JP3920078B2 - 光学補償シートおよび液晶表示装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、液晶性分子から形成した光学異方性層および透明支持体を有する光学補償シート、およびそれを用いる液晶表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
液晶表示装置は、液晶セルと偏光板とからなる。透過型液晶表示装置では、二枚の偏光板を液晶セルの両側に取り付ける。反射型液晶表示装置では、反射板、液晶セル、そして一枚の偏光板の順に配置する。
液晶セルは、棒状液晶性分子、それを封入するための二枚の基板および棒状液晶性分子に電圧を加えるための電極層からなる。液晶セルは、棒状液晶性分子の配向状態の違いで、透過型については、TN(Twisted Nematic)、IPS(In-Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)、反射型については、HAN(Hybrid Aligned Nematic)、TNのような様々な表示モードが提案されている。
【0003】
通常の液晶表示装置では、液晶セルと偏光板とに加えて、光学補償シート(位相差板)を使用する。光学補償シートは、画像着色を解消したり、視野角を拡大するために用いられている。透過型液晶表示装置では、一枚または二枚の光学補償シートを液晶セルと偏光板との間に配置する。反射型液晶表示装置では、液晶セルと偏光板との間に一枚の光学補償シートを配置する。
光学補償シートとしては、延伸複屈折フイルムが従来から使用されていた。
最近では、延伸複屈折フイルムからなる光学補償シートに代えて、透明支持体上に液晶性分子(特にディスコティック液晶性分子)から形成された光学異方性層を有する光学補償シートを使用することが提案されている。光学異方性層は、液晶性分子を配向させ、その配向状態を固定することにより形成する。液晶性分子は、大きな複屈折率を有する。そして、液晶性分子には、多様な配向形態がある。液晶性分子を用いることで、従来の延伸複屈折フイルムでは得ることができない光学的性質を実現することが可能になった。
【0004】
光学補償シートの光学的性質は、液晶セルの光学的性質、具体的には上記のような表示モードの違いに応じて決定する。液晶性分子、特にディスコティック液晶性分子を用いると、液晶セルの様々な表示モードに対応する(光学補償できる)光学補償シートを製造することができる。
ディスコティック液晶性分子を用いた光学補償シートでは、様々な表示モードに対応するものが既に提案されている。例えば、TNモードの液晶セル用光学補償シートは、特開平6−214116号公報、米国特許5583679号、同5646703号、ドイツ特許公報3911620A1号の各明細書に記載がある。また、IPSモードまたはFLCモードの液晶セル用光学補償シートは、特開平10−54982号公報に記載がある。さらに、OCBモードまたはHANモードの液晶セル用光学補償シートは、米国特許5805253号および国際特許出願WO96/37804号の各明細書に記載がある。さらにまた、STNモードの液晶セル用光学補償シートは、特開平9−26572号公報に記載がある。そして、VAモードの液晶セル用光学補償シートは、特許番号第2866372号公報に記載がある。
【0005】
液晶表示装置の製造では、液晶セル、偏光板および光学補償シートのような部品を順次、接着剤で貼り付ける。液晶セル、偏光板および光学補償シートは、液晶セルの表示モードに対応して、それぞれの光学的方向(偏光軸や遅相軸)を厳密に調節する必要がある。そのため、貼り付ける方向が規格外となる不良品が、若干生じることは避けられない。それらの不良品は、部品を剥がして再利用することが望ましい。
ところが、液晶セルから光学補償シートを剥がそうとすると、光学補償シートが破壊されて再利用できないとの問題が生じた。光学補償シートの一部が付着した液晶セルの方も、再利用するためには付着した光学補償シートの一部を除去する清掃作業が必要である。
【0006】
そこで、光学補償シートの光学的機能に悪影響を与えることなく、強度を向上させる手段が求められている。
特開平8−27284号公報には、ディスコティック液晶性分子に重合性基を導入し、ディスコティック液晶性分子を配向させてから、分子を重合させて強度が高い光学補償シートを得る方法が開示されている。
特開平9−152509号公報には、ディスコティック液晶性分子に加えて、透明支持体と光学異方性層との間に設けられる配向膜のポリマーにも重合性基を導入し、ポリマーとディスコティック液晶性分子とを共重合させる方法が開示されている。
特開2000−235117号公報には、剥離強度が400g/cm以上となる強度で透明支持体と光学異方性層とが結合している光学補償シートが開示されている。剥離強度を強化するための手段としては、無機微粒子を透明支持体、配向膜または光学異方性層に添加する方法が開示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
特開平8−27284号、同9−152509号および特開2000−235117号の各公報に記載の手段を採用することで、強度が優れた光学補償シートを得ることができる。
しかし、本発明者がさらに研究を進めたところ、従来の技術の改良手段を採用しても、液晶セルから光学補償シートを剥がして再利用する場合、数回あるいは数十回に一度程度は、液晶セルの基板に光学補償シートの一部が付着する問題が認められた。従って、液晶セルから光学補償シートを剥がして再利用するためには、光学補償シートの強度をさらに改良する必要がある。
本発明の目的は、強度がさらに改良された光学補償シートを提供することである。
また、本発明の目的は、液晶表示装置の製造時の貼り合わせ工程において不良品が生じても、部品を再利用することが可能な光学補償シートを提供することでもある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、下記(1)〜(11)の光学補償シートおよびにより達成された。
(1)液晶性分子から形成した光学異方性層および透明支持体を有する光学補償シートであって、光学異方性層が、さらに分子内に4個以上の二重結合を有する多官能モノマーの重合体を含むことを特徴とする光学補償シート。
【0009】
(2)多官能モノマーが、分子内に4個以上のヒドロキシルを有するポリオールと、アクリル酸またはメタアクリル酸とのエステルである(1)に記載の光学補償シート。
(3)液晶性分子が、ディスコティック液晶性分子である(1)に記載の光学補償シート。
(4)ディスコティック液晶性分子が二重結合を有し、ディスコティック液晶性分子と多官能モノマーとが共重合している(3)に記載の光学補償シート。
【0010】
(5)光学異方性層と透明支持体との間に配向膜が設けられている(1)に記載の光学補償シート。
(6)配向膜が側鎖に二重結合を有するポリマーからなり、配向膜のポリマーと多官能モノマーとが共重合している(5)に記載の光学補償シート。
(7)透明支持体が、0乃至50nmのReレターデーション値および70乃至400nmのRthレターデーション値を有する(1)に記載の光学補償シート。
【0011】
(8)透明支持体が、59.0乃至61.5%の酢化度を有するセルロースアセテートフイルムからなる(1)に記載の光学補償シート。
(9)セルロースアセテートフイルムが、セルロースアセテート100質量部に対して、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物を0.01乃至20質量部含む(8)に記載の光学補償シート。
(10)セルロースアセテートフイルムが、共流延法により製膜された(8)に記載の光学補償シート。
(11)セルロースアセテートフイルムが、炭素原子数が2乃至12のエーテル、炭素原子数が3乃至12のケトンまたは炭素原子数が2乃至12のエステルを溶媒とするセルロースアセテート溶液から製膜された(8)に記載の光学補償シート。
(12)液晶セルおよびその両側に配置された二枚の偏光板からなり、液晶セルと少なくとも一方の偏光板との間に少なくとも一枚の光学補償シートが配置されている液晶表示装置であって、光学補償シートが、液晶性分子から形成した光学異方性層および透明支持体を有し、透明支持体は偏光板の透明保護膜として機能してもよく、光学異方性層が、さらに分子内に4個以上の二重結合を有する多官能モノマーの重合体を含むことを特徴とする液晶表示装置。
【0012】
【発明の効果】
本発明者の研究の結果、光学補償シートの強度をさらに改良するためには、光学異方性層において重合性官能基として機能する二重結合の数を増加させる必要があることが判明した。
特開平8−27284号公報に記載されているように、光学異方性層に含まれる液晶性分子に重合性基を導入する方法は、強度改善のために非常に有効である。しかし、液晶性分子に導入できる重合性基の数には限度がある。液晶性分子の分子構造および使用量は、最も重要な光学的性質を優先して決定する必要があり、光学異方性層の強度のみを考慮することはできない。
特開平9−152509号公報に記載されている配向膜のポリマーに重合性基を導入する方法は、配向膜と光学異方性層との界面のみに有効である。言い換えると、光学異方性層そのものの強度は改善できない。特に、光学異方性層が比較的厚い(例えば、1.5μm以上ある)光学補償シートでは、別の手段を併用して、光学異方性層の強度を改善する必要がある。
特開2000−235117号公報記載の無機微粒子も、光学補償シートの強度改善に有効である。しかし、無機微粒子の使用量は、光学異方性層や配向膜の機能を損なわない範囲に調節する必要がある。
【0013】
本発明者は、さらに研究を進めた結果、分子内に4個以上の二重結合を有する多官能モノマーを光学異方性層に添加し、モノマーから重合体を形成することによって、強度が著しく改善された光学補償シートを得ることに成功した。多官能モノマーは、光学異方性層の光学的機能にほとんど影響を与えることなく、光学異方性層において重合性官能基として機能する二重結合の数を著しく増加させることができる。
光学異方性層内の二重結合の数を著しく増加させてから、重合反応を行うことにより、光学異方性層の強度が著しく改善された光学補償シートが得られた。その結果、本発明の光学補償シートを液晶セルに貼り付けてから剥がしても、液晶セルの基板に光学補償シートの一部が付着する問題がほとんど認められない。
【0014】
【発明の実施の形態】
[液晶表示装置の基本構成]
図1は、透過型液晶表示装置の基本的な構成を示す模式図である。
図1に示す透過型液晶表示装置は、バックライト(BL)側から順に、透明保護膜(1a)、偏光膜(2a)、透明保護膜(3a)、透明支持体(4a)、光学異方性層(5a)、液晶セルの下基板(6a)、棒状液晶性分子(7)、液晶セルの上基板(6b)、光学異方性層(5b)、透明支持体(4b)、透明保護膜(3b)、偏光膜(2b)、そして、透明保護膜(1b)からなる。
透明保護膜(1a)〜透明保護膜(3a)が下側の偏光板を構成する。透明支持体(4a)〜光学異方性層(5a)が下側の光学補償シートを構成する。光学異方性層(5b)〜透明支持体(4b)が上側の光学補償シートを構成する。透明保護膜(3b)〜透明保護膜(1b)が上側の偏光板を構成する。下側の偏光板と下側の光学補償シートとは、透明保護膜(3a)と透明支持体(4a)とを一枚のポリマーフイルムで兼用することで一体化してもよい。同様に、上側の光学補償シートと上側の偏光板とは、透明支持体(4b)と透明保護膜(3b)とを一枚のポリマーフイルムで兼用することで一体化してもよい。
