JP3986689B2 - 透湿防水積層布帛の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、雨衣、上衣、登山衣等の各種衣料用として用いられる透湿防水性能に優れた積層布帛の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
透湿性と防水性を併せ持つ透湿防水布帛は、身体からの発汗による水蒸気を衣服外へ放出する機能と、雨が衣服内に侵入するのを防ぐ機能とを有するものである。このような透湿防水布帛は、スポーツ衣料や防寒衣料等の素材として使用され、その中でも、運動に伴う発汗量の比較的多いスポーツやアウトドアのための衣料用素材として多く用いられており、特に、スキー,アスレチック,登山分野においては必要不可欠な衣料用素材となっている。
【0003】
このような透湿防水布帛としては、糸を高密度に織り込んだ高密度織物や、ポリウレタン系樹脂,ポリアミノ酸系樹脂,ポリエステル系樹脂,ポリアミド系樹脂,ポリテトラフルオロエチレン樹脂等の合成重合体よりなる樹脂膜を、繊維布帛表面にコーティング又はラミネート等の手段で貼合した積層布帛が良く知られている。この中でも、特に、微多孔質のポリウレタン系樹脂膜を繊維布帛表面に貼合した積層布帛は、透湿性及び防水性に優れており、好ましいものである。
【0004】
微多孔質のポリウレタン系樹脂膜を繊維布帛に貼合してなる積層布帛は、従来より、以下の如き方法で製造されている。即ち、ポリウレタン樹脂がN,N−ジメチルホルムアミド等の溶媒に溶解されてなる合成重合体溶液を、繊維布帛表面に塗布した後、これを搬送しながら水浴中に導入し、溶媒を水中に溶出させてポリウレタン樹脂を凝固させ、微多孔質のポリウレタン樹脂膜を生成させるという方法(いわゆるダイレクトコーティング法)で製造されている。しかし、この方法は、凝固中に、ポリウレタン樹脂膜が繊維布帛に食い込みやすく、得られた積層布帛の風合が低下するという欠点があった。また、耐水圧や透湿性も若干低くなるということもあった。このため、近年、以下の如き、いわゆる転写法が提案されている。即ち、ポリウレタン樹脂がN,N−ジメチルホルムアミド等の溶媒に溶解されてなる合成重合体溶液を、離型性基布表面に塗布した後、これを搬送しながら水浴中に導入し、溶媒を水中に溶出させてポリウレタン樹脂を凝固させ、微多孔質のポリウレタン樹脂膜を生成させる。そして、更に搬送しながら、水浴中への浸漬とマングル絞りとを複数回繰り返し、脱溶媒と水洗を行う。このような湿式製膜工程を経た後、乾燥して水分を除去し、次いでポリウレタン樹脂膜表面に、接着剤を部分的に塗布し、この接着剤を介して繊維布帛をポリウレタン樹脂膜に貼合する。そして、ポリウレタン樹脂膜から離型性基布を剥離することにより、微多孔質のポリウレタン系樹脂膜が繊維布帛に貼合されてなる透湿防水積層布帛を得る方法が提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような製造方法においては、水浴中でポリウレタン樹脂を凝固させ、脱溶媒と水洗を繰り返している間に、離型性布帛からポリウレタン樹脂膜が剥離してしまうことがあった。これは、このような湿式製膜工程が、離型性布帛及びポリウレタン樹脂膜よりなる積層物を搬送しながら行われているため、離型性布帛及びポリウレタン樹脂膜に張力が負荷されるからであると考えられる。即ち、離型性布帛とポリウレタン樹脂膜とでは、張力の負荷による伸長性等が異なり、その挙動の相違によって、両者が剥離してしまうと考えられるのである。
【0006】
離型性布帛とポリウレタン樹脂膜との剥離を防止するためには、例えば、離型性布帛の離型性の程度を低くすることが考えられる。しかしながら、離型性を低くすると、後工程で離型性布帛とポリウレタン樹脂膜とを剥離する際、剥離しにくくなって、ポリウレタン樹脂膜が破れるというような新たな欠点を惹起するに到る。また、離型性を低くすると、得られるポリウレタン樹脂膜の耐水圧,透湿性及び風合いが低下する場合もあった。この理由は定かではないが、ポリウレタン樹脂膜が離型性布帛表面に食い込むためと考えられる。
【0007】
