JP3947582B2 - 不安神経症治療剤 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はN−(2−ヒドロキシエチル)ニコチンアミド硝酸エステルまたはその塩を有効成分として含有することを特徴とする不安神経症治療剤、とりわけパニック障害治療に有効な薬剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
不安神経症は不安を主症状とする広義の神経症である。1980年米国精神医学会は不安神経症という従来の概念を、パニック発作に伴うパニック障害と、全般性不安障害に分類し、DSM−IIIにまとめた。
【0003】
現在、パニック障害を含め、これら不安神経症に対し、三環系抗うつ薬やベンゾジアゼピン系抗不安薬による治療が行われているが、三環系抗うつ薬は効果の発現が遅いことや抗コリン性副作用の発現が、またベンゾジアゼピン系抗不安薬は過鎮静、離脱症状などの副作用のほか、薬物依存性を有するなどの問題が挙げられており、満足のいく治療薬がないのが現状である。
【0004】
一方、N−(2−ヒドロキシエチル)ニコチンアミド硝酸エステル(一般名:ニコランジル)は、狭心症薬として市販されている公知化合物であり、例えば特開昭52−122373号公報等に記載されている。ニコランジルは抗狭心症作用のほかにいくつかの作用が知られており、例えば循環器疾患治療剤としての効果が特開昭53−9323号公報に、また気管支拡張作用が特開昭58−85819号公報に、それぞれ開示されている。加えて、特開昭63−152317号公報には、ニコランジルが脳虚血病変を伴う疾患治療剤として有用であることが開示されており、さらに特開平3−101621号公報には、ニコランジルが水酸基ラジカル消去剤として有用であることが記載されている。しかしながら、ニコランジルをはじめこれに類似する薬剤が不安神経症、とりわけパニック障害治療効果を有することは知られていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、これまで不安神経症、ことにパニック障害治療に使用されている三環系抗うつ薬は効果の発現が遅いほか、口渇、便秘、排尿困難などの抗コリン作用による副作用や、重篤な副作用の発現が問題となっている。またベンゾジアゼピン系抗不安薬は過鎮静、離脱症状、薬物依存性、筋弛緩作用等を有することが知られている。このため、安全性が高く、パニック発作を予防、緩解あるいは続発する不安症を予防、緩解する薬物の開発が望まれている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者は、副作用が少なく、不安神経症、とりわけパニック障害に有効な薬剤について、鋭意研究を重ねた結果、N−(2−ヒドロキシエチル)ニコチンアミド硝酸エステルまたはその塩が、不安神経症の予防のみならず、続発する不安症に対しても有効であることを見出し、本発明に至った。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明における薬効成分であるN−(2−ヒドロキシエチル)ニコチンアミド硝酸エステル(一般名:ニコランジル)は、狭心症治療薬として市販されている化合物であり、本発明に使用する場合、市販のニコランジル錠剤又は注射用製剤をそのまま用いてもよいが、例えば、特開昭52−122373号公報等に記載された方法で製造したものを用いてもよい。
【0008】
本発明で用いられる薬効成分であるニコランジルは薬剤的に許容しうる有機酸または無機酸と酸付加塩を形成することができ、これらの塩も本発明に用いることができる。このような酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素塩、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、酢酸塩、サリチル酸塩、安息香酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、ピバリン酸塩、ジエチル酢酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、ピメリン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、スルファミン酸塩、フェニルプロピオン酸塩、グルコン酸塩、アスコルビン酸塩、イソニコチン酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルオールスルホン酸塩、クエン酸、アジピン酸塩またはナフタリンジスルホン酸塩等があげられる。
【0009】
本発明における不安神経症とは、不安を主症状とする神経症のことで、「なんとなく落ちつきがない」、「なんとなく恐ろしい」、「じっとしていられない」という漠然とした症状が主体であるが、心悸亢進、手指の振戦、口渇、発汗、頻尿、呼吸困難等の症状を有する疾患であると定義でき、またパニック障害はこの従来の不安神経症の1疾患として認識され、パニック発作を繰り返すことを本質的特徴とする障害(疾患または症候群)で、呼吸困難、動悸、発汗、窒息感、知覚異常等の症状のほか、死の恐怖、発狂恐怖という症状を複数有する疾患であると定義できる。本発明による薬剤は、不安神経症とりわけパニック障害の治療剤として有用であるが、これらの疾患の治療だけではなく、これらの疾患により生ずる上記症状等の治療、改善にも有用である。
