JP4043676B2 - ベアリングリテーナーの切削加工装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、バイトによりワークに、円弧状凹面を有する角穴を削成するベアリングリテーナーの切削加工装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、ワークにバイトによって角穴を形成するには、その角穴の角部の形状を鋭く仕上げることが要求されることが多く、その場合、図11及び図12に示すように、切削工具としてのバイト工具を直線往復移動させるスロッター加工が行われている。例えば図11では、ワークbと直交する方向にバイトaが真直に移動し、矩形の穴cを形成する例であり、図12ではバイトaの移動方向に対しワークbが斜めに保持され、テーパ状の角穴dを形成する例を示している。これらは全てバイトaが直線往復移動することによって削成される。
一方、直線往復移動による単純なスロッター加工は、その切削方法が制限されてしまうので、ワークの内部形状が曲面や傾斜面となっている場合に困難となってしまう。そのため、内部形状が曲面等の場合には、図13に示すように、切削工具として回転工具fを用い、これを回転させながら同図(b)に示す矢印方向に移動させることにより、角穴eを削成している。ただし、この加工方法であると、角穴eの角部の形状を鋭く仕上げることは不可能となる。
ところで、例えば、ベアリングリテーナのボールやロール保持用の角穴のように、内周面に円弧状凹面を有する角穴を形成するには、上述した従来のスロッタ加工では形成することができない。例えば、前記した回転工具fを用いた加工方法を用いる場合、ベアリングリテーナを上下に2分割することが前提となる。すなわち、図14に示すように、ワークbを上下二つに分割形成し、その下部品b2に同図(a)に示すように、エンドミル等の回転工具iを矢印の如く回転させながら移動軌跡をとることにより、円弧状凹面hとその両端部に面取りjを有する角穴gを形成した後、この下部品b2に上部品b1をボルトkで締結し、製品となるベアリングリテーナを得ているのである。
なお、円弧を形成する装置として、例えば特開平6−63813号公報などが挙げられる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように円弧状凹面を有する角穴を形成する場合、部品を2分割にすると加工は可能となるが、分割構造にした分、製品の剛性は低下し、組立工数が増える。このため、部品を分割構造にすることなく一体構造のまま、任意形状の角穴をスロッター加工によって任意形状の角穴が形成できる加工方法が待たれていた。
また、バイトによって円弧状凹面や傾斜面を有する穴や溝を形成することが、特開平6−633813号公報に開示されているが、バイトの向き(姿勢)が一定に保持されたままであると、バイトの刃先とワークの切削面との相対角度がスクイ角度として切削能力を代表する切り込み量,面精度を決定する重要な因子となることから、特に円弧などの曲面では切削位置により、バイトとの相対角度が大きく変化してしまう。つまり、バイトaによって円弧状凹面hを切削加工しようとすると、図15に示すように、円弧状凹面hの一端部の位置ではバイトaのスクイ角がθ1であったのに対し、円弧状凹面hの他端部側の位置ではスクイ角がθ2の角度に変化してしまい、しかも曲率が大きくなるに従い適正なスクイ角を維持することがいっそうできなくなり、また切削条件としての切り込み量,送り速度を抑えざるを得なくなることから、効率的な切削を行うことが困難となる問題が生じる。
また、バイトによるスロッター加工では、バイトを単に直線往復移動させるだけの単純な切削加工であり、この切削加工においては、一般的にストレート穴の加工に限定されてしまい、しかもバイトの刃先の幅により加工穴幅が一義的に決まるため、加工穴幅を精度良く加工するために加工穴幅に適合する幅を有するバイトを準備する必要があるばかりでなく、加工穴径の変更の度にそれに応じたバイトをその都度交換しなければならないという問題が生じる。