【0015】
図2は、透過型液晶表示装置の別の基本的な構成を示す模式図である。
図2に示す透過型液晶表示装置は、バックライト(BL)側から順に、透明保護膜(1a)、偏光膜(2a)、透明保護膜(3a)、透明支持体(4)、光学異方性層(5)、液晶セルの下基板(6a)、棒状液晶性分子(7)、液晶セルの上基板(6b)、透明保護膜(3b)、偏光膜(2b)、そして、透明保護膜(1b)からなる。
透明保護膜(1a)〜透明保護膜(3a)が下側の偏光板を構成する。透明支持体(4)〜光学異方性層(5)が光学補償シートを構成する。透明保護膜(3b)〜透明保護膜(1b)が上側の偏光板を構成する。下側の偏光板と光学補償シートとは、透明保護膜(3a)と透明支持体(4)とを一枚のポリマーフイルムで兼用することで一体化してもよい。
【0016】
図3は、透過型液晶表示装置のさらに別の基本的な構成を示す模式図である。図3に示す透過型液晶表示装置は、バックライト(BL)側から順に、透明保護膜(1a)、偏光膜(2a)、透明保護膜(3a)、液晶セルの下基板(6a)、棒状液晶性分子(7)、液晶セルの上基板(6b)、光学異方性層(5)、透明支持体(4)、透明保護膜(3b)、偏光膜(2b)、そして、透明保護膜(1b)からなる。
透明保護膜(1a)〜透明保護膜(3a)が下側の偏光板を構成する。光学異方性層(5)〜透明支持体(4)が光学補償シートを構成する。透明保護膜(3b)〜透明保護膜(1b)が上側の偏光板を構成する。光学補償シートと上側の偏光板とは、透明支持体(4)と透明保護膜(3b)とを一枚のポリマーフイルムで兼用することで一体化してもよい。
【0017】
図4は、反射型液晶表示装置の基本的な構成を示す模式図である。
図4に示す反射型液晶表示装置は、反射板(RP)側から順に、液晶セルの下基板(6a)、棒状液晶性分子(7)、液晶セルの上基板(6b)、光学的異方性層(5)、透明支持体(4)、透明保護膜(3)、偏光膜(2)、そして、透明保護膜(1)からなる。
光学異方性層(5)〜透明支持体(4)が光学補償シートを構成する。透明保護膜(3)〜透明保護膜(1)が偏光板を構成する。光学補償シートと偏光板とは、透明支持体(4)と透明保護膜(3)とを一枚のポリマーフイルムで兼用することで一体化してもよい。
【0018】
[多官能モノマー]
本発明では、分子内に4個以上の二重結合を有する多官能モノマーを使用する。二重結合は、エチレン性(脂肪族性)不飽和二重結合であることが好ましい。分子内の二重結合の数は、4乃至20であることが好ましく、5乃至15であることがさらに好ましく、6乃至10であることが最も好ましい。
多官能モノマーは、分子内に4個以上のヒドロキシルを有するポリオールと、不飽和脂肪酸とのエステルであることが好ましい。不飽和脂肪酸の例には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸およびイタコン酸が含まれる。アクリル酸およびメタクリル酸が好ましい。
分子内に4個以上のヒドロキシルを有するポリオールは、四価以上のアルコールであるか、あるいは三価以上のアルコールのオリゴマーであることが好ましい。オリゴマーは、エーテル結合、エステル結合またはウレタン結合により多価アルコールを連結した分子構造を有する。多価アルコールをエーテル結合で連結した分子構造を有するオリゴマーが好ましい。
【0019】
ポリオールと(メタ)アクリル酸とのエステルには、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ポリエーテル系ポリオールのポリ(メタ)アクリレート、ポリエステル系ポリオールのポリ(メタ)アクリレートおよびポリウレタン系ポリオールのポリ(メタ)アクリレートが含まれる。
多官能モノマーの市販品を用いてもよい。ポリオールとアクリル酸とのエステルからなるモノマーは、三菱レーヨン(株)(商品名:ダイヤビームUK−4154)、東亜合成(株)(商品名:アロニックスM450)や日本化薬(株)(商品名:KYARAD・DPHA、SR355)から市販されている。
二種類以上の多官能モノマーを併用してもよい。
【0020】
分子内に4個以上の二重結合を有する多官能モノマーと、分子内に1〜3個のの二重結合を有するモノマーとを併用してもよい。モノマーの併用は、粘度と強度との調節に有効である。すなわち、モノマー中の二重結合数の増加に伴って、分子間相互作用が大きくなり、粘度が上昇する。粘度が上昇すると、液晶性化合物の配向に時間がかかる。一方、二重結合の数が多い方が、光学補償シートの強度を強化できる。二種類以上のモノマーを併用することで、適切な粘度と適切な強度とを容易に達成できる。
分子内に4個以上の二重結合を有する多官能モノマーは、モノマー全量の20乃至80質量%であることが好ましく、30乃至70質量%であることがさらに好ましい。
多官能モノマーは、液晶性分子と共に光学異方性層に添加する。多官能モノマーの添加量は、液晶性分子に対して、0.1乃至50質量%であることが好ましく、1乃至20質量%であることがさらに好ましい。
【0021】
[透明支持体]
支持体が透明であるとは、光透過率が80%以上であることを意味する。
透明支持体は、0乃至50nmのReレターデーション値および70乃至400nmのRthレターデーション値を有することが好ましい。Reレターデーション値およびRthレターデーション値は、それぞれ、下記式(I)および(II)で定義される。
(I) Re=(nx−ny)×d
(II) Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
【0022】
式(I)および(II)において、nxは、透明支持体の面内の遅相軸方向(屈折率が最大となる方向)の屈折率である。
式(I)および(II)において、nyは、透明支持体の面内の進相軸方向(屈折率が最小となる方向)の屈折率である。
式(II)において、nzは、厚み方向の屈折率である。
式(I)および(II)において、dは、単位をnmとする透明支持体の厚さである。
【0023】
液晶表示装置に二枚の光学補償シートを使用する場合、透明支持体のRthレターデーション値は、70乃至200nmであることが好ましい。
液晶表示装置に一枚の光学補償シートを使用する場合、透明支持体のRthレターデーション値は150乃至400nmであることが好ましい。
なお、透明支持体の複屈折率(Δn:nx−ny)は、0.002未満であることが好ましい。また、透明支持体の厚み方向の複屈折率{(nx+ny)/2−nz}は、0.001乃至0.04であることが好ましい。
【0024】
透明支持体は、ポリマーフイルムから形成することが好ましい。ポリマーフイルムを形成するポリマーとしては、セルロースエステルが好ましく、セルロースアセテートがさらに好ましく、酢化度が59.0乃至61.5%であるセルロースアセテートがさらに好ましい。酢化度とは、セルロース単位質量当たりの結合酢酸量を意味する。酢化度は、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験法)におけるアセチル化度の測定および計算に従う。
フイルムを形成するポリマーの粘度平均重合度(DP)は、250以上であることが好ましく、290以上であることがさらに好ましい。また、ポリマーは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるMw/Mn(Mwは質量平均分子量、Mnは数平均分子量)の分子量分布が狭いことが好ましい。具体的なMw/Mnの値としては、1.0乃至1.7であることが好ましく、1.3乃至1.65であることがさらに好ましく、1.4乃至1.6であることが最も好ましい。
【0025】
ポリマーフイルムのレターデーションを調整するため、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物をレターデーション上昇剤として使用することができる。
ポリマーフイルムとしてセルロースアセテートフイルムを用いる場合、芳香族化合物は、セルロースアセテート100質量部に対して、0.01乃至20質量部の範囲で使用する。芳香族化合物は、セルロースアセテート100質量部に対して、0.05乃至15質量部の範囲で使用することが好ましく、0.1乃至10質量部の範囲で使用することがさらに好ましい。二種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。
芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。
【0026】
芳香族炭化水素環は、6員環(すなわち、ベンゼン環)であることが特に好ましい。
芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。芳香族性ヘテロ環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が含まれる。
芳香族環としては、ベンゼン環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が好ましく、ベンゼン環および1,3,5−トリアジン環がさらに好ましい。
芳香族化合物は、少なくとも一つの1,3,5−トリアジン環を有することが特に好ましい。
【0027】
芳香族化合物が有する芳香族環の数は、2乃至20であることが好ましく、2乃至12であることがより好ましく、2乃至8であることがさらに好ましく、2乃至6であることが最も好ましい。
二つの芳香族環の結合関係は、(a)縮合環を形成する場合、(b)単結合で直結する場合および(c)連結基を介して結合する場合に分類できる(芳香族環のため、スピロ結合は形成できない)。結合関係は、(a)〜(c)のいずれでもよい。
【0028】
(a)の縮合環(二つ以上の芳香族環の縮合環)の例には、インデン環、ナフタレン環、アズレン環、フルオレン環、フェナントレン環、アントラセン環、アセナフチレン環、ナフタセン環、ピレン環、インドール環、イソインドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、インドリジン環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、プリン環、インダゾール環、クロメン環、キノリン環、イソキノリン環、キノリジン環、キナゾリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フタラジン環、プテリジン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェナントリジン環、キサンテン環、フェナジン環、フェノチアジン環、フェノキサチイン環、フェノキサジン環およびチアントレン環が含まれる。ナフタレン環、アズレン環、インドール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環およびキノリン環が好ましい。
(b)の単結合は、二つの芳香族環の炭素原子間の結合であることが好ましい。二以上の単結合で二つの芳香族環を結合して、二つの芳香族環の間に脂肪族環または非芳香族性複素環を形成してもよい。
