JP4035353B2 - 導電性ポリアニリン溶液の製法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、導電性ポリアニリン溶液の製法に関するものであり、詳しくは、電気、電子、材料等の諸分野において、高分子表面の金属めっきや導電性化および各種絶縁材料の導電性化に特に有用な、導電性ポリアニリン溶液の製法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリアニリン、ポリフェニレン、ポリチオフェン、ポリピロール等の芳香族系の導電性高分子は、空気中における安定性に優れ、また合成も容易であることから、その活用が注目されている。これら導電性高分子の中でも、ポリアニリンは、空気中における安定性に特に優れ、また安価な材料であるため、二次電池の正極材料として実用化されている。
【0003】
しかし、従来、上記ポリアニリン等の芳香族系導電性高分子は、どの溶媒にも不溶、不融であって、成形性に劣るため、その応用分野は限られていた。このため、溶解性の良好な導電性高分子の実現が求められていた。最近になって、ドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)もしくはカンファー(しょうのう)スルホン酸を、ドーパントとして取り込んだポリアニリンにおいて、それぞれのスルホン酸と錯体を形成したポリアニリンが、クロロホルムのような有機溶剤に可溶であることが報告された。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のようなドデシルベンゼンスルホン酸もしくはカンファー(しょうのう)スルホン酸を、ドーパントとして取り込んだポリアニリンは、クロロホルムのような有機溶剤には可溶であるが、水に可溶でないため、水溶液として用いることができないという難点があった。
【0005】
そこで、本発明者は、界面活性剤を持ったアニリンを重合してなるポリアニリンが、水や有機溶剤に可溶であることを突き止め、このポリアニリンについて特許出願を行った(特開平6−279584号)が、その後、さらに研究開発を続けた結果、上記ポリアニリンは、メチルエチルケトン(MEK)のようなケトン系溶剤や、トルエンのような芳香族系溶剤への分散(溶解)性がやや劣り、均一溶液になりにくいということを突き止めた。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、水に可溶で、しかもメチルエチルケトン(MEK),トルエン等の汎用の有機溶剤にも可溶で、導電性にも優れた、導電性ポリアニリン溶液の製法の提供をその目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、本発明は、水溶液中で、ポリアニリンのモノマーと、分子構造中にアルキレンエーテルの繰り返し構造を有するスルホン酸金属塩,スルホン酸アンモニウム塩またはリン酸エステルからなる界面活性剤とを反応させて、両親媒性構造のアニリン−界面活性剤塩をつくり、これをモノマーとして酸化重合させ導電性ポリアニリンの水溶液をつくり、この水溶液に、ケトン系溶剤または芳香族系溶剤を加えて上澄みを分離させ、上澄み中で導電性ポリアニリンと上記溶剤を相溶させ、導電性塗膜形成用の導電性ポリアニリン溶液を得る導電性ポリアニリン溶液の製法を要旨とする。
【0008】
すなわち、本発明者らは、水に可溶で、しかもメチルエチルケトン(MEK),トルエン等の汎用の有機溶剤にも可溶で、導電性にも優れた、導電性ポリアニリン溶液を得るべく、鋭意研究を重ねた。その結果、分子構造中にアルキレンエーテルの繰り返し構造を有する特定の界面活性剤を、アニリンやアニリン誘導体のようなポリアニリンのモノマーと反応させて、アニリン−界面活性剤塩をつくり、これをモノマーとして酸化重合させて得られた導電性ポリアニリンが、水に可溶で、しかもメチルエチルケトン(MEK)のようなケトン系溶剤やトルエンのような芳香族系溶剤等の汎用の有機溶剤にも可溶であり、導電性にも優れていることを見いだし、本発明に到達した。
【0009】
【発明の実施の形態】
つぎに、本発明の実施の形態について説明する。
【0010】