【0010】
本発明において、ニコランジルまたはその塩を不安神経症、ことにパニック障害治療剤として使用する際は、適当な剤型に製剤化して用いるのが好ましく、例えば錠剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤、注射剤、乳剤、懸濁剤、坐剤、経皮吸収剤等の製剤で用いることができる。
【0011】
このような製剤は、例えば特開昭57−145659号公報、同58−39618号公報、同61−143316号公報、同62−149630号公報、同62−161727号公報、同62−252722号公報、同62−252723号公報、同63−270624号公報等に記載された方法により製造することができる。具体的には錠剤としては、例えばニコランジルまたはその塩に、有機酸、例えば、フマル酸、シュウ酸、サリチル酸、酒石酸、グルタル酸等、並びにステアリン酸、パルミチン酸等の常温で固体の飽和高級脂肪酸もしくはセチルアルコール、ステアリルアルコール等の飽和高級アルコールの1種または2種以上の混合物を含有させる方法、ニコランジルまたはその塩にフマル酸及び/又はDL−トリプトファンを混合する方法等が挙げられる。
【0012】
また注射剤としては、ニコランジルまたはその塩に、クエン酸、フマル酸、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、酒石酸等の有機酸のアルカリ金属塩を含有させる非溶液型の注射剤が用いられる。これらの製剤を製造する場合は、さらに賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、香料、着色剤等の薬学上許容しうる通常の担体を配合することが好ましく、このような担体の例としては、例えば乳糖、トウモロコシデンプン、マンニトール、カオリン、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、タルク、クロスカルメロースナトリウム、無水リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0013】
本発明においてニコランジルまたはその塩の投与量は対象患者の状態、体型、体質、年齢、性別、また投与経路、剤型等で適宜選択することができるが、一般に経口投与の場合は、投与量の下限として1日1mg〜15mgの範囲、好ましくは5〜10mgの範囲、さらに好ましくは7.5mg程度から選択でき、投与量の上限としては、1日20mg〜80mg、好ましくは25mg〜60mgの範囲、さらに好ましくは30mg程度から選択でき、1〜4回に分けて経口投与することができる。また非経口的に投与する場合は、投与量の下限としては、1日0.1mg〜12mgの範囲、好ましくは0.5mg〜6mgの範囲、さらに好ましくは1mg〜2mgの範囲から適宜選択でき、上限としては10mg〜50mgの範囲、好ましくは20mg〜30mgの範囲、さらに好ましくは24mg程度から選択でき、1〜4回に分けて投与することができるほか、1日12mg〜288mgを持続静注することもできる。
【0014】
本発明のニコランジル製剤は、さらに1種以上の他の抗うつ薬、抗不安薬またはその他の許容しうる薬剤を加えて用いてもよく、またこれらの薬剤と併用して用いることもできる。
【0015】
ここで挙げられる抗うつ薬としては、例えば塩酸イミプラミン、塩酸デシプラミン、マレイン酸トリミプラミン、塩酸クロミプラミン、塩酸ミアンセリン、塩酸アミトリプチリン、塩酸マロプチリン、スルピリド、エチゾラム、カルバマゼピン等であり、抗不安薬としては、例えばアルプラゾラム、エスタゾラム、オキサゾラム、ジアゼパム等であり、その他の薬剤としては、例えばトリアゾラム、フルニトラゼパム、フェノバルビタール、ゾピクロン等の睡眠薬、ジメンヒドリネート、塩酸ジフェニドール等の抗めまい薬、塩酸ジルチアゼム、塩酸ニフェジピン、ニトログリセリン、硝酸イソソルビド等の血管拡張薬等が挙げられる。
【0016】
【実施例】
以下に製剤例、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0017】
製剤例1 ニコランジル錠剤の製造
ニコランジル 10mg
ステアリン酸 8mg
マンニトール 65.7mg
トウモロコシデンプン 15mg
メチルセルロース 0.3mg
ステアリン酸マグネシウム 1mg
合計 100mg
マンニトール65.7g、トウモロコシデンプン15g及びメチルセルロースSM−400(信越化学製)0.3gを乳鉢中で良く混合した後、水を加えて練合した。練合物を30メッシュの篩で篩過した後、45℃で3時間乾燥した。乾燥物を30メッシュで篩過整粒し、造粒物を得た。ニコランジル10g、3メッシュで篩過したステアリン酸8g、造粒物81g及びステアリン酸マグネシウム1gをポリ袋中で混合し、1錠の重量100mg、直径7mmの金型で2000kg/cm2の圧縮圧で製錠した。
【0018】
製剤例2 ニコランジル錠剤の製造
ニコランジル 10mg
ステアリルアルコール 10mg
マンニトール 72.4mg
カルボキシメチルセルロース 5mg
カルシウム
ヒドロキシプロピルセルロース 1.6mg
ステアリン酸カルシウム 1mg
合計 100mg
