以下に、本発明の好ましい実施形態について述べる。まず、本発明にかかわる電子放出素子の基本的な構成の一例について図1を用いて説明する。
図1は、本発明の電子放出素子の一部分における斜視模式図である。本発明の電子放出素子においては、図1に示す様な構造を複数含む場合もあるし、また、複数含むことが好ましい。
図1において、1は基板、21aは第1導電性膜、21bは第2導電性膜、8は第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間の間隙である。また、33、35、36、37、38はそれぞれ上記第1および第2導電性膜(21a、21b)の一部分を示している。AおよびBは、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間隔が周囲に比べてより狭くなっている(周囲に比べてより電界が強くなっている)部分において対向する、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bのそれぞれの端部を指している。典型的には、第1導電性膜21aの部分Aは電子放出部と言うことができる。そして、第2導電性膜21bの部分Bは、前記部分Aの最も近くに位置する第2導電性膜21bの部分と言うことができる。そして、この部分Aと部分Bとの間隔が、“d”で定義される。
従って、第1導電性膜21aの第4の部分37と第2導電性膜の第2の部分35との間隔、および、第1導電性膜の第5の部分38と第2導電性膜の第3の部分36との間隔よりも、第2導電性膜21bの第1の部分33(部分Bに相当する)とそれに対向する第1導電性膜21aの部分Aとの間隔dが小さい。
そして、第1の部分33(部分Bに相当する)における、第2導電性膜21bの膜厚が、第2導電性膜21bの第2の部分35および第3の部分36における膜厚未満に設定される。このため、第2導電性膜21bの第2の部分35および第3の部分36は、第2導電性膜21bのその他の部分に比べて、基板1の表面から離れているので、「突起部」と呼ぶこともできる。
従って、第2導電性膜21bの第2の部分35および第3の部分36の表面の基板1からの高さと、第1の部分33(部分B)の表面の基板1からの高さとには、差分“h”(「突起部の高さ“h”」と呼ぶ事もできる)が存在する。
そして、また、第2導電性膜21bには、少なくとも2つの「突起部」が存在し、この2つの「突起部」間の間隔“w”が存在する。また、突起部の間隔”w”は、実効的には、各々の突起部において最も基板1表面から離れた部分(頂部)同士の間隔として定義することができる。
そして、上記突起部の間隔wは、実効的には、2d以上50d以下に設定されることが好ましい。この範囲であると、高い放出電流Ieおよび電子放出効率が得られる。
また、上記突起部の高さ”h”は、実効的には、一方の突起部の最も基板1表面から離れた部分(頂部)と基板1表面との最短距離から、部分Bと基板1表面との最短距離を引いた値として定義することができる。そして、「突起部」の高さhは、実効的には、2d以上200d以下に設定されることが好ましい。この範囲であると、高い放出電流Ieおよび電子放出効率が得られる。尚、突起部35と突起部36との高さが異なる場合においては、上記条件を高さの低い方の突起部が満たせばよい。
尚、後述するように、本発明の電子放出素子は、さらに、第1導電性膜21aに電位を供給するために第1導電性膜21aに接続した第1電極、および、第2導電性膜21bに電位を供給するために第2導電性膜21bに接続した第2電極を備える場合もある。
また、本発明の電子放出素子においては、間隙8の外縁の一部を部分Aと部分Bが構成していると言える。また、第1導電性膜21aの第4の部分37、第1導電性膜21aの第5の部分38、第2導電性膜21bの第2の部分35、第2導電性膜21bの第3の部分36もまた間隙8の外縁を構成していると言える。
上記本発明の電子放出素子を駆動する際には、例えば図6に概略構成図を示すように、電子放出素子(21a、21b、4a、4b)はアノード電極44に対向して配置され、真空中で駆動される。このように電子放出素子の上方に距離H[m]離れてアノード電極44を配置することにより、電子放出装置が構成される。そして、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間に、第2導電性膜21bの電位の方が高くなるように、駆動電圧Vf[V]を印加する。それと同時に、アノード電極44の電位が第1および第2導電性膜の電位よりも(典型的には第1導電性膜21aの電位より)高くなるように、アノード電極44と第1導電性膜21aとの間に電圧Va[V]を印加する。このようにすることで、第1導電性膜21aの端部と第2導電性膜21bの端部との間(間隙8)に電界が発生する。間隙8に発生する電界の強度を、電子のトンネリングに十分な電界強度に設定することで、第2導電性膜21bの端部により近く配置された第1導電性膜21aの端部(図1の部分A)から優先的に電子がトンネルする。そして、トンネルした電子の少なくとも一部がアノード電極44に到達する。
ここで、本発明の電子放出素子の駆動時(電子放出時)に用いられる電界強度(第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間に印加される電界強度)は、実効的には、1×109V/m以上2×1010V/m未満である。これより小さい電界強度では、トンネルする電子が著しく少なくなり、これより大きい電界強度では、第1導電性膜21aおよび/または第2導電性膜21bが強電界によって変形してしまうなどの原因で安定な電子放出が得られない場合が多い。
図1に示す第2の部分35および第3の部分36を備えていない電子放出素子に比べ、図1に示す電子放出素子は、第2導電性膜21bに吸収される電子を減らすことができる。その結果、電子放出効率(アノードに到達する電流(Ie)/第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間に流れる電流(If))を飛躍的に向上することができる。この理由としては、部分Aから第1の部分Bに向けてトンネルした電子(部分B近傍で散乱される電子を含む)が、第2の部分35および第3の部分36の形状に起因する電界によって、基板1の表面から離れる方向に向かう作用を強く受けることが挙げられる。
図2(a)には、図1における第2導電性膜21bの第1の部分Bとそれに対向する第1導電性膜21aの部分Aとを通り、基板1表面に垂直な断面における等電位線の様子を模式的に示している。そのため、図2(a)は、本発明の電子放出素子の電子放出部を含む断面における等電位線の様子を模式的に示していると言うこともできる。
そして、図2(c)には、図1における第1導電性膜21aの第4の部分37と第2導電性膜21bの第2の部分35を通り、基板1表面に垂直な断面における等電位線の様子を模式的に示している。
尚、図2(c)における「電子放出方向」と記されている実線の矢印は、後述する説明のために、図2(c)に示す断面図内に、図2(a)で「電子放出方向」と記した矢印と平行な矢印を追加して示したものである。そのため、図2(c)の断面内に存在する第1導電性膜21aの部分(37、38)から、矢印の方向に電子が放出されることを意味するものではない。
また、図2(c)において点線で示されている矢印は、上記実線で示されている矢印の延長を示している。そして、第2導電性膜21bとこの点線の矢印とが交差する(重なる)長さが、「電子放出が出射される方向に存在する第2導電性膜21bの膜厚」に相当する(後述する実施例においては、「第1カーボン膜21aの部分Aと第2カーボン膜21bの部分Bとが対向する方向(電子が出射する方向)に存在する、第2カーボン膜21bの膜厚」に相当する)。
尚、導電性膜(21a、21b)の厚みは非常に薄いので、上記「電子放出が出射される方向に存在する第2導電性膜21bの膜厚」は、実質的に、図1に符号“D”で示している「突起部」36、37の「奥行き」と置き変えて差し支えない。
あるいは、また、基板1表面から離れるに連れて、「突起部」35、36の「奥行き」が細くなっているような場合等においては、上記「電子放出が出射される方向に存在する第2導電性膜21bの膜厚」あるいは上記「突起部」35、36の「奥行き」は、「基板1表面から最も離れた「突起部」(35または36)の頂部(先端)を含む基板1表面に平行な第1平面と第1導電性膜21aの部分Aを含む基板1表面に平行な第2平面との間に位置する、基板1表面に平行な第3平面内の、基板1表面において前記第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとが向かい合う方向における、前記第2導電性膜21bの長さ」に置き換えることができる。尚、突起部35と突起部36との高さが異なる場合においては、上記第1平面の決定方法は、高さの低い方の突起部に対して適用すればよい。
また、上記第3平面は、第1平面と第2平面との間の中央(第1平面及び第2平面の双方に対して等距離)に設定することが好ましい。また、後述するように、本発明の電子放出素子が、後述する第1電極4aと第2電極4b(或いは第1補助電極2と第2補助電極3)を備える場合には、上記「前記第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとが基板1表面において向かい合う方向」は、第1電極4aと第2電極4bとが向かい合う方向(或いは第1補助電極2と第2補助電極3とが向かい合う方向)に置き換えることができる。
そして、上記“D”は、図1の部分Aと部分Bとの間の距離をdとすると、実効的には、200d以下に設定されることが好ましい。そして、「突起部」35、36の構造的および電位的な安定性の観点からは、実用上、上記“D”は5nm以上であることが好ましい。
尚、図2(a)および図2(c)は、第1導電性膜21aの電位よりも第2導電性膜21bの電位が高くなるように、駆動電圧Vf[V]を第2導電性膜21bと第1導電性膜21aとの間に印加した際に形成される等電位線の様子を示している。
また図2(b)には、上記した第2の部分35と第3の部分36が存在せず、間隙8を挟んで対向する部分における第1導電性膜21aの膜厚と第2導電性膜21bの膜厚がいずれの場所においてもほぼ同じである電子放出素子の、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとを通り、基板1表面に垂直な断面における等電位線の様子を模式的に示している。尚、図2(b)では、図2(a)および図2(c)と同様に、第1導電性膜21aの電位よりも第2導電性膜21bの電位が高くなるように、駆動電圧Vf[V]を第2導電性膜21bと第1導電性膜21aとの間に印加した際に形成される等電位線の様子を示している。