【0004】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、任意形状の角穴をバイトによって形成することができ、加えて、角穴を効率的に削成し得るベアリングリテーナーの切削加工装置を提供するのを課題とする。また、本発明は、加工幅がバイトの刃先の幅より大きい場合であっても、交換することなく一本のバイトで確実にかつ精度良く削成し得るベアリングリテーナーの切削加工装置を提供するのを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明においては、以下の手段を採用した。
【0008】
請求項1記載の発明では、筒状のワークに、外周面から内周面まで貫通しかつ前記ワークの軸線方向からみて左右両側にそれぞれ円弧状の凹面を有する正面視略真四角の角穴を、前記ワークの中心から等角度置きに複数、バイトによる切削加工によって形成するベアリングリテーナーの切削加工装置であって、前記バイトを装着する回転割り出し台と、該回転割り出し台を同一平面上で直交する方向に夫々移動させる駆動手段と、前記バイトの移動する同一平面と直交する軸周りに、前記ワークを、該ワークの軸心が回転中心となるように回転可能に搭載するNCテーブル機構と、これら回転割り出し台,駆動手段,NCテーブル機構を夫々制御する制御部とを備え、かつ該制御部は、前記バイトをその設置角度を変えることなく直交する2軸方向に移動制御すると共にその移動に同期させて前記ワークの回転角度を制御して、前記バイトの刃先と形成すべき前記角穴の円弧状凹面とがなすスクイ角を一定に保持する円弧状凹面削成手段を有することを特徴としている。
本発明では、上述の如く、バイトの刃先と形成すべき角穴の円弧状凹面とのなすスクイ角を一定に保持した状態でバイトが移動制御されると共に、その移動に同期してワークの回転角度が制御されることにより、円弧状凹面を削成できるようにしたので、従来技術に比較し、効率的な切削加工で確実に円弧状凹面を削成することができる。
【0009】
請求項2記載の発明では、前記制御部は、円弧状凹面削成手段の他に、設定されたシフト量で前記バイトを前記ワークの軸心方向にシフトさせるシフト量決定手段を有することを特徴としている。
本発明では、上述の如く、従来技術のように円弧状凹面の幅に合わせていちいちバイトを製作することが不要になるばかりでなく、それだけコスト及び労力を低減させることができる。しかもこの場合、バイトによって切り込み量をゼロとして繰り返し切削加工することにより、円弧状凹面の仕上げ面がいっそう良好となる。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、図1〜図10に基づいて説明する。
図1〜図3は本発明に係るベアリングリテーナーの切削加工装置の一実施形態を示している。そして、このベアリングリテーナーの切削加工装置を述べる前に、本例で取り扱うワーク1について述べると、このワーク1はベアリングのリテーナーを構成するものであって、図9に示すように、筒状に形成されており、その周側部には、両側面(ワークの軸線方向からみて両側面)がワーク1の径方向に沿う円弧状凹面2aを有する正面視(ワークの径方向から見た正面視)略真四角の角穴2が等角度置きに複数形成されている。具体的に述べると、角穴2は、図10に断面図にて示すように、一方の側面にワーク1の外側に位置する外側面取り2bと、それにワーク1の内径側に向かって連続してなる前記円弧状凹面2aと、その円弧状凹面2aの内側端部にさらに連続する内側面取り部2cとを有する形状であり、これが対向する面にも対称的に配置されることにより形成される。
本発明のベアリングリテーナーの切削加工装置の一実施形態は、図1〜図3に示すように、ベッド11上にX−Y軸テーブル12が取付けられると共に、そのX−Y軸テーブル12の上に回転割り出し台13が回転可能に取付けられ、その回転割り出し台13の上にバイトホルダー14を介し切削工具であるバイト15が装着されている。バイト15は本例では、角穴2の左側面を切削加工するためのものと、右側面を切削加工するため左側面用のものと対称な位置形態で配置されたものと、面取り用のものと、予備のものとの四本が図示され、図1に示すように、回転割り出し台13上に90度の間隔をもって配置され、しかも該X−Y軸テーブル12で半径方向に移動可能に構成されている。X−Y軸テーブル12はY軸駆動系16によりベッド11上でY方向に沿い移動し、またX軸駆動系17によりX方向に移動し、これによって回転割り出し台13を介しバイト15が同一平面上でX方向及びY方向に移動するようになっている。なお、バイト15の移動方向の前部にはバイト刃先の移動量を検出する刃先検出器15aが設置されている。