35メッシュで篩過したステアリルアルコール10g、マンニトール72.4g、カルボキシメチルセルロースカルシウム5g及びヒドロキシプロピルセルロースHPC−L(日本曹達製)1.6gを乳鉢中で良く混合した後、水を加えて練合した。練合物を30メッシュの篩で篩過した後、40℃で5時間乾燥した。乾燥物を30メッシュで篩過整粒し、造粒物を得た。ニコランジル10g、造粒物89g及びステアリン酸カルシウム1gをポリ袋中で混合し、1錠の重量100mg、直径7mmの金型で2000kg/cm2の圧縮圧で製錠した。
【0019】
製剤例3 ニコランジル錠剤の製造
ニコランジル 10mg
パルミチン酸 3mg
乳糖 82mg
クロスカルメロースナトリウム 5mg
合計 100mg
ニコランジル10g、ジェット粉砕機(マイクロジェットミルFS−4型:セイシン企業製)で粉砕したパルミチン酸(平均粒径1〜3μm)3g、乳糖82g及びクロスカルメロースナトリウム(Ac−Di−Sol[登録商標]:FMC社製)5gをポリ袋中で混合し、1錠の重量100mg、直径7mmの金型で2000kg/cm2の圧縮圧で製錠した。
【0020】
製剤例4 ニコランジル錠剤の製造
ニコランジル 10mg
乳糖 76.5mg
トウモロコシデンプン 10mg
フマル酸 3mg
ステアリン酸マグネシウム 0.5mg
合計 100mg
ニコランジル結晶200g、乳糖1530g、トウモロコシデンプン200g及びフマル酸粉砕末(平均粒径約3μm)60gを品川ミキサーに入れ、20分間混合した後、ステアリン酸マグネシウム10gを加えて1分間混合する。
上記混合末を直径7mmの臼及び平型杵をセットした単発打錠機で1錠当たり100mgとなるように総圧約1トンで圧縮成型した。
【0021】
製剤例5 ニコランジルカプセル剤の製造
ニコランジル 10mg
マンニトール 44mg
カルボキシメチルセルロース 5mg
カルシウム
サリチル酸 40mg
ステアリン酸カルシウム 1mg
合計 100mg
ニコランジル結晶200g、マンニトール880g、カルボキシメチルセルロースカルシウム100g、サリチル酸結晶800g及びステアリン酸カルシウム20gをポリ袋で均一に混合した後、ローラーコンパクターで処理し、10メッシュの篩で整粒して、スラッグ顆粒とする。このスラッグ顆粒を3号カプセルに100mg充填した。
【0022】
製剤例6 ニコランジル顆粒剤の製造
ニコランジル 50mg
マンニトール 920mg
シュウ酸 10mg
トウモロコシデンプン 20mg
合計 1000mg
ニコランジル結晶100g、マンニトール1840g及びシュウ酸20gを品川ミキサーに入れ、20分間混合した後、10%トウモロコシデンプン糊400gを加えて10分間練合する。その練合物を直径1.0mmネットを装着した円筒顆粒機で顆粒化する。その顆粒を棚型乾燥機にて50℃で4時間乾燥し、10メッシュの篩にて整粒した。
【0023】
製剤例7 ニコランジル凍結乾燥製剤の製造
ニコランジル0.2g、クエン酸ナトリウム0.5g、マンニトール3gを注射用蒸留水100mlに溶解し、この溶液を無菌濾過後、バイアル瓶に1mlずつ分注し、常法に従って凍結乾燥し、凍結乾燥製剤を得た。
【0024】
実施例1
YN、男、57歳、会社員。
家族歴に特記事項なし。既往歴として多発性脳梗塞、不安神経症、高血圧症を有する。平成5年9月、多発性脳梗塞と診断され、以来不安感が強く、精神安定剤(エチゾラム)を服用していた。同年11月頃安静時に動悸が出現するようになり、更に翌年3月頃より安静時に胸苦、めまい感、ふらつき感、動悸、窒息感、のぼせ、死への恐怖、発狂恐怖に加え、不安感、不快感が強く出現するようになった。精神科を紹介受診の結果、不安神経症と診断され、それまでのエチゾラムに加え、精神安定剤(スルピリド)、抗めまい剤(ジフェニドール)、降圧剤(ニトレンジピン)による薬物治療を受けていた。濃厚な薬物治療によっても症状は軽快せず、発作が再発する以外に夜も眠れないとの訴えにより、薬物療法は継続し、それに加えてカウンセリングも試みられたが、発作は1カ月に4〜5回出現し、予期不安も伴っていた。
平成6年5月精神科より、胸痛発作の精査のため当科紹介受診した。当科受診時にはエチゾラム5錠のほか、ハロペリドール、イデベノン、チクロピジンを服用していた。受診時の血圧は140/86(mmHg)、心拍数は90(拍/分)で、血液生化学的検査は正常範囲であった。当初冠攣縮性狭心症の疑いもあるため、持続性Ca拮抗薬(塩酸ジルチアゼム100mgカプセル)1錠の内服を追加処方し、2カ月間経過観察したが、不安感や発作回数は減少しなかった。そこで同年7月よりニコランジル5mg製剤3錠を追加投与した。ニコランジル製剤によると思われる頭痛のため、投与後しばらくして患者本人の意志により服用を一時中断していたが、患者自らニコランジルの服用時は調子が良かったとの訴えにより、9月よりニコランジルの服用を再開した。その後は発作が消失したばかりか不安感も消失し、加えてこれまで減量できなかったエチゾラムの服用量も半減できた。平成7年4月より、ジルチアゼムの服用を中止し、ニコランジル7.5mg/日で経過観察したが、その後2カ月間発作は出現せず、不安感も訴えていない。
【0025】
実施例2
BT、男、63歳、無職。
家族性糖尿病を有する。本人も糖尿病を以前より指摘され、食事療法のほか糖尿病治療薬による治療歴がある。タバコは1日30本嗜好している。
昭和57年10月、12月に後頭部痛に引き続き胸痛を伴う諸症状が約1時間持続したため、心臓カテーテル検査、冠動脈造影を施行したが異常は見られなかった。昭和58年2月、エルゴノビン負荷試験、発作時の心電図所見でも異常は見られなかった。
