JP3971604B2 - 弾性表面波フィルタ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は弾性表面波フィルタに関し、特にGHz帯域を含む高周波帯域において優れた通過帯域特性を有する弾性表面波フィルタに関する。
【0002】
【発明の背景】
近年、各種通信機器に弾性表面波フィルタが使用されるようになり、機器の小型化や通過帯周波数の無調整化の役割を果たしている。そして、通信機器の高周波数化・高機能化の進展にともない、帯域幅や減衰量のバリエーションを備えたフィルタの要求が益々増大してきている。
【0003】
例えば、900MHz帯の携帯電話用フィルタには通過帯域幅25MHz(比帯域幅2.8%)のフィルタが、1.9GHz帯の携帯電話用フィルタでは通過帯域幅60MHz(比帯域幅2.8%)の高性能なフィルタがそれぞれ要求されている。さらに、日本における携帯電話のPDC(Personal Digital Celler phone system)用フィルタでは800MHz帯で通過帯域幅16MHz(比帯域幅1.9%)という帯域幅のフィルタも要求されている。なお、比帯域幅をBRとすれば、BR=BW/fc(BWは帯域内挿入損失が3dBにおける通過帯域幅、fcは帯域内挿入損失が3dBにおける通過帯域の中心周波数)で定義される。
【0004】
このように、各種電話仕様では1.9〜2.8%程度の比帯域幅が要求されているが、フィルタとしては高周波数帯の製造偏差や温度変動による周波数変動量を考慮し、2〜4.5%の比帯域幅が必要になる。
【0005】
かかる弾性表面波フィルタは、一般に圧電性の単結晶あるいは多結晶の基板上に励振電極を配設して成るが、電気機械結合係数k2が大きく(=表面波の励振効率が高く)、また高周波帯域において、弾性表面波の伝搬損失が小さい基板材料として、タンタル酸リチウム(LiTaO3)単結晶から成る圧電結晶基板がよく知られており、特に、LiTaO3単結晶の36°回転Y−X基板(Yカット面を、X軸を中心として36°回転させたカット面を有し、弾性表面波をX軸方向へ伝搬させる結晶方位:右手系オイラー角表示(以下、単にオイラー角表示ともいう)では(0,126,0))が伝搬損失の小さい材料として使用されてきた。
【0006】
また最近では、前記36°回転Y−X基板は、圧電結晶基板上に形成された電極の付加質量効果が無視できる場合に最適な結晶方位であり、数百MHz以下の周波帯域において励起される弾性表面波の波長が長い場合に有効ではあっても、現在の携帯電話等で必要とされているGHz帯域近傍での動作においては、電極の厚さが励起される弾性波波長に対して無視できなくなり、必ずしも最適にはならないことが報告されており、LiTaO3単結晶の42°回転Y−X基板(オイラー角表示:(0,132,0))が新たな最適結晶方位として提案されている(特開平9−167936号公報を参照)。
【0007】
しかしながら、単にYカット面をX軸回りに所定角度回転させてX軸方向に伝搬させる基板(回転Y−X基板)を用いる以上、適当な電極膜厚においてバルク放射や伝搬損失が小さくなる回転角度が存在したとしても、主に、使用した基板材料によりフィルタ電気特性の帯域幅に寄与する実効的な電気機械結合係数が決定され比帯域幅が決定されるので、ごく狭い範囲でしか所望の比帯域幅をもつフィルタを設計できない。
【0008】
さらに、現在のデジタル回路に適した電気特性を得るためには、これまで以上に平坦性のあるフィルタが要求されるが、本発明者らは、前記したLiTaO 3 単結晶の42°回転Y−X基板が、通過帯域特性の挿入損失や帯域内偏差において必ずしも最適ではないことを見出した。
【0009】
なお、表面すべり波が基板の両端面を反射して所望の共振周波数を与える、いわゆる端面反射型の圧電すべり波共振子において、回転Y−X基板とその基板に対し結晶方位を若干ずらした基板を最適とする弾性波素子が知られている(特公平6−14608号公報を参照)。しかし、この弾性表面波素子は、IDT電極で励起させた表面すべり波を用いるものであり、しかもこの表面すべり波は圧電結晶基板の端面などの結晶面で反射させるので、一つのIDT電極で励起させた表面すべり波の伝搬路上に結晶面を形成しなければならない。よって、一つのIDT電極から成る共振子の複数を、例えばラダー型回路に配設・接続させてフィルタとして機能させるには、圧電結晶基板の結晶端面を好適に利用できない。このため、IDT電極の両側に特殊な溝構造などを形成させるのに、フィルタの作製工程がきわめて煩雑になるので問題である。