尚、図2(a)〜(c)は、例えば、図6に示す様な、電子放出素子の上方にアノード電極44を配置しない状態、あるいは、電子放出素子の上方に距離H[m]離れてアノード電極が配置されてはいるがアノード電極と第1導電性膜21aとの間の電位差がない状態において、駆動電圧Vf[V]を第2導電性膜21bと第1導電性膜21aとの間に印加した際に形成される等電位線の様子を示したものである。即ち、図2(a)〜(c)は、アノード電極の電位による間隙8近傍の等電位線への影響が実質的に無視できる状況下において、駆動電圧Vf[V]を第2導電性膜21bと第1導電性膜21aとの間に印加した際に形成される等電位線の様子を示している。
図6に示す様な電子放出装置や後述する画像表示装置においては、電子放出素子の上方に距離H[m]離れて配置されたアノード電極44に、後述する範囲の電圧Va[V]を印加した状態で、電子放出素子に駆動電圧Vf[V]を印加する。そのため、より正確に記すと、電子放出装置や後述する画像表示装置の駆動時においては、電子放出部近傍から離れた領域における等電位線の形態は、アノード電極44の電位の影響を受けて、図2(a)〜(c)に示した様子とは異なる。
しかしがら、電子放出装置や後述する画像表示装置においてアノード電極44と電子放出素子との間に形成される電界強度は、典型的には、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間に形成される(間隙8に印加される)電界強度の1/10以下である。そのため、電子放出部近傍(間隙8近傍)においては、アノード電極44の電位をほとんど受けず、図2(a)〜(c)に示した等電位線と基本的に同様の形態となる。尚、ここで述べる電子放出部近傍とは、実効的には、図1の部分Aと部分Bとの間の距離をdとすると、第1導電性膜21aの部分Bを中心にした、半径が50dの範囲内と定義することができる。また、上記H[m]は、アノード電極44と電子放出素子との距離であり、実効的には、電子放出素子が配置される基板1の表面からアノード電極44までの距離と同等と見なすことができる。
また、図2(a)〜(c)においては、第1導電性膜21aに電位を供給するために第1導電性膜21aに接続する第1電極4aと、第2導電性膜21bに電位を供給するために第2導電性膜21bに接続する第2電極4bとを設けた場合を示している。また、ここでは、第1および第2電極4a、4bは、それぞれ一つの導電体で構成した例を示している。しかしながら、各々の電極4a、4bを、複数の導電性膜を接続することで構成された電極に置き換えることも出来る。また、さらに、第1電極4aに接続する第1補助電極、および、第2電極4bに接続する第2補助電極を備えることもできる。
本発明の電子放出素子においては、図2(a)に示す様に、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間に駆動電圧を印加した際に、当該駆動電圧(電位差)の半分の電圧(電位差)における等電位線(図2(a)中の「1/2等電位線」で表示)が、第1導電性膜21a側に傾く(「第1導電性膜21a側に偏っている」あるいは「第1導電性膜21a側に偏在する」と言う事もできる)。このため、第1導電性膜21a側から放出された電子は、上向き(基板1から離れる方向)に力を受け、第2導電性膜21b側に吸収される電子の量を減らすことができる(アノードに到達する電子の量をふやすことができる)。
一方、上記した第2の部分35と第3の部分36が存在しない電子放出素子の場合には、図2(b)に示す様に、「1/2等電位線」は、第1導電性膜と第2導電性膜のほぼ中間に位置する(基板1の表面に対しほぼ垂直な線となる)。そのため、図2(a)に示した構造の電子放出素子に比べて、第2導電性膜21b側に吸収される電子の量が多くなる。
また、本発明の電子放出素子は、前述したように、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間隔が周囲に比べてより狭くなっている部分(図1の部分Aと部分B)において、第1導電性膜21bの膜厚(部分Bにおける膜厚)は、第2導電性膜21aの膜厚(部分Aにおける膜厚)以下(好ましくは部分Aにおける膜厚よりも小さい)に設定されることが好ましい。
この様にすれば、優先的に電子が放出されるであろう部分(図1の部分Aに相当する)から放出された電子(トンネルした電子)が、第2導電性膜21b側に衝突する(吸収される)可能性をさらに低減することができる。その結果、一層の電子放出効率の向上を達成することができる。尚、図21に示した従来の電子放出素子においては、間隙8の外縁を形成する第1導電性膜21aの端部(本発明の電子放出素子の部分Aに相当する)の膜厚よりも、間隙8の外縁を形成する第2導電性膜21bの端部(本発明の電子放出素子の部分Bに相当する)の膜厚が大きく設定されているように見える。そのため、第1導電性膜21a側から放出された電子のうち、第2導電性膜21b側に吸収されたり散乱されたりすることで無効電流(素子電流If)になってしまう成分が、本発明の電子放出素子よりも多くなると推測される。また、本発明の電子放出素子においては、図1の部分Aと部分Bとの間の距離dは、第1導電性膜21aおよび第2導電性膜21bの材料などにもよるが、好ましくは50nm以下であり、さらに好ましくは10nm以下であり、特に好ましくは5nm以下である。また、距離dの下限は、電子放出のONおよびOFFの制御、ならびに電子放出量の制御性を確保する上で、1nm以上とすることが好ましい。また、駆動電圧Vfを高くすると、間隙8周辺において、基板1表面の沿面放電現象が発生しやすくなる。特に、上記距離dの範囲においては、50Vを超える電圧を駆動電圧とすると、放電現象などに起因する電子放出素子へのダメージが無視できなくなる。従って、上記距離dの範囲においては、実用的な駆動電圧Vf[V]としては10V以上50V以下が好ましい。尚、上記距離dおよび駆動電圧Vfの値は、前述した電界強度の範囲を満たすことが求められる。
また、本発明の電子放出素子を駆動する際には、例えば図6に概略構成を示すように電子放出素子はアノード電極44に対向して配置され、真空中で駆動される。このように電子放出素子の上方にアノード電極44を配置することにより、電子放出装置が構成される。図6において、1は基板、21aおよび21bは前述した第1および第2導電性膜である。また、41は駆動電圧Vfを印加するための電源、40は第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間を流れる素子電流Ifを測定するための電流計、44はアノード電極、43はアノード電極44に電圧Vaを印加するための高圧電源、42は放出電流Ieを測定するための電流計である。また、電子放出素子及びアノード電極44は真空装置内に設置される。尚、ここでは、第1導電性膜21aおよび第2導電性膜21bに安定に電位を供給するために、第1導電性膜21aに接続する第1電極4aと第2導電性膜21bに接続する第2電極4bを用いた例を示した。しかしながら、これらの電極4a、4bは本発明の電子放出素子にとって必須の構成要件ではない。
図6における基板1と、基板1から離れて配置されたアノード電極44との距離をH[m]、アノード電極44に印加される電圧(典型的には第1導電性膜21aの電位とアノードの電位との差)Va[V]、駆動時に第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間に印加する電圧をVf[V]とした場合に、図1の部分Aと部分Bとの間の距離d[m]を、Xs=(Vf×H)/(π×Va)より大きく設定すると、上記した第2の部分35と第3の部分36の電位による効果が弱くなる場合がある。そのため、dはXs以下であることが好ましい。また、Hは、実用的には、100μm以上10mm以下、好ましくは1mm以上3mm以下に設定される。また、Vaは1kV以上30kV以下、好ましくは7kV以上20kV以下に設定される。そのため、本発明においては、図1の部分Aと部分Bとの間における電界強度(第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間に印加する電界強度と同義)の方が、アノード電極44と第1導電性膜21aとの間における電界強度よりも高い状態で、電子が放出される。より安定な電子放出を実現するためには、好ましくは、部分Aと部分Bとの間における電界強度に比べ、アノード電極44と第1導電性膜21aとの間における電界強度が2桁以上低いことが好ましい。
なお、図1では、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bは、基板1表面に平行な方向において対向し、間隙8を境にして完全に分離された状態が示されている。しかしながら、本発明においては、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとが、その一部でつながっている場合もある。つまり、1つの導電性膜の一部に間隙8が形成されている形態であっても良い。即ち、完全に分離されていることが理想ではあるが、微少な領域で、前記第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとが繋がっていても、充分な電子放出特性を示しさえすれば良い。
基板1としては、石英ガラス、青板ガラス、あるいは、青板ガラス等にスパッタ法等公知の成膜方法により形成した酸化シリコン(典型的にはSiO2)を積層したガラス基板等が挙げられる。この様に、本発明では、基板として、酸化シリコン(典型的にはSiO2)を含んだ材料が好ましく用いられる。
第1導電性膜21aおよび第2導電性膜21bとしては、Ni、Au、PdO、Pd、Pt、炭素等からなる導電性膜であれば良い。特には、高い電子放出量、経時的な安定性などの観点から炭素を含む膜(カーボン膜)であることが好ましい。さらには、実用的な範囲としては炭素を70atm%以上含む膜が好ましい。
また、本発明の電子放出素子においては、図3を用いて後述するように、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間(間隙8)において、基板1表面に凹部を備えることが好ましい。このように凹部を備えることで、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間に流れる無効な電流を抑制することができる。そして、基板1表面を介した第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間の放電の発生を抑制することができる。