本発明に係る導電性ポリアニリン溶液は、界面活性剤を取り込んだ導電性ポリアニリンの、ケトン系溶剤または芳香族系溶剤の溶液である。そして、本発明では、その界面活性剤として、分子構造中に、アルキレンエーテルの繰り返し構造を有するものを使用するものである。
【0011】
上記界面活性剤を取り込んだ導電性ポリアニリンは、例えば、水相において、上記特定の界面活性剤と、アニリンまたはアニリン誘導体のようなポリアニリンのモノマーとを反応させて両親媒性構造のアニリンモノマー(塩)を得た後、化学酸化剤によって酸化重合することにより作製することができる。本発明では、このようにして、得られた導電性ポリアニリンの水溶液にケトン系溶剤または芳香族系溶剤を加えて上澄みを分散させ、上澄み中で導電性ポリアニリンと上記溶剤を相溶させ、導電性塗膜形成用の導電性ポリアニリン溶液を製造する。
【0012】
上記特定の界面活性剤としては、分子構造中に、アルキレンエーテルの繰り返し構造を有するものを用いる必要がある。上記アルキレンエーテルの繰り返し構造としては、特に限定はないが、例えば、下記の一般式(1)で表されるアルキレンエーテルの繰り返し構造があげられる。
【0013】
【化4】
【0014】
上記一般式(1)において、繰り返し数mは2〜30の範囲内が好ましく、特に好ましくはm=6〜10の範囲内である。すなわち、繰り返し数mが2未満であると、アルキレン鎖の親油性が小さすぎるため、メチルエチルケトンやトルエン等の汎用の有機溶剤に対する溶解性の向上効果が小さく、逆に繰り返し数mが30を超えると、アルキレン鎖が長鎖になりドーピングの効力が下がり、導電性が劣る傾向がみられるからである。
【0015】
また、上記一般式(1)において、nは1〜5の範囲内が好ましく、特に好ましくはn=2〜3の範囲内である。
【0016】
上記特定の界面活性剤は、分子構造中に、アルキレンエーテルの繰り返し構造を有するものであって、スルホン酸金属塩もしくはスルホン酸アンモニウム塩またはリン酸エステルからなるものである。このような金属塩,アンモニウム塩,リン酸エステル型の界面活性剤は、ポリアニリンのドーパントとしての役割を果たすことから、ポリアニリンの導電性がさらに良好となるとともに、メチルエチルケトン(MEK)のようなケトン系の有機溶剤、もしくはトルエンのような芳香族系の有機溶剤に対する溶解性がより向上する。
【0017】
本発明において、上記スルホン酸金属塩,スルホン酸アンモニウム塩とは、−SO3X(X:Na、NH4等)で表される基を有するものを意味する。
【0018】
上記のような、分子構造中に、アルキレンエーテルの繰り返し構造を有するスルホン酸金属塩もしくはスルホン酸アンモニウム塩またはリン酸エステルからなる界面活性剤としては、具体的には、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルスルホン酸アンモニウム等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0019】
上記特定の界面活性剤としては、具体的には、下記の式(2)または(3)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル、下記の式(4)で表されるポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルサルフェートアンモニウム塩等があげられる。
【0020】
【化5】
【0021】
【化6】
【0022】
【化7】
【0023】
前記ポリアニリンの重合に用いる化学酸化剤としては、特に限定はなく、例えば、過硫酸アンモニウム、過酸化水素水、塩化第二鉄等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、過硫酸アンモニウムが好適に用いられる。
【0024】
有機溶剤としては、メチルエチルケトン(MEK)のようなケトン系溶剤や、トルエンのような芳香族系溶剤等の汎用の有機溶剤が用いられる。
【0025】
前記のようにして得られる、界面活性剤を取り込んだ導電性ポリアニリンの数平均分子量(Mn)は、500〜100,000の範囲内が好ましく、特に好ましくは1,000〜20,000の範囲内である。
【0026】
このようにして得られる本発明に係る導電性ポリアニリン溶液は、例えば、ラングミュアーブロジェット(LB)膜形成手法やスピンコーティング法によって、ポリアニリン薄膜とすることも可能である。また、ミセル、ベシクル構造を形成する両親媒性物質(界面活性剤)とともに、ミセル、共ベシクルを形成して、ポリアニリン複合体を形成することも可能である。
