JP4114849B2 - シールリングの合口加工方法とそのための加工刃 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、合成樹脂製のシールリングの合口加工方法とそのための加工刃に関し、特に詳述すれば、向かい合う面が平坦な面の対の治具と直線状の刃先を持つ加工刃を用いた合口加工方法とそのための加工刃に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車等に用いられる流体継手、トルクコンバータ、油圧伝動装置、自動変速機等に代表される流体伝動装置には多くの合成樹脂製のシールリングが用いられており、代表的な材料例はPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)に無機物充填材(固体潤滑剤やガラス繊維等)を混合したものである。
これらのシールリング合口には、ストレート形状、斜め形状、ダブルアングル形状やトリプルステップ形状等の合口があり、シール部の流体の漏れ許容量に応じて合口形状が選定されている。
【0003】
近年では、漏れ許容量をより低くさせる傾向にあり、ストレート形状、斜め形状の合口を持ったリングでは近年要求される漏れ許容量を満足させることができなくなっている。このため、ダブルアングル形状やトリプルステップ形状の合口のシールリングは漏れ許容量を満足させるので多用されている。
【0004】
ところで、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を主成分とした合成樹脂製にして、ダブルアングル形状やトリプルステップ形状の合口を有するシールリングは、中空筒状に加圧成形された素材を径方向にスライスすることによって、円環状シールリング本体を作り、その後、加工刃によって該円環状シールリング本体を加工して合口を作り、シールリングとするのが一般的な製造方法である。そのため、この種の形状の合口を形成するには、円環状のシールリング本体を、刃先と刃面にシールリングと同じ曲率Rをつけた加工刃を少なくとも用いて、シールリング側面およびシールリング外周側より加工して形成している。
【0005】
図7にダブルカット形状の合口を有するシールリング1の例を示す。図7はダブルカット形状の合口の構成を明確にさせるため合口2を離間した形で図示してある。合口2を構成する向かい合う端面の一方には、その外周面の一隅より断面方形の突部3が形成される。他方の端面には、段部4と突部3を着座させる受け部5が形成されている。
このようなダブルカット形状の合口2を有するシールリング1は、図12に示すように突部3を受け部5に着座させた形で使用される。
【0006】
このようなダブルカット形状の合口の加工は、図10に示すように、円環状のシールリング本体6の側面に第1の加工刃7を押し込むことで作る工程を含むが、第1の加工刃7は、本体6の曲率と同じ曲率Rの段付き横刃先8と、この刃先8とほぼ直交する縦刃先9とからなる。この第1の加工刃7を本体6の側面より本体6へ押し込むことにより、図7の太線で囲まれた部分に刃が入ることになる。
【0007】
第1の加工刃7の本体6への押し込み作業完了後、これを外し、次に図11に示すように第2の加工刃10を外周側より押し込む。第2の加工刃10は、横刃先11の両側部に逆向きに直交する対の縦刃先12,12を有する略Z状のものである。第2の加工刃10は、図7の中太線部に切り込まれる。
第2の加工刃10の本体6への押し込みにより、図7に示すダブルカット形状の合口形状が作られる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
前述した如き刃先に曲率Rを持たせた形状の加工刃は、製造が難しいばかりではなく、シールリングの曲率に合わせた数多くの加工刃を用意しなければならないという問題がある。
本発明は上記の問題点に鑑みなされたものであって、複雑なR形状の加工刃を用いず、かつ合口部加工面のオイルシール性を悪化させることのない合口を形成する加工方法とそのための加工刃を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本願発明の合成樹脂製シールリングの合口加工方法は、円環状のシールリング本体の合口形成箇所をシールリング本体の内外周面より対の治具にて挟持して直線状とした後、真直な刃面、即ち刃先の加工刃で合口を加工し、治具を除去することでシールリングの自己張力により合口に曲率Rを持たせる事を特徴とするものである。