また、ベッド11の前部にはZ軸サドル18が取付けられると共に、そのZ軸サドル18の上にZ軸駆動系19が設けられている。このZ軸駆動系19については後述する。
一方、バイト15がY方向に移動する前方位置にはNCテーブル機構が設けられ、該NCテーブル機構は、ワーク1を搭載するNCテーブル24と、これをその軸周りにB方向に回転駆動するためのNC駆動系23とからなっている(図3参照)。
さらに、ベッド11の側部にはNCプログラムに必要なデータなどを入力するための操作盤22を有する制御盤21が設置され、操作盤22により必要なデータ入力を行うことにより、X軸駆動系17,Y軸駆動系16,Z軸駆動系19,NC駆動系23,バイト15をそれぞれ制御動作するよう構成されている。
X軸駆動系17は、図1及び図2には詳細に図示していないが、図3に示すように、位置制御・駆動部17aと、これによって駆動されるX軸用サーボモータ17bと、該モータ17bの回転角を検出し、位置制御・駆動部17aにフィードバックするロータリエンコーダ17cとを具えて構成されている。なお図3において、Y軸駆動系16,Z軸駆動系19,NCテーブル24の駆動系23についてもX軸駆動系17に準じた構成であるので、ここではその説明を省略する。また、NCテーブルの駆動系23は回転方向の駆動系としてB軸23bと表している。
【0011】
そして、制御盤21は、バイト15によるワーク1の角穴の削成時、バイト15の切れ刃と、角穴2において形成すべき両側の円弧状凹面2aとでなすスクイ角を一定にした状態で、バイト15の移動量及びワーク1の回転角を制御することにより、円弧状凹面2aを削成し得るようにしている。
即ち、制御盤21は、バイト15による加工時、NCテーブル24にセットされたワーク1に対し、図4に位置(a)にて示す如く、形成しようとする円弧状凹面2aの外側端部とバイト15の刃先とのなすスクイ角がθとなるようにバイト15の角度を合わせ、その角度を一定に保った状態のままで同図に位置(b)及び(c)に示す如く、バイト15をさらに前進移動させるようにしている。そのとき、バイト15の前進移動に同期させてワーク1を、NCテーブル24の中心Oを中心として次第に回転させることにより、ワーク1の周側部に径方向に沿って、かつワークの外周側から内周側に至る円弧状凹面2aを切削加工できるようにしている。この場合、角穴2の一側面の円弧状凹面2aが形成されると、その円弧状凹面2aと対向する面側の円弧状凹面2aも、対称位置に配置されたバイト15により同様にして削成することにより角穴2が形成され、従って、バイト15はワーク1の角穴2の両側に対し、図5に示す矢印にて示すような軌跡で移動するようになっている(なお、この図では、バイト15とワーク1との相対的な角度変位は省略してある)。本例では、ワーク1の角穴2において円弧状凹面2aの外側端部及び内側端部にそれぞれ連続して外側面取り2b,内側2cが設けられる必要があるので、それら外側面取り2b,内側面取り2cも同様にして面取り用バイト(符示せず)によって削成されるようにもしている。
【0012】
そのため、制御盤21は、ワーク1の加工時、面取り用バイトとワーク1の形成すべき角穴2の外側面取り2b,内側面取り2cとがなすすくい角を一定とした状態で、面取り用バイトを移動制御すると共に、その移動量に同期させてワーク1の回転角度を制御する傾斜面削成部21aと、バイト15と形成すべき角穴2の円弧状凹面2とがなすスクイ角θを一定とした状態で、バイト15を移動制御すると共に、その移動量に同期させてワーク1の回転角度を制御する円弧削成部21bとを有し、それら傾斜面削成部21a及び円弧部21bからの指令に従いX軸駆動系17,Y軸駆動系16,NCテーブル24の駆動系23を夫々制御することにより、角穴の両側に外側面取り2b,円弧状凹面2a,内側面取り2cを夫々切削加工し、形成できるようにしている。
従って、この角穴削成装置は、円弧状凹面用及び面取り用のバイトをバイトホルダー14を介して夫々装着した回転割り出し台13と、この回転割り出し台13によりバイトをY方向に移動させるY軸駆動系16と、回転割り出し台13によりバイトをX軸方向に移動させるX軸駆動系17と、ワーク1を搭載したNCテーブル24と、そのNCテーブル24によりワーク1を回転させる駆動系22と、これら回転割り出し台13,Y軸駆動系16,X軸駆動系17,NCテーブル24の駆動系20を夫々制御する制御盤21とを備えて構成されている。なお、図3において、符号21cはシフト量決定部であり、これについてはZ軸駆動系19同様後述する。
