本発明は、(I)下記A成分、B成分、C−1成分、C−2成分およびD成分の合計を100重量%としたときA成分は20〜65重量%、B成分は1〜20重量%であり、C−1成分はc1重量%、C−2成分はc2重量%およびD成分はd重量%であって、該c1、c2およびdは下記式(1)〜(3)の条件を満足する難燃性熱可塑性樹脂組成物にかかるものである。
(A)芳香族ポリカーボネート(A−1成分)、スチレン系硬質ポリマー(A−2成分)、およびポリフェニレンエーテル(A−3成分)より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性ポリマー(A成分)、
(B)有機リン系難燃剤(B成分)より選ばれる少なくとも1種の難燃剤(B成分)、
(C−1)平均粒子径0.5〜30μmのタルク(C−1成分)、
(C−2)マイカ(C−2成分)、
(D)繊維状充填材(D成分)
30≦c1+c2+d≦65 (1)
0.5≦(c1+c2)/(c1+c2+d)≦0.9 (2)
0.4≦c1/(c1+c2)≦0.8 (3)
上記構成(I)によれば、タルクと特定の充填材を特定範囲で組合せることにより、適度な剛性、寸法精度、および機械的特性を有し、更に優れた熱伝導性および良好な難燃性を有する難燃性熱可塑性樹脂組成物が提供される。
本発明のより好適な態様は、(II)更に一価または多価アルコールと高級脂肪酸とのエステル(E成分)をA成分、B成分、C−1成分、C−2成分およびD成分の合計100重量部あたり、0.01〜2重量部含んでなる上記構成(1)の難燃性熱可塑性樹脂組成物である。かかるE成分の含有は良好な難燃性と良好な離型性とを本発明の樹脂組成物に与える。良好な離型性は高い寸法精度および成形サイクルの短縮化が強く要求される場合に極めて重要な特性である。殊に大型のシャーシ成形品においては極めて複雑な金型構造となるため良好な離型性は重要である。したがって構成(II)によれば、本発明の効果を有し、更に離型性に優れた難燃性熱可塑性樹脂組成物が提供される。
本発明のより好適な態様の1つは、(III)上記難燃性熱可塑性樹脂組成物は、UL規格94−Vに準拠する1.5mm厚みの試験片の燃焼試験において、燃焼ランクとしてV−1以上を満足するものである上記構成(I)〜(II)の難燃性熱可塑性樹脂組成物である。上記構成(I)〜(II)の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、かかる燃焼ランクを満足し得る。
本発明の好適な態様の1つは、(IV)更に臭素系難燃剤(F成分)をA成分、B成分、C−1成分、C−2成分およびD成分の合計100重量部あたり、0.1〜20重量部含んでなる上記構成(I)〜(III)の難燃性熱可塑性樹脂組成物である。本発明においては芳香族ポリカーボネートをその必須成分として含有することが、強度、難燃性、および耐熱性などの点から有効である。大型シャーシ成形品においては、良好な流動性も重要な特性の1つとなるものの、芳香族ポリカーボネートは、この点において不利である。流動性の改良方法は各種あるものの、スチレン系硬質ポリマーを配合することが、剛性および耐熱性の点から有利である。しかしながらかかる場合には難燃性が低下する。臭素系系の難燃剤の更なる配合は、芳香族ポリカーボネートとスチレン系硬質ポリマーとの樹脂成分にあっても、良好な難燃性を有する樹脂組成物が達成される。したがって、かかる構成(IV)によれば、流動性も良好であり更に大型シャーシ成形品に適した難燃性熱可塑性樹脂組成物が提供される。
本発明の好適な態様の1つは、(V)上記マイカは平均粒子径が10〜500μmである上記構成(1)〜(4)の難燃性熱可塑性樹脂組成物である。かかる平均粒子径は好ましくは30〜300μmである。かかる粒子径のマイカは、殊に好適な粒子径のマイカは、成形品の強度および剛性の両立に優れる。かかる範囲の中でもより小さい粒子径のマイカでは、表面外観も良好となり機構部品の搭載時の精度も向上できる。
本発明の好適な態様の1つは、(VI)上記繊維状充填材(D成分)がガラス繊維である上記構成(1)〜(5)の難燃性熱可塑性樹脂組成物である。本発明の繊維状充填材は特に限定されない。また熱伝導性の観点からは炭素繊維、金属繊維、および金属被覆炭素繊維が優れる。その一方でシャーシには通常難燃性も求められ、かかる点においてこれらの繊維は不利である。またこれらは概して高コストであり、特に大型の成形品において不利である。一方、本発明はタルクの適量の配合によって熱伝導性を向上させることによって、組成物として良好な熱伝導性を有し、その結果ガラス繊維を配合し、その利点を有効に発揮できる。したがってかかる構成(VI)によれば、より大型のシャーシ成形品に適した難燃性熱可塑性樹脂組成物が提供される。
本発明の好適な態様の1つは、(VII)A成分は、その100重量%中A−1成分および/またはA−3成分50〜99重量%とA−2成分1〜50重量%からなる上記構成(I)〜(VI)の難燃性熱可塑性樹脂組成物である。
スチレン系硬質ポリマーは(i)低い溶融粘度、(ii)低比重、および(iii)高剛性(高い曲げ弾性率)を有する点で有利である。低い溶融粘度は大型成形品の成形を容易にする。また低い溶融粘度は、成形温度の低下を可能とし成形サイクルの短縮を可能にする。更に低比重すなわち軽量であってかつ高い曲げ弾性率を有することは、曲げ剛性の向上を可能とする(同一重量で比較すれば厚みを増加することが可能であり、厚みの3乗に比例して曲げ剛性は向上し、また曲げ弾性率に比例して曲げ剛性は向上する)。曲げ剛性の向上は共振周波数の向上をもたらし、光学ユニットの如きシャーシ成形品における不要な振動を低減する。しかしながらスチレン系硬質ポリマー単独の使用は難燃性の点が不利であり、また概して耐熱性や強度においても不利である。一方、芳香族ポリカーボネートやポリフェニレンエーテル樹脂は、難燃性および耐熱性に優れるため、これらをスチレン系硬質ポリマーと混合して使用することが好ましい。したがってかかる構成(VII)によれば、流動性も良好であり更に大型シャーシ成形品に適した難燃性熱可塑性樹脂組成物が提供される。
本発明の好適な態様の1つは、(VIII)上記難燃性熱可塑性樹脂組成物は、下記式(4)を満足する上記構成(I)〜(VII)の難燃性熱可塑性樹脂組成物である。
0.6≦λ≦1.5 (4)
(ここで、λはJIS R2618に基づく非定常熱線法により測定された樹脂組成物の23℃における熱伝導率(W/m・K)を表す。)
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、かかる良好な熱伝導率を有しつつ、その他シャーシ成形品に求められる各種の特性を満足し得るものであり、したがってかかる構成(VIII)によれば、より熱伝導性の要求されるシャーシ成形品、殊に大型のシャーシ成形品に好適な難燃性熱可塑性樹脂組成物が提供される。
本発明の好適な態様の1つは、(IX)上記構成(I)〜(VIII)の難燃性熱可塑性樹脂組成物より形成された成形品であり、より好適な態様の1つは、(X)上記構成(I)〜(VIII)の難燃性熱可塑性樹脂組成物より形成された重量800〜3,000gのシャーシ成形品である。本発明はかかる重量を有する大型のシャーシ成形品に好適な難燃性熱可塑性樹脂組成物であり、より好ましくはかかるシャーシ成形品は、レーザービーム装置搭載用のシャーシ成形品(いわゆる光学ボックス)である。
以下本発明の詳細について説明する。
<A成分について>
本発明のA成分は、芳香族ポリカーボネート(A−1成分)、スチレン系硬質ポリマー樹脂(A−2成分)、およびポリフェニレンエーテル(A−3成分)より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性ポリマーである。
上述のとおり、芳香族ポリカーボネート(A−1成分)やポリフェニレンエーテル樹脂(A−3成分)と、スチレン系樹脂(A−2成分)とを混合して使用することが好適である。したがってA成分は好ましくは、その100重量%中A−1成分および/またはA−3成分50〜99重量%とA−2成分1〜50重量%からなる。
