JP4116461B2 - 樹脂組成物の製造方法および該製造方法による樹脂ペレット - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、樹脂組成物の製造方法に関する。より詳しくは、芳香族ポリカーボネート樹脂、層状珪酸塩、及び特定の化合物からなる樹脂組成物を水と共に溶融混合し、その後水を除去することにより、界面活性剤など高い極性を有する化合物の実質的に含有することなく層状珪酸塩を微分散させた芳香族ポリカーボネート樹脂を提供可能な樹脂組成物の製造方法に関する。より好適にはベント式押出機を用い、押出機中に水を注入して上記成分を溶融混合し、その後水を除去することにより層状珪酸塩を微分散させ、その機械特性と熱安定性を大幅に向上させた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法である。更に本発明は、かかる樹脂組成物の製造方法により製造された樹脂ペレットに関する。本発明の樹脂ペレットは、その改良された熱安定性によって再度の溶融加工に耐え、多様な樹脂成形品に適用することが可能である。
【0002】
【従来の技術】
芳香族ポリカーボネート樹脂は透明性、耐熱性、耐衝撃性等に優れていることから射出成形、圧縮成形、押出成形、回転成形等によって溶融成形され、家電製品、電子機器、OA機器、自動車、日用品、光ディスク等多くの用途に供されている。かかる芳香族ポリカーボネート樹脂は、それ自身でエンジニアリングプラスチックとして使用されるが、それに無機充填材や他の樹脂を添加して樹脂物性を改善しさらに用途を拡大している。
【0003】
ところで、近年、無機充填材として粘土鉱物、特に層状珪酸塩を用い、その層間イオンを各種の有機オニウムイオンにイオン交換させた後に樹脂と混合することにより樹脂中におけるナノメートルオーダーの微分散を達成し、比重や表面外観性を保持しながら機械特性、耐熱性を大きく改良する、所謂ナノコンポジットが話題になっており、特にポリアミド系樹脂やポリオレフィン系樹脂においては実用例も見ることができる。
【0004】
芳香族ポリカーボネートと同じく非晶性樹脂の部類に入るポリスチレン系樹脂においても同様の検討がなされており、ポリスチレンに極性基を導入することにより層状珪酸塩の分散性の改良がある程度なされている(非特許文献1)。
【0005】
しかしながら、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物において、上記のような層状珪酸塩が微分散された樹脂組成物を得るには多くの困難が伴っていた。
【0006】
例えば、特許文献1〜7などが開示され、使用する有機オニウムイオンや混合方法を工夫することにより、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中における分散性を改良しようとする方法が提案されている。
【0007】
しかしながら、層間を有機オニウムイオン化合物などの界面活性剤でイオン交換させた層状珪酸塩(以下単に“有機化層状珪酸塩”と称する場合がある)などを芳香族ポリカーボネート樹脂に配合すると、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂等とは異なり、加水分解を生じやすいため、溶融加工時の分子量低下など熱安定性の不良が問題となる場合がある。
【0008】
芳香族ポリカーボネート樹脂中の不純物や塩素化合物を除去する目的で、ベント式押出機を用いて、芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融押出時に水を添加する方法は、例えば特許文献8および9などに記載されている。
【0009】
一方、層状珪酸塩の微分散した樹脂組成物の製造方法において、各種の媒体の存在下に溶融混合する方法も各種の試みが行われ公知である。
【0010】
例えば、特許文献10においては、有機化層状珪酸塩と芳香族ポリカーボネート樹脂やスチレン−無水マレイン酸共重合体とを溶融混練した後キシレンなどの有機溶媒を注入して混合し、その後該有機溶媒を除去する方法が記載されている。
【0011】
例えば、特許文献11においては、結晶性熱可塑性樹脂に、イオン交換されていない層状珪酸塩を水で膨潤した後配合し、ベント式押出機で溶融混合する方法が提案されている。尚、かかる方法においては、層状珪酸塩が結晶性熱可塑性樹脂の核剤として特定形状となる押出条件が更に求められている。
【0012】
例えば、特許文献12においては、ビニルアルコール共重合体に粘土鉱物を添加して溶融混練し、かかる溶融混練物に水を添加する方法が提案されている。
【0013】
例えば、特許文献13においては、樹脂、界面活性剤、および層状珪酸塩の水スラリーを溶融混合した後、水を脱気して樹脂組成物を製造する方法が提案されている。かかる方法によって層状珪酸塩の水スラリーと界面活性剤とから、有機化層状珪酸塩を得、その後該有機化層状珪酸塩とを混合するという複雑な工程を省略できることが提案されている。
【0014】
例えば、特許文献14においては、芳香族ポリカーボネート樹脂に、クレイ(層状珪酸塩)、および界面活性剤やポリビニルアルコールなどのクレイ分散剤とを、芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融温度以上において水と接触させ、水をベントで吸引除去する方法が記載されている。該方法も特許文献13の方法と同様、有機化層状珪酸塩を製造することによるコストおよび工数増の抑制を目的としている。
【0015】
例えば、特許文献15においては、樹脂と有機化層状珪酸塩のケーキ状含水物とを溶融混合する方法を提案し、かかる方法は、更に良好な分散状態を達成することが記載されている。
【0016】
しかしながらこれらの樹脂組成物の製造方法は、いずれも有機オニウムイオンなどの界面活性剤またはポリビニルアルコールなどの高極性ポリマーを必須とし、したがって芳香族ポリカーボネート樹脂の加水分解を抑制する上では未だ不十分なものであった。また単に水で膨潤した層状珪酸塩を混合しても、微分散された層状珪酸塩を含有し、かつ良好な熱安定性を有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は得られないのが現状である。
【0017】
【非特許文献1】
長谷川ほか;Polymer Preprints Japan、48巻、第4号、687頁、1999年
【特許文献1】
特開平03−215558号公報
【特許文献2】
特開平07−207134号公報
【特許文献3】
特開平07−228762号公報
【特許文献4】
特開平07−331092号公報
【特許文献5】
特開平08−151449号公報
【特許文献6】
特開平09−143359号公報
【特許文献7】
特開平10−60160号公報
【特許文献8】
特公平05−48162号公報
【特許文献9】
特公平07−2364号公報
【特許文献10】
特開平08−151449号公報
【特許文献11】
特開平09−183910号公報
【特許文献12】
特開平10−158412号公報
【特許文献13】
特開平10−310704号公報
【特許文献14】
特開2000−239397号公報
【特許文献15】
特開2002−234948号公報
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、芳香族ポリカーボネート樹脂にその熱安定性を低下させないよう層状化合物を微分散させて、機械特性に優れた樹脂組成物を製造する方法を提供することにある。
【0019】
本発明者らは、かかる目的を達成すべく鋭意検討した結果、芳香族ポリカーボネート樹脂に層状珪酸塩を微分散させるにあたり、更に特定の化合物を配合し、かつそれらを水と共に溶融混合することにより、有機オニウムイオンに代表される界面活性剤を実質的に含有することなく層状珪酸塩を芳香族ポリカーボネート樹脂中に微分散させることが可能となり、その結果上記課題を解決し、良好な剛性および表面平滑性など層状珪酸塩の微分散により発揮される効果と、良好な熱安定性とを併有する樹脂組成物が得られることを見出した。本発明者らはかかる発見より更に鋭意検討を行い、本発明を完成するに至った。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本発明は、(1)下記A成分、B成分およびC成分の特定割合よりなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造する方法であって、該A成分、B成分およびC成分を水と共に溶融混合し、その後該溶融混合物より水を除去する樹脂組成物の製造方法にかかるものである。
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部
(B)50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有する層状珪酸塩(B成分)0.1〜50重量部
(C)芳香族ポリカーボネートとの親和性を有しかつ親水性成分を有する化合物(C成分)0.1〜50重量部
かかる構成(1)により、有機オニウムイオンに代表される界面活性剤を実質的に含有することなく層状珪酸塩を芳香族ポリカーボネート樹脂中に微分散され、その結果層状珪酸塩の微分散により発揮される効果と、良好な熱安定性とを併有する(以下、単に“本発明の効果”と総称する場合がある)芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【0021】
本発明の好適な態様の1つは、(2)上記製造は少なくとも1個の減圧されたベントを備えてなるベント式押出機を用いて行われ、かつ上記溶融混合物からの水の除去はかかる減圧されたベントで行われてなる上記(1)の樹脂組成物の製造方法である。本発明は条件を満足する如何なる装置によっても行うことができるが、かかるベント式押出機を用いた方法によって本発明を効率的に実施することが可能である。したがってかかる構成(2)によれば、本発明の効果を有する樹脂組成物がより簡便な装置により効率的に提供される。
【0022】
本発明の好適な態様の1つは、(3)上記水は、実質的にベント式押出機に備えられた水を注入添加する機能を持つ水注入口より、該押出機に供給される上記(2)の樹脂組成物の製造方法である。本発明はA成分〜C成分と水との共存を必須要件とし、水を混合機、殊にベント式押出機に供給する方法はいかなるものであってもよい。したがって押出機に水を注入する方法の他、層状珪酸塩を水で膨潤したものや、その水スラリーなどによって水を供給してもよい。しかしながら、水で膨潤した層状珪酸塩の押出機への供給は、供給口の高温により発生する多量の水蒸気の影響で困難となりやすく、また水スラリーを使用する方法は概して過剰の水を供給かつ脱気する必要があるため設備的な効率の面で劣る。すなわち、かかる構成(3)によれば、簡便な装置で効率的に本発明の効果を有する樹脂組成物が提供される。
【0023】
また本発明はより好適には、(4)下記A成分、B成分およびC成分の特定割合よりなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物をベント式押出機を用いて製造する方法であって、該押出機は、A成分、B成分およびC成分を供給するための主供給口と、水を注入添加する機能を持つ水注入口と、注入された水を脱気するための減圧されたベントを備えてなり、かつ該製造は、(i)主供給口よりA成分、B成分およびC成分を押出機に供給して溶融混合し、(ii)該溶融混合後水注入口より水を押出機に注入し、(iii)該注入後A成分〜C成分を水と共に溶融混合し、(iv)該溶融混合後減圧されたベントより水を脱気しながら溶融押出する樹脂組成物の製造方法にかかるものである。
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部
(B)50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有する層状珪酸塩(B成分)0.1〜50重量部
(C)芳香族ポリカーボネートとの親和性を有しかつ親水性成分を有する化合物(C成分)0.1〜50重量部
【0024】
かかる構成(4)によれば、本発明の効果においてより優れた樹脂組成物が、より効率的に製造される。本発明はA成分〜C成分を水と共に溶融混練することを必須要件とし、A成分〜C成分および水を押出機等の溶融混合機に供給する順序に関しては特に制限されないが、以下の理由から上記構成(4)の要件を満足することが好ましい。すなわち、A成分の溶融温度においては水は蒸発するので、A成分〜C成分を水と共に溶融混練すれば水は系外へ蒸散する。かかる蒸散の放置は、水の注入量の精度を劣らせ、またA成分〜C成分の供給を不安定にさせる場合がある。よって水の注入される前後のゾーンは溶融樹脂により封鎖され、その結果該ゾーンは、水がA成分〜C成分と共に高圧で存在可能な状態とされることが好ましい。同じ理由により供給口からの水の蒸散を防止するため、水を注入した後にB成分やC成分が供給されない方が好ましい。したがって上記構成(4)の(i)および(ii)の要件によって、水の注入される前のゾーンが溶融樹脂によって封鎖されると共に、水の蒸散し得る供給口は不要とされ、更に(iii)の要件によって水の注入された後のゾーンが溶融樹脂によって封鎖され、水がA成分〜C成分と共に高圧で存在可能な好ましい状態が達成される。
【0025】
本発明の好適な態様の1つは、(5)上記ベント式押出機は、主供給口と水注入口の間、及び水注入口と注入された水を脱気するための減圧されたベントの間にそれぞれ混練ゾーンが設けられてなる上記(4)の樹脂組成物の製造方法である。かかる構成(5)によれば、押出機内における水の注入される前後のゾーンが溶融樹脂によってより確実に封鎖され、その結果水がA成分〜C成分と共に高圧で存在する好ましい状態が達成され、即ち本発明の製造方法がより効率的に行われる。
【0026】
本発明の好適な態様の1つは、(6)上記水注入口における水注入量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部当り0.2〜20重量部である上記(3)〜(5)の樹脂組成物の製造方法である。かかる構成(6)によれば、本発明の効果を有する樹脂組成物が、効率よく製造される。