また、本発明の電子放出素子においては、図3を用いて後述するように、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの基板1表面における間隔よりも、基板1表面から上方に離れた位置における第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間隔が狭くなっている構成であることが好ましい。この様な構成を採用することで、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間に流れる無効な電流をさらに抑制することができると共に、基板1表面を介した第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間の放電が発生する可能性をさらに抑制することができる。
次に、本発明の電子放出素子の変形例を図3を用いて説明する。図3の電子放出素子は、図1に示した構造を多数備える電子放出素子の例である。図3(a)は、本発明の電子放出素子の変形例の平面模式図である。図3(b)は、図3(a)のP―P’における断面模式図である。図3(c)は、図3(a)のQ―Q’における断面模式図である。さらに、図3(a)において、点線で四角形状に囲まれている領域の斜視図は、図1と同様の構造である。即ち、図3(a)において濃い灰色で示された領域が、図1を用いて説明した第2導電性膜21bの突起部35、36に相当する。このように、本発明の電子放出素子においては、第2導電性膜21bの第1導電性膜21a側の端部が、図1に示したような、直線状に限定されるものではない。また、第1導電性膜および第2導電性膜のそれぞれの端部は、曲線状になっていても良いし、また、構造的な安定性の観点から、曲線状になっていることが好ましい。
また、図3に示す構造においては、第1導電性膜21aおよび第2導電性膜21bに安定に電位を供給するために、第1導電性膜21aに接続する第1電極4aと第2導電性膜21bに接続する第2電極4bを用いた例を示した。しかしながら、これらの電極4a、4bは、必ずしも用いなくても良い。また、ここで説明する例においては、第1導電性膜21aおよび第2導電性膜21bのそれぞれを、カーボン膜(第1カーボン膜21aおよび第2カーボン膜21b)で形成した例である。
図3(a)〜図3(c)において、1は基板、4aは第1電極、4bは第2電極、21aは前述の第1導電性膜に相当する第1カーボン膜、21bは前述の第2導電性膜に相当する第2カーボン膜、22は凹部である。また、部分A、部分Bは、図1などを用いて説明した、最も間隔が狭い(最も電界が強い)位置を示すものである。また、図3(b)で示す例においては、第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bとの基板1表面における間隔よりも、基板1表面から上方に離れた位置における第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bとの間隔が狭くなっている。
第1電極4aと第2電極4bは、第二の間隙7を挟んで対向している。なお、第1電極4aと第2電極4bは、基板1表面に対して平行な方向において対向し、第二の間隙7を境にして完全に分離されて模式的に示されている。しかしながら、微小な領域でつながっていても良い。第1電極4aと第2電極4bとを、後述する「フォーミング処理」などのように、一つの導電性膜を分離して形成する場合においては、導電性膜の一部に第二の間隙7が形成されている形態ということもできる。即ち、完全に分離されていることが理想ではあるが、微少な領域で、前記第1電極4aと第2電極4bとが繋がっていても、充分な電子放出特性を示しさえすれば良い。また、第1電極4aおよび第2電極4bには、それぞれに電圧を供給するための配線や補助電極が更に接続される場合もある。
第1カーボン膜21aおよび第2カーボン膜21bは、図3に示す様に、第2の間隙7内の基板1上および、第2の間隙7近傍に位置する第1電極4a及び第2電極4b上に配置されることが好ましい。この構成により、カーボン膜(21a、21b)は、電極(4a、4b)と電気的に接続することができる。また、電極(4a、4b)が薄膜であった場合には、間隙8近傍の電極をカーボン膜で覆うことで電極(4a、4b)のジュール熱などによる変形を抑制することもできる。なお、図3では、第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bは基板1表面に対して平行な方向において対向し、第1の間隙8を境にして完全に分離されて模式的に示されているが、一部でつながっている場合もある。つまり、カーボン膜の一部に第1の間隙8が形成されている形態ということもできる。即ち、第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bは完全に分離されていることが理想ではあるが、微少な領域で、第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bとが繋がっていても、充分な電子放出特性を示しさえすれば良い。
第1および第2電極(4a、4b)の材料としては、導電性を有するものであればどのようなものであっても構わないが、例えばNi、Cr、Au、Mo、W、Pt、Ti、Al、Cu、Pd等の金属或はそれらの合金、In2O3−SnO2等の透明導電体、ポリシリコン等の半導体等を用いることが出来る。
また、本発明の電子放出素子は、特には、図22(a)〜図22(c)に模式的に示すような形態を備えることが好ましい。図22(a)は、間隙8近傍における平面模式図であり、図22(b)は図22(a)における部分Aと部分Bとを通る断面模式図である。図22(c)は図22(b)におけるP−P’における断面模式図である。図22において、図1や図3において用いた符合と同じ符号を付した部材は、同じ部材を示している。また、図22で示した例においては、第1導電性膜21aおよび第2導電性膜21bは、カーボン膜である。図22に示したように、本発明の電子放出素子の第1および第2導電性膜(21a、21b)の外形は、図1や図3などに示す様に平面を組合せた多角形状に限定されるのではなく、曲面同士の組合せや、曲面と平面とを複雑に組合せた形態とすることができる。また、図22(B)や図22(c)に示す様に、凹部22内にも、導電性膜(21a、21b)の一部が配置されていることが好ましい。また、部分Bを挟む突起部35と突起部36の高さhは、互いに異なっていても良い。尚、図22(a)、(c)、図3(A)、図3(C)、図5(A)、図5(B)において、突起部(35、36)と導電性膜(21a、21b)の色を変えて示している。しかし、これは、突起部(35、36)の理解を容易にするために行ったものであって、材料や組成などが、突起部(35、36)と導電性膜(21a、21b)とで異なることを示すためのものではない。
次に、本発明の電子放出素子の製造方法としては様々な方法が考えられるが、例えば以下の工程(1)〜(5)によって本発明の電子放出素子を形成することができる。
その一例を図1、図3、図6〜図10を用いて説明する。以下で示す例においては、前述の第1導電性膜21aおよび第2導電性膜21bのそれぞれをカーボン膜で構成している。また、以下では、前述の第1電極4aに第1補助電極2を接続し、前述の第2電極4bに第2補助電極3を接続した例を示す。
(工程1)基板1を洗剤、純水および有機溶剤により十分に洗浄後、補助電極材料を、真空蒸着法、スパッタ法等により基板1上に堆積する。その後、フォトリソグラフィー技術などにより、第1補助電極2および第2補助電極3を形成する(図7(a))。
補助電極2、3の間隔および補助電極2、3の長さおよびその形状は、電子放出素子の応用形態等によって適宜設計される。例えば、後述するテレビジョン等の表示装置に用いる場合では、解像度に対応して設計される。とりわけ、高品位(HD)テレビでは画素サイズが小さく高精細さが要求される。そのため、電子放出素子のサイズが限定されたなかで、十分な輝度を得るためには、十分な放出電流Ieが得られるように設計される。
補助電極2、3の間隔は、実用的には5μm以上100μm以下である。補助電極の膜厚は、実用的には10nm以上10μm以下である。
(工程2)基板1上に設けられた第1補助電極2と第2補助電極3との間を接続する導電性膜4を形成する(図7(b))。導電性膜4の製造方法としては、例えば、有機金属溶液を塗布して乾燥することにより、有機金属膜を形成した後に、有機金属膜を加熱焼成処理し、リフトオフ、エッチング等によりパターニングする方法を採用とすることができる。
導電性膜4の材料としては、例えばNi、Cr、Au、Mo、W、Pt、Ti、Al、Cu、Pd等の金属、それらの合金、それらの金属酸化物、In2O3−SnO2等の透明導電体、あるいはポリシリコン等の半導体、等を用いることができる。
なお、有機金属溶液としては、前記導電性膜材料のPd、Ni、Au、Pt等の金属を主元素とする有機金属化合物の溶液を用いることができる。なお、ここでは、有機金属溶液の塗布法により説明したが、導電性膜4の形成法はこれに限られるものではなく、真空蒸着法、スパッタ法、CVD法、分散塗布法、ディッピング法、スピンナー法、インクジェット法等によって形成することも出来る。
次の工程において「フォーミング」処理を行う場合においては、導電性膜4は、Rs(シート抵抗)が102Ω/□〜107Ω/□の抵抗値の範囲で形成されることが好ましい。なおRsは、厚さがt、幅がwで長さがlの膜の長さ方向に測定した抵抗Rを、R=Rs(l/w)とおいたときに現われる値である。抵抗率をρとすればRs=ρ/tである。上記抵抗値を示す膜厚としては、具体的には5nm〜50nmの範囲にある。
(工程3)つづいて、「フォーミング」と呼ばれる処理を、補助電極2、3間に電圧を印加することにより行う。この電圧の印加により、導電性膜4の一部に第二の間隙7が形成される。その結果、間隙7を挟んで、基板1表面に対して横方向に、第1電極4aと第2電極4bとを対向して配置することができる。(図7(c))。
「フォーミング」処理以降の電気的処理は、例えば、前述した図6に示す測定評価装置内に前記基板1を配置することで行うことができる。なお、図6に示した測定評価装置は真空装置であり、該真空装置には不図示の排気ポンプ及び真空計等の真空装置に必要な機器が具備されており、所望の真空下で種々の測定評価を行えるようになっている。なお、排気ポンプは、オイルを使用しない、磁気浮上ターボポンプ、ドライポンプ等の高真空装置系と、更に、イオンポンプからなる超高真空装置系から構成することができる。また、本測定評価装置には、不図示のガス導入装置を付設することで、所望の有機物質の蒸気を所望の圧力で真空装置内に導入することができる。また、真空装置全体、及び真空装置内に配置された基板1は、不図示のヒーターにより加熱することができる。