A−1成分および/またはA−3成分とA−2成分との更に好ましい混合割合は、A−1成分、A−3成分それぞれにつき次の通りである。A−1成分とA−2成分との混合割合は、その合計100重量%中A−1成分がより好ましくは60〜95重量%(更に好ましくは75〜90重量%、特に好ましくは80〜88重量%)、A−2成分がより好ましくは5〜35重量%(更に好ましくは10〜25重量%、特に好ましくは12〜20重量%)である。A−3成分とA−2成分との混合割合は、その合計100重量%中A−3成分がより好ましくは50〜85重量%(更に好ましくは50〜80重量%、特に好ましくは55〜75重量%)、A−2成分がより好ましくは15〜50重量%(更に好ましくは20〜50重量%、特に好ましくは25〜45重量%)である。
中でも芳香族ポリカーボネート(A−1成分)とスチレン系硬質ポリマー(A−2成分)との組み合わせは、良好な耐衝撃性を有し、一方芳香族ポリカーボネートの比重や曲げ弾性率における特性不足を補うことができ有効である。したがって本発明において特に好適なA成分として、A−1成分およびA−2成分からなり、A成分100重量%中A−1成分80〜88重量%およびA−2成分12〜20重量%である熱可塑性ポリマーの組合せが挙げられる。A成分の熱可塑性ポリマーの詳細については後述する。
<B成分:有機リン系難燃剤について>
本発明B成分の有機リン系難燃剤の配合は、樹脂組成物の曲げ弾性率を向上させ低比重化が可能である。より好適な有機リン系難燃剤としては、下記一般式(i)で表される1種または2種以上のホスフェート化合物を挙げることができる。
上記式中のXは、ハイドロキノン、レゾルシノール、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、ビスフェノールA、ジヒドロキシジフェニル、ジヒドロキシナフタレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)サルファイドから誘導される二価の基であり、nは0〜5の整数であり、またはn数の異なるリン酸エステルの混合物の場合は0〜5の平均値であり、R11、R12、R13、およびR14はそれぞれ独立して1個以上のハロゲン原子を置換したもしくは置換していないフェノール、クレゾール、キシレノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p−クミルフェノールから誘導される一価の基である。
更に好ましいものとしては、前記式中のXが、ハイドロキノン、レゾルシノール、ビスフェノールA、およびジヒドロキシジフェニルから誘導される二価の基であり、j、k、l、mはそれぞれ1であり、nは1〜3の整数である成分を主成分として含み、またはn数の異なるリン酸エステルのブレンドの場合はその平均値であり、R11、R12、R13、およびR14はそれぞれ独立して1個以上のハロゲン原子を置換したもしくはより好適には置換していないフェノール、クレゾール、キシレノールから誘導される一価の基である。
また、B成分のリン酸エステル化合物は、そのTGAによる、窒素ガス雰囲気中における23℃から20℃/分の昇温速度で600℃まで昇温した時の5%重量減少温度が280℃以上であるものが好ましい。該重量減少温度は更に、320℃以上がより好ましく、330℃以上が更に好ましく、340℃以上が特に好ましい。該重量減少温度の上限としては380℃以下が一般に入手可能で適切であり、370℃以下がより適切である。上記の如く重量減少温度が比較的高温の有機リン化合物は、樹脂組成物の溶融粘度の低下と共に、良好な耐熱性(良好な荷重たわみ温度など)を樹脂組成物に付与できる点で好ましい。
前記式のリン酸エステルの中でも、レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)を主体とするリン酸エステルオリゴマー、4,4−ジヒドロキシジフェニルビス(ジキシレニルホスフェート)を主体とするリン酸エステルオリゴマー、およびビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)を主体とするリン酸エステルオリゴマーが好適である(ここで主体とするとは、重合度の異なる他の成分を少量含んでよいことを示し、より好適には前記式(I)におけるn=1の成分が80重量%以上、より好ましくは85重量%以上、更に好ましくは90重量%以上含有されることを示す。)。
更に同様の点からB成分としては、フェノキシホスファゼンオリゴマーや環状フェノキシホスファゼンオリゴマーに代表されるホスファゼンポリマーも好適に使用することが可能である。
<C−1成分:タルク>
本発明でC−1成分として使用するタルクとは、層状構造を持った鱗片状の粒子であり、化学組成的には含水珪酸マグネシウムであり、一般的には化学式4SiO2・3MgO・2H2Oで表され、通常SiO2を56〜65重量%、MgOを28〜35重量%、H2O約5重量%程度から構成されている。その他の少量成分としてFe2O3が0.03〜1.2重量%、Al2O3が0.05〜1.5重量%、CaOが0.05〜1.2重量%、K2Oが0.2重量%以下、Na2Oが0.2重量%以下などを含有しており、比重は約2.7である。本発明は、上記の特定粒径のタルクにマイカを併用することにより、適度な剛性、寸法精度、機械的特性、および振動特性を有しつつ、良好な熱伝導性を有する難燃性熱可塑性樹脂組成物を達成する。かように同じ板状無機充填材である特定粒径のタルクとマイカを併用し、良好な難燃性熱可塑性樹脂を達成し得ることは従来知られていなかった。
本発明のタルクの平均粒子径は0.5〜30μmである。該平均粒子径はJIS M8016に従って測定したアンドレアゼンピペット法により測定した粒度分布から求めた積重率50%時の粒子径である。タルクの粒子径は1〜25μmが好ましく、1〜20μmがより好ましい。
またタルクを原石から粉砕する際の製法に関しては特に制限はなく、軸流型ミル法、アニュラー型ミル法、ロールミル法、ボールミル法、ジェットミル法、及び容器回転式圧縮剪断型ミル法等を利用することができる。更に粉砕後のタルクは、各種の分級機によって分級処理され、粒子径の分布が揃ったものが好適である。分級機としては特に制限はなく、インパクタ型慣性力分級機(バリアブルインパクターなど)、コアンダ効果利用型慣性力分級機(エルボージェットなど)、遠心場分級機(多段サイクロン、ミクロプレックス、ディスパージョンセパレーター、アキュカット、ターボクラシファイア、ターボプレックス、ミクロンセパレーター、およびスーパーセパレーターなど)などを挙げることができる。
更にタルクは、その取り扱い性等の点で凝集状態であるものが好ましく、かかる製法としては脱気圧縮による方法、集束剤を使用し圧縮する方法等がある。特に脱気圧縮による方法が簡便かつ不要の集束剤樹脂成分を本発明の樹脂組成物中に混入させない点で好ましい。
<C−2成分:マイカ>
本発明のC−2成分として使用されるマイカとしては、剛性確保の面から、平均粒径が10〜500μmの粉末状のものが好ましい。マイカとは、アルミニウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、鉄等を含んだケイ酸塩鉱物の粉砕物である。マイカには白雲母、金雲母、黒雲母、人造雲母等があり、本発明で使用するマイカとしてはいずれのマイカも使用できるが、白雲母は金雲母や黒雲母に比べてそれ自体が剛直であり、剛性の点では白雲母が好適である。また、金雲母、黒雲母は白雲母に比べて主成分中にFeが多く含まれているためそれ自体の色相が黒っぽくなり、種々の着色をする場合にも白雲母は好適である。また白雲母は、人造雲母(天然金雲母のOH基がFに置換されたもの)が高価であるのに対しても有利である。したがって本発明においては種々の点から白雲母が好適である。
尚、マイカの平均粒径の下限は、レーザー回折・散乱法(例えばマイクロトラックレーザー回折法)により10μm以上であるものが好まれ、一方上限は振動式ふるい分け法により測定された平均粒子径で500μm以下が好ましい。レーザー回折・散乱法は、振動式篩分け法により325メッシュパスが、95重量%以上のマイカに対して行うのが好適である。それ以上の粒径のマイカに対しては、振動式篩分け法を使用するのが一般的である。本発明の振動式篩分け法は、まず振動篩器を用い使用するマイカ粉体100gを目開きの順番に重ねたJIS規格の標準篩により10分間篩分けを行う。各篩の上に残った粉体の重量を測定して粒度分布を求める方法である。振動式篩分け法で測定した重量平均粒径が80〜500μmの範囲が好ましく、さらに150〜400μmの範囲が衝撃強度に優れるためより好ましい。かかる粒径の効果は特に白雲母を原料として得られたマイカにおいて好適に発揮される。500μmを越えるものは稀であり、また成形時のゲート詰まり等の成形不良が生じ易くなるため好ましくない。一方10μm未満の粉砕は現在では極めて多くの工数を要するため経済的でない。
