JP3954411B2 - 材質均一性、穴拡げ性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車足回り部品等の構造部材に用いられる高強度熱延鋼板であって、特に材質均一性,穴拡げ性に優れた鋼板の製造方法、およびその鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車の燃費改善策の一つとして車体の軽量化が進められている。足回り部品等の構造部材においては、材料を薄肉化することによる軽量化効果が大きく、そのためには素材鋼板に一層の高強度化が望まれる。しかし、鋼板の高強度化は往々にして加工性の低下を招く。高強度化した熱延鋼板において良好な加工性を維持することは必ずしも容易ではない。自動車の構造部材用途においては、加工性の中でも特に「穴拡げ性」の改善要求が高まっている。
【0003】
従来から、成形用高強度熱延鋼板の製造方法に関して数多くの提案があり、例えば特開平10−46258号公報には、TiCによる析出強化を利用した熱延鋼板の製造において熱延時の加熱温度・時間をTi含有量との関係で制御することにより、鋼板間の強度のばらつきを低減する手法が開示されている。
また、特開平7−252592号公報には、残留オーステナイトを利用したTRIP鋼板として、強度−延性バランス(引張強さ×全伸び)が20000MPa・%以上と非常に高いものが開示されている。
最近では、Ti,Nb、あるいはCrを添加した高強度鋼を用いて熱延鋼板の穴拡げ性を向上させる研究も行われている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
自動車足回り部品等の構造部材に用いる熱延鋼板には、引張強さ700N/mm2以上の高強度と、少なくとも15%以上の伸び、さらに70%以上の高い穴拡げ率〔(試験後穴径d−初期穴径d0)/d0×100〕が要求されるようになってきている。
【0005】
しかしながら、TiCによる析出強化を利用した熱延鋼板ではTiの多量添加のため高強度を得やすい反面、降伏点が高く、穴拡げ性が十分とは言えない。また、残留オーステナイトを利用した熱延鋼板では強度−延性バランスは優れるが、穴拡げ率は40%程度と低い。
【0006】
他方、Ti,Nb,Cr等を添加した鋼種においては上記特性を満たすものも出現している。
しかし、これらの特殊元素の助けを借りずに上記特性を付与する技術は未だ確立されていない。また、得られた熱延鋼板は、鋼帯幅方向の硬度分布ができるだけ小さいこと、すなわち、材質均一性に優れることが望ましい。
本発明は、このような状況に鑑み、Ti,Nb,Crを添加することなく、上記のような高強度と優れた穴拡げ性を有し、かつ材質均一性に優れた熱延鋼板を工業的に安定的に提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、Ti,Nb,Crといった特殊元素を添加することなく、高強度熱延鋼帯の穴拡げ性を改善する手法について種々研究を重ねた。その結果、以下の2点を実現することが、穴拡げ性改善に非常に有効であることがわかった。
▲1▼熱延鋼板の金属組織を微細な「ベイナイティックフェライト+ベイナイトの複相組織」または「ベイナイト単相組織」とし、ポリゴナルフェライトやマルテンサイトを生成させないこと。
▲2▼熱延鋼板の表面凹凸をできるだけ平滑化すること。
そして、これら▲1▼▲2▼は、熱間圧延工程において、デスケールを適切に行い、かつ、仕上熱延から巻取までの冷却パターンを成分組成に応じて適切にコントロールすることによって実現可能であることがわかった。
本発明はこのような知見に基づいて完成したものである。
【0008】
すなわち前記目的は、質量%で、C:0.06〜0.13%,Si:0.5〜1.0%,Mn:2.1〜3.0%,P:0.030%以下,S:0.003%以下,Al:0.02〜0.06%,N:0.002〜0.006%,O:0.0030%以下であり、必要に応じてさらにB:0.0050%以下、Ca:0.0050%以下のうち1種または2種を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を熱間圧延してコイルにする際、加熱後〜仕上熱延前の段階で少なくとも1回以上スラブまたは鋼板表面に衝突圧2.0kgf/cm2以上で水を吹き付けてデスケールを行い、最終パス温度T1が800〜950℃の範囲のオーステナイト単相域となるように仕上熱延を行い、仕上熱延後〜巻取り前に、T1から下記(1)式で定義される温度T2までの平均冷却速度が80℃/sec以上となり、T2から巻取温度T3までの平均冷却速度が40℃/sec以下となり、かつT3が250〜450℃の範囲となるように冷却制御を行うことを特徴とする材質均一性、穴拡げ性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法によって達成される。