【0010】
そこで本発明では、新規で有用な結晶方位を有するタンタル酸リチウム単結晶基板を用いて、通過帯域特性の挿入損失や帯域内偏差が最適な弾性表面波フィルタを提供すること、及び、所望の比帯域幅を有するとともに圧電結晶基板が最適に方位決定された弾性表面波フィルタを提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
前述した目的を達成するために、タンタル酸リチウム単結晶から成る圧電結晶基板の主面上に、通過帯域が1850MHz〜1910MHzの高周波信号によって弾性表面波を励振する励振電極と、前記弾性表面波の伝搬方向に少なくとも1つの反射器電極とを配設した弾性表面波フィルタにおいて、前記圧電結晶基板の結晶方位を示す右手系のオイラー角表示(φ,θ,ψ)の各変数が、0.5≦φ≦10、θ=132、−(tan-1(tanφ/cosθ))−6≦ψ≦−(tan-1(tanφ/cosθ))+6を満足することを特徴とする。
【0012】
また特に、オイラー角表示(φ,θ,ψ)のφ,θが、0.5≦φ≦10,θ=132を満足すること、または、オイラー角表示(φ,θ,ψ)のφ,θが、0.5≦φ≦4,θ=132を満足することを特徴とする。
【0013】
また、タンタル酸リチウム単結晶から成る圧電結晶基板の主面上に、通過帯域が1850MHz〜1910MHzの高周波信号によって弾性表面波を励振する励振電極と、弾性表面波を前記励振電極へ反射する少なくとも1つの反射器電極とを配設した弾性表面波フィルタにおいて、前記圧電結晶基板の結晶方位を示す右手系のオイラー角表示(φ,θ,ψ)の各変数が、2≦φ≦4,θ=132,3.5≦ψ≦6を満足することを特徴とする。また、好ましくは、φ=3,θ=132を満足することを特徴とする。また、好ましくは、励振電極がAl−Cu合金から成ることを特徴とする。
【0014】
(削除)
【0015】
(削除)
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0017】
図1(a)に、圧電結晶基板の結晶方位(カット角及び弾性表面波の伝搬方向)をあらわす右手系のオイラー角表示(φ,θ,ψ)による座標変換を説明するための座標軸を示し、図1(b)に、この座標変換で得られた直交座標系(x1−x2−x3)と圧電結晶基板1との関係を説明する斜視図を示す。
【0018】
圧電結晶基板のデバイス領域となる主面の結晶方位(カット角及び弾性表面波の伝搬方向)をあらわすオイラー角表示は、次のように定義される。まず、図1(a)に示すように、結晶軸X,Y,Zを有する圧電単結晶において、Z軸を回転軸としてX軸とY軸を反時計方向にφ度(゜)回転し、次に、回転させたX軸をθ回転軸として、Z軸を反時計方向にθ度(゜)回転し、さらに、前記回転させたX軸(θ回転軸)と前記回転させたY軸を反時計方向にψ度(°)回転させ、この回転により得られた最終の直交座標軸をx1,x2,x3とする。
【0019】
そして、図1(b)に示すように、x3軸を法線とする圧電基板1の主面1aにおいて、x1軸方向に弾性表面波を伝搬させる圧電結晶基板1の結晶方位を、オイラー角表示で(φ,θ,ψ)とあらわす。
【0020】
所定結晶方位を有する圧電結晶基板を切り出すための単結晶ウエハは、以下のようにして作製する。まず、オイラー角表示(0.5〜20,115〜147,ψ=任意)に対し略垂直な方位に切り出した種結晶の面を、イリジウムなどの高融点金属製のルツボ内で、融点以上で融解したタンタル酸リチウムの原料融液に接触させ、しかる後に、温度を下げながら種結晶の回転と同時に引上げ(回転引上げ法(=チョクラルスキー法))を行ない、例えば外径約110mmの単結晶の育成を行う。
【0021】