マイカの厚みとしては、電子顕微鏡の観察により実測した厚みが通常0.01〜10μmのものを使用できる。更にかかるマイカは、シランカップリング剤等で表面処理されていてもよく、更に上述のガラス繊維と同様の各種樹脂や高級脂肪酸エステルなどの集束剤で造粒し顆粒状とされていてもよい。
また、マイカの粉砕法としては、マイカ原石を乾式粉砕機にて粉砕する乾式粉砕法と、マイカ原石を乾式粉砕機にて粗粉砕した後、水などの粉砕助剤を加えてスラリー状態にて湿式粉砕機で本粉砕し、その後脱水、乾燥を行う湿式粉砕法がある。本発明のマイカはいずれの粉砕法において製造されたものも使用できるが、乾式粉砕法の方が低コストで一般的である。また乾式粉砕法で製造されたマイカにおいても磁力選別処理を十分に行う(例えば1000mT以上の磁力選別機による選別を行う)ことにより、鉄含有不純物の割合を低減し、良好な特性を有するマイカを得ることが可能である。湿式粉砕法は、マイカをより薄く細かく粉砕するのに有効であるがコストがかかる。マイカは、シランカップリング剤、高級脂肪酸エステル、およびワックスなどの各種表面処理剤で表面処理されていてもよく、更に各種樹脂、高級脂肪酸エステル、およびワックスなどの集束剤で造粒し顆粒状とされていてもよい。
<D成分:繊維状充填剤>
本発明の繊維状充填剤は、上述のとおりガラス繊維が特に好ましい。ガラス繊維は、Aガラス、Cガラス、Eガラス等のガラス組成を特に限定するものでなく、場合によりTiO2、SO3、P2O5等の成分を含有するものであってもよい。但しより好ましくは、Eガラス(無アルカリガラス)が芳香族ポリカーボネート樹脂に悪影響を及ぼさない点で好ましい。ガラス繊維は溶融ガラスを種々の方法にて延伸しながら急冷し、所定の繊維状にしたものである。かかる場合の急冷および延伸条件についても特に限定されるものでない。また断面の形状は一般的な真円状の他に、異形断面形状であってもよい。異形断面形状としては、例えば真円状の繊維を平行に重ね合わせた形状などが代表的である。さらに真円状と異形断面形状の混合したガラス繊維であってもよい。またこれらのガラス繊維は、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、オレフィン樹脂、シリコーン樹脂、高級脂肪酸エステルなど(樹脂にはオリゴマー、ワックスなどを含む)により集束処理することができる。かかる集束処理剤の量としては、集束処理されたガラス繊維100重量%中0.05〜10重量%が好ましく、より好ましくは0.1〜5重量%である。またシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、およびアルミネートカップリング剤等で表面処理されたものが好ましい。付着量の測定はJIS R3420「ガラス繊維一般試験方法」に準じて測定した値である。即ち、ガラス繊維を110℃×1時間乾燥後、その重量を基準とし600℃×30分間加熱した時の重量%で表したものである。
また、このガラス繊維は、平均繊維径が1〜25μmが好ましく、5〜17μmがより好ましい。平均繊維径が1〜25μmの範囲では十分な剛性および強度が達成される。
D成分のガラス繊維としては集束処理されたチョップドストランドが好ましい。かかる平均繊維径は1〜25μmが好ましく、5〜17μmがより好ましい。そのカット長は1〜15mmが好ましく、1〜10mmがより好ましく、2〜10mmが更に好ましい。かさ密度は0.4g/cm3以上が好ましく、0.55〜0.9g/cm3がより好ましい。かかるかさ密度の範囲を満足する状態で押出機などの溶融混練機に供給されたガラス繊維はかみ込み性が良好である。したがって、不安定なかみ込みや酸素を含んだ空気を巻き込むことによる熱劣化を十分に低減する。
<E成分:脂肪酸エステルについて>
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、離型剤を含有することが好ましい。これにより更に寸法精度が良好でかつ成形サイクルの短縮化が可能な難燃性熱可塑性樹脂組成物が提供される。ここで離型剤としては、オレフィン系ワックス、シリコーンオイル、フッ素オイル、オルガノポリシロキサン、一価または多価アルコールと高級脂肪酸とのエステル、パラフィンワックス、および蜜蝋などが例示されるが、中でも好適には一価または多価アルコールと高級脂肪酸とのエステル(E成分)である。高級脂肪酸は、好ましくは炭素数20以上(より好ましくは炭素数20〜32、更に好ましくは炭素数26〜32)の脂肪酸を60重量%以上含有する。かかる高級脂肪酸として、モンタン酸を主成分とする高級脂肪酸が好ましく例示される。かかる高級脂肪酸は通常モンタンロウを酸化することにより製造される。一方、一価アルコールとしては、例えばドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール、エイコサノール、テトラコサノール、セリルアルコール、およびトリアコンタノールなどが例示される。
多価アルコールとしては、例えばグリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン(例えばデカグリセリンなど)、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ジエチレングリコール、およびプロピレングリコールなどが挙げられる。E成分におけるアルコール成分は、より好ましくは多価アルコールである。更にこれらの中でもグリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、およびトリメチロールプロパンが好ましく、特にグリセリンが好ましい。
モンタン酸を主成分とする高級脂肪酸と一価または多価アルコール(好ましくは多価アルコール)とのエステルは、密度:0.94〜1.10g/cm3、酸価:1〜200、鹸化価:50〜200の範囲であることが好適である。
<F成分:臭素系難燃剤>
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、上述のとおり更に臭素系難燃剤を含有することが好ましい。かかる臭素系難燃剤としては、臭素化カーボネートオリゴマー、臭素化エポキシ化合物、臭素化ポリスチレン、臭素化トリアジン化合物、臭素化ジフェニルアルカン系化合物、臭素化インダン系化合物、および臭素化芳香族フタルイミド系化合物などが挙げられ、中でもA成分との相溶性に優れ、その耐熱性および熱安定性が良好であることから臭素化カーボネートオリゴマー、臭素化エポキシ化合物が好ましい。
<各成分の割合について>
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、上記A成分、B成分、C−1成分、C−2成分およびD成分の必須成分を特定割合で含むものである。かかる割合について次に説明する。
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、A成分、B成分、C−1成分、C−2成分およびD成分の合計を100重量%としたとき、A成分は20〜65重量%、B成分は1〜20重量%であり、C−1成分はc1重量%、C−2成分はc2重量%およびD成分はd重量%であって、該c1、c2およびdは下記式(1)〜(3)の条件を満足するものである。
30≦c1+c2+d≦65 (1)
0.5≦(c1+c2)/(c1+c2+d)≦0.9 (2)
0.4≦c1/(c1+c2)≦0.8 (3)
上記においてB成分は1重量%未満であると難燃効果が不十分であり、また20重量%より多いと機械的強度が低下する。B成分の含有量は3〜20重量%が好ましい。更により好適なA成分におけるB成分の範囲は次のとおりである。(i)A成分がA−1成分とA−2成分との組合せからなる場合、B成分の含有量は、より好ましくは3〜17重量%、更に好ましくは3〜14重量%である。(ii)A成分がA−3成分とA−2成分との組合せからなる場合、B成分の含有量は、より好ましくは10〜15重量%、更に好ましくは11〜14重量%である。
上記式(1)においてC−1成分、C−2成分およびD成分の合計が30重量%未満では、樹脂組成物の剛性が不十分であり、また大きい熱膨張のため成形品の寸法精度が不十分となる場合がある。一方C−1成分、C−2成分およびD成分の合計が65重量%を超えると、樹脂組成物の強度や難燃性が低下するようにある、あるいは押出し製造時に原料の噛み込み不良が発生し、安定した吐出が得られずストランドの引取ができなくなり押出しが困難となる。
