JP3940788B2 - リチウムフェライト系複合酸化物およびその製造方法 - Google Patents
リチウムフェライト系複合酸化物およびその製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、次世代低コストリチウムイオン二次電池の正極材料として有用なリチウムフェライト系複合酸化物およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在我が国において、携帯電話、ノートパソコンなどのポータブル機器に搭載されている二次電池の殆どは、リチウムイオン二次電池である。また、リチウムイオン二次電池は、今後電気自動車、電力負荷平準化システムなどの大型電池としても実用化されるものと予測されており、その重要性はますます高まっている。
【0003】
現在、リチウムイオン二次電池においては、正極材料として主にリチウムコバルト酸化物(LiCoO2)材料を使用し、負極材料として黒鉛などの炭素材料を使用している。
【0004】
特に、正極材料としてのLiCoO2は、電池の作動電圧(正極中の遷移金属の酸化還元電位と負極元素の酸化還元電位との差)、充放電容量(正極から脱離・挿入可能なLi量)などの電池性能に関連する重要な材料であるので、今後需要が一層増大するものと予測されている。しかしながら、この化合物は、希少金属であるコバルトを含むために、リチウムイオン二次電池の高コスト要因の一つとなっている。さらに、現在すでに全世界のコバルト生産量の約20%が電池産業において用いられていることを考慮すれば、LiCoO2からなる正極材料のみでは、今後の需要拡大に対応可能かどうかは、不明である。
【0005】
現在、より安価で資源的制約の少ない正極材料として、リチウムニッケル酸化物(LiNiO2)、リチウムマンガン酸化物(LiMn2O4)などが知られており、一部はLiCoO2に代替して実用化されている。しかしながら、これらの材料は、電池充電時の安全性の問題(LiNiO2)、50℃以上でのマンガンの溶解による顕著な特性劣化(LiMn2O4)などの問題点を有しているので、これら材料によるLiCoO2の代替は、予期された程には進展していない。
【0006】
さらに、マンガンおよびニッケルに比べて、資源的により一層豊富であり、毒性が低く、安価な鉄を含むリチウムフェライト(LiFeO2)について、電極材料としての可能性が検討されている。しかしながら、通常の鉄源とLi源とを用いて、高温焼成により得られるリチウムフェライトは、殆ど充放電しない(すなわち、リチウムイオン二次電池の正極材料としての活性を有していない)。
【0007】
一方、α-NaFeO2またはFeOOHを出発物質として、H/Liイオン交換法あるいはNa/Liイオン交換法を用いて得られるLiFeO2は、4V付近に充電平坦電位を有しているものの、放電電位は3V以下である。(R.Kanno, T.Shirane, Y.Kawamoto, Y.Takeda, M.Takano, M.Ohashi and Y.Yamaguchi, J. Electrochem. Soc., 143, [8], 2435, (1996);Y.Sakurai, H.Arai, S.Okada and J.Yamaki, J. Power Sources, 68, 711, (1997);L.Guenne, P.Deniard, A.Lecerf, P.Biensan, C.Siret, L.Fournes and R.Brec, Ionics, 4, 220, (1998);特開平10-120421号公報、特開平8-295518号公報など)。このイオン交換法により得られたLiFeO2の放電電位は、LiCoO2の放電電位に比べて、約1V以上低く、前者材料による後者材料の代替は、かなり困難である。この様に、実用的レベルに達するリチウムフェライトの製造技術は、未だ確立されていない。
【0008】