そこで、本発明は、水浴中でポリウレタン樹脂を凝固させた後、脱溶媒が概ね完了するまでの湿式製膜工程の間、なるべく張力を負荷しない特定の方法を採用することにより、製造途中で離型性布帛とポリウレタン樹脂膜とを剥離しにくくし、耐水圧,透湿性及び風合いに優れた透湿防水積層布帛を提供しようというものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、離型性基布表面にポリウレタン樹脂を主体とする合成重合体溶液を塗布してなる二層積層物を、水中に導入し、該合成重合体溶液中の溶媒を該水中に溶出させて、該ポリウレタン樹脂を凝固させ、該離型性基布表面に該ポリウレタン樹脂を主体とする樹脂膜を生成させる湿式製膜工程を経た後、該樹脂膜を繊維布帛に転写して透湿防水積層布帛を製造する方法において、前記湿式製膜工程で、前記水中に導入した前記二層積層物を前記水中で巻き取ることにより、又は前記水中に導入した前記二層積層物を長手方向に折り畳まれた状態で遊動させることにより、前記二層積層物に次工程へ搬送するための積極的な張力を負荷しない状態で、前記樹脂膜を生成させることを特徴とする透湿防水積層布帛の製造方法に関するものである。
以下、本発明を工程順に説明する。
【0009】
〔第一工程〕
まず、本発明においては、離型性基布を準備する。離型性基布とは、公知の布に離型剤を付与したものである。具体的には、ナイロン6,ナイロン66で代表されるポリアミド系合成繊維、ポリエチレンテレフタレートで代表されるポリエステル系合成繊維、ポリアクリルニトリル系合成繊維、ポリビニルアルコール系合成繊維等の合成繊維からなる織物や編物等の基布に、パラフィン系撥水剤,フッ素系撥水剤,ポリシロキサン系撥水剤等の離型剤を、パディング法やスプレー法等の公知の方法で付与したものである。特に、ポリエステル系合成繊維よりなる織物に離型剤を付与した離型性基布は、寸法安定性や耐熱性に優れ、安価であるため、好適である。
【0010】
この離型性基布表面に、ポリウレタン樹脂を主体とする合成重合体溶液を塗布して、二層積層物を得る。ここで、ポリウレタン樹脂を主体とする合成重合体溶液としては、ポリウレタン樹脂を50〜100重量%含む合成重合体溶液が好適に用いられる。合成重合体溶液中には、ポリウレタン樹脂の他に、ポリアクリル酸,ポリ塩化ビニル,ポリスチレン,ポリブタジエン,ポリアミノ酸,ポリカーボネート等やこれらの共重合体を50重量%未満の範囲で含んでいてもよく、勿論、フッ素やシリコーン等で変成した重合体も含んでいてもよい。合成重合体溶液中の溶媒としては、ポリウレタン樹脂を溶解又は分散させやすい有機溶媒であれば、どのようなものでも用いることができる。一般的に、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等の極性有機溶媒を用いるのが好ましい。
【0011】
ポリウレタン樹脂は、イソシアネート成分とポリオール成分とを反応させて得られる重合体である。イソシアネート成分としては、芳香族ジイソシアネート,脂肪族ジイソシアネート,脂環族ジイソシアネート等が単独で又は混合して用いられる。具体的には、トリレン−2,4−ジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,6−ヘキサンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート等を主成分として用い、必要に応じ3官能以上のイソシアネートを使用してもよい。一方、ポリオール成分としては、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオール等が用いられる。ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコール,ポリテトラエチレングリコール等が用いられる。ポリエステルポリオールとしては、例えば、エチレングリコールやプロピレングリコール等のジオールと、アジピン酸やセバチン酸等の二塩基酸との反応生成物、又はカプロラクトン等の開環重合物を用いることができ、勿論、オキシ酸モノマー或いはそのプレポリマーの重合物も用いることができる。
【0012】
離型性基布表面に、合成重合体溶液を塗布する方法としては、ナイフコータ,コンマコータ,リバースコータ等を用いる通常のコーティング法により、塗布すれば良い。また、塗布量は任意であるが、一般的に、得られる樹脂膜の乾燥重量が10g/m2以上であるのが好ましく、15g/m2以上になるようにするのがより好ましい。
【0013】
