JP4052765B2 - 佃煮の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、軟弱魚を用いた佃煮の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術と発明が解決しようとする課題】
兵庫県の瀬戸内海地方の特産品の一つとして、「イカナゴの釘煮」と呼ばれる佃煮が知られている。この佃煮は、体長4cm程度のイカナゴを、醤油と砂糖をベースにした調味液で煮熟したものである。
一般に佃煮は、形状が壊れ易い生鮮原料を使用する場合には、これを大量の調味液に浮かして煮熟する浮かし煮法により製造される。また、形状が壊れ難い乾燥原料を使用する場合には、これを比較的少量の調味液で煮詰める煎りつけ法により製造される。しかし、前記釘煮については、生鮮原料である生のイカナゴを使用して、煎りつけ法により製造される。このため、一般の佃煮とは異なる独特の香ばしさと柔らかさを備えている。
【0003】
ところが、前記釘煮に加工されるイカナゴは、水揚げしてから数時間で鮮度が低下するとともに、腹部が切れたり身崩れが生じたりし易くなる。このため、加工場所に迅速に輸送する必要があるとともに、水揚げ場所から遠く離れた場所での加工が困難であるという問題があった。また、漁期が春の1ヶ月間のみであるので、短期間で大量に漁獲する必要があるとともに、この漁獲した大量のイカナゴを短期間で加工する必要があり、漁獲と加工に多大な労力を必要とするという問題があった。
【0004】
このような問題点を解消するために、漁獲したイカナゴを一旦煮干しにし、これを冷凍したものを原料として、浮かし煮法により製造した佃煮も提供されている。しかし、この佃煮は、原料の性質や製法の相違から、外観は釘煮と似ているものの、釘煮独特の香ばしさや柔らかさを備えておらず、本来の釘煮とは品質の異なるものとなっている。
そこで、イカナゴを冷凍保存する試みがなされているが、魚体が小さくしかも軟弱であることから、冷凍中にタンパク質の変成が生じ易く、解凍時に腹切れや身崩れを起こし易い。このため、煎りつけ法により釘煮を製造する工程には耐えられないものであった。
この発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、腹切れや身崩れ等の品質低下を起こし難い軟弱魚の佃煮の製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するためのこの発明の佃煮の製造方法は、有機酸塩類と糖類とを含浸させた軟弱魚を冷凍し、自然解凍した後、糖分を含む調味液に入れて煮熟することを特徴とする(請求項1)。
この方法によれば、前記有機酸塩類と糖類との相乗作用により、冷凍した軟弱魚を解凍した際に、腹切れや身崩れが生じるのを効果的に抑制することができる。これは、有機酸塩類及び糖類は、それぞれ単独で魚体のタンパク質が冷凍変性するのを抑制する作用を有することに加えて、糖類のみを含浸させた場合には、その脱水作用によって身が固くなるが、糖類とともに有機酸塩類を含浸させた場合には、糖類よって身が固くなるのを有機酸塩類が抑制するためであると推察される。
【0006】
このように冷凍された軟弱魚を、自然解凍した後、糖分を含む調味液に入れて煎りつけ法により煮熟する。
この佃煮の製造方法によれば、身崩れが少なく、品質の良好な佃煮を得ることができる。また、解凍した軟弱魚を、糖分を含む調味液に入れて煮熟するので、最終的に得られる佃煮についても糖分を含むものとなる。このため、冷凍保存に先立って軟弱魚に含浸させた糖類を、当該軟弱魚の解凍時に除去する必要がない。
【0007】
前記軟弱魚に有機酸塩類と糖類とを含浸させるには、有機酸塩類と糖類とを含む水溶液に軟弱魚を浸漬するのが好ましく(請求項2)、この場合には、有機酸塩類と糖類とを軟弱魚に同時に含浸させることができるので、その含浸作業を能率良く行うことができる。
【0008】
前記有機酸塩類としては、クエン酸ナトリウム又はリンゴ酸ナトリウムを用いるのが好ましく(請求項3)、この場合には、軟弱魚の保水性を良好に確保できる。
【0009】
前記佃煮の製造方法においては、前記軟弱魚としてイカナゴを用い、煎りつけ法により煮熟するのが好ましく(請求項4)、この場合には、冷凍保存したイカナゴを原料として煎りつけ法により煮熟するにもかかわらず、腹切れや身崩れ等の品質低下が生じ難いとともに、独特の香ばしさと柔らかさを備えるイカナゴの釘煮を得ることができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に、この発明の実施の形態に係る軟弱魚の佃煮の製造方法ついて説明する。この実施の形態においては、まず、水揚げされた軟弱魚に有機酸塩類と糖類とを含浸させる工程が行われる。前記軟弱魚としては、体長が4cm程度のイカナゴやシラスと呼ばれるイワシ類の幼魚が好適に使用される。
