実施例の第1の変形例のガソリンエンジン10を、燃焼室の中心で断面を取った断面図である。
【図22】第1の変形例のガソリンエンジンの動作を概念的に示した説明図である。
【図23】第1実施例の第2の変形例において、エンジンの負荷とエンジン回転速度との組合せに応じて、4つの制御方式がマップに設定されている様子を概念的に示した説明図である。
【図24】極低負荷条件用の制御時に点火プラグの近傍に集中的に燃料を分散させている様子を概念的に示した説明図である。
【図25】第2実施例の2サイクル式のガソリンエンジンの構成を概念的に示した説明図である。
【図26】第2実施例のガソリンエンジンの低負荷条件時における動作を概念的に示した説明図である。
【図27】第2実施例のガソリンエンジンのバルブタイミングおよび燃料噴射タイミングを示した説明図である。
【図28】第2実施例のガソリンエンジンの高負荷条件における動作を概念的に示した説明図である。
【図29】第2実施例の変形例のガソリンエンジン400の構造の概要を示した説明図である。
【図30】第2実施例の変形例のガソリンエンジン400が、エンジン回転速度および負荷に応じて運転条件を切り換えている様子を概念的に示した説明図である。
【符号の説明】
10…ガソリンエンジン
12…吸気通路
14…燃料噴射弁
15…燃料噴射弁
16…排気通路
18…燃料ポンプ
20…エアクリーナ
22…スロットル弁
24…電動アクチュエータ
26…触媒
28…空気過剰率センサ
30…ECU
32…クランク角センサ
34…アクセル開度センサ
50…過給器
52…タービン
54…コンプレッサ
56…シャフト
60…サージタンク
62…インタークーラ
130…シリンダヘッド
131…副燃焼室
132…吸気バルブ
134…排気バルブ
136…点火プラグ
140…シリンダブロック
142…シリンダ
144…ピストン
146…コネクティングロッド
148…クランクシャフト
150…燃料噴霧
152…燃料噴霧
154…混合気
162,164…電動アクチュエータ
300…ガソリンエンジン
400…ガソリンエンジン
A…燃焼室
B…ピストン
C…吸気バルブ
D…排気バルブ
E…燃料噴射弁
Ne…エンジン回転速度
P…圧力
V…燃焼室容積
θac…アクセル開度
θ…クランク角

Claims (48)

  1. 燃料が吸入空気に対して所定の密度で混合した混合気を形成し、該混合気を燃焼室内で燃焼させることによって動力を出力する内燃機関であって、
    前記燃焼室内に燃料が第1の密度で分布した第1の混合気、あるいは、該燃焼室内の一部領域には第2の密度で燃料が分布するとともに残余の領域には該第2の密度よりも高い第3の密度で燃料が分布した第2の混合気の、いずれかの混合気を形成する混合気形成手段と、
    前記燃焼室内の混合気を圧縮し、該圧縮した混合気の燃焼による圧力をトルクに変換して、前記動力として出力する圧力変換機構と、
    前記内燃機関が発生させるべき要求トルクを検出する要求トルク検出手段と、
    前記要求トルクと所定の第1の閾値との大小関係に基づいて前記混合気形成手段を制御することにより、前記混合気の形成状態を制御する制御手段と
    前記燃焼室内に燃料を直接噴射する筒内噴射弁と、
    前記制御手段の制御の下で前記燃焼室内の混合気を着火させる着火手段と、
    前記燃焼室内の圧力を検出する圧力検出手段と、
    前記検出した圧力に基づいて、前記燃焼室内での圧力上昇速度が所定の許容速度を超えた否かを判断する圧力上昇速度判断手段と、
    を備え、
    前記混合気形成手段は、前記内燃機関の圧縮行程中に前記筒内噴射弁から燃料を噴射することによって、前記第2の混合気中の前記残余の領域に、前記第3の密度で燃料が分布した混合気を形成する手段であり、
    前記制御手段は、前記要求トルクが前記第1の閾値より小さい場合には、前記第1の密度が、前記圧力変換機構による圧縮で燃料が自着火する密度である前記第1の混合気を形成し、該要求トルクが該第1の閾値より大きい場合には、前記第2の密度が、該圧力変換機構による圧縮で燃料が自着火しない密度である前記第2の混合気を形成するよう、前記混合気形成手段を制御する手段であり、
    前記圧力変換機構は、前記要求トルクが前記第1の閾値より小さい場合には、前記第1の混合気の圧縮による自着火で発生した圧力をトルクに変換し、該要求トルクが該第1の閾値より大きい場合には、前記第3の密度の燃料の燃焼による圧力上昇で前記第2の混合気を自着火させ、該自着火で発生した圧力をトルクに変換する機構であると共に、
    前記制御手段は、