以上のようにして、離型性基布表面に合成重合体溶液が塗布されてなる二層積層物を、水中に導入する。具体的には、5〜60℃の水浴中に、二層積層物を浸漬すれば良い。そうすると、塗布された合成重合体溶液中の溶媒が、水浴中に溶出し、合成重合体溶液中に溶解又は分散していたポリウレタン樹脂及びその他の重合体が凝固し、微多孔質の樹脂膜が生成する。そして、樹脂膜の凝固を完全なものとするために、更に水浴中で脱溶媒及び必要により水洗を行う。一般に、このような方法で微多孔質の樹脂膜を生成させる工程は、湿式製膜工程と呼ばれているが、本発明においては、この湿式製膜工程で、二層積層物を水中で巻き取ることにより、又は水中に導入した二層積層物を長手方向に折り畳まれた状態で遊動させることにより、二層積層物に次工程へ搬送するための積極的な張力を負荷しない状態で、樹脂膜を生成させることを特徴としている。即ち、従来、この湿式製膜工程は、機械方向に搬送するための張力、つまり次工程へ搬送するための張力を二層積層物に負荷しながら(従って、二層積層物にはその長手方向に搬送するための張力が負荷される。)行っていたのを、このような積極的な張力を負荷させないで、湿式製膜工程を行う点に特徴を有する。このように、湿式製膜工程において、次工程へ搬送するための積極的な張力を負荷させないと、凝固した樹脂膜と離型性基布とが剥離しにくくなるのである。
【0014】
上記した、次工程へ搬送するための積極的な張力を負荷させない状態で行う湿式製膜工程の第一の態様としては、二層積層物を水中に導入し、その後、その水中で二層積層物を巻き取るという態様が挙げられる。即ち、この態様では、巻き取りによってある程度の張力は負荷されるが、これは、次工程へ搬送するための張力ではないので、低い張力でも巻き取ることができる。この程度の張力であれば、凝固した樹脂膜と離型性基布とは剥離しにくくなるのである。このような態様の場合、二層積層物を水中に導入した時点で、ある程度、塗布された合成重合体溶液が凝固し、次いで、巻き取った後にも凝固が進むことになる。この態様において、二層積層物を水中に導入し、水中で巻き取るという意味は、二層積層物全体が水と接した状態で巻き取るという意味である。従って、二層積層物を水浴中に導入して巻き取り、巻き取られた巻物全体が水中に浸漬された状態であっても良いし、巻物の一部が水中に浸漬されると共に巻物が回転しており、全体が常に水と接している状態であっても良い。また、シャワー等で二層積層物に水を噴霧する態様も、二層積層物を水中に導入するという内容に包含されるものである。従って、シャワー等で二層積層物に水が噴霧され、その状態で二層積層物が巻き取られる態様は、二層積層物を水中に導入し、水中で巻き取るという内容に包含されるのである。
【0015】
第二の態様としては、二層積層物を水中に導入し、その後、その水中で二層積層物を長手方向に折り畳まれた状態で遊動させるという態様が挙げられる。具体的には、J−ボックス、L−ボックス等の精練漂白装置を用いる態様が挙げられる。この態様の場合も、次工程へ搬送するための積極的な張力を負荷させない状態で湿式製膜工程を行うことができる。J−ボックス或いはL−ボックスを用いる態様の場合、二層積層物は、次工程へ搬送されてはいるが、一定の区域で張力が長手方向に殆ど負荷されないで、二層積層物が長手方向に折り畳まれた状態(長手方向に張力が殆ど負荷されていないので、二層積層物が長手方向に滞留し、折り畳み状態となる。)となっている。そして、次工程へ搬送されているので、折り畳み状態で機械方向に遊動しているのである。この遊動は、主として前工程から押し出されるため、次工程へ向けて搬送されるが如く動くのであり、積極的な張力が負荷されて搬送されているのではない。この態様の場合、二層積層物をJ−ボックス或いはL−ボックスに導入し、このボックス中で二層積層物を水中に導入すれば良い。なお、水中に導入するという意味は、上記の場合と同様に、水と接触させるという意味である。
【0016】
更に、第二の態様としては、水を張った水槽中に、二層積層物を振り落とすという態様も用いることができる。二層積層物は単に振り落とされるだけであるから、水中で二層積層物は長手方向に折り畳まれた状態で遊動しており、次工程へ搬送するための張力は負荷されない。また、ジッガ染色機を用いた態様も用いることができる。この態様は、水中に配設された二本のロール間で、二層積層物を交互に巻き取るという態様であり、第一の態様の例である。二層積層物は、巻き取りによって張力が負荷されてはいるが、次工程へ搬送するための高い張力ではないので、凝固した樹脂膜と離型性基布とは剥離しにくいのである。