【0027】
本発明の好適な態様の1つは、(7)上記減圧されたベントにおける真空度は、7kPa以下である上記(2)〜(6)の樹脂組成物の製造方法である。かかる構成(7)によれば、溶融混合時に存在した水は十分に脱気され、本発明の効果においてより優れた芳香族ポリカーボネート樹脂が提供される。
【0028】
本発明の好適な態様の1つは、(8)上記減圧されたベントが設けられた箇所において、スクリュー溝より構成される空間容積に対する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物充填量が、5〜20体積%である上記(2)〜(7)の樹脂組成物の製造方法である。かかる構成(8)によれば、水の脱気がより効率的に行われ、本発明の効果においてより優れた芳香族ポリカーボネート樹脂が提供される。
【0029】
本発明の好適な態様の1つは、(9)上記C成分は、芳香族ポリカーボネートとの親和性を有しかつカルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基を有する重合体である上記(1)〜(8)の樹脂組成物の製造方法である。
【0030】
より好適な態様は、(10)上記C成分は、カルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基を有するスチレン含有重合体である上記(9)の樹脂組成物の製造方法であり、更に好適な態様は(11)上記C成分は、カルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基を有する単量体を共重合してなるスチレン含有共重合体である上記(9)の樹脂組成物の製造方法であり、特に好適な態様は、(12)上記C成分は、スチレン−無水マレイン酸共重合体である上記(9)の樹脂組成物の製造方法である。
【0031】
かかる構成(9)〜(12)によれば、C成分として特定の成分を使用することにより、本発明の効果においてより熱安定性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂が提供される。殊にスチレン−無水マレイン酸共重合体は好適である。
【0032】
更に本発明は、(13)上記(1)〜(12)の樹脂組成物の製造方法により製造された樹脂ペレットにかかるものである。また本発明は、(14)かかる樹脂ペレットを射出成形して製造された射出成形品にかかるものである。本発明は熱安定性の良好な芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供し、この結果該樹脂組成物からなるペレットを再度溶融し射出成形法などの方法を用いて成形加工し、多様な成形品の提供を可能とする。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の樹脂組成物を構成する各成分、それらの配合割合、調製方法等について、順次具体的に説明する。
【0034】
<A成分について>
本発明の樹脂組成物におけるA成分は、該樹脂組成物の主成分となる芳香族ポリカーボネート樹脂である。代表的な芳香族ポリカーボネート樹脂(以下、単に「ポリカーボネート」と称することがある)は、2価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものであり、反応の方法としては界面重縮合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法及び環状カーボネート化合物の開環重合法等を挙げることができる。
【0035】
上記2価フェノールの具体例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ビフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称“ビスフェノールA”)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等が挙げられる。これらの中でも、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン、特にビスフェノールA(以下“BPA”と略称することがある)が汎用されている。
【0036】
本発明では、汎用のポリカーボネートであるビスフェノールA系のポリカーボネート以外にも、さらに良好な耐加水分解性を得る目的で、他の2価フェノール類を用いて製造した特殊なポリカーボネ−トをA成分として使用することが可能である。
【0037】
例えば、2価フェノール成分の一部又は全部として、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール(以下“BPM”と略称することがある)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(以下“Bis−TMC”と略称することがある)、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン及び9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(以下“BCF”と略称することがある)を用いたポリカーボネ−ト(単独重合体又は共重合体)は、ポリマー自体が良好な耐加水分解性を有するので、吸水による寸法変化や形態安定性の要求が特に厳しい用途に適当である。これらのBPA以外の2価フェノールは、該ポリカーボネートを構成する2価フェノール成分全体の5モル%以上、特に10モル%以上、使用するのが好ましい。
【0038】
殊に、高剛性かつより良好な耐加水分解性が要求される場合には、樹脂組成物を構成するA成分が次の(1)〜(3)の共重合ポリカーボネートであるのが特に好適である。
【0039】
(1)該ポリカーボネートを構成する2価フェノール成分100モル%中、BPMが20〜80モル%(より好適には40〜75モル%、さらに好適には45〜65モル%)であり、かつBCFが20〜80モル%(より好適には25〜60モル%、さらに好適には35〜55モル%)である共重合ポリカーボネート。
(2)該ポリカーボネートを構成する2価フェノール成分100モル%中、BPAが10〜95モル%(より好適には50〜90モル%、さらに好適には60〜85モル%)であり、かつBCFが5〜90モル%(より好適には10〜50モル%、さらに好適には15〜40モル%)である共重合ポリカーボネート。
(3)該ポリカーボネートを構成する2価フェノール成分100モル%中、BPMが20〜80モル%(より好適には40〜75モル%、さらに好適には45〜65モル%)であり、かつBis−TMCが20〜80モル%(より好適には25〜60モル%、さらに好適には35〜55モル%)である共重合ポリカーボネート。
【0040】
これらの特殊なポリカーボネートは、単独で用いてもよく、2種以上を適宜混合して使用してもよい。また、これらを汎用されているビスフェノールA型のポリカーボネートと混合して使用することもできる。
【0041】
これらの特殊なポリカーボネートの製法及び特性については、例えば、特開平6−172508号公報、特開平8−27370号公報、特開2001−55435号公報及び特開2002−117580号公報等に詳しく記載されている。
【0042】
なお、上述した各種のポリカーボネートの中でも、共重合組成等を調整して、吸水率及びTg(ガラス転移温度)を下記の範囲内にしたものは、ポリマー自体の耐加水分解性が良好で、かつ成形後の低反り性においても格段に優れているため、形態安定性が要求される分野では特に好適である。
(i)吸水率が0.05〜0.15%、好ましくは0.06〜0.13%であり、かつTgが120〜180℃であるポリカーボネート、あるいは
(ii)Tgが160〜250℃、好ましくは170〜230℃であり、かつ吸水率が0.10〜0.30%、好ましくは0.13〜0.30%、より好ましくは0.14〜0.27%であるポリカーボネート。
【0043】
ここで、ポリカーボネートの吸水率は、直径45mm、厚み3.0mmの円板状試験片を用い、ISO62−1980に準拠して23℃の水中に24時間浸漬した後の水分率を測定した値である。また、Tg(ガラス転移温度)は、JISK7121に準拠した示差走査熱量計(DSC)測定により求められる値である。
【0044】
一方、カーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カーボネートエステル又はハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネート又は2価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。
【0045】
このような2価フェノールとカーボネート前駆体とから界面重合法によってポリカーボネートを製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、2価フェノールが酸化するのを防止するための酸化防止剤等を使用してもよい。また、ポリカーボネートは3官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネートであってもよい。ここで使用される3官能以上の多官能性芳香族化合物としては、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン等が挙げられる。
【0046】
分岐ポリカーボネートを生ずる多官能性化合物を含む場合、その割合は、ポリカーボネート全量中、0.001〜1モル%、好ましくは0.005〜0.9モル%、特に好ましくは0.01〜0.8モル%である。また、特に溶融エステル交換法の場合、副反応として分岐構造が生ずる場合があるが、かかる分岐構造量についても、ポリカーボネート全量中、0.001〜1モル%、好ましくは0.005〜0.9モル%、特に好ましくは0.01〜0.8モル%であるものが好ましい。なお、かかる分岐構造の割合については1H−NMR測定により算出することが可能である。
【0047】
また、本発明の樹脂組成物においてA成分となる芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族もしくは脂肪族(脂環族を含む)の2官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート、2官能性アルコール(脂環族を含む)を共重合した共重合ポリカーボネート並びにかかる2官能性カルボン酸及び2官能性アルコールを共に共重合したポリエステルカーボネートであってもよい。また、得られたポリカーボネートの2種以上をブレンドした混合物でも差し支えない。
【0048】
ここで用いる脂肪族の2官能性のカルボン酸は、α,ω−ジカルボン酸が好ましい。脂肪族の2官能性のカルボン酸としては、例えば、セバシン酸(デカン二酸)、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸、イコサン二酸等の直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸及びシクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸が好ましく挙げられる。2官能性アルコールとしては、脂環族ジオールがより好適であり、例えばシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、トリシクロデカンジメタノール等が例示される。
【0049】
さらに、本発明では、A成分として、ポリオルガノシロキサン単位を共重合した、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の使用も可能である。
【0050】
A成分となる芳香族ポリカーボネート樹脂は、上述した2価フェノールの異なるポリカーボネート、分岐成分を含有するポリカーボネート、ポリエステルカーボネート、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体等の各種ポリカーボネートの2種以上を混合したものであってもよい。さらに、製造法の異なるポリカーボネート、末端停止剤の異なるポリカーボネート等を2種以上混合したものを使用することもできる。
【0051】
ポリカーボネートの重合反応において、界面重縮合法による反応は、通常、2価フェノールとホスゲンとの反応であり、酸結合剤及び有機溶媒の存在下に反応させる。酸結合剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物又はピリジン等のアミン化合物が用いられる。有機溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また、反応促進のために、例えば、トリエチルアミン、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド等の3級アミン、4級アンモニウム化合物、4級ホスホニウム化合物等の触媒を用いることもできる。その際、反応温度は通常0〜40℃、反応時間は10分〜5時間程度、反応中のpHは9以上に保つのが好ましい。
【0052】
また、かかる重合反応においては、通常、末端停止剤が使用される。かかる末端停止剤として単官能フェノール類を使用することができる。単官能フェノール類のとしては、例えば、フェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノール等の単官能フェノール類を用いるのが好ましい。さらに、単官能フェノール類としては、デシルフェノール、ドデシルフェノール、テトラデシルフェノール、ヘキサデシルフェノール、オクタデシルフェノール、エイコシルフェノール、ドコシルフェノール及びトリアコンチルフェノール等の炭素数10以上の長鎖アルキル基で核置換された単官能フェノールを挙げることができ、該フェノールは流動性の向上及び耐加水分解性の向上に効果がある。かかる末端停止剤は単独で使用しても2種以上併用してもよい。