T2(℃)=673×C−37×Si+52×Mn−4284×S+442 ・・・(1)
【0009】
ここで、最終パス温度とは、最終パスの圧延機出側において測定される鋼板表面温度をいう。(1)式におけるC,Si,Mn,Sの箇所には、それぞれの元素の含有量(質量%)の値が代入される。
【0010】
上記本発明の製造方法に従えば、上記化学組成の鋼であって、ベイナイティックフェライト+ベイナイトの複相組織またはベイナイト単相組織を呈し、引張強さが700N/mm2以上、伸びが15%以上、穴拡げ率が70%以上であり、鋼帯の幅方向においてエッジから50mm位置と中央位置の硬さ(Hv)の差ΔHvの絶対値が15以下である高強度熱延鋼板が得られる。これらの複相組織または単相組織においては、微量(0.040体積%以下)の析出物や介在物の含有は許容される。ΔHvの絶対値は、両側のエッジそれぞれについて「そのエッジから50mm位置と中央位置の硬さの差」を求めた場合の、大きい方の値を意味する。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を特定する事項について説明する。
〔成分元素〕
C,Mnは、熱延鋼板の強度を確保するための重要元素である。Cが0.06質量%未満またはMnが2.1質量%未満ではポリゴナルフェライトが生成し易くなる。本発明に係る鋼板はベイナイティックフェライト+ベイナイトの複相組織またはベイナイト単相組織を基調とするものであるが、このような組織においてポリゴナルフェライトが生成すると、強度向上が不十分となるばかりでなく、穴拡げ性が低下する(後述)。一方、Cが0.13質量%を超えるか、またはMnが3.0質量%を超えると溶接性が劣化するとともに、ベイナイトの強度が増加して穴拡げ性が劣化する。このため、C含有量は0.06〜0.13質量%、Mn含有量は2.1〜3.0質量%とした。
【0013】
Siは、フェライト形成元素であるため、Si含有量が1.0質量%を超えるとポリゴナルフェライトが生成し易くなり、強度向上および穴拡げ性を阻害する要因となる。また、Si含有量が1.0質量%を超えるとスラブ加熱時にファイアライトが生成し易くなり、熱間圧延工程でのデスケール性が低下するため、熱延鋼板の表面性状を劣化させる場合がある。一方、Siは固溶強化型の元素でもあり、熱延鋼板の強度を確保するためには少なくとも0.5質量%以上の含有が必要である。このため、Si含有量は0.5〜1.0質量%とした。
【0014】
Pは、0.030質量%を超える含有量になるとポリゴナルフェライトが生成し易くなるとともに、粒界にPが偏析し、強度向上および穴拡げ性を阻害する要因となる。このため、P含有量は0.030質量%以下に制限する必要がある。より好ましいP含有量の範囲は0.020質量%以下である。
【0015】
Sは、MnSを形成し、この介在物は熱延鋼板の中に伸びた形態で存在するので、穴拡げ性を劣化させる。特に高強度熱延鋼板の場合、S含有量が0.003質量%を超えると穴拡げ性の劣化が顕著になる。このため、S含有量は0.003質量%以下に制限する必要がある。より好ましいS含有量の範囲は0.001質量%以下である。
【0016】
Nは、AlNを形成し、溶接時の結晶粒の粗大化を抑制する効果がある。この効果を十分に得るためには少なくとも0.002質量%以上のN含有が必要である。しかし、鋼中のN含有量が0.006質量%を超えると固溶N量が増加する場合があり、そうなると時効硬化によって加工性が劣化する。このため、N含有量は0.002〜0.006質量%とした。
【0017】
Alは、一般に脱酸材として用いられる元素であるが、本発明ではAlNの析出により結晶粒を微細化するためにも重要な元素である。結晶粒微細化とともに、AlN析出物を核として冷却制御によりベイナイティックフェライトを微細に生成させ、均一分散させる効果もある。これらの効果は0.02質量%以上のAl含有により発揮される。ただし、0.06質量%を超える過剰なAl添加はアルミナ系非金属介在物の増加を招き、穴拡げ性を劣化させるだけでなく、表面疵の原因ともなるため好ましくない。このため、Al含有量は0.02〜0.6質量%とした。
【0018】