【0013】
次に、上記の如き構成されたベアリングリテーナーの切削加工装置の動作に関連して、同装置を用いたベアリングリテーナーの切削加工方法の一形態について説明する。
ベアリングリテーナーの切削加工装置には、NCテーブル24上にワーク1がセットされ、またバイトホルダー14には加工に必要なバイト15が夫々装着され、さらにワーク1の加工すべき部位に対しその部位を加工するためのバイト15が位置決めされているものとする。
そして、ベアリングリテーナーの切削加工装置がワーク1において側面に面取り2b及び2c,円弧状凹面2aを有する角穴2を切削加工するためにオンされ、Y軸駆動系16,X軸駆動系17が夫々駆動されると共に、NCテーブル24のNC駆動系23も駆動されると、まず最初、面取りバイト(符示せず)がスロッター加工動作すると共に、それに伴いワーク1も回転動作して面取り2bが削成される。その際、面取りバイトの刃先とワーク1の形成すべき角穴2の外側面取り2bとのなすスクイ角を一定とした状態で面取り用バイト15が移動制御されると共に、その移動量に同期してNCテーブル24の回転角度が制御されることにより、外側面取り2bが削成される。
次いで、外側面取り2bが形成された後、バイトホルダー14上で面取り用のバイトに代わり円弧状凹面2aを形成するためのバイト15が所定位置に位置決めされることにより、円弧状凹面2aの削成が始まる。この場合、バイト15の刃先と形成すべき角穴2の円弧状凹面2aとのなすスクイ角閘を一定とした状態でバイト15が移動制御されると共に、その移動量に同期してNCテーブル24の回転角度が制御されることにより、角穴2の円弧状凹面2aがワーク1の外周側から次第に内周側に画成され、かくして内周側に円弧状凹面2aが連続して画成されることにより円弧状凹面2が削成される。
そして、円弧状凹面2aの削成後、再びバイトホルダー14上の面取り用バイトが位置決めされ、かつ上記と同様にしてそれぞれの駆動系が駆動されることにより円弧状凹面2aの内周側に内側面取り2cが削成されることにより、角穴2の一方の側面の加工が終了する。その後、上述と同様にして駆動されることにより両側面に外側面取り2b,円弧状凹面2a,内側面取り2cを有する角穴2の削成が終了する。
【0014】
このように本発明に係るベアリングリテーナーの切削加工装置を用いた切削加工方法においては、バイト15の刃先と形成すべき角穴2の円弧状凹面2aとのなすスクイ角閘を一定とした状態でバイト15が移動制御されると共に、その移動量に同期してNCテーブル24の回転角度が制御されることにより、円弧状凹面2aを削成できるようにしたので、従来技術に比較し、効率的な切削で確実に円弧状凹面2aを削成することができる。しかも円弧状凹面2aのみならず、外側面取り2b,内側面取り2cのような傾斜面をも同様にして効率的にかつ的確に削成することができる。
【0015】
この実施の形態のベアリングリテーナーの切削加工装置は、バイト15をバイトホルダー14を介して装着した回転割り出し台13と、この回転割り出し台13をX−Y軸テーブル12を介しY方向に移動させるY軸駆動系16と、回転割り出し台13をX軸方向に移動させるX軸駆動系17と、ワークを搭載して回転させるNCテーブル機構と、これら回転割り出し台13,Y軸駆動系16,X軸駆動系17,NCテーブル機構を夫々制御する制御盤21とを備えている。そして、該制御盤21が、ワーク1の加工時、面取り用バイトとワーク1の形成すべき角穴2の外側面取り2b,内側面取り2cとがなすすくい角を一定とした状態で、面取り用バイトを移動制御すると共に、その移動量に同期させてワーク1の回転角度を制御する傾斜面削成部21aと、バイト15と形成すべき角穴2の円弧状凹面2とがなすスクイ角θを一定とした状態で、バイト15を移動制御すると共に、その移動量に同期させてワーク1の回転角度を制御する円弧削成部21bとを有し、それら傾斜面削成部21a及び円弧部21bからの指令に従いX軸駆動系17,Y軸駆動系16,NCテーブル機構を夫々制御することにより、角穴の2両側面に外側面取り2b,円弧状凹面2a,内側面取り2cを夫々削成できるように構成したので、上記方法を的確に実施し得る。