前記有機酸塩類としては、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、フマル酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム等の種々のものを用いることができる。但し、これらのなかでも特にクエン酸ナトリウムかリンゴ酸ナトリウムを用いるのが、軟弱魚の保水性を良好に確保でき、その品質低下を効果的に防止できることから好ましい。また、前記糖類としては、蔗糖、ブドウ糖、砂糖、果糖、オリゴ糖、及びこれらの還元糖若しくは混合物を例示することができる。
【0011】
前記有機酸塩類と糖類とを軟弱魚に含浸させるには、有機酸塩類と糖類とを含む水溶液に軟弱魚を浸漬するのが好ましい。これにより、有機酸塩類と糖類とを軟弱魚に同時に含浸させることができるので、その含浸作業を能率良く行うことができる。
前記有機酸塩類と糖類とを含む水溶液は、例えば、有機酸塩類を20〜30重量%含む水溶液に、粉末状の糖類若しくは水分を20〜40重量%含む糖類又はこれらの水溶液を混合することにより得ることができる。このようにして得られた水溶液中に、軟弱魚を例えば1〜3時間浸漬することにより、当該軟弱魚の表面及び内部に有機酸塩類と糖類とを含浸させる。
次に、有機酸塩類と糖類とを含浸させた軟弱魚を、例えば−40℃程度で急速冷凍させて保存する。
【0012】
このようにして冷凍保存された軟弱魚は、これを解凍した際に、前記有機酸塩類と糖類との相乗作用により、腹切れや身崩れ等の品質低下が生じるのを効果的に抑制することができる。これは、有機酸塩類及び糖類自体が、それぞれ単独で魚体のタンパク質が冷凍変性するのを抑制する効果を奏することに加えて、解凍後の魚体が弾力性を有していることが確認されていることから、糖類のみを含浸させた場合には、その脱水作用によって身が固くなるが、糖類とともに有機酸塩類を含浸させた場合には、糖類よって身が固くなるのを有機酸塩類が抑制するためであると推察される。
【0013】
次に、前記冷凍保存された軟弱魚を原料として佃煮を製造するには、凍結した軟弱魚を自然解凍した後、砂糖、醤油、味醂等を含む沸騰させた調味液に入れて煮熟する。この煮熟の方法としては、軟弱魚を大量の調味液に浮かして煮熟する浮かし煮法と、比較的少量の調味液で煮詰める煎りつけ法の何れを採用しても良い。但し、イカナゴの釘煮を得る場合には、その本来的な煮熟方法である煎りつけ法を採用するのが好ましく、これにより、香ばしさと柔らかさの点において、水揚げ直後に加工したイカナゴの釘煮と遜色ないものを得ることができる。また、煎りつけ法を用いて煮熟しているにもかかわらず、腹切れや身崩れ等の品質低下の少ないものを得ることができる。したがって、前記冷凍保存方法は、釘煮の原料としてのイカナゴの冷凍保存方法として特に好適となる。
なお、前記イカナゴに代えてシラスを原料とし、これを煎りつけ法を用いて煮熟することにより佃煮を得てもよく、この場合にも良好な香ばしさと柔らかさとを備えるものとなる。
【0014】
前記佃煮の製造方法においては、軟弱魚を砂糖を含む調味液に入れて煮熟するので、最終的に得られる佃煮が糖分を含むものとなる。このため、冷凍保存に先立って軟弱魚に含浸させた糖類を、当該軟弱魚の解凍時に除去する必要がない。したがって、前記佃煮の製造方法は、イカナゴの釘煮等、糖分を含む佃煮の製造方法として特に好適となる。
【0015】
〔実施例〕
有機酸塩類としてのクエン酸ナトリウムを30重量%含む水溶液に、糖類として水分を30重量%含む蔗糖を混合し、この水溶液に体長4cm程度のイカナゴを2時間浸漬させて、当該イカナゴにクエン酸ナトリウムと蔗糖とを含浸させた。
次に、クエン酸ナトリウムと蔗糖とを含浸させた前記イカナゴを、−40℃にて急速冷凍させた。この冷凍させたイカナゴを約5ヶ月間保存した後、22℃にて自然解凍した。
【0016】
〔比較例1〕
有機酸塩類としてのクエン酸ナトリウムを30重量%含む水溶液に体長4cm程度のイカナゴを2時間浸漬させて、当該イカナゴにクエン酸ナトリウムを含浸させた。このイカナゴを、−40℃にて急速冷凍させて、約5ヶ月間保存した後、22℃にて自然解凍した。
〔比較例2〕