Oは、鋼中の含有量が0.0030質量%を超えると酸化物の生成が顕著になり、この非金属介在物が加工時の破壊の起点となって穴拡げ性を劣化させる。また、巨大な酸化物は鋼板表面の疵の原因となり易い。このため、O含有量は0.0030質量%以下に制限する必要がある。
【0019】
Bは、極微量の添加で結晶粒界のひずみエネルギーを低下させ、加工性や靱性を改善する。また、ポリゴナルフェライトの生成を抑制する効果があるため、オーステナイトからベイナイト変態を促進させるのに有利に働く。ただし、0.0050質量%を超えてBを添加してもその効果が飽和するとともにコスト上昇を招く。このため、Bを添加する場合には0.0050質量%以下の含有量範囲で行うことが望ましい。
【0020】
Caは、MnS等の硫化物系介在物の形態を球状化する効果があり、それにより局部伸びが向上する。このため、穴拡げ性を改善する上でCa添加は有利に作用する。ただし、0.0050質量%を超えるCa含有は、非金属介在物清浄度を低下させるとともに、溶接性を劣化させる要因にもなる。したがって、Caを添加する場合には0.0050質量%以下の含有量範囲で行うことが望ましい。
【0021】
〔金属組織〕
本発明では、上記の化学組成および後述の製造法により、熱延鋼板の金属組織を「ベイナイティックフェライト+ベイナイトの複相組織」または「ベイナイト単相組織」とし、これによって高強度と優れた穴拡げ性を両立させる。この金属組織は、ポリゴナルフェライトやマルテンサイトが基本的に存在しないもの(すなわち、光学顕微鏡観察でポリゴナルフェライトやマルテンサイトが確認できないもの)を意味する。
【0022】
なお、ポリゴナルフェライトは、オーステナイトからAr1変態点で生じたフェライト相であって、恒温変態による組織変化を受けておらず、C濃度が低く軟質なものである。これに対し、ベイナイティックフェライトは、Ar1点より低温で未変態オーステナイトから冷却途中に生じたものであり、ベイナイトとフェライトの中間的な組織であるが、セメンタイトがほとんど観察されない点はベイナイトと相違する。
ポリゴナルフェライトおよびマルテンサイトは、光学顕微鏡観察によりベイナイティックフェライトやベイナイトとは異なる形態として識別できる。
【0023】
熱間圧延工程において冷却中にポリゴナルフェライトが生成すると、残りの未変態オーステナイトにCが濃化し、その後の冷却過程で生成するベイナイトの強度を増大させる。そうなるとポリゴナルフェライトとベイナイトの強度差が大きくなり、穴拡げ加工時にポリゴナルフェライト/ベイナイト界面で亀裂が生じ易くなる。その結果、穴拡げ性は劣化する。また、ポリゴナルフェライトは軟質であるため、強度レベルも低下する。
また、マルテンサイトが生成すると、その部分は著しく硬化するため、延性が低下するとともに穴拡げ性も劣化する。
【0024】
〔デスケール〕
発明者らの研究の結果、熱延鋼板表面の凹凸を平滑化することが穴拡げ性向上に非常の有効であることが確認された。Ti,Nb,Crを添加しない本発明においては、「鋼板表面の平滑化」と「金属組織の調整」とを組み合わせることが、工業的に安定して高強度化と優れた穴拡げ性の両立を図る上で重要である。熱延鋼板表面の問題となる凹凸は、主としてスラブ表面に生成した酸化スケールが圧延によって材料表面に押し込まれることによって生じる。そこで、本発明では加熱後〜仕上熱延前の段階で、スラブまたは鋼板の表面に水を吹き付けることによりデスケールを行う。なお、デスケールは広面の両面について行う必要がある。
【0025】
水の吹き付け圧は、材料表面の衝突圧が2.0kgf/cm2以上となるようにする。それより低い衝突圧では材料表面にスケールが残存し易く、製品表面に表面疵(凹部)を形成する原因となる。その場合、加工時に凹部に応力集中が生じ、穴拡げ性は劣化する。連続熱延ラインの場合、デスケール用の水吹き付けノズルは、例えば、加熱炉の出口付近、粗圧延機(リバース圧延機)の前後、仕上圧延機(タンデム圧延機)の入口付近等に設置することができ、これらのうち少なくとも1つ以上を稼働させて(すなわち1回以上のデスケールを行うことにより)スラブまたは鋼板表面の酸化スケールを除去する。デスケール回数はスケールの生成程度により増減することができるが、回数を増やすほど材料温度低下は大きくなる。仕上熱延での最終パス温度T1を後述の適性範囲に確保できるよう配慮する必要がある。
【0026】
〔最終パス温度T1〕
仕上熱延での最終パス温度が800℃未満になると、オーステナイト→フェライト変態が起こり易くなることに起因してポリゴナルフェライトが生成し易くなる。一方、最終パス温度が950℃を超えて高くなると、オーステナイト粒径が大きくなることに起因して、変態組織の結晶粒径が大きくなり穴拡げ性が劣化する。したがって、本発明では最終パス温度T1を800〜950℃にコントロールすることが重要である。
