JP3944444B2 - 内燃機関の燃料噴射制御装置 - Google Patents

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  • Electrical Control Of Air Or Fuel Supplied To Internal-Combustion Engine (AREA)

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関の燃料噴射制御装置に係り、特に、ポート噴射型の内燃機関の燃料噴射量を制御するうえで好適な燃料噴射制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポート噴射型の内燃機関においては、吸気通路に配置された燃料噴射弁によって、吸気ポート内部に燃料が噴射される。このようにして噴射された燃料は、吸気バルブの開弁に伴い、筒内負圧が吸気ポートに導かれることにより、空気と共に筒内に吸入される。吸気ポートに噴射された燃料の一部は、その内壁などに付着する。定常状態ではその燃料付着量が一定となり、筒内に吸入される燃料の量は、噴射される燃料の量と等しくなる。
【0003】
ところが、内燃機関の過渡運転時には、吸入空気量や燃料噴射量が変化することにより、その燃料付着量にも増減が生ずる。そして、この増減が生ずる間は、筒内に吸入される燃料の量と、噴射される燃料の量との間にずれが生ずる。従って、過渡運転時に所望量の燃料を筒内に吸入させるためには、上記燃料付着量の増減が相殺されるように燃料噴射量を補正することが必要である。
【0004】
特許第2754744号公報は、ポート噴射型の内燃機関において、燃料噴射量に上記の補正を施す燃料噴射量制御装置を開示している。この装置は、吸気ポートへの燃料の燃料付着量を状態変数とする燃料挙動モデルを有している。燃料挙動モデルのパラメータは、内燃機関の運転状態により更新される。そして、この装置は、内燃機関の運転状態に応じて更新された燃料挙動モデルに則って燃料付着量を算出し、その算出量に基づいて燃料噴射量の補正を行う。
【0005】
【特許文献1】
特許2754744号公報
【特許文献2】
特許2705298号公報
【特許文献3】
特開平8−21274号公報
【特許文献4】
特開平6−93528号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来の装置において、燃料挙動モデルのパラメータは、内燃機関の運転状態との関係で、より具体的には、吸気管圧力Pm、機関回転数NE、或いは吸気温度THA等、内燃機関の運転状態を表す状態量との関係で定められる適合値である。このような燃料挙動モデルにおいて高い精度を確保するためには、多大な適合工数を費やしてパラメータの適合精度を高めることが必要である。一方で、内燃機関の運転状態に基づいて定める適合値をパラメータとする燃料挙動モデルでは、その精度に限界がある。このため、上記従来の装置は、その開発に多大な工数を要する反面、燃料噴射量の補正精度に関して、未だ改善の余地を残すものであった。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、吸気ポート内部の状態量に基づいて、燃料付着量に関するモデルに則ってその燃料付着量を算出することにより、常に高い精度で燃料噴射量を補正することのできる内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、内燃機関の燃料噴射制御装置であって、
吸気ポートの内部に燃料を噴射する燃料噴射弁と、
前記吸気ポートの内部状態を表すポート内状態量を取得するポート内状態量取得手段と、
前記吸気ポートの内部での燃料の蒸発挙動を表すべく、前記ポート内状態量をパラメータとして記述された数式モデルを記憶するモデル記憶手段と、
吸気工程終了時に前記吸気ポートの内部に残留する付着燃料の量を算出するための燃料制御パラメータを、前記ポート内状態量に基づいて、前記数式モデルに則って算出する燃料制御パラメータ算出手段と、
前記燃料制御パラメータに基づいて、前記付着燃料の量を算出する付着燃料量算出手段と、
前記付着燃料の影響を排除すべく燃料噴射量に補正を施す噴射量補正手段と、を備え、 前記数式モデルは、
前記燃料噴射弁から噴射される噴射燃料の、前記吸気ポート内部における飛行過程での蒸発挙動を表す飛行蒸発モデルと、
前記噴射燃料の壁面反射による蒸発挙動を表す反射蒸発モデルと、
前記噴射燃料が、前記吸気ポートの内部に付着した後、吸気工程が終了する以前に混合気中に蒸発する際の挙動を表す付着後蒸発挙動モデルと、
前記付着燃料の、前記吸気ポート内部における蒸発挙動を表す付着燃料蒸発挙動モデルと、を含み、
前記燃料制御パラメータ算出手段は、
前記飛行蒸発モデル、前記反射蒸発モデル、および前記付着後蒸発挙動モデルを用いて第1の燃料制御パラメータを算出する第1算出手段と、
前記付着燃料蒸発挙動モデルに則って第2の燃料制御パラメータを算出する第2算出手段とを含むことを特徴とする。
【0009】
また、第2の発明は、吸気ポートの内部に燃料を噴射する燃料噴射弁と、
前記吸気ポートの内部状態を表すポート内状態量を取得するポート内状態量取得手段と、
前記吸気ポートの内部での燃料の蒸発挙動を表すべく、前記ポート内状態量をパラメータとして記述された数式モデルを記憶するモデル記憶手段と、
吸気工程終了時に前記吸気ポートの内部に残留する付着燃料の量を算出するための燃料制御パラメータを、前記ポート内状態量に基づいて、前記数式モデルに則って算出する燃料制御パラメータ算出手段と、
前記燃料制御パラメータに基づいて、前記付着燃料の量を算出する付着燃料量算出手段と、
前記付着燃料の影響を排除すべく燃料噴射量に補正を施す噴射量補正手段と、を備え、 前記数式モデルは、
前記燃料噴射弁から噴射される噴射燃料の、前記吸気ポート内部における蒸発挙動を表す噴射燃料蒸発挙動モデルと、
前記付着燃料の、吸気バルブの閉弁中における蒸発挙動を表す閉弁中蒸発挙動モデルと、
前記付着燃料の、前記吸気バルブの開弁中における蒸発挙動を表す開弁中蒸発挙動モデルと、を含み、
前記燃料制御パラメータ算出手段は、
前記噴射燃料蒸発挙動モデルに則って第1の燃料制御パラメータを算出する第1算出手段と、
前記閉弁中蒸発挙動モデルおよび前記開弁中蒸発挙動モデルの双方を用いて第2の燃料制御パラメータを算出する第2算出手段とを含むことを特徴とする。
【0010】
また、第3の発明は、吸気ポートの内部に燃料を噴射する燃料噴射弁と、
前記吸気ポートの内部状態を表すポート内状態量を取得するポート内状態量取得手段と、
前記吸気ポートの内部での燃料の蒸発挙動を表すべく、前記ポート内状態量をパラメータとして記述された数式モデルを記憶するモデル記憶手段と、
吸気工程終了時に前記吸気ポートの内部に残留する付着燃料の量を算出するための燃料制御パラメータを、前記ポート内状態量に基づいて、前記数式モデルに則って算出する燃料制御パラメータ算出手段と、
前記燃料制御パラメータに基づいて、前記付着燃料の量を算出する付着燃料量算出手段と、
前記付着燃料の影響を排除すべく燃料噴射量に補正を施す噴射量補正手段と、
前記付着燃料が液だれにより減少する量を推定する液だれ量推定手段と、を備え、
前記燃料制御パラメータ算出手段は、前記燃料制御パラメータに、前記液だれの影響を加味する液だれ加味手段を備えることを特徴とする。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照してこの発明の実施の形態について説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0018】
実施の形態1.