【0053】
溶融エステル交換法による反応は、通常、2価フェノールとカーボネートエステルとのエステル交換反応であり、不活性ガスの存在下に2価フェノールとカーボネートエステルとを加熱しながら混合して、生成するアルコール又はフェノールを留出させる方法により行われる。反応温度は、生成するアルコール又はフェノールの沸点等により異なるが、殆どの場合120〜350℃の範囲である。反応後期には反応系を1.33×103〜13.3Pa程度に減圧して生成するアルコール又はフェノールの留出を容易にさせる。反応時間は、通常、1〜4時間程度である。
【0054】
上記カーボネートエステルとしては、置換基を有していてもよい炭素原子数6〜10のアリール基、アラルキル基あるいは炭素原子数1〜4のアルキル基等のエステルが挙げられ、中でもジフェニルカーボネートが好ましい。
【0055】
また、重合速度を速めるために重合触媒を用いることができる。かかる重合触媒としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、2価フェノールのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属化合物;水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属化合物;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の含窒素塩基性化合物等を用いることができる。さらに、アルカリ(土類)金属のアルコキシド類、アルカリ(土類)金属の有機酸塩類、ホウ素化合物類、ゲルマニウム化合物類、アンチモン化合物類、チタン化合物類、ジルコニウム化合物類等のエステル化反応、エステル交換反応に使用される触媒を用いることができる。これらの触媒は単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。触媒の使用量は、原料の2価フェノール1モルに対し、好ましくは1×10-8〜1×10-3当量、より好ましくは1×10-7〜5×10-4当量の範囲で選ばれる。
【0056】
溶融エステル交換法による反応では、生成ポリカーボネートのフェノール性末端基を減少する目的で、重縮反応の後期あるいは終了後に、例えば、2−クロロフェニルフェニルカーボネート、2−メトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネート、2−エトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネート等の化合物を加えることができる。
【0057】
さらに、溶融エステル交換法では触媒の活性を中和する失活剤を用いることが好ましい。かかる失活剤の量としては、残存する触媒1モルに対して0.5〜50モルの割合で用いるのが好ましい。また、重合後のポリカーボネートに対し、0.01〜500ppmの割合、より好ましくは0.01〜300ppm、特に好ましくは0.01〜100ppmの割合で使用するのが適当である。好ましい失活剤の例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩等のホスホニウム塩、テトラエチルアンモニウムドデシルベンジルサルフェート等のアンモニウム塩が挙げられる。
【0058】
A成分となる芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は限定されない。しかしながら、粘度平均分子量は、10,000未満であると強度等が低下し、50,000を超えると成形加工特性が低下するようになるので、10,000〜50,000の範囲が好ましく、12,000〜30,000の範囲がより好ましく、14,000〜28,000の範囲がさらに好ましい。この場合、成形性等が維持される範囲内で、粘度平均分子量が上記範囲外であるポリカーボネートを混合することも可能である。例えば、粘度平均分子量が50,000を超える高分子量のポリカーボネート成分を配合することも可能である。
【0059】
本発明でいう粘度平均分子量は、まず、次式にて算出される比粘度(ηSP)を20℃で塩化メチレン100mlに芳香族ポリカーボネート0.7gを溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求め、
比粘度(ηSP)=(t−t0)/t0
[t0は塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
求められた比粘度(ηSP)から次の数式により粘度平均分子量Mを算出する。
ηSP/c=[η]+0.45×[η]2c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10-4M0.83
c=0.7
【0060】
なお、本発明の樹脂組成物における粘度平均分子量を測定する場合は、次の要領で行う。すなわち、該樹脂組成物をその20〜30倍重量の塩化メチレンに溶解し、可溶分をセライト濾過により採取した後、溶液を除去して十分に乾燥し、塩化メチレン可溶分の固体を得る。かかる固体0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液から20℃における比粘度(ηSP)を、オストワルド粘度計を用いて求め、上式によりその粘度平均分子量Mを算出する。
【0061】
<B成分について>
本発明のB成分は50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有しする層状珪酸塩である。この層状珪酸塩は、SiO2連鎖からなるSiO4四面体シート構造とAl、Mg、Li等を含む八面体シート構造との組み合わせからなる層からなり、その層間に交換性陽イオンの配位した珪酸塩(シリケート)または粘土鉱物(クレー)である。これらの珪酸塩(シリケート)または粘土鉱物(クレー)は、スメクタイト系鉱物、バーミキュライト、ハロイサイトおよび膨潤性雲母等に代表される。具体的には、スメクタイト系鉱物としては、モンモリロナイト、ヘクトライト、フッ素ヘクトライト、サポナイト、バイデライト、スチブンサイト等が挙げられ、膨潤性雲母としては、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライト、Na型四珪素フッ素雲母、Li型四珪素フッ素雲母等の膨潤性合成雲母等が挙げられる。これら層状珪酸塩は天然品および合成品のいずれも使用可能である。合成品は、例えば、水熱合成、溶融合成、固体反応によって製造される。
【0062】
層状珪酸塩のなかでも、陽イオン交換容量等の点から、モンモリロナイト、ヘクトライト等のスメクタイト系粘土鉱物、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライト、Na型四珪素フッ素雲母等の膨潤性を持ったフッ素雲母が好適に用いられ、ベントナイトを精製して得られるモンモリロナイトや合成フッ素雲母が、純度等の点からより好適である。なかでも、良好な機械特性、熱安定性が得られる合成フッ素雲母が特に好ましい。
【0063】
前記B成分である層状珪酸塩の陽イオン交換容量(陽イオン交換能ともいう)は、50〜200ミリ当量/100gであることが必要とされ、好ましくは80〜150ミリ当量/100g、さらに好ましくは100〜150ミリ当量/100gである。陽イオン交換容量は、土壌標準分析法として国内の公定法となっているショーレンベルガー改良法によってCEC値として測定される。すなわち、層状珪酸塩の陽イオン交換容量は、A成分である非晶性熱可塑性樹脂への良好な分散性を得るために、50ミリ当量/100g以上必要であるが、200ミリ当量/100gより大きくなると芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の熱劣化が大きくなってくる。この層状珪酸塩は、そのpHの値が9〜10.5であることが好ましい。pHの値が10.5より大きくなると、本発明の熱可塑性樹脂組成物の熱安定性が低下する傾向が現れてくる。
【0064】
本発明に用いられるB成分の層状珪酸塩は、実質的に有機オニウムイオンがその層間にイオン交換されていないものである。具体的には、B成分の層状珪酸塩は、有機オニウムイオンが層間にイオン交換されていない層状珪酸塩が最も好ましいが、層状珪酸塩の有するイオン化交換容量の5%、より好適には2%を上限とする範囲内で有機オニウムイオンでイオン交換されていてもよい。尚、ここで5%の割合とは、例えば層状珪酸塩の陽イオン交換容量が110ミリ当量/100gの場合には、その5%となる5.5ミリ当量/100g分が有機オニウムイオンでイオン交換されていることを指す。ここで、有機オニウムイオンの交換割合は、交換後の化合物について、熱重量測定装置等を用いて、有機オニウムイオンの熱分解による重量減少を求めることにより算出することができる。
【0065】
本発明の層状珪酸塩(B成分)の直径は、好ましくは0.02μm〜20μmの範囲であり、より好ましくは0.2〜15μmの範囲であり、更に好ましくは0.5〜5μmの範囲である。直径が上記範囲であるB成分の配合は、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に対し、良好な機械特性を付与し(上記下限以上とすることによる)、および層状珪酸塩の良好な分散性を付与する(上記上限以下とすることによる)。尚、かかるB成分の直径は、押出機等の溶融混合機に供給される前のB成分において、レーザー回折・散乱法で測定された累積度数50%に相当する直径をいう。
【0066】
本発明の製造方法は、その芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を該樹脂組成物中におけるB成分のうち、60%以上の数割合が100nm以下の厚みを有し、60%以上の数割合が200nm以上の直径を有する分散状態とすることができる。かかる分散状態は、樹脂組成物の特性のバランス上好ましい。
【0067】
上記分散状態は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の透過型電子顕微鏡撮影より求めることができる。すなわち、厚みに関しては、ミクロトームを用いて熱可塑性樹脂組成物成形品の試験片における厚み方向に対して平行な断面から50〜100nmの厚みで観察試料を切り出し、該観察試料を約30,000〜100,000倍の倍率において観察する。かかる観察写真から画像解析を行い層状珪酸塩の1nm以上の厚みを計測することにより上記分散形態に関する知見を得ることができる。また直径に関しては、ミクロトームを用いて熱可塑性樹脂組成物成形品の試験片を流動方向に対して平行な断面方向から50〜100nmの厚みで観察試料を切り出し、該観察試料を約10,000倍の倍率において観察する。かかる観察写真から画像解析を行い層状珪酸塩の10nm以上の直径を計測することにより上記分散形態に関する知見を得ることができる。
【0068】
本発明で用いられるB成分の層状珪酸塩の、A成分との組成割合は、A成分100重量部あたり0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜20重量部、更に好ましくは0.5〜10重量部である。この組成割合が0.1重量部より小さいときには芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の機械特性の改良効果が見られず、また50重量部より大きくなると、組成物の熱安定性が低下し実用的な芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は得られにくい。
【0069】
<C成分について>
本発明の樹脂組成物におけるC成分は、A成分である芳香族ポリカーボネート樹脂と親和性を有しかつ親水性成分を有する化合物である。このC成分は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)及び上記層状珪酸塩(B成分)の双方に対する良好な親和性を生み出す。これら双方に対する親和性はこれら2成分の相溶性を向上させ、層状珪酸塩が芳香族ポリカーボネート樹脂に微細かつ安定して分散するようになる。
【0070】
層状珪酸塩の分散に関するC成分の機能は、異種ポリマー同士を相溶化させるために使用されるポリマーアロイ用相溶化剤(コンパティビライザー)と同様と推測される。したがって、このC成分は、低分子化合物よりも高分子化合物すなわち重合体であることが好ましい。また、重合体の方が混練加工時の熱安定性にも優れるため有利である。該重合体の平均繰り返し単位数は5以上が好ましく、10以上がより好ましい。一方、該重合体の平均分子量の上限については数平均分子量で2,000,000以下であることが好ましい。数平均分子量がかかる上限を超えない場合には良好な成形加工性が得られる。
【0071】
本発明の樹脂組成物に配合されるC成分が重合体である場合、その基本的構造としては、例えば、以下のようなものが挙げられる。
ア)上記芳香族ポリカーボネート樹脂に親和性を有する成分をα、親水性成分をβとするとき、αとβとからなるグラフト共重合体(主鎖がα、グラフト鎖がβ、並びに、主鎖がβ、グラフト鎖がαのいずれも選択できる。)、αとβとからなるブロック共重合体(ジ−、トリ、等ブロックセグメント数は2以上を選択でき、ラジアルブロックタイプ等を含む。)並びにαとβとからなるランダム共重合体。
イ)上記芳香族ポリカーボネート樹脂に親和性を有する成分をα、親水性成分をβとするとき、αの機能は重合体全体によって発現され、βが該α内に含まれる構造を有する重合体。
【0072】
上記構造ア)において、α及びβは重合体セグメント単位及び単量体単位のいずれをも意味するが、α成分は芳香族ポリカーボネート樹脂との親和性の観点から重合体セグメント単位であることが好ましい。また、上記構造イ)は、α単独では芳香族ポリカーボネート樹脂との親和性が十分ではないものの、αとβとが組み合わされ一体化されることにより、良好な親和性が発現する場合である。α単独の場合にも芳香族ポリカーボネート樹脂との親和性が良好であって、かつβとの組合せによってさらに親和性が向上する場合もある。したがって、これらの構造ア)及びイ)はその一部において重複することがある。