従って、リチウム二次電池において、LiCoO2に代替しうる正極材料であるか否かは、4V付近に鉄の3+/4+酸化還元に伴う放電平坦電位を有するリチウムフェライト系酸化物が、その判断基準となる。本発明者らは、リチウムフェライトとリチウムマンガン酸化物(Li2-xMnO3-y)との固溶体(以下「鉄含有Li2MnO3」と略記する)を形成させることにより、4V領域に鉄の3+/4+酸化還元に伴う放電平坦電位を有する化合物が得られることを見出した(2000年8月25日出願に係る特願2000-262043号および2000年10月11日出願に係る特願2000-310246号;以下においては、これらの出願を「先出願」という)。しかしながら、この材料のもつ4V領域の充放電容量は、充放電試験サイクル数の増加とともに顕著に劣化するという問題があり、現時点では、上記の方法では、実用化のために必要な高容量を有しかつサイクル劣化の少ない材料は得られていないので、さらに技術的改善が必要である(田渕光春ほか、「鉄含有Li2MnO3の充放電特性改善方法の検討」、電気化学会第68回大会、神戸、2001年4月)。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は、資源的な制約が少なくかつ安価な原料を使用して、既存のリチウムコバルト酸化物系正極材料と同等の作動電圧領域(約4V)において安定に充放電させることができる新規な材料を提供することを主な目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、先出願発明を含む上記従来技術の問題に鑑みて鋭意研究を重ねてきた。その結果、上記先出願に係る鉄含有Li2MnO3中にさらに特定量のNiを固溶させた鉄-ニッケル含有固溶体をリチウムイオン二次電池の正極材料として使用する場合には、4V領域のサイクル劣化が著しく改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記に示すリチウムフェライト系複合酸化物、その製造方法、リチウムフェライト系複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池用正極材料およびリチウムイオン二次電池を提供する。
1.組成式Li2-x(Mn1-m-nFenNim)O3-y(但し、x=0.4、0≦y≦1、0.01≦m≦0.30、0.05≦n
≦0.75、0.06≦m+n<1) で表され、層状岩塩型構造を有するリチウムフェライト系複合酸化物。
2.可溶性マンガン塩、可溶性鉄塩および可溶性ニッケル塩を含む混合水溶液をアルカリにより共沈させることにより得た沈殿生成物を酸化剤および水溶性リチウム塩とともに101〜400℃の温度範囲で水熱処理し、次いで過剰の塩類を除去した後、水熱処理反応生成物を200-1000℃で焼成することを特徴とする上記項1に記載のリチウムフェライト系複合酸化物の製造方法。
3.水熱処理反応生成物の焼成を大気中、酸化雰囲気中或いは還元雰囲気中で行う上記項2記載のリチウムフェライト系複合酸化物の製造方法。
4.焼成前の水熱反応処理物にリチウム塩を添加・混合し、焼成した後、焼成物を溶媒洗浄して過剰のリチウム塩を除去する上記項3に記載のリチウムフェライト系複合酸化物の製造方法。
5.組成式Li2-x(Mn1-m-nFenNim)O3-y(但し、x=0.4、0≦y≦1、0.01≦m≦0.30、0.05≦n
≦0.75、0.06≦m+n<1) で表され、層状岩塩型構造を有するリチウムフェライト系複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池用正極材料。
6.組成式Li2-x(Mn1-m-nFenNim)O3-y(但し、x=0.4、0≦y≦1、0.01≦m≦0.30、0.05≦n