[システム構成の説明]
図1は、本発明の実施の形態1の構成を説明するための図である。図1に示す構成は、内燃機関10を備えている。内燃機関10には、吸気通路12および排気通路14が連通している。吸気通路12は、上流側の端部にエアフィルタ16を備えている。エアフィルタ16には、吸気温センサ18が組み付けられている。
【0019】
エアフィルタ16の下流には、エアフロメータ20が配置されている。エアフロメータ20は、吸気通路12を流れる吸入空気量GAを検出するセンサである。エアフロメータ20の下流には、スロットルバルブ22が設けられている。スロットルバルブ22の近傍には、スロットル開度TAを検出するスロットルセンサ24と、スロットルバルブ22が全閉となることでオンとなるアイドルスイッチ26とが配置されている。
【0020】
スロットルバルブ22の下流には、サージタンク28が設けられている。また、サージタンクの更に下流には、内燃機関10の吸気ポート30に燃料を噴射するための燃料噴射弁32が配置されている。
【0021】
内燃機関10は、吸気バルブ34を駆動する可変バルブタイミング(VVT)機構36、および排気弁38を駆動するVVT機構40を備えている。更に、内燃機関10は、冷却水温THWを検出する水温センサ42、および機関回転数NEを検出する回転数センサ44を備えている。
【0022】
本実施形態のシステムは、ECU(Electronic Control Unit)50を備えている。ECU50には、上述した各種センサと共に、燃料噴射弁32や、VVT機構36,40が接続されている。ECU50は、燃料噴射弁32を駆動して所望の燃料を噴射させることができると共に、VVT機構36,40の状態を検出し、また、それらを適当に駆動することができる。
【0023】
[燃料噴射量補正の必要性]
図2は、吸気ポート30近傍の拡大図である。以下、図2に示すように、燃料噴射弁32から噴射される燃料の量を「燃料付着量fi」、吸気ポート30の壁面または吸気バルブ34の表面に付着する燃料の量を「燃料付着量fw」、筒内に吸入される燃料の量を「燃料吸入量fc」と記す。
【0024】
燃料付着量fiは、以下に示す▲1▼および▲2▼に区分することができる。
▲1▼:ポートやバルブに付着して燃料付着量fwの一部となる部分。
▲2▼:筒内に直接吸入されて燃料吸入量fcの一部となる部分。
また、燃料付着量fwは、以下に示す▲3▼および▲4▼に区分することができる。
▲3▼:1サイクル後になお燃料付着量fwのまま残存する部分。
▲4▼:1サイクルの過程で離脱して燃料吸入量fcの一部となる部分。
【0025】
上記の区分によれば、1サイクル当たりの燃料吸入量fcは、▲2▼+▲4▼と表すことができる。定常状態では、▲1▼=▲4▼が成立し、燃料吸入量fc=▲2▼+▲4▼は、▲1▼+▲2▼と等量、つまり、燃料付着量fiと等量となる。従って、定常状態では、燃料付着量fwの影響を考慮することなく、燃料付着量fiが目標の燃料吸入量fcと一致するように燃料噴射弁32を制御すれば、所望の空燃比A/Fを実現することができる。
【0026】
図3は、吸入空気量Vと燃料付着量fwとの関係を示す図である。図3に示すように、燃料付着量fwは、吸入空気量Vの変化に伴って変化する。従って、内燃機関10の運転状態がAからBに変化し、これに伴って吸入空気量VにV(B−A)の変化が生じた場合、その前後で一定の空燃比A/Fを維持するためには、吸入空気量Vの変化量V(B−A)に見合った量だけ燃料噴射量fiを変化させると共に、燃料付着量fwがfw(A)からfw(B)に増加する間だけ、その増加分を補うべく、燃料噴射量fiを増量補正する必要が生ずる。
【0027】
[制御の基本的考え方の説明]
本実施形態の装置は、内燃機関10の過渡運転時に、燃料付着量fwの変化分を相殺するための燃料噴射量補正を行う。以下、図4を参照して、その補正を実現するうえでの基本的な考え方について説明する。
【0028】
図4は、内燃機関の始動直後に噴射された燃料の内訳を、クランク角CAとの関係で示したシミュレーション結果である。この図において、縦軸は、吸気ポート30内に残存する内訳それぞれの質量の、燃料噴射量fiに対する割合(質量割合)である。符号▲1▼を付して示す波形は、吸気ポート内に残存する燃料の総量(Total)の質量割合を示す。
【0029】
吸気バルブ34が開かれるまでは、噴射された燃料の全てが吸気ポート30の内部に留まる。このため、Total▲1▼は、吸気バルブの開弁時期までは1.0を維持する。なお、図4中、Total▲1▼がバルブの開弁前に多少1.0より小さな値になっているのは、シミュレーション上の誤差である。Total▲1▼は、吸気バルブ34が開かれ、燃料が筒内に吸入される過程において減少する。そして、吸気バルブ34が閉じられ、燃料の吸入が終了されると、その後、一定の値に維持される。
【0030】
符号▲2▼を付して示す波形は、液滴の形態で存在する燃料(Drop)の質量割合である。Drop▲2▼は、燃料の噴射直後に急激に増加し、その後、液滴が気化することにより、および、付着燃料となることにより、急激に減少する。
【0031】
符号▲3▼を付して示す波形は、吸気ポート30の内壁や吸気バルブ34の表面に膜状に付着している燃料(Film)の質量割合である。Film▲3▼は、Drop▲2▼の減少に伴って急激に増加し、吸気バルブ34が開かれ、吸気の流れを発生することにより減少し始める。そして、Film▲3▼は、吸気バルブ34が閉じた後も、付着燃料の気化が進むに伴って減少傾向を維持する。
【0032】
符号▲4▼を付して示す波形は、気化燃料(Vapor)の質量割合である。Vapor▲4▼は、燃料が噴射された後、吸気バルブ34が開かれるまでの間、徐々に増加を続け、吸気バルブ34が開かれた後、急激な減少を示す。そして、吸気バルブ34が閉じられる直前辺りから、付着燃料の気化に伴い、再び増加傾向に転じる。
【0033】
図4に示すように、吸気バルブ34が閉じられた時点で、吸気ポート30の内部には、液膜の形態をとる燃料(付着燃料)と、気化燃料の形態をとる燃料(Vapor)とが存在している。本明細書において、上述した「燃料付着量fw」とは、厳密には、これら2つの形態で存在する燃料量の和を、つまり、吸気バルブ34が閉じられた時点でのTotal▲1▼を指しているものとする。
【0034】
吸気ポート30内に液膜の形態で存在するFilm▲3▼は、より詳細には、吸気ポート30の内壁に付着しているポートウェット量と、吸気バルブ34の表面に付着しているバルブウェット量とで構成されている。図4中に符号▲5▼を付して示す波形は、そのポートウェット量(PWET)の波形であり、また、符号▲6▼を付して示す波形は、そのバルブウェット量(VWET)の波形である。
【0035】
図4に示すシミュレーションの結果は、燃料付着量fwが0の状態で燃料が噴射された場合の結果である。従って、この結果においては、吸気バルブ34が閉じられた時点でのTotal▲1▼の値が、そのまま、燃料噴射量fiのうち吸気ポート30の内部に留まった燃料量の割合、つまり、「付着燃料量fw」を構成する燃料となった量の割合となる。以下、この割合を噴射燃料の「付着率R」と称す。
【0036】
図4に示す540°CAを超えて更にクランク角が回転すると、やがて、次の吸気工程が開始される。この吸気行程の開始時点では、吸気ポート30の内部に、既に、吸気バルブ34の閉弁時に確定されたTotal▲1▼に対応する量の燃料付着量fwが存在している。この場合、その燃料付着量fwの一部は、その吸気行程により筒内に吸入される。そして、吸入されなかった燃料が、燃料付着量fwの一部として次回のサイクルに持ち越される。以下、このようにして次回のサイクルに持ち越される燃料付着量fwの割合を、付着燃料の「残留率P」と称す。
【0037】
以上説明した「付着率R」、および「残留率P」を用いると、個々のサイクルの吸気工程終了時に存在する燃料付着量fwは、前回のサイクルで発生した燃料付着量fwOと、今回のサイクルにおける燃料噴射量fiとを用い、以下のように表すことができる。
fw=R・fi+P・fwO ・・・(1)
【0038】
また、上記の「付着率R」および「残留率P」、並びに前回のサイクルで発生した燃料付着量fwOが判れば、今回のサイクルで発生させる燃料噴射量fiに対して、現実に筒内に吸入される燃料吸入強fcは、以下のように算出(予測)することができる。
fc=(1−R)・fi+(1−P)・fwO ・・・(2)
【0039】
従って、個々のサイクルにおいて、燃料噴射に先立って、上記fcが目標値となるように燃料噴射量fiを補正すれば、燃料付着量fwの影響を排除して、常に所望の空燃比A/Fを得ることが可能である。
【0040】
[モデルによる残留率P、付着率Rの算出]
以上説明した通り、本実施形態の装置においては、噴射燃料の付着率Rと、付着燃料の残留率Pが判れば、個々のサイクルにおいて発生する燃料付着量fwを精度良く算出することができ、また、その燃料付着量fwの影響を排除して、高精度な燃料噴射量制御を実現することができる。
【0041】
噴射燃料の付着率Rや付着燃料の残留率Pは、例えば、内燃機関10の運転状態との関係で定めた適合マップを予め準備しておき、そのマップを参照することで特定することも可能である。より具体的には、機関負荷KL、機関回転数NE、吸気バルブ34の開弁タイミング(バルブタイミングVT)、或いは吸気ポート30の壁面温度Twなどをパラメータとして、内燃機関10の運転状態と付着率Rや残留率Pとの関係を適合作業により実験的に求め、かつ、その結果をマップ化しておき、個々のサイクルでは、KL、NE、VT、Twに対応する値をそのマップから読み取ることによりP、Rを求めることとしてもよい。
【0042】
しかしながら、このような手法では、マップを作成する段階において、多大な適合工数が必要とされる。そして、残留率P や付着率Rの精度を高めようとすれば、適合次数の増加が生じ、マップの作成に要する適合工数が更に増大する。このような制約のため、適合により作成したマップを参照して残留率Pや付着率Rを特定する手法を用いた場合は、例えば、燃料付着量fwが通常時に比して著しく少量となるフューエルカットからの復帰直後や、内燃機関10の運転条件が過渡的に変化する場面において、空燃比の制御精度が悪化し易い。
【0043】
そこで、本実施形態では、残留率Pおよび付着率Rに関する数式モデルをそれぞれ準備し、個々のサイクルでは、このモデルに則ってそれらP、Rを算出することとした。吸気ポート30内部の燃料挙動に影響を与える主要な因子としては、燃料の蒸発、壁流、および液滴の壁面挙動(付着および反射)を挙げることができる。ここでは、壁流の影響は小さいものとして、燃料の蒸発、および液滴の反射の影響を考慮して、残留率Pや付着率Rを算出することとする。