【0029】
(c)の連結基も、二つの芳香族環の炭素原子と結合することが好ましい。連結基は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、−CO−、−O−、−NH−、−S−またはそれらの組み合わせであることが好ましい。組み合わせからなる連結基の例を以下に示す。なお、以下の連結基の例の左右の関係は、逆になってもよい。
c1:−CO−O−
c2:−CO−NH−
c3:−アルキレン−O−
c4:−NH−CO−NH−
c5:−NH−CO−O−
c6:−O−CO−O−
c7:−O−アルキレン−O−
c8:−CO−アルケニレン−
c9:−CO−アルケニレン−NH−
c10:−CO−アルケニレン−O−
c11:−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−
c12:−O−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−O−
c13:−O−CO−アルキレン−CO−O−
c14:−NH−CO−アルケニレン−
c15:−O−CO−アルケニレン−
【0030】
芳香族環および連結基は、置換基を有していてもよい。
置換基の例には、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシル、カルボキシル、シアノ、アミノ、ニトロ、スルホ、カルバモイル、スルファモイル、ウレイド、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、脂肪族アシル基、脂肪族アシルオキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アルキルスルホニル基、脂肪族アミド基、脂肪族スルホンアミド基、脂肪族置換アミノ基、脂肪族置換カルバモイル基、脂肪族置換スルファモイル基、脂肪族置換ウレイド基および非芳香族性複素環基が含まれる。
【0031】
アルキル基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。環状アルキル基よりも鎖状アルキル基の方が好ましく、直鎖状アルキル基が特に好ましい。アルキル基は、さらに置換基(例、ヒドロキシ、カルボキシ、アルコキシ基、アルキル置換アミノ基)を有していてもよい。アルキル基の(置換アルキル基を含む)例には、メチル、エチル、n−ブチル、n−ヘキシル、2−ヒドロキシエチル、4−カルボキシブチル、2−メトキシエチルおよび2−ジエチルアミノエチルが含まれる。
アルケニル基の炭素原子数は、2乃至8であることが好ましい。環状アルケニル基よりも鎖状アルケニル基の方が好ましく、直鎖状アルケニル基が特に好ましい。アルケニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルケニル基の例には、ビニル、アリルおよび1−ヘキセニルが含まれる。
アルキニル基の炭素原子数は、2乃至8であることが好ましい。環状アルキケニル基よりも鎖状アルキニル基の方が好ましく、直鎖状アルキニル基が特に好ましい。アルキニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルキニル基の例には、エチニル、1−ブチニルおよび1−ヘキシニルが含まれる。
【0032】
脂肪族アシル基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族アシル基の例には、アセチル、プロパノイルおよびブタノイルが含まれる。
脂肪族アシルオキシ基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族アシルオキシ基の例には、アセトキシが含まれる。
アルコキシ基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。アルコキシ基は、さらに置換基(例、アルコキシ基)を有していてもよい。アルコキシ基の(置換アルコキシ基を含む)例には、メトキシ、エトキシ、ブトキシおよびメトキシエトキシが含まれる。
アルコキシカルボニル基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。アルコキシカルボニル基の例には、メトキシカルボニルおよびエトキシカルボニルが含まれる。
アルコキシカルボニルアミノ基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。アルコキシカルボニルアミノ基の例には、メトキシカルボニルアミノおよびエトキシカルボニルアミノが含まれる。
【0033】
アルキルチオ基の炭素原子数は、1乃至12であることが好ましい。アルキルチオ基の例には、メチルチオ、エチルチオおよびオクチルチオが含まれる。
アルキルスルホニル基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。アルキルスルホニル基の例には、メタンスルホニルおよびエタンスルホニルが含まれる。
、脂肪族アミド基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族アミド基の例には、アセトアミドが含まれる。
脂肪族スルホンアミド基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。脂肪族スルホンアミド基の例には、メタンスルホンアミド、ブタンスルホンアミドおよびn−オクタンスルホンアミドが含まれる。
脂肪族置換アミノ基の炭素原子数は、1乃至10であることが好ましい。脂肪族置換アミノ基の例には、ジメチルアミノ、ジエチルアミノおよび2−カルボキシエチルアミノが含まれる。
脂肪族置換カルバモイル基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。脂肪族置換カルバモイル基の例には、メチルカルバモイルおよびジエチルカルバモイルが含まれる。
脂肪族置換スルファモイル基の炭素原子数は、1乃至8であることが好ましい。脂肪族置換スルファモイル基の例には、メチルスルファモイルおよびジエチルスルファモイルが含まれる。
脂肪族置換ウレイド基の炭素原子数は、2乃至10であることが好ましい。脂肪族置換ウレイド基の例には、メチルウレイドが含まれる。
非芳香族性複素環基の例には、ピペリジノおよびモルホリノが含まれる。
レターデーション上昇剤の分子量は、300乃至800であることが好ましい。
レターデーション上昇剤の化合物例については、特開2000−111014号、同2000−275434号の各公報およびWO00/65384号明細書に記載がある。
【0034】
ソルベントキャスト法によりポリマーフイルムを製造することが好ましい。ソルベントキャスト法では、ポリマーを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフイルムを製造する。
有機溶媒は、炭素原子数が3乃至12のエーテル、炭素原子数が3乃至12のケトン、炭素原子数が3乃至12のエステルおよび炭素原子数が1乃至6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。
エーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、有機溶媒として用いることができる。有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。二種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数は、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0035】
炭素原子数が3乃至12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが含まれる。
炭素原子数が3乃至12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが含まれる。
炭素原子数が3乃至12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが含まれる。
二種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが含まれる。
ハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1または2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25乃至75モル%であることが好ましく、30乃至70モル%であることがより好ましく、35乃至65モル%であることがさらに好ましく、40乃至60モル%であることが最も好ましい。メチレンクロリドが、代表的なハロゲン化炭化水素である。
二種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
【0036】
一般的な方法でポリマー溶液を調製できる。一般的な方法とは、0℃以上の温度(常温または高温)で、処理することを意味する。溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法および装置を用いて実施することができる。なお、一般的な方法の場合は、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特にメチレンクロリド)を用いることが好ましい。
ポリマーの量は、得られる溶液中に10乃至40質量%含まれるように調整する。ポリマーの量は、10乃至30質量%であることがさらに好ましい。有機溶媒(主溶媒)中には、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
溶液は、常温(0乃至40℃)でポリマーと有機溶媒とを攪拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧および加熱条件下で攪拌してもよい。具体的には、ポリマーと有機溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、かつ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌する。加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60乃至200℃であり、さらに好ましくは80乃至110℃である。
【0037】
各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は攪拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。
加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。
容器内部に攪拌翼を設けて、これを用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。