上記式(1)において、その下限は32が好ましく、35がより好ましく、その上限は60が好ましく、55がより好ましい。
更に上記式(2)においてその下限は好ましくは0.55より好ましくは0.6である。一方、その上限は下限と独立して0.87が好ましく、0.85がより好ましい。
上記式(3)において、その値が0.4未満の場合は、樹脂組成物の難燃性や熱伝導率が不足する、一方、その値が0.9を超えると剛性が不十分となる。また、その値の下限は好ましくは0.42、より好ましくは0.45である。その上限は、下限と独立して好ましくは0.78、より好ましくは0.75、最も好ましくは0.70である。
E成分の離型剤の含有量は、上記A成分、B成分、C−1成分およびC−2成分の合計100重量部に対して、好ましくは0.01〜2重量部、より好ましくは0.05〜1重量部、更に好ましくは0.1〜0.6重量部である。更にF成分の臭素系難燃剤の含有量は、更に上記A成分、B成分、C−1成分、C−2成分およびD成分の合計100重量部を基準として、好ましくは0.1〜20重量部、より好ましくは5〜15重量部、更に好ましくは7〜12重量部である。
<A−1成分について>
本発明のA−1成分として用いる芳香族ポリカーボネートは、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。反応の方法としては界面重縮合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。
二価フェノールの代表的な例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンおよびα,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼンなどを挙げることができる。その他1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの二価の脂肪族アルコールを共重合することも可能である。上記の各種二価フェノールから得られる芳香族ポリカーボネートの中でも、ビスフェノールAの単独重合体を特に好ましく挙げることができる。かかる芳香族ポリカーボネートは、耐衝撃性が優れる点で好ましい。
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、カーボネートエステルまたはハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。
上記二価フェノールとカーボネート前駆体を界面重縮合法または溶融エステル交換法によって反応させて芳香族ポリカーボネートを製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールが酸化するのを防止するための酸化防止剤等を使用してもよい。上記二価フェノールとカーボネート前駆体を界面重合法によって芳香族ポリカーボネートを製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールが酸化するのを防止するための酸化防止剤等を使用してもよい。また、3官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート、芳香族又は脂肪族(脂環族を含む)の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート、二官能性アルコール(脂環族を含む)を共重合した共重合ポリカーボネート、二官能性カルボン酸及び二官能性アルコールを共に共重合したポリエステルカーボネートでもよい。
分岐ポリカーボネートを生ずる多官能性芳香族化合物としては、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン等が使用できる。このような多官能性化合物を含む場合、その割合は、芳香族ポリカーボネート全量中、0.001〜1モル%、好ましくは0.005〜0.9モル%、特に好ましくは0.01〜0.8モル%である。また、溶融エステル交換法の場合、副反応として分岐構造が生ずる場合があるが、かかる分岐構造量についても、芳香族ポリカーボネート全量中、0.001〜1モル%、好ましくは0.005〜0.9モル%、特に好ましくは0.01〜0.8モル%であるものが好ましい。なお、かかる割合については1H−NMR測定により算出することが可能である。
一方、脂肪族の二官能性のカルボン酸は、α,ω−ジカルボン酸が好ましく、その具体例としては、セバシン酸(デカン二酸)、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、オクタデカン二酸、イコサン二酸等の直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸並びにシクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸が挙げられる。二官能性アルコールとしては脂環族ジオールが好適であり、例えば、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、トリシクロデカンジメタノール等が例示される。さらに、ポリオルガノシロキサン単位を共重合したポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体の使用も可能である。
A−1成分は、二価フェノール成分の異なるポリカーボネート、分岐成分を含有するポリカーボネート、各種のポリエステルカーボネート、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体等を2種以上混合したものであってもよい。さらに、製造法の異なるポリカーボネート、末端停止剤の異なるポリカーボネート等を2種以上混合したものを使用することもできる。
界面重縮合法による反応は、通常、二価フェノールとホスゲンとの反応であり、酸結合剤及び有機溶媒の存在下に反応させる。酸結合剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物又はピリジン等のアミン化合物が用いられる。有機溶媒としては、塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また、反応促進のために、トリエチルアミン、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド等の第三級アミン、第四級アンモニウム化合物、第四級ホスホニウム化合物等の触媒を用いることもできる。通常、反応温度は0〜40℃、反応時間は10分〜5時間が好ましく、反応中のpHは9以上に保つのが好ましい。
また、かかる重合反応において、通常末端停止剤が使用される。かかる末端停止剤として単官能フェノール類を使用することができる。単官能フェノール類の具体例としては、単官能フェノール類を用いるのが好ましい。かかる単官能フェノール類としては、フェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノール等が好ましいが、この他にも、デシルフェノール、ドデシルフェノール、テトラデシルフェノール、ヘキサデシルフェノール、オクタデシルフェノール、エイコシルフェノール、ドコシルフェノール、トリアコンチルフェノール等を挙げることができる。これらの末端停止剤は単独で使用しても2種以上併用してもよい。
溶融エステル交換法による反応は、二価フェノールとカーボネートエステルとのエステル交換反応であり、通常、不活性ガスの存在下に二価フェノールとカーボネートエステルとを加熱しながら混合して、生成するアルコール又はフェノールを留出させる方法により行われる。反応温度は生成するアルコール又はフェノールの沸点等により異なるが、ほぼ120〜350℃の範囲である。反応後期には反応系を1.33×103〜13.3Pa程度に減圧して生成するアルコール又はフェノールの留出を容易にさせる。反応時間は通常1〜4時間程度である。
カーボネートエステルとしては、置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基、アラルキル基あるいは炭素数1〜4のアルキル基等のエステルが挙げられ、中でもジフェニルカーボネートが好ましい。