次に、このようにして育成した単結晶を、例えば内周刃ダイヤモンド切断機とX線回折装置等を用いてカット角を測定しながら切断し、オイラー角表示で(0.5〜20,115〜147,ψ=任意)面が主面となるウエハを得る。
【0022】
さらに、ウエハのデバイス作製面となる主面をポリッシュ研磨により鏡面加工した後に、この主面上にAlやAl−Cu合金等のAlを主成分とする金属の微細電極パターン等を形成し、多数の励振電極となるIDT電極及び反射器電極を、例えばラダー型回路に配設したフィルタ素子領域を複数形成する。なお、これら電極パターンの作製には、縮小投影露光機(ステッパー)及びRIE(Reactive Ion Etching)装置等によりフォトリソグラフィにより行なう。
【0023】
そして、励振電極などの微細電極を保護するために、例えば薄膜のSiO2膜を前記ウエハの主面上に積層した後に、カッティング装置によりウエハのダイシングを行ない、個々のフィルタ素子を作製する。この後、個々のフィルタ素子を筐体中に載置し、筐体の電極と前記フィルタ素子の電極との電気的接続を行ない、弾性表面波フィルタを完成する。
【0024】
図2に、このようにして作製した弾性表面波フィルタS1において、圧電結晶基板1上に形成された電極構造の一例を模式的に示す。図中、2は弾性表面波を励振するIDT(インターディジタル・トランスデューサ)電極、3はその両側(弾性表面波の伝搬方向)に配設され、IDT電極2と同様に形成されたグレーティング状の反射器電極である。また、4はラダー型回路を構成する直列共振子、5は並列共振子である。
【0025】
弾性表面波フィルタS1によれば、櫛歯状を成し所定の電極指間隔を有する微細構造のIDT電極2により弾性表面波が励振され、IDT電極2を両側から挟むように配設された反射器電極3により弾性表面波がIDT電極2側に反射され、有効に閉じ込められて電気的共振を生ぜしめる。そして、図示のように、IDT電極2及び反射器電極3から成る共振子を直列または並列接続させてラダー型回路を構成することにより、所望のフィルタ電気特性を得る。
【0026】
なおここで、圧電結晶基板の厚みは0.1mm〜0.5mm程度がよく、0.1mm未満では圧電結晶基板がもろくなり、0.5mm超では材料コストと部品寸法が大きくなり使用できない。
【0027】
また、IDT電極は、例えばAlもしくはAl合金(Al−Cu系、Al−Ti系、Al−Mg系)からなり、蒸着法、スパッタ法、またはCVD法などの薄膜形成法により形成する。また、耐電力性能向上のために数多くの前述した金属材料が積層構造と成していてもよく、弾性表面波フィルタとしての特性を得る上で好適である。
【0028】
さらに、本発明に係る電極及び圧電結晶基板上の弾性表面波の伝搬部にSi、SiO2、SiNx、Al2O3等の誘電体膜を保護膜として形成して、導電性異物による通電の防止や耐電力の向上を図るようにしてもよい。
【0029】
このように構成されたラダー型の弾性表面波フィルタS1において、圧電結晶基板1の主面1aは、通過帯域特性の挿入損失や帯域内偏差が良好な弾性表面波フィルタを得るのに、最適な圧電結晶基板の結晶方位として、オイラー角表示(φ,θ,ψ)の各変数が、
0.5≦φ≦10、
θ=132、
−(tan-1(tanφ/cosθ))−6≦ψ≦−(tan-1(tanφ/cosθ))+6、
を満足するものである。前記結晶方位とする理由について、以下に詳細に説明する。なお、LiTaO3単結晶のオイラー角表示については、結晶の対称性により、等価な結晶方位が有り得るため、等価な結晶方位の基板は前記範囲に含まれるものとする。
【0030】
図3〜11は、種々の結晶方位を有する圧電結晶基板を用いた弾性表面波フィルタの電気特性を、次に示す構成及び測定条件にて得た平均値で示した結果である。図中の記号(△,◆)は代表的な角度についてプロットしたものである。
【0031】
電極パターン構造により共振状態が変化するため、最適なフィルタ特性を得るには最適な膜厚比を変えなければならないが、本発明で使用したIDT電極及び反射器電極の最適な膜厚比(規格化膜厚)H/λ(H:膜厚、λ:IDT電極の周期長、または弾性表面波の波長)は0.03〜0.2にすることが最適な共振状態を得る上で好適である。