また、この実施の形態のベアリングリテーナーの切削加工装置は、ワーク1の角穴2の両側面が外側から内側にかけ、外側面取り2b,円弧状凹面2a,内側面取り2cが連続的に設けられる形状であるので、回転割り出し台13に面取り用バイト,円弧状凹面用のバイト15を予め装着しておき、それらのバイトを必要に応じ回転割台13上に位置決めすれば、面取り用バイトによる外側面取り2bの削成,バイト15による円弧状凹面2aの削成,再び面取り用バイトによる内側面取り2cの削成を連続的に実行することが可能となり、これにより、装置としていっそう効率的な加工を行うことができる。
【0016】
これに加え、ワーク1として軸受のリテーナに適用すると以下に述べる利点をも奏することができる。
即ち、リテーナに円弧状凹面を有する角穴を形成する場合、そのリテーナを分割しないままで角穴を切削加工しようとすると、切削工具として特殊なエンドミルを製作しなければならず、しかも、その円弧状凹面の径が異なる度にその都度製作しなければならず、さらにはエンドミルの前加工時に、エンドミルの逃げ部を付けておく等の必要があり、コストがかかるばかりでなく、加工時間もかかっていた。
またリテーナを上下に分割して角穴を形成する場合、分割すること、それに前述したエンドミルを用意して加工すること、及び加工終了後の部品を組み付けることを要するので、上記と同様コスト及び加工時間がかかり、なりよりも、分割によってリテーナ全体としての剛性が低下していた。
その点、上述の如く本発明を適用すれば、分割したり組み付ける必要がなく、また円弧状凹面2aの径に応じてその都度バイトを製作すると云うことが不要になるので、コスト及び加工時間を大幅に低減することができ、さらにはリテーナにそのまま円弧状凹面2aをスクイ角θを一定に保持しながら切削加工し形成することができるので、リテーナ全体としての剛性が低下するのを防止することができ、要求された精度のものを確実に得ることができる。
【0017】
図6及び図7は本発明のベアリングリテーナーの切削加工装置の他の実施形態を示している。
前述した実施の形態では、バイト15の幅(高さ)が角穴2の円弧状凹面2aの幅(ワーク軸方向の長さ)に対応させているので、バイト15が同じ形態のままで切削加工することによって円弧状凹面2aが形成された例を示したが、この実施の形態においては、形成すべき円弧状凹面2aの幅が、バイト15の幅より大きい寸法を有する場合に適用したものである。
即ち、図6において、角穴2の軸方向の長さLに対しバイト15の切削幅L1が小さい場合には、まず、角穴2の軸方向の一端(図では上面)にバイト15刃先の上端を合わせ、その状態でバイト刃先と円弧状凹面2aとのスクイ角閘を一定としたままでかつ所望量の切り込み量で一回目の切削加工を行い(符号15Aにて示す部分)、次いで、所望のシフト量をもってバイト15を降下させ、バイト15の下端を角穴2の軸方向の他端(下面)に合わせるように位置決めし、その状態で二回目の切削加工を行い(符号15Bにて示す部分)。
その後、同様にして反対側にシフトさせることによりバイト15の上端を角穴2の軸方向の一端に合わせて位置決めし、その状態で三回目の切削加工を行い(符号15Cにて示す部分)、同様にして最終的な切り込み量に至る四回目の切削加工を行う(符号15Dにて示す部分)。その場合、円弧状凹面2aには最終取り代1Aが残るが、その最終取り代1Aは、円弧状凹面の仕上げ面Fを切り込み量をゼロとしてバイト15a単に側方にシフトさせて切削除去することにより、円弧状凹面2aの軸方向の軸長さLに対し、バイトの幅L1が短い場合であっても容易に対処することができる。そのため、円弧状凹面2aの軸方向の長さLとバイトの幅L1との関係からバイト15のシフト量を予め決定しておく必要がある。
【0018】
従って、この場合のベアリングリテーナーの切削加工装置においては、図1〜図3を参照すれば、X,Y軸の駆動系17,16を駆動するばかりでなく、X−Y軸テーブル12を介し割り出し台13をZ方向に移動させるZ軸駆動系19をも利用して駆動し、また制御盤21がそれぞれ切削加工が終了した時点で、設定されたシフト量だけバイト15をワーク1の軸方向にシフトさせるシフト量決定部21cをも利用するようにしている。なお、Z軸駆動系19はX軸駆動系17等と同様、位置制御・駆動部19aとZ軸用のサーボモータ19bとロータリエンコーダ19cとを具えて構成されている。