反応には重合触媒を用いることができ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、二価フェノールのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属化合物;水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属化合物;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の含窒素塩基性化合物;等の触媒を用いることができる。さらに、アルカリ(土類)金属のアルコキシド類、アルカリ(土類)金属の有機酸塩類、ホウ素化合物類、ゲルマニウム化合物類、アンチモン化合物類、チタン化合物類、ジルコニウム化合物類等の通常エステル化反応、エステル交換反応に使用される触媒を用いることができる。これらの触媒は単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。重合触媒は、通常、原料の二価フェノール1モルに対し1×10−9〜1×10−5当量、より好ましくは1×10−8〜5×10−6当量の範囲で使用される。
溶融エステル交換法では、得られる重合体中のフェノール性末端基を減少する目的で、重縮反応の後期あるいは終了後に、2−クロロフェニルフェニルカーボネート、2−メトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネート、2−エトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネート等の化合物を加えることもできる。また、溶融エステル交換法では、触媒の活性を中和する失活剤を用いることが好ましい。かかる失活剤の使用量は、残存する触媒1モルに対して0.5〜50モルの割合が好ましい。重合後の芳香族ポリカーボネートに対しては0.01〜500ppm、好ましくは0.01〜300ppm、より好ましくは0.01〜100ppmの割合で使用される。好適な失活剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩等のホスホニウム塩、テトラエチルアンモニウムドデシルベンジルサルフェート等のアンモニウム塩等が挙げられる。
本発明のA−1成分の芳香族ポリカーボネートとしては、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂、いわゆるマテリアルリサイクルされた芳香族ポリカーボネートの使用も可能である。使用済みの製品としては防音壁、ガラス窓、透光屋根材、および自動車サンルーフなどに代表される各種グレージング材、風防や自動車ヘッドランプレンズなどの透明部材、水ボトルなどの容器、並びに光記録媒体などが好ましく挙げられる。これらは多量の添加剤や他樹脂などを含むことがなく、目的の品質が安定して得られやすい。殊に自動車ヘッドランプレンズや光記録媒体などは上記の粘度平均分子量のより好ましい条件を満足するため好ましい態様として挙げられる。尚、上記のバージン原料とは、その製造後に未だ市場において使用されていない原料である。
芳香族ポリカーボネートの粘度平均分子量は、10,000以上であり、好ましくは15,000〜50,000である。粘度平均分子量の下限は、より好ましくは16,000、更に好ましくは17,000、最も好ましくは18,000である。粘度平均分子量の上限はより好ましくは26,000、更に好ましくは25,000、最も好ましくは23,000である。上記の好適な範囲の粘度平均分子量を有する芳香族ポリカーボネートは、流動性、強度、および耐熱性のバランスに優れるようになる。
尚、かかる粘度平均分子量はA−1成分全体として満足すればよく、分子量の異なる2種以上の混合物によりかかる範囲を満足するものを含む。特に粘度平均分子量が50,000(より好ましくは80,000以上、更に好ましくは100,000以上)を超える芳香族ポリカーボネートの混合は、溶融時のエントロピー弾性を高くする点で有利な場合がある。例えば、ジェッティングの低減、ガスインジェクション成形、発泡成形(超臨界流体によるものを含む)、射出プレス成形、およびドローダウン性の改良などに効果を発揮する。したがって、粘度平均分子量が50,000を超える芳香族ポリカーボネートの混合は、これらの改良が求められる場合およびこれらの成形法を適用する場合に、好適な選択の1つとなる。かかる効果は、芳香族ポリカーボネートの分子量が高いほど顕著となるが、実用上該分子量の上限は200万、好ましくは30万、より好ましくは20万である。
本発明でいう粘度平均分子量はまず次式にて算出される比粘度を塩化メチレン100mlに芳香族ポリカーボネート0.7gを20℃で溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求め、
比粘度(ηSP)=(t−t0)/t0
[t0は塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
求められた比粘度を次式にて挿入して粘度平均分子量Mを求める。
ηSP/c=[η]+0.45×[η]2c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−4M0.83
c=0.7
<A−2成分について>
本発明のスチレン系硬質ポリマー(A−2成分)は、芳香族ビニル化合物の重合体または共重合体、またこれらと共重合可能な他のビニル単量体とを共重合して得られる重合体をいう。芳香族ビニル化合物は該ポリマー100重量%中少なくとも30重量%以上含有することが好ましい。
硬質ポリマーとは、非晶性ポリマーにおいては少なくともそのガラス転移温度が40℃以上であるポリマーをいい、少なくとも10℃以下にガラス転移温度を有するその他の成分のゴム質重合体とは明確に区別される。結晶性ポリマーの場合にはその融点が40℃以上であるポリマーをいう。これらのガラス転移温度および融点はJIS K7121に準拠した示差走査熱量計(DSC)測定により求めることが可能である。
スチレン系硬質ポリマーの分子量は、好ましくは40,000〜250,000である。かかる下限はより好ましくは50,000、更に好ましくは70,000である。またかかる上限はより好ましくは160,000、更に好ましくは150,000である。スチレン系硬質ポリマーの分子量は、GPC測定による標準ポリスチレン換算の値、すなわち標準ポリスチレンのGPC測定によりリテンションタイムと分子量との較正線を作成し、各ポリマーのリテンションタイムの値をかかる較正線を用いて分子量に換算した値である。
本発明において芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルナフタレン、メトキシスチレン、モノブロムスチレン、ジブロムスチレン、フルオロスチレン、トリブロムスチレンなどが挙げられ、特にスチレンが好ましい。
本発明において芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体としては、シアン化ビニル化合物および(メタ)アクリル酸エステル化合物を好ましく挙げることができる。シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられ、特にアクリロニトリルが好ましい。
本発明において(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、具体的にはメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。尚(メタ)アクリレートの表記はメタクリレートおよびアクリレートのいずれをも含むことを示し、(メタ)アクリル酸エステルの表記はメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステルのいずれをも含むことを示す。特に好適な(メタ)アクリル酸エステル化合物としてはメチルメタクリレートを挙げることができる。