【0073】
本発明におけるC成分としては、α分のみでも芳香族ポリカーボネート樹脂に対する親和性が高く、さらにβが付加したC成分全体においてその親和性が一段と高くなるものが好適である。
【0074】
次に、C成分における芳香族ポリカーボネート樹脂に親和性を有する成分(以下、αと称する場合がある)について詳述する。上記の如くC成分は、ポリマーアロイにおける相溶化剤との同様の働きをすると考えられることから、αには相溶化剤と同様の重合体に対する親和性が求められる。したがって、αは非反応型と反応型とに大略分類できる。
【0075】
非反応型では、以下の要因を有する場合に親和性が良好となる。すなわち、芳香族ポリカーボネート樹脂とαとの間に、▲1▼化学構造の類似性、▲2▼溶解度パラメータの近似性(溶解度パラメータの差が1(cal/cm3)1/2以内、すなわち約2.05(MPa)1/2以内が目安とされる)、▲3▼分子間相互作用(水素結合、イオン間相互作用等)及びランダム重合体特有の擬引力的相互作用等の要因を有することが望まれる。これらの要因は、相溶化剤とポリマーアロイのベースになる重合体との親和性を判断する指標としても知られている。反応型では、相溶化剤において芳香族ポリカーボネートと反応性を有する官能基を有するものを挙げることができる。例えば、芳香族ポリカーボネート樹脂に対して反応性を有する、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、エポキシ基、オキサゾリン基、エステル基、エステル結合、カーボネート基及びカーボネート結合等を例示することができる。
【0076】
一方で、芳香族ポリカーボネート樹脂とαとが良好な親和性をもつ場合、その結果として芳香族ポリカーボネート樹脂とαとの混合物において単一のガラス転移温度(Tg)を示すか、あるいは、芳香族ポリカーボネート樹脂のTgがαのTgの側に移動する挙動が認められるので、芳香族ポリカーボネート樹脂と親和性を有する成分(α)は、かかる挙動により判別することができる。
【0077】
上述の如く、C成分における芳香族ポリカーボネート樹脂と親和性を有する成分(α)は、非反応型であることが好ましく、殊に溶解度パラメータが近似することにより良好な親和性を発揮することが好ましい。これは反応型に比較して芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)との親和性により優れるためである。また、反応型は過度に反応性を高めた場合、副反応によって重合体の熱劣化が促進される欠点がある。
【0078】
芳香族ポリカーボネート樹脂及びC成分のαの溶解度パラメータは次の関係を有することが好ましい。すなわち、芳香族ポリカーボネート樹脂の溶解度パラメータをδA((MPa)1/2)とし、C成分におけるαの溶解度パラメータ又はC成分全体の溶解度パラメータをδα((MPa)1/2)としたとき、次式:
δα=δA±2 ((MPa)1/2)
の関係を有することが好ましい。
【0079】
例えば、A成分となる芳香族ポリカーボネート樹脂の溶解度パラメータは、通常、約10(cal/cm3)1/2(すなわち約20.5((MPa)1/2))とされていることから、δαは18.5〜22.5((MPa)1/2)の範囲が好ましく、19〜22((MPa)1/2)の範囲がより好ましい。
【0080】
かかる溶解度パラメータδαを満足する重合体成分の具体例としては、スチレンポリマー、アルキル(メタ)アクリレートポリマー、アクリロニトリルポリマー(例えば、ポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリメチルメタクリレート、スチレン−メチルメタクリレート共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体等に代表される)等のビニル系重合体を挙げることができる。本発明の組成物の耐熱性の保持のためには、Tgの高い重合体成分を用いることが好ましい。
【0081】
ここで溶解度パラメータは、「ポリマーハンドブック 第4版」(A WILEY-INTERSCIENCE PUBLICATION,1999年)中に記載されたSmallの値を用いた置換基寄与法(Group contribution methods)による理論的な推算方法が利用できる。芳香族ポリカーボネート樹脂のTgは、既に述べたようにJIS K7121に準拠した示差走査熱量計(DSC)測定により求めることが可能である。
【0082】
上記のA成分の芳香族ポリカーボネート樹脂と親和性を有する成分αは、C成分中5重量%以上であることが好ましく、10重量%以上がより好ましく、30重量%以上がさらに好ましく、50重量%以上が特に好ましい。C成分全体をαとする態様も可能であることから上限は100重量%であってよい。
【0083】
一方、C成分における親水性成分(以下、βと称する場合がある)は、親水基(水との相互作用の強い有機性の原子団)を有する単量体及び親水性重合体成分(重合体セグメント)より選択される。親水基はそれ自体広く知られ、下記の基が例示される。
1)強親水性の基:−SO3H、−SO3M、−OSO3H、−OSO3H、−COOM、−NR3X(R:アルキル基、X:ハロゲン原子、M:アルカリ金属、−NH4) 等、
2)やや小さい親水性を有する基:−COOH、−NH2、−CN、−OH、−NHCONH2 等、
3)親水性が無いか又は小さい基:−CH2OCH3、−OCH3、−COOCH3、−CS 等
【0084】
本発明の樹脂組成物に配合するC成分としては、親水基が上記1)又は2)に分類されるものが使用され、中でも、上記2)の親水基は芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融加工時の熱安定性により優れるため好ましい。親水性が高すぎる場合には芳香族ポリカーボネート樹脂の熱劣化が生じやすくなる。これは、かかる親水基が直接カーボネート結合と反応し、熱分解反応を生じるためである。
【0085】
なお、かかる親水基は1価及び2価以上の基のいずれであってもよい。C成分が重合体の場合、2価以上の官能基とは該基が重合体の主鎖を構成しないものを指し、主鎖を構成するものは結合として官能基とは区別する。具体的には、主鎖を構成する炭素等の原子に付加した基、側鎖の基及び分子鎖末端の基は2価以上であっても官能基である。
【0086】
親水基のより具体的な指標は、溶解度パラメータである。溶解度パラメータの値が大きいほど親水性が高くなることは広く知られている。基ごとの溶解度パラメータは、Fedorsによる基ごとの凝集エネルギー(Ecoh)及び基ごとのモル体積(V)より算出することができる(「ポリマー・ハンドブック 第4版」(A WILEY-INTERSCIENCE PUBLICATION),VII/685頁、1999年、Polym. Eng. Sci.,第14巻,147及び472頁,1974年、等参照)。さらに親水性の大小関係のみを比較する観点からは、凝集エネルギー(Ecoh)をモル体積(V)で除した数値(Ecoh/V;以下単位は“J/cm3”とする)を親水性の指標として使用できる。
【0087】
C成分の親水性成分(β)に含まれる親水基は、Ecoh/Vが600以上であることが必要であり、好ましくはEcoh/Vは800以上である。800以上の場合にはA成分の芳香族ポリカーボネート樹脂におけるカーボネート結合のEcoh/Vを超え、カーボネート結合よりも高い親水性を有する。Ecoh/Vは900以上がより好ましく、950以上がさらに好ましい。一方、親水性が高すぎる場合には、既に述べたように芳香族ポリカーボネート樹脂の熱劣化が生じ易くなる。このため、Ecoh/Vは2,500以下が好ましく、2,000以下がより好ましく、1,500以下がさらに好ましい。
【0088】
C成分の親水性成分(β)として、親水性重合体成分(重合体セグメント)も選択され得る。C成分の重合体中に含まれる親水性重合体のセグメントはβとなる親水性重合体としては、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸金属塩(キレート型を含む)、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリヒドロキシエチルメタクリレート等が例示される。これらの中でも、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、ポリヒドロキシエチルメタクリレートが好ましく例示される。これらの親水性重合体セグメントは、αおよびβを有するC成分においては良好な親水性と芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)に対する熱安定性(溶融加工時の芳香族ポリカーボネート樹脂の分解の抑制)とが両立するためである。なお、ポリアルキレンオキシドとしては、ポリエチレンオキシド及びポリプロピレンオキシドが好ましい。
【0089】
親水基を有する単量体及び親水性重合体成分のいずれにおいても、βは酸性の官能基(以下単に“酸性基”と称することがある)を有するのが好ましい。かかる酸性基は、本発明の樹脂組成物の溶融加工時の熱劣化を抑制する。とりわけ、窒素原子を含まない酸性基がより好適である。好適な酸性基としては、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、スルホン酸基、スルフィン酸基、ホスホン酸基及びホスフィン酸基等が例示される。
【0090】
これに比して、アミド基やイミド基等の窒素原子を含む官能基は溶融加工時の芳香族ポリカーボネート樹脂の熱劣化を十分には抑制しない場合がある。これは窒素原子が局所的に塩基性を有しカーボネート結合の熱分解を生じさせるためと考えられる。
【0091】
C成分におけるβの割合は、βが親水基を有する単量体の場合、官能基1つ当たりの分子量である官能基当量として、60〜10,000であり、70〜8,000が好ましく、80〜6,000がより好ましく、100〜3,000がさらに好ましい。また、βが親水性重合体セグメントの場合、C成分100重量%中βが5〜95重量%の範囲にあることが適当であり、10〜90重量%が好ましい。とりわけ30〜70重量%がより好ましく、30〜50重量%がさらに好ましい。
【0092】
上記芳香族ポリカーボネート樹脂に対して親和性を有する成分(α)と親水性成分(β)とを有する有機化合物(C成分)の製造方法としては、βの単量体とαを構成する単量体とを共重合する方法、βの重合体成分をαとブロック又はグラフト共重合する方法、及びβをαに直接反応させて付加する方法、等が例示される。
【0093】
かかるC成分の具体例として、A成分である芳香族ポリカーボネート樹脂との親和性を有しかつ酸性の官能基を有する重合体、A成分との親和性を有しかつポリアルキレンオキシドセグメントを有する重合体、A成分との親和性を有しかつオキサゾリン基を有する重合体、A成分との親和性を有しかつ水酸基を有する重合体等、が例示される。これらのC成分として好ましい重合体は、その分子量が重量平均分子量において1万〜100万であるの好ましく、5万〜50万がより好ましい。かかる重量平均分子量は標準ポリスチレン樹脂による較正直線を使用したGPC測定によりポリスチレン換算の値として算出される。
【0094】
上述したC成分の中でも、好ましくはA成分(芳香族ポリカーボネート樹脂)との親和性を有しかつカルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基を有する重合体である。また、芳香族ポリカーボネート樹脂の耐熱性保持効果の観点から、該重合体は芳香環成分を主鎖に有するもの及びスチレン成分を主鎖に有するものが好ましい。これらの観点から、カルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基を有するスチレン含有重合体が、本発明の樹脂組成物におけるC成分として特に好適である。ここでスチレン含有重合体とは、スチレン等の芳香族ビニル化合物を重合した繰返し単位を重合体成分として含有する重合体を指す。
【0095】
上記の好適なC重合体成分中のカルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基の割合は、0.1〜12ミリ当量/gが好ましく、0.5〜5ミリ当量/gがより好ましい。ここで1当量とは、カルボキシル基が1モル存在することを言い、その値は水酸化カリウム等の逆滴定により算出することが可能である。
【0096】
カルボキシル基の誘導体からなる官能基としては、カルボキシル基の水酸基を(i)金属イオンで置換した金属塩(キレート塩を含む)、(ii)塩素原子で置換した酸塩化物、(iii)−ORで置換したエステル(Rは一価の炭化水素基)、(iv)−O(CO)Rで置換した酸無水物(Rは一価の炭化水素基)、(v)−NR2で置換したアミド(Rは水素又は一価の炭化水素基)、(vi)2つのカルボキシル基の水酸基を=NRで置換したイミド(Rは水素又は一価の炭化水素基)等、を挙げることができる。
【0097】
カルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基(以下、単に“カルボキシル基類”と称することがある)を有するスチレン含有重合体の製造方法としては、従来公知の方法を用いることができる。例えば、(a)カルボキシル基類を有する単量体とスチレン系単量体とを共重合する方法、(b)スチレン含有重合体に対してカルボキシル基類を有する化合物又は単量体を結合又は共重合する方法等を挙げることができる。
【0098】