平成5年1月深夜に胸痛発作が起こり、硝酸イソソルビド2錠舌下により、30分後に発作が消失した。心エコー図、ホルター心電図による精査を行ったが、その際も異常は認められなかった。その後は、徐放性Ca拮抗薬、徐放性硝酸イソソルビドによる治療を受けていたが、月に2〜3回の発作が認められた。更に同年5月にはニトログリセリン抵抗性の発作を月に4回認めた。その後も頻回に肩こりを伴う胸痛、頭痛、くらくら感が起こったため、同年6月入院し、運動負荷試験、アセチルコリン負荷試験、心臓カテーテル検査を施行するも冠動脈疾患を認めなかった。入院中約2日に1度、20分〜25分の発作を認めたが、発作時の心電図、心エコー図は正常であったこと、硝酸薬の舌下によっても容易に胸痛が消失しないことから、狭心症は否定された。更に腹部エコー図も異常がなく、心臓神経症と診断され、精神安定剤(エチゾラム)を処方、服用していた。
平成7年2月、胸痛に伴う諸症状が頻発し、ニトログリセリン舌下によっても消失しないため、当科外来を受診した。発作時の心電図所見は正常で、血液生化学的検査でコレステロール値が若干高値を示す以外は異常はみられなかった。持続性Ca拮抗薬(ジルチアゼム100mgカプセル)2錠およびニコランジル15mg/日を処方したところ、発作が完全消失した。同年5月に持続性Ca拮抗薬を中止し、ニコランジル15mg/日のみで経過観察中であるが、2カ月間発作は出現していない。
【0026】
実施例3
MI、男、44歳、会社員。
家族歴に特記事項なし、高血圧症を有しており、降圧剤(プラゾシン)による治療を受けていた。タバコは1日約30本嗜好している。
平成6年3月より特に誘因なく3〜4回/月の頻度で、めまいの後に動悸、胸苦、過呼吸症状等がおこり、約1〜2時間つづき自然軽快していた。
平成7年4月、当科受診時の血圧は130/80(mmHg)、心拍数は70(拍/分)で、血液生化学的検査は正常範囲、また胸部X線撮影、心電図で心肺機能に異常は認めなかった。なお、心電図所見は洞頻脈を認めるのみで虚血性変化は認められないため、狭心症を否定し、また甲状腺機能は正常であることからパニック発作を伴う不安神経症と診断した。ニコランジル7.5mg/日を投与しはじめてからは不安感が消失し、その後2カ月の経過観察中、一度も発作を起こしていない。なお他の併用薬はない。
【0027】
実施例4
SI、男、54歳、会社員。
家族歴に特記事項なし。皮膚アミロイドーシス、高血圧症を有しており、降圧剤(エナラプリル)による治療を受けていた。大阪に単身赴任しているが、平成7年3月より洗面時に胸部圧迫感を来し、続いて冷感、過呼吸症状、窒息感、不安感が出現し、30分間持続した。その後同様の発作が1カ月に5回起こったため、会社を休んで帰郷し、来院した。
平成7年5月当科受診時の血圧は206/110(mmHg)、心拍数は70(拍/分)であった。血液生化学的検査では異常を認めず、胸部X線撮影、心電図所見、心エコー図は正常であったため、狭心症を否定しパニック発作を伴う不安神経症と診断された。
ニコランジル15mg/日を投与しはじめてから2カ月の経過観察中発作は出現せず、不安感も消失したため職場へ復帰した。なお、高血圧症に関しては降圧剤(エナラプリル5mg)1錠を服用しているが、その他の併用薬はない。
【0028】
実施例5
TI、男、43歳、教員。
家族歴、既往症ともに特記事項はないが、粘着気質である。平成6年米国留学中に胸痛、胸部不快感、冷感、不眠、不安感、動悸、息切れ、頻呼吸、死への恐怖を来すようになり、循環器専門医にかかったが、心電図、運動負荷試験、心エコー図で異常は認められなかったため、不安神経症と診断されていた。その後エチゾラムによる薬物治療を受けていたが、症状は消失していなかった。同年12月に帰国後も同様の発作を1〜2回/月認めるとともに不安感が強く、平成7年1月、4月、6月に当院救急外来を受診したが、心電図上洞頻脈を認めるのみで虚血変化は認められず、心疾患は否定されていた。
平成7年6月の当科受診時の血圧は130/80(mmHg)、心拍数は95(拍/分)で、血液生化学的検査、甲状腺機能は正常範囲内であった。またホルター心電図による精査では、発作時に120〜140(拍/分)の洞頻脈を認めたものの、虚血性変化は認められなかったため、これまでの症状と同様パニック発作を伴う不安神経症と診断した。これまで精神安定剤(エチゾラム)、抗不安薬(アルプラゾラム)の服用を勧められていたが、エチゾラムの服用では身体がだるくなるためあまり服用せず、またアルプラゾラムは眠くなるため入眠時のみ服用していた。そのためエチゾラムの服用を中止し、アルプラゾラムに加えニコランジル7.5mg/日の内服をはじめたが、その後は発作や不安感は完全に消失し、職場復帰ができた。
【0029】
【発明の効果】
パニック障害をはじめとする不安障害に対しては、一般に三環系抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系抗不安薬による薬物治療が行われるが、効果の発現が遅いほか、重篤な副作用発現の危険性、薬物依存の問題など、安全性にも問題点を有する。一方、本発明によって見いだされた、ニコランジルによる不安神経症の治療は、安全性にも問題が少なく、かつ速効性が得られるため、理想的な不安神経症治療剤になると考えられる。
【発明の属する技術分野】