≦0.75、0.06≦m+n<1) で表され、層状岩塩型構造を有するリチウムフェライト系複合酸化物からなる正極材料を構成要素とするリチウムイオン二次電池。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の基礎となった上記先出願に係る鉄含有Li2MnO3および本発明による鉄-ニッケル含有リチウムフェライト系酸化物は、LiCoO2に類似する層状岩塩型構造を有する。LiCoO2における構造は、立方最密充填した酸化物イオンの8面体格子間位置に2次元的にCoイオンとLiイオンとが配列し、c軸方向に交互に積層したものである。本発明の鉄-ニッケル含有リチウムフェライト系酸化物においては、FeイオンおよびNiイオンが、LiCoO2のCo層に対応するMn層を部分的に置換していることが特徴である。すなわち、FeイオンおよびNiイオンは、含有層内でLiイオンおよびMnイオンの共存により希釈されている。LiCoO2のCo層内がすべてFeイオンにより置換されたものが、層状岩塩型LiFeO2であるが、この材料はほとんど充放電容量を有しない(K.Ado, M.Tabuchi, H.Kobayashi, H.Kageyama, O.Nakamura, Y.Inaba, R.Kanno, M.Takagi and Y.Takeda, J. Electochem. Soc., 144, [7], L177, (1997))。十分な充放電容量を有する複合酸化物を得るためには、上記の希釈が必要なので、本発明リチウムフェライト系複合酸化物に固溶させるFeイオン量は、Liイオン以外の金属イオン量の5〜75モル%(0.05≦Fe/(Fe+Mn+Ni)≦0.75)であることが好ましく、20〜60モル%(0.20≦Fe/(Fe+Mn+Ni)≦0.60)であることがより好ましい。Feイオンの固溶量が過剰となる場合には、充放電に関与しないFeイオンが多くなるので、電池特性上好ましくない。これに対し、Feイオンの固溶量が少なすぎる場合には、充放電容量が小さくなるため、やはり好ましくない。
【0013】
本発明リチウムフェライト系複合酸化物に固溶させるNiイオンも、基本的にFeイオンと同様にMnイオンを置換する形で層状岩塩型構造中に存在している(M.Yoshio, H.Noguchi, J.Itoh, M.Okada, T.Mouri, J. Power Sources, 90, 176, (2000))。Niイオンは、2価-3価の混合原子価状態で存在しているものと推測され、複合酸化物の電子伝導性の向上などに寄与している。本発明複合酸化物に固溶させるNiイオン量は、Liイオン以外の金属イオン量の1〜30モル%(0.01≦Ni/(Fe+Mn+Ni)≦0.30)であることが好ましく、5〜25モル%(0.05≦Fe/(Fe+Mn+Ni)≦0.25)であることがより好ましい。MnおよびFeに比して高価なNiを多量に使用する場合には、経済的に不利となる。これに対し、Niイオンの固溶量が少なすぎる場合には、Ni添加による達成される電子伝導性の向上などの効果が十分に発現されない。
【0014】
さらに、本発明リチウムフェライト系複合酸化物に固溶させるFeイオンとNiイオンの合計量は、前記組成式において、m+n<1以下であり、より好ましくは0.3≦m+n≦0.8の範囲内にある。
【0015】
また、本発明リチウムフェライト系複合酸化物において、層状岩塩型の結晶構造を保つことができる限り、Li2-xMnO3-yのxとyは、それぞれ最大1程度までの正の値をとることができる。しかしながら、充電容量の観点からは、できるだけ0に近いことが好ましい。さらに、本発明複合酸化物は、充放電特性に重大な影響を及ぼさない範囲(最大10モル%程度)のLi2CO3などの不純物相を含んでいても良い。
【0016】
本発明複合酸化物は、通常の複合酸化物合成法である水熱反応法、固相反応法などにより製造することが可能である。しかしながら、一般に、乾式混合プロセスを用いる固相反応法においては、金属イオン間の均質混合(特にFeイオンとMnイオンとNiイオンとの混合)が困難である。従って、本発明の複合金属酸化物は、各イオンの生成源となる金属塩を水、水/アルコール混合物などに溶解させた混合溶液を用いて、水熱反応法で製造することが、より好ましい。
【0017】