「フォーミング」処理は、パルス波高値が一定である、パルス電圧を繰り返し印加することによって行うことができる。また、パルス波高値を徐々に増加させながら、パルス電圧を印加することによっても行うこともできる。
パルス波高値が一定である場合のパルス波形の例を図8(a)に示す。図8(a)中、T1及びT2は電圧波形のパルス幅とパルス間隔(休止時間)であり、T1は1μsec〜10msec、T2は10μsec〜100msecとすることができる。印加するパルス波形自体は、三角波や矩形波を用いることができる。
次に、パルス波高値を増加させながら、パルス電圧を印加する場合のパルス波形の例を図8(b)に示す。図8(b)中、T1及びT2は、それぞれ、電圧波形のパルス幅とパルス周期であり、T1は1μsec〜10msec、T2は10μsec〜100msecとすることができる。印加するパルス波形自体は、三角波や矩形波を適宜選択して用いることができる。印加するパルス電圧の波高値は、例えば0.1Vステップ程度ずつ、増加させる。
なお、「フォーミング」処理の終了は、上記したパルス電圧の休止時間中に、導電性膜4に悪影響を与えない程度の電圧(例えば0.1V程度のパルス電圧)を印加して、補助電極2、3間を流れる電流(素子電流If)を測定し、抵抗値を求め、その抵抗値が、例えば「フォーミング」処理前の抵抗の1000倍以上の抵抗を示した時に「フォーミング」を終了することができる。
また、用いるパルス波高値及びパルス幅、パルス間隔(休止時間)、パルス周期等については上述の値に限られることはない。間隙7が良好に形成されるように、電子放出素子の抵抗値等にあわせて、適当な値を選択することができる。
尚、ここでは、第1電極4aと第2電極4bの形成を、導電性膜に「フォーミング」処理を施して行う方法を示した。しかしながら、本発明においては、フォトリソグラフィー法などの公知のパターニング方法を用いて第1電極4aと第2電極4bを形成することもできる。また、後述する「活性化工程」を用いて第1カーボン膜と第2カーボン膜とを形成する場合には、第1電極4aと第2電極4bとの間隔が狭いことが好ましいため、前述した「フォーミング」処理を採用することが好ましい。しかしながら、導電性膜4にFIB(集束イオンビーム)を照射することで導電性膜4に間隙7を形成する手法や、電子ビームリソグラフィー法などを用いて、狭い間隔7を形成することもできる。また、第1補助電極2と第2補助電極3との間隔を、前述した様々な手法により、狭く形成することができれば、第1電極4aと第2電極4bは必ずしも必要としない。しかしながら、低コストに本発明の電子放出素子を作成するためには、後述する「活性化」処理によって形成するカーボン膜に電位を安定に供給するための電極としての前述の補助電極2、3と、「活性化工程」の初期におけるカーボン膜の堆積を安定にそして早く行うために第1電極4aおよび第2電極4bとを用いることが好ましい。
(工程4)次に、「活性化」処理を施す。「活性化」処理は、例えば、図6に示したような真空装置内に炭素含有ガスを導入し、炭素含有ガスを含む雰囲気下で、補助電極2,3間に両極性のパルス電圧を印加することで行うことができる。この処理により、雰囲気中に存在する炭素含有ガスから、第1および第2導電性膜(21a、21b)としての炭素を含む膜(カーボン膜)を、第1電極4aと第2電極4bとの間の基板1上および間隙7近傍の第1電極4aおよび第2電極4b上に形成することができる。その結果、放出電流Ieを著しく増大させることができる。
上記炭素含有ガスとしては有機物質ガスを用いることができる。有機物質としては、アルカン、アルケン、アルキンの脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アミン類、フェノール、カルボン、スルホン酸等の有機酸類等を挙げることが出来、具体的には、メタン、エタン、プロパンなどCn H2n+2で表される飽和炭化水素、エチレン、プロピレンなどCn H2n等の組成式で表される不飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルアミン、エチルアミン、フェノール、蟻酸、酢酸、プロピオン酸等が使用できる。
また、前述した炭素含有ガスは、真空装置内を一度10―6Pa台の圧力に減圧した後に、真空装置内に導入する事が好ましい。このときの好ましい炭素含有ガスの分圧は、電子放出素子の形態、真空容器の形状や、用いる炭素含有ガスの種類などにより異なるため、適宜設定される。
上記「活性化」処理中に補助電極2,3間に印加する電圧波形としては、例えば図9(a)あるいは図9(b)に示したパルス波形を用いることができる。印加する最大電圧値は、実用的な範囲として、10V以上25V以下の範囲で適宜選択することが好ましい。図9(a)中、T1は、印加するパルス電圧のパルス幅、T2はパルス周期である。この例では、電圧値は正負の絶対値が等しい場合を示しているが、電圧値は正負の絶対値が異なる場合もある。また、図9(b)中、T1は正の電圧値のパルス電圧のパルス幅であり、T1’は負の電圧値のパルス電圧のパルス幅である。T2はパルス周期である。尚、この例においては、T1>T1’に設定し、電圧値は正負の絶対値が等しく設定されている場合を示しているが、電圧値は正負の絶対値が異なる場合もある。
図10に「活性化」処理中における素子電流Ifのプロファイルを示す。「活性化」処理は、素子電流の上昇が緩やかになる領域(図10中の点線から右側の領域)に入った後に終了することが好ましい。
なお、「活性化」処理中に、図9(a)に示したような波形の電圧を補助電極2,3間に印加することで、図3(b)に示したような第1カーボン膜21aの膜厚と第2カーボン膜21bの膜厚がほぼ等しい形状を形成することができる。
一方、「活性化」処理中に、図9(b)に示した様な、非対称な波形の電圧を補助電極2,3間に印加することで、図5(a)、図5(b)に示すように形態の第1および第2カーボン膜を形成することができる。即ち、間隙8の外縁を構成する第2カーボン膜21bの端部の膜厚が、間隙8の外縁を構成する第1カーボン膜21aの端部の膜厚よりも厚くなる、非対称の構造を作ることができる。
また、図9(a)、(b)に示したどちらの波形を用いても、図10中の点線から右側の領域であって、点線から十分に離れた領域まで「活性化」処理を行うことで、基板変質部(凹部)22を形成することができるので好ましい。また、図10中の点線から右側の領域まで「活性化」処理を行うことで、図3(b)、図3(c)に示す様に、第1カーボン膜21aの端部と第2カーボン膜21bの端部との距離が、基板1表面における距離よりも、基板1表面から上方に離れた位置における距離を狭くすることができる。また、基板変質部(凹部)22については、次のように考えている。
炭素の近くにSiO2(基板の材料)が存在する条件下で基板の温度が上昇すると、Siが消費される。
SiO2+C→SiO↑+CO↑
この様な反応が起こることによって基板中のSiが消費され、基板表面が削れた形状(凹部)が形成されるのではないかと考える。
基板変質部(凹部)22を有すると、第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bとの沿面距離を増やすことができる。そのため、第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bとの間に駆動時に印加される強電界に起因するとみられる放電現象や、過剰な素子電流Ifの発生を抑制することができる。
本発明における炭素を含む膜である、第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bの炭素について説明する。第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bに含まれる炭素は、グラファイト状炭素であることが好ましい。本発明におけるグラファイト状炭素とは、完全なグラファイトの結晶構造を有するもの(いわゆるHOPG)、結晶粒が20nm程度で結晶構造がやや乱れたもの(PG)、結晶粒が2nm程度になり結晶構造の乱れがさらに大きくなったもの(GC)、非晶質カーボン(アモルファスカーボン及び/あるいはアモルファスカーボンと前記グラファイトの微結晶の混合物を指す)を包含する。すなわち、グラファイト粒子間の粒界などの層の乱れが存在していても好ましく用いることができる。
(工程5)次に、第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bの形状を図1や図3に示した形状にするための、加工処理を施す。
具体的には、例えば、図11(a)、(b)に示すようなAFM(原子間力顕微鏡:Atomic Force Microscope)を用いる方法により、カーボン膜の形状を図1や図3に示した形状にすることができる。ここでは、第2カーボン膜21bの形状を変える加工処理方法としてAFMを用いた例を説明するが、加工処理法は、AFMを用いた手法に限定されるものではない。
上記AFMを用いる方法は、例えば以下のように行うことができる。まず、「活性化」処理で、第2カーボン膜21bの膜厚を第1カーボン膜21aの膜厚よりも厚くなるように形成した場合(図9(b)に示した様な、両極性であり、且つ、電圧値またはパルス幅が非対称なパルス電圧を繰り返し印加する手法を用いた場合)においては、まず、AFMのプローブ(探針)を第2カーボン膜21bの上に位置合わせを行う(図11(a))。そして、AFMのプローブを第2カーボン膜21bの端部(間隙8の外縁を形成する部分)に接触させてカーボン膜21bの端部を削る(図11(b))。
カーボン膜21bの端部を削る際には、AFMのコンタクトモード(接触圧を電圧で制御する)で行うことができる。この手法により、図1を用いて前述した第1の部分(B)、第2の部分35、第3の部分36を形成することができる。この処理を、間隙8に沿う、第2カーボン膜21bの端部(間隙8の外縁を形成するカーボン膜21bの端部)の複数箇所に対して、間隔を置いて、行う。この様に行うことで、図3(a)に示すように、図1に示した構造を複数備える電子放出素子を作製することができる。