【0044】
[燃料噴射量制御の流れ]
図5は、残留率Pおよび付着率Rを算出し、更に、それらの値P、Rを用いて燃料噴射量fiを適正に補正するためにECU50が実行する処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【0045】
図5に示すように、ECU50は、先ず、現在の内燃機関10の状態を表す各種パラメータを計測する(ステップ100)。
具体的には、吸入空気量GA、スロットル開度TA、冷却水温THW、機関回転数NE、バルブタイミングVTなどが計測される。なお、本明細書において、バルブタイミングVTは、吸気バルブ34の開弁時期を示す物理量であり、最遅角のタイミング(基準タイミング)からの進角量を意味している。
【0046】
次に、吸気ポート30内部の状態を表す物理量、すなわち、ポート内状態量が推定される(ステップ102)。
本ステップ102では、具体的には、ポート内ガス圧力Pg、ポート内ガス温度Tg、ポート内ガス流速Ug、および吸気ポート30の壁面温度Twが、ポート内状態量として推定される。ここで、ポート内ガス圧力Pg、ポート内ガス温度Tg、およびポート内ガス流速Ugは、それぞれ、吸気ポート30の内部を流れる空気の圧力、温度、および流速である。
【0047】
ポート内ガス圧力Pgは、例えば、吸気管圧力Pmで近似することができる。吸気管圧力Pmは、本実施形態のシステムにおいては、例えば、特開2002−130041号公報に開示されるような公知の手法で推定することができる。
【0048】
ポート内ガス圧力Pgは、吸気管圧力Pmと補正量ΔPとの和として求めてもよい。補正量ΔPは、吸気管圧力Pmと、ポート内ガス圧力Pgとの間に生ずるずれを埋めるための値であり、例えば、機関回転数NEとの関係で特定することができる。従って、補正量ΔPは、NEとの関係で予めマップを作成しておき、そのマップから読み取ることとすればよい。
【0049】
ポート内ガス温度Tgは、例えば、機関回転数NE、機関負荷KL、およびバルブタイミングVTに基づいて推定することができる。より具体的には、TgとNE、KL、VTとの関係を予めマップ化しておき、個々のサイクルでは、そのマップを参照することでTgを推定することができる。
【0050】
ポート内ガス流速Ugは、例えば、次式により推定することができる。
Ug=(Volvalve/Avalve)×(Aport/Avalve) ・・・(3)
但し、Volvalve=(バルブ通過流量)/ρg
尚、「バルブ通過流量」は、スロットルバルブ22を通過する空気の流量であり、その値は、例えば特開2002−130039号公報に開示されるような公知の手法で求めることができる。また、「ρg」は吸気ポート30内のガス密度(空気の密度)であり、気体の状態方程式より、その値はρg=Pg/(Rconst・Tg)と表すことができる。但しRconstは気体定数である。本明細書では、後に、「付着率R」として記号Rを使用するため、両者を区別するため、気体定数はRconstと記すこととする。
【0051】
壁面温度Twは、ほぼ内燃機関10のシリンダブロックの温度、すなわち、冷却水温度THWと同じである。従って、壁面温度Twは、温度センサ42の出力に基づいて推定することができる。
【0052】
ポート内状態量の推定が終わると、以後、ECU50は、それらの推定値に基づいて、噴射燃料の付着率R、および付着燃料の残留率Pを算出する(ステップ104〜108)。
ここでは、先ず、図6を参照して付着率Rの算出手順について説明し、次いで、図7を参照して残留率Pの算出手順を説明する。
【0053】
図6は、噴射燃料が壁面に付着して付着燃料となるプロセスを説明するための図である。より具体的には、図6(A)は、燃料噴射弁32から噴射された燃料が液滴の形態で飛行している状態を示している。図6(B)は、液滴が壁面に到達して、その一部が壁面に付着し、その残部が反射により壁面を離脱する状態を示している。また、図6(C)は、壁面に付着した燃料の一部が、壁面からの伝熱により気化している状態を示している。
【0054】
燃料噴射弁32から噴射された液滴の量は、図6(A)に示すように、壁面に向かって進行する過程で蒸発により減少する。以下、この過程で生ずる蒸発を「飛行蒸発」と称す。また、壁面に到達した液滴の一部は、図6(B)に示すように、衝突(反射)によって微粒化し飛散する。飛散した液滴は、その後蒸発し、若しくはその一部は直接筒内に流入し、壁面上から失われる。この衝突(反射)により液滴が失われる現象を「反射蒸発」と称す。
【0055】
以上説明したように、燃料噴射弁32から噴射された液滴の量は、壁面(吸気ポート30の内壁、および吸気バルブ34の表面)に付着される以前に、「飛行蒸発」および「反射蒸発」により失われる。そして、このようにして失われた液滴量は、もはや付着燃料にはならない。以下、上記の如く壁面に付着する以前に蒸発する液滴量を「飛行中蒸発量F2」と称す。
【0056】
図6(C)に示すように、壁面に付着した燃料は、個々のサイクルにおける吸気工程が終了するまでの間に、壁面からの伝熱により蒸発する。このため、付着燃料量は、液滴が壁面に付着した後も蒸発により減少する。以下、この過程で生ずる減少量を、「付着後蒸発量G2」と称す。
【0057】
付着率Rは、燃料噴射量fiと、最終的に壁面に残った燃料量との割合である。そして、最終的に壁面に残る燃料量は、壁流の影響(せん断、液だれなどによる付着燃料の減少)が無視できるとすれば、燃料噴射量fiから、蒸発により失われた燃料量を減じた値である。
【0058】
蒸発により失われる燃料の総量は、飛行中蒸発量F2と付着後蒸発量G2との和である。ここで、飛行中蒸発量F2と、付着後蒸発量G2とを発生させるメカニズムは、上記の如くそれぞれ全く異なっている。従って、蒸発により失われる燃料の総量を精度良く算出するためには、飛行中蒸発量F2と、付着後蒸発量G2とのそれぞれにつき、異なるモデルを設定し、それらを別個独立のものとして推定することが望ましい。
【0059】
ECU50は、噴射燃料の付着率Rを算出するためのモデルとして、飛行中蒸発量F2を推定するための数式モデルF2(Pg、Tg、Tw)と、付着後蒸発量G2を推定するための数式モデルG2(Pg、Tg、Ug、Tw)とを有している。そして、図5に示すステップ104では、それらのモデルに則ってF2及びG2がそれぞれ算出され、更に、次式に示すように、それらF2及びG2が加算されることにより、蒸発により失われる燃料の総量Vfi(以下、「蒸発総量Vfi」と称す)が算出される。
Vfi=F2(Pg、Tg、Tw)+G2(Pg、Tg、Ug、Tw) ・・・(4)
【0060】
尚、飛行中蒸発量F2は、ポート内ガス圧力Pg、ポート内ガス温度Tg、および壁面温度Twからは有意な影響を受けるが、ポート内ガス流速Ugからは有意な影響を受けない。このため、飛行中蒸発量F2の数式モデルは、Pg、Tg、およびTwだけをパラメータとして構成されている。一方、付着後蒸発量G2は、上記4つのポート内状態量の全てから有意な影響を受ける。このため、付着後蒸発量G2の数式モデルは、Pg、Tg、UgおよびTwの全てをパラメータとして構成されている。
【0061】
ECU50は、上記の如く蒸発総量Vfiを算出したら、次に、ステップ108において、次式に従って噴射燃料の付着率Rを算出する。
R=(fi−Vfi)/fi ・・・(5)
以上説明した通り、ECU50は、ポート内状態量Pg、Tg、UgおよびTwに基づいて、かつ、2つの数式モデルF2(Pg、Tg、Tw)およびG2(Pg、Tg、Ug、Tw)に則って精度良く蒸発総量Vfiを算出すると共に、その蒸発総量Vfiと燃料噴射量fiとに基づいて、精度良く付着率Rを算出することができる。
【0062】
図7は、吸気工程の終了時に付着燃料として吸気ポート30内に残留した燃料が、次サイクルの吸気工程終了時までに蒸発するプロセスを説明するための図である。より具体的には、図7(A)は、吸気工程終了後、次サイクルの吸気工程が開始されるまでの間、つまり、吸気バルブ34が閉じられている間に付着燃料が蒸発する様子を示している。また、図7(B)は、次サイクルにおいて、吸気バルブ34が開いている間、つまり、吸気ポート30内に空気の流れが生じている間に付着燃料が蒸発する様子を示している。そして、図7(C)は、蒸発により失われる付着燃料の量と、壁面に付着したまま残留する付着燃料の量との割合を示している。
【0063】
吸気工程の終了時に壁面に付着していた燃料は、その後、次サイクルの吸気工程が終了するまでの間、壁面からの熱を受けて蒸発する。そして、蒸発により失われなかった燃料が、付着燃料として更に次のサイクルまで残留する。残留率Pは、吸気工程の終了時における付着量(図7(C)に示す「付着」に相当)と、次サイクルの吸気工程終了時における残留量(図7(C)に示す「残留」に相当)との割合として求めることができる。そして、その残留量は、上記の付着量から、蒸発により失われた燃料量(図7(C)に示す「蒸発」に相当)を減ずることにより求めることができる。
【0064】
吸気工程が終了した後、次サイクルの吸気工程が開始されるまでの間は、つまり、吸気バルブ34が閉じられている間は、図7(A)に示すように、吸気ポート30の内部に殆どガスの流れは生じない。以下、この状況下での吸気ポート30内のガスの流れを「層流」と称す。一方、吸気バルブ34が開いている間は、図7(B)に示すように吸気ポート30の内部にガスの流れが発生する。以下、この状況下での吸気ポート30内のガスの流れを「乱流」と称す。
【0065】
付着燃料は、吸気ポート30内にガスの流れが存在する場合と、その流れが存在しない場合とでは異なった蒸発特性を示す。従って、1サイクルの過程で生ずる付着燃料の蒸発量を精度良く求めるためには、層流環境下で生ずる蒸発量(以下、「閉弁中蒸発量F3」と称す)と、乱流環境下で生ずる蒸発燃料(以下、「開弁中蒸発量G3」と称す)とを、それぞれ異なったモデルで推定することが望ましい。
【0066】
そこで、本実施形態では、付着燃料の残留率Pを算出するためのモデルとして、閉弁中蒸発量F3を推定するための数式モデルF3(Pg、Tg、Tw)と、開弁中蒸発量G3を推定するための数式モデルG3(Pg、Tg、Ug、Tw)とを準備し、ECU50に、それらF3及びG3をそれぞれ異なるモデルに則って算出させることとした。具体的には、図5に示すステップ106では、それら2つのモデルに則ってF3及びG3がそれぞれ算出され、更に、次式に示すように、それらF3及びG3が加算されることにより、付着燃料の蒸発量Vfwが算出される。