上記(a)の方法では、溶液重合、懸濁重合、塊状重合等のラジカル重合法の他、アニオンリビング重合法やグループトランスファー重合法等の各種重合方法を採用することができる。さらに一旦マクロモノマーを形成した後重合する方法も可能である。共重合体の形態は、ランダム共重合体の他に、交互共重合体、ブロック共重合体、テーパード共重合体等の各種形態の共重合体として使用することができる。上記(b)の方法では、一般的にはスチレン含有重合体又は共重合体に、必要に応じて、パーオキサイドや2,3−ジメチル−2,3ジフェニルブタン(通称“ジクミル”)等のラジカル発生剤を加え、高温下で反応又は共重合する方法を採用することができる。かかる方法は、スチレン含有重合体又は共重合体に熱的に反応活性点を生成し、該活性点に反応する化合物又は単量体を反応させるものである。反応に要する活性点を生成するその他の方法として、放射線や電子線の照射やメカノケミカル手法による外力の付与等の方法も挙げられる。さらに、スチレン含有共重合体中に予め反応に要する活性点を生成する単量体を共重合しておく方法も挙げられる。反応のための活性点としては不飽和結合、パーオキサイド結合、立体障害が高く熱的に安定なニトロオキシドラジカル等を挙げることができる。
【0099】
上記カルボキシル基類を有する化合物又は単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド等の不飽和モノカルボン酸及びその誘導体、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド等の無水マレイン酸の誘導体、グルタルイミド構造やアクリル酸と多価の金属イオンで形成されたキレート構造等が挙げられる。これらの中でも金属イオンや窒素原子を含まない官能基を有する単量体が好適であり、カルボキシル基又はカルボン酸無水物基を有する単量体、特に無水マレイン酸がより好適である。
【0100】
また、スチレン系単量体化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、tert−ブチルスチレン、α−メチルビニルトルエン、ジメチルスチレン、クロルスチレン、ジクロルスチレン、ブロムスチレン、ジブロムスチレン、ビニルナフタレン等を用いることができるが、特にスチレンが好ましい。さらに、これらのスチレン系単量体化合物と共重合可能な他の化合物、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル等を共重合成分として使用しても差し支えない。
【0101】
本発明におけるC成分として好ましいものは、カルボキシル基類を有する単量体を共重合してなるスチレン含有共重合体である。かかる共重合体においては比較的多くのカルボキシル基類を安定してスチレン含有重合体中に含むことが可能となるためである。より好適な態様としてカルボキシル基類を有する単量体とスチレン系単量体とを共重合してなるスチレン含有共重合体を挙げることができ、中でも殊に好適なものは、スチレン−無水マレイン酸共重合体である。このスチレン−無水マレイン酸共重合体は、層状珪酸塩中のイオン成分及び芳香族ポリカーボネート樹脂のいずれに対しても高い相溶性を有することから、層状珪酸塩(B成分)を芳香族ポリカーボネート樹脂を主成分とする組成物中に良好に微分散させることができる。すなわち本発明の製造方法を適用することにより有機オニウムイオンなどの界面活性剤、ポリビニルアルコールなどの高極性ポリマーを使用することなく、層状珪酸塩(B成分)をナノオーダーに微分散させた樹脂組成物を得ることが可能である。さらに、カルボン酸無水物基の作用により良好な熱安定性が得られる。またかかる共重合体それ自体の熱安定性が良好であるため、芳香族ポリカーボネート樹脂の溶融加工に必要な高温条件に対しても高い安定性を有する。
【0102】
カルボキシル基類を有する単量体を共重合してなるスチレン含有共重合体の組成については、上述のβの割合における条件を満足する限り制限されないが、カルボキシル基類を有する単量体からの成分を1〜30重量%(特に5〜25重量%)、スチレン系単量体化合物成分99〜70重量%(特に95〜75重量%)を含み、共重合可能な他の化合物成分を0〜29重量%を含むものを用いるのが好ましく、カルボキシル基類を有する単量体を1〜30重量%(特に5〜25重量%)、スチレン系単量体化合物99〜70重量%(特に95〜75重量%)含む共重合体が特に好ましい。
【0103】
上記の好適なC成分の分子量は特に制限されないが、その重量平均分子量は1万〜100万の範囲にあることが好ましく、5万〜50万がより好ましい。なお、ここでいう重量平均分子量は、標準ポリスチレン樹脂による較正直線を使用したGPC測定によりポリスチレン換算の値として算出されるものである。
【0104】
他の好適なC成分としては、親水基としてオキサゾリン基を含有するスチレン含有共重合体が挙げられる。かかる共重合体を形成するスチレン系単量体化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、tert−ブチルスチレン、α−メチルビニルトルエン、ジメチルスチレン、クロルスチレン、ジクロルスチレン、ブロムスチレン、ジブロムスチレン、ビニルナフタレン等を用いることができる。さらに、これらの化合物と共重合可能な他の化合物、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル等、を共重合成分として使用しても差し支えない。中でも、特に好適なものとして、スチレン(2−イソプロペニル−2−オキサゾリン)−スチレン−アクリロニトリル共重合体が例示される。
【0105】
また、他の好適なC成分としては、ポリアルキレンオキシドセグメントを有するポリエーテルエステル共重合体がある。このポリエーテルエステル共重合体は、ジカルボン酸、アルキレングリコール及びポリ(アルキレンオキシド)グリコール並びにこれらの誘導体から重縮合を行うことにより製造される重合体である。かかる重合体として特に好適なものは、重合度10〜120のポリ(アルキレンオキシド)グリコールあるいはその誘導体、テトラメチレングリコールを65モル%以上含有するアルキレングリコールあるいはその誘導体及びテレフタル酸を60モル%以上含有するジカルボン酸あるいはその誘導体から製造される共重合体である。
【0106】
本発明に用いられるC成分、すなわちA成分の芳香族ポリカーボネート樹脂と親和性を有しかつ親水性成分を有する化合物は、A成分100重量部当り、0.1〜50重量部含有することが必要である。A成分100重量部当りのC成分の組成割合は、好ましくは0.5〜30重量部であり、より好ましくは1〜20重量部である。上記範囲においては層状珪酸塩の良好な微分散(ナノ分散)及び熱安定性の向上が十分に達成されるため、高剛性及び熱安定性においてより優れた樹脂組成物が提供される。
【0107】
<必要により配合し得る付加的成分について>
本発明の樹脂組成物は、上記のA成分、B成分、及びC成分にて構成されるが、さらに、必要に応じ、上記各成分以外の添加剤を付加的成分として含有しても差し支えない。また、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、A成分およびC成分として使用することがある化合物以外の他の熱可塑性樹脂を含むことができる。
【0108】
かかるC成分以外の他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体から主としてなる樹脂)、MS樹脂(メチルメタクリレート−スチレン共重合体から主としてなる樹脂)およびABS樹脂(アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体から主としてなる樹脂)などの各種スチレン含有(共)重合体樹脂、アクリル樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリ環状オレフィン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、およびポリイミド樹脂などの上記スチレン含有(共)重合体樹脂以外の非晶性熱可塑性樹脂、並びにポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、およびポリフェニレンサルファイド樹脂などの結晶性熱可塑性樹脂などが例示される。かかる他の熱可塑性樹脂は、A成分100重量部に対して100重量部以下が好適であり、より好適には50重量部以下である。
【0109】
本発明の樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート樹脂の熱安定性を改善するために、リン含有熱安定剤を含むことが好ましい。かかるリン含有熱安定剤としては、トリメチルホスフェート等のリン酸エステル、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリト−ルジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリト−ルジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等の亜リン酸エステル、並びに、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト等の亜ホスホン酸エステル等が例示される。かかるリン含有熱安定剤は全組成物100重量%中0.001〜1重量%を含むことが好ましく、0.01〜0.5重量%を含むことがより好ましく、0.01〜0.2重量%を含むことがさらに好ましい。かかるリン含有熱安定剤の配合によって熱安定性が一段と向上し、良好な成形加工特性を得ることができる。
【0110】
本発明の樹脂組成物に、高級脂肪酸と多価アルコールとの部分エステル及び/又はフルエステルを更に含有させることは、層状珪酸塩を含む樹脂組成物の離型性の向上および耐加水分解性の更なる向上に有効である。
【0111】
ここで高級脂肪酸としては、炭素原子数10〜32の脂肪族カルボン酸を指し、その具体例としては、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸)、ノナデカン酸、イコサン酸、ドコサン酸、ヘキサコサン酸等の飽和脂肪族カルボン酸、並びに、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコセン酸、エイコサペンタエン酸、セトレイン酸等の不飽和脂肪族カルボン酸を挙げることができる。これらの中でも、脂肪族カルボン酸としては炭素原子数10〜22のものが好ましく、炭素原子数14〜20であるものがより好ましい。特に、炭素原子数14〜20の飽和脂肪族カルボン酸、特にステアリン酸及びパルミチン酸が好ましい。ステアリン酸等の脂肪族カルボン酸は、通常、炭素原子数の異なる他のカルボン酸成分を含む混合物である。上記E成分としては、かかる天然油脂類から製造され他のカルボン酸成分を含む混合物の形態からなるステアリン酸やパルミチン酸から得られたエステル化合物も好ましく使用される。
【0112】
一方、多価アルコールとしては、炭素原子数3〜32のものがより好ましい。かかる多価アルコールの具体例としては、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン(例えばデカグリセリン等)、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ジエチレングリコール及びプロピレングリコール等が挙げられる。
【0113】
これらの中でより好ましいものは、ステアリン酸を主成分とする高級脂肪酸とグリセリンとの部分エステルであり、この部分エステルは、例えば、理研ビタミン(株)より「リケマールS−100A」という商品名で市販されており、市場から容易に入手することができる。
【0114】
高級脂肪酸と多価アルコールの部分エステル及び/又はフルエステルの組成割合は、A成分100重量部に対して、0.01〜1重量部が好ましい。より好ましくは0.02〜0.8重量部、さらに好ましくは0.03〜0.5重量部である。前期範囲においては高温高湿下での環境安定性がさらに向上する。組成割合が上記下限より小さい場合には耐加水分解性のさらなる改良効果が小さく、上記上限より大きい場合にはE成分自体の熱劣化を生じやすくなるので、好ましくない。
【0115】
さらに、必要に応じ、難燃剤(例えば、臭素化エポキシ樹脂、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリカーボネート、臭素化ポリアクリレート、モノホスフェート化合物、ホスフェートリゴマー化合物、ホスホネートリゴマー化合物、ホスホニトリルオリゴマー化合物、ホスホン酸アミド化合物、有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩、シリコーン系難燃剤等)、難燃助剤(例えば、アンチモン酸ナトリウム、三酸化アンチモン等)、滴下防止剤(フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン等)、酸化防止剤(例えば、ヒンダードフェノール系化合物、イオウ系酸化防止剤等)、紫外線吸収剤、光安定剤、衝撃改良剤、離型剤、滑剤、染料(一般の染料の他、蛍光染料を含む)、顔料(一般の顔料の他、蓄光顔料、メタリック顔料等を含む)、帯電防止剤、流動改質剤、無機もしくは有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤(微粒子酸化チタン、微粒子酸化亜鉛等)、赤外線吸収剤、フォトクロミック剤、及び蛍光増白剤等を配合してもよい。
【0116】
上記染料類のうち、好ましい染料としては、ペリレン系染料、クマリン系染料、チオインジゴ系染料、アンスラキノン系染料、チオキサントン系染料、紺青等のフェロシアン化物、ペリノン系染料、キノリン系染料、キナクリドン系染料、ジオキサジン系染料、イソインドリノン系染料、フタロシアニン系染料等が例示される。さらに、アンスラキノン系染料、ペリレン系染料、クマリン系染料、チオインジゴ系染料、チオキサントン系染料等に代表される各種の蛍光染料が例示される。また、蛍光増白剤としては、ビスベンゾオキサゾリル−スチルベン誘導体、ビスベンゾオキサゾリル−ナフタレン誘導体、ビスベンゾオキサゾリル−チオフェン誘導体及びクマリン誘導体等の蛍光増白剤が例示される。
【0117】