本発明において、水熱反応は、水溶性鉄塩、水溶性マンガン塩および水溶性ニッケル塩を含む水溶液または水-アルコール混合溶液にアルカリ水溶液を添加して共沈物を得た後、酸化剤の存在下にこの共沈物とリチウム源となる化合物とを加熱することにより、行われる。
【0018】
水熱反応法において使用するLi以外の各金属(Mn、FeおよびNi)源材料としては、水溶性塩(塩化物、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩など)、水酸化物などが挙げられる。これらの塩は、無水物および水和物のいずれであってもよい。これらの塩類および水酸化物は、いずれの金属についても、それぞれ単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、金属源としては、いずれの金属についても、金属酸化物を塩酸などの酸で溶解させた水溶液を用いてもよい。
【0019】
混合水溶液中のFe/(Fe+Mn+Ni)モル比およびNi/(Fe+Mn+Ni)モル比は、目的とする複合金属酸化物中のFe/(Fe+Mn+Ni)モル比およびNi/(Fe+Mn+Ni)モル比に応じて、適宜選択することができる。
【0020】
上記混合水溶液から共沈物を形成させるためのアルカリ源としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水などが好ましい。
【0021】
得られた共沈物と水熱反応させるリチウム源としては、水酸化リチウム(無水物および/または水和物)、塩化リチウム、硝酸リチウムなどが好ましい。
【0022】
本発明リチウムフェライト系酸化物においては、水熱反応に用いる原料におけるリチウム/その他の金属のモル比(Li/(Fe+Mn+Ni))は、1〜3程度であることが好ましく、1.5〜2.5程度であることがより好ましい。
【0023】
本発明による金属複合酸化物の製造方法は、過剰のリチウム化合物の除去を水熱反応物の焼成前に行うか或いは焼成後に行うかにより、2つの態様に区別される。
【0024】
より具体的に、本発明の一実施態様による金属複合酸化物を製造するに際しては、所定モル比の鉄塩、マンガン塩およびニッケル塩を全濃度0.01〜5M(無水物換算)程度、より好ましくは0.1〜2M程度になるように蒸留水または蒸留水-アルコール混合溶媒中で溶解させる。次いで、得られた混合溶液を攪拌しつつ、0.1〜20M程度、より好ましくは0.5〜10M程度に相当する水酸化カリウムなどのアルカリの水溶液を混合溶液が完全にアルカリ性(pH11以上)になるまで滴下することにより、共沈物を生成させる。滴下終了後、0〜150℃程度、より好ましくは20-100℃程度の温度で、2〜7日間程度、より好ましくは3〜5日間程度にわたり、反応溶液に空気を吹き込みながら、共沈物の酸化・熟成処理を行う。次いで、得られた沈殿を蒸留水で洗浄して、過剰のアルカリ成分および残留塩類を除去し、濾別した沈殿を80℃以上の温度(通常100℃程度の温度)で乾燥することにより、精製した共沈物を得る。
【0025】
次いで、精製共沈物をビーカー(例えば、ポリテトラフルオロエチレン製ビーカー)中で蒸留水と混合し、これに水酸化リチウム(無水物および/または水和物)、塩化リチウム、硝酸リチウムなどのリチウム塩を0.1〜10M程度、より好ましくは1〜8M程度となるように加え、さらに塩素酸カリウムなどの酸化剤を0.1〜10M程度、より好ましくは0.5〜5M程度となるように加えた後、このビーカーを水熱反応装置(例えば、市販のオートクレーブ)内に静置して、混合物を水熱反応に供する。水熱反応条件は、特に限定されるものではないが、通常100〜300℃程度の温度で0.1〜150時間程度であり、より好ましくは150〜250℃程度の温度で1〜100時間程度である。
【0026】
水熱反応終了後、残存するリチウム塩などの残存塩類を除去するために、反応生成物を水、水-アルコール、アセトンなどより洗浄し、濾過し、80℃以上の温度(より好ましくは100℃程度の温度)で加熱乾燥することにより、所望の層状岩塩型リチウムフェライト系複合酸化物を得る。
【0027】