    前記要求トルクが前記第1の閾値より大きい場合には、前記第2の混合気中で燃料が前記第2の密度で分布した領域の空気過剰率が、前記第3の密度で分布した領域の空気過剰率の1.2倍ないし2.7倍となるように、前記混合気形成手段を制御する手段であり、
    前記要求トルクが前記第1の閾値より大きい場合には、前記着火手段を制御することにより、前記第2の混合気の中で燃料が前記第3の密度で分布した領域に着火させる手段であるとともに、
    前記着火手段で前記燃焼室内の混合気を着火した後に、前記圧力上昇速度が前記許容速度を超えた場合には、該混合気の着火時期を遅延させる着火時期遅延手段を備えている内燃機関。
  2. 請求項1記載の内燃機関であって、
    前記制御手段は、前記要求トルクが前記第1の閾値より大きい場合には、前記第2の混合気中で燃料が前記第2の密度で分布した領域の空気過剰率が2ないし3.5であり、前記第3の密度で分布した領域の空気過剰率が1.3ないし1.7となるように、前記混合気形成手段を制御する手段である内燃機関。
  3. 請求項1記載の内燃機関であって、
    前記制御手段は、前記要求トルクが前記第1の閾値より大きい場合には、前記第2の混合気中で燃料が前記第2の密度で分布した領域の空気過剰率が、
    均一な混合気を圧縮して自着火させながら前記内燃機関を運転したときに、1000サイクルに1サイクルの割合で自着火しないサイクルが発生し、且つ燃料に対して空気が過剰な混合気の1.1倍ないし1.5倍の空気過剰率、
    となるように、前記混合気形成手段を制御する手段である内燃機関。
  4. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    前記制御手段は、前記要求トルクが前記第1の閾値より小さい場合には、前記第1の混合気の空気過剰率が1.2ないし3の範囲となるように、前記混合気形成手段を制御する手段である内燃機関。
  5. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    前記吸入空気を前記燃焼室に導入するための吸気通路と、
    前記吸気通路内に燃料を噴射する燃料噴射弁と
    を備え、
    前記混合気形成手段は、前記燃料噴射弁から燃料を噴射することによって、前記第1の混合気、あるいは前記第2の密度で燃料が分布した前記第2の混合気の少なくとも一方を形成する手段である内燃機関。
  6. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    前記内燃機関は4サイクル式の内燃機関であり、
    記混合気形成手段は、前記内燃機関の吸気行程中に前記筒内噴射弁から燃料を噴射することによって、前記第1の混合気、あるいは前記第2の密度で燃料が分布した前記第2の混合気の少なくとも一方を形成する手段である内燃機関。
  7. 請求項6記載の内燃機関であって、
    前記混合気形成手段は、前記内燃機関の吸気行程中の吸気上死点から吸気上死点後90度の範囲で設定された所定の期間に、燃料を噴射する手段である内燃機関。
  8. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    前記内燃機関は2サイクル式の内燃機関であり、
    記混合気形成手段は、前記内燃機関の掃気行程中に、前記筒内噴射弁から燃料を噴射することによって、前記第1の混合気、あるいは前記第2の密度で燃料が分布した前記第2の混合気の少なくとも一方を形成する手段である内燃機関。
  9. 請求項8記載の内燃機関であって、
    前記混合気形成手段は、前記内燃機関の掃気行程中の下死点前20度から下死点後60度の範囲で設定された所定の期間に、燃料を噴射する手段である内燃機関。
  10. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    前記内燃機関は4サイクル式の内燃機関であり、
    前記混合気形成手段は、前記内燃機関の圧縮行程中の上死点前90度から上死点前30度の範囲で設定された所定の期間に、燃料を噴射する手段である内燃機関。
  11. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    前記内燃機関は2サイクル式の内燃機関であり、
    前記混合気形成手段は、前記内燃機関の圧縮行程中の上死点前60度から上死点前20度の範囲で設定された所定の期間に、燃料を噴射する手段である内燃機関。
  12. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    前記圧力変換機構は、前記燃焼室内に形成された混合気を圧縮するピストンを備え、