以上の工程で、図1や図3に示す、本発明の電子放出素子を基本的には形成することができる。また、上記「活性化」処理で形成した第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bとの間隙8の形状を適宜調整することもできる。この場合は、例えば、図23(a)のように、第1カーボン膜21aの外縁(間隙8を形作る第1カーボン膜21aの端部)をAFMの針(探針)を用いて削ることで、所望の間隙8を形成することができる。勿論、第2カーボン膜の端部を削ることによっても間隙8の形状を制御することも可能である。このように間隙8の形状を制御することで、所望の箇所に前述した部分Aと部分Bとを形成することができる。その後は、図11(a)と同様に、第2カーボン膜21bの端部にAFMの針を移動させて、突起部35、36を形成すれば良い(図23(b)、図23(c))。また、本発明の電子放出素子の作成方法においては、上記AFMを用いた加工処理ではなく、図1、図2、図22(c)、図23(c)に示した構造を備える電子放出素子を作製することもできる。その一例としては、「活性化」処理の後に、炭素含有ガスを含む雰囲気下で電子線をカーボン膜の所望の箇所に照射することで、突起部35、36を形成する方法を採用することもできる。また、上記した「活性化」処理における、(I)炭素含有ガスの種類や、(II)炭素含有ガスの分圧や、(III)印加する電圧波形や、(IV)炭素含有ガスを排気するタイミングと電圧印加の停止のタイミングとの関係、(V)「活性化」時の温度、などを適宜制御することで、上記工程5の加工処理を行わずに、図22(c)、図23(c)などで説明した構造の電子放出素子を形成することができるかもしれない。そのため、上記加工処理を行わずに、工程4の「活性化」処理によって、図22(c)、図23(c)などで説明した本発明の構造を形成した電子放出素子を本発明は排除するものではない。尚、上記(工程5)の後に(加工処理を行わずに、「活性化」処理だけで図22(c)、図23(c)などで説明した構造を形成した場合は(工程4)の後に)、好ましくは、真空中で加熱処理する「安定化」処理を行う。この処理により、「活性化」処理によって基板1表面や、その他の箇所に付着した余分な炭素や有機物を除去することが好ましい。
具体的には、真空容器内で、余分な炭素や有機物質を排気する。真空容器内の有機物質は極力排除することが望ましい。有機物質の分圧としては1.3×10―8Pa以下まで除去することが好ましい。また、他のガスをも含めた真空容器内の全圧力は、1.3×10―6Pa以下が好ましく、さらには1.3×10―7Pa以下が特に好ましい。真空容器を排気する真空排気装置は、装置から発生するオイルが電子放出素子の電子放出特性に影響を与えないように、オイルを使用しないものを用いることができる。具体的には、ソープションポンプ、イオンポンプ等の真空排気装置を挙げることができる。さらに真空容器内を排気するときには、真空容器全体を加熱して、真空容器内壁や、電子放出素子に吸着した有機物質分子を排気しやすくすることが好ましい。このときの加熱条件は、150℃〜350℃、好ましくは200℃以上でできるだけ長時間行うのが望ましいが、特にこの条件に限るものではない。
「安定化」処理を行った後に、電子放出素子を駆動する時の雰囲気は、上記「安定化」処理終了時の雰囲気を維持するのが好ましいが、これに限るものではない。有機物質が十分除去されていれば、圧力自体は多少上昇しても十分に安定な特性を維持することができる。
このような真空雰囲気において電子放出素子を駆動することにより、新たな炭素あるいは炭素化合物の堆積を抑制できる。その結果、本発明の電子放出素子の形状が維持され、結果として素子電流If,放出電流Ieが安定する。
次に、本発明の電子放出素子の基本特性について、図6、図12を用いて説明する。
図6に示した測定評価装置により測定された、前述した「安定化」処理後の電子放出素子の放出電流Ie及び素子電流Ifと、素子電圧Vfとの関係の典型的な例を図12に示す。
なお、図12は、放出電流Ieは素子電流Ifに比べて著しく小さいので、任意単位で示されている。図12からも明らかなように、本発明の電子放出素子は放出電流Ieに対する3つの性質を有する。
まず第1に、本発明の電子放出素子は、ある電圧(しきい値電圧と呼ぶ;図12中のVth)以上の素子電圧を印加すると急激に放出電流Ieが増加する。一方で、しきい値電圧Vth以下では放出電流Ieがほとんど検出されない。すなわち、放出電流Ieに対する明確なしきい値電圧Vthを持った非線形素子である。
第2に、放出電流Ieが素子電圧Vfに依存するため、放出電流Ieは素子電圧Vfで制御できる。
第3に、アノード電極44に捕捉される放出電荷は、素子電圧Vfを印加する時間に依存する。つまり、アノード電極44に捕捉される電荷量は、素子電圧Vfを印加する時間により制御できる。
以上のような電子放出素子の特性を用いると、入力信号に応じて電子放出特性を容易に制御できることになる。さらに、本発明に係る電子放出素子は、安定かつ高輝度な電子放出特性を有するため、多方面への応用が期待できる。
本発明の電子放出素子の応用例について以下に述べる。
本発明の電子放出素子を複数個基板上に配列し、例えば電子源あるいは、テレビジョンなどの画像表示装置を構成できる。
基板上の電子放出素子の配列形式としては、例えば、「はしご型配列」や「マトリクス型配列」が挙げられる。「はしご型配列」では、多数の電子放出素子を並列接続し、この電子放出素子の配列方向(行方向)と直交する方向(列方向)に、個々の電子放出素子の上方に制御電極(グリッド)を配置することにより、各電子放出素子からの電子放出を制御する形態を採用することができる。「マトリクス型配列」では、m本のX方向配線とn本のY方向配線を用意し、本発明の電子放出素子の第1導電性膜21aをm本のX方向配線のうちの1本に電気的に接続し、第2導電性膜21bをn本のY方向配線のうちの1本に電気的に接続する形態を採用することができる(尚、m、nは、共に正の整数)。
次に、マトリクス型配列について詳述する。
本発明の電子放出素子の前述した3つの基本的特性によれば、放出される電子は、第1導電性膜21aと第2導電性膜21bとの間に印加するパルス状電圧の波高値と幅で制御できる。一方、しきい値電圧未満では、実質的に電子は放出されない。この特性によれば、多数の電子放出素子を配置した場合でも、個々の電子放出素子に、上記パルス状電圧を適宜印加すれば、入力信号に応じて、選択した電子放出素子からの電子放出量を制御することができる。
以下、この原理に基づき構成した、マトリクス型配列の電子源基板の構成について、図13を用いて説明する。
m本のX方向配線72は、Dx1,Dx2,……,Dxmからなり、絶縁性基板71上に、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等で形成される。X方向配線72は、金属等からなり、多数の電子放出素子にほぼ均等な電圧が供給される様に、材料、膜厚、配線幅が適宜設定される。n本のY方向配線73は、Dy1,Dy2,…,Dynのn本の配線よりなり、X方向配線72と同様の手法、材料により形成することができる。これらm本のX方向配線72とn本のY方向配線73との間には、不図示の絶縁層が配置される。絶縁層は、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等で形成することができる。材料としてはSiO2等を用いることができる。
上記X方向配線72のうちの1本と、Y方向配線73のうちの1本とに、各電子放出素子74は接続される。
また、詳しくは後述するが、前記X方向配線72には、走査信号を印加する不図示の走査信号印加手段が電気的に接続される。一方、Y方向配線73には、走査信号に同期して、選択された各電子放出素子から放出される電子を変調するための変調信号を印加する不図示の変調信号発生手段が電気的に接続される。各電子放出素子に印加される駆動電圧Vfは、印加される走査信号と変調信号との差電圧として供給される。
次に、上記のようなマトリクス配列の電子源、及び、画像表示装置の一例について、図14と図15を用いて説明する。図14は画像表示装置を構成する外囲器88の基本構成図であり、図15は蛍光膜である。
図14において、71は本発明の電子放出素子74を複数配した電子源基板、81は電子源基板71を固定したリアプレート、86はガラスなどの透明基板83の内面に蛍光膜84と導電性膜85等が形成されたフェースプレートである。82は支持枠である。リアプレート81、支持枠82及びフェースプレート86は、接合部にフリットガラスなどの接着剤を塗布し、大気中や窒素中で、400℃〜500℃で加熱することによる封着することができる。この封着された構造体で外囲器88が構成される。尚、上記導電性膜85は、図6を用いて説明したアノード電極44に対応する部材である。
外囲器88は、大気中や窒素中で封着して形成した場合には、その後、不図示の排気管を通じ、内部の圧力が所望の真空度(例えば1.3×10−5Pa程度)に達するまで排気した後、排気管を封止することで内部が真空に維持された外囲器88を得ることができる。また、封着を、真空中で行えば、上記した排気管を用いずに、部材の接合と同時に封止が行えるので、簡易に内部が真空に維持された外囲器88を得ることができる。
また、外囲器88の封止の前後で、外囲器88の内部に配置した不図示のゲッターを活性化させる場合もある。上記したように、真空中で封着する場合には、封着の前後で、外囲器88の内部に配置した不図示のゲッターを活性化させる。このようにすることで、封止後の外囲器88内部の真空度を維持することができる。
外囲器88は、フェースプレート86、支持枠82、リアプレート81で構成することができる。しかし、リアプレート81は主に基板71の強度を補強する目的で設けられる。そのため、基板71自体で十分な強度を持つ場合は別体のリアプレート81は不要である。その場合は、基板71に直接支持枠82を封着し、フェースプレート86、支持枠82及び基板71で外囲器88を構成することができる。
また、フェースプレート86とリアプレート81(基板71)との間に、スペーサーと呼ばれる不図示の支持体を設置することにより、大気圧に対して十分な強度を持つ外囲器88を構成することができる。
図15(a)、(b)は、それぞれ、図14で示した蛍光膜84の具体的な構成の例である。蛍光膜84は、モノクロームの場合は単色の蛍光体層92のみから形成することができる。しかし、カラーの画像表示装置を構成する場合には、蛍光膜84は、3原色の蛍光体層92と、各色の蛍光体層92の間に配置される光吸収部材91とを含む。光吸収部材91は好ましくは、黒色の部材を用いることができる。図15(a)は、光吸収部材91をストライプ状に配列した形態である。図15(b)は、光吸収部材91をマトリクス状に配列した形態である。一般に、図15(a)の形態は「ブラックストライプ」と呼ばれ、図15(b)の形態は「ブラックマトリクス」と呼ばれる。光吸収部材91を設ける目的は、カラー表示の場合、異なる発光色(典型的には3原色)の蛍光体層92間における混色等を目立たなくすることと、蛍光膜84における外光反射によるコントラストの低下を抑制することにある。光吸収部材91の材料としては、通常良く用いられている黒鉛を主成分とする材料だけでなく、光の透過及び反射が少ない材料であればこれに限るものではない。また、導電性であっても絶縁性であっても構わない。