本発明においてシアン化ビニル化合物および(メタ)アクリル酸エステル化合物以外の芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体としては、グリシジルメタクリレートなどのエポキシ基含有メタクリル酸エステル、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミドなどのマレイミド系単量体、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フタル酸、イタコン酸などのα,β−不飽和カルボン酸およびその無水物があげられる。
本発明において好適なスチレン系硬質ポリマーとしては、ポリスチレン、MS共重合体、AS共重合体、MAS共重合体およびSMA共重合体などが挙げられる。尚、ここでMS共重合体はメチルメタクリートとスチレンから主としてなる共重合体、AS共重合体はアクリロニトリルとスチレンから主としてなる共重合体、MAS共重合体はメチルメタクリート、アクリロニトリルとスチレンから主としてなる共重合体、並びにSMA共重合体はスチレンと無水マレイン酸(MA)から主としてなる共重合体を示す。
更に本発明のA−2成分はその製造時にメタロセン触媒等の触媒使用により、シンジオタクチックポリスチレン等の高い立体規則性を有するものであってもよい。更に場合によっては、アニオンリビング重合、ラジカルリビング重合等の方法により得られる、分子量分布の狭い重合体や共重合体、ブロック共重合体、並びに立体規則性の高い重合体や共重合体であってもよい。更にはA−2成分の共重合体はマクロモノマーを使用した制御された櫛型構造の重合体など、分子レベルで精密に制御された各種の共重合体が広く知られている。A−2成分としてはこれら公知の精密制御された共重合体の使用が可能である。
上記の中でもA−2成分としてはAS共重合体およびポリスチレンが好適である。A−1成分との組合せにおけるA−2成分は、AS共重合体が特に好適である。A−3成分との組合せにおけるA−2成分は、ポリスチレンが特に好適である。
本発明においてAS共重合体とは、アクリロニトリルを主とするシアン化ビニル化合物とスチレンを主とする芳香族ビニル化合物を共重合した熱可塑性共重合体である。シアン化ビニル化合物や芳香族ビニル化合物の具体例は前記のとおりである。AS共重合体中におけるシアン化ビニル化合物の割合は、該共重合体100重量%中、5〜50重量%、好ましくは15〜35重量%、より好ましくは20〜30重量%であり、一方、芳香族ビニル化合物の割合は、95〜50重量%、好ましくは85〜65重量%、より好ましくは70〜80重量%である。更にこれらのビニル化合物に、前記の共重合可能な他のビニル系化合物が共重合されたものでもよい。これらの含有割合は、AS共重合体中15重量%以下であることが好ましい。また反応で使用する開始剤、連鎖移動剤等は必要に応じて、従来公知の各種のものが使用可能である。
かかるAS共重合体は塊状重合、溶液重合、懸濁重合、および乳化重合のいずれの方法で製造されたものでもよいが、好ましくは塊状重合または懸濁重合によるものである。また共重合の方法も一段での共重合、または多段での共重合のいずれであってもよい。またかかるAS共重合体の重量平均分子量は、GPC測定による標準ポリスチレン換算において40,000〜200,000が好ましい。かかる下限は50,000がより好ましく、70,000が更に好ましい。また上限は160,000がより好ましく、150,000が更に好ましい。またかかるAS共重合体をスチレン系硬質ポリマーとして含む場合であっても、少量の他のスチレン系硬質ポリマーを含むことができる。かかる場合AS共重合体以外のスチレン系硬質ポリマーはスチレン系硬質ポリマー100重量%中好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは5重量%以下であり、更に3重量%以下である。
<A−3成分について>
本発明のA−3成分であるポリフェニレンエーテルとは、フェニレンエーテル構造を有する核置換フェノールの重合体または共重合体(以下単にPPE重合体と称する場合がある)である。
フェニレンエーテル構造を有する核置換フェノールの重合体の代表例としては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジ−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−n−ブチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−イソプロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−ヒドロキシエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレン)エーテル等が挙げられる。この中で、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルが特に好ましい。
フェニレンエーテル構造を有する核置換フェノールの共重合体の代表例としては、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体、2,6−ジメチルフェノールとo−クレゾールとの共重合体あるいは2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノール及びo−クレゾールとの共重合体等がある。
上記のPPE重合体の製造方法は特に限定されるものではないが例えば米国特許4,788,277号明細書(特願昭62−77570号)に記載されている方法に従って、ジブチルアミンの存在下に、2,6−キシレノールを酸化カップリング重合して製造することができる。
また、ポリフェニレンエーテルの分子量および分子量分布も種々のものが使用可能であるが、分子量としては、0.5g/dlクロロフォルム溶液、30℃における還元粘度が0.20〜0.70dl/gの範囲が好ましく、0.30〜0.55dl/gの範囲がより好ましい。
また、本発明のポリフェニレンエーテル中には、本発明の主旨に反しない限り、従来ポリフェニレンエーテル中に存在させてもよいことが提案されている他の種々のフェニレンエーテルユニットを部分構造として含んでいても構わない。少量共存させることが提案されているものの例としては、特願昭63−12698号公報及び特開昭63−301222号公報に記載されている、2−(ジアルキルアミノメチル)−6−メチルフェニレンエーテルユニットや、2−(N−アルキル−N−フェニルアミノメチル)−6−メチルフェニレンエーテルユニット等が挙げられる。また、ポリフェニレンエーテルの主鎖中にジフェノキノン等が少量結合したものも含まれる。
<その他の成分について>
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲においてC−1成分、C−2成分およびD成分以外の無機充填材を少量含むことも可能である。
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物には、他に熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、帯電防止剤、発泡剤、染顔料等を配合することもできる。
更に本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、少量のゴム質重合体を含むことができる。ゴム質重合体の含有量は、A成分、B成分、C−1成分、C−2成分およびD成分の合計100重量部あたり1.5重量部以下とすることが適切であり、1.3重量部以下がより好ましい。
ゴム質重合体とは、ガラス転移温度が10℃以下、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−30℃以下であるゴム成分からなる重合体、並びに該ゴム成分からなる重合体に他のポリマー鎖が結合してなる共重合体をいう。かかる他のポリマー鎖が結合してなる共重合体はより好適なゴム質重合体である。