難燃剤として添加される上記モノホスフェート化合物としては、トリフェニルホスフェート、ホスフェートオリゴマー化合物としてはレゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)を主成分とするもの及びビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)を主成分とするものが、難燃性が良好で、かつ成形時の流動性が良好であり、さらに加水分解性が良好で長期の分解が少ない等の理由により好ましく使用できる。殊に上記リン酸エステルオリゴマーは成形安定性に優れる点から好適であり、特にビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)を主成分とするものが好ましい。かかるモノホスフェート化合物及びホスフェートオリゴマー化合物はA成分100重量部に対して好ましくは1〜30重量部の割合であり、より好ましくは2〜20重量部である。
【0118】
また、難燃剤としての有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩としては、パーフルオロアルカンスルホン酸アルカリ(土類)金属塩(パーフルオロブタンスルホン酸カリウムが好適な代表例である)、並びにモノマー状又はポリマー状の芳香族サルファイドのスルホン酸、芳香族カルボン酸及びエステルのスルホン酸、モノマー状又はポリマー状の芳香族エーテルのスルホン酸、芳香族スルホネートのスルホン酸、モノマー状又はポリマー状の芳香族スルホン酸、モノマー状又はポリマー状の芳香族スルホンスルホン酸、芳香族ケトンのスルホン酸、複素環式スルホン酸、芳香族スルホキサイドのスルホン酸及び芳香族スルホン酸のメチレン型結合による縮合体からなる群から選ばれた少なくとも1種の酸等の芳香族スルホン酸からなる芳香族スルホン酸アルカリ(土類)金属塩(ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム及びジフェニルスルホン−3,3'−ジスルホン酸ジカリウムが好適な代表例である)等が例示される。かかる有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩の添加量は、A成分100重量部に対して0.005〜1重量部が好適であり、より好ましくは0.01〜0.5重量部である。尚、これらの金属塩からなる難燃剤の配合は、少なからず芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性や耐加水分解性に影響を与えるが、良好な難燃性の付与によって容認されるものである。
【0119】
さらに、フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンは、固体形状の他、水性分散液形態のものも使用可能である。また、かかるフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンは樹脂中での分散性を向上させ、さらに良好な難燃性及び機械的特性を得るために他の樹脂との混合形態のポリテトラフルオロエチレン混合物を使用することも可能である。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン添加量は、A成分100重量部に対してくは0.01〜2重量部が好適であり、より好ましくは0.05〜1重量部である。
【0120】
離型剤としては、上記の高級脂肪酸と多価アルコールとの部分エステルおよび/またはフルエステル以外にもポリオレフィン系ワックス、フッ素化合物、パラフィンワックス、蜜蝋等が使用され、その添加量はA成分100重量部に対して0.01〜2重量部が好ましく、0.05〜1重量部がより好ましい。
【0121】
衝撃改良剤としては、ガラス転移温度が10℃以下、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−30℃以下であるゴム成分と、該ゴム成分と共重合可能な単量体成分とを共重合した重合体が使用可能である。ゴム成分としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ジエン系共重合体〔例えば、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体及びアクリル・ブタジエンゴム(アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルとブタジエンとの共重合体)等〕、エチレンとα−オレフィンとの共重合体(例えば、エチレン・プロピレンランダム共重合体及びブロック共重合体、エチレン・ブテンのランダム共重合体及びブロック共重合体等)、エチレンと不飽和カルボン酸エステルとの共重合体(例えばエチレン・メタクリレート共重合体、及びエチレン・ブチルアクリレート共重合体等)、エチレンと脂肪族ビニルとの共重合体(例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体等)、エチレンとプロピレンと非共役ジエンターポリマー(例えば、エチレン・プロピレン・ヘキサジエン共重合体等)、アクリルゴム(例えば、ポリブチルアクリレート、ポリ(2−エチルヘキシルアクリレート)、及びブチルアクリレートと2−エチルヘキシルアクリレートとの共重合体等)、並びにシリコーン系ゴム(例えば、ポリオルガノシロキサンゴム、ポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分とからなるIPN型ゴム;すなわち2つのゴム成分が分離できないように相互に絡み合った構造を有しているゴム及びポリオルガノシロキサンゴム成分とポリイソブチレンゴム成分からなるIPN型ゴム等)が挙げられる。
【0122】
かかるゴム成分に共重合される単量体成分としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物等が好適に挙げられる。その他の単量体成分としては、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有メタクリル酸エステル、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド系単量体、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα,β−不飽和カルボン酸及びその無水物等を挙げることができる。
【0123】
より具体的には、MBS(メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン)重合体、MB(メチルメタクリレート−ブタジエン)重合体、MA(メチルメタクリレート−アクリルゴム)重合体、ASA(アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム)重合体、AES(アクリロニトリル−エチレンとプロピレンと非共役ジエンターポリマーゴム−スチレン)重合体、メチルメタクリレート−スチレン−アルキルアクリレート−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−アルキルアクリレート−アクリルゴム共重合体、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート−(アクリル・シリコーンIPNゴム)重合体等を挙げることができる。その他弾性重合体としては、オレフィン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0124】
ゴム弾性体のゴム成分の割合は、上記弾性重合体中40〜95重量%であり、より好ましくは50〜85重量%である。同様に熱可塑性エラストマーの場合ソフトセグメントの割合は通常40〜95重量%であり、より好ましくは50〜85重量%である。ゴム弾性体は、単独での使用又は2種以上を組み合わせた使用のいずれも選択できる。ゴム弾性体の割合は、A成分100重量部に対し、好ましくは0.5〜25重量部であり、より好ましくは1〜15重量部、さらに好ましくは1.5〜8重量部である。
【0125】
<樹脂組成物の製造方法について>
本発明は上述の如く、A成分、B成分およびC成分の特定割合よりなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造する方法であって、該A成分、B成分およびC成分を水と共に溶融混合し、その後該溶融混合物より水を除去する樹脂組成物の製造方法にかかるものである。即ち、A成分、B成分およびC成分を水と共に溶融混合すること、並びにその後該溶融混合物より水を除去することをその要件とする樹脂組成物の方法を提供する(上記構成(1)の発明)。
【0126】
したがって本発明においては特にその溶融混合方法や装置は特に限定されず、溶融混合機として、例えばロールミル、インターナルミキサー(バンバリーミキサーなど)、押出機などが例示される。しかしながら中でも押出機は、溶融混合とその後の該溶融混合物より水の除去とが連続的に行えることから、本発明の製造方法が効率的に実施できる点で好ましい溶融混合機である。殊に、本発明の製造方法が、少なくとも1個の減圧されたベントを備えてなるベント式押出機を用いて行われ、かつ上記溶融混合物からの水の除去はかかる減圧されたベントで行われてなる方法であることが効率的であり好ましい(上記構成(2)の発明)。
【0127】
ここで押出機としては、単軸スクリュー型押出機、2軸スクリュー型押出機、多軸スクリュー押出機(2軸以上の押出機)、および遊星ローラ型押出機などを挙げることができる。
【0128】
単軸スクリュー型押出機としては、フルフライトとダルメージやトーピードなどとを組合せたタイプのものが代表的に挙げられる。その他フィード部分のみ2本のスクリューを有するタイプや、トランスファーミックスなど特殊なタイプも挙げることができる。
【0129】
2軸スクリュー型押出機(以下単に“2軸押出機”と称する場合がある)の代表的な例としては、ZSK(Werner & Pfleiderer社製、商品名)を挙げることができる。ZSKと同様のタイプの具体例としはてTEX((株)日本製鋼所製、商品名)、TEM(東芝機械(株)製、商品名)、KTX(神戸製鋼所(株)製、商品名)などを挙げることができる。その他、FCM(Farrel社製、商品名)、Ko−Kneader(Buss社製、商品名)、およびDSM(Krauss−Maffei社製、商品名)などの溶融混合機も具体例として挙げることができる。更に、上記のスクリュー型押出機としては、円錐型スクリューのタイプや、可塑化工程とメータリング工程が独立したタイプなども挙げることができる。
【0130】
上記の押出機の中でも混合効率に優れた2軸押出機が好ましく、更にZSKに代表されるタイプがより好ましい。2軸押出機においては、スクリューの回転方向も特に制限はなく同方向回転、および異方向回転の二軸押出機のいずれも使用できる。せん断作用の点で同方向回転の二軸押出機がより好ましい。2軸押出機においては、そのスクリューも適宜選択できる。例えば、形状は1条、2条、および3条のネジスクリューを使用することができる。かかるスクリューの条数はスクリューセグメント全域にわたって同一であっても、異なる条数を有するセグメントの組合せであってもよい。また2軸押出機におけるスクリューの長さ(L)と直径(D)との比(L/D)は、20〜50が好ましく、更に28〜45が好ましい。L/Dが大きい方が供給口を増やすことが容易となり押出の自由度が確保される一方、大きすぎる場合には樹脂組成物、殊にA成分にかかる熱負荷が高くなり過ぎて熱安定性を低下させる。更に2軸押出機のスクリュー構成としては各種の仕様が可能である。かかる仕様が任意に変更できる点もZSKタイプの大きな利点である。ニーディングディスクセグメント(またはそれに相当する混練セグメント;例えばローターセグメントなど)から構成された混練ゾーン(以下単に“混練ゾーン”と称する場合がある)を1個所以上有することが好ましい。ニーディングディスクセグメントは各ディスク間の位相、正送り/逆送り/送りなしの比率、セグメント長、並びにクリアランスなどにおいて特に制限されない。しかしながらより好適には、例えば混練ゾーンのセグメント長はスクリューの直径(D)に対して、各混練ゾーンにおいて好ましくは1D〜5Dの範囲であり、更に好ましくは1.5D〜4Dの範囲である。また混練ゾーンは2個所以上設けられていることが好ましく、より好適には水の供給される前および水が供給された後のいずれにも設けられていることが好ましい。
【0131】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造するのに用いられるA成分〜C成分及びその他任意の各成分(以下単に“樹脂組成物の各成分”と称する場合がある)の押出機への供給は1箇所または2箇所以上の供給口から行うことができる。押出機等溶融混合機への樹脂組成物の各成分の供給においては、これらの成分を予備混合することなく供給することも、または一部または全部を予備混合した後に供給することもできる。予備混合を行う場合には、ナウターミキサー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機等の予備混合手段を用いることができる。また、予備混合においては、場合により押出造粒器やブリケッティングマシーン等により造粒を行うこともできる。
【0132】
樹脂組成物の各成分の供給のため、各供給口にフィーダー(供給装置)が設置されることが好適である。かかるフィーダーは計量器上に設置され、所定の割合で押出機に原料を供給する。フィーダーは振動式、スクリュー式、翼回転式のものが好ましい。さらに供給口にはフィーダーから排出された各原料を押出機内部へ送り込むための装置であるサイドフィーダーが設置されるものであってもよい。特に第1供給口以外の供給口では設置されることが好ましい。
【0133】
一方、減圧されたベントは、少なくともシリンダーバレルに設けられたベントと、該ベントに接続された配管と、該配管に接続された真空ポンプなどの減圧装置により構成される。かかる構成にあっては配管に減圧状態を監視するための真空計を設けること、並びに脱気した成分により減圧装置が汚染されないようトラップ(より好ましくは冷却方式のトラップ)を設けることが好ましい。また脱気成分の主成分が水であることから減圧装置の汚染を防止する方法として真空ポンプの代わりにまたはベントと真空ポンプとの間に水流型減圧ポンプを設けてもよい。