【0032】
また、IDT電極の総対数は良好な共振状態が得られる3〜150対とし、反射器電極の本数は1〜200本とする。これにより、IDT電極にて励振させた弾性表面波を良好に反射させることができる。また、IDT電極の規格化交差幅は3〜200λ(λ:IDT電極の周期長、または弾性表面波の波長)とし、これにより良好な共振状態が得られる。なお、各プロットは測定個数30の平均を示している。
【0033】
また、前記弾性表面波フィルタの通過特性は、終端抵抗値が50Ωとなる条件で、ベクトルネットワークアナライザ(アジレント・テクノロジー社製:型番HP8753ES)を用いて測定した。なお、弾性表面波フィルタは1.9GHz帯に使用可能な図2に示すラダー型フィルタを作製したものである。
【0034】
ここで、本発明の弾性表面波フィルタでは、対称構造を持つ結晶材料を用いて圧電基板としている。この圧電結晶基板の結晶X軸からの対称性により、伝搬方向と結晶X軸との差異によるフィルタ特性の有意差を明らかにするため、オイラー回転させる前の結晶X軸を、オイラー回転させた後の圧電結晶基板上(x1−x2平面)に結晶Z軸側へ投影させた軸(投影X軸:結晶X−Z面とx3軸を法線とする平面との交線)に、オイラー回転させた後のx1軸を一致させて、そのx1軸を中心に広がった角度(ただし、ψの回転方向を+とする)を投影軸角度ψ’とし、このψ’=0が特性上最も良好な角度となりうる。
【0035】
前記投影X軸がx1軸と一致する(ψ’=0の)とき、オイラー角表示の第1角φ°と第2角θ°を用いて、幾何学的関係により下記式Iのように表すことができる。
ψ=−(tan-1(tanφ/cosθ)) (式I)
図3に、LiTaO3単結晶から成る圧電結晶基板のオイラー角表示(φ,θ,ψ)の変数、第1角φが0及び3で、かつ、投影軸角度ψ’が0(例えば、θ=132でφ=0のときψ=0、また、θ=132でφ=3のときψ=4.5)の弾性表面波フィルタを用いて、第2角θと、通過帯域内(1850MHz〜1910MHz)における最大挿入損失との関係について、終端抵抗50Ωとなる条件にて通過伝送特性を前記ベクトルネットワークアナライザで測定した結果を示す。ここで、実線L1はφ=3、ψ’=0の場合の結果を、破線L2はφ=0、ψ’=0の場合の結果をそれぞれ示す。
【0036】
また図4に、図3と同様に形成した弾性表面波フィルタを用い、第2角θと、前記通過帯域内における最大挿入損失が3dB以内での比帯域幅(前記BRと同一)との関係について、前記と同様に測定した結果を示す。
【0037】
また図5に、図3と同様に形成した弾性表面波フィルタを用い、前記の第2角θと、第1角φで定義される結晶材料と、通過帯域内偏差との関係について、前記と同様に測定した結果を示す。ここで、実線L1はφ=3、ψ’=0の場合の結果を、破線L2はφ=0、ψ’=0の場合の結果をそれぞれ示す。
【0038】
図3〜5の結果より以下のことが判明した。
【0039】
オイラー角表示の第2角θが132付近で各図の特性において極大または極小が存在するが、第1角φ=0の圧電結晶基板と、φ=3の圧電結晶基板とを比較すると、φ=3の圧電結晶基板を用いたフィルタの方が第2角θの広い角度範囲において挿入損失や比帯域幅は変化が少なく、しかも挿入損失が小さく帯域内偏差も良好であることが判明した。
【0040】
また特に図5に示すように、θが115〜147の範囲である場合には、帯域内偏差が3dB以内であり良好である。さらに、θが123〜138の範囲内の場合は、図3に示すように、挿入損失が3dB以内となり最適となることが判明した。
【0041】
図6に、オイラー角表示の第2角θが特に132及び129の場合で、かつ、投影軸角度ψ’が0の場合で、第1角φと前記通過帯域内の最大挿入損失との関係について測定した結果を示す。なお、測定条件等は図1と同様である。なお、θ=129を選択した理由は、従来、最適とされる36°回転Y−X基板(θ=126)と42°回転Y−X基板(θ=132)のオイラー角表示における第2角θの平均値だからである。
【0042】