    前記混合気形成手段は、前記圧縮行程中に噴射した燃料を前記ピストンに衝突させることにより、前記第2の混合気中の前記残余の領域に、前記第3の密度で燃料が分布した混合気を形成する手段である内燃機関。
  13. 請求項12記載の内燃機関であって、
    前記ピストンは、少なくとも前記圧縮行程中に噴射された燃料が衝突する表面が、該衝突した燃料を前記燃焼室内の所定の領域に導く形状に形成されたピストンである内燃機関。
  14. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    前記燃焼室の一部を構成する副燃焼室を備え、
    前記筒内噴射弁は、前記副燃焼室内に燃料を直接噴射する副室噴射弁として構成されると共に、
    前記混合気形成手段は、前記副室噴射弁から燃料を前記副燃焼室内に噴射することで、前記第3の密度で燃料が分布した混合気を、該副燃焼室中に形成する手段である内燃機関。
  15. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    前記内燃機関は4サイクル式の内燃機関であり、
    記混合気形成手段は、前記第1の混合気および前記第2の密度で燃料が分布した前記第2の混合気については、前記内燃機関の吸気行程中に前記筒内噴射弁から燃料を噴射することによって形成し、前記第3の密度で燃料が分布した前記第2の混合気については、前記内燃機関の圧縮行程中に該筒内噴射弁から燃料を噴射することによって形成する手段である内燃機関。
  16. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    前記内燃機関は2サイクル式の内燃機関であり、
    記混合気形成手段は、前記第1の混合気および前記第2の密度で燃料が分布した前記第2の混合気については、前記内燃機関の掃気行程中に前記筒内噴射弁から燃料を噴射することによって形成し、前記第3の密度で燃料が分布した前記第2の混合気については、前記内燃機関の圧縮行程中に、該筒内噴射弁から燃料を噴射することによって形成する手段である内燃機関。
  17. 前記着火手段が、前記燃焼室内の略中央部に設けられた点火栓である請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関。
  18. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    前記燃焼室の一部を構成する副燃焼室を備え、
    前記筒内噴射弁は、前記副燃焼室内に燃料を直接噴射する副室噴射弁として構成されると共に、
    前記混合気形成手段は、前記副室噴射弁から燃料を前記副燃焼室内に噴射することで、前記第3の密度で燃料が分布した混合気を、該副燃焼室内に形成する手段であり、
    前記着火手段は、前記副燃焼室に設けられた点火栓である内燃機関。
  19. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    前記圧力変換機構は、前記要求トルクが前記第1の閾値より大きい場合には、前記第2の混合気を圧縮することで該混合気中で燃料が前記第3の密度で分布した領域を自着火させ、該自着火による前記燃焼室内の圧力上昇によって該第2の混合気の残余の領域を自着火させる手段である内燃機関。
  20. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    前記圧力変換機構は、前記要求トルクが前記第1の閾値より大きい場合には、前記第2の混合気を圧縮することで、該混合気中で前記第3の密度で分布した燃料を拡散燃焼させて、該第2の混合気を自着火させる手段である内燃機関。
  21. 実質的な圧縮比が11ないし17の範囲で所定の値に設定された4サイクル式の請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関。
  22. 実質的な圧縮比が10ないし14の範囲で所定の値に設定された2サイクル式の請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関。
  23. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    記制御手段は、
    前記検出した圧力に基づいて前記燃焼室内での燃焼状態を判断する燃焼状態判断手段と
    前記判断された燃焼状態に基づいて前記吸入空気量を制御することにより、前記第1の混合気中に分布する燃料の密度を補正する密度補正手段と
    を備える内燃機関。