Vfw=F3(Pg、Tg、Tw)+G3(Pg、Tg、Ug、Tw) ・・・(6)
【0067】
尚、閉弁中蒸発量F3は、ポート内ガス流速Ugからは有意な影響を受けないことから、その数式モデルは、Pg、Tg、およびTwだけをパラメータとして構成されている。一方、開弁中蒸発量G3は、4つのポート内状態量の全てから有意な影響を受けるため、その数式モデルは、Pg、Tg、UgおよびTwの全てをパラメータとして構成されている。
【0068】
ECU50は、上記の如く付着燃料の蒸発量Vfwを算出したら、次に、ステップ108において、次式に従って付着燃料の残留率Pを算出する。
P=(fw−Vfw)/fw ・・・(7)
但し、この式で用いられるfwは、前回の処理サイクルにより算出された値、つまり、上記(2)式におけるfwOである。
【0069】
以上説明した通り、ECU50は、ポート内状態量Pg、Tg、UgおよびTwに基づいて、かつ、2つの数式モデルF3(Pg、Tg、Tw)およびG3(Pg、Tg、Ug、Tw)に則って精度良く蒸発量Vfwを算出すると共に、その蒸発量Vfwと燃料付着量fwとに基づいて、精度良く残留率Pを算出することができる。
【0070】
図5に示すように、ECU50は、付着率Rおよび残留率Pの算出を終えると、次に、燃料吸入量fcとして要求されている燃料量、つまり、燃料吸入量fcの目標値を算出する(ステップ110)。
【0071】
次に、上記(2)式の関係、すなわち、fc=(1−R)・fi+(1−P)・fwOが成立するように(但し、fwOは、前回の処理サイクル時に算出された燃料付着量fw)、燃料噴射量fiが算出される(ステップ112)。
【0072】
最後に、今回の処理サイクルで演算された付着率Rおよび残留率Pを用いて、上記(1)式に従って、すなわち、fw=R・fi+P・fwOなる関係式に従って、燃料付着量fwが算出される(ステップ114)。
【0073】
以上説明した通り、本実施形態において、ECU50は、2つの数式モデルF2(Pg、Tg、Tw)およびG2(Pg、Tg、Ug、Tw)を用いて噴射燃料の付着率Rを、また、2つの数式モデルF3(Pg、Tg、Tw)およびG3(Pg、Tg、Ug、Tw)を用いて付着燃料の残留率Pを、それぞれポート内状態量に基づいて精度良く算出することができる。これらの数式モデルは、噴射燃料、或いは付着燃料の蒸発状態を精度良く表現するように作成されている(詳細は後述)。従って、本実施形態のシステムによれば、内燃機関10毎に複雑な適合作業を行うことなく極めて精度良く付着率Rおよび残留率Pを算出すると共に、それらの算出値PおよびRに基づいて、常に精度良く燃料噴射量を制御することができる。
【0074】
[残留率Pの具体的算出方法]
次に、ECU50が、残留率Pを算出するために使用する数式モデルの具体的内容について説明する。
残留率Pを算出するための演算式として説明した上記(6)式および(7)式は、以下のように変形することができる。
P=(fw−Vfw)/fw
=1−Vfw/fw
=1−[F3(Pg、Tg、Tw)/fw]−[G3(Pg、Tg、Ug、Tw)/fw] ・・・(8)
以下に示す(9)式は、上記(8)式を具体的に表した式である。
【0075】
【数1】
Figure 0003944444
【0076】
上記(9)式中、右辺第2項は、層流状況下、すなわち、吸気バルブ34の閉弁中における燃料の蒸発率を表す数式モデルである。この項に含まれる個々の記号は、それぞれ以下のような物理量である。
ρl:液体燃料の密度(既定値)
h:付着燃料の膜厚
h=fw/ρl/sとして算出される。但し、ρlは燃料の密度、sは濡れ面積(既定値)。
Sc:層流用適合係数(既定値)
D:吸気ポートの径
μg:吸気ポート30内ガス(空気)の粘性(既定値)
B:層流時質量輸送係数(詳細は後述)
Δtlam:層流期間、すなわち、吸気バルブ34の閉弁期間
【0077】
また、上記(9)式中、右辺第3項は、乱流状況下、すなわち、吸気バルブ34の開弁中の蒸発率を表す数式モデルである。この項にのみ含まれている個々の記号は、それぞれ以下のような物理量である。
Sc:乱流用適合係数(既定値)
B:乱流時質量輸送係数(詳細は後述)
ρg:空気の密度(既述した通りρg=Pg/Rconst・Tg)
Δtturb:乱流期間、すなわち、吸気バルブ34の開弁期間(作用角)
但し、Δtlam+Δtturb=720(deg)
【0078】
上述した層流時質量輸送係数Bおよび乱流時質量輸送係数Bは、それぞれ、層流時または乱流時における付着燃料の蒸発のし易さを表すパラメータである。それらの値B、Bは、それぞれ次式(10)のように表すことができる。
【0079】
【数2】
Figure 0003944444
【0080】
上記(10)式において、iは、燃料に含まれる個々の成分に付した識別番号である。つまり、ΣYsi、或いはΣYgiは、それぞれ、燃料に含まれる複数の成分についてのYsiやYgiの積算値である。ここで、値Bの式に含まれているYgiは、吸気ポート10内における個々の燃料成分の蒸気濃度(成分毎に既定値)である。層流状態では、Ygiが無視できない値(例えば10%程度)となるため、層流時質量輸送係数Bの式には、その項が含まれている。一方、乱流時には、吸気ポート30内の個々の成分濃度がほぼ0となるため、乱流時質量輸送係数Bの式からは、その項が省かれている。また、上記(10)式において、Ysiは、個々の成分の飽和蒸気濃度である。この飽和蒸気濃度Ysiは、次式(11)により算出することができる。
【0081】
【数3】
Figure 0003944444
【0082】
上記(11)式に含まれる個々の記号は、それぞれ以下のような物理量である。
wi:燃料に含まれる個々の成分のモル質量(既定値)、
wair:空気のモル質量(既定値)
Pvsi:アントンの式による個々の成分の飽和蒸気圧
飽和蒸気濃度Pvsiは、次式(12)により求めることができる。
【0083】
【数4】
Figure 0003944444
【0084】
但し、上記(12)式中、a1i、a2iおよびa3iは、燃料成分毎に既定のアントン係数である。また、yfiは、噴射される燃料成分の個々の成分の質量割合である。更に、上記(12)式中、Tfは、次式(13)により表される温度である。
Tf=ε・Tw+(1−ε)Tg ・・・(13)
ここで、εは、0<ε<1を満たす値である。通常は、空気の方が影響度が高いので、εには0.7程度の値が代入される。
【0085】
上記(9)式の右辺第2項に含まれるパラメータ(時間を除く)は、付着燃料の膜厚h、および層流時質量輸送係数Bを除き固定値である。そして、膜厚hは付着燃料量fwに基づいて決定され、層流時質量輸送係数Bは、ポート内状態量Pg、Tg、およびTwにより決定される値である。従って、上記(9)式によれば、層流状況下での燃料の蒸発率(右辺第2項)を、ポート内状態量Pg、Tg、およびTwに基づいて算出することができる。
【0086】
上記(9)式の右辺第3項に含まれるパラメータ(時間を除く)は、付着燃料の膜厚h、空気密度ρg、ポート内ガス流速Ug、および乱流時質量輸送係数Bを除き固定値である。そして、膜厚hは付着燃料量fwに基づいて決定され、空気密度ρgはPgおよびTgにより決定され、乱流時質量輸送係数Bは、Pg、TgおよびTwにより決定される値である。また、本実施形態においては、付着燃料量fwも、根本的にはポート内状態量Pg、Tg、UgおよびTwに基づいて算出される値である。従って、上記(9)式によれば、乱流状況下での燃料の蒸発率(右辺第3項)を、ポート内状態量Pg、Tg、UgおよびTwに基づいて算出することができる。
【0087】
[付着率Rの具体的算出方法]
次に、ECU50が、付着率Rを算出するために使用する数式モデルの具体的内容について説明する。
上記(4)式および(5)式による付着率Rの算出方法は、飛行中蒸発量F2と、付着後蒸発量G2とを別個に求めて、それらの和(蒸発総量Vfi)を燃料噴射量fiから減ずることにより、最終的に壁面に付着する燃料量(fi−Vfi)を求めることとしている。そして、このようにして求められた燃料量(fi−Vfi)をfiで割ることにより、最終的に壁面に付着した状態となる燃料の割合が求められる。
【0088】
ところで、最終的に壁面に付着する燃料の割合(R)は、上記の手法で求める他、飛行の過程で蒸発せずに壁面まで到達する燃料の割合R1、壁面に到達した後、反射により失われることなく壁面に付着する燃料の割合α、および壁面に付着した後、蒸発により離脱せずに付着状態を維持する燃料の割合R2をそれぞれ算出し、次式(14)に示すように、それらを掛け合わせることによっても求めることができる。
R=R1・α・R2 ・・・(14)
【0089】
そこで、ECU50は、具体的には、上記(14)式の手法で噴射燃料の付着率Rを算出する。ここで、上記(14)式に含まれるR1、R2およびαは、それぞれ、以下に示す(15)〜(17)式により求めることができる。
【0090】
【数5】
Figure 0003944444
【0091】
但し、上記(15)〜(17)式に含まれる個々の記号は、それぞれ以下のような物理量である。尚、Sc1、Sc2、ρl、μg、ρg、B、B、およびΔtturbについては、既述したものと同一であるため、ここでは、それらの説明は省略する。
di:液滴の代表粒径(既定値)
V:液滴飛行速度(既定値)
Δtdrop:液滴飛行時間(既定値)=(燃料噴射弁から吸気バルブまでの距離)/V
We:ウェーバ数
Re:レイノルズ数
σ:燃料の表面張力
θ:噴射方向と衝突壁面のなす角度
【0092】
尚、上記(17)式に示すαは、現実には燃料噴射弁32の性能と、吸気ポート30の形状とにより決まる値である。従って、個々の内燃機関10において、上記(14)式に則って付着率Rを演算する際には、αは固定値として扱うことができる。
【0093】
上記(15)式中、右辺第2項は、飛行蒸発により失われる燃料の割合である。この右辺第2項に含まれるパラメータ(時間を除く)は、空気密度ρgおよび層流時質量輸送係数Bを除き固定値である。そして、空気密度ρgは、上記の如くポート内ガス圧力Pgおよびポート内ガス温度Tgにより特定される値である。また、層流時質量輸送係数Bは、Pg、Tgおよび壁面温度Twにより特定される値である(上記(10)〜(12)式参照)。従って、本実施形態のシステムによれば、飛行蒸発により失われる燃料の割合を、ポート内状態量Pg、Tg、およびTwに基づいて算出することができる。