また図7に、図4及び図6と同様の条件で、第1角φと、前記通過帯域内における最大挿入損失が3dB以内での比帯域幅との関係を測定した結果を示す。なお、実線L1はθ=129、ψ’=0の場合の結果を、破線L2はθ=132、ψ’=0の場合の結果をそれぞれ示す。破線L3はθ=132、ψ’=0の場合で第1角φが小さい場合のプロットに合わせて近似させて描いた直線を示す。
【0043】
また図8に、図5及び図6と同様の条件で、第1角φと通過帯域内偏差との関係を測定した結果を示す。なお、実線L1はθ=129、ψ’=0の場合の結果を、破線L2はθ=132、ψ’=0の場合の結果をそれぞれ示す。
【0044】
図6〜8の結果より以下のことが判明した。
【0045】
図6から明らかなように、第1角φを変化させても著しい変化が見られず、良好な特性が得られる。
【0046】
また、特に図7に示した直線L3からわかるように、比帯域幅は第1角φが小さい範囲(0.5〜10)で1次関数的に減少傾向がみられ、図8より第1角φが大きくなると帯域内偏差は小さくなる傾向にあり、特に、φが0.5〜20では、結晶方位が変化することにより、伝搬損失が小さい上に、実効電気機械結合係数k2所望の比帯域幅BRに最適な領域に近づくこととなるため、良好な帯域内偏差を得ることができる。
【0047】
図7に示した破線L3は、第1角φが小さい範囲0.5〜10において、第2角θが132の場合に直線近似した結果であり、この直線は下記式IIとなる。
【0048】
したがって、所望の比帯域幅BRを有するフィルタを得ようとするときに、それに使用する圧電結晶基板の結晶方位は、実験式である下記式IIにしたがって第1角φを導出することができる。
【0049】
φ=−2480.0×BR+97.0 (式II)
同様に、図4のθが132以下の実験データ(図中◆,△)から、上記式IIの実験式が得られ、所望の比帯域幅BRを有するフィルタを得ようとするときに、それに使用する圧電結晶基板の結晶方位は、下記式IIIにより、第2角θを導出することができる。
【0050】
θ=1140×BR+87.0 (式III)
また、図7における第2角θが132の場合の実験データ(図中△)から、前記実験式IIの標準偏差σは約0.5と求められ、本実験式のトレーランスは4σ分(ここで、σは標準偏差)を見込み±2とする。
【0051】
さらに、上記式により求めた第1角φと第2角θを前記式Iから第3角ψを算出することができる。
【0052】
よって、比帯域幅BRを所望の値としたときに、圧電結晶基板の結晶方位を示すオイラー角表示(φ,θ,ψ)の各変数が下記式を満足するように、前記圧電結晶基板の結晶方位を決定できる。
【0053】
F1(BR)≦φ≦F2(BR)、
G1(BR)≦θ≦G2(BR)、
−(tan-1(tanφ/cosθ))−6≦ψ≦−(tan-1(tanφ/cosθ))+6
(ただし、F1(BR)=−2480×BR+95、F2(BR)=−2480×BR+99、G1(BR)=1140×BR+85、G2(BR)=1140×BR+89、BR=BW/fc(BWは帯域内挿入損失が3dBにおける通過帯域幅、fcは帯域内挿入損失が3dBにおける通過帯域の中心周波数)である。)。
【0054】
次に、本発明による圧電結晶基板のさらに好適な結晶方位について説明する。
【0055】
図9に、オイラー角表示の第2角θが132で、かつ、第2角φが0,1,3,5,7の各々の場合における通過帯域内(1850MHz〜1910MHz)の最大挿入損失について測定した結果を示す。
【0056】
また図10に、投影軸角度ψ’と前記通過帯域内における最大挿入損失が3dB以内での比帯域幅との関係について、図9と同様にして測定した結果を示す。また図11に、投影軸角度ψ’と通過帯域内偏差との関係について、図9と同様にして測定した結果を示す。
【0057】
LiTaO 3 単結晶の結晶構造は、結晶X−Z面に対して結晶が強い対称性をもつことにより、図9〜11の結果から、投影軸角度ψ’が0付近でそれぞれピークをもち、得られるフィルタ特性も投影軸角度ψ’について対称的であることは、結晶材料が結晶X軸について対称であることから明白である。