  24. 請求項23記載の内燃機関であって、
    前記燃焼状態判断手段は、前記燃焼室内での燃焼による圧力上昇の有無を判断する手段であり、
    前記密度補正手段は、前記要求トルクが前記第1の閾値より小さく且つ前記燃焼による圧力上昇が無いと判断された場合には、前記吸入空気量を減少させることにより、前記第1の混合気中の燃料の密度を所定値だけ増加させる手段である内燃機関。
  25. 請求項23記載の内燃機関であって、
    前記燃焼状態判断手段は、前記燃焼室内での圧力上昇速度が、所定の許容速度以上か否かを判断する手段であり、
    前記密度補正手段は、前記要求トルクが前記第1の閾値より小さく且つ前記許容速度を超えたと判断された場合には、前記吸入空気量を増加させることにより、前記第1の混合気中の燃料の密度を所定値だけ減少させる手段である内燃機関。
  26. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    記制御手段は、前記要求トルクが前記第1の閾値より小さく且つ前記圧力上昇速度が前記許容速度を超えたと判断された場合には、該第1の閾値を更新する閾値更新手段を備える内燃機関。
  27. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    記圧力変換機構は、クランク軸を回転させて前記燃焼室内でピストンを上昇させることにより、該燃焼室内の混合気を圧縮する機構であり、
    前記制御手段は、
    前記検出した圧力に基づいて、前記燃焼室内で生じた燃焼熱の発生量を、前記クランク軸の回転位置を表すクランク角に対する発生速度の形態で算出する熱発生速度算出手段と、
    前記燃焼熱の発生速度が所定値を越える前記クランク角が、前記ピストンが最も上昇する前記クランク角よりも5度以上前で、且つ、前記要求トルクが前記第1の閾値より小さい場合には、該第1の閾値を更新する閾値更新手段と
    を備えている内燃機関。
  28. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    記制御手段は、
    記燃焼室内で生じた燃焼熱の発生速度を算出する熱発生速度算出手段と、
    前記着火手段で前記燃焼室内の混合気を着火する前に、前記燃焼熱の発生速度が所定値を越えた場合には、前記混合気形成手段を制御することにより、前記筒内噴射弁から燃料を噴射して前記第3の密度で燃料が分布した混合気を形成する時期を遅延させる噴射時期遅延手段と
    を備えている内燃機関。
  29. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    記第3の密度で分布させるための燃料を前記筒内噴射弁から前記燃焼室内に噴射した後に、前記圧力上昇速度が前記許容速度を超えた場合には、該燃料の噴射時期を遅延させる噴射時期遅延手段を備えている内燃機関。
  30. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    前記燃焼室内から排出される排気ガスに含まれる窒素酸化物の濃度を検出するNOx濃度検出手段を備え、
    前記制御手段は、前記検出された窒素酸化物の濃度が所定の許容値を超える場合には、前記第3の密度で分布させるための燃料を前記筒内噴射弁から噴射する時期を遅延させる噴射時期遅延手段を備えている内燃機関。
  31. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    前記燃焼室内から排出される排気ガスに含まれる窒素酸化物の濃度を検出するNOx濃度検出手段を備え、
    前記制御手段は、前記検出された窒素酸化物の濃度が所定の許容値を超える場合には、前記第3の密度で分布させるために前記筒内噴射弁から噴射する燃料を減量する燃料量減量手段を備えている内燃機関。
  32. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    前記燃焼室内から排出される排気ガスに含まれる窒素酸化物の濃度を検出するNOx濃度検出手段を備え、
    前記制御手段は、
    記検出された窒素酸化物の濃度が所定の許容値を超える場合には、該混合気の着火時期を遅延させる着火時期遅延手段を備えている内燃機関。
  33. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    前記燃焼室内から排出される排気ガスに含まれる一酸化炭素の濃度を検出するCO濃度検出手段あるいは、炭化水素系化合物の濃度を検出するHC濃度検出手段の少なくとも一方を備え、