本発明においては、さらに必要に応じて、層状岩塩型リチウムフェライト系複合酸化物としての結晶性を一層向上させるためには、上記で得られた複合酸化物を粉砕し、粉末形態或いは水溶液形態のLi塩(水酸化リチウム、塩化リチウム、硝酸リチウムなど)と混合し、大気中、酸化性雰囲気中、不活性雰囲気中或いは還元雰囲気中で200〜1000℃程度(より好ましくは300〜800℃程度)で1〜100時間程度(より好ましくは20-60時間程度)焼成してもよい。リチウム塩は、反応の均一性を確保するために、水溶液の形態で使用することがより好ましい。さらに、この焼成終了後、過剰のリチウム塩を除去するために、焼成物を水洗処理或いは溶媒洗浄処理し、濾過した後、80℃以上の温度(より好ましくは100℃程度の温度)で加熱乾燥してもよい。
【0028】
さらに、この加熱乾燥物を粉砕し、焼成し、洗浄し、乾燥するという一連の操作を繰り返し行うことにより、リチウムフェライト系複合酸化物の優れた特性(リチウムイオン二次電池用正極材料としての作動電圧領域における安定的な充放電特性、高容量など)をより一層改善することができる。
【0029】
本発明によるNi-Mn含有リチウムフェライト系複合酸化物を用いるリチウムイオン二次電池は、公知の手法により製造することができる。すなわち、正極材料として、本発明による新規な複合酸化物を使用し、負極材料として、公知の金属リチウム、炭素系材料(活性炭、黒鉛)などを使用し、電解液として、公知のエチレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどの溶媒に過塩素酸リチウム、LiPF6などのリチウム塩を溶解させた溶液を使用し、さらにその他の公知の電池構成要素を使用して、常法に従って、リチウムイオン二次電池を組立てることができる。
【0030】
【発明の効果】
本発明によれば、安価な原料を使用して、既存のリチウムコバルト酸化物系正極材料と同等の作動電圧領域(約4V)において安定に充放電させることができる新規な材料を得ることができる。
【0031】
本発明によるNi-Mn含有リチウムフェライト系複合酸化物は、サイクル劣化の少ない、低コストのリチウムイオン二次電池用正極材料として、極めて有用である。
【0032】
【実施例】
以下に実施例および比較例を示し、本発明の特徴とするところを一層明確にする。本発明は、これら実施例により限定されるものではない。
【0033】
なお、以下の実施例および比較例で得られた各酸化物の結晶相は、X線回折分析により、それらの組成は、誘導結合高周波プラズマ分光分析(ICP)および原子吸光分析により、それぞれ評価した。また、各酸化物を正極材料とし、金属リチウムを負極材料とするコイン型リチウム電池を作製し、その充放電特性を測定した。
実施例1
硝酸鉄(III)9水和物80.80g、硝酸マンガン(II)6水和物71.76gおよび塩化ニッケル(II)6水和物11.88g(全量0.5mol、Fe:Mn:Niモル比=4:5:1)を400mlの蒸留水に加え、完全に溶解させた。この水溶液を攪拌しつつ水酸化カリウム水溶液(蒸留水400mlに水酸化ナトリウム100gを溶解する溶液)を徐々に滴下することにより、沈殿物を形成させた。反応液が完全にアルカリ性(pH11以上)になっていることを確認し、攪拌下に共沈物を含む反応液に室温で3日間空気を吹き込んで酸化処理した後、反応液を50℃で3日間保持して、沈殿を熟成させた。
【0034】
得られた沈殿を蒸留水で洗浄し、濾別した後、水酸化リチウム1水和物80g、塩素酸カリウム80g、蒸留水200mlとともにポリテトラフルオロエチレンビーカー中に入れ、よく攪拌した後、水熱反応炉(オートクレーブ)内に設置し、220℃で8時間水熱処理した。
【0035】
水熱処理終了後、反応炉を室温付近まで冷却し、水熱処理反応液を含むビーカーをオートクレーブ外に取り出し、生成している沈殿物を蒸留水で洗浄して、過剰に存在する水酸化リチウムなどの塩類を除去し、濾過し、乾燥することにより、粉末状生成物(10モル%ニッケルおよび40モル%鉄含有Li2-xMnO3-y)を得た。