容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶剤中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。
【0038】
冷却溶解法により、溶液を調製することもできる。冷却溶解法では、通常の溶解方法では溶解させることが困難な有機溶媒中にもポリマーを溶解させることができる。なお、通常の溶解方法でポリマーを溶解できる溶媒であっても、冷却溶解法によると迅速に均一な溶液が得られるとの効果がある。
冷却溶解法では最初に、室温で有機溶媒中にポリマーを撹拌しながら徐々に添加する。
ポリマーの量は、この混合物中に10乃至40質量%含まれるように調整することが好ましい。ポリマーの量は、10乃至30質量%であることがさらに好ましい。さらに、混合物中には後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
【0039】
次に、混合物を−100乃至−10℃(好ましくは−80乃至−10℃、さらに好ましくは−50乃至−20℃、最も好ましくは−50乃至−30℃)に冷却する。冷却は、例えば、ドライアイス・メタノール浴(−75℃)や冷却したジエチレングリコール溶液(−30乃至−20℃)中で実施できる。このように冷却すると、ポリマーと有機溶媒の混合物は固化する。
冷却速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。冷却速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、冷却速度は、冷却を開始する時の温度と最終的な冷却温度との差を冷却を開始してから最終的な冷却温度に達するまでの時間で割った値である。
【0040】
さらに、これを0乃至200℃(好ましくは0乃至150℃、さらに好ましくは0乃至120℃、最も好ましくは0乃至50℃)に加温すると、有機溶媒中にポリマーが溶解する。昇温は、室温中に放置するだけでもよし、温浴中で加温してもよい。
加温速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。加温速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、加温速度は、加温を開始する時の温度と最終的な加温温度との差を加温を開始してから最終的な加温温度に達するまでの時間で割った値である。
以上のようにして、均一な溶液が得られる。なお、溶解が不充分である場合は冷却、加温の操作を繰り返してもよい。溶解が充分であるかどうかは、目視により溶液の外観を観察するだけで判断することができる。
【0041】
冷却溶解法においては、冷却時の結露による水分混入を避けるため、密閉容器を用いることが望ましい。また、冷却加温操作において、冷却時に加圧し、加温時の減圧すると、溶解時間を短縮することができる。加圧および減圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが望ましい。
なお、セルロースアセテート(酢化度:60.9%、粘度平均重合度:299)を冷却溶解法によりメチルアセテート中に溶解した20質量%の溶液は、示差走査熱量測定(DSC)によると、33℃近傍にゾル状態とゲル状態との疑似相転移点が存在し、この温度以下では均一なゲル状態となる。従って、この溶液は疑似相転移温度以上、好ましくはゲル相転移温度プラス10℃程度の温度で保存する必要がある。ただし、この疑似相転移温度は、セルロースアセテートの酢化度、粘度平均重合度、溶液濃度や使用する有機溶媒により異なる。
【0042】
調製したポリマー溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法によりポリマーフイルムを製造する。またドープに、前記のレターデーション上昇剤を添加することが好ましい。
ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフイルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18乃至35%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ソルベントキャスト法における流延および乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。
ドープは、表面温度が10℃以下のドラムまたはバンド上に流延することが好ましい。流延してから2秒以上風に当てて乾燥することが好ましい。得られたフイルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取り、さらに100から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶剤を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラムまたはバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
【0043】
調製したポリマー溶液(ドープ)を用いて二層以上を同時に流延(共流延)してフイルムを形成することもできる。共流延前のドープは、固形分量が10乃至50%となるように濃度を調整することが好ましい。
複数のセルロースアセテート溶液を共流延する場合、支持体の進行方向に間隔を置いて設けた複数の流延口からセルロースアセテートを含む溶液をそれぞれ流延させて積層させながらフイルムを作製することができる。共流延については、特開昭61−158414号、特開平1−122419号、同11−198285号の各公報に記載がある。また、2つの流延口からセルロースアセテート溶液を流延することによりフイルムを製造してもよい(特公昭60−27562号、特開昭61−94724号、同61−947245号、同61−104813号、同61−158413号、特開平6−134933号の各公報記載)。
また、高粘度セルロースアセテート溶液の流れを低粘度のセルロースアセテート溶液で包み込み、その高、低粘度のセルロースアセテート溶液を同時に押出すセルロースアセテートフイルムの流延方法(特開昭56−162617号公報記載)も適用できる。
さらに、2つの流延口を用いて、第1の流延口により支持体に成型したフイルムを剥ぎ取り、支持体面に接していた側に第2の流延を行うことでフイルムを作製(特公昭44−20235号公報記載)することもできる。
共流延する複数のドープは、同一の組成であってもよい。透明支持体として用いるポリマーフイルムに加えて、他の機能層(例えば、接着層、染料層、帯電防止層、ハレーション防止層、紫外線吸収層、偏光層)を同時に流延することもできる。
【0044】
単層流延では、一定のフイルム厚さを得るためには、高濃度で高粘度のドープを押し出す必要がある。そのため、ドープの安定性が悪く、固形物が発生してブツ故障となったり、平面性が不良である問題が生じる場合がある。複数のドープを複数の流延口から共流延すると、高粘度の溶液を同時に支持体上に押し出すことができる。その結果、平面性が良好な優れた面状のフイルムを作製できる。また、濃厚なドープを使用することで、乾燥付加が低減され、フイルムの生産速度が速くなる。
【0045】
ポリマーフイルムには、機械的物性を改良するため、または乾燥速度を向上するために、可塑剤を添加することができる。可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。リン酸エステルの例には、トリフェニルフォスフェート(TPP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)が含まれる。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)およびO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)が含まれる。その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。フタル酸エステル系可塑剤(DMP、DEP、DBP、DOP、DPP、DEHP)が好ましく用いられる。DEPおよびDPPが特に好ましい。
可塑剤の添加量は、ポリマーの量の0.1乃至25質量%であることが好ましく、1乃至20質量%であることがさらに好ましく、3乃至15質量%であることが最も好ましい。
【0046】
ポリマーフイルムには、劣化防止剤(例、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)を添加してもよい。劣化防止剤については、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号の各公報に記載がある。劣化防止剤の添加量は、調製する溶液(ドープ)の0.01乃至1質量%であることが好ましく、0.01乃至0.2質量%であることがさらに好ましい。添加量が0.01質量%未満であると、劣化防止剤の効果がほとんど認められない。添加量が1質量%を越えると、フイルム表面への劣化防止剤のブリードアウト(滲み出し)が認められる場合がある。特に好ましい劣化防止剤の例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、トリベンジルアミン(TBA)を挙げることができる。
【0047】
透明支持体の熱伝導性を向上させるため、様々な高熱伝導性粒子をポリマーフイルムに添加することができる。高熱伝導性微粒子は、透明な材料から形成することが好ましい。具体的な材料の例には、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化マグネシウム、炭化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、炭素(ダイヤモンドを含む)および金属が含まれる。高熱伝導性粒子の平均粒径は、0.05乃至80μmであることが好ましく、0.1乃至10μmであることがさらに好ましい。
高熱伝導性粒子は、ポリマー100質量部に対して、5乃至100質量部の範囲で使用することが好ましく、5乃至50質量部の範囲で使用することがさらに好ましい。
【0048】
ポリマーフイルムは、吸湿膨張を低減(吸湿膨張係数を減少)させるため、延伸処理することが好ましい。延伸により吸湿膨張を低減する場合、面内すべての方向の歪みを均一に防止することが望ましい。そのためには、二軸延伸処理を実施することが好ましい。
二軸延伸には、同時二軸延伸法と逐次二軸延伸法とがある。連続製造の観点では、逐次二軸延伸方法が好ましい。逐次二軸延伸法では、ドープを流延した後、バンドもしくはドラムよりポリマーフイルムを剥ぎ取り、幅方向(流延方向に垂直な方向)に延伸した後、長手方向に延伸する。幅方向と長手方向との二回の延伸を行う順序は、逆になってもよい。