【0027】
〔T1からT2までの平均冷却速度〕
T2は、C,Si,MnおよびSの含有量に応じて前記(1)式により定まる温度であり、仕上熱延後における「強冷却」を停止させる目標温度である。発明者らは多くの実験により、C,Mnが高めの材料やSi,Sが少なめの材料の場合、強冷却を停止させる温度を高めにすべきことを経験した。このT2は、その経験に基づき、成分組成と強制冷却停止温度との関係を定量的に表したものである。
T1からT2までの平均冷却速度が80℃/sec未満では、ポリゴナルフェライトが生成し、高強度化と穴拡げ性改善の両立が達成できない。また材質安定性も劣化し易い。したがって、T1からT2までの平均冷却速度は80℃/sec以上とする。
【0028】
〔T2からT3までの平均冷却速度〕
本発明では、T2から巻取温度T3までを「弱冷却」とし、基本的にはこの間で恒温変態的にベイナイティックフェライトやベイナイトを生成させる。T2からT3までの平均冷却速度が40℃/secを超えると生成するベイナイトの硬さが高くなり過ぎるため、伸びおよび穴拡げ性が低下するとともに、鋼帯中の材質均一性が劣化する。したがって、T2からT3までの平均冷却速度は40℃/sec以下とする。
設備のライン構成などによりT2からT3までの保持時間が非常に短い場合には、巻取り後にもベイナイトの生成が起こる場合があるが、差し支えない。
【0029】
〔巻取温度T3〕
巻取温度T3が450℃を超えると強度不足となり、250℃未満になると未変態オーステナイトが残存する場合マルテンサイトとなり硬化するので、延性および穴拡げ性が低下する。したがって本発明では巻取温度T3が250〜450℃の範囲になるように冷却制御を行う必要がある。
仕上熱延後〜巻取り前における冷却制御は、仕上熱延機と巻取装置の間のローラーテーブル上において、強冷却から弱冷却に切り替える位置、および強冷却を行う部分と弱冷却を行う部分の冷却水量をコントロールすることにより実現できる。冷却水量のコントロールは、例えばラインの特性として予め採取してある圧延速度,板厚,冷却水量等の各パラメータと冷却曲線のデータに基づいて行うことができる。
【0030】
【実施例】
表1に供試鋼の成分組成を示す。A〜F鋼は本発明対象鋼、G〜K鋼は比較鋼である。各鋼の連続鋳造スラブを連続熱延ラインを用いて熱間圧延し、板厚3.4mm,幅920mmの熱延コイルとした。表2に製造条件を示してある。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
熱延コイルを連続酸洗した鋼板について、以下の特性を調べた。
〔引張特性〕 鋼板からJIS 5号引張試験片(圧延方向に直角)採取して行った。引張強さは700N/mm2以上を合格とした。ただし、720N/mm2以上のものは特に良好であると評価される。伸びは15%以上を合格とした。
〔穴拡げ性〕 鋼板から150mm角のサンプルを切り出し、その中央に初期穴径d0=φ10mmの穴をクリアランス12%にて打抜いた後、φ50mmの60°円錐ポンチにて打抜きの穴のバリをダイス側として穴拡げを行い、穴周辺に亀裂が生じ始めたときの穴径(試験後穴径d)を測定した。試験はn=3で行った。下記(2)式にて穴拡げ率を求め、n=3の平均値をその鋼板の穴拡げ率とした。
穴拡げ率(%)=(試験後穴径d−初期穴径d0)/d0×100 ・・・(2)
穴拡げ率70%以上を合格とした。
〔表面粗さ〕 鋼板表面の最大高さRy(JIS B 0601)を測定した。
〔材質均一性〕 鋼帯の幅方向中央位置と、両エッジ側についてエッジから幅方向50mm位置の硬さを測定した。そして、一方のエッジ側50mm位置と中央位置の硬さ(Hv)の差の絶対値ΔHv1と、他方のエッジ側50mm位置と中央位置の硬さ(Hv)の差の絶対値ΔHv2を求め、ΔHv1とΔHv2のうち大きい方の値をΔHvとした。ΔHvは15以下を合格とした。
結果を表3に示す。
【0034】
【表3】
【0035】
No.1〜6は本発明で規定する条件に従った発明例である。これらはいずれも引張強さ720N/mm2以上、穴拡げ率70%以上を有している。光学顕微鏡組織観察の結果、これらの熱延鋼板にはポリゴナルフェライトやマルテンサイトは観察されず、いずれもベイナイティックフェライト+ベイナイトの複相組織またはベイナイト単相組織を呈していた。鋼板表面の最大高さRyは10μm以下であり、表面肌は良好であった。また、BあるいはCaを添加したNo.5(E鋼),No.6(F鋼)は、同強度レベルで比較して、さらに良好な穴拡げ率を示している。