    前記制御手段は、前記検出された一酸化炭素あるいは炭化水素系化合物の濃度の少なくとも一方が所定の各許容値を超える場合には、前記第3の密度で分布させるために燃料を前記筒内噴射弁から噴射する時期を進角させる噴射時期進角手段を備えている内燃機関。
  34. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    前記燃焼室内から排出される排気ガスに含まれる一酸化炭素の濃度を検出するCO濃度検出手段あるいは、炭化水素系化合物の濃度を検出するHC濃度検出手段の少なくとも一方を備え、
    前記制御手段は、前記検出された一酸化炭素あるいは炭化水素系化合物の濃度の少なくとも一方が所定の各許容値を超える場合には、前記第3の密度で分布させるために前記筒内噴射弁から噴射する燃料を増量する燃料量増量手段を備えている内燃機関。
  35. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    前記燃焼室内から排出される排気ガスに含まれる一酸化炭素の濃度を検出するCO濃度検出手段あるいは、炭化水素系化合物の濃度を検出するHC濃度検出手段の少なくとも一方を備え、
    前記制御手段は、
    記検出された一酸化炭素あるいは炭化水素系化合物の濃度の少なくとも一方が所定の各許容値を超える場合には、該混合気の着火時期を進角させる着火時期進角手段を備えている内燃機関。
  36. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    前記制御手段は、
    前記燃焼室内に生じる圧力振動に基づいてノックの発生を検出するノック検出手段と、
    前記要求トルクが前記第1の閾値より小さく且つ前記ノックの発生が検出された場合に、前記吸入空気量を増加させて、前記第1の混合気中に分布する燃料の密度を減少させる密度補正手段と
    を備える内燃機関。
  37. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    前記制御手段は、
    前記燃焼室内に生じる圧力振動に基づいてノックの発生を検出するノック検出手段と、
    前記要求トルクが前記第1の閾値より小さく且つ前記ノックの発生が検出された場合に、該第1の閾値を更新する閾値更新手段と
    を備える内燃機関。
  38. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    前記混合気形成手段は、前記第1の混合気あるいは、前記第2の混合気に加えて、前記燃焼室内に燃料が偏在して分布した第3の混合気の、いずれかの混合気を形成する手段であり、
    前記制御手段は、前記第1の閾値よりも小さな第2の閾値と前記要求トルクとの大小関係を判断して、該要求トルクが該第2の閾値より小さい場合には、前記第3の混合気を形成するよう前記混合気形成手段を制御する手段であり、
    前記圧力変換機構は、前記要求トルクが前記第2の閾値より小さい場合には、前記第3の混合気の燃焼による前記燃焼室内の圧力上昇をトルクに変換する機構である内燃機関。
  39. 請求項38記載の内燃機関であって、
    前記混合気形成手段は、前記第3の混合気として、前記圧力変換機構による圧縮で自着火する混合気を形成する手段である内燃機関。
  40. 請求項38記載の内燃機関であって、
    記制御手段は、前記要求トルクが前記第2の閾値よりも小さい場合には、前記着火手段を制御することによって前記第3の混合気を着火させる手段である内燃機関。
  41. 請求項40記載の内燃機関であって、
    前記混合気形成手段は、前記第3の混合気として、前記圧力変換機構による圧縮では自着火しない混合気を形成する手段である内燃機関。
  42. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    記混合気形成手段は、前記第1の混合気あるいは、前記第2の混合気に加えて、前記燃焼室内に前記第1の密度より高い第4の密度で燃料が分布した第4の混合気の、いずれかの混合気を形成する手段であり、
    前記制御手段は、前記第1の閾値より大きな第3の閾値と前記要求トルクとの大小関係を判断して、該要求トルクが該第3の閾値よりも大きい場合には、前記内燃機関の圧縮行程中に前記筒内噴射弁から燃料を噴射することによって前記第4の混合気を形成するとともに、前記着火手段を制御することによって前記第4の混合気を着火させる手段であり、
    前記圧力変換機構は、前記要求トルクが前記第3の閾値よりも大きい場合には、前記第4の混合気が燃焼したことによる前記燃焼室内の圧力上昇をトルクに変換して出力する機構である内燃機関。