また、最終取り代1Aが残ったとき、円弧状凹面2aの仕上げ面Fを切り込みゼロとしてバイト15aに再加工させるときに切削して除去するが、その際、バイト15に仕上げ面Fを切り込みゼロとして繰り返し加工動作させると、仕上げ面がいっそう良好となる。これは、例えば図7(a)に示す如く、円弧状凹面2の面上において最初の仕上げ状態が図7(a)に示す如き状態であったものが、切り込みゼロの切削加工が繰り返されると、同図(b)に示すように、それまで存在していた凹凸部の先端1Bが除去され、同図(b)に示す如く目標祖成面1Cを簡単に得ることができる。
なお、本例では上述の如く、バイト15を所望のシフト量でシフトさせる例を示したが、バイト15の代わりとして、NCテーブル24を軸方向Zに移動させ、ワーク1を軸方向にシフトさせるようにしてもよい。また、前回の切削加工が終了した時点でシフトさせてから切削加工をするようにしたが、一旦、仕上げ面Fまで切削加工させた後、シフトさせて切削加工することにより円弧状凹面2aの要求される幅を最終的に形成してもよいのは勿論であり、要は、円弧状凹面2aの軸方向の一端(上端)にバイトの上端を合わせた状態で切削加工することと、円弧状凹面2aの軸方向の他端(下端)にバイト15の下端を合わせた状態で切削加工することを組み合わせることにより、所定切り込み量でかつバイト刃先の幅L1より大きい幅Lを有する円弧状凹面2aを削成できればよい。
【0019】
このように本発明のベアリングリテーナーの切削加工装置においては、形成すべき角穴の円弧状凹面2aの幅Lよりバイト15の刃先の幅L1が小さいとき、該バイト15の刃先の一端を円弧状凹面2aの一端に合わせたままで切削加工することと、バイト15の刃先の他端を円弧状凹面2aの他端に合わせたままで切削加工することを組み合わせることにより、バイト刃先の幅L1より大きい幅Lの円弧状凹面2aを削成できるようにしたので、従来技術のように円弧状凹面2aの幅に合わせていちいちバイトを製作することが不要になるばかりでなく、それだけコスト及び労力を低減させることができる。
しかも、バイト15によって切り込み量をゼロとして繰り返し切削加工することにより、円弧状凹面2aの仕上げ面がいっそう良好となる。そして、実施の形態の角穴切削加工装置は、回転割り出し台13とY軸駆動系16とX軸駆動系17とNCテーブル機構と制御盤21との他、バイトをNCテーブル24の軸方向に沿ったZ方向に駆動させるZ軸駆動系19をも備えて構成され、また制御盤21が、設定されたシフト量でバイトをワークの軸方向にシフトさせるシフト量決定手段21cをも有しているので、上記方法を的確に実施し得る。
また、本発明の加工はバイトの突き加工と引き加工の両方が可能である。突き加工の場合には、例えばワークがベアリングリテーナーであって、切削加工を該リテーナーの径方向内方向けて突き加工を行う場合、該リテーナーの側面の内側にバリが発生し、他方、リテーナの径方向外方に向けて引き加工を行う場合にはリテーナーの側面の外側にバリが発生する。
したがって、リテーナーの側面の内側に生じるバリが問題になるときには、引き加工を採用することにより、後のバリ取り加工が不要または容易に行える利点がある。ちなみに、突き加工によってワークの側面の外側にバリが生じた場合には、バリを採るための工具等をワークの内側に挿入し、該工具に3次元の動きをさせなければならない。従って、この場合には、ワークのサイズも制限されてしまう。
【0020】
また、刃先の狭いバイト15aを用い、上記切削加工方法を利用することにより図8に示す如く半月キー溝32を容易に形成することもできる(なお、この例は本発明には含まれない)。即ち、この場合のキー溝32は、NCテーブル24に嵌合されたテーパ状をなす歯車30の穴31に形成されるものである。そして、刃先の狭いバイト15aの切り込み量及びシフト量を適宜設定しておき、加工時、その切り込み量で半月キー溝32に対し一端側からバイト15aによって切削加工し、その後、半月キー溝32の他端にバイト刃先の他端を合わせて切削加工することにより、刃先の狭いバイト15aで半月キー溝32を容易に削成することができる。なお図示実施の形態では、角穴切削加工装置として図1,図2に示す如き横型タイプのものを用いた例を示したが、これに限らず、縦型のものを用いても同様の作用効果を得ることができるのは勿論である。