糖類としての蔗糖を含浸させた体長4cm程度のイカナゴを、−40℃にて急速冷凍させた。このイカナゴを約5ヶ月間保存した後、22℃にて自然解凍した。
〔比較例3〕
体長4cm程度のイカナゴを、そのまま−40℃にて急速冷凍させて約5ヶ月間保存した後、22℃にて自然解凍した。
【0017】
〔品質評価〕
前記実施例及び比較例1〜3について、解凍直後に身崩れ、腹切れ、肉部の透明感、及び魚体の弾力性についての品質評価を行った。この結果を表1に示す。
表1において、身崩れの評価は100個体中に存する身崩れ個体の割合を示しており、腹切れの評価は100個体中に存する腹切れ個体の割合を示している。また、肉部の透明感の評価は、○印が透明感があることを、△印がやや白濁していることをそれぞれ示しており、魚体の弾力性の評価は、○印が弾力性があることを、△印が弾力性があるがやや固いことを、×印が弾力性が無いことをそれぞれ示している。
【0018】
【表1】
【0019】
表1より、身崩れや腹切れについては、実施例が比較例1及び比較例3よりも少ないことが分かる。また、肉部の透明感については、実施例が比較例3よりも良好であり、魚体の弾力性については、実施例が比較例2及び比較例3よりも良好であることが分かる。したがって、実施例は冷凍保存による品質低下が効果的に抑制されていることが分かる。
【0020】
次に、前記実施例及び比較例1〜3を、砂糖、醤油、味醂等を含む沸騰させた調味液に入れ、煎りつけ法により煮熟してイカナゴの釘煮を製造した。このようにして得られたイカナゴの釘煮について、身崩れ、腹切れ、首折れ、色艶、身の柔らかさ、及び味についての品質評価を行った。この結果を表2に示す。
表2において、身崩れの評価は100個体中に存する身崩れ個体の割合を示しており、腹切れの評価は100個体中に存する腹切れ個体の割合を示しており、首折れの評価は100個体中に存する首折れ個体の割合を示している。また、色艶の評価は、○印が良好であることを、△印がやや良好であることを、×印がやや劣ることをそれぞれ示しており、身の柔らかさ評価は、○印が適当であることを、△印がやや柔らか過ぎることを、×印が固いことをそれぞれ示しており、味の評価は、○印が香ばしいことを、△印がやや香ばしいことを、×印が香ばしさに欠けることをそれぞれ示している。
【0021】
【表2】
【0022】
表2より、身崩れ、腹切れ及び首折れについては、実施例が比較例1及び比較例3よりも少ないことが分かる。また、身の柔らかさ及び味については、実施例が各比較例よりも良好であることが分かる。したがって、実施例はイカナゴの釘煮として良好な品質を具備していることが分かる。
【0023】
【発明の効果】
以上のように、請求項1記載の佃煮の製造方法によれば、有機酸塩類と糖類とを含浸させて軟弱魚を冷凍するので、これを解凍した際に、腹切れや身崩れが生じるのを効果的に抑制することができる。このため、冷凍により品質が低下するのを効果的に抑制することができ、身崩れが少なく、品質の良好な佃煮を得ることができる。
【0024】
また、最終的に糖分を含む佃煮を得るので、冷凍保存に先立って軟弱魚に含浸させた糖類を、当該軟弱魚の解凍時に除去する必要がなく、当該佃煮の製造方法として特に好適となる。
【0025】
請求項2記載の佃煮の製造方法によれば、有機酸塩類と糖類とを軟弱魚に同時に含浸させることができるので、その含浸作業を能率良く行うことができる。
【0026】
請求項3記載の佃煮の製造方法によれば、有機酸塩類としてクエン酸ナトリウム又はリンゴ酸ナトリウムを用いるので、軟弱魚の保水性を良好に確保でき、解凍時の品質低下をより効果的に抑制することができる。
【0027】
請求項4記載の佃煮の製造方によれば、冷凍保存したイカナゴを原料として煎りつけ法により煮熟するにもかかわらず、腹切れや身崩れ等の品質低下が生じ難いとともに、独特の香ばしさと柔らかさを備えるイカナゴの釘煮を得ることができる。
Claims (4)
- 有機酸塩類と糖類とを含浸させた軟弱魚を冷凍し、
自然解凍した後、糖分を含む調味液に入れて煎りつけ法により煮熟することを特徴とする佃煮の製造方法。 - 有機酸塩類と糖類とを含む水溶液に軟弱魚を浸漬して、当該軟弱魚に有機酸塩類と糖類とを含浸させる請求項1記載の佃煮の製造方法。
- 有機酸塩類としてクエン酸ナトリウム又はリンゴ酸ナトリウムを用いる請求項1又は2に記載の佃煮の製造方法。
- 前記軟弱魚としてイカナゴを用いる請求項1〜3の何れか1項に記載の佃煮の製造方法。
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