【0094】
上記(16)式中、右辺第2項は、付着後の蒸発により失われる燃料の割合である。この右辺第2項に含まれるパラメータ(時間を除く)は、空気密度ρg、ポート内ガス流訴奥Ug、および乱流時質量輸送係数Bを除き固定値である。そして、ρgは、上記の如くPgおよびTgにより特定される値である。また、乱流時質量輸送係数Bは、Pg、TgおよびTwにより特定される値である(上記(10)〜(12)式参照)。従って、本実施形態のシステムによれば、付着後の蒸発により失われる燃料の割合を、ポート内状態量Pg、Tg、UgおよびTwに基づいて算出することができる。
【0095】
以上説明した通り、ECU50は、噴射燃料の蒸発挙動を表す数式モデル(上記(14)〜(17)式)を用いて、ポート内状態量Pg、Tg、UgおよびTwに基づいて、噴射燃料の付着率Rを精度良く推定することができる。また、ECU50は、付着燃料の蒸発挙動を表す数式モデル(上記(9)〜(13)式)を用いて、ポート内状態量Pg、Tg、UgおよびTwに基づいて、付着燃料の残留率Pを精度良く推定することができる。
【0096】
このため、本実施形態の構成によれば、内燃機関10の機種毎に煩雑な適合作業を行うことなく、過渡運転時を含む全ての運転状況下で精度良く燃料噴射量を制御する装置を実現することができる。このような燃料噴射制御装置によれば、常に空燃比を精度良く所望空燃比に制御することが可能となる。従って、本実施形態の装置は、良好な排気エミッション特性を実現するうえでも有用である。
【0097】
また、本実施形態では、上述した燃料噴射量制御を内燃機関10の暖機後に実行することを前提としているが、つまり、上述した数式モデルを、内燃機関10の暖機後における燃料噴射制御に利用することとしているが、その利用の場面はこれに限定されるものではない。すなわち、本実施形態の装置では、数式モデルを用いて、ポート内ガス温度Tgや壁面温度Twを含むポート内状態量をパラメータとして付着率Rや残留率Pを算出している。このような数式モデルによれば、冷間始動時など、内燃機関10の温度が低い場合にも、有効に現実の状態を模擬することができる。
【0098】
更に、ハイブリッド(HV)車両においては、内燃機関に対する燃料噴射が停止された後、数秒間の経過後に内燃機関の停止が図られることがある。上記の数式モデルによれば、そのような数秒間の間も、現実の状態を精度良く模擬することができる。従って、本実施形態の装置が用いる数式モデルは、冷間運転時や、HV車両の機関停止時などに、付着率Rおよび残留率Pを算出する場面でも利用することができる。
【0099】
これに対して、付着率Rや残留率Pが、内燃機関の運転状態を表す状態量(負荷KL、回転数NEなど)との関係で、適合により定められる場合には、内燃機関10の運転状態がその適合時の条件から外れる領域では、精度良く付着率Rや残留率Pを定めることはできない。具体的には、暖機後の条件で適合したマップ値などは、冷間運転時や、HV車両の機関停止時には利用することができない。この点、本実施形態の装置は、適合によりPやRを定める装置に比して、より広い領域への展開が可能であるという優位性を有している。
【0100】
ところで、上述した実施の形態1においては、付着率Rおよび残留率Pを、ポート内状態量をパラメータとする数式モデルに則って算出することとしているが、その算出は、数式モデルを用いる手法に限られるものではない。すなわち、付着率Rや残留率Pは、ポート内状態量との関係で予め設定したマップを参照して特定することとしてもよい。
【0101】
尚、上述した実施の形態1においては、付着燃料の残留率Pおよび噴射燃料の付着率Rが前記第1乃至第3の発明における「燃料制御パラメータ」に相当していると共に、ECU50が、上記ステップ102の処理を実行することにより前記第1乃至第3の発明における「ポート内状態量取得手段」が、上記(9)〜(17)式を記憶していることにより前記第1乃至第3の発明における「モデル記憶手段」が、それらの式を用いてPおよびRを算出することにより、或いは、上記ステップ104〜108の処理を実行することにより、前記第1乃至第3の発明における「燃料制御パラメータ算出手段」が、上記ステップ114の処理を実行することにより前記第1乃至第3の発明における「付着燃料量算出手段」が、上記ステップ110の処理を実行することにより前記第1乃至第3の発明における「噴射量補正手段」が、それぞれ実現されている。
【0102】
また、上述した実施の形態1においては、上記(14)〜(17)式が前記第2の発明における「噴射燃料蒸発挙動モデル」に、上記(9)〜(13)式が前記第1の発明における「付着燃料蒸発挙動モデル」に、噴射燃料の付着率Rが前記第1及び第2の発明における「第1の燃料制御パラメータ」に、付着燃料の残留率Pが前記第1及び第2の発明における「第2の燃料制御パラメータ」に、それぞれ相当している。また、ECU50が、上記(14)式に従って、或いは上記ステップ108において付着率Rを演算することにより、前記第1及び第2の発明における「第1算出手段」が、上記(9)式に従って、或いは上記ステップ108において残留率Pを演算することにより、前記第1及び第2の発明における「第2算出手段」が、それぞれ実現されている。
【0103】
また、上述した実施の形態1においては上記(16)式が前記第1の発明における「付着後蒸発挙動モデル」に相当している。
【0104】
また、上述した実施の形態1においては、上記(15)式が前記第1の発明における「飛行蒸発モデル」に、上記(17)式が前記第1の発明における「反射蒸発モデル」に、それぞれ相当している。
【0105】
また、上述した実施の形態1においては、上記(9)式中、右辺第2項および第3項が、それぞれ、前記第2の発明における「閉弁中蒸発挙動モデル」、および「開弁中蒸発挙動モデル」に、それぞれ相当している。
【0106】
実施の形態2.
次に、図8を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。
本実施形態の装置は、実施の形態1の装置において、ECU50に、上記図5に示すフローチャートに代えて、図8に示すフローチャートに沿って処理を実行させることにより実現することができる。
【0107】
上述した実施の形態1の装置は、噴射燃料の付着後蒸発量G2を算出するにあたり(上記(16)式のR2を算出するにあたり)、また、付着燃料の開弁時蒸発量G3を算出するにあたり、吸気バルブ34の開弁時には、ポート内状態量が常にほぼ一定であることを前提としている。しかしながら、吸気バルブ34がバルブオーバーラップを伴うようなタイミングで開弁される場合は、その開弁の直後にのみ、吸気ポート30の内部において既燃ガスの吹き返しが生ずる。この場合、ポート内状態量は、特に、ポート内ガス圧力Pg、ポート内ガス温度Tg、およびポート内ガス流速Ugは、吹き返しの発生中と、その消滅後とで大きく異なった値となる。従って、そのような吹き返しが発生する状況下で、精度良く付着率Rおよび残留率Pを算出するためには、吹き返しの有無に応じて、数式モデルに代入するポート内状態量を変化させることが望ましい。
【0108】
[実施の形態2における処理の流れ]
図8は、上記の要求に応えつつ、残留率Pおよび付着率Rを算出し、更に、それらの値P、Rを用いて燃料噴射量fiを適正に補正するために、ECU50が実行する処理の流れを説明するためのフローチャートである。尚、図8において、上記図5に示すステップと同一のステップについては、同一の符号を付してその説明を省略または簡略する。
【0109】
図8に示すフローチャートは、ステップ102の後に、ステップ120〜130が挿入されている点を除き、上記図5に示すフローチャートと同様である。すなわち、図8に示すフローチャートによれば、図5に示すフローチャートによる場合と同様に、先ず、ステップ100において各種パラメータが計測され、次いで、ステップ102において、ポート内状態量Pg、Tg、UgおよびTwが推定される。
【0110】
これらのポート内状態量のうち、壁面温度Twは、吹き返しの有無に影響されることのない状態量である。これに対して、Pg、TgおよびUgは、上記の如く吹き返しの有無により大きく変化する状態量である。上記ステップ102では、吹き返しが発生しない場合のPg、TgおよびUgが推定されるものとする。
【0111】
ポート内状態量Pg、Tg、UgおよびTwが推定されると、次に、吸気バルブ34の開弁タイミングVTが、所定値VTより小さいか否かが判別される(ステップ120)。
VTは、既述した通り最遅角のタイミングからの進角量である。従って、その値VTが大きい程、バルブオーバーラップが発生し、吹き返しが発生し易くなる。所定値VTは、ポート内状態量に有意な変化を生じさせる程度の吹き返しが発生するか否かを区分する開弁タイミングとして設定された値である。従って、VT<VTが成立する場合は、ポート内状態量を切り換えるほどの吹き返しが発生する可能性は低いと判断できる。一方、その条件が成立しない場合は、上記吹き返しが発生する可能性が高いと判断できる。
【0112】
図8に示すフローチャートでは、上記ステップ120において、VT<VTが成立すると判別された場合、次に、吸気管圧力Pmが、所定値Pmより高いか否かが判別される(ステップ122)。
既燃ガスの吹き返しの大きさは、バルブオーバーラップの有無或いは長短の他、吸気管圧力Pmの高低にも影響される。つまり、その吹き返しは、吸気管圧力Pmが低圧であるほど大きくなりやすく、一方、Pmが高圧であるほど発生し難くなる。所定値Pmは、VT<VTが成立する環境下で、なお吹き返しが発生する可能性があるか否かを判断するための値である。従って、Pm>Pmが成立する場合は、ポート内状態量を切り換えるほどの吹き返しが発生する可能性は低いと判断できる。一方、その条件が成立しない場合は、上記吹き返しが発生する可能性が高いと判断できる。
【0113】
図8に示すフローチャートでは、上記ステップ122において、Pm>Pmが成立すると判別された場合、以後、図5に示す場合と同様に、ステップ104、106以降の処理が実行される。この場合、吹き返しの発生しない状況下で、実施の形態1の場合と同様に、ポート内状態量Pg、Tg、UgおよびTwに基づいて精度良く付着率Rおよび残留率Pが算出され、更に、その算出値RおよびPに基づいて、高精度な燃料噴射制御が実現される。
【0114】
これに対して、上記ステップ120においてVT<VTが成立しないと判別された場合、および上記ステップ122においてPm>Pmが成立しないと判別された場合は、次に、吹き返しが発生する場合のポート内状態量Pg_r、Tg_r、およびUg_rが推定される(ステップ124)。