【0010】
さらに、本発明による加工刃は、刃先が段付きの直線状の第1の刃と、その一端から直線状に延在する第2の刃からなる第1の加工刃を有す。
【0011】
本発明によれば、合成樹脂製シールリングの合口加工方法であって、円環状のシールリング本体の合口加工箇所をシールリング本体の内外周面より向かい合う面が平坦面の対の治具により挟持し、挟持されたシールリング本体の部分を直線状とした後、シールリング側面と外周面より加工刃を入れ合口を作ることを特徴とする合成樹脂製シールリングの合口加工方法が提供される。
【0012】
さらに、本発明によれば、加工刃が、刃先が段付部を有する直線状の第1の刃と該第1の刃の端部に対し直交するよう延在する直線状の第2の刃からなる第1の加工刃と;刃先が直線状の第1の刃と、該第1の刃の両側より互いに逆方向に第1の刃に対して直交するよう延在する対の第2の加工刃とよりなり、第1の加工刃がシールリング本体の一方の側面より該シールリング本体に押し込まれ、第2の加工刃がシールリング本体の外周面側から該シールリング本体内に押し込まれる請求項1に記載の合口加工方法に用いられる合口加工用加工刃が提供される。
【0013】
【発明の実施の形態】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる円環状シールリング本体20の合口形成部に、図1に示す如く、対の治具21,22をリング本体20を間にして対向させる。治具21,22の向かい合う面は平坦面であり、第1の治具21には、後述する第2の加工刃が挿入されるスリット23が形成されている。
対の治具21,22により曲率Rのリング本体20の合口形成部を挟持する。これにより合口形成部は直線となる。直線状となった合口形成部の側面から第1の加工刃24を押し込む(図2参照)。
【0014】
第1の加工刃24は、図5に示すように刃先が段付部26を有する直線状の第1の刃25と、第1の刃25の一端から第1の刃25と直交する形で延在する第2の刃27とからなる。
第1の加工刃24のリング本体20の側面への押し込みにより、内周面に開口しかつ軸線方向に延在する切り込み28と一方の側面に開口する切り込み29が形成される。
第1の加工刃24による作業が完了した後、第1の加工刃24をリング本体20より外し、第2の加工刃30をリング本体20の外周面側に待機させる。
【0015】
第2の加工刃30は、図11と関連して説明した第2の加工刃と同構成のものでよく、刃先が直線状の第1の刃31と、第1の刃31の両端より互いに逆向きに延在する第2の刃32,32とからなる。
この第2の加工刃30を第1の治具21のスリット23内に挿入しながら、リング本体20の外周面に押し込む。この押し込みにより図7に示す如き、ダブルカット形状の合口が形成される。
第2の加工刃30をリング本体20より離しかつ治具21,22をリング本体20から取り除く。リング本体20の合口形成部はリング本体20の自己張力により原形の曲率Rの円弧部となる。
【0016】
【実施例】
本発明による実施例を記す。加工対象は充填材入りのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のリング本体であり、サイズは3.4mm×3.0mm、R80である。このリング本体の合口形成部を圧力0.8MPaで真直に対の治具により固定し、図1乃至4に示すような方法で加工した。加工速度は1000mm/minである。加工後の形状は図12に示される合口形状となった。
【0017】
次に、図1乃至4に示される加工方法ではあるが、治具を用いない方法(リング本体を曲率Rとしたまま)で形成した合口を有するシールリングを比較例として製作した。この比較例は前述の実施例と同寸法、同材質のものである。
比較例は、図5の第1の加工刃を用いてはいるが、円弧状の合口形成部を加工したため、突部の外周面がリング外周面より浮き上がり傾向にあるものであった。
【0018】
比較例のシールリングと、本発明による合口形状のシールリングのオイル漏れ量を比較したグラフを図6に示す。流体には油を用いて油圧を0.1MPaと5.0MPaの2条件に振り、油温を変化させてその際の漏れ量を測定する。本発明のシールリングは、油の低温、低圧時に漏れ量が少なくなることが判る。高温、高圧時に差が見られないのは、比較例のシールリングで油の漏れが発生する原因となる隙間がリングの変形のためにふさがっているからである。