【0036】
次いで、得られた生成物の結晶性を改善するために、生成物粉末と水酸化リチウム1水和物10gを蒸留水100mlに溶解させた水酸化リチウム水溶液とを混合し、100℃で乾燥し、粉砕し、得られた粉末を大気中700℃で20時間焼成した。次いで、過剰のリチウム塩を除去するために、焼成物を蒸留水で水洗し、濾過し、乾燥して、所望の粉末状生成物(10モル%ニッケルおよび40モル%鉄含有Li2-xMnO3-y)を得た。
【0037】
この最終生成物のX線回折パターンを図1(a)に示す。僅かに炭酸リチウムのピークが見られるものの、それ以外のすべてのピークは、“M.H.Rossow, D.C.Lies and M.M.Thackeray, J. Solid State Chem., 104, 464, (1993)”に記載されている層状岩塩型のLi2-xMnO3-y (Li1.20MnO2.20)の単位胞
で、指数付けすることができた。本実施例において得られた10%Ni-40%Fe含有Li2-xMnO3-yの各ピークより計算される格子定数(a=2.88036(9)A, c=14.2799(6) A)が、上記文献の記載値よりも大きくなっていること、化学分析(下記表1)により、FeおよびNiが仕込量通りそれぞれ40モル%および10モル%含まれていること、Li/(Ni+Fe+Mn)値がほぼ1.6であることから、本実施例において、10%Ni-40%Fe含有Li2-xMnO3-yが得られたことが確認できた。
【0038】
また、図2は、本実施例で最終生成物として得られた10%Ni-40%鉄含有粉末状Li2-xMnO3-yの電子顕微鏡写真を電子的に画像処理した図面である。図2から、本実施例により、粒径が比較的揃った10%Ni-40%Fe含有粉末状Li2-xMnO3-yが形成されていることが明らかである。
比較例1
硝酸鉄(III)9水和物80.80gおよび硝酸マンガン(II)6水和物86.11g(全量0.5mol、Fe:Mnモル比=4:6)を400mlの蒸留水中に加え、完全に溶解させた。この水溶液を攪拌しつつ水酸化カリウム水溶液(蒸留水400mlに水酸化ナトリウム100gを溶解した溶液)を徐々に滴下することにより、沈殿物を形成させた。反応液が完全にアルカリ性(pH11以上)になっていることを確認し、攪拌下に共沈物を含む反応液に室温で3日間空気を吹き込んで酸化処理した後、反応液中の沈殿を50℃で3日間熟成させた。
【0039】
得られた沈殿を蒸留水で洗浄し、濾別した後、水酸化リチウム1水和物80g、塩素酸カリウム80g、蒸留水200mlとともに、ポリテトラフルオロエチレンビーカー中に入れ、よく攪拌した後、水熱反応炉(オートクレーブ)内に設置し、220℃で8時間水熱処理した。
【0040】
水熱処理終了後、反応炉を室温付近まで冷却し、水熱反応処理液を含むビーカーをオートクレーブ外に取り出し、生成している沈殿物を蒸留水で洗浄して、過剰に存在する水酸化リチウムなどの塩類を除去し、濾過し、乾燥することにより、粉末状生成物(40%Fe含有Li2-xMnO3-y)を得た。
【0041】
得られた試料の結晶性を改善するために、生成物粉末と水酸化リチウム1水和物10gと蒸留水100mlに溶解させた水酸化リチウム水溶液とを混合し、100℃で乾燥し、粉砕し、得られた粉末を大気中700℃で20時間焼成した。次いで、過剰のリチウム塩を除去するために、焼成物を蒸留水で水洗し、濾過し、乾燥して、所望の粉末状生成物(40%Fe含有Li2-xMnO3-y)を得た。
【0042】
この最終生成物のX線回折パターンを図1(b)に示す。僅かに炭酸リチウムのピークが見られるものの、それ以外のすべてのピークは、実施例1で挙げた参考文献に記載されている層状岩塩型のLi2-xMnO3-y (Li1.20MnO2.20)の単位胞
で、指数付けすることができた。本比較例によって得られた40%Fe含有Li2-xMnO3-yの各ピークより計算される格子定数(a=2.87643(15)Å, c=14.2631(11)Å)が上記参考文献の記載値よりも大きくなっていること、化学分析(下記表1)により、Feがほぼ仕込量通り40モル%含まれていること、Li/(Fe+Mn)値がほぼ1.7であることなどを考慮すると、本比較例においては、40%Fe含有Li2-xMnO3-yが製造されたことが、確認できた。