本発明はN−(2−ヒドロキシエチル)ニコチンアミド硝酸エステルまたはその塩を有効成分として含有することを特徴とする不安神経症治療剤、とりわけパニック障害治療に有効な薬剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
不安神経症は不安を主症状とする広義の神経症である。1980年米国精神医学会は不安神経症という従来の概念を、パニック発作に伴うパニック障害と、全般性不安障害に分類し、DSM−IIIにまとめた。
【0003】
現在、パニック障害を含め、これら不安神経症に対し、三環系抗うつ薬やベンゾジアゼピン系抗不安薬による治療が行われているが、三環系抗うつ薬は効果の発現が遅いことや抗コリン性副作用の発現が、またベンゾジアゼピン系抗不安薬は過鎮静、離脱症状などの副作用のほか、薬物依存性を有するなどの問題が挙げられており、満足のいく治療薬がないのが現状である。
【0004】
一方、N−(2−ヒドロキシエチル)ニコチンアミド硝酸エステル(一般名:ニコランジル)は、狭心症薬として市販されている公知化合物であり、例えば特開昭52−122373号公報等に記載されている。ニコランジルは抗狭心症作用のほかにいくつかの作用が知られており、例えば循環器疾患治療剤としての効果が特開昭53−9323号公報に、また気管支拡張作用が特開昭58−85819号公報に、それぞれ開示されている。加えて、特開昭63−152317号公報には、ニコランジルが脳虚血病変を伴う疾患治療剤として有用であることが開示されており、さらに特開平3−101621号公報には、ニコランジルが水酸基ラジカル消去剤として有用であることが記載されている。しかしながら、ニコランジルをはじめこれに類似する薬剤が不安神経症、とりわけパニック障害治療効果を有することは知られていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、これまで不安神経症、ことにパニック障害治療に使用されている三環系抗うつ薬は効果の発現が遅いほか、口渇、便秘、排尿困難などの抗コリン作用による副作用や、重篤な副作用の発現が問題となっている。またベンゾジアゼピン系抗不安薬は過鎮静、離脱症状、薬物依存性、筋弛緩作用等を有することが知られている。このため、安全性が高く、パニック発作を予防、緩解あるいは続発する不安症を予防、緩解する薬物の開発が望まれている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者は、副作用が少なく、不安神経症、とりわけパニック障害に有効な薬剤について、鋭意研究を重ねた結果、N−(2−ヒドロキシエチル)ニコチンアミド硝酸エステルまたはその塩が、不安神経症の予防のみならず、続発する不安症に対しても有効であることを見出し、本発明に至った。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明における薬効成分であるN−(2−ヒドロキシエチル)ニコチンアミド硝酸エステル(一般名:ニコランジル)は、狭心症治療薬として市販されている化合物であり、本発明に使用する場合、市販のニコランジル錠剤又は注射用製剤をそのまま用いてもよいが、例えば、特開昭52−122373号公報等に記載された方法で製造したものを用いてもよい。
【0008】
本発明で用いられる薬効成分であるニコランジルは薬剤的に許容しうる有機酸または無機酸と酸付加塩を形成することができ、これらの塩も本発明に用いることができる。このような酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素塩、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、酢酸塩、サリチル酸塩、安息香酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、ピバリン酸塩、ジエチル酢酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、ピメリン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、スルファミン酸塩、フェニルプロピオン酸塩、グルコン酸塩、アスコルビン酸塩、イソニコチン酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルオールスルホン酸塩、クエン酸、アジピン酸塩またはナフタリンジスルホン酸塩等があげられる。
【0009】
本発明における不安神経症とは、不安を主症状とする神経症のことで、「なんとなく落ちつきがない」、「なんとなく恐ろしい」、「じっとしていられない」という漠然とした症状が主体であるが、心悸亢進、手指の振戦、口渇、発汗、頻尿、呼吸困難等の症状を有する疾患であると定義でき、またパニック障害はこの従来の不安神経症の1疾患として認識され、パニック発作を繰り返すことを本質的特徴とする障害(疾患または症候群)で、呼吸困難、動悸、発汗、窒息感、知覚異常等の症状のほか、死の恐怖、発狂恐怖という症状を複数有する疾患であると定義できる。本発明による薬剤は、不安神経症とりわけパニック障害の治療剤として有用であるが、これらの疾患の治療だけではなく、これらの疾患により生ずる上記症状等の治療、改善にも有用である。
【0010】
本発明において、ニコランジルまたはその塩を不安神経症、ことにパニック障害治療剤として使用する際は、適当な剤型に製剤化して用いるのが好ましく、例えば錠剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤、注射剤、乳剤、懸濁剤、坐剤、経皮吸収剤等の製剤で用いることができる。