【0019】
図1乃至図7を用いてダブルカット合口形状を有するシールリングの製造について説明してきたが、図8にトリプルステップ合口形状を示し、図9にその製造の好ましい一例を示す。
トリプルステップ合口は、リング本体20の外周側を2分するような対向する突部33,34を有し、該突部33,34は、向かい合う段部35,36に収納されかつ着座する。突部33,34はその側面に位置する段部35,36の端面より円周方向に延在する。このトリプルステップ合口形状そのものは公知である。
【0020】
図9に示すように、リング本体20の合口形成部の内外周面に対の治具21,22を当て、この部分を平坦部とさせる。
第1の加工刃37,38を両側面よりリング本体20の側面に押し込む。一方の第1の加工刃37は直線状の水平刃先39と垂直刃先40を有し、垂直刃先40がリング本体20の軸線方向の半分を切断し、かつ水平刃先39が周方向への切り込みを入れ段部35を作る。他方の第1の加工刃38が反対側の側面よりリング本体20へ押し込む。これにより段部36の基本形が作られる。他方の第1の加工刃38はL字形の直線状刃先41,42を有す。
【0021】
治具21はZ形状のスリット43を有し、このスリット43を案内とし、直線状の刃先を有する第2の加工刃44がリング本体20の軸線方向の半分まで切り込みを入れる。これにより、図8に示すような分離可能な合口が形成される。
加工刃37,38,44による作業が完了した後、治具21,22をリング本体20より取り外し、平坦部となっていた合口形成部を原形の曲率Rを持つ形状とさせる。
図示しないが、ダブルアングル合口形状の加工も、前述した例と同じく、対の治具を用い合口形成部を平坦部として加工刃をリング本体へ押し込むことで可能となる。対の治具を用いることで、加工刃の刃先は直線状のものを用いることができる。
【0022】
【発明の効果】
本発明により、図5に示すような真直な合口加工刃で加工した場合でも、図12に示される合口形状が形成され、流体の漏れ量が少なく組み込みに方向性のないシールリングがより安価に製造される。
【図面の簡単な説明】
【図1】リング本体と治具との関係を示す正面図である。
【図2】第1の加工刃を用いてのリング本体への作業を示す正面図である。
【図3】第2の加工刃を用いてのリング本体への作業を示す正面図である。
【図4】治具のリング本体からの取り外しを示す正面図である。
【図5】第1の加工刃の刃面と刃先を示す斜視図である。
【図6】油の漏れ量を示すグラフ図である。
【図7】ダブルカット形状の合口を示す斜視図である。
【図8】トリプルステップ合口形状を示す部分斜視図である。
【図9】トリプルステップ合口形状の成形のための作業を示す斜視図である。
【図10】従来の曲率Rの刃面を有する加工刃を用いての合口加工例を示す斜視図である。
【図11】第2の加工刃の使用例を示す斜視図である。
【図12】ダブルカット形状の合口部を示す斜視図である。
【符号の説明】
1 シールリング
2 合口
3 突部
5 受け部
6,20 リング本体
10,30 第2の加工刃
21,22 治具
24 第1の加工刃
25,27 刃先
26 段付部
Claims (3)
- 合成樹脂製シールリングの合口加工方法であって、円環状のシールリング本体の合口加工箇所をシールリング本体の内外周面より向かい合う面が平坦面の対の治具により挟持し、挟持されたシールリング本体の部分を直線状とした後、シールリング側面と外周面より加工刃を入れ合口を作ることを特徴とする合成樹脂製シールリングの合口加工方法。
- 合口形状がダブルカット形状又はトリプルステップ形状である請求項1に記載の合口加工方法。
- 加工刃が、刃先が段付部を有する直線状の第1の刃と該第1の刃の端部に対し直交するよう延在する直線状の第2の刃からなる第1の加工刃と;
刃先が直線状の第1の刃と、該第1の刃の両側より互いに逆方向に第1の刃に対して直交するよう延在する対の第2の加工刃とよりなり、第1の加工刃がシールリング本体の一方の側面より該シールリング本体に押し込まれ、第2の加工刃がシールリング本体の外周面側から該シールリング本体内に押し込まれる請求項1に記載の合口加工方法に用いられる合口加工用加工刃。
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