【0017】
以上の方法により、離型性基布表面に塗布された合成重合体溶液の溶媒が水中に溶出して凝固し、ポリウレタン樹脂を主体とする微多孔質の樹脂膜が生成するのである。溶媒の溶出(脱溶媒)は、一般的に、二層積層物を水中に導入しこれを水中から取り出すまでの工程で完了する。しかし、この工程で脱溶媒が完全に完了していなくても良く、この場合は、水中から取り出した二層積層物を、更にジッガ染色機等の任意の装置に導入し、脱溶媒を完了させても良い。脱溶媒が完了した後は、公知の方法で、乾燥すれば良い。勿論、乾燥前に、必要であれば水洗しても良い。
【0018】
〔第二工程〕
その後、離型性基布表面に設けられた樹脂膜を、繊維布帛に転写すれば、本発明に係る透湿防水積層布帛を得ることができる。転写する手段は、従来用いられている任意の方法が採用される。例えば、樹脂膜に接着剤を塗布した後、これを繊維布帛に貼合しても良いし、繊維布帛に接着剤を塗布した後、これを樹脂膜に貼合しても良い。本発明においては、転写する具体的手段として、以下の如き方法を採用するのが好ましい。
【0019】
まず、離型性基布表面に形成された樹脂膜の表面に、ポリウレタン系接着剤を非全面に均一に塗布する。ここで、ポリウレタン系接着剤が用いられる理由は、ポリウレタン樹脂を主体とする樹脂膜との接着性に優れているからである。また、非全面に均一に塗布するとは、塗布されている部分と塗布されていない部分とがあり、これが全面に亙って均一に存在するということである。具体的には、散点状,等間隔に設けられた線状,市松模様,亀甲模様等の如き形態で塗布されているということである。ポリウレタン系接着剤の占有面積(接着剤が塗布されている部分の総面積)は、樹脂膜の表面積に対して、20〜60%が好ましく、25〜50%がより好ましい。占有面積が20%未満になると、樹脂膜と繊維布帛との接着性が不十分となり、両者が剥離しやすくなる傾向が生じる。また、占有面積が60%を超えると、透湿性に乏しいポリウレタン系接着剤の占める面積が多くなり、全体として透湿性が低下する傾向が生じる。また、接着剤の存在により、全体としての風合いが低下する傾向も生じる。
【0020】
ポリウレタン系接着剤は、どのような形態で塗布されても差し支えないが、一般的に溶液形態で塗布される。溶液形態のポリウレタン系接着剤としては、イソシアネート化合物とポリオール化合物との反応物を主体とする溶液及び/又はイソシアネート化合物とポリオール化合物との混合物を主体とする溶液が用いられる。また、この溶液中には、接着性改良のために、他の樹脂が含有されていても良い。例えば、樹脂膜を転写する繊維布帛が、ポリアミド系繊維布帛であれば、ダイマー酸系ポリアミド樹脂や一般的なポリアミドホットメルト樹脂等を含有させておけば、繊維布帛と接着剤との接着性が向上するので、好ましい。また、繊維布帛がポリエステル系繊維布帛であれば、ポリエステル系ホットメルト樹脂等を含有させておけば、繊維布帛と接着剤との接着性が向上するので、好ましい。なお、溶液形態のポリウレタン系接着剤を樹脂膜表面に塗布する具体的方法としては、公知のグラビアコータ,ロータリースクリーン,フラットスクリーン等を用いて、散点状,等間隔に設けられた線状,市松模様,亀甲模様等の所望のパターンで全面に亙って均一に塗布し、続いて、50〜150℃の温度で0.5〜5分間乾燥すれば良い。
【0021】
この後、ポリウレタン系接着剤が塗布された樹脂膜面に、繊維布帛を積層する。この繊維布帛としては、どのようなものでも用いることができる。例えば、ナイロン6,ナイロン66で代表されるポリアミド系合成繊維、ポリエチレンテレフタレートで代表されるポリエステル系合成繊維、ポリアクリルニトリル系合成繊維、ポリビニルアルコール系合成繊維、トリアセテート等の半合成繊維、木綿等の天然繊維を単独で又は混合してなる織物、編物、不織布等を用いることができる。ポリウレタン系接着剤は、一般的に粘着性を呈しているので、繊維布帛を積層した後、圧着又は所望により熱を与えながら熱圧着すれば、樹脂膜と繊維布帛を貼合することができる。以上のようにして、離型性基布/ポリウレタン樹脂膜/繊維布帛の順で積層貼合された三層構造の透湿防水積層布帛を得ることができる。本発明においては、このまま、即ち離型性基布を剥離しないで透湿防水積層布帛とすることもできるが、離型性基布を剥離する第三工程以下の工程を経て透湿防水積層布帛を得ることもできる。