また、蛍光膜84の内側(リアプレート81側)には、「メタルバック」などと呼ばれる導電性膜85が設けられる。導電性膜85の目的は、蛍光体92の発光のうち、電子放出素子側へ向かう光をフェースプレート86側へ鏡面反射することで輝度を向上させること、電子ビーム加速電圧を印加するための電極として作用させること、外囲器88内で発生した負イオンの衝突による蛍光体のダメージを抑制すること等である。
導電性膜85は、好ましくは、アルミニウム膜で形成される。導電性膜85は、蛍光膜84作製後、蛍光膜84の表面の平滑化処理(通常、「フィルミング」と呼ばれる)を行い、その後Alを真空蒸着等で堆積することで作製できる。
フェースプレート86には、更に蛍光膜84の導電性を高めるため、蛍光膜84とフェースプレート86との間にITOなどからなる透明電極(不図示)を設けてもよい。
上記外囲器88内の各電子放出素子には、X方向配線およびY方向配線に接続する端子Dox1〜Doxm、Doy1〜Doynを通じて、電圧が印加される。この構成により、所望の電子放出素子から電子放出させることができる。この時、高圧端子87を通じ、メタルバック85に5kV以上30kV以下、好ましくは10kV以上20kV以下の電圧を印加する。尚、フェースプレート86と基板71との間隔は好ましくは1mm以上3mm以下に設定される。この様にする事で、選択した電子放出素子から放出された電子は、メタルバックを透過し、蛍光膜84に衝突する。そして蛍光体を発光させることで、画像を表示することができる。
なお、以上述べた構成においては、各部材の材料等、詳細な部分は上記した内容に限られるものではなく、目的に応じて適宜変更される。
また、図14を用いて説明した本発明の外囲器(画像表示装置)88を用いて情報表示再生装置を構成することができる。
具体的には、テレビジョン放送などの放送信号を受信する受信装置と、受信した信号を選曲するチューナーと、選曲した信号に含まれる映像情報、文字情報および音声情報の少なくとも1つを、外囲器(画像表示装置)88に出力して表示および/あるいは再生させる。この構成によりテレビジョンなどの情報表示再生装置を構成することができる。勿論、放送信号がエンコードされている場合には、本発明の情報表示再生装置はデコーダーも含むことができる。また、音声信号については、別途設けたスピーカーなどの音声再生手段に出力して、外囲器(画像表示装置)88に表示される映像情報や文字情報と同期させて再生する。
また、映像情報または文字情報を外囲器(画像表示装置)88に出力して表示および/あるいは再生させる方法としては、例えば以下のように行うことができる。
図24は、本発明に係るテレビジョン装置のブロック図である。受信回路C20は、チューナーやデコーダ等からなり、衛星放送や地上波等のテレビ信号、ネットワークを介したデータ放送等を受信し、復号化した映像データをI/F部(インターフェース部)C30に出力する。I/F部C30は、映像データを表示装置の表示フォーマットに変換して上記ディスプレイパネルC11(88)に画像データを出力する。画像表示装置は、ディスプレイパネル88、駆動回路C12及び制御回路C13を含む。制御回路C13は、入力した画像データに表示パネルC11に適した補正処理等の画像処理を施すともに、駆動回路C12に画像データ及び各種制御信号を出力する。駆動回路C12は、入力された画像データに基づいて、ディスプレイパネルC11(88)の各配線(図14のDox1〜Doxm、Doy1〜Doyn参照)に駆動信号を出力し、テレビ映像が表示される。受信回路C20とI/F部C30は、セットトップボックス(STB)として画像表示装置とは別の筐体に収められていてもよいし、また画像表示装置と同一の筐体に収められていてもよい。
また、インターフェースには、プリンター、デジタルビデオカメラ、デジタルカメラ、ハードディスクドライブ(HDD)、デジタルビデオディスク(DVD)などの画像記録装置や画像出力装置に接続することができる構成とすることもできる。そして、このようにすれば、画像記録装置に記録された画像をディスプレイパネル88に表示させることもできるし、また、ディスプレイパネル88に表示させた画像を、必要に応じて加工し、画像出力装置に出力させることもできる情報表示再生装置(またはテレビジョン)を構成することができる。
ここで述べた画像表示装置の構成は、本発明を適用可能な画像表示装置の一例であり、本発明の技術思想に基づいて種々の変形が可能である。また、本発明の画像表示装置は、テレビ会議システムやコンピュータ等のシステムと接続することで、様々な情報表示再生装置を構成することができる。
以下に、実施例を挙げて、本発明をさらに詳述する。
(実施例1)
本実施例で作成した基本的な電子放出素子の構成は、図3と同様である。また、本実施例における電子放出素子の製造方法は、基本的には図7、図11を用いて前述した方法と同様である。以下、図1、図3、図7、図11を用いて、本実施例の電子放出素子の基本的な構成及び製造方法を説明する。
(工程−a)
最初に、清浄化した石英基板1上に、第1補助電極2と第2補助電極3を形成した(図7(a))。
具体的には、予め基板1上に第1補助電極2と第2補助電極3との間隔に対応するレジストパターンを形成し、その上に電子ビーム蒸着法により、厚さ5nmのTi、厚さ45nmのPtを順次堆積した後、レジストパターンを有機溶剤で溶解することでPt/Ti堆積膜をリフトオフして、第1補助電極2と第2補助電極3を形成した。第1補助電極2と第2補助電極3の間隔は20μmとし、第1補助電極2および第2補助電極3の幅を500μmとした。
(工程−b)
膜厚100nmのCr膜を真空蒸着により堆積し、後述の導電性膜の形状に対応する開口を有するようにパターニングした。その上に有機パラジウム化合物溶液をスピンナーにより回転塗布後、300℃で12分間の加熱焼成処理をした。こうして形成された主元素としてPdよりなる導電性膜4の膜厚は6nm、シート抵抗Rsは3×104Ω/□であった。
(工程−c)
Cr膜及び焼成後の導電性膜4を酸エッチャントによりエッチングして、幅が100μmの導電性膜4を形成した(図7(b))。
以上の(工程−a)〜(工程−c)により、基板1上に、第1および第2補助電極2、3および導電性膜4を形成した。
(工程−d)
次に、導電性膜4を形成した基板1を図6の測定評価装置内に設置し、真空ポンプにて内部が1×10−6Paの真空度に達するまで排気した後、電源41より、第1および第2補助電極2、3間に電圧を印加し、「フォーミング」処理を行った。この結果、導電性膜4に第二の間隙7が形成され、第1電極4a、第2電極4bを形成した(図7(c))。
「フォーミング」処理に用いた電圧波形を図8(b)に示す。図8(b)中、T1及びT2はパルス幅とパルス間隔であり、本実施例ではT1を1msec、T2を16.7msecとした。用いたパルスは三角波であり、波高値は0.1Vステップで昇圧して、「フォーミング」処理を行った。また、「フォーミング」処理中は、同時に、0.1Vの電圧で、抵抗測定パルスを挿入し、抵抗を測定した。尚、「フォーミング」処理の終了は、抵抗測定パルスでの測定値が、約1MΩ以上になった時とし、この時に、第1補助電極2と第2補助電極3間への電圧の印加を終了した。
(工程−e)
続いて、メタノールをスローリークバルブを通して真空装置内に導入し、1.3×10−4Paを維持した。この状態で、第1補助電極2と第2補助電極3間に、図9(b)に示した波形のパルス電圧を印加することで「活性化」処理を行った。図9(b)の波形において、T1を1msec、T1´を0.1msec、T2を10msecとした。
尚、「活性化」処理においては、第1補助電極2は常にグランド電位に固定して、図9(b)に示した波形のパルス電圧を第2補助電極3に印加した。
約60分後に、図10に示した点線よりも右側の領域に充分に入ったのを確認した後、電圧の印加を停止し、スローリークバルブを閉め、「活性化」処理を終了した。その結果、第1カーボン膜21aおよび第2カーボン膜21bを形成した(図7(d))。
尚、本工程においては、図9(b)の波形における最大電圧値を±12Vの条件で「活性化」処理を行った電子放出素子と、最大電圧値を±22Vで「活性化」処理を行った電子放出素子と、最大電圧値を±30Vで「活性化」処理を行った電子放出素子をそれぞれ作製した。
以上の(工程−a)〜(工程−e)と同様の製造方法で作成した電子放出素子を用意し、この電子放出素子の平面SEM像および断面SEM像を観察したところ、「活性化」処理における印加電圧にかかわらず、図5(a)、図5(b)に示したように第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bのそれぞれの端部(間隙8の外縁を形成している部分)の膜厚が非対称な構成になっていた。そして、第1カーボン膜21aの端部における膜厚(基板1表面からの高さ)は20nm、第2カーボン膜21bの端部における膜厚(基板1表面からの高さ)は100nmであった。また、第1カーボン膜21aの部分Aと第2カーボン膜21bの部分Bとが対向する方向(電子が出射する方向)に存在する、第2カーボン膜21bの膜厚は100nmであった。また、各電子放出素子の断面TEM像を観察し、第1カーボン膜21aの部分Aと第2カーボン膜21bの部分Bとの間の距離dを測定したところ、「活性化」処理における印加電圧を±12Vで行った電子放出素子では2.2nm、「活性化」処理における印加電圧を±22Vで行った電子放出素子では4.3nm、「活性化」処理における印加電圧を±30Vで行った電子放出素子では6.1nmであった。
(工程−f)
次に、上記(工程−a)〜(工程−e)で作成した本実施例の電子放出素子を、図6の測定評価装置から大気に取り出し、前述したように、AFMを用いてカーボン膜の形状を変える処理を行った(図11(a)〜(b)参照)。第2カーボン膜21bの端部を削ることにより、第1の部分(B)、第2の部分35、第3の部分36を形成した(図11(b))。