幅方向の延伸については、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、同4−284211号、同4−298310号および同11−48271号の各公報に記載がある。フイルムの延伸は、常温または加熱条件下で実施する。加熱温度は、フイルムのガラス転移温度以下であることが好ましい。フイルムは、製造時の乾燥処理中で延伸することができる。フイルムに溶媒が残存する状態で延伸することが好ましい。長手方向の延伸の場合、例えば、フイルムの搬送ローラーの速度を調節して、フイルムの剥ぎ取り速度よりもフイルムの巻き取り速度の方を速くするとフイルムは延伸される。幅方向の延伸の場合、フイルムの巾をテンターで保持しながら搬送して、テンターの巾を徐々に広げることによってフイルムを延伸できる。フイルムの乾燥後に、延伸機を用いて延伸すること(好ましくはロング延伸機を用いる一軸延伸)もできる。フイルムの延伸倍率(元の長さに対する延伸による増加分の比率)は、5〜50%が好ましく、さらに好ましくは10乃至40%、最も好ましくは15乃至35%である。
【0049】
流延から乾燥までの工程は、比較的不活性なガス(例、窒素ガス)の雰囲気下で行ってもよい。ポリマーフイルムの巻き取り機は、一般的に使用されている装置が使用できる。巻き取り方法としては、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法あるりは内部応力一定のプログラムテンションコントロール法が採用できる。
以上のように二軸延伸を実施することで、フイルムの吸湿膨張係数を減少させることができる。吸湿膨張係数は、一定温度下において相対湿度を変化させた時の試料の長さの変化量である。
額縁状の透過率上昇を防止するために、セルロースアセテートフィルムの吸湿膨張係数は、30×10-5/%RH以下とすることが好ましく、15×10-5/%RH以下とすることがさらに好ましく、10×10-5/%RH以下とすることが最も好ましい。また、吸湿膨張係数は小さい方が好ましいが、通常は、1.0×10-5/%RH以上の値である。
【0050】
吸湿膨張係数では、まず、作製したポリマーフイルムから幅5mm。長さ20mmの試料を切り出し、片方の端を固定して25℃、20%RH(R0 )の雰囲気下にぶら下げる。他方の端に0.5gの重りをぶら下げて、10分間放置し長さ(L0 )を測定する。次に、温度は25℃のまま、湿度を80%RH(R1 )にして、長さ(L1 )を測定する。吸湿膨張係数は、下式により算出する。測定は同一試料につき10サンプル行い、平均値を採用する。
吸湿膨張係数[/%RH]={(L1 −L0 )/L0 }/(R1 −R0 )
【0051】
上記吸湿による寸度変化は、ポリマーフイルム中の自由体積を小さくすればよい。自由体積を大きく左右するのは、製膜時の残留溶剤量であり、少ない方が寸度変化は少ない。
残留溶剤を減らすための一般的手法は、高温かつ長時間で乾燥することである。ただし、あまり長時間乾燥すると、当然のことながら生産性が落ちる。従ってポリマーフイルム中の残留溶剤量は、0.01乃至1質量%の範囲にあることが好ましく、0.02乃至0.07質量%の範囲にあることがさらに好ましく、0.03乃至0.05質量%の範囲にあることが最も好ましい。
上記残留溶剤量を制御することにより、ポリマーフイルムを安価に高い生産性で製造することができる。
【0052】
また、上記吸湿による寸度変化を小さくする別な方法として、疎水性基を有する化合物を添加することが好ましい。疎水性基としては、アルキル基およびフェニルが好ましい。使用する化合物は、ポリマーフイルムに添加できる可塑剤や劣化防止剤から選択することが好ましい。具体的な化合物例には、トリフェニルフォスフェート(TPP)およびトリベンジルアミン(TBA)が含まれる。
疎水性基を有する化合物の添加量は、ポリマー溶液(ドープ)の0.01乃至10質量%の範囲であることが好ましく、0.1乃至5質量%の範囲であることがさらに好ましく、1乃至3質量%の範囲であることが最も好ましい。
【0053】
ポリマーフイルムは、表面処理を施すことが好ましい。表面処理には、コロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理および紫外線照射処理が含まれる。表面処理の代わりに、あるいは表面処理に加えて下塗り層(特開平7−333433号公報記載)を設けてもよい。
表面処理後のフィルムの表面エネルギーは、55mN/m以上であることが好ましく、60mN/m以上75mN/m以下であることがさらに好ましい。
フイルムの平面性を保持する観点から、表面処理におけるポリマーフイルムの温度を、ポリマーのTg(ガラス転移温度)以下とすることが好ましく、具体的には150℃以下とすることが好ましい。
ポリマーフイルムがセルロースアセテートフイルムである場合、表面処理は酸処理またはアルカリ処理、すなわちセルロースアセテートに対する鹸化処理であることが好ましく、アルカリ鹸化処理であることがさらに好ましい。
【0054】
アルカリ鹸化処理は、フイルム表面をアルカリ溶液に浸漬した後、水洗して乾燥するサイクルで行うことができる。水洗する前に酸性溶液で中和してもよい。アルカリ溶液としては、水酸化カリウム溶液、水酸化ナトリウム溶液が挙げられ、水酸化イオンの規定濃度は、0.1乃至3.0Nの範囲にあることが好ましく、0.5乃至2.0Nの範囲にあることがさらに好ましい。アルカリ溶液温度は、室温乃至90℃の範囲にあることが好ましく、40乃至70℃の範囲にあることがさらに好ましい。
アルカリ鹸化処理を効率良く実施するため、セルロースアセテートフイルムにアルカリ液を塗布する鹸化処理を実施することも好ましい。鹸化処理後は、水洗によりフイルム表面からアルカリを除去することが好ましい。塗布による鹸化処理の場合は、アルカリ液はセルロースアセテートフイルムに対する濡れ性が良好であることが好ましい。塗布液の濡れ性は、主に溶媒の種類によって決定される。濡れ性が良好な溶媒としては、アルコール(例、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、メタノール、エタノール)が代表的である。補助溶媒として、さらに水またはグリコール(例、プロピレングリコール、エチレングリコール)を添加することが好ましい。
固体の表面エネルギーは、「ぬれの基礎と応用」(リアライズ社 1989.12.10発行)に記載のように接触角法、湿潤熱法、および吸着法により求めることができる。セルロースアセテートフイルムの場合、接触角法を用いることが好ましい。
具体的には、表面エネルギーが既知である二種の溶液をセルロースアセテートフイルムに滴下し、液滴の表面とフイルム表面との交点において、液滴に引いた接線とフイルム表面のなす角で、液滴を含む方の角を接触角と定義し、計算によりフイルムの表面エネルギーを算出できる。
【0055】
[配向膜]
配向膜は、液晶性分子の配向方向を規定する機能を有する。配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、あるいはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例、ω−トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。
【0056】
配向膜は、ポリマーのラビング処理により形成することが好ましい。配向膜に使用するポリマーは、原則として、液晶性分子を配向させる機能のある分子構造を有する。
本発明では、液晶性分子を配向させる機能に加えて、架橋性官能基(例、二重結合)を有する側鎖を主鎖に結合させるか、あるいは、液晶性分子を配向させる機能を有する架橋性官能基を側鎖に導入することが好ましい。
配向膜ポリマーの主鎖としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル(例、ポリメチルメタクリレート)、ポリアクリルアミド(例、ポリ(N−メチロールアクリルアミド))、ポリメタクリルアミド、ポリオレフィン(例、ポリスチレン、ポリビニルトルエン、ポリエチレン、ポリプロピレン)、塩素化ポリオレフィン(例、クロロスルホン化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル)、セルロースエステル(例、セルロースニトレート)、ポリエステル(例、ポリカーボネート)、ポリイミド、ポリアミド(例、ポリアミック酸)、ポリビニルエステル(例、ポリ酢酸ビニル)あるいはセルロースエーテル(例、カルボキシメチルセルロース)を用いることができる。二種類以上の繰り返し単位からなるコポリマー(例、アクリル酸/メタクリル酸共重合体、スチレン/マレインイミド共重合体、スチレン/ビニルトルエン共重合体、酢酸ビニル/塩化ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体)を用いてもよい。また、シランカップリング剤の反応生成物も、配向膜ポリマーとして用いることができる。
【0057】
配向膜ポリマーの主鎖としては、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイミドおよびポリアミドが好ましく、ポリビニルアルコールが特に好ましい。
ポリビニルアルコールの鹸化度は、70乃至100%であることが好ましく、80乃至100%であることがさらに好ましく、85乃至95%であることが最も好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100乃至3000であることが好ましい。
液晶性分子を配向させる機能を有する側鎖は、一般に疎水性基を官能基として有する。具体的な官能基の種類は、液晶性分子の種類および必要とする配向状態に応じて決定する。
【0058】
架橋性官能基を有する側鎖を配向膜ポリマーの主鎖に結合させるか、あるいは、液晶性分子を配向させる機能を有する側鎖に架橋性官能基を導入すると、配向膜のポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを共重合させることができる。その結果、多官能モノマーと多官能モノマーとの間だけではなく、配向膜ポリマーと配向膜ポリマーとの間、そして多官能モノマーと配向膜ポリマーとの間も共有結合で強固に結合される。従って、架橋性官能基を配向膜ポリマーに導入することで、光学補償シートの強度を著しく改善することができる。
配向膜ポリマーの架橋性官能基は、多官能モノマーと同様に、二重結合を含むことが好ましい。以下に、二重結合を含む架橋性官能基の例を示す。
【0059】
【化1】
【0060】
架橋性官能基は、配向膜ポリマーの主鎖に直結させても、連結基を介して結合させてもよい。
連結基は、アルキレン基、アリーレン基、−CO−、−NH−、−O−、−S−およびそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。アルキレン基の炭素原子数は、1乃至12であることが好ましい。アリーレン基は、フェニレンであることが好ましい。
【0061】
配向膜ポリマー(特にポリビニルアルコールを主鎖とするポリマー)は、上記の架橋性官能基とは別に、架橋剤を用いて架橋させることもできる。