【0022】
〔第三工程〕
樹脂膜と繊維布帛とは、ポリウレタン系接着剤を介して貼合されており、この樹脂膜には離型性基布が付着しているので、この離型性基布を樹脂膜から剥離すれば、繊維布帛と樹脂膜とが貼合されてなる透湿防水積層布帛が得られる。なお、離型性基布を剥離した後、必要に応じて、耐水圧を向上させる目的で、繊維布帛面及び/又は樹脂膜面に、撥水処理を施しても良い。例えば、パラフィン系撥水剤,ポリシロキサン系撥水剤,フッ素系撥水剤等の公知の撥水剤を用いて、パディング法やスプレー法等の公知の方法で撥水処理を施すことができる。
【0023】
〔第四工程(その1)〕
また、離型性基布を剥離した後、耐水圧を向上させる目的で、樹脂膜面に、ポリウレタン樹脂を主体とする樹脂薄膜を形成させても良い。具体的には、樹脂膜面に、ポリウレタン樹脂を主体とする合成重合体溶液を塗布し、乾燥すれば良い。合成重合体溶液としては、前述した二層積層物を得る際に用いたのと同様のものを用いれば良いが、溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド等の極性有機溶媒を多く使用せずに、例えば、トルエン,メチルエチルケトン,酢酸エチル等のようなあまり極性のない溶媒を使用するのが好ましい。極性有機溶媒を多く使用すると、湿式製膜工程で生成した微多孔質の樹脂膜表面が、極性有機溶媒で溶解し、微多孔質が壊れて無孔質の樹脂膜になってしまう恐れがある。樹脂膜が無孔質になると、透湿性が低下する傾向が生じる。
【0024】
樹脂膜面に、ポリウレタン樹脂を主体とする合成重合体溶液を塗布する方法としては、前述したのと同様のコーティング法を採用し、乾式コーティングを行う。乾式コーティングは、前述の湿式製膜工程の如く、コーティング後、水中に導入するのではなく、そのまま乾燥させるものである。従って、前述した如く微多孔質の樹脂膜ではなく、無孔質の樹脂薄膜が得られるのである。このような無孔質の樹脂薄膜であるから、その厚さが厚いと、微多孔質の樹脂膜で得られた透湿性が阻害される恐れがある。従って、無孔質の樹脂薄膜は、耐水圧が向上する程度で透湿性が阻害されない程度の厚さが好ましく、乾燥重量で1〜15g/m2程度であるのが好ましい。樹脂薄膜の厚さが、乾燥重量で1g/m2未満になると、耐水圧が殆ど向上しない傾向となる。また、乾燥重量で15g/m2を超えると、透湿性が阻害される傾向となる。
【0025】
〔第四工程(その2)〕
また、本発明においては、離型性布帛を剥離した後、樹脂膜を保護する或いは外観を所望に応じて変化させるために、樹脂膜面に、更に繊維布帛を貼合しても良い。具体的には、樹脂膜表面に、ポリウレタン系接着剤を非全面に均一に塗布した後、このポリウレタン系接着剤を介して繊維布帛を貼合すれば良い。このようにすれば、繊維布帛/樹脂膜/繊維布帛の順に積層貼合された三層構造の透湿防水積層布帛を得ることができる。また、第四工程(その1)で得られた樹脂薄膜表面に、ポリウレタン系接着剤を非全面に均一に塗布した後、このポリウレタン系接着剤を介して繊維布帛を貼合しても良い。このようにすれば、繊維布帛/樹脂膜/樹脂薄膜/繊維布帛の順に積層貼合された四層構造の透湿防水積層布帛を得ることができる。なお、樹脂膜或いは樹脂薄膜面に繊維布帛を貼合する方法は、第二工程で採用した方法と同一の方法で行えば良い。
【0026】
【実施例】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。実施例における透湿防水積層布帛の各性能の測定及び評価は、次の方法で行った。
(1)耐水圧:JIS L−1092(高水圧法)
(2)透湿度:JIS L−1099(A−1法)
(3)風合い:ハンドリングにより、風合いを次の4段階で相対評価した。
◎・・非常に柔らかい ○・・柔らかい △・・やや硬い
×・・硬い
【0027】
実施例1
経糸及び緯糸の双方に、ポリエステルマルチフィラメント75デニール/72フィラメントを用い、経糸密度100本/インチ、緯糸密度80本/インチの平織物を製織し、通常の方法により精練を行った後、下記処方1に示す組成の水分散液で、パディング(絞り率35%)し、乾燥後、170℃で1分間の熱処理を行い、次に温度170℃,圧力30kgf/cm2,速度30m/分の条件でカレンダー加工を行い、離型性基布を得た。
〔処方1〕
アサヒガードAG970 10重量%