【0011】
このような製剤は、例えば特開昭57−145659号公報、同58−39618号公報、同61−143316号公報、同62−149630号公報、同62−161727号公報、同62−252722号公報、同62−252723号公報、同63−270624号公報等に記載された方法により製造することができる。具体的には錠剤としては、例えばニコランジルまたはその塩に、有機酸、例えば、フマル酸、シュウ酸、サリチル酸、酒石酸、グルタル酸等、並びにステアリン酸、パルミチン酸等の常温で固体の飽和高級脂肪酸もしくはセチルアルコール、ステアリルアルコール等の飽和高級アルコールの1種または2種以上の混合物を含有させる方法、ニコランジルまたはその塩にフマル酸及び/又はDL−トリプトファンを混合する方法等が挙げられる。
【0012】
また注射剤としては、ニコランジルまたはその塩に、クエン酸、フマル酸、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、酒石酸等の有機酸のアルカリ金属塩を含有させる非溶液型の注射剤が用いられる。これらの製剤を製造する場合は、さらに賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、香料、着色剤等の薬学上許容しうる通常の担体を配合することが好ましく、このような担体の例としては、例えば乳糖、トウモロコシデンプン、マンニトール、カオリン、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、タルク、クロスカルメロースナトリウム、無水リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0013】
本発明においてニコランジルまたはその塩の投与量は対象患者の状態、体型、体質、年齢、性別、また投与経路、剤型等で適宜選択することができるが、一般に経口投与の場合は、投与量の下限として1日1mg〜15mgの範囲、好ましくは5〜10mgの範囲、さらに好ましくは7.5mg程度から選択でき、投与量の上限としては、1日20mg〜80mg、好ましくは25mg〜60mgの範囲、さらに好ましくは30mg程度から選択でき、1〜4回に分けて経口投与することができる。また非経口的に投与する場合は、投与量の下限としては、1日0.1mg〜12mgの範囲、好ましくは0.5mg〜6mgの範囲、さらに好ましくは1mg〜2mgの範囲から適宜選択でき、上限としては10mg〜50mgの範囲、好ましくは20mg〜30mgの範囲、さらに好ましくは24mg程度から選択でき、1〜4回に分けて投与することができるほか、1日12mg〜288mgを持続静注することもできる。
【0014】
本発明のニコランジル製剤は、さらに1種以上の他の抗うつ薬、抗不安薬またはその他の許容しうる薬剤を加えて用いてもよく、またこれらの薬剤と併用して用いることもできる。
【0015】
ここで挙げられる抗うつ薬としては、例えば塩酸イミプラミン、塩酸デシプラミン、マレイン酸トリミプラミン、塩酸クロミプラミン、塩酸ミアンセリン、塩酸アミトリプチリン、塩酸マロプチリン、スルピリド、エチゾラム、カルバマゼピン等であり、抗不安薬としては、例えばアルプラゾラム、エスタゾラム、オキサゾラム、ジアゼパム等であり、その他の薬剤としては、例えばトリアゾラム、フルニトラゼパム、フェノバルビタール、ゾピクロン等の睡眠薬、ジメンヒドリネート、塩酸ジフェニドール等の抗めまい薬、塩酸ジルチアゼム、塩酸ニフェジピン、ニトログリセリン、硝酸イソソルビド等の血管拡張薬等が挙げられる。
【0016】
【実施例】
以下に製剤例、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0017】
製剤例1 ニコランジル錠剤の製造
ニコランジル 10mg
ステアリン酸 8mg
マンニトール 65.7mg
トウモロコシデンプン 15mg
メチルセルロース 0.3mg
ステアリン酸マグネシウム 1mg
合計 100mg
マンニトール65.7g、トウモロコシデンプン15g及びメチルセルロースSM−400(信越化学製)0.3gを乳鉢中で良く混合した後、水を加えて練合した。練合物を30メッシュの篩で篩過した後、45℃で3時間乾燥した。乾燥物を30メッシュで篩過整粒し、造粒物を得た。ニコランジル10g、3メッシュで篩過したステアリン酸8g、造粒物81g及びステアリン酸マグネシウム1gをポリ袋中で混合し、1錠の重量100mg、直径7mmの金型で2000kg/cm2の圧縮圧で製錠した。
【0018】
製剤例2 ニコランジル錠剤の製造
ニコランジル 10mg
ステアリルアルコール 10mg
マンニトール 72.4mg
カルボキシメチルセルロース 5mg
カルシウム
ヒドロキシプロピルセルロース 1.6mg
ステアリン酸カルシウム 1mg
合計 100mg
35メッシュで篩過したステアリルアルコール10g、マンニトール72.4g、カルボキシメチルセルロースカルシウム5g及びヒドロキシプロピルセルロースHPC−L(日本曹達製)1.6gを乳鉢中で良く混合した後、水を加えて練合した。練合物を30メッシュの篩で篩過した後、40℃で5時間乾燥した。乾燥物を30メッシュで篩過整粒し、造粒物を得た。ニコランジル10g、造粒物89g及びステアリン酸カルシウム1gをポリ袋中で混合し、1錠の重量100mg、直径7mmの金型で2000kg/cm2の圧縮圧で製錠した。