架橋剤としては、アルデヒド類、N−メチロール化合物、ジオキサン誘導体、カルボキシル基を活性化することにより作用する化合物、活性ビニル化合物、活性ハロゲン化合物、イソオキサゾール類やジアルデヒド澱粉を用いることができる。アルデヒド類の例には、ホルムアルデヒド、グリオキザールおよびグルタルアルデヒドが含まれる。N−メチロール化合物の例には、ジメチロール尿素およびメチロールジメチルヒダントインが含まれる。ジオキサン誘導体の例には、2,3−ジヒドロキシジオキサンが含まれる。カルボキシル基を活性化することにより作用する化合物の例には、カルベニウム、2−ナフタレンスルホナート、1,1−ビスピロリジノ−1−クロロピリジニウムおよび1−モルホリノカルボニル−3−(スルホナトアミノメチル)が含まれる。活性ビニル化合物の例には、1,3,5−トリアクロイル−ヘキサヒドロ−s−トリアジン、ビス(ビニルスルホン)メタンおよびN,N’−メチレンビス−[β−(ビニルスルホニル)プロピオンアミド]が含まれる。活性ハロゲン化合物の例には、2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−S−トリアジンが含まれる。アルデヒド類が好ましく、グルタルアルデヒドが特に好ましい。二種類以上の架橋剤を併用してもよい。
【0062】
架橋剤の添加量は、ポリマーの0.1乃至20質量%の範囲であることが好ましく、0.5乃至15質量%の範囲であることがさらに好ましい。配向膜中に残存する未反応の架橋剤は、配向膜の1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。
配向膜の形成では、配向膜ポリマーを含む塗布液を透明支持体上に塗布する。塗布液の溶媒としては、有機溶媒(例、メタノール)または水と有機溶媒との混合溶媒が好ましい。塗布方法としては、スピンコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、バーコーティング法あるいはE型塗布法を採用できる。E型塗布法が特に好ましい。塗布膜の乾燥温度は、20乃至110℃であることが好ましく、60乃至100℃であることがさらに好ましく、80乃至100℃の範囲であることが最も好ましい。乾燥時間は、1分乃至36時間であることが好ましく、5乃至30分であることがさらに好ましい。
【0063】
ラビング処理は、公知の方法により実施できる。すなわち、配向膜の表面を、紙、布(ガーゼ、フェルト、ナイロン、ポリエステル繊維)あるいはゴムを用いて一定方向に擦ることにより、配向機能を得る。一般的には、長さ及び太さが均一な繊維を平均的に植毛した布を用いて数回程度ラビングを行う。
次に、配向膜を機能させて、配向膜の上に設けられる光学異方性層の液晶性分子を配向させる。その後、必要に応じて、配向膜ポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを反応させるか、あるいは、架橋剤を用いて配向膜ポリマーを架橋させる。
配向膜の膜厚は、0.1乃至10μmの範囲にあることが好ましい。
【0064】
[光学異方性層]
光学異方性層は、液晶性分子から形成する。液晶性分子としては、棒状液晶性分子またはディスコティック液晶性分子を用いることが好ましい。
棒状液晶性分子としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。なお、棒状液晶性分子には、金属錯体も含まれる。
棒状液晶性分子については、季刊化学総説第22巻液晶の化学(1994年)日本化学会編の第4章、第7章および第11章、および液晶デバイスハンドブック日本学術振興会第142委員会編の第3章に記載がある。
ディスコティック液晶性分子も、様々な文献(C. Destrade et al., Mol. Crysr. Liq. Cryst., vol. 71, page 111 (1981) ;日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節(1994);B. Kohne et al., Angew. Chem. Soc. Chem. Comm., page 1794 (1985);J. Zhang et al., J. Am. Chem. Soc., vol. 116, page 2655 (1994))に記載されている。
【0065】
液晶性分子は重合性官能基として二重結合を有することが好ましい。二重結合を重合性官能基として液晶性分子に導入すると、光学異方性層に含まれる多官能モノマーと液晶性分子を共重合させることができる。その結果、多官能モノマーと多官能モノマーとの間だけではなく、液晶性分子と液晶性分子との間、そして多官能モノマーと液晶性分子との間も共有結合で強固に結合される。従って、架橋性官能基を液晶性分子に導入することで、光学補償シートの強度を著しく改善することができる。
【0066】
ディスコティック液晶性分子では、円盤状コアに重合性官能基を直結させると、重合反応において配向状態を保つことが困難になる。そこで、円盤状コアと重合性官能基との間に、連結基を導入する。従って、重合性官能基を有するディスコティック液晶性分子は、下記式(I)で表わされる化合物であることが好ましい。
【0067】
(I) D(−L−Q)n
式(I)において、Dは、円盤状コアであり;Lは、二価の連結基であり;Qは、重合性官能基であり;そして、nは、4乃至12の整数である。
円盤状コア(D)の例を以下に示す。以下の各例において、LQ(またはQL)は、二価の連結基(L)と重合性基(Q)との組み合わせを意味する。
【0068】
【化2】
【0069】
【化3】
【0070】
【化4】
【0071】
【化5】
【0072】
【化6】
【0073】
【化7】
【0074】
【化8】
【0075】
式(I)において、二価の連結基(L)は、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−CO−、−NH−、−O−、−S−およびそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。二価の連結基(L)は、アルキレン基、アリーレン基、−CO−、−NH−、−O−および−S−からなる群より選ばれる二価の基を少なくとも二つ組み合わせた二価の連結基であることがさらに好ましい。二価の連結基(L)は、アルキレン基、アリーレン基、−CO−および−O−からなる群より選ばれる二価の基を少なくとも二つ組み合わせた二価の連結基であることが最も好ましい。アルキレン基の炭素原子数は、1乃至12であることが好ましい。アルケニレン基の炭素原子数は、2乃至12であることが好まし。アリーレン基の炭素原子数は、6乃至10であることが好ましい。
【0076】
二価の連結基(L)の例を以下に示す。左側が円盤状コア(D)に結合し、右側が重合性基(Q)に結合する。ALはアルキレン基またはアルケニレン基、ARはアリーレン基を意味する。なお、アルキレン基、アルケニレン基およびアリーレン基は、置換基(例、アルキル基)を有していてもよい。
L1:−AL−CO−O−AL−
L2:−AL−CO−O−AL−O−
L3:−AL−CO−O−AL−O−AL−
L4:−AL−CO−O−AL−O−CO−
L5:−CO−AR−O−AL−
L6:−CO−AR−O−AL−O−
L7:−CO−AR−O−AL−O−CO−
L8:−CO−NH−AL−
L9:−NH−AL−O−
L10:−NH−AL−O−CO−
【0077】
L11:−O−AL−
L12:−O−AL−O−
L13:−O−AL−O−CO−
L14:−O−AL−O−CO−NH−AL−
L15:−O−AL−S−AL−
L16:−O−CO−AR−O−AL−CO−
L17:−O−CO−AR−O−AL−O−CO−
L18:−O−CO−AR−O−AL−O−AL−O−CO−
L19:−O−CO−AR−O−AL−O−AL−O−AL−O−CO−
L20:−S−AL−
L21:−S−AL−O−
L22:−S−AL−O−CO−
L23:−S−AL−S−AL−
L24:−S−AR−AL−
【0078】
式(I)の重合性官能基(Q)の例は、配向膜ポリマーについて説明した重合性官能基の例(Q1〜Q6)と同様である。
式(I)において、nは4乃至12の整数である。具体的な数字は、円盤状コア(D)の種類に応じて決定される。なお、複数のLとQの組み合わせは、異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0079】
光学異方性層は、液晶性分子および必要に応じて重合性開始剤や任意の成分を含む塗布液を、配向膜の上に塗布することで形成できる。
光学異方性層の厚さは、0.5乃至100μmであることが好ましく、0.5乃至30μmであることがさらに好ましい。
【0080】
光学異方性層を形成後、多官能モノマーを重合させる。配向膜ポリマーあるいは液晶性分子が重合性基を有する場合は、多官能モノマーと共重合させる。
重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれる。光重合反応が好ましい。
光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許4239850号明細書記載)およびオキサジアゾール化合物(米国特許4212970号明細書記載)が含まれる。
光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01乃至20質量%であることが好ましく、0.5乃至5質量%であることがさらに好ましい。
重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。
照射エネルギーは、20乃至5000mJ/cm2 であることが好ましく、100乃至800mJ/cm2 であることがさらに好ましい。また、光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。
保護層を、光学異方性層の上に設けてもよい。
【0081】
[偏光板]
偏光板は、偏光膜およびその両側に配置された二枚の透明保護膜からなる。透明保護膜としては、一般にセルロースアセテートフイルムが用いられる。前述したように、光学補償シートの透明支持体を一方の保護膜として用いることができる。この場合、光学補償シートと偏光板とは、一体化(通常は楕円偏光板として機能)する。一体型楕円偏光板では、光学補償シートの透明支持体の遅相軸と偏光膜の透過軸とは、実質的に平行になるように配置する。
透明保護膜の透湿性は100乃至1000(g/m2 )/24hrsの範囲であることが好ましく、300乃至700(g/m2 )/24hrsの範囲であることがさらに好ましい。
偏光膜には、ヨウ素系偏光膜、二色性染料を用いる染料系偏光膜やポリエン系偏光膜がある。ヨウ素系偏光膜および染料系偏光膜は、一般にポリビニルアルコール系フイルムを用いて製造する。
【0082】
[液晶表示装置]
光学補償シートまたは光学補償シートを有する偏光板は、液晶表示装置、特に透過型液晶表示装置に有利に用いられる。
透過型液晶表示装置は、液晶セルおよびその両側に配置された二枚の偏光板からなる。液晶セルは、二枚の電極基板の間に液晶を担持している。
光学補償シートを液晶表示装置に用いる場合は、液晶セルと一方の偏光板との間に、本発明に従う光学補償シートを一枚配置するか、あるいは液晶セルと双方の偏光板との間に本発明に従う光学補償シートを二枚配置する。
偏光板を液晶表示装置に用いる場合は、二枚の偏光板の一方の代わりとして本発明に従う光学補償シートを有する偏光板を用いればよい。双方の偏光板の代わりに本発明に従う光学補償シートを有する偏光板を用いてもよい。本発明に従う光学補償シートを有する偏光板を液晶表示装置に用いる場合、偏光板を、その保護膜として用いられている光学補償シートが液晶セル側となるように配置する。
【0083】
液晶セルは、TNモード、ECBモード、VAモード、またはOCBモードであることが好ましい。VAモードには、MVAモードが含まれる。