【0058】
したがって、特に、帯域内偏差が3dB以内であるところの投影軸角度ψ’が±6トレーランスの範囲内で良好であり、また、挿入損失3dB以内では、投影軸角度ψ’が±4のトレーランスの範囲内で最適であることが判明した。この理由は、結晶方位が変化することにより、実効電気機械結合係数k2が所望の比帯域幅BRに最適な領域に近づくことで、帯域内偏差が良好になりかつ挿入損失も良好になるからと考えられる。
【0059】
特に比通過帯域幅を4%超に大きくした場合、良好な電気特性が得られる圧電結晶基板は、オイラー角表示(φ,θ,ψ)で(2〜4,132,3.5〜6)であることが判明した。
【0060】
かくして、オイラー角表示において、(0.5〜20、115〜147、ψ’=−6〜6(ψ=−6〜47))の圧電結晶基板を用いた弾性表面波フィルタによれば、帯域内偏差を3dB以内にすることができる。
【0061】
また、オイラー角表示において、(0.5〜20、123〜138、ψ’=−4〜4(ψ=−4〜38))の圧電結晶基板を用いた弾性表面波フィルタによれば、挿入損失が3dB以内の良好なフィルタ特性を備えることになる。
【0062】
また、オイラー角表示において、(0.5〜10、132、ψ’=−6〜6(ψ=−6〜22))の圧電結晶基板を用いた弾性表面波フィルタによれば、所望の比帯域幅BRで確実に帯域内偏差が3dB以内とすることができ、挿入損失も3dB以内の最適なフィルタ特性となる。
【0063】
さらに、オイラー角表示において、(0.5〜4、132、ψ’=−4〜4(ψ=−4〜10))の圧電結晶基板を用いた弾性表面波フィルタによれば、最大の帯域幅と最小の挿入損失及び、良好な帯域内偏差が得られ、さらに良好な通過帯域近傍の減衰特性を有する、きわめて良好なフィルタ特性とすることができる。
【0064】
また、本発明による圧電結晶基板の結晶方位を決定する方法によれば、圧電結晶基板のオイラー角表示の各変数は所望の比帯域幅BRの関数であらわすことができ、これにより、温度特性の良好なLiTaO3単結晶の圧電結晶基板材料を選択することができるとともに、良好な挿入損失や帯域内偏差、及び良好な通過帯域近傍の減衰特性を有する、優れた弾性表面波フィルタの設計・作製を容易かつ簡便に行うことができる。
【0065】
本実施形態ではラダー型回路を例にとり弾性表面波フィルタを説明したが、ラダー型回路に限定されるものではなく、弾性表面波を効率良く励振するために、少なくとも励振電極と反射器電極とを備えたものであれば適用可能であり、例えば、図12に示すようなIDT電極2の複数を伝搬方向x1に配設させた、いわゆる共振器型構造の電極構成を備えた弾性表面波フィルタS2においても適用可能である。なお、図12において図2と同様な構成については同一符号を付し説明を省略する。また、本発明は、格子型回路やラダー型回路と格子型回路の組合せ等、各種のフィルタ回路を備えた弾性表面波フィルタに対しても適用でき、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことが可能である。
【0066】
【実施例】
本発明に係る弾性表面波フィルタを具体的に作製した一例について説明する。
【0067】
オイラー角表示の各変数について、φ=3、θ=132、ψ=4.5のLiTaO3単結晶から成る圧電結晶基板上に、Al(98wt%)−Cu(2wt%)による微細電極パターンを形成した。このパターン作製には、縮小投影露光機(ステッパー、ニコン社製、型番:NSR2205i12D)、及びRIE(Reactive Ion Etching)装置(松下電器産業社製、型番:E646S−ICP)により行なった。
【0068】
まず、基板材料をアセトン・IPA等によって超音波洗浄し、有機成分を落とした。次に、クリーンオーブンによって充分に基板乾燥を行なった後、電極の成膜を行なった。電極成膜には、スパッタリング装置を使用し、Al−Cuの材料を成膜した。電極膜厚は約0.2μmとした。
【0069】
次に、フォトレジストを約0.5μm厚みにスピンコートし、前記ステッパーにより所望のパターニングを行なった。
【0070】