ゴム成分からなる重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ジエン系共重合体(例えば、スチレン・ブタジエンのランダム共重合体およびブロック共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、並びにアクリル・ブタジエンゴム(アクリル酸アルキルエステルまたはメタクリル酸アルキルエステルおよびブタジエンの共重合体)など)、エチレンとα−オレフィンとの共重合体(例えば、エチレン・プロピレンランダム共重合体およびブロック共重合体、エチレン・ブテンのランダム共重合体およびブロック共重合体など)、エチレンと不飽和カルボン酸エステルとの共重合体(例えばエチレン・メタクリレート共重合体、およびエチレン・ブチルアクリレート共重合体など)、エチレンと脂肪族ビニルとの共重合体(例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体など)、エチレンとプロピレンと非共役ジエンターポリマー(例えば、エチレン・プロピレン・ヘキサジエン共重合体など)、アクリルゴム(例えば、ポリブチルアクリレート、ポリ(2−エチルヘキシルアクリレート)、およびブチルアクリレートと2−エチルヘキシルアクリレートとの共重合体など)、並びにシリコーン系ゴム(例えば、ポリオルガノシロキサンゴム、ポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分とからなるIPN型ゴム;すなわち2つのゴム成分が分離できないように相互に絡み合った構造を有しているゴム、およびポリオルガノシロキサンゴム成分とポリイソブチレンゴム成分からなるIPN型ゴムなど)が挙げられる。
かかるゴム成分に結合するポリマー鎖を構成する単量体化合物としては、スチレン系硬質ポリマーで例示した各種の化合物と同様である。中でも、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物などが好適に挙げられる。
他のポリマー鎖が結合してなるゴム質重合体においては、該共重合体100重量%中ゴム成分からなる重合体は、好ましくは50重量%以上であり、より好ましくは60重量%以上であり、更に好ましくは65重量%以上である。また該共重合体100重量%中ゴム成分からなる重合体は好ましくは90重量%以下であり、より好ましくは85重量%以下であり、更に好ましくは80重量%以下である。
ゴム質重合体において、これらの単量体からなるポリマー鎖は、代表的にはブロック共重合体やグラフト共重合体の構成を有することができ、特にグラフト共重合体の構成を有することが好ましい。またグラフト共重合体においては、ゴム成分からなる重合体のコアに上記単量体からなるポリマー鎖が結合したコア−シェルタイプのグラフト共重合体がより好ましい。またグラフト共重合体は、1段反応によるグラフト反応、および2段以上の多段反応によるグラフト反応のいずれで製造されてもよい。ゴム質重合体がグラフト共重合体の場合、ゴム成分からなる重合体にグラフトされたポリマー鎖の割合(ゴム成分の重量に対するかかるグラフトポリマー鎖の重量の割合)、すなわちグラフト率(重量%)は好ましくは11〜100重量%であり、より好ましくは17〜66重量%であり、更に好ましくは25〜53重量%である。
尚、本発明のゴム質重合体はA成分中に単体で配合される必要はなく、他の硬質ポリマー中に含有される形式で含まれるものであってもよい。例えばABS樹脂がA成分の構成成分の1つとして配合された場合、硬質ポリマーとしてAS共重合体、ゴム質重合体としてABS共重合体を含有する。
A成分が芳香族ポリカーボネート(A−1成分)を主成分とするとき、ゴム質重合体は、芳香族ビニル化合物または(メタ)アクリル酸エステル化合物をその必須の単量体成分として含有する共重合体、殊にその必須のグラフト鎖の単量体成分として含有するグラフト共重合体である。A成分がポリフェニレンエーテル(A−3成分)を主成分とするとき、芳香族ビニル化合物をその必須の単量体成分として含有する共重合体である。
ゴム質重合体としてより具体的には、SB(スチレン−ブタジエン)重合体、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)重合体、MBS(メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン)重合体、MABS(メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)重合体、MB(メチルメタクリレート−ブタジエン)重合体、ASA(アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム)重合体、AES(アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン)重合体、MA(メチルメタクリレート−アクリルゴム)重合体、MAS(メチルメタクリレート−アクリルゴム−スチレン)重合体、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−(アクリル・シリコーンIPNゴム)重合体などを挙げることができる。これらの重合体はいずれもゴム成分からなる重合体のコアに上記単量体からなるポリマー鎖が結合したコア−シェルタイプのグラフト共重合体であることが好ましい。
上記の例示されたゴム質重合体はA成分が芳香族ポリカーボネート(A−1成分)を含む場合にはいずれも好適であり、特にSB重合体を除く重合体は好適に利用される。またA成分の硬質ポリマーがポリフェニレンエーテル(A−3成分)を含む場合には、SB重合体がより好適である。
その他ゴム質重合体としては、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマーなど各種の熱可塑性エラストマーが挙げられる。
熱安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステル等のリン系の熱安定剤が挙げられ、具体的には、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等の亜リン酸エステル化合物、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート等のリン酸エステル化合物、更にその他のリン系熱安定剤として、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−ビフェニレンホスホナイト等の亜ホスホン酸エステル化合物等を挙げることができる。これらのうち、トリスノニルフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリフェニルホスフェート、トリメチルホスフェート、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−ビフェニレンホスホナイトが好ましい。これらの熱安定剤は、単独でもしくは2種以上混合して用いてもよい。かかる熱安定剤の配合量は、A成分、B成分、C−1成分、C−2成分およびD成分の合計100重量部あたり0.0001〜1重量部が好ましく、0.0005〜0.5重量部がより好ましく、0.002〜0.3重量部が更に好ましい。
酸化防止剤としては、例えばペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール−3−ステアリルチオプロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ビフェニレンジホスホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等が挙げられる。かかる酸化防止剤の配合量は、A成分、B成分、C−1成分、C−2成分およびD成分の合計100重量部あたり0.0001〜0.05重量部が好ましい。