上記「活性化」処理において、印加電圧の最大値を変えて形成した各電子放出素子に対し、AFMを用いて第1の部分(B)の膜厚が20nmとなるようにした。尚、第1の部分(B)と第2の部分35および第3の部分36との膜厚差h(「突起部」の高さh)を80nmとなるようにした。更に、第2の部分35と第3の部分36との間隔w(「突起部」の間隔w)が、5nm、9nm、13nm、30nm、50nm、100nm、200nm、300nm、500nmとした9種類の電子放出素子作製した。(「突起部」の高さhおよび「突起部」の間隔wについては図1を参照。)尚、カーボン膜21aの端部Aは削らずにそのままにしたため、端部Aの膜厚は20nmであった。この処理を間隙8に沿って、多数の箇所において施した。この処理は、基本的には、間隙8の幅(第1カーボン膜と第2カーボン膜との距離)が周囲に比べて狭くなっているところに対して行った。
また、上記(工程−a)〜(工程−e)と同じ方法で比較例1の電子放出素子を作成した。また、上記工程−eにおける電圧波形を変えた以外は、上記(工程−a)〜(工程−e)と同じ方法で比較例2の電子放出素子を作成した。尚、比較例1および2の電子放出素子では、上記(工程−f)は行わなかった。
比較例2の電子放出素子の「活性化」処理においては、図9(a)に示した波形を用いた。T1を1msec、T2を10msecとした。このとき図9(a)の波形における最大電圧値を±12Vの条件で「活性化」処理を行った電子放出素子と、最大電圧値を±22Vで「活性化」処理を行った電子放出素子と、最大電圧値を±30Vで「活性化」処理を行った電子放出素子をそれぞれ作製した。尚、この「活性化」処理においては、第1補助電極2は常にグランド電位に固定して、図9(b)に示した波形のパルス電圧を第2補助電極3に印加した。
このようにして作成した比較例2の電子放出素子の断面SEM像を観察したところ、「活性化」処理における印加電圧に関わらず、基本的に、図4に示したように、第1カーボン膜21aの端部および第2カーボン膜21bの端部の膜厚が実質的に同等であり、第1カーボン膜21aおよび第2カーボン膜21bの膜厚は40nmであった。また、これら比較例2の電子放出素子の断面TEM像を観察し、第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bとの間隔dを測定したところ、「活性化」処理における印加電圧を±12Vで行った電子放出素子では2.2nm、「活性化」処理における印加電圧を±22Vで行った電子放出素子では4.3nm、「活性化」処理における印加電圧を±30Vで行った電子放出素子では6.1nmであった。
(工程−g)
次に、(工程−f)を終了した本実施例の電子放出素子と、(工程−f)を行わずに(工程−e)までで作成した比較例1,2の電子放出素子を、図6の測定評価装置に設置し、内部を真空にした後、「安定化」処理を行った。具体的には、真空装置及び電子放出素子をヒーターにより加熱して約250℃に維持しながら真空装置内の排気を続けた。20時間後、ヒーターによる加熱を止め、室温に戻したところ真空装置内の圧力は1×10−8Pa程度に達した。続いて、電子放出特性の測定を行った。
電子放出特性の測定においては、アノード電極44と電子放出素子の間の距離Hを2mmとし、高圧電源43によりアノード電極44に1kVの電位を与えた。この状態で、電源41を用いて補助電極2、3の間に、第1補助電極2の電位が第2補助電極3の電位よりも低くなるように電圧を印加した。尚、「活性化」処理の印加電圧を±12Vで行った電子放出素子には、波高値10Vの矩形パルス電圧を印加し、「活性化」処理における印加電圧を±22Vで行った電子放出素子には、波高値20Vの矩形パルス電圧を印加し、「活性化」処理における印加電圧を±30Vで行った電子放出素子には、波高値28Vの矩形パルス電圧を印加した。
尚、この測定の際には、電流計40及び電流計42により、本実施例の電子放出素子及び比較例1および2の電子放出素子の素子電流Ifおよび放出電流Ieをそれぞれ測定し、電子放出効率を算出した。
算出された電子放出効率を以下の表1に示し、放出電流Ieの結果を表2に示す。尚、素子電流Ifは「活性化」処理での印加電圧12V、22V、30Vいずれの場合も0.8mAから1.4mA程度であった。
この結果から、本実施例の電子放出素子は、比較例1の電子放出素子と比較して、第2の部分35と、第3の部分の間隔が2d以上50d以下の場合に放出電流Ieが大きく、かつ電子放出効率ηが優れていることがわかる。
また、上記特性評価後、本実施例の電子放出素子を上記特性評価時に印加したパルス電圧と同じパルス電圧を印加して長時間駆動したところ、長時間に渡り上記表1、2の特性を維持できた。
特性評価後、本実施例の各電子放出素子の断面SEM像を観察したところ、第1カーボン膜21aの部分Aと第2カーボン膜21bの部分Bとが対向する方向(電子が出射する方向)に存在する、第2カーボン膜21bの膜厚D(「奥行き」D)は20nmであった(「奥行き」Dについては図1参照)。また、第2の部分35と第3の部分36との間隔が5nm、9nm、13nm、30nm、50nm、100nm、200nm、300nm、500nmであることが確認された。
さらにまた、基板変質部(凹部)22もカーボン膜21a、21b間の基板1表面に形成されていることも確認された。
(実施例2)
本実施例では、第1の部分(B)と第2の部分35および第3の部分36との膜厚差hを変えた。
本実施例では、実施例1の(工程−f)のみ以下に説明する方法に変更した以外は、実施例1と同じように形成したので、ここでは、(工程−f)のみについて説明する。比較例1、2も前述したものと同じである。
(工程−f)
次に、上記(工程−a)〜(工程−e)で作成した本実施例の電子放出素子を、図6の測定評価装置から大気に取り出し、前述したように、AFMを用いてカーボン膜の形状を変える処理を行った(図11(a)〜(b)参照)。カーボン膜21bの端部を削ることにより、第1の部分(B)、第2の部分35、第3の部分36を形成した(図11(b))。
上記「活性化」処理において、印加電圧の最大値を変えて形成した各電子放出素子に対し、AFMを用いて第1の部分(B)の膜厚が20nmとなるようにした。また、第2の部分35と第3の部分36との間隔wを30nmとした。そして、第1の部分(B)と第2の部分35および第3の部分36との膜厚差hを3nm、5nm、7nm、9nm、11nm、13nm、30nm、50nm、80nmとした9種類の電子放出素子を作製した。尚、カーボン膜21aの端部Aは削らずにそのままにしたため、端部Aの膜厚は20nmであった。この処理を間隙8に沿って、多数の箇所において施した。この処理は、基本的には、間隙8の幅(第1カーボン膜と第2カーボン膜との距離)が周囲に比べて狭くなっているところに対して行った。
本実施例2で作成した電子放出素子の電子放出特性の測定を実施例1と同様に行った。電子放出効率の算定結果を表3に示し、放出電流Ieの測定結果を表4に示す。
この結果から、本実施例で作成した電子放出素子は、比較例1、2で作成した電子放出素子と比較して、第1の部分(B)と、第2の部分35および第3の部分36との膜厚差hが2d以上の場合に放出電流Ieが大きく、かつ電子放出効率ηが優れていることがわかる。
また、第1の部分(B)と、第2の部分35および第3の部分36との膜厚差hが80nm以上の場合においても、放出電流Ieと電子放出効率ηは比較例1、2で作成した電子放出素子より大きい値を示すことが発明者らの計算によりわかっているので第1の部分(B)と、第2の部分35および第3の部分36との膜厚差hの上限は制限されない。しかしながら、本発明の電子放出素子を用いた画像表示装置においては、製造コストや品質上の問題(放電等)から、膜厚差hは200d以下にするのが好ましい。
また、上記特性評価後、本実施例の電子放出素子を上記特性評価時に印加したパルス電圧と同じパルス電圧を印加して長時間駆動したところ、長時間に渡り上記表3、4の特性を維持できた。
特性評価後、本実施例の各素子を断面SEMで観察したところ、第2カーボン膜21bの第1の部分(B)の膜厚が20nmであり、第2カーボン膜21bの第2の部分35と第3の部分36との間隔wが30nmであった。また、第1カーボン膜21aの部分Aと第2カーボン膜21bの部分Bとが対向する方向(電子が出射する方向)に存在する、第2カーボン膜21bの膜厚D(「奥行き」D)は20nmであった(「奥行き」Dについては図1参照)。また、第2カーボン膜21bの第1の部分(B)と、第2カーボン膜21bの第2部分35および第3の部分36との膜厚差hが3nm、5nm、7nm、9nm、11nm、13nm、30nm、50nm、80nmであることが確認された。
さらにまた、基板変質部(凹部)22も第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bとの間の基板1表面に形成されていることも確認された。
(実施例3)
本実施例では、第1カーボン膜21aの部分Aと第2カーボン膜21bの部分Bとが対向する方向(電子が出射する方向)に存在する、第2カーボン膜21bの膜厚D(「奥行き」D)を変更した。
本実施例では、実施例1の(工程−f)のみ以下に説明する方法に変更した以外は、実施例1と同じように形成したので、ここでは、(工程−f)のみについて説明する。比較例1、2も実施例1において前述したものと同じである。
(工程−f)
次に、上記(工程−a)〜(工程−e)で作成した本実施例の電子放出素子を、図6の測定評価装置から大気に取り出し、前述したように、AFMを用いてカーボン膜の形状を変える処理を行った(図11(a)〜(b)参照)。カーボン膜21bの端部を削ることにより、第1の部分(B)、第2の部分35、第3の部分36を形成した(図11(b))。
「活性化」処理において、印加電圧の最大値を変えて形成した各電子放出素子に対し、AFMを用いて第1の部分(B)の膜厚が20nmとなるようにした。また、第2の部分35と第3の部分36との間隔wを30nmとし、第1の部分(B)と第2の部分35および第3の部分36との膜厚差hを80nmとした。そして、更に、第1カーボン膜21aの部分Aと第2カーボン膜21bの部分Bとが対向する方向(電子が出射する方向)に存在する、第2カーボン膜21bの膜厚D(「奥行き」D)を3nm、5nm、7nm、10nm、30nm、50nm、100nmとした7種類の電子放出素子作製した。尚、カーボン膜21aの端部Aは削らずにそのままにしたため、端部Aの膜厚は20nmであった。この処理を間隙8に沿って、多数の箇所において施した。この処理は、基本的には、間隙8の幅(第1カーボン膜と第2カーボン膜との距離)が周囲に比べて狭くなっているところに対して行った。
本実施例3で作成した電子放出素子の電子放出特性の測定を実施例1と同様に行った。電子放出効率の算定結果を表5に示し、放出電流Ieの測定結果を表6に示す。