【0115】
この場合、噴射燃料の付着率Rの基礎となる付着後蒸発量G2は、次式の通り、吹き返しの発生しない期間における蒸発量H2(Pg、Tg、Ug、Tw)と、吹き返しの発生する期間における蒸発量H’2(Pg_r、Tg_r、Ug_r、Tw)との和として推定される(ステップ126)。
G2=H2(Pg、Tg、Ug、Tw)+H’2(Pg_r、Tg_r、Ug_r、Tw) ・・・(18)
【0116】
また、付着燃料の残留率Pの基礎となる開弁中蒸発量G3は、次式の通り、吹き返しの発生しない期間における蒸発量H3(Pg、Tg、Ug、Tw)と、吹き返しの発生する期間における蒸発量H’3(Pg_r、Tg_r、Ug_r、Tw)との和として推定される(ステップ128)。
G3=H3(Pg、Tg、Ug、Tw)+H’3(Pg_r、Tg_r、Ug_r、Tw) ・・・(19)
【0117】
上記ステップ126および128の処理が実行された場合は、次に、今回の処理サイクルでは、付着後蒸発量G2および開弁中蒸発量G3を、それぞれ上記ステップ126および128で算出された値に補正する旨が指令される(ステップ130)。
【0118】
その後、ステップ104,106以降の処理が実行される。この場合、ステップ104において算出される蒸発総量Vfiは、飛行中蒸発量F2に、上記ステップ126で算出された付着後蒸発量G2を加えた値となる。また、ステップ106で算出される蒸発量Vfwは、閉弁中蒸発量F3に、上記ステップ128で算出された開弁中蒸発量G3を加えた値となる。このため、図8に示すフローチャートによれば、吸気ポート30の内部に吹き返しが発生する場合に、その影響を精度良く付着率Rおよび残留率Pに反映させることができ、高精度な燃料噴射制御を実現することができる。
【0119】
[吹き返し発生時の残留率Pの具体的算出方法]
以下に示す(20)式は、吹き返しが発生する状況下で付着燃料の残留率Pを算出するための数式モデルである。ECU50は、上記ステップ120または122において、吹き返しが生ずる可能性があると判断した場合は、具体的には、次式(20)に則って残留率Pを算出する。
【0120】
【数6】
Figure 0003944444
【0121】
但し、上記(20)式中、Δtturb1は、乱流期間Δtturbのうち、吹き返しの発生しない期間であり、一方、Δtturb2は吹き返しが発生する期間である。また、ρg_rおよびB_rは、それぞれ、吹き返し発生時におけるポート内状態量Pg_r、Tg_rを用いて算出される空気密度(Pg_r/Rconst・Tg_r)、および乱流時質量輸送係数(上記(10)〜(13)式参照)である。
【0122】
[吹き返し発生時の付着率Rの具体的算出方法]
以下に示す(21)式は、吹き返しが発生する状況下で噴射燃料の付着率Rを算出するための数式モデルの一部、具体的には、上記(14)式に示す付着率Rの数式モデル(R=R1・α・R2)のうち、付着後の蒸発割合を意味するR2を算出するための数式モデルである。ECU50は、上記ステップ120または122において、吹き返しが生ずる可能性があると判断した場合は、R2の数式モデルを、上記(15)式に示すモデルから、下記(21)式に示すモデルに変更して、付着率Rを算出する。尚、下記(21)式中、Δtturb1、Δtturb2、ρg_rおよびB_rは、上記(20)式の但し書きにおいて説明したものと同様である。
【0123】
【数7】
Figure 0003944444
【0124】
以上説明した通り、本実施形態の装置は、噴射燃料の付着後の蒸発、および付着燃料の開弁中の蒸発を、それぞれ、吹き返しが発生する場合と発生しない場合とで異なる現象として捉えることができる。このため、本実施形態の装置によれば、吹き返しの発生時にも付着率Rおよび残留率Pを精度良く推定して、実施の形態1の場合に費しれ更に高精度な燃料噴射制御を実現することができる。
【0126】
実施の形態3.
次に、図9を参照して、本発明の実施の形態3について説明する。
本実施形態の装置は、実施の形態1の装置において、ECU50に、上記図5に示すフローチャートに代えて、図9に示すフローチャートに沿って処理を実行させることにより実現することができる。
【0127】
吸気ポート30の内壁温度は、内燃機関10の暖機終了後も、ほぼ冷却水温度THWと等しい80℃程度である。この程度の温度では、1サイクルの過程で付着燃料が蒸発し切らない。このため、吸気ポート30の内壁においては、1サイクルを超える付着燃料の持ち越しが生ずる。これに対して、暖機後の吸気バルブ34の温度は、160〜180℃となる。そして、壁面温度がこのように高温である場合は、通常、その表面に付着した燃料は1サイクルの過程で全て蒸発する。
【0128】
上述した実施の形態1の装置は、上記の現象を前提として付着燃料の残留率Pを算出している。つまり、付着燃料量fwは、その全てが吸気ポート30の壁面に付着しており、吸気バルブ34の表面には付着燃料が発生しないものとして残留率Pの算出を行っている。このため、上記(9)式では、残留率Pを算出するための基礎データとして、ポート内状態量Pg、Tg、UgおよびTwが用いられている。
【0129】
ところで、吸気バルブ34の表面に付着燃料が残留しないという前提は、内燃機関10の暖機終了前、つまり、吸気バルブ34の温度が十分に高温となる前は成立しない。そして、そのような状況下では、吸気ポート30の壁面付近と吸気バルブ34の表面付近とで、燃料の蒸発特性に影響を与える状態量が異なることから、吸気ポート30の壁面に付着した燃料と、吸気バルブ34の表面に付着した燃料とは、異なる蒸発挙動を示す。この場合、付着燃料の残留率Pを精度良く推定するためには、吸気ポート30の壁面における残留割合と、吸気バルブ34の表面における残留割合とを別々に算出することが望ましい。
【0130】
[実施の形態3における処理の流れ]
図9は、上記の要求に応えつつ、残留率Pおよび付着率Rを算出し、更に、それらの値P、Rを用いて燃料噴射量fiを適正に補正するために、ECU50が実行する処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【0131】
図9に示すフローチャートは、ステップ102の後に、ステップ140〜148が挿入されている点を除き、上記図5に示すフローチャートと同様である。すなわち、図9において、ステップ100〜106、およびステップ110〜114は、それぞれ図5に示すステップと同様である。また、図9に示すステップ108aおよび108bは、図5に示すステップ108を分解して示したもので、それぞれのステップでは、ステップ108の場合と同様の手法で付着率Rおよび残留率Pが算出される。
【0132】
図9に示すフローチャートによれば、ステップ100および102の処理が実行された後、実施の形態1の場合(図5に示す場合)と同様の手順で噴射燃料の付着率Rが算出される(ステップ104,108a)。
【0133】
付着燃料の残留率Pを算出する手順においては、ステップ102の後に、先ず、壁面温度Twが所定値Twより低いかどうかが判別される(ステップ140)。所定値Twは、内燃機関10の暖機が不十分であるか、より具体的には、吸気バルブ34の表面に付着燃料が残存する程度にその暖機が不十分であるかを判断するための判定値である。
【0134】
従って、上記ステップ140において、Tw<Twが成立しないと判別された場合は、内燃機関10の暖機が十分に進んでおり、付着燃料の残留率Pを推定するうえでは、もはや吸気バルブ34の表面における燃料の蒸発を考慮する必要がないと判断できる。図9に示すフローチャートでは、この場合、以後、実施の形態1の場合(図5に示す場合)と同様の手順で付着燃料の残留率Pが算出される(ステップ106,108b)。
【0135】
一方、上記ステップ140において、Tw<Twが成立すると判別された場合は、付着燃料の残留率Pを推定するうえで、吸気バルブ34の表面に残留する燃料の影響が無視できないことが判断できる。図9に示すフローチャートでは、この場合、ポート部(P)とバルブ部(V)に分けて状態量が推定される(ステップ142)。
【0136】
ガス圧力とガス温度は、吸気ポート30の壁面付近と、吸気バルブ34の表面付近とで大きくは異ならない。このため、ガス圧力とガス温度は、両者に対して共通な値Pg、Tgが推定される。一方、ガス流速と壁面温度は、吸気ポート30の壁面付近と、吸気バルブ34の表面付近とで大きく異なることがある。このため、ガス流速と壁面温度については、ポート部(P)とバルブ部(V)につき、それぞれ異なる値Ugp、TwpおよびUgv、Twvが推定される。
【0137】
上記ステップ142において推定すべき状態量のうち、PgおよびTg、並びにUgpおよびTwpについては、上記ステップ102において推定されたポート内状態量Pg、Tg、UgおよびTwをそのまま流用することができる。従って、ステップ142では、実質的には、バルブ部ガス流速Ugvとバルブ部壁面温度Twvについての推定が行われる。これらの値UgvおよびTwvは、例えば、机上シミュレーションの結果に基づいて定めた係数を、ベースの状態量(UgまたはTw)に掛け合わせることにより推定することができる。
【0138】
上記ステップ142の処理が終了すると、次に、燃料付着量fwの分配率βが決定されると共に、その分配率βを用いて、ポート部付着量fwp=fw・β、およびバルブ部付着量fwv=fw・(1−β)が算出される(ステップ144)。
分配率βは、ポート部とバルブ部にどのような割合で付着しているかを表す値であり、例えば、ポート内壁面温度Tw、吸気管圧力Pm、および付着燃料量fwなどのパラメータから推定することができる。ECU50は、それらのパラメータTw、Pm、fwとの関係で分配率を定めたマップを記憶しており、本ステップ144では、そのマップを参照することで分配率が決定される。
【0139】
図9に示すフローチャートでは、次に、ポート部における付着燃料の蒸発量Vfw,pと、バルブ部における付着燃料の蒸発量Vfw,vがそれぞれ推定される(ステップ146)。
ポート部蒸発量Vfw,pは、以下に示すように、蒸発量Vfwの数式モデル(上記(6)式)に、ポート部における状態量Pg、Tg、UgpおよびTwpを代入することで求めることができる。
Vfw,p=F3(Pg、Tg、Twp)+G3(Pg、Tg、Ugp、Twp) ・・・(21)
また、バルブ部蒸発量Vfw,vは、以下に示すように、蒸発量Vfwの数式モデル(上記(6)式)に、バルブ部における状態量Pg、Tg、UgvおよびTwvを代入することで求めることができる。