紫外線吸収剤としては、紫外線吸収剤として公知のベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物、環状イミノエステル系化合物、並びにシアノアクリレート系化合物などが例示される。ベンゾフェノン系化合物としては、例えば2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンが例示され、ベンゾトリアゾール系化合物としては、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−tert−ペンチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、および2,2’−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール]などが例示され、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物としては、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]フェノールが例示され、環状イミノエステル系化合物としては、2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)が例示され、シアノアクリレート系化合物としては、1,3−ビス−[(2’−シアノ−3’,3’−ジフェニルアクリロイル)オキシ]−2,2−ビス[(2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリロイル)オキシ]メチル)プロパンが例示される。更に公知のヒンダードアミン系の光安定剤を使用することも可能である。さらに上記紫外線吸収剤および光安定剤は、ラジカル重合が可能な単量体化合物の構造をとることにより、かかる紫外線吸収性単量体および/または光安定性単量体と、アルキル(メタ)アクリレートなどの単量体とを共重合したポリマー型の紫外線吸収剤であってもよい。かかる紫外線吸収剤、光安定剤の配合量は、A成分、B成分、C−1成分、C−2成分およびD成分の合計100重量部あたり0.01〜5重量部が好ましい。
帯電防止剤としては、例えばポリエーテルエステルアミド、グリセリンモノステアレート、ナフタリンスルホン酸ホルムアルデヒド高縮合物アルカリ(土類)金属塩、ドデシルベンゼンスルホン酸アルカリ(土類)金属塩、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ホスホニウム塩、無水マレイン酸モノグリセライド、および無水マレイン酸ジグリセライド等が挙げられる。かかる帯電防止剤の配合量は、A成分、B成分、C−1成分、C−2成分およびD成分の合計100重量部あたり0.5〜20重量部が好ましい。
<樹脂組成物の製造方法について>
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、C−1成分もしくはC−2成分(好ましくはC−1成分およびC−2成分)とA成分とを溶融混練する際、該溶融混練がB成分の共存下でなされることにより製造されたものが好ましい。更にD成分の繊維状充填材は、A成分、B成分、およびC−1成分もしくはC−2成分(好ましくはC−1成分およびC−2成分)とを含有する溶融状態の樹脂組成物中に供給されることが好ましい。
かかる製造方法により得られた熱可塑性樹脂組成物は熱安定性により優れ、大型のシャーシ成形品においてより好適である。大型のシャーシ成形品は熱安定性の問題が生じやすいためである。更にかかる製法に基づく難燃性熱可塑性樹脂組成物においては、上記C−2成分は集束処理などがなされていないものがより好ましい。集束処理剤(集束剤)は場合によっては樹脂の熱劣化の原因となる場合があるからである。
上記の製造方法を実施するためには、例えば供給口を2つ以上有する押出機を用いて、第1供給口(スクリュー根元部供給口)でA成分中と、B成分と、C−1成分およびC−2成分とを混合し、第2供給口(押出機途中)からサイドフィーダーなどを使用して、かかる溶融状態の混合物中にD成分を供給する方法が挙げられる。かかるA成分は、A成分全てである必要はなく、主成分たるA成分であればよい。A成分の主成分以外の成分は、第1供給口において供給することも、下流の第2供給口などにおいて供給することも可能である。しかしながら本発明においては強化充填材の含有率が高いため、より熱安定性を良好とするためにはかかる主成分以外の成分も第1供給口から供給することが適切である。
更に次の方法がより好適である。すなわち、押出機の第1供給口に集束剤を実質的に含有しないC−1成分およびC−2成分を供給し、これらを含有する(B成分も含有する)溶融状態の樹脂組成物を作り、その下流側の第2供給口においてD成分を供給し、更に溶融混練して製造する方法である。C−1成分およびC−2成分は全量を第1供給口で供給するだけでなく、一部を第2供給口などの下流側に供給することもできる。より好適な方法は、C−1成分およびC−2成分の合計100重量%中、第1供給口に80〜20重量%(好ましくは70〜30重量%)の、第2供給口に20〜80重量%(好ましくは30〜70重量%)のC−1成分およびC−2成分を供給する方法である。C−1成分およびC−2成分はいずれの供給口においてもかかる成分のいずれか1つの成分が供給されても、両方の成分が供給されてもよい。
かかる方法によって本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物においてより良好な熱安定性が達成される。上記方法は(i)溶融粘度が低い樹脂中で強化充填材の混練時間を長くとることで、無理のない混練で強化充填材の良好な分散を達成する、(ii)上記の無理のない混練により熱劣化を抑制し、以後の熱安定性を良好に保つ、および(iii)比較的充填材量の少ない部分で集束剤の少ないC−1成分および/またはC−2成分を供給することで、良好な混練と集束剤の低減による熱安定性の向上が達成される等の利点を有する。
より具体的には、まず押出機の第1供給口から、A成分、B成分、並びにC−1成分および/またはC−2成分(好ましくはC−1成分)を供給する。これらの成分は全てを予備混合して供給する方法、その一部を予備混合して供給する方法、またはそれぞれ独立に供給する方法のいずれの供給方法を取ることも可能である。予備混合には、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などの各種混合機を使用することができる。次に押出機の途中からサイドフィーダーなどを用いて、D成分(好ましくはD成分およびC−2成分)を溶融状態の樹脂組成物中に供給する。
押出機としては、単軸押出機、多軸押出機のいずれも使用可能であるが、好ましくはかみ込み性に優れる多軸押出機である。特に2軸押出機が好ましくまたその方式としては完全かみ合い型の同方向回転型が好ましい。更にベント口が設置されベント吸引する方法か好ましく、特にそのベント孔の長さがスクリュー径(D)に対して、1D〜5Dの長さを有するものが好ましい。このような十分な脱気孔を設けることで樹脂中に混入した酸素を十分に除去することが可能となり、良好な熱安定性を有する強化充填材を高充填した難燃性熱可塑性樹脂組成物が達成される。
尚、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物においては、押出機ダイスから押出されるストランドは水槽中を通して完全に冷却せず、冷却の際にベルトコンベアなどを使用し途中霧状シャワーによる水冷および/またはエアーによる冷却を行い急激な冷却を避けるのが好ましい。本発明の熱可塑性樹脂組成物のストランドは極めて剛直であるため、完全に冷却するとペレタイザーによる切断が困難となるためである。
尚、原料の予備混合に用いる手段としては、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、および押出混合機などの予備混合手段が例示され、必要に応じて押出造粒器やブリケッティングマシーンなどにより得られた予備混合物の造粒を行うことができる。
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物からなる成形品は、通常そのペレットを射出成形して得ることができる。かかる射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体を注入する方法を含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形などを利用することができる。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。また本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は押出成形することにより、各種異形押出成形品、シート、およびフィルムなどの形とすることもできる。また本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は回転成形やブロー成形などの方法により成形品とすることも可能である。精密機器における高精度シャーシを成形は、特に射出成形法によることが好ましく、その際さらに高精度を達成するため、射出圧縮成形、断熱金型成形、および急速加熱冷却金型成形などを組合わせることが可能であり、また軽量化および低歪み化のためガスアシスト成形や発泡成形などを組合わせて使用することも可能である。