【0043】
【表1】
【0044】
実施例2および比較例2
上記実施例1および比較例1で得られた各試料を正極材料として、金属リチウムを負極材料として、過塩素酸リチウムをエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの混合溶媒に溶解させた1M溶液を電解液として、リチウム電池としての充放電特性を(電位範囲3.0-4.3V、電流密度7.5mA/g)検討した(図3および表2参照)。
【0045】
【表2】
【0046】
実施例1による正極材料と比較例1による正極材料との間で、初期充放電曲線(図3において、右上がりの曲線が充電曲線に対応し、右下がりの曲線が放電曲線に対応する)および容量には、殆ど差は認められなかったが、10サイクル試験後の3.5V以上の放電容量においては、明確な差が認められた。すなわち、Niを含まない40%Fe含有Li2MnO3正極(比較例1)を使用する場合には、10サイクル試験後に初期容量の89%まで低下するが、10%Ni-40%Fe含有Li2MnO3正極(実施例1)を使用する場合には、10サイクル試験後にも初期容量の97%を維持している。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得られた10%Ni-40%Fe含有Li2-xMnO3-yのX線回折パターン(a)と比較例1で得られた40%Fe含有Li2-xMnO3-yのX線回折パターン(b)とを示す図面である。
【図2】実施例1で得られた10%Ni-40%Fe含有Li2-xMnO3-yの電子顕微鏡写真を電子的に画像処理した図面である。
【図3】実施例1で得られた10%Ni-40%Fe含有Li2-xMnO3-y(a)および比較例1で得られた40%Fe含有Li2-xMnO3-y(b)をそれぞれ正極材料とし、Li金属を負極材料とする2種のコイン型リチウム電池の初期充放電特性を示すグラフである。
Claims (6)
- 組成式Li2-x(Mn1-m-nFenNim)O3-y(但し、x = 0.4、0≦y≦1、0.01≦m≦0.30、0.05≦n≦0.75、0.06≦m+n<1) で表され、層状岩塩型構造を有するリチウムフェライト系複合酸化物。
- 可溶性マンガン塩、可溶性鉄塩および可溶性ニッケル塩を含む混合水溶液をアルカリにより共沈させ、得られた沈殿生成物を酸化剤および水溶性リチウム塩とともに101〜400℃の温度範囲で水熱処理し、次いで過剰の塩類を除去した後、水熱処理反応生成物を200-1000℃で焼成することを特徴とする請求項1に記載のリチウムフェライト系複合酸化物の製造方法。
- 水熱処理反応生成物の焼成を大気中、酸化雰囲気中或いは還元雰囲気中で行う請求項2記載のリチウムフェライト系複合酸化物の製造方法。
- 焼成前の水熱反応処理物にリチウム塩を添加・混合し、焼成した後、焼成物を溶媒洗浄して過剰のリチウム塩を除去する請求項3に記載のリチウムフェライト系複合酸化物の製造方法。
- 組成式Li2-x(Mn1-m-nFenNim)O3-y(但し、x=0.4、0≦y≦1、0.01≦m≦0.30、0.05≦n≦0.75、0.06≦m+n<1) で表され、層状岩塩型構造を有するリチウムフェライト系複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池用正極材料。
- 組成式Li2-x(Mn1-m-nFenNim)O3-y(但し、x=0.4、0≦y≦1、0.01≦m≦0.30、0.05≦n≦0.75、0.06≦m+n<1) で表され、層状岩塩型構造を有するリチウムフェライト系複合酸化物からなる正極材料を構成要素とするリチウムイオン二次電池。
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