この結果から、本実施例で作成した電子放出素子は、比較例1、2の素子と比較して、第1カーボン膜21aの部分Aと第2カーボン膜21bの部分Bとが対向する方向(電子が出射する方向)に存在する、第2カーボン膜21bの膜厚D(「奥行き」D)によらず、放出電流Ieが大きく、かつ電子放出効率ηが優れていた。
第1カーボン膜21aの部分Aと第2カーボン膜21bの部分Bとが対向する方向(電子が出射する方向)に存在する、第2カーボン膜21bの膜厚Dが100nm以上の場合においても、放出電流Ieと電子放出効率ηは比較例1、2の素子より大きい値を示すことが発明者らの計算によりわかっている。そのため、電位を十分に与えられる厚みであれば、第1カーボン膜21aの部分Aと第2カーボン膜21bの部分Bとが対向する方向(電子が出射する方向)に存在する、第2カーボン膜21bの膜厚Dに大きな制限はない。
しかしながら、本発明の電子放出素子を用いた画像形成装置においては、しかしながら、本発明の電子放出素子を用いた画像表示装置においては、製造コストや品質上の問題(放電等)から200d以下にするのが好ましい。
また、上記特性評価後、本実施例の電子放出素子を上記特性評価時に印加したパルス電圧と同じパルス電圧を印加して長時間駆動したところ、長時間に渡り上記表5、6の特性を維持できた。
特性評価後、本実施例で作成した各電子放出素子の断面SEM像を観察したところ、第2カーボン膜21bの第1の部分(B)の膜厚が20nmであり、第2カーボン膜21bの第1の部分と第2カーボン膜21bの第2の部分35および第3の部分36の膜厚差hが80nmであった。また、第2の部分35と第3の部分36との間隔wが30nmであった。第1カーボン膜21aの部分Aと第2カーボン膜21bの部分Bとが対向する方向(電子が出射する方向)に存在する、第2カーボン膜21bの膜厚Dが3nm、5nm、7nm、10nm、30nm、50nm、100nmであることが確認できた。
さらにまた、基板変質部(凹部)22も第1カーボン膜21aと第2カーボン膜21bとの間の基板1表面に形成されていることも確認できた。
(実施例4)
本実施例では、本発明の電子放出素子を多数、マトリクス型配列した電子源を用いた画像表示装置を作成した。以下に本実施例で作成した画像表示装置の製造工程を説明する。
〈補助電極作成工程〉
基板71としてアルカリ成分が少ない、厚さ2.8mmのPD−200(旭硝子(株)社製)ガラスを用いた。更に、この上にSiO2膜を100nmの厚みで成膜した。
さらに第1および第2補助電極2、3を、基板71上に多数形成した(図16)。スパッタ法によって下引き層としてチタニウムTiを5nm、その上に白金Ptを40nmを成膜した後、ホトレジストを塗布した後に、露光、現像、エッチングという一連のフォトリソグラフィー法によってパターニングして形成した。本実施例では第1補助電極2と第2補助電極3との間隔を10μmとし、長さを100μmとした。
〈Y方向配線形成工程〉
図17に示すように、Y方向配線73を、補助電極3に接続するように、かつ、それらを連結するようにライン状のパターンで形成した。材料には銀Agフォトぺーストインキを用い、スクリーン印刷した後、乾燥させてから、所定のパターンに露光し現像した。この後480℃前後の温度で焼成して配線を形成した。配線の厚さは約10μm、線幅は50μmである。このY方向配線73は変調信号が印加される配線として機能する。
〈絶縁層形成工程〉
図18に示すように、次の工程で作成するX方向配線72と前述のY方向配線73を絶縁するために、絶縁層75を配置する。後述するX方向配線72の下であって、且つ、先に形成したY方向配線73を覆うように、絶縁層75を配置する。X方向配線72と補助電極2との電気的接続が可能なように、絶縁層75の一部にコンタクトホールを開けて形成した。
具体的には、PbOを主成分とする感光性のガラスペーストをスクリーン印刷した後、露光、現像する工程を4回繰り返し、最後に480℃前後の温度で焼成した。この絶縁層の厚みは、30μmであり、幅は150μmである。
〈X方向配線形成工程〉
図19に示すように、X方向配線72は、先に形成した絶縁層75の上に、Agぺーストインキをスクリーン印刷した後乾燥させてから、480℃前後の温度で焼成した。X方向配線72は絶縁層75を挟んでY方向配線24と交差しており、絶縁層75のコンタクトホール部分で補助電極2に接続される。このX方向配線72は走査信号が印加される配線として機能する。X方向配線72の厚さは、約15μmである。
このようにしてマトリクス配線を有する基板71が形成された。
〈第1電極および第2電極形成工程〉
上記マトリクス配線が形成された基板71を十分にクリーニングした後、撥水剤を含む溶液で表面を処理し、表面が疎水性になるようにした。これはこの後塗布する導電性膜の形成用の水溶液が、補助電極2、3上に適度な広がりをもって配置されるようにすることが目的である。その後、補助電極2,3間にインクジェット塗布方法により、導電性膜4を形成した(図20)。
本実施例では、インクジェット塗布方法に用いるインクとして、水溶液(水:85%、イソプロピルアルコール(IPA):15%)に、パラジウム−プロリン錯体0.15重量%を溶解した有機パラジウム含有溶液を用いた。この有機パラジウム含有溶液を、ピエゾ素子を用いたインクジェット噴射装置を用いて、ドット径が60μmとなるように調整して補助電極2、3間に付与した。その後、この基板71を空気中にて、350℃で10分間の加熱焼成処理をして酸化パラジウム(PdO)からなる導電性膜4とした。ドットの直径は約60μm、厚みは最大で10nmの膜が得られた。
次に、上述した工程によって、補助電極2,3と、補助電極2,3間を接続する導電性膜4とで構成されたユニットが多数形成された基板71を、真空容器の中に配置した。そして、真空容器23内の圧力を1.3×10−3Pa以下にした後、還元ガス(N2=98%、H2=2%の混合ガス)の真空容器内への導入を開始した後、「フォーミング」処理を行った。
「フォーミング」処理は、複数のX方向配線72の中から1本づつ順次選択したX方向配線に1パルスづつ印加する方法で行った。つまり、「複数のX方向配線72の中から選択した1本のX方向配線に1パルス印加した後に、別の1本のX方向配線を選択して1パルス印加する」という工程を繰り返した。印加したパルス電圧の波形は、図8(b)に示したような波高値が1パルス毎に漸増する三角波パルスである。パルス幅T1は1m秒、パルス間隔T2は10m秒とした。
続いて、真空容器内部を排気した後に、「活性化」処理を行った。本実施例では、炭素含有ガスとしてメタノールを用い、真空容器内が1.3×10−4Paの状態で行った。導入するメタノールの圧力は、真空装置の形状や真空装置に使用している部材等によって若干影響されるが、1×10−5Pa〜1×10−2Pa程度が好適である。「活性化」処理においては、図9(b)に示した両極性のパルス波形を用いた。正極側のT1を1msec、負極側のT1´を0.1msecとし、T2を10msecとし、最大印加電圧値を±22Vとした。このとき補助電極2側に上記パルス波形を印加した。
「活性化」処理の開始から約60分後に素子電流Ifが、図10に示した点線よりも右側の領域に入ったことを確認した後にパルス電圧の印加を停止し、メタノールの導入を止めた。
以上の工程で、多数の電子放出素子が配置された基板71を作成することができた。
尚、上述した工程と同じ工程により、測定用の多数の電子放出素子が配置された基板を用意し、各電子放出素子を断面TEMで観察したところ、図5に模式的に示したように第1カーボン膜21aおよび第2カーボン膜21bの端部(間隙8の外縁を形成する部分)は、膜厚が非対称な構成になっていた。また、第1カーボン膜21aの膜厚は20nm、第2カーボン膜21bの膜厚は100nmであった。また、第1カーボン膜21aの部分Aと第2カーボン膜21bの部分Bとが対向する方向(電子が出射する方向)に存在する、第2カーボン膜21bの膜厚が100nmであった。
次に、「活性化」処理が終了した電子放出素子を多数有する基板1を真空容器から大気中に取り出し、実施の形態で述べたようにAFMを用いて第2カーボン膜21bの端部の形状を変える処理を行った(図11(a)〜(b)参照)。
第2カーボン膜21bの端部を削ることにより、図11を用いて前述した第1の部分B、第2の部分35、第3の部分36をAFMにより形成した(図11(b))。本実施例では、第2の部分35と第3の部分36との間隔を30nmとした。また、第1の部分Bの膜厚を20nmとし、第1の部分Bと、第2の部分35および第3の部分36との膜厚差を80nmとした。また、第1カーボン膜21aの部分Aと第2カーボン膜21bの部分Bとが対向する方向(電子が出射する方向)に存在する、第2カーボン膜21bの膜厚は100nmのままとした。カーボン膜21aの端部は削らずそのままにした。この処理を間隙8に沿って、間隙8の幅(第1カーボン膜と第2カーボン膜との距離)が周囲に比べて狭くなっているところに対して行った。さらにこの処理を全ての電子放出素子に対して施した。
以上の工程で、本実施例の電子源(複数の電子放出素子)が配置された基板71が形成された。
次いで、図14に示したように、上記基板71の2mm上方に、ガラス基板83の内面に蛍光体膜84とメタルバック85とが積層されてるフェースプレート86を支持枠82を介して配置した。尚、図14においてはリアプレート81を基板71の補強部材として設けた例を示しているが、本実施例では、このリアプレートを省いている。そして、フェースプレート86、支持枠82、基板1の接合部を、低融点金属であるInを加熱し冷却することによって封着した。また、この封着工程は、真空チャンバー中で行ったため、排気管を用いずに、封着と封止を同時に行った。
本実施例では、画像形成部材であるところの蛍光体膜84は、カラーを実現するために、ストライプ形状(図15(a)参照)の蛍光体とし、先にブラックストライプ91を形成し、その間隙部にスラリー法により各色蛍光体92を塗布して蛍光膜84を作製した。ブラックストライプ91の材料としては、通常よく用いられている黒鉛を主成分とする材料を用いた。
また、蛍光膜84の内面側(電子放出素子側)にはアルミニウムからなるメタルバック85を設けた。メタルバック85は、蛍光体膜84の内面側に、Alを真空蒸着することで作製した。
以上のようにして完成した画像表示装置のX方向配線およびY方向配線を通じて、所望の電子放出素子を選択し、選択した電子放出素子の第2補助電極側の電位が第1補助電極よりも高くなるように、+20Vのパルス電圧を印加した。そして同時に、高圧端子Hvを通じてメタルバック73に8kVの電圧を印加したところ、長時間にわたって明るい良好な画像を表示することができた。
なお、上記した実施形態および実施例は本発明の一例に過ぎず、上記した各材料、サイズなどについての様々な変形例を本発明は除外するものではない。