(旭硝子株式会社製、フッ素系撥水剤エマルジョン)
KM740 2重量%
(信越化学工業株式会社製、エマルジョン型シリコーン離型剤)
スミテックスレジンM−3 1重量%
(住友化学工業株式会社製、メラミン樹脂)
スミテックスアクセラレータACX 0.1重量%
(住友化学工業株式会社製、有機アミン塩系触媒)
イソプロピルアルコール 1重量%
水 残重量%
【0028】
次に、下記処方2に示す組成で、固形分濃度23重量%,粘度13000mPa・s(25℃)のポリウレタン樹脂を主体とする合成重合体溶液を、ナイフオーバーロールコータを用いて、上述の離型性基布表面に、塗布量150g/m2にて塗布した二層積層物を、直ちに15℃の水中に導入し、全てが浸漬される状態で巻き取り、その状態で10分間放置させることで、ポリウレタン樹脂の完全な凝固及び脱溶媒(脱DMF)をほぼ完了させた。この後、オーバーフローする常温の水浴中に完全に浸漬したロールに巻き取ることで、脱溶媒を確実に完了させた後、乾燥を行った。以上のようにして、離型性基布表面にポリウレタン樹脂を主体とする微多孔質の樹脂膜を形成した。
〔処方2〕
レザミンCU4555 100重量部
(大日精化工業株式会社製、エステル型ポリウレタン樹脂)
レザミンX 1重量部
(大日精化工業株式会社製、イソシアネート化合物)
N,N−ジメチルホルムアミド 35重量部
【0029】
次に、25メッシュ,深度180μm,円形ドット状(ドット幅0.7mm,ドット間隔0.35mm,接着剤占有面積約40%)のグラビアロールを用いて、下記処方3に示す組成で固形分37重量%のポリウレタン系接着剤溶液を、上述の微多孔質の樹脂膜面に、塗布量60g/m2で非全面に均一に塗布し、100℃で2分間乾燥させた。
〔処方3〕
UD108 100重量部
(セイコー化成株式会社製、エステル型ポリウレタン系接着剤)
コロネートHL 7重量部
(日本ポリウレタン工業株式会社製、イソシアネート化合物)
UY−5 0.5重量部
(セイコー化成株式会社製、有機錫系反応促進剤)
メチルエチルケトン 20重量部
【0030】
その後、直ちに、以下の繊維布帛を樹脂膜面に積層し、3kgf/cm2の圧力で圧着した。用いた繊維布帛は、経糸及び緯糸の双方にナイロンマルチフィラメント70デニール/68フィラメントを用いて、経糸密度125本/インチ,緯糸密度95本/インチの平織物を製織し、通常の方法により精練及び染色(日本化薬株式会社製、Kyanol Navy Blue R 3%owf)を行い、得られたものであり、表地として用いうるものである。
【0031】
圧着後、室内(常温)にて3日間放置することにより、エージングを行い、続いて離型性基布を剥離した。そして、通常の方法により、アサヒガードLS−317(旭硝子株式会社製、フッ素系撥水剤エマルジョン)5重量%の水分散液でパディング(絞り率40%)し、130℃で1分間の乾燥後、170℃で40秒間の熱処理を行い、透湿防水積層布帛を得た。
【0032】
比較例1
二層積層物を水中で巻き取らずに、二層積層物を15℃の水中に1分間浸漬して樹脂分を凝固させ、二層積層物を機械方向に搬送して、複数回のマングル絞りを行いながら、常温での脱溶媒及び水洗工程をする通常の湿式コーティング法を採用する他は、実施例1と同一の方法で透湿防水積層布帛を製造することを試みた。しかし、脱溶媒及び水洗工程で、離型性基布と樹脂膜とが剥離してしまい、透湿防水積層布帛を得ることができなかった。
【0033】
比較例2
実施例1で用いた繊維布帛(経糸及び緯糸の双方にナイロンマルチフィラメント70デニール/68フィラメントを用いた平織物)を、アサヒガードLS−317(旭硝子株式会社製、フッ素系撥水剤エマルジョン)5重量%の水分散液でパディング(絞り率40%)し、130℃で1分間の乾燥後、170℃で40秒間の熱処理を行い、次に温度170℃,圧力30kgf/cm2,速度30m/分の条件でカレンダー加工を行い、繊維布帛を得た。
【0034】
次に、実施例1で用いた処方2に示されたポリウレタン樹脂を主体とする合成重合体溶液を、ナイフオーバーロールコータを用いて、上述の繊維基布のカレンダー面に、塗布量150g/m2 にて塗布して積層布帛を得た。そして、その後、積層布帛を15℃の水中に1分間浸漬して樹脂分を凝固させ、積層布帛を機械方向に搬送して、複数回のマングル絞りを行いながら、常温での脱溶媒及び水洗工程をする、いわゆるダイレクトコーティング法によって、繊維布帛にポリウレタン樹脂膜が積層された透湿防水コーティング布帛を得た。