【0036】
これに対し、No.7は、Cが高いためベイナイトの硬さが高くなり、伸びが低下した。またSが高いため穴拡げ率が低かった。
No.8は、Cが低いため、Mnが高いにもかかわらず少量のポリゴナルフェライトが生成した。Mnが高いことによりベイナイトが硬質化したため、ポリゴナルフェライトが少量であっても、ベイナイトとの界面にマクロクラックが発生し穴拡げ性は低下した。
No.9は、フェライト形成元素であるSiが高いため、ポリゴナルフェライトが生成し、穴拡げ加工中にベイナイトとの分離が起こって穴拡げ性は低下した。
【0037】
No.10は、Mnが低いためポリゴナルフェライトが粒界に析出しており、強度、穴拡げ率がともに低かった。
No.11は、最終パス温度T1が高すぎたため結晶粒が大きくなり、粒界にポリゴナルフェライトが析出し、穴拡げ率が低下した。Siが低いためベイナイト量が増加し、幅方向の冷却速度のばらつきにより硬さの変動が大きくなった。
No.12は、成分組成は本発明規定範囲であるが、T1からT2までの平均冷却速度が80℃/sec未満であったためポリゴナルフェライトが増加し、強度および穴拡げ性が低下した。材質均一性にも劣った。
No.13は、成分組成は本発明規定範囲であるが、T1からT2までの平均冷却速度が80℃/sec未満であったためポリゴナルフェライトが増加し、強度および穴拡げ性が低下するとともに材質均一性も劣化した。また、デスケールが不十分であったため表面粗さが大きくなり、鋼板表面の凹凸起因による穴拡げ性の低下も認められた。
【0038】
No.14は、成分組成は本発明規定範囲であるが、T2からT3までの平均冷却速度が40℃/secを超えたため部分的にマルテンサイトが生成し、穴拡げ率が低下した。また、デスケールを実施しなかったので鋼板表面の最大高さRyが大きくなり、鋼板表面の凹凸起因による穴拡げ性の低下も認められた。さらに巻取温度T3が低かったので材質均一性に劣った。
No.15は、成分組成は本発明規定範囲であるが、巻取温度が高すぎたため強度が不足した。材質均一性にも劣った。
No.16は、成分組成は本発明規定範囲であるが、T2からT3までの平均冷却速度が40℃/secを超え、巻取温度T3が低すぎたため、マルテンサイトが生成し、そのため伸びや穴拡げ率が低かった。材質均一性にも劣った。
【0039】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、熱間圧延工程でのデスケールおよび比較的簡単な冷却制御を組み合わせることで、Ti,Nb,Cr等の高価な合金元素を必要とせずに、720N/m2以上の強度レベルと、70%以上の高い穴拡げ率を両立した熱延鋼板が工業的に安定して低コストで提供できるようになった。また、本発明が提供する熱延鋼板はSi含有鋼の中でも表面性状が良好であり、材質均一性にも優れる。したがって本発明は、自動車足回り部品等の構造部材用途への高強度鋼の普及を促進し、部材の薄肉化による自動車の軽量化に寄与するものである。
Claims (2)
- 質量%で、C:0.06〜0.13%,Si:0.5〜1.0%,Mn:2.1〜3.0%,P:0.030%以下,S:0.003%以下,Al:0.02〜0.06%,N:0.002〜0.006%,O:0.0030%以下であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼を熱間圧延してコイルにする際、加熱後〜仕上熱延前の段階で少なくとも1回以上スラブまたは鋼板表面に衝突圧2.0kgf/cm2以上で水を吹き付けてデスケールを行い、最終パス温度T1が800〜950℃の範囲のオーステナイト単相域となるように仕上熱延を行い、仕上熱延後〜巻取り前に、T1から下記(1)式で定義される温度T2までの平均冷却速度が80℃/sec以上となり、T2から巻取温度T3までの平均冷却速度が40℃/sec以下となり、かつT3が250〜450℃の範囲となるように冷却制御を行うことを特徴とする材質均一性、穴拡げ性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。
T2(℃)=673×C−37×Si+52×Mn−4284×S+442 ・・・(1) - 鋼がさらにB:0.0050%以下、Ca:0.0050%以下のうち1種または2種を含むものである請求項1に記載の製造方法。
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