TNモードの液晶セルでは、電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に水平配向し、さらに60乃至120゜にねじれ配向している。
TNモードの液晶セルは、カラーTFT液晶表示装置として最も多く利用されており、多数の文献に記載がある。
【0084】
VAモードの液晶セルでは、電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に垂直に配向している。
VAモードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845記載)、(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(日本液晶討論会の予稿集58〜59(1998)記載)、(4)SURVAIVALモードの液晶セル(LCDインターナショナル98で発表)および(5)CPAモードの液晶セル(SID01で発表)が含まれる。
【0085】
OCBモードの液晶セルは、棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルである。ベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装置は、米国特許4583825号、同5410422号の各明細書に開示されている。棒状液晶性分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。そのため、この液晶モードは、OCB(Optically Compensatory Bend) 液晶モードとも呼ばれる。ベンド配向モードの液晶表示装置は、応答速度が速いとの利点がある。
TNモードの液晶セルは、カラーTFT液晶表示装置として最も多く利用されており、多数の文献に記載がある。
ECBモードの液晶セルは、最も古くから研究されている液晶モードの一つであり、これも多数の文献に記載がある。
【0086】
【実施例】
[実施例1]
(セルロースアセテート溶液の調製)
下記の組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液を調製した。
【0087】
────────────────────────────────────
セルロースアセテート溶液組成
────────────────────────────────────
酢化度60.9%のセルロースアセテート 100質量部
トリフェニルホスフェート(可塑剤) 7.8質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート(可塑剤) 3.9質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 300質量部
メタノール(第2溶媒) 54質量部
1−ブタノール(第3溶媒) 11質量部
────────────────────────────────────
【0088】
(レターデーション上昇剤溶液の調製)
別のミキシングタンクに、下記のレターデーション上昇剤16質量部、メチレンクロライド80質量部およびメタノール20質量部を投入し、加熱しながら攪拌して、レターデーション上昇剤溶液を調製した。
【0089】
【化9】
【0090】
(透明支持体の作製)
セルロースアセテート溶液475質量部にレターデーション上昇剤溶液25質量部を混合し、攪拌してドープを調製した。レターデーション上昇剤の添加量は、セルロースアセテート100質量部に対して、3.0質量部であった。
得られたドープを、冷却ドラム流延機を用いて流延して、透明支持体として用いるセルロースアセテートフイルムを製造した。
作製したセルロースアセテートフイルムについて、エリプソメーター(M−150、日本分光(株)製)を用い、波長633nmにおけるレターデーション値を測定したところ、Reレターデーション値は10nm、Rthレターデーション値は81nmであった。
【0091】
(下塗り層の形成)
透明支持体の一方の面に、下記の組成の塗布液を28ml/m2 塗布し、乾燥して、厚さ0.1μmのゼラチン下塗り層を形成した。
【0092】
────────────────────────────────────
下塗り層塗布液組成
────────────────────────────────────
ゼラチン 0.542質量部
ホルムアルデヒド 0.135質量部
サリチル酸 0.160質量部
アセトン 39.1質量部
メタノール 15.8質量部
メチレンクロライド 40.6質量部
水 1.2質量部
────────────────────────────────────
【0093】
(第2下塗り層の形成)
下塗り層の上に、下記の組成の塗布液を7ml/m2 塗布し、乾燥して、第2下塗り層を形成した。
【0094】
────────────────────────────────────
第2下塗り層塗布液組成
────────────────────────────────────
下記のアニオン性コポリマー 0.079質量部
クエン酸モノエチルエステル 1.01質量部
アセトン 20質量部
メタノール 87.7質量部
水 4.05質量部
────────────────────────────────────
【0095】
【化10】
【0096】
(バック層の形成)
下塗り層とは反対側の支持体面に、下記の組成の塗布液を25ml/m2 塗布し、乾燥して、バック層を形成した。
【0097】
────────────────────────────────────
バック層塗布液組成
────────────────────────────────────
酢化度55%のセルロースジアセテート 0.656質量部
平均粒径1μmのシリカ系マット剤 0.065質量部
アセトン 67.9質量部
メタノール 10.4質量部
────────────────────────────────────
【0098】
(配向膜の形成)
第2下塗り層の上に、下記の組成の塗布液を#16のワイヤーバーコーターで28ml/m2 塗布した。60℃の温風で60秒、さらに90℃の温風で150秒乾燥した。
次に、セルロースアセテートフイルム(透明支持体)の長手方向に、形成した膜に対してラビング処理を実施した。
【0099】
【0100】
【化11】
【0101】
(光学異方性層の形成)
配向膜の上に、下記のディスコティック液晶性分子41.01g、エチレンオキサイド変成トリメチロールプロパントリアクリレート(V#360、大阪有機化学(株)製)2.03g、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(KYARAD・DPHA、日本化薬(株)製)2.03g、セルロースアセテートブチレート(CAB551−0.2、イーストマンケミカル社製)0.90g、セルロースアセテートブチレート(CAB531−1、イーストマンケミカル社製)0.23g、光重合開始剤(イルガキュアー907、チバガイギー社製)1.35g、増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製)0.45gを、102gのメチルエチルケトンに溶解した塗布液を、#4のワイヤーバーで塗布した。これを金属の枠に貼り付けて、130℃の恒温槽中で2分間加熱し、ディスコティック液晶性分子を配向させた。次に、80℃の雰囲気で膜面温度が約100℃となる状態で、120W/cm高圧水銀灯を用いて、0.4秒間紫外線を照射し、ディスコティック液晶性分子、多官能モノマー(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)および配向膜ポリマー(変性ポリビニルアルコール)とを共重合させた。その後、室温まで放冷した。このようにして、光学異方性層を形成して、光学補償シートを作製した。
波長633nmで光学異方性層のレターデーション値を測定したところ、Reレターデーション値は48nmであった。また、ディスコティック液晶性分子の円盤面と透明支持体面との平均角度(平均傾斜角)は、42゜であった。
【0102】
【化12】
【0103】
(偏光板の作製)
延伸したポリビニルアルコールフイルムにヨウ素を吸着させて偏光膜を作製した。
次に、作製した光学補償シートの透明支持体バック層側を、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて偏光膜の片側に貼り付けた。透明支持体の遅相軸と偏光膜の透過軸とが平行になるように配置した。
市販のセルローストリアセテートフイルム(フジタックTD80UF、富士写真フイルム(株)製)をケン化処理し、透明保護膜として、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光膜の反対側(光学補償シートを貼り付けなかった側)に貼り付けた。透明保護膜の遅相軸と偏光膜の透過軸とは直交するように配置した。
このようにして、光学補償シート付きの偏光板を作製した。
【0104】
(リワーク性の評価)
作製した光学補償シート付きの偏光板を粘着剤を介してガラス板に貼り付けた。偏光板の光学補償シート側(光学異方性層側)がガラス面側となるように配置した。
ガラス板に貼り付けた光学補償シート付きの偏光板を、50℃、5気圧で6時間エイジングを行った。25℃、相対湿度60℃の条件に戻して、光学補償シート付きの偏光板をガラス板から剥離した。
以上の試験操作を100枚の偏光板について行ったところ、100枚全ての偏光板を、ガラス板から問題なく(剥げ残りなく)剥離することができた。
【0105】
(液晶表示装置の作製)
市販のTNモードの液晶表示装置(6E−A3、シャープ(株)製)に設けられている一対の偏光板を剥がし、代わりに作製した偏光板二枚を、光学補償シートが液晶セル側となるように粘着剤を介して貼り合わせた。このようにして液晶表示装置を作製した。観察者側の偏光板の透過軸と、バックライト側の透過軸とは、Oモードとなるように配置した。
作製した液晶表示装置について、測定機(EZ−Contrast160D、ELDIM社製)を用いて、黒表示(L1)から白表示(L8)までの8段階で視野角を測定した。具体的な視野角としては、コントラスト比が10以上で、黒側の階調反転(L1とL2との間の反転)がない角度を求めた。その結果、上側で70゜、下側で45゜、そして左右で160゜との広い視野角が得られた。
【0106】
[実施例2]
(セルロースアセテート溶液の調製)
下記の組成物からなる二種類のセルロースアセテート溶液(内層用ドープおよび外層用ドープ)を調製した。内層用ドープは、50℃にて絶対濾過精度0.01mmの濾紙(#63、東洋濾紙(株)製)にて濾過した。外層用ドープは、50℃にて、絶対濾過精度0.0025mmの濾紙(FH025、ポール社製)にて濾過した。
【0107】
────────────────────────────────────
セルロースアセテート溶液組成 内層用ドープ 外層用ドープ
────────────────────────────────────
酢化度60.5%セルロースアセテート 100質量部 100質量部