【0035】
実施例1に係る方法で得られた透湿防水積層布帛と、比較例2に係る方法で得られた透湿防水コーティング布帛の各性能を測定し、その結果を表1に示した。
【表1】
表1の結果から明らかなとおり、実施例1に係る方法で得られた透湿防水積層布帛は、比較例2に係る方法で得られた透湿防水コーティング布帛に比べて、耐水圧と透湿度に優れ、しかも非常にソフトな風合いを有していることが分かる。
【0036】
実施例2
実施例1に係る方法で得られた透湿防水積層布帛の樹脂膜面に、下記処方4に示す組成で、固形分20重量%,粘度3000mPa・sのポリウレタン樹脂を含む合成重合体溶液を、フローティングナイフコーターを用いて、塗布量15g/m2にて塗布した後、80℃で2分間の乾燥を行った。この結果、透湿防水積層布帛の樹脂膜面に、ポリウレタン樹脂を主体とする樹脂薄膜が形成され、繊維布帛/ポリウレタン樹脂を主体とする樹脂膜/ポリウレタン樹脂を主体とする樹脂薄膜、の順に積層された積層布帛が得られた。
〔処方4〕
ハイムレンNPU−5 100重量部
(大日精化工業株式会社製、無黄変型ポリウレタン樹脂)
イソプロピルアルコール 12重量部
トルエン 15重量部
【0037】
比較例3
実施例1に係る方法で得られた透湿防水積層布帛に代えて、比較例2に係る方法で得られた透湿防水コーティング布帛を用いる他は、実施例2と同一の方法で、繊維布帛/ポリウレタン樹脂を主体とする樹脂膜/ポリウレタン樹脂を主体とする樹脂薄膜、の順に積層されたコーティング布帛を得た。
【0038】
実施例2に係る方法で得られた積層布帛と、比較例3に係る方法で得られたコーティング布帛の各性能を測定し、その結果を表2に示した。
【表2】
表2の結果から明らかなとおり、実施例2に係る方法で得られた積層布帛は、比較例3に係る方法で得られたコーティング布帛に比べて、耐水圧と透湿度に優れ、しかも非常にソフトな風合いを有していることが分かる。
【0039】
実施例3
実施例1に係る方法で得られた透湿防水積層布帛の樹脂膜面に、実施例1で用いた処方3のポリウレタン系接着剤溶液を、実施例1と同一の方法で塗布及び乾燥した。その後、直ちに、以下の繊維布帛を樹脂膜面に積層し、3kgf/cm2の圧力で圧着した。用いた繊維布帛は、ナイロンフィラメント20デニール/7フィラメントを用いて、28ゲージのトリコット地を編成し、通常の方法により精練を行い、得られたものであり、裏地として用いうるものである。そして、圧着後、室内(常温)にて3日間放置することにより、エージングを行った。得られた積層布帛は、繊維布帛(表地)/ポリウレタン樹脂を主体とする樹脂膜/繊維布帛(裏地)、の順に積層されたものであった。
【0040】
比較例4
実施例1に係る方法で得られた透湿防水積層布帛に代えて、比較例2に係る方法で得られた透湿防水コーティング布帛を用いる他は、実施例3と同一の方法により、繊維布帛(表地)/ポリウレタン樹脂を主体とする樹脂膜/繊維布帛(裏地)、の順に積層されたコーティング布帛を得た。
【0041】
実施例3に係る方法で得られた積層布帛と、比較例4に係る方法で得られたコーティング布帛の各性能を測定し、その結果を表3に示した。
【表3】
表3の結果から明らかなとおり、実施例3に係る方法で得られた積層布帛は、比較例4に係る方法で得られたコーティング布帛に比べて、耐水圧と透湿度に優れ、しかも非常にソフトな風合いを有していることが分かる。
【0042】
実施例4
実施例2に係る方法により得られた積層布帛の樹脂薄膜面に、実施例1で用いた処方3のポリウレタン系接着剤溶液を、実施例1と同一の方法で塗布及び乾燥した。その後、直ちに、実施例3で用いた裏地としての繊維布帛を、樹脂薄膜面に積層し、その後は実施例3と同一の方法により、積層布帛を得た。この積層布帛は、繊維布帛(表地)/ポリウレタン樹脂を主体とする樹脂膜/ポリウレタン樹脂を主体とする樹脂薄膜/繊維布帛(裏地)、の順に積層されたものであった。
【0043】
比較例5
実施例2に係る方法により得られた積層布帛に代えて、比較例3に係る方法により得られたコーティング布帛を用いる他は、実施例4と同一の方法により、繊維布帛(表地)/ポリウレタン樹脂を主体とする樹脂膜/ポリウレタン樹脂を主体とする樹脂薄膜/繊維布帛(裏地)、の順に積層されたコーティング布帛を得た。