  43. 請求項1ないし請求項3のうちの任意の1つに記載の内燃機関であって、
    前記圧力変換機構は、クランク軸を回転させて前記燃焼室内でピストンを上昇させることにより、該燃焼室内の混合気を圧縮する機構であり、
    前記クランク軸の回転速度を検出する回転速度検出手段と、
    前記燃焼室に接続されて前記吸入空気が通過する吸気通路を、前記クランク軸の回転に同期して開閉する吸気弁と、
    前記燃焼室に接続されて前記燃焼室内で燃焼した混合気が通過する排気通路を、前記クランク軸の回転に同期して開閉する排気弁と、
    前記吸気弁および排気弁の開閉時期を切り換えることにより、前記内燃機関の運転状態を、4サイクル運転と2サイクル運転とに切り換える運転状態切換手段と
    を備え、
    前記制御手段は、前記クランク軸の回転速度が所定の閾値より小さい場合には前記内燃機関を2サイクル運転に切り換え、該回転速度が該閾値より大きい場合には4サイクル運転に切り換えるよう、前記運転状態切換手段を制御する手段である内燃機関。
  44. 請求項43記載の内燃機関であって、
    電力の供給あるいは切断の少なくとも一方によって前記吸気弁を開閉する吸気弁駆動手段と、
    電力の供給あるいは切断の少なくとも一方によって前記排気弁を開閉する排気弁駆動手段と
    を備え、
    前記運転状態切換手段は、前記吸気弁駆動手段および前記排気弁駆動手段へ電力を供給あるいは切断する時期の少なくとも一方を制御することにより、前記内燃機関の運転状態を切り換える手段である内燃機関。
  45. 燃料が吸入空気に対して所定の密度で混合した混合気を形成し、該混合気を燃焼室内で燃焼させることによって動力を出力する内燃機関の制御方法であって、
    前記内燃機関が発生させるべき要求トルクを検出する第1の工程と、
    前記検出した要求トルクが所定の第1の閾値より小さい場合に、燃料が所定の第1の密度で分布した第1の混合気を前記燃焼室内に形成して、該混合気を圧縮自着火させる第2の工程と、
    前記検出した要求トルクが前記第1の閾値より大きい場合に、前記燃焼室内の一部領域には前記第1の密度よりは低い第2の密度で燃料を分布させ、該燃焼室内の残余の領域には該第2の密度より高い第3の密度で燃料を分布させた第2の混合気を形成して圧縮した後、着火手段を制御することにより、前記第3の密度で燃料が分布した残余の領域で前記第2の混合気を着火させることにより、該第2の密度で燃料が分布した領域の前記第2の混合気を自着火させる第3の工程と、
    前記燃焼室内の圧力を検出し、前記検出した圧力に基づいて、前記燃焼室内での圧力上昇速度が所定の許容速度を超えた否かを判断する第4の工程と、
    を備え、
    前記第3の工程は、
    前記第2の混合気中で燃料が前記第2の密度で分布した領域の空気過剰率が2ないし3.5であり、前記第3の密度で分布した領域の空気過剰率が1.3ないし1.7となるように、前記第2の混合気を形成する工程と、
    前記内燃機関の圧縮行程中に筒内噴射弁から前記燃料室内に燃料を直接噴射することによって、前記第2の混合気中の前記残余の領域に、前記第3の密度で燃料が分布した混合気を形成する工程と、
    前記着火手段で前記燃焼室内の混合気を着火した後に、前記圧力上昇速度が前記許容速度を超えた場合には、該混合気の着火時期を遅延させる工程と、
    を備える制御方法。
  46. 請求項45記載の制御方法であって、
    前記第2の工程は、前記燃焼室内に燃料を直接噴射することによって前記混合気を形成する工程を備え、
    前記第3の工程は、
    前記燃焼室内の一部領域には前記第2の密度で燃料を分布させるために、該燃焼室内に燃料を直接噴射する工程と、
    前記燃焼室内の残余の領域には前記第3の密度で燃料を分布させるために、前記燃焼室内に燃料を直接噴射する工程と
    を備える制御方法。
  47. 請求項46記載の制御方法であって、
    前記第3の密度で燃料を分布させるために前記燃焼室内に燃料を直接噴射する工程は、該噴射した燃料を該燃焼室を形成する壁面の一部に衝突させることにより、前記残余の領域に該燃料を導きながら該第3の密度で分布させる工程である制御方法。
  48. 請求項46または請求項47に記載の制御方法であって、
    前記第3の工程は、前記第3の密度で燃料が分布した残余の領域に火花を飛ばすことにより、該領域の混合気を着火させる工程を備える制御方法。
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