【0019】
製剤例3 ニコランジル錠剤の製造
ニコランジル 10mg
パルミチン酸 3mg
乳糖 82mg
クロスカルメロースナトリウム 5mg
合計 100mg
ニコランジル10g、ジェット粉砕機(マイクロジェットミルFS−4型:セイシン企業製)で粉砕したパルミチン酸(平均粒径1〜3μm)3g、乳糖82g及びクロスカルメロースナトリウム(Ac−Di−Sol[登録商標]:FMC社製)5gをポリ袋中で混合し、1錠の重量100mg、直径7mmの金型で2000kg/cm2の圧縮圧で製錠した。
【0020】
製剤例4 ニコランジル錠剤の製造
ニコランジル 10mg
乳糖 76.5mg
トウモロコシデンプン 10mg
フマル酸 3mg
ステアリン酸マグネシウム 0.5mg
合計 100mg
ニコランジル結晶200g、乳糖1530g、トウモロコシデンプン200g及びフマル酸粉砕末(平均粒径約3μm)60gを品川ミキサーに入れ、20分間混合した後、ステアリン酸マグネシウム10gを加えて1分間混合する。
上記混合末を直径7mmの臼及び平型杵をセットした単発打錠機で1錠当たり100mgとなるように総圧約1トンで圧縮成型した。
【0021】
製剤例5 ニコランジルカプセル剤の製造
ニコランジル 10mg
マンニトール 44mg
カルボキシメチルセルロース 5mg
カルシウム
サリチル酸 40mg
ステアリン酸カルシウム 1mg
合計 100mg
ニコランジル結晶200g、マンニトール880g、カルボキシメチルセルロースカルシウム100g、サリチル酸結晶800g及びステアリン酸カルシウム20gをポリ袋で均一に混合した後、ローラーコンパクターで処理し、10メッシュの篩で整粒して、スラッグ顆粒とする。このスラッグ顆粒を3号カプセルに100mg充填した。
【0022】
製剤例6 ニコランジル顆粒剤の製造
ニコランジル 50mg
マンニトール 920mg
シュウ酸 10mg
トウモロコシデンプン 20mg
合計 1000mg
ニコランジル結晶100g、マンニトール1840g及びシュウ酸20gを品川ミキサーに入れ、20分間混合した後、10%トウモロコシデンプン糊400gを加えて10分間練合する。その練合物を直径1.0mmネットを装着した円筒顆粒機で顆粒化する。その顆粒を棚型乾燥機にて50℃で4時間乾燥し、10メッシュの篩にて整粒した。
【0023】
製剤例7 ニコランジル凍結乾燥製剤の製造
ニコランジル0.2g、クエン酸ナトリウム0.5g、マンニトール3gを注射用蒸留水100mlに溶解し、この溶液を無菌濾過後、バイアル瓶に1mlずつ分注し、常法に従って凍結乾燥し、凍結乾燥製剤を得た。
【0024】
実施例1
YN、男、57歳、会社員。
家族歴に特記事項なし。既往歴として多発性脳梗塞、不安神経症、高血圧症を有する。平成5年9月、多発性脳梗塞と診断され、以来不安感が強く、精神安定剤(エチゾラム)を服用していた。同年11月頃安静時に動悸が出現するようになり、更に翌年3月頃より安静時に胸苦、めまい感、ふらつき感、動悸、窒息感、のぼせ、死への恐怖、発狂恐怖に加え、不安感、不快感が強く出現するようになった。精神科を紹介受診の結果、不安神経症と診断され、それまでのエチゾラムに加え、精神安定剤(スルピリド)、抗めまい剤(ジフェニドール)、降圧剤(ニトレンジピン)による薬物治療を受けていた。濃厚な薬物治療によっても症状は軽快せず、発作が再発する以外に夜も眠れないとの訴えにより、薬物療法は継続し、それに加えてカウンセリングも試みられたが、発作は1カ月に4〜5回出現し、予期不安も伴っていた。
平成6年5月精神科より、胸痛発作の精査のため当科紹介受診した。当科受診時にはエチゾラム5錠のほか、ハロペリドール、イデベノン、チクロピジンを服用していた。受診時の血圧は140/86(mmHg)、心拍数は90(拍/分)で、血液生化学的検査は正常範囲であった。当初冠攣縮性狭心症の疑いもあるため、持続性Ca拮抗薬(塩酸ジルチアゼム100mgカプセル)1錠の内服を追加処方し、2カ月間経過観察したが、不安感や発作回数は減少しなかった。そこで同年7月よりニコランジル5mg製剤3錠を追加投与した。ニコランジル製剤によると思われる頭痛のため、投与後しばらくして患者本人の意志により服用を一時中断していたが、患者自らニコランジルの服用時は調子が良かったとの訴えにより、9月よりニコランジルの服用を再開した。その後は発作が消失したばかりか不安感も消失し、加えてこれまで減量できなかったエチゾラムの服用量も半減できた。平成7年4月より、ジルチアゼムの服用を中止し、ニコランジル7.5mg/日で経過観察したが、その後2カ月間発作は出現せず、不安感も訴えていない。
【0025】
実施例2
BT、男、63歳、無職。
家族性糖尿病を有する。本人も糖尿病を以前より指摘され、食事療法のほか糖尿病治療薬による治療歴がある。タバコは1日30本嗜好している。
昭和57年10月、12月に後頭部痛に引き続き胸痛を伴う諸症状が約1時間持続したため、心臓カテーテル検査、冠動脈造影を施行したが異常は見られなかった。昭和58年2月、エルゴノビン負荷試験、発作時の心電図所見でも異常は見られなかった。