トリフェニルホスフェート 7.8質量部 7.8質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート 3.9質量部 3.9質量部
実施例1で用いたレターデーション上昇剤 3.0質量部 3.0質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 450質量部 481質量部
メタノール(第2溶媒) 39質量部 42質量部
────────────────────────────────────
【0108】
(透明支持体の作製)
三層共流延ダイを用いて、内層用ドープが内側に、外層用ドープがその両外側となるように配置して、金属支持体上に同時に吐出させて、重層流延した。流延量は、内層の層厚が45μm、外層の層厚がそれぞれ5μmとなるように設定した。流延膜を支持体から剥ぎ取り、テンターで30%横に一軸延伸した後、乾燥して、セルロースアセテートフイルムを製造した。乾燥は、70℃で3分、120℃で5分行った後、支持体からフイルムを剥ぎ取り、130℃で30分、段階的に乾燥して、支持体として用いるセルロースアセテートフイルムを得た。残留溶媒量は、0.5質量%であった。
作製したセルロースアセテートフイルムについて、エリプソメーター(M−150、日本分光(株)製)を用い、波長633nmにおけるレターデーション値を測定したところ、Reレターデーション値は38nm、Rthレターデーション値は230nmであった。
【0109】
(透明支持体の鹸化処理)
透明支持体を、2.0Nの水酸化カリウム水溶液に25℃で2分間浸漬した後、硫酸で中和し、純水で水洗して、乾燥した。その後、透明支持体の表面エネルギーを接触角法により求めたところ、63mN/mであった。
【0110】
(配向膜の形成)
鹸化処理した透明支持体の上に、実施例1で用いた組成の配向膜塗布液を#16のワイヤーバーコーターで28ml/m2 塗布した。60℃の温風で60秒、さらに90℃の温風で150秒乾燥した。
次に、セルロースアセテートフイルム(透明支持体)の長手方向に対して45゜の方向に、形成した膜に対してラビング処理を実施した。
【0111】
(光学異方性層の形成)
配向膜の上に、実施例1で用いたディスコティック液晶性分子41.01g、エチレンオキサイド変成トリメチロールプロパントリアクリレート(V#360、大阪有機化学(株)製)1.22g、多官能アクリレートモノマー(NKエステル・A−TMMT、新中村化学工業(株)製)2.84g、セルロースアセテートブチレート(CAB551−0.2、イーストマンケミカル社製)0.90g、セルロースアセテートブチレート(CAB531−1、イーストマンケミカル社製)0.23g、光重合開始剤(イルガキュアー907、チバガイギー社製)1.35g、増感剤(カヤキュアーDETX、日本化薬(株)製)0.45gを、102gのメチルエチルケトンに溶解した塗布液を、#4のワイヤーバーで塗布した。これを金属の枠に貼り付けて、130℃の恒温槽中で2分間加熱し、ディスコティック液晶性分子を配向させた。次に、80℃の雰囲気で膜面温度が約100℃となる状態で、120W/cm高圧水銀灯を用いて、0.4秒間紫外線を照射し、ディスコティック液晶性分子、多官能アクリレートモノマーおよび配向膜ポリマー(変性ポリビニルアルコール)とを共重合させた。その後、室温まで放冷した。このようにして、光学異方性層を形成して、光学補償シートを作製した。
波長633nmで光学異方性層のレターデーション値を測定したところ、Reレターデーション値は45nmであった。また、ディスコティック液晶性分子の円盤面と透明支持体面との平均角度(平均傾斜角)は、39゜であった。
【0112】
(偏光板の作製)
作製した光学補償シートを用いて、透明支持体の遅相軸と偏光膜の透過軸とが45゜の角度となるように配置した以外は、実施例1と同様にして、偏光板を作製した。
【0113】
(リワーク性の評価)
作製した偏光板を粘着剤を介してガラス板に貼り付けた。光学補償シートがガラス面側となるように配置した。
ガラス板に貼り付けた偏光板を、50℃、5気圧で6時間エイジングを行った。25℃、相対湿度60℃の条件に戻して、偏光板をガラス板から剥離した。
以上の試験操作を100枚の偏光板について行ったところ、100枚全ての偏光板を、ガラス板から問題なく(剥げ残りなく)剥離することができた。
【0114】
(ベンド配向液晶セルの作製)
ITO電極付きのガラス基板に、ポリイミド膜を配向膜として設け、配向膜にラビング処理を行った。得られた二枚のガラス基板をラビング方向が平行となる配置で向かい合わせ、セルギャップを6μmに設定した。セルギャップにΔnが0.1396の棒状液晶性分子(ZLI1132、メルク社製)を注入し、ベンド配向液晶セルを作製した。
【0115】
(液晶表示装置の作製)
作製したベンド配向セルを挟むように、作製した偏光板を二枚貼り付けた。偏光板の光学異方性層がセル基板に対面し、液晶セルのラビング方向とそれに対面する光学異方性層のラビング方向とが反平行となるように配置した。
作製した液晶表示装置の液晶セルに、55Hzの矩形波電圧を印加した。白表示2V、黒表示5Vのノーマリーホワイトモードとした。透過率の比(白表示/黒表示)をコントラスト比として、測定機(EZ−Contrast160D、ELDIM社製)を用いて、黒表示(L1)から白表示(L8)までの8段階で視野角を測定した。具体的な視野角としては、コントラスト比が10以上で、黒側の階調反転(L1とL2との間の反転)がない角度を求めた。その結果、上側で80゜、下側で80゜、そして左右で80゜との広い視野角が得られた。
【0116】
[実施例3]
(セルロースアセテート溶液の調製)
下記の組成物からなるセルロースアセテート溶液(ドープ)を調製した。
【0117】
────────────────────────────────────
セルロースアセテート溶液組成
────────────────────────────────────
酢化度59.5%のセルロースアセテート 100質量部
トリフェニルホスフェート 7.8質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート 3.9質量部
実施例1で用いたレターデーション上昇剤 2.0質量部
酢酸メチル 306質量部
シクロヘキサノン 122質量部
メタノール 30.5質量部
エタノール 30.5質量部
平均粒径20nmのシリカ微粒子 1.0質量部
────────────────────────────────────
【0118】
(透明支持体の作製)
調製したドープを金属支持体上に流延した。70℃で3分、120℃で5分乾燥した後、支持体からフイルムを剥ぎ取り、130℃で50分乾燥して、支持体として用いるセルロースアセテートフイルムを得た。残留溶媒量は、0.8質量%であった。
作製したセルロースアセテートフイルムについて、エリプソメーター(M−150、日本分光(株)製)を用い、波長633nmにおけるレターデーション値を測定したところ、Reレターデーション値は10nm、Rthレターデーション値は50nmであった。
【0119】
(透明支持体の鹸化処理)
透明支持体に、2.0Nの水酸化カリウム水溶液を70℃で塗布し、30秒後に純水で水洗して、乾燥した。その後、透明支持体の表面エネルギーを接触角法により求めたところ、65mN/mであった。
【0120】
(配向膜および光学異方性層の形成)
セルロースアセテートフイルムのケン化処理した側の面に、実施例1と同様にして(ただし下塗り層を設けずに)配向膜および光学異方性層を形成した。
このようにして、光学補償シートを作製した。
【0121】
[実施例4]
(透明支持体の鹸化処理)
実施例1で作製した透明支持体に、1.5Nの水酸化カリウム溶液(溶媒:水/イソプロピルアルコール/ポリエチレングリコール=14/86/15容量%)を5ml/m2 塗布し、60℃で約10秒間保持した。フイルム表面に残った水酸化カリウムを水洗し、乾燥した。透明支持体の表面エネルギーを接触角法により求めたところ、63mN/mであった。
【0122】
(配向膜および光学異方性層の形成)
セルロースアセテートフイルムのケン化処理した側の面に、実施例1と同様にして(ただし下塗り層を設けずに)配向膜および光学異方性層を形成した。
このようにして、光学補償シートを作製した。
【図面の簡単な説明】
【図1】透過型液晶表示装置の基本的な構成を示す模式図である。
【図2】透過型液晶表示装置の別の基本的な構成を示す模式図である。
【図3】透過型液晶表示装置のさらに別の基本的な構成を示す模式図である。
【図4】反射型液晶表示装置の基本的な構成を示す模式図である。
【符号の説明】
BL バックライト
RP 反射板
1、1a、1b、3、3a、3b 透明保護膜
2、2a、2b 偏光膜
4、4a、4b 透明支持体
5、5a、5b 光学異方性層
6a、6b 液晶セルの基板
7 棒状液晶性分子
Claims (12)
- 液晶性分子から形成した光学異方性層および透明支持体を有する光学補償シートであって、光学異方性層が、さらに分子内に4個以上の二重結合を有する多官能モノマーの重合体を含むことを特徴とする光学補償シート。
- 多官能モノマーが、分子内に4個以上のヒドロキシルを有するポリオールと、アクリル酸またはメタアクリル酸とのエステルである請求項1に記載の光学補償シート。
- 液晶性分子が、ディスコティック液晶性分子である請求項1に記載の光学補償シート。
- ディスコティック液晶性分子が二重結合を有し、ディスコティック液晶性分子と多官能モノマーとが共重合している請求項3に記載の光学補償シート。
- 光学異方性層と透明支持体との間に配向膜が設けられている請求項1に記載の光学補償シート。
- 配向膜が側鎖に二重結合を有するポリマーからなり、配向膜のポリマーと多官能モノマーとが共重合している請求項5に記載の光学補償シート。
- 透明支持体が、0乃至50nmのReレターデーション値および70乃至400nmのRthレターデーション値を有する請求項1に記載の光学補償シート。
- 透明支持体が、59.0乃至61.5%の酢化度を有するセルロースアセテートフイルムからなる請求項1に記載の光学補償シート。
- セルロースアセテートフイルムが、セルロースアセテート100質量部に対して、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物を0.01乃至20質量部含む請求項8に記載の光学補償シート。
- セルロースアセテートフイルムが、共流延法により製膜された請求項8に記載の光学補償シート。
- セルロースアセテートフイルムが、炭素原子数が2乃至12のエーテル、炭素原子数が3乃至12のケトンまたは炭素原子数が2乃至12のエステルを溶媒とするセルロースアセテート溶液から製膜された請求項8に記載の光学補償シート。
- 液晶セルおよびその両側に配置された二枚の偏光板からなり、液晶セルと少なくとも一方の偏光板との間に少なくとも一枚の光学補償シートが配置されている液晶表示装置であって、光学補償シートが、液晶性分子から形成した光学異方性層および透明支持体を有し、透明支持体は偏光板の透明保護膜として機能してもよく、光学異方性層が、さらに分子内に4個以上の二重結合を有する多官能モノマーの重合体を含むことを特徴とする液晶表示装置。
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