【0044】
実施例4に係る方法で得られた積層布帛と、比較例5に係る方法で得られたコーティング布帛の各性能を測定し、その結果を表4に示した。
【表4】
表4の結果から明らかなとおり、実施例4に係る方法で得られた積層布帛は、比較例5に係る方法で得られたコーティング布帛に比べて、耐水圧と透湿度に優れ、しかも非常にソフトな風合いを有していることが分かる。
【0045】
【作用及び発明の効果】
本発明に係る透湿防水積層布帛の製造方法は、離型性基布表面に、ポリウレタン樹脂を主体とする合成重合体溶液を塗布した二層積層物を、水中に導入し、脱溶媒してポリウレタン樹脂を凝固させる湿式製膜工程において、水中に導入した二層積層物を水中で巻き取ることにより、又は水中に導入した二層積層物を長手方向に折り畳まれた状態で遊動させることにより、二層積層物に、次工程へ搬送するための積極的な張力を負荷しない状態で、ポリウレタン樹脂を凝固させて樹脂膜を生成させる点に特徴を有する。従って、二層積層物に過大な張力を負荷することなく、湿式製膜を完了しうるので、湿式製膜工程において、ポリウレタン樹脂を主体とする樹脂膜と離型性基布とが剥離しにくい。依って、このような剥離によるトラブルが少なく、透湿防水積層布帛の製造を効率的に行えるという効果を奏する。
【0046】
また、離型性基布と樹脂膜とが剥離しにくいので、離型性基布として、任意のものを採用することができ、透湿防水積層布帛の製造に融通性が与えられる。特に、離型性基布として、離型性の良好なものを採用すれば、基布表面に生成する樹脂膜の耐水圧及び透湿度をより向上させることができる。従って、高防水性及び高透湿性で、ソフトな風合いを持つ透湿防水積層布帛を、容易に得ることができるという効果も奏する。
Claims (6)
- 離型性基布表面にポリウレタン樹脂を主体とする合成重合体溶液を塗布してなる二層積層物を、水中に導入し、該合成重合体溶液中の溶媒を該水中に溶出させて、該ポリウレタン樹脂を凝固させ、該離型性基布表面に該ポリウレタン樹脂を主体とする樹脂膜を生成させる湿式製膜工程を経た後、該樹脂膜を繊維布帛に転写して透湿防水積層布帛を製造する方法において、前記湿式製膜工程で、前記水中に導入した前記二層積層物を前記水中で巻き取ることにより、前記二層積層物に次工程へ搬送するための積極的な張力を負荷しない状態で、前記樹脂膜を生成させることを特徴とする透湿防水積層布帛の製造方法。
- 離型性基布表面にポリウレタン樹脂を主体とする合成重合体溶液を塗布してなる二層積層物を、水中に導入し、該合成重合体溶液中の溶媒を該水中に溶出させて、該ポリウレタン樹脂を凝固させ、該離型性基布表面に該ポリウレタン樹脂を主体とする樹脂膜を生成させる湿式製膜工程を経た後、該樹脂膜を繊維布帛に転写して透湿防水積層布帛を製造する方法において、前記湿式製膜工程で、前記水中に導入した前記二層積層物を長手方向に折り畳まれた状態で遊動させることにより、前記二層積層物に次工程へ搬送するための積極的な張力を負荷しない状態で、前記樹脂膜を生成させることを特徴とする透湿防水積層布帛の製造方法。
- 離型性基布表面にポリウレタン樹脂を主体とする合成重合体溶液を塗布してなる二層積層物を、水中に導入すると共に水中で巻き取り、脱溶媒を完了させて、該離型性基布表面に該ポリウレタン樹脂を主体とする樹脂膜を生成させる第一工程、該樹脂膜表面にポリウレタン系接着剤を非全面に均一に塗布した後、該ポリウレタン系接着剤を介して繊維布帛を貼合する第二工程、及び所望により該離型性基布を該樹脂膜から剥離する第三工程を具備することを特徴とする透湿防水積層布帛の製造方法。
- 第三工程の後、離型性布帛を剥離した樹脂膜表面に、ポリウレタン樹脂を主体とする合成重合体溶液を塗布し、次いで乾燥することにより、ポリウレタン樹脂を主体とする樹脂薄膜を生成させる第四工程を付加する請求項3記載の透湿防水積層布帛の製造方法。
- 樹脂薄膜表面に、ポリウレタン系接着剤を非全面に均一に塗布した後、該ポリウレタン系接着剤を介して繊維布帛を貼合する請求項4記載の透湿防水積層布帛の製造方法。
- 第三工程の後、離型性布帛を剥離した樹脂膜表面に、ポリウレタン系接着剤を非全面に均一に塗布した後、該ポリウレタン系接着剤を介して繊維布帛を貼合する第四工程を付加する請求項3記載の透湿防水積層布帛の製造方法。
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