【0134】
かかる減圧されたベントにおける減圧度は、水の脱気を十分に行うために好ましくは7KPa以下であり、より好ましくは6KPa以下、更に好ましくは4KPa以下である。一方減圧度は実質的に殆ど0とすることも可能であるものの、不必要に強力な吸引による減圧度の低下は、製造上効率的とはいえないことから、減圧度の下限は0.1KPaが好ましく、0.3KPaがより好ましい。尚、かかる減圧度は、減圧部分の圧力を表し減圧度のない大気圧の場合には98KPaである。またかかる減圧度は、一般の各種真空圧力計によって測定可能であり、かかる真空圧力計は、ベントの孔部分に接続して測定される。
【0135】
また減圧されたベントは1箇所または2箇所以上設けることができ、複数の減圧されたベントを設ける場合には、かかるベントの減圧度はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。また減圧されたベントから水の脱気を行う前に予備脱気の工程を含んでいてもよい。例えば減圧されていないベント(いわゆるオープンベント)が更に設けられ、かかるオープンベントにおいてある程度の脱気を行った後、十分に減圧されたベントで注入された水分を十分に脱気することもできる。また押出機には注入された水を脱気する目的以外のベントを設けることも可能である。例えば水注入口の前の部分にベントを設けることもできる。
【0136】
ベントは水の脱気が十分に行われれば、その形状および大きさは特に限定されないものの、ベントの大きさは、次の範囲が好ましい。すなわちベントの長さは押出機のバレル内壁面において、スクリューの直径(D)に対して、好ましくは0.1D〜5D(より好ましくは0.5D〜4D、更に好ましくは1D〜3Dである)の範囲である。ベントの孔の幅は、好ましくは0.1D〜1D(より好ましくは0.15D〜0.6D)の範囲である。
【0137】
本発明はA成分〜C成分を水と共に溶融混合することが要件であることから、水を溶融混合機、殊にベント式押出機に供給する方法はいかなるものであってもよい。したがって押出機に水を注入する方法の他、層状珪酸塩を水で膨潤したものや、その水スラリーなどによって水を溶融混合機内に供給することができる。しかしながら、これらの方法のうち膨潤した層状珪酸酸塩や層状珪酸塩の水スラリーを使用する方法は、上述のとおり層状珪酸塩の供給や設備的な効率の面で劣るのが現状である。したがってA成分〜C成分の溶融混合物に水を共存させるための供給方法としては、上記水は、実質的にベント式押出機に備えられた水を注入添加する機能を持つ水注入口より、該押出機に供給される方法が好適である(上記構成(3)の発明)。
【0138】
本発明において、A成分〜C成分の溶融混合物に対して共存される水の割合は、B成分100重量部に対して、好ましくは1〜10,000重量部、より好ましくは5〜1,000重量部、更に好ましくは10〜500重量部の範囲である。かかる範囲においてはB成分の各層の結合力を弱めること、並びに供給した水を十分に脱気することが可能である。更に水を水注入口より注入添加する場合には、水の供給および脱気におけるその溶融混合機並びに付帯する製造装置に与える負荷の観点から、A成分100重量部当り0.2〜20重量部の範囲が好ましく、0.5〜15重量部の範囲がより好ましく、1〜10重量部の範囲が更に好ましい。
【0139】
水を注入添加する機能を持つ水注入口は、通常押出機のシリンダーバレル設けられた水注入口と、該水注入口に接続された注入用の配管と、該配管に接続された液体を定量して圧入する装置(いわゆる液注装置)とにより構成される。かかる液注装置は水をその押出温度において注入するに必要な圧力を発生し、注入の定量精度が確保されるものであれば特に限定されない。液注装置としてはプランジャータイプおよびギアポンプタイプなどが例示される。
【0140】
また水の温度は特に限定されず、室温以上に加温することも室温以下に冷却することもできる。また水の種類も特に限定されない。例えば、工業用水、上水、イオン交換水、超純水、硬水、軟水、電解水、およびクラスターが微小化された水などのいずれも使用することができる。
【0141】
A成分〜C成分並びに水を押出機などの溶融混合機中に供給する順序は本発明において特に限定されないものの、上述のように水の系外への蒸散による不具合を回避するためには、水の注入される前のゾーンが溶融樹脂によって封鎖されると共に、水の蒸散し得る供給口は不要とされ、更に水の注入された後のゾーンが溶融樹脂によって封鎖され、水がA成分〜C成分と共に高圧で存在可能な状態が達成されることが好ましい。
【0142】
かかる好適な状態を達成し得る本発明の好ましい態様として、本発明によれば、A成分、B成分およびC成分の特定割合よりなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物をベント式押出機を用いて製造する方法であって、該押出機は、A成分、B成分およびC成分を供給するための主供給口と、水を注入添加する機能を持つ水注入口と、注入された水を脱気するための減圧されたベントを備えてなり、かつ該製造は、(i)主供給口よりA成分、B成分およびC成分を押出機に供給して溶融混合し、(ii)該溶融混合後水注入口より水を押出機に注入し、(iii)該注入後A成分〜C成分を水と共に溶融混合し、(iv)該溶融混合後減圧されたベントより水を脱気しながら溶融押出する樹脂組成物の製造方法が提供される(上記構成(4)の発明。以下単に“上記構成(4)の発明”と称する場合がある)。
【0143】
上記構成(4)の発明において主供給口とは、A成分、B成分およびC成分を押出機に供給する供給口をいい、1箇所であっても2箇所以上備えられていてもよいが、好ましくは1箇所である。複数箇所から供給した場合には、水注入口、ベントおよび混練ゾーンなどの長さや位置の自由度が低下する場合が多いためである。尚、かかる主供給口に対して他の任意成分を供給する部分を副供給口と称する。但し任意成分を含む場合も、同様の理由から1箇所の主供給口から供給されることが好ましい。
【0144】
また本発明においては、本発明のA成分〜C成分の割合を満足する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造した後、かかる樹脂組成物に更にA成分を加えて本発明の組成割合を満足する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造することもできる。更にかかる製造を1つの押出機において連続して行うこともできる。
【0145】
また上記構成(4)の発明においては、(i)および(iii)の溶融混合のいずれもが混練ゾーンを通過することにより行われることが好ましい。かかる混練ゾーンは、A成分〜C成分、および水を十分に混練すると共に、溶融樹脂による水の蒸散を封鎖する役目を果たす。混練ゾーンによるより確実な水の蒸散の抑制により、水は高圧下で樹脂組成物の各成分と接触し、樹脂組成物における層状珪酸塩のより微細な分散を達成する。したがって上記構成(4)の発明においては、その押出機において主供給口と水注入口の間、及び水注入口と注入された水を脱気するための減圧されたベントの間にそれぞれ混練ゾーンが設けられていることが好ましい(上記構成(5)の発明)。かかる場合には主供給口と水注入口との間にある混練ゾーン(の終端部)から水注入口までの長さは、スクリューの直径(D)に対して0.1D〜5Dの範囲が好ましく、0.5D〜3Dの範囲がより好ましい。更に水注入口と減圧されたベントの間にある混練ゾーン(の先端部)までの長さは、0.1D〜5Dの範囲が好ましく、0.5D〜3Dの範囲がより好ましい。
【0146】
また上記構成(4)の発明においても上述の如く水注入口における水注入量は、A成分100重量部当り0.2〜20重量部の範囲が好ましく、0.5〜15重量部の範囲がより好ましく、1〜10重量部の範囲が更に好ましい。複数の水注入口から水を注入する場合には、その合計量がかかる範囲の上限以下であることが好ましい。更に上記構成(4)の発明においても減圧されたベントにおける真空度の好ましい範囲は上述のとおりである。
【0147】
更に本発明においては、減圧されたベントが設けられた箇所において、スクリュー溝より構成される空間容積に対する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物充填量が、5〜20体積%(より好ましくは8〜18体積%)であることが好ましい。かかる範囲によって良好な脱気効率が確保され、供給された水を効率よく除去することが可能となる。ここでかかる空間容積は、ベントが導通された範囲において、スクリュー軸方向の各断面におけるバレル内面空間の断面積からスクリュー断面積を差し引いて得られる差をスクリュー軸方向に積分することにより(近似的には単位長さずつの総和により)算出することができる。
【0148】
本発明で押出機に供給されるポリカーボネート樹脂の形状は、溶融した樹脂状態であってもよく、また粉末状、微粒状、フレーク状またはペレット状のものであってもよいが、好ましくは粉末状、微粒状またはフレーク状のものである。
【0149】
A成分〜C成分以外に適宜配合される任意成分は、上記A成分〜C成分と同じく主供給口から供給しても、サイドフィードなどの副供給口から供給しても構わない。またかかるサイドフィードはA成分〜C成分を水と共に溶融混合する混練ゾーン以後であれば、減圧されたベント前に備えられても、また減圧されたベント以後に備えられてもよい。しかしながら減圧されたベント前のサイドフィードの設置は、蒸散する水によってサイドフィードにおける供給を不安定とする場合があり、更にサイドフィードより供給される成分が、減圧されたベントにおいて水と共に多量に除去される場合もある。かかる場合には、サイドフィードを減圧されたベント以後に備えることが好ましい。更にサイドフィード以後に注入された水の脱気を主たる目的としないベントを1〜3箇所設けることもできる。任意成分は、一種であっても複数種あってもよく、複数種あるときは別々に添加しても、混合して添加してもよい。
【0150】
上記押出機の好ましい運転条件は、温度240〜320℃、好ましくは240〜310℃、スクリュー回転数80〜500rpm、好ましくは100〜300rpmである。
【0151】
また押出原料中に混入した異物等を除去するためのスクリーンを押出機ダイス部前のゾーンに設置し、異物を樹脂組成物から取り除くことも可能である。かかるスクリーンとしては金網、スクリーンチェンジャー、焼結金属プレート(ディスクフィルター等)等を挙げることができる。
【0152】
<樹脂組成物の成形について>
本発明の製造方法で作製された樹脂組成物は、通常、上記の如く製造されたペレットを射出成形することにより、各種の製品(成形品)を製造することができる。本発明は熱安定性の良好な芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を提供し、この結果該樹脂組成物からなるペレットを再度溶融し射出成形法などの方法を用いることができる。かかる点において従来例えば押出されたシートを直接使用に供することのみを開示した技術に対して優位性を有する。更に本発明の製造方法により製造された芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、有機オニウムイオンなどの界面活性剤またはポリビニルアルコールなどの高極性ポリマーを含有しないことから耐加水分解性においても良好であり、その結果幅広い分野での適用を可能とするものである。
【0153】
かかる射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、適宜目的に応じて、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体の注入によるものを含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、超高速射出成形等の射出成形法を用いて成形品を得ることができる。これら各種成形法の利点は既に広く知られるところである。また、成形方式はコールドランナー方式及びホットランナー方式のいずれも選択することができる。
【0154】
また、本発明の製造方法で作製された樹脂組成物は、押出成形により各種異形押出成形品、シート、フィルム等の形で使用することもできる。本発明の製造方法においてTダイを使用することにより直接シート等を製造することも、また一旦ペレットを製造しかかるペレットからシート等を製造することもできる。更にシート、フィルムの成形にはインフレーション法、カレンダー法、キャスティング法等も使用可能である。さらに特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。さらに、本発明の樹脂組成物を回転成形やブロー成形等により中空成形品とすることも可能である。
【0155】
かかる本発明の樹脂組成物は、従来の芳香族ポリカーボネート樹脂に比べて、熱安定性を保持したまま、曲げ弾性率で代表される剛性が大幅に改善される。
【0156】
したがって、本発明の樹脂組成物は、これらの特性が要求される分野、例えば、各種電子・電気機器、OA機器、車両部品、機械部品、その他農業資材、漁業資材、搬送容器、包装容器及び雑貨等の各種用途に有用である。殊に上記の特性は大型成形品、複雑形状の成形品、極薄成形品等に好適な特性である。したがって、本発明の樹脂組成物は、例えばOA機器や家電製品の外装材に好適なものである。特にパソコン、ノートパソコン、ゲーム機(家庭用ゲーム機、業務用ゲーム機、パチンコ、及びスロットマシーン等)、ディスプレー装置(CRT、液晶、プラズマ、プロジェクタ、及び有機EL等)、並びに、プリンター、コピー機、スキャナー及びファックス(これらの複合機を含む)等の外装材において好適である。特にノートパソコン、ディスプレー装置、ゲーム機及びコピー機やそれらの複合機等の大型製品の外装材に好適である。また、本発明の樹脂組成物は、例えば光学部品が搭載されるシャーシ(複写機、ファクシミリ、プロジェクター装置)、精密センサーを搭載するシャーシ(家庭用ロボット等)、ヨーク、及び誘電体共振器シャーシ等の複雑形状の成形品に好適である。さらに、本発明の樹脂組成物は、例えば電池ハウジング等の各種ハウジング成形品、鏡筒、メモリーカード、スピーカーコーン、ディスクカートリッジ、面発光体、マイクロマシン用機構部品、銘板等の極薄成形品において好適である。