【0021】
【発明の効果】
以上述べたように、請求項1にかかる発明によれば、バイトを装着した回転割り出し台と、該回転割り出し台を同一平面上で直交する方向に夫々移動させる駆動手段と、ワークをバイトの移動方向と直交する軸周りに回転可能に搭載するNCテーブル機構と、これら回転割り出し台,駆動手段,NCテーブル機構を夫々制御する制御部とを備え、かつ該制御部が、バイトと形成すべき角穴の円弧状凹面とがなすスクイ角を一定とした状態で、バイトを移動制御すると共にその移動量に同期させてワークの回転角度を制御する円弧削成手段を有するので、従来技術に比較し、効率的な切削加工で確実に円弧状凹面を削成することができる。
【0022】
請求項2にかかる発明によれば、制御部が、円弧削成手段の他に、設定されたシフト量でバイトをワークの軸方向にシフトさせるシフト量決定手段を有しているので、円弧状凹面の幅に合わせていちいちバイトを製作することが不要になるばかりでなく、それだけコスト及び労力を低減させることができるという効果があり、しかも円弧状凹面の仕上げ面をいっそう良好となるようにさせることもできるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のベアリングリテーナーの切削加工装置の一実施の形態を示す平面図である。
【図2】 図1のA−A矢視に相当する側面図である。
【図3】 制御盤と駆動系との関係を示す説明図である。
【図4】 本発明のベアリングリテーナーの切削加工装置による切削方法の原理を示す説明図である。
【図5】 円弧状凹面及び面取りを切削加工するときの説明図である。
【図6】 本発明のベアリングリテーナーの切削加工装置の他の実施形態を示す説明図である。
【図7】 仕上げ面を切り込み量ゼロで繰り返し加工したとき場合の説明図である。
【図8】 本発明のベアリングリテーナーの切削加工装置による切削加工方法を半月キー溝加工に適用した状態を示す説明図である。
【図9】 本発明のベアリングリテーナーの切削加工装置による切削加工方法を適用するワークとしての、軸受のリテーナを示す説明用斜視図である。
【図10】 同じく軸受リテーナの要部を示す断面図である。
【図11】 バイトによるスロッター加工を施す説明図である。
【図12】 斜面の部分にスロッター加工を施す状態を示す説明図である。
【図13】 回転工具を用いて角穴を形成する場合の説明図である。
【図14】 二つに分解した一方の部品に角穴を設ける場合の説明図である。
【図15】 円弧状凹面をバイトで単に加工しようとするときに発生する不具合を示すための説明図である。
【符号の説明】
1,30 ワーク2 角穴2a 円弧状凹部12 X−Y軸テーブル13 回転割り出し台15,15a バイト16 Y軸駆動系17 X軸駆動系19 Z軸駆動系21 制御盤21b 円弧削成部21c シフト量決定部23 NCテーブル機構のNC駆動系。
Claims (2)
- 筒状のワークに、外周面から内周面まで貫通しかつ前記ワークの軸線方向からみて左右両側にそれぞれ円弧状の凹面を有する正面視略真四角の角穴を、前記ワークの中心から等角度置きに複数、バイトによる切削加工によって形成するベアリングリテーナーの切削加工装置であって、
前記バイトを装着する回転割り出し台と、該回転割り出し台を同一平面上で直交する方向に夫々移動させる駆動手段と、前記バイトの移動する同一平面と直交する軸周りに、前記ワークを、該ワークの軸心が回転中心となるように回転可能に搭載するNCテーブル機構と、これら回転割り出し台,駆動手段,NCテーブル機構を夫々制御する制御部とを備え、かつ
該制御部は、前記バイトをその設置角度を変えることなく直交する2軸方向に移動制御すると共に、その移動に同期させて前記ワークの回転角度を制御して、前記バイトと形成すべき前記角穴の円弧状凹面とがなすスクイ角を一定に保持する円弧状凹面削成手段を有することを特徴とするベアリングリテーナーの切削加工装置。 - 前記制御部は、円弧状凹面削成手段の他に、設定されたシフト量で前記バイトを前記ワークの軸線方向にシフトさせるシフト量決定手段を有することを特徴とする請求項1記載のベアリングリテーナーの切削加工装置。
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