【0027】
本発明に係る導電性ポリアニリン溶液は、電気、電子、材料等の諸分野において、高分子表面の金属めっきや導電性化および各種絶縁材料の導電性化に特に有用であり、例えば、電子写真感光体もしくは静電記録誘電体等の像担持体上に形成された潜像を現像して顕像化するための現像装置に用いられる現像剤担持体に用いることができる。また、静電気防止用のコーティング剤、繊維の処理剤、自動車用燃料ホースの帯電防止材料に用いることもできる。
【0028】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。
【0029】
【実施例1】
アニリン塩酸塩0.2モルの水溶液100mlに、界面活性剤である前記式(4)で表されるポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルサルフェートアンモニウム塩(第一工業製薬社製、ハイテノールNO8)0.2モルを加えて加熱し、その溶液をさらに2〜8℃に保って攪拌しながら、過硫酸化アンモニウム0.2モルを加えて8時間反応を行った。当初、不均一系であったものが反応が進行するにつれて、均一系となり、ポリアニリン特有の緑色の溶液が得られた。この得られたポリアニリンは、メタノールを加えるとポリアニリンの沈殿が得られる。このポリアニリン溶液の電気抵抗を、JIS K 7194に準じて測定した結果、電気抵抗は35Ω・cmであった。
【0030】
そして、上記ポリアニリン溶液に、メチルエチルケトン(MEK)を加えて上澄みを分離させたところ、ポリアニリンとMEKとが相溶し、均一溶液となった。また、上記ポリアニリン溶液に、トルエンを加えて上澄みを分離させたところ、ポリアニリンとトルエンとが相溶し、均一溶液となった。
【0031】
さらに、上記上澄みをガラス板上に塗布し、乾燥させて、厚み20μmの塗膜を作製した。そして、25℃×50%RHの環境下において、10Vの電圧を印加した時の膜の電気抵抗を、JIS K 7194に準じて測定した結果、電気抵抗は49Ω・cmであった。
【0032】
【実施例2】
アニリン塩酸塩0.2モルの水溶液100mlに、界面活性剤である前記式(2)で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル(第一工業製薬社製、プライサーフ215C)0.2モルを加えて加熱し、その溶液をさらに2〜8℃に保って攪拌しながら過硫酸化アンモニウム0.2モルを加えて20時間反応を行った。当初、不均一系であったものが反応が進行するにつれて、均一系となり、ポリアニリン特有の緑色の溶液が得られた。この得られたポリアニリンは、メタノールを加えるとポリアニリンの沈殿が得られる。このポリアニリン溶液の電気抵抗を、JIS K 7194に準じて測定した結果、電気抵抗は5200Ω・cmであった。
【0033】
そして、上記ポリアニリン溶液に、メチルエチルケトン(MEK)を加えて上澄みを分離させたところ、ポリアニリンとMEKとが相溶し、均一溶液となった。また、上記ポリアニリン溶液に、トルエンを加えて上澄みを分離させたところ、ポリアニリンとトルエンとが相溶し、均一溶液となった。
【0034】
さらに、上記上澄みをガラス板上に塗布し、乾燥させて、厚み20μmの塗膜を作製した。そして、25℃×50%RHの環境下において、10Vの電圧を印加した時の膜の電気抵抗を、JIS K 7194に準じて測定した結果、電気抵抗は61Ω・cmであった。
【0035】
【比較例1】
アニリン塩酸塩0.2モルの水溶液100mlに、界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)0.2モルを加えて加熱し、その溶液をさらに0℃以下に保って攪拌しながら、過硫酸化アンモニウム0.25モルを加えて4時間反応を行った。当初、不均一系であったものが反応が進行するにつれて、均一系となり、ポリアニリン特有の緑色の溶液が得られた。この得られたポリアニリンは、メタノールを加えるとポリアニリンの沈殿が得られる。このポリアニリン溶液の電気抵抗を、JIS K 7194に準じて測定した結果、電気抵抗は115Ω・cmであった。
【0036】