平成5年1月深夜に胸痛発作が起こり、硝酸イソソルビド2錠舌下により、30分後に発作が消失した。心エコー図、ホルター心電図による精査を行ったが、その際も異常は認められなかった。その後は、徐放性Ca拮抗薬、徐放性硝酸イソソルビドによる治療を受けていたが、月に2〜3回の発作が認められた。更に同年5月にはニトログリセリン抵抗性の発作を月に4回認めた。その後も頻回に肩こりを伴う胸痛、頭痛、くらくら感が起こったため、同年6月入院し、運動負荷試験、アセチルコリン負荷試験、心臓カテーテル検査を施行するも冠動脈疾患を認めなかった。入院中約2日に1度、20分〜25分の発作を認めたが、発作時の心電図、心エコー図は正常であったこと、硝酸薬の舌下によっても容易に胸痛が消失しないことから、狭心症は否定された。更に腹部エコー図も異常がなく、心臓神経症と診断され、精神安定剤(エチゾラム)を処方、服用していた。
平成7年2月、胸痛に伴う諸症状が頻発し、ニトログリセリン舌下によっても消失しないため、当科外来を受診した。発作時の心電図所見は正常で、血液生化学的検査でコレステロール値が若干高値を示す以外は異常はみられなかった。持続性Ca拮抗薬(ジルチアゼム100mgカプセル)2錠およびニコランジル15mg/日を処方したところ、発作が完全消失した。同年5月に持続性Ca拮抗薬を中止し、ニコランジル15mg/日のみで経過観察中であるが、2カ月間発作は出現していない。
【0026】
実施例3
MI、男、44歳、会社員。
家族歴に特記事項なし、高血圧症を有しており、降圧剤(プラゾシン)による治療を受けていた。タバコは1日約30本嗜好している。
平成6年3月より特に誘因なく3〜4回/月の頻度で、めまいの後に動悸、胸苦、過呼吸症状等がおこり、約1〜2時間つづき自然軽快していた。
平成7年4月、当科受診時の血圧は130/80(mmHg)、心拍数は70(拍/分)で、血液生化学的検査は正常範囲、また胸部X線撮影、心電図で心肺機能に異常は認めなかった。なお、心電図所見は洞頻脈を認めるのみで虚血性変化は認められないため、狭心症を否定し、また甲状腺機能は正常であることからパニック発作を伴う不安神経症と診断した。ニコランジル7.5mg/日を投与しはじめてからは不安感が消失し、その後2カ月の経過観察中、一度も発作を起こしていない。なお他の併用薬はない。
【0027】
実施例4
SI、男、54歳、会社員。
家族歴に特記事項なし。皮膚アミロイドーシス、高血圧症を有しており、降圧剤(エナラプリル)による治療を受けていた。大阪に単身赴任しているが、平成7年3月より洗面時に胸部圧迫感を来し、続いて冷感、過呼吸症状、窒息感、不安感が出現し、30分間持続した。その後同様の発作が1カ月に5回起こったため、会社を休んで帰郷し、来院した。
平成7年5月当科受診時の血圧は206/110(mmHg)、心拍数は70(拍/分)であった。血液生化学的検査では異常を認めず、胸部X線撮影、心電図所見、心エコー図は正常であったため、狭心症を否定しパニック発作を伴う不安神経症と診断された。
ニコランジル15mg/日を投与しはじめてから2カ月の経過観察中発作は出現せず、不安感も消失したため職場へ復帰した。なお、高血圧症に関しては降圧剤(エナラプリル5mg)1錠を服用しているが、その他の併用薬はない。
【0028】
実施例5
TI、男、43歳、教員。
家族歴、既往症ともに特記事項はないが、粘着気質である。平成6年米国留学中に胸痛、胸部不快感、冷感、不眠、不安感、動悸、息切れ、頻呼吸、死への恐怖を来すようになり、循環器専門医にかかったが、心電図、運動負荷試験、心エコー図で異常は認められなかったため、不安神経症と診断されていた。その後エチゾラムによる薬物治療を受けていたが、症状は消失していなかった。同年12月に帰国後も同様の発作を1〜2回/月認めるとともに不安感が強く、平成7年1月、4月、6月に当院救急外来を受診したが、心電図上洞頻脈を認めるのみで虚血変化は認められず、心疾患は否定されていた。
平成7年6月の当科受診時の血圧は130/80(mmHg)、心拍数は95(拍/分)で、血液生化学的検査、甲状腺機能は正常範囲内であった。またホルター心電図による精査では、発作時に120〜140(拍/分)の洞頻脈を認めたものの、虚血性変化は認められなかったため、これまでの症状と同様パニック発作を伴う不安神経症と診断した。これまで精神安定剤(エチゾラム)、抗不安薬(アルプラゾラム)の服用を勧められていたが、エチゾラムの服用では身体がだるくなるためあまり服用せず、またアルプラゾラムは眠くなるため入眠時のみ服用していた。そのためエチゾラムの服用を中止し、アルプラゾラムに加えニコランジル7.5mg/日の内服をはじめたが、その後は発作や不安感は完全に消失し、職場復帰ができた。
【0029】
【発明の効果】
パニック障害をはじめとする不安障害に対しては、一般に三環系抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系抗不安薬による薬物治療が行われるが、効果の発現が遅いほか、重篤な副作用発現の危険性、薬物依存の問題など、安全性にも問題点を有する。一方、本発明によって見いだされた、ニコランジルによる不安神経症の治療は、安全性にも問題が少なく、かつ速効性が得られるため、理想的な不安神経症治療剤になると考えられる。
Claims (2)
- N−(2−ヒドロキシエチル)ニコチンアミド硝酸エステルまたはその塩を有効成分として含有することを特徴とする不安神経症治療剤。
- N−(2−ヒドロキシエチル)ニコチンアミド硝酸エステルまたはその塩を有効成分として含有することを特徴とするパニック障害治療剤。
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