Vfw,p=F3(Pg、Tg、Twv)+G3(Pg、Tg、Ugv、Twv) ・・・(22)
【0140】
上記の処理が終了すると、それらの処理により求めた値を次式に代入することで、ポート部残留率Pp、およびバルブ部残留率Pvが算出される(ステップ148)。
Pp=(fwp−Vfw,p)/fwp ・・・(23)
Pv=(fwv−Vfw,v)/fwv ・・・(24)
【0141】
上記ステップ148では、更に、算出されたPpおよびPvを、次式に代入することで、付着燃料全体の残留率Pが算出される。
P=Pp・β+Pv・(1−β) ・・・(25)
【0142】
以上説明した通り、図9に示すフローチャートによれば、壁面温度Twが高温である場合は、実施の形態1の場合と同様に手法で付着燃料の残留率Pを算出(ステップ108b参照)することができ、また、壁面温度Twが低温である場合は、バルブ部とポート部を個別に考慮した手法で付着燃料の残留率Pを算出することができる。従って、本実施形態の装置によれば、内燃機関10の暖機後において精度良く残留率Pが算出できると共に、その暖機の過程においても、残留率Pを精度良く算出することができる。
【0143】
図9に示すフローチャートでは、上記ステップ108aにおいて噴射燃料の付着率Rが算出され、かつ、上記ステップ108bまたは148において付着燃料の残留率Pが算出された後、実施の形態1の場合(図5に示す場合)と同様に、燃料噴射量fiの算出等が行われる(ステップ110〜114)。このため、本実施形態の装置によれば、精度良く算出した付着率Rおよび残留率Pを用いて、高精度な燃料噴射制御を実現することができる。
【0144】
[ポート部残留率Ppの具体的算出方法]
以下に示す(26)式は、ポート部残留率Ppを算出するための数式モデルである。ECU50は、上記ステップ140において壁面温度Twが所定値Twより低いと判断した場合は、次式(26)に則ってポート部残留率Ppを算出する。
【0145】
【数8】
Figure 0003944444
【0146】
但し、上記(26)式中、hpは、吸気ポート30の壁面に付着している燃料の膜厚であり、上記ステップ144において算出されるポート部付着量fwpを燃料密度ρlで除したものを、吸気ポート30の濡れ面積sp(既定値)で除することにより算出される値fwp/ρl/spである。また、BpおよびBpは、それぞれ、ポート部の状態量Pg、Tg、UgpおよびTwpを用いて算出される層流時質量輸送係数、および乱流時質量輸送係数(上記(10)〜(13)式参照)である。
【0147】
[バルブ部残留率Pvの具体的算出方法]
以下に示す(27)式は、バルブ部残留率Pvを算出するための数式モデルである。ECU50は、上記ステップ140において壁面温度Twが所定値Twより低いと判断した場合は、次式(27)に則ってバルブ部残留率Pvを算出する。
【0148】
【数9】
Figure 0003944444
【0149】
但し、上記(27)式中、hvは、吸気バルブ34の表面に付着している燃料の膜厚であり、上記ステップ144において算出されるバルブ部付着量fwvを燃料密度ρlで除したものを、吸気バルブ34の濡れ面積sv(既定値)で除することにより算出される値fwv/ρl/svある。また、BvおよびBvは、それぞれ、バルブ部の状態量Pg、Tg、UgvおよびTwvを用いて算出される層流時質量輸送係数、および乱流時質量輸送係数(上記(10)〜(13)式参照)である。
【0151】
実施の形態4.
次に、図10を参照して、本発明の実施の形態4について説明する。
本実施形態の装置は、実施の形態1の装置において、ECU50に、上記図5に示すフローチャートに代えて、図10に示すフローチャートに沿って処理を実行させることにより実現することができる。
【0152】
上述した実施の形態1の装置は、噴射燃料の壁面付着後の蒸発挙動は、吸気ポート30の壁面でも、吸気バルブ34の表面でも同じであるものとして付着率RRを算出している。しかしながら、既述した通り、吸気ポート30の壁面近傍と吸気バルブ34の表面近傍とでは、ガス流速や壁面温度などに無視できない差が生ずる。このため、噴射燃料の付着率Rを精度良く算出するためには、その算出の過程においても、ポート部における状態量と、バルブ部における状態量との差を考慮することが望ましい。
【0153】
[実施の形態4における処理の流れ]
図10は、上記の要求に応えつつ、残留率Pおよび付着率Rを算出し、更に、それらの値P、Rを用いて燃料噴射量fiを適正に補正するために、ECU50が実行する処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【0154】
図10に示すフローチャートは、噴射燃料の付着率Rを算出するためのステップが、ステップ106および108(その一部)から、ステップ150〜156に置き換えられている点を除き、上記図5に示すフローチャートと同様である。以下、図10に示すフローチャートの特徴部について説明する。
【0155】
図10に示すフローチャートによれば、噴射燃料の付着率Rを算出する手順では、先ず、ポート部(P)とバルブ部(V)に分けて状態量が推定される(ステップ150)。
本ステップ150の処理は、図9に示すステップ142の処理と同様である。ここでは、具体的には、上記ステップ102で推定された状態量Pg、Tg、UgおよびTwが、ポート部とバルブ部とで共通の状態量PgおよびTg、並びにポート部における状態量UgpおよびTwgとして流用される。そして、シミュレーションにより定めた係数をベースの状態量(UgまたはTw)に掛け合わせることにより、バルブ部における状態量UgvおよびTwvが推定される。
【0156】
次に、ポート部およびバルブ部に付着する噴射燃料のうち、ポート部に分配される割合(ポート割合γ)が決定される(ステップ152)。
ポート割合γは、例えば、機関回転数NEおよび吸気管圧力Pmなどのパラメータから推定することができる。ECU50は、それらのパラメータNEおよびPmとの関係でポート割合γを定めたマップを記憶している。本ステップ144では、そのマップを参照することでポート割合γが決定される。
【0157】
次いで、ポート部における蒸発総量Vfi,pと、バルブ部における蒸発総量Vfi,vとが、それぞれ推定される(ステップ154)。
ポート部蒸発総量Vfi,pは、以下に示すように、蒸発総量Vfiの数式モデル(上記(4)式)に、ポート部における状態量Pg、Tg、UgpおよびTwpを代入することで求めることができる。
Vfi,p=F2(Pg、Tg、Twp)+G2(Pg、Tg、Ugp、Twp) ・・・(28)
また、バルブ部蒸発総量Vfi,vは、以下に示すように、蒸発総量Vfiの数式モデル(上記(4)式)に、バルブ部における状態量Pg、Tg、UgvおよびTwvを代入することで求めることができる。
Vfi,p=F2(Pg、Tg、Twv)+G2(Pg、Tg、Ugv、Twv) ・・・(29)
【0158】
上記の処理が終了すると、それらの処理により求めた値を次式に代入することで、ポート部付着率Rp、およびバルブ部付着率Rvが算出される(ステップ156)。
Rp=(γ・fi−Vfi,p)/(γ・fi) ・・・(30)
Rv={(1−γ)・fi−Vfi,v}/(1−γ)fi ・・・(32)
【0159】
上記ステップ156では、更に、算出されたRpおよびRvを、次式に代入することで、噴射燃料全体の付着率Rが算出される。
R=Rp・γ+Rv・(1−γ) ・・・(33)
【0160】
以上説明した通り、図10に示すフローチャートによれば、付着燃料の残留率Pを実施の形態1の場合と同様の手法で算出し(ステップ108b参照)、かつ、噴射燃料の付着率を、ポート部とバルブ部における蒸発挙動の相違を考慮した手順で算出することができる。このため、本実施形態の装置によれば、実施の形態1の場合に比して、更に精度良く噴射燃料の付着率Rを算出し、その値Rを用いて、更に高精度な燃料噴射制御を実現することができる。
【0161】
[ポート部付着率Rpの具体的算出方法]
以下に示す(34)〜(36)式は、ポート部付着率Rpを算出するための演算式である。ECU50は、上記図10に示すステップ150〜156の処理を進めるにあたり、具体的には、これら(34)〜(36)式を用いてポート部付着率Rpを算出する。
【0162】
【数10】
Figure 0003944444
【0163】
但し、上記(34)式中、αpは、吸気ポート30の壁面に到達した液滴燃料が、反射により失われずにその壁面に付着する割合(固定値)である。また、上記(35)式中、Bpは、ポート部の状態量Pg、Tg、UgpおよびTwpを用いて算出される層流時質量輸送係数(上記(10)〜(13)式参照)である。更に、上記(36)式中、hpは、吸気ポート30の壁面に付着している燃料の膜厚であり、また、Bpは、ポート部の状態量Pg、Tg、UgpおよびTwpを用いて算出される乱流時質量輸送係数(上記(10)〜(13)式参照)である。尚、燃料の膜厚hpは、実施の形態3の場合と同様の手法で算出するものとする。
【0164】
[バルブ部付着率Rvの具体的算出方法]
以下に示す(37)〜(39)式は、ポート部付着率Rvを算出するための演算式である。ECU50は、上記図10に示すステップ150〜156の処理を進めるにあたり、具体的には、これら(37)〜(39)式を用いてバルブ部付着率Rvを算出する。
【0165】
【数11】
Figure 0003944444
【0166】
但し、上記(37)式中、αvは、吸気バルブ34の表面に到達した液滴燃料が、反射により失われずにその表面に付着する割合(固定値)である。また、上記(38)式中、Bvは、バルブ部の状態量Pg、Tg、UgvおよびTwvを用いて算出される層流時質量輸送係数(上記(10)〜(13)式参照)である。更に、上記(39)式中、hvは、吸気バルブ34の表面に付着している燃料の膜厚であり、また、Bvは、バルブ部の状態量Pg、Tg、UgvおよびTwvを用いて算出される乱流時質量輸送係数(上記(10)〜(13)式参照)である。尚、燃料の膜厚hvは、実施の形態3の場合と同様の手法で算出するものとする。
【0167】
ところで、上述した実施の形態4においては、付着燃料の残留率Pを、実施の形態1の場合と同様の手法で算出することとしているが、その算出の手法はこれに限定されるものではない。すなわち、付着燃料の残留率Pについても、実施の形態3の場合と同様に、ポート部とバルブ部における蒸発挙動の相違を考慮した手法で算出することとしてもよい。
【0169】
実施の形態5.