次に、現像装置にて不要部分のフォトレジストをアルカリ現像液で溶解させ、所望パターンを表出した後、RIE装置により、Al−Cu電極のエッチングを行ない、パターンニングを終了した。
【0071】
この後、上記電極の所定領域上に保護膜を作製した。すなわち、SiO2をスパッタリング装置にて成膜し、その後、フォトリソグラフィによってフォトレジストのパターニングを行ない、RIE装置等でワイヤボンディング用窓開け部のエッチングを行ない、保護膜パターンを完成した。
【0072】
次に、基板をダイシング線に沿ってダイシング加工を施し、チップごとに分割した。そして、各チップをダイボンド装置にてピックアップし、シリコーン樹脂を主成分とする樹脂を用いパッケージ内に接着した。この後、約160℃の温度において乾燥・硬化させた。パッケージは3mm角の積層構造のセラミックパッケージを用いた。
【0073】
次に、30μm径のAuワイヤをパッケージの電極部とチップ上のAl電極パッド上にボールボンディングした後、リッドをパッケージにかぶせ、封止機にて溶接封止して完成した。なお、チップ上のグランド電極は各々分離して配線し、Auボールボンディングにてパッケージ上のグランド電極にボンディングした。
【0074】
また、比較例として、オイラー角表示の各変数について、φ=0、θ=132、ψ=0のLiTaO3単結晶から成る圧電結晶基板上に、本発明の実施例と同様にして電極等を作製した弾性表面波フィルタを得た。
【0075】
このようにして完成した弾性表面波フィルタの電気特性は、ネットワークアナライザ(アジレント・テクノロジー社製:型番HP8753ES)により測定を行った。
【0076】
図13及び図14に、本発明の実施例と前記比較例の各弾性表面波フィルタに入力信号を入れたときの出力信号の伝送量を縦軸に、周波数を横軸にとった場合の特性図を示す。ここで、図13は帯域内偏差をあらわすために伝送量が0〜−5dBの範囲での特性を、図14は急峻度をあらわすために、伝送量が0〜−70dBの範囲での特性を示す。また、各図中の(A)は本発明の弾性表面波フィルタの特性であり、各図中の(B)は前記比較例の弾性表面波フィルタの特性である。
【0077】
図13及び図14から明らかなように、本実施例によれば通過特性が良好であり、特に、帯域内偏差が比較例の1.5dBに対して1.2dBとなり、0.3dBも良好な結果が得られた。また、本実施例では通過帯域の低周波側における減衰特性も良好であり、例えば比較例では周波数1815MHzで25.5dBの減衰量に対して32.5dBであり、7dBも減衰量が大きくより優れた急峻性を示した。
【0078】
【発明の効果】
本発明の弾性表面波フィルタによれば、タンタル酸リチウム単結晶から成る圧電結晶基板の主面上に、通過帯域が1850MHz〜1910MHzの高周波信号によって弾性表面波を励振する励振電極と反射器電極とを配設して成り、圧電結晶基板の結晶方位を示す右手系のオイラー角表示(φ,θ,ψ)の各変数が、0.5≦φ≦10,θ=132,−(tan-1(tanφ/cosθ))−6≦ψ≦−(tan-1(tanφ/cosθ))+6を満足するので、帯域内偏差が3dB以内の良好で、さらに、挿入損失を劣化させずに比帯域幅を大きく変更することが可能な、優れた弾性表面波フィルタを提供できる。
【0079】
(削除)
【0080】
(削除)
【0081】
さらに、オイラー角表示(φ,θ,ψ)のφ,θが、0.5≦φ≦4,θ=132を満足することにより、最大の帯域幅と最小の挿入損失、及び良好な帯域内偏差が得られ、このような良好なフィルタ特性となり、さらに、特性改善は帯域内のみならず、帯域外の減衰についても行なえる、最適な弾性表面波フィルタを提供できる。
【0082】
特に、比帯域幅を4%超に大きくした場合、オイラー角表示(φ,θ,ψ)で(2〜4,132,3.5〜6)である圧電結晶基板を用いた弾性表面波フィルタによって、きわめて良好な電気特性が得られる。
【0083】
(削除)
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a)は、圧電結晶基板の結晶方位(カット角及び弾性表面波の伝搬方向)を示す右手系のオイラー角(φ,θ,ψ)による座標変換を説明するための座標軸であり、(b)はオイラー角による座標変換で得られた直交座標系と圧電結晶基板との関係を説明する斜視図である。