そして、上記ポリアニリン溶液に、メチルエチルケトン(MEK)を加えて上澄みを分離させたところ、ポリアニリンとMEKとの相溶性が悪く、均一な溶液とならなかった。また、上記ポリアニリン溶液に、トルエンを加えて上澄みを分離させたところ、ポリアニリンとトルエンとの相溶性が悪く、均一な溶液とならなかった。
【0037】
さらに、上記上澄みをガラス板上に塗布し、乾燥させて、厚み20μmの塗膜を作製した。そして、25℃×50%RHの環境下において、10Vの電圧を印加した時の膜の電気抵抗を、JIS K 7194に準じて測定した結果、電気抵抗は7800Ω・cmであった。
【0038】
【比較例2】
特開2001−288264号公報に準じて、ポリアニリン溶液を作製した。すなわち、フラスコ内に、濃塩酸10g、ドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)5gおよび水40gを入れて、水溶液を調製した。また、ビーカー内に入れたペルオキシ硫酸アンモニウム(APS)5gを、水50gに溶解して、酸化剤水溶液を調製した。ついで、トルエン40gとアニリン2gから調製したアニリン溶液を、上記フラスコに加え、フラスコ内の混合物を激しく攪拌して、エマルジョンを形成した。そして、攪拌を停止してエマルジョンを静置し、水相と非水相または油相に分離した後、非水相を水相から分離した。つぎに、この分離した非水相に、攪拌下、上記酸化剤水溶液を滴下し、反応混合物を攪拌してさらにエマルジョンを形成した。室温で1〜2時間反応させた。エマルジョンのpHを1以下に制御した。重合後、攪拌を停止し静置すると、エマルジョンは下相と上相に分離した。可溶性ポリアニリンを含有する上相は透明性を示し、肉眼で、上相に固形沈殿は観察されなかった。このポリアニリン溶液の上相の電気抵抗を、JIS K 7194に準じて測定した結果、電気抵抗は87Ω・cmであった。
【0039】
〔まとめ〕
上記の結果から、全実施例品は、メチルエチルケトン(MEK)やトルエンとの相溶性が優れるとともに、水にも可溶であり、しかも導電性に優れていることがわかる。
【0040】
これに対して、比較例1品は、メチルエチルケトン(MEK)やトルエンとの相溶性がやや劣っていた。比較例2品は、トルエンに対する溶解性は優れるが、MEKに対する可溶性が悪いため、MEK溶液として使用することができない。
【0041】
【発明の効果】
以上のように、本発明は、水溶液中で、ポリアニリンのモノマーと、分子構造中にアルキレンエーテルの繰り返し構造を有するスルホン酸金属塩,スルホン酸アンモニウム塩またはリン酸エステルからなる界面活性剤とを反応させて、両親媒性構造のアニリン−界面活性剤塩をつくり、これをモノマーとすることによって、水にも有機溶媒にも可溶で、かつ導電性の大きな導電性ポリアニリンの水溶液をつくることができる。本発明は、この導電性ポリアニリンの水溶液に、ケトン系溶剤または芳香族系溶剤を加えて上澄みを分離させ、上澄み中で導電性ポリアニリンと上記溶剤を相溶させ、導電性塗膜形成用の導電性ポリアニリン溶液とするため、少量の有機溶剤で溶解でき、厚塗りが可能になるとともに、ポリアニリン導電性薄膜を作製する際に有機溶剤の乾燥時間が短縮でき、生成塗膜は導電性が大きいという効果を奏する。
Claims (4)
- 水溶液中で、ポリアニリンのモノマーと、分子構造中にアルキレンエーテルの繰り返し構造を有するスルホン酸金属塩,スルホン酸アンモニウム塩またはリン酸エステルからなる界面活性剤とを反応させて、両親媒性構造のアニリン−界面活性剤塩をつくり、これをモノマーとして酸化重合させ導電性ポリアニリンの水溶液をつくり、この水溶液に、ケトン系溶剤または芳香族系溶剤を加えて上澄みを分離させ、上澄み中で導電性ポリアニリンと上記溶剤を相溶させ、導電性塗膜形成用の導電性ポリアニリン溶液を得ることを特徴とする導電性ポリアニリン溶液の製法。
- 上記界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル、またはポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルスルホン酸アンモニウムである請求項1記載の導電性ポリアニリン溶液の製法。
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