次に、図11を参照して、本発明の実施の形態5について説明する。
本実施形態の装置は、実施の形態1の装置において、ECU50に、上記図5に示すフローチャートに代えて、図11に示すフローチャートに沿って処理を実行させることにより実現することができる。
【0170】
上述した実施の形態1の装置は、付着燃料の減少要因として蒸発のみを考慮して、残留率Pを算出している。これに対して、付着燃料量fwが多くなると、液だれによる付着燃料の減少が生じ易くなる。そこで、本実施形態の装置は、付着燃料量fwが多量である状況下では、液だれの影響をも考慮して付着燃料の残留率Pを算出する。
【0171】
[実施の形態5における処理の流れ]
図11は、上記の要求に応えつつ、残留率Pおよび付着率Rを算出し、更に、それらの値P、Rを用いて燃料噴射量fiを適正に補正するために、ECU50が実行する処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【0172】
図11に示すフローチャートは、付着燃料の残留率Pを算出するための処理として、ステップ160〜164が追加されていると共に、残留率Pを算出するためのステップが、ステップ108からステップ166に変更されている点を除き、上記図5に示すフローチャートと同様である。以下、図10に示すフローチャートの特徴部について説明する。
【0173】
図11に示すフローチャートによれば、ステップ102においてポート内状態量が推定された後、ステップ104および106の処理と共に、燃料付着量fwが判定値δより多量であるかが判別される(ステップ160)。
【0174】
判定値δは、付着燃料に液だれを生ずるか否かを判断するための値である。このため、fw>δが成立しないと判別された場合は、残留率Pを算出するうえで、液だれの影響が無視できると判断できる。この場合、付着燃料の液だれ量Ffwが0とされる(ステップ162)。
【0175】
一方、上記ステップ160において、燃料付着量fwが判定値δより多量であると判別された場合は、残留率Pを算出するうえで液だれの影響を考慮すべきことが判断できる。この場合、次に、ポート内状態量Pg、Tg、UgおよびTwに基づいて、液だれ量Ffwが算出される(ステップ164)。
尚、液だれ量Ffwは、例えば、ケンブリッジ大学文献SAE1999−01−1314などに開示される公知の手法で算出することができる。
【0176】
図11に示すフローチャートでは、上記ステップ104,106および160〜164の処理が終了した後、実施の形態1の場合と同様の手法で噴射燃料の付着率Rが算出されると共に、以下に示す演算式に従って、付着燃料の残留率Pが算出される。
P=(fw−Vfw−Ffw)/fw ・・・(39)
【0177】
上記(39)式によれば、付着燃料量fwが液だれにより減少する場合には、その影響Ffwを考慮して残留率Pを算出することができる。このため、本実施形態の装置によれば、液だれが発生する状況下では、実施の形態1乃至4の装置に比して、更に高精度な燃料噴射制御を実現することができる。
【0178】
尚、上述した実施の形態5においては、ECU50が、上記ステップ160〜164の処理を実行することにより前記第3の発明における「液だれ量推定手段」が、また、上記ステップ166の処理を実行することにより前記第3の発明における「液だれ加味手段」が、それぞれ実現されている。
【0183】
【発明の効果】
この発明は以上説明したように構成されているので、以下に示すような効果を奏する。
第1の発明によれば、噴射燃料が吸気ポートの内部に付着する以前の挙動を、飛行過程での蒸発挙動を表す飛行蒸発モデルと、壁面反射による蒸発挙動を表す反射蒸発モデルの双方を用いて捕らえることができる。このため、本発明によれば、壁面に付着する以前に混合気中に失われる燃料の挙動を精度良く推定することができ、その結果、制御パラメータを高い精度で算出することができる。
【0184】
第2の発明によれば、吸気ポートの内部に付着した燃料の蒸発挙動を、吸気バルブの閉弁中における閉弁中蒸発挙動モデルと、吸気バルブの開弁中における開弁中蒸発挙動モデルの双方を用いて捕らえることができる。このため、本発明によれば、付着燃料の蒸発挙動を精度良く推定することができ、その結果、制御パラメータを高い精度で算出することができる。
【0187】
第3の発明によれば、付着燃料が、液だれにより減少する場合には、その液だれの影響を加味して、精度良く燃料制御パラメータを算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態1の構成を説明するための図である。
【図2】 図1に示す内燃機関の吸気ポート近傍を拡大して表した図である。
【図3】 吸入空気量Vの変化と燃料付着量fwの変化との関係を示す図である。
【図4】 内燃機関の始動直後に噴射された燃料の内訳を、クランク角CAとの関係で示したシミュレーション結果である。
【図5】 実施の形態1の装置において実行される処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【図6】 噴射燃料が壁面に付着して付着燃料となるプロセスを説明するための図である。
【図7】 吸気工程の終了時に付着燃料として吸気ポート内に残留していた燃料が、次サイクルの吸気工程終了時までに蒸発するプロセスを説明するための図である。
【図8】 実施の形態2の装置において実行される処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【図9】 実施の形態3の装置において実行される処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【図10】 実施の形態4の装置において実行される処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【図11】 実施の形態5の装置において実行される処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
10 内燃機関
12 吸気通路
20 エアフロメータ
22 スロットルバルブ
32 燃料噴射弁
34 吸気バルブ
36、40 可変バルブタイミング機構
fw 燃料付着量
fi 燃料噴射量
VT 吸気バルブの開弁タイミング
P 残留率
R 付着率
Vfi 噴射燃料の蒸発総量
fw 蒸発量
Pg ポート内ガス圧力
Tg ポート内ガス温度
Ug ポート内ガス流速
Tw ポート内壁面温度

Claims (3)

  1. 吸気ポートの内部に燃料を噴射する燃料噴射弁と、
    前記吸気ポートの内部状態を表すポート内状態量を取得するポート内状態量取得手段と、
    前記吸気ポートの内部での燃料の蒸発挙動を表すべく、前記ポート内状態量をパラメータとして記述された数式モデルを記憶するモデル記憶手段と、
    吸気工程終了時に前記吸気ポートの内部に残留する付着燃料の量を算出するための燃料制御パラメータを、前記ポート内状態量に基づいて、前記数式モデルに則って算出する燃料制御パラメータ算出手段と、
    前記燃料制御パラメータに基づいて、前記付着燃料の量を算出する付着燃料量算出手段と、
    前記付着燃料の影響を排除すべく燃料噴射量に補正を施す噴射量補正手段と、を備え、 前記数式モデルは、
    前記燃料噴射弁から噴射される噴射燃料の、前記吸気ポート内部における飛行過程での蒸発挙動を表す飛行蒸発モデルと、
    前記噴射燃料の壁面反射による蒸発挙動を表す反射蒸発モデルと、
    前記噴射燃料が、前記吸気ポートの内部に付着した後、吸気工程が終了する以前に混合気中に蒸発する際の挙動を表す付着後蒸発挙動モデルと、
    前記付着燃料の、前記吸気ポート内部における蒸発挙動を表す付着燃料蒸発挙動モデルと、を含み、
    前記燃料制御パラメータ算出手段は、
    前記飛行蒸発モデル、前記反射蒸発モデル、および前記付着後蒸発挙動モデルを用いて第1の燃料制御パラメータを算出する第1算出手段と、
    前記付着燃料蒸発挙動モデルに則って第2の燃料制御パラメータを算出する第2算出手段とを含むことを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。
  2. 吸気ポートの内部に燃料を噴射する燃料噴射弁と、
    前記吸気ポートの内部状態を表すポート内状態量を取得するポート内状態量取得手段と、
    前記吸気ポートの内部での燃料の蒸発挙動を表すべく、前記ポート内状態量をパラメータとして記述された数式モデルを記憶するモデル記憶手段と、
    吸気工程終了時に前記吸気ポートの内部に残留する付着燃料の量を算出するための燃料制御パラメータを、前記ポート内状態量に基づいて、前記数式モデルに則って算出する燃料制御パラメータ算出手段と、
    前記燃料制御パラメータに基づいて、前記付着燃料の量を算出する付着燃料量算出手段と、
    前記付着燃料の影響を排除すべく燃料噴射量に補正を施す噴射量補正手段と、を備え、 前記数式モデルは、
    前記燃料噴射弁から噴射される噴射燃料の、前記吸気ポート内部における蒸発挙動を表す噴射燃料蒸発挙動モデルと、
    前記付着燃料の、吸気バルブの閉弁中における蒸発挙動を表す閉弁中蒸発挙動モデルと、
    前記付着燃料の、前記吸気バルブの開弁中における蒸発挙動を表す開弁中蒸発挙動モデルと、を含み、
    前記燃料制御パラメータ算出手段は、
    前記噴射燃料蒸発挙動モデルに則って第1の燃料制御パラメータを算出する第1算出手段と、
    前記閉弁中蒸発挙動モデルおよび前記開弁中蒸発挙動モデルの双方を用いて第2の燃料制御パラメータを算出する第2算出手段とを含むことを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。
  3. 吸気ポートの内部に燃料を噴射する燃料噴射弁と、
    前記吸気ポートの内部状態を表すポート内状態量を取得するポート内状態量取得手段と、
    前記吸気ポートの内部での燃料の蒸発挙動を表すべく、前記ポート内状態量をパラメータとして記述された数式モデルを記憶するモデル記憶手段と、
    吸気工程終了時に前記吸気ポートの内部に残留する付着燃料の量を算出するための燃料制御パラメータを、前記ポート内状態量に基づいて、前記数式モデルに則って算出する燃料制御パラメータ算出手段と、
    前記燃料制御パラメータに基づいて、前記付着燃料の量を算出する付着燃料量算出手段と、
    前記付着燃料の影響を排除すべく燃料噴射量に補正を施す噴射量補正手段と、
    前記付着燃料が液だれにより減少する量を推定する液だれ量推定手段と、を備え、
    前記燃料制御パラメータ算出手段は、前記燃料制御パラメータに、前記液だれの影響を加味する液だれ加味手段を備えることを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。
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