【0157】
なお、本発明の樹脂組成物からの樹脂成形品には、表面改質を施すことによりさらに他の機能を付与することが可能である。ここでいう表面改質とは、蒸着(物理蒸着、化学蒸着等)、メッキ(電気メッキ、無電解メッキ、溶融メッキ等)、塗装、コーティング、印刷等の樹脂成形品の表層上に新たな層を形成させるものであり、通常の樹脂成形品に用いられる方法が適用できる。例えば、加飾塗装、ハードコート、撥水・撥油コート、紫外線吸収コート、赤外線吸収コート並びにメタライジング(メッキ、蒸着、スパッタリング等)等の各種の表面処理を施すことができる。
【0158】
上記の樹脂成形品の表面に金属層又は金属酸化物層を積層する方法(メタライジング法)としては、例えば蒸着法、溶射法、メッキ法等が挙げられる。蒸着法としては真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の物理蒸着法、並びに、熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法等の化学蒸着(CVD)法が例示される。溶射法としては大気圧プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法等が例示される。メッキ法としては、無電解メッキ(化学メッキ)法、溶融メッキ法、電気メッキ法等が挙げられ、電気メッキ法においてはレーザーメッキ法を使用することができる。
【0159】
上記の各メタライジング法の中でも、蒸着法及びメッキ法が樹脂成形品の金属層を形成する上で好ましく、蒸着法が本発明の樹脂成形品の金属酸化物層を形成する上で特に好ましい。蒸着法及びメッキ法は両者を組合せて使用することもでき、例えば、蒸着法で形成された金属層を利用し電気メッキを行う方法等が採用可能である。
【0160】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、樹脂組成物の評価は下記の(1)〜(4)の方法により行った。また、以下の文中で“部”とあるは特に断らない限り全て重量部を意味する。
(I)評価項目
(1)層状珪酸塩(無機分)の含有量
各樹脂組成物を用いて、射出成形機(東芝機械(株)製:IS−150EN)によりシリンダー温度260℃、金型温度80℃、成形サイクル40秒で試験片(寸法:長さ127mm×幅12.7mm×厚み6.4mm)を成形し、成形した試験片を切削してるつぼに入れて秤量し、600℃まで昇温し、そのまま6時間保持した後に放冷し、るつぼに残った灰化残渣を秤量することで樹脂組成物中の層状珪酸塩(無機分)の量を測定した。すなわち、樹脂組成物の曲げ弾性率(剛性)等の特性は無機分の割合によって影響されるため、各実施例及び比較例では、試験片中の無機分の割合を測定し、表1にB成分の無機分の割合(重量%)として表示した。
【0161】
(2)樹脂組成物の粘度平均分子量
上記(1)と同条件で成形した同形状の試験片(寸法:長さ127mm×幅12.7mm×厚み6.4mm)の粘度平均分子量を本文中記載の方法にて測定した。すなわち、該試験片をその20〜30倍重量の塩化メチレンに溶解し、可溶分をセライト濾過により採取した後、溶液を除去して十分に乾燥し、塩化メチレン可溶分の固体を得、かかる固体0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液から20℃における比粘度(ηSP)をオストワルド粘度計を用いて求め、次式によりPCの粘度平均分子量Mを算出した。
ηSP/c=[η]+0.45×[η]2c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10-4M0.83
c=0.7
【0162】
(3)曲げ弾性率
上記(1)と同条件で成形した同形状の試験片(寸法:長さ127mm×幅12.7mm×厚み6.4mm)を、温度23℃及び相対湿度50%RHの雰囲気下においてASTM−D790に準拠の方法により曲げ弾性率(MPa)を測定した。この数値が大きいほど成形した樹脂組成物の剛性が優れていることを意味する。
【0163】
(4)外観評価
厚み2mmの平板を(1)と同条件にて成形し、成形品の表面外観を目視評価した。
層状珪酸塩の凝集体が全く見られず、表面光沢に優れる場合を○、層状珪酸塩の凝集体が若干見られ、表面光沢がやや劣る場合を△、層状珪酸塩の凝集体が見られ、表面光沢に劣る場合を×として評価した。尚、この○のレベルは、A成分のポリカーボネート樹脂のみからなる平板と同一の表面平滑性を有する。
【0164】
(II)(原料)
原料としては、以下のものを用いた。
(A成分:ポリカーボネート樹脂)
A−1:粘度平均分子量23,900のホスゲン法により製造されたビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂パウダー(帝人化成(株)製パンライトL−1250WP)
【0165】
(B成分:層状珪酸塩)
B−1:合成フッ素雲母(コープケミカル(株)製:ソマシフ ME−100、陽イオン交換容量:110ミリ当量/100g)
B−2:合成フッ素雲母(コープケミカル(株)製「ソマシフ ME−100」)にジステアリルジメチルアンモニウムクロライド(東京化成工業(株)製:1級試薬)でほぼ完全にイオン交換した有機化層状珪酸塩(合成フッ素雲母の陽イオン交換容量:110ミリ当量/100g)。
その製法は以下のとおりである。すなわち、上記合成フッ素雲母約100部を精秤し、これを室温の水(イオン交換水)10,000部に撹拌分散した後、トリオクチルメチルアンモニウムクロライドを該合成フッ素雲母の陽イオン交換当量に対して1.2倍当量添加して6時間撹拌し、生成した沈降性の固体を濾別する。次いで30,000部のイオン交換水中で撹拌洗浄後再び濾別し、この洗浄と濾別の操作を各3回行う。得られた固体は5日の風乾後乳鉢で粉砕し、さらに50℃の温風乾燥を10時間行い、再度乳鉢で最大粒径が100μm程度となるまで粉砕する。かかる温風乾燥により窒素気流下120℃で1時間保持した場合の熱重量減少で評価した残留水分量が3重量%とし、B−2を得た。かかる処理より得られた層状珪酸塩を窒素気流中500℃で3時間保持したときの残渣の重量分率より算出された有機オニウムイオンのイオン交換割合は、98%以上であった。
【0166】
(C成分:芳香族ポリカーボネートとの親和性を有しかつ親水性成分を有する化合物)
C−1:スチレン−無水マレイン酸共重合体(ノヴァケミカルジャパン(株)製:DYLARK 332−80、無水マレイン酸量約15重量%)
その他成分として、全ての実施例および比較例においてリン酸トリメチル(大八化学工業(株)製:TMP)を配合した。
【0167】
(実施例1、比較例1〜4)
表1に記載の各成分を表1記載の配合割合でドライブレンドした後、スクリュー径30mmφのベント式二軸押出機((株)日本製鋼所製:TEX30XSST;完全かみあい、同方向回転)を用い押出を行った。かかる二軸押出機には、真空ポンプに接続された減圧可能なベントおよび液注装置に接続された水注入部が備えられていた。かかる水注入部は、2箇所に設けられた混練ゾーンの間に配置され、またベントは下流側(押出機のダイに近い側)の混練ゾーンの後に設けられた。また上記ベントは1箇所であり、その他の開口部は設けられなかった。ベントと真空ポンプとを接続する配管には真空ゲージおよびチラーで約4℃まで冷却されたトラップが接続されていた。また注入された水は、25℃のイオン交換水を液注装置に導入されたものであり、また注入時の圧力は0.2MPaであった。押出条件は、シリンダー温度260℃、スクリュー回転数200rpm、樹脂組成物の供給量20kg/hにて溶融混練し、押出し、ストランドカットしてペレットを得た。液注装置より水を表1記載の割合となるように供給した。またベント部の真空度は、2kPaであった。
【0168】
得られたペレットを100℃で5時間熱風循環式乾燥機により乾燥した。乾燥後、試験片を射出成形機(東芝機械(株)製:IS−150EN)によりシリンダー温度260℃、金型温度80℃、成形サイクル40秒で成形した。これらについての評価結果を表1に示す。
【0169】
【表1】
【0170】
表1の結果から明らかなように、芳香族ポリカーボネートに有機化した合成雲母を配合すると、芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は著しく低下する(比較例1)。芳香族ポリカーボネートに有機化を行わない合成雲母を配合すると、その分子量は低下しないものの、機械特性の改良は小さく(比較例2)、更に水を添加すると、機械特性の向上は小さいだけでなく、また芳香族ポリカーボネートの分子量低下が著しくなる(比較例3)。しかしながら、芳香族ポリカーボネートとスチレン−無水マレイン酸共重合体と共に合成雲母を配合した場合には、水添加を行わない場合にはその特性改良は小さいものの(比較例4)、水添加を行うと、その機械特性は大きく改良され、また分子量低下も抑制される(実施例1)。
【0171】
【発明の効果】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、高い剛性、製品の表面外観性と熱安定性を有しており、電気電子部品分野、ハウジング、機構部品などのOA機器部品分野、自動車部品分野などといった幅広い用途に有用であり、その奏する工業的効果は格別である。
Claims (12)
- 下記A成分、B成分およびC成分の特定割合よりなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造する方法であって、該A成分、B成分およびC成分を水と共に溶融混合し、その後該溶融混合物より水を除去する樹脂組成物の製造方法。
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部
(B)50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有する層状珪酸塩(B成分)0.1〜50重量部
(C)カルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基を有するスチレン含有重合体(C成分)0.1〜50重量部 - 上記製造は少なくとも1個の減圧されたベントを備えてなるベント式押出機を用いて行われ、かつ上記溶融混合物からの水の除去はかかる減圧されたベントで行われてなる請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
- 上記水は、実質的にベント式押出機に備えられた水を注入添加する機能を持つ水注入口より、該押出機に供給される請求項2に記載の樹脂組成物の製造方法。
- 下記A成分、B成分およびC成分の特定割合よりなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物をベント式押出機を用いて製造する方法であって、該押出機は、A成分、B成分およびC成分を供給するための主供給口と、水を注入添加する機能を持つ水注入口と、注入された水を脱気するための減圧されたベントを備えてなり、かつ該製造は、(i)主供給口よりA成分、B成分およびC成分を押出機に供給して溶融混合し、(ii)該溶融混合後水注入口より水を押出機に注入し、(iii)該注入後A成分〜C成分を水と共に溶融混合し、(iv)該溶融混合後減圧されたベントより水を脱気しながら溶融押出する樹脂組成物の製造方法。
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部
(B)50〜200ミリ当量/100gの陽イオン交換容量を有する層状珪酸塩(B成分)0.1〜50重量部
(C)カルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基を有するスチレン含有重合体(C成分)0.1〜50重量部 - 上記ベント式押出機は、主供給口と水注入口の間、及び水注入口と注入された水を脱気するための減圧されたベントの間にそれぞれ混練ゾーンが設けられてなる請求項4に記載の樹脂組成物の製造方法。
- 上記水注入口における水注入量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A成分)100重量部当り0.2〜20重量部である請求項3〜請求項5のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
- 上記減圧されたベントにおける真空度は、7kPa以下である請求項2〜請求項6のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
- 上記減圧されたベントが設けられた箇所において、スクリュー溝より構成される空間容積に対する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物充填量が、5〜20体積%である請求項2〜請求項7のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
- 上記C成分は、カルボキシル基及び/又はその誘導体からなる官能基を有する単量体を共重合してなるスチレン含有共重合体である請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
- 上記C成分は、スチレン−無水マレイン酸共重合体である請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法。
- 上記請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の樹脂組成物の製造方法により製造された樹脂ペレット。
- 上記請求項11に記載の樹脂ペレットを射出成形して製造された射出成形品。
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