【図2】 本発明に係る弾性表面波フィルタの電極構成の一例を模式的に説明する平面図である。
【図3】 各種結晶方位を有する圧電結晶基板のオイラー角表示の第2角θと通過帯域内の最大挿入損失との関係を示すグラフである。
【図4】 各種結晶方位を有する圧電結晶基板のオイラー角表示の第2角θと3dB比帯域幅との関係を示すグラフである。
【図5】 各種結晶方位を有する圧電結晶基板のオイラー角表示の第2角θと通過帯域内偏差との関係を示すグラフである。
【図6】 各種結晶方位を有する圧電結晶基板のオイラー角表示の第1角φと通過帯域内の最大挿入損失との関係を示すグラフである。
【図7】 各種結晶方位を有する圧電結晶基板のオイラー角表示の第1角φとの関係を示すグラフである。
【図8】 各種結晶方位を有する圧電結晶基板のオイラー角表示の第1角φと通過帯域内偏差との関係を示すグラフである。
【図9】 各種結晶方位を有する圧電結晶基板の投影X軸との角度ψ’と通過帯域内の最大挿入損失との関係を示すグラフである。
【図10】 各種結晶方位を有する圧電結晶基板の投影X軸との角度ψ’と3dB比帯域幅との関係を示すグラフである。
【図11】 各種結晶方位を有する圧電結晶基板の投影X軸との角度ψ’と通過帯域内偏差との関係を示すグラフである。
【図12】 本発明に係る弾性表面波フィルタの他の電極構造を模式的に説明する平面図である。
【図13】 弾性表面波フィルタの周波数と伝送量(0〜−5dB)との関係を示し、通過帯域部分を拡大した特性図であり、(A)は本発明の実施例による弾性表面波フィルタの電気特性図、(B)は従来(比較例)の弾性表面波フィルタの電気特性図である。
【図14】 弾性表面波フィルタの周波数と伝送量(0〜−70dB)との関係を示す特性図であり、(A)は本発明の実施例による弾性表面波フィルタの電気特性図、(B)は従来(比較例)の弾性表面波フィルタの電気特性図である。
【符号の説明】
S1,S2:弾性表面波フィルタ
1:圧電結晶基板
2:IDT電極(励振電極)
3:反射器電極
4:直列共振子
5:並列共振子
Claims (5)
- タンタル酸リチウム単結晶から成る圧電結晶基板の主面上に、通過帯域が1850MHz〜1910MHzの高周波信号によって弾性表面波を励振する励振電極と、弾性表面波を前記励振電極へ反射する少なくとも1つの反射器電極とを配設した弾性表面波フィルタにおいて、前記圧電結晶基板の結晶方位を示す右手系のオイラー角表示(φ,θ,ψ)の各変数が、下記式を満足することを特徴とする弾性表面波フィルタ。
0.5≦φ≦10
θ=132
−(tan-1(tanφ/cosθ))−6≦ψ≦−(tan-1(tanφ/cosθ))+6 - 前記オイラー角表示(φ,θ,ψ)のφ,θが、下記式を満足することを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波フィルタ。
0.5≦φ≦4
θ=132 - タンタル酸リチウム単結晶から成る圧電結晶基板の主面上に、通過帯域が1850MHz〜1910MHzの高周波信号によって弾性表面波を励振する励振電極と、弾性表面波を前記励振電極へ反射する少なくとも1つの反射器電極とを配設した弾性表面波フィルタにおいて、前記圧電結晶基板の結晶方位を示す右手系のオイラー角表示(φ,θ,ψ)の各変数が、下記式を満足することを特徴とする弾性表面波フィルタ。
2≦φ≦4
θ=132
3.5≦ψ≦6 - 前記オイラー角表示(φ,θ,ψ)のφ,θが、下記式を満足することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の弾性表面波フィルタ。
φ=3
θ=132 - 前記励振電極がAl−Cu合金から成ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の弾性表面波フィルタ。
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